説明

微細藻類の培養方法

【課題】我が国の気候条件下における、微細藻類の屋外大規模培養での培養温度と降雨の影響による収率の減少に関する課題に対し、培養温度に対する外部環境温度の影響を最少とし、加えて降雨影響を回避して培養物の流出を防止すると共に栄養塩の供給を確実に果たす、安定且つ高収量な粗放的大規模培養方法を市場に提供すること。
【解決手段】柔軟な不透水性の高分子フィルムで設定される、フィルム層と空間層からなる多層構造を有する長尺なチューブ状容器を、多数用いる微細藻類の培養であって、更に培養時の最低温度を微細藻類のクロロフィル蛍光収率の至適温度に対し摂氏8度以内に維持することにより、安定且つ高収量な粗放的大規模培養を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微細藻類の培養方法に関する。特に、寒冷期が存在し且つ降雨に富む気候環境下において、簡便な構成と操作をもって屋外で実施する微細藻類の大規模培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細藻類は、これまでに代替食糧(微生物蛋白)、機能性食品、水産養殖餌料、水処理等への利用が図られ、用途に応じて、屋内バイオリアクタ方式から屋外大規模培養に用いるオープンポンド方式やレースウェイ方式に到るまで、様々な培養システムが開発されてきた。近年では、燃料作物という新たな微細藻類の用途も見出され、大規模且つ低コストである培養システムの開発が急務となっている。
【0003】
一般に燃料生産を目的とした微細藻類の培養は、生産コストを十分に抑えたヘクタール規模での大規模培養が必要とされる。これまでの大規模培養は、主に海外にて展開され、オープンポンド方式やレースウェイ方式等の開放的人工池を利用した粗放培養(非特許文献1)が主流であったが、我が国ではこれらの粗放的大規模培養方式を単純に採用しにくい状況にあった。
【0004】
なぜなら、日本の風土のごとく、四季が存在し降雨に富む自然環境下における粗放的大規模培養は、寒冷期における環境温度の低下や日格温度差、また、台風や豪雨等の集中降雨による培養物/液の希釈や流出等、屋外での粗放培養におけるマイナス影響を十分に考慮したものでなければならなかった。
更に、燃料生産を目的として微細藻類を培養する場合は、安価な燃料単価を達成するために、オープンポンド方式やレースウェイ方式等よりも、更に設置コストを低減した粗放的大規模培養方法が望まれるところであった。
【0005】
しかしながら、従来の国内特許文献に見られる多くの微細藻類培養装置は、透明で堅固な受光容器を主体とし更に環境制御機器を付属させた、発酵生産等で多用される様なバイオリアクタ方式(特許文献1〜5)が主流であり、これら従来技術は、躯体構造の複雑さや装置製造コストの面から、大規模培養へのスケールアップが著しく困難であるという課題を有していた。
【0006】
また、特許文献6〜9に示される従来技術のように、少数ではあるが屋外培養システムも提案されていた。例えば、小型レースウェイ方式の培養設備に透明なルーフシートを被せる技術(特許文献6、7)、水域に浮遊躯体と微細藻類培養容器を設置する技術(特許文献8)、棚田のごとく地形の傾斜を利用する培養技術(特許文献9)等があった。
しかしながら、前記バイオリアクタ方式と同様に、大規模培養へのスケールアップに関するコスト面で難があり、また、培養好適温度の設定と降雨影響の回避等が必ずしも十分では無いなどの課題を有していた。
【0007】
一方、近年では、特許文献10及び11のようにチューブ構造を有する培養器具を用いて、広域水域での粗放的大規模培養を実施する発明が提案された。チューブ構造を有する培養器具を用いるこれらの従来技術は、従前の粗放的大規模培養手段であるオープンポンド方式等で用いられる遮水シート養生を施工する代わりに、高分子フィルムからなるチューブを培養容器として微細藻類を培養するものであった。
【0008】
【表1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2743316号公報
【特許文献2】特許第3035153号公報
【特許文献3】特許第3600250号公報
【特許文献4】特許第4389500号公報
【特許文献5】特開2007−319039号公報
【特許文献6】特許第3061467号公報
【特許文献7】特開平5−184347号公報
【特許文献8】特開平5−236935号公報
【特許文献9】特開平5−284958号公報
【特許文献10】特開2004−81157号公報
【特許文献11】特開2007−330215号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Borowitzka, M.A.,“Chapter14: Culturing Microalgae in Outdoor Ponds”in Algal Culturing Techniques, R. Anderson, Editor, AcademicPress, Burlington, MA p.205-218 (2005).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述したチューブ法を用いた従来技術(特許文献10及び11)は、水系環境中の窒素・リン等の水質汚濁物質の低減・除去を本旨とするものであり、該従来技術による微細藻類の生産は、その水処理における副次的なものに過ぎなかったため、微細藻類の大規模培養を主たる目的として実施する場合には、種々の不都合があった。
