説明

微細繊維状セルロースの製造方法

【課題】セルロース繊維を機械的に解繊することによって、繊維幅が2〜1000nmの微細繊維状セルロースを容易に得ることができる微細繊維状セルロースの製造方法を提供する。
【解決手段】セルロース繊維を少なくとも脱脂工程、脱リグニン工程、脱ヘミセルロース工程、微細化工程を経て処理し、繊維幅が2〜1000nmの微細繊維状セルロースを製造する方法であって、該脱リグニン工程において酸性水溶液処理を行う微細繊維状セルロースの製造方法である。また、前記脱リグニン工程において酸性水溶液処理を行ってからアルカリ水溶液処理を行う微細繊維状セルロースの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維を機械的に解繊することによって、繊維幅が2〜1000nmの微細繊維状セルロースを容易に得ることができる微細繊維状セルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物質をナノメートルサイズの大きさにすることによりバルクや分子レベルとは異なる物性を得ることを目的としたナノテクノロジーが注目されている。一方で、石油資源の代替および環境意識の高まりから再生産可能な天然繊維の応用にも注目が集まっている。
天然繊維の中でもセルロース繊維、とりわけ木材由来のセルロース繊維(パルプ)は主に紙製品として幅広く使用されている。紙に使用されるセルロース繊維の幅は10〜50μmのものがほとんどである。このようなセルロース繊維から得られる紙(シート)は不透明であり、不透明であるが故に印刷用紙として幅広く利用されている。一方、セルロース繊維をレファイナーやニーダー、サンドグラインダーなどで処理(叩解、粉砕)し、セルロース繊維を微細化(ミクロフィブリル化)すると透明紙(グラシン紙等)が得られる。しかし、この透明紙の透明性は半透明レベルであり、光の透過性は高分子フィルムに比べると低く、曇り度合い(ヘーズ値)も大きい。
【0003】
また、セルロース繊維は弾性率が高く、熱膨張率の低いセルロース結晶の集合体であり、セルロース繊維を高分子とコンポジット化することによって耐熱寸法安定性が向上するため、積層板などに利用されている。ただし、通常のセルロース繊維は結晶の集合体であり、筒状の空隙を有する繊維であるため寸法安定性には限界がある。
セルロース繊維を機械的に粉砕し、その繊維幅を50nm以下とした微細繊維状セルロースの水分散液は透明である。他方、微細繊維状セルロースシートは空隙を含むため白く乱反射し、不透明性が高くなるが、微細繊維状セルロースシートに樹脂を含浸すると該空隙が埋まるため、透明なシートが得られる。さらに、微細繊維状セルロースシートの繊維はセルロース結晶の集合体で、非常に剛直であり、また、繊維幅が小さいため、通常のセルロースシート(紙)に比べると同質量において繊維の本数が飛躍的に多くなる。そのため、高分子とコンポジット化すると高分子中で細い繊維がより均一かつ緻密に分散し、耐熱寸法安定性が飛躍的に向上する。また、繊維が細いため透明性が高い。このような特性を有する微細繊維状セルロースのコンポジットは、有機ELや液晶ディスプレイ用のフレキシブル透明基板(曲げたり折ったりすることのできる透明基板)として非常に大きな期待が寄せられている。
【0004】
微細繊維状セルロースに関する微細化技術については数多く開示されているが、パルプを機械的に解繊することによって容易に2〜1000nmの直径の微細繊維状セルロースを得ることができるパルプに関する技術についてはほとんど開示されていないのが現状である。
【0005】
特許文献1に、水保持力を規定した微細繊維状セルロースの技術が開示されているが、クラフトパルプを高圧処理することによって微細繊維状セルロースを得ている。しかし、解繊効率が悪く、直径の細い繊維を得るためには長時間の処理が必要となる。
特許文献2に、セルロースミクロフィブリルの凝集体に、酵素の浸透性を向上させた非晶部分にエンドグルカナーゼを作用させてセルロースナノファイバーを高収率で得る技術が開示されている。しかしながら原料としてあらかじめ微細繊維状になっているセルロースの凝集体を使用しているため、全体の生産性を考慮すると効率が低いといった問題がある。
特許文献3に、湿式で離解したセルロース系繊維原料を予備的に解繊し、超音波処理の工程中にセルラーゼやキシラナーゼ、ヘミセルラーゼなどの酵素を作用させて、効率よくナノファイバーを製造する技術が開示されているが、酵素処理工程が必要であり、効率も十分に高いとは言えない。また、原料には通常の製紙用のパルプが用いられている。
特許文献4に、過硫酸などの酸化剤を用いて繊維を酸化し、酵素で処理し、還元処理を行いフィブリル化する技術が開示されているが、繊維の幅が3〜5μmと大きく、微細化が十分に進んでいない。
