説明

心不全の動物モデルでのEDG2受容体の使用

本発明は、心不全の動物モデルとして有用な、一過性にトランスフォームされた哺乳動物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心不全の動物モデルとして有用な一過性にトランスフォームされた哺乳動物に関する。
【背景技術】
【0002】
G蛋白質質カップリング受容体(GPCR)は、多重な生理学的プロセスにおいて中心的な役割を果たしている。ヒトゲノムでは約1000の遺伝子が、この受容体ファミリーをコードしていると推測される。処方箋によって現在使用されている医薬の約60%は、GPCRのアゴニストまたはアンタゴニストとして働いている。これは、研究開発型製薬産業のためにこの受容体クラスがいかに重要であるかを物語っている。上記蛋白質ファミリーのサイズおよび重要性により、また多くのGPCRでその生理学的リガンドが依然として未知である事実(オーファンGPCR)から考えて、この受容体クラスは、将来における新規な医薬物質の研究に適当な標的蛋白質の最も重要な貯蔵庫の一つであると推定することができる。
【0003】
GPCRは、細胞の表面に存在する膜に組み込まれた蛋白質のファミリーである。それらは、細胞外シグナリング物質(たとえば、ホルモン、神経伝達物質、ペプチド、脂質)からのシグナルを受けて、これらのシグナルをグアニンヌクレオチド結合蛋白質、「G蛋白質質」のファミリーを経由して細胞の内部に移送する。受容体の特異性、活性化されるG蛋白質質およびその細胞種に依存して、これらの受容体は様々なシグナル伝達経路を誘発する。
【0004】
すべてのGPCRポリペプチド鎖は、細胞膜の脂質二重層を横切って跨ぐ7個のα−ヘリックスに折り畳まれる。7回膜を通過して、細胞外および細胞内ループの形成を生じ、これが細胞外のリガンド結合およびG蛋白質質の細胞内カップリングを可能にする。この理由から、GPCRはまた、7回膜貫通型受容体とも呼ばれる。
【0005】
すべてのG蛋白質質カップリング受容体は共通の基本的パターンに従い作用する。細胞外リガンドの結合は受容体蛋白質にコンフォーメーションの変化を導き、これにより受容体蛋白質のG蛋白質質との接触が可能になる。細胞でのG蛋白質質により仲介されるシグナル伝達カスケードは最終的に細胞の生物学的応答を導く。G蛋白質質は、サブユニットα、βおよびγから構成されるヘテロトリマーである。それらは脂質アンカーを介して細胞の内側に存在する。活性化GPCRのG蛋白質質へのカップリングは、GαサブユニットにおけるGDP/GTPの交換、ならびにヘテロトリマーG蛋白質質のαおよびβγサブユニットへの解離を誘導する。活性化αサブユニットおよびβγ複合体はいずれも細胞内エフェクター蛋白質と相互作用することができる。
【0006】
Gαs型G蛋白質質による膜結合アデニレートサイクラーゼ(AC)の活性化は、たとえば細胞内cAMPレベルの上昇を招くが、Gαi型G蛋白質質による活性化の場合にはその低下を招来する。Gq型G蛋白質質は、イノシトール1,4,5−トリホスフェート(IP3)およびジアシルグリセロール(DAG)の形成を触媒するホスフォリパーゼC(PLC)を活性化する。これらの分子は細胞内貯蔵オルガネラからCa2+の放出またはプロテインキナーゼC(PKC)の活性化を招く。
【0007】
ヒトEDG2(Endothelial Differentiation Gene 2−内皮分化遺伝子2)のポリヌクレオチド配列およびアミノ酸配列は公的に利用することができる。この配列は、たとえばNCBI(受入番号:NM_001401)から入手することができる。蛋白配列はSwiss Prot(受入番号:Q92633)から入手できる。ヒト肺cDNAライブラリーからの受容体のクローニングはAnら Biochem. Biophys. Res. Commun. 24, 231 (1997) に記載されている。
【0008】
完全長配列は359のアミノ酸蛋白質をコードし、これはグアニンヌクレオチド結合蛋白質カップリング受容体(GPCR)のスーパーファミリーに属する。ヒトEDG2 mRNAはヒト組織に広く分布し、脳に最も高濃度に存在する。ヒトEDG2蛋白質を発現するHEK293細胞は血清応答エレメントレポーター遺伝子アッセイにおいて、リソホスファチジン酸(LPA)に対する応答の上昇を示し、これはLPA濃度に依存性で、LPAに特異的であった。マウスでのEDG2蛋白質の対応物もまたLPAに対する受容体として同定された。
【0009】
リソホスファチジン酸(LPA)およびスフィンゴシン1−ホスフェート(S1P)は強力なリン脂質メディエーターであり、様々な生物学的活性を有する。それらの出現および機能的性質は発育、創傷治癒および組織再生にある役割を果たしている可能性を示唆している。成長の刺激作用および他の複雑なLAPおよびS1Pの活性の一部は、多重なG蛋白質質仲介細胞内シグナリング経路に帰するものである。数種のヘテロトリマーG蛋白質質ならびにRas−およびRho−依存性経路が、LPSおよびS1Pに対する細胞性応答に中心的な役割を果たしている。
【0010】
本発明の範囲内およびすべての場合に使用された哺乳動物は例外なく、ヒト種(ホモサピエンス)またはホモサピエンスの個体、ヒトの身体の部分を包含しない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、哺乳動物の心筋細胞に関し、この細胞はG蛋白質質カップリング受容体EDG2およびGFP(緑色蛍光蛋白質)の同時発現のためのアデノウイルスベクター配列を含有する。
【0012】
アデノウイルスベクター配列は、好ましくは組換えE1/E3欠損アデノウイルスから構成され、これはG蛋白質質カップリング受容体EDG2およびGFPを2つの独立したプロモーターの制御下に発現する。このようなプロモーターは2個のCMVプロモーターとすることもできる。
【0013】
上述のアデノウイルスベクター配列を含有する哺乳動物の心筋細胞は、G蛋白質質カップリング受容体EDG2およびGFPを発現し、したがってG蛋白質質カップリング受容体EDG2の蛋白質およびGFP蛋白質を含有する。
【0014】
アデノウイルスベクター配列を含有する心筋細胞は、好ましくはウサギ、マウスまたはラットの細胞である。
【0015】
本発明はまた、心筋細胞の製造に関し、この細胞はG蛋白質質カップリング受容体EDG2およびGFPの同時発現のためのアデノウイルスベクター配列を含有し、この場合、
a)哺乳動物の心臓を、現在の技術水準の獣医学の手術手技により摘出し、
b)心臓をコラーゲナーゼで還流、消化し、
c)単離された心筋細胞を、G蛋白質質カップリング受容体EDG2およびGFPの、2つの独立したプロモーターの制御下における発現を可能にする組換えE1/E3欠損アデノウイルスから構成されるアデノウイルスベクターを用いて感染させることにより製造される。このようなプロモーターは、好ましくは2個のCMVプロモーターである。
【0016】
