説明

微量含有物の分析方法

材料中の微量含有物を分析するための試料調製が、長時間の抽出処理をすることなしに、1回の短時間での抽出処理により行われ、材料中の微量含有物を迅速に分析する方法を提供する。 本発明の微量含有物の分析方法は、分析される材料の試料片を試料台上に載置する工程と、試料片から含有物を抽出する溶剤を試料台に滴下し、試料台と試料台に載置された試料片との隙間に溶剤を注入する工程と、室温において試料台と試料片との隙間に注入された溶剤を保持し、試料台と試料片との隙間に保持された溶剤により、試料片から含有物を抽出する工程と、試料片から抽出された含有物を分析する工程とからなることである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、材料中の微量含有物の分析方法に関するものであり、詳しくは、高分子材料中に含まれる添加剤などの微量含有物の分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレン(PPと略記する)やポリエチレン(PEと略記する)などのポリオレフィン系樹脂中に含まれる添加剤を分析する従来の方法の系統図を図23に示す。
最初に、試料であるポリオレフィン系樹脂のペレットから、沸点近くまで加熱したクロロホルムなどの溶剤を用い、8時間かけて添加剤を抽出する(A処理と称す)。しかも、この抽出処理を2回行い、すべての添加剤を抽出する。
次に、クロロホルム抽出成分を脱クロロホルムした後、加熱したアセトンで1時間の還流抽出(B処理と称す)を行い、脱アセトンした後の抽出物を、液体クロマトグラフ分析装置やガスクロマトグラフ分析装置を用いて分析し、酸化防止剤や難燃剤などの添加剤を、同定し、定量する。
また、クロロホルム抽出残については、加熱したジメチルホルムアミドにより4時間の抽出(C処理と称す)を行い、抽出物を赤外分光分析装置により分析し、金属不活性剤などの添加剤を同定する。
【0003】
A処理で用いる溶剤には、クロロホルムの他に、容量比で1:1のアセトンとトルエンとの混合溶剤も用いられている。
A処理の方法としては、例えばソクッスレー抽出法が用いられており、この抽出処理は2回に限定されるものではなく、必要に応じて2回以上も行われている。そして、A処理に用いられるソクッスレー抽出法では、溶液を還流して抽出するので一定量の溶液が必要であり、例えばクロロホルムとして約100mlが必要である。そのため、試料ペレットとしては10g程度が用いられる。
それと、A処理では、沸点近くまで加熱した溶剤で抽出を行うため、母材の樹脂も一部抽出され分析の妨害となるので、クロロホルム抽出成分を、添加剤のみを抽出するアセトンで再抽出処理をして、分析の妨害成分となる樹脂成分を除いている。
また、A処理において、添加剤のみを抽出する溶剤を用いると、抽出時間がさらに長くなる。(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
【非特許文献1】技術情報協会編「高分子添加剤の分離・分析技術」P.19〜21
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、従来の微量含有物の分析方法は、抽出処理された含有物を分析する工程では、機器分析を用いるため、長時間を要しないが、試料調製工程においては、同じ方法での長時間の抽出処理が複数回あるとともに、複数の異なる方法での抽出処理もあり、非常に長時間を要し、微量含有物を迅速に同定し定量することができないとの問題があった。
【0006】
この発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、材料中に含まれる微量の含有物を分析する場合の試料調製が、長時間の抽出処理を複数回することなしに、しかも、複数の異なる抽出処理もすることなしに、1回の短時間での抽出処理により行われ、材料中の微量含有物を迅速に分析する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る第1の微量含有物の分析方法は、材料中の含有物を溶剤で抽出し、この抽出物を分析する微量含有物の分析方法において、分析される材料の試料片を試料台上に載置する工程と、上記試料片から含有物を抽出する溶剤を上記試料台に滴下し、上記試料台と上記試料台に載置された上記試料片との隙間に上記溶剤を注入する工程と、室温において上記試料台と上記試料片との隙間に注入された上記溶剤を保持し、上記試料台と上記試料片との隙間に保持された上記溶剤により、上記試料片から含有物を抽出する工程と、上記試料片から抽出された上記含有物を分析する工程とからなるものである。
【0008】
本発明に係る第2の微量含有物の分析方法は、高分子材料中の含有物を溶剤で抽出し、この抽出物を分析する微量含有物の分析方法において、分析される高分子材料の試料片を試料台上面に接して載置する工程と、上記試料片から含有物を抽出する溶剤を上記試料台上面に滴下し、上記試料台上面と上記試料台上面に接して載置された上記試料片との隙間に上記溶剤を注入する工程と、室温において上記試料台上面と上記試料片との隙間に注入された上記溶剤を保持し、上記試料台上面と上記試料片との隙間に保持された上記溶剤により、上記試料片から含有物を抽出する工程と、上記試料片から抽出された上記含有物を分析する工程とからなるものである。
【0009】
本発明に係る第3の微量含有物の分析方法は、上記第2の微量含有物の分析方法において、試料片から抽出した含有物を分析する工程が、上記試料片から抽出した含有物を含む溶液を、クロマトグラフ分析法で分析することである。
【0010】
本発明に係る第4の微量含有物の分析方法は、上記第2の微量含有物の分析方法において、試料片から抽出した含有物を分析する工程が、試料片から抽出した含有物を含む溶液の溶剤を揮発させて、上記含有物を試料台として用いた基板の表面に析出させ、上記基板表面に析出した上記含有物を分析することである。
【0011】
本発明に係る第5の微量含有物の分析方法は、上記第4の微量含有物の分析方法において、基板表面に析出した含有物を分析する方法が、飛行時間型二次イオン質量分析法である。
【0012】