特許文献5に、リグノセルロース繊維をシュウ酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、亜塩素酸塩、次亜塩素酸塩のいずれかを用いて叩解処理する技術が開示されているが、フィブリル化は進むものの繊維の幅は太い状態であり、微細化効率の向上には至っていない。
特許文献6に、最大繊維径1μm以下のセルロース繊維からなる微多孔性セルロースシートが開示されているが、パルプ原料は通常の製紙用パルプあるいはバクテリアセルロースが用いられている。
【0006】
化学的処理と機械的粉砕処理とを組合せた方法としては、パルプを軽度に加水分解し、濾過水洗後、乾燥、粉砕して一部非晶領域を含むセルロース微粒子の製造方法や精製パルプを塩酸または硫酸で加水分解して結晶領域のみを残して微粉化する技術が開示されているが、微細化のレベルとしては充分ではなく、得られた微細繊維状セルロースの水系懸濁液の透明性も不充分である(非特許文献1)。ここでは塩酸や硫酸で加水分解しているが、この方法はパルプ化した後の処理であり、本発明とは全く異なる技術であり、解繊性も不十分である。
【0007】
N−オキシル化合物によるセルロースの表面酸化反応を利用し、最大繊維径が1000nm以下かつ数平均繊維径が2〜150nmであり、セルロースの水酸基の一部がカルボキシル基およびアルデヒド基からなる群から選ばれる少なくとも1つの官能基に酸化されており、且つセルロースI型結晶構造を有する微細繊維状セルロースを提供する技術(特許文献7)が開示されている。しかし、この方法では、表面の酸化により親水基が導入されるので、疎水性の樹脂の含浸が困難になるなど、実用面で問題がある。
【0008】
酵素処理、酸処理、アルカリ処理、膨潤薬品処理のいずれかにより前処理した繊維状セルロースを振動ミル粉砕機にて湿式粉砕する技術が開示されている(特許文献8)が、効率が依然として低く、微細繊維状セルロースの収率が低く、実用性に乏しい。また、酵素処理でセルロース繊維の一部が50〜70nmの幅に解繊されているが、繊維の一部であり効率は低い。また、酸処理によってセルロース繊維の幅が1000nm以下になるという記載は無い。
【0009】
さらに、木粉を脱脂し、亜塩素酸ナトリウムと酢酸で脱リグニンし、洗浄、脱ヘミセルロースした後、微細化して微細繊維状セルロースを製造する方法が提案されている(特許文献9)が、塩素化合物である亜塩素酸ナトリウムを使用するため、木粉表面のリグニンは除去されるものの、浸透性が悪いので、木粉の内部にあるリグニンは除去しにくく、その結果、低いYI値の微細繊維は得にくく、また、反応後の排水中に有機塩素化合物が含まれ、環境上の問題が発生する。
【0010】
非特許文献2〜4に酸性水溶液とアルカリ水溶液によって脱リグニンする技術が開示されているが、ヘミセルロースを残してパルプ収率を向上させようとする技術であって、このパルプを利用して機械的解繊して、微細繊維状セルロースを製造するという技術思想はない。
また、特許文献10には、木質チップを希苛性ソーダにより常温で親水化し、希硝酸中でリグニンを選択的に部分酸化して変性し、希苛性ソーダ水溶液を用いて大気圧下で蒸解してパルプを製造する技術が開示されている。高収率でパルプを製造し、リグニンを回収する技術であるが、微細繊維状セルロース用のパルプとして利用する記載はない。
【0011】
上記のように、繊維状セルロースを微細化する技術が種々開示されているが、工業的なレベルで収率の高い微細繊維状セルロースの製造技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】山口章「セルロースの微粉化・ミクロフィブリル化」紙パルプ技術タイムス28巻9号5頁以下(1985年)
【非特許文献2】ウェン・バン・バ「硝酸法パルプに関する研究(第1報) 木材多糖類の挙動」木材学会誌26巻1号12頁以下(1980)
【非特許文献3】ウェン・バン・バ「硝酸法パルプに関する研究(第2報)硝酸法パルプ化に関する研究(第2法) 炭水化物の挙動についてのモデル実験 」木材学会誌26巻11号738頁以下(1980)
【非特許文献4】ウェン・バン・バ「硝酸法パルプに関する研究(第3報) Vanillyl Alcoholと希硝酸の反応」木材学会誌28巻2号129頁以下(1982)
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開昭56−100801号公報
【特許文献2】特開2008−150719号公報
【特許文献3】特開2008−169497号公報
【特許文献4】特表2004−520494号公報
【特許文献5】特許第4306373号公報
【特許文献6】特開2006−193858号公報
【特許文献7】特開2008−1728号公報
【特許文献8】特開平6−10288号公報
【特許文献9】特開2008−24788号公報