【0012】
すなわち、特許文献10及び11の従来技術での培養温度は、周囲の環境温度と同様であり、寒冷期における大量培養が極めて困難であるという課題を有していた。
加えて栄養塩の供給が、設置水系からの機能膜を介したチューブ内への流入に依存するため、降雨等によって外界の栄養塩濃度が低下すれば、おのずと培養器具内への栄養塩の供給が低下して培養・増殖の律速となる必然的課題を有していた。
【0013】
総じて、特許文献10及び11の培養技術は、安価なチューブ法を用いた微細藻類の培養方法ではあるが、従来のオープンポンド法やレースウェイ法等の粗放的培養技術と同様に、培養温度や栄養塩等の降雨希釈の影響等に対し、十分な考慮がなされておらず、我が国での粗放的大規模培養における気候に由来する諸課題の解決を図る技術とは成り得なかった。
【0014】
本発明の目的は、我が国の気候条件下における、微細藻類の屋外大規模培養での培養温度と降雨の影響による収率の減少に関する課題に対し、培養温度に対する外部環境温度の影響を最少とし、加えて降雨影響を回避して培養物の流出を防止すると共に栄養塩の供給を確実に果たす、安定且つ高収量な粗放的大規模培養方法を市場に提供することにある。
【0015】
すなわち、水分及び養分に対し不透過性のチューブ状フィルムからなる安価な培養容器と、その培養容器の温度制御を目的とする簡便な温度調節システムをもって、降雨希釈の回避と培養温度の適切な制御を特徴とする、安価な粗放的大規模培養方法を市場に提供することに加え、前記温度制御に関して微細藻類の培養温度と光合成の光エネルギー収率との関係の詳細を明らかにし、高い光エネルギー収率条件にて、目的生産物の高収量が期待できる、培養時の温度制御方法を市場に提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前述した目的を達成するための本発明の要旨とするところは、以下の各項の発明に存する。
先ず、請求項1に係る本発明は、柔軟な不透水性の高分子フィルムで設定される、フィルム層と空間層からなる、少なくとも3層以上の多層構造を有するチューブ状容器内の、一部の空間層に培養液を通じて実施する微細藻類の培養方法であって、前記微細藻類におけるクロロフィルの最大蛍光分析値(Fm)より最小蛍光分析値(Fo)を引いた変動蛍光値(Fv)から求められる、クロロフィル蛍光収率(Fv/Fm)が最大となる至適温度を求め、更に光合成時の培養制御温度として、制御時の最低温度を、該微細藻類のクロロフィル蛍光収率の至適温度に対して、摂氏8度以内に維持することを特徴とする微細藻類の培養方法である。
【0017】
また、請求項2に係る本発明は、前記培養液を通じる空間層を、薄い扁平状構造に保つことを特徴とする請求項1に記載の微細藻類の培養方法である。
【0018】
更に、請求項3に係る本発明は、前記培養液を通じる空間層の周囲に温調流体を通じ、該培養液を通じる空間層の温度調整を実施することを特徴とする請求項1または2に記載の微細藻類の培養方法である。
【0019】
加えて、請求項4に係る本発明は、前記微細藻類の培養が、光独立栄養性の培養のみならず、有機物を用いた従属栄養性の培養を組み合わせて実施することを特徴とする請求項1,2または3に記載の微細藻類の培養方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明のうち請求項1に係る微細藻類の培養方法によれば、柔軟な不透水性の高分子フィルムで設定される、フィルム層と空間層からなる多層構造を有するチューブ状容器を用いることで、屋外での粗放的培養時の降雨等による培養液や微細藻類濃度の不用意な希釈を防止することができる。
【0021】
上述の降雨影響の回避は、不透水性の最外層フィルムの機能によるものであるが、その他の最外層フィルムの副次機能として、培養液を通じる空間層を仕切るチューブの不用意な破損等による培養液と微細藻類の流出防止とその保護等が挙げられ、これらの副次機能と相まって、より安定的な微細藻類の増殖を図ることができる。
【0022】
特に、燃料作物として微細藻類を培養し、油脂や炭化水素等を生産する場合、これらの燃料成分や培地中の窒素・燐の環境への漏洩は、培養における経済的損失のみならず、公共水域汚染や土壌地下水汚染等の環境影響への考慮も必要である。
また、使用する微細藻類が遺伝子組換え体等である場合も同様に、この組換え体の漏洩に対し、環境影響への考慮が必要となる。更に、実際にしばしば問題となる、鳥獣や飛来物等による培養容器の突刺破損や構造破壊等に対し、本発明であるところの柔軟な不透水性の高分子フィルムで設定された多層構造は、内包する藻類培養物の保護を極めて効果的に図ることができる。
【0023】
総じて、本発明たる、柔軟な不透水性の高分子フィルムで設定される、フィルム層と空間層からなる多層構造を有するチューブ状容器を用いることで、係る粗放的培養における環境影響を幾重にも防止し、安定した微細藻類培養と係る目的物質生産を担保することができる。
【0024】
また、上述のごとく、多層構造を有するチューブ状容器を用いる微細藻類の培養において、更に光合成時の培養温度として、最低温度をクロロフィル蛍光収率の至適温度に対して、摂氏8度以内に維持することによって、目的生産物の高収量を図ることができる。
【0025】
ここでクロロフィル蛍光収率を用いた培養管理についての考え方を示す。