さらにまた本発明は、G蛋白質質カップリング受容体EDG2およびGFPの同時発現のためのアデノウイルスベクターを含有する心筋を有する哺乳動物に関する。この哺乳動物のアデノウイルスベクター配列は、好ましくは組換えE1/E3欠損アデノウイルスから構成され
、これはG蛋白質質カップリング受容体EDG2およびGFPを、2つの独立したプロモーターの制御下での発現を可能にする。このような2個の独立したプロモーターは好ましくは2つのCMVプロモーターである。
【0017】
本発明はまた、G蛋白質質カップリング受容体EDG2の蛋白質およびGFPの蛋白質を含有する心筋を有する哺乳動物に関する。このような哺乳動物、すなわちG蛋白質質カップリング受容体EDG2およびGFPの同時発現のためのアデノウイルスベクターを有する心筋をもつ哺乳動物、および/またはG蛋白質質カップリング受容体EDG2の蛋白質およびGFPの蛋白質を有する心筋をもつ哺乳動物は、好ましくはウサギ、マウスまたはラットである。さらに本発明はまた、G蛋白質質カップリング受容体EDG2およびGFPを同時に発現するためのアデノウイルスベクターを含有する心筋を有する哺乳動物の製造、および/またはG蛋白質質カップリング受容体EDG2の蛋白質およびGFPの蛋白質を含有する心筋を有する哺乳動物の製造に関し、この場合、
a)G蛋白質質カップリング受容体EDG2およびGFPの同時発現のためのアデノウイルスベクター配列を準備し、
b)哺乳動物を準備し、
c)a)からのアデノウイルスベクターシステムをb)からの哺乳動物の心筋にカテーテルを用いて移入することによって製造される。
【0018】
本発明はまた、G蛋白質質カップリング受容体EDG2およびGFPの同時発現のためのアデノウイルスベクターを含有する心筋を有する哺乳動物、および/またはG蛋白質質カップリング受容体EDG2の蛋白質およびGFPの蛋白質を産生する心筋を有する哺乳動物の使用に関し、G蛋白質質カップリング受容体EDG2の活性を調節する化合物の同定方法として使用することができる。
【0019】
本発明は、受容体EDG2の活性を調節する化合物の同定方法に関し、この場合、
a)心筋から受容体EDG2または受容体EDG2を含む融合蛋白質を発現するトランスフォームされた細胞を準備し、
b)場合によってはa)からの細胞の処置をイソプロテレノールおよび/またはリソホスファチジン酸の使用によって実施し、
c)化学的化合物を準備し、
d)a)またはb)からの細胞をc)からの化学的化合物と接触させ、
e)d)からの細胞の収縮性を測定し、a)からの細胞と同じ特性を有するが、c)からの化学的化合物と接触させなかった細胞の収縮性と比較し、この場合、d)に従い化学的化合物と接触させた細胞の収縮性と比べたこの化合物による収縮性の相対的な上昇または低下が、このような化合物が受容体EDG2の活性を調節する能力を示すものとして同定する方法に関する。
【0020】
本発明はさらに、受容体EDG2の活性を調節する化合物を同定する方法に関し、この場合、
a)心筋から受容体EDG2または受容体EDG2を含む融合蛋白質を発現するトランスフォームされた細胞を準備し、
b)場合によってはa)からの細胞の処置をイソプロテレノールおよび/またはリソホスファチジン酸の使用によって実施し、
c)化学的化合物を準備し、
d)a)またはb)からの細胞をc)からの化学的化合物と接触させ、
e)d)からの細胞の収縮性を測定し、a)による細胞と同じ細胞型であるが、受容体EDG2または受容体EDG2を含む融合蛋白質を発現しない細胞の収縮性と比較し、この場合、受容体EDG2または受容体EDG2を含む融合蛋白質を発現する細胞と比較した収縮性の相対的な上昇または低下は、このような化合物が受容体EDG2の活性を調節する能力を証明する化
合物により同定する方法である。
【0021】
本発明はさらに、以下の群、すなわち
a)配列番号5に特定される配列を有するポリヌクレオチド、
b)配列番号5のポリヌクレオチドと95%が同一のポリヌクレオチド、
c)配列番号5のポリヌクレオチドと少なくとも同じ長さであり、高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件を適用した場合、配列番号5のポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチド、
の一つのポリヌクレオチドからなるアデノウイルスベクターに関する。
【0022】
アデノウイルスベクター配列には、好ましくは配列番号2の蛋白質をコードするポリヌクレオチド配列が包含される。
【0023】
ハイブリダイゼーションとは、相補性の配列を有する2本の一本鎖ポリヌクレオチドが二重鎖にアッセンブリーすることを意味する。ハイブリダイゼーションは2本のDNA−鎖、1本のDNAおよび1本のRNA−鎖ならびに2本のRNA鎖の間で起こる。ハイブリドポリヌクレオチド鎖の形成は、二重鎖ポリヌクレオチド分子を含有する溶液から開始し、この溶液を加熱して、二重鎖を一本鎖ポリヌクレオチドに分離する。加熱工程は、10〜20分間水浴中で煮沸することにより行われる。溶液を加熱したのち、徐々に室温まで冷却すると二重鎖分子へのハイブリダイゼーションが起こる。実験条件下には、ハイブリダイゼーションは共通して、ブロッティングまたは電気泳動によってポリヌクレオチドを固定したハイブリダイゼーションフィルターを用いて実施される。ハイブリダイゼーションは放射性または蛍光標識を有する相補性ポリヌクレオチド分子の使用により可視化することができる。ストリンジェンシーはある条件下における一致の程度を記載する。一致の必要性はより高いストリンジェンシーの条件下では高くなる。核酸のハイブリダイゼーションの環境下では、ストリンジェンシーの条件は使用する核酸ならびに用途および目的に依存し調整される。高いストリンジェンシーの条件でのハイブリダイゼーションは、相補性分子のフィッティングがきわめて良好な場合にのみ可能である。フィッティングがきわめて良好な相補性ポリヌクレオチドはたとえば、相補性パートナー分子と同一性の程度が90、91、92、93、94、95、96、97、98、99%を示す。低いストリンジェンシーの条件のハイブリダイゼーションはまた、分子のあるセグメント内でのみ相補性であるか、またはミスマッチもしくは対になる塩基のない大きなセクションを有するポリヌクレオチド間で起こる。
【0024】
高いストリンジェンシーの条件でのハイブリダイゼーションは標識プローブの存在下に、水性の2×SSC溶液中、68℃で少なくとも2時間、ハイブリダイゼーション工程を実施し、最初の洗浄は2×SSC/0.1%SDS室温で5分間、第二の洗浄は1×SSC/0.1%SDS、68℃、1時間および第三の洗浄は0.2%SSC/0.1%SDS、68℃でさらに1時間実施した。
【0025】
