説明

微細細孔処理された生物学的組織における流体のフラックス速度を増強させるための方法および装置

【課題】物質が生体膜を通じて輸送される速度を増加させることなど。
【解決手段】細孔処理された組織を通じて物質のフラックス速度を増強するための方法であって、有効量のフラックスエンハンサーを、該組織における少なくとも1つの微細孔を介して該組織へ送達する工程を包含する、方法であって、1つの実施形態において、上記フラックスエンハンサーを送達する工程が、上記組織へ、上記有効量のフラックスエンハンサーを有する探針を挿入することを包含し、また別の実施形態においては、上記フラックスエンハンサーを送達する工程が、ある量のフラックスエンハンサーを、上記細孔処理された組織の付近に配置すること、および上記少なくとも1つの微細孔を通じて、該組織へと該ある量のフラックスエンハンサーの少なくとも一部を放出することを包含する、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、概して、身体における分析物のモニタリングおよび身体への薬物の経皮送達に関する。より詳細には、本発明は、皮膚もしくは他の生体膜の細孔処理およびその細孔処理された生体膜へのフラックスエンハンサーの適用を通じて、生物学的組織から収集されまたはそこへ送達される物質のフラックスの速度を増強することに関する。
【背景技術】
【0002】
(関連技術の説明)
生体膜を通じた物質の移行は、種々の医療および他の手順の実施において必要である。例えば、糖尿病から生じる合併症を最小限にするために、糖尿病患者は、その血中グルコースレベルを、定期的にモニタリングされ、そして制御されねばならない。代表的に、血中グルコースのモニタリングは、血液または他の体液のサンプルを採取すること、およびそのサンプルに存在するグルコースレベルを測定することによって達成される。歴史的には、そのサンプルは、針またはランセットを用いて皮膚を窃孔処理することによって得られている。皮膚または他の生体膜を通じて薬物を送達することもまた、しばしば必要である。最も頻繁には、薬物は、針を装着したシリンジを用いた注射によって経皮的に送達される。そのような侵襲性のサンプリングおよび薬物送達の方法は、多数の不利益、最も顕著には、不快感および潜在的な感染を伴う。
【0003】
侵襲性のサンプリングおよび送達方法に固有の不利益に取り組む試みにおいて、いくつかの最小限に侵襲性および非侵襲性のサンプリングおよび送達の技術が開発されてきた。「最小限に侵襲性」とは、本明細書において使用される場合、生体膜または組織が、組織もしくは膜の表面において小さな穴すなわち微細孔を形成させることによって侵襲されるが、その組織もしくは膜の基礎をなす非表面部分に実質的に損傷を与えない技術についていう。本明細書において使用される場合、「非侵襲性」とは、針、カテーテル、または他の侵襲性の医療器具を身体に進入させることを必要としない技術についていう。これまでに、血中グルコースレベルは、身体の細胞間の空間を占有する透明な流体である間質液の分析から決定され得、そのサンプルは、これまでに公知である最小限に侵襲性のまたは非侵襲性のサンプリング技術によって皮膚を通じて得られ得ることが発見されている。しかし、これまでに公知である最小限に侵襲性または非侵襲性の、間質液をサンプリングする方法は、血中グルコースのモニタリングの目的については完全には成功していない。最小限に侵襲性または非侵襲性の方法が直面する一つの課題は、低コストで使い捨てのアッセイ技術を用いて正確にグルコースを測定し得るに充分な、大量の間質液のサンプルを短時間で獲得する能力である。
【0004】
皮膚は、最大の、最も容易に接近可能な生体膜を提示し、そこを通じて、分析物が収集され得、そして薬物が送達され得る。粘膜および頬粘膜は、実施可能であるが、それほど接近可能ではない、収集および送達のための部位を提示する。不幸なことに、皮膚ならびに程度はいくらか低いが粘膜および頬粘膜は、そこを通じた物質の移行について非常に抵抗性である。皮膚は、一般に、2つの主要部分を含む:表皮および真皮。表皮は、皮膚の外側部分を形成し、そしてそれ自身がいくつかの異なる層を含む。表皮の最も外側の層である、角質層は、脱核し、角質化した、透明の死んだ細胞から構成され、そして代表的には10〜30μmの厚さである。角質層は、主に、皮膚の障壁特性を担い、それゆえ、身体から外側への分析物の経皮フラックスおよび薬物もしくは他の外来物質または生物の身体への経皮フラックスにとっての主要な障壁を形成する皮膚の層である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
生体膜を横切る物質の経皮輸送において、生体膜において微細孔を作製することによって、有意な進展がなされている。例えば、同時係属中の米国特許出願第08/776,863号(1997年2月7日出願)(発明の名称「Microporation of Human Skin for Drug Delivery and Monitoring Applications」、この全体を本明細書において参考として援用する)を参照のこと。にもかかわらず、これらの技術を改善する必要性、および特に、物質が生体膜を通じて輸送される速度を増加させる必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明によって、以下が提供される:
(1)細孔処理された組織を通じて物質のフラックス速度を増強するための方法であって、有効量のフラックスエンハンサーを、該組織における少なくとも1つの微細孔を介して該組織へ送達する工程を包含する、方法。
(2)前記フラックスエンハンサーを送達する工程が、前記組織へ、前記有効量のフラックスエンハンサーを有する探針を挿入することを包含する、項目1に記載の方法。
(3)前記フラックスエンハンサーを送達する工程が、ある量のフラックスエンハンサーを、前記細孔処理された組織の付近に配置すること、および前記少なくとも1つの微細孔を通じて、該組織へと該ある量のフラックスエンハンサーの少なくとも一部を放出することを包含する、項目1に記載の方法。
(4)前記ある量のフラックスエンハンサーの少なくとも一部を気化させるに充分なエネルギーを、該ある量のフラックスエンハンサーに適用する工程をさらに包含する、項目3に記載の方法。
(5)前記ある量のフラックスエンハンサーにエネルギーを適用する工程が、該ある量のフラックスエンハンサーへ、加熱したエレメントを導入することを包含する、項目4に記載の方法。
(6)前記部位にある量の前記フラックスエンハンサーを配置する工程が、該ある量のフラックスエンハンサーを含むリザーバを有するキャリアデバイスを前記細孔処理された組織付近に配置することを含み、そしてここで、前記少なくとも1つの微細孔を通じて該組織へと該ある量のフラックスエンハンサーの少なくとも一部を放出する工程が、該キャリアデバイスにエネルギーを適用して、該ある量のフラックスエンハンサーの少なくとも一部を気化させることを包含する、項目3に記載の方法。
(7)前記フラックスエンハンサーがアンモニアを含む、項目1に記載の方法。
