説明

微量金属の測定方法及び測定装置

【課題】液中に微量に存在する金属成分を、前処理を行わず、安価で簡便な操作により迅速に微量金属を測定可能とした微量金属の測定方法及び測定装置を提供する。
【解決手段】微量の金属成分を含む濃厚アルカリ溶液等からなる測定対象液体を必要に応じて加温するヒーター2と、該測定対象液体を通液させる測定用流路を有するフローセル3と、フローセル3の測定用流路内に設けられた作用極、対極及び参照極からなる測定用電極を用いてストリッピングボルタンメトリー法による電気化学測定を行い、得られたデータに基づいて測定対象液体中の金属濃度を求める電気化学測定手段4と、を有し、測定用流路の短径を測定対象液体の濃度拡散層厚と所定の関係となるように通液可能とする微量金属の測定装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濃厚アルカリ溶液、濃厚塩溶液、溶融塩又は導電性ポリマー溶液からなる測定対象液体に含まれる微量の金属成分を電気化学的に測定する微量金属の測定方法及び測定装置に係り、特に、オンライン分析に適し、低コストでの測定を可能とした微量金属の測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工業分野では、しばしば複数の微量金属を短時間で測定することが要求される。ppbレベルの微量金属測定技術としては、誘導結合プラズマ発光−質量分析法(ICP−MS)(プラズマ炎をイオン源とした質量分析法)、黒鉛炉原子吸光法(基底状態の原子による放射エネルギーの吸収を測定する)等が知られているが、いずれも高価で特殊な分析装置を必要とする。そのため、コスト、メンテナンスの面から工業用に使用することは困難であるし、試料を採取してすぐに測定を行うオンライン分析に適しているものでもなかった。
【0003】
また、測定対象液体に多量の塩、イオン成分または有機分子が含まれる場合には、そのマトリックス効果によって感度と精度が著しく低下するため、有効な測定を行うためにはキレート樹脂等を使用する脱塩操作や含有する有機分子の分離・分解操作を測定の前に行う必要がある。特に、半導体産業で使用される濃厚アルカリ溶液は、これらの装置での直接分析は極めて困難であり、煩雑な中和工程と脱塩工程が必要である。
【0004】
これらの測定に対し、比較的装置が安価であり、分析原理からライン分析にも適用しやすいものとして電気化学的方法(金属の酸化、還元に要する、電圧、電流を測定する)であるストリッピングボルタンメトリーが知られている。このストリッピングボルタンメトリーは、多種の金属を1回の測定で検出することも可能であり、その応用が期待されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、上記のストリッピングボルタンメトリー法は、測定に当たって、キレート剤を添加したり、緩衝剤やpH調整剤を添加したりする等、測定溶液に前処理を施して測定に適した条件にしなければならない。
【0006】
このような前処理が入ると、前処理用の薬液、その貯留、試料への注入、その使用量の管理等の様々な設備が必要となりコストが上昇し、迅速な測定ができなくなり、さらに、試料が前処理されることによる感度の低下等の問題も生じてしまう。また、上記したような半導体産業で使用される濃厚アルカリ溶液の測定においては、試料導入に際しては上記と同様の問題が生じるものと考えられる。
【0007】
また、フローセルを用いたストリッピングボルタンメトリー法も開発されているが(非特許文献1参照)、一般的に研究開発機関の特殊分析用途として用いられ、半導体製造分野等で求められるオンラインでの微量金属測定としては適用されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−241388号公報
【特許文献2】特開2000−81406号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Japan Association of Chemical ensors、Vol.15(1999)page 127−129
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、半導体製造工程等の精密工業において必要とされている、液中に微量に存在する金属成分を、前処理を行わず、安価で簡便な操作により迅速に微量金属を測定可能とした微量金属の測定方法及び測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の微量金属の測定方法は、微量金属成分を含む濃厚アルカリ溶液、濃厚塩溶液、溶融塩又は導電性ポリマー溶液からなる測定対象液体において、測定用流路に前記測定対象液を通液させる工程と、前記測定用流路における前記測定対象液体の通液中又は通液直後に、前記測定対象液体を作用極、対極及び参照極からなる測定用電極と接触させて微量金属成分に対してストリッピングボルタンメトリー法による電気化学測定を行う工程と、前記電気化学測定により得られたデータに基づいて前記測定対象液体中の微量金属成分の濃度を求める工程と、を有する微量金属の測定方法であって、前記測定用流路の短径が、次の式(1)
δM(x)=Sc−1/3×δ(x) ・・・(1)
