微細炭素繊維分散体
【課題】分散安定性に優れ、特に、生体導入用として有用な微細炭素繊維分散体を提供する。
【解決手段】炭素繊維が、全体の0.001〜30質量%の割合で、ポリエチレングリコール中に分散されてなることを特徴とする炭素繊維分散体である。ポリエチレングリコールに直接微細炭素繊維を添加して振とうを加えてやることによって、非常に安定にかつ良好に炭素繊維が分散され、しかもその後、これを例えば各種媒体、特に水等の水性媒体にて希釈しても、微細炭素繊維はこれら媒体中においても安定に微分散された状態を長時間保ち得ることから、特に生体導入用途において好適な炭素繊維分散体となる。
【解決手段】炭素繊維が、全体の0.001〜30質量%の割合で、ポリエチレングリコール中に分散されてなることを特徴とする炭素繊維分散体である。ポリエチレングリコールに直接微細炭素繊維を添加して振とうを加えてやることによって、非常に安定にかつ良好に炭素繊維が分散され、しかもその後、これを例えば各種媒体、特に水等の水性媒体にて希釈しても、微細炭素繊維はこれら媒体中においても安定に微分散された状態を長時間保ち得ることから、特に生体導入用途において好適な炭素繊維分散体となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細炭素繊維分散体に関するものである。詳しく述べると、本発明は、分散安定性に優れ、特に、生体導入用として有用な微細炭素繊維分散体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」とも記する。)に代表されるカーボンナノ構造体などの微細炭素繊維が注目されている。
【0003】
カーボンナノ構造体を構成するグラファイト層は、通常では規則正しい六員環配列構造を有し、その特異な電気的性質とともに、化学的、機械的および熱的に安定した性質を持つ物質である。このような微細炭素繊維は、各種工業的用途における応用の他、薬学、医学的用途等においてもその応用が期待されるところである。
【0004】
しかしながら、一方で、このような微細炭素繊維は、生成時点で既に塊になってしまい、例えば、生理食塩水等の溶媒中に分散させようとしても、安定に均一分散させることが困難であり、微細炭素繊維を微細粒子として、生体内へ導入することが困難であった。
【0005】
なお、特許文献1には、化粧料用途として、各種繊維をポリオール中に分散させてなる組成物が示されているが、外用適用を目的としたものであって、繊維としても、広く各種の繊維種を含むものであって、その分散特性を目的としたものではない。
【0006】
また、最近、アスベストが原因となる肺気腫等の健康被害の問題が大きく取り上げられており、微細炭素繊維に関しても、その用途が広がるにつれ、このような安全性の面を実証する必要性が生じている。このため、例えば、微細炭素繊維を浮遊させた雰囲気中に、マウス等の実験動物を所定時間入れ、呼気によって実験動物の肺内へ微細炭素繊維を入れることが試みられているが、うまく肺内へと微細炭素繊維を導入することができず、また、導入することができたとしても、その導入量を一定量とすることが困難で、このような安全性の評価は困難を極めるものであった。
【特許文献1】特開2000−344627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、分散安定性に優れ、特に、生体導入用として有用な微細炭素繊維分散体を提供することを課題とするものである。
【0008】
本発明はまた、微細炭素繊維の安全性の評価方法として、確立された実験方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、炭素繊維が、全体の0.001〜30質量%の割合で、ポリオール中に分散させてなることを特徴とする炭素繊維分散体である。
【0010】
本発明はまた、ポリオールが、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選ばれてなる少なくとも1つである上記炭素繊維分散体を示すものである。
【0011】
本発明はさらに、炭素繊維が、全体の0.001〜30質量%の割合となるように、さらに水性媒体にて希釈されてなることを特徴とする上記炭素繊維分散体を示すものである。
【0012】
本発明はさらにまた、生体導入用として用いられることを特徴とする前記炭素繊維分散体である。
【0013】
上記課題を解決する本発明はまた、上記炭素繊維分散体を、実験動物の組織ないし器官内に導入することで、炭素繊維を定量的に実験動物の体内に留置し、以後の実験動物の状態を経過観察することを特徴とする炭素繊維の安全評価方法である。
【0014】
本発明はまた、外科的手技により実験動物の頸部を切開して気道を確保し、上述した炭素繊維分散体を気道に注入することによって、当該実験動物の肺内に炭素繊維を導入した後、術部を縫合し、その後、当該実験動物の状態を経過観察するものである炭素繊維の安全性評価方法を示すものである。
【0015】
本発明はまた、外科的手技により実験動物の皮膚を切開し、上述炭素繊維分散体を皮下に注入することによって、当該実験動物の皮下組織に炭素繊維を埋植した後、術部を縫合し、その後、当該実験動物の状態を経過観察するものである炭素繊維の安全性評価方法を示すものである。
【0016】
本発明はさらに、実験動物がマウスである炭素繊維の安全性評価方法である。
【発明の効果】
【0017】
上記課題を解決するため本発明者らは鋭意検討の結果、ポリエチレングリコール等のポリオールに直接微細炭素繊維を添加して攪拌ないし振とうを加えてやることによって、簡単に、非常に安定にかつ良好に炭素繊維が分散され、しかもその後、これを例えば各種媒体、特に水等の水性媒体にて希釈しても、微細炭素繊維はこれら媒体中においても安定に微分散された状態を長時間保ち得ることを見出し、本発明に到達したものである。なお、これは、予めポリオール成分を水性媒体中に添加してなる系に、微細炭素繊維を分散させた場合と比較して、その微分散性および分散安定性の面で明らかに異なる挙動を示すものであり、また、従来公知のように、例えば界面活性剤等の分散剤ないし分散安定剤を使用せずとも良好な分散系が得られることから、特に生体導入用途において、有利である。
【0018】
さらに、本発明の炭素繊維の安全性評価方法においては、上記したような分散性に優れた炭素繊維分散体を用いるため、実験動物の組織ないし器官内へ、炭素繊維を定量的かつ安全に導入することができる。特に、マウスのような小動物を用いた場合に、直接実験動物の気道中に注入して炭素繊維を肺内に導入しても、気道で炭素繊維が詰まり注入直後に実験動物が窒息死してしまうようなことは生じ難く、術後において長期間実験動物を生存させることが可能となるため、所定量の炭素繊維を実験動物の肺内へ導入し、その後の経過を観察することが可能となる。このため、炭素繊維の安全性を評価する上で、極めて優れた方法となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0020】
<炭素繊維分散体>
本発明に係る炭素繊維分散体は、炭素繊維を全体の0.001〜30質量%の割合で、ポリオール中に分散させてなることを特徴とするものである。
【0021】
A)分散媒
本発明において、分散媒としてのポリオールとしては、公知のように、少なくとも2つのフリーなヒドロキシ基を含む有機化合物が種々含まれ、具体的には、例えば、プロピレングリコール、ブチレングリコール、イソプレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセロール、パンテノール、ポリエチレングリコール、例えば、平均分子量が180〜10000程度のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、例えば、平均分子量が60〜200程度のポリプロピレングリコール等を挙げることができる。
【0022】
このうち好ましくは、ポリエチレングリコール、特に、平均分子量が190〜1500程度のポリエチレングリコール、およびプロピレングリコールが望ましい。なお、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールは、生体安全性の面からも好ましい分散媒である。
【0023】
また、分散媒の粘度としては、特に限定されるものではないが、25℃±5℃条件下において、液状であることが望ましい。
【0024】
B)炭素繊維
次に、本発明において用いられる炭素繊維としては、特に限定されるものではなく、従来公知の各種のものが用いられ得るが、代表的には、主として、炭素の六員環配列構造を有する構造体であって、この構造体の三次元のディメンションのうち少なくとも1つの寸法がナノメートルの領域にある、たとえば、0.4〜150nm程度、好ましくは15〜100nmの微細炭素繊維である。
【0025】
この炭素の六員環配列構造としては、シート状のグラファイトグラフェンシートを例示することができ、さらには、たとえば、炭素の六員環に五員環もしくは七員環が組み合わされた構造等をも含むことができる。
【0026】
より具体的には、微細炭素繊維としては、たとえば、一枚のグラフェンシートが筒状に丸まってできる直径数nm程度の単層カーボンナノチューブや、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した多層カーボンナノチューブ(多壁カーボンナノチューブ)、単層カーボンナノチューブの端部が円錐状で閉じたカーボンナノホーン、このカーボンナノホーンが直径100nm程度の球状の集合体となったカーボンナノホーン集合体等を例示することができる。さらに、炭素の六員環配列構造を有するカーボンオニオン等や、炭素の六員環配列構造中に五員環が導入されたフラーレンやナノカプセル等が包含される。なお、本発明においてこれらの微細炭素繊維は、上記したような種類の単独体とすることも、あるいは、2種以上の混合体とすることも可能である。
【0027】
このような微細炭素繊維の製造方法としては、高温の(600℃〜1300℃)反応炉内に、触媒金属と、気体状もしくは液状の炭素含有化合物とを投入し、反応炉領域中で互いを接触させることにより、原料を熱分解または触媒分解して炭素とし、この炭素を成長させるCVD(Chemical Vapor Deposition)法が挙げられる。
【0028】
また、上記CVD法とは、触媒の導入方法で異なるもので、予め金属微粒子を担体に担持させ固体として反応炉内に導入しておき、該反応炉に気体状もしくは液状の炭素含有化合物を導入し、予め導入され担体に担持されている金属微粒子と接触させることで微細炭素繊維を得るCCVD(Catalytic Chemical Vapor Deposition)法が挙げられる。
【0029】
なお、一般にCVD法においては、触媒金属が使用され、as grownな微細炭素繊維においては、これら金属ないし金属イオンが微細炭素繊維に含まれている場合がある。本発明に係る炭素繊維分散体を、例えば、生体導入用としてあるいは生体ないし組織と接触する可能性のある製品の調製用に用いる場合には、このような金属ないし金属イオンによる毒性の可能性があるため、微細炭素繊維製造後において、例えば、熱処理、例えば、1500〜3000℃、より好ましくは2000〜3000℃で熱処理することによって、これら金属成分を極力除去してなる炭素繊維を用いることが望ましい。
