説明

微量金属捕集用液体濾過フィルタ

【課題】 半導体用シリコンウエハーの研磨液、アルカリ洗浄液、洗浄用超純水、工業用無機薬品、有機溶媒、工業排液などに含まれる金属化合物、金属イオンを高精度に除去し、かつ自ら不純物の金属溶出を低減した液体濾過用フィルタを提供する。
【解決手段】 下記式[1]で示されるエチレン単位とノルボルネン単位を含むエチレン・ノルボルネン共重合体を素材とするメルトブロー不織布基材からなる液体濾過フィルタであって、該エチレン・ノルボルネン共重合体は、ガラス転移温度(Tg)が80〜180℃であり、メルトボリュームレート(MVR)(試験法ISO 1133準拠、測定条件:260℃、2.16kg)が30cm/10分以上であり、且つ該メルトブロー不織布基材は、平均繊維径が1〜30μmの繊維で構成されることを特徴とする液体濾過フィルタなど。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
半導体用シリコンウエハーの研磨液、アルカリ洗浄液、洗浄用超純水、工業用無機薬品、有機溶媒、工業排液などに含まれる金属化合物、金属イオンを捕集する液体濾過用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
工業用薬液や水に含まれる金属化合物や金属イオンは、元々液中不純物として内在するものの他に、その使用工程における設備の配管や塔槽類の金属からの溶出によりもたらされるものが含まれる。このような薬液や水は、各種使用目的における品質低下や製品歩留まりの低下をもたらすため、使用薬液からの金属成分、例えば、Ni、Cu,Zn、Fe、Na、Mg、Cr、Alなどの除去が求められている。
従来から使用されている液中の微量金属(化合物)を捕集・除去するものとしては、イオン交換樹脂があり、多くはビーズ状のイオン交換樹脂をカラムに充填するか、又は多孔質膜の間に充填して薬液を通過させる方法が多く用いられている。
また、繊維や不織布に各種のイオン交換基やキレート基を付与した濾過フィルタが用いられてきた。さらに、グラフト重合により高密度ポリエチレン製の繊維や不織布に金属捕捉機能を付与した液体濾過フィルタが用いられてきた(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0003】
ここで、前者即ちイオン交換樹脂を使用する液体濾過の場合には、ビーズ状のイオン交換樹脂内の細孔に液が拡散し、イオン交換基に接触して金属イオンが吸着される。従って、濾過液の樹脂への浸透拡散が律速になるので、金属除去速度を高めるためには、多量のイオン交換樹脂を要することになる。
この点において、細繊維で構成される不織布を基材とする液体フィルタは、濾過液との接触表面積が大きく取れ、また、通液の圧損が低いという点で有利である。また、不織布の特徴であるシート様のフィルタ基材を同心状に巻き付けたり(ワインド型)、プリーツして円筒容器に収納する、いわゆるカートリッジ化が容易に可能であり、このカートリッジフィルタを、簡便に浄化システムに組み入れることができる。
【0004】
そのような利点を有する不織布フィルタの基材として、従来より、高密度ポリエチレン(以下、HDPEともいう。)不織布が用いられてきた。その理由は、グラフト重合の前段階での放射線照射による分子切断が起き難く、物性劣化が少ないこと、発生させた活性ラジカルを低温化により保存しやすいこと、グラフト重合やその後の化学処理に耐えること、即ち耐薬品性に優れることなどの適性があることが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−279945号公報
【特許文献2】特開平9−99221号公報
【特許文献3】特開平5−131120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記HDPE自体は、撥水性であり、熱的にも安定なため、その中に含まれる耐熱安定剤は少量であり、また、化学的にも安定なため、液体フィルタに好ましい素材ともいえる。
しかしながら、このようなHDPE不織布製の金属捕集フィルタ材には、以下の欠点がある。
即ち、薬液の清浄度がより高く求められると、HDPE基材自体に含有する金属の溶出が無視できず、基材自体からの金属溶出により薬液が汚染されるという問題である。例えば、半導体製造工程で使用される酸、アルカリ、有機溶剤のごとき抽出力の高い薬液に接すると、高密度ポリエチレン中の残留金属が顕著に溶出する。また、より一層高い精製純度が求められる超純水への溶出や汚染も問題となる。この残留金属の多くは、HDPEの重合触媒がポリマー中に残留したものと考えられている。
【0007】
参考までに、HDPE樹脂のペレットに含まれる金属分を分析した結果を下記表1に示す。
【0008】
【表1】

【0009】
