説明

心エコー検査における診断の品質を改善するための方法

本発明は、特に心拍数上昇を有する患者に対する心エコー検査における診断の品質を改善するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に心拍数上昇を有する患者に対する心エコー検査における診断の品質を改善するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓超音波検査(心エコー検査−ECG)はヒト医療および獣医医療における非侵襲的方法として主要な診断手段となっている。用いられる技術は二次元、MモードおよびドップラーECGである。これらの技術の概要はMoise N.s.およびFox P.Rの「Echocardiography and Doppler Imaging」(Fox P.R. Sisson D., Moise N.S.編「Textbook of Canine and Feline Cardiography 2nd edition」 1999, 130ページ以降、W.B. Saunders Company, 米国フィラデルフィア)で確認することができる。
【0003】
ECGで測定されるパラメータの多くは高心拍数により影響される可能性がある。高心拍数はECGの品質を低下させてさらに重要な測定を不可能とすることもある。
【0004】
ネコにおける最も一般的な心疾患は肥大型心筋症(HCM)である。異常な左心室(LV)の弛緩がHCMの一般症状である。LV弛緩を評価するための非侵襲的かつ実用的技術は、ドップラーECGによる左室流入(血流速)波形特性を評価することである。LV弛緩異常に最も特徴的なドップラーエコー特性は、減速時間の延長を伴う低い速度E(拡張早期、パッシブ拡張期充満)および高い速度A(心房収縮期)である。残念ながら、ネコにおいてはその心拍数が比較的早いためにE波とA波が分離されないことが多く、「この技術が有用でなくなる」か、または少なくとも「解釈を困難」にする。これはKienle R.Dの「Echocardiography」(Kittleson M.D., Kienle R.D.編「Small Animal Cardiovascular Medicine」1998、95ページ以降およびMosby, Inc., 米国セントルイス)およびFox P.R.の「Feline Cardiomyopathies」(Fox P.R., Sisson D.、Moise N.S. 編「Textbook of Canine and Feline Cardiology, 2nd edition」1999、621ページ以降W.B. Saunders Company, 米国フィラデルフィア)の記事に反映されている。
【0005】
しかし、E波およびA波の測定値および算出されたE/A比はヒト患者、および潜在的にはネコにおける拡張機能不全の診断、予後および治療にとって非常に有用なパラメータである。
【0006】
特に愛玩動物における心拍数上昇は、カルシウム(Ca++)チャネル遮断薬、β受容体遮断薬および(If)チャネル遮断薬などの徐脈薬によって治療されることがある。
【0007】
この目的のために使用されることのある既知のCa++チャネル遮断薬はジルチアゼムおよびベラパミルである。
【0008】
この目的のために使用されることのある既知のβ受容体遮断薬はアテノロール、ビソプロロール、カルベジロール、メトプロロールまたはプロパノロールである。
【0009】
この目的に使用されることのある既知のIfチャネル遮断薬は、たとえば欧州特許第EP−B−0 065 229号および米国でこれに相当する米国特許第5,516,773号に開示されるザテブラジン[1−(7,8−ジメトキシ−1,3,4,5−テトラヒドロ−2H−3−ベンザゼピン−2−オン−3−イル)−3−[N−メチル−N−(2−(3,4−ジメトキシフェニル)エチル)プロパン]、たとえば欧州特許第EP−B−0 224 794号および米国でこれに相当する米国特許第5,175,157号に開示されるシロブラジン(3−[(N−(2−(3,4−ジメトキシフェニル)エチル)ピペリジン−3−イル)メチル]−(7,8−ジメトキシ−1,3,4,5−テトラヒドロ−2H−3−ベンザゼピン−2オン)およびその塩酸塩、たとえば米国特許第3,708,485号に開示されるアリニジン[2−(N−アリル−2,6−ジクロロアニリノ)−2−イミダゾリジン]、またはたとえば欧州特許第EP−B−534859に開示されるイバブラジン3−[3−[[[(7S)−3,4−ジメトキシビシクロ[4.2.0]オクタ−1,3,5−トリエン−7−イル]メチル]メチルアミノ]プロピル]−1,3,4,5−テトラヒドロ−7,8−ジメトキシ−2H−3−ベンザゼピン−2−オンおよびその塩酸塩である。
