説明

微細藻類の分離方法及び分離システム

【課題】微細藻類を培地から純粋かつ収率よく分離できる分離方法及びそのシステムを提供する。
【解決手段】微細藻類を含む培地を互いに異なる細孔径を持つ複数の分離手段10,12,14に順番に適用することにより、前記微細藻類と異物とをサイズ別に分画する微細藻類の分離技術であり、特に、微細藻類のコロニーを、前記中小の異物及び大型異物とから分画する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微細藻類を培地(培養液)から純粋かつ収率よく分離する方法及びそのシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオマスが豊富である微細藻類からバイオ燃料を生産することが古くから着目されている。そして、近年では、バイオ燃料の大量生産のための技術開発が盛んに進められている。技術開発の主眼の一に、微細藻類を安価に大規模生産することがある。
【0003】
従来、微細藻類の大量培養技術は、健康食品、医薬など付加価値の高い生理活性物質の商業生産を目的に開発されてきた。その一つとして、微細藻類の培養パネルを垂直に置き、水平方向から光を照射することにより、藻類を高密度で高速に増殖させることが行われてきた。
【0004】
しかしながら、生理活性物質よりも単位重量当りの対価が低いバイオ燃料の製造では、既述の方式では、装置の稼働に要するエネルギーの消費量が大きく採算が合わないため、野外の開放系装置における藻類の大量培養方式が行われている。
【0005】
藻類を野外で大量培養した後バイオマスを回収するためには、固形分としての微細藻類と液体成分としての培地とを分離して、先ず、微細藻類を凝縮する。次いで、ボールミルやホモジナイザーで微細藻類を破壊してバイオ燃料を藻体の外に取り出した後、破砕物を脱水乾燥する。脱水乾燥物からバイオ燃料を取り出すためには、ヘキサン等の極性溶媒や超臨界油媒を用いて、脱水乾燥物からバイオ燃料を抽出する。
【0006】
特表2010−515441号公報には、藻類を培養後、培養液から遠心分離によって藻類を凝縮し、次いで、バイオ燃料を得ることが記載されている。培養液から藻類を分離する他の形態としては、フィルタを用いる形態もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2010−515441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
既述の分離方法は、液体成分(培地)と固体成分(藻体)との分離を目的としているが、固体成分が目的の藻体だけであるとは限らない。すなわち、固体成分の中には、不要なバクテリアや大気中から混入したゴミや昆虫、大型藻類の切れ端等の異物が含まれていることが多い。このため、遠心分離法では、固体成分の中には、微細藻類の中に大型の異物が混入するおそれがある。これらの異物がそのまま次の脱水・乾燥工程に送られると、バイオ燃料等の最終製品の品質が低下する問題がある。これを避けるためには、最終製品から異物を除去するための工程や装置が別に必要になる。
【0009】
また、フィルタを用いた分離法では、大型異物を除くことができる半面、バクテリアなどの小型異物を除くことができない。さらに、フィルタを用いた分離法では、微細藻類の群体(コロニー)も異物と一緒に取り除かれてしまうおそれがあり、最終製品の収率を低下させるおそれがある。
【0010】
そこで、本発明は、微細藻類を培地から純粋かつ収率よく分離できる分離方法及びそのシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記目的を達成するために、バイオ燃料などの最終有用物を得るための微細藻類として、コロニー形成能を有する微細藻類に着目した。この微細藻類が形成するコロニーの直径サイズは30μm〜300μm(平均100μm程度)である。このサイズは、バクテリア等を含む小型異物(1〜50μm程度)、ゴミ、昆虫等の大型異物(1mm以上)とオーダー単位で異なるため、細孔径が互いに異なる複数の分離手段を組み合わせることにより、これら成分を互いに分画することができる。
【0012】
すなわち、本発明は、微細藻類を含む培地を互いに異なる細孔径を持つ複数の分離手段に順番に適用することにより、前記微細藻類と異物とをサイズ別に分画する微細藻類の分離方法であり、特に、微細藻類のコロニーを、前記中小の異物及び大型異物とから分画することを特徴としている。
【0013】
一方、本発明に係る微細藻類の分離システムは、互いに異なる細孔径を持つ複数の分離手段を備え、微細藻類のコロニーを含む培養液を順番に処理して、前記コロニーと異物とをサイズ別に分画することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の対象となる微細藻類は、コロニー形成能を持ちながらバイオ燃料を生成可能なものであればよく、特に限定されるべきものでないが、例えば、ボツリオコッカス属に属するものが好適である。ボツリオコッカス属に属する株とし、Botryococcus braunii Kutzing (株番号2199)、Botryococcus braunii Kutzing (株番号836)が知られている。これらの株は、茨城県つくば市小野川16-2所在の(独)国立環境研究所微生物系統保存施設から入手することができる。
【0015】
