微量流体分析器のための固定相
例えば微量流体分析器において用いるための適切な材料を決定するために、特定の基準を用いて流体分析器のための固定相を選択すること。分析物または試料の高い吸収性、低い水の収着性、およびこの材料の高い多孔性または透過性が探求される。選択される材料は、中性の離脱基を用いる強化剤を含んでいてもよい。選択される材料は、疎水性を高めるキャッピング剤を有していてもよい。選択される材料は疎水性のポリマーであってもよい。固定相の選択は分子のモデル化を含んでいてもよい。
【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本出願は、2005年2月28日に提出された米国仮出願番号60/657,557の利益を請求する。
【0002】
背景
本発明は流体の検出、そして特に流体検出器に関する。さらに特定すると、本発明は検出器の製造に関連する流体検出器の材料に関する。
【0003】
2005年2月28日に提出された米国仮出願番号60/657,557は、本明細書中に参考文献として援用される。
流体分析器に関連する構造とプロセスの面は、2002年5月28日にUlrich Bonne等に付与された「感度を高めるための位相化ヒーターを有するガスセンサー」という名称の米国特許6,393,894 B1に開示されているであろう。その開示は本明細書中に参考文献として援用される。
【0004】
概要
本発明は、例えば微量流体分析器において用いるための適当な材料を決定するために、特定の基準を用いる流体分析器のための固定相(stationary phase)を選択することに関する。
【0005】
説明
微量ガス分析器(MGA)の固定相は、MGAシステムの内部で特定の特性を示す材料を利用することができる。MGAの例は本明細書の別の箇所に記載される。図1に概説するように、固定相の望ましい基準または特性200としては、次のものがあるだろう:項目201−試料ガス中の水分濃度に依存しない保持性と吸着エンタルピーを有する;項目202−試料ガスの混合物に晒されるSiOH(シラノール)を含まない(この理由は、シラノールは標準吸着エンタルピーよりも高い保持エンタルピーおよび反応エンタルピーを有し、ピークの引きずりを生じさせることである);項目203−分子量または沸点に伴って単調に増大する吸着エネルギーを有する;項目204−スピンコーティングまたはスプレー堆積または真空堆積などの標準的な堆積法によって適用できる;項目205−フォトレジスト生成物への適度な付着力を示すか、あるいは光パターン化されうる;項目206−DRIE(深反応性イオンエッチング)、プラズマエッチングまたは液体エッチングなどの通常のプロセスによってエッチングされてパターン化されうる;そして(最も重要な)項目207−注目している分析物に対して高い透過速度を示し、あるいは妨害ガス(例えばアルカン)に対して非常に低い吸着エンタルピー値を示し、そして極性分析物に対して高い物理吸着(反応性または化学性ではない吸着)の値を示す。
【0006】
固定相の材料の幾つかの主要な特性または基準としては、高い吸収力と低い水の妨害性(water interference)がある。耐水性は、多くの量の疎水性基の使用によって得られる。吸収力は、耐水性を損なうであろう活性な水素結合を追加することなく表面上に十分な分極能を用いることによって得られる。ここにおける項目には、マイクロGC濃縮器(concentrator)または分離器(separator)において用いるための無極性収着剤、多孔質誘電体のためのシリル強化剤のための新しい離脱基と化学種、多孔質吸着性SOG’sのためのキャッピング剤、およびポリノルボルネンをベースとするマイクロGCのベースのための固定相としての疎水性ポリマーが含まれるかもしれない。多孔質材料はスピンオン配合物としてMGAまたはGCに付与されうる。超低k誘電体(ultra low k dielectrics)は細孔の導入によって作ることができる。デバイス構造をパターン化および/または硬化した後に、表面の機能性が存在する。その構造は高度に多孔質の配合物のうちの一つから作られるかもしれないが、しかし多孔度(高い表面積)だけで良好な固定相が作られるのではなく、表面に見いだされる特定の官能基が表面を所望の活性に適合させるかもしれない。用いられるべきポリマーのベースは伸長されるかもしれない。表面積を増大させるためにポリマーを多孔質のものにすることができるが、しかしその基材は、吸着を行う間の水の妨害に抗するための潜在的な活性を有する。
【0007】
MGAの適用の中に高い表面積の誘電体構造を含めることができる。ナノチューブ構造の多孔質材料があり、それらはチップの加工処理の間に遭遇するであろう高温に対して比較的安定である。その例として、開放細孔構造を有するGX3P(登録商標)とNANOGLASS(登録商標)(Honeywell)がある。高表面積の炭素の例としては、カーボンナノチューブがある。SiLK(登録商標)(Dow)などの他の多孔質材の例もあり、これにおいては、表面積を増大させるために最初にプラズマエッチングまたはウエットエッチングによって表面の細孔が開放される。そのような構造は、吸収性の金属表面を与えるために金属コーティングを有してもよい。
【0008】
関連する技術と対比して、高表面積の機能化にここで注目することができる。モデル化の結果として注目される例は、トリフルオロプロピルシリル基であろう。ジクロロ- またはジエトキシ-トリフルオロプロピルメチルシランまたは類似のモノマーを用いるNANOGLASS(登録商標)のためのスピンオン処理の中で、トリフルオロプロピルメチルシリル基が構成される。
【0009】
他のポリマーは、水に対して不感受性にするためのモデル化において見いだされる。これらのポリマーは高度に多孔質ではないかもしれないが、細孔が導入されてもよい。ポリノルボルネンが一例であるが、その他のものとして、エポキシ-ノボラック、pdms、ポリテトラフルオロエチレン、その他同種類のものがある。細孔を形成させるポロゲン(porogen)成分の熱分解を用いて細孔を形成するGX3P(登録商標)やNANOGLASS(登録商標)におけるものと同様の技術を用いて、高いTgを有する材料を多孔質にすることができる。水溶性のポロゲンを用いて低いTgを有する材料を多孔質にすることができ、あるいは製造された低温のポロゲンがHFCを形成する。
【0010】
図2は、ここで注目される様々な材料特性のつながりを説明する図式である。MGAの固定相のための候補材料を選択することによって、ボックス(箱形の囲み)150で始めることができる。次いで、ダイヤモンド(ひし形の囲み)151における質問へ行くことができ、ここで、材料の多孔度がMGAの固定相のために満足できるか、あるいは許容できるかを問う。回答がノーである場合、ブロック157へ行くことができ、ここで、例えば、多孔質材料を開発するためにポロゲンを用いることができる。次に、ボックス157から、ダイヤモンド156へ行くことができ、ここでの質問は、材料の多孔度が満足できるか、ということである。そうではない場合、代替材料を選択するためにブロック155へ行くことができ、ここからダイヤモンド151における多孔度についての質問へ向かうであろう。ダイヤモンド156での質問の答えがイエスである場合、水の妨害性についての質問に答えるために、ダイヤモンド152へ行くことができる。同様に、ダイヤモンド151の質問に対する回答がイエスである場合、材料の水の妨害性が満足できるか、あるいは許容できるかについてのダイヤモンド152における質問へ行くことができる。イエスである場合、材料の吸着性が許容できるかを問う別のダイヤモンド153へ行くことができる。回答がイエスである場合、ボックス154において、材料はMGAにおいて用いるために許容できるだろう。回答がノーである場合、ポリノルボルネンをベースとするマイクロGCのための固定相のための材料としての疎水性ポリマーおよび高い吸着性と低い水の感受性をもって機能するその他のポリマーを含む代替材料のボックス155へ行くことができて、そして材料を選択する。しかし、ボックス155から、その新たに選択された材料を用いて、材料が十分に多孔質であるかを問うダイヤモンド151における質問へ行くことができる。その回答がイエスである場合、その材料をもってダイヤモンド152へ行くことができ、そのステップからここで示している通りのステップをふむことができる。そうではない場合、ブロック157へ行くことができ、ここで、材料の多孔度をおそらくはポロゲンを用いて開発することができる。ボックス157から、多孔度が満足できるか、という質問としてのダイヤモンド156へ行くことができる。それが満足されない場合、代替材料を選択するためにブロック155へ行くことができる。ダイヤモンド156に対する回答がイエスである場合、水の妨害性が許容できるか、あるいは満足できるかについての質問としてのダイヤモンド152へ行くことができる。その回答がイエスである場合、そこからの順序としてここで示している通りのステップをふむことができる。ダイヤモンド152における回答がノーである場合、多孔質で吸着性のSOGなどの材料のためのボックス158において、キャッピング処理などの水の妨害性の処理が行われるだろう。そこから、水の妨害性が許容できるか、という質問としてのダイヤモンド159へ行くことができる。回答がノーである場合、ボックス155へ行くことができ、そしてボックス155の後には、ここで示している通りのステップをふむことができる。回答がイエスである場合、吸着性が許容できるか、という質問を問うダイヤモンド160へ行くことができる。回答がノーである場合、代替材料を選択してここで説明しているステップをふむために、ボックス155へ行くことができる。回答がイエスである場合、材料はMGAにおいて用いるために許容できるか、というボックス161へ行くことができる。
【0011】
試みとして、少なくとも比較に基づく予測と評価を可能にするために、固定フィルム材料の特性を評価することができる。位相化(phased)マイクロGC予備濃縮器および/または分離器のために必要な収着剤は、高度に疎水性であるがしかしある程度の極性を保持しているべきであり、また非常に低い水素結合特性を有し、そして300℃よりも高い温度と空気中で200℃よりも高い温度での繰返しのサイクルに耐えることができるべきである。それはまた、低い水の収着性を有するべきである。
【0012】
この要求は、ここで示される幾つかの材料を用いて実現されうる。例えば、高度に無極性の材料を用いることができる。無極性収着剤として、SilkまたはGX3Pなどの有機低k(low k)誘電体を用いることができる。無極性収着剤として、ナノチューブを用いることができる。材料の要件を達成するために、現行のシリカ/アルミナ収着剤を金属コーティングして、有機低k誘電体またはナノチューブを金属コーティングすることができる。用いることのできる別の材料は低k複合材である。これらの材料は収着剤にある程度の結合エネルギーを与え、また、熱分解を起こさずに分離するための表面積を与えることができる。
【0013】
GX3Pのフィルムまたは層を、開放細孔を有する収着剤または分離器(セパレータ)として用いることができる。この層は、マイクロGCによって必要とされる開放細孔、高い表面積および無極性表面を与えることができる。芳香族性は、単離された薬剤に幾分かの結合を与えることができる。この層は、ICほどには多くのプロセスを受けないと思われ、従ってそれは低弾性率材料として適している。
【0014】
カーボンナノチューブ(CNT’s)のコーティング(標準的なCVD堆積を有するもの)は、高い表面積を与えるために製造することができる。CNT’sは、(SilkまたはGX3Pなどの有機低k誘電体よりも高い)熱安定性を有する非常に高い表面積を与えるかもしれない。この黒鉛炭素は、高度に疎水性の環境を維持しながら、吸収性の種に幾分かの活性を与えてもよい。
【0015】
一つは、現行の多孔質無機材料への金属の薄い(すなわち、オングストロームの範囲での)CVDまたはALDコーティングであろう。金属のCVDまたはALDの薄いコーティングは有機低k誘電体またはナノチューブに付着させることができ、これは金属の表面積を増大させるために塊状にコーティングされた基材を含むことができる。金属コーティングは無極性物質にさえも活性を付与し、無機収着剤よりも低い水の収着性を与えることができる。
【0016】
低k無機材料と低k有機材料の複合構造は、高度に親水性の無機材料と高度に疎水性の有機材料の間の中間的な解決策を与えることができ、しかしそれは、極性の増大により、有機材料だけを用いるよりも大きな収着剤活性をも与えることができる。
【0017】
別の手法は、変性されたNANOGLASS(登録商標)を使用することを含んでもよい。メチル基の代わりに、他の有機シランが配合物のために用いられるかもしれない。有機物の含有量を増大させるために、理論量(化学量論量)も調製されるかもしれない。ケイ素の上の有機基はシリケートの水素結合活性を改変し、そして表面により大きな疎水性を与えるかもしれない。モデル化によれば、フェニル化したナノグラスは水分の影響に対する良好な抵抗を与えるかもしれないが、しかし、標準のナノグラスは良好なCO2/EtOHエネルギー分離を有するようである。標準のナノグラスの単一体の混合物とすることや、標準のナノグラスのパターン化およびフェニル化したナノグラスを用いる別のパターン化が必要とされてもよい。
【0018】
多孔質誘電体のためのシリル強化剤のための新しい離脱基と化学種が必要とされてもよい。公知の現行のシリルアセトキシ強化剤(TA)は銅との反応を受けやすいようであり、それにより銅のエッチングと残留物の形成が生じる。TAにおいて用いられる酢酸アンモニウムと酢酸の条件は、銅のエッチングと残留物の形成をもたらすかもしれない。これらの条件を避けるための試みにおいて、幾つかの新しい化合物が確認されている。一つの群において、中性の離脱基を用いることができ、そしてこれはシリルアセテートに類似する水分感受性を有し、そのため容易に加水分解してマトリックスのSiOHと反応することが、文献で示されている。第二の群はHMDZに類似しているが、しかしそれはトリメチルシリル基よりもむしろジメチルシリル基を用いるかもしれない。この場合、アンモニアまたはアミドが離脱基となるであろう。
【0019】
新しいTA剤の第一の群は、中性の離脱基を用いることができる。中性の離脱基によれば、現行のアセトキシ基のエッチングと触媒作用の問題が避けられるかもしれない。この手法は、アミド離脱基は関連する技術において用いられるジアセトキシに対する良好な代替物であるかもしれない、ということを示唆する。従って、ジメチルシリルジアセトアミドまたはジメチルシリルジホルムアミドは、それらの離脱基が中性の液体である最も簡単な化合物であるかもしれない。TA反応は次のものを含むだろう:Si(NCOR) → SiOH + HNCOR および SiOH + SiOH → SiOSi 。関連する技術は、Si(NCOR) が容易に加水分解することを示しているようである。アミド基は中性または中性に近いことが知られているであろうから、それは酸エッチングの問題には含まれるべきでない。中性の離脱基の形成を用いると、(アセトキシ基を用いて得られる酸条件とは対照的に)より高いpH条件において縮合反応が進行することができる。
【0020】
離脱基としてアンモニアを含む第二の化学種を考えることができて、それはHMDZに対して類似性を有してもよい。しかし、この新しい化合物はナノグラスまたはシリカと反応するべきであり、それによりジメチル橋かけ基が形成され、これはHMDZからのトリメチルシリルキャッピング基よりも安定しているだろう。これらの新しい化合物としては、(限定するものではないが)ヘキサメチルシクロトリシラザン、ビスジメチルアミノジメチルシランおよびビスジエチルアミノジメチルシランがある。ジアミド化合物はHMDZまたはジアセトキシ化学種とは全く異なる化学種であると認識されるだろう。アミノ化合物は類似する化学種を有するかもしれないが、しかしこれはTAの適用に対してジメチルシリルアミンを保護し、これにおいてジメチル基は、HMDZにおいて見いだされるトリメチル基よりも良好な安定性を有することが見いだされる。
【0021】
多孔質の吸着性SOGのためにキャッピング剤を用いることができる。キャッピング剤は、マイクロクロマトグラフィの用途のために用いられる薄膜の多孔質SOG’sにおいて疎水性を促進するために用いることができる。微量ガス分析器において用いられる薄膜は、多孔質で薄く、そして高度に疎水性であるべきである。吸着材料として通常用いられるSOG’sは、高い親水性を生じさせる未反応のSiOHの官能価を許容するかもしれない。これらの薬剤の使用は、水の妨害に対する吸着特性を不感受性にするほどに十分に疎水性を増大させるべきである。
【0022】
この手法は、ここで言及されている現行の強化剤材料と関係しているとともに、クロマトグラフィの用途のためのナノグラスおよびGX3Pの使用を記述する別の手法と関係しているかもしれず、また、多孔質誘電体のためのシリル強化剤のための新しい離脱基と化学種を記述する手法とも関係しているかもしれない。ここでの類似性はシリケートのSiOH基と反応させるために用いられる類似する化合物の記述におけるものであるが、しかし、この手法は、主として強化(toughening)のためではなく吸着性の向上のために疎水性を増大させるという明示された目的のために用いることができる。付随的な利益は強化フィルムである。
【0023】
この手法は、SiOHを有機官能価でキャップするために、強化剤としても機能するDMDAS、HMDZ、HMCTZ、DMSF、DMSDA、BDMADS、BDEADMS、ジメチルシリルジアセトアミドおよびジメチルシリルジホルムアミドなどの薬剤を用いてもよい。可能性のあるキャッピング剤のリストには、上の化合物のジアルキルシリル誘導体とジアリールシリル誘導体も含んでもよい。特に良好なキャッピング剤は、低い水の感受性を示すことが近年評価されている、トリフルオロプロピルメチルシリルクロリドから誘導されるトリフルオロプロピルメチルシリル基であろう。
【0024】
マイクロGCのための固定相として用いられる疎水性ポリマーは、ポリノルボルネンおよびその他のポリマーをベースとしてもよい。マイクロGCの固定相は、分析物に対して高い親和性をもって作用し、それと同時に、大気中の水分からの妨害性をほとんど有していないか、あるいは全く有していないものであるべきである。この手法は、高い吸着性と低い水の感受性をもって機能するべき、疎水性ポリマーからなる固定相を明らかにする。
【0025】
分子モデル化の研究は、高い疎水性を有する材料はGCの固定相として水分の妨害に対する抵抗性を有し、従って位相化微量ガス分析器においてシリケートよりも良好に機能する、ということを示しているようである。ここで、カーボンナノチューブやGX3Pなどの高度に炭素をベースとする材料は、シリケートタイプの材料と比較して、低い水の妨害性を有する良好なGC基材となるはずである、ということを認識することができる。
【0026】
この手法は、ポリノルボルネン、PDMS、テフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)またはフッ素化ポリオレフィンおよびノボラック樹脂を含めて、良好な固定相となるべき疎水性材料のリストを拡張するかもしれない。ポリノルボルネン(開環のない環状オレフィンによって重合したもの)の表面は、吸着エネルギーが他のものの表面について見いだされるものよりも高く、濃縮器の基材となるであろうという点で、興味深く思われる。このポリマーの密度は他のポリマーよりもずっと小さいと思われ、分析物の化学種の深い浸透を可能にし、吸着を改善するだろう。分析物が物体の内部に置かれるときに見いだされる高い吸着エネルギーは、このことが真実であろうということを示唆する。テフロン(登録商標)とPDMSの表面は、水の吸着の影響に強く抗するようである。極性基も極性の高い種の吸着性に寄与するようであるから、水素結合性水素の欠如によって高度に疎水性である固定相は水の妨害性が低く、そしてその固定相が(水素結合性水素を伴わずに)極性基も有している場合は、極性分析物の吸着性は増大するであろう、と結論づけられるだろう。極性の高いポリマーを用いることによる性能の増大は、大量の極性の高いエーテル結合(これのモデルにおいては、遊離ヒドロキシル基の大部分を結び付けるために高い硬化度(cure)を有していると考えられる)を含有するエポキシノボラックのモデルと同様に、ジフルオロメチル基が大きな双極子モーメントを有しているポリテトラフルオロエチレンのモデルにおいて見いだされるだろう。
【0027】
ここで述べる位相化(PHASED)(検出能を向上させるために位相化(段階化)したヒーター配列の構造)微量ガス分析器のためのフィルムの開発は、その高速性(トータルの分析時間が3秒未満)、感度(1ppb未満)および選択性能を達成するための要点であろう。微量分析器は、一体化した流量、温度および熱伝導度の検出器(TCD)、多段予備濃縮(PC)、およびバルブを用いない注入を採用し、そして(空気)試料ガス以外の余分のキャリヤーガスを用いないSi微細機械加工したガスクロマトグラフィーのチャネルに基礎を置くであろう。オンチップの一体化した20〜50段階のPC、流量センサー、分割化分離器カラム、およびTCDを有する、40、60および100の要素からなる位相化ヒーターの配列が組立てられるかもしれない。手のひらサイズであることや入手容易性という目的を満たしながら、環境、自国での安全性、生物工学および医療診断への適用性に加えて、選択された製造加工現場におけるNeSSI(ニューサンプリング/センサーイニシアチブ)装置の実地試験のための規格化された1.5×1.5インチ・モジュールのSP-76基板との互換性のあるアップグレードバージョンが組立てられ、そしてパッケージ化されるかもしれない。
【0028】
測定結果は、優れた反復性と、20段階の予備濃縮器(pre-concentrator)での脱着のための約8msのTDCピーク幅(すなわち、100/秒を超えるピーク容量)を伴って得られるかもしれず、これは試料/キャリヤーガスの流速と同調し、そして次には注入される熱パルスと同調するかもしれず、そして付加的な検出器として3ms以下のピーク幅、1ms未満のTCD応答時間、および高感度のマイクロ排出デバイスと調和するようにされるだろう。
【0029】
モデル化の努力は、最適な吸収剤、分離器およびポリマーフィルムの材料のモデル化、合成および選択に焦点が当てられるだろう。唯一の沸点Tb と元素組成を有するあらゆる分析物についての誘電率ε(すなわち、分析物そして固定フィルムの極性)、分配定数K、保持係数k’ 、および保持時間tr を見積もるために、解決策が用いられるだろう。Kを見積もるために、沸点Tb にεを付加することは、Tb だけに基づく見積りよりも2〜4倍の低さをもって、不確実さを減少させるだろう。このモデル化の努力は、Kが最大値に達した後にも極性が増大するときに、分配定数と保持時間が低下するなど、分析物の保持性と極性の間の関係に予期せざる新たな洞察を与えるようである。実験上の等温GC(ガスクロマトグラフィー)分離の結果を拡張させるか、あるいはかき跡(scratch)からそのクロマトグラムを描くかのいずれかによって、得られたKとk’ の値およびそれらから見積もられるフィルムの吸着エンタルピーを用いて、分離カラムの制御された温度勾配(temperature ramping)の利益についてシミュレーションが行われ、そして視覚化されるかもしれない。
【0030】
特定のMDL(最小検出限度)を予測してこれを満たし、そしてこの予測が必要となる所定の分析物についてのPCレベルを満たすために、位相化チップを用いて得られる実験データを用いて多段予備濃縮器の第一原理のモデルが確認されるだろう。次いで、一つのレベルについてのPC利得(PC gain)である薄膜タイプの毛管(キャピラリー)PCが、そのフィルム厚さ、その段階の数、吸収温度と排出温度、および注目している分析物の吸着エンタルピー(これは典型的には6〜15kcal/モル、または20〜70kJ/モルの範囲となるだろう)の関数として計算されるだろう。次いで、固定フィルム材料の特性が評価され、これにより少なくとも相対的な予測と評価が可能になるであろう。
【0031】
サイズのいかんにかかわらず、ガスクロマトグラフは、主として吸着エネルギー(これは沸点と関係がある)によって決定されるであろう分離カラムの固定相の上での保持性の差異によってガスの混合物を分離するものであるという意味において、沸点分析計とみなすことができる。従って、異なる沸点を有する化合物は異なる相互作用エネルギーを有し、 異なる長さの時間にわたって保持され、それにより互いに分離されて、個々に分析される。固定相の性質も保持時間tR に影響すると思われ、関係する保持係数k’ =(tR−t0)/t0 であり、分析物についての保持指数iは、
Ii = 100 {log(tRi /tRn) / log(tRn+z /tRn)+n}
ここで、n =nのC原子のアルカン、z =1または2、である。というのは、各々のフィルム材料も吸着エネルギーまたはエンタルピーΔHに影響するからである。k’ とΔHは、log(k’2/k’1) =ΔH / R(1/T2−1/T2) という非常に簡単な関係式によって関係づけられる。これの影響はあまり大きくはなく、約50%未満にしかならないけれども、それは分離手順の一部についての基礎となるであろう。一般に、アルコール、水およびケトンなどの極性化合物は、アルカン、二分子ガスおよび希ガスなどの無極性化合物よりも高い吸着エネルギーを有し、従って保持時間が長いと考えられる。大きな範囲の保持時間とエネルギーを有する固定相は、良好な分離のために望ましいものであろう。良好な予備濃縮(pre-concentration)のためには、高い物質移動速度と貯蔵容量を得るために、高い比表面積も必要であろう。
【0032】
トレードオフ(交換取引)が存在するかもしれない。分析物からなる未知の混合物が極性化合物と無極性化合物の両者を含む場合であって、目下の課題が全ての分析物の溶離と分析のための手順を考案することである場合、選択されるカラムの分離力を、全ての化合物が分離されるほど十分に強くすることを確実にしなければならない。これは、長さが20〜60mで5〜30分の分析時間の毛管カラムを有するデスクトップGCを用いて達成されるだろう。これに加えて、厳しいエネルギー経費の中で、4〜10秒未満で分析を完了させて、そして注目している対象の分析物を1000〜10000倍も予備濃縮する必要がある場合は、もっと高性能で速い分析方法を探究し、考案する必要があるだろう。
【0033】
試料ガス中に存在する1〜3モル%の水蒸気を処理するための解決策が必要であるかもしれない。そのような水蒸気は、多くの吸着位置を占めて、吸着材と分離器のフィルム材料の効率を低下させるだろう。材料の上での保持時間と分離が予測できるのであれば、そのような材料の選択は容易になるだろう。
【0034】
予備濃縮のトレードオフ、すなわち1000〜10000倍のPCを求めるための、加熱 対 加熱と冷却のトレードオフが存在するかもしれず、これには、予備濃縮器の配列の中で必要な数の要素を加熱するだけによってそのような利得を達成するのと、脱着に供するまでに要素を加熱する前に予備濃縮器の配列の中で(より短い時間とより少ない送出エネルギーで多くの吸着を達成するために)もっと少ない数の要素を冷却することによってそのような利得を達成するのとでは、いずれがエネルギー効率が高いかという問題を伴う。もし実現可能であるならば、「加熱のみ」の手法の方がはるかに効率がよいと思われる。というのは、(ペルチエ(Peltier))冷却の手法は、吸収と吸着を行う時間の間に不断の動力の流出(power drain)を必要とするはずだからである。
【0035】
キャリヤーガス(空気、H2またはHe)のトレードオフが存在するかもしれない。流体の複雑さと機械的な複雑さの観点から、キャリヤーガスとしての空気の使用は、小型で独立型のMGAのためには複雑さの最も低いやり方であろう。あるものは現場でのH2またはHeの貯蔵または生成を必要としないはずであり、最適なGC分離のために必要な流量は少なくなり、従ってポンプのサイズと出力は低減するはずである。しかし、TDC、MDDおよびMS検出器のS/Nと感度はH2を用いると高いかもしれず、そして特にMDDとMSについてはHeを用いると高いかもしれない。考慮すべきさらなる観点はソフトなイオン化という考え方であり、これについては以下で述べる。
【0036】
ある中間体のイオンがあるかもしれず、典型的にはH3O+ であるが、これはH+ イオンを注目している分析物に移動させる。これは空気キャリヤーを用いて有利に行われるであろう。というのは、H+ イオンに対するO2 、N2およびArの親和性は大部分の分析物の親和性よりもずっと低いからである。あるいは、試料ガス中の分析物は、それらを強い電界に晒すことによってイオン化される。しかしながら、同定を容易にするために、分析物の破砕を用いるイオン化が望ましいかもしれない。現在においては、小型で高速度の分析微量分析器において用いるためのソフトなイオン化(soft ionization)が考えられる。図3の表は、これらの手法の賛否を要約したものである。
【0037】
幾つかの例において、無極性相であるPDMSと極性相であるPEGの上のn-オクタノール-1についての保持指数の変化は、参照のPDMSの上のn-オクタンよりもすでに30%高いにもかかわらず、I=1038から1545への変化であり、すなわち50%の増大である。図4の表は、幾つかのその他の関連する指数の値を示す。
【0038】
位相化(PHASED)MGA分離の操作と性能に言及することができる。あらゆる分析物または分析物の混合物の位相化分離と溶離を記述してモデル化するために、あるものは物理学と熱力学から始め、分析物と固定相の物理的特性に基づく分離を評価する。位相化された構造的特徴によってなされる分析器の分解能への寄与について考察し、次に、分析物の熱力学的特性と物理的特性が保持時間を予測するのにどの程度役立つかを扱うことができる。
【0039】
位相化(PHASED)分析器の構造は、図5に示すように、連続したカラムを形成する予備濃縮器の要素と分離器の要素の配列からなることができる。図6に示すように、このようなカラムは断面が矩形のものにすることができ、この場合、薄膜ヒーターとそれに対応する薄膜固定相の配列が四つの側壁のうちの一つを占める。これは他の様式のGC構造物とはかなり異なっていて、特に、厚さ0.1〜10μmの固定相または固定フィルムで内径が均一にコーティングされた円形の断面の毛管からなる分離カラムについてのGC構造物とはかなり異なっている。
【0040】
矩形断面のカラムの一つの側面のコーティングと、位相化(PHASED)カラムのコーティングされていない壁面上での不均一な加熱またはそのような加熱が全く無いことに関しての分解能について言及することができる。性能が低下することの危険性を低減することに関しての理論的な解明について、以下で述べられるだろう。
【0041】
一つの項目は、一つの側面上にコーティングを有することである。GCカラムの理論プレート高さと非円形の矩形で部分的にコーティングされたカラムに対する解析についてのゴーレイ(Golay)の式を拡張すると、固定相からなる均一な内部コーティングを有する円形カラムと、全ての壁面がコーティングされた矩形カラムと、一つの壁面がコーティングされた矩形カラムの間の比較を行うことができる。これらの構造の理論プレート高さはそれぞれ1:1.5:2と関係づけられる。コーティングされない壁がプレート高さをあまり大きくは増大させない理由は、流線流の成層の効果をかなり消滅させる急速な半径方向への拡散が寄与するためであろう。ガス相の拡散がない場合、コーティングされない壁の近くでの保持時間tr =t0 は非保持時間t0 のものに相当し、従って、分離が全く起こらず、ある範囲の保持時間からなる非常に広い溶離ピークが生じるだろう。2倍低い位相化単一コーティング壁の分解能についての意義は、同等のサイズの毛管に対して、それよりも大きくはないということであろう。加えてそれは、実験上の証拠によって支持されうる。上の2倍の低下という倍率はもっと小さいかもしれない。
【0042】
不均一な加熱は必ずしも論点ではない。次のことに言及することができる。1)カラム温度が15〜20℃上昇するごとに、溶離時間を約2倍短縮することができる。そして、2)溶離時間に関してk’ = (tr −t0)/t0 と表される溶離係数または容量係数は固定フィルムの厚さに比例するだろう(例えば、厚さを600nmから10nmまたは0.5nmまで減少させるとk’ は60〜1200倍減少するだろう)。温度を変化させる間、(加熱される膜壁に面している)加熱されない壁は、加熱されるフィルムよりも20〜180℃だけ時々低温になるかもしれず、これにより少なくともその時間の一部においてk’ は約2〜1500倍増大するかもしれない。このことにより、加熱されない壁のずっと薄いフィルム(これはシロキサンまたはSiO2をベースとするカラム材料とフィルム材料から残っているSiOHを「キャップ」するための1nm未満の「失活」フィルムだけからなる)のk’ への影響が部分的に埋め合わされるかもしれない。低温壁のフィルムの厚さ(および物質塗布能力)は非常に小さいかもしれないので、全体的な分離の「作業」へのそれの寄与は小さいと思われるが、しかしk’ (低温) ≧0を達成するための助けとなると考えられ、ひいては、理論プレート高さのペナルティ係数を2倍低減することを達成するための助けとなるかもしれない。
【0043】
「単一壁」と「不均一加熱」の両者の効果の量的な価値は、実験的に決定することができる。工業、環境、医療およびホームセキュリティに関する分析物についてのGC保持時間を計算することができる。GCをベースとする分析器は、固定フィルムの温度、明示されるフィルムの厚さ、および小さい、中間または大きな分析物の分子の所望の分離を達成するための材料のタイプを制御する手法を用いて製造することができる。原子組成と沸点だけが既知の一組の分析物のk’ 値を達成し、それにより予測可能な分離を達成するためにフィルムとカラムの形態を調整することは、ガスクロマトグラフィー分析者が実行可能であろう。分析物の特性と溶離時間の間の簡単な関係は、分析物の沸点であろう。下記の手法のうちの一つ以上のものによって、分配(または平衡)定数Kを決定し、そしてそこから、k’ = K/β およびtr = t0 (k’ + 1) という既知の関係を用いてk’ とtr の値を決定することができる。
【0044】
一つの手法は、分析物のk’ 値−フィルムのk’ 値の生成されたデータバンクによる実験的なものであろう。(フィルム厚さの不確実さがあるにもかかわらず)これらのk’ 値は、それらについての特定の値である β=(ガスの容積)/(固定フィルムの容積)についてK = k’・β に変換することができ、ここから、他のカラムの形態についてのk’ 値を得ることができる。
【0045】
もう一つは、吸着エンタルピーΔHの分子モデル化とそれのKに対する ln(K) =ΔH/RT−ΔS/Rという関係によってKを計算することであり、ここで、トルートン(Trouton)の規則によれば、蒸発エントロピーは沸点TbにおいておよそΔS = H/ Tb である。このモデル化の作業についての情報は図7と図8の棒グラフに示すことができ、ここで図7は、文献からの蒸発エンタルピー、様々な温度における実験上の等温GC保持時間、および分子モデル化の間の比較を示す。図7のモデル確認の結果に示すように、モデル化の不確実さは実験データのものよりも少しも大きくないと思われる。
【0046】
分析物の沸点Tb、およびその(液体の)比誘電率εとの相関関係によってKの計算が行われてもよく、これは、これがK=K(Tb)よりも正確なK値になるかもしれないという発見的仮定の下で、その極性すなわちK=K(Tb ,ε)を表すことができる。
【0047】
線形溶媒和エネルギーの関係(LSERs)によってKの計算が行われてもよい。LSERsの展開において、誘電率が用いられたであろうが、しかしそれは、モデル化のためのもっと良好な変数のセットとして、π、α、β、Rおよび log L16の変数のセットと置き換えられた。モル屈折、従ってεをLSERsの分極率パラメーター Rに組み込むことができる。
【0048】
分子モデル化およびK=K(Tb ,ε)という手法について得られる結果に言及することができる。分子モデル化について、計算されるエネルギーは標準のニュートン力の場(CVFF / Accelrys, Inc. からのDiscoverを用いる)を用いて生成されるだろう。力の場は、システムの全体のエネルギーを計算するために、重要な結合力と非結合力のパラメーター表示を含むだろう。
【式1】
【0049】
【0050】
ここで、最初の4つの項はそれぞれ、結合伸縮、結合角、結合の捩れ、および面外移動を表し、5〜9番めの項は共役変形を表し、そして最後の2つの項はファンデルワールス力とクーロン力の寄与に対する非結合相互作用を表す。力の場のニュートン分子モデル化は一般に、これらの寄与の全てを用いる。
【0051】
図7は、凝縮した状態から分子状態になるときのモデル化した全体の内部エネルギー変化から見積もることのできる計算された蒸発のエンタルピーを示し、ここでΔH=ΔE + nRTである。モデルの蒸発エネルギーは文献の値と十分に一致するようであり、従って、計算の確認の方式を与える。しかし、吸着力について固定相を選別することにおいて分子モデルを適用することで検討を行うことができ(図8)、また通常の水の妨害に対する固定相の抵抗性を決定することにおいてもそのような検討を行うことができる。
【0052】