(8)前記フラックスエンハンサーが炎症性メディエーター、増殖因子もしくは成長因子、マスト細胞脱調節因子、細胞外マトリクス接着インヒビター、酵素、水疱形成因子、食物油、抗痒剤、利尿剤または毛細管透過エンハンサーを含む、項目1に記載の方法。
(9)生体膜を通じて組織から分析物を採取する方法であって、以下の工程:
(a)該生体膜を細孔処理して、少なくとも1つの微細孔を形成する工程;
(b)有効量のフラックスエンハンサーを該微細孔を通じて該組織へと送達する工程;および
(c)該少なくとも1つの微細孔を通じて、ある量の分析物を収集する工程、
を包含する、方法。
(10)前記微細孔が、前記生体膜内に、またはそれを貫通して、選択された深さにまで伸長する、項目9に記載の方法。
(11)前記細孔処理する工程および送達する工程が、前記生体膜へある量のフラックスエンハンサーを有する探針を挿入することを包含する、項目9に記載の方法。
(12)前記探針を挿入する工程が、前記生体膜へ加熱した探針を挿入することを包含する、項目11に記載の方法。
(13)前記有効量のフラックスエンハンサーを送達する工程が、前記生体膜の表面付近に、ある量のフラックスエンハンサーを含むリザーバを配置する工程、および前記少なくとも1つの微細孔へ該リザーバから該ある量のフラックスエンハンサーの少なくとも一部を放出させる工程を包含する、項目9に記載の方法。
(14)前記ある量のフラックスエンハンサーの少なくとも一部を気化させるに充分なエネルギーを前記フラックスエンハンサーのリザーバに適用する工程をさらに包含する、項目13に記載の方法。
(15)前記生体膜を細孔処理する工程および前記フラックスエンハンサーの少なくとも一部を放出させる工程が、前記リザーバ付近のエネルギー吸収部分に、充分量の電磁エネルギーを適用して、該エネルギー吸収部分を、前記少なくとも1つの微細孔を形成し、そして該フラックスエンハンサーのリザーバの少なくとも一部を気化させるに充分な温度にまで加熱することを包含する、項目14に記載の方法。
(16)前記膜を細孔処理する工程および前記フラックスエンハンサーの少なくとも一部を放出させる工程が、加熱されたエレメントを、前記リザーバを通り、かつ、該膜へと導入する工程を包含する、項目14に記載の方法。
(17)前記組織に超音波エネルギーを適用して、前記分析物を含む間質液を、前記少なくとも1つの微細孔を通じて外向きに引き出す工程をさらに包含する、項目9に記載の方法。
(18)前記組織に吸引力を適用して、前記分析物を含む間質液を、前記少なくとも1つの微細孔を通じて外向きに引き出す工程をさらに包含する、項目9に記載の方法。
(19)前記細孔処理する工程が、該微細孔を形成する電気的に加熱された探針と、そこから間隔を開けた電極との間のインピーダンスを測定して、該インピーダンスに基づいて該微細孔の深さを制御することを包含する、項目9に記載の方法。
(20)前記インピーダンスを測定する工程が、前記電気的に加熱した探針と、前記電極との間の複素インピーダンスを測定することを包含する、項目19に記載の方法。
(21)生体膜を通じて組織に薬物を送達する方法であって、以下の工程:
(a)該生体膜を細孔処理して、少なくとも1つの微細孔を形成する工程;
(b)有効量のフラックスエンハンサーを該少なくとも1つの微細孔を通じて該組織へと送達する工程;および
(c)該少なくとも1つの微細孔を通じて薬物を導入する工程、
を包含する、方法。
(22)前記微細孔が、前記生体膜内に、またはそれを貫通して、選択された深さにまで伸長する、項目21に記載の方法。
(23)前記細孔処理する工程および送達する工程が、前記生体膜へある量のフラックスエンハンサーを有する探針を挿入することを包含する、項目21に記載の方法。
(24)前記探針を挿入する工程が、前記生体膜へ加熱した探針を挿入することを包含する、項目23に記載の方法。
(25)前記有効量のフラックスエンハンサーを送達する工程が、前記生体膜の表面付近に、ある量のフラックスエンハンサーを含むリザーバを配置する工程、および前記少なくとも1つの微細孔へ該リザーバから該ある量のフラックスエンハンサーの少なくとも一部を放出させる工程を包含する、項目21に記載の方法。
(26)前記ある量のフラックスエンハンサーの少なくとも一部を気化させるに充分なエネルギーを前記フラックスエンハンサーのリザーバに適用する工程をさらに包含する、項目25に記載の方法。
(27)前記膜を細孔処理する工程および前記フラックスエンハンサーの少なくとも一部を放出させる工程が、前記リザーバ付近のエネルギー吸収部分に、充分量の電磁エネルギーを適用して、該エネルギー吸収部分を、前記少なくとも1つの微細孔を形成し、そして該フラックスエンハンサーのリザーバの少なくとも一部を気化させるに充分な温度にまで加熱する工程を包含する、項目26に記載の方法。
(28)前記膜を細孔処理する工程および前記フラックスエンハンサーの少なくとも一部を放出させる工程が、加熱されたエレメントを、前記リザーバを通り、かつ、該膜へと導入する工程を包含する、項目26に記載の方法。
(29)前記組織に超音波エネルギーを適用して、前記薬物を、該組織へと引き入れる工程をさらに包含する、項目21に記載の方法。
(30)前記細孔処理する工程が、前記微細孔を形成する電気的に加熱された探針と、そこから間隔を開けた電極との間のインピーダンスを測定して、該インピーダンスに基づいて該微細孔の深さを制御することを包含する、項目21に記載の方法。
(31)前記インピーダンスを測定する工程が、前記電気的に加熱した探針と、前記電極との間の複素インピーダンスを測定することを包含する、項目30に記載の方法。
(32)生体膜における少なくとも1つの微細孔の形成を容易にするため、およびそこを通る流体のフラックス速度を増強するためのデバイスであって、以下:
(a)有効量のフラックスエンハンサーを含むリザーバ;および
(b)微細孔を形成し、そして少なくとも1つの微細孔への放出のために該フラックスエンハンサーの少なくとも一部を気化させるために適用される電磁エネルギーに対して応答性である、エネルギー吸収層、
を備える、デバイス。
(33)前記生体膜における前記デバイスを固定するための手段をさらに備える、項目32に記載のデバイス。
(34)前記リザーバ中に含まれた有効量の薬物をさらに備える、項目32に記載のデバイス。
(35)分析物を含む流体のサンプルを収集するための手段をさらに備える、項目32に記載のデバイス。
(36)前記リザーバを覆う透明カバー層をさらに備える、項目32に記載のデバイス。(37)前記エネルギー吸収層と、前記透明カバー層との間に配置され、そしてそこを通る開口部を規定する基材層をさらに備え、ここで、前記フラックスエンハンサーのリザーバは、該開口部内に配置され、そして該透明カバー層と、該エネルギー吸収層との間に封入されている、項目36に記載のデバイス。
(38)前記エネルギー吸収層が、前記リザーバが該エネルギー吸収層に組み込まれるように前記有効量のフラックスエンハンサーを用いて処理される、項目32に記載のデバイス。
(39)前記エネルギー吸収層を覆う光学的に透明な層をさらに備える、項目38に記載のデバイス。