2×SSC−、1×SSC−または0.2×SSC溶液は20×SSC溶液の希釈により得られる。20×SSC溶液は3モル/Lの食塩および0.3モル/Lのクエン酸ナトリウムからなる。ポリヌクレオチドの緊縮条件下でのハイブリダイゼーションの他の標準方法については周知である。とくに勧告が教科書“Current Protocols in Molecular Biology(Wiley Interscience; ISBN: 0-471-50338-X; F. M. Ansubel. R. Brant, R. R. Kingston, D. J. Moore, J. G. Seidmann, K. Struhl編) に記載されている。
【0026】
本発明はさらに、以下の群のポリヌクレオチドの一つから構成されるアデノウイルスベクター、すなわち
a)配列番号5に特定される配列を有するポリヌクレオチド、
b)配列番号5のポリヌクレオチドと95%同一なポリヌクレオチド、
c)配列番号5のポリヌクレオチドと少なくとも同じ長さであり、高度にストリンジェ
ントなハイブリダイゼーション条件を適用した場合、配列番号5のポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチド、から構成されるアデノウイルスベクターを、G蛋白質質カップリング受容体EDG2が一過性または永久的に少なくとも一つの組織において発現されるトランスジェニック哺乳動物を構築するための使用に関する。このような組織は、好ましくは哺乳動物の心臓の部分である。組織はまた、脳、筋肉、脂肪、肝臓、腎臓または哺乳動物の他の臓器の部分から構成される。
【0027】
本発明の一般的技術態様は、以下の章内でさらに説明する。
【0028】
アデノウイルスは様々な細胞型および組織に、分裂中および非分裂中細胞にかかわらず感染することができる。この特性は、その比較的容易な製造および精製とともに、それらの遺伝子ベクターとしての広範囲な使用を可能にした。ウイルスは異種DNAの約2kbのみをその安定性または感染性に有意な影響を与えることなく導入することができる。したがって、さらに長い配列の導入には一部またはすべてのウイルス遺伝子の除去が要求される。組換えアデノウイルスの構築のためには、ある範囲の技術が必要である。
【0029】
ベクターはとくに、(i)腫瘍の抑制および除去をもたらす遺伝子を送達する癌療法;(ii)遺伝子療法、すなわち組織に強力な防御遺伝子を送達する療法;(iii)その発現が疾患過程で効果のある遺伝子を送達する補充療法に利用することができる。
【0030】
ベクターの最初の世代では、E1および/またはE3遺伝子カセットが除去され、多くの場合、異種プロモーターの制御下に6.5kbまでの異種DNAの導入が可能になった。E1欠失の場合には、ITRおよびパッケージング配列の保持を確認するために注意が必要である。E1領域の除去はE2遺伝子の転写(これはE1依存性である)を損なわせる明らかな付加的利点を与え、したがって、ウイルスDNAの複製およびウイルスカプシド蛋白質の産生を低下させた。
【0031】
E1欠陥ウイルスは、トランスでE1遺伝子産物を提供する293細胞の感染によって増殖させることができた。初期のインビトロにおける研究では、多くの期待がもたれたが、移入遺伝子のインビボでの発現が一過性にすぎず主としてウイルスカプシド抗原ならびに発現した移入遺伝子に向けられた圧倒的な免疫応答により抑制されることが間もなく明らかになった。この理由の一つは、多くの細胞がE1様の蛋白質を保有し、レベルは低いもののこれがE2遺伝子の機能発現を可能にしたとの観察であった。一方、これはウイルスDNAの複製および後期構造的抗原の合成、ならびに複製コンピーテントアデノウイルス(RCA)の産生を促進した。また、より高いm.o.i.でE2遺伝子転写のE1依存性は低下させることが可能なことも明らかになった。
【0032】
次のアプローチは(適当な相補的細胞系を用い)、E2遺伝子の一部またはすべてが切除され、したがって、ウイルスDNAの複製およびRCAの産生能が除去されたベクターの構築であった。RCAの発生も、ベクター内で重複するアデノウイルスの配列を含まない細胞系を構築することにより防止することができた。にもかかわらず、宿主免疫応答は依然として、移入遺伝子の永久的発現の達成における主要な障害であり、とくに反復感染を試みた場合にそれは明白であった。多数の研究により、組換えウイルスの感染自体は免疫応答を誘導するのに十分であり、上述のシグナリングカスケードの早期活性化およびカプシド成分の強力な抗原性から見て、これは多分驚くべきことではなかった。
【0033】
他のむしろより改良されたベクター(第三世代)は他のウイルス遺伝子を欠失させることにより構築し(Amalfitanoら, 1988)、これらは最終的にはすべてまたはほぼすべてのウイルス遺伝子が除去されていた。これらのいわゆる「実質のない」ベクター(Hardyら,
1997)は最初からITRおよびパッケージング配列のみを維持し、増殖にはヘルパーウイル
スおよび適当な相補的細胞を要求し、ついで細心の注意による精製が必要であった。それでもなお、これらの技術には主として、ヘルパーウイルスの夾雑およびベクターの不安定性に伴う問題があった。ヘルパーウイルスのパッケージングを防止する更なる開発にはCre−loxヘルパー依存性システムの使用が包含された。
【0034】
組換えアデノウイルスの製造のためのAdEasyTM システムはQbiogeneからの市販品を利用することができる。組換えアデノウイルスの構築は通常、所望の発現カセットを最初にトランスファーベクターに組み込み、ついで相同組換えによってアデノウイルスゲノムにトランスファーする2工程法による。相同組換えによるDNAの挿入は、次の2つの理由で、アデノウイルスベクターに遺伝子を導入する最も効率的な方法である。すなわち、1)アデノウイルスDNAはほとんどすべての制限酵素部位を含有する大きな線状分子であり、2)ゲノムは容易に操作するには大きすぎる(36kb)ことによる。
【0035】
AdEasyTM ベクターシステムでは、大部分のアデノウイルスゲノムを含有する骨格ベクターは、線状DNAよりもむしろスーパーコイルプラスミド型で使用されている。相同組換え工程は大腸菌内で実施した。AdEasyTM システムでは、興味あるcDNAを最初にトランスファーベクターにクローン化する。ついで、得られたプラスミドをPmeIで線状化して、大腸菌株BJ5183に、pAdEasy−1、ウイルスDNAプラスミドとともにコトランスフォームした。pAdeEasy−1はE1およびE3を欠失していて、そのE1機能は293細胞中に補足することができる。組換え体はカナマイシンで選択し、制限酵素解析によりスクリーニングする。組換えアデノウイルス構築体はついでPacIで切断して、そのITR(反転末端リピート)を露出し、QBI−293A細胞にトランスフェクトして、ウイルス粒子を産生させた。
【0036】
