説明

微細粒子のスクリーニング装置および微細粒子のスクリーニング方法

【課題】精度良く位置決めすることで、位置決め作業性を向上して焦点外れや認識位置のズレを防止して、多くの数の微細粒子から標的とする微細粒子を効率良く探索して選択的に効率よく回収することができる微細粒子のスクリーニング装置を提供する。
【解決手段】計測用チップ90は、固定具120のフラットな剛体平面に対して突き当てて位置決めするための突起720,721と、計測用チップ90に形成されて計測用チップ90を固定具120に対してセットする際の向きを明示する表示部750とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細粒子のスクリーニング装置に関し、特に微細粒子(例えば細胞など)に対して光を当てて微細粒子から発する蛍光を標識として標的とする微細粒子を探索して、その探索した微細粒子を選択的に吸引して回収するための微細粒子のスクリーニング装置および微細粒子のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
標的対象物である細胞を探索して回収する探索回収装置としては、次のようなものがある。試料台の上には、細胞を載せた試料板を載せるようになっており、照明と対物レンズがこの試料板を挟んで対向する位置に配置されている。細胞を吸引するためのノズルは、細胞に対して斜め下方向に向けて配置されていて、吸引できるようになっている。試料台はXYステージにより移動可能である。探索回収装置では、試料台には1つの試料板を載せて照明を当てることで細胞の蛍光を観察して、ノズルを用いて蛍光を発する細胞を回収する(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−207986号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、試料を載せる部材は照明と対物レンズを含む光学系に対して精度良く位置決めすることで、位置決め作業性を向上して焦点外れや認識位置のズレを防止することが望まれている。
例えばカメラ等で計測を行う場合、高スループットのためには1度に計測できるエリアを広くする必要がある。この領域を視野内に正確に位置決めするとともに、全面で観察焦点を合わせた状態で計測するためには、部材自体の精度と、セットする際の位置決め精度の両立が必要である。
【0004】
そこで、本発明は上記課題を解消するために、精度良く位置決めすることで、位置決め作業性を向上して焦点外れや認識位置のズレを防止して、多くの数の微細粒子から標的とする微細粒子を効率良く探索して選択的に効率よく回収することができる微細粒子のスクリーニング装置および微細粒子のスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解消するために、本発明の微細粒子のスクリーニング装置は、微細粒子から発する光情報を標識として微細粒子の探索を行い、探索された微細粒子を選択的に取得するための微細粒子のスクリーニング装置であって、
光を透過する材料で形成され、前記微細粒子の少なくとも1個が収容され得る大きさを持つウェルが複数設けられた計測用チップと、
前記計測用チップを固定するための固定具と、
前記計測用チップおよび前記計測用チップの収容された前記微細粒子に光を照射することによって、前記微細粒子の光信号を取得する計測部と、を備え、
前記計測用チップは、
前記固定具の突き当て部に当接させることで前記計測用チップの上下面に平行な方向に位置決めするために、前記計測用チップの側面に設けられた突起と、
前記計測用チップに形成されて前記計測用チップを前記固定具に対してセットする際の向きを明示する表示部と、を有することを特徴とする。
【0006】
本発明の微細粒子のスクリーニング装置は、好ましくは前記突起が、前記計測用チップの側面から突出して形成されていることを特徴とする。
本発明の微細粒子のスクリーニング装置は、好ましくは前記計測用チップが、前記ウェルの形成されているエリアが10mm四方以上の広さであり、前記ウェルの周囲の一部もしくは全部の領域が前記固定具で固定され、前記ウェルの形成されていない下面側より適切な大きさの力を加えることで、前記ウェルの形成されているエリアの任意の2mm四方の平面度を10μm以下とすることを特徴とする。
【0007】
本発明の微細粒子のスクリーニング装置は、好ましくは前記計測用チップの前記ウェルが形成されている計測エリアに含まれる任意の2mm四方の領域内の厚みの変動Δtが、10/(1−1/n)[μm]以下(nは計測用チップの材率の屈折率)であることを特徴とする。
本発明の微細粒子のスクリーニング装置は、好ましくは前記計測用チップの前記ウェルが形成されている計測エリアに含まれる任意の2mm四方の領域内の前記上面と前記下面の成す傾斜角度φの変動が、(5×10―6)/{t(1−1/n)}[rad]以下である(tは前記計測用チップの平均厚み[mm],nは前記計測用チップの材質の屈折率)ことを特徴とする。
【0008】
本発明の微細粒子のスクリーニング方法は、微細粒子から発する光情報を標識として微細粒子の探索を行い、探索された微細粒子を選択的に取得するための微細粒子のスクリーニング方法であって、計測用チップは、光を透過する材料で形成され、前記微細粒子の少なくとも1個が格納され得る大きさを持つウェルが複数設けられており、前記計測用チップは固定具に対して固定され、計測部が、前記計測用チップおよび前記計測用チップの収容された前記微細粒子に光を照射することによって、前記微細粒子の光信号を取得する場合に、前記計測用チップの突起を、前記固定具の突き当て部に当接させることで位置決めする際に、前記固定具に対してセットする向きを明示する表示部に基づいて前記固定具に対してセットすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、精度良く位置決めすることで、位置決め作業性を向上して焦点外れや認識位置のズレを防止して、多くの数の微細粒子から標的とする微細粒子を効率良く探索して選択的に効率よく回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の微細粒子のスクリーニング装置の好ましい実施形態を示す正面図である。図2は、図1の微細粒子のスクリーニング装置の好ましい実施形態を示す斜視図である。
【0011】
図1と図2に示す微細粒子のスクリーニング装置1は、計測用チップ90内の複数の微細粒子(例えば生体の細胞など)に対して光を当てることで微細粒子から発する蛍光を標識として、標的とする微細粒子を探索して、回収条件を満たした微細粒子の入っているウェルにある全ての微細粒子を標的対象物として選択的に吸引して、回収プレート80に回収するための装置である。
【0012】
図1に示す微細粒子のスクリーニング装置1は、ベース11と、支持部12と、回収部13と、計測部14と、画像解析部15と、移動部16と、を備え、図2に示すように、各部がカバー19により覆われている。カバー19は、外部からの光や異物の進入を防いでいる。なお、ベース11は、スクリーニング装置1の各要素を保持するための本体フレームである。
【0013】
