説明

微量ガス漏れ検出用の高感度スリットなしイオン源質量分析計

【課題】微量ガス漏れ検出分野に於いて改良された質量分析計と方法とが必要である。
【解決手段】質量分析計は、間隙を区画する相互離間した磁極片を含み、かつ前記間隙に於いて磁界を生成する主磁石と、イオンを発生させかつ前記イオンを前記間隙内の前記磁界内部に加速させる、前記間隙外部に位置するイオン源と、前記イオン源により生成され且つ前記磁界により偏向されたイオンのうちの選択種を検出するイオン検出器とを含む。前記イオン検出器は、前記間隙に於いて、前記選択イオン種の自然焦点に位置している。この質量分析計は、微量ガス漏れ検出器に於いて使用してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漏れ検出の場合に使用される質量分析計に関し、更に詳しくは、高感度を有する質量分析計(スペクトロメータ)に関する。
【背景技術】
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、本開示の譲受人に対して供に譲渡されかつ2006年2月15日に本出願と同時に出願されている、「不要イオンを抑制した微量ガス漏れ検出用質量分析計」という名称の同時係属中の米国特許出願に関連している。
ヘリウム質量分光漏れ検出は、周知の漏れ検出技術である。ヘリウムは、密封試験片に於ける最小漏れ部を通過するトレーサガスとして使用される。次に、ヘリウムは漏れ検出装置内部へ引き込まれて測定される。ヘリウム量は漏れ速度に対応している。検出装置の重要構成部材は、ヘリウムを検出かつ測定する質量分析計である。入力ガスは、ヘリウム成分を分離するために分析計によりイオン化されるとともに質量分析されて、そして測定される。1つの方法として、試験片内部を漏れ検出器のテスト開口部に接合する方法がある。ヘリウムは試験片の外部に吹き付けられ、漏れ部を介して内部へ引き込まれ、漏れ検出器により測定される。
【0003】
図1に従来の質量分析計の概略図を示す。双極子磁石10は図1の平面に直交する磁界を生成する。双極子磁石10の磁極片の間にあるイオン源12は、入射スリット16を有するプレート14を含む。従来技術の分析計のイオン源は、一般的に幅0.5mm、長さ数mmの幅SEの極めて小さい入射スリットを使用して、イオン光学対象を物理的に区画している。このイオン光学対象から分散するイオンは、磁界に於ける何らかの分散角の後、再収束して結像する。90度および180度の曲げ角度が最も一般的である。イオンが、半角αで入射スリット16から分散するとともに、半径Rの円弧状軌道で均一磁界の中を走行すると、入射スリットの1:1像が180度偏向の後に形成される。この像は、中央軌道のいずれかの側に分散するイオンの磁界に於ける異なる軌道に起因する量Rα2だけ広がり、これにより、全体の像の幅はSE+Rα2となる。像位置で出射スリット20を区画するプレート18は、所定の質量対電荷比のイオンだけが検出器(図示せず)を通過することを許容し、この検出器が感知イオンに応答してイオン電流を生成する。異なる質量対電荷比(m/z)のイオンは異なる半径で走行し、そして、出射スリット20を通過することができない。
【0004】
180度偏向した設計は、焦点位置が周知であると考えられているので、安価な大量生産システムに向いていると考えられてきた。しかしながら、これには、電子生成フィラメントを含むイオン源全体を磁石間隙内部に配置しなければならないという問題がある。このようにして、入射スリットの長さは、フィラメントとその他のイオン源構成部材とによってふさがれる空間によって、磁石間隙の一部分へと低減され、これにより、検出信号は低減される。一般的な質量分析計構造の更に重大な欠点は、イオン源と入射スリットとの間にイオン光学収束部材を持たない簡単な構造の場合、入射スリットは理想的なイオン光学対象として機能しない、ということである。イオンは、入射スリットからいくらか後方のイオン源に於いて形成されてスリットの方向へ加速される。イオン源のイオン光学行動により、イオンはイオン源付近の地点から分散して現れることになり、これにより、180度焦点は、出射スリットが入射スリットから180度の地点に位置している場合、この出射スリット位置に対応せず、出射スリット位置より幾分前方に発生する。この場合、イオンビームは出射スリットに到達する前に再び広がり、そして、検出信号は更に低減されるか、または、より広幅の出射スリットが必要となるが、この場合、質量分解能が低減する。このような場合、入射スリットは実際には角度限定スリットとして機能する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