相同組換え工程は線状化トランスファーベクターおよび無傷のスーパーコイルアデノウイルスプラスミドの間で仲介される。トランスファーベクター中に存在するカナマイシン抵抗性遺伝子は組換え体の選択を可能にする。AdEasyTM トランスファーベクターの切断ではカナマイシン抵抗性コロニーの低いバックグランドのみを生じ、相同組換えシステムは高いシグナル対ノイズ比を有する。大腸菌株BJ5183はrecAではなく、細菌での組換えを仲介する他の酵素を欠失し、その高いトランスフォーメーション効率および組換え能のために選択された。一つの組換えが達成され確証されると、アデノウイルス組換えDNAは簡単に、普通のrecA、endA株たとえばDH5αにトランスファーさせることが可能であり、DNA産生のさらに大きな収率を示す。そのrecAの状態により、DH5αは相同組換えによるアデノウイルス組換え体の作成には使用できない。
【0037】
Aequora victoriaからの緑色蛍光蛋白質(GFT)は、多くの生物学的システムにおいて迅速に標準的レポーターになる。GFPは発光のためコファクターまたは基質の存在を要求せず、とくにユニークな発光蛋白質である。クラゲ中でAequora victoria GFTはカルシウム依存性様式で作用する。Ca2+が他のバイオルミネッセント蛋白質を結合する場合には、aequorinは間接的にエネルギーを移動させて、緑色光の放出が誘導される。このエネルギートランスファーは、GFPを標準的な長波紫外光に暴露することによって実験的に模倣することができる。これらは、青色または赤色光を発光し、高温で安定なGFPアイソフォームの利用を可能にする。GFPは最初、蛍光顕微鏡により生存細胞を検査し、蛋白質の局在のモニタリングおよび細胞の動的事象を可視化するために使用された。クローン化された興味ある遺伝子とGFPの間の融合はサブクローニング技術によって産生させることが可能であり、一過性もしくは安定な発現により興味ある生物体に導入することができる。生存細胞の内側で得られる蛋白質の運命はついで慣用の蛍光顕微鏡を用いて追跡することができる。検出には細胞の固定または透過性化を必要としない。同様に蛋白質は、動物組織内をこのような蛋白質ならびにGFPの同時発現により追跡することができる。
【0038】
細胞の提供にはその製造、培養および更なるプロセッシングを包含する。細胞はたとえ
ば、臓器もしくは組織からの適当な細胞材料の調製または適当な細胞系もしくは微生物の増殖によって提供される。培養には適当な様々の培養メジウムを使用することができる。細胞はその生物体の至適な温度に維持される。適宜、防腐剤、抗生物質、pH指示薬、血清成分、血清、補助剤または他の物質を、各場合に使用する生育メジウムに加える。製造、培養および更なるプロセッシングの方法は標準的な教科書(たとえば、Basic Cell Culture; J. M. Davis; IRL Press; 1994)に記載されている。
【0039】
組換え技術の適用は、当業者が通常のやり方でその専門的知識を用いて製造できる細胞内で発現するポリヌクレオチド配列の型で存在する構築体を提供する。分子生物学/生化学の分野の当業者はこのための専門的な知識を、たとえばF. M. Ausubelら; Current Protocols in Molecular Biology; John Wiley & Sons, New Yorkに見出すことができる。ベクター構築体はアミノ酸配列たとえばGPCRをコードするポリヌクレオチドを発現ベクター中に導入することにより製造することができる。発現ベクターは、その中でポリヌクレオチド配列が、宿主細胞中で蛋白質に発現することができるベクターである。ベクターはプラスミド、ウイルスまたはコスミドに由来し、自律的に複製可能でなければならない。それらは一般に複製の起源、制限酵素切断部位およびマーカー遺伝子たとえば抗生物質抵抗性遺伝子を含有する。発現ベクター中にはプロモーターの機能的な制御下に増殖または外部から導入されたポリヌクレオチド配列が導入されている。プロモーターは様々な長さの機能性ポリヌクレオチド配列であって、転写の制御すなわち、上記プロモーターの3'−にすぐ隣接するポリヌクレオチドのmRNAの合成に使用される。原核生物でのみ活性なプロモーター、たとえばlac、tacおよびtrcプロモーターがあり、また真核生物でのみ活性なプロモーター、たとえばCMVまたはADHプロモーターがある。好ましい実施態様においては、組換えベクター構築体は、真核生物および/または原核生物中で使用できる発現ベクターからなる。発現ベクターは、ポリヌクレオチド配列に機能的に連結可能で、したがって上記ポリヌクレオチド配列によってコードされる蛋白質が生物体たとえば細菌、真菌または真核細胞系の細胞内で合成できる。プロモーターは、たとえばトリプトファンにより誘導されるか、または構成的に活性である。発現ベクターの例にはpUC18、pUC19、pBluescript、pcDNA3.1等がある。
【0040】
トランスフェクションは、ベクターによる宿主細胞内への異種ポリヌクレオチドの導入であり、ついで上記ポリヌクレオチド配列の増殖によって多数の同一なコピーを得ることができる。
【0041】
細胞系は、上述のCurrent Protocols in Molecular Biology; John Wiley & Sons, New
York刊、またはSambrookら; A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, ISBN 0-87969-309-6に熟練者により見出される通常の方法による組換え構築体で一過性にトランスフェクトされる。このような通常の方法の例には、エレクトロポレーション、Ca2+−ホスフェート共沈殿およびリポソームによるトランスフェクションがある。トランスフェクトされた遺伝子はトランスフェクトされた細胞の溶解物を免疫学的検出方法と組み合わせて、宿主細胞にウエスタンブロットにより発現させる。このためにもまた熟練者は、必要な実験室的プロトコールを上述のマニュアルで見出すことができる。GPCR受容体の免疫学的検出には、本発明の方法を実施するために適当な特異的抗体が市販されている。
【0042】
化学的化合物は、とくに化学合成または生物学的材料からの化学物質の単離によって提供される。
【0043】
化合物の化学合成または細胞からの物質の単離には、熟練者は日常的な方法を使用する。このような方法は、熟練者には教科書たとえばOrganic Synthesis Workbook; John Wiley & Sons; ISBN 3-527-30187-9, The Organic Chemistry of Drug Synthesis; 1998; John Wiley & Sons; ISBN 0-471-24510-0またはBioactive Compounds from Natural Sources; 2001; Taylor & Francis; IBSN 0-7484-0890-8が利用できる。
【0044】