上記表1に示されるように、HDPE樹脂中には、Na、Mg、Al、Ca、Ti、Zr、Pなど他種多様の微量金属がppmオーダーで多量に含まれている。これらの元素のうち、Ca、Pなどは、残留触媒の捕捉剤または安定剤として重合の後に添加されるものと考えられる。また、Mg、Ti、Zr、Alなどは、重合触媒の残渣であると考えられる。HDPEを濾過フィルタ素材として用いた場合、このような不純物が半導体の洗浄液や研磨剤などの薬液に溶出することが問題であり、液体への溶出の影響は、回路を短絡させたり、半導体の機能を乱す原因ともなり、近年の半導体の集積度の増大から回路パターンの微細化(45nm)が求められる状況において、半導体製品の歩留まりの低下に直結する。すなわち、HDPEを素材とした不織布にイオン交換基を付与して、液中の金属イオンを補足する機能を期待する反面、その基材自体から金属を溶出するという問題を抱えており、溶出の少ない、清浄能力の高い液体濾過フィルタの基材として改善が求められている。
【0010】
本発明の目的は、上記問題を解消すべく、半導体用シリコンウエハーの研磨液、アルカリ洗浄液、洗浄用超純水、工業用無機薬品、有機溶媒、工業排液などに含まれる金属化合物、金属イオンを高精度に除去し、かつ自らの金属溶出を低減した液体濾過用フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のような背景のもと、本発明者らは、金属捕集に適するフィルタ素材を鋭意、研究した結果、環状オレフィンとエチレンをメタロセン触媒によって共重合させた環状オレフィン・コポリマー(以下、Cyclo Olefin Copolymer,略してCOCともいう。)が薬液に対して、金属の溶出が極めて低い可能性があることを見出した。
このことは、実際に、COC原料樹脂のペレットに含まれる金属含有量を測定し、HDPEのそれと比較した結果によって明らかになった。その実測結果も上記表1に示す。
同表1は、HDPEとCOCの樹脂(ペレット)に含まれる金属分を分析したものである。この表1よりCOCの含有金属は、半導体の製造に有害なNa,Mg,Al,Ca,Pなどの含有量がHDPEに比べて格段に低いことが見出される(注:表1のCOC中の金属含有量の多くは、0.5ppm(検出限界)以下である。)。
そこで、このCOCを素材に用いて不織布化し、これにグラフト重合による官能基を付与すれば、金属溶出の少ない、より高品質の金属捕集フィルタが得られるとの考えに想到した。その考えの正当性は、後段にて詳述する薬液への溶出試験の結果により実証された。
なお、HDPEに金属が多く含まれる理由の一つは、近年の触媒技術の進歩により、触媒効率が向上し、気相重合のあとに無脱灰で造粒(ペレタイズ)され、さらに、生成ポリマー中に残留する触媒を不活性化するために中和剤(一般には金属石鹸類)を添加配合することに由来すると考えられている。一方、COCは、溶媒液中で重合が行われ、かつ脱触媒工程が付与されることにより、残留触媒金属が少ないためと考えられる。表1に示される両者の含有金属量の差は、このためと考えられる。
【0012】
そこで、後記の実施例に示すように、実際に両ポリマーを原料に用いたメルトブロー不織布を作製し、薬液への金属溶出の程度を調べて、表2〜5に比較表示した。実施例にて詳述するが、COC不織布を基材とするグラフト重合不織布は、HDPE不織布を基材とするグラフト重合不織布よりも低溶出であることが明らかになった。
したがって、COC不織布は、半導体製造工程に使用される薬液中の微量金属を捕集する濾過フィルタの基材として、好ましいことが明らかとなった。
しかしながら、このCOCは、非結晶性であるため、品質の良好で安定なメルトブロー不織布を生産することが極めて難しい素材である。本発明者らは、鋭意、COCを用いたメルトブロー不織布の製造を検討した結果、特定範囲のガラス転移温度(以下、Tgともいう。ISO 11375−1、−2、−3準拠にて測定)及び溶融粘度の低いCOCを用いれば、メルトブロー不織布化が可能であることを見出し、この選択範囲において、所望する繊維径からなるCOCメルトブロー不織布を作製し、これにグラフト重合を施して、金属捕集能力を付与し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下記式[1]で示されるエチレン単位とノルボルネン単位を含むエチレン・ノルボルネン共重合体を素材とするメルトブロー不織布基材からなる液体濾過フィルタであって、該エチレン・ノルボルネン共重合体は、ガラス転移温度(Tg)が80〜180℃であり、メルトボリュームレート(以下MVRとも表記)(試験法ISO 1133準拠、測定条件:260℃、2.16kg)が30cm/10分以上であり、且つ、該メルトブロー不織布基材は、平均繊維径が1〜30μmの繊維で構成されることを特徴とする液体濾過フィルタが提供される。
【0014】
【化1】

[式中、エチレン単位(X)は、1〜99モル%であり、ノルボルネン単位(Y)は、1〜99モル%である。]
【0015】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記メルトブロー不織布基材には、メルトブロー不織布基材100重量部当たり、アクリル酸、アクリロニトリル、アクロレイン、N−ビニルホルムアミド、メチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ビニルベンジルグリシジルエーテル、クロロメチルスチレン、スチレンスルホン酸エチルエステル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、ジ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート又はジ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートから選ばれる少なくとも一種のビニル基含有反応性モノマーが40〜200重量部の範囲でグラフト重合されていることを特徴とする液体濾過フィルタが提供される。