【0030】
その他、微細炭素繊維を得る製造方法としては、低圧のアルゴンガスや水素ガスの雰囲気下、2本のグラファイト電極を軽く接触させた後、数mm程度離した状態で、電圧を印加し、電極間にアーク放電を生じさせることで、グラファイト電極を昇華させ微細炭素繊維を得るアーク放電法や、金属触媒を混合したグラファイトに対して可視パルス・レーザー光を照射し、該グラファイトを蒸発させることで微細炭素繊維を得るレーザー蒸発法等さまざまな製造方法を挙げることができるが、上記したような微細炭素繊維を得ることができる製造方法であれば、いずれのものであってもよい。
【0031】
なお、このような生体導入用等の用途においては、使用する微細炭素繊維を、例えば、蒸気滅菌、あるいはエチレンオキサイド、ホルムアルデヒド等を用いた化学滅菌、紫外線滅菌、放射線滅菌等適当な方法を用いることによって、予め滅菌処理しておくことが望ましい。
【0032】
C)炭素繊維分散体の調製方法
本発明の炭素繊維分散体は、上述したような炭素繊維を所定量、分散媒であるポリオール中に配合し、攪拌ないし振とう処理することによって調製することが可能である。
【0033】
このようなポリオール中に配される炭素繊維の量としては、組成物全体の0.001〜30質量%、より望ましくは、0.001〜10質量%程度である。配合量が、0.001〜30質量%の範囲内にあると、十分な量の炭素繊維が微分散状態で含まれた安定した分散体が良好な流動性を有しつつ形成されるためである。
【0034】
攪拌ないし振とう処理の方法としては、特に限定されるものではなく、公知の各種のもの、具体的には、例えば、自動式ないし手動式のシェイカー、マグネティックスターラー、超音波振動子、その他、パドルおよびブレード等の各種攪拌子を備えた攪拌機、グラインダー等を用いることで行うことができるが、このうち、特に、マグネティックスターラーを用いて分散処理を行うことが、炭素繊維自体の構造を破壊することなく、良好な分散状態を形成し得ることから望ましい。
【0035】
本発明に係る炭素繊維分散体は、上述したようにして調製することが可能であるが、このようにして炭素繊維がポリオール中に分散された分散体は、必要に応じて、各種の媒体、特に、水性媒体中によって希釈することが可能である。このような水性媒体によって、炭素繊維が、全体の0.001〜30質量%の割合となるように希釈された場合であっても、得られた希釈系において、炭素繊維は微分散された状態を安定に保ち得る。
【0036】
本発明に係る炭素繊維分散体を生体導入用として用いる場合、希釈に用いられる水性媒体としては、特に、蒸留水、脱イオン水等の水、生理食塩水、リン酸緩衝液、培養用血清等の生体安全性の高い媒体であることが望ましい。
【0037】
なお、このように水性媒体中に希釈する際において、本発明に係る炭素繊維分散体に、従来公知の各種分散剤、分散安定剤等をさらに配合すること自体は可能ではあるが、このような分散剤、分散安定剤等を配合しなくとも、十分な分散安定性を発揮し得るものであり、かつまた分散剤として用いられる界面活性剤等による悪影響、例えば生体適合性などといった観点からの影響を考慮すれば、これらの分散剤、分散安定剤等は配合しない方が望ましい態様も多い。
【0038】
<炭素繊維分散体の用途>
本発明に係る炭素繊維分散体は、上述したように、炭素繊維が均一に微分散しかつ安定した分散状態を呈するものであるために、種々の用途、特に生体導入用として好ましく用いられ得る。
【0039】
生体導入用途としては、特に限定されるものではないが、後述するような炭素繊維の安全評価方法以外に、例えば、炭素繊維として、薬理学的活性物質、例えば、各種薬剤、抗体、蛍光物質等を結合ないし担持させた炭素繊維を用い、これを生体内に導入して、局所的にこれら薬理学的活性物質を付与するドラッグデリバリーシステムのキャリアとして;
炭素繊維の良好な熱伝導性を利用し、生体内の所定部位に導入後、赤外線照射等により発熱させる温熱治療用発熱媒体として;
炭素繊維分散体における微細炭素繊維の良分散性を利用して、生体内の病理部位等の局所部位の近傍部の毛細血管ないし末梢血管まで微細炭素繊維を導入し、毛細血管ないし末梢血管内部にて微細炭素繊維により血管を閉塞させ、それより先の病理部位等の局所部位を壊死除去する閉塞術に使用する材料さらにはカテーテルによる緊急止血用の栓塞材料として;
炭素繊維を放射性物質、蛍光物質等の適当な標識物質で標識化して生体内の所定部位に導入し、検知する放射線ないし化学マーカーとして;
炭素繊維の中空部に水等のプロトン保有物質を液体状態で内包させることにより、核磁気共鳴(NMR)イメージングや生体の磁気共鳴画像(MRI)装置による診断および治療に用いられる磁気共鳴用造影剤として;
炭素繊維分散体における微細炭素繊維の良分散性を利用して、再生医療などでの細胞培養の足場材料として;
などを例示することができる。
【0040】
その他、炭素繊維の良好な生体適合性を利用し、各種医療器具、特に、生体内組織ないし細胞と接触し得る注射針、留置針、留置カテーテル、人工臓器、人工骨等の各種インプラント材等の医療器具の表面改質する目的で使用されるコーティング剤を調製する上においても好適に利用され得る。
【0041】
<炭素繊維の安全性評価方法>
本発明に係る炭素繊維分散体は、上述したようにポリオールからなる分散媒中において、炭素繊維が非常に良好でかつ安定な分散性を発揮するものであるから、かなり微細な腔所内部であっても閉塞を起こすことなく安定に通過できるものである。
【0042】
このため、本発明に係る炭素繊維分散体を用いれば、in vitro的な実験のみならず、直接、実験動物の皮下組織等の組織、あるいは肺内等の器官中に炭素繊維を導入することができ、炭素繊維の安全性評価の上で有効なin vivo的な方法が確立できるものである。
【0043】
すなわち、本発明に係る炭素繊維の安全性評価方法においては、まず、試験に供する炭素繊維を、上記したようにポリオールを用いて、炭素繊維分散体の形態に調製し、そして、実験動物の所定の組織あるいは器官内に当該炭素繊維分散体を注入することで、これら組織あるいは器官内に炭素繊維を配置し、その後当該実験動物の生存状態、組織、血液等の病理変化等を経過観察するものである。
【0044】
本発明に係る炭素繊維分散体を用いることによって、炭素繊維導入時の実験動物への負担が大幅に軽減されるため、導入手技自体に起因する実験動物の死亡率が極めて低く抑えられ、また、炭素繊維の定量的な導入が可能となるため、確実かつ安定した評価が可能となるものである。
【0045】
試験に供する実験動物としては、通常、用いられる任意の種類のものに対して適用することが可能である。特に限定されるわけではないが、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、サル等を用いることが可能である。このうち、特に、豊富な既知データの存在、継代飼育の容易性、入手容易性、遺伝子操作性等の観点から、マウスを用いることが望ましい。
【0046】
マウスとしては、特に限定されるものではないが、例えば、免疫不全マウス、特に、ASW,A/He,AKR,BALB/c、B10LP,C17,C3H,C57BL,C57,CBA,DBA,DDD,I/st,NC,NFR,NFS,NFS/N,NZB,NZC,NZW,P,RIII及びSJL等のヌードマウスが好ましく例示できる。
【0047】
なお、より具体的な組織ないし器官へ導入方法としては、例えば、以下に示すように、実験動物の肺中への導入術、皮下組織への埋植術等を好ましく例示することができる。
【0048】
すなわち、肺中への導入は、外科的手技により実験動物の頸部を切開して気道を確保し、上述した本発明に係る炭素繊維分散体を気道に注入することによって、当該実験動物の肺内に炭素繊維を導入した後、術部を縫合することによって可能である。
【0049】
肺中への導入術においては、本発明に係る炭素繊維分散体を利用した場合、マウスのような非常に細い気道を有する動物種においても、導入された炭素繊維分散体中に含まれていた炭素繊維が極めて良好な分散性を有しているため、炭素繊維が気道等に詰まって、手技直後にマウスが窒息死してしまうといった事故が生じる可能性が極めて低い。これゆえ、所定量の炭素繊維が肺中に導入された被検体を良好な生存率をもって調製することが可能となり、炭素繊維の安全性に係る長期間にわたる動物実験が可能となるものである。
【0050】
本発明に係る安全性評価方法においては、まず、検査しようとする炭素繊維を、全体の0.001〜30質量%の割合で、上述したようにポリエチレングリコール等のポリオール中に配合することにより炭素繊維分散体を調製する。
【0051】
次いで、この炭素繊維分散体を、必要に応じて、水、生理食塩水等によって、炭素繊維が全体の0.001〜30質量%の割合となるように希釈する。
【0052】
そして、試験に供する実験動物、例えば、マウスを、必要に応じて、予め麻酔処理した後、外科的手技によってその頸部を切開し、気道を確保する。
【0053】
続いて、この気道に、注射針、例えば、マウスの場合、27G程度の太さの注射針を穿刺し、注射針に接続されたシリンジ等より、所定量の炭素繊維分散体を導入する。なお、シリンジに接続された注射針を気道中に比較的長時間保持することによる、実験動物の窒息の可能性を低下させる上で、予め、端部の開放された留置針を気道に留置し、該留置針開口よりの実験動物の呼吸が可能としておき、呼気が肺に入らないのは炭素繊維分散体注入のわずかな時間のみとすることで、実験動物への負担を軽くすることが望ましい。
【0054】
最後に、所定量の炭素繊維分散体の注入が終了したら、直ちに、切開部位を縫合することで、所定量の炭素繊維が肺中に導入された被検体を得る。術後、暫く、例えば、1〜2時間経過観察し、生存が確認されたら、その被検体を、その後の炭素繊維の安全性試験に供する。
【0055】
安全性試験は、例えば、その後の所定時間毎の被検体解剖による組織観察、採取血液の分析、所定時間後の生存率、免疫性反応、病理検査、遺伝子検査、蛋白発現検査等によって行うことができる。
【0056】
この安全性評価方法において、比較対照(コントロール)としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭素繊維を添加していない、分散媒として使用したポリエチレングリコール等のポリオール、あるいはその水、生理食塩水等による希釈体を、前記と同様の手技により肺中に導入した実験動物を用いることができる。
【0057】
また皮下組織への埋植術は、実験動物の適当な部位、例えば、背中等の部位の皮膚を、外科的に切開し、この切開部位の皮下に、上述した炭素繊維分散体を所定量注入し、その後、切開部位を縫合することによって行うことが可能である。
【0058】
使用する炭素繊維分散体、術後後の経過観察、安全性試験等に関しては、上述した肺中への導入術の場合と、同様のものであるため説明を省略する。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
なお、以下において、各物性値は次のようにして測定した。
【0061】
(1)X線回折