(式中、δM(x)は電極末端における濃度拡散層厚(m)、δ(x)は電極末端における境界層厚(m)、Scはシュミット数を表わす。なお、δM(x)及びδ(x)は共にxの関数であり、xは流れの始点からの電極末端までの流下方向距離(m)である。)で求められる濃度拡散層厚(δM(x))以下であることを特徴とする。このとき、前記測定対象液体を最適な条件下で通液させるために、ヒーターで加温して動粘度(m・s−1)を低下させることが好ましい。
【0012】
本発明の微量金属の測定装置は、微量の金属成分を含む濃厚アルカリ溶液、濃厚塩溶液、溶融塩又は導電性ポリマー溶液からなる測定対象液体を通液させる測定用流路を有するフローセルと、前記フローセルの測定用流路内に設けられた作用極、対極及び参照極からなる測定用電極と、前記測定用電極を用いてストリッピングボルタンメトリー法による電気化学測定を行い、得られたデータに基づいて前記測定対象液体中の金属濃度を求める電気化学測定手段と、を有する微量金属の測定装置であって、前記測定用流路の短径が、次の式(1)
δM(x)=Sc−1/3×δ(x) ・・・(1)
(式中、δM(x)は電極末端における濃度拡散層厚(m)、δ(x)は電極末端における境界層厚(m)、Scはシュミット数を表わす。なお、δM(x)及びδ(x)は共にxの関数であり、xは流れの始点からの電極末端までの流下方向距離(m)である。)で求められる濃度拡散層厚(δM(x))以下であることを特徴とする。このとき、前記測定対象液体を最適な条件下で通液させるために、加温して動粘度(m・s−1)を低下させるヒーターを有することが好ましい。
【0013】
ここで、濃度拡散層厚(δM(x))は、フィックの第一法則により導き出した式(1)より算出され、定常状態拡散、すなわち、拡散による濃度が時間に関して変わらない時に使われる数値であり、一般的に流体力学的手法の解析に用いられる。
【0014】
本発明では、測定用流路内に設けられた作用極、対極及び参照極からなる測定用電極に、測定対象液体に含まれる微量の金属成分を効率的に接触させ、電気化学的な検出感度を向上させるために、濃度拡散層厚(δM(x))を基に測定用流路径と対象の測定対象液体の関係を検討したところ、所定の関係を満たすことで、測定対象液体を前処理することなく微量の金属成分の測定感度を実用的なレベルに著しく向上できたものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の微量金属の測定方法及び測定装置によれば、測定対象液体中の微量金属を前処理せずに直接測定を可能としたため作業工程中のオンライン分析により迅速な測定ができる。また、装置構成も電気化学測定による安価な装置を用い、前処理操作やそれに使用する薬液も必要ないので、本発明により簡易な装置構成で、かつ、低コストでの測定が可能となった。さらに、特定の条件とすることで金属成分、特に、そのままでは測定に長時間かかり実用的な測定が困難な金属成分であっても、実用的なレベルまで測定時間を短縮して測定可能とできた。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態である微量金属の測定装置の概略構成を示した図である。
【図2】本発明の他の実施形態である微量金属の測定装置の概略構成を示した図である。
【図3】実施例1で用いたフローセルの概略構成を示した図である。
【図4】48質量%水酸化ナトリウム水溶液中と48質量%水酸化カリウム水溶液中の温度と動粘度の関係を示した図である。
【図5】48質量%水酸化ナトリウム水溶液中及び48質量%水酸化カリウム水溶液中の銅及びニッケルの濃度と電流電位曲線を示した図である。
【図6】48質量%水酸化ナトリウム水溶液中及び48質量%水酸化ナトリウム水溶液中の銅及びニッケルの濃度と電流ピーク面積値との関係を示した図である。
【図7】試験例における、3ppbのニッケルと3ppbの銅を含む48質量%水酸化ナトリウム水溶液中のニッケルと銅濃度の電流ピーク面積と温度の関係を示した図である。
【図8】試験例における、3ppbのニッケルと3ppbの銅を含む48質量%水酸化カリウム中のニッケルと銅濃度の電流ピーク面積と測定用流路の短径の関係を示した図である。
【図9】試験例における、3ppbのニッケルと3ppbの銅を含む48質量%水酸化ナトリウム水溶液中のニッケルと銅濃度の55℃での電流ピーク面積と濃縮時間の関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0018】
本発明の微量金属の測定装置は、例えば、図1に示したような構成を有する装置が挙げられる。この微量金属の測定装置1は、測定対象である金属成分を含む濃厚アルカリ溶液、濃厚塩溶液、溶融塩又は導電性ポリマー溶液からなる測定対象液体を所定温度にまで加温する加温手段2と、この加温手段2により加温された測定対象液体を通液させる流路3aが設けられたフローセル3と、フローセル3の流路3a内に設けられた測定用電極を有し、該測定用電極で検出された電位と電流の関係により測定対象液体中の金属成分の濃度を算出する電気化学測定手段4と、測定対象液体をラインから採取し一次貯留するバッファータンク5と、バッファータンク5に貯留している測定対象液体を流路3a内に通液させるための動力を与えるポンプ6と、から構成されている。
【0019】