【0010】
ザテブラジンも心不全の治療に好ましい活性を有することが知られている(欧州特許第EP−B−0 471 388参照)。シロブラジンも心不全の治療または予防に好ましい活性を有することが知られている(欧州特許第EP−B−1 362 590参照)。シロブラジン、ザテブラジンおよびアリニジンも特発性肥大型心筋症(HCM)、虚血性心筋症および心臓弁肥大型心疾患の治療および退行の誘導において好ましい活性を有することが知られている(国際公開第01/78699参照)。イバブラジンは特に心筋障害の治療に好ましい活性を有することが知られている(欧州特許第EP−B−534859または米国特許第5,296,482より)。
【0011】
ザテブラジンおよびシロブラジンの作用機序を決定するためにこれらの徐脈物質を用いて実施された学術研究より、ザテブラジンおよびシロブラジンは、いずれもIfとして知られている膜透過電流を担当するチャネルである、心伝導組織の過分極活性化、cAMP調節陽イオン電流チャネル(HCN)を選択的に遮断することが示されている。ザテブラジンおよびシロブラジンがその特異的な徐脈効果をもたらすと推定されているのはこの電流の遮断を通じてである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、特に心拍数上昇を有する患者に対する心エコー検査における診断の品質を改善するための方法に関する。したがって本発明は診断にも、品質が改善された診断を目的とする情報の検索にも関する。
【0013】
驚くいたことに、ECGを受ける患者に対する心拍数を低下させる能力を有する物質(徐脈物質)の投与により、以前は(すなわち徐脈物質の投与なしでは)評価が不可能または困難であった一定のECGパラメータ(例:ドップラーによる左室流入特性)を高い信頼度で測定することが可能となることが確認されている。
【0014】
したがって本発明は心エコー検査において診断の品質を改善するための方法であって、前記方法が心エコー検査を受ける患者に対する徐脈物質の投与を含む方法に関する。
【0015】
さらに本発明は心エコー検査において品質が改善された情報を検索するための方法であって、前記方法が心エコー検査を受ける患者に対する徐脈物質の投与を含む方法に関する。
【0016】
さらに本発明は心エコー検査を実施するための方法における品質の改善であって、前記の改善が心エコー検査を受ける患者に対する徐脈物質の投与を含む改善に関する。
【0017】
さらに本発明は心エコー検査において診断の品質を改善するための組成物の調製のための徐脈物質の使用に関する。
【0018】
さらに本発明は心エコー検査の診断の品質を改善するための組成物であって、前記組成物が徐脈物質を含む組成物に関する。
【0019】
本発明の意味内では、上記の組成物、方法または使用はヒトおよび非ヒト患者に対して意図されている。他の実施形態においては、上記の組成物、方法または使用は非ヒト患者、すなわち獣医学分野、好ましくは哺乳類、より好ましくは愛玩動物、より好ましくはネコに対して意図されている。
【0020】
他の実施形態においては、上記の組成物、方法または使用は心拍数上昇を有する患者に対する心エコー検査の品質の改善のために意図されている。
【0021】
他の実施形態においては、徐脈薬はカルシウム(Ca++)チャネル遮断薬、β受容体遮断薬および(If)チャネル遮断薬より選択される。
【0022】
他の実施形態においては、徐脈薬は以下のカルシウム(Ca++)チャネル遮断薬より選択される:ジルチアゼムおよびベラパミル。
【0023】
他の実施形態においては、徐脈薬は以下のβ受容体遮断薬より選択される:アテノロール、ビソプロロール、カルベジロール、メトプロロールまたはプロパノロール。
【0024】
他の実施形態においては、徐脈薬は以下のIfチャネル遮断薬より選択される:ザテブラジン、シロブラジンおよびその塩酸塩、アリニジン、およびイバブラジンおよびその塩酸塩。
【0025】
本発明の意味内において、徐脈薬は1つのその塩、好ましくはその製薬上許容できる1つの塩の形態で用いることができる。上記の徐脈薬の適切な既知の製薬上許容できる塩は、たとえばシロブラジンまたはイバブラジンの塩酸塩である。