【特許文献10】特開2009−167554号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、セルロース繊維を機械的に解繊することによって、繊維幅が2〜1000nmの微細繊維状セルロースを容易に得ることができる微細繊維状セルロースの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、セルロース繊維(木材チップ)を酸性水溶液処理、アルカリ水溶液処理による脱リグニン処理を行ったパルプを機械的に解繊することにより、繊維幅が2〜1000nmである微細繊維状セルロースが容易に得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
本発明は、以下の各発明を包含する。
(1)セルロース繊維を少なくとも脱脂工程、脱リグニン工程、脱ヘミセルロース工程、微細化工程を経て処理し、繊維幅が2〜1000nmの微細繊維状セルロースを製造する方法であって、該脱リグニン工程において酸性水溶液処理を行う微細繊維状セルロースの製造方法である。
【0017】
(2)前記脱リグニン工程において酸性水溶液処理を行ってからアルカリ水溶液処理を行う(1)に記載の微細繊維状セルロースの製造方法である。
【0018】
(3)前記脱リグニン工程における酸性水溶液が硫酸水溶液、塩酸水溶液、硝酸水溶液、ギ酸水溶液、酢酸水溶液から選択される少なくとも1種類である(1)または(2)に記載の微細繊維状セルロースの製造方法である。
【0019】
(4)前記脱リグニン工程におけるアルカリ水溶液が水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液である(2)に記載の微細繊維状セルロースの製造方法である。
【0020】
(5)セルロース繊維を脱脂工程、脱リグニン工程、脱ヘミセルロース工程、微細化工程を順次経て処理する(1)〜(4)のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースの製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明者らは、微細繊維状セルロースの収率を向上させる方法を種々検討した。まず最初に、クラフトパルプ(NBKPやLBKP)やサルファイトパルプ(SP)などの化学パルプを酸性水溶液で処理したが、機械的処理で所望の解繊ができず、微細繊維状セルロースが得られないことが分かった。これはクラフト蒸解やサルファイト蒸解などの脱リグニン方法を適用するとリグニンは除去されるが、同時にセルロースの結晶領域を構成するミクロフィブリル間の結合力を強めてしまい、解繊しにくくなるものと考えられる。
次に、本発明者らは木粉をセルロース繊維の原料として選び、木粉を脱脂処理し、酸性水溶液で脱リグニン処理を行った。このようにして得られたセルロース繊維は非常に解繊性に優れ、繊維幅が2〜1000nmの微細繊維状セルロースが容易に得られることを見出した。これは、脱リグニン工程において酸性水溶液処理を施すことによりリグニンが効果的に除去され、セルロースとリグニンとの結合が弱められ、それによって微細なフィブリル間、さらには結晶領域を構成するミクロフィブリル間の結合力が低下して、機械的処理によるパルプの微細化が容易にできるものと考えられる。
【0022】
一方、微細繊維状セルロースを得るためセルロース繊維をフィブリル化させる方法として、酵素(キシラナーゼ、セルラーゼ)処理や薬品(アルカリ、塩化亜鉛、エチレンジアミン、チオ尿素、ベンゼンスルホン酸)処理等が知られているが、本発明では脱リグニン方法としては大きなメリットがないと言われた酸性水溶液による脱リグニンを採用したことに特徴を有するものである。
本発明によって微細繊維状セルロースを容易に得ることができる微細繊維状セルロースの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の微細繊維状セルロースを得るための原料としては植物由来のセルロースが好ましい。より具体的には、針葉樹や広葉樹の木材系原料、コットンリンターやコットンリントなどの綿系原料、麻や稲わら、麦わら、バガス(サトウキビしぼり粕)、竹、ケナフ、コウゾ、ミツマタなどの非木材系原料などが挙げられる。これらの中でも木材系原料や非木材系原料が微細繊維化しやすい点で好ましい。綿系原料は微細繊維化しにくいため好ましくない。
なお、該原料の形状は木粉が好ましい。木粉の大きさは1mm以下が好ましく、0.6mm以下がさらに好ましく、0.3mm以下が特に好ましい。木粉の大きさが1mmを超えると微細繊維化し難くなり、好ましくない。
さらに、原料として砕木パルプ、例えば、SGW(Stone Ground Wood)、あるいは亜硫酸ソーダなどで軽度に化学処理した後、砕木化するCGP(Chemical Groundwood Pulp)等も使用可能であり、針葉樹、広葉樹の砕木パルプが好ましく使用される。
【0024】
