説明

微細発泡体の製造方法

【課題】微細な平均発泡径と均一な平均発泡密度を有する微細発泡体が得られる簡便な方法を提供する。
【解決手段】ポリマーと金属化合物を圧力容器に入れる工程、前記容器中に高圧ガスを導入して該ガスを金属化合物と共にポリマーに含浸させる工程、次いで前記高圧ガスおよび金属化合物を含浸したポリマーを減圧して該ポリマーを発泡させて微発泡構造を形成する工程を備える微細発泡体の製造方法。前記高圧ガスが炭酸ガスであり、圧力が7MPaから50MPaである製造法が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーを発泡させて微細発泡体を製造する方法に関し、超臨界流体とポリマーと金属化合物が相分離していない均一相を形成させ、減圧して発泡させる工程において、ポリマーと金属化合物の比率を変えることによって、発泡径が制御された微細発泡体が得られるようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマーの発泡体は、樹脂使用量の低減、重量の軽量化、断熱特性向上などを目的として、各種構造材料などに使用されている。このような発泡体は、軽量化と機能性を高めるために、発泡倍率を高めるとともに比重の小さい発泡体とすることが望まれるが、逆に発泡体の物理的強度が低下してしまう問題があった。この強度低下を抑制するためには、発泡体の微細化が望まれていた。
【0003】
そこで、これらの問題を解決すべく、超臨界流体をポリマーに含浸させて発泡することにより、従来よりも、気泡径が小さい発泡体を製造する方法が提案されている。例えば、
特許文献1〜2にその詳細が記載されている。この方法は、耐圧容器内に、二酸化炭素などの不活性ガスを高圧又は超臨界状態で含浸させ、次にそのポリマーを耐圧容器から取り出し、オイルバス等でポリマーのガラス転移温度Tg以上の温度まで昇温し、気泡核生成を促し気泡を成長させることにより微細な発泡体を得るものである。
【0004】
基本的には前記の方法を基に、様々な改良された製造方法が提案され、微細な発泡体を得る方法として、次のように工程が一般化しつつある。例えば、特許文献3に、その詳細が記載されている。この方法は、ポリマーに超臨界流体を高圧、加熱条件下で含浸させるが、加熱温度条件として、ポリマーのTgと含浸させたポリマーのTgの間の温度とし、圧力開放時の温度は加圧時の温度と同温度とすることにより、微細な発泡体を得るものである。
【0005】
また、特許文献4に記載されている方法として、1.ポリマーに超臨界流体を、溶融温度近傍の比較的高い温度で含浸させ、2.温度を低下させ(ガラス転移温度以上の温度に低下)減圧させることにより微細な発泡体を得るものである。
【0006】
しかしながら、これらの方法によれば、強度低下の抑制された微細な発泡体は得られるものの、その発泡構造の制御において、含浸時には加熱し温度を上げ、圧力開放時には温度を低下させなければならず、工業的な効率性を考えると手間がかかり、必ずしも満足な製造方法とはいえなかった。
【特許文献1】米国特許第4,473,665号明細書
【特許文献2】米国特許第5,158,986号明細書
【特許文献3】特開2003−176375号公報
【特許文献4】特開2005−193694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
よって、本発明の目的は、強度低下は抑制しつつ微細な構造を有する発泡体を、より簡便な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく研究を重ねてきた。その結果、超臨界流体とポリマーと金属化合物の均一相を形成させた後、該均一相を減圧して、ポリマーを発泡させる工程において、ポリマーと金属化合物との比率を変えることにより、発泡ポリマーの微細構造を制御させる製造方法を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、ポリマーと金属化合物を圧力容器に入れる工程、前記容器中に高圧ガスを導入して該ガスを金属化合物と共にポリマーに含浸させる工程、次いで前記高圧ガスおよび金属化合物を含浸したポリマーを減圧して該ポリマーを発泡させて微発泡構造を形成する工程を備える微細発泡体の製造方法に関するものである。
【0010】
また、本発明は、ポリマーと金属化合物の混合比率を調整して圧力容器に入れる工程、前記容器中に高圧ガスを導入して該ガスを金属化合物と共にポリマーに含浸させる工程、次いで前記高圧ガスおよび金属化合物を含浸したポリマーを減圧して該ポリマーを発泡させて微発泡構造を形成する工程を備える微細発泡体の製造方法に関するものである。
【0011】
