説明

微細繊維状セルロースの製造方法

【課題】樹脂への分散性に優れると共に、解繊工程での微細繊維状セルロースの収率が高く、しかも製造に要するコストが低い微細繊維状セルロースの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の微細繊維状セルロースの製造方法は、未晒化学パルプおよび酸素漂白化学パルプの少なくとも一方を含むセルロース懸濁液を得る懸濁液調製工程と、前記セルロース懸濁液に下記(a)〜(e)のうちの少なくとも1種の化学的処理を施す化学処理工程と、 前記化学処理工程後のセルロース懸濁液に解繊処理を施す解繊工程と、を有することを特徴とする。(a)カルボキシ基を有する化合物の酸無水物による処理、(b)リン酸基を有する化合物による処理、(c)オゾンによる処理、(d)酵素による処理、(e)2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルによる処理

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細繊維状セルロースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生産可能な資源を積極的に利用する気運が高まっている。再生産可能な資源としては、例えば、セルロース繊維が広く知られており、中でも、木材由来のセルロース繊維は、主として紙製品の原料としてこれまでにも幅広く利用されてきた。
セルロース繊維は、繊維径が1μm以下になるまで微細化されると、樹脂に配合した際に、樹脂に新たな機能を付与でき、また、樹脂の物性を向上させることができる。微細化されたセルロース繊維(微細繊維状セルロース)を樹脂に配合することによって向上し得る物性としては強度が挙げられる。特に、タイヤ用ゴム、自動車用内外装材、住宅部材、電気製品用筺体等においては、強度の向上を目的に、微細繊維状セルロースを配合する技術の研究および開発が進められている。
【0003】
微細繊維状セルロースの配合による樹脂の強度向上効果を高めるためには、微細繊維状セルロースの樹脂に対する分散性を高くする必要がある。また、微細繊維状セルロースが各種用途に広く使用されるためには、高い収率で且つ安価に製造される必要がある。
【0004】
微細繊維状セルロースを製造する方法としては、例えば、特許文献1に、セルロース質量に対してリグニンを比較的多く含有するパルプを機械的に解繊する方法が開示されている。特許文献1に記載の方法で得た微細繊維状セルロースは、リグニンを含有しないものに比して親水性が低いため、樹脂に配合した際の分散性に優れ、強度向上効果が高いとされている。
また、微細繊維状セルロースの製造方法として、特許文献2に、リグニンを全く含まない又は極少量のリグニンを含む(リグニン含有量が0〜5質量%、好ましくは0〜1質量%)植物由来の繊維集合体と水等の液体物質との混合物を攪拌する方法が開示されている。この方法によれば、繊維幅10〜50nmまで解繊された、均一かつ損傷の少ない微細繊維状セルロースが得られ、そのセルロースを樹脂に配合した際には高い強度が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−19200号公報
【特許文献2】特開2010−216021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の方法について本発明者らが確認したところ、リグニンは植物繊維同士を接着する接着剤の役割を果たすため、リグニン含有量の多いパルプでは、解繊工程での微細繊維状セルロースの収率が低くなりやすいことがわかった。
また、特許文献2に記載の方法では、予めシート化した微細繊維状セルロースに樹脂を含浸させることしか考慮されておらず、本発明者らが確認したところ、得られた微細繊維状セルロースを樹脂に分散させることは困難であった。また、原料として、リグニンが少ないものが好ましく、リグニンを多く含む木材由来のパルプを使用する場合には、リグニンの除去コストが高くなる問題があった。
上記のように、これまでに、樹脂への分散性に優れると共に、解繊工程での微細繊維状セルロースの収率が高く、しかも製造に要するコストが低い微細繊維状セルロースの製造方法は知られていないのが実情であった。
【0007】
以上の事情に鑑み、本発明は、樹脂への分散性に優れると共に、解繊工程での微細繊維状セルロースの収率が高く、しかも製造に要するコストが低い微細繊維状セルロースの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、微細繊維状セルロースの製造方法について研究を重ねた結果、特定の化学パルプを原料とし、該パルプから得られたセルロース懸濁液に化学的処理を施すことが課題を解決する上での重要な技術要素であることを見出した。
【0009】
本発明の微細繊維状セルロースの製造方法は、未晒化学パルプおよび酸素漂白化学パルプの少なくとも一方を含むセルロース懸濁液を得る懸濁液調製工程と、前記セルロース懸濁液に下記(a)〜(e)のうちの少なくとも1種の化学的処理を施す化学処理工程と、 前記化学処理工程後のセルロース懸濁液に解繊処理を施す解繊工程と、を有することを特徴とする。
(a)カルボキシ基を有する化合物の酸無水物による処理、
(b)リン酸基を有する化合物による処理、
(c)オゾンによる処理、
(d)酵素による処理、
(e)2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルによる処理
【発明の効果】
【0010】
本発明の微細繊維状セルロースの製造方法によれば、解繊工程での微細繊維状セルロースの収率が高く、しかも製造に要するコストが低い。また、得られる微細繊維状セルロースは、樹脂に配合した際の分散性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
<微細繊維状セルロース>
微細繊維状セルロースとは、走査型または透過型電子顕微鏡の観察により測定した幅(直径)が2nm〜1000nmであるセルロース分子の集合体のことであり、その結晶構造はI型(平行鎖)である。このような微細繊維状セルロースは、通常の紙製品に用いられるセルロース繊維よりも幅が格段に小さい繊維または棒状粒子である。
微細繊維状セルロースの幅が2nm未満である場合には、セルロース分子として水に溶解するため、微細繊維としての物性(強度、剛性及び寸法安定性)が発現し難くなる。一方、幅が1000nmを超える場合には、微細繊維とは言えず、通常の紙製品に用いられるセルロース繊維と何ら相違しないから、微細繊維としての物性(強度、剛性及び寸法安定性)を得ることができない。
【0012】
ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造を有していることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて、2θ=14〜17°付近と2θ=22〜23°付近の2箇所の位置に典型的なピークを有することで同定することができる。
また、微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05〜0.1質量%の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、該懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅広の繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。本発明における微細繊維幅はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0013】
本発明の微細繊維状セルロースの繊維長は、1μm〜1000μmが好ましい。繊維長が1μm未満では、微細繊維状セルロースを樹脂に複合した際の強度向上効果を得難くなる。繊維長が1000μmを超えると、微細繊維状セルロースのスラリー粘度が非常に高くなり、扱いづらくなる。繊維長は、TEMやSEM、AFMの画像解析より求めることができる。上記繊維長は、微細繊維の30質量%以上を占める繊維長である。
【0014】
本発明による微細繊維状セルロースの軸比(繊維幅に対する繊維長の比である。一般的には、「アスペクト比」という。)は、100〜10000の範囲であることが好ましい。軸比が前記下限値以上であれば、微細繊維状セルロースを樹脂に配合した際の強度向上効果がより高くなり、軸比が前記上限値以下であれば、微細繊維状セルロースのスラリー粘度を低くできる。
【0015】
<微細繊維状セルロースの製造方法>
本発明の微細繊維状セルロースの製造方法は、懸濁液調製工程と化学処理工程と解繊工程とを有する。
【0016】
(懸濁液調製工程)
懸濁液調製工程は、セルロース成分として未晒化学パルプおよび酸素漂白化学パルプの少なくとも一方を含むセルロース懸濁液を調製する工程である。
セルロース懸濁液に含まれるセルロース成分は、全量が未晒化学パルプおよび酸素漂白化学パルプの少なくとも一方であることが好ましいが、本発明の効果を阻害しない範囲で、未晒化学パルプおよび酸素漂白化学パルプ以外のセルロース含有物を少量(好ましくは全セルロース成分に対して7質量%以下、より好ましくは5質量%以下)含んでも構わない。
【0017】
[未晒化学パルプ]
本発明において使用する未晒化学パルプについて説明するにあたり、まず、一般的な化学パルプについて説明する。
パルプとは、植物あるいは古紙を解すことによって得られた繊維の集合体である。パルプは原料の種類によって、木材を原料とした木材パルプ、木材以外の植物(わら、竹、亜麻、綿リンターなど)を原料とした非木材パルプ、古紙を原料とした古紙パルプの3種類に分けられる。これらのうち、木材パルプは原料となる木材を解す方法によってさらに分類される。具体的には、原料を機械的に摩砕して得た機械パルプ(MP)、原料を化学薬品で蒸煮するなどして化学的に得た化学パルプ(CP)、原料を化学的処理後に機械的処理を施すことによって得た半化学パルプ(SCP)に分類される。
化学パルプはさらにクラフトパルプ(KP)と亜硫酸パルプ(SP)に大別される。それらのうちクラフトパルプは、世界のパルプ生産量の大半を占めており、化学パルプとして代表的なものである。
【0018】
パルプの原料となる木材には特に制約はなく、アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ、ベニマツ、カラマツ、モミ、スギ、ツガ、スギ、ヒノキ、シラベ、トウヒ、ヒバ、ダグラスファー、ヘムロック、ホワイトファー、スプルース、バルサムファー、シーダ、パイン、ラジアータパイン等の針葉樹、ブナ、カバ、ハンノキ、ナラ、タブ、シイ、シラカバ、ハコヤナギ、ポプラ、タモ、ドロヤナギ、ユーカリ、マングローブ、ラワン等の広葉樹を適宜選択して使用することができる。ただし、本発明においては、木材をパルプにするにあたって、木材の形態は木粉ではなく、チップであることが好ましい。木材の形態がチップであると、得られる微細繊維状セルロースの繊維長が長くなりやすくなるため、樹脂に配合した際の強度向上効果を得やすい。また、木材をチップ化する処理は、木材を木粉化する処理よりもコストが安くなる。
【0019】
クラフトパルプの製造方法としては、原料となる木材を苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)と硫化ソーダ(硫化ナトリウム)の混合液とともに蒸解釜に送入し、高温高圧下のもと蒸煮する蒸解工程と、得られた蒸解物から洗浄装置によって廃液を分離する洗浄工程と、さらにスクリーンやクリーナーといった除塵装置で精選する精選工程と、漂白工程とを有する方法が挙げられる。
上記製造方法では、蒸解工程によって、木材に含まれるセルロース繊維がリグニン成分と分離されるが、リグニン成分は完全に除去されず、一定量のリグニン成分が残留する。漂白工程は、パルプ着色成分でもある残留リグニン成分を除去する工程であり、パルプの白さを増すことを目的としている。そのため、蒸解工程でのリグニン成分除去の補足工程または延長工程ととらえることもできる。
通常、漂白工程では、数種類の漂白工程を組み合わせた方法で行われている。漂白工程の前段では、酸素漂白処理し、それより後段の多段漂白では、二酸化塩素またはオゾンにより漂白処理し、次に、過酸化水素や二酸化塩素により漂白処理する方法が採用されている。環境負荷低減の観点では、前段の漂白では酸素を用いて、後段の漂白での使用薬品量を減らすことが好ましい。
亜硫酸パルプの製造方法は、上記蒸解工程において苛性ソーダと硫化ソーダの代わりに亜硫酸と亜硫酸塩を用いた以外は上記クラフトパルプの製造方法と同様の方法である。
【0020】
本発明において使用する未晒化学パルプは、上記クラフトパルプまたは亜硫酸パルプの製造方法において漂白工程を経ずに得た化学パルプのことである。すなわち、蒸解工程と洗浄工程と精選工程を経ることによってのみ得た化学パルプである。そのため、未晒化学パルプは、漂白工程で発生する製造コストがかからない。また、漂白工程設備を有する既存の化学パルプ製造設備をそのまま利用して製造することができる。具体的には、精選工程を経た化学パルプを漂白工程に送る前に取り出せばよい。既存設備を利用すれば、新たに大規模な設備を設置する必要がない。
【0021】
未晒化学パルプとしてはクラフトパルプが好ましい。クラフトパルプは亜硫酸パルプに比べて蒸解工程において発生する排水の汚れが少なく、また生産量もクラフトパルプに比べて多いため、環境負荷および生産性の点で優れる。
