説明

微量物質検出装置

【課題】 微量物質と標識物質との反応から検出・定量に至る作業を自動化し、例えば、樹脂等により一体成形することができる微量物質検出装置を提供すること。
【解決手段】 チューブと、被検出対象物質が含まれる検体と磁気ビーズと標識物質とバッファ液を混合させ被検出対象物質と磁気ビーズと標識物質とを反応・結合させて試料溶液とする混合・反応部と、2つ以上の電極を備え試料溶液が導入され標識物質が結合された被検出対象物質を測定する測定部と、混合・反応部と測定部に設けられ磁力により磁気ビーズと結合した被検出対象物質を吸着・保持する磁力制御部と、チューブ内を吸引/加圧してチューブ内において試料溶液を移動させる吸引/加圧手段と、チューブの適所に設けられた複数個のバルブと、磁力制御部と吸引/加圧手段と複数個のバルブを制御する制御装置とを具備し、チューブ及び測定部を樹脂により一体成型するようにしたもの。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、DNA(デオキシリボ核酸)等の微量物質を被検出対象物質として検出するための微量物質検出装置に係り、特に、被検出対象物質に結合させた標識物質を測定することによって微量物質の有無や量を測定するように構成したものにおいて、被検出対象物質への磁気ビーズと標識物質の結合から被検出対象物質の検出に至るまでの作業を自動化できるように工夫するとともに、例えば、流路や測定部を樹脂により一体成形することができるように工夫したものに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、DNA等の微量物質を被検出対象物質として検出や定量を行う場合、被検出対象物質の単離や精製、標識物質の被検出対象物質への結合等の煩雑な作業が必要である。
すなわち、DNAの場合は、例えば、特許文献1に開示されているように、標識物質である免疫反応剤を被検出対象物質となるDNAに結合させる。次に、そのDNAと相補的なDNAを結合させた支持体によって上記免疫反応剤を結合させたDNAを捕らえ、免疫反応によって上記免疫反応剤に特異的に結合する蛍光物質等を標的となるDNAに結合させる。そして、その蛍光を測定することにより被検出対象物質としてのDNAの検出・定量を行う。
【0003】
又、蛋白質の場合ではあるが、例えば、特許文献2に示すように、被検出対象物質である蛋白質に免疫反応を利用して標識物質を結合し、その結合された標識物質を測定することにより被検出対象物質の検出・定量を行っている。
因みに、このような被検出対象物質の検出・定量のための作業は手作業で行われる。
【0004】
又、特許文献3、特許文献4には、DNAの検出・測定を行う装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−504962号公報
【特許文献2】特開平10−276786号公報
【特許文献3】特開平5−199898号公報
【特許文献4】特開平2−23898号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の構成によると次のような問題があった。
まず、前述したように、被検出対象物質と標識物質との結合から被検出対象物質の検出・定量までの全ての作業を自動化した装置はなく、DNA等の被検出対象物質の検出・定量のための作業は全て手作業で行われていた。その為、検出に長い時間や多くの労力を要してしまい、且つ、正確な検出を行うためには作業者の熟練を要してしまうという問題があった。
【0007】
本発明はこのような点に基づいてなされたものでその目的とするところは、DNA等の微量物質と標識物質との反応から検出・定量に至る作業を自動的に行うことができ、且つ、例えば、流路や測定部等を樹脂により一体成形することができるようにした微量物質検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するべく本願発明の請求項1による微量物質検出装置は、チューブと、上記チューブに設けられ被検出対象物質が含まれる検体と磁気ビーズと標識物質とバッファ液を混合させ上記被検出対象物質と上記磁気ビーズと上記標識物質とを反応・結合させて試料溶液とする混合・反応部と、上記チューブに設けられ少なくとも2つ以上の電極を備えていて上記試料溶液が導入され上記標識物質が結合された上記被検出対象物質を測定する測定部と、上記混合・反応部と上記測定部に設けられ磁力により上記磁気ビーズと結合した被検出対象物質を吸着・保持する磁力制御部と、上記チューブに接続され上記チューブ内を吸引/加圧することにより上記チューブ内において上記試料溶液を移動させる吸引/加圧手段と、上記チューブの適所に設けられた複数個のバルブと、上記磁力制御部と上記吸引/加圧手段と上記複数個のバルブを制御する制御装置と、を具備し、上記チューブ及び測定部を樹脂により構成するようにしたことを特徴とするものである。