合成または単離により得られる化合物は適当な溶媒に溶解させる。適当な溶媒には水、緩衝物質(たとえば、Tris、HEPES、MOPS等)、1価および/または2価のイオン(たとえばK+、Na+、Mg2+、Ca2+等)、酸(たとえばHCl、H2SO4、ギ酸、酢酸等)、塩基(たとえばNaOH等)、アルコール(たとえば、メタノール、エタノール、グリセロール)、界面活性剤(たとえば、ドデシル硫酸ナトリウム等)、有機溶媒(たとえば、ホルムアミド、アセトン、ジメチルスルホキシド等)ならびに他の成分とくに可溶化剤および安定化剤が包含される。
【0045】
熟練者は化学的化合物を、実験室的な日常的方法によって上記細胞と接触させることができる。接触はたとえばエルレンマイヤーフラスコ、試験管、エッペンドルフ管またはマイクロタイタープレート中で行われる。一定の温度、たとえば30℃または37℃の温度制御インキュベーター中、固定したCO2または湿度条件を設定し上記接触に使用する。接触はまたそのために提供された実験室用ロボット装置(FLIPR)を使用しても実施される。接触は様々な時間、数秒〜数分から数時間まで行うことが可能である。選択される条件は各場合、受容体、細胞系および化学的化合物に依存する。
【0046】
医薬の最終的な型は最終的な製剤、たとえば錠剤、顆粒剤、スプレー、溶液剤、軟膏、チンク油または他の製剤型を意味する。
【0047】
一般的に最終の型へのプロセッシングは特定の製剤の製造を意味し、1日用量は1日に体重1kgあたり0.3mg〜100mg(通常、3mg〜50mg)、たとえば3〜10mg/kg/日である。静脈内用量は、たとえば0.3mg〜1.0mg/kgの範囲であり、最も適当には1分間あたり10ng〜100ng/kgが輸液として投与される。これらの目的に適当な輸液溶液はたとえば0.1ng〜10mg/mL、通常1ng〜10mg/mLを含有する。1回投与量はたとえば1mg〜10gの活性物質を含有する。したがって、注射用のアンプルにはたとえば1mg〜100mgを含有し、経口的に投与できる1回用量製剤たとえば錠剤またはカプセル剤には1.0〜1000mg、通常10〜600mgを含有する。
【実施例】
【0048】
以下の実施例は本発明を開示するものであるが、これらの実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。
【0049】
実験動物の説明
研究に使用された動物はAsamhof, Kissing(Germany)から供給された10週齢の雌性ニュージーランド白色ウサギである。研究の開始時における動物の体重は2.7〜3.3kgである。
【0050】
実験動物の飼育およびケージ条件
仔ウサギは30日目に離乳させる。離乳によるストレスを最小限にするため、雌親は仔ウサギから分離し、最初はほとんど一緒にしなかった。約10〜14日後、仔ウサギを肥満させるためのケージ(l×b×h=28.5×60×34cm)に対で収容し、ついで約2週後にそれらを個別に収容した。肥満剤は清浄化および滅菌を容易にするため、オールイン−オールアウトシステムにより導入または除去する。
【0051】
飼料は施設内の農場プラントで生産し、これを飲水とともに、ウサギに自由に摂取させる。
【0052】
気候:換気速度は、夏は10,000m3/h、冬は3000m3/hとする。とくに隙間風を避けるよう
に注意を払う。冷たい気候では温度を約15℃に維持し、夏季には可能な限り、動物舎の過熱を防止する。離乳したばかりの若いウサギは約19℃に保持する。動物舎のアンモニアは30ppm以下、相対湿度は70%以下に保持する。飼育室の明るさは強度約20ルックスに約16時間照明した。
【0053】
研究用動物の収容
ウサギは、会社の指示する空調ビヒクルに置き、それらはここでウサギ自身を新しい飼料および環境に順化させるため2〜3週間の適応期間を設けた。
【0054】
ウサギを通常のケージ内で飼育する。ケージの材料はステンレス鋼とPVC挿入体からなり、ケージの床は面積4040cm2を有し、底板を穿孔した形態とする。糞のトレーは毎日洗浄化し、ケージは洗浄して毎週、加熱空気で滅菌する。それらは一定の条件下18〜21℃の室温および相対湿度55±5%に保持する。動物舎には窓があるので、照明は自然の昼夜サイクルに相当し、強度は少なくとも100ルックスである。
【0055】
麻酔および手術の準備
試験の初日も麻酔の開始までウサギには飼料と水を自由に与える。ついで指定された動物を秤量し、臨床検査とくに心脈管システムおよび呼吸器管の検査を受ける。動物には、左および右側部心耳静脈に内在させたカテーテル(VenflonTM, 08.×25mm)を経由して2回静脈アクセスを提供し、ついでこれを通じて1%プロポフォール(propofol)(Disoprivan, Fresenius AG, Bad Homburg)7mg/kg体重の用量i. v.で麻酔を誘導する。麻酔の誘導後直ちに、眼軟膏(Vitamin A Dispersa, Ciba Vision(R), Grossostheim)を角膜に適用した。立ち直り反射の消失後、ウサギ腹部を肘と最終肋骨の間で頚から胸部まで剃毛し、ついで、吸息時気管に挿入したカフ付Magill管(内径2.5〜3.5mm, Ruesch AG, Waiblingen)で予めインキュベートする。
【0056】
手術時に麻酔を維持するため、動物には2%プロポフォール(Disoprivan 2%, Zeneca, Italy)i.v. を12〜14mL/hの用量で輸液装置(Perfusor(R), ED1-300, B. Braun, Melsungen AG)を介して投与する。ウサギへの鎮痛剤としては、挿管後直ちにフェンタニル(Fentanyl−Janssen 0.5mg,Janssen−Cliag GmbH, Neuss)を0.01mg/kg i. v. の用量で投与し、ついで手術時は必要に応じて投与し、外科的耐容性の維持段階にはほぼ30分間隔で投与する。
【0057】
小動物用ベンチレーター(Anesthesia Workstation, Hallowell EMC, Voelker GmbH, Kaltenkirchen)を使用して、ウサギを、呼吸圧約10mmHg、呼吸容量8〜12mL/kg体重および呼吸数29〜32/分において100%の酸素で換気し、CO2分圧35mmHgの呼気を与える。心脈管系機能をECG(Medtronic(R), 9790 Programmer, Vitatron Medical B. V. Dieren,
Netherlands)を介してモニターする。呼吸および循環はパルス酸素測定法およびカプノメトリーによりモニターする。
【0058】
大動脈クロスクランピング
右総頚動脈の調製.ポリウレタンカテーテル(Cavafix(R), 1.1* 1.7mm/16G 4173589,
B. Braun Melsungen AG, Melsungen, Germany)を頚動脈に導入する。右総頚動脈のカニュレーション後に胸部を第三肋膜の空間を通して開胸する。ウイルスをSigscreen(R)法を用いて心筋に導入し、注入したベクターがとくにその位置に留まっていることを確証する。ついで胸郭を結紮(Nylon(R), 2-0 USP)で閉じ、縫合する(Vicryl(R)(3-0)およびNylon(R)(3-0))。
