説明

心拍検知方法、心拍検知装置および精神ストレス計測装置

【課題】脈波信号の変化量を求めるための2階微分処理によりノイズ成分だけを増幅させること、及びこれにより本来の脈波信号がノイズに埋もれることがないように容積脈波信号から加速度脈波信号を正しく抽出する心拍検知方法を提供する。
【解決手段】心拍検知方法は、生体を透過あるいは反射する光の強弱により心拍を検知する心拍検知方法であって、透過あるいは反射した光を電気信号に変換し、電気信号に低周波透過フィルタを施す第1の工程と、第1の工程を通過後の信号に微分処理を施す第2の工程と、第2の工程を通過後の信号に低周波透過フィルタを施す第3の工程と、第3の工程を通過後の信号に微分処理を施す第4の工程と、第4の工程を通過後の信号に低周波透過フィルタを施す第5の工程と、第5の工程を通過後の信号からピーク値を検出し、ピーク値の間隔を心拍間隔とする第6の工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の計測データを処理し、心拍波形を測定する心拍検知方法、心拍検知装置および精神ストレス計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
身体のストレスを表す指標を求める場合、心拍波形のピーク間隔(これをR−R間隔という。)の時間的な揺らぎを用いることが知られている。R−R間隔を周波数解析し、事前に設定した2つの異なる周波数範囲のパワーの比をストレスを表す指標として用いている。心拍波形を取得する方法として心臓の筋肉の活動電位を測定する方法があり、これによりストレス計測のための脈波を取得することができる。また、簡易な測定方法として身体の特定部位の光の透過率あるいは反射率を用いる方法がある。例えば、図9に示すように指先に赤外線を照射したときの反射率または耳たぶに赤外線を照射したときの透過率などを用いる方法である。なお、図9中の101は人の指先を、102は赤外線投光器を、103は赤外線受光器をそれぞれ表す。赤外線受光器103は、赤外線投光器102から照射され指先で反射する赤外線を検知する。これら特定部位の赤外線の透過率あるいは反射率はその部位を流れる血液量と関係があり、これら特定部位の赤外線の透過率あるいは反射率を測定することにより得られる波形を容積脈波と呼ぶ。また心筋の活動を表す心拍信号の代替として、この容積脈波を2階微分し、血流の加速度成分を表す加速度脈波を用いる。
【0003】
上記の心拍検知手段が、特許文献1における精神ストレス評価装置、特許文献2における自律神経系機能評価方法およびそのシステム及び特許文献3におけるストレスセンサシステムなどの発明に用いられている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
容積脈波の波形の例を図10に示す。図9において赤外線受光器103が得た脈波信号を実際に測定すると図10に示されるような波形にはならない場合が多い。血流による反射光の変化は微少でありノイズの影響を受けやすいからである。また、赤外線受光器103により測定された脈波信号はA/D変換によりデジタルデータ化される場合があり、この場合、変換誤差や量子化誤差が加わることになる。実際の波形の例を図11に示す。微少時間(△t)での脈波信号の変化量を求めるため微分処理を行うこととなる。しかし、微分処理を行うと実際の信号処理において元信号のノイズ成分を増幅させてしまう。さらに、ノイズを増幅させる微分処理を続けて2回行う事はノイズ成分だけを増幅させる事になりかねず、本来の脈波信号がノイズに埋もれてしまう。例えば図11の信号を微分すると図12の様になり、ノイズが増幅され脈波の信号成分が埋もれてしまう。
【0005】
そこで、本発明は、脈波信号の変化量を求めるための2階微分処理によりノイズ成分だけを増幅させること、及びこれにより本来の脈波信号がノイズに埋もれることがないように容積脈波信号から加速度脈波信号を正しく抽出する心拍検知方法を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明の心拍検知方法は、生体を透過あるいは反射する光の強弱により心拍を検知する心拍検知方法であって、透過あるいは反射した光を電気信号に変換し、電気信号に低周波透過フィルタを施す第1の工程と、第1の工程を通過後の信号に微分処理を施す第2の工程と、第2の工程を通過後の信号に低周波透過フィルタを施す第3の工程と、第3の工程を通過後の信号に微分処理を施す第4の工程と、第4の工程を通過後の信号に低周波透過フィルタを施す第5の工程と、第5の工程を通過後の信号からピーク値を検出し、ピーク値の間隔を心拍間隔とする第6の工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、適時、低周波透過フィルタを通すことで、心拍信号の変化量を求めるための2階微分処理によりノイズ成分だけを増幅させること、及びこれにより本来の心拍信号がノイズに埋もれることを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施形態の心拍検知方法の手順を示すフロー図である。
【図2】本発明の実施形態の心拍検知方法により処理された各手順ごとの心拍波形図である。
【図3】本発明の実施形態の心拍検知方法により処理された、カットオフ周波数を20Hzとしたときの各手順ごとの心拍波形図である。
