説明

微細無機繊維質樹脂被覆方法

【課題】アスベストを解体または再生利用する場合、アスベスト自体の危険性を低減させ、飛散を抑制し災害を抑止する。
【解決手段】障害性微細繊維質に対し優れた接着性を有し、且つ主に水性または水分散性のポリマーで、架橋後の塗膜表面自由エネルギーが22mJ/m以上、35mJ/m以下、伸び率が300%以上、1000%以下、反応性官能基または極性が1%以上、10%以下の物理的性質を有する組成物をプライマーとし、それを繊維質総重量に対し、3%以上、20%以下で被覆する無害化と飛散防止を特徴とする繊維質障害予防方法、およびその上に主に水性、水分散性または無溶剤のポリマーまたはプレポリマーで、プライマーと同じ条件の伸び率と極性を持つ組成物をトップコートとして、乾燥塗膜20以上−500マイクロメートル以下の厚さで塗布することにより、繊維質障害予防と再生使用方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、極微細無機繊維質、特にアスベスト表面を被覆する方法に関し、特定組成と性質をもつ樹脂による微細無機繊維質の表面を被覆すると同時に該繊維質間を結合させ、樹脂処理繊維質層をコーティングにより密閉・封止する場合、または解体・撤去する場合、該有害性繊維質を無害化すると同時に大気中への飛散を完全に防止し、既設老朽化した該有害繊維質を障害なく安全に再生使用または解体し、半永久的に環境の汚染を防止し、人体への障害を防止するための極微細繊維質表面を処理することを目的とする。
【背景技術】
従来の方法として、特許第2043618号では、アスベストを完全密閉式の空間の中で、水により湿潤させた状態で解体すると同時に集塵装置に吸入して、安全に解体処理する方法を開示している。また、封じ込めの場合もアスベストを有機樹脂または水ガラスなどの無機質バインダーにより凝結させて飛散防止する方法などがあるが、本発明による無害化に要する条件を満たしておらす、本質的無害飛散防止になっていないのが実状である。さらにまた、無害化の方法として、特許出願平5−145792では、アスベスト等産業廃棄物を水溶性または有機溶剤と混合粉砕し、凝固剤または架橋剤により固化させて、飛散しない産業廃棄物に変換する組成物と方法を開示している。最近では、アスベスト繊維にフロン分解物の炭酸カルシウムやフッ化カルシウムを混合し、600℃に加熱熔融して粒状化することにより無害化する方法も提案されている。しかし上記の方法は解体後の無害化方法であり、解体時および解体後の粉塵を雰囲気に漏洩しないことは完全に保証できるものではない。また完全に粉砕または溶解するために極めて大がかりな設備、または労力とコストを要する。また封じ込めによる再使用する方法も、凝固させたポリマーが微細繊維質を完全に被覆し、無害化と飛散防止が保証されるものではない。
【発明の開示】
障害性微細繊維質に対し優れた接着性を有し、且つ主に水性または水分散性のポリマーで、架橋後の塗膜表面自由エネルギーが22mJ/m以上、35mJ/m以下、伸び率が300%以上、1000%以下、反応性官能基または極性が1%以上、10%以下の物理的性質を有する組成物をプライマーとし、それを繊維質総重量に対し、3%以上、20%以下で被覆する無害化と飛散防止を特徴とする繊維質障害予防方法、およびその上に主に水性、水分散性または無溶剤のポリマーまたはプレポリマーで、プライマーと同じ条件の伸び率と極性を持つ組成物をトップコートとして、乾燥塗膜20以上−500マイクロメートル以下の厚さで塗布することにより、繊維質障害予防と再生使用方法。
【発明が解決させようとする課題】
現在のアスベスト災害は、製造者、取扱者、および周辺の住民の既発症者および潜在発症者(1次災害)が対象になっているが、既設老朽化アスベストの処理過程および未処理期間に生じると考えられる2次災害を可及的に抑止することが最も重要な課題となっている。また、無害化処理が法的に義務づけられているが、解体するに要する費用は莫大なもので、封じ込め工法に頼らざるを得ない中零細企業および一般住宅などが、信頼できる長期保証再生処理方法が見あたらないことに、不安が高まっているのが現状である。そのような信頼すべき工法が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
