説明

微細繊維状セルロースシートの製造方法

【課題】 微細繊維状セルロースを簡便に、効率よくシート化することができる微細繊維状セルロースシートの製造方法を提供する。
【解決手段】 微細繊維状セルロースを含む水系懸濁液を、多孔性の基材上でろ過により脱水し水分を含んだシートを形成し、該水分を含んだシートを加熱蒸発させることによる得られる微細繊維状セルロースシートの製造方法において、該微細繊維状セルロースを含む水系懸濁液にセルロース凝結剤を配合する微細繊維状セルロースシートの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細繊維状セルロースを簡便に、効率よくシート化することができる微細繊維状セルロースシートの製造方法を提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
近年、物質をナノメートルサイズの大きさにすることによりバルクや分子レベルとは異なる物性を得ることを目的としたナノテクノロジーが注目されている。一方で、石油資源の代替および環境意識の高まりから再生産可能な天然繊維の応用にも注目が集まっている。
天然繊維の中でもセルロース繊維、とりわけ木材由来のセルロース繊維(パルプ)は主に紙製品として幅広く使用されている。紙に使用されるセルロース繊維の幅は10〜50μmのものがほとんどである。このようなセルロース繊維から得られる紙(シート)は不透明であり、不透明であるが故に印刷用紙として幅広く利用されている。一方、セルロース繊維をレファイナーやニーダー、サンドグラインダーなどで処理(叩解、粉砕)し、セルロース繊維を微細化(ミクロフィブリル化)すると透明紙(グラシン紙)が得られる。しかし、この透明紙の透明性は半透明レベルであり、光の透過性は高分子フィルムに比べると低く、曇り度合い(ヘーズ値)も大きい。
【0003】
また、セルロース繊維は弾性率が高く、熱膨張率の低いセルロース結晶の集合体であり、セルロース繊維を樹脂と複合化することによって耐熱寸法安定性が向上するため、積層板などに利用されている。ただし、通常のセルロース繊維は結晶の集合体であり、筒状の空隙のある繊維のため寸法安定性には限界がある。
セルロース繊維を機械的に粉砕し、その繊維幅を50nm以下とした微細繊維状セルロースの水分散液は透明である。他方、微細繊維状セルロースシートは空隙を含むため白く乱反射し、不透明性が高くなるが、微細繊維状セルロースシートに樹脂を含浸すると空隙が埋まるため、透明なシートが得られる。さらに、微細繊維状セルロースシートの繊維はセルロース結晶の集合体で、非常に剛直であり、また、繊維幅が小さいため、通常のセルロースシート(紙)に比べると同質量において繊維の本数が飛躍的に多くなる。そのため、樹脂と複合化すると樹脂中で細い繊維がより均一かつ緻密に分散し、耐熱寸法安定性が飛躍的に高まる。また、繊維が細いため透明性も高い。このような特性を有する微細繊維状セルロースの複合体は、有機ELや液晶ディスプレイ用のフレキシブル透明基板(曲げたり折ったりすることのできる透明基板)として非常に大きな期待が寄せられている。
【0004】
しかし、微細繊維状セルロースの水系懸濁液は濃度1質量%で粘度が100〜3000mPa・秒程度であり、該懸濁液を脱水してシート化しようとすると、懸濁液の濾水性が極めて悪いため、抄紙スピードが極めて遅くなり、巻取り(連続シート)での工業的な生産は困難である。抄紙時の生産スピードが極めて遅い理由は、微細繊維状セルロースの濾水性(脱水速度)が極めて低いためである。
ところで、微細繊維状セルロースに関する微細化技術、樹脂との複合化技術については数多く開示されているが、工業的な生産性を維持しつつ微細繊維状セルロースをシート化する技術、特に濾水性向上に関する技術はほとんど開示されていないのが現状である。
【0005】
特許文献1〜3には、セルロース繊維を微細繊維化する技術が開示されているが、微細繊維化されたセルロースをシート化する際の濾水性を向上させる技術については開示も示唆もない。
【0006】
特許文献4〜10には、高分子樹脂に微細繊維状セルロースを複合化させることによって力学強度等の物性を向上させる技術等が開示されているが、微細繊維化されたセルロース繊維をシート化する際の濾水性を向上させる技術についてはほとんど記載されていない。
【0007】
また、特許文献11〜20には、微細繊維状セルロースをシート化する技術が開示されているが、工業的なレベルの生産性を確保するまでには至っておらず、微細繊維状セルロースをシート化する簡便な方法の提供が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭56−100801号公報
【特許文献2】特開2008−169497号公報
【特許文献3】特許第3036354号公報
【特許文献4】特許第3641690号公報
【特許文献5】特表平9−509694号公報
【特許文献6】特開2006−316253号公報
【特許文献7】特開平9−216952号公報
【特許文献8】特開平11−209401号公報
【特許文献9】特開2008−106152号公報
【特許文献10】特開2005−060680号公報
【特許文献11】特開平8−188981号公報
【特許文献12】特開2006−193858号公報
【特許文献13】特開2008−127693号公報
【特許文献14】特開平5−148387号公報
【特許文献15】特開2001−279016号公報
【特許文献16】特開2004−270064号公報
【特許文献17】特開平8−188980号公報
【特許文献18】特開2007−23218号公報
【特許文献19】特開2007−23219号公報
【特許文献20】特開2008−274525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、微細繊維状セルロースを簡便に、効率よくシート化することができる微細繊維状セルロースの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の各発明を包含する。
(1)微細繊維状セルロースを含む水系懸濁液を多孔性の基材上でろ過により脱水し、水分を含んだシートを形成し、該水分を含んだシートを加熱蒸発させることにより得られる微細繊維状セルロースシートの製造方法において、該微細繊維状セルロースを含む水系懸濁液にセルロース凝結剤を配合する微細繊維状セルロースシートの製造方法。
【0011】
(2)セルロース凝結剤が無機塩類、またはカチオン性官能基を含む有機化合物から選択される少なくとも一種である(1)に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