本発明に係る第6の微量含有物の分析方法は、上記第2の微量含有物の分析方法において、試料片から含有物を抽出する工程が、室温において試料台上面と試料片との隙間に溶剤を保持した状態で振動を加え、上記試料台上面と上記試料片との隙間に保持された上記溶剤により、上記試料片から含有物を抽出することである。
【0013】
本発明に係る第7の微量含有物の分析方法は、上記第2の微量含有物の分析方法において、試料片から含有物を抽出する工程が、抽出に用いる溶剤の室温における飽和蒸気雰囲気中、試料台上面と試料片との隙間に溶剤を保持し、上記試料台上面と上記試料片との隙間に保持された上記溶剤により、上記試料片から含有物を抽出することである。
【0014】
本発明に係る第8の微量含有物の分析方法は、上記第5の微量含有物の分析方法において、試料台上面と試料片との隙間に保持され、上記試料片から含有物を抽出する溶剤に、この溶剤に溶解する銀化合物が添加されていることである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る第1の微量含有物の分析方法は、材料中の含有物を溶剤で抽出し、この抽出物を分析する微量含有物の分析方法において、分析される材料の試料片を試料台上に載置する工程と、試料片から含有物を抽出する溶剤を試料台に滴下し、試料台と試料台に載置された試料片との隙間に溶剤を注入する工程と、室温において試料台と試料片との隙間に注入された溶剤を保持し、試料台と試料片との隙間に保持された溶剤により、試料片から含有物を抽出する工程と、試料片から抽出された含有物を分析する工程とからなるものであり、これによれば、抽出時間が短くなり、少量の試料片による材料中の含有物の精度の良い分析が、短時間にできる。
【0016】
本発明に係る第2の微量含有物の分析方法は、高分子材料中の含有物を溶剤で抽出し、この抽出物を分析する微量含有物の分析方法において、分析される高分子材料の試料片を試料台上面に接して載置する工程と、上記試料片から含有物を抽出する溶剤を上記試料台上面に滴下し、上記試料台上面と上記試料台上面に接して載置された上記試料片との隙間に上記溶剤を注入する工程と、室温において上記試料台上面と上記試料片との隙間に注入された上記溶剤を保持し、上記試料台上面と上記試料片との隙間に保持された上記溶剤により、上記試料片から含有物を抽出する工程と、上記試料片から抽出された上記含有物を分析する工程とからなるものであり、これによれば、抽出時間が短くなり、少量の試料片による高分子材料中の含有物の精度の良い分析が、短時間にできる。
【0017】
本発明に係る第3の微量含有物の分析方法は、上記第2の微量含有物の分析方法において、試料片から抽出した含有物を分析する工程が、上記試料片から抽出した含有物を含む溶剤を、クロマトグラフ分析法で分析することであり、これによれば、抽出時間が短くなり、少量の試料片による高分子材料中の含有物の精度の良い分析が、短時間にできる。
【0018】
本発明に係る第4の微量含有物の分析方法は、上記第2の微量含有物の分析方法において、試料片から抽出した含有物を分析する工程が、試料片から抽出した含有物を含む溶剤を揮発させて、上記含有物を試料台として用いた基板の表面に析出させ、上記基板表面に析出した上記含有物を分析することであり、これによれば、抽出時間が短くなり、少量の試料片による高分子材料中の含有物の精度の良い分析が、表面分析法により、短時間にできる。
【0019】
本発明に係る第5の微量含有物の分析方法は、上記第4の微量含有物の分析方法において、基板表面に析出した含有物を分析する方法が、飛行時間型二次イオン質量分析法であり、これによれば、抽出時間が短くなり、少量の試料片による高分子材料中の含有物の精度の良い分析が、短時間にできる。特に微量な含有物の分析が可能になる。
【0020】
本発明に係る第6の微量含有物の分析方法は、上記第2の微量含有物の分析方法において、試料片から含有物を抽出する工程が、室温において試料台上面と試料片との隙間に溶剤を保持した状態で振動を加え、上記試料台上面と上記試料片との隙間に保持された上記溶剤により、上記試料片から含有物を抽出することであり、これによれば、抽出時間が短くなり、少量の試料片による高分子材料中の含有物の精度の良い分析が、短時間にできる。特に、試料片からの抽出物の量が増加し、抽出物の分析精度が向上する。
【0021】
本発明に係る第7の微量含有物の分析方法は、上記第2の微量含有物の分析方法において、試料片から含有物を抽出する工程が、抽出に用いる溶剤の室温における飽和蒸気雰囲気中、試料台上面と試料片との隙間に溶剤を保持し、上記試料台上面と上記試料片との隙間に保持された上記溶剤により、上記試料片から含有物を抽出することであり、これによれば、抽出時間が短くなり、少量の試料片による高分子材料中の含有物の精度の良い分析が、短時間にできる。特に、抽出に用いる溶剤の再滴下が不要となり、分析プロセスが簡便となる。
【0022】
本発明に係る第8の微量含有物の分析方法は、上記第5の微量含有物の分析方法において、試料台上面と試料片との隙間に保持され、上記試料片から含有物を抽出する溶剤に、この溶剤に溶解する銀化合物が添加されていることであり、これによれば、抽出時間が短くなり、少量の試料片による高分子材料中の含有物の精度の良い分析が、短時間にできる。特に、材料中の抽出物を、飛行時間型二次イオン質量分析法で分析する感度が、大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
[図1]本発明の材料中の微量含有物を分析する方法を説明する工程図である。
[図2]本発明の分析方法における抽出溶剤を滴下した状態を示す図である。
[図3]本発明の分析方法における試料台の上面に試料片が接して載置され、試料台上面と試料片との隙間に抽出溶剤が保持された状態を示す図である。
[図4]本発明の分析方法における抽出物を分析装置で分析する検体を調製する第1の方法を示す図である。
[図5]本発明の分析方法における抽出物を分析装置で分析する検体を調製する第2の方法を示す図である。
[図6]実施例1の測定結果の一例としての酸化防止剤を500ppm含有するHDPEペレットから抽出した抽出溶液のクロマトグラムである。