本発明は、アスベストを解体または再生利用する場合、有害な微細アスベスト自体の危険性を低減させ、飛散を可及的に抑制し、再生利用の場合には完全封止密封して、長年月にわたり安全で確実な機能を保持する方法に関する。発明者らは、この目的に適する被覆用樹脂および封じ込め用材料特性ならびにその工法鋭意研究の結果、全く新しい機能と耐久性を持つ材料を開発し、本処理システムの完成に至った。また解体処理に要する費用をより低く抑え、封止の場合には自然災害または建物自体の耐用年数後の解体処理の場合のアスベスト微粉末の飛散を最小限に止め、その障害が人体の及ばないことを保証できる新規工法に関する。本特許で最も注目すべきことは、アスベストの表面をポリマーにより如何に均一に被覆させるかにある。これはポリマーのアスベストへの濡れと接着が決め手となる。材料へのポリマーの濡れは、材料、この場合アスベストの表面自由エネルギーとポリマーの表面自由エネルギーの差により、熱力学的に説明できる。アスベスト繊維は角尖石や蛇紋石等の原料から製造され、無機質であるため、その表面自由エネルギーは一般に300mJ/m以上であり、ポリマーは一般に28mJ/mから46mJ/mである。この条件では理論的にはすべてのポリマーはアスベストを濡らすことができ、その表面を覆うことができるはずである。しかし、実際にはアスベストの表面は酸化したり、空気中の種々の物質により汚染されており、水/エタノール混合液による濡れ実験によりポリマーの表面自由エネルギーが35mJ/m以下でないと完全に覆うことができないことが確認された。溶媒の濡れは見かけの濡れであるので、ポリマー自体の表面自由エネルギーγをこの値以下に制御しなければアスベスト繊維を完全に被覆することはできない。これには、ポリマーを構成するコモノマーのSP値(凝集エネルギー密度CEDの1/2乗)を用い、ヒルデブラント−スコットの式とCED≒(γ/Vm1/30.86の関係から概算できるので、予め目的のポリマー表面自由エネルギーがモノマーから予測設計できる。さらに、該ポリマーに高い伸び率を付与し、繊維間を連結させて飛散を防止する。
【発明の効果】
本発明による工法は、有害な微細粉末の無害化にある。これには2つの効果がある。1つは、繊維質表面を柔軟な有機樹脂により被覆して繊維そのものを破損し難くする。また、アスベストの人体への害はその形態にあり、微粉末は一定のアスペクト比をもつ。とくに繊維断面(破断面)が人体の細胞に損傷を与えることは容易に想像できる。いま微細繊維の表面を柔軟かつ接着性の良好な樹脂により被覆すれば、繊維は破損し難くなるばかりでなく、断面は樹脂により濡れが生じ、端面を覆い人体の細胞への損傷を著しく低下させることは明白である。すなわち、該樹脂で微細繊維質を被覆することは、繊維間を結合したり、破損しにくくしたりして飛散し難くするばかりでなく、繊維そのものを無害化する効果があることがわかった。生体に及ぼす影響は、動物実験医学や臨床医学の研究をまたねばならないが、顕微鏡下の形態変化の観察から以上のことが推定できるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
被覆用ポリマーは、好ましくは22mJ/m以上、35mJ/m以下、さらに好ましくは24mJ/m以上、30mJ/m以下である。プライマーの表面自由エネルギーが22以下になると、繊維表面への濡れはよくなるが、繊維およびトップコートとの接着性が低下する。ポリマーの被覆のさらなる効果は、その伸び率と接着性にある。プライマーの伸び率が300%以下では繊維が外力により折り曲げられ、破損した場合に、飛散する。しかし、それ以上の伸び率では、繊維が折れた場合にもばらばらにならず、飛散しない。この場合、プライマーは伸び率と同時にアスベスト表面との接着力が重要である。また繊維と繊維間を該プライマーが連結させる役割を果たし、一体化しており飛散を防止することができる。伸び率は好ましくは400−800%で、さらに好ましくは500−700%である。伸び率が1000%を越えると、凝集力が低下し、繊維を連結させるに充分ではない。そのため微細繊維は飛散の恐れが生じる。