又、請求項2による微量物質検出装置は、請求項2記載の微量物質検出装置において、上記樹脂が柔軟性のある塩化ビニール又はポリプロピレン(PP)又はポリエチレン(PE)又はシリコンを主体としたものであることを特徴とするものである。
又、請求項3による微量物質検出装置は、請求項2記載の微量物質検出装置において、流路形成をブロー成型法により行うものであることを特徴とするものである。
又、請求項4による微量物質検出装置は、請求項2記載の微量物質検出装置において、流路形成をシート状の樹脂等を貼り合わせて形成するものであることを特徴とするものである。
又、請求項5による微量物質検出装置は、請求項1〜請求項4の何れかに記載の微量物質検出装置において、上記被検出対象物質はDNAであることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
以上述べたように本願発明の請求項1による微量物質検出装置によると、チューブと、上記チューブに設けられ被検出対象物質が含まれる検体と磁気ビーズと標識物質とバッファ液を混合させ上記被検出対象物質と上記磁気ビーズと上記標識物質とを反応・結合させて試料溶液とする混合・反応部と、上記チューブに設けられ少なくとも2つ以上の電極を備えていて上記試料溶液が導入され上記標識物質が結合された上記被検出対象物質を測定する測定部と、上記混合・反応部と上記測定部に設けられ磁力により上記磁気ビーズと結合した被検出対象物質を吸着・保持する磁力制御部と、上記チューブに接続され上記チューブ内を吸引/加圧することにより上記チューブ内において上記試料溶液を移動させる吸引/加圧手段と、上記チューブの適所に設けられた複数個のバルブと、上記磁力制御部と上記吸引/加圧手段と上記複数個のバルブを制御する制御装置と、を具備し、上記チューブ及び測定部を樹脂により構成するようにしたので、被検出対象物質への磁気ビーズと標識物質の結合、被検出対象物質の精製、被検出対象物質の検出までの一連の作業を容易に自動化することができ、この一連の作業に要する労力を軽減することができると共に作業に要する時間を短縮することができる。又、チューブ及び測定部を樹脂により構成するようにしたので、簡易、且つ、低コストの装置を提供することができる。
又、請求項2による微量物質検出装置は、請求項2記載の微量物質検出装置において、上記樹脂が柔軟性のある塩化ビニール又はポリプロピレン(PP)又はポリエチレン(PE)又はシリコンを主体としたものであるので、上記効果をより確実なものとすることができる。
又、請求項3による微量物質検出装置は、請求項2記載の微量物質検出装置において、流路形成をブロー成型法により行うものであるので、上記効果をより確実なものとすることができる。
又、請求項4による微量物質検出装置は、請求項2記載の微量物質検出装置において、流路形成をシート状の樹脂等を貼り合わせて形成するものであるので、上記効果をより確実なものとすることができる。
又、請求項5による微量物質検出装置は、請求項1〜請求項4の何れかに記載の微量物質検出装置において、上記被検出対象物質はDNAであるので、DNAを検出する微量物質検出装置についても、簡易、且つ、低コストの装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本願発明の一実施の形態を示す図で、本実施の形態による微量物質検出装置を示す系統図である。
【図2】本願発明の一実施の形態を示す図で、本実施の形態による微量物質検出装置によって検出するために、被検出対象物質であるDNAに磁気ビーズと酸化還元酵素を結合した様子を表わす模式図である。
【図3】本願発明の一実施の形態を示す図で、本実施の形態による微量物質検出装置の測定部及び測定回路の構成を示す回路図である。
【図4】本願発明の一実施の形態を示す図で、測定チャンバ内の反応の様子を説明するための模式図である。
【図5】本願発明の一実施の形態を示す図で、チューブと測定部を樹脂により一体成形した状態を示す微量物質検出装置の平面図である。
【図6】本発明の一実施の形態を示す図で、図5のVI−VI断面図である。
【図7】本発明の一実施の形態を示す図で、図6のVII部を拡大して示す断面図である。