(40)前記フラックスエンハンサーが液体である、項目32に記載のデバイス。
(41)前記フラックスエンハンサーが固体である、項目32に記載のデバイス。
(42)前記フラックスエンハンサーが気体である、項目32に記載のデバイス。
(43)送達される薬物の有効量を含むさらなるリザーバをさらに備える、項目32に記載のデバイス。
(発明の要旨)
手短に言うと、本発明の1つの局面は、生体組織を通じて流体のフラックス速度を増大させるための方法を含む。この方法は、一般に、有効量のフラックスエンハンサーをその組織中の少なくとも1つの微細孔を通じて組織へ送達する工程を包含する。特定の適用に依存して、このフラックスエンハンサーは、多くの機構のいずれかを通じて微細孔に送達される。その例は以下に記載される。細孔処理およびフラックスエンハンサーの適用の深さはまた、所望される適用に適合するように調節され得る。
【0007】
本発明の別の局面は、生体膜下の組織から分析物を収集する方法を含む。この方法は、好ましくは生体膜を細孔処理して、少なくとも1つの微細孔を形成する工程、有効量のフラックスエンハンサーを、この微細孔を通じて組織に送達する工程、およびその微細孔を通じて多量の分析物を採集する工程を包含する。さらに、細孔処理の深さおよびフラックスエンハンサーの適用が適応するように変更し得るように、このフラックスエンハンサーの送達機構は、この適用に適応するように変更し得る。原動力(例えば、吸引、圧力、電場、音波エネルギー、または濃度勾配)の適用もまた、分析物の収集速度をさらに増大するために行われ得る。
【0008】
本発明のなお別の実施態様は、生体膜を通じて薬物を送達する方法を提供する。この方法は、好ましくは、膜の部位を細孔処理して、少なくとも1つの微細孔を形成する工程、有効量のフラックスエンハンサーをその微細孔に送達する工程、およびその少なくとも1つの微細孔を通じて薬物を導入する工程を包含する。さらに、細孔処理の深さおよびフラックスエンハンサーの適用が適応するように変更し得るように、このフラックスエンハンサーの送達機構は、この適用に適応するように変更し得る。原動力(例えば、イオン泳動、圧力、電場、音波エネルギー、または濃度勾配)の適用もまた、組織への薬物送達の速度をさらに増大するために行われ得る。
【0009】
本発明のなおさらなる局面は、生体膜における微細孔の形成を容易にし、そしてそれらを通じて流体のフラックスの速度を増大するためのデバイスを提供する。
本発明の、これらのおよび他の特徴ならびに利点は、添付の図面と併せて、以下の好ましい実施態様の記載から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明の1つ以上の実施態様に従って細孔処理した生体膜の切片および基礎をなす組織の拡大した横断面図である。
【図2】図2は、本発明の1つの実施態様に従うフラックスエンハンサーの送達用探針の使用を示す拡大図である。
【図3】図3は、本発明の別の実施態様に従う探針を用いてリザーバーからのフラックスエンハンサーの送達を示す拡大図である。
【図4】図4は、本発明に従って生体膜の細孔処理およびフラックスエンハンサーの送達を容易にするためのデバイスを示す分解図である。
【図5】図5は、図4に示されるデバイスからのフラックスエンハンサーの送達を示す拡大図である。
【図6】図6は、本発明に従って生体膜の細孔処理およびフラックスエンハンサーの送達を容易にするための別のデバイスの分解図である。
【図7】図7は、組織の微細孔処理および微細孔処理された組織への薬物の送達に適するデバイスの側面図である。
【図8】図8は、図7のデバイスの底面図である。
【図9】図9は、組織の微細孔処理および微細孔処理された組織への薬物の送達に適するデバイスの別の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(好ましい実施態様の詳細な説明)
今度は、いくつかの好ましい実施態様を参考として、本発明を詳細に記載する。本明細書中に詳細に記載される実施態様は、例示のためのみに示され、そして特許請求の範囲、およびその等価物に規定される本発明の範囲を限定することを意図しない。本明細書中で使用される語句は、他に定義されない場合、本発明に関連する当業者によって理解されるような、それらの通常の意味を有することが意図される。
【0012】
(定義)
内容が明らかに他を示さない場合、「a」「an」および「the」は、単数および複数の対象物を含む。従って、例えば、「薬物(a drug)」の送達とは、1つ以上の薬物の送達を意図する。「フラックスエンハンサー(a flux enhancer)」とは、1つ以上のフラックスエンハンサーを意図し、そして「分析物(an analyte)」とは、1つ以上の分析物を意図する。また、内容が明らかに他を示さない場合、「〜において(in)」とは、「〜の中(in)」または「〜の上(on)」を意味する。本明細書中で使用する、「含む(including)」、「含む(includes)」などは、制限なく含むことを意味する。
【0013】
本明細書中で使用する、「生物」もしくは「個体」もしくは「被験体」もしくは「身体」とは、本明細書に記載の方法が作用し得る、任意のヒト、動物もしくは植物をいう。
【0014】
本明細書中で使用する、「生物学的組織」または「組織」とは、生物のいくつかの部分を含む任意の構成要素を意味し、これは、細胞;細胞周辺の細胞間物質;生体膜;骨;コラーゲン;血液を含む流体;皮膚を含む上皮組織;結合組織;血管;筋肉組織;神経組織;などを含むが、これらに限定されない。
【0015】
本明細書中で使用する、「生体膜」または「膜」とは、生物の異なる組織もしくは領域との間、または生物の組織とその外環境との間に壁を形成する、生物内に存在する任意の組織物質を意味する。そして、これは、限定することなく、皮膚;粘膜;頬粘膜;植物外層;ならびに細胞壁もしくは血管を含む。
【0016】
本明細書中で使用する、「皮膚」とは、表皮を意味し、これは、角質層および真皮を含む。
【0017】
本明細書中で使用する、「粘膜」もしくは「粘膜(mucosa)」とは、口、鼻咽頭、咽喉、気道、尿生殖器管、肛門、眼、腸の上皮内層および膀胱、結腸、肺、血管、心臓などのような内視鏡的デバイスにより接近可能な他の全ての表面をいう。
【0018】
本明細書中で使用する、「頬粘膜」は、口の粘膜を含む。
【0019】
本明細書中で使用する、生体膜もしくはその層の「中へ」もしくは「中において」は、1つ以上の層(例えば、角質層の全体もしくは部分または皮膚の外層全体もしくはその一部)内への、またはそこを通過するのみの浸透を含む。
【0020】
本明細書中で使用する、生体膜もしくはその層を「通じて(通過する)(through)」とは、生体膜もしくはその層の奥行全体を通ることを意味する。
【0021】
本明細書中で使用する、「経皮的な(transdermal)」または「経皮の(percutancous)」または「膜貫通(transmembrane)」または「粘膜貫通(transmucosal)」または「頬膜貫通(transbuccal)」とは、任意の方向において、対象の生体膜または組織へかまたは対象の生体膜または組織を通じた、物質の通過をいう。