プライマーの被覆と繊維間の連結には、繊維重量に対して3%以上、20%以下で、好ましくは5%以上15%以下、さらに好ましくは7%以上、10%以下である。樹脂比率が3%以下では、アスベストの全表面を被覆できないので、所期の目的を達成できない。また20%以上では繊維と樹脂が塊状となり、その断熱作用に障害をきたす。トップコートの伸び率は、300%以上、1000%以下で、好ましくは350%以上、750%以下で、さらに好ましくは400%以上、700%以下である。伸び率が300%以下では建物が衝撃を受けたときに塗膜に亀裂を生じる危険性がある。これが700%以上では凝集力、剛性に欠け封じ込めの効果が完全にならない。ポリマーの分子量は濡れや伸び率に関係するが、表面自由エネルギーやコモノマー組成との要因が複合しており、一概には規定できない。膜厚は建物の構造や状態、アスベスト層の厚さや老朽化の程度により変えられるが、一般に最低20μmで、それ以下の場合では封じ込め強度が充分でない。また500μm以上ではトップコートの自重自体が重くなり、封じ込めは完全でも落下の危険性が生じる。
実施例 本発明の特徴を説明するため、具体的実施例により説明する。
【実施例1】
スチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2エチルヘキシルの各コモノマーをそれぞれ10,15,30,45重量部に水300重量部、乳化剤および重合開始剤を加え乳化重合法により不揮発分25重量%のアクリル共重合体のエマルジョン液を得た。共重合体の重量平均分子量は158,000であった。このエマルジョンの乾燥塗膜の表面自由エネルギーは28mJ/mで、分散力(γ)は26.8mJ/m,極性成分(γ)は1.2mJ/m、極性(χ)はγ/(γ+γ)=0.043(4.3%)であった。測定方法は水の表面自由エネルギー=72.8mJ/m(γ=21.8mJ/m,γ=51.0mJ/m),パラフィンの表面自由エネルギー(γ)=21.8mJ/mとして、ポリマー塗膜上の水滴およびパラフィンの接触角から連立方程式で解いて求められる。この塗膜の伸び率は700%であった。これを噴霧器によりアスベスト繊維とアスベスト微粉末(白石綿)の混在する材料にポリマー/アスベスト比=6.0%の割合塗布した。乾燥後、透過型立体電子顕微鏡(50.000倍)による観察で、繊維質の表面が該ポリマーにより覆われており、繊維間もポリマーで連結されていることを確認された。また長繊維を折り曲げても結合したままで、分離しないことが観察された。結果を表1にまとめた(以下同様)。
【実施例2】
アクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸の各コモノマーをそれぞれ15,12,30,40,3重量部に水300重量部、乳化剤および重合開始剤を加え、通常の乳化重合法により不揮発分25重量%のアクリル共重合体のエマルジョン液を得た。共重合体の重量平均分子量は160,000であった。このエマルジョンの乾燥塗膜の表面自由エネルギーは26mJ/mで、分散力(γ)は24.5mJ/m,極性成分(γ)は1.5mJ/m、極性(χ)は0.058で、伸び率は400%であった。このプライマーを噴霧器によりアスベスト繊維とアスベスト微粉末(白石綿)の混在する材料にポリマー/アスベスト比=5.0%の割合塗布した。乾燥後、透過型立体電子顕微鏡(50,000倍)による観察で、繊維質の表面が該ポリマーにより覆われており、繊維間もポリマーで連結していることが確認され。また長繊維を折り曲げても結合したままで、分離しないことが観察された。
【実施例3】
スチレン、ブタジエン、アクリロニトリルの各コモノマーをそれぞれ10,80,10重量部に水300重量部、乳化剤および重合開始剤を加え、通常の乳化重合法により不揮発分25重量%のアクリルゴム共重合体のラテックス液を得た。共重合体の重量平均分子量は135,000であった。このラテックスの乾燥塗膜の表面自由エネルギーは26mJ/mで、分散力(γ)は24.5mJ/m,極性成分(γ)は1.5mJ/m、極性(χ)は0.058で、伸び率は700%であった。このプライマーを噴霧器によりアスベスト繊維とアスベスト微粉末(茶石綿)の混在する材料にポリマー/アスベスト比=5.0%の割合塗布した。乾燥後、透過型立体電子顕微鏡(50.000倍)による観察で、繊維質の表面が該ポリマーにより覆われており、繊維間もポリマーで連結していることを確認した。また長繊維を折り曲げても結合したままで、分離しないことが観察された。