ここで、加温手段2は、試料である測定対象液体を、後述するフローセル3に通液させる前に所定温度にまで加温するものであり、従来公知のヒーターを用いることができる。この加温手段2は、試料を所定の温度に加温し、フローセル3に供給することができればよく、例えば、ラインから試料を採取してフローセル3の試料の流路まで導入する導入管7の周囲にヒーターを配置し、導入管7内部の測定対象液体を所定の温度に加温してフローセル3の流路3aに供給できばよい。なお、加温する必要がない場合にはヒーターは用いず測定対象液体をそのままフローセル3の流路3aに供給する。
【0020】
フローセル3は、測定対象液体中の測定対象の金属を検出するための測定用流路3aを有するものであり、測定対象液体を連続的に流しながら測定を可能とするものである。このとき、測定用流路3aは、その流路の短径が、測定時に濃度拡散層厚(δM(x))以下になるように設けられている。
【0021】
この測定用流路3aの通液方向に対する垂直断面形状は、短径が上記関係を満たしていれば特に限定されるものではない。
【0022】
また、濃度拡散層厚(δM(x))は、測定対象液体の特性や流路径、通液条件によって定まるものであり、次の式(1)
δM(x)=Sc−1/3×δ(x) ・・・(1)
(式中、δM(x)は電極末端における濃度拡散層厚(m)、δ(x)は電極末端における境界層厚(m)、Scはシュミット数を表わす。なお、δM(x)及びδ(x)は共にxの関数であり、xは流れの始点からの電極末端までの流下方向距離(m)である。)で求められる。
【0023】
ここで、Scはシュミット数を表し、次の式(2)
Sc=μ/D=η/ρD ・・・(2)
(式中、μは測定対象液体の動粘度(m・s−1)、ηは測定対象液体の粘度(kg・m−1・s−1)、ρは測定対象液体の密度(kg・m−3)、Dは測定対象である金属の拡散係数(m・s−1)を表わす。)で求められる。
【0024】
Dは測定対象である金属の拡散係数(m・s―1)であり、次の式(3)
D= k・T/6πμR ・・・(3)
(式中、kはボルツマン定数 1.3806504×10−23(J・K−1)、Tは液温(K)、μは測定対象液体の動粘度(m・s−1)、Rは測定対象金属の粒子の径(原子径)(m)を表わす。)で求められる。
【0025】
δ(x)は、電極末端における境界層厚であり、次の式(4)
δ(x)=5・((μ・x)/U(1/2) ・・・(4)
(式中、μは測定対象液体の動粘度(m・s−1)、xは流れの始点からの電極末端までの流下方向距離(m)、Uはフローセル内の平均流速(m・s−1)である。)で求められる。測定対象液体の動粘度μは、測定対象液体の粘度ηと測定対象液体の密度ρより算出できる。
【0026】
上記濃度拡散厚(δM(x))は、おおむね溶液の粘度に逆比例するが、測定金属と溶媒又は溶質との相互作用によっても変化するため単純に逆比例するものでもない。しかし、一般に、溶液を加温すると動粘度は低下し、そのとき、拡散係数は上昇するため、上記加温は、濃度拡散層厚を大きくする効果を奏する。したがって、測定用流路の短径に対して濃度拡散層厚が小さい場合、測定する測定対象液体の温度を上昇させ、濃度拡散層厚が大きくなるようにしてから測定するように調整することも可能である。
【0027】
ただし、濃度拡散層厚(δM(x))が測定用流路の短径よりも小さい場合でも、本発明の微量金属の測定を行うことができるが、作用極と測定すべき金属との接触効率が低下するため、微量金属を作用極表面に濃縮する時間が著しく長くかかることから、実用的な測定を行うことができない恐れがある。
【0028】
フローセルの測定流路の短径は、例えば、以下の様に設計できる。電極幅が3mmである作用極上に、銅イオン(原子径:2.7×10−10 m)を含有する48質量%水酸化ナトリウム水溶液を30℃(303.15K)、動粘度が3.0×10−5・s−1 で、平均流速4.7×10−3m・s−1 の条件で通液する時の濃度拡散層厚は1.22×10−4 mとなる。また上記液体を60℃(333.15K)まで加温して測定を行う場合には、動粘度が5.8×10−6・s−1 となり、平均流速4.7×10−3m・s−1の条件で通液する時の濃度拡散層厚は1.45×10−4 mと算出される。
【0029】
しかし、濃度拡散層厚が小さくなると、測定用流路の流路短径を小さくする必要があるため、測定用流路の設計や加工、または液体の通液が困難になる。
前記試算と種々の検討より、本発明で用いる測定用流路の流路の短径は、濃度拡散層以下にすることで目的とする測定対象液体中の微量金属の測定を行う上で好ましい条件である。
【0030】
電気化学測定手段4は、測定用電極を有し、該測定用電極により検出された測定データに基づいて金属濃度を算出するものである。この電気化学測定手段4は、ストリッピングボルタンメトリー法により測定を行うもので、測定用電極は、作用極、対極及び参照極の3つの電極から構成される。
【0031】
作用極としては、水銀、炭素、白金、金、銀などを用いることができるが、水銀は毒性が強いため、その使用が制限されており、環境や人体への悪影響もあるため、使用しないことが好ましい。また、作用極の長さは流下方向距離に影響を与え、式(4)に示されるように、電極末端の境界層厚(δ(x)(m))と相関性があり、長く面積が大きいほど好ましい。さらに、作用極を導入する場所として、効率的に金属を検出するためには、濃度拡散層厚(δM(x))は、作用極を備えた測定用流路の短径の1.5倍以下であることが好ましい。
【0032】