【0022】
[酸素漂白化学パルプ]
酸素漂白化学パルプとは、上記クラフトパルプの製造において、前段の酸素漂白処理のみを漂白工程として施して得た化学パルプのことである。そのため、酸素漂白化学パルプは、多段漂白のすべての漂白処理を施した化学パルプと比較して製造コストが安価となる。また、酸素漂白化学パルプは、既存の化学パルプ製造設備をそのまま利用して製造することができる。具体的には、酸素漂白処理した化学パルプを次段以降の漂白処理に送る前に取り出せばよい。既存設備を利用すれば、新たに大規模な設備を設置する必要がない。
酸素漂白パルプにおいても、未晒化学パルプと同様にクラフトパルプが好ましい。
【0023】
(化学処理工程)
化学処理工程は、セルロース懸濁液に化学的処理を施す工程である。
本発明における化学的処理は下記(a)〜(e)のうちの少なくとも1種である。
(a)カルボキシ基を有する化合物の酸無水物による処理
(b)リン酸基を有する化合物による処理
(c)オゾンによる処理
(d)酵素による処理
(e)2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル(以下、「TEMPO」と表記する。)による処理
【0024】
化学的処理の程度としては、処理後の、セルロースの置換度が0.005〜0.3の範囲になることが好ましく、0.01〜0.25になることがより好ましく、0.015〜0.2になることがさらに好ましい。ここで、置換度とは、セルロースのグルコース骨格内にある3つの水酸基のうち、化学的処理によって別の置換基に置換された数のことである。水酸基の別の置換基への置換ではカルボキシ基への置換が重要であるため、置換度は、TAPPI T−237に従ってカルボキシ基のモル数より換算して求めた。置換度が前記下限値以上であれば、解繊性がより高くなって微細繊維状セルロースの収率がより高くなり、前記上限値以下であれば、得られる微細繊維状セルロースの樹脂に対する分散性がより高くなる。
【0025】
[カルボキシ基を有する化合物の酸無水物による処理]
カルボキシ基を有する化合物の酸無水物による処理では、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物によって、セルロースの水酸基の一部をカルボキシ基に化学修飾する。これにより、セルロース繊維間の結合力が弱まり、解繊性が向上する。
カルボキシ基を有する化合物の酸無水物としては、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記酸無水物のうち、工業的に利用しやすく、また、ガス化しやすいことから、無水マレイン酸、無水コハク酸が好ましい。
【0026】
カルボキシ基を有する化合物の酸無水物による化学的処理を行うにあたっては、予めセルロース懸濁液を乾燥させておくことが好ましく、具体的には、セルロース懸濁液の水分量を10質量%以下にすることが好ましい。セルロース懸濁液の水分量を下げておくと、アスペクト比の大きい微細繊維状セルロースを得られやすくなる。アスペクト比の大きい微細繊維状セルロースを樹脂に配合させると、強度が向上し易くなる。
【0027】
セルロース懸濁液に対するカルボキシ基を有する化合物の酸無水物の質量割合は、特に制約されるものではないが、セルロース懸濁液の固形分100質量部に対して0.1〜500質量部であることが好ましく、1〜300質量部であることがより好ましく、25〜75質量部であることがさらに好ましい。カルボキシ基を有する化合物の酸無水物の質量割合が前記下限値以上であれば、解繊工程での微細繊維状セルロースの収率の向上効果がより高くなる。しかし、前記上限値を超えると、解繊工程での微細繊維状セルロースの収率向上効果が頭打ちとなるばかりでなく、セルロース懸濁液中に含まれるリグニン成分をすべて除去してしまうおそれがある。
【0028】
カルボキシ基を有する化合物の酸無水物による化学的処理を行う際には、加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理時の温度は特に制約されるものではないが、セルロースの熱分解温度の点から、100〜250℃であることが好ましい。
【0029】
カルボキシ基を有する化合物の酸無水物により化学的処理を行った後には、セルロース懸濁液に対して、アルカリ溶液で処理するアルカリ処理工程を施すことが好ましい。アルカリ処理の方法としては特に制約されるものではないが、例えば、アルカリ溶液中に、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物により化学的処理を行ったセルロース懸濁液を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。無機アルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。有機アルカリ化合物としては、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン等が挙げられる。
アルカリ溶液の溶媒としては、水または有機溶媒のいずれであってもよいが、極性有機溶媒であることが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
【0030】
なお、アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊工程の前にアルカリ処理済みセルロース懸濁液を水や有機溶媒によって洗浄することが好ましい。
【0031】
[リン酸基を有する化合物による処理]
リン酸基を有する化合物による処理では、リン酸基を有する化合物によって、セルロースの水酸基の一部をリン酸基に化学修飾する。これにより、セルロース繊維間の結合力が弱まり、解繊性が向上する。
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記リン酸基を有する化合物のうち、工業的に利用しやすい点から、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが好ましい。
【0032】
セルロース懸濁液に対するリン酸基を有する化合物の質量割合は、特に制約されるものではないが、セルロース懸濁液の固形分100質量部に対して、リン元素に換算した添加量が0.1〜500質量部であることが好ましく、0.5〜250質量部であることがより好ましく、1〜100質量部であることがさらに好ましい。リン酸基を有する化合物の質量割合が前記下限値以上であれば、解繊工程での微細繊維状セルロースの収率の向上効果がより高くなる。しかし、前記上限値を超えると、解繊工程での微細繊維状セルロースの収率向上効果が頭打ちとなるばかりでなく、セルロース懸濁液中に含まれるリグニン成分をすべて除去してしまうおそれがある。