また、本発明は、ポリマーと金属化合物を圧力容器に入れる工程、前記容器中に高圧ガスを導入してポリマーと金属化合物が相分離していない均一相を形成させる工程、次いで前記高圧ガスおよび金属化合物を含浸したポリマーを減圧して該ポリマーを発泡させて微発泡構造を形成する工程を備える微細発泡体の製造方法に関するものである。
【0012】
また、本発明は、前記微細発泡体の発泡平均径および/または発泡密度を制御する工程をさらに設けたことを特徴とする微細発泡体の製造方法に関するものである。
【0013】
また、本発明は、前記高圧ガスがCOである。高圧とは、好ましくは圧力が7MPaから50MPaである。
【0014】
また、本発明は、好ましくは前記ポリマーと金属化合物との混合比率が、質量比において、ポリマーが1に対して、金属化合物が0.01〜10.0であることを特徴とする微細発泡体の製造方法に関するものである。
【0015】
また、本発明は、ポリマーとして、ポリマーが、ポリ乳酸系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル、セロハン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリアセタール、ポリスルホン、ABS樹脂、およびポリエーテルエーテルケトンからなる群れより選ばれる1種もしくは2種以上の樹脂、又は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、二トリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、およびウレタンゴムからなる群れより選ばれる1種又は2種以上のエラストマーを用いる製造方法に関するものである。
【0016】
また、本発明において「金属」とは金属と非金属の中間的性質を有する、ケイ素を含有する意味で用いられる。本発明に用いられる金属化合物における金属は、ケイ素、チタン、カルシウム、亜鉛、スズ及びインジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、該金属化合物がアルコキシド、β−ジケトナート、酢酸塩から選ばれる少なくとも1種またはそれらのオリゴマーである製造方法に関するものである。
【0017】
また、本発明は、前記発泡ポリマーの平均発泡径が100μm〜0.01μmであり、均一な平均発泡密度が1×10個/cm以上を有する微細発泡体に関するものである。
【0018】
また、本発明は、ポリマーからなるマトリックスに金属化合物もしくは該金属化合物の反応生成物が分散しており、発泡ポリマーの平均発泡径が100μm〜0.01μmであり、および/または均一な平均発泡密度が1×10個/cm以上である微細発泡体に関するものである。
【0019】
また、本発明は、金属化合物がシリコンアルコキシドであり、前記反応生成物が実質的にシリカである微細発泡体に関するものである。
【0020】
また、本発明は、ポリマーからなるマトリックスに金属化合物もしくは該金属化合物の反応生成物が分散しており、発泡ポリマーの平均発泡径が100μm〜0.01μmであり、および/または均一な平均発泡密度が1×10個/cm以上である微細発泡体からなる断熱材に関するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施の形態を以下のとおり説明する。
【0022】
本発明の微細発泡体の製造に使用されるポリマーは、超臨界流体および金属化合物と親和性を有するものがよく、たとえば、次のもの及びこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。なお、(共)重合体の構造はランダム、ブロック等、立体規則性はアイソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックのいずれでもよい。
【0023】
オレフィン系樹脂:エチレン又はプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン、又はシクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン等のシクロオレフィンの単独重合体、上記α−オレフィン同士の共重合体、及びα−オレフィンと共重合可能な他の単量体、酢酸ビニル、マレイン酸、無水マレイン酸、ビニルアルコール、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等との共重合体等があげられる。
【0024】
