説明

心機図検査装置

【課題】心機図検査装置の有用性を臨床においても教育研修においても向上させること。
【解決手段】心機図検査装置1において、測定データ出力制御部18は、心音の測定データと、心音と異なる生体情報の測定データとを取得する。聴診音処理部23は、取得された心音の測定データに基づく聴診音をスピーカ装置7に出力させる。波形図処理部22は、取得された生体情報の測定データに基づく波形図をディスプレイ装置6bに表示させる。波形図データバッファ19は、心音の測定データに基づく聴診音の出力と生体情報の測定データに基づく波形図の表示とを同期化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心機図(Mechanocardiography)を測定する心機図検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心機図検査装置は、例えば特許文献1に記載されているように、心音や心電等、心現象に関連する複数種類の生体情報を複合的に測定し、それらの測定結果を表す波形図、すなわち心機図をリアルタイムに表示する医用機器である。近年においては、心電、心音及び脈波を組み合わせたものを心機図として測定する心機図検査装置がある。
【特許文献1】特公平5−46216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来の心機図検査装置においては、測定した複数種類の生体情報に基づく波形図を表示し得るものの、心音を、聴診に供する音声(以下「聴診音」という。)として出力することができなかった。そのため、複数種類の生体情報に関する測定結果に基づいて被検者の心疾患を総合的に診断する際、利用可能な判断材料が視覚的なものに制限されることがあった。
【0004】
ここで、複数種類の生体情報の測定や表示が可能な他の医用機器に、ポリグラフや生体情報モニタ等がある。これらの機器は、R波の同期音は出力できるものの、上記従来の心機図検査装置と同様に、聴診音は出力できない。
【0005】
心音の聴診は、古くから行われている心疾患診断手法の一つである。また、簡単に利用可能な聴診器を用いるだけで行えるだけでなく、疾患をより早期に発見できる場合があることから、非常に重要な診断手法でもある。一方、近年では心現象の測定技術の高度化が進み、様々な種類の装置により多様な診断が行われるようになった。その結果、臨床においては、聴診音等の聴覚的な情報に比べ、波形図やエコー画像等の視覚的な情報の比重が高まりつつある。この傾向は、例えば医学生等を対象とする教育や研修においても同様である。つまり、心現象についての理解を深めるための教材や研修資料として、波形図等の視覚的情報が十分に提供され得る一方で、教材や研修資料として高品質な聴診音等の聴覚的情報を提供することは容易でなかった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、臨床においても教育研修においても有用性を向上させることができる心機図検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の心機図検査装置は、心音の測定データと、前記心音と異なる生体情報の測定データとを取得する取得部と、取得された前記心音の測定データに基づく聴診音を音声出力部に出力させる聴診音処理部と、取得された前記生体情報の測定データに基づく波形図を表示部に表示させる波形図処理部と、前記心音の測定データに基づく聴診音の出力と前記生体情報の測定データに基づく波形図の表示とを同期化する同期化部と、を有する構成を採る。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、心機図検査装置の有用性を臨床においても教育研修においても向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施の形態に係る心機図検査装置の外観図である。図1の心機図検査装置1は、脈波の測定手段としてのアモルファス脈波センサ(以下、単に「脈波センサ」という。)2a、2bと、心音の測定手段としての心音マイク3a、3bと、心電の測定手段としての心電電極4a、4b、4cと、インプットボックス5と、端末装置6と、音声出力部としてのスピーカ装置7とを有する。
【0011】