対極としては、白金、ステンレス等が挙げられ、参照極としては、銀、銀塩化銀、水銀、塩化水銀、硫酸水銀等が挙げられ、分極が起こらないように大面積のものが好ましく、また水銀は毒性が強いため、その使用が制限されており、環境や人体への悪影響もあるため、使用しないことが好ましい。
【0033】
測定用電極は、フローセル3の流路3aに設けられ、測定対象の液体と接触できるようになっている。この測定用電極を用いて、液体を定電位で一定時間電解し、液中の微量金属を作用極上に析出させた後、電位を正方向に走査して、その析出した金属を酸化反応で液体中に再溶解させたときの電位差と電流量のピークを測定するアノーディック法や、微量金属を作用極上に金属酸化物として析出させた後、還元反応で再溶解させたときの、電位差と電流量のピークを測定するカソーディック法により、液中の金属濃度を求めることができる。金属濃度は、上記得られた電流電位の関係から、予め作成しておいた検量線との比較により金属の種類と濃度とを決定することができる。
【0034】
ここで、作用極と対極の各電極は電位制御手段により、これらの電極に電位を与え、さらにその電位差を一定のものとなるように構成されている。この電位制御手段としては、例えば、ポテンショスタットが挙げられ、このポテンショスタットにはファンクションジェネレーターを用いるようにしてもよい。
【0035】
バッファータンク5は、ラインから試料溶液を採取して一時貯留するタンクである。このバッファータンク5を設けることで、ライン由来で発生する脈動や逆流を防止する機能を付与できる。
【0036】
ポンプ6は、バッファータンク5から採取した試料溶液をフローセル3に導入し、流路3a内を流通させるための動力を与えるものであり、ローラーポンプ、プロペラポンプ、回転ポンプ、往復動ポンプ等の公知のポンプであれば用いることができる。図1ではポンプ6はフローセル3の後段に設けているが、前段に設けてもよい。なお、後段に設けると流路3a内での圧力損失を抑制できる点で好ましい。
【0037】
また、ここで用いるポンプ6は、脈動を生じないものが好ましく、シリンジポンプ等が好ましい。流路3a内において、液体の脈動を生じさせないことで、安定した測定を行うことができる。
【0038】
電気化学測定が終了した試料は、フローセル3から排出管8へ排出される。排出された試料は、再度ラインへ返送してもよいし、そのまま廃棄してもよい。このとき、排出管8に四方弁等の他方弁を設けておくと、その都度、返送するか廃棄するかを選択して処理することができ好ましい。この排出管8はその管の内径を測定流路3aよりも大きくして、測定対象液体の通液を円滑に行えるようにしてもよいし、管の内径を測定用流路3aと同等程度であっても、導入管7と同様に加温手段を設けるようにして通液を円滑に行えるようにしてもよい。
【0039】
また、本発明の他の微量金属の測定装置として、図2に示した構成からなる装置も例示できる。図2に示した微量金属の測定装置11は、図1の測定装置と同一のフローセル3と、電気化学測定手段4と、ポンプ6とを有し、加温手段としては、フローセル3と、測定対象液体を収容した試料貯留手段13と、ポンプ6と、を内部に収容し、その内部雰囲気を所定温度に保持することができる保温手段12から構成されている。
【0040】
なお、図2において、図1と同一の符号を付したものは、同じものを表わしているため以下の説明では省略し、相違点についてのみ説明する。したがって、図1と変わりのないフローセル3及び電気化学測定手段4の説明は省略する。
【0041】
保温手段12は、フローセル3と、フローセル3の流路3aに導入する測定対象液体を所定の温度にまで加温し、保持できるものであればよく、内部を密閉又は半密閉にした空間にできる箱型の容器と、その容器内部を所定の温度に加温、保持できるヒーターと、から構成されるものである。
【0042】
図2では、ラインから採取した試料を直接測定する形式ではなく、一旦採取した試料を貯留して測定温度に加温してから測定を行う装置である。このとき、試料貯留手段13は、試料を安定して保持できるものであれば、その材質、大きさ等は特に制限されない。また、上記保温手段12は、フローセル3内に導入する測定対象液体を導入時までに所定の温度に加温できればよく、試料貯留手段13の配置場所は、保温手段12内部でも外部でもどちらでもよいが、保温手段12の内部に配置しておくことで、安全かつ確実に試料である測定対象液体の液温を管理でき好ましい。
【0043】
次に、微量金属の測定方法について、図1の微量金属の測定装置1を用いた場合を例に説明する。
【0044】
まず、微量の金属成分を含む濃厚アルカリ溶液、濃厚塩溶液、溶融塩又は導電性ポリマー溶液からなる測定対象液体を加温手段2により必要に応じて所定温度にまで加温する。測定対象液体は、そのアルカリ成分又は塩成分が高濃度である場合や、液状の溶融塩、導電性ポリマー溶液そのものの特性に基づき、温度によって動粘度が高い場合があり、設置されたフローセル3に通液が安定して行うことができない場合や、測定用流路3aの短径が測定対象液体を通液する条件の濃度拡散層厚(m)以下とならない場合が多く、そのままでは安定して測定できないことがある。
【0045】
上記のように測定対象液体を必要に応じて加温して動粘度(m・s−1)を低下させ、併せて通液速度を適当な範囲とし、濃度拡散層厚(m)を設置されたフローセル3の測定用流路3aの短径以下になるように調整する。
【0046】