【0059】
鎮痛剤:手術後、動物はカルプロフェン(carprofen, Rimadyl(R), Pfizer 12時間毎に4mg/kg)およびブペロノルフェン(Temgesic(R), Boehringer 12時間毎に0.01mg/kg)
を72時間投与される。
【0060】
動物の安楽死
試験の最終日に、動物はセクション4に記載のように全身麻酔を受ける。ペントバルビタール0.48g/kg iv(Narcoren(R), Rhone−Merieux GmbH, Laupheim)で深い睡眠を誘導し、安楽死に至らしめる。
【0061】
死後のマクロ病理学的診断およびサンプリング
死後できるだけ速やかに胸骨の縁のレベルで胸壁部を両側に開き、心臓を摘出し、胸骨を完全に関節離断する。心臓を求心性血管および遠心性血管から分離し、5000 IUのヘパリンを含有する冷滅菌食塩溶液(等張性食塩溶液, Delta−Pharm, Boehriner, Ingelheim)で血液がなくなるまで洗浄する。肉眼による病理学的な検査後に秤量し、心臓をさらに試験するため、そのままで保存する。単一細胞の単離のための心臓は、即時の処理を待つ間、約4℃の冷たいヘパリン化食塩溶液の滅菌試験管中に短時間保存する。GFP蛍光の測定のためには、凍結切片を調製する。細胞顕微鏡による観察のための新鮮な摘出心臓を、同様に滅菌食塩溶液で洗浄し、セルロースで乾燥し、ついで液体窒素中(−196℃)の試験管中で超低温凍結し、次の処理で使用するまで−80℃に保存する。動物は獣医大学のガイドラインに従い、典型的な心不全症状の程度;腹水、胸膜浸出液、心臓重量、心臓の形状、肝臓の鬱血および肝臓重量の評価にとくに注意を払いながら解剖する。
【0062】
動物の死骸の処分
−20℃で低温凍結したキャビネットに収集したのち、動物の死骸を死骸処分ユニットに運び処分する。
【0063】
組換えアデノウイルスの構築および精製
ヒトEDG2受容体を、ヒトEDG2受容体のコード配列に基づき、PCRベースの方策を用いてクローン化した。この受容体のための組換え(E1/E3−欠損)フラッグ−タグ化アデノウイルス(Ad−EDG2−GFP)を作成し、移入遺伝子および緑色蛍光蛋白質(GFP)を2つの独立したCMVプロモーターの制御下に発現させた。コントロールとしてさらに移入遺伝子のないAd−GFPを用いた。大きなウイルスのストックを調製し、アデノウイルスの力価を、E1−非発現細胞でプラーク滴定およびGFP発現滴定を用いて測定した。
【0064】
EDG2のクローニング
EDG2受容体のDNAをヒト脳からのcDNAを用い、順行プライマー:
5'−gcggggggtaccaccatggctgccatctctacttccatcc−3'(配列番号5)および
逆行プライマー:
5'−gcggggctcgagtcacttgtcgtcgtcgtccttatagtcaaccacagagtgatcattgct−3'(配列番号6)を使用して増幅した。
【0065】
PCR反応は、58℃でアニーリング1分および72℃増幅温度1分、Expand High Fiedelity
PCRシステム(Roche Molecular Biochemicals, Mannheim, Germany)により20サイクル以上実施した。PCRの反応内で、ヒトインフルエンザAウイルス)のヘマグルチニンからの9−アミノ酸のHA−タグエピトープはその遺伝子の3'−末端にインフレームで生成した。
【0066】
PCRフラグメントを、制限部位KpnIおよびXhoIの使用によってプラスミドpAd−Shuttle(Q Biogene, Heidelberg, Germany)にクローン化して、得られたpAd Track−CMW−EDG2の配列を配列決定法によりチェックした(MediGenomix, Martinsried, Germany)。
【0067】
配列番号1、は3'−末端の30ヌクレオチド内のHA−タグをコードする領域を含むEDG2ポ
リヌクレオチド配列を開示する。
【0068】
配列番号2は、C−末端の9アミノ酸HA−タグを含むEDG2のアミノ酸配列に関する。
【0069】
配列番号8においては、5'−HindIIIおよび3'−XhoI部位を有するEDG2のポリヌクレオチド配列が開示される。このEDG2遺伝子はpcDNA 3.1(invitrogen)のHindIII/XbaI部位にクローン化された。このようなベクター構築体はまた、EDG2遺伝子の増幅にも適している。
【0070】
組換えフラッグ−タグ化アデノウイルス(pAD easy 1−EDG2−HA−GFP)の構築
プラスミドpAD Track CMV−EDG2 c−HAをPmeI(New England Biolabs, Beverly, MA)で一夜かけて線状化し、脱ホスホリル化し精製した(GFX DNAおよびGe1精製キット;Amersham Pharmacia Biotech, Uppsala, Sweden)。相同組換えのためには、エレクトロコンピーテントな大腸菌BJ5183(Stratagene, La Jolla, California)を1μgの線状化プラスミドpAD Track CMV EDG2 c−HAおよび0.1μgのpAdeasylと、2500V、200Wおよび25μFDにおいてコトランスフォームし(大腸菌パルサー, Biorad, Heidelberg, Germany)、プレートし、37℃で一夜インキュベートした。得られたベクター、pAdEasyl−edg2−cHA−GFPは、トランスフェクションのための完全な組換えアデノウイルスDNAを含有した。完全なDNA配列は配列番号5に示す。
【0071】
コロニーをプラスミドDNAのミニプレパレーション後にPacIを用いてチェックし、陽性クローンを大腸菌DH5aに再トランスフォームした。293細胞のトランスフェクション(Effectene Transfection試薬;Qiagen, Hilden, Germany)にはプラスミドDNAをPacIで消化した。細胞を7日間培養し、スクラッピングおよび遠心分離によって回収した。ペレットをダルベッコのPBSに再懸濁し、4回の凍結(−80℃)および解凍(37℃)サイクルを反復して溶解させた。細胞屑を遠心分離により除去し、溶解物は−80℃で保存した。組換えウイルスのプラーク選択には、293細胞をダルベッコのPBS中、トランスフェクションからの様々な希釈系列の溶解物とともに室温において1時間攪拌しながら感染させた。感染後、細胞を0.5%アガロース含有生育メジウム(改良Eagleメジウム2×の1:1ミックス, Gibco Life Technologies #21935, 20%血清補充、2×ペニシリン/ストレプトマイシン、2×L−グルタミンおよびアガロース水中1%, Seacam)で覆った。感染から5〜14日目に細胞層をプラークの形成についてモニターし、これをパスツールピペットを用いて採取し、0.5mLのダルベッコPBSに再懸濁して−80℃で保存した。プラークは293細胞上、更なる増幅ラウンドに使用した。