[図7]実施例1の50ppm、100ppm、500ppm、1000ppmの各濃度の酸化防止剤を含有するHDPEペレットから抽出した抽出溶液を分析したクロマトグラムのピークAの面積と酸化防止剤の含有濃度との関係を示す図である。
[図8]実施例2の測定結果の一例としての臭素系難燃剤を0.1%含有するPPペレットから抽出した抽出物の赤外吸収スペクトルである。
[図9]実施例2の0.1%、1%、10%の各濃度の臭素系難燃剤を含有するPPペレットから抽出した抽出物を分析した赤外吸収ピークの吸光度と臭素系難燃剤の含有濃度との関係を示す図である。
[図10]実施例3の測定結果の一例としての臭素系難燃剤を0.1%含有するPPペレットから抽出した抽出物の光電子分光スペクトルである。
[図11]実施例3の0.1%、1%、10%の各濃度の臭素系難燃剤を含有するPPペレットから抽出した抽出物を分析した光電子分光スペクトルの69eV付近のピーク面積値と臭素系難燃剤の含有濃度との関係を示す図である。
[図12]実施例4の測定結果の一例としての酸化防止剤を500ppm含有するHDPEペレットから抽出した抽出物の質量スペクトルである。
[図13]実施例4の10ppm、50ppm、100ppm、500ppm、1000ppmの各濃度の酸化防止剤を含有するHDPEペレットから抽出した抽出物を分析した質量スペクトルのピーク面積比(77528Si)と酸化防止剤の含有濃度との関係を示す図である。
[図14]実施例5の測定結果の一例としての臭素系難燃剤を100ppm含有するPPペレットから抽出した抽出物の質量スペクトルである。
[図15]実施例5の1ppm、10ppm、100ppm、1000ppm、1%、10%の各濃度の臭素系難燃剤を含有するPPペレットから抽出した抽出物を分析して得られた質量スペクトルのピーク面積比(79Br107Ag)と臭素系難燃剤の含有濃度との関係を示す図である。
[図16]実施例6の測定結果の一例としての臭素系難燃剤を0.1%含有するHIPSペレットから抽出した抽出物の質量スペクトルである。
[図17]実施例6の0.1%、1%、10%の各濃度の臭素系難燃剤を含有するHIPSペレットから抽出した抽出物を分析して得られた質量スペクトルのピーク面積比{1068(B+Ag)107Ag}と臭素系難燃剤の含有濃度との関係を示す図である。
[図18]実施例7における試料片から含有物を抽出する状態を示す図である。
[図19]実施例7の方法により酸化防止剤を500ppm含有するHDPEペレットから抽出した抽出物の質量スペクトルである。
[図20]実施例8における試料片から含有物を抽出する状態を示す図である。
[図21]実施例8の方法により臭素系難燃剤を100ppm含有するPPペレットから抽出した抽出物の質量スペクトルである。
[図22]実施例9の方法により臭素系難燃剤を0.1%含有するHIPSペレットから抽出した抽出物の質量スペクトルである。
[図23]ポリオレフィン系樹脂中に含まれる添加剤を分析する従来の方法の系統図である。
【符号の説明】
【0024】
1 試料片、2 試料台、3 抽出溶剤、4,6 マイクロシリンジ、5 抽出物を含有した溶液、7 試料容器、8 抽出物、9 試料台と試料片との隙間、10 機器分析装置、11 HDPEペレット、12 シリコン基板、13 クロロホルム、21 PPペレット、22 銀基板、23 トルエン、41 超音波洗浄器、42 洗浄槽、43 支持台、51 密閉容器、52 蒸気発生用トルエン、53 孔を有する棚板。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は本発明の材料中の微量含有物を分析する方法を説明する工程図である。
第1の工程は、分析する物質を含有する材料の試料片1を試料台2の上面に接して載置する{図1(a)}。第2の工程は、試料片1から含有物を抽出する溶剤3を、試料台2の上面に滴下し、試料台2の上面と試料片1との隙間(この後は試料台2と試料片1との隙間と略記する)に注入する{図1(b)}。第3の工程は、室温において試料台2と試料片1との隙間に注入された溶剤3を短時間保持し、試料台2と試料片1との隙間に保持された溶剤3により、試料片1から分析する含有物を抽出する{図1(c)}。第4の工程は、試料片1から抽出された含有物を機器分析装置10にて分析する{図1(d)}。
【0026】
本発明の分析方法において、分析対象となる材料は、プラスチックス、ゴム、接着剤、封止樹脂、注形樹脂などの高分子材料が挙げられる。これらの高分子材料は、原材料の状態ばかりではなく、機器の筺体、モールド製品、プリント配線板などの機器の部品に用いられた状態の材料も分析対象である。
本発明の分析方法において、分析する含有物としては、高分子材料の酸化防止剤、難燃剤、硬化触媒、加工助剤などの副資材や、原材料製造時や材料を各種製品の部材へ成形加工する時に含有される可能性がある微量な物質などが挙げられるが、対象となる高分子材料から溶剤により抽出されるものであれば特に限定されない。
本発明の分析方法において、試料片は、樹脂のペレットの1粒程度の少量(例えば、重量で0.1〜0.5g)であっても良い。
【0027】
本発明の分析方法において、試料片を載置する試料台は、試料片を載置できる平坦な面を有するものであれば良く、特に基板が好ましい。試料台の材質としては、分析される物質を含まない、ガラス材料、無機材料、金属材料、耐薬品性を有するプラスチック材料など挙げられる。
分析方法が、液体クロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ法ないし液体クロマトグラフ質量分析法の場合では、具体的には、ガラス基板、シリコン基板、ゲルマニウム基板、銀基板、金基板、ポリテトラフロロエチレン基板、ポリテトラフロロエチレンをコーティングしたSUSの基板、ガラスシャーレ、銀容器、金容器、ポリテトラフロロエチレン容器などが用いられる。また、分析方法が、赤外分光分析の場合は、具体的には、シリコン基板、ゲルマニウム基板、ポリテトラフロロエチレンをコーティングしたSUSの基板などが用いられる。また、分析方法が、X線光電子分光法の場合は、シリコン基板が用いられる。また、分析方法が、飛行時間型二次イオン質量分析法の場合は、シリコン基板、ゲルマニウム基板、銀基板、金基板、銀や金をめっきしたSUSの基板などが用いられる。
【0028】