例えば、微細藻類を燃料作物として培養する目的は、一義的には、脂質、炭化水素、炭水化物(を介した水素/エタノール)等の有機物を目的生産物として、その生産を図ることに他ならない。一般に該目的生産物は、微細藻類を窒素欠乏条件下に移行させ、微細藻類の生殖たる増殖を減じることで、該目的生産物細胞内含有量を格段に向上させることができる。
これは、光エネルギー収率はそのままに、生殖たる増殖に配向されていたエネルギーを、より目的生産物たる有機物生産に配向して細胞内含有量を高めるという転流調節操作に他ならない。つまり、一般に良く用いられる生殖たる増殖の指標(細胞数変化や増殖速度等)に着目するのではなく、光エネルギー収率(クロロフィル蛍光収率等)に着目した培養設定/管理を本旨とすることによって目的生産物の高収量を期待することができる。
【0026】
本発明では、光エネルギー収率と培養温度の関係に着目して、その詳細を明らかにすることにより、高い光エネルギー収率条件下にて目的生産物の高収量が期待できる培養時の温度設定および温度制御方法を提供するに到った。
【0027】
本発明のうち請求項2に係る微細藻類の培養方法によれば、前記培養液を通じる空間層を、薄い扁平状構造に保つことにより、光独立栄養条件下にて微細藻類を高密度に培養することができる。
【0028】
微細藻類は、光独立栄養条件下では光合成を行って増殖するが、一定の培養密度に達すると、増殖した藻体同士の相互光遮蔽により、それ以上の光独立栄養増殖が困難となる。つまり、一定の光照射面積において、増殖可能な微細藻類のバイオマス量の上限は自ずと限られるので、光路長が短い薄型の培養容器である程、実質的に高密度までの培養が可能となる。
【0029】
この高密度培養によって、藻体生産量を落とさずに培養液量を十分に低減することができるので、藻体回収の効率化、排水量の十分な低減等が図られ、コストパフォーマンスの良い藻体生産を実施することができる。
【0030】
加えて、上述の高密度培養は、微細藻類の捕食者たる原生動物等の増殖抑制操作を容易とする利点を有する。すなわち、前記原生動物の多くは好気性であり、その増殖や活動に酸素を必要とし、無酸素状態である嫌気条件下では死滅する。一方、多くの微細藻類は、原生動物同様に増殖や活動に酸素を必要とするが、嫌気条件下での耐性を示す。培養プロセスにおいて、一部に嫌気条件を設定することで、微細藻類の捕食者たる原生動物の増殖を有意に低減することができる。
【0031】
請求項2に係る微細藻類の培養方法によれば、微細藻類を高密度に培養することが可能であるが、この微細藻類の高密度培養物は、その培養プロセスにおいて、嫌気条件を容易に設定することができる。
すなわち、暗所条件下の微細藻類は、酸素を発生する光合成を行えず、酸素を消費する呼吸のみを行う。ここで微細藻類濃度が高密度であれば、その濃度に応じて培養液中の酸素が消費されるので、培養液中の微細藻類濃度が高い程、速やかなる嫌気状態への移行が容易となる。
また、培養液中の微細藻類濃度が高い程、培養物の集約が容易であり、暗所条件に移行する簡便な操作、すなわち、夜間或いは遮光集積容器等への回収等をもって、速やかに嫌気状態に移行し、原生動物の増殖を効果的に低減することができる。
【0032】
ところで、嫌気状態に保った微細藻類培養物は、培養種によっては、水素、エタノール等の燃料原料を発酵生産させることができる。これらの燃料原料を生産することを目的とする場合も、燃料原料の回収が容易で、且つ嫌気条件を容易に設定可能な、高密度培養が好ましい。
昼間は、光合成により、細胞内に多量の有機物を蓄積させ、昼間の培養を終了後に高密度培養物を特定容器に集積し、速やかに嫌気状態に移行させて、水素、エタノール等の燃料原料を発酵生産させることができる。
【0033】
また、本発明のうち請求項3に係る微細藻類の培養方法によれば、前記培養液を通じる空間層の周囲に温調流体を通じ、該培養液の温度調整を実施することができる。
【0034】
この温度調節機構によって、請求項1に記載のごとく、光合成時の最低培養温度をクロロフィル蛍光収率の至適温度に対して摂氏8度以内に維持することにより、高い光エネルギー収率条件下にて目的生産物の高収量が期待できる。加えて、寒冷季の気温低下による凍結等による培養装置の損害を最小とすることもできる。
【0035】
前記の温調流体は、気体と液体のどちらを用いても構わないが、特に気体であれば、排水とは異なりその排気にコストが掛からないので、その積極的な利用によって、更にコストパフォーマンスの良い藻体生産を実施することができる。
また、最外層フィルムに接する空間層に温調気体を通じる場合は、仮に該最外層フィルムの一部に軽微な亀裂損傷を生じた場合でも、該温調気体の供給圧をもって該最外層フィルムによるチューブ構造を維持することも可能であり、構造の耐久性とメンテナンス性を兼ね備えた培養物に対する温度調節が可能である。
【0036】
また、本発明のうち請求項4に係る微細藻類の培養方法によれば、前記微細藻類の培養が、光独立栄養性の培養のみならず、有機物を用いた従属栄養性の培養を組み合わせたミクソトロフ培養を実施することにより、より効率的且つ高濃度に到る藻体生産が可能である。
【0037】
特に、本発明の請求項2のごとく、培養液を通じる空間層を、薄い扁平状構造に保ち、光照射下にて微細藻類の高密度大規模培養を実施する場合、生産対象たる微細藻類の培養濃度は、コンタミネーションたる従属栄養微生物濃度に比して著しく高い濃度に保つことができる。