本発明において上記原料のセルロース含有量は40質量%〜70質量%であることが好ましく、45質量%〜65質量%が特に好ましい。セルロース含有量が40質量%未満であると得られるパルプの収率が低下して、好ましくない。セルロース含有量が70質量%を超えると微細繊維化することが困難となり、好ましくない。
上記原料のリグニンの含有量は10質量%〜40質量%であることが好ましく、15質量%〜35質量%が特に好ましい。リグニン含有量が10質量%未満の場合は微細繊維化することが困難となる。リグニン含有量が40質量%を超えるとパルプの収率が低下して好ましくない。
上記原料のヘミセルロース(キシランやアラバンなどのペントサン)の含有量は2質量%〜35質量%であることが好ましく、5質量%〜30質量%が特に好ましい。ヘミセルロースの含有量が2質量%未満であると微細繊維化が困難となり好ましくない。ヘミセルロースの含有量が35質量%を超えるとパルプの収率が低下して好ましくない。
上記原料の結晶化度は30%〜45%が好ましく、33%〜42%が特に好ましい。結晶化度が30%未満となると微細繊維状セルロースの収率が低下するので好ましくない。結晶化度が45%を超えると微細繊維化し難くなるので好ましくない。
【0025】
本発明においては微細繊維状セルロースを得るために上記原料を少なくとも脱脂工程、脱リグニン工程、脱ヘミセルロース工程、微細化工程を経て処理するものである。
本発明において該脱脂工程では、炭酸塩、アルコール、アルコール−ベンゼンの1:2混合溶液であるアルベン、ベンゼン、脂肪酸のトリグリセリドを分解する酵素であるリパーゼなどを適宜用いることができ、常温で、攪拌しながら、あるいは高温高圧で処理する方法等が挙げられるが、薬剤としては安価で、かつ有機溶媒ではなく、さらに圧力容器を用いないで簡便に使用でき、しかも脱脂効率が高いという理由で炭酸ナトリウム法が好ましい。
【0026】
脱脂工程における炭酸ナトリウムは水溶液として使用するが、炭酸ナトリウム水溶液の濃度は0.1質量%〜10質量%が好ましく、0.3質量%〜7質量%が好ましく、0.5質量%〜4質量%が特に好ましい。炭酸ナトリウム水溶液の濃度が0.1質量%未満であると脱脂効率が低下して好ましくない。炭酸ナトリウム水溶液の濃度が10%を超えると脱脂効果が飽和し、経済的にも必要性に乏しい。
炭酸ナトリウム水溶液に対する原料の添加割合は、1質量%〜10質量%が好ましく、原料の添加割合が1質量%未満になると生産性が低下し、好ましくない。10質量%を超えると脱脂効率が低下し、好ましくない。
炭酸ナトリウム水溶液の温度は40℃〜99℃が好ましく、60℃〜96℃がさらに好ましく、80℃〜93℃が特に好ましい。温度が40℃未満になると脱脂効率が極端に悪くなり、好ましくない。温度が100℃を超えると微細繊維化が困難となり、好ましくない。
【0027】
脱リグニン方法としては酸性水溶液処理を行う必要がある。さらに、酸性水溶液処理を行った後、アルカリ水溶液処理を行った方が微細繊維状セルロースの収率が向上するため、好ましい。酸性水溶液の処理によってリグニンが低分子量化し、低分子量化したリグニンをアルカリ水溶液で除去するという原理である。
脱リグニン工程における酸性水溶液としては、酢酸、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸、酢酸、安息香酸、メタクロロ安息香酸、ギ酸、プロピオン酸等の水溶液が挙げられるが、扱い方が比較的容易な硫酸水溶液、塩酸水溶液、硝酸水溶液、ギ酸水溶液、酢酸水溶液から選択される少なくとも1種を用いるのが好ましい。
酸性水溶液の酸の濃度は、特に制限はないが酸が硫酸や塩酸、リン酸、硝酸などの強酸の場合は、1質量%〜40質量%が好ましく、5質量%〜20質量%が特にこのましい。強酸の濃度が1質量%未満であると微細繊維化が困難となり好ましくない。強酸の濃度が40質量%を超えると原料に含まれるセルロース繊維が分解されてしまい、収率が低下したり、得られる微細繊維状セルロースの繊維幅が細くなり好ましくない。酸が酢酸、安息香酸、メタクロロ安息香酸、ギ酸、プロピオン酸などの弱酸の場合は、70質量%〜100質量%が好ましく、80質量%〜95質量%が特に好ましい。弱酸の濃度が70質量%未満であると微細繊維化が困難となり好ましくない。
酸性水溶液に対する原料(脱脂工程が終了した原料が好ましい)の添加割合(酸性水溶液に対するパルプの固形質量)は0.5質量%〜10質量%が好ましい。原料の添加割合が0.5質量%未満になると生産性が低下し、好ましくない。原料の添加割合が10質量%を超えると脱リグニンの効率が低下し、好ましくない。
酸性水溶液で原料を処理する際の酸性水溶液の温度は40℃〜99℃が好ましく、50℃〜98℃がさらに好ましく、60℃〜97℃が特に好ましい。温度が40℃未満であると脱リグニンの効率が悪くなり、また色が着いた状態となり、好ましくない。99℃を超えると微細繊維化が困難となり好ましくない。