複数の分離手段は、大型異物と微細藻類のコロニーとを分画するための第1のフィルタを有する第1ユニットと、小型異物と微細藻類のコロニーとを分画するための第2のフィルタを有する第2ユニットと、から構成される。第1の分離手段としての第1ユニットは、培地中の微細藻類のコロニーを含む固体成分を、大型異物からなる第1の画分と、微細藻類のコロニーからなる第2の画分と、に分離し、第2の分離手段としての第2ユニットは、小型異物からなる第3の画分を分離する。
【0016】
第1のフィルタは、微細藻類のコロニーが通過でき、大型異物が通過できない、ポアサイズを有する。第2のフィルタは、小型異物が通過でき、微細藻類のコロニーが通過できないポアサイズを有する。
【0017】
本発明の分離方法は、液体成分と小型異物以上の個体成分とを分離するための第3のフィルタを有する第3ユニット(第3の分離手段)を備えてもよい。第3のフィルタは、小型異物を通過しない超微細なポアサイズを有する。第3のフィルタによって固体成分が分離された液体成分はバクテリアを含まないろ過水であるため、微細藻類の培地用の水や逆洗水として再利用することができる。その際、水中に含まれるコロイド状物質をPACや硫酸バンド等の凝集剤を適用して沈殿させて除けばよい。
【0018】
小型異物の中には、微細藻類の単細胞や、微細藻類のコロニーの断片、あるいは小型コロニーが含まれている可能性も高い。そこで、小型異物を廃棄する前に小型異物を種にして予備的な培養を行い、微細藻類のコロニーが増殖する場合には小型異物の培養液を破棄することなく、そのまま本格培養を継続し、培養液をバイオ燃料用の原料として再利用することができる。予備的培養によって、微細藻類のコロニーが確認できない場合には、小型異物は藻類以外のバクテリアを含む可能性が高いため、小型異物を含むろ過水を破棄する。予備的な培養とは、本格培養のための培養池ではなく、予備的な培養池等で行う比較的短期間の培養方法である。小型異物を微細藻類のコロニーの培養に利用することによって、微細藻類の培養を効率良く進めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、微細藻類を培地から純粋かつ収率よく分離できる分離方法及びそのシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る微細藻類の分離システムの一形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態について説明する。図1は微細藻類の分離システムの一形態を示すブロック図である。微細藻類の分離システムは、第1のフィルタを有する第1ユニット10と、第2のフィルタを有する第2ユニット12と、第3のフィルタを有する第3ユニット14とをこの順に連結させた構成を備えている。
【0022】
第1ユニット10は、例えば、第1のフィルタを備えるドラムスクリーン装置から構成され、第2ユニット12も同様に第2のフィルタを備えるドラムスクリーン装置から構成される。第3ユニット14の第3のフィルタは超微細なポアサイズを有するために、ドラムスクリーン装置よりも例えば中空糸からなる精密ろ過膜のユニットから構成される。
【0023】
第1のフィルタは、微細藻類のコロニーが通過でき、大型異物が通過できない、第1のポアサイズを有する。第1のポアサイズは、例えば、0.1〜1mmである。第1のフィルタは、例えば、第1のポアサイズを有する金属製スクリーンから構成される。
【0024】
第2のフィルタは、小型異物が通過でき、微細藻類のコロニーが通過できない第2のポアサイズを有する。第2のポアサイズは、例えば、20〜50μmである。20μm未満では、夾雑物としての種々のバクテリアを十分除けないおそれがある。一方、50μmを越えると、微細藻類のコロニーのうち小型のものが異物として除かれてしまうおそがある。第2のフィルタは、例えば、第2のポアサイズを有するナイロン製フィルタから構成される。
【0025】
第3のフィルタは、小型異物を通過しない超微細な第3のポアサイズを有する。第3のポアサイズは、例えば、0.1μm程度である。材質は、例えば下水処理工程での膜ろ過で使われているPVDF(ポリフッ化ビニリデン)である。
【0026】
次に、分離システムの動作について説明する。培養池からくみ上げられた培養液(培地)S1は、第3ユニット14に供給される。第3ユニット14は、中空糸膜によって、培養液を固体成分(小型異物、コロニー、大型異物)とろ過水S2に分離する。既述のとおり、液体成分には所定の浄化工程16を行い、浄化水を培地用の水S3と逆洗用の水とに利用する。逆洗水G1は第3ユニット14に供給され、逆洗水G1は中空糸膜外に付着した固体成分をブロアとともに剥ぎ取り、固体成分を含む処理水Y1は第2ユニット12に供給される。なお,G2は逆洗用の水として第2ユニット12に供給される。G3も逆洗用の水として第1ユニット10に供給される。
【0027】
第2ユニット12のロータリドラムには第2のフィルタが巻回されており、第3ユニット12からの処理水Y1が供給されると、第2のフィルタは既述の小型異物を通過させるため、処理水Y1は、小型異物を含むろ過水R1と、第2フィルタを通過できないコロニー及び大型異物に分離される。小型異物を含むろ過水R1は、既述のとおり、予備培養の対象とされる。
【0028】
第2ユニット12には第3ユニット14からの逆洗水G2が供給され、第2のフィルタに付着したコロニー及び大型異物からなる固形物はブロアと逆洗水G2によって逆洗され、固形物を含む処理水Y2は、第1ユニット10に供給される。