インプットボックス5は、箱形の筐体に、上記各種の測定手段により生体情報の測定を行う各種の測定部を収容するものである。端末装置6は、PC(Personal Computer)端末装置であり、端末装置本体6aと、表示部としてのディスプレイ装置6b(例えばLCD(Liquid Crystal Display))と、操作部6c(例えばキーボードやマウス等)とを有する。
【0012】
図2は、図1に示す心機図検査装置1の構成を示すブロック図である。
【0013】
まず、インプットボックス5の構成について説明する。
【0014】
インプットボックス5は、測定データバッファ10、測定データ処理部11、脈波測定部12、心音測定部13及び心電測定部14を有する。インプットボックス5には、コネクタ15aにより脈波センサ2a、2bのケーブルが、コネクタ15bにより心音マイク3a、3bのケーブルが、コネクタ15cにより心電電極4a〜4cのケーブルが、コネクタ15dによりネットワークケーブル(例えばUSB(Universal Serial Bus)ケーブル)が、それぞれ接続されている。
【0015】
脈波測定部12は、被検者の頚動脈部に装着された脈波センサ2aから入力された脈波測定結果を示す頚動脈波信号と、被検者の股動脈部に装着された脈波センサ2bから入力された脈波測定結果を示す股動脈波信号とに対し、増幅、フィルタ処理及びアナログディジタル(A/D)変換といった所定の信号処理を施す信号処理回路を有する。脈波測定部12は、信号処理により頚動脈波信号から得られた頚動脈波データと、信号処理により股動脈波信号から得られた股動脈波データとを、測定データ処理部11に出力する。
【0016】
なお、脈波センサ2a、2bの装着部位は頚動脈部及び股動脈部に限定されるものではなく、他の部位への装着も可能である。また、脈波センサの個数も二つに限定されるものではなく、一つでも三つ以上でもよい。
【0017】
心音測定部13は、被検者の心尖部に装着された心音マイク3aから入力された心音測定結果を示す心尖部心音信号と、被検者の胸骨左縁部に装着された心音マイク3bから入力された心音測定結果を示す胸骨左縁部心音信号とに対し、増幅、フィルタ処理及びA/D変換といった所定の信号処理を施す信号処理回路を有する。心音測定部13は、信号処理により心尖部心音信号から得られた心尖部心音データと、信号処理により胸骨左縁部心音信号から得られた胸骨左縁部心音データとを、測定データ処理部11に出力する。
【0018】
なお、心音マイク3a、3bの装着部位は心尖部及び胸骨左縁部に限定されるものではなく、他の部位への装着も可能である。また、心音マイクの個数も二つに限定されるものではなく、一つでも三つ以上でもよい。
【0019】
心電測定部14は、被検者の四肢部に装着された心電電極4a〜4cから入力された心電測定結果を示す心電信号に対し、増幅、フィルタ処理及びA/D変換といった所定の信号処理を施す信号処理回路を有する。心電測定部14は、信号処理により心電信号から得られた心電データを、測定データ処理部11に出力する。
【0020】
なお、心電電極4a〜4cの装着部位は四肢部に限定されるものではなく、他の部位への装着も可能である。また、心電電極の個数も三つに限定されるものではない。例えば四つの心電電極を含む四肢部電極と六つの心電電極を含む胸部電極とが用いられる場合、心音測定部13は、標準12誘導の心電データを得ることができる。
【0021】
測定データ処理部11は、ディジタル信号を処理する演算処理装置を有する。測定データ処理部11は、入力された頚動脈波データ、股動脈波データ、心尖部心音データ、胸骨左縁部心音データ及び心電データを統合することにより、ネットワークケーブルを介して端末装置本体6aに伝送可能な測定データを生成し、この測定データを、測定データバッファ10を介して端末装置本体6aに送出する。
【0022】
測定データ処理部11は、測定データを、その基となっている生体情報が測定されたタイミングから著しい遅延を生じることなく生成して出力し得るため、測定データ処理部11から出力される測定データのレートは一定となる一方、端末装置本体6aの演算処理装置(図示せず)は、動作環境又は動作設定に応じて処理速度が変動するため、端末装置本体6aが取り込む測定データのレートは可変となる。インプットボックス5において測定データ処理部11の後段に測定データバッファ10を配置することにより、このようなデータレートの差異に起因する望ましくない動作を回避することができる。
【0023】