【図4】本発明の実施形態の心拍検知方法により処理された、カットオフ周波数を3Hzとしたときの各手順ごとの心拍波形図である。
【図5】本発明の実施形態の心拍検知方法の手順において、R−R間隔を求める例を示した図である。
【図6】本発明の実施形態の心拍検知方法によって得られたR−R間隔に基づいたストレス計測の手順を示すフロー図である。
【図7】本発明の実施形態の心拍検知装置の概要を示すブロック図である。
【図8】本発明の実施形態のストレス計測装置の概要を示すブロック図である。
【図9】人の指先への赤外線反射率を用いた心拍波形計測手法の実例を示す図である。
【図10】容積脈波の波形図の一例である。
【図11】容積脈波の実際の波形図の一例である。
【図12】容積脈波信号を2階微分処理したときの波形図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態の心拍検知方法について、図1を用いて以下説明する。血流量測定(ステップS1)により得られた情報はA/D変換器によりデジタルデータ化される(ステップS2)。ローパスフィルタ1はデジタル化されたデータに低周波透過フィルタを適応する(ステップS3)。次に微分処理1を行い(ステップS4)、ローパスフィルタ2により低周波透過フィルタを適応する(ステップS5)。その後、微分処理2を行い(ステップS6)、ローパスフィルタ3により低周波透過フィルタを適応する(ステップS7)。こうして2階微分された信号からのピーク検出出力により波形ピークの時間間隔を出力する(ステップS8)。
【0010】
この処理を行った例を図2に示す。微分を行うとノイズ成分が増幅される。微分処理1の後にローパスフィルタ処理を行わないと次の微分時にノイズが増幅されてしまう。よって、微分処理の後にローパスフィルタを通す事により多段の微分処理を行った場合でもノイズ成分を最小限にする事ができる。つまりノイズ成分が増幅されることを防ぐことができる。
【0011】
低周波透過フィルタのカットオフ周波数をいくつにするか検討する。カットオフ周波数が高すぎるとノイズを除去出来ず、カットオフ周波数が低すぎるとピーク波形を鈍らせてしまいピーク間隔の精度が落ちる。例として、カットオフ周波数を20Hzとした場合の上記に示したステップS1〜ステップS8の各工程により得られた波形を図3に示す。また、カットオフ周波数を3Hzとした場合の各工程により得られた波形を図4に示す。
【0012】
人の心拍間隔はおよそ1秒間隔であり、図2に示すような加速度脈波のピークを示す山の時間は心拍間隔の約1/10である。そのため、カットオフ周波数を10Hzとすることが望ましい。このカットオフ周波数はピーク間隔を計測し随時変更しても良い。例えば過去10拍分のピーク間隔を平均した時間(t)として、その約1/10の時間(t/10)をカットオフ周波数(fc=10/t)として用いたローパスフィルタ処理を行う。こうすることで、間隔の変化する心拍のピーク間隔をより正しく検出する事が可能となる。なお、カットオフ周波数を約10Hzの固定周波数として処理を簡略化しても良い。この加速度脈波信号からのピーク値を検出し、そのピーク間隔を求めることとする。その例を図5に示す。ピークの間隔t1、t2、t3・・・を順次求め、この間隔をR−R間隔として出力する。
【0013】
上述のように、低周波透過フィルタのカットオフ周波数を心拍間隔の1/10に設定することにより、ノイズを適切に除去しつつ加速度脈波のピーク位置検出の精度を損なうこと無く正しい加速度脈波のピーク時間(R−R間隔)を求めることができる。なお、本実施形態ではA/D変換後にローパスフィルタ及び微分処理を行っているが、A/D変換する前にアナログ的にローパスフィルタ及び微分処理を行ってもよい。
【0014】
本発明の実施形態の精神ストレス計測の手順について以下説明する。すなわち、上記の手順によって検出されたR−R間隔に基づいてストレス計測を行う。
【0015】
ストレス計測の手順を図6に示す。測定されたR−R間隔を時系列にデータ化する(ステップS11)。例えばt2秒では値T1、t2+t3秒では値T2、t2+t3+t4秒では値T3と言うようにデータ化する。なお、このデータは時間間隔が等しくない。よって、時系列化したデータを等時間間隔となる様に変換する(ステップS12)。周波数解析をしてパワースペクトルを求める(ステップS13)場合、高速に周波数解析を行うにはデータの時間間隔は等しいデータ列である事が望ましいからである。その後、算出されたパワースペクトルデータから2つの周波数帯域のパワーを算出する(ステップS14)。例えば1つの帯域LF(Low Frequency)は直流DC成分を除去した0.15Hzから0.2Hzを上限とする帯域とし、もう一つの帯域HF(High Frequency)はLFの上限から0.5Hzを上限とする帯域である。このLFとHFの帯域のパワーをそれぞれ求める。そしてLFとHFの比として、例えばLF/HFを算出する(ステップS15)。こうして算出された値をストレスの指標として用いる(ステップS16)。
【0016】
上記手順をとることにより、より正しいR−R間隔を求める事ができノイズに強いストレス計測が可能となる。なお、ステップS12における変換には、データ点とデータ点の間を直線近似し、時間間隔を細かくするアップサンプリングで実現できる。スプライン関数や高次関数でデータ点間を補間しアップサンプリングしても良い。時間間隔を等しくすることで高速フーリエ変換アルゴリズムに代表される計算処理によりフーリエ変換を行う事が可能となる。