【0072】
心不全のモデル
ニュージーランド白色ウサギは、ペースメイカーの植え込み後、360ビート/分の急速なペーシングで処置した。このプロトコールで、頻脈誘発心不全(HF)は2週間にわたり再現性よく発症する。心不全になる平均 +dp/dt max−値は健康対照における3200±390mmHg/秒に対し、2200±320mmHg/秒(p<0.05)であり、LVEDPは3.6±0.4mmHgから13±3.4に上昇した(p<0.05)。
【0073】
ウサギ心筋へのアデノウイルス遺伝子の移入
急速なペーシングの開始前に、すべてのウサギの心筋にカテーテル−ベースでアデノウイルス遺伝子(4×1010 pfu)の移入を行った。処置のため、ウサギはフェンタニルおよびプロポフォールで麻酔した。遺伝子移入の効率はすべての心臓で実験の終了時に蛍光顕微鏡によってGFPの発現について横断凍結切片を検討することで評価した。形態学的変化は4%のパラホルムアルデヒドで固定後に評価した。遺伝子移入は約50%の心筋細胞で再現性のある移入遺伝子の発現をもたらした。
【0074】
単離された心筋細胞における短縮化の測定
感染心筋細胞の収縮性は、オンラインでデジタル化し、振幅ならびに短縮化および弛緩速度の測定装置に連結した電気光学的モニタリングシステムにより測定した。移入遺伝子が陽性の心筋を、蛍光下にGFPの共発現によって同定した。収縮の振幅が安定化後、一定濃度のリソホスファチジン酸(LPA;10-5モル/L)にイソプロテレノールの濃度を上昇させて適用するか、または一定濃度のイソプロテレノール(10-8モル/L)にLPA濃度を上昇させて添加した。
【0075】
単一細胞の収縮
心筋細胞の収縮に対するEDG2の作用を検討するため、エキソビボで遺伝子を移入後の心不全の心臓から、短縮化分画および単一の単離心筋細胞における短縮化速度を測定した。基底の収縮性は変化させないリソホスファチジン酸(LPA)10-5モル/Lでイソプロテレノールの濃度を上昇させると、EDG2過剰発現心筋における陽性の変力作用は有意に低下した(図1)。低濃度のイソプロテレノール(10-8モル/L)で予め刺激し、LPAの濃度を上昇させると、対照のGFP群では作用は観察されなかったにもかかわらず、EDG2過剰発現心筋においては有意な陰性変力作用を示した(図2)。イソプロテレノールによる予めの刺激がないと、LPAは心筋細胞の収縮性には影響がなかった。
【0076】
感染心筋細胞のウエスタンブロット
アデノウイルスの感染48時間後に心筋細胞を回収した。細胞をホモジナイズし、ついでサイトゾル抽出液を、HAタグまたはEDG2に対する抗体とのウエスタンブロッティングに使用した。西洋ワサビペルオキシダーゼカップリングヤギ抗ウサギ抗体(Dianova, Germany)を二次抗体として使用した。
【0077】
心不全心臓へのインビボでのアデノウイルスによる移入遺伝子の送達
すべての移入遺伝子はGFPとともに発現したので、インビボにおける遺伝子移入後、すべての移入遺伝子の過剰発現を、心臓でのGFPの共発現を調べることにより検討した。Ad−EDG2−GFPで感染させたウサギ心臓の肉眼検査用切片は、抗−GFP抗体染色により測定した場合、左心室全体に共発現が起こることを示した。
【0078】
ウエスタンブロッティングにより評価した移入遺伝子の発現
ウエスタンブロッティングは、心筋細胞において、HAタグに対する抗体またはEDG2に対する特異的抗体によるEDG2の発現を証明した。
【0079】
成熟動物の心室心筋細胞の調製および培養ならびにアデノウイルスの感染
カルシウム耐性心室心筋の単一細胞を、心不全のニュージーランド白色ウサギの心臓から単離した。略述すれば、心臓を還流してコラーゲナーゼで消化した。単離された心筋細胞を、ラミニンで予めコーティングした皿(5〜10μg/cm2)上、改良M199中、1cm2あたり1.5×105の細胞密度(5%CO2および37℃)で培養した。収縮実験には、プレーティング5時間後に細胞をアデノウイルスで感染させた(感染の多重度(m.o.i.) 1×pfu/細胞)。この力価で50〜60%の感染心筋細胞は移入遺伝子を発現した。
【0080】
心エコー検査法および心室内チップカテーテルによる心筋収縮性の測定
左室の収縮性は急速なペーシングの開始前、ペーシングの開始1週後および2週後に、心エコー検査法で測定した。チップカテーテルの測定はペーシングの2週後に測定した。ウサギは麻酔した。ECGは連続してモニターした。
【0081】
心エコー検査では7.5MHzのプローブを三脚台上に固定した。標準切片で記録した結果は再現性良好であった。チップカテーテルの測定のためには様々な装置に連結したMillar
3Fチップカテーテルを頚動脈に配置した鞘を介して、左心室に置いた。基底の収縮度お
よび左心室圧の定義後、200μLのNaCl(0.9%)を陰性対照として注射した。イソプロテ
レノールおよびリソホスファチジン酸(LPA)の用量を上昇させて静脈内に注入した。20分の平衡化期間後、チップカテーテルの測定を実施した。
【0082】
ペーシング誘導心不全におけるLV機能不全の増悪
図3は重篤な心不全(NYHA IV)を有するウサギの急速なペーシング2週間後におけるチップカテーテル測定値を示す。EDG2発現群では、最初のLV圧の誘導(dp/dt max)は、基底状態においてAd−GFPを感染させた対照群およびLPAの用量を上昇させた群よりも有意に低かった。これは拡張期LV圧についても真実であった(図4)。
【0083】
心エコー検査によりEDG2が過剰発現した心臓の2週間後における心筋の著しい肥大が示され、これはまた拡張期および収縮期の直径によっても証明された。LVの背側壁部および隔壁の平均の厚さは、GFP対照に比較してEDG2過剰発現心臓で有意に大きかった。LVの短縮率(FS)の時間経過は2週間の観察期間の間に一連の心エコー検査法によって評価した。両群とも急速なペーシングの期間に徐々に低下する傾向があった。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】心不全の心臓から単離された心筋の単一細胞の収縮振幅。心筋細胞をエキソビボにおいて、Ad−GFPまたはAd−EDG2−GFPのいずれかにより感染させた。短縮率(FS)は10μMのLPAで予め刺激したのち、イソプロテレノール濃度の上昇に対する応答で決定した。データは平均±SEMで表す。
【図2】心不全の心臓から単離された心筋の単一細胞の収縮振幅。図1に示した実験と同様にして、インビトロにおいてAd−GFPまたはAd− EDG2−GFPのいずれかを遺伝子移送したのち、心筋細胞におけるFSを比較した。短縮率は、10μMのイソプロテレノールで刺激したのち、LPA濃度の上昇に対する応答で決定した。データは平均±SEMで表す。