図1に示すように、図1の紙面垂直方向がX方向(第1方向)であり、左右方向がY方向(第2方向)である。Z方向は、X方向とY方向に対して垂直な方向である。
【0014】
ベース11は、回収部13と、計測部14と、移動部16を保持しており、ベース11はプレート部材20,21,22を有している。これらのプレート部材20,21は、複数の垂直部材23により平行に固定されており、プレート部材20,22は、複数の部材24により平行に固定されている。この部材24は、高さの調整をするとともに、振動を遮断する材質により構成されている。
【0015】
最も上に位置するプレート部材21の上には、支持部12と支持台30が固定されている。支持部12は、プレート部材21の上においてZ方向に沿って垂直に立てて配置されている。支持台30は、脚部30Rと支持板30Pを有している。プレート部材20,21,22と支持板30Pは、Z方向に沿って相互に間隔をおいて配置されている。
【0016】
次に、図1と図3を参照して、移動部16の構造例について説明する。
図3は、移動部16とその移動部16の上に搭載されている搭載用テーブル4と回収プレート80と計測用チップ90を示している。
【0017】
図3と図1に示すこの移動部16は、図1に示すベース11の支持台30に固定されている。移動部16は、移動対象物である搭載用テーブル40を搭載しており、この搭載用テーブル40をX方向とY方向に沿ってそれぞれ移動して位置決めすることができる。
【0018】
図3に示すように、移動部16は、第1テーブル51と第2テーブル52を有している。第1テーブル51は、図1の支持台30に固定されており、第2テーブル52をX方向に沿って移動して位置決め可能に搭載している。第2テーブル52は、搭載用テーブル4をY方向に沿って移動して位置決め可能に搭載している。
【0019】
図3に示すように、第1テーブル51の上面には、ガイドレール53,53と第1モータ55が設けられている。第2テーブル52の下面には、断面U字型の部材54,54とナット57が設けられている。ガイドレール53,53がそれぞれに部材54,54にかみ合っている。第1モータ55の送りねじ56は、ナット57にかみ合っている。これにより、制御部100が指令して第1モータ55を作動して送りねじ56を回転することで、第2テーブル52はX方向に沿って移動して位置決め可能である。
【0020】
図3に示すように、第2テーブル52の上面には、ガイドレール63,63と第2モータ65が設けられている。搭載用テーブル40の下面には、断面U字型の部材64,64とナット67が設けられている。ガイドレール63,63がそれぞれに部材64,64にかみ合っている。第2モータ65の送りねじ66は、ナット67にかみ合っている。これにより、制御部100が指令して第2モータ65を作動して送りねじ66を回転することで、搭載用テーブル40はY方向に沿って移動して位置決め可能である。
【0021】
図3に示すように、第1テーブル51は第1開口部59を有しており、第2テーブル52は第2開口部69を有しており、さらに搭載用テーブル40は第3開口部79を有している。これらの第1開口部59と第2開口部69と第3開口部79は、第2テーブル52がX方向に移動し、搭載用テーブル40がY方向に移動しても常に重なるような大きさを有しており、計測部14の対物レンズ110側からの光(照射光)Lを、搭載用テーブル40の上の計測用チップ90の微細粒子に対して導くための開口部である。
【0022】
これにより、第2テーブル52がX方向に移動し搭載用テーブル40がY方向に移動しても、対物レンズ110側からの光Lは、第1開口部59と第2開口部69と第3開口部79を通過して、搭載用テーブル40上の計測用チップ90の微細粒子に対して照射され、微細粒子から蛍光を発生させることができる。
【0023】
なお、図3に示す移動部16の搭載用テーブル40は、モータと送りネジを用いてX、Y方向に移動可能であるが、これに限らずリニアモータなどを用いても良い。
【0024】
図4は、搭載用テーブル40と回収プレート80と計測用チップ90を示している。図4に示すよう、搭載用テーブル40は、例えば長方形状の板状部材であり、この搭載用テーブル40の搭載面70の上には回収プレート80と計測用チップ90が着脱可能にY方向に沿って並べて搭載できる。
【0025】
回収プレート80は、板状の部材であり、回収プレート80には多数のウェル81がX方向とY方向に沿って等間隔をおいてマトリックス状に配列されている。これらのウェル81は、生物の細胞のような微細粒子が吸引・吐出キャピラリ140から順次排出されてくるときに、順次排出されてくる微細粒子が別々に回収して格納することができる微細粒子回収格納部である。ウェル81は、例えば断面でみて、ほぼU字型の凹部あるいはカップ型の凹部である。
【0026】
図4に示す計測用チップ90は、固定具120により固定されており、この固定具120は、搭載用テーブル40の所定の位置に位置決めして固定されている。
【0027】
図5は、計測用チップ90とこの計測用チップ90の固定具120の形状例を示す断面図である。
【0028】
この固定具120は、計測用チップ90を搭載用テーブル40の搭載面70に対して一定の高さの基準面CLの位置で固定して保持するためのものである。図5の例では、固定部材120は、第1ケース部121と第2ケース部122と弾性部材123を有している。弾性部材123は例えば長方形のリングであり、弾性部材123は第2ケース部122の内側のフラット面126に固定されている。
【0029】
計測用チップ90は、第1ケース部121と第2ケース部122の間に配置されており、計測用チップ90が弾性部材123によりZ1方向に押し上げられることで、計測用チップ90の上面90Sは、第1ケース部121のフラットな内面124に対して突き当てられている。
【0030】
これにより、計測用チップ90の上面90Sは常に位置精度の出た基準面124に押し付けられて、計測用チップ90の上面90Sは基準面CLに位置決めすることができるので、例えば計測用チップ90の厚みのバラツキや反りがあったとしても、厚みのバラツキの影響や反りの影響を低減することができる。
【0031】
従って、計測用チップ90の上面90Sと、計測部14の対物レンズ110および回収プレート80とのZ方向に関する距離を正確に管理できる。言い換えれば、図7に示す計測用チップ90のウェル200内の微細粒子Mの位置と、計測部14の対物レンズ110および回収プレート80との距離を正確に管理できる。
【0032】
なお、第1ケース部121は第2ケース部122に対して例えばヒンジ機構部を用いて開閉することができ、これにより、固定具120内の計測用チップ90を取り出して、新たな計測用チップ90と交換することができる構造になっている。
【0033】
次に、図3と図5および図7を参照して計測用チップ90について説明する。
計測用チップ90の形状例は、図7(A)に例示しており、計測用チップ90は透光性を有する材料、例えばガラスやプラスチックにより作られている。
【0034】