【0012】
(3)幅1〜1000nmである微細繊維状セルロースを含む水系懸濁液にセルロース凝結剤を配合し、濃度0.5質量%、温度25℃でのB型粘度を1000mPa・秒以上に調整する(1)または(2)に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
【0013】
(4)微細繊維状セルロース100質量部に対してセルロース凝結剤を0.5〜200質量部配合する(1)〜(3)のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
【0014】
(5)セルロース凝結剤が炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、硫酸アルミニウム、ポリアミド系微カチオン樹脂から選択される少なくとも1種である(1)〜(4)のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
【0015】
(6)微細繊維状セルロースを含む水系懸濁液を無端ベルトの上面に吐出し、吐出された前記水系懸濁液から分散媒を搾水してウエブを形成する搾水工程と、前記ウエブを乾燥させて微細繊維状セルロースシートを形成する乾燥工程と、を備え、前記搾水工程から乾燥工程にかけて前記無端ベルトが配設され、前記搾水工程で形成された前記ウエブが前記無端ベルトに載置されたまま前記乾燥工程に搬送される(1)〜(5)のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
【0016】
(7)前記無端ベルトはメッシュ状に形成され、前記メッシュの目開き寸法は5μm以上50μm以下である(6)に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
【0017】
(8)前記無端ベルトはメンブレンフィルターであり、平均孔径は0.1μm以上10μm以下である(6)に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
【0018】
(9)前記水系懸濁液をダイヘッドまたはスプレーヘッドにより吐出する(6)〜(8)のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によって、微細繊維状セルロースのシートを簡便に、非常に効率よく生産し得る製造方法を提供することができる。
従来から、通常のパルプ繊維の濾水性を向上するためにセルロース凝結剤をスラリーに添加して微細繊維(幅1〜10μm程度)を凝集させることで濾水性を向上させる技術がある。この技術は微細繊維を凝集させ、コロイド状にしてパルプシートの中に抄き込むというメカニズムである。そのため、パルプ繊維シート中の微細繊維の凝集が進むほど、濾水性は向上するため望ましい。
一方、微細繊維(幅1〜1000nm程度)を積極的に利用してパルプ物性を向上させたり、透明性を向上させようとする場合は、微細繊維をいかに凝集させずに均一に分散した状態で抄紙するかが重要なポイントとなり、このような場合、セルロース凝結剤を使用することは微細繊維の機能を低下させることに繋がると通常は考えられる。
また、微細繊維状セルロースのみからなる水系懸濁液に上記のようなセルロース凝結剤を配合すると、粘度が急上昇し、ゲル状の凝集体になると予想されたが、反対にこのような高粘度凝集状態での方がシート化することが容易であるということは全く予想できないことであった。
【0020】
すなわち、本発明者らは、微細繊維状セルロースの水系懸濁液にセルロース凝結剤を添加しゲル状になったものを多孔性の基材上に展開し、吸引ろ過することで、全く予想に反して容易に脱水することを見出した。通常ヒドロゲルは保水性が高く、ゲル化によって脱水性は低下すると考えられるが、微細な繊維で構成される水系懸濁液では比表面積減少やろ材中の細孔における繊維の通過・目詰まりが減少することで高いろ過脱水性が得られる点に本発明の特徴がある。凝結剤を添加しない場合、多孔性の基材上で微細繊維状セルロースが積層してマットを形成すると、吸引圧力によりマットが高密度化して空隙がほとんどない状態になり、水が非常に脱水し難くなる。しかし、セルロース凝結剤を添加してゲル状になったものは、微細繊維状セルロースが凝結剤により架橋され、微細繊維のネットワークを形成しているものと考えられる(従来の使用方法ではコロイドを形成していた)。したがって、このネットワークは吸引ろ過の圧力で潰れることなく、ネットワーク中に含まれる空隙を維持したままであり、微細繊維状セルロースのマットを形成しても脱水が容易になるものと考えられる。このようなメカニズムのため、プレスなどの圧搾装置での脱水も容易になる。微細繊維の凝集・ゲル化によって系の不均一化が生じるが、凝結剤の種類・配合量によって凝集のコントロールが可能であり、更にコントロールされた凝集体の構成単位がナノオーダーの繊維であるため、物性に与える影響は少ない。上記の凝集ゲルをろ過して得られるシート自身は透明性がほとんど低下せず、該シートに樹脂を含浸した場合の透明性は全く低下しない。さらに、凝結剤によって繊維間の化学的架橋や物理的架橋が生じるため微細繊維間の結合が強くなり、シートの引張破壊強度や引張弾性率などの物性はむしろ向上する。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明における微細繊維状セルロースは通常製紙用途で用いられるパルプ繊維よりもはるかに幅の細いセルロース繊維あるいは非常に長い棒状粒子である。微細繊維状セルロースは結晶状態のセルロース分子の集合体であり、その結晶構造はI型(平行鎖)である。微細繊維状セルロースの幅は電子顕微鏡で観察して1nm〜1000nmが好ましく、より好ましくは2nm〜500nm、さらに好ましくは4nm〜100nmである。繊維の幅が1nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しなくなる。1000nmを超えると微細繊維とは言えず、通常のパルプに含まれる繊維にすぎないため、微細繊維としての物性(強度や剛性、寸法安定性)が得られない。また、微細繊維状セルロースシートに樹脂を含浸させた複合体に透明性が求められる用途であると、微細繊維の幅は50nm以下が好ましい。
【0022】
本発明における微細繊維状セルロースの繊維長(JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No.52:2000に準じて測定した長さ加重平均繊維長)は、1〜1000μmが好ましく、10〜600μmがさらに好ましく、50〜300μmが特に好ましい。繊維長を繊維の幅で除した値であるアスペクト比は100〜30000が好ましく、500〜15000がさらに好ましく、1000〜10000が特に好ましい。