極めて低い漏れ速度の場合のヘリウム質量分析計に於けるイオン電流は、フェムトアンペアレベルである。現在の最先端漏れ検出分析計技術でも、この小さな信号は、十分な安定性で検出することは難しく、あいまいな漏れ速度信号を提供する。例えば1e-11std-cc/sec以下の、近代的な漏れ検出器の使用例に於いて要求される高感度に到達するために、電流漏れ検出分析計は、電子倍増管のようなある種の信号増幅を利用している。電子倍増管は高価かつ複雑な構成部材である。電子倍増管は、一般的に500〜1800ボルトの高電圧電源を必要とし、頻繁な同調作業が必要である。電子倍増管のゲインは、ユニットをスイッチオンさせた時点から劣化するものである。更に、電子倍増管の寿命は限定的であり、寿命後、ユーザは高い費用で取り替えなければならない。漏れ検出器が通常動作する一般的に劣った真空内では、寿命は特に短く、そして、ゲインドリフトは特に顕著である。
【0006】
したがって、微量ガス漏れ検出分野に於いて改良された質量分析計と方法とが必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第一局面に於いて、質量分析計は、間隙を区画する相互離間した磁極片を含み、かつ前記間隙に於いて主磁界を生成する主磁石と、イオンを生成しかつ前記イオンを前記間隙内の前記主磁界内に加速するイオン源であって、前記間隙外部に位置するイオン源と、前記イオン源により生成され、かつ前記主磁界により偏向されたイオンのうちの選択種を検出するイオン検出器とを含む。このイオン検出器は、前記間隙に於いて、前記選択イオン種の自然焦点に位置している。
【0008】
前記イオン源は、細長い抽出スリットを区画する抽出電極と、細長い基準スリットを区画する基準スリットと、前記抽出スリットに隣接して位置する少なくとも1つのフィラメントと、前記抽出電極から離間した反射電極とを含んでいてもよい。前記フィラメントにより生成されたイオン化電子は、前記フィラメントから前記抽出スリット付近の電離領域へ加速されて気体のイオン化がなされ、前記電離領域で生成されたイオンは、前記抽出スリットを介して抽出され、前記基準スリットを介して、前記主磁石の前記磁極片間の前記間隙内へ加速される。前記イオン源は更に、供給源磁界を生成して前記イオン化電子の軌道を拘束(制限)する、相互離間した磁極片を含む供給源磁石を含んでもよい。
【0009】
本発明の第二局面に於いて、微量ガスを検出する方法が提供される。本方法は、主磁石の相互離間した磁極片間の間隙内に磁界を発生させる工程と、前記間隙外部に位置するイオン源に於いて前記微量ガスをイオン化する工程と、前記主磁石の前記磁極片間の前記間隙内部へ前記微量ガスイオンを加速させ、これにより、前記微量ガスイオンを前記間隙内の前記磁界により偏向させる工程と、前記間隙に於いて、前記微量ガスイオンの選択種の自然焦点に位置する検出器で、前記偏向微量ガスイオンの選択種を検出する工程とを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明をよりよく理解するために、添付図面を参照し、引用により本明細書に組み込む。
本発明の実施形態を実施するのに適した漏れ検出器は図2に概略図示されている。テスト開口部30は逆流弁32,34を介して前段ポンプ36に結合されている。漏れ検出器は更に、高真空ポンプ40を含む。テスト開口部30は中間弁42,44を介して、前段ライン48と高真空ポンプ40の取入口50との間に位置する、高真空ポンプ40の中間開口部46に結合されている。前段ライン弁52は、前段ポンプ36を高真空ポンプ40の前段ライン48に結合している。高真空ポンプ40の取入口50は、質量分析計(スペクトロメータ)60の取入口に結合されている。漏れ検出器は更に、いずれもテスト開口部30に結合されたテスト開口部熱電対62と、通気弁64と、較正リーク弁68を介して高真空ポンプ40の中間開口部46に結合された較正リーク部66と、前段ポンプ36に結合された安全弁70とを含む。
【0011】