図3と図5に示す計測用チップ90は、光を透過する材料で形成され、例えば長方形の板状部材であり、複数の微細粒子をそれぞれ格納するために複数のウェル200がX方向とY方向に沿って等間隔をおいてマトリックス状に配列されている。図5に示すように、各ウェル200は、微細粒子の懸濁液500を分注もしくは一括注入することで、微細粒子Mの少なくとも1個が格納され得る大きさを持つ。
【0035】
計測用チップ90の上面90Sには、ウェル200の深さよりも浅い複数の凹部が形成されていることが望ましい。この浅い複数の凹部は、計測用チップ90のZ方向に関する位置を、計測部14がオートフォーカスするための基準に用いられる。すなわち、計測用チップ90の上面のウェル以外の部分にオートフォーカス用のマーキングとしての凹部が形成されるが、画像処理によるコントラスト解析の際に、その凹部の深さはなるべく急峻で浅い方が好ましく、例えば3μm以下が好ましい。凹部は、計測用チップ90の上面の決まった位置に形成してもよいし、ランダムな傷であってもよいが、凹部の形成位置は、計測対象の吸着性などを考慮して決定すべきである。
【0036】
図1と図5に示すように計測用チップ90は、移動部16に対して、固定具120を用いて固定されている。この固定具120は、少なくとも計測用チップのウェル200の形成されている側の面と接する面(以下、基準面)124が、計測用チップ90よりも剛性の高い材質で形成されている。計測用チップ90は、ウェル200が形成されている上面90Sを固定具120の基準面CLに当接させ、ウェル200の形成されている側と反対の面から弾性を有する弾性部材123によって押し付ける。また、シール部材222が固定具120の基準面CLと計測用チップ90の上面90Sの間をシールしている。この固定構造により、計測用チップ90自体の反りを矯正するとともに、固定具90に対する位置決めを行ない、更に計測用チップ90上面90Sより滴下する懸濁液500がもれないように確実にシールすることができる。
【0037】
図7(A)に例示するように、各ウェル200は、生物細胞のような微細粒子Mを格納するための微細粒子回収格納部であり、例えば断面形状は、ほぼU字型の凹部あるいはカップ型の凹部である。各ウェル200には、複数の微細粒子Mが格納されるようになっており、計測用チップ90の上面90Sには懸濁液500の膜が形成されている。各ウェル200の直径Dは例えば10μmであり、各ウェル200はX方向とY方向に例えばそれぞれ500個配列されている。
【0038】
次に、図1と図6を参照して、回収部13の構造例を説明する。
図1に示す回収部13は、ベース11に配置され、X方向とY方向に対して直交するZ方向に移動して位置決め可能な吸引・吐出キャピラリ140を有しており、吸引・吐出キャピラリ140により、図5に例示する輝度条件を満たした微細粒子M1が収納されているウェル200内の微細粒子全数を吸入して回収プレート80の所定の位置に吐出して回収する。
【0039】
回収部13は、X方向とY方向に対して直交するZ方向に移動して位置決め可能な吸引・吐出キャピラリ140を有しており、この吸引・吐出キャピラリ140により前記輝度条件を満たした微細粒子M1が収納されているウェル内の微細粒子全数Mを吸入して回収プレート80の所定の位置に吐出して回収するためのものである。すなわち、少なくとも各ウェル内に、測定者によって設定できる輝度条件を満たす粒子が1個以上存在することを確認するためのデータを取得し、回収部13は、ウェル内の全ての微細粒子を回収するものである。
【0040】
図6に示すように、回収部13は、操作部130と基部131を有しており、基部131は支持部12に固定されている。操作部130は、吸引ポンプ133と、吸引・吐出キャピラリ140を備えている。吸引・吐出キャピラリ140はZ2方向(下方向)に沿って先細り状の中空部材であり、吸引・吐出キャピラリ140の先端部142は、図1と図5に示すように、計測用チップ90のウェル200に接近されるようになっており、吸引・吐出キャピラリ140の後端部143は吸引ポンプ133に接続されている。
【0041】
図6に示すように、モータ251の送りねじ252が操作部130のナット253にかみ合っており、制御部100がモータ251を作動させて送りねじ252を回転することで、ナット253とともに操作部130をZ方向(Z1方向とZ2方向)に沿って上下移動して位置決めすることができる。
【0042】
これにより、図6の回収部13はZステージと呼ぶことができ、図3の移動部16はX・Yステージとも呼ぶことができる。
【0043】
次に、図1を参照して、計測部14および解析部15を説明する。
図1に示す計測部14は、計測用チップ90の複数のウェル200が含まれる領域に対して光Lを照射することで、その領域内の微細粒子Mから蛍光を発生させて、その蛍光を受光する。受光した微細粒子Mからの蛍光は、画像解析部15により画像解析する。画像解析部15は、各ウェル200内の複数の微細粒子Mの内の、少なくとも最大輝度の蛍光を発する微細粒子M1の蛍光強度を算出する。
【0044】
これにより、X方向とY方向で構成される平面内において、回収条件を満たした最大輝度の蛍光を発する微細粒子M1が収納されているウェル200の位置を制御部100が認識する。制御部100は、図3に示す第1モータ55と第2モータ65に対して制御駆動信号を与えることで、移動部16上の計測用チップ90のウェル200を、吸引・吐出キャピラリ140の真下に位置させることができる。つまり、吸引・吐出キャピラリ140は、ウェル単位でそのウェル内の微細粒子を吸引することができるようになっている。吸引・吐出キャピラリ140は、回収条件を満たした微細粒子の入っているウェルにある全ての微細粒子を吸引する。吸引・吐出キャピラリ140は、複数のウェルの内の選択されたウェル、すなわち回収条件を満たした微細粒子の入っているウェル内から全ての微細粒子を吸引することができる。
【0045】
図1に示す計測部14は、計測用チップ90および計測用チップ90に収容された微細粒子Mに少なくとも1つ以上の光源より導かれる光を照射することによって、透過光もしくは反射光による形状および位置情報、および蛍光・化学発光等の輝度情報を個々の微細粒子の平均サイズより細かい分解能で取得するとともに、計測チップ自体の形状や、計測用チップ90上に配置されたウェル200の位置や大きさ等の情報を取得する。
【0046】
図1に示す画像解析部15は、計測された形状情報および光情報を解析することで、少なくとも各ウェル200内に、測定者により任意の条件に設定できる輝度条件を満たす微細粒子M1が1個以上存在することを確認するためのデータを取得する。そして、微細粒子のスクリーニング装置1は、透過光もしくは反射光によるウェル200の位置認識情報と蛍光・化学発光の光情報とを合わせ照合することにより微細粒子からの光情報を特定し、さらに計測部14はオートフォーカス機能を有し、合焦した状態で計測を行なうとともに、吸引・吐出キャピラリ140の先端部142と計測用チップ90上面との位置関係を、両者に対するオートフォーカスの実施により判断することができる。
【0047】
図1に示すように、計測部14は、対物レンズ110を有しており、対物レンズ110は計測用チップ90に対して光を導く。対物レンズ110は、計測用チップ90と移動部16の下方に配置されており、吸引・吐出キャピラリ140は、計測用チップ90と移動部16の上方に配置されている。これにより、計測用チップ90とその移動部16は、対物レンズ110と吸引・吐出キャピラリ140の間に配置させることができる。