次いで、端末装置本体6aの構成について説明する。
【0024】
端末装置本体6aは、測定データ格納部17、測定データ出力制御部18、波形図データバッファ19、聴診音データバッファ20、可変遅延部21、波形図処理部22及び聴診音処理部23を有する。波形図処理部22は、編集部24、可変利得部25及び可変フィルタ部26を有し、聴診音処理部23は、音量制御部27及び音質制御部28を有する。
【0025】
端末装置本体6aには、コネクタ28aにより上記ネットワークケーブルが接続され、これによりインプットボックス5と端末装置本体6aとが通信可能となる。なお、プリンタ(図示せず)が表示部として代用又は併用される場合は、コネクタ28bにプリンタケーブルを接続することにより、端末装置本体6aにプリンタを接続することができる。
【0026】
さらに、端末装置本体6aには、コネクタ28cによりスピーカ装置7のケーブルが接続される。なお、端末装置本体6aは、スピーカ装置7を内蔵するものであってもよい。また、ヘッドフォン(図示せず)が音声出力部として代用又は併用される場合は、コネクタ28dにヘッドフォンのケーブルを接続することにより、端末装置本体6aにヘッドフォンを接続することができる。
【0027】
記憶部としての測定データ格納部17は、記憶装置を有する。測定データ格納部17は、インプットボックス5から受信した測定データを、その測定時刻を示すデータと対応付けて格納する。
【0028】
取得部としての測定データ出力制御部18は、記憶装置(図示せず)に記憶されたソフトウェアプログラムを演算処理装置(図示せず)で実行することにより実現される。
【0029】
測定データ出力制御部18は、リアルタイムに心機図を出力するよう、より具体的には、生体情報を測定している間に、その生体情報の測定データに基づく心機図を出力するよう、ユーザが操作部6cを操作した場合、インプットボックス5から測定データを受信する。また、測定データ出力制御部18は、心機図を再生するよう、より具体的には、指定された過去の期間における生体情報の測定データに基づく心機図を出力するよう、ユーザが操作部6cを操作した場合、その期間における測定データを測定データ格納部17から読み出す。測定データ出力制御部18は、受信し又は読み出した測定データにおける頚動脈波データ、股動脈波データ、心尖部心音データ、胸骨左縁部心音データ及び心電データを波形図データとして波形図データバッファ19に格納すると共に、受信し又は読み出した測定データにおける心尖部心音データ及び胸骨左縁部心音データを聴診音データとして聴診音データバッファ20に格納する。
【0030】
同期化部としての波形図データバッファ19は、測定データ出力制御部18により格納された波形図データを一時的に蓄積してから波形図処理部22に出力することにより、波形図処理部22への波形図データの入力を遅延させる。このようにして、波形図表示を聴診音出力と同期化する。この遅延処理は、聴診音データバッファ20による聴診音データの一時蓄積に伴う聴診音出力遅延によって生じることとなる聴診音出力と波形図表示との時間差を解消し、出力される聴診音の時相と表示される波形図の時相とを一致させる。
【0031】
これにより、聴診音の音切れ防止のために行われる聴診音データバッファ20による聴診音データの一時蓄積に起因する、心機図表示と聴診音出力とのタイミングのずれを、解消することができる。したがって、あるタイミングにおける心機図の波形を表示した場合に、その波形に対応する聴診音を正確に把握することができる、有効な視聴覚的な情報を提供することができる。かかる視聴覚的な情報は、臨床においても教育研修においても非常に有益である。
【0032】
波形図処理部22並びにその内部の編集部24、可変利得部25及び可変フィルタ部26は、測定データ出力制御部18と同様、記憶装置(図示せず)に記憶されたソフトウェアプログラムを演算処理装置(図示せず)で実行することにより実現される。
【0033】
波形図処理部22は、入力された波形図データにおいて統合されている胸骨左縁部心音データ、心尖部心音データ、心電データ、頚動脈波データ及び股動脈波データに対し、以下に具体的に説明する処理を個別に行う。
【0034】
まず、心音に関しては、波形図処理部22は、胸骨左縁部心音データ及び心尖部心音データのうち、デフォルトとして又はユーザ操作により予め指定された少なくとも一方を処理する。指定されたデータの処理には、可変フィルタ部26によるフィルタ処理と、可変利得部25による感度調整と、フィルタ処理及び感度調整等の適用後のデータによって規定される心音図を表示させるコマンドを含む心音波形データの生成とが、主として含まれる。