動作に於いて、前段ポンプ36はまず、前段ライン弁52と通気弁64とを閉鎖すると共に逆流弁32,34を開口することにより、テスト開口部30と試験片(あるいは探知プローブ)とを排気する。テスト開口部30の圧力が、高真空ポンプ40の前段ライン圧力に対応し得るレベルに到達すると、前段ライン弁52は開口して、テスト開口部30を高真空ポンプ40の前段ライン48に露出させる。ヘリウムトレーサガスは、テスト開口部30を介して引き込まれるとともに、高真空ポンプ40を介して質量分析計60に対する反対方向に於いて拡散する。前段ポンプ36は、テスト開口部30の圧力を、高真空ポンプ40の中間部圧力に対応するレベルまで、低減させ続ける。その時点で、逆流弁32,34は閉鎖されると共に、中間弁42,44が開口されて、テスト開口部30を高真空ポンプ40の中間開口部46へ露出させる。ヘリウムトレーサガスはテスト開口部30を介して引きこまれるとともに、高真空ポンプ40の上部を介して質量分析計60へ向かう反対方向に於いて拡散し、これにより、反対方向通路が相対的に短いのでより多くのガスを拡散させることができる。高真空ポンプ40は、試料中のより重たい気体に対してはるかに低い逆拡散率を有しているので、質量分析計60からのこれらの気体をブロックし、これにより、効率的にトレーサガスを分離し、トレーサガスは、高真空ポンプ40を介して質量分析計60に拡散し、そして測定される。
【0012】
本発明の実施形態に係る質量分析計100が図3〜図5に示されている。質量分析計100は、図2の質量分析計60に対応している。質量分析計100は、一般的に双極子磁石である主磁石110と、イオン源120と、イオン検出器130とを含む。主磁石110は、相互に離間した磁極片112,114(図4)を含み、これらの磁極片112,114が間隙116を区画している。イオン源120は、間隙116の外部に位置しており、したがって、磁極片112,114間には位置していない。イオン検出器130は、磁極片112,114間の間隙116内部に配置されて、イオン源120により生成されたイオンのうちの選択種を取り込む。イオン源120により生成されたイオンは主磁石110の磁極片112,114間の間隙116に入り、間隙116の磁界により偏向される。その偏向はイオンの質量対電荷比とイオンエネルギーと磁界とを関数としている。ヘリウムイオンのような選択種イオンはイオン軌道132を辿り、他方、その他のイオン種は別の軌道をたどる。イオン検出器130は、磁極片112,114間の間隙116内にあり、かつ、選択イオン種の自然焦点に位置している。
【0013】
質量分析計100は更に、スリット136を有するコリメータ134と、イオン光学レンズ138とを含んでいてもよい。コリメータ134は、イオン軌道132をたどるイオンがスリット136を通過してイオン検出器130に至ることを可能にするとともに、他の軌道をたどるイオンを遮断する。イオン光学レンズ138は、イオン源電位付近の高い陽(プラス)電位で動作するとともに、ヘリウム以外の他種の散乱イオンがイオン検出器へ到達するのを防ぐように作用する。この作用は下記のようにして引き起こされるものである。すなわち、スリット136へ到達する軌道を大きく変更させるような散乱衝突を、中性ガス原子または室壁に対して行った非ヘリウムイオンが、これらの衝突でエネルギーを失い、したがって、イオン光学レンズ138により形成されるポテンシャルエネルギー障壁を打ち破ることができない、ということである。イオン光学レンズ138は更に、イオン軌道132をたどるイオンをイオン検出器130に焦点合わせするよう作用する。
【0014】
真空ハウジング140は真空室142を包囲し、真空室142はイオン源120の一部と、主磁石110の磁極片112,114間の間隙116とを含む。真空ポンプ144は、真空ハウジング140に接続された取入口を有している。真空ポンプ144は真空室142を一般的に10-5torrレベルの適切な圧力に維持して、質量分析計100を動作させる。一般的に真空ポンプ144は、ターボ分子真空ポンプ、拡散ポンプ、またはその他の分子ポンプであり、図2に示す高真空ポンプ40に対応している。漏れ検出技術に於いて周知であるように、ヘリウムのような微量ガスは真空ポンプ144の全部または一部を通り質量分析計100へ向かう反対方向へ拡散して測定される。この構造は逆流漏れ検出器構造として周知である。逆流構造の場合、より重量のあるガスは真空室142から汲み上げられ、他方、より軽量のガスは、真空ポンプ144を通り質量分析計100へ向かう反対方向に拡散する。なお、本発明は逆流漏れ検出器に於ける使用に限定されるものではないことは理解されよう。
【0015】
イオン軌道132をたどるイオンは、イオン検出器130により検出されるとともに電気信号へ変換される。電気信号は検出器エレクトロニクス150に供給される。検出器エレクトロニクス150はイオン検出信号を増幅するとともに、漏れ速度を示す出力を供給する。