【0022】
本明細書中で使用する、「細孔処理」、「微細孔処理」、または任意のこのような類似の用語は、生体膜もしくは組織内に、またはこれらを通る、所望の深さに小さな穴または孔を形成させることを意味する。本明細書中でいう微細孔処理プロセスとは、エレクトロポレーションによって形成される開口と主に微細孔の最小の大きさにより区別される。微細孔は、少なくとも幅1ミクロン以上、そして少なくとも1ミクロンの深さである。一方、エレクトロポレーションによって形成される開口部は、代表的には、任意の寸法において、たった数ナノメートルである。好ましくは、穴または微細孔は直径約1mm以下であり、そしてより好ましくは直径約300μm以下であり、そして以下に記載されるように選択された深さに達する。
【0023】
本明細書中で使用する、「微細孔」または「孔」は、微細孔処理方法によって形成された上記のような開口を意味する。
【0024】
本明細書に使用される場合、「切除」は、細胞、または生体膜または組織のいくつかの部分を含む他の成分を含み得る物質の、以下のいずれかによって引き起こされる制御された除去を意味する:このような物質の蒸発性成分のいくらかまたは全てが、気化が生じる点まで加熱され、そしてこの相転移に起因する、得られた迅速な体積膨張によって、この物質およびおそらくいくらかの隣接する物質が切除部位から除去される場合に放出される、運動エネルギー;細孔処理部位での、組織のいくらかまたは全ての熱分解、機械的分解、または超音波分解。
【0025】
本明細書中で使用する、「フラックスエンハンサー」とは、任意の機構によって生体組織または膜を通過した流体の流速を増大させる任意の物質を意味する。この流体は、例えば:生物活性剤、薬物、分析物、色素、染色剤、微粒子、ミクロスフェア、化合物または他のいくらかの化学処方物、であり得る。以下により詳細に記載するように、対象の流体の流れは、例えば、細孔処理された生体組織または膜の間質の流出の流れであり得るか、または細孔処理された生体組織または膜への薬物の流れであり得る。フラックスエンハンサーが組織を通過した流体の流速を増大させ得る機構の代表的な例は、以下:流体の粘性の減少;組織内の細胞間経路の拡張;毛細管壁の障壁特性の減少を含むが、これらに限定されない。
【0026】
フラックスエンハンサーとして用いられ得る物質には、アンモニアガス、アンモニアヘパリン、およびアンモニア炭酸水素塩のようなアンモニア関連物質;ヒスタミン、血小板活性因子(PAF)、ブラジキニン、ニコチン酸、およびニトログリセリンのような血管拡張薬;オータコイド(ヒスタミン、ブラジキニン、エイカノソイド(eicanosoid)(例えば、プロスタグランジン、ロイコトリエン、およびトロンボキサン))、サイトカイン、およびインターロイキンのような炎症性メディエーター;サブスタンスP、アセチルコリン、およびニューロキニンAのような神経伝達物質;血小板由来増殖因子(PDGF)、および血管内皮増殖因子(VEGF)のような増殖因子;サブスタンスP、およびマストパランのような肥満細胞脱顆粒因子;抗インテグリン、および非インテグリンのような細胞外マトリクス接着インヒビター;ヒアルロニダーゼ、トリプシン、およびパパインのような酵素;安息香酸のような静真菌性化合物;カプサイシンのような神経末端由来の神経ペプチドを放出する化合物;乳酸、グリコール酸、およびサリチル酸のような角質溶解剤;カンタリジンのような水疱形成剤;ヘパリンおよびフッ化ナトリウムのような抗血液凝固剤;マスタード油およびハッカ油のような食物油;カンフルのような掻痒薬;エタクリン酸ナトリウムおよびフロセミドのような利尿薬;ならびに、VEGF、PAF、ロイコトリエン、キニン(ブラジキニンおよびカリジン)、ヒスタミンおよびエストロゲンのような毛細血管透過性エンハンサー(溢出物)が、挙げられるが、これらに限定されない。フラックスエンハンサーとして有効であると証明された1つの物質は、AfterBiteの登録商標のもとで、Littleton,NHのTender Corpによって販売されるアンモニアベースの溶液である。
【0027】
「有効量」のフラックスエンハンサーとは、組織を通過する流速の所望の増大を生じるために必要な物質の量である。
【0028】
本明細書中で使用する、用語「生物活性剤」、「薬物」、「薬理学的活性剤」、もしくは「送達可能な物質」、または他の任意の類似の用語は、以前から当業者に公知の方法によっておよび/または本発明において教示される方法によって、送達に適する任意の化学的または生物学的材料または化合物を意味する。そして、これは、生物学的効果または薬理学的効果のような所望の効果を誘導し、そして、この効果は、(1)その生物に対する予防効果を有し、そして所望でない生物学的効果を妨げること(例えば、感染を妨げること)、(2)疾患により引き起こされる状態を軽減すること(例えば、疾患の結果として引き起こされる疼痛または炎症を軽減すること)、(3)生物から疾患を軽減すること、低減すること、または完全に排除することのいずれか、および/または(4)必要に応じて、可逆的な様式で、特定の分析物の濃度の変化に反応し得、そしてこのように反応する際、この領域へのエネルギーの適用に対する、この化合物または処方物の検出可能な応答の検出可能な移動を引き起こし得る化合物または処方物の、生物の生存可能な組織層内への配置を含むがこれらに限定されない。このエネルギーは、電磁的、機械的、または音響的である。
【0029】
「有効量」の薬物とは、所望の生物学的効果または薬理学的効果をもたらすのに十分な薬物の量を意味する。
【0030】
本明細書中で使用する、「分析物」は、本発明において教示される技術によってかまたは当該分野において既に公知の技術によって、生体組織または膜からのサンプリングに適した、任意の生物体内の化学的または生物学的物質もしくは化合物を意味し、そしてその存在、濃度、または他の特徴の決定が求められる。グルコースは皮膚を通る通過に適切な糖であるので、分析物の特定の例であり、そして個体、例えば、糖尿病を患う個体は、その血液グルコースレベルを知ることを所望し得る。分析物の他の例として、ナトリウム、カリウム、ビリルビン、尿素、アンモニア、カルシウム、鉛、鉄、リチウム、サリチル酸塩、抗体、ホルモンもしくは外因性送達物質などのような化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
まず図1に参照されるように、本発明は、生体膜10を含む生物学的組織5から収集される流体、または生体膜10を含む生物学的組織5へ送達される流体のフラックスの速度を増強するための方法に関する。生体膜および膜下(sub−membrane)組織における特定の深さにおいて、細胞および毛細管、ならびに細胞と毛細管との間の空間を満たす間質液が存在する。例えば、皮膚において、真皮中に毛細管が存在する。
【0032】