この様な前提にて有機物を用いた従属栄養性培養に移行すると、供給した有機物の大部分が微細藻類によって消費され、最終的にはその目的生産物たる藻体の増収に大きく寄与することができるので、総じて有機物の添加は特に有効となる。
【0038】
従来の有機物を用いた微細藻類培養では、前段に従属栄養性の無菌タンク培養を実施し、その後段で光独立栄養培養を実施する順序が好んで用いられてきたが、特に大規模培養を目的とした培養では、イニシャル/ランニングコストの両面からも、従来技術たる煩雑な無菌操作を伴うシステムの運用が困難なことは自明である。
【0039】
本発明のごとく、大規模培養を目的とした培養では、前段として光独立栄養下での高密度培養を実施し、その後段として従属栄養培養を実施することで、有機物供給の配向を、細菌等のコンタミネーション側にではなく、対象たる微細藻類側に十分に向けた高収率な大規模培養を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明であるところの培養システムの概念を示す図面である。
【図2】本発明であるところのチューブ状容器の実施形態の例を示す図面である。
【図3】第1回目のパイロット実証試験結果を示すグラフである。
【図4】第2回目のパイロット実証試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明を代表する実施の形態を説明する。
【0042】
本実施の形態に係る微細藻類の培養方法は、柔軟な不透水性の高分子フィルムで設定される、フィルム層と空間層からなる多層構造を有するチューブ状容器を用いることを特徴とする。
【0043】
前記多層構造を有したチューブ状容器を、例えば水平方向に整列させ、効率の良い太陽光受光条件下において微細藻類の培養を行うことが望ましい。この場合のチューブ状容器の径、長さ等は任意であり、所望の培養容積となるように連続した長尺体を、所定の場所に整列設置する。
【0044】
本発明における培養システムの概念を図1に、また、チューブ状容器の詳細を図2に示す。
本培養システムは、柔軟な不透水性の高分子フィルムから成る多層構造を有したチューブ状容器(群)1の一端が供給器2に、また、もう一端が回収器3に連通したユニット構造を有し、更にポンプ等の移送動力4を介して、該チューブ状容器1内で微細藻類の培養が実施できる構成を基本とする。
なお、培養に応じて、移送動力4を介して複数のユニットを連結して、多段システムとしても良い。初段ユニットの供給器2と最終ユニットの回収器3を、移送動力4を介して連結し、システムをループ構造として、循環(/混合)式培養を実施することも出来るし、全て或いは一部を循環ループ構造とはせずにプラグフロー式培養としても良い。
すなわち、多層構造を有したチューブ状容器(群)1の一端が供給器2に、また、もう一端が回収器3に連通されるユニット構造を有し、更にポンプ等の移送動力4を介して、該チューブ状容器1内での微細藻類の大規模培養が可能な様に構成されたシステムを基本とすれば、その形状や組合せを問うものではない。
【0045】
また、本発明において、特に重要である培養の温度調節は、請求項3に記載の培養液を通じる空間層の周囲に温調流体を通じ、該培養液の温度調整を実施しても良いし(図2のAとB)、後述の実施例にて用いた簡易水槽等を介した温度調節を実施しても良い。より簡便には水田跡地等の閉鎖系水域を、温調水槽のごとく用いることもできる。
また更に、廃熱を潤沢に用いることが可能なサイトであれば、培養液を通じる空間層の周囲に十分な温調流体を通じることができるので、該培養システムを海域、河川域、湖沼域等の一般に温度調節が困難な開放系水域に設置することもできる。
【0046】
なお、前述した水田跡地等の閉鎖系水域に設置する場合は、多層構造を有したチューブ状容器1における培養液を通じる空間層、或いは別の空間層に送気することで、チューブ状容器1は、浮輪のごとくに水面11で浮上状態に保持されるので、該培養液を通じる空間層に存在する微細藻類培養液を太陽光受光に適した光合成収率の良き位置に保持することができる(図2のC)。
【0047】
また更に、チューブ状容器1周囲の温度調節水が清澄である場合は、特に太陽光受光の最適化を目的とした浮上を考慮することなく、浮上に要する一部の空間層の機能を廃する代わりに、水棲生物等の表面付着防止機能を有する高分子フィルムを最外層として用いることで、清澄な水中に適した多層構造とすることもできる。この際、最外層の高分子フィルムと培養液を通じる空間層の仕切りとして用いる高分子フィルムの両者を、ラミネートフィルムのごとく密着し積層させた3層構造(最外層のフィルム層、及び空間層を仕切るフィルム層、並びに培養液を通じる空間層の3層構造)のチューブ状容器を用いても良い(図2のD)。
【0048】
ところで、その他、本発明における培養システムの付帯操作として、チューブ状容器(群)1内はもとより、供給器2或いは回収器3でも、通気を実施し、培養液中の溶存酸素ガスの脱気と二酸化炭素ガスの溶解を実施できる。また、培養液を通じる空間層の仕切りとして用いる高分子フィルムとして、ガス交換機能を有するものを用いることで、該通気の代用としても良い。また更に、必要であれば栄養塩の消費に応じた補給を該培養システムの一部を通じて実施できる。
【0049】
なお、本発明の微細藻類の培養システムの設置場所は、地上であれば、平地でも良いし傾斜地でも良い。傾斜地であれば、その傾斜によって培養液流の緩やかな薄層を容易に形成できるので、微細藻類の高密度培養を容易に達成できる。
【0050】