【実施例4】
スチレン、メタクリル酸メチル、ブタジエン、イソプレンの各コモノマーをそれぞれ10,10,50,30重量部に水300重量部、乳化剤および重合開始剤を加え、通常の乳化重合法により不揮発分25重量%のアクリルゴム共重合体のラテックス液を得た。共重合体の重量平均分子量は95,000であった。このラテックスの乾燥塗膜の表面自由エネルギーは25.6mJ/mで、分散力(γ)は25.1mJ/m,極性成分(γ)は0.5mJ/m、極性(χ)は0.02で、伸び率は850%であった。このプライマーを噴霧器によりアスベスト繊維とアスベスト(青石綿)微粉末の混在する材料にポリマー/アスベスト比=5.5%の割合塗布した。乾燥後、透過型立体電子顕微鏡(50.000倍)による観察で、繊維質の表面が該ポリマーにより覆われており、繊維間もポリマーで連結していることを確認した。また長繊維を折り曲げても結合したままで、分離しないことが観察された。
【実施例5】
スチレン、イソプレン、メタクリル酸2エチルヘキシル、メタクリル酸グリシジルの各コモノマーをそれぞれ10,40,45,5重量部に水300重量部、乳化剤および重合開始剤を加え、通常の乳化重合法により不揮発分25重量%のアクリルゴム共重合体のラテックス液を得た。共重合体の重量平均分子量は230,000であった。このラテックスの乾燥塗膜の表面自由エネルギーは27.2mJ/mで,分散力(γ)は26.5mJ/m,極性成分(γ)は0.7mJ/m、極性(χ)は0.026で、伸び率は550%であった。これを噴霧器によりアスベスト繊維とアスベスト(青石綿)微粉末の混在する材料にポリマー/アスベスト比=6.5%の割合塗布した。乾燥後、透過型立体電子顕微鏡(50.000倍)による観察で、繊維質の表面が該ポリマーにより覆われており、繊維間もポリマーで連結していることを確認した。また長繊維を折り曲げても結合したままで、分離しないことが観察された。
【実施例6】
スチレン、メタアクリル酸ヒドロキシエチル、アクリル酸ラウリル、ブタジエンの各コモノマーをそれぞれ10,3,60,27重量部に水300重量部、乳化剤および重合開始剤を加え、通常の乳化重合法により不揮発分25重量%のアクリルゴム共重合体のラテックス液を得た。共重合体の重量平均分子量は58,000であった。このラテックスの乾燥塗膜の表面自由エネルギーは24.3mJ/mで、分散力(γ)は23.5mJ/m,極性成分(γ)は0.033mJ/m、極性(χ)は0.033で、伸び率は420%であった。これを噴霧器によりアスベスト繊維とアスベスト(茶石綿)微粉末の混在する材料にポリマー/アスベスト比=6.0%の割合塗布した。乾燥後、透過型立体電子顕微鏡(50.000倍)による観察で、繊維質の表面が該ポリマーにより覆われており、繊維間もポリマーで連結していることを確認した。また長繊維を折り曲げても結合したままで、分離しないことが観察された。
【実施例7】
シリコーンエマルジョン(東レダウコーニング社製:SE−1980)を水で希釈し、不揮発分22.5%に調製した。シロキサンポリマーの重量平均分子量は260,000であった。このエマルジョンの乾燥塗膜の表面自由エネルギーは23.8mJ/mで、分散力(γ)は23.5mJ/m,極性成分(γ)は0.3mJ/m、極性(χ)は0.013で、伸び率は880%であった。これを噴霧器によりアスベスト繊維とアスベスト(青石綿)微粉末の混在する材料にポリマー/アスベスト比=8.0%の割合塗布した。乾燥後、透過型立体電子顕微鏡(50.000倍)による観察で、繊維質の表面が該ポリマーにより覆われており、繊維間もポリマーで連結していることを確認した。また長繊維を折り曲げても結合したままで、分離しないことが観察された。
【実施例8】