生物学的組織5は、1つ以上の微細孔30(代表的に、いくつかの孔が1つの部位で形成される)で細孔処理される。微細孔の深さは、所望される適用に従って選択的に変更され得る。例えば、図1は、いくつかの可能性のある細孔処理の深さを示す。微細孔30は、生体膜10の種々の深さへ、または生体膜10を貫通して膜下組織へ伸長され得る。例えば、生体膜5中の毛細管への、より直接的な接近を得るために、生体膜5中に十分な深さに細孔処理することが所望され得る。例は、真皮中に細孔処理することである。選択された深さに細孔処理することの利点は、本明細書中以後でより詳細に記載される。組織5中に1つ以上の微細孔30の選択された深さを形成するために、組織5の細孔処理は、探針、熱線もしくは他の熱供給源、光学的エネルギー供給源、音波エネルギー供給源、微小ランセット(microlancer)、高圧流体噴出によって、またはいくつかの他のエネルギー供給源によって、組織5の切除または微小穿刺を含む方法により実行され得る。本発明を実施するための細孔処理方法およびデバイスのいくつかの例示的な実施態様が、本明細書中に開示される。
【0033】
このような細孔処理技術の1つは、加熱された探針を使用する。加熱された探針を使用して、生物学的組織または生体膜において、選択された深さの1つ以上の微細孔を形成する。この加熱された探針は、図2および図3に示される実施態様において有用である。加熱された探針は、生体膜の外層のすぐ下の含水生組織層中へ、または含水生組織層を貫通して十分なエネルギーを送達し得、その結果、細孔処理プロセスは組織中に選択された深さまで連続し得、より深い層を貫通して透過する。例えば、皮膚の場合、表皮、真皮を貫通して、そして所望されるならば、下方の皮下層にまでを含む。システムが、角質層、粘膜または頬粘膜の真下の生組織へ、または生組織を貫通していくらかの距離を伸長する微細孔を作製するように設計される場合の問題は、細孔処理プロセスの間、近接組織に対する損傷および被験体の感覚の両方をいかに最小化するかである。実験的に、適切に加熱された探針は、固形の電気的または光学的に加熱されたエレメントであり、数百ミクロン以下の幅であるように物理的に規定された、活性な加熱された探針先端を有し、そして支持基材から数ミリメートルまで突出していることが示されている。加熱された探針を通る電流の単一パルスまたは複数パルスは、組織中に、または組織を貫通して十分な熱エネルギーを送達し得、物理的設計が可能である程度に深く透過するための切除を可能にする。この支持基材は、組織への透過の程度を限定するための成分として作用し得、本質的に、加熱された探針が新鮮な細孔処理されていない組織を接触させるために、微細孔中に透過し得る深さを制限する。上記の加熱された探針の電気的および熱的特性は、これが組織と接触する場合、加熱された探針の温度を十分迅速に調節するためのエネルギーパルスを可能にし、この型の深い組織細孔処理は、本質的に被験体が痛みを伴うことなく達成され得る。実験は、要求される量の熱エネルギーがおよそ20ミリ秒未満内で探針に送達される場合、この手順は痛みを伴わないことを示している。逆に、このエネルギーパルスがおよそ20ミリ秒以上に延長されなければならない場合、被験体の感受性は、パルス幅が延長されるにつれて、迅速にかつ非直線的に増大する。
【0034】
この型の選択された深さの細孔処理を支持する、電気的に加熱された探針設計は、50〜150ミクロン直径のタングステンワイヤを鋭いキンク(kink)に屈曲させ、このワイヤの中点近くで最小の内部半径を有する180度に近い屈曲を形成することにより形成され得る。次いで、この微小な「V」型ワイヤ片は、「V」の点が、その上に堆積された導電極を有する支持片からある程度の距離をおくように取り付けられ得る。ワイヤがこの支持体から離れている距離は、ワイヤが加熱された場合の組織へのまたは組織を貫通する最大透過距離を規定する。タングステン「V」の各脚部は、順に電流のパルス回路に接続され得る支持キャリア上の電極の一方に付着される。電流が適切に制御された様式でワイヤに送達される場合、ワイヤは、所望の温度に迅速に加熱され、電流の単一パルスまたは複数パルスのいずれかで熱的切除プロセスをもたらす。探針の動力学的インピーダンスをモニタリングし、そしてタングステンエレメントの抵抗係数と温度との間の関係を知ることによって、加熱されたエレメントの温度の閉ループ制御は、容易に樹立され得る。また、探針(電極として作用する)と探針の接触点からいくらかの距離をおいて配置される第2の電極との接触点から皮膚を貫通するインピーダンスを動力学的にモニターすることによって、孔の深さは、透過の深さの関数として、組織の異なるインピーダンス特性に基づいて制御され得る。
【0035】
この型の選択された深さの細孔処理を支持する光学的に加熱された探針設計は、光ファイバーを採用し、そして固体キャップまたはコーティングからなる先端を一方の端部に配置することにより、造られ得る。レーザーダイオードのような光源が、ファイバーの他方の端部に結合される。ファイバーに最も近い先端の側は、光子がファイバーの端部に達し、そしてこの吸収材料に衝突する場合、光子のいくらかが、吸収され、次いで先端の加熱を引き起こすように、光源によって放出される波長の範囲、または選択された波長にわたって、十分高い吸収係数を有する。この先端、ファイバー、および供給源アセンブリの特定の設計は、広範に変化し得る;しかし、50〜1000ミクロン幅の全体的な直径を有するファイバーは、市販されており、そして光学的エネルギーを数千ワットまで放出する供給源も、同様に市販されている。実際の熱探針を形成する先端は、高融点物質(例えば、タングステン)から作製され得、先端内で円筒孔へのファイバーの挿入を可能にするように精密に製作することによりファイバーへ付着され得る。先端の遠位端がこの先端からの熱拡散を制限し、そして用いられる光学的パルス幅の時間枠内で先端をファイバーへ取りつける支持シリンダーをバックアップさせるように作製される場合、この先端に入射する光子は、組織表面に対して配置される、ファイバー側および接触側の両方において迅速に温度を上昇させる。組織表面に対するファイバー/先端アセンブリの位置づけは、直下の組織が切除されるにつれて、先端自体は組織中に進むように、いくらかのバネ張力下で組織表面に対して先端を保持するように設計された単純な機構を用いて達成され得る。このことは、熱切除プロセスを、所望される限り組織中へまたは組織を貫通して連続させることを可能にする。この光学的に加熱された探針設計のさらなる特徴は、ファイバーによって集められる加熱された先端からの黒体放射エネルギーをモニターすることによって、先端温度の非常に単純な閉ループ制御が、もたらされ得ることである。また、先述のように、探針の接触点および探針の接触点からいくらかの距離を置いて配置された第2の電極からの身体を貫通するインピーダンスを動力学的にモニターすることにより、細孔の深さは、組織への細孔透過の関数として、組織の異なるインピーダンス特性に基づいて決定され得る。
【0036】