繊維長が1μm未満であるとシートを形成するための強度が著しく低く、シート化ができなくなるため好ましくない。繊維長が10μm以上であると確実にシート形成できるようになり、50μm以上であるとシートがさらに形成しやすくなる上、得られるシートの強度も向上する。繊維長が1000μmを超えて繊維径が1μm以下のものを作成しようとすると、なるべく繊維を切らないように(繊維長が短くならないように)繊維径を小さくする必要があるが、そのような処理は弱い剪断力で長時間機械処理する必要があり、工業的生産が困難である。
アスペクト比が100未満であると、繊維長が50μm以上の場合、通常のパルプ繊維(アスペクト比が50程度)に比べ得られるシートの物性に大きな差異がなく、また、繊維径を10nmオーダーまで細くすると繊維長が短くなり、シート形成が困難になったり、強度が著しく低くなってしまう。
【0023】
微細繊維状セルロースの製造方法には特に限定はないが、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、グラインダー(石臼型粉砕機)、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナーなどの機械的作用を利用する湿式粉砕でセルロース系繊維の幅を細くする方法が好ましい。また、前処理としてTEMPO(2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジニルオキシラジカル)酸化や酵素処理(キシラナーゼ処理、セルラーゼ処理)などの化学処理を施してから微細化してもかまわない。微細化するセルロース系繊維としては、植物由来のセルロース、動物由来のセルロース、バクテリア由来のセルロースなどが挙げられる。より具体的には、針葉樹パルプや広葉樹パルプ等の木材系製紙用パルプ、コットンリンターやコットンリントなどの綿系パルプ、麻や麦わら、バガスなどの非木材系パルプ、ホヤや海草などから単離されるセルロースなどが挙げられる。これらの中でも木材系製紙用パルプや非木材系パルプが入手のし易さという点で好ましい。
【0024】
本発明で使用できるセルロース凝結剤としては、水溶性無機塩とカチオン性官能基を含む水溶性有機化合物が挙げられる。水溶性無機塩には塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硝酸ナトリウム、硝酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウムリン酸ナトリウム、リン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0025】
カチオン性官能基を含む水溶性有機化合物としてはポリアクリルアミド、ポリビニルアミン、尿素樹脂、メラミン樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、第四級アンモニウム塩を含有するモノマーを重合あるいは共重合したポリマーなどが挙げられる。
【0026】
セルロース凝結剤の配合量は水系懸濁液がゲル化する量以上に配合する必要がある。具体的には、微細繊維状セルロース100質量部に対して、セルロース凝結剤を0.5〜10質量部配合するのが好ましい。因みに、セルロース凝結剤の配合量が0.5質量部未満であると、水系懸濁液のゲル化が不充分となり、濾水性向上効果が乏しくなるおそれがある。配合量が10質量部を超えると、ゲル化が進み過ぎ、水系懸濁液の取扱が困難となるおそれがある。より好ましくは1〜8質量部の範囲である。ここで、本発明によるゲル化とは水系懸濁液の粘度が急激かつ大幅に上昇し、流動性を失う状態変化である。ただし、ここで得られるゲルはゼリー状であり、攪拌によって容易に破壊される。ゲル化の判断は急激に流動性を失う状態であるので目視で判断可能であるが、本発明のセルロース凝結剤を含む微細繊維状セルロースの水系懸濁液について濃度0.5質量%、温度25℃でのB型粘度(ロータNo.4、回転数60rpm)で判断する。該粘度が1000mPa・秒以上であることが好ましく、2000mPa・秒以上であることがより好ましく、3000mPa・秒以上であることが特に好ましい。因みに、B型粘度が1000mPa・秒未満であると水系懸濁液のゲル化が不充分となり、濾水性向上効果が乏しくなるおそれがある。
【0027】
また、透明性が求められる用途にはカチオン性が弱い化合物をセルロース凝結剤として使用することが好ましい。カチオン性が弱い化合物として炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムなどの炭酸アンモニウム系化合物やギ酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、プロピオン酸アンモニウムなどの有機カルボン酸アンモニウム系化合物が挙げられる。これらの中でも60℃以上の加熱で、分解、気化してシート中から放出される炭酸アンモニウムや炭酸水素アンモニウムが好ましい。
さらに、ポリアミド化合物、ポリアミドポリ尿素化合物、ポリアミンポリ尿素化合物、ポリアミドアミンポリ尿素化合物及びポリアミドアミン化合物などの微カチオン性の有機高分子も使用できる。カチオン性が弱い化合物については、セルロース凝結剤の配合量は、微細繊維状セルロース100質量部に対して、セルロース凝結剤を10〜200質量部配合するのが好ましく、より好ましくは20〜150質量部、さらに好ましくは30〜100質量部の範囲である。カチオン性の弱いセルロース凝結剤の配合量が10質量部未満であると、濾水性が悪化するおそれがある。逆に、配合量が200質量部を超えると透明性が悪化するおそれがある。
【0028】
本発明で使用できる脱水方法としては紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、赤外線ヒーターなどの方法が挙げられる。
【0029】
なお、脱水時のワイヤーとして使用できる多孔性の基材としては、一般の抄紙に使用するワイヤーが挙げられる。例えば、ステンレス、ブロンズなどの金属ワイヤーやポリエステル、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデンなどのプラスチックワイヤーが好ましい。また、セルロースアセテート基材などのメンブレンフィルターをワイヤーとして使用してもかまわない。ワイヤーの目開きとしては0.1μm〜200μmが好ましく、0.2μm〜200μmがより好ましく、0.4μm〜100μmがさらに好ましい。目開きが0.1μm未満であると脱水速度が極端に遅くなり、好ましくない。200μmを超えて大きいと微細繊維状セルロースの歩留りが低下し、好ましくない。