図4に示すように、イオン源120は、フィラメント170,172と、抽出電極174と、基準電極176と、反射電極180とを含み、これらの部材は全て真空ハウジング140内部に位置している。イオン源120はさらに、真空ハウジング140外部に位置する供給源磁石190を含む。この供給源磁石190は、相互離間した磁極片192,194を含み、これらの磁極片は真空室142の両側に位置している。あるいは、供給源磁石により設けられる磁界は、主磁石110から延びるフリンジ磁界によって設けることもできるということは理解されよう。
【0016】
フィラメント170,172はそれぞれ螺旋コイルの形状であってもよく、また、フィラメントホルダー196により支持されていてもよい。ある実施形態に於いて、各フィラメント170,172は、トリウム酸化物で被覆された直径0.006インチのイリジウム線で製造されている。各フィラメントコイルは、長さ3mm、直径0.25mmであってもよい。一度に1本のフィラメントに通電してイオン源寿命を長引かせるようにすることが好ましい。
【0017】
抽出電極174に細長い抽出スリット200を設けてもよく、また、基準電極176に細長い基準スリット202を設けてもよい。イオン光学レンズとして機能する細長いスリット200,202は整列されているとともに、イオン軌道132に沿ってイオン源120からのイオン抽出路を提供する。図5に於いて、主磁石110の磁極片112,114の内表面が示されている。更に図示されているように、抽出スリット200の長手寸法は磁極片112,114の内表面に直交している。抽出スリット200の長さ204は、イオンビーム幅が磁極片112,114間の間隙116を埋めるに十分な長さであり、間隙116の幅は、磁極片112,114間の真空室142の間隔として決められる。抽出スリット200と基準スリット202との間の加速電場は、抽出スリットを貫通するとともに、カップ状凹部210に電界を形成して、抽出スリットの直上に形成されるヘリウムイオンの効率的な抽出と集束とを行う。イオン源は主磁石の外部に設けられているので、抽出スリットの長さは従来の質量分析計と比較して相対的に大きくてもよい。ある実施形態に於いて、抽出スリット200の長さ204は8mmであり、抽出スリット200の幅は3mmであり、間隙116の直径は10mmである。基準スリット202の寸法もまた、ビーム幅が間隙を確実に埋めるように選択されるものである。これらの構成により、所望の微量ガス種の相対的に高いイオン電流を確保することができる。
【0018】
信号損失の潜在的原因として、抽出スリット200と基準スリット202との端部付近の貫通領域の全体的な集束/焦点ぼかし効果による、抽出スリット長さ方向に於けるイオンビームの分岐があげられる。ある実施形態に於いて、外部イオン源によって、抽出スリット長さを間隙116の幅以上にすることができる。これにより、透過されたイオンは、抽出スリットの中央部分に形成されるイオンであり、これらのイオンは検出器に対して略一直線状に透過される。基準スリットを貫通する加速電場によって何らかの分岐はあるが、このスリットはまた、中央部分におけるイオンが実質的に分岐しないように間隙116の幅と同じ、またはそれ以上に長くすることができる。抽出スリットおよび/または基準スリットの長さを長くするために、イオン源の全体寸法を増大することが、必要であったり、望ましい場合がある。
【0019】
更に図4、5に示すように、抽出電極174は、それぞれフィラメント170,172に近接した面取縁部206,208を備えている。面取された縁部266,208は、フィラメント170,172の近傍に電界を形成して電離領域への電子の移送を増進する。
図4に示すように、基準電極176は抽出電極174と主磁石110との間に位置している。反射電極180は抽出電極174の上にそれから離間して設けられている。反射電極180は、所望の電界分布を提供するカップ状凹部210を含む。あるいは、反射電極180は、抽出電極174と同電位に保持されてもよいとともに、抽出電極174と接触してもよく、また、抽出電極174と共に一体構造に形成されてもよい。
【0020】
供給源磁石190の磁極片192,194は大略的に、真空室142に対向する、平行で相互に離間された表面を有してもよく、フィラメント170,172と抽出電極174と反射電極180との領域に於いて磁界212を生成している。図4に示すように、磁界212は、主磁石110のフリンジ磁界により上方に変形されている。その結果生じる磁界分布により、フィラメント170,172により放出された電子が、磁力線から電離領域220へ向かう方向の周りを旋回させられる。電離領域220は抽出スリット200の上部に位置している(図4)。フィラメント170,172と電離領域220との間の領域に於ける電界と磁界とにより、イオン化電子は電離領域220に向けて加速される。電離領域220に於いて、気体分子はフィラメント170,172からの電子によりイオン化され、抽出スリット200を介してイオン源120から抽出され、そして、基準スリット202を介して加速される。