インピーダンスは、任意の技術によって作製される細孔の深さを決定するために用いられ得る。なぜなら、これは、異なる組織構造が異なるインピーダンスの特徴を有することが周知であるからである。従って、インピーダンスは、選択された深さの細孔を作製するための制御システムへの入力として使用され得る。測定されるインピーダンスは、選択された組織のインピーダンス特性を強調するために組織上または組織中の2つ以上の電極(これらのうちの1つは、好ましくは加熱された探針である)間の、選択された頻度成分を有するシグナルを適用するデバイス(例えば、ネットワーク分析機)を用いて測定される、複雑なインピーダンスであり得る。
【0037】
フラックスエンハンサーの送達は、種々の方法およびデバイスによって達成され得、これらのいくつかの実施例が、本明細書中でより十分に記載される。組織へのフラックスエンハンサーの送達は、生体膜の微細孔処理から別々に実行され得るか、またはあるいは、微細孔処理およびフラックスエンハンサーの送達は、実質的に同時に実施され得る。別々に実行される場合、フラックスエンハンサーは、生体膜の微細孔処理の前または微細孔処理の後に送達され得る。
【0038】
図2は、生物学的組織5へのある量のフラックスエンハンサー42の送達のための探針または透過デバイス40の使用を示す。探針40は、鋭利な先端またはエッジ44と共に提供し得、組織5の生体膜10の透過または穿孔を可能にし、それによって、探針40が組織5中に微細孔30を形成するための細孔処理手段として作用することを可能にする。あるいは、探針40は、上記の加熱された探針(電気的に加熱された探針または光学的に加熱された探針を含む)のような、生体膜10を細孔処理するための加熱されたエレメントを含む。なお別の代替の実施態様において、微細孔30は、他の細孔処理手段によって別々に形成され得、探針40は微細孔30へフラックスエンハンサー42を送達するために単に作用する。
【0039】
フラックスエンハンサー42は、探針40内のチューブ46中に運ばれ得るか、または探針の外表面48上に運ばれ得る。移行手段は、探針40によって組織中へ運ばれるフラックスエンハンサー42の少なくとも一部を移行または放出するために提供される。例えば、フラックスエンハンサー42は、シリンジまたは探針へ接続された他の加圧手段によって、探針中のチューブ46から組織5へ注入され得る。あるいは、探針40の加熱は、フラックスエンハンサー42を放出する(例えば、探針40上に運ばれたフラックスエンハンサーの量の一部の気化による)ために作用し得る。
【0040】
別の実施態様を、図3に示す。キャリアデバイス50は、生体膜の表面上または生体膜の表面近くに位置するフラックスエンハンサー42の有効量を含むリザーバ52を包含する。探針または透過デバイス40(上記に記載される)は、フラックスエンハンサー42を放出するために、リザーバ52中にまたはリザーバ52を貫通して挿入され、そして微細孔30を形成する。鋭利な先端44は、キャリアデバイス50および生体膜10を透過する。あるいは、探針40は、加熱された探針であり、そして熱的な切除によって微細孔を形成する。
【0041】
好ましくは、十分なエネルギーは、フラックスエンハンサーの少なくとも一部を気化するためにフラックスエンハンサー42に適用される。フラックスエンハンサー42の気化は、いくつかの利点を提供する。例えば、その気化状態において、フラックスエンハンサー42(例えば、アンモニア)は、より速く組織へ浸透し、それによって、組織5中の流体のフラックス速度をより良好に増強する。フラックスエンハンサー42の気化はまた、微細孔30へのフラックスエンハンサーの加圧化放出を可能にし、この放出は、組織中の流体のフラックス速度をさらに増強する。種々の方法およびエネルギー供給源を使用して、以下を含むフラックスエンハンサー42を気化させ得る:熱力学的エネルギー移動(例えば、フラックスエンハンサー42のリザーバ52への超音波の適用による);電磁放射線(例えば、電磁波加熱);伝導;または対流。いくつかの例は、以下で非常に詳細に議論される。
【0042】
例えば、フラックスエンハンサーの気化のためのエネルギーは、上記の機構によって加熱された探針40の導入を通じて、伝導によって提供される。単一工程での、フラックスエンハンサー42のリザーバ52を貫通して、そして組織5への加熱された探針40の導入は、有利には、組織5へのフラックスエンハンサー42の気化および送達と実質的に同時に、組織5を細孔処理する。微細孔が形成されるべき部位にわたる組織5上のフラックスエンハンサー42のリザーバ52の位置決めは、微細孔30への送達を保証するために維持される。
【0043】
図4に変わって、別の実施態様に従うキャリアデバイスを、一般に参照番号100で示す。キャリアデバイス100は、基材層102、エネルギー吸収層104、有効量のフラックスエンハンサー106、および電磁エネルギーに対して透過性である被覆層108を備える。基材層102は、デバイスの種々の成分を支持し、そしてエネルギー吸収層104および透過性被覆層108と整列した、その中の開口部110を規定する。エネルギー吸収層104は基材層102の底表面上に位置し、それによってエネルギー吸収層104は生体膜と接触して配置され得る。リザーバまたはチャンバは、エネルギー吸収層104と透過性被覆層108との間の開口部110の空間において規定される。従って、このリザーバは、エネルギー吸収層104と透過性被覆層108との間のサンドイッチ様構造において塞がれる。このリザーバは、フラックスエンハンサー106を含む。収集エレメント112(例えば、吸収性のアッセイ層(当該分野で周知である))はまた、必要に応じて、基材層102の別の部分上に含まれる。基材層102は、例えば、皮膚に付着するために、その底部上に接着剤を含み得る。他の付着手段(例えば、外科手術用テープなど)もまた適切である。
【0044】
微細孔処理/採取/分析手順において多くの機能を実施するためのデバイスは、「Integrated Poration,Harvesting and Analysis Device,and Method Therefor」と題された、同時係属中の米国仮出願第60/077,135号(代理人整理番号19141.0014、同じ日に出願された)において開示され、これは、その全体が本明細書中で参考として援用される。
【0045】
フラックスエンハンサー106の量は、固体、ゲル、液体、または蒸気を含み得る。液体フラックスエンハンサーの使用は、キャリアデバイス100において側方熱移行を減少し、これによって人が観察するいずれの焼灼感覚も減少させることが見出された。化学結合剤またはキャリア液体もしくはゲルのような融合手段は、完全なフラックスエンハンサー106の量を維持するために提供され得る。
【0046】
基材層102は、好ましくは、市販のポリカプロラクトン、または酢酸セルロースのような生体適合性材料から作製される。
【0047】