図8は、注目される幾つかの化合物についての相互作用エネルギーまたは吸着(内部)エネルギー、および分析物の試料混合物の中での水蒸気の存在へのそれらの依存性を示す(これらはフィルム表面の水和状態と非水和状態の対比に通じる)。挙げられた固定相フィルム材料の中で、特にDMMPなどの極性分析物について、材料は水の存在へのΔH-依存性の低下を示すようであり、その一方で、比較的大きな吸着エネルギーを維持する。そのような材料としては、有機シリケート、エポキシ-ノボラック、PDMS、黒鉛/炭素ナノチューブ、ポリアダマンチル-アリーレンおよびポリテトラフルオロエチレンがある。図8は、非極性分析物(デカン)と極性分析物(DMMP)の間の吸着性の差異を示し、また極性DMMPの高い水和効果も示している。黒鉛やアリーレン-アセチリドのような高度に疎水性の表面は、水和したときに高いDMMP吸着性を有し、従って、極性分析物を吸着するときの固定相の表面の極性の性質の重要性を示唆している。注目すべき表面は、高い特有の結合双極子モーメント(C-F)を有すると考えられ、そして非常に低い水の妨害性を有するテトラフルオロエチレンである。これらの項目は、固定相の中にある形態の極性が存在していて、しかし水分からの妨害を低減するために低い水素結合能を有することが望ましいであろう、ということを示唆している。これらの所見は、それ自体の分子の表面に吸着する様々な試料分析物についてのモデル化した吸着エネルギーに対して行ったQSAR分析と一致するだろう。双極子モーメント、モル屈折率、原子分極率、溶解度、分子量、密度および水素結合能などの分子性状を変数として用いてもよい。この場合、双極子モーメントによって示される極性は重要な変数であろう(r2 =0.998)。
ΔEads(水和) =
28.4871 + 1.19332・(慣性モーメント) + 4.10169・(双極子の大きさ)
− 5.10113・(双極子のz成分) − 0.108962・(モル屈折率)
【0053】
極性の問題は固定相の設計において重要なことであろう。特に、濃縮または分離がチップスケールのデバイス上で非常に小さな態様をもって比較的短い時間で生じるべきであるということを検討する場合には、重要なことであろう。しかしながら、材料設計による吸着性の変化をモデル化によってもっと量的に説明しうる以上は、デバイスの薄膜構成の活性に有害な影響を与えるかもしれないベースのポリマーは必ずしも用いられないのであるから、表面の機能化をベースの固定相に最良に適合させるという問題に留意すべきである。さらに、適切な表面積を与えるタイプのベース材料で、入手可能なものは限られている。現在のモデルは吸着が重要な性能変数であると仮定しているのであろうから、表面拡散を材料の性能に関連させる必要があるかもしれないというような動力学的な問題についてのモデル化の改良が必要である。
【0054】
K=K(Tb ,ε)という手法について言及する。K=K(Tb ,ε)の相関を引き出す、すなわち「誘導する(train)」ために、PDMSをベースとするカラムを用いるGC測定のために与えられる一組のk’ 値(298Kに規準化されたもの)を用いることができる。図10の表3は、誘導のために用いられた分析物(最初のグループA)および「試験」または「確認」のために用いられた分析物(グループB)を挙げたものであり、これらについてk’ とKのデータを利用することができる。図11は、誘導のセットについての計算と実験によるK値のプロット(黒いひし形と正方形のグループA)および「確認」のセットについての計算と実験によるK値のプロット(ひし形、正方形および逆三角形のグループB)を示し、εのデータがない幾つかの化合物のK値は、それらの沸点と計算された誘電率から見積もることができる。かなり純粋なPDMS固定相(RTX-1およびDB-5)について、誘導された相関K=K(Tb ,ε)は、下記の項目に基づく適合性についての不確実さの低さ(1-シグマ)に関して改善されたと思われる。
1.一つの線形Tb 項、そしてε項なし: グループAの11の化合物について±15.8%、
2.非線形指数を有する一つのTbm・εn 項: グループAの11の化合物について±7.4%、
3.個々のTbm・項とεn 項、m=1: グループAおよびBの16の化合物について±6.6%(2つの孤立値を除外した後)、
4.単一の線形Tb 項プラス2つの非線形ε項とTb・ε項、孤立値の除外なし: グループAおよびBの18の化合物について±3.4%。
【0055】
F-100、PDMS/RTX-1およびそのフッ素化された変形(RTX-200)について誘導された、この最後のタイプの相関を以下に示す。
【式2】
【0056】
【0057】
誘電率が沸点温度に加えられるので、相関の不確実さは約2〜4倍改善されるだろう。PDMSの上で分析され、そして分離されたガスについて、分析物の数が11から18へ増大するにもかかわらず、その改善は±15.8%の標準偏差から3.4%までであろう。F-100の上で分析され、そして分離された13のガスについて、その改善は±4.47%の標準偏差から±2.77%までであろう。
【0058】
図12〜図16は相関をグラフで表示したものである。図12と図13において、K(Tb * ,ε)を計算するために、200、300、...、500°Kからなる湾曲した沸点温度に相当する曲線上で、それらの沸点がTb *= INT((Tb +50)/100)*100 となるように選択し、そしてそれらの真の誘電率εを選択することによって、ポイントを置き換えることができ、これが曲線を描く方法でもある。しかしながら、図14、15および16については、εの値を変化させることなく、実際の相関式からのそれらの相対的な距離が維持されて、それと同時に、示された一定のTb 曲線のうちの一つの方向へその縦座標の値を移動させるようなやり方で、一様な沸点温度(200、300、400°K 、...)からなる一定のTb 曲線の方向へ個々の因子だけによって各々のK値を移動させるK=KmK(Tb* ,ε)/ K(Tb ,ε)をプロットすることによって、プロットされたKは、それらの測定値Kmの変化性の「傾向(flavor)」を維持することができる。測定された値がKm =K(Tb ,ε)である場合は、その一様な温度曲線のうちの一つからの、そのKの目盛りの距離はゼロであろう。この演習を行う理由は、K―Tb ―εの 3-D(三次元)表面をもっと視覚化し、そして 3-Dプロットに頼ることなく、εに含まれた関係とεの役割を理解することである。
【0059】
次いで、3つの固定相であるPDMS、RTX-200およびF-100についてのK対εのプロットにおける一定の沸騰温度曲線を比較し、そしてこれらの曲線が特定の分析物の極性すなわちεの値について最大のK値を示すかに注目し、また、「極性」のより大きい固定相に対する強いε依存性があるか、すなわちK値が最大値になった後のもっと低いεの値においてK値がもっと急速に減少するか、そして非常に大きな極性を呈する分析物がそれらの沸点だけに基づいて見積もられる値よりも低いK値を有するか、そしてこれにより比較的低いk’ 値が示されてもっと短い時間にわたって維持されるか、に注目することができる。
【0060】
もっと多くの分析物を用いて、特に高度に極性の分析物を用いて、これらの傾向と関係が確かめられたならば、極性化合物を分離するがしかし水を多くは保持しない固定相を有するものを把握することができる。高度に極性の分析物とそれらのε値の例としては、ホルムアミド−84、水−79、メタノール−33、およびエタノール−25がある。
【0061】
さらに立ちはだかる他の難題としては、毛管カラムの内部にある固定相フィルムの正確な厚さの決定があるだろう。これは、測定された保持係数または容量係数k’ を分配係数Kに、容積比率β=(ガス相)/(固定相)、およびK=k’・βによって関係付けることである。これを解決するために、固定相を堆積する前と後での毛管の微少な重量増加に基づく重量測定の手法の実行可能性を探求することができる。次いで、固定相の密度を用いてその固定相の容積および(均一であると仮定される)フィルム厚さに到達し、そしてゼロ保持時間t0 の正確な決定を行う。これは従来のFID検出器を用いてはしばしば困難であるが、しかし位相化構造(PHASED)に含まれるTCD検出器またはMDD検出器を用いると困難ではなく、それは非有機物ガスにも対応できる。
【0062】
分析物の極性すなわち誘電率εの評価に注目することができる。(分析物と固定相の間の)分配係数Kの評価を支援しそして補完するために、ε値を知ることが有利であることが示され、分析物の液体状態での分析物の比誘電率εを見積もるための思考プロセスを示すことができるが、そのような状態とは、ガスクロマトグラフィーカラムの固定相フィルム上での分析物の溶媒和または吸着と関係する状態であろう。このことは、依然として、Kに及ぼす固定相のεの仮定の影響を、分析すべき未解決のことにしておくかもしれない。
【0063】
分子の極性、モル屈折率および誘電率の間の関係は、古典的な光学についてのローレンツ-ローレンスの式を論じるものであろう。この式は、平均の分極率α、モル屈折率A、および誘電率εに関するもので、このとき、α・4・π・N/3≡A=(ε−1)/(ε+2)であり、ここでN=6.02・10−23 である1モル当りの分子のアボガドロ数である。ε=n2 というマックスウェルの関係はεが周波数依存性であることを意味し、このことは物質すなわち分析物の1モルの総分極率であるモル屈折率Aについても同様であり、従って、そのガス圧力あるいはそのガスまたは液体の状態から完全に独立しているだろう。Kを予測する部分においてAは物質定数であり、これはその原子成分Ai の関数であってそれらから予測可能であり、このことはO2 、HCl、H2O、CS2 およびアセトンについて示されるだろう。εを明確に得るために、上の式を ε=(1+2・A)/(1−A)と書き換えることができるが、しかしこれはAの値がA ?1に限定されることを意味する。というのは、A >1の値はεを負の値にするであろうからである。
【0064】
ポリマーフィルム材料の上での分析物の吸着または溶解は高い(光周波数)誘電率すなわち分極率によってはあまり影響を受けず、むしろDCすなわちεの低周波数の値による影響を受けるであろうから、一組の既知のε値に対して新しい低周波数のA値を適合させることができ、ここから、関係する原子種の寄与を伴う回帰分析によって注目している分析物について必要なAi を引き出すことができる。
【0065】
従って、H、C、O、Cl、S、NおよびPのそれぞれを表すためにi=1〜7を選択し、そしてHC、OH、HClおよびHPのグループの寄与をさらに表すためにi=11まで発見的に拡張し、そして最初の7つの原子の寄与について非線形指数を与えることによって回帰を最適化することができる。これにより、1-シグマの回帰の不確実さは約±13%から5.4%まで狭くなるようである。図17は、文献によるεの値とこのようにして計算されたεの値との間の得られた相関をグラフで表したものである。黒い色(小さなひし形または正方形)のポイントは相関を引き出すために用いられたデータのセットを表し、一方、薄い緑色(大きな正方形)のポイントはその相関を確認するために用いられたεのデータを表す。三角形は計算された値すなわち見積りの値だけを表す。というのは、測定されるε値は、それらの化合物については容易に得られないようだからである。
【0066】
パラメーター分析は実験のGCデータに基づくであろう。8つの化合物(ドデカン、オクタノール、トルエン、ヘキサン、DMMP、DEMP、DEEPおよびDCH)からなる分析混合物を分析し、そして分離することができ、これは図18の複合物において示される。これらは、1.5mの長さと100μmの内径を有する毛管と、非常に薄い中間の極性を有する固定相(F-100)および平均的な速度でのH2キャリヤーガスを用いて得られた、100、110および125℃における等温試験である。
【0067】
同様の毛管に基づく分離のパラメーター分析と位相化チップにおいて得られるチャネル形態のパラメーター分析(それ自体の形態によって表されるもの)について実験のクロマトグラムに埋め込まれた情報を利用することができる。(仮定された周囲条件において)8.96mL/分のH2ガスキャリヤー流量を用いる110℃における8つの成分の試験の保持時間tr からt0 とk’ を決定することができ、それによって毛管の温度勾配の利益をシミュレーションし(これは高速クロマトグラフィの設定において実験で得ることはできないだろう)、次いで、これらの項目を位相化構造(PHASED)の予測性能に直すことができる。
【0068】
t0 とk’ の決定があるだろう。そのような決定に言及する前に、GCデータの分析の幾つかの面に言及することができる。
ln(k’) 対沸点Tb をプロットし(DEMPとDCHについてのTb はここでは利用できない)、そしてt0(ゼロ保持時間)を変えることによって直線を得ることを試みることによって、t0 =227msを伴うデータに最も適合するものを引き出すことができ、それについてのプロットを図19に示す(しばしば突出する離れた点はDMMPについてのものである)。また、流れとGCの条件については、ドデカンについてk’ =1.696、カラムの入口において26.26psid、そしてH2 の平均のガス速度について5.55m/sであり、この結果は、周囲条件において2mL/分のH2ガスの流れとなり、そして8.96mL/分の実験値よりもずっと小さいと思われる。
【0069】
8.96mL/分からt0 を計算して、速度とt0 に及ぼす温度の影響を修正することによって、t0 =60.4msと図20を得ることができる(ここで、離れた点はヘキサンとトルエンについてのものである)。また、流れとGCの条件については、ドデカンについてk’ =9.21、117.6psidとなり(温度の上昇に対して粘度を補正しない。これは約20%の追加の増加を生じさせる)、そしてH2 の平均のガス速度について24.85m/sとなる。
【0070】
これらの手順について、k’ 対Tb のプロットの上の上方の4つのポイントを補正した110℃におけるk’ のラインの勾配は、分析物のもっと大きな一組の上で平均したラインの勾配と等しくなるが、それは同じ設定を用いて分析することができ、その結果を図21にプロットする。図21aはF-100についてのk値の計算値と測定値の比較を示す。
【0071】
これらの結果を調和させるために、圧力の影響について点検することができる。というのは、毛管の流れにはかなりの圧力降下を伴うからである。圧力は入口から出口にかけて降下するので、層流が促進されるであろうが、しかしそれは同様にして分析物の保持時間に影響する。すなわち、上のケースについての圧力降下の範囲にわたる一次平均は、約59psigの平均のキャリヤーガス圧力および24.85m/sから(59+14.5)/14.5=5.06(倍)の時間平均された倍率で圧縮されたガスの速度まで低下した平均の流速に相当し、これは維持されない速度である500cm/sを導き、そしてその結果はt0 =150/500=0.3s となり、これは60msよりも227msに近いようである。要約すると、毛管の分離プロセスのシミュレーション、59psigの平均のキャリヤーガス圧力、および周囲圧力における値に対するH2 ガスの拡散率について関連する74/14.5すなわち約5倍の低下について、t0 =227msを選択することができる。
【0072】
上のことを参考データとして用いることによって、この位相化(PHASED)チップが、正方形の断面を有する最大で25cmの長さの「カラム」またはチャネルであって、そしてそれの4つの壁のうちの一つだけの上で(制御された温度勾配にするために)固定相とヒーターの組み合わせを有するものを用いることが可能かを知るために、位相化分離の性能を評価することができる。この結果は、円形で均一にコーティングされた毛管と比較して2倍の性能劣化となるかもしれず、このことは分解能* R* の損失に関係するピーク半値幅w が広くなることによって表される。この劣化は、位相化チャネルの操作をその最適な速度に近づけることによって一部が埋め合わせされ、このときその最適な速度というのは理論プレート高さ対キャリヤーガス速度についてのゴーレイの式における最小値に相当し、その結果、ここで言及しているように、k’ 値に依存する1〜1.38の間の追加の劣化倍率になる。分解能はR* =tr /w = (L/(H・5.54))0.5 として定義することができる(すなわち、分光分析においては高いλ/Δλを達成するのが望ましいので、高い分解能が望ましい)。ここで、Lはカラムの長さであり、Hは理論プレートの高さである。
【0073】
カラムの長さが6倍減少すると、それだけで、Hが一定の場合は、分解能* すなわちそれに対応するピーク幅の増大は60.5 =2.45倍の減少となるだろう。しかし、k’ 値の範囲について、キャリヤーガスの特性(拡散率と速度)の追加的な影響を考慮に入れるべきである。k’ =0.1として、加圧されたH2 を用いる毛管と空気/N2 キャリヤーガスを用いる位相化構造(PHASED)を比較すると、ゴーレイの式によって、L=25cmの位相化正方形断面のチャネル、100μmの平衡液圧ID、および〜0.1μmのフィルム厚さについて、174cm/sの最適なN2 速度と15.5の分解能* が得られるだろう。59+15=74psiaの平均のH2 ガス圧力、D=5×D0 のH2 拡散率、および同じく〜0.1μmのフィルム厚さを有するL=150の毛管について、38の分解能を伴って93.34cm/sの最適速度が得られるだろう。しかし、分析速度の目標を満足するための5.55〜6m/sの設定平均速度においては、21.6の分解能* だけを用いることができる。
【0074】
従って、k’ =0.1について、位相化分解能* は用いられる毛管のものよりも2倍の倍率で低く(一つの壁対 円形チャネル)、分解能の比率21/15.5=1.39を乗じると、およそ2×1.39=2.8(倍)のトータルの損失となるだろう。k’ =10として、加圧されたH2 を用いる毛管と空気/N2 キャリヤーガスを用いる位相化構造(PHASED)を比較すると、L=25cmの位相化正方形断面のチャネル、100μmの平衡液圧ID、および約0.1μmのフィルム厚さについて、67.2cm/sの最適なN2 速度と9.5の分解能*が得られる。k’ =1についてではなくk’ =0.1について、速度がv(最適) =98cm/sで最適化される場合は、それの7.8だけが用いられるだろう。
【0075】
59+15=74psiaの平均のH2 ガス圧力、D=5×D0 のH2 拡散率、および同じく〜0.1μmのフィルム厚さを有するL=150の毛管について、23.4の分解能を伴って35.9cm/sの最適速度が得られるだろう。しかし、555cm/sの設定平均速度においては、8.4の分解能* だけを用いることができる。従って、k’ =10について、位相化分解能* は毛管のものよりも2倍の倍率で低く(一つの壁対 円形チャネル)、分解能の比率(この場合、ほぼ1であろう)を乗じると、およそ2倍のトータルの損失となるだろう。
【0076】
この2倍低い分解能を有するシミュレーションされたガスクロマトグラムを、各々の半ピークの幅(仮定のガウス分布)を2倍大きくすることによって、図22にプロットすることができる(下から1番めの曲線)。それはガス分析物からなる同じ4/4混合物の位相化分離を表すかもしれないが、しかしこれはL=25cm、100μmの正方形のチャネル、vが〜70cm/sを有し、一つの壁だけがコーティングされたものによって、110℃において行われた等温実験によるものである。示されているように、図22における2番めの毛管の曲線と比較しての劣化は顕著であるとは思われるが、しかし大きなものではない。さらなる実験結果は、図23と図24に示すことができる。
【0077】
図23は、空気中に720ppmのヘキサンを含む試料の50nLをN2 キャリヤーガスの中に注入するときにその約80msの注入パルスを分離することによって得られた質量トレースを示し、一つの側に0.6μmのNGEをコーティングした42cmの長さのマイクロチャネルを有する位相化チップの中に流入させる前に、検出器としてLeco ToFMSを用いて行ったものである。シャープなO2 ピークはt0 時間に近接しているはずである。ヘキサンのピークS/Nは約40ppmのMS MDLを示すだろう(1のゼロ-トゥ-ピークS/Nについて)。
【0078】
図24は、2つの異なるPDMSフィルムを用いたアルカンの分離の比較を示し、一方はフェノールでドーピングしたフィルム(DB-5)、他方はシリルアリーレンでドーピングしたフィルム(F-100)についてのものである。それらの約5倍異なる厚さが溶離時間の大きな差異を生じさせるが、しかしそれらの化学種の違いが異なる保持率の原因であると考えられる。
【0079】
カラムの温度勾配(temperature ramping)に言及することができる。図18に示されるクロマトグラムを構築すると、温度勾配とカラム形態の変化の利益を予測することができる。実際には、等温クロマトグラム(110℃、薄い極性固定相の上で分離された8つの成分)をデジタル化し、次いで、k’ への温度の影響すなわちtr =t0・(k’ +1) に従って時間のスケールを移動させる。図18におけるk’ 対Tのデータから、ヘキサンからドデカンまでの化合物についてk’ の温度依存性を引き出し、そしてΔT=17〜26℃の傾斜した温度変化を採用することによってk’ を2倍の倍率で変えることができることに注目する。2(ΔT/18) の簡単な係数を用い、そして様々なT傾斜関数を試みることにより、図22における計算されたクロマトグラムが得られるだろう。それの最も下のものは、図18の110℃のクロマトグラムよりも2倍低い分解能* を有するシミュレーションされた位相化構造(PHASED)に相当するだろう。図22における全てのトレースの上で、ヘキサンとトルエンについてのFID信号を、明快にする目的で、それらの実験値の25%までデジタルで低下させることができる。最も下のトレース(No.1)を除いて、他の全て
の示されたトレースは1.5-mの毛管に基づく結果を示すだろう。下から引き上げることにより、No.2のトレースは図18の最初の110℃等温(温度勾配のない)クロマトグラムとなるだろう。トレースNo.3はシミュレーションされた125℃等温クロマトグラムを示し、図18の中間の測定されたものに良く類似し、全てのk’ を約2倍小さくし、そして熱膨張によって生じる高い流速を算入したものである。トレースNo.4は、k’ を変えることなく、200℃/秒の温度勾配の熱膨張の影響を考慮したものである。
【0080】
トレースNo.5は、t0 の後にその開始を〜200ms遅らせた後に温度勾配率を50℃/秒にしたことで得られた、シミュレーションされたクロマトグラムである。トレースNo.6はトレースNo.5に類似しているようであるが、2倍大きい勾配率(100℃/s)を用いたものであり、過度に高い勾配率は異なる化合物の保持時間を互いに近すぎるものにすることによって有害であることを示している。どちらかといえば、勾配率を注意深く選択することによって分解能とピーク容量が最適化されるだろう。
【0081】
わずか50〜100℃/sの勾配率を用いる位相化(PHASED)の操作によるこれらの測定とシミュレーションは、最初の400ms以内に実験のクロマトグラムから8つのピークを抽出することができ、そして(t0 を含む)1秒以内に50以上のピークを抽出することができることを示している。
【0082】
予備濃縮のモデル化は、最初の原理からの多段階のPCモデルを含み、そして実験データと比較されるべきであろう。そのようなデータは位相化(PHASED)チップPCヒーターの配列からなる20の要素を用いて得ることができ、このとき、これら20のものは720ppmのヘキサンを含む空気の一定の流れに晒され、次いで、それぞれが6msの位相化された個々の脱着パルスを受けるだろう。このようにして、全ての要素から脱着されたヘキサンは注入パルスに寄与し、これが図25に示すTCDとToFMSのトレースに導くことができる。
【0083】
脱着パルスの長さが20msから6msに減少し、そして脱着ピークの温度が約135℃から〜165℃に増大するのに伴って、すなわち最適な条件に近づくのに伴って、ヘキサンについての平衡(すなわち、ピークが位相化チップから質量分析計へ移動するときの拡散の拡張を含むトータルのピークの拡張について補正された平衡)のPC利得を34倍から約62倍へ増大させることが可能であろう。これは、依然として最適に及ばない試料流れ(約110cm/sではなく約60cm/s)と幾分かの残りの電気的かつ流体的な漏れが存在しているにもかかわらず、可能である。720ppmのヘキサンの供給源を、その便利さ故に使い続けることができる(毒性がないことと、その高い蒸気圧のために凝縮の危険性がほとんどないこと、もっとも、その高い揮発性はPC条件を作ることを困難にするかもしれない)。上記の固定相フィルムは0.6μmのNGEであってもよく、これは位相化構造(PHASED)からなる4インチのヒーターウエーハの上に回転塗布されたものである。
【0084】
モデル化と実験の利得(gain)は、蒸気圧の低い分析物についてのそれらの既知の分配係数(K値)による利得に直すことができる。利用できる実験条件について、上記のPC利得のデータは計算結果と一致し、次にこの結果から、より高い試料流れとより大きな吸着温度においてより大きな吸着エネルギーを有する分析物を用いて達成可能な10000倍以上の利得まで、高い信頼性をもって外挿法によって推定することができる。このことは図26、27、28および23に示されていて、これらは、全ての図における独立変数(有効なPC段階の数(図26)、分析物の吸着熱(図27)、および吸着温度(図28))として、(全ての分析物を脱着させるための)脱着温度に対する感度を明らかにしている。
【0085】
モデル化の結果は図25の実験データと良く類似していると思われる。ヘキサンのピーク高さは720ppmの基準線のMS(飛行時間型質量分析計)のトレースよりも約5.2倍高いが、しかし分離器を通ってそれを越えてMSまで移動する間の最適に及ばない流れと拡散のために、そのピークは、分離の開始時における最適な約7〜8msのピーク幅よりも約12倍広くなるようである。三角形のピークを想定した場合、その高さは720ppmの基準線よりもおよそ5.2・12=63倍高いだろう。
【0086】
20のPC段階、20℃の吸着温度、165℃の脱着温度、(文献による)28.85kJ/モル〜20.42kJ/モル(6.89〜4.87kcal/モル)のヘキサンの蒸発または脱着のエンタルピーΔH、およびDB-5[5] を用いたGC実験の結果、という条件について、ヘキサンについての計算されたPC利得は、125倍と4倍の間のPC利得値となるだろう。このことと63倍という認められた実験値との間の差異は、モデルの不確実さだけを原因とすべきではなく、ΔHの変化性も原因としていて、このΔHは、「未処理の」NANOGLASS(登録商標)については、蒸発エンタルピーΔHv についての文献値よりも約12倍高い測定値となるが、しかし、図9と関連させて認められるように、DB-5については文献値ΔHv よりも約1.2〜1.7倍低い測定値となるだろう。200℃への脱着温度の増大と50へのPC段階の数の増大とともに、この要因を考慮に入れた場合、NGEについての計算されたPC利得は約3700倍以上となるだろう。この利得は、図26、27および28に示されたものにおいて用いられた0.6μmよりも大きな厚さのフィルムに対してももっと高く、また図7、8、9および11において範囲が示されているような大きな吸着エンタルピーとK値を示すフィルム−分析物の組み合わせに対しても、もっと高いだろう。
【0087】
ポリマーセンサーの応答性の評価を行うことができる。ポリマーの固定相薄膜は、分析物の予備濃縮と分離以外に、GCにおいて第三の機能すなわち検出を実行するだろう。そのようなポリマーフィルムによる分析物の検出は、フィルムの電気抵抗、キャパシタンスまたは応力の変化に基づくであろう。キャパシタンスに基づく検出器は、ここでの示差型TCDおよびその他のものの他に、位相化構造(PHASED)において用いることができ、これはそれらの製造上の互換性によるものである。
【0088】
新しい分析物を用いる検出器の性能の評価は、分析物の存在または不存在を検出することだけが目的であるとしても、工業、医療、環境またはホームセキュリティの分野での分析器の応用における挑戦であろう。しかし、多くの適用において、この検出は低い失敗率を伴って、そして特に低い割合の虚偽の警報または偽陽性の失敗を伴って、達成される必要があるだろう。この必要性を満たすために、異なる物理的感知現象に基づく幾つかの多様な検出器を組合わせることができる。これらの検出器はそれぞれ、それ自体の弱点または「盲点」を有するかもしれない。例えば、バックグラウンドまたはキャリヤーガスの熱伝導度に近い熱伝導度を有する分析物を感知するための熱伝導度検出器、水素炎の中でイオンを発生しない分析物を感知するためのフレームイオン化検出器、あるいはポリマーフィルム自体と比較してキャリヤーガスのものに近い誘電率またはその他の特性を有する分析物のための容量性ポリマー感知器である。
【0089】
ポリマーの検出体フィルムが分析物に晒されると、分析物のガス相の濃度はフィルム中で平衡濃度に達し、これが同種のものの平衡係数または分配係数K(これは保持時間の予測に関連して言及される)によって定量化される。他のものは、分析物の蒸気圧に対する臭気物質または分析物のこの分配係数と関連があり、幾つかの分析物に対するそのようなポリマーフィルムの低いppmでの感度がキャパシタンスの測定によって達成されうることが示されている。測定されたK値または計算されたK値に基づいてそのような感度を予測することが求められるかもしれない。移動と拡散の影響を無視できるものとし、その一方で、Kによって決定される、フィルムの膨張と関連するか否かという平衡現象にもっぱら焦点を当てることが可能であるほど十分にフィルムが薄いことが想定されるかもしれない。幾つかのタイプのポリマーについてのKのデータの情報源を利用することができ、これはSAW(弾性表面波)検出器の性能の特徴づけと関連するだろう。
【0090】
容量性感知器の応答性を計算するために、絶縁性で低誘電率の基板の上に配置された互いにかみ合った一対の電極と、この上に置かれた感知性フィルムを考えることができる。所望のミリ秒の応答時間を達成するために、高速ガスクロマトグラフィー装置とともに用いれるもののような、マイクロメートル以下のフィルム厚さを用いることができる。次いで、フィルム自体(film-host)とキャリヤーガスまたは吸着され溶媒和された分析物の誘電率の間の合成の誘電率の変化に基づいて、検出器の信号が測定され、そして計算される。
【0091】
沸点Tb と元素組成だけがわかっている全ての分析物について、液体の誘電率ε(すなわち分析物または固定フィルムの極性)、分配係数K、保持係数k’ 、および保持時間tr を見積もるための手法を引き出すことができる。沸点Tb は分析物のk’ とKのおおよその予測値のための主要な根拠を与え、一方、分析物の元素組成はそれらの極性である(低周波)誘電率εの粗い見積りを可能とし、このことはK値の見積りの不確実さをTb だけに基づく見積りよりも2〜4倍低くするだろう。このモデル化の努力は、Tb は等しいがしかしεが増大する仮想の分析物のKと極性の間の関係に予期せざる洞察を与え、これにより、Kが最大値に達する点を超えてそれらの極性が増大するときの低下したK値と保持時間が示されるだろう。
【0092】
実験上の等温GC分離の結果を拡張させるか、あるいはかき跡(scratch)からそのクロマトグラムを描くかのいずれかによって、得られたKとk’ の値およびそれらから見積もられるフィルムの吸着エンタルピーを用いて、分離カラムの制御された温度勾配の利益についてシミュレーションが行われ、そして視覚化されることができる。このことにより、いかにして所定の範囲の分析物についての特定のピーク容量と分離時間を満たし、そして超えるかを予測することが可能になるだろう。
【0093】
特定のMDL(最小検出限度)を予測してこれを満たし、そして所定の分析物についてのこの予測されたPC利得を満たすために、位相化チップを用いて得られる実験データを用いて多段PCの第一原理のモデルが確認されるだろう。このモデルは、その段階の数、吸収温度と排出温度(300℃以下)、および注目している分析物の吸着または溶媒和エンタルピー(これは典型的には6〜15kcal/モル、すなわち20〜70kJ/モルの範囲となるだろう)の関数としての、1レベルのPCを用いる予備濃縮の利得を達成することについての成績と限界を量的に予測することを可能にするであろう。
【0094】
1秒以内の分析時間で20を超えるピーク容量を達成するために、特に温度勾配がある場合にこれを達成するために、入手できる位相化チップであって25cm以下の長さの分離チャネルを有するものの計算された分離性能に直すことのできる実験データがあるだろう。
【0095】
GC検出器としてのポリマーガス感知器の性能を評価するために、K値とε値を用いることができる。このことと、Kに及ぼす固定相のεの影響、および水蒸気に晒した後とフォトレジストでパターン化した後の超過時間にわたって固定相フィルムの安定性に及ぼす固定相のεの影響の決定を、微量分析測定のための固定相フィルムを評価するために用いることができる。
【0096】
高い比表面積を有する様々な種類のものや、ウエーハの上や毛管の中にコーティングされるナノポーラス有機シリケートフィルム(スピンオンガラス(SOG))など、進歩したフィルム材料を適用することができる。
【0097】
MEMS GC固定相の上での分析物の吸着の分子モデル化を行うことができる。将来のマイクロ電子機械装置(MEMS)、ナノ電子機械装置(NEMS)、およびマイクロ光学電子機械装置(MOEMS)は、それらの性能を予測し、またこれらの装置を信頼性を伴って製造するために、境界面の影響を明確に理解する必要があるだろう。分子モデル化は、実行がなされる間の原子機構をモデル化することによって境界面の臨界的な作用をシミュレーションし、そして理解するための手段となるであろう。
【0098】
分子モデル化は、例えば、ガスクロマトグラフにおける固定相のための材料の相対的な性能を用いるMEMSデバイスにおいて用いられる材料を改良するために用いることができる。この比較は、分析物と固定相の間で得られる相互作用エンタルピーおよび分子の動力学を用いることによる表面分離のシミュレーションを用いることに基づくものであろう。分離性能は実験のGCデータと比較され、それにより、分離の定性的な比較が分子スケールで提示されうることが示され、そして分子モデル化は比活性に関して固定相を予め選択するための有用な手段であることが確認されるだろう。
【0099】
MEMS分析器は、3秒以内の予備濃縮、分離および検出、1ppb未満の感度、および200cm3 未満の総パッケージサイズという究極の目的を有する小型のガスクロマトグラフ(GC)であろう。分析物の有効な捕捉と分離は、加熱されうる吸着-脱着マイクロエレメントの配列を利用することができる(このことが、検出が改善されるための位相化されたヒーターの配列構造についての「位相化(PHASED)」という名称に通じる)。予備濃縮、分離、検出、および流れと温度の感知機能は一つのチップの上で統合されうる。この微量分析器は、工業における化学プロセスの制御、環境のモニター監視、警備および医療診断などへ適用されるものと想定される。MEMS分析器(例えば、位相化(PHASED)システム)の概略を図5に示す。チャネル32の中の固定相吸着(Ads)層40の断面を図6に示す。
【0100】
分析器の基本的な機能のために必要となる重要な材料は、予備濃縮器、分離器、さらにはCID(化学インピーダンス検出器)などの幾つかのタイプの検出器における固定相フィルムであろう。この固定相について可能性のある構造上の欠陥の態様としては離層とフィルムの割れがあるであろうが、しかし、所望の性能を達成するために理解する必要のある重要な操作上のパラメーターは、吸着速度、フィルムの容量、化学的動力学および分析物の透過性を含む分析物の吸着の熱力学であろう。このとき、予備濃縮とGC分離の性能はこれらの自然の帰結となるだろう。
【0101】
各々の個々の分析物についての吸着または脱着のエンタルピーを量的に理解することは設計と分析器の性能の予測のために重要であると思われるので、MEMS分析器の最終的な応答性を予測するためには、乾燥条件と湿潤条件の下で考えられる分析物についての吸着表面または分離表面の熱力学的応答性をシミュレーションするために分子モデル化が用いられるだろう。
【0102】
ガスクロマトグラフィーにおける固定相の作用の概念はゴーレイ(Golay)の式(式1)によって表すことができる。ここで、H=理論プレート高さ;Dm =移動相中での分析物の拡散率;v=平均の移動相の速度;k’ =保持係数;r=カラムの半径;Ds =固定相中での分析物の拡散率;およびdf =固定相の厚さ、である。
【式3】
【0103】
【0104】
理論プレートは固定相とGCカラムの効率を決定するであろう。そしてこれは通常、カラムの長さを理論プレートの数で割ったものとして定義され、ここで、カラムの中の理論プレートの総数は、保持距離とピーク幅によって定義づけられる[n=4×(保持距離/ピーク幅)2 ]。理論プレート高さは、別個のGCピークを分離するカラムの平均の長さを記述するであろうから、カラムのサイズを小さくするためには、理論プレート高さを最小にするべきである。この見地はMEMS GCデバイスについて重要であると思われ、このデバイスはチップサイズの構造上での性能に適応させるために効率の最も高い固定相を有するべきである。
【0105】
ゴーレイの式において、固定相によって最も影響を受けると考えられる項はk’(これは移動相の容量に対する保持容量の比率であり、クロマトグラムの保持時間から測定することができるだろう)である。というのは、この比率は平衡定数Kと関係するからであり、ここでk’ =Kβであり、ここでβは2つの相の容積比(固定相/移動相)である。平衡定数すなわち分配係数Kは、固定相/移動相における分析物の濃縮比を表すだろう。Kとk’ は分子モデル化によって決定されるだろう。
【0106】
k’ 以外に、固定相に関係する他の項に注目すると、固定相の厚さ(df)と固定相中での溶質の拡散率(Ds)を考察することができる。固定相の厚さが低下すると、理論プレート高さが低下することによって分離が改善されるだろう。しかし、このことは、固定相がどのように機能しているかということに洞察を与えるだろう。というのは、厚さの限界においては、理論プレートの改善は容積効果よりもむしろ表面によるものであると示唆されるようだからである。
【0107】