【0035】
より具体的には、波形図処理部22は、指定されたデータに対し可変フィルタ部26で第1のフィルタ処理(以下「Lフィルタ処理」という。)を施すことにより第1の心音波形データ(以下「L心音波形データ」という。)を生成する。Lフィルタ処理は、予め設定された遮断周波数が例えば50Hzで、予め設定された減衰傾度が例えば−6dB/octであるハイパスフィルタ(以下、単に「HPF」という。)であり、心音の低域成分を主に抽出する。したがって、この処理により生成されるL心音波形データは、心音の低域成分の変動を主として示す波形データである。なお、波形図処理部22は、Lフィルタ処理の周波数特性を、心機図のリアルタイム表示中、再生前又は再生中にユーザ操作に従って変更可能である。特に再生前又は再生中の変更を可能としたことにより、生体情報を再測定することなく高品質な波形図を得ることができ、測定時間の短縮を実現することができる。
【0036】
また、波形図処理部22は、指定されたデータに対し可変フィルタ部26で第2のフィルタ処理(以下「M1フィルタ処理」という。)を施すことにより第2の心音波形データ(以下「M1心音波形データ」という。)を生成する。M1フィルタ処理は、予め設定された遮断周波数が例えば50Hzで、予め設定された減衰傾度が例えば−18dB/octであるHPFであり、心音の中域成分を主に抽出する。したがって、この処理により生成されるM1心音波形データは、心音の中域成分の変動を主として示す波形データである。なお、波形図処理部22は、M1フィルタ処理の周波数特性を、心機図のリアルタイム表示中、再生前又は再生中にユーザ操作に従って変更可能である。特に再生前又は再生中の変更を可能としたことにより、生体情報を再測定することなく高品質な波形図を得ることができ、測定時間の短縮を実現することができる。
【0037】
また、波形図処理部22は、指定されたデータに対し可変フィルタ部26で第3のフィルタ処理(以下「M2フィルタ処理」という。)を施すことにより第3の心音波形データ(以下「M2心音波形データ」という。)を生成する。M2フィルタ処理は、予め設定された遮断周波数が例えば160Hz又は200Hzで、予め設定された減衰傾度が例えば−24dB/octであるHPFであり、心音の中域成分を主に抽出する。したがって、この処理により生成されるM2心音波形データは、心音の中域成分の変動を主として示す別の波形データである。なお、波形図処理部22は、M2フィルタ処理の周波数特性を、心機図のリアルタイム表示中、再生前又は再生中にユーザ操作に従って変更可能である。特に再生前又は再生中の変更を可能としたことにより、生体情報を再測定することなく高品質な波形図を得ることができ、測定時間の短縮を実現することができる。
【0038】
また、波形図処理部22は、指定されたデータに対し可変フィルタ部26で第4のフィルタ処理(以下「Hフィルタ処理」という。)を施すことにより第4の心音波形データ(以下「H心音波形データ」という。)を生成する。Hフィルタ処理は、予め設定された遮断周波数が例えば315Hzで、予め設定された減衰傾度が例えば−24dB/octであるHPFであり、心音の高域成分を抽出する。したがって、この処理により生成されるH心音波形データは、心音の高域成分の変動を示す波形データである。なお、波形図処理部22は、Hフィルタ処理の周波数特性を、心機図のリアルタイム表示中、再生前又は再生中にユーザ操作に従って変更可能である。特に再生前又は再生中の変更を可能としたことにより、生体情報を再測定することなく高品質な波形図を得ることができ、測定時間の短縮を実現することができる。
【0039】
さらに、波形図処理部22は、可変利得部25により、L心音波形データの利得を例えば−32dB又は−30dBとし、M1心音波形データの利得を例えば−32dB又は−20dBとし、M2心音波形データの利得を例えば−16dB又は−10dBとし、H心音波形データの利得を例えば0dBとし、各帯域に感度差を設ける。なお、波形図処理部22は、可変利得部25の各利得を、心機図のリアルタイム表示中、再生前又は再生中にユーザ操作に従って変更可能である。特に再生前又は再生中の変更を可能としたことにより、生体情報を再測定することなく高品質な波形図を得ることができ、測定時間の短縮を実現することができる。