図2は、本発明の分析方法における抽出溶剤を滴下した状態を示す図である。図2に示すように、試料片1のペレットを接して載置した試料台2の上面へ、マイクロシリンジ4を用いて抽出溶剤3を滴下する。
図2には試料台2として基板を例示しており、この後は試料台2を基板2として説明する。しかし、本発明では、試料台2は基板に限定されるものではない。
上記抽出溶剤3の滴下量は、少なくとも基板2と試料片1との隙間を満たすことができる量から試料片の体積の2倍の量であれば良く、例えば、試料片1が1粒の樹脂ペレットであれば、5〜100μlである。そして、滴下する場所は基板2の上面であれば特に限定されないが、基板2の上面における、試料片1が載置された部分の近傍、特に、試料片1が載置された部分と載置されていない部分との境界部に滴下するのが、基板2と試料片1との隙間に溶剤3を効率良く注入することができるので好ましい。
【0029】
図3は、試料台2である基板の上面に試料片1が接して載置された状態を示す図である。図3に示すように、試料片1の基板2と接触する面には凹凸があり、この凸部が基板2の上面に接触し、上記凹部が、基板2と試料片1との隙間9であり、この隙間9に、上記滴下した溶剤が注入される。
本発明の分析方法における、試料片1からの含有物の抽出は、少なくとも基板2と試料片1との隙間9に溶剤3が保持される状態を、室温にて短時間維持し、試料片に接した溶剤3、特に、基板2と試料片1との隙間の溶剤3中に含有物を抽出する。この時、溶剤が揮発して減少するので、所定の時間が経過後、溶剤3を再度滴下しても良い。抽出時間、すなわち基板2と試料片1との隙間に溶剤3が保持される状態を維持し、含有物を抽出する時間は、例えば、試料片1が1粒の樹脂ペレットであれば、0.5〜30分が好ましく、0.5〜15分がさらに好ましい。この時間が0.5分未満であると、抽出が不十分となり、分析精度が低下する。また、30分より長くても、抽出量が増えることなく、再度滴下する回数が増えるのみで、分析プロセスが複雑となるとともに、分析時間が長くなる。
【0030】
また、試料片1から溶剤3への含有物の抽出量を増やすため、抽出処理中に基板2を振動しても良い。振動方法としては、超音波洗浄器や振とう器を用いたり、超音波振動子を基板2に貼り付ける方法が挙げられる。
また、基板2と、試料片1と、基板2と試料片1との隙間に保持された溶剤3とを密閉容器中において、抽出溶剤3と同じ溶剤の飽和蒸気雰囲気中で抽出溶剤3による試料片1からの含有物の抽出を行っても良い。このようにすると、揮発による抽出溶剤3の消失が防止でき、追加の溶剤滴下が不要となり、分析プロセスが簡易となる。
【0031】
図4は、本発明の分析方法における、抽出物を分析装置で分析する検体を調製する第1の方法を示す図である。この第1の方法は、特に、液体クロマトグラフ法、ガスクロマトグラフ法ないし液体クロマトグラフ質量分析法などのクロマトグラフ分析法にて抽出物を分析する場合に用いるものである。図4に示すように、抽出工程が終了後、基板2から試験片1を取り去り、基板2の上面にある抽出物を含有した溶液5を、マイクロシリンジ6を用いて試料容器7に採取する。そして、この採取された溶液5が分析装置に注入され、高分子材料中の含有物が分析される。
【0032】
図5は、本発明の分析方法における、抽出物を分析装置で分析する検体を調製する第2の方法を示す図である。この第2の方法は、蛍光X線分析法、飛行時間型二次イオン質量分析法、赤外分光分析法ないしX線光電子分光分析法のいずれかにて抽出物を分析する場合に用いるのものである。図5に示すように、抽出工程が終了後、基板2から試験片1を取り去り、基板2の上面にある抽出物を含有した溶液5の溶剤を揮発して、抽出物8を基板2の表面に析出さす。そして、抽出物8が析出された基板表面を分析装置で直接分析する。
本発明の分析方法において、特に、抽出物を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析する場合、抽出物が多いと析出部分が帯電するので、帯電を防止のため、基板には、銀、金、銀または金をめっきしたSUSの基板を用いるのが好ましい。
本発明の分析方法において、抽出に用いる溶剤は、室温にて、高分子材料を分解することなく含有物を抽出するものが用いられる。用いられる溶剤のグレードは、含有物の分析におよぼす影響が小さいので、分析用グレードの純度を有するものが好ましい。
【0033】
本発明の分析方法において、特に、飛行時間型二次イオン質量分析法で抽出物を分析する場合は、含有物を抽出する溶剤に溶解し、測定対象物質を不純物として含まない銀化合物を添加した溶液を用いると、帯電する基板を用いても帯電が防止できるとともに、分析感度があがり、分析精度が向上する。
本発明の分析方法では、基板などの試料台上面に試料片を接して載置し、滴下により試料台と試料片との隙間に溶剤を注入し、注入された溶剤を試料台上面と試料片との隙間に保持し、この保持された溶剤で含有物を抽出して、抽出物を機器分析するので、抽出時間が短くなり、少量の試料片により材料、特に高分子材料中の含有物の精度の良い分析が、短時間にできる。
以下、さらに具体的な本発明の実施例を示すが、本発明がこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
[実施例1]
試料として、酸化防止剤を重量含有率で、50ppm、100ppm、500ppm、1000ppmの各々を含有した高密度ポリエチレン(HDPEと略記する)を準備した。HDPEにはHJ340{日本ポリケム(株)社製}を用い、酸化防止剤には1,3,5−Trimethyl−2,4,6tris(3,5−di−tert−buthyl−4−hydroxybenzyl)benzene{商品名:Irganox1330:Aldrich社製}を用いた。試料片1として、上記各濃度に相当する酸化防止剤をHDPEに添加して混練し、1粒の寸法が5mm×3mm×3mmで重量が約0.2gのペレットを調製した。