【0033】
リン酸基を有する化合物による化学的処理を行う際には、加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理時の温度は特に制約されるものではないが、セルロースの熱分解温度の点から、100〜250℃であることが好ましい。
【0034】
[オゾンによる処理]
オゾンによる処理では、セルロースの一部の水酸基がカルボニル基やカルボキシ基に換わる。これにより、セルロース繊維間の結合力が弱まり、解繊性が向上する。
オゾンは、空気、酸素ガス、酸素添加空気等の酸素含有気体を、公知のオゾン発生装置に供給することにより発生させることができる。
【0035】
オゾンによる処理は、オゾンが存在する閉じた空間/雰囲気中にセルロース懸濁液を曝すことで行われる。
オゾンが含まれる気体中のオゾン濃度は、250g/m以上であると、爆発するおそれがあるため、250g/m未満である必要がある。しかし、濃度が低いと、オゾン使用量が増えるため、50〜215g/mであることが好ましい。オゾン濃度が前記下限値以上であれば、オゾンの取り扱いが容易であり、しかも解繊工程での微細繊維状セルロースの収率の向上効果がより高くなる。
【0036】
セルロース懸濁液に対するオゾン添加量は特に制約されるものではないが、セルロース懸濁液の固形分100質量部に対して0.1〜8質量部であることが好ましい。オゾン添加量が前記下限値以上であれば、解繊工程での微細繊維状セルロースの収率向上効果がより高くなる。しかし、前記上限値を超えると、解繊工程での微細繊維状セルロースの収率向上効果が頭打ちとなるばかりではなく、セルロース懸濁液中のリグニン残留成分をすべて除去してしまうおそれがある。
【0037】
オゾン処理温度としては特に制約されるものではなく、0〜50℃の範囲で適宜調整される。また、オゾン処理時間についても特に制約されるものではなく、1〜180分間の範囲で適宜調整される。
【0038】
なお、セルロース懸濁液にオゾン処理を施した後、追酸化処理を施してもよい。追酸化処理に用いる酸化剤としては、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物が挙げられる。
【0039】
[酵素による処理]
酵素による処理では、理由は定かではないが、セルロースの結晶部分が攻撃されて、結合が緩むことにより、解繊性が向上するものと考えられる。
【0040】
酵素としては、セルラーゼ系酵素やヘミセルラーゼ系酵素が好ましい。
セルラーゼ系酵素としては、トリコデルマ(Trichoderma、糸状菌)属、アクレモニウム(Acremonium、糸状菌)属、アスペルギルス(Aspergillus、糸状菌)属、ファネロケエテ(Phanerochaete、担子菌)属、トラメテス(Trametes、担子菌)属、フーミコラ(Humicola、糸状菌)属、バチルス(Bacillus、細菌)属、スエヒロタケ(Schizophyllum、担子菌)属、ストレプトミセス(Streptomyces、細菌)属、シュードモナス(Pseudomonas、細菌)属等が産生するセルラーゼ系酵素が挙げられる。これらのうち、糸状菌セルラーゼ系酵素が好ましく、糸状菌セルラーゼ系酵素の中でも、トリコデルマ菌(Trichoderma reesei、あるいはHyporea jerorina、糸状菌の一種である子嚢菌)が生産するセルラーゼ系酵素は種類が豊富であり、生産性も高いため、より好ましい。
【0041】
ヘミセルラーゼ系酵素としては、キシランを分解する酵素であるキシラナーゼ(xylanase)、マンナンを分解する酵素であるマンナーゼ(mannase)、アラバンを分解する酵素であるアラバナーゼ(arabanase)、ペクチンを分解する酵素であるペクチナーゼ(pectinase)が挙げられる。これらのうち、広葉樹由来のセルロース懸濁液に対してはキシラーゼが、針葉樹由来のセルロース懸濁液に対してはマンナーゼが好ましい。
【0042】
セルロース懸濁液に対する酵素の添加量は特に制約されるものではなく、酵素の種類、木材の種類(針葉樹か広葉樹か)等によって適宜調整して添加する。
【0043】
セルラーゼ系酵素処理時のセルロース懸濁液のpHは、酵素反応の反応性の点から、弱酸性領域(pH=3.0〜6.9)であることが好ましい。一方、ヘミセルラーゼ系酵素処理時のセルロース懸濁液のpHは、弱アルカリ性領域(pH=7.1〜10.0)であることが好ましい。
【0044】
酵素処理時の温度は特に制約されるものではないが、30〜70℃が好ましく、35〜65℃がより好ましく、40〜60℃がさらに好ましい。酵素処理時の温度が前記下限値以上であれば、酵素活性が低下しにくく、処理時間の長期化を防止でき、前記上限値以下であれば、酵素の失活を防止できる。
【0045】
酵素処理時間は0.5〜24時間が好ましい。処理時間が前記下限値以上であれば、酵素処理の効果を充分に発揮させることができる。一方、前記上限値以下であれば、セルロース繊維の分解による繊維長の短小化を抑制でき、樹脂に配合した際の強度向上効果を充分に得ることができる。酵素処理時間は、酵素の種類、温度、pH等によって調整することができる。
【0046】
酵素処理した後には酵素を失活させることが好ましい。酵素を失活させれば、酵素反応を停止して繊維の糖化の進行が止まるため、収率低下を防止でき、繊維長の短小化を抑制できる。酵素を失活させる方法としては、アルカリ水溶液(好ましくはpH10以上、より好ましくはpH11以上)を添加する方法、80〜100℃の熱水を添加する方法が挙げられる。
【0047】
[TEMPOによる処理]
TEMPOにより処理では、セルロース懸濁液に対し、TEMPOおよびハロゲン化アルカリの存在下で酸化剤を反応させて、セルロースの水酸基の一部をカルボキシ基に化学修飾する。これにより、セルロース繊維間の結合力が弱まり、解繊性が向上する。
【0048】
TEMPOとともに酸化触媒として使用するハロゲン化アルカリは特に制約されるものではなく、ヨウ化アルカリ、臭化アルカリ、塩化アルカリ、フッ化アルカリ等を適宜選択して使用することができる。
酸化剤についても特に制約されるものではなく、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム、亜臭素酸ナトリウム等を適宜選択して使用することができる。
【0049】
酸化触媒の使用量は特に制約されるものではないが、セルロース懸濁液の固形分100質量部に対して、TEMPOおよびハロゲン化アルカリが、各々、0.1〜15質量部であることが好ましい。酸化触媒の添加量が前記下限値以上であれば、解繊工程での微細繊維状セルロースの収率向上効果がより高くなる。しかし、前記上限値を超えると、解繊工程での微細繊維状セルロースの収率向上効果が頭打ちとなるおそれがある。