粉末X線回折装置(JDX3532、日本電子製)を用いて、アニール処理後の炭素繊維を調べた。Cu管球で40kV、30mAで発生させたKα線を用いることとし、面間隔の測定は学振法(最新の炭素材料実験技術(分析・解析編)、炭素材料学会編)に従い、シリコン粉末を内部標準として用いた。
【0062】
(2)ラマン分光分析
ラマン分光分析は堀場ジョバン・イボン社製の機器(LabRam 800)を使用し、アルゴンレーザの514nmを用いて測定した。
【0063】
(合成例1)
CVD法によって、トルエンを原料として微細炭素繊維を合成した。
【0064】
合成装置を図4に示す。
【0065】
触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。トルエン、触媒を水素ガスとともに375℃に加熱し、生成炉に供給し、1200℃で滞留時間8秒で反応させた。雰囲気ガスはセパレータにより分離して、循環使用した。供給ガス中の炭化水素濃度は9容量%であった。
【0066】
合成された中間物質(第1の中間物質)の微細炭素繊維のタール含有率は10%であった。
【0067】
次に、この繊維を1200℃まで昇温し、30分保持することにより炭化水素分離処理を行い、さらに、2500℃で高温熱処理をした。炭化水素分離及び高温熱処理工程の装置を図5に示す。
【0068】
また、前記で説明した図1は、1200℃での炭化水素分離処理した微細炭素繊維の電子顕微鏡写真である。この図より、微細炭素繊維を構成するグラフェンシートは連続しておらず、パッチ状であることが分かる。
【0069】
得られた2500℃での高温熱処理後の微細炭素繊維の電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0070】
この図から、特異な構造を持つ微細炭素繊維が確認できる。生成した繊維の径は、SEMの観察の結果、ある程度のばらつきがあり、10〜60nmφ、比表面積は29m2/gであった。また、磁気抵抗値は、磁束密度に対して負の値を有すると共に、磁束密度の変化に対して負の傾き(磁束密度Bに対して一次微分量が負)を有し、ラマン分光分析で測定されたID/IGは0.05であった。
【0071】
また、得られた微細炭素繊維をX線回折装置を用いて測定した。なお、比較のために黒鉛もX線回折装置を用いて測定した。測定結果より得られたX線回折チャートを図3に示すこととするが、合成例1で得られた微細炭素繊維はピーク強度が弱いため、10倍にして比較した。
【0072】
この結果より、得られた微細炭素繊維の面間隔は、3.388オングストロームであった。
【0073】
実施例1
合成例1にて合成した炭素繊維を、ポリエチレングリコール(平均分子量190〜210)10mlに、全体の1質量%となるように配合し、マグネティックスターラを用いて、回転数1000rpmにて3分間、攪拌処理して、炭素繊維分散体を得た。得られた炭素繊維分散体の静置5分経過後において観察した分散状態を示す外観写真および顕微鏡写真(倍率40倍)を図6(a)、(b)に示す。
【0074】
実施例2
実施例1において調製された炭素繊維分散体を、蒸留水にて希釈して、炭素繊維が全体の5質量%、10質量%、20質量%含まれる炭素繊維分散体を得た。得られた炭素繊維分散体の静置5分経過後において観察した分散状態を示す写真を図7に示す。
【0075】
比較例1
予め、ポリエチレングリコール(平均分子量190〜210)に対し、実施例2におけると同様の割合で、蒸留水を添加し、得られた混合液に対し、実施例2と同様の割合で、合成例1にて合成した炭素繊維を配合し、実施例1と同じ条件下でマグネティックスターラを用いて攪拌処理して、炭素繊維構造体が全体の5質量%、10質量%、20質量%含まれる比較用の炭素繊維分散体を得た。得られた炭素繊維分散体の静置5分経過後において観察した分散状態を示す写真を図8に示す。
【0076】
実施例3
合成例1にて合成した炭素繊維構造体を、プロピレングリコール10mlに、全体の1質量%となるように配合し、マグネティックスターラを用いて、回転数1000rpmにて3分間、攪拌処理して、炭素繊維分散体を得た。得られた炭素繊維分散体の静置5分経過後において観察した分散状態を示す外観写真および顕微鏡写真(倍率40倍)を図9(a)、(b)に示す。
【0077】
実施例4
実施例2において調製された炭素繊維分散体を、蒸留水にて希釈して、炭素繊維構造体が全体の5質量%、10質量%、20質量%含まれる炭素繊維分散体を得た。得られた炭素繊維分散体の静置5分経過後において観察した分散状態を示す写真を図10に示す。
【0078】
比較例2
予め、プロピレンレングリコールに対し、実施例4におけると同様の割合で、蒸留水を添加し、得られた混合液に対し、実施例4と同様の割合で、合成例1にて合成した炭素繊維を配合し、実施例1と同じ条件下でマグネティックスターラを用いて攪拌処理して、炭素繊維構造体が全体の5質量%、10質量%、20質量%含まれる比較用の炭素繊維分散体を得た。得られた炭素繊維分散体の静置5分経過後において観察した分散状態を示す写真を図11に示す。
【0079】
図6〜図11に示す結果から明らかなように、本発明に係る実施例1〜4の分散体においては、媒体中で炭素繊維構造体が凝集することなく安定に微分散していることが観察されたのに対し、比較例1および2のものは、実施例2および4と組成的にはほぼ同一であるにもかかわらず、炭素繊維構造体が水系媒体中にほとんど分散することなく凝集して界面付近に浮遊したような状態であった。
【0080】
実施例5〜6、比較例3および参考例1
5週令の雌BALB/cマウス75匹を、SLCより購入し、無菌動物施設にて飼育した。施設でマウスを1週間安定させ、年齢が6週令になったときに実験を開始した。マウスは4つのグループ(実施例5、6、比較例3および参考例1(比較対照)用)にランダムに分けられた。
【0081】
手技直前にフローセンにて麻酔した後、その頸部を切開し、気道を確保し、27Gの注射針を穿刺し、注射針に接続されたシリンジより、実施例1あるいは実施例2で調製された炭素繊維分散体を0.05ml注入した。所定量の炭素繊維分散体の注入が終了したら、直ちに、切開部位を縫合し、所定量の炭素繊維が肺中に導入された被検体マウスを得た。
【0082】
術後30日経過後のマウスの生存率は、実施例1の分散体を導入した実施例3で、96%、実施例2の分散体を導入した実施例4で96%であり、炭素繊維を配合していないポリエチレングリコール水溶液(ポリエチレングリコール濃度は実施例2のものと同じ)を同様の手技によって気道中に注入した参考例1(比較対照群)のマウスにおける生存率96%と、有意差はなかった。
【0083】
さらに、所定量の炭素繊維が肺中に導入された被検体マウスをその後、長期間(2カ月以上)にわたり飼育したが、マウスの生存率は、96%および96%といずれも非常に高いものであった。
【0084】
なお、試験期間経過後に、マウスを犠牲として解剖した結果、肺組織に肺気腫等の異常は見られず、合成例1で得られた炭素繊維の生体全性が確認された。
【0085】
一方、比較例3においては、注入する炭素繊維分散体として、比較例2で調製されたものを用いる以外は、実施例3〜4と同様にして、マウスに対し炭素繊維の肺中への導入を試みた。
【0086】
その結果、分散体注入直後において、いずれのマウスも窒息によると思われる状態で死亡してしまい、所定量の炭素繊維が肺中に導入された被検体マウスを得ることはできなかった。
【0087】
実施例7
実験方法
(炭素繊維分散体の準備)
以下の表1に示すような特性を有する4種類の炭素繊維(SWNT、MWNT-I、MWNT-II、キャップ積層CNT)を用意した。
【0088】
なお、それぞれの調製は以下によるものである。
【0089】
<SWNTs>
単層カーボンナノチューブは、触媒的CVD法と最適化された精製方法(Endo M, Hayashi T, Kim YA, Muramatu H, Ezaka M, Watts PCP, et al. The possible route to large-scale production of SWNTs through combinational techniques of substrate and floating Methods. J Nanos Nanotec 2004; 4 (1/2): 132-135.を参照のこと。)で得た。
【0090】
<MWNT-IおよびMWNT-II>
直径が異なる2種類の多層カーボンナノチューブは、反応条件(反応温度、有機金属化合物の量、フロー速度)を制御した触媒的CVD法により得たサンプルから選んだ。
【0091】
(Endo M, Kim YA, Hayashi T, Nishimura K, Matusita T, Miyashita K, et al. Vapor-grown carbon fibers (VGCFs): Basic properties and their battery application. Carbon 2001; 39:1287-1297;
Endo M, Kim YA, Hong SH, Matushita T, Takeda T, Hayashi T, et al. Structural characterization of carbon nanofibers obtained by hydrocarbon pyrolysis. Carbon 2001; 39: 2003-2010;および
Kim YA, Hayashi T, Endo M, Kaburagi Y, Tsukada T, Shan J, et al. Synthesis and structural characterization of thin multi-walled carbon nanotubes with a partially facetted cross section by a floating reactant method. Carbon 2005; In press.を参照のこと。)
なお、as grownのMWNT-IIは、黒鉛炉にてアルゴン下2800℃で構造の改善と、多環芳香族炭化水素と鉄化合物の除去のため熱処理した。
【0092】
<キャップ積層CNT>
フローティング反応方法:触媒金属、助触媒として硫化水素、炭素原料として天然ガスを使用して連続工程で得た(Endo M, Kim YA, Fukai T, Hayashi T, Oshida K, Terrones M, et al. Structural characterization of cup-stacked type nanofibers with an entire hollow core. Appl Phys Lett 2002; 80 (7): 1267-1269.を参照のこと。)。
【0093】
得られたチューブは、ユニークな形態を示す(円錐台がスタックした形態を有し、開いたエッジの外側と内部の表面の大部分で高い化学反応性を示すものである。
【0094】
【表1】
(a)多層カーボンナノチューブの直径および長さはFE-SEMにて測定し、一方、単層カーボンナノチューブの直径および長さはラマンスペクトルのRBM(radial breathing mode)により測定した。
(b)d(002) は、XRD パターンからの層間距離である。.