【0016】
本発明の第3の発明によれば、第2の発明において、前記メルトブロー不織布基材にグラフト重合したグリシジルメタクリレート又はビニルベンジルグリシジルエーテルのエポキシ基を開環してなることを特徴とする液体濾過フィルタが提供される。
また、本発明の第4の発明によれば、第2の発明において、前記グラフト重合されているメルトブロー不織布基材に、さらに、イオン交換基および/またはキレート官能基が付与されていることを特徴とする液体濾過フィルタが提供される。
さらに、本発明の第5の発明によれば、第4の発明において、前記グラフト重合されているメルトブロー不織布基材に付与されているイオン交換基および/またはキレート官能基は、スルホン類を含む基、アミン類を含む基、アミノカルボン酸類を含む基、リン酸類を含む基またはチオ化合物類を含む基から選択される少なくとも一種類であることを特徴とする液体濾過フィルタが提供される。
【発明の効果】
【0017】
従来、液体中の微量金属の除去に用いられていた素材、特にポリエチレンは、その耐薬品性や耐放射線劣化などの観点で優れたフィルタ基材とされてきたが、薬液の精製度、純度の要求が高度になるにつれ、ポリエチレン基材自体からの金属溶出・汚染が問題とされる。
ところが、本発明の液体濾過フィルタは、上記構成にて、従来の課題を解決し、低溶出で高精度の金属捕集性能を有するという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のCOCに係るノルボンネン含有量とガラス転移温度の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の液体濾過フィルタは、下記式[1]で示されるエチレン単位とノルボルネン単位を含むエチレン・ノルボルネン共重合体を素材とするメルトブロー不織布基材からなるものである。
以下、項目毎に、説明する。
【0020】
1.環状オレフィン・コポリマー(COC)
本発明における環状オレフィン・コポリマー(COC)とは、下記式[1]で示されるエチレン単位とノルボルネン単位を含むエチレン・ノルボルネン共重合体であって、ノルボルネンとエチレンをメタロセン触媒にて、共重合したシクロオレフィンコポリマーをいう。
【0021】
【化2】

[式中、エチレン単位(X)は、1〜99モル%であり、ノルボルネン単位(Y)は、1〜99モル%である。]
【0022】
環状オレフィン・コポリマー(COC)は、環状オレフィンをエチレンとビニル型共重合させて得られるものであり、商業化されているものとして、ポリプラスチックス(株)より商品化されている商品名:TOPAS(登録商標)がある。なお、式〔1〕とは別種の構造をもつ環状オレフィン樹脂(Cyclo Olefin Polymer、略してCOPともいう。)として、三井化学(株)製の商品名:APEL(登録商標)、日本ゼオン(株)製の商品名:ZEONOR(登録商標)がある。
このうち、上記のTOPAS(登録商標)という商品名のCOCは、エチレンとシクロペンタジエンをDiels−Alder反応にてノルボルネンを合成し、このノルボルネンとエチレンをメタロセン触媒により共重合させたものである。エチレンとノルボルネンの共重合の量比が広くとれるので、Tgが幅広く調節できるため、メルトブロー不織布の製造とグラフト重合に適した特徴を有する。
なお、例えば、図1に示すように、COCのTgは、ノルボルネン含有量に、殆どリニヤに相関する。
【0023】
本発明では、グラフト重合反応に耐える耐熱性をもち、且つ、良好なメルトブロー不織布の形成に適する環状オレフィン樹脂として、式〔1〕によって表される、広い範囲のTgを選択できる特徴を持つCOCを選定し、これを用いたメルトブロー不織布にビニル基含有モノマーをグラフト重合するものである。
特に本発明では、エチレン・ノルボルネン共重合体は、ガラス転移温度(Tg)が80〜180℃から選ばれ、そのTgの下限値80℃は、ノルボルネン含有量が約35モル%、Tgの上限値180℃では、ノルボルネン含有量が約62モル%に相当する。
したがって、式[1]においては、取りうるエチレン単位(X)は、1〜99モル%で、ノルボルネン単位(Y)は、1〜99モル%であるが、本発明においては、好ましくはエチレン単位(X)が38〜65モル%で、ノルボルネン単位(Y)が35〜62モル%である。本発明における望ましいTgは、このようにCOCのノルボルネン含有量を調節することにより得ることができる。
【0024】
一方、平均繊維径が1〜30μmの範囲の細繊維からなるメルトブロー不織布を得るには、COC樹脂は、好ましい溶融粘度特性を持つことが必要であり、特に細い繊維構成のメルトブロー不織布の形成には、溶融粘度が低いほど、即ち流動性の高いほど好ましい。