【0040】
このように、心音に関しては、L心音波形データ、M1心音波形データ、M2心音波形データ及びH心音波形データが、心音波形データとして生成される。
【0041】
心電に関しては、波形図処理部22は心電データを処理する。心電データの処理には、可変フィルタ部26によるフィルタ処理と、フィルタ処理等の適用後の心電データによって規定される心電図を表示させるコマンドを含む心電波形データの生成とが、主として含まれる。
【0042】
より具体的には、波形図処理部22は、心電データに対し、可変フィルタ部26により、50Hz又は60Hzのハムノイズを除去するハムノイズ除去処理と、例えば25Hz以下又は35Hz以下の筋電ノイズを除去する筋電ノイズ除去処理と、心電図において基線ドリフトとして現れる例えば0.25Hz以下又は0.5Hz以下の低域成分を除去する基線ドリフト除去処理とを施す。したがって、この処理により生成される心電波形データは、心起電力の変動を精確に示す波形データである。なお、波形図処理部22は、基線ドリフト除去処理に関して、これを適用するか否かを、またこれを適用する場合にはその減衰周波数を、ユーザ操作に従って可変設定可能であり、その設定を可変遅延部21に通知する。
【0043】
脈波に関しては、波形図処理部22は、頚動脈波データ及び股動脈波データのうち、デフォルトとして又はユーザ操作により予め指定された少なくとも一方を処理する。脈波データの処理には、脈波データによって規定される脈波図を表示させるコマンドを含む脈波波形データの生成が、主として含まれる。
【0044】
波形図処理部22は、上記処理によって得られた、同一測定タイミングの心音波形データ、心電波形データ及び脈波波形データから、その測定タイミングにおける心機図を表示するための画像フレームデータを生成し、生成した画像フレームデータをディスプレイ装置6bに送出し、この画像フレームデータに従って心機図を表示させる。
【0045】
送出される画像フレームデータが、測定データ出力制御部18においてインプットボックス5から受信された測定データに基づくものである場合は、波形図処理部22からディスプレイ装置6bに画像フレームデータが送出されると、受信された測定データに基づく波形図のリアルタイム表示が行われることとなる。一方、送出される画像フレームデータが、測定データ出力制御部18において測定データ格納部17から読み出された測定データに基づくものである場合は、波形図処理部22からディスプレイ装置6bに画像フレームデータが送出されると、受信された測定データに基づく波形図の再生表示が行われることとなる。
【0046】
さらに、波形図処理部22は、指定された過去の期間における生体情報の測定データに基づく心機図の再生中に波形描画を停止させるようなユーザ操作があった場合、或いはかかる心機図の再生終了時には、心機図のフリーズ画像をディスプレイ装置6aに表示させることができる。波形図処理部22は、編集部24により、フリーズ画像をユーザ操作に従って編集可能である。例えば、フリーズ画像において各種波形図の基線位置調整や不要波形部分の削除が可能である。これにより、心機図を被検者又は第三者に提示する必要がある場合に、心機図を見易くすることができる。さらに、フリーズ画像においてテキスト(例えばコメント)の挿入も可能である。これにより、心機図を研修資料や教材としてプリントする必要がある場合に、資料や教材の付加価値や有用性を高めることができる。さらに、別の期間における生体情報の測定データに基づく心機図のフリーズ画像との2画面表示も可能である。よって、より客観的或いはより的確な心疾患診断が可能である。
【0047】
また、波形図処理部22は、心機図のフリーズ画面が表示されているときに、対応する聴診音の再生がユーザ操作により要求された場合は、再生される聴診音と同期して画面内を移動する補助線をフリーズ画面内の心機図に重ねて表示させるコマンドを、ディスプレイ装置6bに送出し、補助線を表示させる。これにより、心機図表示と聴診音出力とを同期化させることができる。つまり、この場合、波形図処理部22は波形図データバッファ19及び後述する可変遅延部21と共に同期化部としての機能を果たす。
【0048】