【0021】
イオン源120は主磁石110の外側に位置し、これにより、抽出スリット200の長さ204は、主磁石110の磁極片112,114により制限されることはない。抽出スリット200の寸法は、高いイオン電流を送るよう選択することができる。図3に示すように、ビーム光学系は、基準スリット202を通る通路をたどる135°の角度での偏向後、焦点を設定する。質量分析計100は、質量対電荷比に基づきイオンを分離する主磁石100と、イオン源120に於けるフィラメント170,172の対向側に磁極片192,194を含む供給源磁石190とを含む。2つの磁石は、図3に示すように、強度と磁界形状との両方についてそれらが相互に影響しあうよう十分近接して設けられている。ある実施形態に於いて、主磁石110は磁極中央部で1.7Kガウスの磁界強度を有し、そして、供給源磁石190は磁極中央部で600ガウスの磁界強度を有している。
【0022】
イオン源120の磁界と電界とは、磁束線が少なくとも電離領域220に於いて一定電位の表面(等電位表面)とほぼ一致し、かつ平行になるように、設計されている。フィラメント170,172により生成させられるイオン化電子ビームは、磁束線に追随するよう拘束されるので、したがって、イオンは略一定電位の空間内に生成される。その結果、イオンビームのエネルギーの広がりは極めて小さく、そして、イオンビームはイオン源120からイオン検出器130へ極めて効率的に移送され、これにより、高感度を提供する。
【0023】
磁石110、190の、イオン源120と、イオン検出器130と、相互とに関する位置関係は、イオンが効率的に生成され移送されるように選択される。主磁石110と供給源磁石190とは相互に近接している。主磁石110の間隙116を越えて延びるフリンジ磁界は、供給源磁石190の、本来なら均一の磁界を変形させる。
等電位表面の線は、反射電極180と、抽出電極174と、基準電極176と、これらの電極の開口部(スリット)と、隣接する真空室壁とを含む、イオン源120に於ける諸部材の形状と間隔とにより決められる。これらの部材の寸法と間隔とは、より効率的に抽出するために、供給源に於いて生成されたイオンを抽出スリット200方向へ集束する「開口を伏せたカップ」のような電界形状を形成するように制御される。
【0024】
反射電極180と抽出電極174との比較的厚い壁が、フィラメント径よりも少し広幅の通路を形成し、ここを電子が損失なしに通過することができ、他方、負に帯電したフィラメントからの電界浸透は制限される。これにより、電離領域220から、電子雲の負電位におけるフィラメント170,172へのイオン漏れを制限し、これにより、イオン源に於いて生成されたイオンの大部分が、実際のところイオン源からイオン検出器130へ透過されて、確実に高感度を達成する。
【0025】
イオン源部材は、抽出電極174と反射電極180と基準電極176との電界が、物理的な入射スリットというよりむしろ「仮想の」イオン光学対象線を形成する電界を生成するように設計されている。物理的入射スリットと、物理的スリットに不可避なビーム損失とが排除されて、これにより、イオンビーム伝達は極めて高くなる。基準電極176のスリットは、イオンビームの角度的発散を制限するように作用するだけであり、入射スリットおよびイオン光学対象として作用するのではない。
【0026】
物理的入射スリットを排除すると、感度か分解能かいずれかの損失を最少にして質量分析計を微細化することができる。質量分析計の分解能はイオンビーム半径Rの、像の幅と射出スリット幅との合計SEXに対する比として定めることができる。幅SEの物理的入射スリットがシステムのイオン光学対象を形成する従来の質量分析計の設計の場合、像の幅は(SE+Rα2)である。射出スリット幅は、全ての到着イオンを透過するために像の幅と等しいかそれよりも僅かに大きく設定され、これにより分解能RPは次のようになる。
【0027】
RP = R/2(SE+Rα2
本発明におけるイオン光学対象は、広幅のイオンビームにより照射されるスリットというよりむしろ無視できる幅を持つ線であるので、焦点での像の幅は、(SE+Rα2)であるよりむしろRα2である。このようにして、分解能は次の通りとなる。
RP = R/(2Rα2) = 1/(2α2