【0050】
酸化剤の使用量についても特に制約されるものではないが、セルロース懸濁液の固形分100質量部に対して、1〜80質量部が好ましい。
【0051】
セルロース懸濁液をTEMPOにより処理する際の懸濁液のpHは、使用する酸化剤の種類に応じて適宜調整する。セルロース懸濁液のpH調整は、水酸化カリウム、アンモニア等の塩基性物質、あるいは酢酸、シュウ酸等の酸性物質を適宜添加することで行う。
【0052】
セルロース懸濁液をTEMPOにより処理する際の処理温度は、20〜100℃の範囲であることが好ましく、また処理時間は、0.5〜4時間であることが好ましい。
また、TEMPOによる処理を均一に行うためには、各種攪拌装置により攪拌しながら処理することが好ましい。
【0053】
(解繊工程)
解繊工程は、化学的処理を施されたセルロース懸濁液に解繊処理を施す工程である。
解繊処理に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、振動ミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、高速回転下でのホモミキサー、ビーター等、従来公知の解繊処理装置を適宜選択して使用することができる。
【0054】
(使用方法)
上記製造方法により得た微細繊維状セルロースは、樹脂の強化繊維として使用することができる。微細繊維状セルロースを樹脂に混合すれば、強度、剛性等を向上させることができる。
微細繊維状セルロースを強化繊維として使用する際の混合方法としては、例えば、溶融させた樹脂に、固形状またはスラリー状の微細繊維状セルロースを添加し、溶融混練する方法、樹脂のエマルションとスラリー状の微細繊維状セルロースとを混合し、脱水する方法などが挙げられる。
微細繊維状セルロースを混合する樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン(高圧法低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン)、ポリプロピレン(ホモポリマー、ランダムポリマー、ブロックポリマー)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、スチレン−アクリル共重合体、アクリル樹脂、ABS樹脂、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシブチレート、ポリエチレンアジペート、ポリカプロラクトン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、フッ素樹脂などが挙げられる。
熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂などが挙げられる。
上記樹脂は、1種単独でもよいし、2種以上の併用でもよい。
【0055】
高い透明性が要求される場合には、微細繊維状セルロースを分散させる樹脂として透明樹脂(例えば、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート等)を用い、上記解繊工程の後に遠心分離等により沈殿物を除去した微細繊維状セルロースを用いることが好ましい。
【0056】
(作用効果)
本発明において使用する未晒化学パルプおよび酸素漂白化学パルプを含むセルロース懸濁液は、漂白を進めた化学パルプを含むセルロース懸濁液に比してリグニン成分を多く含んでいる。従来の製造方法ではリグニンを含むと、解繊工程での収率が低下したが、本発明では、セルロース懸濁液に解繊処理を施す前に化学的処理を施すことによって、解繊工程での微細繊維状セルロースの収率低下を防いでいる。
また、未晒化学パルプまたは酸素漂白化学パルプは、漂白工程の一部または全部が省略されているため、漂白を進めた化学パルプに比べて製造コストが安価である。
また、本発明の製造方法により得た微細繊維状セルロースは、樹脂への分散性に優れる。樹脂への分散性に優れる理由は定かではないが、化学的処理後も疎水性を有するリグニン成分が残留することが一つの理由として考えられる。また、未晒化学パルプおよび酸素漂白パルプは繊維の損傷が少ないため、得られる微細繊維状セルロースの損傷も少なくなり、樹脂に配合した際には繊維の絡み合いによる局在化を抑制できると考えられる。
【実施例】
【0057】
以下に、具体例を挙げて本発明を説明するが、本発明は具体例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例に記載された「%」および「部」は、いずれも、「質量%」および「質量部」のことである。
また、各実施例および各比較例において、微細繊維状セルロースが得られたことは以下の方法により確認した。
すなわち、後述の解繊セルロース懸濁液の上澄み液を濃度0.05〜0.1%に水で希釈し、親水化処理したカーボングリッド膜に滴下した。乾燥後、酢酸ウラニルで染色し、透過型電子顕微鏡(日本電子社製、JEOL−2000EX)によりセルロース繊維の幅を観察した。その幅に基づき、微細繊維状セルロースが含まれているか否かを判断した。
【0058】
<カルボキシ基を有する化合物の酸無水物による処理>
(実施例1)
セルロース成分としてユーカリを主原料とする広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)を含むセルロース懸濁液を105℃で3時間乾燥させて水分3%以下の乾燥パルプを得た。次いで、乾燥パルプ4gと無水マレイン酸2g(パルプ固形分100部に対して50部)とをオートクレーブに充填し、150℃で2時間処理した。
次いで、0.8%の水酸化ナトリウム水溶液250mLに、無水マレイン酸処理した乾燥パルプを分散し、攪拌して、アルカリ処理した。これにより得たセルロース懸濁液のpHは12.5程度であった。その後、pHが8以下になるまで、アルカリ処理後のセルロース懸濁液をイオン交換水で洗浄した。
次いで、アルカリ処理後のセルロース懸濁液にイオン交換水を添加し、固形分濃度0.5%のセルロース懸濁液を調製した。そのセルロース懸濁液を、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス−2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間解繊処理して、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0059】
(実施例2)