ポリエステル系樹脂:テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等のジカルボン酸単量体とエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ビスフェノール化合物又はその誘導体のアルキレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等のジオール又は多価アルコール単量体との共重合体、乳酸、p−ヒドロキシ安息香酸や、2,6−ヒドロキシナフトエ酸、等のヒドロキシカルボン酸等の(共)重合体等があげられる。
【0025】
ポリアミド系樹脂:3員環以上のラクタム、重合可能なω−アミノ酸、二塩基酸とジアミンなどの重縮合によって得られる鎖中に酸アミド結合を有する重合体で、具体的には、ε−カプロラクタム、アミノカプロン酸、エナントラクタム、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、9−アミノノナン酸、α−ピロリドン、α−ピペリドンなどの重合体、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミンなどのジアミンと、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二塩基酸、グルタール酸などのジカルボン酸と重縮合せしめて得られる重合体またはこれらの共重合体であり、たとえば、ナイロン−4、ナイロン−6、ナイロン−7、ナイロン−8、ナイロン−11、ナイロン−12、ナイロン−6、6、ナイロン−6、10、ナイロン−6、11、ナイロン−6、12、ナイロン−6T、ナイロン−6/ナイロン−6、6共重合体、ナイロン−6/ナイロン−12共重合体、ナイロン−6/ナイロン−6T共重合体、ナイロン−6I/ナイロン−6T共重合体等があげられる。
【0026】
上記以外に、ポリ乳酸系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル、セロハン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリアセタール、ポリスルホン、ABS樹脂、ポリエーテルエーテルケトン等の樹脂、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、二トリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどのゴム、エラストマー等もあげられる。なお、上記ポリマーのうち、アクリル系樹脂、ポリ乳酸系樹脂が、超臨界二酸化炭素との混和性がよく、好適に用いられる。
【0027】
また、ポリマーについては、通常使用される添加剤、たとえば可塑剤、安定剤、耐衝撃性向上剤、難燃剤、結晶核剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、顔料、染料、充填剤、酸化防止剤、加工助剤、紫外線吸収剤、防曇剤、防菌剤、防黴剤等を単独又は二種以上添加してもよい。
【0028】
また、ポリマーの添加剤として、発泡核剤として作用する無機微粉末を使用することが可能で、無機微粉末としては、タルク、炭酸カルシウム、クレー、酸化マグネシウム、ガラスパウダー、酸化チタン、無水シリカ等があがられ、それぞれ単独又は二種以上で用いられる。
【0029】
金属化合物は、超臨界二酸化炭素に溶解するもので、かつ加水分解,熱分解,あるいは光,マイクロ波等により分解して金属酸化物を作るものであればよく、たとえば、金属としてケイ素、チタン、カルシウム、亜鉛、スズ及びインジウムが、金属化合物としてアルコキシド、β−ジケトナート、酢酸塩があげられ、それぞれ単独又は二種以上、またはそれらのオリゴマーで用いられる。超臨界流体との混和性を考慮すると、シリコンアルコキシドがよく、さらにはテトラメトキシシランが好適に用いられる。金属化合物がシリコンアルコキシドであり、反応生成物が実質的にシリカであることがさらに好ましい。
【0030】
超臨界流体(高圧ガス)としては、二酸化炭素、フロン、窒素等あげられるが、二酸化炭素が好適に用いられる。超臨界流体が二酸化炭素(CO)である場合、圧力は7〜50MPaが好ましく、臨界圧力は7.3MPaであり、金属化合物およびポリマーと均一相を形成する条件は一般にこれより高いことから9〜25MPaの圧力で行うことがさらに好ましい。また、均一相を形成する条件でもなくとも、ポリマーに、二酸化炭素および金属化合物が導入されればよく、ポリマーを金属化合物に漬け浸透させた状態にて、二酸化炭素臨界点付近の亜臨界二酸化炭素雰囲気を用いることも本発明において可能である。
【0031】