図2に示すのと同様にして、試料片1であるHDPEペレットの1粒を試料台2であるシリコン基板に接して載置し、試料片1であるHDPEペレットの近傍に、マイクロシリンジ4を用い抽出溶剤3であるクロロホルムの20μlを滴下し、HDPEペレットとシリコン基板との隙間にクロロホルムを注入し、保持した。クロロホルムは、HDPEを抽出せず、上記酸化防止剤を抽出する溶剤である。滴下後10分間、室温で放置するが、この間にクロロホルムが揮発して減少するので、2分間おきに、20μlのクロロホルムを追加して滴下した。用いたクロロホルムは、液体クロマトグラフ用グレード{和光純薬工業(株)社製}である。
【0035】
図4に示すのと同様にして、10分間放置後、試料片1であるHDPEペレットを試料台2であるシリコン基板から取り去った。次に、シリコン基板上面に残る抽出物を含有した溶液5であるクロロホルム溶液をマイクロシリンジ6を用いて試料容器7に移し、50μlに定容した。ここまでの所要時間は12分であった。この試料容器7中の溶液を液体クロマトグラフ質量分析装置に注入して、酸化防止剤量を測定した。
液体クロマトグラフ装置はHP8900型{アジレントテクノロジーズ社製}を、質量分析装置はLC−mate型{日本電子(株)社製}を、有機物分離用カラムは、内径4.6mm×長さ150mmであるInertsil ODS−3{GLサイエンス社製}を使用した。液体クロマトグラフの測定条件は、溶離液をメタノールと水のグラジエントモードとし、流量は1ml/分とした。質量分析の測定条件は、イオン化法として大気圧化学イオン化法を用い、正イオンモードとし、測定範囲は、フラグメントの質量数mと電荷zとの比である質量電荷比(m/zと略記する)が1〜1000とし、スキャン測定した。
【0036】
図6は、測定結果の一例としての酸化防止剤を500ppm含有するHDPEペレットから抽出した抽出溶液のクロマトグラムである。ピークAは酸化防止剤の分離ピークを示し、ピークBは同ペレットに含有するシランカップリング剤のものである。これらピークの同定は当該物質の標準試料測定による質量スペクトルおよびクロマトグラムの保持時間の照合により確認した。ピークAのピーク面積値は、5000countsであった。
図7は上記の50ppm、100ppm、500ppm、1000ppmの各濃度の酸化防止剤を含有するHDPEペレットから抽出した抽出溶液を分析したクロマトグラムのピークAの面積と酸化防止剤の含有濃度との関係を示す図である。酸化防止剤の含有濃度とクロマトグラムのピークAの面積との間に良好な直線関係が認められた。
本実施例では、HDPEペレットから含有物である酸化防止剤を抽出処理する時間は12分間であり、短時間の抽出処理により含有物の酸化防止剤を定量分析することが可能であることが判明した。このように、本実施例での分析方法では、従来の方法に比べ、抽出処理時間が大幅に短縮され、HDPE中の含有物である酸化防止剤を迅速に分析することができる。
【0037】
[実施例2]
試料として、添加剤である臭素系難燃剤を重量含有率で、0.1%、1%、10%の各々を含有したPPを準備した。PPにはBC03B{日本ポリケム(株)社製}を用い、臭素系難燃剤にはDecabromodiphenylether{和光純薬工業(株)社製}を用いた。試料片1として、上記各濃度に相当する臭素系難燃剤をPPに添加して混練し、1粒の寸法が5mm×3mm×3mmで重量が約0.3gのペレットを調製した。
図2に示すのと同様に、試料片1であるPPペレットの1粒を、試料台2であるフッ素樹脂コーティングされたSUS基板に接して載置し、PPペレットの近傍に、マイクロシリンジ4を用い抽出溶剤3であるトルエンの20μlを滴下し、PPペレットとフッ素樹脂コーティングされたSUS基板との隙間にトルエンを注入し、保持した。トルエンは、PPを抽出せず、上記臭素系難燃剤を抽出する溶剤である。滴下後10分間、室温で放置するが、この間にトルエンが揮発して減少するので、5分間後に、20μlのトルエンを追加して滴下した。用いたトルエンは、液体クロマトグラフ用グレード{和光純薬工業(株)社製}である。
最初のトルエン滴下から10分間後は、滴下したトルエンは揮発しており、PPペレットおよび上記基板は乾燥状態になった。そして、上記基板からPPペレットを取り去ると、図5に示したのと同様、基板表面には、ペレットからの抽出物が濃縮物として析出していた。
【0038】
この基板表面の析出物を顕微フーリエ変換赤外分光法で分析した。顕微フーリエ変換赤外分光装置はJIR−5500型{日本電子(株)社製}を使用した。測定条件は、反射モードとし、測定波数範囲は、700〜4000cm−1、波数分解能は2cm−1とした。
図8は、測定結果の一例としての臭素系難燃剤を0.1%含有するPPペレットから抽出した抽出物の赤外吸収スペクトルである。図8に示すように、1300cm−1付近にDecabromodiphenyletherに起因する赤外吸収ピークが認められた。
図9は、上記の0.1%、1%、10%の各濃度の臭素系難燃剤を含有するPPペレットから抽出した抽出物を分析した赤外吸収ピークの吸光度と臭素系難燃剤の含有濃度との関係を示す図である。臭素系難燃剤の含有濃度と赤外吸収ピークの吸光度との間に良好な直線関係が認められた。
本実施例では、PPペレットから含有物である臭素系難燃剤を抽出処理する時間は10分間であり、短時間の抽出処理により含有物の臭素系難燃剤を定量分析することが可能であることが判明した。このように、本実施例での分析方法では、従来の方法に比べ、抽出処理時間が大幅に短縮され、PP中の含有物である臭素系難燃剤を迅速に分析することができる。
【0039】
[実施例3]
試料台2である基板にシリコン基板を用いた以外、実施例2と同様にして、抽出溶剤の滴下処理、抽出処理、抽出物の析出固化処理を行った。本実施例では、基板表面の析出物をX線光電子分光分析法で分析した。X線光電子分光装置は、QUANTUM2000型{フィジカルエレクトロニクス社製}を使用し、測定範囲は60〜80eVとした。
図10は、測定結果の一例としての臭素系難燃剤を0.1%含有するPPペレットから抽出した抽出物の光電子分光スペクトルである。図10に示すように、69eV付近にDecabromodiphenyletherの臭素の3d3/2軌道および3d5/2軌道に起因する光電子分光スペクトルが明瞭に認められ、このスペクトルのピーク面積値は20であった。