【0048】
図1の計測部14では、励起光源260は、例えばレーザ光源や水銀ランプを採用することができる。シャッターユニット261は、励起光源260と蛍光フィルタユニット262の間に配置されており、シャッターユニット261は計測用チップ90の微細粒子Mに対して光Lを照射しない場合には、励起光源260の発生する光Lが蛍光フィルタユニット262の手前で遮断することができる。
【0049】
図1を参照して、計測部14についてさらに説明する。
図1に示すように、計測部14は、少なくとも、光源としての励起光源260と、光源より照射される光のうち所望の励起波長帯域のみを選択するための光学フィルタ(励起フィルタ)720と、計測用チップ90からの光情報の所望の波長帯域のみを選択するための光学フィルタ(蛍光フィルタ)721と、励起光と光情報との波長帯域の差によって光路を切り替えるためのダイクロイックミラー751から構成される少なくとも1つの蛍光フィルタユニット262と、励起光源260から出射された光を計測用チップ90に導くとともに計測用チップ90から得られる光情報を収集するための対物レンズ110と、対物レンズ110を光軸方向に可動させるオートフォーカス機能を持つフォーカスユニット265と、計測対象からの光情報を検出するための光検出部としての受光部266と、から構成される。図1に示すように、蛍光フィルタユニット262と受光部266は、蛍光落射ユニット752に固定されている。
【0050】
さらに、計測部14はハーフミラー(図示せず)を有しており、ハーフミラーと蛍光フィルタユニット262とを切り替えることで、光源260からの光の一部を観察対象に照射すると同時に、観察対象からの反射光の一部を光検出部である受光部266に導くことによって、計測用チップ90の上面90Sおよびこの上面90Sに形成されたウェル200の形状および位置情報を計測することができる。なお、ハーフミラーとは、一般的に入射された光を50%強度ずつ分光する機能を有する光部品であるが、この実施形態では、分光の光強度を必ずしも50%にする必要はない。ただし、受光部266に入射される光強度は、大きい方ほど測定精度が向上するため、受光部266に分光される光強度が大きい分岐ミラーを使用する方が好ましい。
【0051】
蛍光フィルタユニット262では、光源260からの光が光学フィルタ720(励起フィルタ)によって励起光の波長帯域成分のみが抽出され、ダイクロイックミラー751で反射(透過)されて対物レンズ110に入射され、計測用チップ90に照射される。計測用チップ90から反射光として戻ってくる光は、再びダイクロイックミラー751で反射(透過)するため、光源260側に戻り、受光部266側に伝播されない。
【0052】
一方、蛍光は、励起光よりも長波長を有するため、ダイクロイックミラー751を透過(反射)し、さらに光学フィルタ721(蛍光フィルタ)によって検出したい波長帯域のみが、検出部(CCDカメラなど)である受光部266に伝播される。
なお、反射光によって計測チップ表面、ウェル、および回収部先端の形状や位置を計測する場合は、蛍光フィルタユニット262の代わりにハーフミラーのみを用いることとする。このようにハーフミラーを用いる場合には、ダイクロイックミラー751の場所にハーフミラーを置き、他2つの光学フィルタ720,721は基本的に必要としないが、蛍光フィルタユニットにおける励起フィルタに対応する位置のフィルタとして、計測対象の蛍光の退色をさせにくい波長を選択透過するフィルタを用いるのが更に好ましい。
上述したようにハーフミラーを用いた反射光による位置情報の計測には、蛍光計測と共通の光源を用いることができるという利点がある。このことは計測機能と回収機能を持つスクリーニング装置に限らず、計測のみの装置であっても共通の利点である。
【0053】
図1に示す計測部14の複数の対物レンズ110,264は、例えばレボルバー式で回転することで、必要な倍率の対物レンズを計測用チップ90の下方位置に位置決めすることができる。フォーカスユニット265は、例えば制御部100からの指令によりモータ265Mを作動することで、計測用チップ90の下方位置に配置された例えば対物レンズ110をZ方向に沿って移動して位置決めすることで、計測用チップ90の微細粒子Mに対する対物レンズ110のフォーカス調整を行うことができる。
【0054】
図1に示すように、計測部14では、光源260とは別に計測用チップ90の上方に複数の光源250を備える。光源250は、計測用チップ90の上面90Sと垂直な軸に対して対称な2つ以上の方向より光を照射する。計測用チップ90からの透過光によって計測用チップ90の上面90Sおよびこの上面90Sに形成されたウェル200等の形状および位置情報を計測することができる。この計測においても蛍光フィルタは不要であるが、ダイクロイックミラーと蛍光フィルタを通っても十分な光量が残るように光源波長と光量を選択することで、光路に蛍光フィルタユニットを配置したまま、これを除去したり切り替えたりしなくても観察が可能という利点がある。
【0055】
計測部14は、計測データのコントラスト値を指標としたオートフォーカス機能を有し、計測時に透過光もしくは反射光によるオートフォーカスによって計測用チップ90の上面90Sへの合焦を維持するともに、反射光によって吸引・吐出キャピラリ140先端部142のオートフォーカスを行なうことで、吸引・吐出キャピラリ140の先端部142の計測視野内の位置、および計測チップ面との距離を計測することができる。
【0056】
微細粒子のスクリーニング装置1は、光情報が蛍光であって、反射光もしくは透過光による形状情報計測による計測用チップ90のウェル200の位置情報と、励起光による光情報計測による微細粒子からの蛍光情報の両方を用いて計測・解析を行い、励起光を照射することによる蛍光計測を実施した後に、同一視野における透過光計測を実施する。すなわち、微細粒子のスクリーニング装置1では、蛍光計測データのうち、形状情報によって特定されるウェル200の位置の部分のみの解析を行なう。その際、形状情報の計測を先に行なうと、計測対象である微細粒子の蛍光が退色してしまい、正確な情報の取得ができなくなるために、蛍光輝度を反射光もしくは透過光による形状情報計測よりも先に計測することが有効である。
【0057】
更に励起光を計測用チップ90上の複数のウェル200を含む領域に照射することによって、1視野で複数のウェル200を含む領域内に存在する微細粒子を計測する。この時に、実質的に自家蛍光の均質な部材に励起光を照射した際に光検出部である受光部266によって検出される輝度分布を用いて微細粒子からの蛍光計測値の補正を行なう時には、前記輝度分布の複数ピクセルの平均化処理、もしくは周波数フィルタによって画素ノイズの除去を行う。
【0058】