【図3】ベースラインおよびLPAの用量の上昇に応答する、チップカテーテル化により測定した左室圧の最大の第一誘導(LV dp/dt max)。急速なペーシングにより、およびGFPまたはEDG2いずれかの遺伝子移入の2週間後における末期の心不全を有するウサギ。データは平均±SEMで表す。すべての測定は8羽の動物で三重に実施した。*p<0.05 vs GFP。
【図4】GFPまたはEDG2いずれかの遺伝子移入の2週間後における急速なペーシングによる末期の心不全を有するウサギでチップカテーテル化により測定したベースラインおよびLPAの用量の上昇に応答する左室圧収縮期圧。データは平均±SEMで表す。すべての測定は8羽の動物で三重に実施した。*p<0.05 vs GFP。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
G蛋白質カップリング受容体EDG2およびGFPの共発現のためのアデノウイルスベクター配列を含有する哺乳動物の心筋細胞。
【請求項2】
アデノウイルスベクター配列は、2つの独立のプロモーターの制御下に、G蛋白質カップリング受容体EDG2およびGFPを発現する組換えE1/E3欠損アデノウイルスから構成される、請求項1記載の哺乳動物の心筋細胞。
【請求項3】
2つの独立したプロモーターは2つのCMVプロモーターである、請求項2記載の哺乳動物の心筋細胞。
【請求項4】
G蛋白質カップリング受容体EDG2の蛋白質およびGFPの蛋白質を含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の哺乳動物の心筋細胞。
【請求項5】
哺乳動物はウサギ、マウスまたはラットである、請求項1〜4のいずれかに記載の哺乳動物の心筋細胞。
【請求項6】
a)哺乳動物の心臓を獣医学における現在の技術水準の手術手技により摘出し、
b)心臓をコラーゲナーゼと還流して消化し、
c)単離した心筋細胞に、G蛋白質カップリング受容体EDG2およびGFPを2つの独立したプロモーターの制御下に発現する組換えE1/E3欠損アデノウイルスから構成されるアデノウイルスベクターを感染させる、請求項1〜5のいずれかに記載の心筋細胞の製造。
【請求項7】
G蛋白質カップリング受容体EDG2およびGFPの同時発現のためのアデノウイルスベクターを含有する心筋を有する哺乳動物。
【請求項8】
アデノウイルスベクター配列はG蛋白質カップリング受容体EDG2およびGFPを2つの独立したプロモーターの制御下に発現する組換えE1/E3欠損アデノウイルスから構成される、請求項7記載の哺乳動物。
【請求項9】
2つの独立したプロモーターは2つのCMVプロモーターである、請求項8記載の哺乳動物。
【請求項10】
心筋はG蛋白質カップリング受容体EDG2およびGFPを含む、請求項7〜9のいずれかに記載の哺乳動物。
【請求項11】
哺乳動物はウサギ、マウスまたはラットである、請求項7〜10のいずれかに記載の哺乳動物。
【請求項12】
a)G蛋白質カップリング受容体EDG2およびGFPの同時発現のためのアデノウイルスベクター配列を準備し、
b)哺乳動物を準備し、
c)a)のアデノウイルスベクター配列を、b)の哺乳動物の心筋にカテーテルによって移入する、請求項7〜11のいずれかに記載の哺乳動物の製造。
【請求項13】
請求項14および15を実施するために請求項1〜6のいずれかに記載の心筋細胞の製造に使用するための哺乳動物の使用。
【請求項14】
G蛋白質カップリング受容体EDG2の活性を修飾する化合物の同定方法において、
a)心筋から受容体EDG2または受容体EDG2受容体からなる融合蛋白質を発現するトランスフォームされた細胞を準備し、
b)場合によってはa)の細胞の処置をイソプロテレノールおよび/またはリソホスファチジル酸の使用によって実施し、
c)化学的化合物を準備し、
d)a)またはb)の細胞をc)の化学的化合物と接触させ、
e)d) の細胞の収縮性を測定し、a)の細胞と同じ特性を有するがc)の化学的化合物とは接触させていない細胞の収縮性と比較し、この場合、d)による化学的化合物と接触させた細胞の収縮性の相対的な上昇または低下が、このような化合物の受容体EDG2の活性を調節する能力を証明することによる化合物の同定方法。
【請求項15】
G蛋白質カップリング受容体EDG2の活性を調節する化合物の同定方法であって、
a)心筋から受容体EDG2または受容体EDG2を含む融合蛋白質を発現するトランスフォームされた細胞を準備し、
b)場合によってはa)の細胞の処置をイソプロテレノールおよび/またはリソホスファチジル酸の使用によって実施し、
c)化学的化合物を準備し、
d)a)またはb)の細胞をc)の化学的化合物と接触させ、
e)d) の細胞の収縮性を測定し、a)の細胞と同じ細胞種であるが、受容体EDG2または受容体EDG2を含む融合蛋白質を発現しない細胞の収縮性と比較し、この場合、受容体EDG2または受容体EDG2を含む融合蛋白質を発現する細胞の収縮性と比較し、化合物による細胞の収縮性の相対的な上昇または低下で、このような化合物の受容体EDG2の活性を調節する能力を表わす、
上記方法。
【請求項16】
以下の群:
a)配列番号5に特定した配列を有するポリヌクレオチド、
b)配列番号5のポリヌクレオチドと95%同一であるポリヌクレオチド、
c)配列番号5のポリヌクレオチドと少なくとも同じ長さであり、高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件を適用した場合、配列番号5のポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチド、
の一つのポリヌクレオチドからなる組換えアデノウイルスベクター。
【請求項17】
配列番号2の蛋白質をコードするポリヌクレオチド配列からなる、請求項16記載の組換えアデノウイルスベクター。
【請求項18】
G蛋白質カップリング受容体EDG2を、少なくとも1つの組織で一過性または永久的に発現するトランスジェニック哺乳動物を構築するための、請求項16または17に記載のアデノウイルスベクターの使用。
【請求項19】
組織は心臓の一部である、請求項18記載のアデノウイルスベクターの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−518187(P2006−518187A)
【公表日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−550932(P2004−550932)
【出願日】平成15年11月5日(2003.11.5)
【国際出願番号】PCT/EP2003/012325
【国際公開番号】WO2004/044003
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(397056695)サノフィ−アベンティス・ドイチュラント・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (456)
【Fターム(参考)】