蓄積部としての聴診音データバッファ20は、測定データ出力制御部18により格納された聴診音データをバッファリングして可変遅延部21に出力する。バッファリングの結果、聴診音データが一時的に蓄積されることにより、聴診音がスピーカ装置7から出力されるタイミングは、その聴診音の基となっている心音の測定タイミングから例えば1.5秒ほど遅延するものの、聴診音の音切れ防止という効果を得ることができる。
【0049】
可変遅延部21は、波形図データバッファ19及び波形図処理部22と共に同期化部を構成する。可変遅延部21は、聴診音データバッファ20から入力された聴診音データを聴診音処理部23に出力する。また、可変遅延部21は、波形図処理部22から通知される可変フィルタ部26の特性に従って、聴診音データの出力を遅延させる。具体的には、可変フィルタ部26により基線ドリフト除去処理が心電データに適用される設定がなされている場合は、波形図処理部22による心電データの処理が例えば1〜2秒ほど遅延するため、可変遅延部21により聴診音データの出力が遅延される。一方、そのような設定がなされていない場合は、可変遅延部21により聴診音データの出力が遅延されない。遅延が行われる場合、その遅延時間は、基線ドリフト除去処理の減衰周波数が比較的低い場合(例えば0.25Hz)は、波形図処理部22の処理遅延が比較的大きいため比較的長く設定される一方、基線ドリフト除去処理の減衰周波数が比較的高い場合(例えば0.5Hz)は、波形図処理部22の処理遅延が比較的小さいため比較的短く設定される。このような遅延時間の可変設定は、聴診音データの追加バッファ領域をフィルタ特性の設定に応じて割り当てることにより、実現可能である。
【0050】
これにより、可変フィルタ部26の特性、特に心音と異なる生体情報である心電の波形図についてのフィルタ特性に起因する心機図表示と聴診音出力とのタイミングのずれを、解消することができる。したがって、あるタイミングにおける心機図の波形を表示した場合に、その波形に対応する聴診音を正確に把握することができる、有効な視聴覚的な情報を提供することができる。かかる視聴覚的な情報は、臨床においても教育研修においても非常に有益である。
【0051】
聴診音処理部23並びにその内部の音量制御部27及び音質制御部28は、測定データ出力制御部18及び波形図処理部22と同様、記憶装置(図示せず)に記憶されたソフトウェアプログラムを演算処理装置(図示せず)で実行することにより実現される。
【0052】
聴診音処理部23は、入力された聴診音データにおいて統合されている胸骨左縁部心音データ及び心尖部心音データのうち、デフォルトとして又はユーザ操作により予め指定された少なくとも一方を処理する。指定されたデータの処理には、音量制御部27による音量制御と、音質制御部28による音質制御とが、主として含まれる。音量制御及び音質制御は、ユーザ操作等による設定に従って行われる。音質制御には、例えば環境雑音の除去が含まれる。聴診音処理部23は、音量制御及び音質制御が施された後の聴診音データを、スピーカ装置7に送出し、聴診音データに従って聴診音を出力させる。
【0053】
送出される聴診音データが、測定データ出力制御部18においてインプットボックス5から受信された測定データに基づくものである場合は、聴診音処理部23からスピーカ装置7に聴診音データが送出されると、受信された測定データに基づく聴診音のリアルタイム出力が行われることとなる。一方、送出される聴診音データが、測定データ出力制御部18において測定データ格納部17から読み出された測定データに基づくものである場合は、聴診音処理部23からスピーカ装置7に聴診音データが送出されると、受信された測定データに基づく聴診音の再生出力が行われることとなる。
【0054】
なお、聴診音のリアルタイム出力を、例えば心音の測定を行っている場所と同室内で行う場合は、ハウリング防止のため、スピーカ装置7ではなくヘッドフォン(図示せず)に聴診音データを送出するよう設定されるのが好ましい。
【0055】
以上、心機図検査装置1の構成について説明した。
【0056】
次いで、心機図検査装置1が動作する際の、ディスプレイ装置6bに表示される心機図の表示画面について、二つの例を挙げて説明する。
【0057】
まず、図3に示す画面例を用いて心機図のリアルタイム表示について説明すると、画面30には、現在測定中の各種の生体情報に基づいて、第三肋間胸骨左縁部と心尖部との心音図31と、心電図32と、脈波図33とが、画面30の左から右の方向において過去の波形に上書きされるように掃引されている。この例では、最新の測定データに基づく波形が更新領域34に掃引されている。この時に出力される聴診音は、例えば約1.5秒前に測定された心音に基づくものであるため、更新領域34に掃引されている波形は、約1.5秒前に測定された生体情報に基づくものである。