このとき加温する温度は、測定用流路3a内を問題なく流通することができるように上記関係を満たす温度や通液速度条件であればよいが、あまりに高温になってしまうと装置として耐熱性のある素材等を使用しなければならなくなり、測定コストが上昇してしまうため、30〜100℃であることが好ましく、50〜80℃であることがより好ましい。また、通液速度は、特に限定はされないが、動粘度(m・s−1)との関係より、濃度拡散層厚(m)以下になる条件に調整することが好ましい。
【0047】
さらに、フローセル3の測定用流路3aの短径を、上記説明した式(1)で求められる濃度拡散層厚(δM(x))以下となるような関係として通液させることで電気化学測定を可能なものとする。この式(1)の関係を満たすようにするには、測定用流路3aの短径を測定条件における測定対象液体の濃度拡散層厚(δM(x))以下にしてもよいし、式(1)の関係を満たすように、測定対象液体を測定可能な限り、高温に加熱して濃度拡散層厚(δM(x))以下にするように調節してもよいし、通液速度を調整してもよい。
【0048】
次に、測定対象液体をフローセル3の測定用流路3aに通液させる。この通液は、ポンプ6により試料である測定対象液体に動力を与え、測定用流路3a内に通液させる。このとき、ポンプ6をフローセル3の前段に設けて陽圧により動力を与えても、ポンプ6をフローセル3の後段に設けて陰圧により動力を与えても、いずれの方法でも良いが、ポンプ6を後段に設けて陰圧とすることが圧力損失を抑制できる点で好ましい。
【0049】
また、このとき、ポンプ6により流通する測定対象液体に脈動が生じないようにすることが好ましい。脈動が生じると測定値の変動が測定結果に大きく影響を与え、測定誤差が生じ易くなる。特に、本発明のように微量金属を微量の試料液体で測定する場合には影響が大きい。
【0050】
このとき、例えば、48質量%水酸化ナトリウム水溶液中の金属成分を測定するに当たって、図3に示したような通液方向に対する垂直断面形状の短径が0.125mm、流路長が3mmであり、作用極がφ3mmの円状薄膜で、中心位置に測定対象液体が供給されるように設けられた測定用流路3aを有するフローセル3(流れの始点からの電極末端までの流下方向距離は1.5mmである。ただし、円柱状の流路が設けられ測定対象液体の出口は円柱状流路の最外周部に一箇所のみである。)を用いた場合を例に説明する。水酸化ナトリウム水溶液を55℃に加温して通液させて測定する場合、測定用流路3a内を流通する48質量%水酸化ナトリウム水溶液の流速を0.6mL/min以下とすることが好ましく、0.2mL/minとすることがより好ましい。0.6mL/minを超えると濃度拡散層厚(δM(x))が減少し、測定用流路の短径の1.0倍以下となり測定感度が低下する。また0.01mL/min未満であると流速が安定せずに測定値がバラつく傾向がある。
【0051】
次に、測定用流路3a内を通液する測定対象液体中の金属を電気化学的に測定する工程を行う。ここで用いる電気化学測定は、ストリッピングボルタンメトリー法によるものである。
【0052】
ストリッピングボルタンメトリーにより、測定対象液体中に存在する金属成分を作用電極に析出させ、次いで、測定対象液体を電位走査して、析出物を測定対象液体中に再溶解させる。この再溶出過程において、流れるファラデー電流を電位に対して描いた電流電位曲線(溶出曲線)のピーク高さ(電流)又はピーク面積(電気量)は、測定対象液体中の金属成分濃度に比例するため、標準溶液を用いて作成した検量線から目的成分を定量することができる。
【0053】
本発明によれば、測定対象液体を前処理せずにそのまま測定に用いた場合において、金属濃度が10ppb以下という低濃度であっても、濃度測定を安定して測定することができる。
【0054】
なお、本発明で用いる測定対象となる濃厚アルカリ溶液、濃厚塩溶液、溶融塩又は導電性ポリマー溶液からなる測定対象液体について以下説明する。
【0055】
本発明における濃厚アルカリ溶液は、溶媒に溶質としてアルカリ成分を溶解させた溶液であり、その溶液の濃度が0.1mol/Lを超えるものである。ここで用いられる溶媒は、水、アルコール等が挙げられ、常温で5.5×10−5・s−1 以下の動粘度を有するものが好ましい。このような溶媒に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、コリン等のアンモニウム化合物、セルロース等のアルカリ性水溶性高分子、を溶解させてアルカリ溶液とする。
【0056】
また、本発明における濃厚塩溶液は、溶媒に溶質として塩成分を溶解させた溶液であり、その濃度が0.1mol/Lを超えるものである。ここで用いる溶媒は、上記アルカリ溶液と同一のものが挙げられ、このような溶媒に、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウム等のアルカリ金属の炭酸塩、炭酸水素ナトリム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素セシウム等のアルカリ金属の炭酸水素塩、アルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸水素塩、酢酸アンモニウムなどの有機塩等が挙げられる。
【0057】
また、本発明における溶融塩は、イミダゾリウム塩、ピロリジニウム塩、ピリジニウム塩等、脂肪族四級アンモニウム塩等のイオン液体が挙げられる。
【0058】