図11は、上記の0.1%、1%、10%の各濃度の臭素系難燃剤を含有するPPペレットから抽出した抽出物を分析した光電子分光スペクトルの69eVのピーク面積値と臭素系難燃剤の含有濃度との関係を示す図である。臭素系難燃剤の含有濃度と上記ピーク面積値との間に良好な直線関係が認められた。
本実施例でも、PPペレットから含有物である臭素系難燃剤を抽出処理する時間は10分間であり、短時間の抽出処理により含有物の臭素系難燃剤を定量分析することが可能であることが判明した。このように、本実施例での分析方法でも、従来の方法に比べ、抽出処理時間が大幅に短縮され、PP中の含有物である臭素系難燃剤を迅速に分析することができる。
【0040】
[実施例4]
試料片1として、酸化防止剤を重量含有率で、10ppm、50ppm、100ppm、500ppm、1000ppmの各々を含有したHDPEペレットを調製した以外、実施例1と同様にして、抽出溶剤の滴下処理、抽出処理を行った。本実施例では、最初にクロロホルムを滴下した10分間後、クロロホルムの再滴下はおこなわず、基板上面からHDPEペレットを取り去った。次に、基板を2分間室温に放置しクロロホルムを揮発させ、基板表面にペレットからの抽出物を濃縮物として析出させた。
本実施例では、基板表面の析出物を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析した。飛行時間型二次イオン質量分析装置は、TRIFT2{アルバックファイ社製}を使用した。測定条件は、一次イオンとして69Gaイオンを用い、二次イオンの測定モードは正イオンモード、測定範囲は、m/z=1〜1000、質量分解能はΔM/M=5000程度とした。
【0041】
図12は、測定結果の一例としての酸化防止剤を500ppm含有するHDPEペレットから抽出した抽出物の質量スペクトルである。図12に示すように、m/zが775に酸化防止剤のフラグメントに起因する質量ピークが認められた。このm/zが775のピークの面積775を、基板のシリコンのフラグメントによるm/zが28のピークの面積28Siで規格化した(77528Si)面積比の値を用いて定量分析した。酸化防止剤を500ppm含有するHDPEペレットから抽出した抽出物の上記面積比の値は5であった。
図13は、上記の10ppm、50ppm、100ppm、500ppm、1000ppmの各濃度の酸化防止剤を含有するHDPEペレットから抽出した抽出物を分析した質量スペクトルのピーク面積比(77528Si)と酸化防止剤の含有濃度との関係を示す図である。酸化防止剤の含有濃度とピーク面積比(77528Si)との間に良好な直線関係が認められ、特に、10ppmとの微量な濃度まで検出可能であった。
本実施例では、HDPEペレットからの含有物である酸化防止剤の抽出処理時間は12分間であり、短時間の抽出処理により含有物の酸化防止剤を微量な濃度まで定量分析することが可能であることが判明した。このように、本実施例での分析方法でも、従来の方法に比べ、抽出処理時間が大幅に短縮でき、HDPE中に10ppmと微量に含有する酸化防止剤を迅速に分析することができる。
【0042】
[実施例5]
試料片1として、実施例2と同様な方法により、臭素系難燃剤を重量含有率で、1ppm、10ppm、100ppm、1000ppm、1%、10%の各濃度で含有したPPペレットを調製した。次に、試料台2である基板に銀基板を用いた以外、実施例2と同様にして、基板表面に、PPペレットからの抽出物を、濃縮物として析出させた。
本実施例では、基板表面の析出物を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析した。飛行時間型二次イオン質量分析装置は、TRIFT2{アルバックファイ社製}を使用した。測定条件は、一次イオンとして69Gaイオンを用い、二次イオンの測定モードは負イオンモード、測定範囲はm/z=1〜200、質量分解能はΔM/M=5000程度とした。
図14は、測定結果の一例としての臭素系難燃剤を100ppm含有するPPペレットから抽出した抽出物の質量スペクトルである。図14に示すように、m/zが79に臭素元素のフラグメントに起因する質量スペクトルのピークが認められた。このm/zが79のピーク面積79Brを、基板の銀のフラグメントによるm/zが107のピーク面積107Agで規格化した(79Br107Ag)ピーク面積比の値を用いて定量分析した。
【0043】
図15は、上記の1ppm、10ppm、100ppm、1000ppm、1%、10%の各濃度の臭素系難燃剤を含有するPPペレットから抽出した抽出物を分析して得られた質量スペクトルのピーク面積比(79Br107Ag)と臭素系難燃剤の含有濃度との関係を示す図である。臭素系難燃剤の含有濃度とピーク面積比との間に良好な直線関係が認められ、1ppmとの微量な濃度まで検出可能であった。本実施例では、PPペレットの試料片1から、含有物である臭素系難燃剤の抽出処理時間は10分間であり、短時間の抽出処理により含有物の臭素系難燃剤を微量な濃度まで定量分析することが可能であることが判明した。
このように、本実施例での分析方法でも、従来の方法に比べ、抽出処理時間が大幅に短縮でき、PP中に1ppmと微量に含有する臭素系難燃剤を迅速に分析することができる。
【0044】
[実施例6]
試料として、添加剤である臭素系難燃剤を重量含有率で0.1%、1%、10%、含有させた耐衝撃性ポリスチレン(HIPSと略記する)を準備した。HIPSにはH8672{PSジャパン(株)社製}を用い、臭素系難燃剤にはDecabromodiphenylether{和光純薬工業(株)社製}を用いた。試料片1として、上記各濃度に相当する臭素系難燃剤をHIPSに添加して混練し、1粒の寸法が5mm×3mm×3mmで重量が約0.3gのペレットを調製した。
図2に示すのと同様にして、試料片1であるHIPSペレットの1粒を試料台2である銀基板に接して載置し、HIPSペレットの近傍に、マイクロシリンジ4を用い抽出溶剤3のトルエンとメタノールとの混合溶剤(容積比でトルエン:メタノール=1:1)の20μlを滴下し、HIPSペレットと銀の基板との隙間に混合溶剤を注入し、保持した。この混合溶剤は、HIPSと臭素系難燃剤とを共に抽出する溶剤である。そこで、滴下30秒間後、HIPSペレットを銀基板から取り除き、HIPSペレットが取り除かれた銀基板の表面に窒素ガスを30秒間吹き付け、臭素系難燃剤を含有する溶液を乾燥し、銀基板表面に抽出物を析出させた。この混合溶剤滴下から銀基板表面に抽出物を析出させるまでの処理時間は約1分間であった。