本発明の一例を説明する、まず温度調節可能な耐圧容器にポリマー成形体と金属化合物を所定の比率で入れ、超臨界流体を導入し、ポリマーと超臨界流体と金属化合物が均一相を形成する高圧の条件とする。耐圧容器内に導入される超臨界流体として、例えば、超臨界二酸化炭素の場合、臨界圧力は7.3MPaであり、金属化合物およびポリマーと均一相を形成する条件は一般にこれより高いことから9〜25MPaの圧力で行うことが好ましい。また、超臨界二酸化炭素の臨界温度は31℃であるので、35℃以上、使用するポリマーの溶融温度程度の温度以下において行うのが好ましく、該ポリマーのガラス転移温度が該臨界温度を越える場合は、該ガラス転移温度にて行うのが好ましい。また、浸透させる時間は、ポリマー成形体の場合、1〜48時間、溶融混練する場合は、5〜60分が好ましい。
【0032】
次いで、耐圧容器内を減圧することで、上記ポリマー成形体と金属化合物の比率に応じて、平均発泡径が異なる微細発泡体を得られる。上記耐圧容器に入れるポリマー成形体と金属化合物の比率は質量(重量)比において、ポリマーが1に対して、金属化合物が0.01〜10.0であることが好ましく、例えば、質量比にして、ポリマー成形体が1に対して、金属化合が1であるとき、減圧後得られた微細発泡体の平均発泡径は15μmであり、均一な平均発泡密度が2.8×10個/cmの微細発泡体が得られる。それよりもさらに小さい平均発泡径を有する微細発泡体を得たい場合には、質量比にして、ポリマー成形体が1に対して、金属化合物は4にておくことで、平均発泡径は7.5μmであり5.4×10個/cmの微細発泡体が得られる。ポリマーと金属化合物との比率により、微細構造の制御が可能となる。
【0033】
耐圧容器内を減圧する際、減圧の速度および温度を制御することで、さらに、上記微細発泡体の発泡平均径と発泡密度の制御が可能である。
たとえば急激な速度で減圧すれば、ポリマー外に超臨界二酸化炭素および金属化合物が拡散する時間がないまま溶解度が急激に低下するため、核発生速度が大きくなって発泡密度が大きくなり、溶解した二酸化炭素を多数の気泡が奪い合うため平均気泡径が小さくなる傾向がある。一方小さな速度で減圧すれば発泡密度は抑制され、平均気泡径は大きくなる傾向がある。両者を適宜組み合わせて、例えば一旦常圧以上の圧力に急減圧し、一定時間保持し、その後緩慢に減圧することで、気泡のサイズを適宜抑制し、発泡密度の制御が可能である。さらに急冷却など温度の制御を組み合わせて、ポリマーのガラス転移/結晶化、超臨界二酸化炭素および金属化合物の拡散および溶解度を変化させ、発泡セルの大きさと発泡密度を制御することも可能である。減圧速度は一般には100〜0.1MPa/min、温度制御は−196℃(液体窒素)〜200℃の範囲が用いられる。
【0034】
なお本発明により、超臨界流体とポリマーと金属化合物が相分離していない均一相を形成後、減圧して発泡させる工程において、ポリマーと金属化合物の比率を変えることによって、発泡径が制御された微細発泡体が得られるのは、以下の理由によるものと推定される。
【0035】
超臨界流体とポリマーと金属化合物の相分離していない均一相において、金属化合物が、超臨界流体のポリマーへの溶解に対し、貧溶媒効果と同じ作用で働くことにより、ポリマー中の超臨界流体濃度が抑制され,これを減圧発泡することで、ポリマーと金属化合物の比率に応じ、発泡径が制御された微細発泡体が得られるものと推定される。また、超臨界流体とポリマーと金属化合物が相分離していない均一相を形成する際において、金属化合物が、ポリマーの吸着水により、部分的に加水分解をし、これが発泡核と同じ作用が働くことにより、結果として減圧発泡することで、ポリマーと金属化合物の比率に応じ、発泡径が制御された微細発泡体が得られるものと推定される。
または、これらの組み合わせによる作用が働くことにより、ポリマーと金属化合物の比率に応じ、発泡径が制御された微細発泡体が得られるものと推定される。
【0036】
耐圧容器内を減圧する際、金属化合物は、ポリマー中に分散したままであり、減圧後もしくは減圧の過程において、加水分解、熱分解、光照射分解、マイクロ波照射分解などの手法でポリマーマトリックス中または発泡内で、金属化合物の反応生成物が分散された状態になる。加水分解の場合、ポリマーに吸着されている水を利用する方法、ポリマー構造の縮重合により生成する水を利用する方法、高圧ポンプでの圧入する方法、あらかじめ混合した含水化合物の熱分解などにより水分を供給するなどが挙げられる。減圧、相分離の過程において、金属化合物の分解は完全に進行する必要はなく、超臨界二酸化炭素もしくはポリマーへの溶解度が低下し、構造が固定化でされる場合もある。必要に応じ複数の手法を組み合わせることも可能である。
【0037】