スチレン、アクリル酸パーフルオロヘキシル、アクリル酸2エチルヘキシル、メタアクリル酸メチルの各コモノマーをそれぞれ20,25,50,5重量部に水300重量部、乳化剤および重合開始剤を加え、通常の乳化重合法により不揮発分25重量%のフッ素アクリル共重合体のエマルジョン液を得た。ポリマーの重量平均分子量は140,000であった。このエマルジョンの乾燥塗膜の表面自由エネルギーは22.4mJ/mで、分散力(γ)は21.7mJ/m,極性成分(γ)は0.7mJ/m、極性p=0.031で、伸び率は360%であった。これを噴霧器によりアスベスト繊維とアスベスト(茶石綿)微粉末の混在する材料にポリマー/アスベスト比=9.0%の割合で塗布した。乾燥後、透過型立体電子顕微鏡(50.000倍)による観察で、繊維質の表面が該ポリマーにより覆われており、繊維間もポリマーで連結していることを確認した。また長繊維を折り曲げても結合したままで、分離しないことが観察された。
【実施例9;比較例1】
比較例1として スチレン、メタクリル酸メチル、メタアクリル酸ブチル、メタアクリル酸2エチルヘキシルの各コモノマーをそれぞれ30,25,20,25重量部と水300重量部、乳化剤および重合開始剤を加え、通常の乳化重合法によりアクリル共重合体のエマルジョン液を得た。共重合体の重量平均分子量は220,000であった。このエマルジョンの乾燥塗膜の表面自由エネルギーは36mJ/mで、分散力(γ)は32mJ/m,極性成分(γ)は4mJ/m、極性(χ)は0.11で、伸び率は190%あった。これを水/エタノール溶液(50/50重量%)で希釈し、不揮発分25重量%の溶液をえた。これを噴霧器によりアスベスト繊維とアスベスト微粉末(白石綿)の混在する材料にポリマー/アスベスト比=5.5%の割合で塗布した。乾燥後、透過型立体電子顕微鏡(50.000倍)による観察で、繊維質の表面が該ポリマーにより部分的に覆われており、特に先端部は被覆されていないことが観察された。繊維間もポリマーで連結していた。しかし長繊維を折り曲げると、完全に分離していた。
【実施例10;比較例2】
比較例2として、スチレン、ブタジエン、アクリロニトリルの各コモノマーをそれぞれ25,70,20重量部に水300重量部、乳化剤および重合開始剤を加え、通常の乳化重合法により不揮発分25重量%のアクリルゴム共重合体のラテックス液を得た。共重合体の重量平均分子量は136,000であった。このラテックスの乾燥塗膜の表面自由エネルギーは38mJ/mで、分散力(γ)は34.5mJ/m,極性成分(γ)は3.5mJ/m、極性(χ)は0.092で、伸び率は320%であった。これを噴霧器によりアスベスト繊維とアスベスト微粉末(茶石綿)の混在する材料に(ポリマー/アスベスト比=5.5%)塗布した。乾燥後、透過型立体電子顕微鏡(50.000倍)による観察で、繊維質の表面が該ポリマーにより部分的に覆われており、特に先端部は被覆されていないことが観察された。繊維間もポリマーで連結していた。しかし長繊維を折り曲げると、完全に分離していた。
【実施例11:比較例3】
比較例3として、スチレン、メタクリル酸ラウリル、ブタジエンの各コモノマーをそれぞれ、40,50,10重量部に水300重量部、乳化剤および重合開始剤を加え、通常の乳化重合法によりアクリル共重合体のエマルジョン液を得た。共重合体の重量平均分子量は62,000であった。このエマルジョンの乾燥塗膜の表面自由エネルギーは33.4mJ/mで、分散力(γ)は31.3mJ/m,極性成分(γ)は2.1mJ/m、極性(χ)は0.063で、伸び率は260%であった。これを水で希釈し、不揮発分25重量%の溶液をえた。これを噴霧器によりアスベスト繊維とアスベスト微粉末(茶石綿)の混在する材料に塗布した。乾燥後走査型電子顕微鏡による観察で、繊維質の表面が該ポリマーにより部分的に覆われており、特に先端部は被覆されていないことが観察された。繊維間もポリマーで連結していた。しかし長繊維を折り曲げると、完全に分離していた。
【実施例12】
天井コンクリートに40mm厚に吹き付けられたアスベスト層の下面より実施例1の樹脂分35%のアクリルエマルジョンを300g/m(ポリマー/アスベスト比=10%)の割合でエアスプレーにより塗布した。次いで、アスベスト層中に、多穴ノズルを挿入し、実施例1の25%アクリルエマルジョンを200g/m(ポリマー/アスベスト比=5.0%)割合で噴霧した。3時間乾燥後、2時間乾燥後300x300mmの面積を切りだし、微細繊維の状態とプライマー/トップコート間の接着性と密閉性、伸び率の試験を行った。微細繊維は完全に樹脂にて結合され、微粉の飛散は皆無であった。伸び率は、両端を引っ張り測定した結果670%の伸びが観測され、亀裂や破断は見られなかった。