(c)比表面積はN2 吸収により測定された。
(d)真密度はpycnometerにて測定した。
(e)R 値は、ラマンスペクトルにおけるDバンド強度をGバンド強度で割った値である。
(f)鉄含量は原子吸光法にて測定された。
(g)熱処理はアルゴン中にて行われた。
【0095】
全ての炭素繊維サンプルは、実験に先立ち、ホルムアルデヒドガスで24時間かけて滅菌し、室温で24時間かけてガスを蒸発させ、背中の皮膚の下の皮下(細胞)組織に埋め込むサンプルとした。
【0096】
次いで、炭素繊維サンプルは、それぞれ、(平均分子量190〜210)10mlに、全体の1質量%となるように配合し、マグネティックスターラを用いて、回転数1000rpmにて3分間、攪拌処理して、炭素繊維分散体とされた。
【0097】
(実験動物)
180匹のメスの BALB/cマウス(年齢5週間)をSLCより購入し、無菌動物施設にて飼育した。施設でマウスを1週間安定化させ、年齢が6週間になった時に実験を開始した。
【0098】
マウスは、比較対照用、SWNT用、MWNT-I用、MWNT-II用、キャップ積層CNT用の5つのグループ(30匹ずつ)にランダムに分けられた。さらに、サンプリングする日で6つのサブグループに分けた。
【0099】
サンプリングする日:植え込み後、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月
なお、サンプリングは、心臓からの血の採取と(細胞)組織の採取とした。
【0100】
(埋込手術)
フローセン麻酔下、各々のマウスの背中の皮膚を約1cm切開して各炭素繊維分散体を2mg皮下に埋め込んで縫合した。対照には、2mlの生理的食塩水を使用した。決められたサンプリング日に、深いフルオザン麻酔下、血と組織をサンプリングした。なおサンプリングされたマウスは犠牲となっている。
【0101】
血は、フローサイトメトリーで測定するために心臓に穴を開けて採取し、筋層を含む皮膚組織は、病理学試験のために採取された。
【0102】
(フローサイトメトリー)
サンプリングされた血液は、フローサイトメーター(FACS Clibur, Becton Dickinson, USA)でTリンパ球を選別するために、CD4+抗体とCD8+抗体(BD Bioscience Pharmingen, USA)によって染色した。
【0103】
染色した免疫性の細胞は、CeIIQuest software (Becton Dickinson)によって解析した。
【0104】
(組織学と免疫)
伝統的な組織学に従い、犠牲にした後すぐに(細胞)組織は、70%エタノール処置し、パラフィン中に組み込み、5μm部分にカットし、そして、ヘマトキシンとエオシンで染色した。
【0105】
加えて、連続切片の1つを使い、内因性のペルオキシダーゼは、3% H2O2で10分間ブロックし、そして、抗マウスCD45R抗体(BD Bioscience Pharmingen, USA)と抗マウスMac-3 抗体 (BD Bioscience Pharmingen, USA )を用いて室温で60分インキュベートした。スライドは、洗浄されそして、ビチオン化ポリクロナールrat-IgG1/2a抗体(BD Bioscience Pharmingen, USA)が適用された。さらに3回リン酸緩衝液で洗浄した後、部分は、ペルオキシダーゼ−共役したストレプタビジン (BD Bioscience Pharmingen, USA)で60分インキュベートされ、ジアミベンジジンで染色され、そしてヘマトキシンで対比染色された。
【0106】
(統計的分析)
有効な相違は、two-tailed student's t-test(P < 0.05.)を使って算定した。 データは、±SEを示した。
【0107】
実験結果
(体重)
全マウスは、試験期間中生き延びていた。また比較対照と比べて体重の変化はなかった(3ヶ月間)。
【0108】
従って、本発明に係る炭素繊維の安全性試験方法が有効に作用することが示された。
【0109】
(血液分析)
比較対照
比較対照は、CD4+T細胞の値は、植え込み後1, 2, 3 週間1ヶ月, 2ヶ月および3ヶ月でそれぞれ30.7±4.9%, 36.3±2.2%, 27.2±3.3%, 32.4±0.6%, 40.9±2.31% および 28.9±3.9%であり、CD8+T細胞の値は、 11.1±0.9%, 11.6±0.4%, 16.3±2.9%, 10.1±0.14%, 12.3±1.4% 及び7.4±0.6%であった。
【0110】
SWNT
SWNTの皮下埋め込み術後の抹消T細胞の経時変化を図12に示す。SWNTを埋め込んだCD4+T細胞は、対照(埋め込んでないもの)と比べて植え込み後2 週間 46.3±2.2%) 及び 3ヶ月(44.2±3.9%)において著しく高かった(図12(a))。さらに、 SWNTsのCD8+T細胞は、対照と比べて大きな減少が、植え込み後1週間 (7.5 ± 0.1%) 及び3週間 (11.0 ± 0.7%) において観測された(図12(b))。従って、SWNTs埋め込んだ組織のT細胞は、植え込み後1及び3週間 (3.6 ± 0.3 and 2.8 ± 0.3 各々)において、対照よりも比較的高いCD4+/CD8+値を示したことは注目すべきことである(図12(c))。
【0111】
抹消T細胞の変化を確認するためSWNTs 皮下埋め込み術後、 1 週間から1ヶ月までのサンプルの組織病理学的研究を行った(図13)。1週間で、滲出性流体 (浮腫)の存在を表すルーズな(緩んだ)空間が、SWNTと組織との間で明らかに観測された。
【0112】
この空間は、植え込み後2週間で小さくなった。しかしながら、この期間でSWNTによる細胞浸潤が生じた。そして、植え込み後3週間で、細胞浸潤での肉芽種組織が観測された。このSWNTの塊を封入している肉芽種は、植え込み後1ヶ月で硬くなった。これゆえ、SWNTの塊中への細胞浸潤に関する証拠はなかった。おそらくこれは、SWNT自身の緻密充填構造によるものと思われる。
【0113】
MWNT-I
CD4+T細胞の値が、植え込み後1週間(17.8±4.9%)で著しく減少し、そして2 週間 (48.6±2.2%)で 非常に増加した(図14(a))。対照と比べて、CD8+T細胞の著しい減少も同様に、植え込み後1週間 (6.9±0.5%) および3週間(8.6±0.7%)で観測された (図14(b))。従って、相対的に高いCD4+/CD8+値が 植え込み後2週間 (3.8±0.1)でのみ観測された(図14(c))。図15に見られるようにMWNTは、水腫状の様相なしで、植え込み後1週間で細胞浸潤を生じさせた。肉芽種性の組織は、ナノチューブの塊間で、時間がたつにつれて緻密で硬くなった。
【0114】
最終的に植え込み後3週間以降いくつかの粒子が貪食(phagocytose)された。
【0115】
MWNT-II
CD4+ T細胞の比較的に低い値が、植え込み後1週間(16.4±0.8%)および3週間(13.7±1.9%)で観測された。植え込み後2週間(53.5±0.8%)の期間では、CD4+の高い値を検出した(図16(a))。CD8+T細胞においても、同様に、対照と比べて著しい減少を植え込み後1週間(8.2±0.8%) および3週間(7.8±0.9%)で観測した。その上、植え込み後3ヶ月でも、著しいCD8+T細胞の増加を生じたことは、注目すべきことである(図16(b))。従って、CD4+/CD8+ の値は、対照よりも非常に低い(2.1±0.2) であった。けれども、このサンプルでは、植え込み後2週間(4.7±0.3)で著しくCD4+/CD8+の高い値が観測された(図16(c))。MWNT-IIを植え込んだ組織の組織病理学的研究から 植え込み後1週間で滲出低下と共にわずかな細胞浸潤のみならず、わずかな肉芽種形成も観測された。細胞浸潤は、植え込み後2週間で、埋め込まれた塊の周辺に密接した。しかしながら、塊の中心スペースには、1ヶ月かけても細胞浸潤は、起こらなかった。また一方、塊は、図17に示すように肉芽種性組織でしっかりと閉じられた。
【0116】
キャップ積層CNT
このグループのCD4+T細胞の変化は、対照と比べて植え込み後1週間(18.2±1.4%)高い値であり、そして 2 週間 (53.5±0.8%) および3ヶ月(40.1±3.2%)では、ほとんど2倍だった(図18(a))。一方、対照と比べて、植え込み後 1週間(6.6±0.6%) と3週間 (6.6±0.9%)で、CD8+T細胞の突然の減少が観察された(図18(b))。 従って、植え込み後2週間(4.2±0.1)、3週間 (3.3±0.3)および3ヶ月 (4.8±0.5)で CD4+/CD8+の高い値が得られた(図18(c)))。図19に示すようにこのチューブは、植え込み後1週間の早い段階で水腫状の様相とともにわずかな細胞浸潤を引き起こした。時間が経過したとき、肉芽種性組織は、チューブの塊の間で小さくそして硬くになった。 分散性の高いチューブ(くもの巣状)は、塊状のチューブよりも低い細胞浸潤を生じることは、注目に値する。
【0117】
(Mac-3抗体とCD45R抗体を用いた免疫組織化学的調査の比較)
図20にCNT埋め込み1週間後の抗マウスMac-3抗体を用いたマクロファージの組織断面の免疫組織化学的様相を示した。SWNTとMWNT-IにおけるよりもMWNT-IIとCSNTにおいて、Mac-3に関しより陽性の細胞が観測された。
【0118】
陽性の強さの順は、以下のとおりであったMWNT-II = CSNT > MWNT-I > SWNT。
【0119】
図21に、植え込み1ヵ月後のMac-3抗体を用いた免疫組織化学的様相を表示した。より多くの数の陽性細胞が、SWNTの物質の周囲に見られることが明らかとなった。SWNTの肉芽種性組織は、部分的にある程度はマクロファージの成分から成っており、そして、食細胞は観察されなかった。けれども、MWNT-Iにおける肉芽種性組織上で、Mac-3陽性細胞は、SWNTより少なかった。自己凝集した塊状物質の狭いスペース中で、陽性細胞を観察することができた。食細胞的様相がMWNT-II(図21(d))とCSNT(図21(e))で観測されたことはとても興味深いことであった。
【0120】
(植え込み後3ヶ月の後期における肉芽種形成の比較)
この実験処方(植え込み後3ヶ月)の後期での、肉芽種様相の違いと埋め込まれたCNTの配置を図22に示す。肉芽種は、植え込み後3ヶ月の時点で、すべてのサンプルにおいて発現していたが、その肉厚は付着した物質によって異なっていた。特に、 SWNTにおける肉厚は、他のものより大きかった。しかしながら、塊状のCNTへの細胞浸潤の程度は、CSNT、MWNT-II、MWNT-Iの順で増加した。加えて、肉芽種の間にゆるい境界線が存在し、そして埋め込んだ物質は、特にMWNT-Iが見つかった。剖検の結果、すべてのマウスにおいて、脾臓、肝臓、腎臓、肺、心臓および大脳皮質で、何ら炭素物質は、見つからなかった。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】合成例において得られた微細炭素繊維の中間体の透過電子顕微鏡写真である。
【図2】合成例において得られた微細炭素繊維の透過電子顕微鏡写真である。
【図3】合成例において得られた微細炭素繊維のX線回折チャートである。
【図4】合成例において用いた合成装置を模式的に示す図である。
【図5】合成例において用いた高温熱処理装置を模式的に示す図である。
【図6】実施例1において得られた炭素繊維分散体における炭素繊維の分散状態を示す外観写真(a)および顕微鏡写真(b)である。
【図7】実施例2において得られた炭素繊維分散体の分散状態を示す写真である。
【図8】比較例1において得られた炭素繊維分散体の分散状態を示す写真である。
【図9】実施例3において得られた炭素繊維分散体における炭素繊維の分散状態を示す外観写真(a)および顕微鏡写真(b)である。
【図10】実施例4において得られた炭素繊維分散体の分散状態を示す写真である。
【図11】比較例2において得られた炭素繊維分散体の分散状態を示す写真である。
【図12】SWNTの皮下埋め込み術後の抹消T細胞の経時変化を示すグラフである。
【図13】SWNT皮下埋め込み術後、1週間から1ヶ月までの細胞組織の状態を示す写真である。
【図14】MWNT-Iの皮下埋め込み術後の抹消T細胞の経時変化を示すグラフである。
【図15】MWNT-Iの皮下埋め込み術後、1週間から1ヶ月までの細胞組織の状態を示す写真である。
【図16】MWNT-IIの皮下埋め込み術後の抹消T細胞の経時変化を示すグラフである。
【図17】MWNT-IIの皮下埋め込み術後、1週間から1ヶ月までの細胞組織の状態を示す写真である。
【図18】キャップ積層CNTの皮下埋め込み術後の抹消T細胞の経時変化を示すグラフである。