補正データの取得方法としては、例えば自家蛍光の均質な部材として計測用チップ90を用いて、微細粒子の懸濁に用いる液体のみを注入した状態で励起光強度分布を取得する方法や、実際の計測結果からウェル200以外の部分の輝度分布を抽出し、このデータを補完することによって計測視野全面の輝度分布を取得する方法、更にはチップ面の中で前記ウェルの形成されていない部分の輝度情報を取得する方法などがある。更には微細粒子を含んだ計測情報から、データ処理によって計測視野全面の輝度分布に対する微細粒子の影響を低減させた結果を用いることもできる。
【0059】
自家蛍光の均質な部材として計測用チップを用い、ウェルの形成されていない部分の輝度分布を取得することもできる。
【0060】
補正の対象となるのは、計測視野内に照射される励起光の強度分布(不均一性)だけではなく、レンズやフィルタ等の各光学系の透過効率等による検出効率の不均一性もある。これらの不均一性は、励起光自体の径方向分布、および励起光及び蛍光を導くレンズ等の光学部品の径方向分布への依存性が高いため、取得した輝度分布を処理することで輝度の高周波成分を大幅に除去することが好ましい。仮に元画像が微細粒子を含む計測情報から得られたものであっても、処理の過程において微細粒子の輝度の影響を実質的に取り除くことができるため、必要精度によっては予め補正用情報を取得しておくのではなく、計測と同時に補正することが可能である。処理方法としては、平均化、周波数解析、クラスター解析等を用いたデータ処理等を用いることが考えられる。これらの複数の手法は、求められる補正精度によって選択すべきである。
【0061】
図1において、シャッターユニット261のシャッターを開けると、励起光源260の光は、蛍光フィルタユニット262の蛍光フィルタ720で励起波長帯域のみ透過し、ダイクロイックミラー751で反射され、対物レンズ110を透過して、計測用チップ90に照射される。これにより、計測用チップ90内の微細粒子Mが例えば蛍光を発生すると、その蛍光はダイクロイックミラー751を透過し、蛍光フィルタ721で任意の波長帯域のみ透過して受光部266により受光されて、光信号―電気信号変換されて画像解析部15によりその蛍光が画像解析される。
【0062】
次に、図1に示す微細粒子のスクリーニング装置1を用いて、計測用チップ90のウェル内における蛍光を発する微細粒子を含む全数の微細粒子を、他のウェル内の微細粒子からは選択して吸引して回収プレート80に回収するスクリーニング方法の一例について、図7〜図9を参照しながら説明する。
【0063】
図7(A)は、計測用チップ90の一部分を示す断面図であり、計測用チップ90のウェル200内にはまだ微細粒子は入っていない。図7(B)は、計測用チップ90の各ウェル200内に複数の微細粒子Mが配置された状態を示している。
【0064】
図8(A)は、ウェル200内の複数の微細粒子Mに光(照射光、励起光)Lが照射されて複数の微細粒子Mが蛍光を発するが、特に最大輝度の蛍光を発する微細粒子M1が蛍光を発している例を示す。図8(B)は、吸引・吐出キャピラリ140が各ウェル200に対して順番に近づいて、最大輝度の蛍光を発している微細粒子M1を含む全数の微細粒子Mを吸引して回収する様子を示す。
【0065】
図9は、最大輝度の蛍光を発している微細粒子M1を含む全ての微細粒子を計測用プレート90のウェル200から吸引して、回収プレート80のウェル81に対して回収する例を示す。
【0066】
図1に示すように、搭載用テーブル40の搭載面70には、回収テーブル80と計測用チップ90の固定具120がそれぞれ所定の位置に配置されている。固定具120は、対物レンズ11の上方位置に配置されている。吸引・吐出キャピラリ140は、計測用チップ90の上に位置されている。
【0067】
励起光源260の光は、上述したように対物レンス11まで伝播され、光Lとして計測用チップ90に照射される。これにより、図8(A)に示す計測用チップ90内の複数の微細粒子Mが蛍光を発生するが、これらの複数の微細粒子Mの蛍光は、上述したようにダイクロイックミラー751を通過して光学フィルタ(蛍光フィルタ)721によって検出したい波長帯域のみにされて受光部266により受光されて、光信号―電気信号変換されて画像解析部15によりその蛍光が画像解析される。
【0068】
画像解析部15では、各ウェル200内の複数の微細粒子Mの内の、少なくとも最大輝度の微細粒子M1の蛍光強度を解析する。計測された形状情報および光情報を解析することで、少なくとも各ウェル200内に、測定者によって設定する任意の輝度条件を満たす粒子が1個以上存在することを確認するためのデータを取得する。この解析結果を基に、測定者は輝度条件を満たす微細粒子をウェル200から回収することになる。
【0069】
画像解析部15の結果から、制御部100では、最大輝度の微細粒子M1の収納されているウェルの位置情報を基にして、図3に示す制御部100が指令して第1モータ55を作動することで、第2テーブル52をX方向に沿って移動して位置決めし、第2モータ65を作動することで、搭載用テーブル40をY方向に沿って移動可能および位置決めする。そして、図6に示す制御部100が指令してモータ251を作動することで、吸引・吐出キャピラリ140がZ2方向に下降する。
【0070】
これにより、吸引・吐出キャピラリ140は、その先端部142を、図8(B)に示すように、計測用プレート90の各ウェル200に近づいて、任意の1つのウェルに位置決めすることができる。
【0071】
その後、図9に示すように、制御部100が指令して吸引ポンプ133を作動することで、吸引・吐出キャピラリ140が、最大輝度の蛍光を発している微細粒子M1を含めた全数の微細粒子Mを有するウェル200から、微細粒子M1を含めた全数の微細粒子Mを他のウェル200の微細粒子とは区別して選択的に吸引する。
【0072】
さらに、図6に示す制御部100が指令してモータ251を作動することで、吸引・吐出キャピラリ140がZ1方向に上昇する。図3に示す制御部100が指令して第1モータ55を作動することで、第2テーブル52をX方向に沿って移動して位置決めし、第2モータ65を作動することで、搭載用テーブル40をY方向に沿って移動して位置決めすることで、吸引・吐出キャピラリ140が、回収プレート80の任意のウェル81上に相対的に移動して位置決めされる。そして、図6に示す制御部100が指令してモータ251を作動することで、吸引・吐出キャピラリ140がZ2方向に下降すると、吸引・吐出キャピラリ140の先端部142が回収プレート80のあらかじめ定められた位置のウェル81に近づく。
【0073】
このウェル81には予め培養液などの液体LDが入れられており、吸引・吐出キャピラリ140の先端部142がこの液体LDの中に入るようになっている。
【0074】
吸引ポンプ133を逆に作動することで、吸引・吐出キャピラリ140がその微細粒子M1を含めた全数の微細粒子Mを回収プレート80のあらかじめ定められた位置のウェル81の液中に排出できる。これによって、最大輝度の蛍光を発している微細粒子M1を含めた全数の微細粒子Mは回収プレート80のウェル81内に回収することができる。
【0075】
上述した最大輝度の蛍光を発している微細粒子M1を含む全数の微細粒子の吸引および回収動作は、計測用チップ90の、回収条件を満たした微細粒子が収納されている各ウェル200について順番に行う。
【0076】