したがって、イオン光学対象の幅が無視できるものであるかぎり、分解能はイオンビーム軌道の半径とは無関係である。この設計で、コンパクトな装置を実現するためにイオンビーム半径Rを低減することが望まれる場合、イオンビーム発散αが一定である限り、分解能は一定である。像の幅はイオンビーム半径に比例して低減され、そして、射出スリット幅は同程度低減されることができ、これにより像の幅を整合するとともに一定の質量分解能を維持しながら、イオン源から出てくるイオン全てを透過させる。それに反して、従来の質量分析計では、半径を低減しながら一定の質量分解能を維持するために、入射スリット幅を比例的に低減しなければならず、これによりスリット通過イオンの割合が低減するとともに、装置感度が低減する。
【0028】
電圧がフィラメント170,172と、反射電極180と、抽出電極174と、基準電極176とへ印加されて、電界を提供して、上述のような動作がなされる。ヘリウムをトレーサガスとするある実施形態に於いて、反射電極180は200〜280ボルトでバイアスされ、抽出電極174は200〜280ボルトでバイアスされ、そして、基準電極176は接地される(0ボルト)。更に、フィラメント170,172は100〜210ボルトでバイアスされて、エネルギ電子を提供して、微量ガスをイオン化する。ある特定の例に於いて、反射電極180と抽出電極174とは250ボルトで名目上バイアスされ、フィラメント170,172は160ボルトで名目上バイアスされ、そして、基準電極176は接地される。上記電圧は接地に関しては特定される。これらの値は一例としてのみ挙げたものであり本発明の範囲を限定するものではないことは理解されよう。
【0029】
図3に示すように、イオン光学レンズ138は、電極250,252,254を含んでいてもよく、これらの電極はそれぞれ、イオンのイオン検出器130への通過を許容する開口部256を有している。各電極250,252,254は、イオンをイオン検出器130方向へ集束するアインツェルレンズを構成し、そして、電極252へ印加される電位は、軌道内へ散乱されるヘリウム以外の種のイオンを抑制するように作用するものであり、これらのヘリウム以外の種のイオンは、抑制されなければ検出器へ到達することが可能になるおそれがある。ある実施形態に於いて、電極250,252,254はそれぞれ、0ボルト、180ボルト、0ボルトでバイアスされる。
【0030】
ある実施形態に於いて、イオン検出器130と検出器エレクトロニクス150とを含む検出器アセンブリは、広範囲にわたりかつ高い信号対雑音比でイオン電流を高感度で測定するよう設計することができる。イオン検出器130は、電位計レベルの演算増幅器の反転入力部に接続されるファラデープレートであってもよい。レンズ138を介してイオン軌道132をたどるイオンは、ファラデープレートに衝突するとともにプレート内に極めて少量の電流を発生させる。増幅器は、帯域幅制限コンデンサーを備えた反転相互コンダクタンス増幅器として構成される。フィードバック抵抗は、1x109と1x1013との間のゲインを提供するよう選択された範囲にすることができる。コンデンサーは、検出器の特定の過渡応答は許容するが所望の過渡応答よりも大きな周波数のノイズは拒絶するよう選択される。1/fノイズを更に低減するために、増幅器はペルティエ式または熱電式冷却器で冷却される。冷却器は、94℃の最大デルタTを備えた2段階タイプである。冷却器の低温部は電位計増幅器に接合され、高温部は検出器構造柱部材に接合される。この熱的構造体に於ける電位計増幅器の極めて低い温度により、分析計本体がその最高動作温度である時に、入力バイアスおよびオフセット電流が低減され、したがって1/fノイズ成分は、この装置が到達できる最低レベルへまで低減される。これにより、最悪の周囲熱条件の下での検出器からのノイズを可能な限り最低レベルにする事を保証する。
【0031】
図6に質量分析計100の実装例を示す。フィラメント170(図6には図示せず),172と、抽出電極174と、基準電極176と、反射電極180とを含むイオン源構成部材と、コリメータ134と、イオン検出器130と、イオン光学レンズ138と、検出器エレクトロニクス150とは、上部フランジ270により支持されている。
圧力レベル、材質、寸法、電圧、および電界強度などを含むが、これらに限定されないパラメータの種々の値は、本発明の上記実施形態の説明に於いて与えられている。これらの値は単に一例としてのみあげたものであって、本発明の範囲について限定するものではないことは理解されよう。
【0032】