また、本発明であるところの、柔軟な不透水性のチューブ状容器1は、有機高分子を必要に応じ、長手方向、および、または、幅方向に延伸、冷却、熱固定を施したフィルム状のものであり、溶融押出成型法などによって製造される。
前記有機高分子としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタート、ポリエチレン−2、6−ナフタレート、ナイロン6、ナイロン4、ナイロン66、ナイロン12、ポリ塩化ビニール、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニールアルコール、全芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキサイド、ナイロン、フッ素樹脂類などが挙げられる。また、該有機高分子を、他の有機高分子と少量共重合したり、ブレンドしたり、共押出法やラミネート法などにより積層させた有機高分子フィルムを用いてもよい。
【0051】
ところで、前記有機高分子は、公知の添加剤、例えば、紫外線吸収剤、帯電防止、可塑剤、滑剤、着色剤、波長変換機能を有する色素などが添加されていても良いが、最終製品として、少なくとも60%以上の透過率を有するものが好ましい。
【0052】
また、本発明で用いるチューブ状フィルムは、本発明の目的を損なわない限りにおいて、薄膜層の積層に先行して、該チューブをコロナ放電処理、グロー放電処理、その他の表面粗面化処理を施してもよく、また、アンカーコート処理、印刷、装飾が施されていてもよい。
特に、入射光を微細藻類培養に有効に活用する場合は、チューブ状フィルムの一部に光の反射を促す鏡面フィルムの貼付装飾や白色印刷等が好ましい。また、培養時の保温性と光反射を高めることを目的とした、発泡性ポリエチレン等の白色保温資材の貼付装飾等は更に好ましい。
【0053】
加えて、本発明で用いるチューブ状フィルムは、その厚さとして50〜500μmの範囲が好ましく、さらに好ましくは50〜200μmの範囲であり、これをもって高い光透過率を保ちつつも、一定の耐水性や衝撃・引裂・突刺強度を有するフィルムであることが好ましい。
【0054】
ところで、上述の多層を構成する夫々のチューブ状フィルムの相対的位置関係は、ラミネート構造のごとく全てが一重膜のごとくに密接された状態であっても良いし、空間層を伴って夫々の一部が接する状態であっても良い。柔軟な不透水性の高分子フィルムで設定される、フィルム層と空間層からなる少なくとも3層以上の多層構造を有するものであれば、その形状や位置関係を問うものではない。
【0055】
ここで、本発明にて用いることが可能な微細藻類として、千原光雄編「藻類多様性の生物学」/裳華房/(1999)に規定される藻類の定義である「酸素を発生する光合成を行う生物の中からコケ植物、シダ植物、および種子植物を除いた残りの全て」の内、特にその大きさが0.数μm〜200μm程度の微生物を挙げることができる。例えば、クロレラ、スピルリナ等は、一般にも知られる微細藻類であるが、この微細藻類は、クロレラに代表される真核生物の一部やスピルリナに代表される原核生物の一部を内包する様に、分類学的には広範囲に広がったカテゴリーに存する。
【0056】
また、前記廃熱源として、製鉄工場、非鉄金属工場、化学工場、製紙工場、自動車工場、食品工場、製薬工場、製油所、発電所、硝子工場、セメント工場、紡績工場、温泉施設等に存在する、ボイラ廃熱、工業炉廃熱、廃棄物焼却炉廃熱、エンジン/タービン廃熱、燃焼排ガス廃熱、地熱発電廃熱、温泉廃熱等が挙げられる。
これらの廃熱源をそのまま利用しても良いし、熱交換器等を通じて別流体を加熱して熱源の二次的利用を図っても良い。なお、上記に掲げる廃熱源でなくても、安価に利用可能な熱源があれば、本発明にて活用できることはいうまでもない。
【0057】
ところで、微細藻類の従属栄養増殖に用いる有機物源として、有機性廃液や未利用バイオマス由来の糖類等を利用することができる。
【0058】
この有機性廃液は、通常の好気性生物処理法により処理される有機物を含有する廃液であるが、難生物分解性の有機物、或いは無機物が含有されていてもよい。このような有機性廃液としては、下水、し尿、食品工場排水その他の産業廃液などが挙げられる。
また、酸加水分解技術等を通じて生産される糖類の原料たる未利用バイオマスとして、具体的には例えば、植物発生材(雑草、作物草本、バーク、間伐チップ、籾殻、オガクズ等)、食品製造由来の植物性油粕(油粕、米糠、ふすまおよびコーンスティープリカー、大豆油粕、コーン油粕、ごま油粕、豆類油粕、米糠油粕、廃糖蜜等)、発酵残渣(醤油粕、酒粕、ビール粕、焼酎粕等)、有機地質(泥炭、亜炭、褐炭、ピート等)等を挙げることができる。
【0059】
なお、上述の有機物源は、有機性廃液や未利用バイオマス由来の糖類に限られるものではない。その供給コストと微細藻類の目的生産物収率が適正であれば、本発明にて利用可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0060】
以下の実施例により、本発明について具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0061】
本実験では、微細藻類の培養温度と光合成の光エネルギー収率の関係の詳細を明らかにし、高い光エネルギー収率条件下にて目的生産物の高収量が期待できる培養時の設定温度を検討した。