このようにして、各ウェル200内の蛍光を発している微細粒子M1を含む全数の微細粒子は、移動部16による計測用チップ90のX方向とY方向の移動操作と、回収部13による吸引・吐出キャピラリ140のZ方向の上下移動操作により、確実かつ効率よく、回収プレート80のあらかじめ定められた位置のウェル81から回収することができる。すなわち、多くの数の微細粒子から標的とする微細粒子を効率良く探索して選択的に効率よく回収することができる。
【0077】
また、本発明の微細粒子のスクリーニング装置1では、吸引・吐出キャピラリ140は、計測用チップ90に対して垂直方向(Z方向)に移動して計測用チップ90の各ウェル200に対して接近する。これにより、吸引・吐出キャピラリ140の先端部142は、各ウェル200に対して確実に近づいて、標的とする微細粒子M1を含む全数の微細粒子をウェル200内から、他のウェル内の微細粒子とは区別して吸引して回収できる。
【0078】
図10は、吸引・吐出キャピラリ140の先端部142の高さ合わせ用基準面の例を示している。この高さ合わせ用基準面890は、固定具121に設定されており、計測用チップ90面からの高さが既知である。この高さ合わせ用基準面890は、固定具121の内面124に一致している。図1に示す対物レンズ110はこの高さ合わせ用基準面890にフォーカスをあわせ、その位置に対物レンズ110を保持したまま、吸引・吐出キャピラリ140の先端部142にフォーカスが合う位置まで回収部13を移動させる。これにより、計測用チップ90の上面90Sとの距離を確定し、このときの回収部13の位置座標からの相対移動によって、吸引・吐出キャピラリ140の先端部142は計測用チップ90の上面90Sから所望の距離VだけZ2方向に沿って位置891まで下降して上面90Sに接近させる。これにより、吸引・吐出キャピラリ140の先端部142は、高さ合わせ用基準面890を利用してZ方向に沿って確実に位置合わせすることができる。
【0079】
図11は、吸引・吐出キャピラリ140によりシリンジ方式によって微細粒子を回収した際の回収成功率を示す。回収成功率の定義は、回収目的のウェル内のすべての微細粒子が吸引・吐出キャピラリ140により回収され、隣接するウェルからは1つの微細粒子も回収されない確率を言う。
【0080】
試行回数は各条件で10回とし、吸引はストローク制御によるものである。吸引量は各条件で回収率が最大になる条件とした。吸引速度は一定とした。吸引対象は、PBS(Phosphate buffered saline、リン酸緩衝生理食塩水)中の固定化酵母細胞を使用した。ウェル径は約10μmであり、ウェルピッチは約30μmである。計測用チップへの吸引・吐出キャピラリ140の接近距離は、10,20,30,40μmの4条件とし、吸引・吐出キャピラリ140の先端部142の内径を、10,20,30,40μmの4条件とした。
【0081】
図11を参照すると、計測用チップへの接近距離(μm)が小さいほど回収成功率が高く、吸引・吐出キャピラリ140の先端部142の内径(μm)が小さいほど回収成功率が高かった。
【0082】
すなわち、吸引・吐出キャピラリ140の先端部142の内径は、ウェルの直径の2倍以下であることが好ましく、計測用チップへの接近距離は、ウェルピッチ以下であることが好ましい。このようにすることで、吸引・吐出キャピラリ140は、シリンジ方式によって対象となるウェルから微細粒子をより確実に回収できる。
【0083】
計測視野内での吸引・吐出キャピラリ140の先端部142を記録し、移動部16によって計測用チップ90の回収対象のウェル側をこのキャピラリ先端位置に合わせるようにすることで、吸引・吐出キャピラリ140の先端部142の中心とウェルの中心を合わせる。これにより、より確実にウェル内の全数の微細粒子を回収することができる。
【0084】
吸引・吐出キャピラリ140により微細粒子を吸引する際に、吸引量を制御する場合、吸引速度を一定、もしくは引き始めの吸引速度を基準として、吸引途中で段階的にもしくは連続的に速度を低下させる。すなわち、微細粒子の種類によっては、微細粒子がウェル壁面に吸着している場合があり、この吸着力に勝るだけの吸引力が必要になるが、一度吸着が剥がれれば、それ以後はそれほどの吸引力は必要なくなる。逆に、その後は隣接するウェルからの誤吸引を防止するために、吸引力を減じる必要がある。このように、吸引する際に、吸引力を制御することで、微細粒子をウェル内から確実に吸引することができる。
【0085】
なお、図9に示すように、吸引・吐出キャピラリ140の先端部142内には、液体の一例である懸濁液500を予め充填することができる。このように先端部142に液体を予め入れておかないと、回収部13の気密性が完全でない限り、毛細管現象によって、吸引・吐出キャピラリ140の先端部142から液体が流入してくる。液体の流入のスピードは回収部13の気密性の度合いに依存するが、最終的な流入量は、吸引・吐出キャピラリ140と液体の物性と吸引・吐出キャピラリ140の径にのみ依存し、流入した液体の重さとつりあいの位置まで入ってくる。このため、液体と一緒に不要な微細粒子も流入してしまう。入れておく液体は、実際に計測微粒子を懸濁するのに用いるものが好ましいが、この限りではない。
【0086】
充填量としては、溶液の物性(粘度・密度)、吸引・吐出キャピラリ140と溶液との親和性、及びキャピラリの内径によって決まる、毛細管現象によるつりあい位置のレベルが望ましいが、充填量に誤差がある場合でも流入のスピードを下げることができ、吸引・吐出動作の精度を上げることができる。
【0087】
図12は、計測用チップ90の好ましい形状例を示している。
図12に示す計測用チップ90は、既に説明したように長方形の平板であり、ウェル領域200Rを有しているが、例えば樹脂成型品である。計測用チップ90の1つの長辺部分710には、例えば位置決め用の2つの突起720が突出して形成されているとともに、1つの短辺部分711には、例えば位置決め用の1つの突起721が突出して形成されている。突起720,721は例えば長方形状を有しており、突起720は突き当て面720Bを有し、突起721は突き当て面721Bを有している。すなわち、計測用チップ90の2つの側面からそれぞれ突起720,721が突出して形成されている。
【0088】
突起720の突き当て面720Bは、固定具120の内側の位置決め部120Fに対して突き当て、突起721の突き当て面721Bは、固定具120の内側の位置決め部120Gに対して突き当てる。
これにより、計測用チップ90は、固定具120の内側の位置決め部120F、120Gに対して突き当て方向GHに沿って突き当てることで位置決めが確実に行えるので、位置決めが再現性良く行え、位置決め作業性が向上する。これに対して、突起を用いない場合は、固定具への突き当てによる位置決めのためには計測用チップ90の該当する側面の全面を当接させることになるが、側面全面で精度を確保することは非常に困難である。
【0089】
また、計測用チップ90の上面90S側には、計測用チップ90の表示部750が形成されている。この表示部50は、例えば矢印形状であり突き当て方向GHに向いている。表示部50は、計測用チップ90の上面90Sまたは下面や外周部に設けても良く、計測用チップ90をセットする際の向き(表裏及び方向)を明示するパターンもしくは切り欠きなどのマークである。