ユーカリを主原料とする広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)50g(固形分質量)をビニール袋に入れ、さらに、2モルの苛性ソーダ溶液をLUKP固形分100部に対して2部入れ、よく混合した後、攪拌機付きオートクレーブに移し替えた。次いで、そのオートクレーブ内で、酸素圧0.5MPa、温度100℃で、60分反応させた。反応後、パルプを容器から取り出して、5倍量のイオン交換水を用いて洗浄し、その後、ブフナーで脱水して、LUKPを原料とした酸素漂白クラフトパルプ(LOKP)を得た。
そのLOKPを用いたこと以外は実施例1と同様にして解繊セルロース懸濁液を得た。
【0060】
(比較例1)
セルロース成分として針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0061】
(比較例2)
セルロース成分として広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0062】
〔評価〕
実施例1〜2および比較例1〜2の解繊セルロース懸濁液に含まれるセルロースについて透過型電子顕微鏡により観察したところ、幅4nm程度の微細繊維状セルロースが含まれていることが確認された。また、X線回折により、セルロースはセルロースI型結晶を維持していた。また、FT−IRによる赤外線吸収スペクトルの測定により、1580〜1720cm−1にカルボキシ基に基づく吸収が見られ、マレイン酸の付加が確認された。
【0063】
また、上記実施例1〜2および比較例1〜2の解繊セルロース懸濁液について、遠心分離した後の上澄み収率を以下に記載の方法により測定した。測定結果を表1に示す。
また、解繊セルロース懸濁液に含まれる微細繊維状セルロースの樹脂に対する分散性を以下のように評価した。また、微細繊維状セルロース製造のコストについて評価した。各評価結果を表1に示す。
【0064】
[遠心分離後の上澄み収率の測定]
解繊セルロース懸濁液にイオン交換水を添加してスラリー固形分濃度を0.2%に調整し、冷却高速遠心分離機(コクサン社、H−2000B)を用い、12000Gの条件で遠心分離し、得られた上澄み液を回収し、上澄み液の固形分濃度を測定した。下記式に基づいて、微細繊維状セルロースの上澄み収率を求めた。
上澄み収率(%)=(遠心分離後の上澄み液の固形分濃度)÷(解繊セルロース懸濁液の固形分濃度)×100
なお、遠心分離後の上澄み収率は、微細繊維状セルロースが凝集した凝集物および繊維幅が太い非微細繊維状のものを排除して求めた微細繊維状セルロースの収率であり、上澄み収率が高い程、より微細な微細繊維状セルロースの収率が高い。
【0065】
[分散性]
微細繊維状セルロース(遠心分離後の上澄み液、濃度約0.5%)とアニオン性ポリエチレンラテックス(東邦化学工業社製、商品名E−2213、平均粒子径:70nm)とを質量比5:100の割合で混合し、ホモジナイザーで攪拌することにより微細繊維状セルロースとポリエチレンラテックスの混合物を得た。得られた混合物を110℃にした真空乾燥機で3時間乾燥し、得られた乾燥物について、走査型電子顕微鏡(電圧10kV、倍率100倍)を用いて断面を観察した。これにより、ポリエチレン中における微細繊維状セルロースの分散状態を観察し、評価した。
評価の方法としては、電子顕微鏡写真(10cm×7cmに拡大した視野、枚数5枚)における凝集体の存在数から、下記の基準で評価した。
◎:ポリエチレン組成物中に凝集体が殆どない。
○:ポリエチレン組成物中に凝集体があるが、非常に少ない。
△:ポリエチレン組成物中に凝集体がやや多い。
×:ポリエチレン組成物中に凝集体が多い。
【0066】
[コスト]
コストの評価は、工業的に生産する場合を想定した相対評価である。
【0067】
【表1】

【0068】
LUKPを、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物により処理した後、解繊して得た実施例1では、収率が高く、得られた微細繊維状セルロースの樹脂に対する分散性が高かった。また、パルプの漂白工程を簡素化できるので、低コストであった。
LOKPを、カルボキシ基を有する化合物の酸無水物により処理した後、解繊して得た実施例2では、収率が高く、得られた微細繊維状セルロースの樹脂に対する分散性が高かった。また、パルプの漂白工程を簡素化できるので、低コストであった。
【0069】
<リン酸基を有する化合物による化学的処理>
(実施例3)
リン酸二水素ナトリウム二水和物6.75g、リン酸水素二ナトリウム4.83gを19.62gの水に溶解させ、リン酸系化合物の水溶液(以下、「リン酸化試薬」という。)を得た。
針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP、水分50%、JIS P8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)550ml)に、濃度が4%になるように水を加えた。その後、ダブルディスクリファイナーを用いて、変則CSF(平織り80メッシュ、パルプ採取量を0.3gとした以外はJIS P8121に準ずる)が200ml、長さ平均繊維長が0.66mmになるまで叩解した。
これにより得たセルロース懸濁液を0.3%に希釈し、含水率90%、固形分(絶乾質量)3gのパルプシート(厚み200μm)を抄紙法で得た。このパルプシートを前記リン酸化試薬31.2g(乾燥パルプ100質量部に対してリン元素量として80質量部)に浸漬させ、105℃の送風乾燥機(ヤマト科学株式会社 DKM400)で1時間加熱後、さらに150℃で1時間加熱処理して、セルロース繊維にリン酸基を導入した。
次いで、セルロース繊維にリン酸基を導入したパルプシートに500mlのイオン交換水を加え、攪拌洗浄後、脱水した。脱水後のシートを300mlのイオン交換水で希釈し、攪拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液5mlを少しずつ添加し、pHが12〜13のセルロース懸濁液を得た。その後、このセルロース懸濁液を脱水し、500mlのイオン交換水を加えて洗浄を行った。この脱水洗浄をさらに2回繰り返した。
洗浄脱水後に得られたシートにイオン交換水を添加した後、攪拌し、0.5質量%のセルロース懸濁液にした。このセルロース懸濁液を、解繊処理装置(エムテクニック社製、クレアミックス−2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間解繊処理して、解繊セルロース懸濁液を得た。
解繊セルロース懸濁液に含まれるセルロースについて透過型電子顕微鏡により観察したところ、幅4nm程度の微細繊維状セルロースが含まれていることが確認された。また、X線回折により、セルロースはセルロースI型結晶を維持していることが確認された。また、FT−IRによる赤外線吸収スペクトルの測定により、1230〜1290cm−1にリン酸基に基づく吸収が見られ、リン酸基の付加が確認された。