【0029】
第1ユニット10のロータリドラムには第1のフィルタが巻回されており、第2ユニット12からの処理水Y2が供給されると、第1のフィルタはコロニーを通過させ、大型異物を通過させないため、第1フィルタは処理水Y2を、コロニーを含むろ過水R2と大型異物に分離する。コロニーを含むろ過水R2は、遠心分離されて、コロニーの凝集物が収集される。コロニーの凝集物は、バイオ燃料を生成するための次の工程に送られる。
【0030】
第1ユニット10には第3ユニット10から逆洗用の水G3が供給され、第1のフィルタに付着した大型異物からなる固形物はブロアと逆洗水にG3よって逆洗され、大型異物を含む処理水Y3は大型異物の廃棄工程18に送られる。大型異物はサイズが大きく、脱水性に優れるため、天日乾燥などの乾燥工程を経て焼却処分される。
【0031】
以上の工程によって、培養液から微細藻類の分離が終了する。微細藻類のコロニーが存在するろ過水R2には、大型異物及びバクテリアなどの小異物が含まれず、微細藻類の純粋な分離が行われる。また、小型異物を含むろ過水R1には微細藻類の細分化されたコロニーが含まれている可能性がある。微細藻類の細分化されたコロニーが予備培養によって確認されると、細分化されたコロニーを用いて微細藻類の本格培養が継続される。したがって、微細藻類の細分化されたコロニーが廃棄されず再利用されるため、微細藻類の収率が向上する。
【0032】
予備的培養の一例は次のとおである。まず小型異物を含む固体成分を、培地で希釈するか、または第2のフィルタと同等のフィルタで濃縮して、培養中の微細藻類濃度と同等(おおむね1〜10g乾燥藻体/L程度)とし、2〜10日程度培養する。この予備的培養によって、目的の藻体が増殖したかどうかは、顕微鏡で観察するなどして藻体の形態(細胞の形、コロニーの形、色など)から容易に判断できる。
【0033】
なお、既述の実施形態では、培養液S1を最初に精密ろ過膜によって処理したため、ろ過水を第1ユニット10と第2ユニット12用の逆洗水として再利用することができる。なお、既述の実施形態では、培養液を第3ユニットに先ず供給し、次いで、第2ユニット、第3ユニットの順で培養液のろ過を進めたが、第1ユニット側から培養液をろ過するものであってもよい。
【符号の説明】
【0034】
10 第1ユニット(第1分離手段)
12 第2ユニット(第2分離手段)
14 第3ユニット(第3分離手段)
S1 微細藻類のコロニーを含む培養液
S2 異物を含まないろ過水
R1 小型異物(バクテリア、再分化されたコロニーなど)を含むろ過水
R2 微細藻類のコロニーを含むろ過水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微細藻類を含む培養液を互いに異なる細孔径を持つ複数の分離手段を順番に通過させる第1の工程と、
前記培養液を前記複数の分離手段を順番に通過させる過程で、前記微細藻類と異物とをサイズ別に順番に分画する第2の工程と、
を含む微細藻類の分離方法。
【請求項2】
前記第2の工程は、前記微細藻類のコロニーを前記異物から分画する、請求項1記載の微細藻類の分離方法。
【請求項3】
前記分離手段は、
前記コロニーを通過させて、大型異物を通過させない細孔径を持つ第1のフィルタと、
小型異物を通過させ、前記コロニーを通過させない細孔径を持つ第2のフィルタと、
を備え、
前記第2の工程は、
前記第1のフィルタによって、前記大型異物と前記コロニーとを分画し、
前記第2のフィルタによって、前記小型異物を分画する、
請求項2記載の微細藻類の分離方法。
【請求項4】
前記分離手段は、前記小型異物を通過させない細孔径を持つ第3のフィルタを備え、
前記第2の工程は、前記第3のフィルタによって前記コロニー、前記小型異物、及び、前記大型異物を含まないろ過水を分画する、請求項1乃至3の何れか1項記載の微細藻類の分離方法。
【請求項5】
前記小型異物を培養して、前記微細藻類のコロニーが成長するか否かを判定する工程を有し、当該コロニーが成長した場合には、前記第1の工程は、前記小型異物の培養液を前記複数の分離手段に適用する、請求項4記載の微細藻類の分離方法。
【請求項6】
前記微細藻類がボツリオコッカス属のコロニー生産性の株である、請求項1乃至5の何れか1項記載の微細藻類の分離方法。
【請求項7】
前記第2の工程は、前記培養液を、前記第3のフィルタ、次いで、第2のフィルタ、次いで、第1のフィルタの順に通過させる、請求項4記載の微細藻類の分離方法。
【請求項8】
前記ろ過水を前記第1のフィルタ及び第2のフィルタに逆洗用の水として供給する工程を含む、請求項7記載の微細藻類の分離方法。
【請求項9】
互いに異なる細孔径を持つ複数の分離手段を備え、
当該複数の分離手段は、微細藻類のコロニーを含む培養液を順番に処理して、前記コロニーと異物とをサイズ別に分画する、微細藻類の分離システム。

【図1】
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【公開番号】特開2013−27378(P2013−27378A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167424(P2011−167424)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】