【0090】
次に、図13は、計測用チップ90が固定具120に固定された場合において、計測用チップ90の反りを解消することを示しいている。
図13(A)は本発明の実施形態であり、図13(B)は比較例である。
図13(A)では、対物レンズ110と受光部266及び固定具120を示している。計測用チップ90の上下面は、例えば成型における離型後の材質の温度変化による反りなどに代表されるような、形状として低次の局面を形成している例である。
【0091】
この計測用チップ90の上面90Sが固定具120の内面124に対して当てられ、そして計測用チップ90の下面90D側から力FCを加えることによって、計測用チップ90の反りが矯正される。すなわち、ウェルが形成されている上面90S側の計測エリアを含む領域は、その反対面である下面90Dより力を加えることによって固定具120のフラットな剛性平面である内面124に押し付けて計測用チップ90の反りを矯正する。フラットな剛性平面である内面124に対する計測エリアの任意の2mm四方の領域の平行度が、10μm以下となる(ウェル自体の傾斜のような微小な起伏や突起を除く)。これにより、光学系に対するウェルの位置精度が向上し、観察視野内の全域で合焦を確保することができる。
【0092】
これに対して、図13(B)に示す比較例では、計測用チップ90Nの上面90SNと下面90DNにはそれぞれ小さな凹凸が存在しており、たとえ計測用チップ90Nの上面90SNが固定具120の内面124に対して当てられ、そして計測用チップ90Nの下面90DN側から力FCを加えても測用チップ90の反りを矯正することができず、一回の観察視野(例えば2mm四方)内の全域で合焦を確保することができない。
【0093】
次に図14は、計測チップ90の厚み変動によって発生する観察焦点のズレについて示している。
【0094】
図14(A)から図14(C)では、計測チップの上面(ウェルが形成された面)と光学系との距離自体はすべて同じであるがチップの厚みの違いによって焦点位置が異なることを示している。すなわち、図14(B)では、光学系976の焦点MPが上面90Sに正確に位置しているのに対して、図14(A)では、焦点MPが上面90Sの上側に、図14(C)では下側に位置しており、どちらも計測対象位置から焦点がずれてしまっている。このズレ量が被写界深度以上になると、正常な計測が不可能となる。2mm四方程度の観察視野を確保するための一般的な計測光学系の場合、焦点ズレは範囲は10μm以内に抑える必要があり、許容される厚み変動量は以下のように計算される。
【0095】
図14において、tは計測用チップ90の厚み[mm]であり、Δtは計測用チップ90の厚み変動[mm]であり、LとLは、対物レンズ110のレンズ110Bの焦点距離[mm]であり、ΔLは焦点ズレ[μm]である。
【0096】
ここで、焦点距離Lは、式1の関係を有する。
L=L+t×(1−1/n)・・・・・式1
式1から、
ΔL=Δt×(1−1/n)・・・・・・式2
が得られる。
焦点ズレ±5μm以内(一視野内の焦点ズレ幅が10μm以内)にするためには、
Δt≦10/(1−1/n)・・・・・・式3
となる。
【0097】
計測用チップ90がポリスチレン(屈折率n=1.59)製である場合には、焦点ズレΔLを±5μm以内とするためには、Δtは±13.5μm以内であり、厚みの変動Δtが27μm以内である。
【0098】
これにより、計測用チップ90の厚みにこの範囲内の変動があっても、任意の2mm四方の領域内の焦点ズレを±5μm以内に抑えることができるため自動計測時の焦点外れや、認識位置のズレを防止できる。
【0099】
図15は、計測用チップ90の上面90Sと下面90Dの平行ズレによる観察位置の誤差について示している。本微細粒子のスクリーニング装置では、観察画像によってウェルや吸引・吐出キャピラリの位置を把握や補正を行うため、画像による位置認識精度としては±5μmが必要であるため、観察画像のゆがみをこのレベル以下に抑える必要がある。
【0100】
図15(A)では、上面90Sと下面90Dが平行であり、図15(B)では、上面90Sと下面90Dが平行ではない例を示している。観察対象MJは、ウェルまたは吸引・吐出キャピラリの先端部などである。計測用チップ90の少なくともウェルが形成されている上面90Sでは、光学系の計測エリアに含まれる任意の2mm四方の領域内の位置認識精度が±5μm以内にするためには、上面90Sと下面90Dの成す傾斜角度(平行からのズレ)φの変動が、(5×10―6)/{t(1−1/n)}[rad]以下である(tは前記計測用チップの平均厚み[mm],nは前記計測用チップの材質の屈折率)ことが必要であることを示している。
【0101】
Δは観察対象MJの観察位置のズレを示し、tは計測用チップ90の平均厚み、nは計測用チップ90の材質の屈折率、φは下面90Dの傾斜角度を示している。
【0102】
観察対象MJの観察位置のズレΔは、式4で示すことができる。
Δ=t・tan[φ―sin−1{(sinφ)/n}]≒t・φ・(1−1/n)・・・・・・・・・・・・・・・式4
Δ≦5μmにするためには、
φ≦(5×10―6)/{t(1−1/n)}[rad]・・・式5
となる。
【0103】
これにより、少なくとも一回の観察視野(例えば2mm四方)内の全域で位置の認識精度を±5μm以内にすることができ、一回の観察視野(例えば2mm四方)内の全域での観察対象の位置認識精度が向上する。
【0104】
図16は、位置の認識精度を±5μm以内を満たすための傾斜角度φと観察位置のズレΔの関係例を示しており、チップの厚みtは1mmであり、屈折率nはポリスチレンに相当する1.59の場合である。観察位置のズレΔ(μm)が5μm以内であるためには、傾斜角度の変動は、0.8度以下であることを示している。
【0105】
本発明の実施形態では、計測用チップ90は、ウェルが形成されているエリアが10mm四方以上の広さをもっており、その周囲の計測に供しない領域の適切な一部もしくは全部が、固定具120に設けられている。固定具120の一つの平面に含まれた実質的に剛体とみなすことのできる基準面(内面124に相当)に押し付ける方向に、計測用チップ90のウェルの形成されていない下面側より適切な大きさの力FCを加えることで、ウェルが形成されている全領域に含まれる任意の2mm四方の領域の、基準面(内面124に相当)に対する平面度を10μm以下とできる。このため、精度良く位置決めすることで、位置決め作業性を向上して焦点外れや認識位置のズレを防止することができる。
【0106】
ところで、本発明は、上記実施形態に限定されず種々の変形例を採用できる。
例えば、本発明の実施形態では、標的とする微細粒子として生体の細胞を例に挙げているが、これに限らず他の種類の微細粒子であっても良い。
【0107】
また、図3に示すように、搭載用プレート40の上には、1枚の回収プレート80が配置されているが、複数枚の回収プレートを並べて配置しても良い。
【0108】
移動部16の直線移動用の駆動系として、回転型の電動モータと送りねじとガイドレールを用いているが、回転型の電動モータに代えてリニアモータなどを用いることができる。