【図19】キャップ積層CNTの皮下埋め込み術後、1週間から1ヶ月までの細胞組織の状態を示す写真である。
【図20】CNT埋め込み1週間後の抗マウスMac-3抗体を用いたマクロファージの組織断面の状態を示す写真である。
【図21】CNT埋め込み1週間後の抗マウスMac-3抗体を用いたマクロファージの組織断面の状態を示す写真である。
【図22】CNT埋め込み3ヶ月後の、肉芽種様相の違いと埋め込まれたCNTの配置示す写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細炭素繊維分散体に関するものである。詳しく述べると、本発明は、分散安定性に優れ、特に、生体導入用として有用な微細炭素繊維分散体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」とも記する。)に代表されるカーボンナノ構造体などの微細炭素繊維が注目されている。
【0003】
カーボンナノ構造体を構成するグラファイト層は、通常では規則正しい六員環配列構造を有し、その特異な電気的性質とともに、化学的、機械的および熱的に安定した性質を持つ物質である。このような微細炭素繊維は、各種工業的用途における応用の他、薬学、医学的用途等においてもその応用が期待されるところである。
【0004】
しかしながら、一方で、このような微細炭素繊維は、生成時点で既に塊になってしまい、例えば、生理食塩水等の溶媒中に分散させようとしても、安定に均一分散させることが困難であり、微細炭素繊維を微細粒子として、生体内へ導入することが困難であった。
【0005】
なお、特許文献1には、化粧料用途として、各種繊維をポリオール中に分散させてなる組成物が示されているが、外用適用を目的としたものであって、繊維としても、広く各種の繊維種を含むものであって、その分散特性を目的としたものではない。
【0006】
また、最近、アスベストが原因となる肺気腫等の健康被害の問題が大きく取り上げられており、微細炭素繊維に関しても、その用途が広がるにつれ、このような安全性の面を実証する必要性が生じている。このため、例えば、微細炭素繊維を浮遊させた雰囲気中に、マウス等の実験動物を所定時間入れ、呼気によって実験動物の肺内へ微細炭素繊維を入れることが試みられているが、うまく肺内へと微細炭素繊維を導入することができず、また、導入することができたとしても、その導入量を一定量とすることが困難で、このような安全性の評価は困難を極めるものであった。
【特許文献1】特開2000−344627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明は、分散安定性に優れ、特に、生体導入用として有用な微細炭素繊維分散体を提供することを課題とするものである。
【0008】
本発明はまた、微細炭素繊維の安全性の評価方法として、確立された実験方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明は、炭素繊維が、全体の0.001〜30質量%の割合で、ポリオール中に分散させてなることを特徴とする炭素繊維分散体である。
【0010】
本発明はまた、ポリオールが、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選ばれてなる少なくとも1つである上記炭素繊維分散体を示すものである。
【0011】
本発明はさらに、炭素繊維が、全体の0.001〜30質量%の割合となるように、さらに水性媒体にて希釈されてなることを特徴とする上記炭素繊維分散体を示すものである。
【0012】
本発明はさらにまた、生体導入用として用いられることを特徴とする前記炭素繊維分散体である。
【0013】
上記課題を解決する本発明はまた、上記炭素繊維分散体を、実験動物の組織ないし器官内に導入することで、炭素繊維を定量的に実験動物の体内に留置し、以後の実験動物の状態を経過観察することを特徴とする炭素繊維の安全評価方法である。
【0014】
本発明はまた、外科的手技により実験動物の頸部を切開して気道を確保し、上述した炭素繊維分散体を気道に注入することによって、当該実験動物の肺内に炭素繊維を導入した後、術部を縫合し、その後、当該実験動物の状態を経過観察するものである炭素繊維の安全性評価方法を示すものである。
【0015】
本発明はまた、外科的手技により実験動物の皮膚を切開し、上述炭素繊維分散体を皮下に注入することによって、当該実験動物の皮下組織に炭素繊維を埋植した後、術部を縫合し、その後、当該実験動物の状態を経過観察するものである炭素繊維の安全性評価方法を示すものである。
【0016】
本発明はさらに、実験動物がマウスである炭素繊維の安全性評価方法である。
【発明の効果】
【0017】
上記課題を解決するため本発明者らは鋭意検討の結果、ポリエチレングリコール等のポリオールに直接微細炭素繊維を添加して攪拌ないし振とうを加えてやることによって、簡単に、非常に安定にかつ良好に炭素繊維が分散され、しかもその後、これを例えば各種媒体、特に水等の水性媒体にて希釈しても、微細炭素繊維はこれら媒体中においても安定に微分散された状態を長時間保ち得ることを見出し、本発明に到達したものである。なお、これは、予めポリオール成分を水性媒体中に添加してなる系に、微細炭素繊維を分散させた場合と比較して、その微分散性および分散安定性の面で明らかに異なる挙動を示すものであり、また、従来公知のように、例えば界面活性剤等の分散剤ないし分散安定剤を使用せずとも良好な分散系が得られることから、特に生体導入用途において、有利である。
【0018】
さらに、本発明の炭素繊維の安全性評価方法においては、上記したような分散性に優れた炭素繊維分散体を用いるため、実験動物の組織ないし器官内へ、炭素繊維を定量的かつ安全に導入することができる。特に、マウスのような小動物を用いた場合に、直接実験動物の気道中に注入して炭素繊維を肺内に導入しても、気道で炭素繊維が詰まり注入直後に実験動物が窒息死してしまうようなことは生じ難く、術後において長期間実験動物を生存させることが可能となるため、所定量の炭素繊維を実験動物の肺内へ導入し、その後の経過を観察することが可能となる。このため、炭素繊維の安全性を評価する上で、極めて優れた方法となるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を好ましい実施形態に基づき詳細に説明する。
【0020】
<炭素繊維分散体>
本発明に係る炭素繊維分散体は、炭素繊維を全体の0.001〜30質量%の割合で、ポリオール中に分散させてなることを特徴とするものである。
【0021】
A)分散媒
本発明において、分散媒としてのポリオールとしては、公知のように、少なくとも2つのフリーなヒドロキシ基を含む有機化合物が種々含まれ、具体的には、例えば、プロピレングリコール、ブチレングリコール、イソプレングリコール、ペンチレングリコール、ヘキシレングリコール、グリセロール、パンテノール、ポリエチレングリコール、例えば、平均分子量が180〜10000程度のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、例えば、平均分子量が60〜200程度のポリプロピレングリコール等を挙げることができる。
【0022】
このうち好ましくは、ポリエチレングリコール、特に、平均分子量が190〜1500程度のポリエチレングリコール、およびプロピレングリコールが望ましい。なお、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールは、生体安全性の面からも好ましい分散媒である。
【0023】
また、分散媒の粘度としては、特に限定されるものではないが、25℃±5℃条件下において、液状であることが望ましい。
【0024】
B)炭素繊維
次に、本発明において用いられる炭素繊維としては、特に限定されるものではなく、従来公知の各種のものが用いられ得るが、代表的には、主として、炭素の六員環配列構造を有する構造体であって、この構造体の三次元のディメンションのうち少なくとも1つの寸法がナノメートルの領域にある、たとえば、0.4〜150nm程度、好ましくは15〜100nmの微細炭素繊維である。
【0025】
この炭素の六員環配列構造としては、シート状のグラファイトグラフェンシートを例示することができ、さらには、たとえば、炭素の六員環に五員環もしくは七員環が組み合わされた構造等をも含むことができる。
【0026】
より具体的には、微細炭素繊維としては、たとえば、一枚のグラフェンシートが筒状に丸まってできる直径数nm程度の単層カーボンナノチューブや、筒状のグラフェンシートが軸直角方向に積層した多層カーボンナノチューブ(多壁カーボンナノチューブ)、単層カーボンナノチューブの端部が円錐状で閉じたカーボンナノホーン、このカーボンナノホーンが直径100nm程度の球状の集合体となったカーボンナノホーン集合体等を例示することができる。さらに、炭素の六員環配列構造を有するカーボンオニオン等や、炭素の六員環配列構造中に五員環が導入されたフラーレンやナノカプセル等が包含される。なお、本発明においてこれらの微細炭素繊維は、上記したような種類の単独体とすることも、あるいは、2種以上の混合体とすることも可能である。
【0027】
このような微細炭素繊維の製造方法としては、高温の(600℃〜1300℃)反応炉内に、触媒金属と、気体状もしくは液状の炭素含有化合物とを投入し、反応炉領域中で互いを接触させることにより、原料を熱分解または触媒分解して炭素とし、この炭素を成長させるCVD(Chemical Vapor Deposition)法が挙げられる。
【0028】
また、上記CVD法とは、触媒の導入方法で異なるもので、予め金属微粒子を担体に担持させ固体として反応炉内に導入しておき、該反応炉に気体状もしくは液状の炭素含有化合物を導入し、予め導入され担体に担持されている金属微粒子と接触させることで微細炭素繊維を得るCCVD(Catalytic Chemical Vapor Deposition)法が挙げられる。
【0029】
なお、一般にCVD法においては、触媒金属が使用され、as grownな微細炭素繊維においては、これら金属ないし金属イオンが微細炭素繊維に含まれている場合がある。本発明に係る炭素繊維分散体を、例えば、生体導入用としてあるいは生体ないし組織と接触する可能性のある製品の調製用に用いる場合には、このような金属ないし金属イオンによる毒性の可能性があるため、微細炭素繊維製造後において、例えば、熱処理、例えば、1500〜3000℃、より好ましくは2000〜3000℃で熱処理することによって、これら金属成分を極力除去してなる炭素繊維を用いることが望ましい。
【0030】
その他、微細炭素繊維を得る製造方法としては、低圧のアルゴンガスや水素ガスの雰囲気下、2本のグラファイト電極を軽く接触させた後、数mm程度離した状態で、電圧を印加し、電極間にアーク放電を生じさせることで、グラファイト電極を昇華させ微細炭素繊維を得るアーク放電法や、金属触媒を混合したグラファイトに対して可視パルス・レーザー光を照射し、該グラファイトを蒸発させることで微細炭素繊維を得るレーザー蒸発法等さまざまな製造方法を挙げることができるが、上記したような微細炭素繊維を得ることができる製造方法であれば、いずれのものであってもよい。
【0031】
なお、このような生体導入用等の用途においては、使用する微細炭素繊維を、例えば、蒸気滅菌、あるいはエチレンオキサイド、ホルムアルデヒド等を用いた化学滅菌、紫外線滅菌、放射線滅菌等適当な方法を用いることによって、予め滅菌処理しておくことが望ましい。
【0032】
C)炭素繊維分散体の調製方法
本発明の炭素繊維分散体は、上述したような炭素繊維を所定量、分散媒であるポリオール中に配合し、攪拌ないし振とう処理することによって調製することが可能である。
【0033】
このようなポリオール中に配される炭素繊維の量としては、組成物全体の0.001〜30質量%、より望ましくは、0.001〜10質量%程度である。配合量が、0.001〜30質量%の範囲内にあると、十分な量の炭素繊維が微分散状態で含まれた安定した分散体が良好な流動性を有しつつ形成されるためである。
【0034】
攪拌ないし振とう処理の方法としては、特に限定されるものではなく、公知の各種のもの、具体的には、例えば、自動式ないし手動式のシェイカー、マグネティックスターラー、超音波振動子、その他、パドルおよびブレード等の各種攪拌子を備えた攪拌機、グラインダー等を用いることで行うことができるが、このうち、特に、マグネティックスターラーを用いて分散処理を行うことが、炭素繊維自体の構造を破壊することなく、良好な分散状態を形成し得ることから望ましい。
【0035】