【実施例13】
天井コンクリートに40mm厚に吹き付けられたアスベスト層の下面より実施例1の樹脂分35%のアクリルエマルジョンを300g/m(ポリマー/アスベスト比=9.0%)の割合でエアスプレーにより塗布した。次いで、アスベスト層中に、多穴ノズルを挿入し、実施例1の25%アクリルエマルジョンを200g/m(ポリマー/アスベスト比=5.5%)の割合で噴霧した。3時間乾燥後、トップコートをスプレー塗装した。このトップコート用ポリマーは、スチレン、メタクリル酸メチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2エチルヘキシル、アクリル酸の各コモノマーをそれぞれ20,15,30,30,5重量部に水300重量部を通常の方法で乳化重合法で合成し、これを蒸発濃縮して不揮発分45重量%のアクリル共重合体のエマルジョン液を得た。共重合体の重量平均分子量は256,000で、塗膜の伸び率は380%あった。このエマルジョンの乾燥塗膜の表面自由エネルギーは36.5mJ/mで、極性(χ)は0.08(8%)であった。乾燥塗膜厚は150μmであった。封じ込め施工前後の雰囲気中のアスベスト繊維数をJIS K3850「空気中の繊維乗粒子測定法」(以下JIS法)により試料採取し、繊維の計数はISO14966−1998「環境大気−無機繊維状粒子の濃度分析−走査型電子顕微鏡法」(以下ISO法)で測定した。施工前では7f/lであったのに対し、処理後ではゼロで全く検出されなかった。
【実施例14】
天井コンクリートに45mm厚に吹き付けられたアスベスト層の下面より実施例3の樹脂分35%のアクリルゴムラテックスプライマーを300g/m(ポリマー/アスベスト比=9.0%)の割合でエアスプレーにより塗布した。次いで、アスベスト層中に、多穴ノズルを挿入し、同じ樹脂の25%アクリルゴムラテックスプライマーを200g/m(ポリマー/アスベスト比=4.5%)の割合で噴霧した。3時間乾燥後、実施例10(比較例2)をベースとし、不揮発分45%のトップコートをスプレー塗装した。乾燥塗膜厚は300μmであった。封じ込め施工前後の雰囲気中のアスベスト繊維数をJIS法およびISO法で測定した結果、施工前では9f/lであったのに対し、処理後ではゼロで全く検出されなかった。
【表1】

【産業上の利用可能性】
近年、極微細無機繊維、特にアスベスト障害による多数の犠牲者が全国的にでてきたため、極めて深刻な社会問題になっている。アスベストの微粉末が空気中に飛散すると、人体、特に呼吸器に吸収された場合、中皮腫、や肺ガンの発生原因となり極めて危険である。石綿製造業者およびその取扱い関連業者のみならず、公共施設や工場の既設の石綿から飛散する微粉繊維は、一般住民にとっても生命の脅威となっている。
そのため、大部分のアスベストの新規使用はすでに10年前(1995年)禁止されているが、解体または封じ込めに関しても法規により厳しく規定されるようになった。厚生労働省令第21号の労働安全衛生法に基づき、「石綿障害予防規則」(平成17年2月24日制定)がある。発症するまでの期間が数十年という長期の潜伏期間のため、「静かな時限爆弾」ともいわれ、潜在的罹患者は数十万人ともいわれている。しかしそれは、毒性のある微細繊維をすでに吸入している人間の数を表してしているのであって、これから吸入する人間を含めていないことに注意しなければならない。
既設の老朽化したアスベストおよびスレートなどアスベスト含有製品は早晩処置することが義務づけられているが、その処置方法についてのガイドラインは示されているものの、具体的、抜本的処理方法に欠けていることが大きな問題である。このため、解体または封じ込め再利用等の技術が業者の手に委ねられている情況であるが、その方法が法律に準拠している場合にも、微細繊維質の人体への障害の危険性、その耐用年数、自然災害によって再び飛散される事態の障害がおこる危険性が極めて高い。