【0030】
さらに、微細繊維状セルロースを含む水系懸濁液を無端ベルトの上面に吐出し、吐出された該水系懸濁液から懸濁媒体を搾水してウエブを形成する搾水工程と、前記ウエブを乾燥させて繊維シートを形成する乾燥工程とを備え、前記搾水工程から前記乾燥工程にかけて前記無端ベルトが配設され、前記搾水工程で形成された前記ウエブが前記無端ベルトに載置されたまま前記乾燥工程に搬送される方法が好ましい。この構成によれば、複数の無端ベルト間でウエブを受け渡す必要がないので、微細繊維状セルロースの採用によりウエブの強度が弱くなっても、受け渡しに伴うウエブの破損を回避することができる。したがって、微細繊維状セルロースからなる繊維シートを確実に抄造することができる。
【0031】
また、前記無端ベルトはメッシュ状に形成され、前記メッシュの目開き寸法は5μm以上50μm以下に形成されていることが好ましい。なお、該目開き寸法は10μm以上40μm以下に形成されていることがより好ましい。
目開き寸法が50μmを超える場合は、水系懸濁液に含まれる微細繊維状セルロースがメッシュ空孔から抜け落ち易くなり、抄造が困難になる。また目開き寸法が5μm未満の場合は、水系懸濁液に含まれる懸濁媒体がメッシュ空孔を透過し難くなり、搾水および乾燥に長時間を要することになる。したがって、目開き寸法を5μm以上50μm以下とすることにより、微細繊維状セルロースからなる繊維シートを確実かつ効率的に抄造することができる。
また、目開き寸法を5μm以上50μm以下とすることで、無端ベルトの上面の凹凸が小さくなる。これにより、無端ベルトの上面で湿式抄造される微細繊維状セルロースシートの凹凸を小さくすることが可能になり、平坦性に優れた繊維シートを形成することができる。また、無端ベルトから繊維シートを容易に分離することができる。
【0032】
前記無端ベルトとしてメンブレンフィルターを使用してもよい。該メンブレンフィルターは平均孔径が0.1μm以上10.0μm以下であることが好ましく、0.3μm以上5.0μm以下であることがより好ましい。ここで、平均孔径は、バブルポイント法によって測定されたものである。すなわち、濃度60質量%の2−プロパノール水溶液にフィルター片面を接液させた状態で、フィルターの非接液面から徐々に圧力を加え、漏れ出てくる気泡と圧力の関係を、標準サンプルと比較することによって該フィルターの平均孔径を知ることができる。平均孔径が10.0μmを超える場合は、水系懸濁液に含まれる微細繊維状セルロースがメッシュ空孔から抜け落ち易くなり、抄造が困難になる。また平均孔径が0.1μm未満の場合は、水系懸濁液に含まれる懸濁媒体がフィルター空孔を透過し難くなり、搾水および乾燥に長時間を要することになる。
【0033】
また前記搾水工程には、前記水系懸濁液を吐出するダイヘッドまたはスプレーヘッドが設けられていることが好ましい。なお、本発明においてダイヘッドには自由落下カーテンダイヘッドも含まれる。
この構成によれば、搾水工程において水系懸濁液の吐出および懸濁媒体の搾水を連続して行うことができる。
【0034】
本発明で得られる微細繊維状セルロースシートの坪量は0.1〜1000g/mが好ましく、1〜500g/mがさらに好ましく、5〜100g/mが特に好ましい。坪量が0.1g/m未満になるとシート強度が極端に弱くなり、連続生産ができない。1000g/mを超えると脱水に非常に時間がかかり、生産性が低下して好ましくない。
【0035】
本発明で得られる微細繊維状セルロースシートの厚さは0.1〜1000μmが好ましく、1〜500μmがさらに好ましく、5〜100μmが特に好ましい。厚さが0.1μm未満になるとシート強度が極端に弱くなり、連続生産ができない。1000μmを超えると脱水速度に非常に時間がかかり、生産性が極端に低下して好ましくない。
【0036】
本発明で得られる微細繊維状セルロースシートの密度は0.10〜1.50g/cmが好ましく、0.30〜1.20g/cmがさらに好ましく、0.40〜0.80g/cmが特に好ましい。密度が0.10g/cm未満になるとシート強度が弱くなり、好ましくない。1.50g/cmを超えると空隙がほとんどない状態になり、樹脂などとの複合化の際には好ましくない。密度は抄紙時の脱水圧力やプレス圧力、シート形成後のカレンダー処理などによって制御が可能である。なお、本発明の密度は坪量を厚さで除した値である。
【0037】
本発明で微細繊維状セルロースに複合化できる樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂(前駆体を含む、以下前駆体と略記する)、紫外線硬化樹脂(前駆体を含む、以下前駆体と略記する)、電子線硬化樹脂(前駆体を含む、以下前駆体と略記する)などが挙げられる。これらの中でも熱硬化性樹脂(前駆体)と紫外線硬化樹脂(前駆体)、電子線硬化樹脂(前駆体)がシートの空隙に浸透し易く、空隙なく複合化できるため好ましい。これら硬化樹脂としては、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、ノボラック系樹脂、尿素系樹脂、グアナミン系樹脂、アルキド系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、シリコーン系樹脂、フラン系樹脂、ケトン系樹脂、キシレン系樹脂、ポリイミド系樹脂、スチリルピリジン系樹脂、トリアジン系樹脂などが挙げられる。透明性の点でアクリル系樹脂やメタクリル系樹脂が好ましい。これら硬化性樹脂は1種類でも2種類以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0038】
本発明においては、微細繊維状セルロースシートに対し、上記樹脂を複合化させる方法として、
(1)モノマーを含浸させて重合させる方法、
(2)熱硬化性樹脂(前駆体)、紫外線硬化樹脂(前駆体)、電子線硬化樹脂(前駆体)を含浸させて硬化させる方法、
(3)上記樹脂の溶液を含浸後乾燥させる方法、
(4)上記樹脂のうち熱可塑性樹脂の溶融体を含浸させ脱泡後冷却する方法、のいずれか一つの方法を用いることができる。
【0039】