本発明に係る炭素繊維分散体は、上述したようにして調製することが可能であるが、このようにして炭素繊維がポリオール中に分散された分散体は、必要に応じて、各種の媒体、特に、水性媒体中によって希釈することが可能である。このような水性媒体によって、炭素繊維が、全体の0.001〜30質量%の割合となるように希釈された場合であっても、得られた希釈系において、炭素繊維は微分散された状態を安定に保ち得る。
【0036】
本発明に係る炭素繊維分散体を生体導入用として用いる場合、希釈に用いられる水性媒体としては、特に、蒸留水、脱イオン水等の水、生理食塩水、リン酸緩衝液、培養用血清等の生体安全性の高い媒体であることが望ましい。
【0037】
なお、このように水性媒体中に希釈する際において、本発明に係る炭素繊維分散体に、従来公知の各種分散剤、分散安定剤等をさらに配合すること自体は可能ではあるが、このような分散剤、分散安定剤等を配合しなくとも、十分な分散安定性を発揮し得るものであり、かつまた分散剤として用いられる界面活性剤等による悪影響、例えば生体適合性などといった観点からの影響を考慮すれば、これらの分散剤、分散安定剤等は配合しない方が望ましい態様も多い。
【0038】
<炭素繊維分散体の用途>
本発明に係る炭素繊維分散体は、上述したように、炭素繊維が均一に微分散しかつ安定した分散状態を呈するものであるために、種々の用途、特に生体導入用として好ましく用いられ得る。
【0039】
生体導入用途としては、特に限定されるものではないが、後述するような炭素繊維の安全評価方法以外に、例えば、炭素繊維として、薬理学的活性物質、例えば、各種薬剤、抗体、蛍光物質等を結合ないし担持させた炭素繊維を用い、これを生体内に導入して、局所的にこれら薬理学的活性物質を付与するドラッグデリバリーシステムのキャリアとして;
炭素繊維の良好な熱伝導性を利用し、生体内の所定部位に導入後、赤外線照射等により発熱させる温熱治療用発熱媒体として;
炭素繊維分散体における微細炭素繊維の良分散性を利用して、生体内の病理部位等の局所部位の近傍部の毛細血管ないし末梢血管まで微細炭素繊維を導入し、毛細血管ないし末梢血管内部にて微細炭素繊維により血管を閉塞させ、それより先の病理部位等の局所部位を壊死除去する閉塞術に使用する材料さらにはカテーテルによる緊急止血用の栓塞材料として;
炭素繊維を放射性物質、蛍光物質等の適当な標識物質で標識化して生体内の所定部位に導入し、検知する放射線ないし化学マーカーとして;
炭素繊維の中空部に水等のプロトン保有物質を液体状態で内包させることにより、核磁気共鳴(NMR)イメージングや生体の磁気共鳴画像(MRI)装置による診断および治療に用いられる磁気共鳴用造影剤として;
炭素繊維分散体における微細炭素繊維の良分散性を利用して、再生医療などでの細胞培養の足場材料として;
などを例示することができる。
【0040】
その他、炭素繊維の良好な生体適合性を利用し、各種医療器具、特に、生体内組織ないし細胞と接触し得る注射針、留置針、留置カテーテル、人工臓器、人工骨等の各種インプラント材等の医療器具の表面改質する目的で使用されるコーティング剤を調製する上においても好適に利用され得る。
【0041】
<炭素繊維の安全性評価方法>
本発明に係る炭素繊維分散体は、上述したようにポリオールからなる分散媒中において、炭素繊維が非常に良好でかつ安定な分散性を発揮するものであるから、かなり微細な腔所内部であっても閉塞を起こすことなく安定に通過できるものである。
【0042】
このため、本発明に係る炭素繊維分散体を用いれば、in vitro的な実験のみならず、直接、実験動物の皮下組織等の組織、あるいは肺内等の器官中に炭素繊維を導入することができ、炭素繊維の安全性評価の上で有効なin vivo的な方法が確立できるものである。
【0043】
すなわち、本発明に係る炭素繊維の安全性評価方法においては、まず、試験に供する炭素繊維を、上記したようにポリオールを用いて、炭素繊維分散体の形態に調製し、そして、実験動物の所定の組織あるいは器官内に当該炭素繊維分散体を注入することで、これら組織あるいは器官内に炭素繊維を配置し、その後当該実験動物の生存状態、組織、血液等の病理変化等を経過観察するものである。
【0044】
本発明に係る炭素繊維分散体を用いることによって、炭素繊維導入時の実験動物への負担が大幅に軽減されるため、導入手技自体に起因する実験動物の死亡率が極めて低く抑えられ、また、炭素繊維の定量的な導入が可能となるため、確実かつ安定した評価が可能となるものである。
【0045】
試験に供する実験動物としては、通常、用いられる任意の種類のものに対して適用することが可能である。特に限定されるわけではないが、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ヤギ、ヒツジ、ブタ、サル等を用いることが可能である。このうち、特に、豊富な既知データの存在、継代飼育の容易性、入手容易性、遺伝子操作性等の観点から、マウスを用いることが望ましい。
【0046】
マウスとしては、特に限定されるものではないが、例えば、免疫不全マウス、特に、ASW,A/He,AKR,BALB/c、B10LP,C17,C3H,C57BL,C57,CBA,DBA,DDD,I/st,NC,NFR,NFS,NFS/N,NZB,NZC,NZW,P,RIII及びSJL等のヌードマウスが好ましく例示できる。
【0047】
なお、より具体的な組織ないし器官へ導入方法としては、例えば、以下に示すように、実験動物の肺中への導入術、皮下組織への埋植術等を好ましく例示することができる。
【0048】
すなわち、肺中への導入は、外科的手技により実験動物の頸部を切開して気道を確保し、上述した本発明に係る炭素繊維分散体を気道に注入することによって、当該実験動物の肺内に炭素繊維を導入した後、術部を縫合することによって可能である。
【0049】
肺中への導入術においては、本発明に係る炭素繊維分散体を利用した場合、マウスのような非常に細い気道を有する動物種においても、導入された炭素繊維分散体中に含まれていた炭素繊維が極めて良好な分散性を有しているため、炭素繊維が気道等に詰まって、手技直後にマウスが窒息死してしまうといった事故が生じる可能性が極めて低い。これゆえ、所定量の炭素繊維が肺中に導入された被検体を良好な生存率をもって調製することが可能となり、炭素繊維の安全性に係る長期間にわたる動物実験が可能となるものである。
【0050】
本発明に係る安全性評価方法においては、まず、検査しようとする炭素繊維を、全体の0.001〜30質量%の割合で、上述したようにポリエチレングリコール等のポリオール中に配合することにより炭素繊維分散体を調製する。
【0051】
次いで、この炭素繊維分散体を、必要に応じて、水、生理食塩水等によって、炭素繊維が全体の0.001〜30質量%の割合となるように希釈する。
【0052】
そして、試験に供する実験動物、例えば、マウスを、必要に応じて、予め麻酔処理した後、外科的手技によってその頸部を切開し、気道を確保する。
【0053】
続いて、この気道に、注射針、例えば、マウスの場合、27G程度の太さの注射針を穿刺し、注射針に接続されたシリンジ等より、所定量の炭素繊維分散体を導入する。なお、シリンジに接続された注射針を気道中に比較的長時間保持することによる、実験動物の窒息の可能性を低下させる上で、予め、端部の開放された留置針を気道に留置し、該留置針開口よりの実験動物の呼吸が可能としておき、呼気が肺に入らないのは炭素繊維分散体注入のわずかな時間のみとすることで、実験動物への負担を軽くすることが望ましい。
【0054】
最後に、所定量の炭素繊維分散体の注入が終了したら、直ちに、切開部位を縫合することで、所定量の炭素繊維が肺中に導入された被検体を得る。術後、暫く、例えば、1〜2時間経過観察し、生存が確認されたら、その被検体を、その後の炭素繊維の安全性試験に供する。
【0055】
安全性試験は、例えば、その後の所定時間毎の被検体解剖による組織観察、採取血液の分析、所定時間後の生存率、免疫性反応、病理検査、遺伝子検査、蛋白発現検査等によって行うことができる。
【0056】
この安全性評価方法において、比較対照(コントロール)としては、特に限定されるものではないが、例えば、炭素繊維を添加していない、分散媒として使用したポリエチレングリコール等のポリオール、あるいはその水、生理食塩水等による希釈体を、前記と同様の手技により肺中に導入した実験動物を用いることができる。
【0057】
また皮下組織への埋植術は、実験動物の適当な部位、例えば、背中等の部位の皮膚を、外科的に切開し、この切開部位の皮下に、上述した炭素繊維分散体を所定量注入し、その後、切開部位を縫合することによって行うことが可能である。
【0058】
使用する炭素繊維分散体、術後後の経過観察、安全性試験等に関しては、上述した肺中への導入術の場合と、同様のものであるため説明を省略する。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0060】
なお、以下において、各物性値は次のようにして測定した。
【0061】
(1)X線回折
粉末X線回折装置(JDX3532、日本電子製)を用いて、アニール処理後の炭素繊維を調べた。Cu管球で40kV、30mAで発生させたKα線を用いることとし、面間隔の測定は学振法(最新の炭素材料実験技術(分析・解析編)、炭素材料学会編)に従い、シリコン粉末を内部標準として用いた。
【0062】
(2)ラマン分光分析
ラマン分光分析は堀場ジョバン・イボン社製の機器(LabRam 800)を使用し、アルゴンレーザの514nmを用いて測定した。
【0063】
(合成例1)
CVD法によって、トルエンを原料として微細炭素繊維を合成した。
【0064】
合成装置を図4に示す。
【0065】
触媒としてフェロセン及びチオフェンの混合物を使用し、水素ガスの還元雰囲気で行った。トルエン、触媒を水素ガスとともに375℃に加熱し、生成炉に供給し、1200℃で滞留時間8秒で反応させた。雰囲気ガスはセパレータにより分離して、循環使用した。供給ガス中の炭化水素濃度は9容量%であった。
【0066】
合成された中間物質(第1の中間物質)の微細炭素繊維のタール含有率は10%であった。
【0067】
次に、この繊維を1200℃まで昇温し、30分保持することにより炭化水素分離処理を行い、さらに、2500℃で高温熱処理をした。炭化水素分離及び高温熱処理工程の装置を図5に示す。
【0068】
また、前記で説明した図1は、1200℃での炭化水素分離処理した微細炭素繊維の電子顕微鏡写真である。この図より、微細炭素繊維を構成するグラフェンシートは連続しておらず、パッチ状であることが分かる。
【0069】
得られた2500℃での高温熱処理後の微細炭素繊維の電子顕微鏡写真を図2に示す。
【0070】
この図から、特異な構造を持つ微細炭素繊維が確認できる。生成した繊維の径は、SEMの観察の結果、ある程度のばらつきがあり、10〜60nmφ、比表面積は29m2/gであった。また、磁気抵抗値は、磁束密度に対して負の値を有すると共に、磁束密度の変化に対して負の傾き(磁束密度Bに対して一次微分量が負)を有し、ラマン分光分析で測定されたID/IGは0.05であった。
【0071】
また、得られた微細炭素繊維をX線回折装置を用いて測定した。なお、比較のために黒鉛もX線回折装置を用いて測定した。測定結果より得られたX線回折チャートを図3に示すこととするが、合成例1で得られた微細炭素繊維はピーク強度が弱いため、10倍にして比較した。
【0072】
この結果より、得られた微細炭素繊維の面間隔は、3.388オングストロームであった。
【0073】
実施例1
合成例1にて合成した炭素繊維を、ポリエチレングリコール(平均分子量190〜210)10mlに、全体の1質量%となるように配合し、マグネティックスターラを用いて、回転数1000rpmにて3分間、攪拌処理して、炭素繊維分散体を得た。得られた炭素繊維分散体の静置5分経過後において観察した分散状態を示す外観写真および顕微鏡写真(倍率40倍)を図6(a)、(b)に示す。
【0074】
実施例2
実施例1において調製された炭素繊維分散体を、蒸留水にて希釈して、炭素繊維が全体の5質量%、10質量%、20質量%含まれる炭素繊維分散体を得た。得られた炭素繊維分散体の静置5分経過後において観察した分散状態を示す写真を図7に示す。
【0075】
比較例1
予め、ポリエチレングリコール(平均分子量190〜210)に対し、実施例2におけると同様の割合で、蒸留水を添加し、得られた混合液に対し、実施例2と同様の割合で、合成例1にて合成した炭素繊維を配合し、実施例1と同じ条件下でマグネティックスターラを用いて攪拌処理して、炭素繊維構造体が全体の5質量%、10質量%、20質量%含まれる比較用の炭素繊維分散体を得た。得られた炭素繊維分散体の静置5分経過後において観察した分散状態を示す写真を図8に示す。
【0076】
実施例3