一般的な拡散率の理論を考察するとき、Dは次のように定義することができる:
【式4】
【0108】
【0109】
ここで、dは移動を受ける要素の距離であり、固体中ではそれは格子の距離であり、そしてkT/h は度数(frequency)の次元を有するだろう。固定相とゴーレイの式に適用されるとき、この関係は、Hを最小にするためには、より大きな要素の距離が必要であるということを示唆する。要素の距離が大きいということは密度が小さい(あるいは通路dが大きい)ことを意味するので、この解釈は、密度が極めて小さい材料においては通路の屈曲が多いことによってdが増大し、そしてゴーレイの式の拡散率の部分によってHが小さく維持されることに役立つはずである、ということを示唆する。従って、ゴーレイの式から、材料の吸着性と分析物が通る通路との間に相互作用があるだろう。分子モデルによって吸着性を検討することができる。そのことは、ゴーレイの式の熱力学的な項に通じ、また表面の特性を扱う表面の動力学の特質にも通じるかもしれない。通路の長さの特質を扱うために、より大きなモデルの検討も開始されるかもしれないが、しかしこれは、分析物の分子の通路の全体を含むとは思われない。というのは、これらのタイプのモデルのサイズは通常、考察するには大きすぎるからである。このモデル化の共通性のための分子モデルへの自明の拡張は、不連続な元素のモデルを使用することであり、これは分子の規模によってパラメーター化される。
【0110】
有効な吸着表面のために用いるべき最良の材料を評価し、採用し、そして格付けするために、k’ の最初の表現としての吸着エンタルピーと自由エネルギーを予測するための手法を探すことができる。分子の機構と動力学的なモデル化の結果を探すために、CVFFの力の場(不変結合価の力の場)を用いるアクセルリスソフトウェアディスカバー(Accelrys software Discover)を用いることができる。
【0111】
ゴーレイの式の熱力学的な部分を検討するために、最初に蒸発または凝縮のエンタルピーが計算され、次いで、モデルを確認するために関連する文献値との比較が行われる。蒸発エネルギーを基準に照らして評価するために、対象とする集団(mass)は、ランダムに生成させた分析物のセルからなり、これは50以下の分子の分析物を含むだろう。分離された種との差異を、蒸発エネルギーとして用いることができる。エンタルピーを見積もるために、RTを用いて温度の調整が行われる。これらの項目は図29に示され(ここで、 DMMP=ジメチルメチルホスホネート、DEEP=ジエチルエチルホスホネート)、そして関連する文献値との比較が行われ、またGCデータを用いて測定された蒸発エネルギーとの比較も行われる。エンタルピーの計算値は関連する文献値と比較して一貫して小さいが、しかしこの傾向はおそらく有用な比較を示しているようであることが、モデルによる結果が示しているように思われる。
【0112】
吸着エンタルピーを生成させるために、統一のない集団を用いて対象とする表面の集団を生成させ、そしてこの表面の上で特定の分析物のエネルギーが最小にされるだろう。分離された種との差異を、吸着エネルギーとして用いることができる。k’ の最初の近似値として吸着エンタルピー(ΔH)を見積もるために、RTの調整を行うことができる。様々な分析物についての乾燥条件と湿潤条件の両者について、モデルを生成させることができる。好ましいフィルム材料は、吸着エンタルピーが水蒸気の存在によってほとんど影響を受けず、また注目している分析物のできるだけ多くのものについて明確なエンタルピー値を示すものであると考えられる。特筆される固定相の例を図30に示す。これは、DMMP(ジメチルメチルホスホネート)などの高度に極性の分析物は固定相が水和した状態に対していかに感度が高いかを示している。
【0113】
一般に、GC分離は沸点(BP)の傾向に従うので、吸着自由エネルギーと沸点にも言及することができる。これを行うために、トルートン(Trouton)の規則(BPにおいてS = H/ RT)のエントロピー効果を算入することによって吸着の自由エネルギーを見積もることにより、平衡定数Kのより近い見積り(従って、k’ のより近い見積り)を得ることができる。これらはエンタルピーに対する小さな修正であって、エネルギーの傾向は概ね依然として変わらないと考えられ、自由エネルギーとKの間で良好な理論的なつながりがあるので、それらを算入することができる。
【0114】
自由エネルギーの傾向を沸点とともに図31〜33に示す。図31と図32はモデル化された傾向を示し、ここでモデル化された分析物はジメチルメチルホスホネート、ジエチルエチルホスホネート、ジエチルメチルホスホネート、ヘキサンおよびデカンである。図33は測定されたエンタルピーを用いた場合の傾向を示し、測定された吸着エンタルピーに伴って沸点が直線状になる傾向を示している。図31と図32の比較は、沸点とともに予想される吸着エネルギーの傾向は水和によっても攪乱されることを示している。
【0115】
図12は、関連する文献値およびGC分析から生成された実験値と比較した蒸発のモデル化の基準を示す。図13は、様々な極性の固定相について高度に無極性の分析物と高度に極性の分析物のエンタルピーを比較したものである。
【0116】
特定の構造の影響についての一つの見地を図34に示す。これにおいては、シリケートのモデルがシラノール(有機シリケートOH)の含有量について調整され、そして吸着の自由エネルギーが比較される。水和した表面に結合したシラノールの含有量があるとき、DMMPについて吸着のかなりの損失があるようである。しかし一般に、水和に伴う傾向およびシラノールの含有量に伴う傾向は、予測できる性能を維持するためにはシリケートの条件が非常に重要であることを示唆していることにおいて一致しているとは思われない。
【0117】
図14は、固定相の非水和状態について、吸着エネルギーについての沸点の傾向を示す。図15は、様々な固定相の水和状態について、吸着エネルギーについての沸点の傾向を示す。図16は、沸点に伴う実験の吸着エンタルピーの傾向を示す。図17は、有機シリケートを主成分とする固定相におけるSiOH含有量に伴う吸着エンタルピーの変化を示す。
【0118】
評価された固定相フィルム材料の中には、有機シリケート、エポキシ-ノボラック、 PDMS、黒鉛またはカーボンナノチューブ(これは開発中の新しいGC固定相として重要なものであろう)および(低k誘電体から誘導された)ポリアリーレンによって表された炭素の表面、そして最後にテトラフルオロエチレンがある。全てのものが、水の存在に対して異なるΔH(およびΔG)の依存性を示す。一般に、黒鉛またはポリアリーレンのような極性の低い材料は、水分に対する低い妨害性を有するようである。しかし、黒鉛やポリアリーレンのような高度に疎水性の表面は、水和したときに高いDMMP吸着性を有するようであり、このことは、極性の分析物を吸着するときには固定相の表面が極性であることの重要性を示唆する。重要な表面はテトラフルオロエチレンであり、これは特有の高い結合双極子モーメント(C−F)を有し、そして非常に低い水の妨害性を有するようである。このことは、固定相はある形態の極性を有していることが望ましいが、しかし水分からの妨害性を低減させるために低い水素結合性を有していることが望ましい、ということを示唆するだろう。
【0119】
分析は、固定相の表面を通過して拡散する分析物の動力学的なモデルを含むだろう。これらのモデルは、分子モデル化を用いることによって分離と相対的な保持時間を定性的に決定できるか否かを決めるために成されるだろう。固定相の表面を用いる分離をシミュレーションするために、最初に分析物はセル容積の中でランダムに配向され、そして相関的な配向は最少にされる。これは初期の分析物の混合物に相当するだろう。次いで、分析物の混合物はシミュレーションされる表面の一端の上に導入され、そしてその集合は表面で最少にされる。次いで、表面に沿う移動を開始するために分析物に最初の推進のポテンシャルが与えられ、混合物に応じてシミュレーションが5ps以下にわたって続けられる。溶離の順序を確かめるためにシミュレーションは少なくとも2回繰り返され、そして最終的な比較のために全ての位置が平均化される。多数回のシミュレーションによってもっと多くの統計を決定することができるかもしれないが、平均の結果に専心してもよい。これらの道筋から、分析物について見いだされる分離により、表面での相互作用の結果がこれらのシミュレーションで得られるだろう。
【0120】
図35と図36は、毛管に堆積させた固定相(DB-5)とチップに堆積させた固定相(カーボンナノチューブ)のそれぞれについての実験のGCの結果を示す。図35と図36は、シミュレーションにおいて見いだされる相対的な溶離の順序を比較するために、シリコーンの固定相を用いる実験のクロマトグラムを示す。この結果から、ヘキサンが最初に溶離し、そしてドデカンが最後に溶離すると予想される。また、カーボンナノチューブの表面は溶離させるのに比較的困難なようである。
【0121】
動力学的なシミュレーションの結果を図37〜42に示す。例えば、図37はシミュレーションされた3つの固定相である黒鉛、PDMSおよび有機シリケートから予測される相対的な平均の溶離順序を示す。黒鉛の表面が最も保持性が高く、分析物の移動性が最も低いことが見いだされる。このことは、カーボンナノチューブを用いた試行で支持され、特に、シリコーンの固定相をカーボンナノチューブと対比する実験のGCの結果を比較するときに明らかであろう(図35、36)。有機シリケートとPDMSは性能が類似していることが見いだされるだろう。図38に示すように、3つの固定相は、それらが比較的揮発性であることにより、分子を荒く分離するだろう(沸点)。このことは、相対的な吸着エネルギーの分析によっても予想される。
【0122】
図35は、シリコーンの固定相の上での相対的な保持性の順序を示すもので、8つの化合物からなる混合物についての実験のGC分析を示す(毛管100cm/100μm、厚さ400nmのDB-5、100℃)。この情報はワシントン大学のRob Synovecからのものである。図36は、カーボンナノチューブ(CNT)の固定相を用いるGCチップの上での8つの成分の混合物についての実験のGC分離を示す(125℃、50cmの長さの毛管、およびH2 /30psi)。この情報はワシントン大学のRob Synovecからのものである。図37は、3つの異なる固定相の上での平均の保持時間の結果を示し、黒鉛の表面の保持性が比較的高いことが示されている。図38は、異なる固定相の上での分析物についての保持性と沸点を対比したものである。
【0123】
シミュレーションの軌跡の結果(図39〜41)において認められるように、分子モデルは、実際の分離の動力学を明らかにするために十分に小さなスケールで利用される。図39はPDMSの上での分離のシミュレーションを示す。分離の後、ヘキサンは最初に溶離しているようである(図39における下の図のかなり右の方)。DEEPホスホネートとドデカンは最も遅く溶離するようである。図40は有機シリケートの上で溶離している同じ混合物を示す。一般に、この混合物はPDMSに対するものと同じように溶離しているようである。しかし図41は、(カーボンナノチューブの表面をシミュレーションするために)黒鉛の表面上での溶離のシミュレーションを示す。この混合物は黒鉛の表面の下でほんの少ししか移動しないようであるが、しかし、明らかにドデカンは残って、非常にゆっくりと溶離するようである。分析物が溶離する距離を探索すると、シミュレーションの過程で移動する物質の中で何らかの分離と再配置が起こるようである。このことは、十分に長い移動距離を仮定すれば分析物の分離が解明されるはずである、ということを示唆していると思われる。
【0124】
(図39からの)PDMSの上での溶離の順序は、(図35からの)DB5の上で見いだされる実験による溶離の順序と比較することもできる。後者はわずかにフェニル化したPDMSシリコーンであり、PDMSの構造に近似している。この比較は図42において見いだされるが、これは、相対的な溶離の順序はシミュレーションと実験の両者についてほとんど同じであり、DMMPとDEMPの順序においてのみ異なっていることを示す。一般に、このことは、分子モデルがおおよその保持順序を与えうることを示すのに十分であろうが、しかし、3つの例(図39〜41)の中央において見いだされる分析物の中央の集団によって認められるように、実際の分離の良好な予測を合理的に行うためには、より良好な分離が達成されるべきである。表面が分析物の相互作用やもっと現実性の高い速度を良好に反映するようにするためには、もっと大きな表面、長い通過距離、およびもっと遅いシミュレーション速度へとモデルが拡大されるときに、シミュレーションにおける実際の順序が改善されることが期待されるであろう。
【0125】
これらのモデルは、分子レベルにおいては、分離は基礎的なレベルから開始するかもしれない、ということを示しているようである。従って、吸着から誘導される分子の力において保持が開始するかもしれず、そしてそれは表面との動力学的な相互作用で継続するかもしれない。異なる混合物を用いることにより、一般に、分離の量と保持の程度は混合物の含有量に依存するようである。
【0126】
図39は分離の動力学的なシミュレーションの前(上の写真)と後(下の写真)の速写を示し、ヘキサン、ノナン、デカン、ドデカン、DMMP、DEMPおよびDEEPの混合物がPDMSの上で分離する様子を示す。図40は図36のものと同じ混合物の前(上の写真)と後(下の写真)の速写を示し、有機シリケートの固定相の層を用いている。図41は図36のものと同じ混合物の前(上の写真)と後(下の写真)の速写を示し、黒鉛の固定相の層を用いている。図42は、実験による溶離の順序(図35)と分子モデルの順序(図39)との対比を示す。
【0127】
これらのシミュレーションの別の面は、相対的な溶離の順序を予測することにそれらを用いることに加えて、いずれの固定相が起点に残留物を残しやすかったのか、そして、焼き固めない場合は、いずれのものがカラムを詰まらせるのであろうか、ということがシミュレーションによって示されるようである、ということである。これは様々な位相化(PHASED)試験を用いて観察しうる現象であり、そのような試験は、次の試験において注入(injection)を行う前にベーク/クリーンのサイクルによって調整されうる。有機シリケートについては、DEEPまたはDMMPが残留物として残りやすい一つの材料であることが見いだされるかもしれないが、しかしこれは最初の分析混合物に依存するであろう。PDMSについては、DMMPが分子のくぼみの中に埋もれるようである。カラムの詰まり(fouling)におけるこれらの兆候は、分子のシミュレーションの有用さについてのさらなる利益となるであろう。図39〜41において残留物があることが明らかであるが、しかし、図43は異なる有機シリケートの上にある残留物の例を示し、この場合、有機シリケートの表面のくぼみの中でホスホネート(一様のグレースケール)が安定していることが見いだされる。図43は、可能性のある残留物の形跡としてDEEP(左)とDMMP(右)を伴う表面での特別な安定化によって、シミュレーションを行う間に起点に残された材料の例を示す。固定相は有機シリケートであろう。
【0128】
シリコン含有固定相に対する水和とSiOH含有量の影響を探求するために、有機シリケートの固定相の上でのDMMP、ドデカンおよびヘキサンの分離を比較することができる。その結果は図44〜45に示されているようであり、これは、アルカンからのDMMPの分離の質は水とSiOHによって影響されることを示しているようであり、またこれは、ここで言及している吸着のデータ(図30〜31)から予想される通りのものであるが、しかし必ずしも熱力学的な計算だけから予測されるほどのものではない。
【0129】
シミュレーションを比較すると、2つの影響が明らかなようである。開始点において大量のDMMPの残留物が残っているようであり(かなり左の方の実線の円)、そしてヘキサンは最初に溶離しているようである(かなり右の方の点線の円)。最初のシリケートの構造(上)を水和したもの(中)および特別なシラノールの場合(下)と比較すると、分析物に最も大きく影響するのはDMMPについてのようであり、また表面が水和したときにDMMPの大きな全体的な移動が起きるようである(図45の中)。この場合、DMMPの半分がドデカンよりも先に移動していて、一方、他の2つのケースにおいては、DMMPの大部分がドデカンよりも遅れているようである。興味深いことには、動力学的な傾向は、吸着の熱力学的な傾向(図31)よりも沸点による予測(ヘキサンBP=342;DMMP BP=454K;ドデカンBP=489)とより良く一致するようであり、この場合、ヘキサンが溶離することが予想され、そしてこのことは、ヘキサンのエネルギーの傾向を図45の動力学的な傾向と比較したときに特に顕著なようである。
【0130】
図44は開始時の形態を示していて、各々の分析物の4つの分子を用いるヘキサンとドデカンの混合物を分離するシリケートの固定相へのOHの影響を明らかにしている。図の一番上の部分は、最少のSiOH含有量を有するシリケートを示す。中央の部分は上の部分と同じものを示すが、しかし水和した表面を有するものである。下の部分は上の部分と同じものを示すが、しかし表面でのSiOH含有量が増大したものである。
【0131】
図45は最終の形態を示していて、DMMP、ヘキサンおよびドデカンの混合物を分離するシリケートの固定相へのOHの影響を明らかにしている。実線の円はDMMPの位置を示し、破線の円はドデカンの位置を示し、そして点線の円はデカンの位置を示している。図45の一番上の部分は、最少のSiOH含有量を有するシリケートを示し、中央の部分は上の部分と同じものであるが、しかし水和した表面を有するものであり、そして下の部分は上の部分と同じものであるが、しかし表面でのSiOH含有量が増大したものである。
【0132】
シミュレーションの傾向としては、実質的に全てのケースにおいて、ヘキサンが最初に溶離すると予想される(全てのヘキサンが流れの前線において最も右側にある)。しかし、熱力学的エネルギーによれば、ヘキサンの優先性は水和の状態とシラノールの含有量に依存して変化するかもしれない、ということが示唆される。実験の場合においては、やはりヘキサンが、シミュレーションにおいて用いられる他の分析物よりもかなり先に溶離することが知られるだろう。動力学的なシミュレーションによれば、条件によっては、分散度が小さくてより集団的なヘキサンのグループ化によって示されるような狭いピークよりもむしろ、広くて分散度が大きいピークを伴ってDMMPが溶離する、ということも示唆されるだろう。これらのグループ化の特質は、ピークの分離と分解を理解することにおいて分子の動力学が有用であることの可能性を証明するかもしれない。それに対して、ゴーレイの式のような実験観察による変換を行うことなく、熱力学的な傾向だけで分離の特質が区別されるかもしれない。実質的に純粋なシミュレーションについては、さらなる数学的な構成概念を用いることなく、分離における実験上の差異を予測することが最も有用かもしれない。
【0133】
動力学的なシミュレーションによって、熱力学的なエネルギーで表される静的な平衡状態よりもむしろ、もっと動力学的な状態の分析物の流れと分散的な分離に近づこうと企図することを考える場合、2つの異なる分子モデル化の分析の間の相違が予想されるだろう。動力学的な状態は分離を正確に測定するために考察されるべきであるから、動力学的なシミュレーションによれば、単に熱力学によるよりも、相互作用についてのもっと良好な速写(snapshot)が得られることが期待されるだろう。また、そのような動力学を用いるとき、スケールの増大と、もっと現実的なシミュレーションに向けてのシミュレーションの動的な速度の低下とともに、シミュレーションの分離の予測可能性が増大することが期待されるだろう。しかし、十分に正確な傾向が動力学の中に存在するのであり、そのことが固定相の明確な記述を理解することへの助けになるだろう。
【0134】
分子モデル化の研究により、作動するMEMS-GCと関連するモデル表面の問題があることが確認されると思われる。分子モデルは、エンタルピーと自由エネルギーの両者の傾向が固定相の性能の間の相違をいかに特徴づけるか、ということを示すと思われる。さらに、固定相の上での相対的な保持時間の動力学的なモデルは、分子が特定の表面とどのように互いに影響し合って分離を生じさせるか、ということを示すと思われる。適当なスケール化を仮定すると、ピークの分散は分離の統計から導き出されるかもしれない。
【0135】
固定相と分析物の相互作用の熱力学と動力学は、GCの性能に及ぼす基本的な分子の影響を理解するための簡単な分子モデル化の方法を用いて探求されるかもしれない。ベースの固定相に最良の表面の機能化を適合させるという問題には、デバイスの表面の活性に情報を与えるための分子モデル化によって取り組むことができるかもしれない。例えば、材料の問題についての説明によって認められるように、固定相の設計については水和と極性の問題が重要になるはずである。特定の種類の材料がより強く影響を受けると思われる。さらに、分子モデルは、商業的に入手できるタイプのベース材料に限定されないと考えられるので、それは、現存する材料のみならず新しい材料を制約を伴わずに探求するのに用いられるだろう。
【0136】
ここで説明されるモデル化は、GC-MEMSデバイスについての吸着の傾向に関して材料を選別するために用いることのできる方法だけでなく、他の用途における表面の特性を確認するために用いることのできる方法をも示しているようである。例えば、特にALDなどの表面に依存するプロセスが流行しつつあるので、ICの製造における汚染物質の移動の問題は重要な事柄であろう。また、多機能デバイスや多材料デバイスが想定されるので、材料の設計についての多くの問題が分子モデル化を用いて扱われるだろう。例えば、MEMS-GCに関して扱うことのできる他の将来的な材料の問題は、層の接着性とパッケージの信頼性であろう。
【0137】
材料の利用に関するMGAまたはGCの例が、例証する目的でここで説明される。流体の組成の感知器、分析器またはガスクロマトグラフは、濃縮器、分離器、様々な検出器およびポンプを有するだろう。濃縮器は、流体の流れのチャネルの中で互いに異なる時間において作動する位相化(phased)ヒーターの配列を有するだろう。それは位相化ヒーターの配列構造に関係し、そして特に、流体の成分の同定と定量のための感知器、分析器またはクロマトグラフとしての構造の適用に関係するだろう。そのようなヒーター構成を有するそのような装置は「位相化(PHASED)」デバイスと見なされ、あるいはそう呼ばれるだろう。「PHASED」という用語は、「Phased Herter Array Structure for Enhanced Detection」と言うときの頭字語と見なすこともできる。「流体」という用語は、種類としての気体(ガス)と液体を含む包括的な用語であろう。
【0138】
この微量流体分析器のモジュール構造が他の構造を上回る幾つかの利点としては、変化する温度環境の中で動作する能力(すなわち、個々の検出器の変化する感度を補償する能力)、そのような変化に対する補償を手動ではなく自動で行うこと、および吸引側において測定可能な脈動(1パーセント以下)を生じさせることなく可動部品を用いずに作動する能力があるだろう。
【0139】
この装置は、流体の成分の存在、同定および定量を達成するための、小型、迅速、低出力で、かつ周囲圧力で動作する最少吸引式の質量分光分析装置の配列と結合した、選択的で高感度、迅速かつ低出力の位相化ヒーター要素の配列からなるセンサーシステムまたは微量分析器であろう。この装置は、非常に小さく、エネルギー効率が良く、そしてそれ自体の電力源を含めて携帯式のものである。
【0140】
微量流体分析器は1つ以上の濃縮器と2つ以上の分離器を有するだろう。この分析器は1つ、2つまたはもっと多くのポンプを有することができる。この分析器は幾つかのチャネルを有する予備濃縮器を有することができる。分析器の流路に沿って多数の検出器が配置されていることができる。また、流路内に1つ以上のオリフィスと微小バルブが配置されてもよい。濃縮器は、流路に沿って移動する脱着した分析物の濃度パルスを生じさせ、それによって増大する濃度の分析物を与えるための熱パルスを与える位相化ヒーター要素の配列を有することができる。分析器は複数の流体またはガスのクロマトグラフとして構成されることができる。
【0141】
微量流体分析器は、位相化ヒーターの配列、濃縮器、分離器および種々の手法を組み込んでもよい。この微量流体分析器は、10億当り数部(ppb)の最大排出対象物を用いてオゾンを感知するための低コストの手段であろう。この分析器は、親(host)試料ガスすなわちベース試料ガス中のほんのわずかの化合物または親液体中のほんのわずかの化合物からなる混合物を検出することができる。
【0142】
流体分析器は、関連するマイクロコントローラーまたはプロセッサーへの結合部を有していてもよい。感知器の用途は、通常のCO2 、H2OおよびCOの他に、アルデヒド、酪酸、トルエン、ヘキサン、その他同種類のものなど、航空機の空間内の空気汚染物質の検出と分析を含むことができる。その他の感知対象としては、CO2 、H2O、アルデヒド、炭化水素およびアルコールなどのガスのレベルが調整される屋内空間や、屋外空間の感知、および化学、精製、製品の清浄化、食品、紙、金属、ガラス、医療および製薬の産業などにおけるプロセス流れの感知があるだろう。また、感知するということは、環境の保証や保護において重要な位置を占めるだろう。感知するということは、化学物質の濃度が増大して有害になる前にそれらを早期に検出することによって、施設の内外において防御的な安全性を与えるだろう。
【0143】
感知器は高い感度を有する。感知器はppm以下またはppb以下のレベルの検出を提供し、これは関連する分野の技術、例えば1〜10ppmの範囲の感度を提供する従来のガスクロマトグラフよりも100倍ないし10000倍以上も良好である。感知器は、特に、低出力で迅速、かつより小型でより感度が高く、そして入手可能な形のガスクロマトグラフである。それは構造上の一体性を有し、そして非常に大きな差圧の範囲にわたる加圧された流体試料を検出しそして分析する用途において漏出が起きる危険性が非常に低いか、あるいは全く無い。
【0144】
位相化ヒーターの感知器を通しての迅速な試料の捕捉と調整された流れの両者が提供されるようなやり方でフィルターを通して試料ガスを吸引するように、感知器のポンプを配置することができる。ポンプが感知器を通して試料ガスを吸引するとき、ガスは膨張し、従ってその容積と線速度が増大するだろう。ヒーターの「波動」が感知器の中で変化するガス速度と同調するのを維持するために、速度のこの変化を補償するように制御回路が設計される。ヒーターのチャネルを通して試料ガスが押し込まれるときに試料ガスの容積が変化するのを補償するために、それの電子装置によって流れの制御および/またはヒーターの「波動」の速度を調整する必要があり、それによって内部でのガスの流れの速度が電気的に駆動されるヒーターの「波動」と同調するのが維持される。
【0145】
この感知器は、安全であることが必須の、伝送用または分配用のパイプラインシステムに沿っての天然ガスまたはプロパンガスや化学処理プラントにおけるその他のガスの定期的な漏れの調査に特に良好に適しているような感度、速度、携帯性および低出力を有するだろう。
【0146】
この感知器は、その用途が漏れを感知することであるとき、目盛り定めの指標(溶離時間がガス成分の種類を明らかにする)として、および/または漏れの発生源を識別するものとして、幾つかの試料ガスまたは全ての試料ガスの成分(およびそれらのピーク比率)を用いるだろう。メタン(これは山岳の空気中に約1〜2ppmで存在する)などの特定のピークだけが存在する場合、それは、その成分の発生源が低湿地ガス、天然またはパイプラインのガス、あるいは別の流体のいずれであるのかを示すための十分な情報とはならないだろう。
【0147】
感知器は、携帯式の装置として用いられるか、あるいは決まった場所に据え付けられる。比較される関連技術の感知器に対して、それは、水素タンクの容積を必要としないので携帯式のフレームイオン化検出器よりも小型であり、熱フィラメント式ガス感知器や金属酸化物燃焼式ガス感知器よりも迅速で感度が高く、そして従来のガスクロマトグラフおよび/または携帯式のガスクロマトグラフよりも迅速、小型かつ電力節約性のものであろう。
【0148】
図5は、微量ガス装置(MGA)15を説明する例の特定の細部を示す。その仕様と構造上の細部は例としてのものであり、類似のMGAとは異なっているかもしれない。本発明を例証する目的で、様々な構造のMGAを実施することができる。試料の流れ25はパイプまたはチューブ19から投入口34に入る。装置15に入る流体の流れ25から埃やその他の粒子を除去するための粒子フィルター43を設けてもよい。この除去は装置を保護するためのものであり、ろ過することにより、流体25の組成を正確に分析するための装置の性能は低下しないはずである。汚れた流体(浮遊している固体または液体の非揮発性粒子を含むもの)は、感知器の適切な機能を損なうかもしれない。流体25の一部45は、光イオン化電流を測定することのできる示差熱伝導率検出器(TCD)、または化学感知器(CRD)、または光イオン化感知器または検出器(PID)、またはその他の装置127の第一の脚部を通って流れ、そして流体25の一部47は、ポンプ51のチューブ49を通って流れる。入口45のすぐ隣りに「T」チューブを配置することによって、フィルターのパージ時間を短くするのを助ける相対的に多くの流れ47が生じるので、最少の時間の遅れをもって試料の採取が達成される。ポンプ51は、粒子フィルター43の出口からチューブ49を通って流れてポンプ51から出る流体47を生じさせる。ポンプ53は、感知器とチューブ57を通る流体45の流れを生じさせる。図46において、装置15のための追加のポンプあるいはもっと少ないポンプ、および様々なチューブまたは配管の配置または構造が存在する。検出器127および128からのデータは制御器130に送られ、次にこれは、マイクロコントローラーおよび/またはプロセッサー29へ処理するためのデータを中継する。得られた情報はステーション31へ送られる。
【0149】
図46は感知器の装置15の一部の概略図であり、図5における濃縮器124と分離器126の部分を表している。感知器の装置は基板12と制御器130を有していてもよい。制御器130は基板12に組み込まれていても、組み込まれていなくてもよい。基板12は上に配置された幾つかの薄膜ヒーター要素20、22、24および26を有していてもよい。4つのヒーター要素だけが示されているが、いかなる数のヒーター要素が設けられていてもよく、例えば2つから1000の間であり、しかし典型的には20〜100の範囲である。ヒーター要素20、22、24および26はいかなる適当な導電体、安定な金属、あるいは合金のフィルムからできていてもよく、例えば、しばしばパーマロイと称されて80パーセントのニッケルと20パーセントの鉄の組成を有するニッケル-鉄合金や、白金、ケイ化白金、およびポリシリコンである。図47に示すように、ヒーター要素20、22、24および26は、薄くて低熱量で(low-thermal mass)、面熱伝導率の低い支持部材30の上に設けられていてもよい。支持部材または膜30は、Si3N4またはその他の適当な材料または類似の材料で製造することができる。ヒーター要素はPtあるいはその他の適当な材料または類似の材料で製造されてもよい。
【0150】
図47に示すように、基板12は、試料流体の流れ45を受け入れるためのチャネル32を有する適切に限定された信号-チャネル位相化ヒーター機構41を有する。チャネルは、支持部材30の下のシリコンチャネルウエーハ基板12を選択的にエッチングすることによって製造されてもよい。チャネルは流入口34と流出口36を有していてもよい。
【0151】
感知器の装置は、チャネル31の内部に幾つかの相互に作用する要素を、それらが試料流体の流れ45に晒されるようにして有していてもよい。相互に作用する要素の各々は、対応するヒーター要素に隣接するように、すなわち可能な限り近接するように配置されていてもよい。例えば、図47において、相互に作用する要素40、42、44および46は、チャネル32の中で支持部材30の下の方の表面に設けられていて、そしてヒーター要素20、22、24および26のそれぞれに隣接している。他のチャネルと追加の相互作用フィルム要素が存在していてもよいが、それらはこの実施例には示されていない。相互に作用する要素は、液体クロマトグラフィーまたはガスクロマトグラフィーにおいて通常用いられるいかなる数のフィルムから形成されてもよく、例えば、シリカゲル、ポリメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレングリコール、多孔質シリカ、ナノグラス(登録商標、Nanoglass)、活性炭、およびその他のポリマー物質で形成される。さらに、上記の相互作用物質は、対象とする分析物の最適な吸着および/または分離を達成するために、様々な度合いの極性および/または疎水性を得るのに適したドーパントによって改質されてもよい。
【0152】
図6は、一つのチャネルを有する位相化ヒーター機構41の末端断面図を示す。単一チャネル位相化ヒーター機構41の末端断面図には、支持部材30と基板12およびそれらの間の要素が含まれる。図6は、露出した1ミクロンの膜を有する形式の位相化ヒーター機構41を示す。開放空間392も示されている。支持部材30は上部構造物65に付設することができる。固定部材67が支持部材30をチャネル32に対して適切な位置に保持する。固定部材67の地点の数を少なくすると、支持部材30から機構41の他の部分への熱伝導損失が最少になる。ヒーター要素からの熱伝導を少なくするために、少ない数の固定地点を有するヒーター膜が用いられるだろう。
【0153】
位相化ヒーター配列のヒーター要素には両方の表面、すなわち上側と下側の表面で吸着材料をコーティングしてもよく、それにより出力の散逸が少なくなり、また入ってくる検出ガスのより効率的な加熱がなされる。ヒーター要素は、出力の散逸が少なくなるように、小さな幅を有するだろう。
【0154】
相互作用フィルム要素は、所望の収着材料を含む材料の流れを加熱機構41のチャネル32を通して通過させることによって形成することができる。これにより、チャネルの全体に相互作用性の層を付与することができる。もし分離した相互作用要素40、42、44、46が望ましい場合は、下のウエーハ12に付設された支持体30の上にコーティングを回転塗布し、次いで、標準のフォトレジストマスキングとパターン化方法のいずれかを用いるか、あるいはヒーター要素20、22、24および26によってコーティングに温度変化を与えることによって、選択的に「発達」させてもよい。
【0155】
ヒーターの配列の内側のチャネルの表面には、設計上意図的に吸着材料でコーティングされる表面を除いて、非吸着性の断熱層をコーティングしてもよい。吸着材のコーティングまたはフィルムの厚さは、吸着と脱着に要する時間を少なくすることによって、減少させることができる。図6に示すように、相互作用要素など設計上から吸着材をコーティングした表面がある場所を除いて、単一チャネルのヒーター41におけるチャネル32の内壁に非吸着性の断熱材料からなるコーティング69を塗布してもよい。その材料は、チャネル壁に用いられる材料よりも実質的に小さな熱伝導性を有していなければならない。チャネル壁に用いられる材料はシリコンとすることができる。コーティング69のための代替材料としては、SiO2またはその他の金属酸化物がある得る。コーティング69は、支持体30におけるヒーター要素のために用いられる電力を少なくするだろう。移動相/固定相の容積の合理的な比率を維持しながら、ヒーター要素の膜と吸着材のフィルムのサイズ(幅、長さおよび厚さ)を最小にするか、あるいは低減することによって、電力がかなり低減することができる。吸着材のフィルムの厚さを最小にするか、あるいは低減することによって、所定の分析器の構造について吸着−脱着に要する時間が短くなり、また流体の分析について必要なエネルギーが節約される。
【0156】
ヒーター要素20、22、24および26は、上側と下側の両方でGCフィルムでコーティングされてもよく、それにより幅およびヒーター要素の表面の出力の散逸が改善される。これらのヒーター要素の製作は2つのコーティング工程を含み、第二の工程においては、第二のウエーハの内側を第一のコーティングで保護し、そして第一のウエーハが分解した後に、ウエーハとウエーハの接合(wafer-to-wafer bonding)とコーティングを行うことを要するだろう。
【0157】
この微量ガス分析器は、繰り返し連続して行われる回転塗布(またはその他の堆積手段)の工程によって形成されたヒーター要素40、42、...、44、46を有し、それによって、予め配置されたパターンの濃縮器と分離器の要素が異なる吸着材料A、B、C、...(これはGCの文献において固定相として知られる)でコーティングされ、また濃縮器/分離器の要素の比率を選択することができるだけでなく、A、B、Cなどでコーティングされた要素のいずれかが(何らかの脱着温度において)濃縮プロセスに寄与するように選択され、そして分離器の中に電気的に注入され、そしてこのとき、要素の温度勾配の割合の選択がB、C、...の要素とは異なるようにAに対して行われ、そしてさらに、「A」の要素のグループからのガスを分離した後に、別のセットのガスを「B」の要素のグループから分離する、などのやり方で、このシステムに多能性を与えることができる。濃縮器対分離器のヒーター要素の比率は、制御器130に接続された比率制御機構490によって設定または変更されうる。
【0158】