モノマーを含浸させ重合させる方法としては、熱可塑性樹脂を構成するモノマーであるメタクリル酸メチルなどのモノマーを、微細繊維状セルロースシートに含浸させ、熱処理などにより上記モノマーを重合させることにより、微細繊維状セルロースシートと前記樹脂からなる複合体を得る製造方法であり、パーオキサイドなどの有機過酸化物、または一般的にモノマーの重合に用いられる重合触媒を重合開始剤として用いることができる。重合触媒が不純物として複合体の性能を損なうことが想定される場合には、キノン類のような重合禁止剤を一切含まない高純度のモノマーを含浸させ、重合開始剤を用いないで熱重合させることも有効である。
【0040】
熱硬化性樹脂(前駆体)、紫外線硬化樹脂(前駆体)、電子線硬化樹脂(前駆体)を含浸させ硬化させる方法としては、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂(前駆体)または紫外線硬化樹脂(前駆体)、電子線硬化樹脂(前駆体)と光重合開始剤の混合物を、微細繊維状セルロースシートに含浸させ、熱処理または紫外線照射、電子線照射により上記熱硬化性樹脂(前駆体)または紫外線硬化樹脂(前駆体)、電子線硬化樹脂(前駆体)を硬化させることにより、微細繊維状セルロースシートと前記樹脂である硬化エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂の硬化物または紫外線硬化樹脂(前駆体)、電子線硬化樹脂(前駆体)の硬化物からなる複合体を得る製造方法である。エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂(前駆体)または紫外線硬化樹脂(前駆体)、電子線硬化樹脂(前駆体)が室温で固体であり、微細繊維状セルロースシートに含浸させることが困難な場合は、該樹脂(前駆体)を前もって熱処理し、熔融させておくことや、該樹脂(前駆体)を可溶な溶媒に溶解させた溶液を含浸させることも可能である。表面の平滑性を高める意味で、ある程度硬化反応が進行した段階で、加熱プレス処理下でさらに反応を進行させることも有効である。該加熱処理時にはある程度硬化反応が進行した複合体を数枚積層させて処理することも厚膜化時には有効である。
【0041】
上記樹脂の溶液を含浸後乾燥させる方法とは、前記熱可塑性樹脂を溶解可能な溶媒に溶解し、微細繊維状セルロースシートに含浸させ、乾燥させることにより、微細繊維状セルロースシートに熱可塑性樹脂を複合化させる製造方法である。
【0042】
上記樹脂である熱可塑性樹脂の熔融体を含浸させ脱泡後冷却する方法とは、熱可塑性樹脂をガラス転移温度以上または融点以上で熱処理することにより可塑化または融解させ、微細繊維状セルロースシートに含浸させ、脱泡後冷却することにより、微細繊維状セルロースシートと熱可塑性樹脂からなる複合体を得る製造方法である。熱処理は加圧下で行うことが望ましく、真空加熱プレス機能を有する設備の使用が有効である。
このようにして得た微細繊維状セルロースシートに樹脂を含浸した複合体はフレキシブル透明基板等に有用な複合基材である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例により詳説する。
【0044】
<調整例1:微細繊維状セルロースの水系懸濁液A>
NBKPパルプ(王子製紙呉工場製:水分50%、フリーネス600mLcsf)100質量部に水1150質量部を加えてディスインテグレーターで解繊した後、リファイナーで処理した。リファイナーで処理したパルプのフリーネスは300mLcsfであった。リファイナーで処理したパルプにパルプ濃度が1%〜1.5%の間になるように水を加えて、石臼型分散機(増幸産業社製「スーパーマスコロイダー」)を用いて5回処理を行って微細繊維状セルロースの水系懸濁液Aを得た。さらに水系懸濁液Aのパルプ濃度を1.0%に調整した。また、該微細繊維を電子顕微鏡で観察したところ、繊維の幅は100〜1000nmであり、カヤーニ繊維長測定機で測定したところ、長さ加重平均繊維長は400μmであった。
【0045】
<調整例2:微細繊維状セルロースの水系懸濁液B>
微細繊維状セルロースの水系懸濁液Aを高圧衝突型分散機(スギノマシン社製「アルティマイザー」)で10回処理して微細繊維状セルロースの水系懸濁液Bを得た。水系懸濁液Bのパルプ濃度を1.0%に調整した。また、該微細繊維を電子顕微鏡で観察したところ、繊維の幅は30〜100nmであり、カヤーニ繊維長測定機で測定したところ、長さ加重平均繊維長は230μmであった。
【0046】
<調整例3:微細繊維状セルロースの水系懸濁液C>
微細繊維状セルロースの水系懸濁液Aを高圧衝突型分散機(スギノマシン社製「アルティマイザー」)で20回処理して微細繊維状セルロースの水系懸濁液Cを得た。水系懸濁液Cのパルプ濃度を1.0%に調整した。また、該微細繊維を電子顕微鏡で観察したところ、繊維の幅は10〜50nmであり、カヤーニ繊維長測定機で測定したところ、長さ加重平均繊維長は120μmであった。
【0047】
<調整例4:微細繊維状セルロースの水系懸濁液D>
水150質量部にNBKPパルプ(王子製紙呉工場製:水分50%、フリーネス600mLcsf)4質量部と2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)0.025質量部と臭化ナトリウム0.25質量部を順次攪拌しながら添加して作成した水分散液に、次亜塩素酸ナトリウムの13質量%水溶液を、パルプ絶乾1gに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が2.5mmolとなるように加えて反応を開始した。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10.5に保った。反応物をろ別し、水洗して、得られたパルプを濃度1.5%になるように水を加えてパルプ分散液を得た。得られたパルプ分散液をディスインテグレーターで約5分間解繊して微細繊維状セルロースの水系懸濁液Dを得た。また、電子顕微鏡で観察したところ、繊維の幅は1〜10nmであった。カヤーニ繊維長測定機で測定したところ繊維長は測定できなかったが、電子顕微鏡による観察で繊維長は1〜50μmであった。
【0048】
<実施例1>
微細繊維状セルロースの水系懸濁液Aをパルプ濃度が0.5質量%になるように調整した水系懸濁液100部に、セルロース凝結剤として硫酸アルミニウム(化学式:Al(SO、固形分:0.3質量%)1.67質量部を攪拌しながら添加した。得られた水系懸濁液(A)のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は600mPa・秒であった。一方、直径142mmのブフナーロートにひいた孔径0.45μmのセルロースアセテートメンブレンフィルター(アドバンテック社製「メンブレンフィルター」)の上に上記水系懸濁液を96.6g注ぎ込み、吸引ろ過を行った。ろ過は1分で脱水が終了した。得られた微細繊維のウェットシートをシリンダー乾燥機を用いて105℃で乾燥して微細繊維状セルロースのシートを得た。シートの坪量は30.0g/mであり、厚さは36μmであり、密度は0.83g/cmであった。