本発明の少なくとも1つの実施形態のいくつかの局面について説明してきたが、種々の変更、改変、改良が当業熟練者によりなされることは理解されよう。このような変更、改変、および改良は本開示の一部であるとみなされるとともに、本発明の精神および範囲内にあるものとみなされる。したがって、上記説明と図面とは単に1つの例示にすぎない。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】従来の質量分析計の簡略化した概略図である。
【図2】逆流漏れ検出器の概略ブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る質量分析計の簡略化した概略側面図である。
【図4】図3の簡略した概略端面図である。
【図5】図4の線5−5に沿ったイオン源の部分断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る質量分析計を実装した状態を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隙を区画する相互離間した磁極片を含み、かつ前記間隙に於いて主磁界を生成する主磁石と、
イオンを発生させ、かつ前記イオンを前記間隙内の前記主磁界内へ加速させる、前記間隙外部に位置するイオン源であって、細長い抽出スリットを区画する抽出電極と、細長い基準スリットを区画する基準電極と、前記抽出スリットに隣接して位置し、イオン化電子を発生させる少なくとも1つのフィラメントと、前記抽出電極から離間している反射電極であって、前記フィラメントにより発生されたイオン化電子が、前記フィラメントから前記抽出スリット付近の電離領域へ加速されて気体のイオン化がなされ、前記電離領域で発生されたイオンは、前記抽出スリットを介して抽出され、前記基準スリットを介して前記主磁石の前記磁極片間の前記間隙内へ加速されるように構成された、反射電極と、供給源磁界を生成して前記イオン化電子の軌道を拘束する、相互離間した磁極片を含む供給源磁石とを含む、イオン源と、
前記イオン源により生成され、かつ前記主磁界により偏向されたイオンのうちの選択種を検出するイオン検出器であって、前記間隙に於いて、前記選択イオン種の自然焦点に位置しているイオン検出器と、
を含み、
前記抽出電極と前記基準電極と前記反射電極との寸法および間隔は、前記イオン源に於いて発生されたイオンを前記抽出スリットに向けて焦束させ、これにより前記主磁石が前記選択種イオンを物理的な入射スリットを使用することなく前記イオン検出器へ偏向させるような電界を形成するように構成されていることを特徴とする質量分析計。
【請求項2】
前記磁極片は、前記間隙に面する表面を有し、前記イオン源は、前記磁極片の前記表面と直交する長尺の細長い入射スリットを含む、ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【請求項3】
前記間隙は前記磁極片間の幅を有しており、前記入射スリットの長さは、イオンが前記間隙の幅を満たすに十分である、ことを特徴とする請求項2に記載の質量分析計。
【請求項4】
前記間隙は前記磁極片間の幅を有しており、前記入射スリットの長さは前記間隙の幅以上である、ことを特徴とする請求項2に記載の質量分析計。
【請求項5】
前記主磁石は、前記イオン源と前記イオン検出器との間で、少なくともイオンが横断する領域に於いて、実質的に均一な磁界を生成するよう構成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【請求項6】
前記主磁石の前記磁極片間に位置し、前記イオン源と前記イオン検出器との間の軌道の外部のイオンを遮断するコリメータと、前記主磁石の磁極片間に位置するイオン光学レンズとを更に含む、ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【請求項7】
前記主磁石の前記磁極片と前記供給源磁石の前記磁極片との間に真空室を区画する真空容器と、前記真空室を真空引きする真空ポンプシステムとを更に含む、ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【請求項8】
前記供給源磁石の前記磁極片間の前記領域に於ける前記供給源磁界は、前記主磁石の前記主磁界により変形されることを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【請求項9】
前記主磁石と前記供給源磁石とは前記イオン源に於いて磁界を生成し、前記抽出電極と前記反射電極とは等電位表面を有する電界を生成し、前記磁界と前記等電位表面とは前記電離領域に於いて略平行である、ことを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【請求項10】