制御器130は、図46に示すように、ヒーター要素20、22、24、26の各々、および検出器50に電気的に接続することができる。制御器130は、時間が位相化されたシーケンス(順序)でヒーター要素20、22、24および26に電圧を印加し(図48の下を参照)、それにより、対応する相互作用要素40、42、44および46の各々が、1以上の上流の相互作用要素によって生成された上流の濃度パルス(concentration pulse)が相互作用要素にほぼ達したときに、加熱され、そして選択された成分を流れている試料流体45の中に脱着する。濃度パルスの中で所望の濃度の成分ガスを達成するために、いかなる数の相互作用要素を用いてもよい。得られた濃度パルスは、検出と分析のために、検出器50、128に供給することができる。検出器50、127または128(図5および図46)は、熱伝導率検出器、放電イオン化検出器、CRD、PID、MDD、あるいはガスまたは流体のクロマトグラフィーにおいて典型的に用いられるようなあらゆるその他のタイプの検出器であってもよい。
【0159】
図48は、例として、相対的なヒーター温度を、各々のヒーター要素において生成された対応する濃度パルスとともに示すグラフである。上で示したように、制御器130は時間が位相化されたシーケンスでヒーター要素20、22、24および26に電圧を印加し、これに伴って電圧信号71が生じる。ヒーター要素20、22、24および26についての例としての時間位相化ヒーターの相対的な温度を、それぞれの温度プロフィールまたは温度ライン60、62、64および66によって示す。
【0160】
示された例において、制御器130(図46)は最初に第一のヒーター要素20に電圧を印加し、それによって、図48のライン60で示すように、このヒーター要素の温度が上昇する。第一のヒーター要素20は第一の相互作用要素40に熱的に結合されているので(図47)、この第一の相互作用要素は選択された成分を流れている試料流体45の中に脱着し、それにより、他のいずれのヒーター要素もパルス化されない場合は、検出器128または50において第一の濃度パルス70が生じる(図48)。流れている試料流体45は第一の濃度パルス70を、矢印72で示すように、下流へ第二のヒーター要素22へ向けて移動させる。
【0161】
次に、制御器130は第二のヒーター要素22に電圧を印加し、それによって、ライン62で示すように、このヒーター要素の温度が上昇し、要素20でのエネルギーパルスが停止したときかあるいはその前に作動し始める。第二のヒーター要素22は第二の相互作用要素42に熱的に結合されているので、この第二の相互作用要素も選択された成分を流れている試料流体45の中に脱着し、それにより、第二の濃度パルスが生じる。制御器130は、第二の濃度パルスが第一の濃度パルス70と実質的に重なり合うように第二のヒーター要素22に電圧を印加することができ、それによって、図48に示すように、より高い濃度パルス74が生じる。流れている試料流体45は大きな濃度パルス74を、矢印76で示すように、下流へ第三のヒーター要素24へ向けて移動させる。
【0162】
次に、制御器130は第三のヒーター要素24に電圧を印加し、それによって、図48におけるライン64で示すように、このヒーター要素の温度が上昇する。第三のヒーター要素24は第三の相互作用要素44に熱的に結合されているので、第三の相互作用要素44は選択された成分を流れている試料流体の中に脱着し、それにより、第三の濃度パルスが生じる。制御器130は、第三の濃度パルスが第一および第二のヒーター要素20および22によって与えられる大きな濃度パルス74と実質的に重なり合うように第三のヒーター要素24に電圧を印加することができ、それによって、さらに大きな濃度パルス78が生じる。流れている試料流体45はこの大きな濃度パルス78を、矢印80で示すように、下流へ「N番めの」ヒーター要素26へ向けて移動させる。
【0163】
次に、制御器130は「N番めの」ヒーター要素26に電圧を印加し、それによって、ライン66で示すように、このヒーター要素の温度が上昇する。「N番めの」ヒーター要素26は「N番めの」相互作用要素46に熱的に結合されているので、「N番めの」相互作用要素46は選択された成分を流れている試料流体45の中に脱着し、それにより、「N番めの」濃度パルスが生じる。制御器130は、「N番めの」濃度パルスが前の(N−1)までの相互作用要素によって与えられる大きな濃度パルス78と実質的に重なり合うように「N番めの」ヒーター要素26に電圧を印加することができる。流れている試料流体は「N番めの」濃度パルス82を、後述するように、分離器126または検出器50または128のいずれかへ移動させる。
【0164】
上で示したように、ヒーター要素20、22、24および26は通常の長さを有していてもよい。従って、各々のヒーター要素に等しい電圧、電流または出力パルスを与えることによって、制御器130は、ヒーター要素を等しい温度にすることができる。電圧、電流または出力パルスは三角形、矩形、釣り鐘形、あるいはその他のあらゆる形状を含めて、いかなる所望の形を有していてもよい。図48に示すような温度プロフィール60、62、64および66を得るために、ほぼ矩形の電流、出力または電圧のパルス71を用いることができる。温度プロフィールから、脱着される化学種は電圧パルスに対してわずかな時間の遅れを伴って生成するようであり、そしてそのことが注目される。
【0165】
ヒーター要素の制御を簡単にするために、各々の連続したヒーター要素の長さを一定に保つことによってヒーター要素の間の全ヒーター抵抗を同じにし、それによって、類似した温度プロフィールをつくり出すために、等しい電圧、電流または出力パルスを用いることが可能になる。あるいは、ヒーター要素は異なる長さを有していて、制御器がヒーター要素に対して異なる電圧、電流または出力パルスの大きさを与え、それによって類似した温度プロフィールをつくり出すようにしてもよい。
【0166】
図49〜63はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関するものである。フェニラート化ナノグラスについてのそのようなエネルギー最小化のモデル(Meの場合と同じ理論量組成)。これらのケースは非水和、水和、全てのSiO側、およびSiOHを含有する側を含むだろう(OH/Si=1/10)。吸収する分子はエタン、ヘキサン、オクタン、デカン、ペンタデカン、二酸化炭素、水およびエタノールを含むだろう。
【0167】
注目される観察結果はエネルギーの傾向であり、エネルギーの分離は非水和表面でより安定しているようであり、従って、水に対する感受性を示す。非水和のSiOH側は、非水和のSiO側よりも化合物について良好なエネルギー分離を示す。非水和フェニラート化表面は非水和メチル化NGの場合よりも良好なエネルギー分離を示すはずである。CO2とEtOHの間ではメチル化ナノグラスの場合よりもエネルギー分離が少ないだろう。SiOH側とSiO側を比較すると、SiO側が良好な一般的傾向を有するようであり、メチル化(標準)NGの場合と一致する。非水和の場合は水和した場合よりもエネルギーの傾向においてより安定しているようである。非水和のときのSiO側よりも非水和のSiOH側がわずかに良好な選択性(エネルギー分離)を有するときに、SiOH側はSiO側よりもわずかに良好な選択性(エネルギー分離)を有するだろう。CO2とEtOHの間ではMe−NGの場合よりもエネルギー分離が少ないだろう。非水和の場合については、フェニラート化すると良好なエネルギー分離を与えるだろう。
【0168】
SiOH対SiOと表示される特定の化合物があるだろう。水和の状態のいかんにかかわらず、SiO側はより安定な傾向があるようである。しかし、C10には、水と前駆平衡(pre-equilibrate)していなかった水和した表面のために、例外的な挙動があるようである。
【0169】
図58における例外的な点は、非前駆平衡の水和(non pre-equilibrate hydration)によるものであろう。図59〜61において特定の化合物が表示される。図62と図63はデータの要約を与える。非水和の場合は水和した場合よりもエネルギーの傾向においてより安定しているようである。このデータを通して、分離はそれほど決定的なものではないようであるが、しかし水和の影響によるものであると思われる。
【0170】
図64〜91はCWAの吸着エネルギーに関するものである。このモデルはSiOH側でのナノグラスのモデルから導き出された。ナノグラスの表面は、ナノグラスに及ぼすビスペルフルオロブタノールシリル基の影響、ナノグラスに及ぼすトリフルオロプロピルメチルシリル基の影響、ナノグラスに及ぼすジフルオロプロパノールメチルシリル基の影響、およびナノグラスに及ぼすHON "TA"=ジメチルシリル基の影響を表すために置換された。
【0171】
観察結果によれば、TA基は水の変化性の影響を少なくすることにおいて、標準のナノグラスほどには良好ではない、ということが示されたようである。側鎖のフッ素化は水の変化性を促進するようである。新しい表面のうちでは、トリフルオロプロピルメチル基が水の影響が最も少ないことを示すようであるが、しかしビスペルフルオロブタノール基も非常に安定しているようである。側鎖の疎水性の均衡があるかもしれない(ジフルオロプロパノール基はトリフルオロプロピル基ほどには良好ではないようである)。シリカの表面について目標とする処理を考慮することができる。商業的に入手できるものは、トリフルオロプロピルメチルシクロトリシロキサン、トリフルオロプロピルメチルジクロロシラン、ヘプタデカフルオロテトラヒドロデシルメチルジクロロシラン、トリデカフルオロテトラヒドロオクチルメチルジクロロシラン、ナノグラス(登録商標、Nanoglass)、および "TA"である。プロットは非水和対水和を用いることができる。図64〜66に関して、水の影響が示されないように、勾配=1で、0,0において交差することが要求される。TAは傾向に関しては最も悪いようである。図67〜71に関して、異なる吸着材についての非水和対水和のプロットが行われる。ここで、勾配=1で、0,0において交差することが要求される。エネルギー対MWについて言及される。
【0172】
図92〜図102はテトラフルオロエチレン(TFE)の上のCWAに関する。観察結果は、これがフルオロカーボンの表面の極端なケースと考えられることを含む。水和と非水和の両者の場合において、CWAに対して類似した傾向の反応があるだろう。前駆平衡した水の場合は、非水和のものと類似したエネルギー範囲を有するだろう。前駆平衡していない水の場合、これも同様のエネルギーの傾向を有するようであるが、しかしエネルギー範囲はもっと大きな吸着に移動するようである。しかし、水和状態の間に大きな差異が現れるようである。フルオロカーボンで置換したナノグラスは、この点においてもっと良好なようである。
【0173】
図103〜図110はAvatrelとSU8の固定相に関すると考えられる。これらのモデルは、モデル化された2つの新しいポリマーの固定相に関係することができる。Avatrelはポリノルボルネンポリマーをベースとするものでもよい。それは通常、接着性について機能化されている。SU8は標準的な固定相であり、ノボラック-エポキシをベースとする。これらのモデルについては、シミュレーションのために脂環式エポキシ(ビスエポキシシクロヘキシルメチルアジペート)の形のものを用いることができる。
【0174】
幾つかの観察結果は、次の事項に関するものであろう。脂環式Avatrelポリマーの驚くほど高いエネルギーの吸着性があるようであるが、しかし分析物のエネルギーの分離は低い。脂環式エポキシを用いるSU8/ノボラック擬似物も、水の妨害性がほとんどなくなっているようであって、そして材料のグループの良好な分離を有するようである、ということにおいて驚くべきものである。SU8は次の三つの明確な分離領域を示すようである。〜10kcal/モル未満の小さな分子;〜10〜20kcal/モルの非極性分子;〜20kcal/モルを超える極性分子。他の結果とともに、これらの結果は、もしそれが高い疎水性を有している場合(GX3P、CNT/黒鉛、Avatrel)、それは高い吸着性を有する固定相を有するだろう、ということを示しているようである。もしそれが極性の内容を有している場合、それは分離を示すだろう(SU8、NG-SiOH側、テフロン)。もしそれが水素結合性の水素を除去する可能性がある場合、水の妨害性が減少するだろう(NG-SiO側、GX3P、CNT/黒鉛、テフロン、トリフルオロプロピレン-NG)。
【0175】
固定相に必要なこととしては、高い吸着性のための高い疎水性、低い水の妨害性のためのH結合性水素の低い含有量、および分離のための極性を有すること、であろう。全体として、SU8はこれまでに最良のバランスの特性を有するだろう。モデルはエポキシ置換Avatrelについて実施されるだろう。というのは、これは分離のための十分な極性を付与することができ、吸着性の重要さのために極性をトレードオフ(交換取引)することが求められるためである。
【0176】
非水和のエネルギーと水和のエネルギーの比較により、非水和状態にあるCWAについて十分に大きな吸着エネルギーが示され、「前駆平衡されていない」トラック(track)が非水和の場合に最良であり、最良の収集相となるだろう。
【0177】
ノボラックエポキシは水和したときに非常に良好な保持性の傾向を有し、この材料について最良の態様を示すと思われる。それは2つの異なる水和状態の間で差異をほとんど示さないだろう。
【0178】
エネルギーの大きさは他の固定相と類似しているようである。2つのポリマーは高い疎水性と脂環式の内容において共通しているだろう。
図111〜図127はDB1および比較のものに関する。新しいモデルの固定相は、DB1(PDMS)、CWAの一連のもの、および幾つかの炭化水素に関するものであろう。
【0179】
観察結果によれば、DB1の吸着エネルギーの範囲はNGEよりもわずかに悪く、そして処理されたNGEとほぼ同じであることが示されたようである。ポリノルボルネンは依然として最も確かな吸着エネルギーを有し、それに続くのはSU8と黒鉛のようである。一般に、吸着性については次のようである:ポリノルボルネン> SU8〜黒鉛〜NGE > DB1〜ジメチル置換NGE〜テトラフルオロエチレン〜トリフルオロプロピル置換NGE。
【0180】
HCNを除いて、水分に伴って吸着エネルギーのわずかな変化があるようである。非水和と水和(仮定された水の前駆平衡)を比較したエネルギーの保持については、DB1、SU8、テトラフルオロエチレンおよびトリフルオロプロピル置換NGEおよび黒鉛は、ポリノルボルネン、NGEおよびジメチル置換NGEよりも良好であると思われることに注目することができる。
【0181】
疎水性のより高い材料は、それでも全体的に最良の性能を有するようである。Siをベースとする化合物について、最も疎水性の高いもの(例えばDB1)は、水の影響をあまり受けないものであると思われる。疎水性は次の順序で増大すると予測される。NGE < トリフルオロプロピル置換NGE < DB1。しかし、明確な誘電率の傾向は存在しないだろう。例えば、NGEとSU8はPDMS(DB1)よりも高い誘電率を有するはずであり、そしてポリノルボルネンは低い誘電率を有するはずである。
【0182】
以下に示すものは、ここで関連するであろう幾つかの専門用語である。幾つかの可能性のある固定相材料としては、DB1(100%PDMS)、DB-5(5%のフェニルを含むPDMS)、F-100(VINAR7、ジメチルシロキサンとシリルアリーレンモノマーを含むポリシロキサンコポリマー)、NGE(Nanoglass-E(登録商標)、ナノ多孔質有機シリケート)、OV1(PDMS)、OV225(シアノプロピルメチルフェニルメチルシリコーン)、OV275(ジシアノアリルシリコーン)、PCUT(ポリカーボネートウレタン)、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、PECH(ポリエピクロロヒドリン)、PEVA(40%のアセテートを含むポリエチレン-コ-ビニルアセテート)、RTX-1(100%PDMS(Restek(登録商標)))、RTX-200(トリフルオロプロピルを添加したPDMS)、RTX-2330(10%のフェニル-シアノプロピルを含む90%ビスシアノプロピル)、SE-54(DB-5)、SOG(スピンオンガラス)、およびSXFA(シロキサンフルオロアルコール)がある。
【0183】
幾つかの重要な頭字語の要約としては、CID(化学インピーダンス検出器)、DEEP(ジエチルエチルホスホネート)、DMMP(ジメチルメチルホスホネート)、FID(フレームイオン化検出器)、GC(ガスクロマトグラフィー)、IDHL(健康と生命に直接に危険性がある)、MEMS(マイクロ電子機械構造または装置)、MDD(マイクロ放電検出器)、MDL(最小検出限度)、MS(質量分析計)、PC(予備濃縮)、PHASED(検出能を向上させるために位相化したヒーター配列の構造)、SAW(弾性表面波)、TCD(熱伝導率検出器)、TLS(全対数感度)、およびTME(全最大誤差)がある。
【0184】
幾つかの重要な記号としては、H(GC分離のための理論プレートの高さ、cmまたはμm)、ΔH(蒸発または吸着のエンタルピー、kJ/モルまたはkcal/モル);loge(k’)=ΔH/RT+ΔS/R−ln(β) 、k’(容量係数または保持係数、無次元)、K(分配係数または平衡係数、K=k’・β)、L(GC分離カラムの長さ、cmまたはm)、ΔS(蒸発または脱着のエントロピー、kJ/(K・モル) またはkcal/(K・モル)、t0(カラム内でのゼロ保持を伴う溶離時間、sまたはms)、tr(保持を伴う溶離時間、sまたはms)、Tb(沸点温度、Kまたは℃)、V(速度、cm/sまたはm/s)、w(半分の高さにおけるGCピークの幅、sまたはms)、β(GCカラムの(ガス相)/(固定相)の容積比率)、およびε(比誘電率)がある。
【0185】
本明細書において、幾つかの事項は仮定的または予想的な性質のものであるが、別のやり方または時制で説明されているかもしれない。
本発明を少なくとも一つの例に関して説明したが、当業者であれば本明細書を読むことによって、多くの変形と修正が明らかになるだろう。従って、添付した特許請求の範囲は、先行技術を考慮して、そのような変形と修正の全てが含まれるように可能な限り広く解釈されるべきであることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【図1】図1は固定相の特性についての図式である。
【図2】図2は固定相を選択するための流れ図である。
【図3】図3はH2 または空気のキャリヤーガスを用いるMGA性能の表である。
【図4】図4は極性化合物についての保留指数の表を示す。
【図5】図5は例示的な位相化ヒーターの機構の配置図である。
【図6】図6は単一のフィルム要素の末端断面図を示す。
【図7】図7は分析物上の吸着エネルギーの分子モデル化の確認のためのグラフである。
【図8】図8は相互作用エンタルピーの比較を示すグラフである。
【図9】図9は分析物の吸着エンタルピーを示す。
【図10】図10は実験上と計算上との間での相平衡またはK値の相関量を示す。
【図11】図11は分配定数の計算値と測定値のグラフである。
【図12】図12はK対誘電率または誘電分極のグラフである。
【図13】図13はK対誘電率または誘電分極のグラフである。
【図14】図14はK対誘電率または誘電分極のグラフである。
【図15】図15はK対誘電率または誘電分極のグラフである。
【図16】図16はK対誘電率または誘電分極のグラフである。
【図17】図17は誘電率の計算値対文献上の値のグラフを示す。
【図18】図18は類似物対等温度のグラフである。
【図19】図19は材料についてのk’ およびtr 対沸点のプロットを示す。
【図20】図20は材料についてのk’ およびtr 対沸点のプロットを示す。
【図21】図21は材料の測定されたK対沸点のグラフを示す。図21aは材料についての計算されたK値対測定されたK値のプロットである。
【図22】図22はガスクロマトグラムのプロットである。
【図23】図23はガスクロマトグラムのプロットである。
【図24】図24はアルカン分離と固定相の間の比較を示す。
【図25】図25は流体分析器の検出器出力対時間のグラフである。
【図26】図26は濃縮前の利得対脱着温度のグラフである。
【図27】図27は濃縮前の利得対脱着温度および吸着エネルギーのグラフである。
【図28】図28は濃縮前の利得対脱着温度および吸着温度のグラフである。
【図29】図29は様々な材料についてのΔH kj/モルの値を示す。
【図30】図30は様々な材料についての相対吸着エンタルピーを示す。
【図31】図31は様々な分析材料についての非水和固定相についての相対吸着エネルギー対沸点を示す。
【図32】図32は様々な分析材料についての水和固定相についての相対吸着エネルギー対沸点を示す。
【図33】図33は様々な材料についての吸着エンタルピー対沸点のグラフである。
【図34】図34は材料の非水和状態と水和状態についてのSiOHとSiOの含有量を示す。
【図35】図35は幾つかの配合混合物の実験のGC分析を示し、シリコーン固定相上での相対的な保持順序を示す。
【図36】図36はカーボンナノチューブ固定相を用いるGCチップ上での幾つかの成分混合物の実験のガスクロマトグラフィー(GC)分離を示す。
【図37】図37は黒鉛、PDMSおよび有機シリケートの3つの模擬的固定相から予測される相対的な平均の溶離順序を示す。
【図38】図38は異なる固定相上での分析物の保持性対沸点を示す。
【図39】図39はPDMS上での分離のシミュレーションを示す。
【図40】図40は有機シリケート上で溶離する混合物を示す。
【図41】図41は黒鉛の表面上での溶離のシミュレーションを示す。
【図42】図42はシミュレーションと実験の両者についてほぼ同一であると思われる相対的な溶離順序を示す。
【図43】図43は異なる有機シリケート上での残留物の例を示し、表面のくぼみの中でホスホネートが安定していることが見いだされた。
【図44】図44は各々の分析物の幾つかの分子を用いてヘキサンとドデカンの混合物を分離するシリケート固定相の上のOHの影響を明らかにする形態を示す。
【図45】図45はシリケート固定相の上のOHの影響を明らかにする形態を示す。
【図46】図46は濃縮器または分離器の部分を示す流体分析器の一部の図式である。
【図47】図47はチャネル上のヒーター要素の長手方向の断面である。
【図48】図48はヒーターの温度のプロフィールとともにセンサー装置の各々のヒーター要素において生じた対応する濃度パルスを示すグラフである。
【図49】図49はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図50】図50はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図51】図51はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図52】図52はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図53】図53はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図54】図54はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図55】図55はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図56】図56はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図57】図57はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図58】図58はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図59】図59はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図60】図60はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図61】図61はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図62】図62はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図63】図63はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図64】図64はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図65】図65はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図66】図66はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図67】図67はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図68】図68はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図69】図69はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図70】図70はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図71】図71はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図72】図72はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図73】図73はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図74】図74はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図75】図75はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図76】図76はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図77】図77はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図78】図78はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図79】図79はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図80】図80はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図81】図81はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図82】図82はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図83】図83はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図84】図84はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図85】図85はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図86】図86はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図87】図87はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図88】図88はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図89】図89はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図90】図90はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図91】図91はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図92】図92はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図93】図93はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図94】図94はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図95】図95はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図96】図96はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図97】図97はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図98】図98はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図99】図99はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図100】図100はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図101】図101はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図102】図102はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図103】図103は幾つかの特定の固定相に関する。
【図104】図104は幾つかの特定の固定相に関する。
【図105】図105は幾つかの特定の固定相に関する。
【図106】図106は幾つかの特定の固定相に関する。
【図107】図107は幾つかの特定の固定相に関する。
【図108】図108は幾つかの特定の固定相に関する。
【図109】図109は幾つかの特定の固定相に関する。
【図110】図110は幾つかの特定の固定相に関する。
【図111】図111はDB1および比較のものに関する。
【図112】図112はDB1および比較のものに関する。
【図113】図113はDB1および比較のものに関する。
【図114】図114はDB1および比較のものに関する。
【図115】図115はDB1および比較のものに関する。
【図116】図116はDB1および比較のものに関する。
【図117】図117はDB1および比較のものに関する。
【図118】図118はDB1および比較のものに関する。
【図119】図119はDB1および比較のものに関する。
【図120】図120はDB1および比較のものに関する。
【図121】図121はDB1および比較のものに関する。
【図122】図122はDB1および比較のものに関する。
【図123】図123はDB1および比較のものに関する。
【図124】図124はDB1および比較のものに関する。
【図125】図125はDB1および比較のものに関する。
【図126】図126はDB1および比較のものに関する。
【図127】図127はDB1および比較のものに関する。
【発明の開示】
【0001】
本出願は、2005年2月28日に提出された米国仮出願番号60/657,557の利益を請求する。
【0002】
背景
本発明は流体の検出、そして特に流体検出器に関する。さらに特定すると、本発明は検出器の製造に関連する流体検出器の材料に関する。
【0003】
2005年2月28日に提出された米国仮出願番号60/657,557は、本明細書中に参考文献として援用される。
流体分析器に関連する構造とプロセスの面は、2002年5月28日にUlrich Bonne等に付与された「感度を高めるための位相化ヒーターを有するガスセンサー」という名称の米国特許6,393,894 B1に開示されているであろう。その開示は本明細書中に参考文献として援用される。
【0004】
概要
本発明は、例えば微量流体分析器において用いるための適当な材料を決定するために、特定の基準を用いる流体分析器のための固定相(stationary phase)を選択することに関する。
【0005】
説明
微量ガス分析器(MGA)の固定相は、MGAシステムの内部で特定の特性を示す材料を利用することができる。MGAの例は本明細書の別の箇所に記載される。図1に概説するように、固定相の望ましい基準または特性200としては、次のものがあるだろう:項目201−試料ガス中の水分濃度に依存しない保持性と吸着エンタルピーを有する;項目202−試料ガスの混合物に晒されるSiOH(シラノール)を含まない(この理由は、シラノールは標準吸着エンタルピーよりも高い保持エンタルピーおよび反応エンタルピーを有し、ピークの引きずりを生じさせることである);項目203−分子量または沸点に伴って単調に増大する吸着エネルギーを有する;項目204−スピンコーティングまたはスプレー堆積または真空堆積などの標準的な堆積法によって適用できる;項目205−フォトレジスト生成物への適度な付着力を示すか、あるいは光パターン化されうる;項目206−DRIE(深反応性イオンエッチング)、プラズマエッチングまたは液体エッチングなどの通常のプロセスによってエッチングされてパターン化されうる;そして(最も重要な)項目207−注目している分析物に対して高い透過速度を示し、あるいは妨害ガス(例えばアルカン)に対して非常に低い吸着エンタルピー値を示し、そして極性分析物に対して高い物理吸着(反応性または化学性ではない吸着)の値を示す。
【0006】
固定相の材料の幾つかの主要な特性または基準としては、高い吸収力と低い水の妨害性(water interference)がある。耐水性は、多くの量の疎水性基の使用によって得られる。吸収力は、耐水性を損なうであろう活性な水素結合を追加することなく表面上に十分な分極能を用いることによって得られる。ここにおける項目には、マイクロGC濃縮器(concentrator)または分離器(separator)において用いるための無極性収着剤、多孔質誘電体のためのシリル強化剤のための新しい離脱基と化学種、多孔質吸着性SOG’sのためのキャッピング剤、およびポリノルボルネンをベースとするマイクロGCのベースのための固定相としての疎水性ポリマーが含まれるかもしれない。多孔質材料はスピンオン配合物としてMGAまたはGCに付与されうる。超低k誘電体(ultra low k dielectrics)は細孔の導入によって作ることができる。デバイス構造をパターン化および/または硬化した後に、表面の機能性が存在する。その構造は高度に多孔質の配合物のうちの一つから作られるかもしれないが、しかし多孔度(高い表面積)だけで良好な固定相が作られるのではなく、表面に見いだされる特定の官能基が表面を所望の活性に適合させるかもしれない。用いられるべきポリマーのベースは伸長されるかもしれない。表面積を増大させるためにポリマーを多孔質のものにすることができるが、しかしその基材は、吸着を行う間の水の妨害に抗するための潜在的な活性を有する。
【0007】
MGAの適用の中に高い表面積の誘電体構造を含めることができる。ナノチューブ構造の多孔質材料があり、それらはチップの加工処理の間に遭遇するであろう高温に対して比較的安定である。その例として、開放細孔構造を有するGX3P(登録商標)とNANOGLASS(登録商標)(Honeywell)がある。高表面積の炭素の例としては、カーボンナノチューブがある。SiLK(登録商標)(Dow)などの他の多孔質材の例もあり、これにおいては、表面積を増大させるために最初にプラズマエッチングまたはウエットエッチングによって表面の細孔が開放される。そのような構造は、吸収性の金属表面を与えるために金属コーティングを有してもよい。
【0008】
関連する技術と対比して、高表面積の機能化にここで注目することができる。モデル化の結果として注目される例は、トリフルオロプロピルシリル基であろう。ジクロロ- またはジエトキシ-トリフルオロプロピルメチルシランまたは類似のモノマーを用いるNANOGLASS(登録商標)のためのスピンオン処理の中で、トリフルオロプロピルメチルシリル基が構成される。
【0009】
他のポリマーは、水に対して不感受性にするためのモデル化において見いだされる。これらのポリマーは高度に多孔質ではないかもしれないが、細孔が導入されてもよい。ポリノルボルネンが一例であるが、その他のものとして、エポキシ-ノボラック、pdms、ポリテトラフルオロエチレン、その他同種類のものがある。細孔を形成させるポロゲン(porogen)成分の熱分解を用いて細孔を形成するGX3P(登録商標)やNANOGLASS(登録商標)におけるものと同様の技術を用いて、高いTgを有する材料を多孔質にすることができる。水溶性のポロゲンを用いて低いTgを有する材料を多孔質にすることができ、あるいは製造された低温のポロゲンがHFCを形成する。
【0010】