ここでCOC樹脂の流動性、即ち溶融粘度の指標としては、一般的にメルトボリュームレート(MVR)が用いられ、本発明に用いるメルトブロー不織布の形成においては、MVRが試験法ISO 1133準拠、測定条件:260℃、2.16kgにおいて30cm/10分以上であることが必要である。なお、流動性の指標であるMVRは、COCの分子構造、特にその重合度X、Yに基づく分子量及びCOC全体の分子量分布により、調節することができる。
【0025】
2.メルトブロー不織布基材
一般に、メルトブロー不織布とは、熱可塑性ポリマーを押出機により連続的に加熱溶融させて可塑化し、これを、ポリマーラインを経由してダイに導入し、高温高圧の空気ジェット気流中にフィラメントを紡出して極細繊維を得、引き続き、気流内で繊維交絡してコンベア上に拭きつけ連続シート状にしてなる不織布である。繊維間の結合は、ジェット気流の攪拌作用による繊維の交絡及び繊維交絡点の適度の融着により、メルトブロー不織布が形成される。
【0026】
本発明において、グラフト重合基材として使用されるCOCメルトブロー不織布を構成する繊維径は、平均繊維径として1〜30μmの範囲に設定されることが望ましい。メルトブロー不織布の製造において、そのような所望の繊維径を得るには、ポリマーの溶融粘度が極めて重要である。特に繊維径の小さいメルトブロー不織布を得るためには、溶融粘度を下げる必要があるが、ダイと溶融押出機の加熱容量とポリマーの熱分解温度(約450度が分解開始温度)の制約から樹脂温度を高めて溶融粘度を下げる方法には限界がある。
【0027】
本発明では、平均繊維径が1〜30μmの範囲のCOCメルトブロー不織布を得るためには、前記の如く、樹脂温度の調整とともにCOCポリマーの流動性の指標であるMVRが260℃/2.16kg荷重の測定条件において、30cm/10分以上とすることが必要である。このMVRが30cm/10分未満であると、メルトブローにおける溶融温度を高く設定する必要があり、これは、メルトブローの装置特にダイ内での樹脂分解物(多くは炭化物)を生成し、円滑な生産が妨げられるという問題を生じる。また、MVRが低い、即ち溶融粘度が高いと、ジェット気流中での溶融紡糸による繊維細化が進行せず、また紡糸状態が不安定となり、ショットと称する玉状の繊維塊が発生し、均質な繊維からなるメルトブロー不織布が得られない。
【0028】
本発明においては、不織布を構成する繊維の繊維径がグラフト重合においては、以下に述べる観点で重要である。すなわち、
(1)COCは非結晶性であるので、放射線照射により発生させた活性ラジカルが、ポリエチレンのごとき結晶性ポリマーに比べて、保持しにくい。このため、照射線量を高くする必要があるが、繊維が細ければ、比表面積が大きくなるため、低線量であっても繊維表面及び繊維内部でのグラフト重合反応に十分な活性ラジカルが得られる。
(2)繊維径が細くなると、物理的な濾過性能も加わる。液中の金属は、金属酸化物、水酸化物、イオンの凝集体としてコロイド状に分散しているものもあり、また、樹脂配管や継手類からゲル状の低分子量ポリマーの溶出もある。このような不純物を含む液を濾過する場合、フィルタの構成繊維が細ければ、物理的に不純物を濾過するので、イオン交換やキレート作用の機能と相乗した金属捕集性能が期待できる。
以上の理由によって、不織布の製法の中で、繊維径を小さくコントロールできるメルトブロー不織布が本発明のグラフト基材に適している。
【0029】
繊維径は、上述の理由により細いことが好ましい。しかしながら、メルトブロー不織布とは、溶融紡糸の後に、高温高速気流中にて繊維を攪拌・交絡させると同時に繊維間交点を自己融着させ、コンベヤ上に安定に着地させてシート状(これをウエッブという)にして巻き取るものであるから、この繊維交点の融着が不十分であると、繊維がフライとして脱落飛散して良好なウエブを形成しない。また、ウエッブ表面に著しいケバが発生する。この傾向は、細い繊維径を得ようとするほど顕著になる。
殊に、COCは非結晶性であるので、Tgが高過ぎると繊維自体の固化が繊維間融着に優先して起きるために、繊維間融着が不十分となり、その結果、上記のフライ、ケバを生起するため、適正なTgを有するCOCを選ぶ必要がある。
本発明者らは、鋭意検討の結果、COCのTgが180℃以下であることが適度の繊維間交絡と融着結合を得て、外観の良好なウエッブ形成に望ましいことを見出した。一方、Tgが80℃未満であると、グラフト重合や転化反応の温度、さらには高温条件での液体濾過に耐えず、著しいウエッブの変形や収縮を招き、総じて耐熱性の観点で好ましくない。
結局、メルトブロー不織布形成のためのCOCのTgの適正範囲は、80〜180℃にある。
【0030】
以上の如く、COCの選定にあたり、メルトブロー不織布の繊維径を支配する適正な溶融時の流動性(その指標としてMVR)及び不織布の外観形成と耐熱性を支配するTgを選ぶ必要があり、本発明では、その範囲を特定している。また、以下にグラフト重合反応を行わせるのに好ましいメルトブロー不織布の基本的な態様を示す。
・平均繊維径:1〜30μm
・目付重量:20〜100g/m
・繊維充填率:5〜25%
【0031】
ここで、繊維充填率(不織布容積に占める繊維の割合=繊維密度ともいう。)が5%以下になると、ケバの多い嵩高なウエッブとなり、強度も低下する。一方、25%以上となると、グラフト重合におけるグラフト反応モノマーが不織布内部に浸透しにくくなり、また、グラフト重合による繊維径の増加(グラフト律にもよるが、原反初期の2〜3倍)のための空隙の確保がし難くなり、結局、高いグラフト率が得られにくい。