本実施例の抽出処理に用いるトルエンとメタノールとのグレードは液体クロマトグラフ用グレード{和光純薬工業(株)製}である。
【0045】
本実施例では、基板表面の析出物を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析した。飛行時間型二次イオン質量分析装置は、TRIFT2{アルバックファイ社製}を使用した。測定条件は、一次イオンとして69Gaイオンを用い、二次イオンの測定モードは正イオンモード、測定範囲はm/z=1〜1500、質量分解能はΔM/M=5000程度とした。
図16は測定結果の一例としての臭素系難燃剤を0.1%含有するHIPSペレットから抽出した抽出物の質量スペクトルである。図16に示すように、m/zが1068に臭素系難燃剤であるDecabromodiphenyletherのフラグメントによるピークBと銀のフラグメントによるピークAgとに起因する質量スペクトルのピークが認められた。このm/zが1068のピークの面積1068(B+Ag)を、基板の銀のフラグメントによるm/zが107のピーク面積107Agで規格化した{1068(B+Ag)107Ag}ピーク面積比の値を用いて定量分析した。臭素系難燃剤を0.1%含有するHIPSペレットから抽出した抽出物の上記面積比の値は0.005であった。
【0046】
図17は、上記の0.1%、1%、10%の各濃度の臭素系難燃剤を含有するHIPSペレットから抽出した抽出物を分析して得られた質量スペクトルのピーク面積比{1068(B+Ag)107Ag}と臭素系難燃剤の含有濃度との関係を示す図である。臭素系難燃剤の含有濃度とピーク面積比との間に良好な直線関係が認められた。本実施例では、HIPSペレットから、含有物である臭素系難燃剤の抽出処理時間は1分間であり、極端に短い時間の抽出処理により含有物の臭素系難燃剤を微量な濃度まで定量分析することが可能であることが判明した。
このように、本実施例での分析方法では、従来の方法に比べ、抽出処理時間が大幅に短縮でき、しかも、HIPS中の臭素系難燃剤など、含有物を抽出する溶剤に溶解する母材中に含まれる含有物でも迅速に分析することができる。
【0047】
[実施例7]
本実施例では、実施例4と同様にして、酸化防止剤を重量含有率で500ppm含有させたHDPEペレットを調製した。この試料片1であるHDPEペレットを試料台2であるシリコン基板に接して載置し、実施例4と同様にして、抽出溶剤3のクロホルムを滴下し、HDPEペレットとシリコン基板との隙間にクロロホルムを注入し、保持した。そして、実施例4と同様の12分間の処理にて、溶剤に酸化防止剤を抽出し、この抽出物の酸化防止剤を基板表面に濃縮物として析出させた。
図18は、本実施例における試料片から含有物を抽出する状態を示す図である。図18に示すように、超音波洗浄器41のイオン交換水が注入された洗浄槽42中に支持台43が設置されており、この支持台43上にリコン基板12が置かれている。このシリコン基板12の上面には、HDPEペレット11が接して搭載されており、シリコン基板12の上面とHDPEペレット11との隙間にクロロホルム13が保持されている。そして、本実施例では、抽出処理中、HDPEペレット11とクロロホルム13とシリコン基板12とに、例えば、45kHzの超音波振動が加えられる。本実施例で用いた超音波洗浄器は、ブランソンシリーズ2510J−DTH型{ヤマト科学(株)製}である。
【0048】
実施例4と同様にして、基板表面の析出物を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析した。図19は、本実施例の方法により酸化防止剤を500ppm含有するHDPEペレットから抽出した抽出物の質量スペクトルである。図19に示すように、m/zが775に酸化防止剤のフラグメントに起因する質量ピークが認められた。このm/zが775のピークの面積775を、基板のシリコンのフラグメントによるm/zが28のピークの面積28Siで規格化した(77528Si)面積比の値が25と、実施例4の抽出処理時に超音波を加えない場合に比べて、5倍の値であった。すなわち、超音波を加えることにより、酸化防止剤の抽出量が増加した。
本実施例の方法では、含有物の抽出量が増加するので、分析する含有物の量がさらに微量である材料についても、その含有物を短時間に精度よく分析できる。
【0049】
[実施例8]
本実施例では、実施例5と同様にして、臭素系難燃剤を重量含有率で100ppm含有させた試料片1であるPPペレットを調製した。このペレットを試料台2である銀基板に接して載置し、実施例5と同様にして、抽出溶剤3のトルエンを滴下し、PPペレットと銀基板との隙間にトルエンを注入し、保持した。PPペレットと銀基板との隙間にトルエンを保持した状態で10分間静置して、トルエン中に臭素系難燃剤を抽出し、この抽出物の臭素系難燃剤を銀基板の表面に濃縮物として析出させた。
図20は、本実施例における試料片から含有物を抽出する状態を示す図である。図20に示すように、抽出処理中、PPペレット21を搭載し、PPペレット21との隙間にトルエン23を保持した銀基板22は、トルエン蒸気が飽和した密閉容器51中に設置されている。具体的には、この密閉容器51の底部に蒸気発生用トルエン52が入っており、この蒸気発生用トルエン52の上方には孔を有する棚板53が設けられている。この棚板53の上面に銀基板22が置かれ、この銀基板22の上面にはPPペレット21が接して載置されており、銀基板22の上面とPPペレット21との隙間にはトルエン23が保持されている。
すなわち、PPペレット21から臭素系難燃剤を抽出処理中、PPペレット21が、トルエンの飽和蒸気中にあるので、抽出溶剤であるトルエン23の揮発による消失が防止され、トルエン23の再滴下が不要となり、分析プロセスが簡便となる。
抽出後、密閉容器51から銀基板22を取り出し、銀基板22からPPペレット21を取り去り、銀基板22表面に窒素ガスを吹きつけて溶剤を乾燥し、臭素系難燃剤を銀基板22表面に濃縮物として析出させた。