図2は、ここで注目される様々な材料特性のつながりを説明する図式である。MGAの固定相のための候補材料を選択することによって、ボックス(箱形の囲み)150で始めることができる。次いで、ダイヤモンド(ひし形の囲み)151における質問へ行くことができ、ここで、材料の多孔度がMGAの固定相のために満足できるか、あるいは許容できるかを問う。回答がノーである場合、ブロック157へ行くことができ、ここで、例えば、多孔質材料を開発するためにポロゲンを用いることができる。次に、ボックス157から、ダイヤモンド156へ行くことができ、ここでの質問は、材料の多孔度が満足できるか、ということである。そうではない場合、代替材料を選択するためにブロック155へ行くことができ、ここからダイヤモンド151における多孔度についての質問へ向かうであろう。ダイヤモンド156での質問の答えがイエスである場合、水の妨害性についての質問に答えるために、ダイヤモンド152へ行くことができる。同様に、ダイヤモンド151の質問に対する回答がイエスである場合、材料の水の妨害性が満足できるか、あるいは許容できるかについてのダイヤモンド152における質問へ行くことができる。イエスである場合、材料の吸着性が許容できるかを問う別のダイヤモンド153へ行くことができる。回答がイエスである場合、ボックス154において、材料はMGAにおいて用いるために許容できるだろう。回答がノーである場合、ポリノルボルネンをベースとするマイクロGCのための固定相のための材料としての疎水性ポリマーおよび高い吸着性と低い水の感受性をもって機能するその他のポリマーを含む代替材料のボックス155へ行くことができて、そして材料を選択する。しかし、ボックス155から、その新たに選択された材料を用いて、材料が十分に多孔質であるかを問うダイヤモンド151における質問へ行くことができる。その回答がイエスである場合、その材料をもってダイヤモンド152へ行くことができ、そのステップからここで示している通りのステップをふむことができる。そうではない場合、ブロック157へ行くことができ、ここで、材料の多孔度をおそらくはポロゲンを用いて開発することができる。ボックス157から、多孔度が満足できるか、という質問としてのダイヤモンド156へ行くことができる。それが満足されない場合、代替材料を選択するためにブロック155へ行くことができる。ダイヤモンド156に対する回答がイエスである場合、水の妨害性が許容できるか、あるいは満足できるかについての質問としてのダイヤモンド152へ行くことができる。その回答がイエスである場合、そこからの順序としてここで示している通りのステップをふむことができる。ダイヤモンド152における回答がノーである場合、多孔質で吸着性のSOGなどの材料のためのボックス158において、キャッピング処理などの水の妨害性の処理が行われるだろう。そこから、水の妨害性が許容できるか、という質問としてのダイヤモンド159へ行くことができる。回答がノーである場合、ボックス155へ行くことができ、そしてボックス155の後には、ここで示している通りのステップをふむことができる。回答がイエスである場合、吸着性が許容できるか、という質問を問うダイヤモンド160へ行くことができる。回答がノーである場合、代替材料を選択してここで説明しているステップをふむために、ボックス155へ行くことができる。回答がイエスである場合、材料はMGAにおいて用いるために許容できるか、というボックス161へ行くことができる。
【0011】
試みとして、少なくとも比較に基づく予測と評価を可能にするために、固定フィルム材料の特性を評価することができる。位相化(phased)マイクロGC予備濃縮器および/または分離器のために必要な収着剤は、高度に疎水性であるがしかしある程度の極性を保持しているべきであり、また非常に低い水素結合特性を有し、そして300℃よりも高い温度と空気中で200℃よりも高い温度での繰返しのサイクルに耐えることができるべきである。それはまた、低い水の収着性を有するべきである。
【0012】
この要求は、ここで示される幾つかの材料を用いて実現されうる。例えば、高度に無極性の材料を用いることができる。無極性収着剤として、SilkまたはGX3Pなどの有機低k(low k)誘電体を用いることができる。無極性収着剤として、ナノチューブを用いることができる。材料の要件を達成するために、現行のシリカ/アルミナ収着剤を金属コーティングして、有機低k誘電体またはナノチューブを金属コーティングすることができる。用いることのできる別の材料は低k複合材である。これらの材料は収着剤にある程度の結合エネルギーを与え、また、熱分解を起こさずに分離するための表面積を与えることができる。
【0013】
GX3Pのフィルムまたは層を、開放細孔を有する収着剤または分離器(セパレータ)として用いることができる。この層は、マイクロGCによって必要とされる開放細孔、高い表面積および無極性表面を与えることができる。芳香族性は、単離された薬剤に幾分かの結合を与えることができる。この層は、ICほどには多くのプロセスを受けないと思われ、従ってそれは低弾性率材料として適している。
【0014】
カーボンナノチューブ(CNT’s)のコーティング(標準的なCVD堆積を有するもの)は、高い表面積を与えるために製造することができる。CNT’sは、(SilkまたはGX3Pなどの有機低k誘電体よりも高い)熱安定性を有する非常に高い表面積を与えるかもしれない。この黒鉛炭素は、高度に疎水性の環境を維持しながら、吸収性の種に幾分かの活性を与えてもよい。
【0015】
一つは、現行の多孔質無機材料への金属の薄い(すなわち、オングストロームの範囲での)CVDまたはALDコーティングであろう。金属のCVDまたはALDの薄いコーティングは有機低k誘電体またはナノチューブに付着させることができ、これは金属の表面積を増大させるために塊状にコーティングされた基材を含むことができる。金属コーティングは無極性物質にさえも活性を付与し、無機収着剤よりも低い水の収着性を与えることができる。
【0016】
低k無機材料と低k有機材料の複合構造は、高度に親水性の無機材料と高度に疎水性の有機材料の間の中間的な解決策を与えることができ、しかしそれは、極性の増大により、有機材料だけを用いるよりも大きな収着剤活性をも与えることができる。
【0017】
別の手法は、変性されたNANOGLASS(登録商標)を使用することを含んでもよい。メチル基の代わりに、他の有機シランが配合物のために用いられるかもしれない。有機物の含有量を増大させるために、理論量(化学量論量)も調製されるかもしれない。ケイ素の上の有機基はシリケートの水素結合活性を改変し、そして表面により大きな疎水性を与えるかもしれない。モデル化によれば、フェニル化したナノグラスは水分の影響に対する良好な抵抗を与えるかもしれないが、しかし、標準のナノグラスは良好なCO2/EtOHエネルギー分離を有するようである。標準のナノグラスの単一体の混合物とすることや、標準のナノグラスのパターン化およびフェニル化したナノグラスを用いる別のパターン化が必要とされてもよい。
【0018】
多孔質誘電体のためのシリル強化剤のための新しい離脱基と化学種が必要とされてもよい。公知の現行のシリルアセトキシ強化剤(TA)は銅との反応を受けやすいようであり、それにより銅のエッチングと残留物の形成が生じる。TAにおいて用いられる酢酸アンモニウムと酢酸の条件は、銅のエッチングと残留物の形成をもたらすかもしれない。これらの条件を避けるための試みにおいて、幾つかの新しい化合物が確認されている。一つの群において、中性の離脱基を用いることができ、そしてこれはシリルアセテートに類似する水分感受性を有し、そのため容易に加水分解してマトリックスのSiOHと反応することが、文献で示されている。第二の群はHMDZに類似しているが、しかしそれはトリメチルシリル基よりもむしろジメチルシリル基を用いるかもしれない。この場合、アンモニアまたはアミドが離脱基となるであろう。
【0019】
新しいTA剤の第一の群は、中性の離脱基を用いることができる。中性の離脱基によれば、現行のアセトキシ基のエッチングと触媒作用の問題が避けられるかもしれない。この手法は、アミド離脱基は関連する技術において用いられるジアセトキシに対する良好な代替物であるかもしれない、ということを示唆する。従って、ジメチルシリルジアセトアミドまたはジメチルシリルジホルムアミドは、それらの離脱基が中性の液体である最も簡単な化合物であるかもしれない。TA反応は次のものを含むだろう:Si(NCOR) → SiOH + HNCOR および SiOH + SiOH → SiOSi 。関連する技術は、Si(NCOR) が容易に加水分解することを示しているようである。アミド基は中性または中性に近いことが知られているであろうから、それは酸エッチングの問題には含まれるべきでない。中性の離脱基の形成を用いると、(アセトキシ基を用いて得られる酸条件とは対照的に)より高いpH条件において縮合反応が進行することができる。
【0020】
離脱基としてアンモニアを含む第二の化学種を考えることができて、それはHMDZに対して類似性を有してもよい。しかし、この新しい化合物はナノグラスまたはシリカと反応するべきであり、それによりジメチル橋かけ基が形成され、これはHMDZからのトリメチルシリルキャッピング基よりも安定しているだろう。これらの新しい化合物としては、(限定するものではないが)ヘキサメチルシクロトリシラザン、ビスジメチルアミノジメチルシランおよびビスジエチルアミノジメチルシランがある。ジアミド化合物はHMDZまたはジアセトキシ化学種とは全く異なる化学種であると認識されるだろう。アミノ化合物は類似する化学種を有するかもしれないが、しかしこれはTAの適用に対してジメチルシリルアミンを保護し、これにおいてジメチル基は、HMDZにおいて見いだされるトリメチル基よりも良好な安定性を有することが見いだされる。
【0021】
多孔質の吸着性SOGのためにキャッピング剤を用いることができる。キャッピング剤は、マイクロクロマトグラフィの用途のために用いられる薄膜の多孔質SOG’sにおいて疎水性を促進するために用いることができる。微量ガス分析器において用いられる薄膜は、多孔質で薄く、そして高度に疎水性であるべきである。吸着材料として通常用いられるSOG’sは、高い親水性を生じさせる未反応のSiOHの官能価を許容するかもしれない。これらの薬剤の使用は、水の妨害に対する吸着特性を不感受性にするほどに十分に疎水性を増大させるべきである。
【0022】
この手法は、ここで言及されている現行の強化剤材料と関係しているとともに、クロマトグラフィの用途のためのナノグラスおよびGX3Pの使用を記述する別の手法と関係しているかもしれず、また、多孔質誘電体のためのシリル強化剤のための新しい離脱基と化学種を記述する手法とも関係しているかもしれない。ここでの類似性はシリケートのSiOH基と反応させるために用いられる類似する化合物の記述におけるものであるが、しかし、この手法は、主として強化(toughening)のためではなく吸着性の向上のために疎水性を増大させるという明示された目的のために用いることができる。付随的な利益は強化フィルムである。
【0023】
この手法は、SiOHを有機官能価でキャップするために、強化剤としても機能するDMDAS、HMDZ、HMCTZ、DMSF、DMSDA、BDMADS、BDEADMS、ジメチルシリルジアセトアミドおよびジメチルシリルジホルムアミドなどの薬剤を用いてもよい。可能性のあるキャッピング剤のリストには、上の化合物のジアルキルシリル誘導体とジアリールシリル誘導体も含んでもよい。特に良好なキャッピング剤は、低い水の感受性を示すことが近年評価されている、トリフルオロプロピルメチルシリルクロリドから誘導されるトリフルオロプロピルメチルシリル基であろう。
【0024】
マイクロGCのための固定相として用いられる疎水性ポリマーは、ポリノルボルネンおよびその他のポリマーをベースとしてもよい。マイクロGCの固定相は、分析物に対して高い親和性をもって作用し、それと同時に、大気中の水分からの妨害性をほとんど有していないか、あるいは全く有していないものであるべきである。この手法は、高い吸着性と低い水の感受性をもって機能するべき、疎水性ポリマーからなる固定相を明らかにする。
【0025】
分子モデル化の研究は、高い疎水性を有する材料はGCの固定相として水分の妨害に対する抵抗性を有し、従って位相化微量ガス分析器においてシリケートよりも良好に機能する、ということを示しているようである。ここで、カーボンナノチューブやGX3Pなどの高度に炭素をベースとする材料は、シリケートタイプの材料と比較して、低い水の妨害性を有する良好なGC基材となるはずである、ということを認識することができる。
【0026】
この手法は、ポリノルボルネン、PDMS、テフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン)またはフッ素化ポリオレフィンおよびノボラック樹脂を含めて、良好な固定相となるべき疎水性材料のリストを拡張するかもしれない。ポリノルボルネン(開環のない環状オレフィンによって重合したもの)の表面は、吸着エネルギーが他のものの表面について見いだされるものよりも高く、濃縮器の基材となるであろうという点で、興味深く思われる。このポリマーの密度は他のポリマーよりもずっと小さいと思われ、分析物の化学種の深い浸透を可能にし、吸着を改善するだろう。分析物が物体の内部に置かれるときに見いだされる高い吸着エネルギーは、このことが真実であろうということを示唆する。テフロン(登録商標)とPDMSの表面は、水の吸着の影響に強く抗するようである。極性基も極性の高い種の吸着性に寄与するようであるから、水素結合性水素の欠如によって高度に疎水性である固定相は水の妨害性が低く、そしてその固定相が(水素結合性水素を伴わずに)極性基も有している場合は、極性分析物の吸着性は増大するであろう、と結論づけられるだろう。極性の高いポリマーを用いることによる性能の増大は、大量の極性の高いエーテル結合(これのモデルにおいては、遊離ヒドロキシル基の大部分を結び付けるために高い硬化度(cure)を有していると考えられる)を含有するエポキシノボラックのモデルと同様に、ジフルオロメチル基が大きな双極子モーメントを有しているポリテトラフルオロエチレンのモデルにおいて見いだされるだろう。
【0027】
ここで述べる位相化(PHASED)(検出能を向上させるために位相化(段階化)したヒーター配列の構造)微量ガス分析器のためのフィルムの開発は、その高速性(トータルの分析時間が3秒未満)、感度(1ppb未満)および選択性能を達成するための要点であろう。微量分析器は、一体化した流量、温度および熱伝導度の検出器(TCD)、多段予備濃縮(PC)、およびバルブを用いない注入を採用し、そして(空気)試料ガス以外の余分のキャリヤーガスを用いないSi微細機械加工したガスクロマトグラフィーのチャネルに基礎を置くであろう。オンチップの一体化した20〜50段階のPC、流量センサー、分割化分離器カラム、およびTCDを有する、40、60および100の要素からなる位相化ヒーターの配列が組立てられるかもしれない。手のひらサイズであることや入手容易性という目的を満たしながら、環境、自国での安全性、生物工学および医療診断への適用性に加えて、選択された製造加工現場におけるNeSSI(ニューサンプリング/センサーイニシアチブ)装置の実地試験のための規格化された1.5×1.5インチ・モジュールのSP-76基板との互換性のあるアップグレードバージョンが組立てられ、そしてパッケージ化されるかもしれない。
【0028】
測定結果は、優れた反復性と、20段階の予備濃縮器(pre-concentrator)での脱着のための約8msのTDCピーク幅(すなわち、100/秒を超えるピーク容量)を伴って得られるかもしれず、これは試料/キャリヤーガスの流速と同調し、そして次には注入される熱パルスと同調するかもしれず、そして付加的な検出器として3ms以下のピーク幅、1ms未満のTCD応答時間、および高感度のマイクロ排出デバイスと調和するようにされるだろう。
【0029】
モデル化の努力は、最適な吸収剤、分離器およびポリマーフィルムの材料のモデル化、合成および選択に焦点が当てられるだろう。唯一の沸点Tb と元素組成を有するあらゆる分析物についての誘電率ε(すなわち、分析物そして固定フィルムの極性)、分配定数K、保持係数k’ 、および保持時間tr を見積もるために、解決策が用いられるだろう。Kを見積もるために、沸点Tb にεを付加することは、Tb だけに基づく見積りよりも2〜4倍の低さをもって、不確実さを減少させるだろう。このモデル化の努力は、Kが最大値に達した後にも極性が増大するときに、分配定数と保持時間が低下するなど、分析物の保持性と極性の間の関係に予期せざる新たな洞察を与えるようである。実験上の等温GC(ガスクロマトグラフィー)分離の結果を拡張させるか、あるいはかき跡(scratch)からそのクロマトグラムを描くかのいずれかによって、得られたKとk’ の値およびそれらから見積もられるフィルムの吸着エンタルピーを用いて、分離カラムの制御された温度勾配(temperature ramping)の利益についてシミュレーションが行われ、そして視覚化されるかもしれない。
【0030】
特定のMDL(最小検出限度)を予測してこれを満たし、そしてこの予測が必要となる所定の分析物についてのPCレベルを満たすために、位相化チップを用いて得られる実験データを用いて多段予備濃縮器の第一原理のモデルが確認されるだろう。次いで、一つのレベルについてのPC利得(PC gain)である薄膜タイプの毛管(キャピラリー)PCが、そのフィルム厚さ、その段階の数、吸収温度と排出温度、および注目している分析物の吸着エンタルピー(これは典型的には6〜15kcal/モル、または20〜70kJ/モルの範囲となるだろう)の関数として計算されるだろう。次いで、固定フィルム材料の特性が評価され、これにより少なくとも相対的な予測と評価が可能になるであろう。
【0031】
サイズのいかんにかかわらず、ガスクロマトグラフは、主として吸着エネルギー(これは沸点と関係がある)によって決定されるであろう分離カラムの固定相の上での保持性の差異によってガスの混合物を分離するものであるという意味において、沸点分析計とみなすことができる。従って、異なる沸点を有する化合物は異なる相互作用エネルギーを有し、 異なる長さの時間にわたって保持され、それにより互いに分離されて、個々に分析される。固定相の性質も保持時間tR に影響すると思われ、関係する保持係数k’ =(tR−t0)/t0 であり、分析物についての保持指数iは、
Ii = 100 {log(tRi /tRn) / log(tRn+z /tRn)+n}
ここで、n =nのC原子のアルカン、z =1または2、である。というのは、各々のフィルム材料も吸着エネルギーまたはエンタルピーΔHに影響するからである。k’ とΔHは、log(k’2/k’1) =ΔH / R(1/T2−1/T2) という非常に簡単な関係式によって関係づけられる。これの影響はあまり大きくはなく、約50%未満にしかならないけれども、それは分離手順の一部についての基礎となるであろう。一般に、アルコール、水およびケトンなどの極性化合物は、アルカン、二分子ガスおよび希ガスなどの無極性化合物よりも高い吸着エネルギーを有し、従って保持時間が長いと考えられる。大きな範囲の保持時間とエネルギーを有する固定相は、良好な分離のために望ましいものであろう。良好な予備濃縮(pre-concentration)のためには、高い物質移動速度と貯蔵容量を得るために、高い比表面積も必要であろう。
【0032】
トレードオフ(交換取引)が存在するかもしれない。分析物からなる未知の混合物が極性化合物と無極性化合物の両者を含む場合であって、目下の課題が全ての分析物の溶離と分析のための手順を考案することである場合、選択されるカラムの分離力を、全ての化合物が分離されるほど十分に強くすることを確実にしなければならない。これは、長さが20〜60mで5〜30分の分析時間の毛管カラムを有するデスクトップGCを用いて達成されるだろう。これに加えて、厳しいエネルギー経費の中で、4〜10秒未満で分析を完了させて、そして注目している対象の分析物を1000〜10000倍も予備濃縮する必要がある場合は、もっと高性能で速い分析方法を探究し、考案する必要があるだろう。
【0033】
試料ガス中に存在する1〜3モル%の水蒸気を処理するための解決策が必要であるかもしれない。そのような水蒸気は、多くの吸着位置を占めて、吸着材と分離器のフィルム材料の効率を低下させるだろう。材料の上での保持時間と分離が予測できるのであれば、そのような材料の選択は容易になるだろう。
【0034】
予備濃縮のトレードオフ、すなわち1000〜10000倍のPCを求めるための、加熱 対 加熱と冷却のトレードオフが存在するかもしれず、これには、予備濃縮器の配列の中で必要な数の要素を加熱するだけによってそのような利得を達成するのと、脱着に供するまでに要素を加熱する前に予備濃縮器の配列の中で(より短い時間とより少ない送出エネルギーで多くの吸着を達成するために)もっと少ない数の要素を冷却することによってそのような利得を達成するのとでは、いずれがエネルギー効率が高いかという問題を伴う。もし実現可能であるならば、「加熱のみ」の手法の方がはるかに効率がよいと思われる。というのは、(ペルチエ(Peltier))冷却の手法は、吸収と吸着を行う時間の間に不断の動力の流出(power drain)を必要とするはずだからである。
【0035】
キャリヤーガス(空気、H2またはHe)のトレードオフが存在するかもしれない。流体の複雑さと機械的な複雑さの観点から、キャリヤーガスとしての空気の使用は、小型で独立型のMGAのためには複雑さの最も低いやり方であろう。あるものは現場でのH2またはHeの貯蔵または生成を必要としないはずであり、最適なGC分離のために必要な流量は少なくなり、従ってポンプのサイズと出力は低減するはずである。しかし、TDC、MDDおよびMS検出器のS/Nと感度はH2を用いると高いかもしれず、そして特にMDDとMSについてはHeを用いると高いかもしれない。考慮すべきさらなる観点はソフトなイオン化という考え方であり、これについては以下で述べる。
【0036】
ある中間体のイオンがあるかもしれず、典型的にはH3O+ であるが、これはH+ イオンを注目している分析物に移動させる。これは空気キャリヤーを用いて有利に行われるであろう。というのは、H+ イオンに対するO2 、N2およびArの親和性は大部分の分析物の親和性よりもずっと低いからである。あるいは、試料ガス中の分析物は、それらを強い電界に晒すことによってイオン化される。しかしながら、同定を容易にするために、分析物の破砕を用いるイオン化が望ましいかもしれない。現在においては、小型で高速度の分析微量分析器において用いるためのソフトなイオン化(soft ionization)が考えられる。図3の表は、これらの手法の賛否を要約したものである。
【0037】
幾つかの例において、無極性相であるPDMSと極性相であるPEGの上のn-オクタノール-1についての保持指数の変化は、参照のPDMSの上のn-オクタンよりもすでに30%高いにもかかわらず、I=1038から1545への変化であり、すなわち50%の増大である。図4の表は、幾つかのその他の関連する指数の値を示す。
【0038】
位相化(PHASED)MGA分離の操作と性能に言及することができる。あらゆる分析物または分析物の混合物の位相化分離と溶離を記述してモデル化するために、あるものは物理学と熱力学から始め、分析物と固定相の物理的特性に基づく分離を評価する。位相化された構造的特徴によってなされる分析器の分解能への寄与について考察し、次に、分析物の熱力学的特性と物理的特性が保持時間を予測するのにどの程度役立つかを扱うことができる。
【0039】
位相化(PHASED)分析器の構造は、図5に示すように、連続したカラムを形成する予備濃縮器の要素と分離器の要素の配列からなることができる。図6に示すように、このようなカラムは断面が矩形のものにすることができ、この場合、薄膜ヒーターとそれに対応する薄膜固定相の配列が四つの側壁のうちの一つを占める。これは他の様式のGC構造物とはかなり異なっていて、特に、厚さ0.1〜10μmの固定相または固定フィルムで内径が均一にコーティングされた円形の断面の毛管からなる分離カラムについてのGC構造物とはかなり異なっている。
【0040】
矩形断面のカラムの一つの側面のコーティングと、位相化(PHASED)カラムのコーティングされていない壁面上での不均一な加熱またはそのような加熱が全く無いことに関しての分解能について言及することができる。性能が低下することの危険性を低減することに関しての理論的な解明について、以下で述べられるだろう。
【0041】
一つの項目は、一つの側面上にコーティングを有することである。GCカラムの理論プレート高さと非円形の矩形で部分的にコーティングされたカラムに対する解析についてのゴーレイ(Golay)の式を拡張すると、固定相からなる均一な内部コーティングを有する円形カラムと、全ての壁面がコーティングされた矩形カラムと、一つの壁面がコーティングされた矩形カラムの間の比較を行うことができる。これらの構造の理論プレート高さはそれぞれ1:1.5:2と関係づけられる。コーティングされない壁がプレート高さをあまり大きくは増大させない理由は、流線流の成層の効果をかなり消滅させる急速な半径方向への拡散が寄与するためであろう。ガス相の拡散がない場合、コーティングされない壁の近くでの保持時間tr =t0 は非保持時間t0 のものに相当し、従って、分離が全く起こらず、ある範囲の保持時間からなる非常に広い溶離ピークが生じるだろう。2倍低い位相化単一コーティング壁の分解能についての意義は、同等のサイズの毛管に対して、それよりも大きくはないということであろう。加えてそれは、実験上の証拠によって支持されうる。上の2倍の低下という倍率はもっと小さいかもしれない。
【0042】
不均一な加熱は必ずしも論点ではない。次のことに言及することができる。1)カラム温度が15〜20℃上昇するごとに、溶離時間を約2倍短縮することができる。そして、2)溶離時間に関してk’ = (tr −t0)/t0 と表される溶離係数または容量係数は固定フィルムの厚さに比例するだろう(例えば、厚さを600nmから10nmまたは0.5nmまで減少させるとk’ は60〜1200倍減少するだろう)。温度を変化させる間、(加熱される膜壁に面している)加熱されない壁は、加熱されるフィルムよりも20〜180℃だけ時々低温になるかもしれず、これにより少なくともその時間の一部においてk’ は約2〜1500倍増大するかもしれない。このことにより、加熱されない壁のずっと薄いフィルム(これはシロキサンまたはSiO2をベースとするカラム材料とフィルム材料から残っているSiOHを「キャップ」するための1nm未満の「失活」フィルムだけからなる)のk’ への影響が部分的に埋め合わされるかもしれない。低温壁のフィルムの厚さ(および物質塗布能力)は非常に小さいかもしれないので、全体的な分離の「作業」へのそれの寄与は小さいと思われるが、しかしk’ (低温) ≧0を達成するための助けとなると考えられ、ひいては、理論プレート高さのペナルティ係数を2倍低減することを達成するための助けとなるかもしれない。
【0043】
「単一壁」と「不均一加熱」の両者の効果の量的な価値は、実験的に決定することができる。工業、環境、医療およびホームセキュリティに関する分析物についてのGC保持時間を計算することができる。GCをベースとする分析器は、固定フィルムの温度、明示されるフィルムの厚さ、および小さい、中間または大きな分析物の分子の所望の分離を達成するための材料のタイプを制御する手法を用いて製造することができる。原子組成と沸点だけが既知の一組の分析物のk’ 値を達成し、それにより予測可能な分離を達成するためにフィルムとカラムの形態を調整することは、ガスクロマトグラフィー分析者が実行可能であろう。分析物の特性と溶離時間の間の簡単な関係は、分析物の沸点であろう。下記の手法のうちの一つ以上のものによって、分配(または平衡)定数Kを決定し、そしてそこから、k’ = K/β およびtr = t0 (k’ + 1) という既知の関係を用いてk’ とtr の値を決定することができる。
【0044】
一つの手法は、分析物のk’ 値−フィルムのk’ 値の生成されたデータバンクによる実験的なものであろう。(フィルム厚さの不確実さがあるにもかかわらず)これらのk’ 値は、それらについての特定の値である β=(ガスの容積)/(固定フィルムの容積)についてK = k’・β に変換することができ、ここから、他のカラムの形態についてのk’ 値を得ることができる。
【0045】
もう一つは、吸着エンタルピーΔHの分子モデル化とそれのKに対する ln(K) =ΔH/RT−ΔS/Rという関係によってKを計算することであり、ここで、トルートン(Trouton)の規則によれば、蒸発エントロピーは沸点TbにおいておよそΔS = H/ Tb である。このモデル化の作業についての情報は図7と図8の棒グラフに示すことができ、ここで図7は、文献からの蒸発エンタルピー、様々な温度における実験上の等温GC保持時間、および分子モデル化の間の比較を示す。図7のモデル確認の結果に示すように、モデル化の不確実さは実験データのものよりも少しも大きくないと思われる。
【0046】
分析物の沸点Tb、およびその(液体の)比誘電率εとの相関関係によってKの計算が行われてもよく、これは、これがK=K(Tb)よりも正確なK値になるかもしれないという発見的仮定の下で、その極性すなわちK=K(Tb ,ε)を表すことができる。
【0047】
線形溶媒和エネルギーの関係(LSERs)によってKの計算が行われてもよい。LSERsの展開において、誘電率が用いられたであろうが、しかしそれは、モデル化のためのもっと良好な変数のセットとして、π、α、β、Rおよび log L16の変数のセットと置き換えられた。モル屈折、従ってεをLSERsの分極率パラメーター Rに組み込むことができる。
【0048】
分子モデル化およびK=K(Tb ,ε)という手法について得られる結果に言及することができる。分子モデル化について、計算されるエネルギーは標準のニュートン力の場(CVFF / Accelrys, Inc. からのDiscoverを用いる)を用いて生成されるだろう。力の場は、システムの全体のエネルギーを計算するために、重要な結合力と非結合力のパラメーター表示を含むだろう。
【式1】
【0049】
【0050】
ここで、最初の4つの項はそれぞれ、結合伸縮、結合角、結合の捩れ、および面外移動を表し、5〜9番めの項は共役変形を表し、そして最後の2つの項はファンデルワールス力とクーロン力の寄与に対する非結合相互作用を表す。力の場のニュートン分子モデル化は一般に、これらの寄与の全てを用いる。
【0051】
図7は、凝縮した状態から分子状態になるときのモデル化した全体の内部エネルギー変化から見積もることのできる計算された蒸発のエンタルピーを示し、ここでΔH=ΔE + nRTである。モデルの蒸発エネルギーは文献の値と十分に一致するようであり、従って、計算の確認の方式を与える。しかし、吸着力について固定相を選別することにおいて分子モデルを適用することで検討を行うことができ(図8)、また通常の水の妨害に対する固定相の抵抗性を決定することにおいてもそのような検討を行うことができる。
【0052】
図8は、注目される幾つかの化合物についての相互作用エネルギーまたは吸着(内部)エネルギー、および分析物の試料混合物の中での水蒸気の存在へのそれらの依存性を示す(これらはフィルム表面の水和状態と非水和状態の対比に通じる)。挙げられた固定相フィルム材料の中で、特にDMMPなどの極性分析物について、材料は水の存在へのΔH-依存性の低下を示すようであり、その一方で、比較的大きな吸着エネルギーを維持する。そのような材料としては、有機シリケート、エポキシ-ノボラック、PDMS、黒鉛/炭素ナノチューブ、ポリアダマンチル-アリーレンおよびポリテトラフルオロエチレンがある。図8は、非極性分析物(デカン)と極性分析物(DMMP)の間の吸着性の差異を示し、また極性DMMPの高い水和効果も示している。黒鉛やアリーレン-アセチリドのような高度に疎水性の表面は、水和したときに高いDMMP吸着性を有し、従って、極性分析物を吸着するときの固定相の表面の極性の性質の重要性を示唆している。注目すべき表面は、高い特有の結合双極子モーメント(C-F)を有すると考えられ、そして非常に低い水の妨害性を有するテトラフルオロエチレンである。これらの項目は、固定相の中にある形態の極性が存在していて、しかし水分からの妨害を低減するために低い水素結合能を有することが望ましいであろう、ということを示唆している。これらの所見は、それ自体の分子の表面に吸着する様々な試料分析物についてのモデル化した吸着エネルギーに対して行ったQSAR分析と一致するだろう。双極子モーメント、モル屈折率、原子分極率、溶解度、分子量、密度および水素結合能などの分子性状を変数として用いてもよい。この場合、双極子モーメントによって示される極性は重要な変数であろう(r2 =0.998)。
ΔEads(水和) =
28.4871 + 1.19332・(慣性モーメント) + 4.10169・(双極子の大きさ)
− 5.10113・(双極子のz成分) − 0.108962・(モル屈折率)
【0053】
極性の問題は固定相の設計において重要なことであろう。特に、濃縮または分離がチップスケールのデバイス上で非常に小さな態様をもって比較的短い時間で生じるべきであるということを検討する場合には、重要なことであろう。しかしながら、材料設計による吸着性の変化をモデル化によってもっと量的に説明しうる以上は、デバイスの薄膜構成の活性に有害な影響を与えるかもしれないベースのポリマーは必ずしも用いられないのであるから、表面の機能化をベースの固定相に最良に適合させるという問題に留意すべきである。さらに、適切な表面積を与えるタイプのベース材料で、入手可能なものは限られている。現在のモデルは吸着が重要な性能変数であると仮定しているのであろうから、表面拡散を材料の性能に関連させる必要があるかもしれないというような動力学的な問題についてのモデル化の改良が必要である。
【0054】
K=K(Tb ,ε)という手法について言及する。K=K(Tb ,ε)の相関を引き出す、すなわち「誘導する(train)」ために、PDMSをベースとするカラムを用いるGC測定のために与えられる一組のk’ 値(298Kに規準化されたもの)を用いることができる。図10の表3は、誘導のために用いられた分析物(最初のグループA)および「試験」または「確認」のために用いられた分析物(グループB)を挙げたものであり、これらについてk’ とKのデータを利用することができる。図11は、誘導のセットについての計算と実験によるK値のプロット(黒いひし形と正方形のグループA)および「確認」のセットについての計算と実験によるK値のプロット(ひし形、正方形および逆三角形のグループB)を示し、εのデータがない幾つかの化合物のK値は、それらの沸点と計算された誘電率から見積もることができる。かなり純粋なPDMS固定相(RTX-1およびDB-5)について、誘導された相関K=K(Tb ,ε)は、下記の項目に基づく適合性についての不確実さの低さ(1-シグマ)に関して改善されたと思われる。
1.一つの線形Tb 項、そしてε項なし: グループAの11の化合物について±15.8%、
2.非線形指数を有する一つのTbm・εn 項: グループAの11の化合物について±7.4%、
3.個々のTbm・項とεn 項、m=1: グループAおよびBの16の化合物について±6.6%(2つの孤立値を除外した後)、
4.単一の線形Tb 項プラス2つの非線形ε項とTb・ε項、孤立値の除外なし: グループAおよびBの18の化合物について±3.4%。
【0055】
F-100、PDMS/RTX-1およびそのフッ素化された変形(RTX-200)について誘導された、この最後のタイプの相関を以下に示す。
【式2】
【0056】
【0057】
誘電率が沸点温度に加えられるので、相関の不確実さは約2〜4倍改善されるだろう。PDMSの上で分析され、そして分離されたガスについて、分析物の数が11から18へ増大するにもかかわらず、その改善は±15.8%の標準偏差から3.4%までであろう。F-100の上で分析され、そして分離された13のガスについて、その改善は±4.47%の標準偏差から±2.77%までであろう。
【0058】
図12〜図16は相関をグラフで表示したものである。図12と図13において、K(Tb * ,ε)を計算するために、200、300、...、500°Kからなる湾曲した沸点温度に相当する曲線上で、それらの沸点がTb *= INT((Tb +50)/100)*100 となるように選択し、そしてそれらの真の誘電率εを選択することによって、ポイントを置き換えることができ、これが曲線を描く方法でもある。しかしながら、図14、15および16については、εの値を変化させることなく、実際の相関式からのそれらの相対的な距離が維持されて、それと同時に、示された一定のTb 曲線のうちの一つの方向へその縦座標の値を移動させるようなやり方で、一様な沸点温度(200、300、400°K 、...)からなる一定のTb 曲線の方向へ個々の因子だけによって各々のK値を移動させるK=KmK(Tb* ,ε)/ K(Tb ,ε)をプロットすることによって、プロットされたKは、それらの測定値Kmの変化性の「傾向(flavor)」を維持することができる。測定された値がKm =K(Tb ,ε)である場合は、その一様な温度曲線のうちの一つからの、そのKの目盛りの距離はゼロであろう。この演習を行う理由は、K―Tb ―εの 3-D(三次元)表面をもっと視覚化し、そして 3-Dプロットに頼ることなく、εに含まれた関係とεの役割を理解することである。
【0059】
次いで、3つの固定相であるPDMS、RTX-200およびF-100についてのK対εのプロットにおける一定の沸騰温度曲線を比較し、そしてこれらの曲線が特定の分析物の極性すなわちεの値について最大のK値を示すかに注目し、また、「極性」のより大きい固定相に対する強いε依存性があるか、すなわちK値が最大値になった後のもっと低いεの値においてK値がもっと急速に減少するか、そして非常に大きな極性を呈する分析物がそれらの沸点だけに基づいて見積もられる値よりも低いK値を有するか、そしてこれにより比較的低いk’ 値が示されてもっと短い時間にわたって維持されるか、に注目することができる。
【0060】
もっと多くの分析物を用いて、特に高度に極性の分析物を用いて、これらの傾向と関係が確かめられたならば、極性化合物を分離するがしかし水を多くは保持しない固定相を有するものを把握することができる。高度に極性の分析物とそれらのε値の例としては、ホルムアミド−84、水−79、メタノール−33、およびエタノール−25がある。
【0061】
さらに立ちはだかる他の難題としては、毛管カラムの内部にある固定相フィルムの正確な厚さの決定があるだろう。これは、測定された保持係数または容量係数k’ を分配係数Kに、容積比率β=(ガス相)/(固定相)、およびK=k’・βによって関係付けることである。これを解決するために、固定相を堆積する前と後での毛管の微少な重量増加に基づく重量測定の手法の実行可能性を探求することができる。次いで、固定相の密度を用いてその固定相の容積および(均一であると仮定される)フィルム厚さに到達し、そしてゼロ保持時間t0 の正確な決定を行う。これは従来のFID検出器を用いてはしばしば困難であるが、しかし位相化構造(PHASED)に含まれるTCD検出器またはMDD検出器を用いると困難ではなく、それは非有機物ガスにも対応できる。