【0070】
(比較例3)
実施例3において、リン酸化試薬による処理とアルカリ処理を省略した以外は、実施例3と同様にして解繊セルロース懸濁液を得た。
解繊セルロース懸濁液に含まれるセルロースについて透過型電子顕微鏡により観察したところ、幅4nm程度の微細繊維状セルロースが含まれていることが確認された。また、X線回折により、セルロースはセルロースI型結晶を維持していることが確認された。しかし、FT−IRによる赤外線吸収スペクトルの測定では、リン酸基の付加が確認されなかった。
【0071】
〔評価〕
実施例3および比較例3について、実施例1〜2および比較例1〜2と同様にして、上澄み収率を測定し、樹脂に対する分散性およびコストを評価した。表2に測定結果および評価結果を示す。
【0072】
【表2】

【0073】
NUKPを、リン酸化試薬により処理した後、解繊して得た実施例3では、収率が高く、得られた微細繊維状セルロースの樹脂に対する分散性が高かった。また、パルプの漂白工程を簡素化できるので、低コストであった。
NUKPを、リン酸化試薬により処理せずに解繊して得た比較例3では、収率が低かった。また、微細繊維状スラリーの製造効率が低いため、高コストであった。
【0074】
<オゾンによる化学的処理>
[酸素漂白クラフトパルプの作製]
ユーカリを主原料とする広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)50g(固形分質量)をビニール袋に入れ、さらに、2モルの苛性ソーダ溶液をLUKP固形分100部に対して2部入れ、よく混合した後、攪拌機付きオートクレーブに移し替えた。次いで、そのオートクレーブ内で、酸素圧0.5MPa、温度100℃で、60分反応させた。反応後、パルプを容器から取り出して、5倍量のイオン交換水を用いて洗浄し、その後、ブフナーで脱水して、LUKPを原料とした酸素漂白クラフトパルプ(LOKP)を得た。
また、LUKPの代わりに、ラジアタ松を主原料とする針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)を用い、苛性ソーダ溶液をNUKP固形分100部に対して2.5部添加した以外は、上記酸素漂白クラフトパルプ(LOKP)の製造方法と同様にして、NUKPを原料とした酸素漂白クラフトパルプ(NOKP)を得た。
【0075】
(実施例4)
[オゾン処理]
上記LUKPをフラッフ化した後、硫酸を加えてpHを2前後に調整し、固形分30gのセルロース懸濁液を得た。得られたセルロース懸濁液を容積3Lの塩化ビニリデン製のテドラバッグに入れ、そこに酸素を放電して生成させたオゾンガス(200g/m)を、セルロース懸濁液の固形分100部に対して1.0部添加した。
次いで、オゾンを添加し終えたテドラバッグを、セルロース懸濁液とオゾンが充分に反応するように手で振動させた後、室温で2時間放置した。反応後、セルロース懸濁液を取り出し、5倍量のイオン交換水で洗浄し、ブフナーで脱水した。
【0076】
[追酸化処理]
オゾン処理したセルロース懸濁液をさらに酸化するために、亜塩素酸処理を行なった。処理条件は、温度が70℃、セルロース懸濁液濃度は3%、pHを4〜5にして、3時間保持した。反応後は、セルロース懸濁液を取り出し、5倍量のイオン交換水で洗浄し、ブフナーで脱水した。
【0077】
[解繊処理]
追酸化処理したセルロース懸濁液にイオン交換水を加え、濃度0.5%に調整した後、高速解繊機(エムテクニック社製、クレアミックス−2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間解繊して、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0078】
(実施例5)
オゾンの添加量を2.5部とした以外は、実施例4と同様にして、解繊セルロース懸濁液を得た。なお、オゾン添加量は、オゾンの添加時間によって調整した(以下の例も同様である。)。
【0079】
(実施例6)
オゾンの添加量を5.0部とした以外は、実施例4と同様にして、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0080】
(実施例7)
LUKPの代わりにLOKPを用い、オゾンの添加量を0.5部とした以外は、実施例4と同様にして、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0081】
(実施例8)
オゾンの添加量を1.5部とした以外は、実施例7と同様にして、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0082】
(実施例9)
オゾンの添加量を3.0部とした以外は、実施例7と同様にして、解繊セルロース懸濁液を得た
【0083】
(実施例10)
LUKPの代わりにNUKPを用いた以外は、実施例4と同様にして、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0084】
(実施例11)
LUKPの代わりにNUKPを用いた以外は、実施例5と同様にして、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0085】
(実施例12)
LUKPの代わりにNUKPを用いた以外は、実施例6と同様にして、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0086】
(実施例13)
LOKPの代わりにNOKPを用いた以外は、実施例7と同様にして、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0087】
(実施例14)
LOKPの代わりにNOKPを用いた以外は、実施例8と同様にして、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0088】
(実施例15)
LOKPの代わりにNOKPを用いた以外は、実施例9と同様にして、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0089】
(比較例4)
オゾンを添加しなかったこと以外は、実施例7と同様にして、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0090】
(比較例5)
オゾンを添加しなかったこと以外は、実施例13と同様にして、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0091】
(比較例6)