このようにして得られた微細発泡体は、発泡径が小さいく、発泡密度も高く、さらには発泡内に金属化合物の反応生成物が分散していることから、断熱材としての使用が可能である。微細発泡体は、発泡ポリマーの平均発泡径が100μm〜0.01μmであり、均一な平均発泡密度が1×10個/cm以上を有することが好ましく、ポリマーからなるマトリックスに金属化合物もしくは該金属化合物の反応生成物が分散していることがさらに好ましい。発泡径が小さく、また、発泡による空間内に金属化合物の反応生生物が分散していることで、発泡内における気体による対流が抑制され、熱伝導を低下させる。加えて、発泡壁にも金属化合物の反応生成物が存在するため、通常の発泡ポリマーに比べて発泡壁のガスバリア性も向上する。さらに、発泡密度も高いことから、発泡壁を通して熱が伝わるいわゆる固体熱伝導を低下させることができる。これらのことから、本発明で得られた微細発泡体は,高性能な断熱材として利用が可能である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0039】
以下の実施例では、次のとおり平均発泡径(セル径)及び平均発泡密度測定した。
平均発泡径は走査型電子顕微鏡(日立製 S−800)にてフィルム試料をランダムに10カ所サンプリングして観察し、実測した数値の平均を求めた。
【0040】
平均発泡密度測定は走査型電子顕微鏡(日立製 S−800)にてフィルム試料をランダムに10カ所サンプリングして観察し、500μm四方の中にある発泡数(セル数)から1cmあたりの発泡数を算出し、それを2分の3乗した値を発泡密度(セル密度)とし、平均を求めた。
【0041】
[実施例1]
あらかじめメチルシリケート51(コルコート(株)製)を入れた耐圧容器(容量50cc)に、厚さ0.3mmのアクリル樹脂(1g、三菱レイヨン(株)製、HN001)をメチルシリケート51(1g)に浸からないように入れ、アクリル樹脂とメチルシリケート51の比率が重量比で、1対1とし、テトラメトキシシランが溶存した超臨界二酸化炭素流体をアクリル樹脂に含浸させ、80℃、20MPaの条件下に24時間保持した。その後、急減圧(1.0MPa/sec)にて減圧し、微細発泡体を得た。微細発泡体の評価結果を表1に示す。微細な平均発泡径と均一な平均発泡密度を有する発泡体であった。反応容器を図1にて示す。図1中、1は耐圧容器、2はポリマー、3は金属化合物(アルコキシシランなど)、4はポリマー2が金属化合物3に接しないように保持する保持用台(金網)、5は高圧バルブを示す。
【0042】
[実施例2]
実施例1において、あらかじめメチルシリケート51(コルコート(株)製)を入れた耐圧容器(容量50cc)に、厚さ0.3mmのアクリル樹脂(1g、三菱レイヨン(株)製、HN001)をメチルシリケート51(2g)に浸からないように入れ、アクリル樹脂とメチルシリケート51の比率が重量比で、1対2とした以外は、実施例1と同様にして微細発泡体を得た。微細発泡体の評価結果を表1に示す。微細な平均発泡径と均一な平均発泡密度を有する発泡体であった。
【0043】
[実施例3]
実施例1において、あらかじめメチルシリケート51(コルコート(株)製)を入れた耐圧容器(容量50cc)に、厚さ0.3mmのアクリル樹脂(1g、三菱レイヨン(株)製、HN001)をメチルシリケート51(4g)に浸からないように入れ、アクリル樹脂とメチルシリケート51の比率が重量比で、1対4とした以外は、実施例1と同様にして微細発泡体を得た。微細発泡体の評価結果を表1に示す。微細な平均発泡径と均一な平均発泡密度を有する発泡体であり、発泡内にメチルシリケート51の反応生成物であるシリカ粒子が確認された。得られた微細発泡体のSEM写真を図2にて示す。図2の白バーは1μmを示す。
【0044】
[比較例1]
実施例1においてメチルシリケート51(コルコート(株)製)を供給せず、二酸化炭素の供給のみとした以外は、実施例1と同様にして微細発泡体を得た。微細発泡体の評価結果を表1に示す。微細な平均発泡径とならず、平均発泡密度も不均一でかなり低い発泡体であった。
【0045】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の無機物・ポリマーコンポジット成形体は、建築用および各種用途の断熱材,シュリンクフィルム等の包装用フィルム、電池用セパレータ等に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明において使用する反応容器の模式図である。
【図2】実施例3で得られた微細発泡体の断面のSEM写真である。
【符号の説明】
【0048】
1 耐圧容器
2 ポリマー
3 金属化合物
4 保持用台(金網)