また、供試の微細藻類群は、いずれもクロロフィルaを光合成の反応中心として含むが、アンテナ色素に関する多様性を持たせ、微細藻類の広い分類体系下における、培養温度と光合成の光エネルギー収率(実験ではクロロフィル蛍光収率を測定し、光合成の光エネルギー収率の指標とした)の関係について、その分類間分布に関する評価を併せて実施した。
【0062】
試験手順を以下に示す。
(a)供試微細藻類として、珪藻(キートセラス)、ハプト藻(イソクリシス)、プラシノ藻(テトラセルミス)、真正眼点藻(ナンノクロロプシス)、紅藻(ポルフィリディウム)、緑藻(ナンノクロリス)、車軸藻(スティココッカス)、藍藻(シネコキスティス)の8種類を用いた。
【0063】
(b)予備培養は、0.5L容の扁平フラスコを用いた通気培養にて、メタルハライドランプ照射下、光量子束密度1.2ミリモル・m-2・s-1で培養を行った。培地は、IMK培地(和光純薬製)を使用し、海産性藻類の場合は、ダイゴ人工海水SP(和光純薬製)を培地のベースとした。予備培養温度は、それぞれの微細藻類のクロロフィル蛍光収率の至適温度とした。
【0064】
(c)続いて予備培養の微細藻類培養液をそれぞれ対数増殖期後期にて回収し、回収培養液を5分割し、それぞれの微細藻類の至適温度から、摂氏0度、5度、8度、10度、15度を減じた温度に設定した恒温培養槽にて、メタルハライドランプ照射下、光量子束密度1.2ミリモル・m-2・s-1で馴養を行った。馴養2時間後、更にそれぞれのクロロフィル蛍光収率の至適温度/暗条件下で30分以上馴化したものを、クロロフィル蛍光収率測定の供試試料とした。
【0065】
(d)なお、クロロフィル蛍光収率(Fv/Fm=(Fm−Fo)/Fm)を、PAM−2000(Waltz社製)と懸濁液用プローブKS−101(Waltz社製)を用いて、FoとFmを測定し、算出した。
【0066】
上記の実験結果を表2に示す。
【表2】

【0067】
表2より明らかなように、いずれの微細藻類も、晒された低温程度が大きい程、蛍光収率の低下が顕著になる傾向が示された。クロロフィル蛍光収率の至適温度から摂氏5度低下した低温環境では、クロロフィル蛍光収率比が当初の9割程度に残存し、摂氏8度を超えて低下した低温環境では、クロロフィル蛍光収率比が当初の7割程度以下にまで低下する障害を生じることが分かった。
【0068】
我が国における晴天での環境温度の日較差は、摂氏10度を超える日も少なくない(尚、この場合の環境温度は、単なる気温ではなく、地温、水温、日光の直射温度等を含めて考慮した培養環境温度を指す)。この様な気温日格差を有する環境下での屋外の粗放的大規模培養において、培養温度を精密に調節することは、藻体生産への寄与度が極めて高いことが分かった。また、この温度調整範囲を、低温側に対し摂氏8度程度以内、好ましくは摂氏5度以内とすることで、光エネルギー収率的に優れた培養が可能であることが分かった。
なお、この現象は、特定の微細藻類分類群に限られたものでは無く、少なくともクロロフィルaを反応中心として含むいずれの供試微細藻類にて、全て一様の傾向が示された普遍性を有することを特記する。
【0069】
続いて、パイロット規模での本培養方法の有効性を2回の実験に分けて検証した。第1回目の試験概要を実施例2として、また、第2回目の試験概要を実施例3として以下に示す。
【実施例2】
【0070】
本実験では、温度調節と薄層傾斜培養の有効性について検証した。
(a)10m×15mの屋外敷地に、市販のU型側溝と白色防水シートを用いて、幅60cm、深さ60cm、長さ約11m、加えて両サイドに集水マスを配した側溝様容器を4系統作成した。尚、該側溝様容器は、実験区の条件によって水張りし、恒温槽として利用する場合や、水張りを実施しない場合等、各試験区の条件に応じて用いた。また、培養装置は、10mのチューブ状容器の両端にそれぞれ供給器と回収器を設置し、各供給/回収器間をポンプ配管で連通し、系統毎に循環培養系を構築した。
【0071】
(b)供試のチューブ状容器は、50cmφの円筒状ポリエチレンチューブに30cmφの円筒状ポリエチレンチューブを内包させ、2つのフィルム層と2つの空間層を有する4層構造とした。また、該チューブを用いて温調を実施する場合は、両チューブ間で形成される空間層を温調ジャケットのごとく用いて温調水或いは温調空気を通じ、30cmφチューブ内の培養液を摂氏26±4度に保つ設定とした。各水槽を用いた試験区の詳細条件は以下のとおり。
【0072】
(試験区1):水槽底面の傾斜無し/水槽水張無し/空間層温調
(試験区2):水槽底面の傾斜2%/水槽水張無し/空間層温調
(試験区3):水槽底面の傾斜4%/水槽水張無し/空間層温調
(試験区4):水槽底面の傾斜無し/水槽水張無し/温調無し
【0073】
(c)供試の微細藻類として、クロロフィル蛍光収率の至適温度を摂氏30度付近に持つ温泉産の緑藻(クロレラsp.)を、培地は、MC培地を用いた。また、培養経過に応じて、陽/陰イオンクロマトを用いて培養液中の硝酸/リン酸/カリ濃度を確認し、それぞれの成分が減少した際は、硝酸カリウム塩及びリン酸塩等を培養に追加した。
【0074】
(d)上記、屋外培養試験に供する微細藻類の予備培養を、室内にて実施した。予備培養は、長さ1.5m、30cmφの吊下げ式の円筒状ポリエチレンチューブを用いた通気培養にて、メタルハライドランプ照射下、光量子束密度0.8ミリモル・m-2・s-1で培養を行った。予備培養温度は、実験室内を摂氏25度に設定し、恒温を保った。
【0075】