【0062】
分析物の極性すなわち誘電率εの評価に注目することができる。(分析物と固定相の間の)分配係数Kの評価を支援しそして補完するために、ε値を知ることが有利であることが示され、分析物の液体状態での分析物の比誘電率εを見積もるための思考プロセスを示すことができるが、そのような状態とは、ガスクロマトグラフィーカラムの固定相フィルム上での分析物の溶媒和または吸着と関係する状態であろう。このことは、依然として、Kに及ぼす固定相のεの仮定の影響を、分析すべき未解決のことにしておくかもしれない。
【0063】
分子の極性、モル屈折率および誘電率の間の関係は、古典的な光学についてのローレンツ-ローレンスの式を論じるものであろう。この式は、平均の分極率α、モル屈折率A、および誘電率εに関するもので、このとき、α・4・π・N/3≡A=(ε−1)/(ε+2)であり、ここでN=6.02・10−23 である1モル当りの分子のアボガドロ数である。ε=n2 というマックスウェルの関係はεが周波数依存性であることを意味し、このことは物質すなわち分析物の1モルの総分極率であるモル屈折率Aについても同様であり、従って、そのガス圧力あるいはそのガスまたは液体の状態から完全に独立しているだろう。Kを予測する部分においてAは物質定数であり、これはその原子成分Ai の関数であってそれらから予測可能であり、このことはO2 、HCl、H2O、CS2 およびアセトンについて示されるだろう。εを明確に得るために、上の式を ε=(1+2・A)/(1−A)と書き換えることができるが、しかしこれはAの値がA ?1に限定されることを意味する。というのは、A >1の値はεを負の値にするであろうからである。
【0064】
ポリマーフィルム材料の上での分析物の吸着または溶解は高い(光周波数)誘電率すなわち分極率によってはあまり影響を受けず、むしろDCすなわちεの低周波数の値による影響を受けるであろうから、一組の既知のε値に対して新しい低周波数のA値を適合させることができ、ここから、関係する原子種の寄与を伴う回帰分析によって注目している分析物について必要なAi を引き出すことができる。
【0065】
従って、H、C、O、Cl、S、NおよびPのそれぞれを表すためにi=1〜7を選択し、そしてHC、OH、HClおよびHPのグループの寄与をさらに表すためにi=11まで発見的に拡張し、そして最初の7つの原子の寄与について非線形指数を与えることによって回帰を最適化することができる。これにより、1-シグマの回帰の不確実さは約±13%から5.4%まで狭くなるようである。図17は、文献によるεの値とこのようにして計算されたεの値との間の得られた相関をグラフで表したものである。黒い色(小さなひし形または正方形)のポイントは相関を引き出すために用いられたデータのセットを表し、一方、薄い緑色(大きな正方形)のポイントはその相関を確認するために用いられたεのデータを表す。三角形は計算された値すなわち見積りの値だけを表す。というのは、測定されるε値は、それらの化合物については容易に得られないようだからである。
【0066】
パラメーター分析は実験のGCデータに基づくであろう。8つの化合物(ドデカン、オクタノール、トルエン、ヘキサン、DMMP、DEMP、DEEPおよびDCH)からなる分析混合物を分析し、そして分離することができ、これは図18の複合物において示される。これらは、1.5mの長さと100μmの内径を有する毛管と、非常に薄い中間の極性を有する固定相(F-100)および平均的な速度でのH2キャリヤーガスを用いて得られた、100、110および125℃における等温試験である。
【0067】
同様の毛管に基づく分離のパラメーター分析と位相化チップにおいて得られるチャネル形態のパラメーター分析(それ自体の形態によって表されるもの)について実験のクロマトグラムに埋め込まれた情報を利用することができる。(仮定された周囲条件において)8.96mL/分のH2ガスキャリヤー流量を用いる110℃における8つの成分の試験の保持時間tr からt0 とk’ を決定することができ、それによって毛管の温度勾配の利益をシミュレーションし(これは高速クロマトグラフィの設定において実験で得ることはできないだろう)、次いで、これらの項目を位相化構造(PHASED)の予測性能に直すことができる。
【0068】
t0 とk’ の決定があるだろう。そのような決定に言及する前に、GCデータの分析の幾つかの面に言及することができる。
ln(k’) 対沸点Tb をプロットし(DEMPとDCHについてのTb はここでは利用できない)、そしてt0(ゼロ保持時間)を変えることによって直線を得ることを試みることによって、t0 =227msを伴うデータに最も適合するものを引き出すことができ、それについてのプロットを図19に示す(しばしば突出する離れた点はDMMPについてのものである)。また、流れとGCの条件については、ドデカンについてk’ =1.696、カラムの入口において26.26psid、そしてH2 の平均のガス速度について5.55m/sであり、この結果は、周囲条件において2mL/分のH2ガスの流れとなり、そして8.96mL/分の実験値よりもずっと小さいと思われる。
【0069】
8.96mL/分からt0 を計算して、速度とt0 に及ぼす温度の影響を修正することによって、t0 =60.4msと図20を得ることができる(ここで、離れた点はヘキサンとトルエンについてのものである)。また、流れとGCの条件については、ドデカンについてk’ =9.21、117.6psidとなり(温度の上昇に対して粘度を補正しない。これは約20%の追加の増加を生じさせる)、そしてH2 の平均のガス速度について24.85m/sとなる。
【0070】
これらの手順について、k’ 対Tb のプロットの上の上方の4つのポイントを補正した110℃におけるk’ のラインの勾配は、分析物のもっと大きな一組の上で平均したラインの勾配と等しくなるが、それは同じ設定を用いて分析することができ、その結果を図21にプロットする。図21aはF-100についてのk値の計算値と測定値の比較を示す。
【0071】
これらの結果を調和させるために、圧力の影響について点検することができる。というのは、毛管の流れにはかなりの圧力降下を伴うからである。圧力は入口から出口にかけて降下するので、層流が促進されるであろうが、しかしそれは同様にして分析物の保持時間に影響する。すなわち、上のケースについての圧力降下の範囲にわたる一次平均は、約59psigの平均のキャリヤーガス圧力および24.85m/sから(59+14.5)/14.5=5.06(倍)の時間平均された倍率で圧縮されたガスの速度まで低下した平均の流速に相当し、これは維持されない速度である500cm/sを導き、そしてその結果はt0 =150/500=0.3s となり、これは60msよりも227msに近いようである。要約すると、毛管の分離プロセスのシミュレーション、59psigの平均のキャリヤーガス圧力、および周囲圧力における値に対するH2 ガスの拡散率について関連する74/14.5すなわち約5倍の低下について、t0 =227msを選択することができる。
【0072】
上のことを参考データとして用いることによって、この位相化(PHASED)チップが、正方形の断面を有する最大で25cmの長さの「カラム」またはチャネルであって、そしてそれの4つの壁のうちの一つだけの上で(制御された温度勾配にするために)固定相とヒーターの組み合わせを有するものを用いることが可能かを知るために、位相化分離の性能を評価することができる。この結果は、円形で均一にコーティングされた毛管と比較して2倍の性能劣化となるかもしれず、このことは分解能* R* の損失に関係するピーク半値幅w が広くなることによって表される。この劣化は、位相化チャネルの操作をその最適な速度に近づけることによって一部が埋め合わせされ、このときその最適な速度というのは理論プレート高さ対キャリヤーガス速度についてのゴーレイの式における最小値に相当し、その結果、ここで言及しているように、k’ 値に依存する1〜1.38の間の追加の劣化倍率になる。分解能はR* =tr /w = (L/(H・5.54))0.5 として定義することができる(すなわち、分光分析においては高いλ/Δλを達成するのが望ましいので、高い分解能が望ましい)。ここで、Lはカラムの長さであり、Hは理論プレートの高さである。
【0073】
カラムの長さが6倍減少すると、それだけで、Hが一定の場合は、分解能* すなわちそれに対応するピーク幅の増大は60.5 =2.45倍の減少となるだろう。しかし、k’ 値の範囲について、キャリヤーガスの特性(拡散率と速度)の追加的な影響を考慮に入れるべきである。k’ =0.1として、加圧されたH2 を用いる毛管と空気/N2 キャリヤーガスを用いる位相化構造(PHASED)を比較すると、ゴーレイの式によって、L=25cmの位相化正方形断面のチャネル、100μmの平衡液圧ID、および〜0.1μmのフィルム厚さについて、174cm/sの最適なN2 速度と15.5の分解能* が得られるだろう。59+15=74psiaの平均のH2 ガス圧力、D=5×D0 のH2 拡散率、および同じく〜0.1μmのフィルム厚さを有するL=150の毛管について、38の分解能を伴って93.34cm/sの最適速度が得られるだろう。しかし、分析速度の目標を満足するための5.55〜6m/sの設定平均速度においては、21.6の分解能* だけを用いることができる。
【0074】
従って、k’ =0.1について、位相化分解能* は用いられる毛管のものよりも2倍の倍率で低く(一つの壁対 円形チャネル)、分解能の比率21/15.5=1.39を乗じると、およそ2×1.39=2.8(倍)のトータルの損失となるだろう。k’ =10として、加圧されたH2 を用いる毛管と空気/N2 キャリヤーガスを用いる位相化構造(PHASED)を比較すると、L=25cmの位相化正方形断面のチャネル、100μmの平衡液圧ID、および約0.1μmのフィルム厚さについて、67.2cm/sの最適なN2 速度と9.5の分解能*が得られる。k’ =1についてではなくk’ =0.1について、速度がv(最適) =98cm/sで最適化される場合は、それの7.8だけが用いられるだろう。
【0075】
59+15=74psiaの平均のH2 ガス圧力、D=5×D0 のH2 拡散率、および同じく〜0.1μmのフィルム厚さを有するL=150の毛管について、23.4の分解能を伴って35.9cm/sの最適速度が得られるだろう。しかし、555cm/sの設定平均速度においては、8.4の分解能* だけを用いることができる。従って、k’ =10について、位相化分解能* は毛管のものよりも2倍の倍率で低く(一つの壁対 円形チャネル)、分解能の比率(この場合、ほぼ1であろう)を乗じると、およそ2倍のトータルの損失となるだろう。
【0076】
この2倍低い分解能を有するシミュレーションされたガスクロマトグラムを、各々の半ピークの幅(仮定のガウス分布)を2倍大きくすることによって、図22にプロットすることができる(下から1番めの曲線)。それはガス分析物からなる同じ4/4混合物の位相化分離を表すかもしれないが、しかしこれはL=25cm、100μmの正方形のチャネル、vが〜70cm/sを有し、一つの壁だけがコーティングされたものによって、110℃において行われた等温実験によるものである。示されているように、図22における2番めの毛管の曲線と比較しての劣化は顕著であるとは思われるが、しかし大きなものではない。さらなる実験結果は、図23と図24に示すことができる。
【0077】
図23は、空気中に720ppmのヘキサンを含む試料の50nLをN2 キャリヤーガスの中に注入するときにその約80msの注入パルスを分離することによって得られた質量トレースを示し、一つの側に0.6μmのNGEをコーティングした42cmの長さのマイクロチャネルを有する位相化チップの中に流入させる前に、検出器としてLeco ToFMSを用いて行ったものである。シャープなO2 ピークはt0 時間に近接しているはずである。ヘキサンのピークS/Nは約40ppmのMS MDLを示すだろう(1のゼロ-トゥ-ピークS/Nについて)。
【0078】
図24は、2つの異なるPDMSフィルムを用いたアルカンの分離の比較を示し、一方はフェノールでドーピングしたフィルム(DB-5)、他方はシリルアリーレンでドーピングしたフィルム(F-100)についてのものである。それらの約5倍異なる厚さが溶離時間の大きな差異を生じさせるが、しかしそれらの化学種の違いが異なる保持率の原因であると考えられる。
【0079】
カラムの温度勾配(temperature ramping)に言及することができる。図18に示されるクロマトグラムを構築すると、温度勾配とカラム形態の変化の利益を予測することができる。実際には、等温クロマトグラム(110℃、薄い極性固定相の上で分離された8つの成分)をデジタル化し、次いで、k’ への温度の影響すなわちtr =t0・(k’ +1) に従って時間のスケールを移動させる。図18におけるk’ 対Tのデータから、ヘキサンからドデカンまでの化合物についてk’ の温度依存性を引き出し、そしてΔT=17〜26℃の傾斜した温度変化を採用することによってk’ を2倍の倍率で変えることができることに注目する。2(ΔT/18) の簡単な係数を用い、そして様々なT傾斜関数を試みることにより、図22における計算されたクロマトグラムが得られるだろう。それの最も下のものは、図18の110℃のクロマトグラムよりも2倍低い分解能* を有するシミュレーションされた位相化構造(PHASED)に相当するだろう。図22における全てのトレースの上で、ヘキサンとトルエンについてのFID信号を、明快にする目的で、それらの実験値の25%までデジタルで低下させることができる。最も下のトレース(No.1)を除いて、他の全て
の示されたトレースは1.5-mの毛管に基づく結果を示すだろう。下から引き上げることにより、No.2のトレースは図18の最初の110℃等温(温度勾配のない)クロマトグラムとなるだろう。トレースNo.3はシミュレーションされた125℃等温クロマトグラムを示し、図18の中間の測定されたものに良く類似し、全てのk’ を約2倍小さくし、そして熱膨張によって生じる高い流速を算入したものである。トレースNo.4は、k’ を変えることなく、200℃/秒の温度勾配の熱膨張の影響を考慮したものである。
【0080】
トレースNo.5は、t0 の後にその開始を〜200ms遅らせた後に温度勾配率を50℃/秒にしたことで得られた、シミュレーションされたクロマトグラムである。トレースNo.6はトレースNo.5に類似しているようであるが、2倍大きい勾配率(100℃/s)を用いたものであり、過度に高い勾配率は異なる化合物の保持時間を互いに近すぎるものにすることによって有害であることを示している。どちらかといえば、勾配率を注意深く選択することによって分解能とピーク容量が最適化されるだろう。
【0081】
わずか50〜100℃/sの勾配率を用いる位相化(PHASED)の操作によるこれらの測定とシミュレーションは、最初の400ms以内に実験のクロマトグラムから8つのピークを抽出することができ、そして(t0 を含む)1秒以内に50以上のピークを抽出することができることを示している。
【0082】
予備濃縮のモデル化は、最初の原理からの多段階のPCモデルを含み、そして実験データと比較されるべきであろう。そのようなデータは位相化(PHASED)チップPCヒーターの配列からなる20の要素を用いて得ることができ、このとき、これら20のものは720ppmのヘキサンを含む空気の一定の流れに晒され、次いで、それぞれが6msの位相化された個々の脱着パルスを受けるだろう。このようにして、全ての要素から脱着されたヘキサンは注入パルスに寄与し、これが図25に示すTCDとToFMSのトレースに導くことができる。
【0083】
脱着パルスの長さが20msから6msに減少し、そして脱着ピークの温度が約135℃から〜165℃に増大するのに伴って、すなわち最適な条件に近づくのに伴って、ヘキサンについての平衡(すなわち、ピークが位相化チップから質量分析計へ移動するときの拡散の拡張を含むトータルのピークの拡張について補正された平衡)のPC利得を34倍から約62倍へ増大させることが可能であろう。これは、依然として最適に及ばない試料流れ(約110cm/sではなく約60cm/s)と幾分かの残りの電気的かつ流体的な漏れが存在しているにもかかわらず、可能である。720ppmのヘキサンの供給源を、その便利さ故に使い続けることができる(毒性がないことと、その高い蒸気圧のために凝縮の危険性がほとんどないこと、もっとも、その高い揮発性はPC条件を作ることを困難にするかもしれない)。上記の固定相フィルムは0.6μmのNGEであってもよく、これは位相化構造(PHASED)からなる4インチのヒーターウエーハの上に回転塗布されたものである。
【0084】
モデル化と実験の利得(gain)は、蒸気圧の低い分析物についてのそれらの既知の分配係数(K値)による利得に直すことができる。利用できる実験条件について、上記のPC利得のデータは計算結果と一致し、次にこの結果から、より高い試料流れとより大きな吸着温度においてより大きな吸着エネルギーを有する分析物を用いて達成可能な10000倍以上の利得まで、高い信頼性をもって外挿法によって推定することができる。このことは図26、27、28および23に示されていて、これらは、全ての図における独立変数(有効なPC段階の数(図26)、分析物の吸着熱(図27)、および吸着温度(図28))として、(全ての分析物を脱着させるための)脱着温度に対する感度を明らかにしている。
【0085】
モデル化の結果は図25の実験データと良く類似していると思われる。ヘキサンのピーク高さは720ppmの基準線のMS(飛行時間型質量分析計)のトレースよりも約5.2倍高いが、しかし分離器を通ってそれを越えてMSまで移動する間の最適に及ばない流れと拡散のために、そのピークは、分離の開始時における最適な約7〜8msのピーク幅よりも約12倍広くなるようである。三角形のピークを想定した場合、その高さは720ppmの基準線よりもおよそ5.2・12=63倍高いだろう。
【0086】
20のPC段階、20℃の吸着温度、165℃の脱着温度、(文献による)28.85kJ/モル〜20.42kJ/モル(6.89〜4.87kcal/モル)のヘキサンの蒸発または脱着のエンタルピーΔH、およびDB-5[5] を用いたGC実験の結果、という条件について、ヘキサンについての計算されたPC利得は、125倍と4倍の間のPC利得値となるだろう。このことと63倍という認められた実験値との間の差異は、モデルの不確実さだけを原因とすべきではなく、ΔHの変化性も原因としていて、このΔHは、「未処理の」NANOGLASS(登録商標)については、蒸発エンタルピーΔHv についての文献値よりも約12倍高い測定値となるが、しかし、図9と関連させて認められるように、DB-5については文献値ΔHv よりも約1.2〜1.7倍低い測定値となるだろう。200℃への脱着温度の増大と50へのPC段階の数の増大とともに、この要因を考慮に入れた場合、NGEについての計算されたPC利得は約3700倍以上となるだろう。この利得は、図26、27および28に示されたものにおいて用いられた0.6μmよりも大きな厚さのフィルムに対してももっと高く、また図7、8、9および11において範囲が示されているような大きな吸着エンタルピーとK値を示すフィルム−分析物の組み合わせに対しても、もっと高いだろう。
【0087】
ポリマーセンサーの応答性の評価を行うことができる。ポリマーの固定相薄膜は、分析物の予備濃縮と分離以外に、GCにおいて第三の機能すなわち検出を実行するだろう。そのようなポリマーフィルムによる分析物の検出は、フィルムの電気抵抗、キャパシタンスまたは応力の変化に基づくであろう。キャパシタンスに基づく検出器は、ここでの示差型TCDおよびその他のものの他に、位相化構造(PHASED)において用いることができ、これはそれらの製造上の互換性によるものである。
【0088】
新しい分析物を用いる検出器の性能の評価は、分析物の存在または不存在を検出することだけが目的であるとしても、工業、医療、環境またはホームセキュリティの分野での分析器の応用における挑戦であろう。しかし、多くの適用において、この検出は低い失敗率を伴って、そして特に低い割合の虚偽の警報または偽陽性の失敗を伴って、達成される必要があるだろう。この必要性を満たすために、異なる物理的感知現象に基づく幾つかの多様な検出器を組合わせることができる。これらの検出器はそれぞれ、それ自体の弱点または「盲点」を有するかもしれない。例えば、バックグラウンドまたはキャリヤーガスの熱伝導度に近い熱伝導度を有する分析物を感知するための熱伝導度検出器、水素炎の中でイオンを発生しない分析物を感知するためのフレームイオン化検出器、あるいはポリマーフィルム自体と比較してキャリヤーガスのものに近い誘電率またはその他の特性を有する分析物のための容量性ポリマー感知器である。
【0089】
ポリマーの検出体フィルムが分析物に晒されると、分析物のガス相の濃度はフィルム中で平衡濃度に達し、これが同種のものの平衡係数または分配係数K(これは保持時間の予測に関連して言及される)によって定量化される。他のものは、分析物の蒸気圧に対する臭気物質または分析物のこの分配係数と関連があり、幾つかの分析物に対するそのようなポリマーフィルムの低いppmでの感度がキャパシタンスの測定によって達成されうることが示されている。測定されたK値または計算されたK値に基づいてそのような感度を予測することが求められるかもしれない。移動と拡散の影響を無視できるものとし、その一方で、Kによって決定される、フィルムの膨張と関連するか否かという平衡現象にもっぱら焦点を当てることが可能であるほど十分にフィルムが薄いことが想定されるかもしれない。幾つかのタイプのポリマーについてのKのデータの情報源を利用することができ、これはSAW(弾性表面波)検出器の性能の特徴づけと関連するだろう。
【0090】
容量性感知器の応答性を計算するために、絶縁性で低誘電率の基板の上に配置された互いにかみ合った一対の電極と、この上に置かれた感知性フィルムを考えることができる。所望のミリ秒の応答時間を達成するために、高速ガスクロマトグラフィー装置とともに用いれるもののような、マイクロメートル以下のフィルム厚さを用いることができる。次いで、フィルム自体(film-host)とキャリヤーガスまたは吸着され溶媒和された分析物の誘電率の間の合成の誘電率の変化に基づいて、検出器の信号が測定され、そして計算される。
【0091】
沸点Tb と元素組成だけがわかっている全ての分析物について、液体の誘電率ε(すなわち分析物または固定フィルムの極性)、分配係数K、保持係数k’ 、および保持時間tr を見積もるための手法を引き出すことができる。沸点Tb は分析物のk’ とKのおおよその予測値のための主要な根拠を与え、一方、分析物の元素組成はそれらの極性である(低周波)誘電率εの粗い見積りを可能とし、このことはK値の見積りの不確実さをTb だけに基づく見積りよりも2〜4倍低くするだろう。このモデル化の努力は、Tb は等しいがしかしεが増大する仮想の分析物のKと極性の間の関係に予期せざる洞察を与え、これにより、Kが最大値に達する点を超えてそれらの極性が増大するときの低下したK値と保持時間が示されるだろう。
【0092】
実験上の等温GC分離の結果を拡張させるか、あるいはかき跡(scratch)からそのクロマトグラムを描くかのいずれかによって、得られたKとk’ の値およびそれらから見積もられるフィルムの吸着エンタルピーを用いて、分離カラムの制御された温度勾配の利益についてシミュレーションが行われ、そして視覚化されることができる。このことにより、いかにして所定の範囲の分析物についての特定のピーク容量と分離時間を満たし、そして超えるかを予測することが可能になるだろう。
【0093】
特定のMDL(最小検出限度)を予測してこれを満たし、そして所定の分析物についてのこの予測されたPC利得を満たすために、位相化チップを用いて得られる実験データを用いて多段PCの第一原理のモデルが確認されるだろう。このモデルは、その段階の数、吸収温度と排出温度(300℃以下)、および注目している分析物の吸着または溶媒和エンタルピー(これは典型的には6〜15kcal/モル、すなわち20〜70kJ/モルの範囲となるだろう)の関数としての、1レベルのPCを用いる予備濃縮の利得を達成することについての成績と限界を量的に予測することを可能にするであろう。
【0094】
1秒以内の分析時間で20を超えるピーク容量を達成するために、特に温度勾配がある場合にこれを達成するために、入手できる位相化チップであって25cm以下の長さの分離チャネルを有するものの計算された分離性能に直すことのできる実験データがあるだろう。
【0095】
GC検出器としてのポリマーガス感知器の性能を評価するために、K値とε値を用いることができる。このことと、Kに及ぼす固定相のεの影響、および水蒸気に晒した後とフォトレジストでパターン化した後の超過時間にわたって固定相フィルムの安定性に及ぼす固定相のεの影響の決定を、微量分析測定のための固定相フィルムを評価するために用いることができる。
【0096】
高い比表面積を有する様々な種類のものや、ウエーハの上や毛管の中にコーティングされるナノポーラス有機シリケートフィルム(スピンオンガラス(SOG))など、進歩したフィルム材料を適用することができる。
【0097】
MEMS GC固定相の上での分析物の吸着の分子モデル化を行うことができる。将来のマイクロ電子機械装置(MEMS)、ナノ電子機械装置(NEMS)、およびマイクロ光学電子機械装置(MOEMS)は、それらの性能を予測し、またこれらの装置を信頼性を伴って製造するために、境界面の影響を明確に理解する必要があるだろう。分子モデル化は、実行がなされる間の原子機構をモデル化することによって境界面の臨界的な作用をシミュレーションし、そして理解するための手段となるであろう。
【0098】
分子モデル化は、例えば、ガスクロマトグラフにおける固定相のための材料の相対的な性能を用いるMEMSデバイスにおいて用いられる材料を改良するために用いることができる。この比較は、分析物と固定相の間で得られる相互作用エンタルピーおよび分子の動力学を用いることによる表面分離のシミュレーションを用いることに基づくものであろう。分離性能は実験のGCデータと比較され、それにより、分離の定性的な比較が分子スケールで提示されうることが示され、そして分子モデル化は比活性に関して固定相を予め選択するための有用な手段であることが確認されるだろう。
【0099】
MEMS分析器は、3秒以内の予備濃縮、分離および検出、1ppb未満の感度、および200cm3 未満の総パッケージサイズという究極の目的を有する小型のガスクロマトグラフ(GC)であろう。分析物の有効な捕捉と分離は、加熱されうる吸着-脱着マイクロエレメントの配列を利用することができる(このことが、検出が改善されるための位相化されたヒーターの配列構造についての「位相化(PHASED)」という名称に通じる)。予備濃縮、分離、検出、および流れと温度の感知機能は一つのチップの上で統合されうる。この微量分析器は、工業における化学プロセスの制御、環境のモニター監視、警備および医療診断などへ適用されるものと想定される。MEMS分析器(例えば、位相化(PHASED)システム)の概略を図5に示す。チャネル32の中の固定相吸着(Ads)層40の断面を図6に示す。
【0100】
分析器の基本的な機能のために必要となる重要な材料は、予備濃縮器、分離器、さらにはCID(化学インピーダンス検出器)などの幾つかのタイプの検出器における固定相フィルムであろう。この固定相について可能性のある構造上の欠陥の態様としては離層とフィルムの割れがあるであろうが、しかし、所望の性能を達成するために理解する必要のある重要な操作上のパラメーターは、吸着速度、フィルムの容量、化学的動力学および分析物の透過性を含む分析物の吸着の熱力学であろう。このとき、予備濃縮とGC分離の性能はこれらの自然の帰結となるだろう。
【0101】
各々の個々の分析物についての吸着または脱着のエンタルピーを量的に理解することは設計と分析器の性能の予測のために重要であると思われるので、MEMS分析器の最終的な応答性を予測するためには、乾燥条件と湿潤条件の下で考えられる分析物についての吸着表面または分離表面の熱力学的応答性をシミュレーションするために分子モデル化が用いられるだろう。
【0102】
ガスクロマトグラフィーにおける固定相の作用の概念はゴーレイ(Golay)の式(式1)によって表すことができる。ここで、H=理論プレート高さ;Dm =移動相中での分析物の拡散率;v=平均の移動相の速度;k’ =保持係数;r=カラムの半径;Ds =固定相中での分析物の拡散率;およびdf =固定相の厚さ、である。
【式3】
【0103】
【0104】
理論プレートは固定相とGCカラムの効率を決定するであろう。そしてこれは通常、カラムの長さを理論プレートの数で割ったものとして定義され、ここで、カラムの中の理論プレートの総数は、保持距離とピーク幅によって定義づけられる[n=4×(保持距離/ピーク幅)2 ]。理論プレート高さは、別個のGCピークを分離するカラムの平均の長さを記述するであろうから、カラムのサイズを小さくするためには、理論プレート高さを最小にするべきである。この見地はMEMS GCデバイスについて重要であると思われ、このデバイスはチップサイズの構造上での性能に適応させるために効率の最も高い固定相を有するべきである。
【0105】
ゴーレイの式において、固定相によって最も影響を受けると考えられる項はk’(これは移動相の容量に対する保持容量の比率であり、クロマトグラムの保持時間から測定することができるだろう)である。というのは、この比率は平衡定数Kと関係するからであり、ここでk’ =Kβであり、ここでβは2つの相の容積比(固定相/移動相)である。平衡定数すなわち分配係数Kは、固定相/移動相における分析物の濃縮比を表すだろう。Kとk’ は分子モデル化によって決定されるだろう。
【0106】
k’ 以外に、固定相に関係する他の項に注目すると、固定相の厚さ(df)と固定相中での溶質の拡散率(Ds)を考察することができる。固定相の厚さが低下すると、理論プレート高さが低下することによって分離が改善されるだろう。しかし、このことは、固定相がどのように機能しているかということに洞察を与えるだろう。というのは、厚さの限界においては、理論プレートの改善は容積効果よりもむしろ表面によるものであると示唆されるようだからである。
【0107】
一般的な拡散率の理論を考察するとき、Dは次のように定義することができる:
【式4】
【0108】
【0109】
ここで、dは移動を受ける要素の距離であり、固体中ではそれは格子の距離であり、そしてkT/h は度数(frequency)の次元を有するだろう。固定相とゴーレイの式に適用されるとき、この関係は、Hを最小にするためには、より大きな要素の距離が必要であるということを示唆する。要素の距離が大きいということは密度が小さい(あるいは通路dが大きい)ことを意味するので、この解釈は、密度が極めて小さい材料においては通路の屈曲が多いことによってdが増大し、そしてゴーレイの式の拡散率の部分によってHが小さく維持されることに役立つはずである、ということを示唆する。従って、ゴーレイの式から、材料の吸着性と分析物が通る通路との間に相互作用があるだろう。分子モデルによって吸着性を検討することができる。そのことは、ゴーレイの式の熱力学的な項に通じ、また表面の特性を扱う表面の動力学の特質にも通じるかもしれない。通路の長さの特質を扱うために、より大きなモデルの検討も開始されるかもしれないが、しかしこれは、分析物の分子の通路の全体を含むとは思われない。というのは、これらのタイプのモデルのサイズは通常、考察するには大きすぎるからである。このモデル化の共通性のための分子モデルへの自明の拡張は、不連続な元素のモデルを使用することであり、これは分子の規模によってパラメーター化される。
【0110】
有効な吸着表面のために用いるべき最良の材料を評価し、採用し、そして格付けするために、k’ の最初の表現としての吸着エンタルピーと自由エネルギーを予測するための手法を探すことができる。分子の機構と動力学的なモデル化の結果を探すために、CVFFの力の場(不変結合価の力の場)を用いるアクセルリスソフトウェアディスカバー(Accelrys software Discover)を用いることができる。
【0111】
ゴーレイの式の熱力学的な部分を検討するために、最初に蒸発または凝縮のエンタルピーが計算され、次いで、モデルを確認するために関連する文献値との比較が行われる。蒸発エネルギーを基準に照らして評価するために、対象とする集団(mass)は、ランダムに生成させた分析物のセルからなり、これは50以下の分子の分析物を含むだろう。分離された種との差異を、蒸発エネルギーとして用いることができる。エンタルピーを見積もるために、RTを用いて温度の調整が行われる。これらの項目は図29に示され(ここで、 DMMP=ジメチルメチルホスホネート、DEEP=ジエチルエチルホスホネート)、そして関連する文献値との比較が行われ、またGCデータを用いて測定された蒸発エネルギーとの比較も行われる。エンタルピーの計算値は関連する文献値と比較して一貫して小さいが、しかしこの傾向はおそらく有用な比較を示しているようであることが、モデルによる結果が示しているように思われる。
【0112】
吸着エンタルピーを生成させるために、統一のない集団を用いて対象とする表面の集団を生成させ、そしてこの表面の上で特定の分析物のエネルギーが最小にされるだろう。分離された種との差異を、吸着エネルギーとして用いることができる。k’ の最初の近似値として吸着エンタルピー(ΔH)を見積もるために、RTの調整を行うことができる。様々な分析物についての乾燥条件と湿潤条件の両者について、モデルを生成させることができる。好ましいフィルム材料は、吸着エンタルピーが水蒸気の存在によってほとんど影響を受けず、また注目している分析物のできるだけ多くのものについて明確なエンタルピー値を示すものであると考えられる。特筆される固定相の例を図30に示す。これは、DMMP(ジメチルメチルホスホネート)などの高度に極性の分析物は固定相が水和した状態に対していかに感度が高いかを示している。
【0113】
一般に、GC分離は沸点(BP)の傾向に従うので、吸着自由エネルギーと沸点にも言及することができる。これを行うために、トルートン(Trouton)の規則(BPにおいてS = H/ RT)のエントロピー効果を算入することによって吸着の自由エネルギーを見積もることにより、平衡定数Kのより近い見積り(従って、k’ のより近い見積り)を得ることができる。これらはエンタルピーに対する小さな修正であって、エネルギーの傾向は概ね依然として変わらないと考えられ、自由エネルギーとKの間で良好な理論的なつながりがあるので、それらを算入することができる。
【0114】
自由エネルギーの傾向を沸点とともに図31〜33に示す。図31と図32はモデル化された傾向を示し、ここでモデル化された分析物はジメチルメチルホスホネート、ジエチルエチルホスホネート、ジエチルメチルホスホネート、ヘキサンおよびデカンである。図33は測定されたエンタルピーを用いた場合の傾向を示し、測定された吸着エンタルピーに伴って沸点が直線状になる傾向を示している。図31と図32の比較は、沸点とともに予想される吸着エネルギーの傾向は水和によっても攪乱されることを示している。
【0115】
図12は、関連する文献値およびGC分析から生成された実験値と比較した蒸発のモデル化の基準を示す。図13は、様々な極性の固定相について高度に無極性の分析物と高度に極性の分析物のエンタルピーを比較したものである。
【0116】
特定の構造の影響についての一つの見地を図34に示す。これにおいては、シリケートのモデルがシラノール(有機シリケートOH)の含有量について調整され、そして吸着の自由エネルギーが比較される。水和した表面に結合したシラノールの含有量があるとき、DMMPについて吸着のかなりの損失があるようである。しかし一般に、水和に伴う傾向およびシラノールの含有量に伴う傾向は、予測できる性能を維持するためにはシリケートの条件が非常に重要であることを示唆していることにおいて一致しているとは思われない。
【0117】
図14は、固定相の非水和状態について、吸着エネルギーについての沸点の傾向を示す。図15は、様々な固定相の水和状態について、吸着エネルギーについての沸点の傾向を示す。図16は、沸点に伴う実験の吸着エンタルピーの傾向を示す。図17は、有機シリケートを主成分とする固定相におけるSiOH含有量に伴う吸着エンタルピーの変化を示す。
【0118】
評価された固定相フィルム材料の中には、有機シリケート、エポキシ-ノボラック、 PDMS、黒鉛またはカーボンナノチューブ(これは開発中の新しいGC固定相として重要なものであろう)および(低k誘電体から誘導された)ポリアリーレンによって表された炭素の表面、そして最後にテトラフルオロエチレンがある。全てのものが、水の存在に対して異なるΔH(およびΔG)の依存性を示す。一般に、黒鉛またはポリアリーレンのような極性の低い材料は、水分に対する低い妨害性を有するようである。しかし、黒鉛やポリアリーレンのような高度に疎水性の表面は、水和したときに高いDMMP吸着性を有するようであり、このことは、極性の分析物を吸着するときには固定相の表面が極性であることの重要性を示唆する。重要な表面はテトラフルオロエチレンであり、これは特有の高い結合双極子モーメント(C−F)を有し、そして非常に低い水の妨害性を有するようである。このことは、固定相はある形態の極性を有していることが望ましいが、しかし水分からの妨害性を低減させるために低い水素結合性を有していることが望ましい、ということを示唆するだろう。
【0119】