合成例1にて合成した炭素繊維構造体を、プロピレングリコール10mlに、全体の1質量%となるように配合し、マグネティックスターラを用いて、回転数1000rpmにて3分間、攪拌処理して、炭素繊維分散体を得た。得られた炭素繊維分散体の静置5分経過後において観察した分散状態を示す外観写真および顕微鏡写真(倍率40倍)を図9(a)、(b)に示す。
【0077】
実施例4
実施例2において調製された炭素繊維分散体を、蒸留水にて希釈して、炭素繊維構造体が全体の5質量%、10質量%、20質量%含まれる炭素繊維分散体を得た。得られた炭素繊維分散体の静置5分経過後において観察した分散状態を示す写真を図10に示す。
【0078】
比較例2
予め、プロピレンレングリコールに対し、実施例4におけると同様の割合で、蒸留水を添加し、得られた混合液に対し、実施例4と同様の割合で、合成例1にて合成した炭素繊維を配合し、実施例1と同じ条件下でマグネティックスターラを用いて攪拌処理して、炭素繊維構造体が全体の5質量%、10質量%、20質量%含まれる比較用の炭素繊維分散体を得た。得られた炭素繊維分散体の静置5分経過後において観察した分散状態を示す写真を図11に示す。
【0079】
図6〜図11に示す結果から明らかなように、本発明に係る実施例1〜4の分散体においては、媒体中で炭素繊維構造体が凝集することなく安定に微分散していることが観察されたのに対し、比較例1および2のものは、実施例2および4と組成的にはほぼ同一であるにもかかわらず、炭素繊維構造体が水系媒体中にほとんど分散することなく凝集して界面付近に浮遊したような状態であった。
【0080】
実施例5〜6、比較例3および参考例1
5週令の雌BALB/cマウス75匹を、SLCより購入し、無菌動物施設にて飼育した。施設でマウスを1週間安定させ、年齢が6週令になったときに実験を開始した。マウスは4つのグループ(実施例5、6、比較例3および参考例1(比較対照)用)にランダムに分けられた。
【0081】
手技直前にフローセンにて麻酔した後、その頸部を切開し、気道を確保し、27Gの注射針を穿刺し、注射針に接続されたシリンジより、実施例1あるいは実施例2で調製された炭素繊維分散体を0.05ml注入した。所定量の炭素繊維分散体の注入が終了したら、直ちに、切開部位を縫合し、所定量の炭素繊維が肺中に導入された被検体マウスを得た。
【0082】
術後30日経過後のマウスの生存率は、実施例1の分散体を導入した実施例3で、96%、実施例2の分散体を導入した実施例4で96%であり、炭素繊維を配合していないポリエチレングリコール水溶液(ポリエチレングリコール濃度は実施例2のものと同じ)を同様の手技によって気道中に注入した参考例1(比較対照群)のマウスにおける生存率96%と、有意差はなかった。
【0083】
さらに、所定量の炭素繊維が肺中に導入された被検体マウスをその後、長期間(2カ月以上)にわたり飼育したが、マウスの生存率は、96%および96%といずれも非常に高いものであった。
【0084】
なお、試験期間経過後に、マウスを犠牲として解剖した結果、肺組織に肺気腫等の異常は見られず、合成例1で得られた炭素繊維の生体全性が確認された。
【0085】
一方、比較例3においては、注入する炭素繊維分散体として、比較例2で調製されたものを用いる以外は、実施例3〜4と同様にして、マウスに対し炭素繊維の肺中への導入を試みた。
【0086】
その結果、分散体注入直後において、いずれのマウスも窒息によると思われる状態で死亡してしまい、所定量の炭素繊維が肺中に導入された被検体マウスを得ることはできなかった。
【0087】
実施例7
実験方法
(炭素繊維分散体の準備)
以下の表1に示すような特性を有する4種類の炭素繊維(SWNT、MWNT-I、MWNT-II、キャップ積層CNT)を用意した。
【0088】
なお、それぞれの調製は以下によるものである。
【0089】
<SWNTs>
単層カーボンナノチューブは、触媒的CVD法と最適化された精製方法(Endo M, Hayashi T, Kim YA, Muramatu H, Ezaka M, Watts PCP, et al. The possible route to large-scale production of SWNTs through combinational techniques of substrate and floating Methods. J Nanos Nanotec 2004; 4 (1/2): 132-135.を参照のこと。)で得た。
【0090】
<MWNT-IおよびMWNT-II>
直径が異なる2種類の多層カーボンナノチューブは、反応条件(反応温度、有機金属化合物の量、フロー速度)を制御した触媒的CVD法により得たサンプルから選んだ。
【0091】
(Endo M, Kim YA, Hayashi T, Nishimura K, Matusita T, Miyashita K, et al. Vapor-grown carbon fibers (VGCFs): Basic properties and their battery application. Carbon 2001; 39:1287-1297;
Endo M, Kim YA, Hong SH, Matushita T, Takeda T, Hayashi T, et al. Structural characterization of carbon nanofibers obtained by hydrocarbon pyrolysis. Carbon 2001; 39: 2003-2010;および
Kim YA, Hayashi T, Endo M, Kaburagi Y, Tsukada T, Shan J, et al. Synthesis and structural characterization of thin multi-walled carbon nanotubes with a partially facetted cross section by a floating reactant method. Carbon 2005; In press.を参照のこと。)
なお、as grownのMWNT-IIは、黒鉛炉にてアルゴン下2800℃で構造の改善と、多環芳香族炭化水素と鉄化合物の除去のため熱処理した。
【0092】
<キャップ積層CNT>
フローティング反応方法:触媒金属、助触媒として硫化水素、炭素原料として天然ガスを使用して連続工程で得た(Endo M, Kim YA, Fukai T, Hayashi T, Oshida K, Terrones M, et al. Structural characterization of cup-stacked type nanofibers with an entire hollow core. Appl Phys Lett 2002; 80 (7): 1267-1269.を参照のこと。)。
【0093】
得られたチューブは、ユニークな形態を示す(円錐台がスタックした形態を有し、開いたエッジの外側と内部の表面の大部分で高い化学反応性を示すものである。
【0094】
【表1】
(a)多層カーボンナノチューブの直径および長さはFE-SEMにて測定し、一方、単層カーボンナノチューブの直径および長さはラマンスペクトルのRBM(radial breathing mode)により測定した。
(b)d(002) は、XRD パターンからの層間距離である。.
(c)比表面積はN2 吸収により測定された。
(d)真密度はpycnometerにて測定した。
(e)R 値は、ラマンスペクトルにおけるDバンド強度をGバンド強度で割った値である。
(f)鉄含量は原子吸光法にて測定された。
(g)熱処理はアルゴン中にて行われた。
【0095】
全ての炭素繊維サンプルは、実験に先立ち、ホルムアルデヒドガスで24時間かけて滅菌し、室温で24時間かけてガスを蒸発させ、背中の皮膚の下の皮下(細胞)組織に埋め込むサンプルとした。
【0096】
次いで、炭素繊維サンプルは、それぞれ、(平均分子量190〜210)10mlに、全体の1質量%となるように配合し、マグネティックスターラを用いて、回転数1000rpmにて3分間、攪拌処理して、炭素繊維分散体とされた。
【0097】
(実験動物)
180匹のメスの BALB/cマウス(年齢5週間)をSLCより購入し、無菌動物施設にて飼育した。施設でマウスを1週間安定化させ、年齢が6週間になった時に実験を開始した。
【0098】
マウスは、比較対照用、SWNT用、MWNT-I用、MWNT-II用、キャップ積層CNT用の5つのグループ(30匹ずつ)にランダムに分けられた。さらに、サンプリングする日で6つのサブグループに分けた。
【0099】
サンプリングする日:植え込み後、1週間、2週間、3週間、1ヶ月、2ヶ月、3ヶ月
なお、サンプリングは、心臓からの血の採取と(細胞)組織の採取とした。
【0100】
(埋込手術)
フローセン麻酔下、各々のマウスの背中の皮膚を約1cm切開して各炭素繊維分散体を2mg皮下に埋め込んで縫合した。対照には、2mlの生理的食塩水を使用した。決められたサンプリング日に、深いフルオザン麻酔下、血と組織をサンプリングした。なおサンプリングされたマウスは犠牲となっている。
【0101】
血は、フローサイトメトリーで測定するために心臓に穴を開けて採取し、筋層を含む皮膚組織は、病理学試験のために採取された。
【0102】
(フローサイトメトリー)
サンプリングされた血液は、フローサイトメーター(FACS Clibur, Becton Dickinson, USA)でTリンパ球を選別するために、CD4+抗体とCD8+抗体(BD Bioscience Pharmingen, USA)によって染色した。
【0103】
染色した免疫性の細胞は、CeIIQuest software (Becton Dickinson)によって解析した。
【0104】
(組織学と免疫)
伝統的な組織学に従い、犠牲にした後すぐに(細胞)組織は、70%エタノール処置し、パラフィン中に組み込み、5μm部分にカットし、そして、ヘマトキシンとエオシンで染色した。
【0105】
加えて、連続切片の1つを使い、内因性のペルオキシダーゼは、3% H2O2で10分間ブロックし、そして、抗マウスCD45R抗体(BD Bioscience Pharmingen, USA)と抗マウスMac-3 抗体 (BD Bioscience Pharmingen, USA )を用いて室温で60分インキュベートした。スライドは、洗浄されそして、ビチオン化ポリクロナールrat-IgG1/2a抗体(BD Bioscience Pharmingen, USA)が適用された。さらに3回リン酸緩衝液で洗浄した後、部分は、ペルオキシダーゼ−共役したストレプタビジン (BD Bioscience Pharmingen, USA)で60分インキュベートされ、ジアミベンジジンで染色され、そしてヘマトキシンで対比染色された。
【0106】
(統計的分析)
有効な相違は、two-tailed student's t-test(P < 0.05.)を使って算定した。 データは、±SEを示した。
【0107】
実験結果
(体重)
全マウスは、試験期間中生き延びていた。また比較対照と比べて体重の変化はなかった(3ヶ月間)。
【0108】
従って、本発明に係る炭素繊維の安全性試験方法が有効に作用することが示された。
【0109】
(血液分析)
比較対照
比較対照は、CD4+T細胞の値は、植え込み後1, 2, 3 週間1ヶ月, 2ヶ月および3ヶ月でそれぞれ30.7±4.9%, 36.3±2.2%, 27.2±3.3%, 32.4±0.6%, 40.9±2.31% および 28.9±3.9%であり、CD8+T細胞の値は、 11.1±0.9%, 11.6±0.4%, 16.3±2.9%, 10.1±0.14%, 12.3±1.4% 及び7.4±0.6%であった。
【0110】
SWNT
SWNTの皮下埋め込み術後の抹消T細胞の経時変化を図12に示す。SWNTを埋め込んだCD4+T細胞は、対照(埋め込んでないもの)と比べて植え込み後2 週間 46.3±2.2%) 及び 3ヶ月(44.2±3.9%)において著しく高かった(図12(a))。さらに、 SWNTsのCD8+T細胞は、対照と比べて大きな減少が、植え込み後1週間 (7.5 ± 0.1%) 及び3週間 (11.0 ± 0.7%) において観測された(図12(b))。従って、SWNTs埋め込んだ組織のT細胞は、植え込み後1及び3週間 (3.6 ± 0.3 and 2.8 ± 0.3 各々)において、対照よりも比較的高いCD4+/CD8+値を示したことは注目すべきことである(図12(c))。
【0111】
抹消T細胞の変化を確認するためSWNTs 皮下埋め込み術後、 1 週間から1ヶ月までのサンプルの組織病理学的研究を行った(図13)。1週間で、滲出性流体 (浮腫)の存在を表すルーズな(緩んだ)空間が、SWNTと組織との間で明らかに観測された。