さらに、本発明における導電性ポリマー溶液は、ポリピロールやポリアニリン等の導電性ポリマーを水、アルコール、メチルエチルケトン、トルエン等の溶媒やそれらの混合溶媒に溶解して得られる導電性ポリマー溶液が挙げられる。
【0059】
このような本発明の測定対象液体のうち、濃厚アルカリ溶液及び濃厚塩溶液において、濃厚とはアルカリ成分又は塩成分の濃度が0.1mol/L以上の高濃度のものであり、特に、1mol/L以上の濃度のものを好適なものとする。
【0060】
そして、本発明の測定対象液体に含まれる測定対象となる金属としては、例えば、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、鉛等の重金属類やヒ素、アンチモン、ビスマス等の半金属類、アルミニウムやチタン等の軽金属類、その他、インジウムやガリウム、スズ、ランタノイド類、アクチノイド類のアルカリ金属及びアルカリ土類金属を除くすべての金属元素等が挙げられる。これらの金属は条件によっては複数種を同時に測定可能であり、それぞれを単独で測定することもできる。その際、金属種ごとに最適な条件によって行うものである。
【0061】
上記の通り、金属成分は、ストリッピングボルタンメトリーで測定可能なものであれば特に限定されないが、その中でもニッケル等の水素よりもイオン化傾向が大きい金属成分である場合、用いる溶液種によっては、ストリッピングボルタンメントリー法を実施しようとして水分子が電気分解されてしまい測定が極めて困難となる場合がある。しかしながら、本発明の対象溶液とし、本発明の測定条件を満たすことで簡素な装置構成で実用的な測定を可能とする。
【0062】
例えば、10ppb以下と微量に含まれる銅とニッケルを同時に測定する場合には、アノーディックストリッピングボルタンメトリーを用いて−0.9Vの電位で作用極表面に濃縮を行う。単に、マイナス電位で濃縮しただけでは、長時間の濃縮時間が必要であり、現実的な測定時間内での同時測定はできなかったが、本発明の測定装置及び測定方法により同時測定を可能とした。
【実施例】
【0063】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0064】
(実施例1)
図2に示した測定装置を用いて、以下の操作により測定を行った。
【0065】
ここで、実施例で使用する装置は、試料である測定対象液体を貯留した試料貯留手段13からPFAチューブを用いてフローセル3の流路3a内に試料を導入できるようになっており、フローセル内への試料の導入は、シリンジポンプを用いて流路内を陰圧にして通液する構造である。
【0066】
このとき、フローセル3としては、図3に示した構造を有するラジアルフローセル(ビーエーエス株式会社製、商品名;測定用流路短径:1.25×10−4m、流下方向距離:1.5mm;作用極:金電極、直径φ3mm円板状、参照極:銀電極、長さ50mm、外径1mm、対極:ステンレス電極、長さ50mm、外径1.6mm)を用いた。また、フローセル内には各電極(参照極3b、作用極3c、対極3d)の端子が流路3a内に設けられ、電気化学測定手段4(ビーエーエス株式会社製、商品名:832B型)に接続されている。保温手段12は、流路系全体を50℃付近に加温、保持できるように設定して用いた。
【0067】
また、48質量%水酸化ナトリウム水溶液と48質量%水酸化カリウム水溶液の動粘度を算出し、その結果を図4に示した。ここで、液体の動粘度μ(m・s−1))は、振動式粘度計(CBC株式会社製、商品名:VISCOMATE VM−10A)を用いて粘度(kg・m−1・s−1)を測定し、液体の密度(kg・m−3)で割った値として算出した。
【0068】
上記構成を有する測定装置を用い、まず、試料溶液として、48質量%の水酸化ナトリウム水溶液に、銅及びニッケルを(1)0ppb、(2)0.5ppb、(3)1ppb、(4)2ppb、(5)3ppb、(6)5ppb、添加した水溶液を調整した。さらに、48質量%水酸化カリウム水溶液に、銅及びニッケルを(1)0ppb、(2)0.5ppb、(3)1ppb、(4)2ppb、(5)3ppb、(6)5ppb、添加した水溶液、を調整した。このように作成した合計12種類の試料を、それぞれ試料貯留手段13に収容し、下記の通り測定を行った。
【0069】
試料貯留手段13から、試料溶液をPFAチューブによりフローセル3の流路3aに流量0.2mL/min(平均流速4.7×10−3m・s−1)で導入しながら−0.9Vで600秒間通液して、作用極上にニッケル及び銅を還元濃縮した後、直ちに0Vまで電極電位を変化させ、アノーディックストリッピングボルタンメトリー法により、そのときの電流電位曲線を作成した。その結果を図5に示す。図5(a)は48質量%水酸化ナトリウム水溶液における電流電位曲線、図5(b)は48質量%水酸化カリウム水溶液における電流電位曲線である。48質量%水酸化ナトリウム水溶液及び48質量%水酸化カリウム水溶液では、それぞれ2つのピークが確認され、それらの電位よりニッケル及び銅の電流ピークであることがわかった。またこれらの電流ピークは、ニッケル及び銅の添加濃度が大きくなるに従い、電流ピークも大きいことがわかった。
【0070】
なお、このときの48質量%水酸化ナトリウム水溶液は55℃で、濃度拡散層厚(δM(x))は、1.45×10−4 m、48質量%水酸化カリウム水溶液は25℃で、濃度拡散層厚(δM(x))は、1.59×10−4 mであり、用いた測定用流路短径の1.25×10−4mよりも大きくなっている。
【0071】