【0109】
回収プレート80のウェル81の断面形状と計測用チップ90のウェル200の断面形状は、図示例に限らず他の形状、例えば半球形状を採用することもできる。
【0110】
本発明の微細粒子のスクリーニング装置は、遺伝子、免疫系、タンパク質、アミノ酸、糖類の生体高分子に関する検査、解析、分析が要求される分野、例えば工学分野、食品、農産、水産加工等の農学全般、薬学分野、衛生、保健、免疫、疫病、遺伝等の医学分野、化学もしくは生物学等の理学分野等、あらゆる分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明の微細粒子のスクリーニング装置の好ましい実施形態を示す正面図である。
【図2】図1の微細粒子のスクリーニング装置を示す斜視図である。
【図3】移動部とその移動部の上に搭載されている搭載用テーブルと回収プレートと計測用チップを示す斜視図である。
【図4】搭載用テーブルと回収プレートと計測用チップを示す図である。
【図5】計測用チップとこの計測用チップの保持部材の形状例を示す図である。
【図6】回収部の構造例を示す斜視図である。
【図7】図7(A)は、計測用チップの一部分を示す断面図であり、計測用チップのウェル内にはまだ微細粒子は入っていない図である。図7(B)は、計測用チップのウェル内に微細粒子Mが挿入された状態を示している図である。
【図8】図8(A)は、ウェル内の微細粒子Mに光Lが照射されて一部の微細粒子Mが蛍光を発している例を示す図である。図8(B)は、吸引・吐出キャピラリが選択されたウェルに近づいて全ての微細粒子を吸引して回収する様子を示す図である。
【図9】図9は、蛍光を発している微細粒子M1を含む全数の微細粒子を計測用プレートのウェルから吸引して、回収プレートのウェルに対して回収する例を示す図である。
【図10】キャピラリ高さ合わせ用基準面の例を示す図である。
【図11】キャピラリにより微細粒子を回収した際の回収成功率を示す。
【図12】計測用チップの好ましい形状例を示す図である。
【図13】計測用チップが固定具に固定された場合において、計測用チップの反りを解消することを示す図である。
【図14】計測用チップの厚みの変動による焦点ズレについて示す図である。
【図15】計測用チップの上面と下面の平行ズレによる観察位置の誤差について図である。
【図16】位置の認識精度を±5μm以内を満たすための傾斜角度φと観察位置のズレΔの関係例を示す図である。
【符号の説明】
【0112】
1 微細粒子のスクリーニング装置
11 ベース
12 支持部
13 回収部
14 計測部
15 画像解析部
16 移動部
19 カバー
30 支持台
40 搭載用テーブル
51 第1テーブル
52 第2テーブル
55 第1モータ
56 送りねじ
57 ナット
65 第2モータ
66 送りねじ
67 ナット
70 搭載面
80 回収プレート
81 回収プレートのウェル
90 計測用チップ
90S 上面
90D 下面
100 制御部
110 対物レンズ
120 計測チップの固定具
130 操作部
133 吸引ポンプ
140 吸引・吐出キャピラリ
142 吸引・吐出キャピラリの先端部
200 計測用チップのウェル
260 励起光源
251 モータ
252 送りねじ
253 ナット
261 シャッターユニット
262 蛍光フィルタユニット
264 対物レンズ
266 受光部
500 懸濁液
720,721 突起
750 表示部
LD 液体
L 光(励起光、照射光)
X 第1方向
Y 第2方向
Z 第3方向(垂直方向)
CL 計測チップの上面の基準面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細粒子から発する光情報を標識として微細粒子の探索を行い、探索された微細粒子を選択的に取得するための微細粒子のスクリーニング装置であって、
光を透過する材料で形成され、前記微細粒子の少なくとも1個が収容され得る大きさを持つウェルが複数設けられた計測用チップと、
前記計測用チップを固定するための固定具と、
前記計測用チップおよび前記計測用チップの収容された前記微細粒子に光を照射することによって、前記微細粒子の光信号を取得する計測部と、を備え、
前記計測用チップは、
前記固定具の突き当て部に当接させることで前記計測用チップの上下面に平行な方向に位置決めするために、前記計測用チップの側面に設けられた突起と、
前記計測用チップに形成されて前記計測用チップを前記固定具に対してセットする際の向きを明示する表示部と、を有することを特徴とする微細粒子のスクリーニング装置。
【請求項2】
前記突起は、前記計測用チップの側面から突出して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の微細粒子のスクリーニング装置。
【請求項3】
前記計測用チップは、前記ウェルの形成されているエリアが10mm四方以上の広さであり、前記ウェルの周囲の一部もしくは全部の領域が前記固定具で固定され、前記ウェルの形成されていない下面側より適切な大きさの力を加えることで、前記ウェルの形成されているエリアの任意の2mm四方の平面度を10μm以下とすることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微細粒子のスクリーニング装置。
【請求項4】
前記計測用チップの前記ウェルが形成されている計測エリアに含まれる任意の2mm四方の領域内の厚みの変動Δtが、10/(1−1/n)[μm]以下(nは計測用チップの材率の屈折率)であることを特徴とする請求項3に記載の微細粒子のスクリーニング装置。
【請求項5】
前記計測用チップの前記ウェルが形成されている計測エリアに含まれる任意の2mm四方の領域内の前記上面と前記下面の成す傾斜角度φの変動が、(5×10―6)/{t(1−1/n)}[rad]以下である(tは前記計測用チップの平均厚み[mm],nは前記計測用チップの材質の屈折率)ことを特徴とする請求項4に記載の微細粒子のスクリーニング装置。
【請求項6】
微細粒子から発する光情報を標識として微細粒子の探索を行い、探索された微細粒子を選択的に取得するための微細粒子のスクリーニング方法であって、計測用チップは、光を透過する材料で形成され、前記微細粒子の少なくとも1個が格納され得る大きさを持つウェルが複数設けられており、前記計測用チップは固定具に対して固定され、計測部が、前記計測用チップおよび前記計測用チップの収容された前記微細粒子に光を照射することによって、前記微細粒子の光信号を取得する場合に、
前記計測用チップの突起を、前記固定具の突き当て部に当接させることで位置決めする際に、前記固定具に対してセットする向きを明示する表示部に基づいて前記固定具に対してセットすることを特徴とする微細粒子のスクリーニング方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−2674(P2009−2674A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−161256(P2007−161256)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】