繊維充填率(%)=100×[目付重量g/m]/[厚みmm]/[樹脂比重]/1,000
この繊維充填率は、樹脂の溶融粘度とTgを本発明に示すごとく適切な範囲を選択することにより、グラフト重合に好ましいメルトブロー不織布が得られる。
【0032】
3.グラフト重合方法
前記エチレン・ノルボルネン共重合体(COC)を放射線照射し、ビニル基含有反応性モノマーをグラフト重合する方法は、以下の工程による。
(工程I):
COC不織布基材にガンマ線または電子線を照射する。照射量は、50〜200kGyの範囲とする。50kGyより小さいと、安定且つ望ましいグラフト率が得られず、一方、200kGy以上の場合には、基材の損傷が大きく、強度低下を招き、好ましくない。なお、工程I及び次工程IIへの移行過程においては、照射前後の基材を氷点下、望ましくは−20℃以下に置くことが、反応に寄与する活性ラジカルの消失を防ぐためにも望ましい。
(工程II):
照射したCOC不織布をビニル基含有の反応性モノマーに浸漬し、液中においてグラフト重合を完了させる。本発明では、COCメルトブロー不織布に一定レベル以上の望ましいグラフト率を付与するためには、この反応性モノマーを、予め、水と界面活性剤とによりエマルション化したものを用いること及び真空脱気又は窒素バブリングにより、液中の溶存酸素を1%以下とすることが特に望ましい。
上記の方法によって、COCメルトブロー不織布上への各種モノマーのグラフト重合を円滑に行うことができる。
本発明の金属捕集用途では、十分なるフィルタ寿命を持たせるため、グラフト率は40〜200%、望ましくは、80〜150%が望ましい。すなわち、メルトブロー不織布基材100重量部当たり、グラフト重合される反応性モノマーが40〜200重量部であれば、グラフト率は40〜200%となる。
このグラフト率は、放射線量、モノマーエマルション濃度、反応温度、反応時間などによって調整され、以下の式により算出される。
グラフト率(%)=100×(B−A)/A
(式中、Aはグラフト前の不織布基材の目付重量g/m、Bはグラフト後の不織布基材の目付重量g/mを表す。)
【0033】
COCメルトブロー不織布基材に、上記の方法によりグラフト重合させる反応性モノマーとしては、ビニル基を有するモノマー、即ち、アクリル酸、アクリロニトリル、アクロレイン、N−ビニルホルムアミド、メチルアクリレート、グリシジルメタクリレート(GMA)、ビニルベンジルグリシジルエーテル、クロロメチルスチレン(CMS)、スチレンスルホン酸エチルエステル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルなどが挙げられる。また、リン酸基を有するビニルモノマーとして、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、ジ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、ジ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート又はこれらの混合物などが挙げられる。
【0034】
4.イオン交換基/キレート官能基の付与
本発明においては、前記のモノマーを前記工程IIによってグラフト重合した不織布基材に、イオン交換基および/またはキレート基を導入し、金属捕捉機能を付与する(工程III)。
イオン交換基および/またはキレート官能基としては、スルホン類を含む基、アミン類を含む基、アミノカルボン酸類を含む基、リン酸類を含む基またはチオ化合物類を含む基から選択される少なくとも一種が挙げられる。
上記イオン交換基として、スルホン類を含む基としては、スルホン酸が挙げられる。また、アミン類を含む基としては、1級アミン、2級アミン、3級アミンおよび4級アミンが挙げられる。
また、上記キレート官能基として、イミノジエタノール、アミノカルボン酸類を含むキレート基としては、アミノ酢酸、ニトリロ三酢酸、エチレンジアミン四酢酸、ジエチレントリアミン五酢酸、トリエチレンテトラアミン六酢酸、グルタミン酸二酢酸、エチレンジアミン二コハク酸、イミノジ酢酸が挙げられる。
また、アミン類としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリエチレンポリアミン、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ピロール、ポリビニルアミン、シッフ塩基が挙げられる。
さらに、ヒドロキシルアミン類としては、オキシム、アミドオキシム、オキシン(8−オキシキノリン)、グルカミン、ジホドロキシエチルアミン、ヒドロキサム酸が挙げられる。
また、リン酸類としては、アミノリン酸、リン酸が挙げられる。さらに、チオ化合物類としては、チオール、チオカルボン酸、ジチオカルバミン酸、チオ尿素が挙げられる。
【実施例】
【0035】
本発明の詳細を、以下の実施例に基づき説明する。
【0036】
[実施例1及び比較例1]
(メルトブロー不織布の作製)
実施例1の基材として、Tgが134℃、MVR(260℃、2.16kg)が48cm/10分のCOC(ポリプラスチックス社製、品番名:「TOPAS」5013)を用いた。