【0028】
脱リグニン工程におけるアルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムが挙げられるが、収率や脱リグニンの効率の点から水酸化ナトリウムや水酸化カリウムが好ましい。
脱リグニン工程におけるアルカリ水溶液の濃度は0.1質量%〜10質量%が好ましく、0.3質量%〜7質量%がより好ましく、0.5質量%〜4質量%が特に好ましい。アルカリ水溶液の濃度が0.1質量%未満であると脱リグニンの効率が低下して好ましくない。アルカリ水溶液の濃度が10%を超えると脱リグニンの効果が飽和し、経済的にも必要性に乏しい。
アルカリ水溶液に対する原料の添加割合は、1質量%〜10質量%が好ましい。原料の添加割合が1質量%未満になると生産性が低下し好ましくない。10質量%を超えると脱リグニンの効果が低下し好ましくない。
アルカリ水溶液の温度は40℃〜99℃が好ましく、60℃〜96℃がさらに好ましく、80℃〜93℃が特に好ましい。温度が40℃未満になると脱リグニンの効率が悪くなり好ましくない。温度が100℃を超えると脱リグニンの効果が飽和し、経済的にも必要性に乏しい。
【0029】
本発明においては脱リグニン工程の後に、脱ヘミセルロース工程を追加してもかまわない。脱ヘミセルロース化する方法としては、アルカリ金属の水酸化物の水溶液を用いて室温で一晩浸漬処理したり、該水溶液中で攪拌しながら高温で短時間処理したり、該水溶液中に圧力下で攪拌しながら高温高圧下で処理する方法などが挙げられる。なかでも用いる薬品としては安価で、常温常圧で使用でき、しかも脱ヘミセルロースの効率が高いという理由で水酸化カリウムが最も好ましい。
水酸化カリウムの濃度は1質量%〜20質量%が好ましく、2質量%〜15質量%が好ましく、3質量%〜10質量%が特に好ましい。水酸化カリウムの濃度が1質量%未満であると脱ヘミセルロースの効率が低下して好ましくない。水酸化カリウムの濃度が20%を超えるとセルロースがマーセル化してしまい、その結果微細繊維状セルロースの収率が低下して好ましくない。
水酸化カリウム水溶液に対する原料の添加割合は、1質量%〜10質量%が好ましい。原料の添加割合が1質量%未満になると生産性が低下し好ましくない。10質量%を超えると脱脂効率が低下し好ましくない。
水酸化カリウム水溶液の温度は1℃〜40℃が好ましく、4℃〜36℃がさらに好ましく、8℃〜32℃が特に好ましい。温度が1℃未満になると脱ヘミセルロースの効率が悪くなり好ましくない。温度が40℃を超えると微細繊維化が困難となるので好ましくない。
【0030】
上記脱ヘミセルロース処理を施したセルロース繊維は水に分散され、水性懸濁液として微細化処理に供される。該水性懸濁液の濃度としては0.1質量%〜7質量%であることが好ましく、0.3〜5質量%であることがより好ましい。濃度が0.1質量%未満であると生産性が低下して好ましくない。一方、濃度が7質量%を超えると、粉砕処理中に粘度が上昇し過ぎ、取扱いが非常に困難になるおそれがある。
【0031】
本発明において、繊維状セルロースの微細化方法には特に制限はないが、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混錬機(二軸押出機)、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなどの機械的作用を利用する湿式粉砕でセルロース系繊維を細くする方法が好ましい。なかでも、高速解繊機、石臼粉砕、高圧ホモジナイザー、あるいはボールミル処理は微細な繊維が効率的に得られるため、特に好ましい。また、TEMPO酸化、オゾン処理、酵素処理などの化学処理を施してから微細化してもかまわない。
【0032】
本発明における微細繊維状セルロースは通常製紙用途で用いるパルプ繊維よりもはるかに幅の狭いセルロース繊維あるいは棒状粒子である。微細繊維状セルロースは結晶状態のセルロース分子の集合体であり、その結晶構造はI型(平行鎖)である。微細繊維状セルロースの幅は電子顕微鏡で観察して2nm〜1000nmが好ましく、より好ましくは2nm〜500nm、さらに好ましくは4nm〜100nmである。繊維の幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しなくなる。1000nmを超えると微細繊維とは言えず、通常のパルプに含まれる繊維にすぎないため、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が得られない。また、微細繊維状セルロースのコンポジットに透明性が求められる用途であると、微細繊維の幅は50nm以下が好ましい。これらの微細繊維状セルロースから得られる複合材料は密度が高く、緻密な構造体となるために強度が高く、セルロース結晶に由来した高い弾性率が得られることに加え、可視光の散乱が少ないため高い透明性も得られる。