【0049】
<実施例2>
微細繊維状セルロースの水系懸濁液Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして微細繊維状セルロースのシートを得た。ここで、得られた水系懸濁液(B)のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は800mPa・秒であった。 ろ過は1分で脱水が終了した。シートの坪量は29.7g/mであり、厚さは30μmであり、密度は0.99g/cmであった。
【0050】
<実施例3>
微細繊維状セルロースの水系懸濁液Cを用いたこと以外は実施例1と同様にして微細繊維状セルロースのシートを得た。ここで、得られた水系懸濁液(C)のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は1200mPa・秒であった。ろ過は2分で脱水が終了した。得られた微細繊維のウェットシートをシリンダー乾燥機を用いて105℃で乾燥して微細繊維状セルロースのシートを得た。シートの坪量は29.7g/mであり、厚さは30μmであり、密度は0.99g/cmであった。
【0051】
<実施例4>
微細繊維状セルロースの水系懸濁液Dを用いたこと以外は実施例1と同様にして微細繊維状セルロースのシートを得た。得られた水系懸濁液のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は1900mPa・秒であった。ろ過は2分30秒で脱水が終了した。シートの坪量は29.7g/mであり、厚さは30μmであり、密度は0.99g/cmであった。
【0052】
<実施例5>
微細繊維状セルロースの水系懸濁液Cをパルプ濃度が0.5質量%になるように調整した水系懸濁液100部に、セルロース凝結剤として0.1質量%に水で希釈したカチオンポリマーPCA−02(東邦化学工業株式会社)水溶液15部を攪拌しながら添加した。一方、直径142mmのブフナーロートにひいた孔径0.45μmのセルロースアセテートメンブレンフィルター(アドバンテック、メンブレンフィルター)の上に上記水系懸濁液109gを注ぎ込み吸引ろ過し、微細繊維状セルロースシートを得た。得られた水系懸濁液のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は1200mPa・秒、ろ過は2分で脱水が終了した。シートの坪量は30.2g/mであり、厚さは30μmであり、密度は1.01g/cmであった。
【0053】
<実施例6>
セルロース凝結剤として0.1質量%に水で希釈したカチオンポリマーユニセンスKHE1000L(センカ株式会社)水溶液を15部添加したこと以外は実施例5と同様に微細繊維状セルロースのシートを得た。得られた水系懸濁液のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は450mPa・秒、ろ過は2分で脱水が終了した。シートの坪量は30.1g/mであり、厚さは29μmであり、密度は1.04g/cmであった。
【0054】
<実施例7>
セルロース凝結剤として0.1質量%に水で希釈したカチオンポリマーフィクサージュ−621(栗田工業株式会社)水溶液を15部添加したこと以外は実施例5と同様に微細繊維状セルロースシートを得た。得られた水系懸濁液のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は1350mPa・秒、ろ過は2分で脱水が終了した。シートの坪量は30.4g/mであり、厚さは30μmであり、密度は1.01g/cmであった。
【0055】
<実施例8>
セルロース凝結剤として0.1質量%に水で希釈したカチオンポリマーユニセンスCP104センカ株式会社)水溶液を15部添加したこと以外は実施例5と同様に微細繊維状セルロースシートを得た。得られた水系懸濁液のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は450mPa・秒、ろ過は2分で脱水が終了した。シートの坪量は29.5g/mであり、厚さは28μmであり、密度は1.05g/cmであった。
【0056】
<実施例9>
微細繊維状セルロースの水系懸濁液Aをパルプ濃度が0.5質量%になるように調整したスラリー100部に、セルロース凝結剤として硫酸アルミニウム(化学式:Al(SO、固形分:0.3質量%)1.67質量部を攪拌しながら添加した。得られた水系懸濁液(A)のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は600mPa・秒であった。一方、直径142mmのブフナーロートにひいた孔径0.45μmのセルロースアセテートメンブレンフィルター(アドバンテック社製「メンブレンフィルター」)の上に上記水系懸濁液を96.6g注ぎ込み、吸引ろ過を行った。ろ過は1分で脱水が終了した。得られた微細繊維のウェットシートをイソブチル溶液の中に30分間漬けて後、イソブチルアルコールで置換されたウェットシートを取り出しシリンダー乾燥機を用いて130℃で乾燥して微細繊維状セルロースのシートを得た。シートの坪量は30.0g/mであり、厚さは60μmであり、密度は0.50g/cmであった。得られたシートをフェノール樹脂(群栄化学社製:商品名「PL4414」、熱硬化タイプ、固形分40%、メタノール溶液)に減圧下(0.08MPa)で12時間浸漬処理した後、シートを取り出し数時間風乾後、150℃、50MPaで10分間熱プレスして硬化し、フェノール樹脂複合化微細繊維状シートを得た。
得られた樹脂複合化微細繊維状シートは複合化前に比し、透明性が大幅に向上し、手で曲がるほどの柔軟性を示した。
【0057】
<実施例10>
微細繊維状セルロースの水系懸濁液Cをパルプ濃度が0.5質量%になるように調整した水系懸濁液100部に、セルロース凝結剤として炭酸水素アンモニウム(和光純薬社製)の水溶液(濃度10質量%)2.5部を攪拌しながら添加した。一方、直径142mmのブフナーロートにひいた孔径0.45μmのセルロースアセテートメンブレンフィルター(アドバンテック社製、メンブレンフィルター)の上に上記水系懸濁液109gを注ぎ込み吸引ろ過し、微細繊維状セルロースシートを得た。得られた水系懸濁液のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は850mPa・秒、ろ過は3分で脱水が終了した。シートの坪量は31.0g/mであり、厚さは31μmであり、密度は1.0g/cmであった。