【0026】
本発明の意味内で用いられる徐脈薬のうち、Ifチャネル遮断薬はシロブラジン、および特にその塩酸塩が好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施のための適切な徐脈薬は上記に開示されている。これらの薬物の製薬上許容できる塩またはエステルを使用してもよい。本発明の実施に適したいくつかの徐脈薬の製薬上許容できる塩は上記に開示されている。
【0028】
本発明の実施に適した徐脈薬またはその製薬上許容できる塩またはエステルの調製はそれ自体が既知である。たとえば、シロブラジンまたはその製薬上許容できる塩の調製については、これらの化合物の化学合成を記載した上記の欧州特許第EP−B−0 224 794号および米国でこれに相当する米国特許第5,175,157号を参照する。ザテブラジンまたはその製薬上許容できる塩の調製については、これらの化合物の化学合成を記載した上記の文献欧州特許第EP−B−0 065 229号および米国でこれに相当する米国特許第5,516,773号を参照する。イバブラジンまたはその製薬上許容できる塩の調製については、これらの化合物の化学合成を記載した上記の文献欧州特許EP−B−0 534 859号を参照する。
【0029】
本発明の実践のために、徐脈剤は医学的または獣医学的に許容できるあらゆる方法で患者に投与することができる。したがって、徐脈薬を含む組成物は経口または非経口投与を目的とした液状製剤または凍結乾燥粉末として製剤化してもよい。粉末は使用前に適切な希釈剤または製薬上許容できる他の担体の添加により溶解してもよい。液状製剤は一般的に水溶液である。このような製剤は特に経口投与に適しているが、非経口投与のために用いたり、あるいは吸入用に定量インヘラーまたはネブライザーに収容してもよい。組成物にポリビニルピロリドンまたはヒドロキシセルロースなどの賦形剤を加えることが望ましい場合がある。液状製剤は直接経口投与してもよく、軟カプセルに充填して投与してもよい。あるいは、成分を経口投与用にカプセル化、錠剤化または調製してシロップにしたりしてもよい。製薬上許容できる固形または液状担体を添加して組成物を強化または安定化したり、または組成物の調製を容易にしたりしてもよい。担体は持効性材料を含んでもよい。組成物は、必要であれば錠剤形態については粉砕、混合、顆粒化および圧縮、カプセル形態については粉砕、混合および充填を含む薬学の従来技術に従って調製する。
【0030】
しかし、本発明を実践する目的のためには、徐脈剤を経口または注射により投与することが好ましく、経口経路が好ましい。上記の薬物の経口投与に適した組成物はそれ自体が既知である。たとえば、アリニジンおよびイバブラジンの投与に適した組成物は、引用されている国際公開番号第WO02/45693に開示されている。シロブラジンまたはその製薬上許容できる塩を含む組成物の調製については、シロブラジンまたはその製薬上許容できる塩の注射用、経口液剤、錠剤、カプセル剤および坐剤製剤の実施例を記載する、欧州特許第EP−B−0 224 794号および米国でこれに対応する米国特許第5,175,157号、国際公開番号第WO01/78699号および欧州特許第EP−B−1 362 590号が特に参照されている。
【0031】
本発明による効果を達成するために、個別の徐脈薬について文献より知られた心拍数上昇の治療のための用量、医学または獣医学の当業者にとって既知でありかつ参照されている用量、または適切な試験において評価されるこれらの徐脈薬のそれぞれについての用量を用いることが適切である。
【0032】
たとえば、以下の1回用量が文献より知られている。
・シロブラジンについては、0.1から0.5mg/kg経口投与、好ましくは0.2から0.4mg/kg、1日1から3回;
・ザテブラジンについては、1回用量が0.2から1mg/kg、1日2回;および
・アリニジンについては、1回用量が0.5から5mg/kg、1日2回。
【0033】
たとえば、ネコおよびイヌに対して徐脈薬シロブラジンを用いて本発明を実践するために関連した以下の用量は、発明者が実施した適切な薬物動態試験において決定されている。ネコに対する強力な心拍数低下を目的としたシロブラジンの単回経口用量は0.2〜0.4mg/kgである。イヌに対する強力な心拍数低下を目的としたシロブラジンの1回経口用量は0.3mg/kgである。シロブラジンの経口製剤の絶対バイオアベイラビリティはネコでは22.6%であり、またイヌでは26〜43%である。最高血漿レベルには、ネコでは経口投与より0.5時間後に、またイヌでは1から2時間後に到達する。