【0033】
ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14〜17°付近と2θ=22〜23°付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。また、微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05〜0.1質量%の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、該懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。この際、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定した場合に少なくとも軸に対し、20本以上の繊維が軸と交差するような試料および観察条件(倍率等)とする。この条件を満足する観察画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維幅を目視で読み取っていく。こうして最低3枚の重なっていない表面部分の画像を電子顕微鏡で観察し、各々2つの軸の交錯する繊維の繊維幅の値を読み取る(最低20本×2×3=120本の繊維幅)。
微細繊維の繊維長は1μm〜1000μmが好ましく、5μm〜800μmがさらに好ましく、10μm〜600nmが特に好ましい。繊維長が1μm未満になると、微細繊維シートを形成し難くなる。1000μmを超えると微細繊維のスラリー粘度が非常に高くなり、扱いづらくなる。
繊維長は、TEMやSEM、AFMの画像解析より求めることができる。本発明で言う繊維長は、繊維の30%以上を占める繊維長である。
本発明による微細繊維の軸比は100〜10000の範囲であることが好ましい。軸比が100未満であると微細繊維シートを形成し難くなるおそれがある。また、幅が太くなり、微細繊維の特徴が発現しなくなるおそれがある。軸比が10000を超えるとスラリー粘度が高くなり、好ましくない。
【0034】
本発明においては、微細化工程での微細繊維状セルロースの収率が30%以上であることが好ましい。収率が30%未満であると、セルロースを微細化させない成分が多くなり経済性の点からも好ましくない。
【0035】
なお、本発明においてはセルロース繊維原料を脱脂工程、脱リグニン工程、脱ヘミセルロース工程、微細化工程の順番で処理することが収率の点で好ましい実施態様である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を更に詳しく説明するために実施例を挙げるが、いうまでもなく本発明はこれらに限定されるものではない。また、例中の部および%は特に断らない限り、それぞれ質量部および質量%を示す。
【0037】
<実施例1>
原料としてベイマツの木粉(平均粒子径0.2mm、結晶化度55%)を用い、脱脂処理工程として、木粉(BD30g)を2%炭酸ナトリウム水溶液(1800g)中で攪拌しながら90℃で2時間処理した。処理後の原料は、10倍量の蒸留水で洗浄し、ブフナーで脱水した。
次に脱リグニン工程として、前記脱脂処理した木粉を10%の硝酸水溶液(1500g)に加え80℃、2時間で処理を行った。処理後の原料は、10倍量の蒸留水で洗浄し、ブフナーで脱水した。蒸留水を加えて0.5%のパルプ懸濁液を作製し、微細繊維状セルロース用パルプを得た。
得られた微細繊維状セルロース用パルプを高速解繊機(エムテクニック社製「クレアミックスCLM−2.2S」)で21500回転、30分間解繊(微細化処理)し、微細繊維状セルロース水系懸濁液を得、この上澄み液濃度を測定した。得られた微細繊維状セルロース懸濁液について遠心分離機(コクサン社製「H−200NR」)を用いて約12000Gで10分間処理し、上澄み液濃度を測定し、以下のような計算から収率を求めた。
収率(%)=(遠心分離後の上澄み液の濃度)÷(微細化処理後のスラリー濃度)×100
遠心分離して得た上澄み液中の繊維を電子顕微鏡で観察し、繊維幅を測定した。さらに遠心分離して得られた上澄み液を孔径0.45μmのメンブレンフィルター上で吸引ろ過し、シート化できることを確認した。
【0038】
<実施例2>
原料としてベイマツの木粉(0.2mm、結晶化度55%)を用い、脱脂処理工程として、木粉(BD30g)を2%炭酸ナトリウム水溶液(1800g)中で攪拌しながら90℃で2時間処理した。処理後の原料は、10倍量の蒸留水で洗浄し、ブフナーで脱水した。
次に脱リグニン工程として、前記脱脂処理した木粉を10%の硝酸水溶液(1500g)に加え80℃、2時間で処理を行った。処理後の原料は、10倍量の蒸留水で洗浄し、ブフナーで脱水した。次に1%の水酸化ナトリウム水溶液(600g)に前記処理した木粉を加え、95℃、1時間で処理した。