(e)概ね直線期後期に到った予備培養を用いて、各試験区に対し培養液1リットル当り乾燥重量で0.1g濃度となるように微細藻類を接種し、屋外培養試験を実施した。なお、傾斜を有する試験区2及び3での培養総量は150Lとし、他の培養では総量を700Lとした。通気は、二酸化炭素濃度を5%(v/v)程度含む空気を、供給/回収器内の培養液量に対し1vvmで実施した。
【0076】
(f)培養は、フェドバッチ培養で行った。すなわち、夜間に各試験区から培養液を5日毎に5割量を抜き取り、藻体を遠心回収し、また、抜き取った培養液と同量の新鮮な培地を培養に供給した。総じて90日間の屋外培養試験を実施した。
【0077】
(特記事項)
供試した多層構造を有するチューブ状容器は、円筒状ポリエチレンチューブからなり、両チューブ間で形成される空間層に温調水を通じて培養液の温度調節を実施していたが、開始後1週間以内に、最外層のポリエチレンチューブの数箇所に損傷を生じて温調水の水漏れが起こった。なお、いずれの損傷箇所も、最外層までであり、培養液が満たされている内側のチューブに損傷は見られなかった。損傷状態や損傷時の現場の様子から、カラス等による穿刺損傷である可能性が高いと判断された。
結果、両チューブ間で形成される空間層を用いた培養液の温度調節では、温調水よりも温調空気のほうがその取扱が容易と判断し、以後、温調空気による培養液の温度調節を実施することとした。
温調空気に変えた後も、カラス或いは小動物等によると思われる穿刺/引掻損傷は、時折、観察されたが、温調空気による培養液の温度調節に支障をきたす程にはならず、第1回と第2回の計180日間の屋外培養試験を本法にて完遂することができた(他、強風時の飛来物に起因すると思われる穿刺事故が1件あったが、こちらも最外層のポリエチレンチューブのみの損傷に留まった。)。
【0078】
上記の実験結果を図3に示す。図3より明らかな様に、試験区1と4の比較から、試験区1の温度調節を図った試験系に、安定した藻体生産が見られた。試験区4は、試験開始直後から培養液の微細藻類濃度が低下し、試験期間を通じて安定した生産は観察されなかった。
【0079】
また、試験区1と2と3の比較では、試験区2と3の水槽底面に傾斜を付けた薄層培養系にいずれも試験区1と比較し、より高密度に到る藻体生産が観察された。
【0080】
なお、良好な生産能が観察された試験区2と3であるが、2%の傾斜を有する試験区2よりも、4%の傾斜を有する試験区3に、より高濃度に到る藻体生産が観察された。傾斜角度によって高密度培養での到達濃度が変化することが分かった。
【実施例3】
【0081】
続いて、第2回目のパイロット実証試験手順を以下に示す。本試験では、外部温度調節方法の検証及び、本発明とチューブ構造を有する培養器具を用いた従来技術との比較を実施した。なお、予備培養、使用藻類、培地種類、栄養塩の追添方法、接種方法、培養液の抜き取り方法、藻体回収方法、温調方法等は、第1回目の試験に準じて実施した。
なお、第1回目の試験と異なる詳細を各試験区条件と共に以下に示す。
【0082】
(試験区5):水槽底面の傾斜無し/水槽水張無し/空間層温調
(試験区6):水槽水張/ポリエチ二重チューブを使用/浮上式/水槽温調有
(試験区7):水槽水張/ポリエチ一重チューブを使用/温調無
【0083】
上記の試験区5の試験条件は、第1回目の試験区1と同様とした。また、試験区6は、側溝様水槽に温度調節用の水を張り、また、チューブ状容器の空間層に通気して浮輪のごとく水面にチューブ状容器を浮上させた。なお、試験区7は、特許文献10や11の従来技術を模したものであるが、不透水性のチューブを用いて、栄養塩の供給を過不足無き条件を設定し、本来の従来技術よりも更に良好な培養条件とした。
【0084】
上記の実験結果を図4に示す。図4より明らかな様に、試験区5〜7の比較から、本発明たる試験区5と6の試験系で安定した藻体生産が見られた一方で、試験区7は第1回目の試験での試験区4と同様に、試験開始直後から培養液濃度が低下し、試験期間を通じて安定した生産は観察されなかった。
【0085】
また、良好な生産性を示した試験区5と6の結果から、これらの温度調節方法において、チューブ状容器の空間層に温調風等を通じる方法でも、チューブ状容器の周囲から温調水を用いて調節する方法でも良いことが示唆された。
【実施例4】
【0086】
本実験では、微細藻類の培養において、光独立栄養性の培養のみならず、有機物を用いる従属栄養性の培養を組み合わせた生産性向上効果を検証した。
【0087】
試験手順を以下に示す。
(a)微細藻類源として、光独立栄養で継代を続けている海産性の集積培養体を用いた。本集積培養体は、微細藻類としては緑藻のクロレラ種を主体とする単一藻培養物であるが、無菌化は施されておらず、細菌の他にも原生動物種が存在していた。
【0088】
(b)予備培養は、0.5L容の扁平フラスコを用いた通気培養にて、メタルハライドランプ照射下、光量子束密度1.2ミリモル・m-2・s-1で培養を行った。培地は、IMK培地(和光純薬製)とダイゴ人工海水SP(和光純薬製)を使用し、5%の二酸化炭素を含む空気を1vvmで通気し、摂氏25℃の恒温水槽内にて培養を行った。
【0089】
(c)続いて、予備培養の微細藻類を直線期前期にて収穫し、遠心回収後、以下所定の培養器に1リットルあたり1ml濃度程度(PCV濃度)となる様に接種した。培養容器として、アクリル板2枚を5mm或いは35mmの間隔を持たせ張り合わせて作成する、薄層の扁平フラスコ様培養容器(以下、薄層培養容器と略す)を2種用意した。
【0090】