【図8】本発明の一実施の形態を示す図で、流体コネクタの構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図1乃至図8を参照して本発明の一実施の形態を説明する。図1は本実施の形態による微量物質検出装置の構成を模式的に示す系統図である。まず、チューブ1がある。このチューブ1の一端側(図1中左端)には検体注入部3が設けられていて、この検体注入部3には検体注入器5が着脱可能に挿入されている。この検体注入器5の中には、被検出対象物質としてのDNAを含む検体7が充填されている。又、上記検体注入部3近傍のチューブ1には、バッファ液注入部9が設置されていて、このバッファ液注入部9内にはバッファ液11が充填されている。上記バッファ液11は、緩衝液に被酸化還元物質と電子メディエータを溶かした溶液である。緩衝液としては、例えば、リン酸水素二カリウムとリン酸二水素カリウムの混合物の水溶液等が用いられる。電子メディエータは、電子を移動させるための物質である。
【0012】
上記バッファ液注入部9は分岐チューブ13を介してチューブ1に接続されていて、この分岐チューブ13には第1押当バルブ15が取り付けられている。この第1押当バルブ15は、上記分岐チューブ13を押さえ付けて液体が行き来できないようにするもので、これにより上記バッファ液注入部9から上記チューブ1内への上記バッファ液11の流入を制御している。
【0013】
上記チューブ1には第1試薬注入部17、第2試薬注入部19が夫々分岐チューブ21、23を介して接続されている。上記第1試薬注入部17内には第1試薬25(磁気ビーズを含んだ試薬)が充填されている。又、第2試薬注入部19内には第2試薬27(標識物質としての酸化還元酵素を含んだ試薬)が充填されている。又、上記分岐チューブ21には第2押当バルブ29が取り付けられていると共に上記分岐チューブ23にも第3押当バルブ31が取り付けられている。上記第1押当バルブ15同様、第2押当バルブ29と第3押当バルブ31も、夫々、上記第1試薬注入部17から上記チューブ1内への上記第1試薬25の流入と、上記第2試薬注入部19から上記チューブ1内への上記第2試薬27の流入を制御している。
【0014】
上記チューブ1の一端側の、上記バッファ液注入部9、上記第1試薬注入部17及び上記第2試薬注入部19が接続された部分が、混合部33となる。上記チューブ1には、上記混合部33に隣接して、反応部35が設けられている。この反応部35と上記混合部33の境界には第4押当バルブ37が設けられている。上記混合部33と上記反応部35が、請求項1における混合・反応部に相当する部分となる。
【0015】
上記反応部35には、温度制御手段としての温度制御用ヒータ39と攪拌手段としての超音波振動装置41が設置されている。上記温度制御用ヒータ39は、上記反応部35内を、上記検体7に含まれるDNAと上記第1試薬25内の磁気ビーズ及び上記第2試薬内の酸化還元酵素を結合させる反応に適した温度に制御するためのものである。又、上記超音波振動装置41は、上記反応部35内を攪拌して上記DNAと磁気ビーズ及び酸化還元酵素の結合を効率よく行わせるためのものである。又、上記反応部35の、上記温度制御用ヒータ39と上記超音波振動装置41よりも他端側(図1中右側)には、第1磁力制御部43が設けられている。この第1磁力制御部43によって、磁気ビーズと結合したDNAを上記反応部35に吸着・保持するものである。
【0016】
上記チューブ1の他端側には、測定部としての測定チャンバ45が設けられている。上記測定チャンバ45にはイオン交換膜47が設置されていて、このイオン交換膜47によって一対の室49、51が区画・形成されている。これら室49、51には、測定用電極として電極53、55が設置されている。本実施の形態の場合には、これら2つの電極53、55間の電圧を略「0」に制御しながら測定するように構成されている。又、測定チャンバ45は反応部35に設置された超音波振動装置41又はそれとは別に設けられた超音波振動装置により加振できる構成となっている。
尚、本実施の形態においては、イオン交換膜47を使用しているが、その代わりにイオン透過膜を使用してもよい。
【0017】