LUKPの代わりに、上記LOKPをさらに三段漂白(シーケンス:D−Ep−D、D−Ep−Dシーケンスでの漂白条件については表4を参照)して得たLBKPを用い、オゾンの添加量を5.0部とした以外は、実施例4と同様にして処理して、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0092】
(比較例7)
LUKPの代わりに、上記NOKPをさらに三段漂白(シーケンス:D−Ep−D、D−Ep−Dシーケンスでの漂白条件については表4を参照)して得たNBKPを用い、オゾンの添加量を5.0部とした以外は、実施例4と同様にして処理して、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0093】
〔評価〕
実施例4〜15および比較例4〜7で各々得た解繊セルロース懸濁液に含まれるセルロースを透過型電子顕微鏡により観察したところ、幅4nm程度の微細繊維状セルロースが含まれていることが確認された。また、X線回折により、各例のセルロースはセルロースI型結晶を維持していることが確認された。
【0094】
また、実施例4〜15および比較例4〜7について、実施例1〜2および比較例1〜2と同様にして、上澄み収率を測定し、樹脂に対する分散性およびコストを評価した。表3に測定結果および評価結果を示す。
【0095】
【表3】

【0096】
【表4】

【0097】
LUKP,LOKP、NUKPおよびNOKPのいずれかをオゾン処理した後、解繊して得た実施例4〜15では、収率が高く、得られた微細繊維状セルロースの樹脂に対する分散性が高かった。また、パルプの漂白工程を簡素化できるので、低コストであった。
LOKPをオゾン処理せずに解繊して得た比較例4、NOKPをオゾン処理せずに解繊して得た比較例5では、収率が低かった。そのため、高コストであった。
LBKPをオゾン処理した後、解繊して得た比較例6では、得られた微細繊維状セルロースの樹脂に対する分散性が低かった。また、パルプを充分に漂白するため、高コストであった。
NBKPをオゾン処理した後、解繊して得た比較例7では、得られた微細繊維状セルロースの樹脂に対する分散性が低かった。また、パルプを充分に漂白するため、高コストであった。
【0098】
<酵素による処理>
(実施例16)
[酵素処理]
上記LUKPを固形分濃度0.5%の懸濁液にし、ダブルディスクリファイナーで変則CSF(平織り80メッシュ、パルプ採取量を0.3gとした以外はJIS P8121に準ずる)が200mlになるまで叩解した。次いで、セルラーゼ系酵素「GC220」(ジェネンコア社製)をパルプ固形分100部に対して8部添加し、pH4〜5、温度50℃に調整し、3時間処理した。3時間後には温度を90℃にして酵素を失活させた。反応後は、パルプを取り出し、5倍量のイオン交換水で洗浄し、ブフナーで脱水した。
【0099】
[解繊処理]
酵素処理したセルロース懸濁液にイオン交換水を加え、濃度0.5%に調整した後、高速解繊機(エムテクニック社製、クレアミックス−2.2S)を用いて、21500回転/分の条件で30分間解繊して、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0100】
(実施例17)
LUKPの代わりにLOKPを用いた以外は、実施例16と同様にして処理して、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0101】
(実施例18)
LUKPの代わりにNUKPを用いた以外は、実施例16と同様にして処理して、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0102】
(実施例19)
LUKPの代わりにNOKPを用いた以外は、実施例16と同様にして処理して、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0103】
(比較例8)
LUKPの代わりにLBKPを用いた以外は、実施例16と同様にして処理して、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0104】
(比較例9)
LUKPの代わりにNBKPを用いた以外は、実施例16と同様にして処理して、解繊セルロース懸濁液を得た。
【0105】
〔評価〕
実施例16〜19および比較例8〜9で各々得た解繊セルロース懸濁液に含まれるセルロースを透過型電子顕微鏡により観察したところ、幅4nm程度の微細繊維状セルロースが含まれていることが確認された。また、X線回折により、各例のセルロースはセルロースI型結晶を維持していることが確認された。
【0106】
実施例16〜19および比較例8〜9について、実施例1〜2および比較例1〜2と同様にして、上澄み収率を測定し、樹脂に対する分散性およびコストを評価した。表5に測定結果および評価結果を示す。
【0107】
【表5】

【0108】
LUKP,LOKP、NUKPおよびNOKPのいずれかを酵素処理した後、解繊して得た実施例16〜19では、収率が高く、得られた微細繊維状セルロースの樹脂に対する分散性が高かった。また、パルプの漂白工程を簡素化できるので、低コストであった。
LBKPを酵素処理した後、解繊して得た比較例8では、得られた微細繊維状セルロースの樹脂に対する分散性が低かった。また、パルプを充分に漂白するため、高コストであった。
NBKPを酵素処理した後、解繊して得た比較例9では、得られた微細繊維状セルロースの樹脂に対する分散性が低かった。また、パルプを充分に漂白するため、高コストであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
未晒化学パルプおよび酸素漂白化学パルプの少なくとも一方を含むセルロース懸濁液を得る懸濁液調製工程と、
前記セルロース懸濁液に下記(a)〜(e)のうちの少なくとも1種の化学的処理を施す化学処理工程と、
前記化学処理工程後のセルロース懸濁液に解繊処理を施す解繊工程と、
を有することを特徴とする微細繊維状セルロースの製造方法。
(a)カルボキシ基を有する化合物の酸無水物による処理、
(b)リン酸基を有する化合物による処理、
(c)オゾンによる処理、
(d)酵素による処理、
(e)2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカルによる処理

【公開番号】特開2013−107927(P2013−107927A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−251659(P2011−251659)
【出願日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【出願人】(000122298)王子ホールディングス株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】