エネルギー吸収層104は、外部供給源(例えば、レーザーまたは焦点光エネルギーの他の供給源)から受け取ったエネルギーを吸収し、そのエネルギーを熱に変換し、かつ切除により少なくとも1つの微細孔を形成するように組織の標的部分にその熱を移行し得る。例えば、エネルギー吸収層104は、色素層を備え得、これは、外部エネルギー供給源に反応性の任意のエネルギー吸収材料から形成され得るか、またはそこに吸収材料を適用した非吸収材料から形成され得る。銅フタロシアニン(CPC)色素で処理した可塑性フィルムは、750〜950nmの間の波長で光源から受容可能な熱吸収を提供することが見出された。他の材料が特定の範囲の波長で光エネルギーを吸収することが公知であり、そしてその範囲内で光エネルギーを生成するエネルギー源とともに使用され得る。この実施態様において、エネルギー源は、標的生物学的組織によって吸収される波長でエネルギーを生成しないことが好ましい。その結果、組織に対して不慮の損傷の可能性が最小化される。
【0048】
キャリアデバイス100の使用は、図5と合わせて記載される。キャリアデバイス100は、細孔処理される生物学的組織(例えば、皮膚)の表面に配置される。電磁エネルギー源120(例えば、光エネルギー)は、キャリアデバイス100上の透明カバー層108に集中される。集中された光エネルギーは、エネルギー吸収層104によって吸収され、それによって、エネルギー吸収層104が加熱される。集中された光エネルギーの吸収によって生成された熱は、フラックスエンハンサー106に移行されて、フラックスエンハンサー106の少なくとも一部分を気化する温度までそれを最終的に加熱する。このことと実質的に同時に、集中された光エネルギーの吸収により生成された熱は、エネルギー吸収層104の下の組織5に移行されて、組織に対して1つ以上の細孔30を切除する。集中された光エネルギーの吸収によって生成された熱は、エネルギー吸収層104の一部分を徐々に破壊する。このことによってエネルギー吸収層104を通って開口を融解または焼灼し、(いまや気化した)フラックスエンハンサー106の少なくとも一部分の微細孔30を通る組織5への放出を可能にする。
【0049】
キャリアデバイス100は、最初に、無傷のエネルギー吸収層を備える。これは、通常、フラックスエンハンサー106に不透過性であるが、外部エネルギー源からの十分なエネルギーの吸収に際してフラックスエンハンサー106を放出するように破断される。1つのキャリアデバイスを通して同時に光エネルギーで組織を切除し、そしてフラックスエンハンサーを気化させることによって、気化したフラックスエンハンサーの微細孔への送達を確実にするように形成された微細孔に見当合わせ(registration)を固有に提供する。
【0050】
収集適用について、キャリアデバイス100は、収集エレメント112が流体(間質液など)を収集する位置にあるように細孔処理された部位上に配置される。さらに、微細孔が形成され、そしてフラックスエンハンサーが放出される前、その間またはその後に、この部位で直接吸引を適用し得る。このような吸引デバイスは当該分野で周知である。
【0051】
薬物送達適用については、キャリアデバイス100は、組織への送達のためにある量の薬物114をさらに含む。この薬物は、固体、ゲル、液体、または蒸気形態にあり得る。薬物114の量は、上記のように、フラックスエンハンサー106とともに、キャリアデバイス100のリザーバ中に含まれ得る。図7〜9は、細孔処理の間にフラックスエンハンサーを送達するためにおよび細孔処理された組織への薬物の送達に適切なデバイスを例示する。
【0052】
キャリアデバイスの別の実施態様は、図6に示される。キャリアデバイス200は、透過性基材層202およびその底部表面上にエネルギー吸収層204を備える。エネルギー吸収層204は、ある量のフラックスエンハンサー206で処理されるか、そうでなければフラックスエンハンサー206を組み込む。フラックスエンハンサー206は、顆粒状または粉末状形態であり得、そしてエネルギー吸収層204に適用されるか、そこに組み込まれる。エネルギー吸収層204は、同時係属中の「Integrated Poration,Harvesting and Analysis Device,and Method Therefor」と題された米国仮特許出願第60/077,135号に記載される光増感アセンブリに類似した構造を備え得る。例えば、重炭酸アンモニウム結晶を、上述の同時係属中の出願に記載される製造技術に基づいて、エネルギー吸収層204中に懸濁させる。接着剤を基材層202の底部表面上に提供して、デバイスを部位に付着させ得る。このデバイス200を、図5に示されたデバイス100と同じ様式で使用する。上記のように、エネルギー吸収層204は、外部エネルギー源からエネルギーを吸収し、これによってエネルギー吸収層を加熱する。熱は、下にある組織に移行されて、その組織の一部分を切除し、そして1つ以上の微細孔を形成する。さらに、エネルギー吸収層における熱は、エネルギー吸収層に組み込まれたフラックスエンハンサーを気化させ、これによって微細孔(単数または複数)へフラックスエンハンサーを放出する。エネルギー吸収層204はまた、熱気化によって適切に放出され得るある量の薬物で処理され得る。
【0053】
微細孔を通る標的生物学的組織へのフラックスエンハンサーの送達は、流体の組織を通過して流れる速度を増加させる。組織の選択した深さへの細孔処理は、フラックスエンハンサーを選択した組織または選択した組織部分へ送達することを可能にする。本発明は、これによって、以前から公知の収集および送達方法と比較して、有意に改善された結果を提供する。
【0054】
図7および8を参照すると、細孔処理された組織へ送達するための薬物を含むための、およびフラックスエンハンサーを送達するためのデバイスは、一般的に参照番号300によって示される。デバイス300は、ガス状、液体、ゲル、または固体形態で、ある量の薬物混合物310を含むリザーバパッチである。このリザーバは、下部膜330に対して密着している上部膜320の間に規定され、かつそこに備えられる。下部膜330の底部表面上に、プリント回路340が配置され、好ましくは、下部膜330の中心領域に配置される。プリント回路340における選択された点において、複数の電気的に加熱された探針342が接続され、そして取り付けられる。より詳細には、電気的に加熱された探針342は、2セットの電気伝導性接触パッド344および346間に接続される。電気的に加熱された探針342は、前述および同時係属中の出願に記載の加熱ワイヤに類似する。さらに、下部膜330の外周周辺に、接着剤を、組織上にデバイス300が保持されるように提供し得る。下部膜330全体は、剥離可能な(pealable)カバーによって密着され、このカバーは、デバイスを無菌状態に保ち、そして回路340を露出から保護する。従って、デバイス300は、完全に使い捨てである。ある量のフラックスエンハンサーが、前述に記載のフラックスエンハンサーの1つを含む混合物で探針をコーティングすることによって、電気的に加熱された探針342の表面に適用され得る。
【0055】
操作時に、デバイス300は、組織または生体膜上に設置される。接着剤カバーが取り除かれ、そしてデバイスが確実に付着される。電流が回路340に供給され、これによって電気的に加熱した探針342にエネルギーを与える。探針342は徐々に加熱され、そして組織を熱的に切除して、そこに微細孔を形成する。さらに、電気的に加熱された探針の表面上のフラックスエンハンサー混合物は、気化し、そして微細孔を通して組織へ取り込まれる。微細孔の熱作製と実質的に同時に、下部膜330は融解され、そして複数のチャネルが、組織に作製された微細孔へ薬物混合物310を送達するために形成される。