上記反応部35であって、上記第1磁力制御部43と上記測定チャンバ45の間には、分岐チューブ57が接続されている。又、上記測定チャンバ45の上記反応部35側の室49には、分岐チューブ59が接続されている。上記分岐チューブ57には第5押当バルブ61が設けられている。上記測定チャンバ45と上記反応部35の境界には第6バルブ63が設けられている。上記分岐チューブ59には第7押当バルブ65が設けられている。上記分岐チューブ57及び上記分岐チューブ59は集合されて、そこに吸引/加圧手段としてのポンプ67が接続されている。また、上記測定チャンバ45には、第2磁力制御部69が設置されている。この第2磁力制御部69によって、磁気ビーズと結合したDNAを上記測定チャンバ45に吸着・保持するものである。
【0018】
又、制御装置71が設置されていて、この制御装置71には測定回路73が設けられている。既に説明した各種機器、第1押当バルブ15、第2押当バルブ29、第3押当バルブ31、第4押当バルブ37、第5押当バルブ61、第6押当バルブ63、第7押当バルブ65、温度制御用ヒータ39、超音波振動装置41、第1磁気制御部43、ポンプ67、第2磁気制御部69は、全てこの制御装置71によって制御される構成になっている。又、電極53、55を介しての電流測定等は上記制御装置71の測定回路73によって制御されるように構成されている。
【0019】
上記測定回路73は図3に示すような構成になっている。まず、演算増幅器75があり、この演算増幅器75にはA/D変換器77が接続されている。電極53、電極55の出力信号はこの演算増幅器75に入力される。上記演算増幅器75により増幅された信号は上記A/D変換器77によってアナログ/デジタル変換され、マイクロコンピュータ79に入力される。又、上記マイクロコンピュータ79にはI/O81、メモリ83が接続されている。又、上記I/O81には入力手段85と投入センサ87が接続されている。又、上記電極53からは別の線も出ていてそこには抵抗76が介挿されていて、上記演算増幅器75とA/D変換器77との間に分岐・接続されている。又、上記電極55からは接地線78が出ている。
【0020】
以上の構成に基づいてその作用を説明する。まず、第1押当バルブ15、第4押当バルブ37、第5押当バルブ61を開放し、ポンプ67を駆動する。それによって、チューブ1内に負圧が発生し、バッファ液注入部9内のバッファ液11が吸引されてチューブ1内に充満されることになる。その状態で、検体注入部3を介して検体注入器5より検体7が注入される。
【0021】
次に、第2押当バルブ29、第3押当バルブ31、第4押当バルブ37、第5押当バルブ61を開放して、ポンプ67による負圧によって、第1試薬注入部17、第2試薬注入部19より、第1試薬25と第2試薬27を若干量引き出す。それと同時に、第1押当バルブ15を開放してバッファ液注入部9よりバッファ液11を引き出す。これによって、混合部33において、検体7、バッファ液11、第1試薬25、第2試薬27を混合させ、反応部35に導いたことになる。
【0022】
次に、第4押当バルブ37、第5押当バルブ61を閉じて、検体7と第1試薬25、第2試薬27とを反応させる。その際、温度制御用ヒータ39によって温度調整を行うと共に、超音波振動装置41によって超音波振動を付与する。それによって、反応に適した温度環境が提供されると共に、攪拌・混合作用が働くことになる。上記検体7と第1試薬25、第2試薬27との反応により、被検出対象物質としてのDNAの一端に磁気ビーズが結合されると共に他端に酸化還元酵素が結合されることになる。その様子を図2に示す。図2はDNA89の一端に磁気ビーズ91が結合されると共に他端に酸化還元酵素93が結合されている様子を示す図である。
尚、この磁気ビーズ91と酸化還元酵素93は、DNA89と特異的に結合するように処理されているものである。
【0023】
次に、第1磁力制御部43を「オン」して、第1押当バルブ15、第4押当バルブ37、第5押当バルブ61を開放し、且つ、温度制御用ヒータ39によって温度調整を行うと共に、超音波振動装置41によって超音波振動を付与しながら、バッファ液11を流し続ける。それによって、磁気ビーズ91に結合したDNA89のみが第1磁力制御部43によって吸着・保持され、その他のものは洗い流されることになる。そのため、被検出対象物質であるDNA89が精製されることになる。
【0024】
次に、上記第1磁力制御部43を「オフ」にして、第2磁力制御部69を「オン」にする。その後、第1押当バルブ15、第6押当バルブ63、第7押当バルブ65を開放し、ポンプ67の負圧によって吸引することにより、上記第1磁力制御部43によって吸着・保持されていた磁気ビーズ91に結合したDNA89を測定チャンバ45内に導き、上記第2磁力制御部69によって、吸着・保持する。そして、第6押当バルブ63、第7押当バルブ65を閉じて、計測を行う。