分析は、固定相の表面を通過して拡散する分析物の動力学的なモデルを含むだろう。これらのモデルは、分子モデル化を用いることによって分離と相対的な保持時間を定性的に決定できるか否かを決めるために成されるだろう。固定相の表面を用いる分離をシミュレーションするために、最初に分析物はセル容積の中でランダムに配向され、そして相関的な配向は最少にされる。これは初期の分析物の混合物に相当するだろう。次いで、分析物の混合物はシミュレーションされる表面の一端の上に導入され、そしてその集合は表面で最少にされる。次いで、表面に沿う移動を開始するために分析物に最初の推進のポテンシャルが与えられ、混合物に応じてシミュレーションが5ps以下にわたって続けられる。溶離の順序を確かめるためにシミュレーションは少なくとも2回繰り返され、そして最終的な比較のために全ての位置が平均化される。多数回のシミュレーションによってもっと多くの統計を決定することができるかもしれないが、平均の結果に専心してもよい。これらの道筋から、分析物について見いだされる分離により、表面での相互作用の結果がこれらのシミュレーションで得られるだろう。
【0120】
図35と図36は、毛管に堆積させた固定相(DB-5)とチップに堆積させた固定相(カーボンナノチューブ)のそれぞれについての実験のGCの結果を示す。図35と図36は、シミュレーションにおいて見いだされる相対的な溶離の順序を比較するために、シリコーンの固定相を用いる実験のクロマトグラムを示す。この結果から、ヘキサンが最初に溶離し、そしてドデカンが最後に溶離すると予想される。また、カーボンナノチューブの表面は溶離させるのに比較的困難なようである。
【0121】
動力学的なシミュレーションの結果を図37〜42に示す。例えば、図37はシミュレーションされた3つの固定相である黒鉛、PDMSおよび有機シリケートから予測される相対的な平均の溶離順序を示す。黒鉛の表面が最も保持性が高く、分析物の移動性が最も低いことが見いだされる。このことは、カーボンナノチューブを用いた試行で支持され、特に、シリコーンの固定相をカーボンナノチューブと対比する実験のGCの結果を比較するときに明らかであろう(図35、36)。有機シリケートとPDMSは性能が類似していることが見いだされるだろう。図38に示すように、3つの固定相は、それらが比較的揮発性であることにより、分子を荒く分離するだろう(沸点)。このことは、相対的な吸着エネルギーの分析によっても予想される。
【0122】
図35は、シリコーンの固定相の上での相対的な保持性の順序を示すもので、8つの化合物からなる混合物についての実験のGC分析を示す(毛管100cm/100μm、厚さ400nmのDB-5、100℃)。この情報はワシントン大学のRob Synovecからのものである。図36は、カーボンナノチューブ(CNT)の固定相を用いるGCチップの上での8つの成分の混合物についての実験のGC分離を示す(125℃、50cmの長さの毛管、およびH2 /30psi)。この情報はワシントン大学のRob Synovecからのものである。図37は、3つの異なる固定相の上での平均の保持時間の結果を示し、黒鉛の表面の保持性が比較的高いことが示されている。図38は、異なる固定相の上での分析物についての保持性と沸点を対比したものである。
【0123】
シミュレーションの軌跡の結果(図39〜41)において認められるように、分子モデルは、実際の分離の動力学を明らかにするために十分に小さなスケールで利用される。図39はPDMSの上での分離のシミュレーションを示す。分離の後、ヘキサンは最初に溶離しているようである(図39における下の図のかなり右の方)。DEEPホスホネートとドデカンは最も遅く溶離するようである。図40は有機シリケートの上で溶離している同じ混合物を示す。一般に、この混合物はPDMSに対するものと同じように溶離しているようである。しかし図41は、(カーボンナノチューブの表面をシミュレーションするために)黒鉛の表面上での溶離のシミュレーションを示す。この混合物は黒鉛の表面の下でほんの少ししか移動しないようであるが、しかし、明らかにドデカンは残って、非常にゆっくりと溶離するようである。分析物が溶離する距離を探索すると、シミュレーションの過程で移動する物質の中で何らかの分離と再配置が起こるようである。このことは、十分に長い移動距離を仮定すれば分析物の分離が解明されるはずである、ということを示唆していると思われる。
【0124】
(図39からの)PDMSの上での溶離の順序は、(図35からの)DB5の上で見いだされる実験による溶離の順序と比較することもできる。後者はわずかにフェニル化したPDMSシリコーンであり、PDMSの構造に近似している。この比較は図42において見いだされるが、これは、相対的な溶離の順序はシミュレーションと実験の両者についてほとんど同じであり、DMMPとDEMPの順序においてのみ異なっていることを示す。一般に、このことは、分子モデルがおおよその保持順序を与えうることを示すのに十分であろうが、しかし、3つの例(図39〜41)の中央において見いだされる分析物の中央の集団によって認められるように、実際の分離の良好な予測を合理的に行うためには、より良好な分離が達成されるべきである。表面が分析物の相互作用やもっと現実性の高い速度を良好に反映するようにするためには、もっと大きな表面、長い通過距離、およびもっと遅いシミュレーション速度へとモデルが拡大されるときに、シミュレーションにおける実際の順序が改善されることが期待されるであろう。
【0125】
これらのモデルは、分子レベルにおいては、分離は基礎的なレベルから開始するかもしれない、ということを示しているようである。従って、吸着から誘導される分子の力において保持が開始するかもしれず、そしてそれは表面との動力学的な相互作用で継続するかもしれない。異なる混合物を用いることにより、一般に、分離の量と保持の程度は混合物の含有量に依存するようである。
【0126】
図39は分離の動力学的なシミュレーションの前(上の写真)と後(下の写真)の速写を示し、ヘキサン、ノナン、デカン、ドデカン、DMMP、DEMPおよびDEEPの混合物がPDMSの上で分離する様子を示す。図40は図36のものと同じ混合物の前(上の写真)と後(下の写真)の速写を示し、有機シリケートの固定相の層を用いている。図41は図36のものと同じ混合物の前(上の写真)と後(下の写真)の速写を示し、黒鉛の固定相の層を用いている。図42は、実験による溶離の順序(図35)と分子モデルの順序(図39)との対比を示す。
【0127】
これらのシミュレーションの別の面は、相対的な溶離の順序を予測することにそれらを用いることに加えて、いずれの固定相が起点に残留物を残しやすかったのか、そして、焼き固めない場合は、いずれのものがカラムを詰まらせるのであろうか、ということがシミュレーションによって示されるようである、ということである。これは様々な位相化(PHASED)試験を用いて観察しうる現象であり、そのような試験は、次の試験において注入(injection)を行う前にベーク/クリーンのサイクルによって調整されうる。有機シリケートについては、DEEPまたはDMMPが残留物として残りやすい一つの材料であることが見いだされるかもしれないが、しかしこれは最初の分析混合物に依存するであろう。PDMSについては、DMMPが分子のくぼみの中に埋もれるようである。カラムの詰まり(fouling)におけるこれらの兆候は、分子のシミュレーションの有用さについてのさらなる利益となるであろう。図39〜41において残留物があることが明らかであるが、しかし、図43は異なる有機シリケートの上にある残留物の例を示し、この場合、有機シリケートの表面のくぼみの中でホスホネート(一様のグレースケール)が安定していることが見いだされる。図43は、可能性のある残留物の形跡としてDEEP(左)とDMMP(右)を伴う表面での特別な安定化によって、シミュレーションを行う間に起点に残された材料の例を示す。固定相は有機シリケートであろう。
【0128】
シリコン含有固定相に対する水和とSiOH含有量の影響を探求するために、有機シリケートの固定相の上でのDMMP、ドデカンおよびヘキサンの分離を比較することができる。その結果は図44〜45に示されているようであり、これは、アルカンからのDMMPの分離の質は水とSiOHによって影響されることを示しているようであり、またこれは、ここで言及している吸着のデータ(図30〜31)から予想される通りのものであるが、しかし必ずしも熱力学的な計算だけから予測されるほどのものではない。
【0129】
シミュレーションを比較すると、2つの影響が明らかなようである。開始点において大量のDMMPの残留物が残っているようであり(かなり左の方の実線の円)、そしてヘキサンは最初に溶離しているようである(かなり右の方の点線の円)。最初のシリケートの構造(上)を水和したもの(中)および特別なシラノールの場合(下)と比較すると、分析物に最も大きく影響するのはDMMPについてのようであり、また表面が水和したときにDMMPの大きな全体的な移動が起きるようである(図45の中)。この場合、DMMPの半分がドデカンよりも先に移動していて、一方、他の2つのケースにおいては、DMMPの大部分がドデカンよりも遅れているようである。興味深いことには、動力学的な傾向は、吸着の熱力学的な傾向(図31)よりも沸点による予測(ヘキサンBP=342;DMMP BP=454K;ドデカンBP=489)とより良く一致するようであり、この場合、ヘキサンが溶離することが予想され、そしてこのことは、ヘキサンのエネルギーの傾向を図45の動力学的な傾向と比較したときに特に顕著なようである。
【0130】
図44は開始時の形態を示していて、各々の分析物の4つの分子を用いるヘキサンとドデカンの混合物を分離するシリケートの固定相へのOHの影響を明らかにしている。図の一番上の部分は、最少のSiOH含有量を有するシリケートを示す。中央の部分は上の部分と同じものを示すが、しかし水和した表面を有するものである。下の部分は上の部分と同じものを示すが、しかし表面でのSiOH含有量が増大したものである。
【0131】
図45は最終の形態を示していて、DMMP、ヘキサンおよびドデカンの混合物を分離するシリケートの固定相へのOHの影響を明らかにしている。実線の円はDMMPの位置を示し、破線の円はドデカンの位置を示し、そして点線の円はデカンの位置を示している。図45の一番上の部分は、最少のSiOH含有量を有するシリケートを示し、中央の部分は上の部分と同じものであるが、しかし水和した表面を有するものであり、そして下の部分は上の部分と同じものであるが、しかし表面でのSiOH含有量が増大したものである。
【0132】
シミュレーションの傾向としては、実質的に全てのケースにおいて、ヘキサンが最初に溶離すると予想される(全てのヘキサンが流れの前線において最も右側にある)。しかし、熱力学的エネルギーによれば、ヘキサンの優先性は水和の状態とシラノールの含有量に依存して変化するかもしれない、ということが示唆される。実験の場合においては、やはりヘキサンが、シミュレーションにおいて用いられる他の分析物よりもかなり先に溶離することが知られるだろう。動力学的なシミュレーションによれば、条件によっては、分散度が小さくてより集団的なヘキサンのグループ化によって示されるような狭いピークよりもむしろ、広くて分散度が大きいピークを伴ってDMMPが溶離する、ということも示唆されるだろう。これらのグループ化の特質は、ピークの分離と分解を理解することにおいて分子の動力学が有用であることの可能性を証明するかもしれない。それに対して、ゴーレイの式のような実験観察による変換を行うことなく、熱力学的な傾向だけで分離の特質が区別されるかもしれない。実質的に純粋なシミュレーションについては、さらなる数学的な構成概念を用いることなく、分離における実験上の差異を予測することが最も有用かもしれない。
【0133】
動力学的なシミュレーションによって、熱力学的なエネルギーで表される静的な平衡状態よりもむしろ、もっと動力学的な状態の分析物の流れと分散的な分離に近づこうと企図することを考える場合、2つの異なる分子モデル化の分析の間の相違が予想されるだろう。動力学的な状態は分離を正確に測定するために考察されるべきであるから、動力学的なシミュレーションによれば、単に熱力学によるよりも、相互作用についてのもっと良好な速写(snapshot)が得られることが期待されるだろう。また、そのような動力学を用いるとき、スケールの増大と、もっと現実的なシミュレーションに向けてのシミュレーションの動的な速度の低下とともに、シミュレーションの分離の予測可能性が増大することが期待されるだろう。しかし、十分に正確な傾向が動力学の中に存在するのであり、そのことが固定相の明確な記述を理解することへの助けになるだろう。
【0134】
分子モデル化の研究により、作動するMEMS-GCと関連するモデル表面の問題があることが確認されると思われる。分子モデルは、エンタルピーと自由エネルギーの両者の傾向が固定相の性能の間の相違をいかに特徴づけるか、ということを示すと思われる。さらに、固定相の上での相対的な保持時間の動力学的なモデルは、分子が特定の表面とどのように互いに影響し合って分離を生じさせるか、ということを示すと思われる。適当なスケール化を仮定すると、ピークの分散は分離の統計から導き出されるかもしれない。
【0135】
固定相と分析物の相互作用の熱力学と動力学は、GCの性能に及ぼす基本的な分子の影響を理解するための簡単な分子モデル化の方法を用いて探求されるかもしれない。ベースの固定相に最良の表面の機能化を適合させるという問題には、デバイスの表面の活性に情報を与えるための分子モデル化によって取り組むことができるかもしれない。例えば、材料の問題についての説明によって認められるように、固定相の設計については水和と極性の問題が重要になるはずである。特定の種類の材料がより強く影響を受けると思われる。さらに、分子モデルは、商業的に入手できるタイプのベース材料に限定されないと考えられるので、それは、現存する材料のみならず新しい材料を制約を伴わずに探求するのに用いられるだろう。
【0136】
ここで説明されるモデル化は、GC-MEMSデバイスについての吸着の傾向に関して材料を選別するために用いることのできる方法だけでなく、他の用途における表面の特性を確認するために用いることのできる方法をも示しているようである。例えば、特にALDなどの表面に依存するプロセスが流行しつつあるので、ICの製造における汚染物質の移動の問題は重要な事柄であろう。また、多機能デバイスや多材料デバイスが想定されるので、材料の設計についての多くの問題が分子モデル化を用いて扱われるだろう。例えば、MEMS-GCに関して扱うことのできる他の将来的な材料の問題は、層の接着性とパッケージの信頼性であろう。
【0137】
材料の利用に関するMGAまたはGCの例が、例証する目的でここで説明される。流体の組成の感知器、分析器またはガスクロマトグラフは、濃縮器、分離器、様々な検出器およびポンプを有するだろう。濃縮器は、流体の流れのチャネルの中で互いに異なる時間において作動する位相化(phased)ヒーターの配列を有するだろう。それは位相化ヒーターの配列構造に関係し、そして特に、流体の成分の同定と定量のための感知器、分析器またはクロマトグラフとしての構造の適用に関係するだろう。そのようなヒーター構成を有するそのような装置は「位相化(PHASED)」デバイスと見なされ、あるいはそう呼ばれるだろう。「PHASED」という用語は、「Phased Herter Array Structure for Enhanced Detection」と言うときの頭字語と見なすこともできる。「流体」という用語は、種類としての気体(ガス)と液体を含む包括的な用語であろう。
【0138】
この微量流体分析器のモジュール構造が他の構造を上回る幾つかの利点としては、変化する温度環境の中で動作する能力(すなわち、個々の検出器の変化する感度を補償する能力)、そのような変化に対する補償を手動ではなく自動で行うこと、および吸引側において測定可能な脈動(1パーセント以下)を生じさせることなく可動部品を用いずに作動する能力があるだろう。
【0139】
この装置は、流体の成分の存在、同定および定量を達成するための、小型、迅速、低出力で、かつ周囲圧力で動作する最少吸引式の質量分光分析装置の配列と結合した、選択的で高感度、迅速かつ低出力の位相化ヒーター要素の配列からなるセンサーシステムまたは微量分析器であろう。この装置は、非常に小さく、エネルギー効率が良く、そしてそれ自体の電力源を含めて携帯式のものである。
【0140】
微量流体分析器は1つ以上の濃縮器と2つ以上の分離器を有するだろう。この分析器は1つ、2つまたはもっと多くのポンプを有することができる。この分析器は幾つかのチャネルを有する予備濃縮器を有することができる。分析器の流路に沿って多数の検出器が配置されていることができる。また、流路内に1つ以上のオリフィスと微小バルブが配置されてもよい。濃縮器は、流路に沿って移動する脱着した分析物の濃度パルスを生じさせ、それによって増大する濃度の分析物を与えるための熱パルスを与える位相化ヒーター要素の配列を有することができる。分析器は複数の流体またはガスのクロマトグラフとして構成されることができる。
【0141】
微量流体分析器は、位相化ヒーターの配列、濃縮器、分離器および種々の手法を組み込んでもよい。この微量流体分析器は、10億当り数部(ppb)の最大排出対象物を用いてオゾンを感知するための低コストの手段であろう。この分析器は、親(host)試料ガスすなわちベース試料ガス中のほんのわずかの化合物または親液体中のほんのわずかの化合物からなる混合物を検出することができる。
【0142】
流体分析器は、関連するマイクロコントローラーまたはプロセッサーへの結合部を有していてもよい。感知器の用途は、通常のCO2 、H2OおよびCOの他に、アルデヒド、酪酸、トルエン、ヘキサン、その他同種類のものなど、航空機の空間内の空気汚染物質の検出と分析を含むことができる。その他の感知対象としては、CO2 、H2O、アルデヒド、炭化水素およびアルコールなどのガスのレベルが調整される屋内空間や、屋外空間の感知、および化学、精製、製品の清浄化、食品、紙、金属、ガラス、医療および製薬の産業などにおけるプロセス流れの感知があるだろう。また、感知するということは、環境の保証や保護において重要な位置を占めるだろう。感知するということは、化学物質の濃度が増大して有害になる前にそれらを早期に検出することによって、施設の内外において防御的な安全性を与えるだろう。
【0143】
感知器は高い感度を有する。感知器はppm以下またはppb以下のレベルの検出を提供し、これは関連する分野の技術、例えば1〜10ppmの範囲の感度を提供する従来のガスクロマトグラフよりも100倍ないし10000倍以上も良好である。感知器は、特に、低出力で迅速、かつより小型でより感度が高く、そして入手可能な形のガスクロマトグラフである。それは構造上の一体性を有し、そして非常に大きな差圧の範囲にわたる加圧された流体試料を検出しそして分析する用途において漏出が起きる危険性が非常に低いか、あるいは全く無い。
【0144】
位相化ヒーターの感知器を通しての迅速な試料の捕捉と調整された流れの両者が提供されるようなやり方でフィルターを通して試料ガスを吸引するように、感知器のポンプを配置することができる。ポンプが感知器を通して試料ガスを吸引するとき、ガスは膨張し、従ってその容積と線速度が増大するだろう。ヒーターの「波動」が感知器の中で変化するガス速度と同調するのを維持するために、速度のこの変化を補償するように制御回路が設計される。ヒーターのチャネルを通して試料ガスが押し込まれるときに試料ガスの容積が変化するのを補償するために、それの電子装置によって流れの制御および/またはヒーターの「波動」の速度を調整する必要があり、それによって内部でのガスの流れの速度が電気的に駆動されるヒーターの「波動」と同調するのが維持される。
【0145】
この感知器は、安全であることが必須の、伝送用または分配用のパイプラインシステムに沿っての天然ガスまたはプロパンガスや化学処理プラントにおけるその他のガスの定期的な漏れの調査に特に良好に適しているような感度、速度、携帯性および低出力を有するだろう。
【0146】
この感知器は、その用途が漏れを感知することであるとき、目盛り定めの指標(溶離時間がガス成分の種類を明らかにする)として、および/または漏れの発生源を識別するものとして、幾つかの試料ガスまたは全ての試料ガスの成分(およびそれらのピーク比率)を用いるだろう。メタン(これは山岳の空気中に約1〜2ppmで存在する)などの特定のピークだけが存在する場合、それは、その成分の発生源が低湿地ガス、天然またはパイプラインのガス、あるいは別の流体のいずれであるのかを示すための十分な情報とはならないだろう。
【0147】
感知器は、携帯式の装置として用いられるか、あるいは決まった場所に据え付けられる。比較される関連技術の感知器に対して、それは、水素タンクの容積を必要としないので携帯式のフレームイオン化検出器よりも小型であり、熱フィラメント式ガス感知器や金属酸化物燃焼式ガス感知器よりも迅速で感度が高く、そして従来のガスクロマトグラフおよび/または携帯式のガスクロマトグラフよりも迅速、小型かつ電力節約性のものであろう。
【0148】
図5は、微量ガス装置(MGA)15を説明する例の特定の細部を示す。その仕様と構造上の細部は例としてのものであり、類似のMGAとは異なっているかもしれない。本発明を例証する目的で、様々な構造のMGAを実施することができる。試料の流れ25はパイプまたはチューブ19から投入口34に入る。装置15に入る流体の流れ25から埃やその他の粒子を除去するための粒子フィルター43を設けてもよい。この除去は装置を保護するためのものであり、ろ過することにより、流体25の組成を正確に分析するための装置の性能は低下しないはずである。汚れた流体(浮遊している固体または液体の非揮発性粒子を含むもの)は、感知器の適切な機能を損なうかもしれない。流体25の一部45は、光イオン化電流を測定することのできる示差熱伝導率検出器(TCD)、または化学感知器(CRD)、または光イオン化感知器または検出器(PID)、またはその他の装置127の第一の脚部を通って流れ、そして流体25の一部47は、ポンプ51のチューブ49を通って流れる。入口45のすぐ隣りに「T」チューブを配置することによって、フィルターのパージ時間を短くするのを助ける相対的に多くの流れ47が生じるので、最少の時間の遅れをもって試料の採取が達成される。ポンプ51は、粒子フィルター43の出口からチューブ49を通って流れてポンプ51から出る流体47を生じさせる。ポンプ53は、感知器とチューブ57を通る流体45の流れを生じさせる。図46において、装置15のための追加のポンプあるいはもっと少ないポンプ、および様々なチューブまたは配管の配置または構造が存在する。検出器127および128からのデータは制御器130に送られ、次にこれは、マイクロコントローラーおよび/またはプロセッサー29へ処理するためのデータを中継する。得られた情報はステーション31へ送られる。
【0149】
図46は感知器の装置15の一部の概略図であり、図5における濃縮器124と分離器126の部分を表している。感知器の装置は基板12と制御器130を有していてもよい。制御器130は基板12に組み込まれていても、組み込まれていなくてもよい。基板12は上に配置された幾つかの薄膜ヒーター要素20、22、24および26を有していてもよい。4つのヒーター要素だけが示されているが、いかなる数のヒーター要素が設けられていてもよく、例えば2つから1000の間であり、しかし典型的には20〜100の範囲である。ヒーター要素20、22、24および26はいかなる適当な導電体、安定な金属、あるいは合金のフィルムからできていてもよく、例えば、しばしばパーマロイと称されて80パーセントのニッケルと20パーセントの鉄の組成を有するニッケル-鉄合金や、白金、ケイ化白金、およびポリシリコンである。図47に示すように、ヒーター要素20、22、24および26は、薄くて低熱量で(low-thermal mass)、面熱伝導率の低い支持部材30の上に設けられていてもよい。支持部材または膜30は、Si3N4またはその他の適当な材料または類似の材料で製造することができる。ヒーター要素はPtあるいはその他の適当な材料または類似の材料で製造されてもよい。
【0150】
図47に示すように、基板12は、試料流体の流れ45を受け入れるためのチャネル32を有する適切に限定された信号-チャネル位相化ヒーター機構41を有する。チャネルは、支持部材30の下のシリコンチャネルウエーハ基板12を選択的にエッチングすることによって製造されてもよい。チャネルは流入口34と流出口36を有していてもよい。
【0151】
感知器の装置は、チャネル31の内部に幾つかの相互に作用する要素を、それらが試料流体の流れ45に晒されるようにして有していてもよい。相互に作用する要素の各々は、対応するヒーター要素に隣接するように、すなわち可能な限り近接するように配置されていてもよい。例えば、図47において、相互に作用する要素40、42、44および46は、チャネル32の中で支持部材30の下の方の表面に設けられていて、そしてヒーター要素20、22、24および26のそれぞれに隣接している。他のチャネルと追加の相互作用フィルム要素が存在していてもよいが、それらはこの実施例には示されていない。相互に作用する要素は、液体クロマトグラフィーまたはガスクロマトグラフィーにおいて通常用いられるいかなる数のフィルムから形成されてもよく、例えば、シリカゲル、ポリメチルシロキサン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレングリコール、多孔質シリカ、ナノグラス(登録商標、Nanoglass)、活性炭、およびその他のポリマー物質で形成される。さらに、上記の相互作用物質は、対象とする分析物の最適な吸着および/または分離を達成するために、様々な度合いの極性および/または疎水性を得るのに適したドーパントによって改質されてもよい。
【0152】
図6は、一つのチャネルを有する位相化ヒーター機構41の末端断面図を示す。単一チャネル位相化ヒーター機構41の末端断面図には、支持部材30と基板12およびそれらの間の要素が含まれる。図6は、露出した1ミクロンの膜を有する形式の位相化ヒーター機構41を示す。開放空間392も示されている。支持部材30は上部構造物65に付設することができる。固定部材67が支持部材30をチャネル32に対して適切な位置に保持する。固定部材67の地点の数を少なくすると、支持部材30から機構41の他の部分への熱伝導損失が最少になる。ヒーター要素からの熱伝導を少なくするために、少ない数の固定地点を有するヒーター膜が用いられるだろう。
【0153】
位相化ヒーター配列のヒーター要素には両方の表面、すなわち上側と下側の表面で吸着材料をコーティングしてもよく、それにより出力の散逸が少なくなり、また入ってくる検出ガスのより効率的な加熱がなされる。ヒーター要素は、出力の散逸が少なくなるように、小さな幅を有するだろう。
【0154】
相互作用フィルム要素は、所望の収着材料を含む材料の流れを加熱機構41のチャネル32を通して通過させることによって形成することができる。これにより、チャネルの全体に相互作用性の層を付与することができる。もし分離した相互作用要素40、42、44、46が望ましい場合は、下のウエーハ12に付設された支持体30の上にコーティングを回転塗布し、次いで、標準のフォトレジストマスキングとパターン化方法のいずれかを用いるか、あるいはヒーター要素20、22、24および26によってコーティングに温度変化を与えることによって、選択的に「発達」させてもよい。
【0155】
ヒーターの配列の内側のチャネルの表面には、設計上意図的に吸着材料でコーティングされる表面を除いて、非吸着性の断熱層をコーティングしてもよい。吸着材のコーティングまたはフィルムの厚さは、吸着と脱着に要する時間を少なくすることによって、減少させることができる。図6に示すように、相互作用要素など設計上から吸着材をコーティングした表面がある場所を除いて、単一チャネルのヒーター41におけるチャネル32の内壁に非吸着性の断熱材料からなるコーティング69を塗布してもよい。その材料は、チャネル壁に用いられる材料よりも実質的に小さな熱伝導性を有していなければならない。チャネル壁に用いられる材料はシリコンとすることができる。コーティング69のための代替材料としては、SiO2またはその他の金属酸化物がある得る。コーティング69は、支持体30におけるヒーター要素のために用いられる電力を少なくするだろう。移動相/固定相の容積の合理的な比率を維持しながら、ヒーター要素の膜と吸着材のフィルムのサイズ(幅、長さおよび厚さ)を最小にするか、あるいは低減することによって、電力がかなり低減することができる。吸着材のフィルムの厚さを最小にするか、あるいは低減することによって、所定の分析器の構造について吸着−脱着に要する時間が短くなり、また流体の分析について必要なエネルギーが節約される。
【0156】
ヒーター要素20、22、24および26は、上側と下側の両方でGCフィルムでコーティングされてもよく、それにより幅およびヒーター要素の表面の出力の散逸が改善される。これらのヒーター要素の製作は2つのコーティング工程を含み、第二の工程においては、第二のウエーハの内側を第一のコーティングで保護し、そして第一のウエーハが分解した後に、ウエーハとウエーハの接合(wafer-to-wafer bonding)とコーティングを行うことを要するだろう。
【0157】
この微量ガス分析器は、繰り返し連続して行われる回転塗布(またはその他の堆積手段)の工程によって形成されたヒーター要素40、42、...、44、46を有し、それによって、予め配置されたパターンの濃縮器と分離器の要素が異なる吸着材料A、B、C、...(これはGCの文献において固定相として知られる)でコーティングされ、また濃縮器/分離器の要素の比率を選択することができるだけでなく、A、B、Cなどでコーティングされた要素のいずれかが(何らかの脱着温度において)濃縮プロセスに寄与するように選択され、そして分離器の中に電気的に注入され、そしてこのとき、要素の温度勾配の割合の選択がB、C、...の要素とは異なるようにAに対して行われ、そしてさらに、「A」の要素のグループからのガスを分離した後に、別のセットのガスを「B」の要素のグループから分離する、などのやり方で、このシステムに多能性を与えることができる。濃縮器対分離器のヒーター要素の比率は、制御器130に接続された比率制御機構490によって設定または変更されうる。
【0158】
制御器130は、図46に示すように、ヒーター要素20、22、24、26の各々、および検出器50に電気的に接続することができる。制御器130は、時間が位相化されたシーケンス(順序)でヒーター要素20、22、24および26に電圧を印加し(図48の下を参照)、それにより、対応する相互作用要素40、42、44および46の各々が、1以上の上流の相互作用要素によって生成された上流の濃度パルス(concentration pulse)が相互作用要素にほぼ達したときに、加熱され、そして選択された成分を流れている試料流体45の中に脱着する。濃度パルスの中で所望の濃度の成分ガスを達成するために、いかなる数の相互作用要素を用いてもよい。得られた濃度パルスは、検出と分析のために、検出器50、128に供給することができる。検出器50、127または128(図5および図46)は、熱伝導率検出器、放電イオン化検出器、CRD、PID、MDD、あるいはガスまたは流体のクロマトグラフィーにおいて典型的に用いられるようなあらゆるその他のタイプの検出器であってもよい。
【0159】
図48は、例として、相対的なヒーター温度を、各々のヒーター要素において生成された対応する濃度パルスとともに示すグラフである。上で示したように、制御器130は時間が位相化されたシーケンスでヒーター要素20、22、24および26に電圧を印加し、これに伴って電圧信号71が生じる。ヒーター要素20、22、24および26についての例としての時間位相化ヒーターの相対的な温度を、それぞれの温度プロフィールまたは温度ライン60、62、64および66によって示す。
【0160】
示された例において、制御器130(図46)は最初に第一のヒーター要素20に電圧を印加し、それによって、図48のライン60で示すように、このヒーター要素の温度が上昇する。第一のヒーター要素20は第一の相互作用要素40に熱的に結合されているので(図47)、この第一の相互作用要素は選択された成分を流れている試料流体45の中に脱着し、それにより、他のいずれのヒーター要素もパルス化されない場合は、検出器128または50において第一の濃度パルス70が生じる(図48)。流れている試料流体45は第一の濃度パルス70を、矢印72で示すように、下流へ第二のヒーター要素22へ向けて移動させる。
【0161】
次に、制御器130は第二のヒーター要素22に電圧を印加し、それによって、ライン62で示すように、このヒーター要素の温度が上昇し、要素20でのエネルギーパルスが停止したときかあるいはその前に作動し始める。第二のヒーター要素22は第二の相互作用要素42に熱的に結合されているので、この第二の相互作用要素も選択された成分を流れている試料流体45の中に脱着し、それにより、第二の濃度パルスが生じる。制御器130は、第二の濃度パルスが第一の濃度パルス70と実質的に重なり合うように第二のヒーター要素22に電圧を印加することができ、それによって、図48に示すように、より高い濃度パルス74が生じる。流れている試料流体45は大きな濃度パルス74を、矢印76で示すように、下流へ第三のヒーター要素24へ向けて移動させる。
【0162】
次に、制御器130は第三のヒーター要素24に電圧を印加し、それによって、図48におけるライン64で示すように、このヒーター要素の温度が上昇する。第三のヒーター要素24は第三の相互作用要素44に熱的に結合されているので、第三の相互作用要素44は選択された成分を流れている試料流体の中に脱着し、それにより、第三の濃度パルスが生じる。制御器130は、第三の濃度パルスが第一および第二のヒーター要素20および22によって与えられる大きな濃度パルス74と実質的に重なり合うように第三のヒーター要素24に電圧を印加することができ、それによって、さらに大きな濃度パルス78が生じる。流れている試料流体45はこの大きな濃度パルス78を、矢印80で示すように、下流へ「N番めの」ヒーター要素26へ向けて移動させる。
【0163】
次に、制御器130は「N番めの」ヒーター要素26に電圧を印加し、それによって、ライン66で示すように、このヒーター要素の温度が上昇する。「N番めの」ヒーター要素26は「N番めの」相互作用要素46に熱的に結合されているので、「N番めの」相互作用要素46は選択された成分を流れている試料流体45の中に脱着し、それにより、「N番めの」濃度パルスが生じる。制御器130は、「N番めの」濃度パルスが前の(N−1)までの相互作用要素によって与えられる大きな濃度パルス78と実質的に重なり合うように「N番めの」ヒーター要素26に電圧を印加することができる。流れている試料流体は「N番めの」濃度パルス82を、後述するように、分離器126または検出器50または128のいずれかへ移動させる。
【0164】
上で示したように、ヒーター要素20、22、24および26は通常の長さを有していてもよい。従って、各々のヒーター要素に等しい電圧、電流または出力パルスを与えることによって、制御器130は、ヒーター要素を等しい温度にすることができる。電圧、電流または出力パルスは三角形、矩形、釣り鐘形、あるいはその他のあらゆる形状を含めて、いかなる所望の形を有していてもよい。図48に示すような温度プロフィール60、62、64および66を得るために、ほぼ矩形の電流、出力または電圧のパルス71を用いることができる。温度プロフィールから、脱着される化学種は電圧パルスに対してわずかな時間の遅れを伴って生成するようであり、そしてそのことが注目される。
【0165】
ヒーター要素の制御を簡単にするために、各々の連続したヒーター要素の長さを一定に保つことによってヒーター要素の間の全ヒーター抵抗を同じにし、それによって、類似した温度プロフィールをつくり出すために、等しい電圧、電流または出力パルスを用いることが可能になる。あるいは、ヒーター要素は異なる長さを有していて、制御器がヒーター要素に対して異なる電圧、電流または出力パルスの大きさを与え、それによって類似した温度プロフィールをつくり出すようにしてもよい。
【0166】
図49〜63はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関するものである。フェニラート化ナノグラスについてのそのようなエネルギー最小化のモデル(Meの場合と同じ理論量組成)。これらのケースは非水和、水和、全てのSiO側、およびSiOHを含有する側を含むだろう(OH/Si=1/10)。吸収する分子はエタン、ヘキサン、オクタン、デカン、ペンタデカン、二酸化炭素、水およびエタノールを含むだろう。
【0167】
注目される観察結果はエネルギーの傾向であり、エネルギーの分離は非水和表面でより安定しているようであり、従って、水に対する感受性を示す。非水和のSiOH側は、非水和のSiO側よりも化合物について良好なエネルギー分離を示す。非水和フェニラート化表面は非水和メチル化NGの場合よりも良好なエネルギー分離を示すはずである。CO2とEtOHの間ではメチル化ナノグラスの場合よりもエネルギー分離が少ないだろう。SiOH側とSiO側を比較すると、SiO側が良好な一般的傾向を有するようであり、メチル化(標準)NGの場合と一致する。非水和の場合は水和した場合よりもエネルギーの傾向においてより安定しているようである。非水和のときのSiO側よりも非水和のSiOH側がわずかに良好な選択性(エネルギー分離)を有するときに、SiOH側はSiO側よりもわずかに良好な選択性(エネルギー分離)を有するだろう。CO2とEtOHの間ではMe−NGの場合よりもエネルギー分離が少ないだろう。非水和の場合については、フェニラート化すると良好なエネルギー分離を与えるだろう。
【0168】
SiOH対SiOと表示される特定の化合物があるだろう。水和の状態のいかんにかかわらず、SiO側はより安定な傾向があるようである。しかし、C10には、水と前駆平衡(pre-equilibrate)していなかった水和した表面のために、例外的な挙動があるようである。
【0169】