【0017】
本発明の実施形態の心拍検知装置1は、生体を透過あるいは反射する光の強弱により心拍を検知する心拍検知部11、心拍検知部11により得られた情報をデジタルデータ化するA/D変換部12、低周波透過フィルタを透過させ高周波成分を除去するローパスフィルタ13〜15、加速度脈波を得るために微分処理を行う第1の微分処理部16及び第2の微分処理部17、及びピーク時間間隔(R−R間隔)を出力するピーク検出出力部18を備える。なお、低周波透過フィルタのカットオフ周波数は可変することができるもの(周波数可変部19を備える)であってもよいし、固定したものであってもよい。
【0018】
また、本発明の実施形態の心拍検知装置1を備えた精神ストレス計測装置50は、R−R間隔を時系列にデータ化する時系列データ変換部51、時系列化したデータを等時間間隔となる様に変換するための等時間間隔変換部52、周波数解析によりパワースペクトルデータを算出するパワースペクトルデータ算出部53、パワースペクトルデータから2つの周波数帯域のパワーを算出する周波数帯域算出部54、2つの周波数帯域のパワー比を算出するパワー比算出部55、及びパワー比に応じたストレス値へ変換するストレス値変換部56を備える。
【0019】
なお、上述する各実施の形態は、本発明の好適な実施の形態であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更実施が可能である。
【符号の説明】
【0020】
1 心拍検知装置
11 心拍検知部
12 A/D変換部
13〜15 ローパスフィルタ1〜3
16 第1の微分処理部
17 第2の微分処理部
18 ピーク検出出力部
19 周波数可変部
50 精神ストレス計測装置
51 時系列データ変換部
52 等時間間隔変換部
53 パワースペクトルデータ算出部
54 周波数帯域算出部
55 パワー比算出部
56 ストレス値変換部
101 人の指先
102 赤外線の投光器
103 赤外線の受光器
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特許第4238321号公報
【特許文献2】特開2003−190109号公報
【特許文献3】特開2007−289540号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体を透過あるいは反射する光の強弱により心拍を検知する心拍検知方法であって、
透過あるいは反射した光を電気信号に変換し、
前記電気信号に低周波透過フィルタを施す第1の工程と、
前記第1の工程を通過後の信号に微分処理を施す第2の工程と、
前記第2の工程を通過後の信号に低周波透過フィルタを施す第3の工程と、
前記第3の工程を通過後の信号に微分処理を施す第4の工程と、
前記第4の工程を通過後の信号に低周波透過フィルタを施す第5の工程と、
前記第5の工程を通過後の信号からピーク値を検出し、ピーク値の間隔を心拍間隔とする第6の工程とを備えることを特徴とする心拍検知方法。
【請求項2】
前記低周波透過フィルタのカットオフ周波数を心拍間隔の約1/10の周波数とすることを特徴とする請求項1に記載の心拍検知方法。
【請求項3】
生体を透過あるいは反射する光の強弱により心拍信号を検知する心拍検知部と、
前記心拍検知部により検知された前記心拍信号を電気信号に変換するA/D変換部と、
前記電気信号から高周波成分を除去する第1の低周波透過フィルタと、
前記第1の低周波透過フィルタを透過した信号を微分処理する第1の微分処理部と、
前記第1の微分処理部により微分処理された信号から高周波成分を除去する第2の低周波フィルタと、
前記第2の低周波フィルタを透過した信号を微分処理する第2の微分処理部と、
前記第2の微分処理部により微分処理された信号から高周波成分を除去する第3の低周波フィルタと、
前記第3の低周波フィルタを透過した信号からピーク値を検出し、ピーク値の間隔を心拍間隔とするピーク検出出力部とを備えることを特徴とする心拍検知装置。
【請求項4】
前記第1の低周波フィルタ、前記第2の低周波フィルタ及び前記第3の低周波フィルタそれぞれのカットオフ周波数を心拍間隔の約1/10の周波数とする周波数可変部をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の心拍検知装置。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の心拍検知装置を備え、
ピーク値の間隔を時系列にデータを変換する時系列データ変換部と、
時系列に変換されたデータを等時間間隔に変換する等時間間隔変換部と、
周波数解析によりパワースペクトルデータを算出するパワースペクトルデータ算出部と、
前記パワースペクトルデータから2つの周波数帯域のパワーを算出する周波数帯域算出部と、
2つの周波数帯域のパワー比を算出するパワー比算出部と、
前記パワー比に応じたストレス値へ変換するストレス値変換部を備えることを特徴とする精神ストレス計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−106837(P2013−106837A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255024(P2011−255024)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】