【0056】
一旦微細孔が形成されると、電気的に加熱された探針342は、非常に穏和な電圧源に接続されて、組織を電気細孔処理し得る。これは、「Apparatus And Method For Electroporation Of Microporated Tissue For Enhancing Flux Rates For Monitoring And Delivery Applications」と題された、同日に出願された同時係属中の米国特許出願第09/036,169号、代理人整理番号19141.0005(これは、本明細書中にその全体が参考として援用される)にさらに記載される。1997年12月30日に出願された、「Microporation of Biological Tissue For Delivery of Bio−Active Agents」と題された国際出願番号PCT/US97/24127(これは、その全体が本明細書中に参考として援用される)もまた参照のこと。ACまたはDC電流が微細孔を通過して生成されて、組織への薬物の能動的なイオンポンピングを誘導し得る。これは、DCイオンフローを支持するために各々が補完的に荷電された溶液(これは、薬物の正味の有効なフラックスを組織内に生じさせる)を有する2つの別個のリザーバを提供することによってさらに増強され得る。
【0057】
フラックス速度を制御する別の技術は、電気的に加熱された探針を使用するか、または別々に加熱された探針がデバイスに形成されて薬物混合物を徐々に加熱することである。このことによって、引き続くリザーバ内での熱膨張および圧力増加を引き起こす。この加熱プロセスは、薬物混合物のある部分が気化する点まで拡大され得る。これは、リザーバ内の大きな圧力増加を生じ、この圧力は、蒸気が実質的に濃縮され、そして圧力が最初の受動状態に戻るまで高いままである。さらに別の技術は、電気的に加熱された探針を薬物混合物と接触させ、そして溶液のいくつかの成分を電気分解するための手段としてこれらの探針間で電位差を発生させることによってそれらを電極として使用して、液体またはゲル混合物からガスを遊離させることである。このことによって、圧力の所望の増加を引き起こす。
【0058】
図9を参照すると、参照番号400で一般的に示される別のデバイスは、微細孔処理した組織へフラックスエンハンサーを送達するように、そして組織へ薬物を送達するように提供される。このデバイス400は、リザーバパッチデバイスである。これは、図7および8と関連して記載されたリザーバに類似した、薬物混合物410のリザーバを備える。薬物混合物410は、上部膜420および下部膜430によって規定されたチャンバ内に含まれる。下部膜430は、非孔性可塑性材料から形成され、この材料は、図6と関連して記載された化合物と類似した、エネルギー吸収性化合物で処理されている。さらに、ある量のフラックスエンハンサーが下部膜430のエネルギー吸収性化合物内に懸濁される。上部膜420は、光透過性の材料から形成されて、上部膜420を通して光エネルギーを通過させる。薬物混合物410は同様に、光エネルギーに対して透過性である。
【0059】
デバイス400の操作は、図6と関連して記載されたデバイスと類似している。すなわち、デバイスは組織に適用され、そして参照番号450で示される光エネルギーのビームが、下部膜430上に上部膜420を通してデバイス上に集中される。下部膜430は、光エネルギーに反応して徐々に加熱され、そして下部膜430に微細孔を形成し、そしてまた、光エネルギーの集中したスポットにおいて融解し、これによって薬物混合物410を微細孔を通して組織中に放出させる。下部膜430は、その全表面にわたってもしくは周辺端が接着剤でさらに処理され得るか、または加熱したスポットと組織表面との間の熱インピーダンスを減少するように設計された化合物で処理され得る。あるいは、デバイス400は、2つのチャンバまたはリザーバ(このうち1つはフラックスエンハンサー用、1つは薬物用)を備え得る。
【0060】
好ましくは、本明細書中に記載されたデバイスは、薬物リザーバ全体、細孔処理エレメント、および必要に応じて制御回路、ならびに電源が、およそ懐中時計以下のサイズでコーンタイムユース(cone−time−use)パッケージ中に収容されるように構成される。このプラットフォームは、痛み止めの術後送達、または制御可能な経皮送達系が有用である他の急性処置レジメンのような適用に適切である。
【0061】
薬物送達適用において、フラックスエンハンサーの生物学的組織への送達は、標的組織または血流への薬物導入の増加した速度を可能にする。従って、所定の量の薬物は、以前から公知の送達方法と比較して、短期間で組織または血流へ送達され得る。また、細孔処理の深さおよびフラックスエンハンサーの送達の選択的制御によって、本発明は、以前の非侵襲性または最小限に侵襲性の送達技術を使用して達成され得るものより、より深い組織へまたは適用部位からより離れた組織への薬物の効果的な送達を可能にする。例えば、本発明は、組織の毛細管の深さまで薬物の送達を可能にし、これによって、薬物が異物に対する身体の反応によって代謝される前に、血流への改善された取り込みを提供する。これは、選択された深さまで組織を細孔処理することによって達成され、それによってフラックスエンハンサーが毛細管壁または毛細管に隣接した組織へ送達され、そして微細孔を通ってフラックスエンハンサーおよび薬物が送達され得る。イオン導入、超音波エネルギー、機械的圧力および操作または他の原動力を使用して、薬物送達の速度をさらに増強し得る。このようにして、フラックスエンハンサーおよび薬物の送達は、血流への薬物のより速い取り込みを生じる。従って、被験体生物による薬物取り込みの速度は、所望されるように、細孔処理の深さの適切な選択ならびに本明細書中に記載されるフラックスエンハンサーおよび他の原動力の制御の適用によって制御され得る。
【0062】
上記の実施態様は、例示として提供されるのみであり、そして制限することも、網羅することも意図されない。多くの付加、欠失または改変が、特許請求の範囲によって規定されるような本発明の思想および範囲から逸脱することなくなされ得ることは当業者に明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載される発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−5283(P2011−5283A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199420(P2010−199420)
【出願日】平成22年9月6日(2010.9.6)
【分割の表示】特願2007−64243(P2007−64243)の分割
【原出願日】平成11年3月5日(1999.3.5)
【出願人】(500415759)アルテア セラピューティクス コーポレイション (11)
【Fターム(参考)】