【0050】
本実施例では、実施例5と同様にして、基板表面の析出物を飛行時間型二次イオン質量分析法で分析した。図21は、本実施例の方法により、臭素系難燃剤を100ppm含有するPPペレットから抽出した抽出物の質量スペクトルである。図21に示すように、m/zが79に臭素元素のフラグメントに起因する質量スペクトルのピークが認められた。このm/zが79のピーク面積79Brを、基板の銀のフラグメントによるm/zが107のピーク面積107Agで規格化した(79Br107Ag)ピーク面積比の値を用いてPPペレット中の臭素系難燃剤を定量分析できた。
すなわち、本実施例の分析方法では、従来の方法に比べ、抽出処理時間が大幅に短縮でき、しかも、抽出溶剤の再滴下が不要となり、さらに簡便なプロセスにより、PP中の含有物である臭素系難燃剤を迅速に分析することができる。
【0051】
[実施例9]
本実施例では、実施例6と同様にして、臭素系難燃剤を重量含有率で0.1%含有させたHIPSペレットを調製した。
本実施例では、抽出溶剤3に過塩素酸銀を飽和させたトルエンとメタノールとの混合溶液(容積比でトルエン:メタノール=1:1)を用いた以外、実施例6と同様にして、銀基板表面にHIPSペレットからの抽出物を、濃縮物として析出させた。
【0052】
本実施例では、基板表面の析出物を飛行時間型二次イオン質量分析法で、実施例6と同様にして分析した。図22は、本実施例の方法により臭素系難燃剤を0.1%含有するHIPSペレットから抽出した抽出物の質量スペクトルである。図22に示すように、m/zが1068に臭素系難燃剤であるDecabromodiphenyletherと銀とのフラグメントに起因する質量スペクトルのピークが認められた。このm/zが1068のピークの面積1068(B+Ag)を、基板の銀のフラグメントによるm/zが107のピーク面積107Agで規格化した{1068(B+Ag)107Ag}ピーク面積比の値が0.05と、実施例6に示す導電性物質である過塩素酸銀を添加しない場合に比べ、10倍大きかった。
すなわち、本実施例の分析方法では、従来の方法に比べ、抽出処理時間が大幅に短縮でき、しかも、抽出物の分析する感度が大幅に向上し、HIPS中の含有物である臭素系難燃剤を高感度で迅速に分析することができる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明による微量含有物の分析方法は、例えば、プラスチックス、ゴム、接着剤、封止樹脂、注形樹脂などの高分子材料に含有される添加剤などの微量含有物の分析に用いることができる。さらに、上記高分子材料を用いて製造された筺体、モールド製品、プリント配線板などの部品を構成する高分子材料中に含有される微量含有物を分析することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料中の含有物を溶剤で抽出し、この抽出物を分析する微量含有物の分析方法において、分析される材料の試料片を試料台上に載置する工程と、上記試料片から含有物を抽出する溶剤を上記試料台に滴下し、上記試料台と上記試料台に載置された上記試料片との隙間に上記溶剤を注入する工程と、室温において上記試料台と上記試料片との隙間に注入された上記溶剤を保持し、上記試料台と上記試料片との隙間に保持された上記溶剤により、上記試料片から含有物を抽出する工程と、上記試料片から抽出された上記含有物を分析する工程とからなることを特徴とする微量含有物の分析方法。
【請求項2】
高分子材料中の含有物を溶剤で抽出し、この抽出物を分析する微量含有物の分析方法において、分析される高分子材料の試料片を試料台上面に接して載置する工程と、上記試料片から含有物を抽出する溶剤を上記試料台上面に滴下し、上記試料台上面と上記試料台上面に接して載置された上記試料片との隙間に上記溶剤を注入する工程と、室温において上記試料台上面と上記試料片との隙間に注入された上記溶剤を保持し、上記試料台上面と上記試料片との隙間に保持された上記溶剤により、上記試料片から含有物を抽出する工程と、上記試料片から抽出された上記含有物を分析する工程とからなることを特徴とする微量含有物の分析方法。
【請求項3】
試料片から抽出した含有物を分析する工程が、上記試料片から抽出した含有物を含む溶液を、クロマトグラフ分析法で分析することであることを特徴とする請求項2に記載の微量含有物の分析方法。
【請求項4】
試料片から抽出した含有物を分析する工程が、試料片から抽出した含有物を含む溶液の溶剤を揮発させて、上記含有物を試料台として用いた基板の表面に析出させ、上記基板表面に析出した上記含有物を分析することであることを特徴とする請求項2に記載の微量含有物の分析方法。
【請求項5】
基板表面に析出した含有物を分析する方法が、飛行時間型二次イオン質量分析法であることを特徴とする請求項4に記載の微量含有物の分析方法。
【請求項6】
試料片から含有物を抽出する工程が、室温において試料台上面と試料片との隙間に溶剤を保持した状態で振動を加え、上記試料台上面と上記試料片との隙間に保持された上記溶剤により、上記試料片から含有物を抽出することを特徴とする請求項2に記載の微量含有物の分析方法。
【請求項7】
試料片から含有物を抽出する工程が、抽出に用いる溶剤の室温における飽和蒸気雰囲気中、試料台上面と試料片との隙間に溶剤を保持し、上記試料台上面と上記試料片との隙間に保持された上記溶剤により、上記試料片から含有物を抽出することを特徴とする請求項2に記載の微量含有物の分析方法。
【請求項8】
試料台上面と試料片との隙間に保持され、上記試料片から含有物を抽出する溶剤に、この溶剤に溶解する銀化合物が添加されていることを特徴とする請求項5に記載の微量含有物の分析方法。

【国際公開番号】WO2005/052552
【国際公開日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【発行日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−515742(P2005−515742)
【国際出願番号】PCT/JP2004/015125
【国際出願日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】