本発明は、極微細無機繊維質の表面を有機ポリマーにより被覆し、繊維質を障害なく安全に解体または再生使用するための繊維表面処理およびその密閉方法に関するもので、作業時の繊維質のダストを可及的に飛散することを抑制し、柔軟でかつ接着性に優れたポリマーにより繊維質を包埋し、繊維質間を強固に結合させるとともに、樹脂の剛性により強靱な複合材料に変質させて、有害なアスベストを弊害なく解体、もしくは再生利用できる工法に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面を被覆し、繊維間を結合させるプライマー(A)用ポリマーは、塗膜の表面自由エネルギーγが22mJ/m以上、35mJ/m以下(22<γ≦35mJ/m)であることを特徴とする、微細繊維被覆用ポリマー
【請求項2】
繊維表面を被覆し、繊維間を結合させるプライマー(A)用ポリマーおよび封じ込め用トップコート用ポリマーの伸び率Lが300%以上、1000%以下(300<L≦1000)の範囲に入る弾性率をもつことを特徴とする請求項1のポリマー。
【請求項3】
該プライマー(A)およびトップコート(B)の化学成分は、ジメチルシロキサン、アクリロニトリル、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、ウレタン、アクリルウレタン、フッ素化ウレタン、フッ素化シリコーン、フッ素化アクリル、メラミン、尿素、フェノール、エポキシなどの単量体重合物それらの共重合物、またはグラフト重合物で、水溶液、エマルジョンまたはラテックスからなることを特徴とする、請求項1および2のプライマーおよびトップコート。
【請求項4】
該プライマーおよびトップコートのポリマー分子中、1%以上、10%以下(1<χ≦10%)の基材(アスベスト)への接着用または自己架橋用、およびプライマー/トップコート間の接着のための反応性官能基または極性(χ)をもつことを特徴とする請求項1および2の繊維表面被覆用プライマー、およびトップコート用ポリマー。
【請求項5】
該プライマーおよびトップコートは、アミノ基、アミド基、ニトリル基、グリシジル基、アルコキシ基、メチロール基、アセトキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、イソシアネート基の中から選ばれる一種以上の反応性官能基または極性基をもち、基材との結合と自己架橋と同一または異なった反応により優れた接着性と自己凝集力をもち、または、トップコートとの反応に関与する官能基を備える請求項1、2、3および4のプライマー用ポリマー。
【請求項6】
アスベスト繊維の被覆と繊維間の連結に要するプライマーの塗布率(p)は、アスベスト重量に対して3%以上、20%以下(3<p≦20%)であることを特徴とする請求項1、2、3、4および5のプライマー塗布率。
【請求項7】
アスベスト繊維層の封じ込めに要するトップコートの塗膜厚(d)は、20μm以上、500μm以下(20<d≦500μm)であることを特徴とする請求項2、3、4および5のトップコート塗布膜厚。
【請求項8】
プライマー希釈剤としての溶媒は、水100−50%、有機溶剤0−50%からなり、該溶媒とビヒクルとの比(溶媒:ビヒクル)は20:80−95:5であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5および6のプライマー用希釈剤。
【請求項9】
トップコート希釈剤としての溶媒は、水100−50%、有機溶剤0−50%からなり、該溶媒とビヒクルとの比(溶媒:ビヒクル)は0:100−50:50であることを特徴とする請求項2、3、4、5および7のトップコート用希釈剤。

【公開番号】特開2007−70780(P2007−70780A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−292943(P2005−292943)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(505373638)
【出願人】(503084543)睦商事株式会社 (2)
【Fターム(参考)】