5 高圧バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと金属化合物を圧力容器に入れる工程、前記容器中に高圧ガスを導入して該ガスを金属化合物と共にポリマーに含浸させる工程、次いで前記高圧ガスおよび金属化合物を含浸したポリマーを減圧して該ポリマーを発泡させて微発泡構造を形成する工程を備える微細発泡体の製造方法。
【請求項2】
ポリマーと金属化合物の混合比率を調整して圧力容器に入れる工程、前記容器中に高圧ガスを導入して該ガスを金属化合物と共にポリマーに含浸させる工程、次いで前記高圧ガスおよび金属化合物を含浸したポリマーを減圧して該ポリマーを発泡させて微発泡構造を形成する工程を備える微細発泡体の製造方法。
【請求項3】
ポリマーと金属化合物を圧力容器に入れる工程、前記容器中に高圧ガスを導入してポリマーと金属化合物が相分離していない均一相を形成させる工程、次いで前記高圧ガスおよび金属化合物を含浸したポリマーを減圧して該ポリマーを発泡させて微発泡構造を形成する工程を備える微細発泡体の製造方法。
【請求項4】
ポリマーと金属化合物の混合比率を調整して圧力容器に入れる工程、前記容器中に高圧ガスを導入してポリマーと金属化合物が相分離していない均一相を形成させる工程、次いで前記高圧ガスおよび金属化合物を含浸したポリマーを減圧して該ポリマーを発泡させて微発泡構造を形成する工程を備える微細発泡体の製造方法。
【請求項5】
前記微細発泡体の発泡平均径および/または発泡密度を制御する工程をさらに設けたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の微細発泡体の製造方法。
【請求項6】
前記高圧ガスがCOであり、圧力が7MPaから50MPaである請求項1〜4のいずれか1項に記載の微細発泡体の製造方法。
【請求項7】
前記ポリマーと金属化合物との混合比率が、質量比において、ポリマーが1に対して、金属化合物が0.01〜10.0であることを特徴とする請求項2または4に記載の微細発泡体の製造方法。
【請求項8】
前記ポリマーが、ポリ乳酸系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル、セロハン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリアセタール、ポリスルホン、ABS樹脂、およびポリエーテルエーテルケトンからなる群れより選ばれる1種もしくは2種以上の樹脂、又は、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、二トリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、およびウレタンゴムからなる群れより選ばれる1種もしくは2種以上のエラストマーである請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
前記金属化合物における金属が、ケイ素、チタン、カルシウム、亜鉛、スズ及びインジウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であり、該金属化合物がアルコキシド、β−ジケトナート、および酢酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種またはそれらのオリゴマーである請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法により製造される、前記発泡ポリマーの平均発泡径が100μm〜0.01μmであり、均一な平均発泡密度が1×10個/cm以上を有する微細発泡体。
【請求項11】
ポリマーからなるマトリックスに金属化合物もしくは該金属化合物の反応生成物が分散しており、発泡ポリマーの平均発泡径が100μm〜0.01μmであり、および/または均一な平均発泡密度が1×10個/cm以上である微細発泡体。
【請求項12】
前記金属化合物がシリコンアルコキシドであり、前記反応生成物が実質的にシリカである請求項11に記載の微細発泡体。
【請求項13】
ポリマーからなるマトリックスに金属化合物もしくは該金属化合物の反応生成物が分散しており、発泡ポリマーの平均発泡径が100μm〜0.01μmであり、および/または均一な平均発泡密度が1×10個/cm以上である微細発泡体からなる断熱材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−138160(P2009−138160A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318796(P2007−318796)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】