【0058】
<実施例11>
セルロース凝結剤として炭酸水素アンモニウム(和光純薬社製)の水溶液(濃度10質量%)5部を攪拌しながら添加したこと以外は、実施例10と同様にして微細繊維状セルロースシートを得た。得られた水系懸濁液のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は1000mPa・秒、ろ過は2分で脱水が終了した。シートの坪量は30.5g/mであり、厚さは30μmであり、密度は1.02g/cmであった。
【0059】
<実施例12>
セルロース凝結剤として炭酸水素アンモニウム(和光純薬社製)の水溶液(濃度10質量%)10部を攪拌しながら添加したこと以外は、実施例10と同様にして微細繊維状セルロースシートを得た。得られた水系懸濁液のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は1050mPa・秒、ろ過は2分で脱水が終了した。シートの坪量は30.0g/mであり、厚さは30μmであり、密度は1.0g/cmであった。
【0060】
<実施例13>
微細繊維状セルロースの水系懸濁液Cをパルプ濃度が0.5質量%になるように調整した水系懸濁液100部に、セルロース凝結剤として微カチオン性樹脂(住友化学社製、商品名:「SPI203」、固形分50%、ポリアミンポリアミド樹脂)を10%に希釈した水溶液1部を攪拌しながら添加した。一方、直径142mmのブフナーロートにひいた孔径0.45μmのセルロースアセテートメンブレンフィルター(アドバンテック社製、メンブレンフィルター)の上に上記水系懸濁液109gを注ぎ込み吸引ろ過し、微細繊維状セルロースシートを得た。得られた水系懸濁液のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は650mPa・秒、ろ過は3分で脱水が終了した。シートの坪量は30.9g/mであり、厚さは31μmであり、密度は1.0g/cmであった。
【0061】
<実施例14>
セルロース凝結剤として微カチオン性樹脂(住友化学社製、商品名:「SPI203」、固形分50%、ポリアミンポリアミド樹脂)を10%に希釈した水溶液2.5部を攪拌しながら添加したこと以外は実施例12と同様にして微細繊維状セルロースシートを得た。得られた水系懸濁液のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は900mPa・秒、ろ過は2分で脱水が終了した。シートの坪量は30.6g/mであり、厚さは30μmであり、密度は1.02g/cmであった。
【0062】
<実施例15>
セルロース凝結剤として微カチオン性樹脂(住友化学社製、商品名:「SPI203」、固形分50%、ポリアミンポリアミド樹脂)を10%に希釈した水溶液5部を攪拌しながら添加したこと以外は実施例12と同様にして微細繊維状セルロースシートを得た。得られた水系懸濁液のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は1050mPa・秒、ろ過は1分で脱水が終了した。シートの坪量は30.1g/mであり、厚さは30μmであり、密度は1.0g/cmであった。
【0063】
<実施例16>
微細繊維状セルロースの水系懸濁液Aをパルプ濃度が0.5質量%になるように調整した水系懸濁液100部に、セルロース凝結剤として硫酸アルミニウム(化学式:Al(SO、固形分:0.3質量%)1.67質量部を攪拌しながら添加した。得られた水系懸濁液(A)のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は600mPa・秒であった。得られた水系懸濁液(A)をダイヘッドにより加圧しながら連続移動している無端ベルト(孔径26μmの500メッシュのステンレス製ワイヤー)上に吐出し平板状プレートで水系懸濁液の表面を均し厚さを均一にする。次に無端ベルトに水系懸濁液が配置された状態で、減圧濾過を行う。無端ベルトの下方に吸引ボックスを設置して脱水する。脱水後(水分20%)105℃に加熱したシリンダードライヤに無端ベルト上に脱水された水系懸濁液を配置したまま、水系懸濁液側がシリンダードライヤ表面に接するようにして乾燥した。シートの坪量は30.0g/mであり、厚さは34μmであり、密度は0.88g/cmであった。
【0064】
<実施例17>
無端ベルトとして孔径48μの305メッシュのナイロン製ワイヤーを用いたこと以外は実施例16と同様にしてシートを作成した。シートの坪量は30.0g/mであり、厚さは34μmであり、密度は0.88g/cmであった。
【0065】
<実施例18>
微細繊維状セルロースの水系懸濁液Cをパルプ濃度が0.5質量%になるように調整した水系懸濁液100部に、セルロース凝結剤として硫酸アルミニウム(化学式:Al(SO、固形分:0.3質量%)1.67質量部を攪拌しながら添加した。得られた水系懸濁液(C)のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は1200mPa・秒であった。得られた水系懸濁液(C)をスプレーヘッドにより加圧しながら連続移動している無端ベルト(孔径1μmのPTFE製メンブレンフィルターを500メッシュのステンレスワイヤー上に張ったもの)上に吐出し平板状プレートで水系懸濁液の表面を均し厚さを均一にする。次に無端ベルトに水系懸濁液が配置された状態で、減圧濾過を行う。無端ベルトの下方に吸引ボックスを設置して脱水する。脱水後(水分20%)105℃に加熱したシリンダードライヤに無端ベルト上に脱水された水系懸濁液を配置したまま、水系懸濁液側がシリンダードライヤ表面に接するようにして乾燥した。シートの坪量は30.0g/mであり、厚さは27μmであり、密度は1.11g/cmであった。
【0066】
<比較例1>
微細繊維状セルロースの水系懸濁液Aをパルプ濃度が0.5質量%になるように調整した水系懸濁液95gを直径142mmのブフナーロートにひいた孔径0.45μmのセルロースアセテートメンブレンフィルター(アドバンテック社製「メンブレンフィルター」)の上に注ぎ込み吸引ろ過を行った。得られた水系懸濁液(A)のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は80mPa・秒であった。ろ過は8分で脱水が終了した。得られた微細繊維のウェットシートをシリンダー乾燥機を用いて105℃で乾燥して微細繊維状セルロースのシートを得た。シートの坪量は30.2g/mであり、厚さは29μmであり、密度は1.0g/cmであった。