【0034】
本発明の意味内では、徐脈薬シロブラジンについては以下の用量範囲が好ましい:0.05から5mg/kg体重、0.1から2.5mg/kg体重、0.1から1mg/kg体重、および0.1から0.75mg/kg体重。
【0035】
ここで本発明は以下の実験を参照しながらより詳細に記載されるであろう。
【実施例】
【0036】
無症候性HCMに罹患したネコを用いた臨床野外試験において本発明に従ったIfチャネル遮断薬、すなわちシロブラジンの使用が検討された。
【0037】
MモードECGにより無症候性HCMに罹患したと診断されたネコ4匹に(左室壁厚>6mm)、シロブラジンを5日間連続して1日1回経口投与した。処置開始前および1、2、3、6および9日目に詳細な臨床的検査を実施した。処置開始前および試験3および6日目にECG測定を実施した。
【0038】
実験で用いた組成物は以下の通りである。
シロブラジンを2mg/mL含有する経口溶液。
有効成分を0.9%NaCl溶液に添加。
【0039】
処置開始前およびシロブラジン処置中に得られる左室E/A比を測定する実験の結果を、添付の図1に示す。これらの結果より処置開始前、したがってシロブラジンによる処置前では、4匹中2匹のネコで左室E/A比の算出が不可能であったことが示された。シロブラジンによる処置中の、3日目および6日目には、左室E/A比の算出は全てのネコで可能であった。
【0040】
この試験より、Ifチャネル遮断薬シロブラジン処置によりECG診断が容易になりその品質が改善されると結論付けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】処置開始前およびシロブラジン処置中に得られる左室E/A比を測定する実験の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心エコー検査における診断の品質を改善するための方法であって、前記方法が心エコー検査を受けるヒトまたは非ヒト患者に対して徐脈物質を投与することを含む方法。
【請求項2】
前記患者が心拍数上昇を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記患者が愛玩動物である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記徐脈物質がIチャネル遮断薬である、請求項1から3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
前記徐脈物質がIチャネル遮断薬シロブラジンまたは製薬上許容できるその塩である、請求項1から4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
心エコー検査を受けるヒトまたは非ヒト患者の診断の品質を改善するための組成物の調製のための徐脈物質の使用。
【請求項7】
前記患者が心拍数上昇を有する、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記患者が愛玩動物である、請求項6または7に記載の使用。
【請求項9】
前記徐脈物質がIチャネル遮断薬である、請求項6から8のいずれか1つに記載の使用。
【請求項10】
前記徐脈物質がIチャネル遮断薬シロブラジンまたは製薬上許容できるその塩である、請求項6から9のいずれか1つに記載の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2009−507063(P2009−507063A)
【公表日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−529631(P2008−529631)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【国際出願番号】PCT/EP2006/066085
【国際公開番号】WO2007/028808
【国際公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【出願人】(504225895)ベーリンガー インゲルハイム フェトメディカ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (34)
【Fターム(参考)】