また、比較例1として、Tgが138℃、MVR(260℃、2.16kg)が14cm/10分のCOCを用いた(ポリプラスチック社製、品番名:「TOPAS」6013)。
【0037】
この二つのCOCを用いて、一般的なノズル径0.4mmのダイを用いて、吐出温度300℃近傍にて、30cm幅のメルトブロー不織布の製作を行ったところ、「TOPAS」5013については、平均繊維径が1〜30μmまでの範囲で均質な不織布が得られたが、一方、「TOPAS」6013については、全般にショットという未延伸ポリマー塊が多発し、また、繊維径も30μm以下の均質な繊維が得られず、フィルタ基材としては不適当なものであった。また、ダイノズル部での圧力上昇が顕著になり、ダイノズルの損壊の危険性が生じた。これは、「TOPAS」6013の溶融粘度が高いことに起因すると考えられる。この結果により、以後の実施例で使用するCOCメルトブロー不織布は、以下の条件にて調製した。尚、COCの選択は、特許請求範囲の規定に合致すればよく、下記の品番にこだわるものではない。
・COC原料:ポリプラスチックス社製、品番名「TOPAS」5013(Tg134℃、MVR@260℃、2.16kg測定条件下で48cm/10分)
・目付重量:60g/m
・厚み:0.5mm
・通気度:17cc/cm/sec
・繊維充填率:12%
・平均繊維径:6μm
【0038】
[比較例2]
金属溶出性比較のため、HDPE(メルトインデックス:MI=40相当品)を用いてメルトブロー不織布を作製した。
比較上、前記COC不織布の基本仕様とほぼ同一の目付重量60g/m、厚み0.45mm、平均繊維径6.0μm、通気度18cc/cm/s、充填率11%に設定した。
実施例1(COC不織布原反)と比較例2(HDPE不織布原反)の金属溶出量の比較は、下記表2〜5の試料(i)に示すとおりで、COC不織布の低溶出性は明らかである。
【0039】
[実施例2]
(イミノジエタノール基付与)
実施例1において得られたCOCメルトブロー不織布を用いて、以下の工程により、金属捕集用液体フィルタを作製した。
【0040】
(工程I)
上記COCメルトブロー不織布を、予め、ドライアイスにて冷凍下に置き、ガンマ線を100kGy照射した。照射後は、−40℃冷凍庫に保存し、次に示す工程(工程II)によりグラフト重合不織布を作製した。
【0041】
(工程II)
照射後の不織布を、グリシジルメタクリレート(GMA)5%を含むエマルション液中に浸漬した。エマルションの作製には、界面活性剤(関東化学株式会社製、商品名:Tween20)を0.5%含む水にGMAを5%投入し、攪拌機を用いてエマルションを作製した。また、このエマルション中の溶存酸素を1%以下に減ずるため、窒素をバブリングした。不織布を浸漬中のエマルションの温度は40℃に設定し、2時間グラフト重合を行った。
このようにしてグラフト重合を行い、グラフト率120%のグラフト不織布基材を得た。
【0042】
(工程III)
次に、このグラフト重合不織布を、イミノジエタノール80℃の液槽に、4時間浸漬し、イミノジエタノール基付与型の金属捕集フィルタ基材を得た。
エポキシ基から転化したイミノジエタノール基の官能基密度は、2.0m−mol/gであった。
【0043】
[比較例3]
比較のため、HDPEを素材としたメルトブロー不織布(比較例2)を基材としたグラフト重合不織布及びイミノジエタノール基を転化反応により付与した不織布を、前記工程I〜IIIに従って作製し、比較例3とした。このときのGMAのグラフト率は135%、イミノジエタノール基の付与量は、官能基密度として、2.3m−mol/gであった。
この試料を比較用とし、これと、実施例2で得たグラフト重合COC不織布及びイミノジエタノール基を付与した不織布とを試料として、以下の金属溶出試験を行った。
【0044】
(金属溶出試験結果)
上記の実施例1、2および比較例2、3で作られた試料を用いて、超純水及び0.1N硝酸への溶出試験を行った。
〔超純水への溶出試験〕
表2は、HDPEメルトブロー不織布を、また、表3は、COCメルトブロー不織布を基材とした各試料(i)〜(iii)の超純水への溶出試験結果である。なお、試料(iv)は、浸漬溶出に用いた超純水液である。いずれの溶出試験においても、常温下で24時間の溶出時間とした。
〔0.1N硝酸への溶出試験〕
同様に、表4は、HDPEメルトブロー不織布を、また、表5は、COCメルトブロー不織布を基材とした各試料(i)〜(iii)の0.1N硝酸への溶出試験結果である。
いずれの溶出試験においても、常温下で24時間の溶出時間とした。なお、試料(iv)は、浸漬溶出に用いた0.1N硝酸原液である。
即ち、各表2〜5に記された試料(i)〜(iv)は、HDPE、COCメルトブロー不織布ともに共通して以下の内容である。
試料(i):未処理のHDPEまたはCOCメルトブロー不織布原反
試料(ii):試料(i)をGMAにて、グラフト重合した不織布基材
試料(iii):試料(ii)にイミノジエタノール基を付与したフィルタ
試料(iv):比較として試料の浸漬用原液(超純水又は0.1N硝酸)
【0045】