処理後の原料は、10倍量の蒸留水で洗浄し、ブフナーで脱水した。蒸留水を加えて0.5%のパルプ懸濁液を作製し微細繊維状セルロース用パルプを得た。
得られた微細繊維状セルロース用パルプを高速解繊機(エムテクニック社製「クレアミックスCLM−2.2S」)で21500回転、30分間解繊(微細化処理)し、微細繊維状セルロース水系懸濁液を得、この上澄み液濃度を測定した。得られた微細繊維状セルロース懸濁液について遠心分離機(コクサン社製「H−200NR」)を用いて約12000Gで10分間処理し、上澄み液濃度を測定し、以下のような計算から収率を求めた。
収率(%)=(遠心分離後の上澄み液の濃度)÷(微細化処理後のスラリー濃度)×100
遠心分離して得た上澄み液中の繊維を電子顕微鏡で観察し、繊維幅を測定した。さらに遠心分離して得られた上澄み液を孔径0.45μmのメンブレンフィルター上で吸引ろ過し、シート化できることを確認した。
【0039】
<実施例3>
脱リグニン工程の酸性水溶液である10%の硝酸水溶液の代わりに10%の塩酸水溶液を用いたこと以外は実施例2と同様にして微細繊維状パルプを得た。
実施例2と同様に高速解繊機で解繊処理を行い、微細繊維状セルロースの収率及び繊維幅を測定した。また、シート化できることも確認した。
【0040】
<実施例4>
脱リグニン工程の酸性水溶液である10%の硝酸水溶液の代わりに10%の硫酸水溶液を用いたこと以外は実施例2と同様にして微細繊維状パルプを得た。
実施例2と同様に高速解繊機で解繊処理を行い、微細繊維状セルロースの収率及び繊維幅を測定した。また、シート化できることも確認した。
【0041】
<実施例5>
脱リグニン工程の酸性水溶液である10%の硝酸水溶液の代わりに90%のギ酸水溶液を用いたこと以外は実施例2と同様にして微細繊維状パルプを得た。
実施例2と同様に高速解繊機で解繊処理を行い、微細繊維状セルロースの収率及び繊維幅を測定した。また、シート化できることも確認した。
【0042】
<実施例6>
脱リグニン工程の酸性水溶液である10%の硝酸水溶液の代わりに90%の酢酸水溶液を用いたこと以外は実施例1と同様にして微細繊維状パルプを得た。
実施例2と同様に高速解繊機で解繊処理を行い、微細繊維状セルロースの収率及び繊維幅を測定した。また、シート化できることも確認した。
【0043】
<比較例1>
王子製紙製NBKP(春日井工場製、原料はベイマツ、フリーネス550mlcsf.)を高速解繊機(エムテクニック社製「クレアミックスCLM−2.2S」)で21500回転、30分間解繊(微細化処理)し、微細繊維状セルロース水系懸濁液を得、この上澄み液濃度を測定した。得られた微細繊維状セルロース懸濁液について遠心分離機(コクサン社製「H−200NR」)を用いて約12000Gで10分間処理し、上澄み液濃度を測定し、以下のような計算から収率を求めた。
収率(%)=(遠心分離後の上澄み液の濃度)÷(微細化処理後のスラリー濃度)×100
遠心分離して得た上澄み液中の繊維を電子顕微鏡で観察し、繊維幅を測定しようとしたが収率が低すぎて測定できなかった。さらに、遠心分離して得られた上澄み液を孔径0.45μmのメンブレンフィルター上で吸引ろ過したが、収率が低いために非常に薄いシートしか形成できなかった。
【0044】
<比較例2>
原料としてベイマツの木粉(平均粒子径0.2mm、結晶化度55%)を用い、脱脂処理工程として、木粉(BD30g)を2%炭酸ナトリウム水溶液(1800g)中で攪拌しながら90℃で2時間処理した。処理後の原料は、10倍量の蒸留水で洗浄し、ブフナーで脱水した。
次に脱リグニン工程として、前記脱脂処理した木粉を1%の水酸化ナトリウム水溶液(600g)に加え、95℃、1時間で処理した。処理後の原料は、10倍量の蒸留水で洗浄し、ブフナーで脱水した。蒸留水を加えて0.5%のパルプ懸濁液を作製し、微細繊維状セルロース用パルプを得た。
得られた微細繊維状セルロース用パルプを高速解繊機(エムテクニック社製「クレアミックスCLM−2.2S」)で21500回転、30分間解繊(微細化処理)し、微細繊維状セルロース水系懸濁液を得、この上澄み液濃度を測定した。得られた微細繊維状セルロース懸濁液について遠心分離機(コクサン社製「H−200NR」)を用いて約12000Gで10分間処理し、上澄み液濃度を測定し、以下のような計算から収率を求めた。
収率(%)=(遠心分離後の上澄み液の濃度)÷(微細化処理後のスラリー濃度)×100
遠心分離して得た上澄み液中の繊維を電子顕微鏡で観察し、繊維幅を測定しようとしたが収率が低すぎて測定できなかった。さらに、遠心分離して得られた上澄み液を孔径0.45μmのメンブレンフィルター上で吸引ろ過したが、収率が低いために非常に薄いシートしか形成できなかった。
【0045】
<比較例3>