電流ピークを、予め測定したベースライン((1)0ppbのもの[ブランク])を減算した後のピーク高さを用いて電流ピーク面積として評価し、各試料溶液におけるニッケル及び銅の濃度との関係を調べた。その結果を、図6(a)48質量%水酸化ナトリウム水溶液及び図6(b)48質量%水酸化カリウム水溶液、に示した。
【0072】
48質量%水酸化ナトリウム水溶液では、ニッケルの濃度および銅の濃度が直線関係となり、一方、48質量%水酸化カリウム水溶液においても直線関係となることが確認できた。
【0073】
(試験例)
[短径と濃度拡散層厚との関係]
48質量%水酸化ナトリウム水溶液及び48質量%水酸化カリウム溶液に、それぞれニッケル3ppb及び銅3ppbの濃度となるように微量金属を添加し、これらの水溶液の温度を変化させたときの測定結果を、図2の測定装置を用いて調べた。
【0074】
保温手段12内部の温度を48質量%水酸化ナトリウム水溶液は、30,37,47,55℃とした以外は、それぞれ実施例1と同様の条件で試験を行った。その結果を図7に示す。図7は、48質量%水酸化ナトリウムにおいて、測定における水溶液の温度と得られる電流ピーク面積との関係を示したものである。この図7において、白丸はニッケルと黒丸は銅を示している。室温で動粘度が高い48質量%水酸化ナトリウム水溶液は、加温することでより大きい電流ピーク面積が得られ、測定時間を短縮可能なことがわかった。
【0075】
次に、保温手段12内部の温度を25℃とした48質量%水酸化カリウム水溶液を用い、測定用流路の短径を、1.25×10−4 m、2.5×10−4 m、6.25×10−4 mとしたフローセルに通液させた以外は、それぞれ実施例1と同様の条件で試験を行った。その結果を図8に示す。図8は、48質量%水酸化カリウムにおいて、測定における測定用流路の短径と得られる電流ピーク面積との関係を示したものである。この図8において、48質量%水酸化カリウム水溶液は、温度変化による動粘度の変化が少ないが、フローセルの測定用流路が大きくなるにつれて得られる電流ピーク面積が小さくなることがわかった。また、測定用流路が48質量%水酸化カリウム水溶液25℃の濃度拡散層厚(δM(x))1.59×10−4 mよりも大きくなった場合に、電流ピーク面積値が著しく減少しており、48質量%水酸化ナトリウム水溶液の場合と同様に、より大きい電流ピーク面積値を得るためには、測定用流路を濃度拡散層厚以下にすることで測定時間を短縮可能なことが示された。
【0076】
さらに、保温手段12内部の温度を48質量%水酸化ナトリウム水溶液、48質量%水酸化カリウム水溶液ともに55℃として、流量0.2mL/min(平均流速4.7×10−3m・s−1)で導入しながら−0.9Vで20、30、60、120、300、600秒間通液し、作用極上にニッケル及び銅を還元濃縮後に、直ちに0Vまで電極電位を変化させ、アノーディックストリッピングボルタンメトリーを実施した。各濃縮時間と電流ピーク面積値の関係を示した結果を図9に示す。図9(a)及び(b)より、濃縮時間とともに電流ピーク面積値が大きくなっていることがわかり、濃縮時間を増やすことでより高い検出感度が得られることが示された。
【0077】
ここで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液中の銅(3ppb)の測定条件と測定結果についてパラメーター化したデータを表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
48質量%水酸化ナトリウム水溶液の30℃における銅の電流ピーク面積は0.000045C、37℃での銅の電流ピーク面積は0.00014Cであり、検出値としては1/3以下であることがわかる。検出値が小さくなると誤差が大きくなるため、電流ピーク面積としては0.00010C以上の値が検出されることが、誤差の少ない濃度の測定においては好ましい。
【0080】
すなわち、この時の測定用流路短径は1.25×10−4mで、48質量%水酸化ナトリウム水溶液の30℃での濃度拡散層厚(δM(x))は、1.22×10−4mであり、濃度拡散層厚(δM(x))が測定用流路短径よりも小さくなると、目的とする微量金属の定量には還元濃縮時間を必要以上に長くとらないと困難であることが示される。一方、48質量%水酸化ナトリウム水溶液が37℃以上での濃度拡散層厚(δM(x))は、1.29×10−4m以上であり、目的とする微量金属の定量に実用的な測定時間として適用可能と判断できる。
【0081】
具体的には、図9で示した様に、濃縮時間を長くすることで電流ピーク値を向上させることができるため、濃縮時間を十分にとれば、48質量%水酸化ナトリウム水溶液が30℃で得られた電流ピーク面積値を液温37℃で得られる値まで増加させることも可能であるが、その場合、必要な濃縮時間は3倍の1800秒(30分)程度と予想され、目的とするオンライン分析への適用が実質的に困難と判断できる。
【0082】
従って、今回求められる微量金属を測定するためには、測定用流路の短径が、濃度拡散層厚(δM(x))以下となるようにすることで非常に高感度な金属量の測定を実用的な測定時間で可能であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、濃厚塩液体中に含まれる微量金属を測定する際に広く利用することができる。
【符号の説明】
【0084】