表2〜5に示される結果によれば、表2中の試料(i)と表3の試料(i)は、前述のごとくHDPE及びCOCのメルトブロー不織布原反を超純水に浸漬して、各々の溶出金属を分析したものである。また、同様に、表4中の試料(i)と表5中の試料(i)は、同様に0.1Nの硝酸に対する溶出金属を分析し比較したものである。
これらの分析結果において、COC不織布原反(i)の液中への金属溶出量のほとんどが検出限界以下であり、HDPE不織布(i)と比較して格段に少ないことが認められる。特に、HDPE不織布(i)には、半導体の製造工程に特に有害なFe、Ni、Znの溶出が検知され、その一方、COC不織布では、検出限界以下となっている。COC不織布(i)の金属溶出量が小さい理由は、前述の如くCOCポリマー自体に金属含有量が少ないことの他、COCが極めて撥水撥液性が高く、ポリマー内部の金属が溶出しにくいためとも考えられる。
【0046】
同じく、表2〜5中において、各表中の試料(ii)は、前述のごとく各試料(i)をGMAでグラフト重合したもの、試料(iii)は、その試料(ii)にイミノジエタノール基を付与したものである。上記の金属溶出試験の結果、COCを不織布基材とした試料(ii)及び(iii)の金属溶出量(表3、表5)は、いずれもHDPEを基材にした試料(ii)及び(iii)の金属溶出量(表2、表4)よりも少ないことが認められる。特に、半導体洗浄における除去対象となるFe、Ni、Znなどの溶出においては、HDPEとCOCとに顕著な差が認められる。
これらの溶出試験結果より、未処理のHDPE及びCOC不織布原反である試料(i)の液体への溶出量が試料(ii)、(iii)の溶出量に反映していることが明らかであり、COC不織布を基材とするグラフト重合不織布が、HDPE不織布を基材とするグラフト重合不織布よりも低溶出であることが明らかになった。
【0047】
また、実施例2の工程IIIで得たCOC不織布を基材とするイミノジエタノール基付与のフィルタを用いて、多摩化学工業株式会社製のコリン(水酸化2−ヒドロキシエチルトリメチルアンモニウム)4%水溶液を通液したところ、通液前のFeが70ppb、Niが0.01ppb以下、Znが0.18ppbに対して、通液後は、Feが0.02ppb、Niが0.01ppb以下、Znが0.04ppbに減少した。
また、比較例3で作製したHDPE不織布を基材とするイミノジエタノール基を付与したフィルタに、前記4%コリン水溶液を通液させたところ、HDPEの重合触媒由来と思われるAlの溶出が見られたが(通液前:0.05ppb、通液後:0.23ppb)、本実施例2のフィルタに通液した場合は、Alの溶出は全く見られなかった。
なお、金属濃度の作製は、独自の濃縮方法を行った後、ICP−MS(パーキンエルマー社製 ELAN DRC−II)で測定した。以降の実施例で測定する金属濃度も、同様の方法で行った。
【0048】
[実施例3]
(スルホン基付与)
実施例2の工程IIで得られた、GMAをグラフト重合したCOCメルトブロー不織布に、さらに、工程IIIとしてスルホン化処理を行って、スルホン基付与型の金属捕集フィルタを得、実施例3とした。
スルホン化には、10%亜硫酸ナトリウム水溶液を80℃に保ち、グラフト不織布を2時間浸漬して、スルホン基を付与した。エポキシ基から転化したスルホン基の官能基密度は、2.6m−mol/gであった。
このフィルタを用いて、野村マイクロ・サイエンス株式会社製ミニピュアTW−300RUにて、製造した超純水を通液したところ、通液前では、Naが0.3ppb、Mgが0.01ppb、Alが0.01ppb、Kが0.01ppb、Caが0.2ppb、Crが0.01ppb、Mnが0.01ppb、Feが0.03ppb、Niが0.08ppb、Cuが0.01ppb、Znが0.09ppb、Tiが0.01ppb、Zrが0.01ppb、Pが0.01ppbに対して、通液後は、全ての金属分が0.01ppb以下に減少し、COCの重合触媒から予想されたAl等の金属溶出も、全く見られなかった。
【0049】
[実施例4]
(グルカミン基付与)
実施例2の工程IIで得られた、GMAをグラフト重合したCOCメルトブロー不織布に、さらに、工程IIIとしてグルカミンで処理してグルカミン基付与型の金属捕集フィルタを得、実施例4とした。
グルカミンには、メタノールを溶媒として使用した。この水溶液を80℃に保ち、グラフト不織布を2時間浸漬して、グルカミン基を付与した。エポキシ基から転化したグルカミン基の官能基密度は、2.2m−mol/gであった。
このフィルタを用いて、鶴見曹達株式会社製CLEARCUT−S 48%NaOHを通液したところ、通液前では、Niが0.5ppb、Cuが0.03ppbに対して、通液後、Niが0.01ppb、Cuが0.01ppbに減少し、COCの重合触媒から予想されたAl等の金属溶出もまったく見られなかった。
【0050】
[実施例5]
(イミノジ酢酸基付与)
実施例2に用いたCOC原反を使用し、実施例2の工程Iを経て、工程IIにおいてクロロメチルスチレン(CMS)をグラフト重合した。CMSは、GMAと同様、界面活性剤Tweenによりエマルション化したものを用い、50℃、3時間の浸漬のもと、グラフト重合を行った。
CMSのグラフト率は100%であった。このCMSグラフト重合不織布は、次に、工程IIIとしてイミノジ酢酸ナトリウムとイソプロパノールの混合溶液中にて80℃、7時間の浸漬による転化反応をおこなった(反応後の不織布基材を0.2NのNaOH及び純水で洗浄し、イミノジ酢酸基付与の金属捕集用フィルタとした。)。