原料としてベイマツの木粉(平均粒子径0.2mm、結晶化度55%)を用い、脱脂処理工程として、木粉(BD30g)を2%炭酸ナトリウム水溶液(1800g)中で攪拌しながら90℃で2時間処理した。処理後の原料は、10倍量の蒸留水で洗浄し、ブフナーで脱水し、微細繊維状セルロース用パルプを得た。
得られた微細繊維状セルロース用パルプを高速解繊機(エムテクニック社製「クレアミックスCLM−2.2S」)で21500回転、30分間解繊(微細化処理)し、微細繊維状セルロース水系懸濁液を得、この上澄み液濃度を測定した。得られた微細繊維状セルロース懸濁液について遠心分離機(コクサン社製「H−200NR」)を用いて約12000Gで10分間処理し、上澄み液濃度を測定し、以下のような計算から収率を求めた。
収率(%)=(遠心分離後の上澄み液の濃度)÷(微細化処理後のスラリー濃度)×100
遠心分離して得た上澄み液中の繊維を電子顕微鏡で観察し、繊維幅を測定しようとしたが収率が低すぎて測定できなかった。さらに遠心分離して得られた上澄み液を孔径0.45μmのメンブレンフィルター上で吸引ろ過したが、収率が低いために非常に薄いシートしか形成できなかった。
【0046】
<比較例4>
原料として王子製紙製NBKP(春日井工場製、原料はベイマツ、フリーネス550mlcsf.)を用い、脱脂処理工程として、木粉(BD30g)を2%炭酸ナトリウム水溶液(1800g)中で攪拌しながら90℃で2時間処理した。処理後の原料は、10倍量の蒸留水で洗浄し、ブフナーで脱水した。
次に脱リグニン工程として、前記脱脂処理した木粉を10%の硝酸水溶液(1500g)に加え80℃、2時間で処理を行った。処理後の原料は、10倍量の蒸留水で洗浄し、ブフナーで脱水した。蒸留水を加えて0.5%のパルプ懸濁液を作製し微細繊維状セルロース用パルプを得た。
得られた微細繊維状セルロース用パルプを高速解繊機(エムテクニック社製「クレアミックスCLM−2.2S」)で21500回転、30分間解繊(微細化処理)し、微細繊維状セルロース水系懸濁液を得、この上澄み液濃度を測定した。得られた微細繊維状セルロース懸濁液について遠心分離機(コクサン社製「H−200NR」)を用いて約12000Gで10分間処理し、上澄み液濃度を測定し、以下のような計算から収率を求めた。
収率(%)=(遠心分離後の上澄み液の濃度)÷(微細化処理後のスラリー濃度)×100
遠心分離して得た上澄み液中の繊維を電子顕微鏡で観察し、繊維幅を測定しようとしたが収率が低すぎて測定できなかった。さらに、遠心分離して得られた上澄み液を孔径0.45μmのメンブレンフィルター上で吸引ろ過したが、収率が低いために非常に薄いシートしか形成できなかった。
【0047】
【表1】

【0048】
表1から明らかのように、本発明の方法で高い収率で微細繊維状パルプを得ることができ、それを解繊してシート化が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の方法で得られたパルプを機械的に解繊することによって、繊維幅が2〜1000nmの微細繊維状セルロースを容易に得ることができ、さらにシート化が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を少なくとも脱脂工程、脱リグニン工程、脱ヘミセルロース工程、微細化工程を経て処理し、繊維幅が2〜1000nmの微細繊維状セルロースを製造する方法であって、該脱リグニン工程において酸性水溶液処理を行うことを特徴とする微細繊維状セルロースの製造方法。
【請求項2】
前記脱リグニン工程において酸性水溶液処理を行ってからアルカリ水溶液処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
【請求項3】
前記脱リグニン工程における酸性水溶液が硫酸水溶液、塩酸水溶液、硝酸水溶液、ギ酸水溶液、酢酸水溶液から選択される少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
【請求項4】
前記脱リグニン工程におけるアルカリ水溶液が水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液であることを特徴とする請求項2に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。
【請求項5】
セルロース繊維を脱脂工程、脱リグニン工程、脱ヘミセルロース工程、微細化工程を順次経て処理する請求項1〜4のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースの製造方法。

【公開番号】特開2012−12713(P2012−12713A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148067(P2010−148067)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】