【0112】
この空間は、植え込み後2週間で小さくなった。しかしながら、この期間でSWNTによる細胞浸潤が生じた。そして、植え込み後3週間で、細胞浸潤での肉芽種組織が観測された。このSWNTの塊を封入している肉芽種は、植え込み後1ヶ月で硬くなった。これゆえ、SWNTの塊中への細胞浸潤に関する証拠はなかった。おそらくこれは、SWNT自身の緻密充填構造によるものと思われる。
【0113】
MWNT-I
CD4+T細胞の値が、植え込み後1週間(17.8±4.9%)で著しく減少し、そして2 週間 (48.6±2.2%)で 非常に増加した(図14(a))。対照と比べて、CD8+T細胞の著しい減少も同様に、植え込み後1週間 (6.9±0.5%) および3週間(8.6±0.7%)で観測された (図14(b))。従って、相対的に高いCD4+/CD8+値が 植え込み後2週間 (3.8±0.1)でのみ観測された(図14(c))。図15に見られるようにMWNTは、水腫状の様相なしで、植え込み後1週間で細胞浸潤を生じさせた。肉芽種性の組織は、ナノチューブの塊間で、時間がたつにつれて緻密で硬くなった。
【0114】
最終的に植え込み後3週間以降いくつかの粒子が貪食(phagocytose)された。
【0115】
MWNT-II
CD4+ T細胞の比較的に低い値が、植え込み後1週間(16.4±0.8%)および3週間(13.7±1.9%)で観測された。植え込み後2週間(53.5±0.8%)の期間では、CD4+の高い値を検出した(図16(a))。CD8+T細胞においても、同様に、対照と比べて著しい減少を植え込み後1週間(8.2±0.8%) および3週間(7.8±0.9%)で観測した。その上、植え込み後3ヶ月でも、著しいCD8+T細胞の増加を生じたことは、注目すべきことである(図16(b))。従って、CD4+/CD8+ の値は、対照よりも非常に低い(2.1±0.2) であった。けれども、このサンプルでは、植え込み後2週間(4.7±0.3)で著しくCD4+/CD8+の高い値が観測された(図16(c))。MWNT-IIを植え込んだ組織の組織病理学的研究から 植え込み後1週間で滲出低下と共にわずかな細胞浸潤のみならず、わずかな肉芽種形成も観測された。細胞浸潤は、植え込み後2週間で、埋め込まれた塊の周辺に密接した。しかしながら、塊の中心スペースには、1ヶ月かけても細胞浸潤は、起こらなかった。また一方、塊は、図17に示すように肉芽種性組織でしっかりと閉じられた。
【0116】
キャップ積層CNT
このグループのCD4+T細胞の変化は、対照と比べて植え込み後1週間(18.2±1.4%)高い値であり、そして 2 週間 (53.5±0.8%) および3ヶ月(40.1±3.2%)では、ほとんど2倍だった(図18(a))。一方、対照と比べて、植え込み後 1週間(6.6±0.6%) と3週間 (6.6±0.9%)で、CD8+T細胞の突然の減少が観察された(図18(b))。 従って、植え込み後2週間(4.2±0.1)、3週間 (3.3±0.3)および3ヶ月 (4.8±0.5)で CD4+/CD8+の高い値が得られた(図18(c)))。図19に示すようにこのチューブは、植え込み後1週間の早い段階で水腫状の様相とともにわずかな細胞浸潤を引き起こした。時間が経過したとき、肉芽種性組織は、チューブの塊の間で小さくそして硬くになった。 分散性の高いチューブ(くもの巣状)は、塊状のチューブよりも低い細胞浸潤を生じることは、注目に値する。
【0117】
(Mac-3抗体とCD45R抗体を用いた免疫組織化学的調査の比較)
図20にCNT埋め込み1週間後の抗マウスMac-3抗体を用いたマクロファージの組織断面の免疫組織化学的様相を示した。SWNTとMWNT-IにおけるよりもMWNT-IIとCSNTにおいて、Mac-3に関しより陽性の細胞が観測された。
【0118】
陽性の強さの順は、以下のとおりであったMWNT-II = CSNT > MWNT-I > SWNT。
【0119】
図21に、植え込み1ヵ月後のMac-3抗体を用いた免疫組織化学的様相を表示した。より多くの数の陽性細胞が、SWNTの物質の周囲に見られることが明らかとなった。SWNTの肉芽種性組織は、部分的にある程度はマクロファージの成分から成っており、そして、食細胞は観察されなかった。けれども、MWNT-Iにおける肉芽種性組織上で、Mac-3陽性細胞は、SWNTより少なかった。自己凝集した塊状物質の狭いスペース中で、陽性細胞を観察することができた。食細胞的様相がMWNT-II(図21(d))とCSNT(図21(e))で観測されたことはとても興味深いことであった。
【0120】
(植え込み後3ヶ月の後期における肉芽種形成の比較)
この実験処方(植え込み後3ヶ月)の後期での、肉芽種様相の違いと埋め込まれたCNTの配置を図22に示す。肉芽種は、植え込み後3ヶ月の時点で、すべてのサンプルにおいて発現していたが、その肉厚は付着した物質によって異なっていた。特に、 SWNTにおける肉厚は、他のものより大きかった。しかしながら、塊状のCNTへの細胞浸潤の程度は、CSNT、MWNT-II、MWNT-Iの順で増加した。加えて、肉芽種の間にゆるい境界線が存在し、そして埋め込んだ物質は、特にMWNT-Iが見つかった。剖検の結果、すべてのマウスにおいて、脾臓、肝臓、腎臓、肺、心臓および大脳皮質で、何ら炭素物質は、見つからなかった。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】合成例において得られた微細炭素繊維の中間体の透過電子顕微鏡写真である。
【図2】合成例において得られた微細炭素繊維の透過電子顕微鏡写真である。
【図3】合成例において得られた微細炭素繊維のX線回折チャートである。
【図4】合成例において用いた合成装置を模式的に示す図である。
【図5】合成例において用いた高温熱処理装置を模式的に示す図である。
【図6】実施例1において得られた炭素繊維分散体における炭素繊維の分散状態を示す外観写真(a)および顕微鏡写真(b)である。
【図7】実施例2において得られた炭素繊維分散体の分散状態を示す写真である。
【図8】比較例1において得られた炭素繊維分散体の分散状態を示す写真である。
【図9】実施例3において得られた炭素繊維分散体における炭素繊維の分散状態を示す外観写真(a)および顕微鏡写真(b)である。
【図10】実施例4において得られた炭素繊維分散体の分散状態を示す写真である。
【図11】比較例2において得られた炭素繊維分散体の分散状態を示す写真である。
【図12】SWNTの皮下埋め込み術後の抹消T細胞の経時変化を示すグラフである。
【図13】SWNT皮下埋め込み術後、1週間から1ヶ月までの細胞組織の状態を示す写真である。
【図14】MWNT-Iの皮下埋め込み術後の抹消T細胞の経時変化を示すグラフである。
【図15】MWNT-Iの皮下埋め込み術後、1週間から1ヶ月までの細胞組織の状態を示す写真である。
【図16】MWNT-IIの皮下埋め込み術後の抹消T細胞の経時変化を示すグラフである。
【図17】MWNT-IIの皮下埋め込み術後、1週間から1ヶ月までの細胞組織の状態を示す写真である。
【図18】キャップ積層CNTの皮下埋め込み術後の抹消T細胞の経時変化を示すグラフである。
【図19】キャップ積層CNTの皮下埋め込み術後、1週間から1ヶ月までの細胞組織の状態を示す写真である。
【図20】CNT埋め込み1週間後の抗マウスMac-3抗体を用いたマクロファージの組織断面の状態を示す写真である。
【図21】CNT埋め込み1週間後の抗マウスMac-3抗体を用いたマクロファージの組織断面の状態を示す写真である。
【図22】CNT埋め込み3ヶ月後の、肉芽種様相の違いと埋め込まれたCNTの配置示す写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維が、全体の0.001〜30質量%の割合で、ポリオール中に分散させてなることを特徴とする炭素繊維分散体。
【請求項2】
ポリオールが、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選ばれてなる少なくとも1つである請求項1に記載の炭素繊維分散体。
【請求項3】
炭素繊維が、全体の0.001〜30質量%の割合となるように、さらに水性媒体にて希釈されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素繊維分散体。
【請求項4】
生体導入用として用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の前記炭素繊維分散体。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の炭素繊維分散体を、実験動物の組織ないし器官内に導入することで、炭素繊維を定量的に実験動物の体内に留置し、以後の実験動物の状態を経過観察することを特徴とする炭素繊維の安全評価方法。
【請求項6】
外科的手技により実験動物の頸部を切開して気道を確保し、炭素繊維分散体を気道に注入することによって、当該実験動物の肺内に炭素繊維を導入した後、術部を縫合し、その後、当該実験動物の状態を経過観察するものである請求項5に記載の炭素繊維の安全性評価方法。
【請求項7】
外科的手技により実験動物の皮膚を切開し、炭素繊維分散体を皮下に注入することによって、当該実験動物の皮下組織に炭素繊維を埋植した後、術部を縫合し、その後、当該実験動物の状態を経過観察するものである請求項5に記載の炭素繊維の安全性評価方法。
【請求項8】
実験動物がマウスである請求項5〜7のいずれか1つに記載の炭素繊維の安全性評価方法。
【請求項1】
炭素繊維が、全体の0.001〜30質量%の割合で、ポリオール中に分散させてなることを特徴とする炭素繊維分散体。
【請求項2】
ポリオールが、ポリエチレングリコールおよびプロピレングリコールからなる群から選ばれてなる少なくとも1つである請求項1に記載の炭素繊維分散体。
【請求項3】
炭素繊維が、全体の0.001〜30質量%の割合となるように、さらに水性媒体にて希釈されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の炭素繊維分散体。
【請求項4】
生体導入用として用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の前記炭素繊維分散体。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の炭素繊維分散体を、実験動物の組織ないし器官内に導入することで、炭素繊維を定量的に実験動物の体内に留置し、以後の実験動物の状態を経過観察することを特徴とする炭素繊維の安全評価方法。
【請求項6】
外科的手技により実験動物の頸部を切開して気道を確保し、炭素繊維分散体を気道に注入することによって、当該実験動物の肺内に炭素繊維を導入した後、術部を縫合し、その後、当該実験動物の状態を経過観察するものである請求項5に記載の炭素繊維の安全性評価方法。
【請求項7】
外科的手技により実験動物の皮膚を切開し、炭素繊維分散体を皮下に注入することによって、当該実験動物の皮下組織に炭素繊維を埋植した後、術部を縫合し、その後、当該実験動物の状態を経過観察するものである請求項5に記載の炭素繊維の安全性評価方法。
【請求項8】
実験動物がマウスである請求項5〜7のいずれか1つに記載の炭素繊維の安全性評価方法。
【図3】
【図4】
【図5】
【図12】
【図14】
【図16】
【図18】
【図1】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図15】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図4】
【図5】
【図12】
【図14】
【図16】
【図18】
【図1】
【図2】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図15】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2007−161521(P2007−161521A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−359433(P2005−359433)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(502205145)株式会社物産ナノテク研究所 (101)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(502205145)株式会社物産ナノテク研究所 (101)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]