不織布基材上に付与されたイミノジ酢酸基の官能基密度は、2.8m−mol/gであった。
この不織布フィルタを用いて、和光純薬製の30%炭酸カリウムを通液したところ、50ppbレベルのFe、Ni、Znがいずれも0.1ppb以下に減少し、COCの重合触媒由来のAl等の金属溶出も全く見られなかった。
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
[実施例6]
実施例2の工程IIにおいて得られた、グリシジルメタクリレート(GMA)をグラフト重合した不織布基材(グラフト率120%)を、1N硫酸(80℃)中に2時間浸漬して開環処理を施してエポキシ基をジオール基としたものについて、48%KOHを通液して、通液前後のNi及びCuの含有量を測定した。その結果を表6に示す。
【0056】
【表6】

【0057】
表6に示すように、48%KOH原液に含まれているNiが2ppbに対して、開環処理したGMAグラフト重合不織布を通液させると、1ppb以下となり、また、48%KOH原液に6ppb含まれていたCuが、開環処理したGMAグラフト重合不織布を通液後に1ppb以下となり、GMAを開環処理したグラフト重合不織布のNi,Cuの除去能力が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の液体濾過フィルタは、半導体、液晶分野の洗浄用各種薬液や無機薬品などの液中に含まれる微量金属を高精度で捕集する濾過フィルタに利用される。微量金属の捕集精度は、高まれば高まるほど、半導体、液晶製品の品質向上と生産歩留まりが向上する。また、洗浄液の回収精製によるリサイクル使用が可能になり、環境保全や資源の活用に好ましい影響を与える。また、本発明は、半導体、液晶分野の他に、産業廃水の処理、工業用無機薬品、各種溶剤の精製などに応用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式[1]で示されるエチレン単位とノルボルネン単位を含むエチレン・ノルボルネン共重合体を素材とするメルトブロー不織布基材からなる液体濾過フィルタであって、
該エチレン・ノルボルネン共重合体は、ガラス転移温度(Tg)が80〜180℃であり、メルトボリュームレート(MVR)(試験法ISO 1133準拠、測定条件:260℃、2.16kg)が30cm/10分以上であり、且つ、該メルトブロー不織布基材は、平均繊維径が1〜30μmの繊維で構成されることを特徴とする液体濾過フィルタ。
【化1】

[式中、エチレン単位(X)は、1〜99モル%であり、ノルボルネン単位(Y)は、1〜99モル%である。]
【請求項2】
前記メルトブロー不織布基材には、メルトブロー不織布基材100重量部当たり、アクリル酸、アクリロニトリル、アクロレイン、N−ビニルホルムアミド、メチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ビニルベンジルグリシジルエーテル、クロロメチルスチレン、スチレンスルホン酸エチルエステル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、モノ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、ジ(2−メタクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェート又はジ(2−アクリロイルオキシエチル)アシッドホスフェートから選ばれる少なくとも一種のビニル基含有反応性モノマーが40〜200重量部の範囲でグラフト重合されていることを特徴とする請求項1に記載の液体濾過フィルタ。
【請求項3】
前記メルトブロー不織布基材にグラフト重合したグリシジルメタクリレート又はビニルベンジルグリシジルエーテルのエポキシ基を開環してなることを特徴とする請求項2に記載の液体濾過フィルタ。
【請求項4】
前記グラフト重合されているメルトブロー不織布基材に、さらに、イオン交換基および/またはキレート官能基が付与されていることを特徴とする請求項2に記載の液体濾過フィルタ。
【請求項5】
前記グラフト重合されているメルトブロー不織布基材に付与されているイオン交換基および/またはキレート官能基は、スルホン類を含む基、アミン類を含む基、アミノカルボン酸類を含む基、リン酸類を含む基またはチオ化合物類を含む基から選択される少なくとも一種類であることを特徴とする請求項4に記載の液体濾過フィルタ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−231163(P2011−231163A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100637(P2010−100637)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000201881)倉敷繊維加工株式会社 (41)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】