図58における例外的な点は、非前駆平衡の水和(non pre-equilibrate hydration)によるものであろう。図59〜61において特定の化合物が表示される。図62と図63はデータの要約を与える。非水和の場合は水和した場合よりもエネルギーの傾向においてより安定しているようである。このデータを通して、分離はそれほど決定的なものではないようであるが、しかし水和の影響によるものであると思われる。
【0170】
図64〜91はCWAの吸着エネルギーに関するものである。このモデルはSiOH側でのナノグラスのモデルから導き出された。ナノグラスの表面は、ナノグラスに及ぼすビスペルフルオロブタノールシリル基の影響、ナノグラスに及ぼすトリフルオロプロピルメチルシリル基の影響、ナノグラスに及ぼすジフルオロプロパノールメチルシリル基の影響、およびナノグラスに及ぼすHON "TA"=ジメチルシリル基の影響を表すために置換された。
【0171】
観察結果によれば、TA基は水の変化性の影響を少なくすることにおいて、標準のナノグラスほどには良好ではない、ということが示されたようである。側鎖のフッ素化は水の変化性を促進するようである。新しい表面のうちでは、トリフルオロプロピルメチル基が水の影響が最も少ないことを示すようであるが、しかしビスペルフルオロブタノール基も非常に安定しているようである。側鎖の疎水性の均衡があるかもしれない(ジフルオロプロパノール基はトリフルオロプロピル基ほどには良好ではないようである)。シリカの表面について目標とする処理を考慮することができる。商業的に入手できるものは、トリフルオロプロピルメチルシクロトリシロキサン、トリフルオロプロピルメチルジクロロシラン、ヘプタデカフルオロテトラヒドロデシルメチルジクロロシラン、トリデカフルオロテトラヒドロオクチルメチルジクロロシラン、ナノグラス(登録商標、Nanoglass)、および "TA"である。プロットは非水和対水和を用いることができる。図64〜66に関して、水の影響が示されないように、勾配=1で、0,0において交差することが要求される。TAは傾向に関しては最も悪いようである。図67〜71に関して、異なる吸着材についての非水和対水和のプロットが行われる。ここで、勾配=1で、0,0において交差することが要求される。エネルギー対MWについて言及される。
【0172】
図92〜図102はテトラフルオロエチレン(TFE)の上のCWAに関する。観察結果は、これがフルオロカーボンの表面の極端なケースと考えられることを含む。水和と非水和の両者の場合において、CWAに対して類似した傾向の反応があるだろう。前駆平衡した水の場合は、非水和のものと類似したエネルギー範囲を有するだろう。前駆平衡していない水の場合、これも同様のエネルギーの傾向を有するようであるが、しかしエネルギー範囲はもっと大きな吸着に移動するようである。しかし、水和状態の間に大きな差異が現れるようである。フルオロカーボンで置換したナノグラスは、この点においてもっと良好なようである。
【0173】
図103〜図110はAvatrelとSU8の固定相に関すると考えられる。これらのモデルは、モデル化された2つの新しいポリマーの固定相に関係することができる。Avatrelはポリノルボルネンポリマーをベースとするものでもよい。それは通常、接着性について機能化されている。SU8は標準的な固定相であり、ノボラック-エポキシをベースとする。これらのモデルについては、シミュレーションのために脂環式エポキシ(ビスエポキシシクロヘキシルメチルアジペート)の形のものを用いることができる。
【0174】
幾つかの観察結果は、次の事項に関するものであろう。脂環式Avatrelポリマーの驚くほど高いエネルギーの吸着性があるようであるが、しかし分析物のエネルギーの分離は低い。脂環式エポキシを用いるSU8/ノボラック擬似物も、水の妨害性がほとんどなくなっているようであって、そして材料のグループの良好な分離を有するようである、ということにおいて驚くべきものである。SU8は次の三つの明確な分離領域を示すようである。〜10kcal/モル未満の小さな分子;〜10〜20kcal/モルの非極性分子;〜20kcal/モルを超える極性分子。他の結果とともに、これらの結果は、もしそれが高い疎水性を有している場合(GX3P、CNT/黒鉛、Avatrel)、それは高い吸着性を有する固定相を有するだろう、ということを示しているようである。もしそれが極性の内容を有している場合、それは分離を示すだろう(SU8、NG-SiOH側、テフロン)。もしそれが水素結合性の水素を除去する可能性がある場合、水の妨害性が減少するだろう(NG-SiO側、GX3P、CNT/黒鉛、テフロン、トリフルオロプロピレン-NG)。
【0175】
固定相に必要なこととしては、高い吸着性のための高い疎水性、低い水の妨害性のためのH結合性水素の低い含有量、および分離のための極性を有すること、であろう。全体として、SU8はこれまでに最良のバランスの特性を有するだろう。モデルはエポキシ置換Avatrelについて実施されるだろう。というのは、これは分離のための十分な極性を付与することができ、吸着性の重要さのために極性をトレードオフ(交換取引)することが求められるためである。
【0176】
非水和のエネルギーと水和のエネルギーの比較により、非水和状態にあるCWAについて十分に大きな吸着エネルギーが示され、「前駆平衡されていない」トラック(track)が非水和の場合に最良であり、最良の収集相となるだろう。
【0177】
ノボラックエポキシは水和したときに非常に良好な保持性の傾向を有し、この材料について最良の態様を示すと思われる。それは2つの異なる水和状態の間で差異をほとんど示さないだろう。
【0178】
エネルギーの大きさは他の固定相と類似しているようである。2つのポリマーは高い疎水性と脂環式の内容において共通しているだろう。
図111〜図127はDB1および比較のものに関する。新しいモデルの固定相は、DB1(PDMS)、CWAの一連のもの、および幾つかの炭化水素に関するものであろう。
【0179】
観察結果によれば、DB1の吸着エネルギーの範囲はNGEよりもわずかに悪く、そして処理されたNGEとほぼ同じであることが示されたようである。ポリノルボルネンは依然として最も確かな吸着エネルギーを有し、それに続くのはSU8と黒鉛のようである。一般に、吸着性については次のようである:ポリノルボルネン> SU8〜黒鉛〜NGE > DB1〜ジメチル置換NGE〜テトラフルオロエチレン〜トリフルオロプロピル置換NGE。
【0180】
HCNを除いて、水分に伴って吸着エネルギーのわずかな変化があるようである。非水和と水和(仮定された水の前駆平衡)を比較したエネルギーの保持については、DB1、SU8、テトラフルオロエチレンおよびトリフルオロプロピル置換NGEおよび黒鉛は、ポリノルボルネン、NGEおよびジメチル置換NGEよりも良好であると思われることに注目することができる。
【0181】
疎水性のより高い材料は、それでも全体的に最良の性能を有するようである。Siをベースとする化合物について、最も疎水性の高いもの(例えばDB1)は、水の影響をあまり受けないものであると思われる。疎水性は次の順序で増大すると予測される。NGE < トリフルオロプロピル置換NGE < DB1。しかし、明確な誘電率の傾向は存在しないだろう。例えば、NGEとSU8はPDMS(DB1)よりも高い誘電率を有するはずであり、そしてポリノルボルネンは低い誘電率を有するはずである。
【0182】
以下に示すものは、ここで関連するであろう幾つかの専門用語である。幾つかの可能性のある固定相材料としては、DB1(100%PDMS)、DB-5(5%のフェニルを含むPDMS)、F-100(VINAR7、ジメチルシロキサンとシリルアリーレンモノマーを含むポリシロキサンコポリマー)、NGE(Nanoglass-E(登録商標)、ナノ多孔質有機シリケート)、OV1(PDMS)、OV225(シアノプロピルメチルフェニルメチルシリコーン)、OV275(ジシアノアリルシリコーン)、PCUT(ポリカーボネートウレタン)、PDMS(ポリジメチルシロキサン)、PECH(ポリエピクロロヒドリン)、PEVA(40%のアセテートを含むポリエチレン-コ-ビニルアセテート)、RTX-1(100%PDMS(Restek(登録商標)))、RTX-200(トリフルオロプロピルを添加したPDMS)、RTX-2330(10%のフェニル-シアノプロピルを含む90%ビスシアノプロピル)、SE-54(DB-5)、SOG(スピンオンガラス)、およびSXFA(シロキサンフルオロアルコール)がある。
【0183】
幾つかの重要な頭字語の要約としては、CID(化学インピーダンス検出器)、DEEP(ジエチルエチルホスホネート)、DMMP(ジメチルメチルホスホネート)、FID(フレームイオン化検出器)、GC(ガスクロマトグラフィー)、IDHL(健康と生命に直接に危険性がある)、MEMS(マイクロ電子機械構造または装置)、MDD(マイクロ放電検出器)、MDL(最小検出限度)、MS(質量分析計)、PC(予備濃縮)、PHASED(検出能を向上させるために位相化したヒーター配列の構造)、SAW(弾性表面波)、TCD(熱伝導率検出器)、TLS(全対数感度)、およびTME(全最大誤差)がある。
【0184】
幾つかの重要な記号としては、H(GC分離のための理論プレートの高さ、cmまたはμm)、ΔH(蒸発または吸着のエンタルピー、kJ/モルまたはkcal/モル);loge(k’)=ΔH/RT+ΔS/R−ln(β) 、k’(容量係数または保持係数、無次元)、K(分配係数または平衡係数、K=k’・β)、L(GC分離カラムの長さ、cmまたはm)、ΔS(蒸発または脱着のエントロピー、kJ/(K・モル) またはkcal/(K・モル)、t0(カラム内でのゼロ保持を伴う溶離時間、sまたはms)、tr(保持を伴う溶離時間、sまたはms)、Tb(沸点温度、Kまたは℃)、V(速度、cm/sまたはm/s)、w(半分の高さにおけるGCピークの幅、sまたはms)、β(GCカラムの(ガス相)/(固定相)の容積比率)、およびε(比誘電率)がある。
【0185】
本明細書において、幾つかの事項は仮定的または予想的な性質のものであるが、別のやり方または時制で説明されているかもしれない。
本発明を少なくとも一つの例に関して説明したが、当業者であれば本明細書を読むことによって、多くの変形と修正が明らかになるだろう。従って、添付した特許請求の範囲は、先行技術を考慮して、そのような変形と修正の全てが含まれるように可能な限り広く解釈されるべきであることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0186】
【図1】図1は固定相の特性についての図式である。
【図2】図2は固定相を選択するための流れ図である。
【図3】図3はH2 または空気のキャリヤーガスを用いるMGA性能の表である。
【図4】図4は極性化合物についての保留指数の表を示す。
【図5】図5は例示的な位相化ヒーターの機構の配置図である。
【図6】図6は単一のフィルム要素の末端断面図を示す。
【図7】図7は分析物上の吸着エネルギーの分子モデル化の確認のためのグラフである。
【図8】図8は相互作用エンタルピーの比較を示すグラフである。
【図9】図9は分析物の吸着エンタルピーを示す。
【図10】図10は実験上と計算上との間での相平衡またはK値の相関量を示す。
【図11】図11は分配定数の計算値と測定値のグラフである。
【図12】図12はK対誘電率または誘電分極のグラフである。
【図13】図13はK対誘電率または誘電分極のグラフである。
【図14】図14はK対誘電率または誘電分極のグラフである。
【図15】図15はK対誘電率または誘電分極のグラフである。
【図16】図16はK対誘電率または誘電分極のグラフである。
【図17】図17は誘電率の計算値対文献上の値のグラフを示す。
【図18】図18は類似物対等温度のグラフである。
【図19】図19は材料についてのk’ およびtr 対沸点のプロットを示す。
【図20】図20は材料についてのk’ およびtr 対沸点のプロットを示す。
【図21】図21は材料の測定されたK対沸点のグラフを示す。図21aは材料についての計算されたK値対測定されたK値のプロットである。
【図22】図22はガスクロマトグラムのプロットである。
【図23】図23はガスクロマトグラムのプロットである。
【図24】図24はアルカン分離と固定相の間の比較を示す。
【図25】図25は流体分析器の検出器出力対時間のグラフである。
【図26】図26は濃縮前の利得対脱着温度のグラフである。
【図27】図27は濃縮前の利得対脱着温度および吸着エネルギーのグラフである。
【図28】図28は濃縮前の利得対脱着温度および吸着温度のグラフである。
【図29】図29は様々な材料についてのΔH kj/モルの値を示す。
【図30】図30は様々な材料についての相対吸着エンタルピーを示す。
【図31】図31は様々な分析材料についての非水和固定相についての相対吸着エネルギー対沸点を示す。
【図32】図32は様々な分析材料についての水和固定相についての相対吸着エネルギー対沸点を示す。
【図33】図33は様々な材料についての吸着エンタルピー対沸点のグラフである。
【図34】図34は材料の非水和状態と水和状態についてのSiOHとSiOの含有量を示す。
【図35】図35は幾つかの配合混合物の実験のGC分析を示し、シリコーン固定相上での相対的な保持順序を示す。
【図36】図36はカーボンナノチューブ固定相を用いるGCチップ上での幾つかの成分混合物の実験のガスクロマトグラフィー(GC)分離を示す。
【図37】図37は黒鉛、PDMSおよび有機シリケートの3つの模擬的固定相から予測される相対的な平均の溶離順序を示す。
【図38】図38は異なる固定相上での分析物の保持性対沸点を示す。
【図39】図39はPDMS上での分離のシミュレーションを示す。
【図40】図40は有機シリケート上で溶離する混合物を示す。
【図41】図41は黒鉛の表面上での溶離のシミュレーションを示す。
【図42】図42はシミュレーションと実験の両者についてほぼ同一であると思われる相対的な溶離順序を示す。
【図43】図43は異なる有機シリケート上での残留物の例を示し、表面のくぼみの中でホスホネートが安定していることが見いだされた。
【図44】図44は各々の分析物の幾つかの分子を用いてヘキサンとドデカンの混合物を分離するシリケート固定相の上のOHの影響を明らかにする形態を示す。
【図45】図45はシリケート固定相の上のOHの影響を明らかにする形態を示す。
【図46】図46は濃縮器または分離器の部分を示す流体分析器の一部の図式である。
【図47】図47はチャネル上のヒーター要素の長手方向の断面である。
【図48】図48はヒーターの温度のプロフィールとともにセンサー装置の各々のヒーター要素において生じた対応する濃度パルスを示すグラフである。
【図49】図49はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図50】図50はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図51】図51はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図52】図52はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図53】図53はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図54】図54はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図55】図55はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図56】図56はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図57】図57はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図58】図58はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図59】図59はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図60】図60はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図61】図61はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図62】図62はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図63】図63はフェニラート化シリカ-NGの吸着エネルギーに関する。
【図64】図64はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図65】図65はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図66】図66はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図67】図67はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図68】図68はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図69】図69はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図70】図70はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図71】図71はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図72】図72はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図73】図73はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図74】図74はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図75】図75はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図76】図76はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図77】図77はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図78】図78はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図79】図79はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図80】図80はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図81】図81はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図82】図82はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図83】図83はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図84】図84はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図85】図85はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図86】図86はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図87】図87はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図88】図88はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図89】図89はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図90】図90はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図91】図91はCWA’sの吸着エネルギーに関する。
【図92】図92はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図93】図93はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図94】図94はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図95】図95はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図96】図96はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図97】図97はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図98】図98はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図99】図99はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図100】図100はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図101】図101はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図102】図102はテトラフルオロエチレンの上のCWAに関する。
【図103】図103は幾つかの特定の固定相に関する。
【図104】図104は幾つかの特定の固定相に関する。
【図105】図105は幾つかの特定の固定相に関する。
【図106】図106は幾つかの特定の固定相に関する。
【図107】図107は幾つかの特定の固定相に関する。
【図108】図108は幾つかの特定の固定相に関する。
【図109】図109は幾つかの特定の固定相に関する。
【図110】図110は幾つかの特定の固定相に関する。
【図111】図111はDB1および比較のものに関する。
【図112】図112はDB1および比較のものに関する。
【図113】図113はDB1および比較のものに関する。
【図114】図114はDB1および比較のものに関する。
【図115】図115はDB1および比較のものに関する。
【図116】図116はDB1および比較のものに関する。
【図117】図117はDB1および比較のものに関する。
【図118】図118はDB1および比較のものに関する。
【図119】図119はDB1および比較のものに関する。
【図120】図120はDB1および比較のものに関する。
【図121】図121はDB1および比較のものに関する。
【図122】図122はDB1および比較のものに関する。
【図123】図123はDB1および比較のものに関する。
【図124】図124はDB1および比較のものに関する。
【図125】図125はDB1および比較のものに関する。
【図126】図126はDB1および比較のものに関する。
【図127】図127はDB1および比較のものに関する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体分析器のための固定相を供給するための方法であって、
材料を選択することを含み、
そしてこのとき、この材料は高い吸着性と低い水の収着性を有する、前記方法。
【請求項2】
材料はさらに、高度に非極性の特性と、200℃を超える温度耐性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
材料は有機低k誘電体を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
材料はナノチューブを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
材料は金属でコーティングされたシリカ/アルミナ収着材を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
材料は低kの無機物と有機物の混合物を含む複合材である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
材料は、中性の離脱基を用いる強化剤を有する多孔質誘電体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
材料は、スピンオンガラスに疎水性を与えるキャッピング剤を有する多孔質で吸着性のスピンオンガラスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
材料は疎水性ポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ポリマーはポリノルボルネン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリオレフィン、および/またはノボラック樹脂を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
材料を選択するための分子モデル化をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
固定相を選択するための方法であって:
固定相のための候補としての材料を用意すること;
材料のための多孔性のレベルを設定すること;
材料のための水の妨害性のレベルを設定すること;および
材料のための吸着性のレベルを設定すること;
を含む前記方法。
【請求項13】
多孔性、水の妨害性および/または吸着性のレベルの妥当性を決定することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
多孔性、水の妨害性および吸着性のレベルが妥当であると決定された場合に、その材料を固定相として受け入れる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
材料の多孔性のレベルが許容できるレベルにない場合に、その材料は多孔性のレベルを高めるために処理される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
材料の水の妨害性のレベルが許容できるレベルにない場合に、その材料は水の妨害性のレベルを高めるために処理される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
材料の吸着性のレベルが許容できるレベルにない場合に、代替の材料が選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
固定相は一組の特性を有していて、そしてこの一組の特性は:
分析物の湿気に依存しない吸着エンタルピー;
分析物に対する高い透過率;
妨害性の流体に対する低い吸着エンタルピー;および/または
極性分析物に対する高い物理吸着の値;
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
一組の特性は:
分子量または沸点に伴って吸着エネルギーが増大すること;
分析物に露出したシラノールがないこと;
標準の堆積方法で実施できること;
フォトレジスト物質に対して接着性があること;
光パターン化できること;および/または
標準の方法でエッチングとパターン化が可能であること;
をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
選択のためのシステムであって:
分析物吸着性の固定相を分子モデル化すること;
分子スケールから相互作用を定性的に比較すること;および
固定相を選択すること;
を含む前記方法。
【請求項1】
流体分析器のための固定相を供給するための方法であって、
材料を選択することを含み、
そしてこのとき、この材料は高い吸着性と低い水の収着性を有する、前記方法。
【請求項2】
材料はさらに、高度に非極性の特性と、200℃を超える温度耐性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
材料は有機低k誘電体を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
材料はナノチューブを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
材料は金属でコーティングされたシリカ/アルミナ収着材を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
材料は低kの無機物と有機物の混合物を含む複合材である、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
材料は、中性の離脱基を用いる強化剤を有する多孔質誘電体を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
材料は、スピンオンガラスに疎水性を与えるキャッピング剤を有する多孔質で吸着性のスピンオンガラスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
材料は疎水性ポリマーを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
ポリマーはポリノルボルネン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリオレフィン、および/またはノボラック樹脂を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
材料を選択するための分子モデル化をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
固定相を選択するための方法であって:
固定相のための候補としての材料を用意すること;
材料のための多孔性のレベルを設定すること;
材料のための水の妨害性のレベルを設定すること;および
材料のための吸着性のレベルを設定すること;
を含む前記方法。
【請求項13】
多孔性、水の妨害性および/または吸着性のレベルの妥当性を決定することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
多孔性、水の妨害性および吸着性のレベルが妥当であると決定された場合に、その材料を固定相として受け入れる、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
材料の多孔性のレベルが許容できるレベルにない場合に、その材料は多孔性のレベルを高めるために処理される、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
材料の水の妨害性のレベルが許容できるレベルにない場合に、その材料は水の妨害性のレベルを高めるために処理される、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
材料の吸着性のレベルが許容できるレベルにない場合に、代替の材料が選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
固定相は一組の特性を有していて、そしてこの一組の特性は:
分析物の湿気に依存しない吸着エンタルピー;
分析物に対する高い透過率;
妨害性の流体に対する低い吸着エンタルピー;および/または
極性分析物に対する高い物理吸着の値;
を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項19】
一組の特性は:
分子量または沸点に伴って吸着エネルギーが増大すること;
分析物に露出したシラノールがないこと;
標準の堆積方法で実施できること;
フォトレジスト物質に対して接着性があること;
光パターン化できること;および/または
標準の方法でエッチングとパターン化が可能であること;
をさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
選択のためのシステムであって:
分析物吸着性の固定相を分子モデル化すること;
分子スケールから相互作用を定性的に比較すること;および
固定相を選択すること;
を含む前記方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
【図43】
【図44】
【図45】
【図46】
【図47】
【図48】
【図49】
【図50】
【図51】
【図52】
【図53】
【図54】
【図55】
【図56】
【図57】
【図58】
【図59】
【図60】
【図61】
【図62】
【図63】
【図64】
【図65】
【図66】
【図67】
【図68】
【図69】
【図70】
【図71】
【図72】
【図73】
【図74】
【図75】
【図76】
【図77】
【図78】
【図79】
【図80】
【図81】
【図82】
【図83】
【図84】
【図85】
【図86】
【図87】
【図88】
【図89】
【図90】
【図91】
【図92】
【図93】
【図94】
【図95】
【図96】
【図97】
【図98】
【図99】
【図100】
【図101】
【図102】
【図103】
【図104】
【図105】
【図106】
【図107】
【図108】
【図109】
【図110】
【図111】
【図112】
【図113】
【図114】
【図115】
【図116】
【図117】
【図118】
【図119】
【図120】
【図121】
【図122】
【図123】
【図124】
【図125】
【図126】
【図127】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
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【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
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【図24】
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【図26】
【図27】
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【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
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【図36】
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【図38】
【図39】
【図40】
【図41】
【図42】
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【図44】
【図45】
【図46】
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【図50】
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【図56】
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【図60】
【図61】
【図62】
【図63】
【図64】
【図65】
【図66】
【図67】
【図68】
【図69】
【図70】
【図71】
【図72】
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【図74】
【図75】
【図76】
【図77】
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【図79】
【図80】
【図81】
【図82】
【図83】
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【図90】
【図91】
【図92】
【図93】
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【図96】
【図97】
【図98】
【図99】
【図100】
【図101】
【図102】
【図103】
【図104】
【図105】
【図106】
【図107】
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【図110】
【図111】
【図112】
【図113】
【図114】
【図115】
【図116】
【図117】
【図118】
【図119】
【図120】
【図121】
【図122】
【図123】
【図124】
【図125】
【図126】
【図127】
【公表番号】特表2008−533449(P2008−533449A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−558109(P2007−558109)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/006884
【国際公開番号】WO2006/093887
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【国際出願番号】PCT/US2006/006884
【国際公開番号】WO2006/093887
【国際公開日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】
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