1…微量金属の測定装置、2…加温手段、3…フローセル、3a…流路、4…電気化学測定手段、5…バッファータンク、6…ポンプ、7…導入管、8…排出管、11…微量金属の測定装置、12…保温手段、13…試料貯留手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微量金属成分を含む濃厚アルカリ溶液、濃厚塩溶液、溶融塩又は導電性ポリマー溶液からなる測定対象液体において、測定用流路に前記測定対象液を通液させる工程と、
前記測定用流路における前記測定対象液体の通液中に、前記測定対象液体を作用極、対極及び参照極からなる測定用電極と接触させて微量金属成分に対してストリッピングボルタンメトリー法による電気化学測定を行う工程と、
前記電気化学測定により得られたデータに基づいて前記測定対象液体の微量金属成分の濃度を求める工程と、を有する微量金属の測定方法であって、
前記測定用流路の短径が、次の式(1)
δM(x)=Sc−1/3×δ(x) ・・・(1)
(式中、δM(x)は電極末端における濃度拡散層厚(m)、δ(x)は電極末端における境界層厚(m)、Scはシュミット数を表わす。なお、δM(x)及びδ(x)は共にxの関数であり、xは流れの始点からの電極末端までの流下方向距離(m)である。)で求められる濃度拡散層厚(δM(x))以下であることを特徴とする微量金属の測定方法。
【請求項2】
前記測定用流路の短径が濃度拡散層厚(δM(x))以下となる通液条件とするために、前記測定用流路に通液させる前に、前記測定対象液体を加温して前記測定液体の動粘度を低下させる工程を備えることを特徴とする請求項1記載の微量金属の測定方法。
【請求項3】
前記測定対象液体に含まれる微量金属成分の濃度が10ppb以下であることを特徴とする請求項1記載の微量金属の測定方法。
【請求項4】
前記測定対象液体に含まれる微量金属成分が、水素よりもイオン化傾向の大きい金属成分である請求項1乃至3のいずれか1項記載の微量金属の測定方法。
【請求項5】
前記測定用流路の短径が濃度拡散層厚(δM(x))以下となる通液条件とするために、前記測定用流路の後段に配置したシリンジポンプにより測定用流路内を陰圧にして、前記測定対象液体を前記測定用流路内に単位時間当たり一定量で通液させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の微量金属の測定方法。
【請求項6】
前記測定対象液体が、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニア誘導体又は導電性有機塩を主成分とすることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の微量金属の測定方法。
【請求項7】
前記測定対象液体の主成分濃度が0.1mol/L以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の微量金属の測定方法。
【請求項8】
前記測定対象液体が、ライン通過中の測定対象液体の一部を測定用に採取したものであって、前記電気化学測定が終了した後、前記測定対象液体をライン中に返送することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の微量金属の測定方法。
【請求項9】
微量の金属成分を含む濃厚アルカリ溶液、濃厚塩溶液、溶融塩又は導電性ポリマー溶液からなる測定対象液体を通液させる測定用流路を有するフローセルと、
前記フローセルの測定用流路内に設けられた作用極、対極及び参照極からなる測定用電極と、
前記測定用電極を用いてストリッピングボルタンメトリー法による電気化学測定を行い、得られたデータに基づいて前記測定対象液体中の金属濃度を求める電気化学測定手段と、
を有する微量金属の測定装置であって、
前記測定用流路の短径が、次の式(1)
δM(x)=Sc−1/3×δ(x) ・・・(1)
(式中、δM(x)は電極末端における濃度拡散層厚(m)、δ(x)は電極末端における境界層厚(m)、Scはシュミット数を表わす。なお、δM(x)及びδ(x)は共にxの関数であり、xは流れの始点からの電極末端までの流下方向距離(m)である。)で求められる濃度拡散層厚(δM(x))以下であることを特徴とする微量金属の測定装置。
【請求項10】
前記測定対象液体を前記フローセルに通液させる前に、その動粘度を低下させるために前記測定対象液体を加温する加温手段を有することを特徴とする請求項9記載の微量金属の測定装置。
【請求項11】
前記加温手段が、採取した試料溶液及び前記フローセルを内部に収容し、該内部雰囲気を所定温度に保持できることを特徴とする請求項10記載の微量金属の測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−36788(P2013−36788A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171335(P2011−171335)
【出願日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年 2月16日 国立大学法人山形大学 「平成22年度 山形大学大学院理工学研究科 物質化学工学専攻 応用化学教室 修士論文公聴会講演要旨集」にて発表
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)