【0025】
本実施の形態の場合、被検出対象物質の検出・定量は、電極53と電極55間の電流を測定することによって行う。図2に示すように、上記DNA89には標識物質として上記酸化還元酵素93が結合されている。この酸化還元酵素93が上記バッファ液11に含まれる被酸化還元物質を酸化又は還元し、上記バッファ液11に含まれる電子メディエータは、その酸化還元反応による電子の受け取り又は被酸化還元物質への電子の供給により「正」又は「負」に荷電する。そして、「正」又は「負」に荷電した電子メディエータは電極53又は電極55へと移動する。これが、電流として上記測定回路73によって測定され、その電流値に基づいて被検出対象物質である上記DNA89を検出・定量することができる。
【0026】
ここで、図4を参照して、上記酸化還元酵素93として酸化酵素(例えば、グルコースオキシダーゼ)を用いた場合の、上記測定チャンバ45内での化学反応を具体的に説明する。上記測定チャンバ45の上側(図4中上方)の室49内には、上記DNA89に結合した酸化酵素95が存在している。又、上記測定チャンバ45内にはバッファ液に添加された被酸化物質97と電子メディエータ99も存在している。上記被酸化物質97は、上記酸化酵素95によって酸化され、電子101と陽イオン103を放出する。上記電子101は上記電子メディエータ99に捕らえられ、その結果、上記電子メディエータ99は「負」に荷電される。「負」に荷電された上記電子メディエータ99は、相対的に「正」電位となる上記電極53側に移動する。一方、上記陽イオン103は、イオン交換膜47を通過して、室51側に設置され、相対的に「負」電位となる上記電極55側に移動し、電子101を受け取る。その結果、上記室49と上記室51との間には上記イオン交換膜を隔てて電位差が発生し、上記電極53と上記電極55の間に電流が流れる。この電流を測定することにより上記DNA89の検出・定量を行うものである。
【0027】
又、上記した例に限らず、上記酸化還元酵素93として上記酸化酵素95の代わりに還元酵素を使用することも考えられる。この場合は、上記被酸化物質97の代わりに被還元物質が使用され、上記電極53から電子メディエータを介して電子が還元酵素へ移動して還元反応が起きる。このため電子を外部から受け取る上記電極53が「正」極、電子を外部に放出する電極55が「負」極となる。
尚、この被検出対象物質の測定は、上記電極53、55間の電圧を測定することでも行うことができる。
【0028】
そして、計測後は、第1押当バルブ15と第7押当バルブ65を開放して、ポンプ67による負圧によって計測後の検体7等を吸引して洗い流す。それによって、ポンプ67自身も洗浄されることになる。
【0029】
又、本実施の形態の場合には、既に説明した微量物質検出装置の一部、具体的には、チューブ1の部分、分岐チューブ13、21、23の部分、分岐チューブ57、59の部分、測定部としての測定チャンバ45の部分を、樹脂製フィルムを貼り合わせることにより一体的に成型するようにしている。その構成を図5に示す。上記樹脂としては、柔軟性のある塩化ビニール又はポリプロピレン(PP)又はポリエチレン(PE)又はシリコンを主体としたものを使用している。又、外部の構成部品との接続は公知の液体コネクタが使用される。
尚、図5においては、図1に示した部分と同一部分には同一符号を付して示してある。
【0030】
図5のVI−VI断面が図6であり、図6のVII部を拡大して示すのが図7である。これら図5乃至図7に示すように、樹脂製上フィルム101と樹脂製下フィルム103を貼り合わせることによって、チューブ1、分岐チューブ13、21、23の部分、分岐チューブ57、59の部分、測定部としての測定チャンバ45が形成されている。すなわち、図6及び図7に示すように、樹脂製上フィルム101と樹脂製下フィルム103を対向・配置させ、両者間の所定領域内に空気を供給した状態で図示しない金型で圧縮する(必要に応じて、例えば、加熱する。)。それによって、チューブ1、分岐チューブ13、21、23の部分、分岐チューブ57、59の部分、測定部としての測定チャンバ45が一体的に成型されることになる。
【0031】
すなわち、チューブ1が流路1aを備えた状態で成型されることになり、又、分岐チューブ13、21、23の部分、分岐チューブ57、59の部分についても同様に流路を備えた状態で成型される。又、測定チャンバ45も、上記樹脂製上フィルム101と樹脂製下フィルム103によって挟まれた状態で成型されることになり、その成型された空間45a内に電極53、55が内装されている。又、上記電極55の表面にはコーティング部105が設けられている。