間隙を区画する相互離間した磁極片を含み、かつ前記間隙に於いて主磁界を生成する主磁石と、
イオンを発生させかつ前記イオンを前記間隙内の前記主磁界内へ加速させ、前記間隙外部に位置するイオン源であって、細長い抽出スリットを区画する抽出電極と、細長い基準スリットを区画する基準電極と、前記抽出スリットに隣接して位置し、イオン化電子を発生させる少なくとも1つのフィラメントと、前記抽出電極から離間している反射電極であって、前記フィラメントにより発生されたイオン化電子が、前記フィラメントから前記抽出スリット付近の電離領域へ加速されて気体のイオン化がなされ、前記電離領域で発生されたイオンは、前記抽出スリットを介して抽出され、前記基準スリットを介して前記主磁石の前記磁極片間の前記間隙内へ加速されるように構成された反射電極と、供給源磁界を生成して前記イオン化電子の軌道を拘束する、相互離間した磁極片を含む供給源磁石とを含む、イオン源と、
前記イオン源により生成され、かつ前記主磁界により偏向されたイオンのうちの選択種を検出するイオン検出器であって、前記間隙に於いて、前記選択イオン種の自然焦点に位置しているイオン検出器と、
を含み、
前記少なくとも1つのフィラメントは、前記抽出スリットの互いに反対側の端部に隣接して位置する第1および第2フィラメントを含むことを特徴とする質量分析計。
【請求項11】
前記抽出電極と前記基準電極と前記反射電極とは、前記電離領域に於いて生成されたイオンを線焦点に集束し、その後前記主磁界の集束作用により前記線焦点に結像する電界を生成するように、形成されていることを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【請求項12】
前記抽出電極と前記基準電極との間を加速電界が貫通することにより、前記電離領域に於いてイオン抽出領域が生成されることを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【請求項13】
前記抽出電極は前記フィラメントに隣接する領域において面取りされていることを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【請求項14】
前記反射電極は、前記電離領域に於いて発生させられたイオンの焦束を促進する電界を生成するカップ状凹部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の質量分析計。
【請求項15】
細長い抽出スリットを区画する抽出電極と、
細長い基準スリットを区画する基準電極と、
前記抽出スリットの対向端部に隣接して位置し、イオン化電子を発生させる第1および第2フィラメントと、
磁界を生成して前記イオン化電子の軌道を拘束する、相互離間した磁極片を含む供給源磁石と、
前記抽出電極から離間している反射電極であって、前記フィラメントにより発生された電子は、前記抽出スリット付近の電離領域へ加速されて気体をイオン化し、前記電離領域で生成されたイオンは、前記抽出スリットを介して抽出され、前記基準スリットを介して加速される、反射電極とを含み、
前記抽出電極と前記基準電極と前記反射電極との寸法および間隔は、前記イオン源に於いて発生されたイオンを前記抽出スリットへ向けて集束させる電界を形成するように構成されていることを特徴とするイオン源。
【請求項16】
前記反射電極は、前記電離領域に於いて発生されたイオンの焦束を促進する電界を生成するカップ状凹部を備えていることを特徴とする請求項15に記載のイオン源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−527098(P2009−527098A)
【公表日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555281(P2008−555281)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際出願番号】PCT/US2007/003385
【国際公開番号】WO2007/097920
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(599060928)バリアン・インコーポレイテッド (81)
【出願人】(309008239)
【出願人】(309008240)
【出願人】(309008251)
【出願人】(309008262)
【Fターム(参考)】