【0067】
<比較例2>
微細繊維状セルロースの水系懸濁液Bを用いたこと以外は比較例1と同様にして微細繊維状セルロースのシートを得た。得られた水系懸濁液(B)のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は150mPa・秒であった。ろ過は9分で脱水が終了した。得られた微細繊維のウェットシートをシリンダー乾燥機を用いて105℃で乾燥して微細繊維状セルロースのシートを得た。シートの坪量は30.3g/mであり、厚さは30μmであり、密度は1.0g/cmであった。
【0068】
<比較例3>
微細繊維状セルロースの水系懸濁液Cを用いたこと以外は比較例1と同様にして微細繊維状セルロースのシートを得た。得られた水系懸濁液(C)のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は220mPa・秒であった。ろ過は10分で脱水が終了した。得られた微細繊維のウェットシートをシリンダー乾燥機を用いて105℃で乾燥して微細繊維状セルロースのシートを得た。シートの坪量は29.3g/mであり、厚さは25μmであり、密度は1.17g/cmであった。
【0069】
<比較例4>
微細繊維状セルロースの水系懸濁液Dを用いたこと以外は比較例1と同様にして微細繊維状セルロースのシートを得た。得られた水系懸濁液(D)のB型粘度(25℃、60rpm、ロータNo.4)は430mPa・秒であった。ろ過は11分で脱水が終了した。得られた微細繊維のウェットシートをシリンダー乾燥機を用いて105℃で乾燥して微細繊維状セルロースのシートを得た。シートの坪量は29.5g/mであり、厚さは19μmであり、密度は1.55g/cmでであった。
【0070】
[評価方法]濾水時間が8分以上であると連続抄紙が困難と判断した(この方法で通常の製紙用パルプの濾水時間を記載する等、この判断の根拠を示して下さい)。
1.濾水時間
微細繊維状セルロースの水系懸濁液をブフナロートの上に注ぎ終わった瞬間をスタートとした。注ぎ込む時間は5秒で統一した。注ぎ込んでから減圧状態にして、目視で判断して終了として濾水時間を測定した。
2、シートの引張破断強度
得られたシートを15mm幅に切断してテンシロンを用いて引張破断強度を測定した。
3.ヘーズ測定
得られたシートのヘーズ(曇価)をJIS K 7105−1981「プラスチックの光学的特性試験方法」に準じて(株)村上色彩技術研究所製、商品名:「ヘーズメーター HM−150」を用いて測定した。
【0071】
【表1】

【0072】
表1から明らかなように本発明の微細繊維状セルロースの製造方法は濾水時間が短く、簡便に、効率よくシート化することができる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の製造方法によれば、濾水時間が短く、簡便に、効率よく微細繊維状セルロースシートを製造することができるものである。また、得られた微細繊維状セルロースシートに樹脂を含浸することによりフレキシブル透明基板等に有用な複合基材を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細繊維状セルロースを含む水系懸濁液を多孔性の基材上でろ過により脱水し、水分を含んだシートを形成し、該水分を含んだシートを加熱蒸発させることにより得られる微細繊維状セルロースシートの製造方法において、該微細繊維状セルロースを含む水系懸濁液にセルロース凝結剤を配合することを特徴とする微細繊維状セルロースシートの製造方法。
【請求項2】
セルロース凝結剤が無機塩類、またはカチオン性官能基を含む有機化合物から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
【請求項3】
幅1〜1000nmである微細繊維状セルロースを含む水系懸濁液にセルロース凝結剤を配合し、濃度0.5質量%、温度25℃でのB型粘度を1000mPa・秒以上に調整することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
【請求項4】
微細繊維状セルロース100質量部に対してセルロース凝結剤を0.5〜200質量部配合することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
【請求項5】
セルロース凝結剤が炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、硫酸アルミニウム、ポリアミド系微カチオン樹脂から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
【請求項6】
微細繊維状セルロースを含む水系懸濁液を無端ベルトの上面に吐出し、吐出された前記水系懸濁液から分散媒を搾水してウエブを形成する搾水工程と、前記ウエブを乾燥させて微細繊維状セルロースシートを形成する乾燥工程と、を備え、前記搾水工程から乾燥工程にかけて前記無端ベルトが配設され、前記搾水工程で形成された前記ウエブが前記無端ベルトに載置されたまま前記乾燥工程に搬送されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
【請求項7】
前記無端ベルトはメッシュ状に形成され、前記メッシュの目開き寸法は5μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項6に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
【請求項8】
前記無端ベルトはメンブレンフィルターであり、平均孔径は0.1μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項6に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。
【請求項9】
前記水系懸濁液をダイヘッドまたはスプレーヘッドにより吐出することを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の微細繊維状セルロースシートの製造方法。

【公開番号】特開2010−168716(P2010−168716A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289009(P2009−289009)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】