【0032】
又、上記液体コネクタは図8に示すような構成になっている。図8は、分岐チューブ13と図示しないバッファ液供給部側との接続部の構成を示す図である。まず、上記分岐チューブ13は、上記樹脂製上フィルム101と樹脂製下フィルム103によって挟まれた状態で形成されていて、内部に流路13aが形成されている。上記分岐チューブ13の先端部は拡開されていて、そこには、液体コネクタ109が着脱自在に差し込まれている。この液体コネクタ109にはブッファ液流路111が形成されている。上記液体コネクタ109としては、例えば、株式会社昭和丸筒社製の「クリーン・クリック・コネクタ」等の使用が想定される。その他、例えば、特許文献5等に、その種の液体コネクタが説明されている。
【0033】
【特許文献5】特表2002−517292号公報
【0034】
尚、図8は分岐チューブ13の部分のみを示しているが、その他の接続部も同様の構成になっている。
【0035】
以上、本実施の形態によると、次のような効果を奏することができる。
まず、本実施の形態による微量物質検出装置によると、被検出対象物質であるDNA89への磁気ビーズ91と標識物質としての酸化還元酵素93の結合、DNA89の精製、DNA89の検出・定量までの一連の作業を、比較的簡単な構成の装置で自動的に行うことができ、微量物質の検出のための労力を大幅に軽減することができると共に作業に要する時間を大幅に短縮することができる。これは、第1〜第7押当式バルブ15、29、31、37、61、63、65によって試料溶液を混合する混合部33、試料溶液を反応させる反応部35、試料溶液から精製された被検出対象物質の測定を行う測定チャンバ45等をチューブ1に連続的に設け、又、試料溶液を移動させるための負圧を発生させるポンプ67と、磁気ビーズ91に結合した被検出対象物質を吸着・保持する第1、第2磁力制御部43、69と、反応部の温度制御を行う温度制御用ヒータ39及び反応部内の攪拌を行う超音波振動装置41を設け、上記第1〜第7押当式バルブ15、29、31、37、61、63、65、ポンプ67、第1、第2磁力制御部43、69、温度制御用ヒータ39、超音波振動装置41を制御装置71によって制御するように構成しかたらである。
又、上記一連の作業を自動的に行うことができるため、熟練者でなくとも正確、且つ、迅速な微量物質の検出・定量を行うことができる。
又、上記磁気ビーズ91と被検出対象物質であるDNA89を結合させているので、上記第1、第2磁力制御部43、69とポンプ67を利用した上記DNA89のチューブ1内での移動の制御や精製が容易となる。
又、上記反応部35には、上記温度制御ヒータ39と上記超音波振動装置41が設置されているため、被検出対象物質であるDNA89への磁気ビーズ91と酸化還元酵素93の結合を、効率よく行うことができる。
又、第1〜第7押当式バルブ15、29、31、37、61、63、65を用いているため、複雑な機械的構成を要することなく、自動的な制御が可能な微量物質検出装置を実現することができる。
又、電流や電圧を測定することで、被検出対象物質の検出・定量を行うため、安価で簡単な構成の装置で測定を行うことができる。特に、ラジオアイソトープ等を用いない構成であるため、被曝の心配がなく安全に測定を行うことができる。
又、本実施の形態の場合には、チューブ1の部分、分岐チューブ13、21、23の部分、分岐チューブ57、59の部分、測定部としての測定チャンバ45の部分を、樹脂製上フィルム101と樹脂製下フィルム103を、両者間に空気を供給した状態で金型で圧縮して貼り合わせることにより、一体的に成型するようにしているので、簡易であって、且つ、低コストの微量物質検出装置を得ることができる。
【0036】
尚、本発明は前記一実施の形態に限定されるものではない。
例えば、標識物質としては、酸化還元酵素以外に蛍光蛋白質やラジオアイソトープ等を用いることが考えられる。
又、測定方法も電流や電圧の測定に限られず、蛍光や放射線を測定する場合が考えられる。
又、被検出対象物質もDNAに限られず、その他核酸や蛋白質等、様々な種類のものが考えられる。
又、バルブとしては押当式以外にも、例えば、ゲートバルブ等のバルブを使用することが考えられる。
又、バッファ液に使用する緩衝液も、被検出対象物質や標識物質の種類等に応じて、様々な種類のものを使用する場合が考えられる。