(d)上記、2種の薄層培養容器を用いて、以下の試験区を設定した。
【0091】
(試験区8):5mm薄層培養容器(有機物を後に添加)
(試験区9):35mm薄層培養容器
【0092】
上記の有機物の後添加は、前段の光独立栄養性の培養にて試験区8での微細藻類の増殖が停止したことを確認後、廃糖蜜を1リットルあたり5gとなる様に培地に添加した。
また、培養経過に応じて、陽/陰イオンクロマトを用いて培養液中の硝酸/リン酸/カリ濃度を確認し、それぞれの成分が減少した際は、硝酸カリウム塩及びリン酸塩等を培養に追加した。また更に、培地中の糖類の消費を、フェノール硫酸法を用いて確認し、その消費に応じて廃糖蜜を添加した。
【0093】
上記の培養における微細藻類他の増殖指標として、光独立栄養条件下での培養では、乾燥重量濃度を、従属栄養条件下での培養では、蛍光顕微鏡観察にて、クロロフィルの蛍光と核酸染色試薬DAPIを用いた直接検鏡によって、微細藻類とそれ以外のコンタミ微生物を区別し、それぞれを計数した。
【0094】
上記の実験結果を表3に示す。
【0095】
【表3】

【0096】
表3より明らかな様に、試験区8と9の比較から、光路長の短い5mm薄層培養容器を用いた試験区8に、高密度までの微細藻類の増殖が観察された。但し、藻体生産量は、両試験区ともほぼ同レベルであった。結果光独立栄養条件下にて照射光量が等しければ、最終的な藻体生産量は、両試験区ともほぼ同レベルであることが分かった。
なお、一定の照射光量下では、係る藻体生産量がほぼ同じであるのであれば、培養液の循環や遠心分離に要する電気エネルギー、また、排水量は、培養容積に応じて生じるものであり、この培養容積が少ない程、効率的な大規模培養を実施できることが示唆された。
【0097】
また、試験区8の有機物添加後の微細藻類数とそれ以外のコンタミ微生物数(細菌や原生動物等)を表4に示す。有機物添加後、2日目までは、微細藻類数及びコンタミ微生物数はそれぞれ増加傾向を示したが、以後、コンタミ微生物数の増加は鈍化し、増減を繰り返した。一方、微細藻類数のみが堅調な増加傾向を示し、最終濃度として1リットルあたり183ml(PCV濃度)まで到達した。
【0098】
【表4】

【0099】
なお、上記の実施例4に類似した、種々の微細藻類を用いた検証、増殖ステージ別の有機物の添加効果の検証等を鋭意進めたが、その都度のコンタミ微生物の挙動に関しては一定の傾向が見られず、微生物群全体の挙動を考察する上で、再現性に問題があることが分かった(データ不載)。
但し、検証した関連の全ての試験にて共通する傾向として、有機物を添加すると、光独立栄養条件での培養と較べて、微細藻類の収量が格段に向上する結果を得たことを特記する。
【0100】
以上、本発明の実施例を説明してきたが、具体的な構成は前述した実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、微細藻類の屋外での大規模培養において、培養温度に対する外部環境温度の影響を最少とし、加えて降雨影響を回避して培養物の流出を防止すると共に栄養塩の供給を確実に果たす、安定且つ高収量な粗放的大規模培養方法を実施する際に、特に適用することができる。
【符号の説明】
【0102】
1…チューブ状容器(群)
2…供給器
3…回収器
4…移送動力
5…フィルム層(最外層のフィルム層)
6…空間層(温調流体を通じる空間層)
7…フィルム層(空間層を仕切るフィルム層)
8…空間層(培養液を通じる空間層)
9…保温シート
10…地面
11…水面
12…空間層(気体を満たし水面浮上を図る空間層)
13…フィルム2重層(ラミネートフィルム様2重層)
14…水底

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟な不透水性の高分子フィルムで設定される、フィルム層と空間層からなる、少なくとも3層以上の多層構造を有するチューブ状容器内の、一部の空間層に培養液を通じて実施する微細藻類の培養方法であって、
前記微細藻類におけるクロロフィルの最大蛍光分析値(Fm)より最小蛍光分析値(Fo)を引いた変動蛍光値(Fv)から求められる、クロロフィル蛍光収率(Fv/Fm)が最大となる至適温度を求め、
更に光合成時の培養制御温度として、制御時の最低温度を、該微細藻類のクロロフィル蛍光収率の至適温度に対して、摂氏8度以内に維持することを特徴とする微細藻類の培養方法。
【請求項2】
前記培養液を通じる空間層を、薄い扁平状構造に保つことを特徴とする請求項1に記載の微細藻類の培養方法。
【請求項3】
前記培養液を通じる空間層の周囲に温調流体を通じ、該培養液を通じる空間層の温度調整を実施することを特徴とする請求項1または2に記載の微細藻類の培養方法。
【請求項4】
前記微細藻類の培養が、光独立栄養性の培養のみならず、有機物を用いた従属栄養性の培養を組み合わせて実施することを特徴とする請求項1,2または3に記載の微細藻類の培養方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−85534(P2013−85534A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231065(P2011−231065)
【出願日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【出願人】(508120400)有限会社エコルネサンス・エンテック (4)
【Fターム(参考)】