又、前記一実施の形態の場合には、測定チャンバとして、反応が行われる室と反応が行われない室の両方を兼備したタイプのものを例に挙げて説明したが、それに限定されるものではない。例えば、反応が行われると共に電極を備えた室と、その室内にイオン交換膜又はイオン透過膜の特性を持ち樹脂や膜等によって直接又は間接に覆われていて、且つ、電極を備えたものを配置した構成の測定チャンバであってもよい。
尚、上記直接とは電極にイオン交換膜又はイオン透過膜の樹脂を直接塗布したようなものであり、間接とは上記電極とイオン交換膜又はイオン透過膜の樹脂との間に含水樹脂等が介在しているような構成を意味しているものである。
又、前記一実施の形態の場合には、バッファ液の中に電子メディエータを入れた場合を例に挙げて説明したが、例えば、第2試試薬注入部の横に第3試薬注入部を設けそこに電子メディエータを入れておき、押当バルブを開放して適宜注入するように構成してもよい。
又、前記一実施の形態では、樹脂性フィルムを内部に空気を供給した状態で金型で圧縮して貼り合わせることにより一体成型する例を説明しているが、ブロー成型機を使用したブロー成型法により一体成型するようにしてもよい。
その他、図示した構成はあくまで一例である。
【産業上の利用可能性】
【0037】
例えば、本発明は、例えば、DNA(デオキシリボ核酸)等の微量物質を被検出対象物質として検出するための微量物質検出装置に係り、特に、被検出対象物質に結合させた標識物質を測定することによって微量物質の有無や量を測定するように構成したものにおいて、被検出対象物質への磁気ビーズと標識物質の結合から被検出対象物質の検出に至るまでの作業を自動化できるように工夫するとともに、全体として、例えば、樹脂等により一体成形することができるように工夫したものに関し、例えば、DNA(デオキシリボ核酸)の検出装置に好適である。
【符号の説明】
【0038】
1 チューブ
7 検体
11 バッファ液
15 第1押当バルブ
25 第1試薬
27 第2試薬
29 第2押当バルブ
31 第3押当バルブ
33 混合部
35 反応部
37 第4押当バルブ
39 温度制御用ヒータ
41 超音波振動装置
43 第1磁力制御部
45 測定部
47 イオン交換膜
61 第5押当バルブ
63 第6押当バルブ
65 第7押当バルブ
67 ポンプ
69 第2磁力制御部
71 制御装置
93 酸化還元酵素
95 酸化酵素
97 被酸化物質
99 電子メディエータ
101 樹脂製上フィルム
103 樹脂製下フィルム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チューブと、
上記チューブに設けられ被検出対象物質が含まれる検体と磁気ビーズと標識物質とバッファ液を混合させ上記被検出対象物質と上記磁気ビーズと上記標識物質とを反応・結合させて試料溶液とする混合・反応部と、
上記チューブに設けられ少なくとも2つ以上の電極を備えていて上記試料溶液が導入され上記標識物質が結合された上記被検出対象物質を測定する測定部と、
上記混合・反応部と上記測定部に設けられ磁力により上記磁気ビーズと結合した被検出対象物質を吸着・保持する磁力制御部と、
上記チューブに接続され上記チューブ内を吸引/加圧することにより上記チューブ内において上記試料溶液を移動させる吸引/加圧手段と、
上記チューブの適所に設けられた複数個のバルブと、
上記磁力制御部と上記吸引/加圧手段と上記複数個のバルブを制御する制御装置と、を具備し、
上記チューブ及び測定部を樹脂により一体成型するようにしたことを特徴とする微量物質検出装置。
【請求項2】
請求項2記載の微量物質検出装置において、
上記樹脂が柔軟性のある塩化ビニール又はポリプロピレン(PP)又はポリエチレン(PE)又はシリコンを主体としたものであることを特徴とする微量物質検出装置。
【請求項3】
請求項2記載の微量物質検出装置において、
流路形成をブロー成型法により行うものであることを特徴とする微量物質検出装置。
【請求項4】
請求項2記載の微量物質検出装置において、
流路形成をシート状の樹脂等を貼り合わせて成型するものであることを特徴とする微量物質検出装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れかに記載の微量物質検出装置において、
上記被検出対象物質はDNAであることを特徴とする微量物質検出装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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