【0058】
続いて、図4に示す画面例を用いて心機図の再生について説明すると、画面40には、過去に測定された各種の生体情報に基づいて、第三肋間胸骨左縁部と心尖部との心音図41と、心電図42と、脈波図43とが、フリーズ画像として表示されている。ここでユーザ操作により領域44に対応する期間が指定された場合、その期間に測定された心音に基づく聴診音が再生されると共に、その聴診音に同期して画面40の左から右の方向に移動する補助線45が、フリーズ画面内の心機図に重ねて表示される。
【0059】
ある測定データに基づく心機図を図3に示すようにリアルタイム表示した後、同内容の測定データに基づく心機図を図4に示すように再生する場合、その再生の前又はその再生の途中に、フィルタ特性やゲインを可変することができる。これにより高品質の心機図が得られ生体情報の再測定が不要となる場合もあるため、測定時間の大幅短縮を実現することができる。また、その再生の前又はその再生の途中に、画面40上に表示された音量コントローラ46を操作することにより音量制御を行うことも可能である。さらに、フリーズ画面内の心機図を画面40上で操作することにより、基線位置を調整することができる。これにより、複数の波形が重ならないような見易い態様で心機図を表示し、さらにその心機図を印刷することができる。また、脈波伝播速度(PWV)や収縮期心時相(STIs)等の測定を行う機能が端末装置6に備えられている場合は、フリーズ画面内の心機図を画面40上で操作することにより、これらの測定を容易に行うことができる。
【0060】
以上のように、本実施の形態によれば、心機図の表示と聴診音の出力とが、一体の装置により行われるだけでなく互いに同期化されるため、既述の通り、臨床においても教育研修においても有効な視聴覚情報を提供することができる。
【0061】
心機図においては、心音図と、心電図と、頚動脈波の脈波図との同時記録ができるため、左室の心筋収縮力を非観血的に最も簡単に評価できる、収縮期心時相(STIs)の測定が可能である。また、この心音図と心電図と頸動脈波の脈波図との同時記録により、脈波の立ち上がり時間等を中心に、心音と心電とに現れる心雑音の位置を測定しながら、大動脈弁狭窄症(AS)における重症度の診断も行うことが可能である。また、心機図において、心音図、心電図、頸動脈波の脈波図と、股動脈波の脈波図とを同時記録した場合は、虚血性心疾患や脳血管障害の原因として注目される動脈硬化の指標である脈波伝播速度(PWV)の測定が可能である。本実施の形態に係る心機図検査装置では、これらを測定することができるだけでなく、表示された心機図に同期させて心音を聴診することができるため、種々の心疾患の診断や、重症度の把握に非常に有用である。
【0062】
以上、本発明の実施の形態を説明した。なお、以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されない。つまり、上記装置の構成及び動作についての説明は一例であり、本発明の範囲においてこれらの例に対する様々な変更や追加が可能であることは明らかである。
【0063】
例えば、本実施の形態では、別体であるインプットボックス5と端末装置6とをネットワーク接続して心機図検査装置1を構成しているが、インプットボックス5と端末装置6とは一体化されたものであってもよい。
【0064】
また、同期化部に関して、本実施の形態では、測定データ出力制御部18と波形図処理部22との間に波形図データバッファ19を配置する構成や、聴診音データバッファ20と聴診音処理部23との間に可変遅延部21としてのバッファを配置する構成を採用しているが、同期化部としてデータを遅延させるための手段やその配置位置については、適宜変更して実施することができる。
【0065】
さらに、本実施の形態では、測定対象とする生体情報が心音、心電及び脈波である装置を例にとって説明したが、心音と心電のみを測定対象とする装置、心音と脈波のみを測定対象とする装置、又は心音、心電及び脈波の他に呼吸を測定対象に含む装置も、上記の心機図検査装置1の構成を適宜変更して実施することができる。呼吸と心音とは互いに密接な関係があるため、これらを心機図として同時記録する場合は、呼気時の心II音の分裂状態と吸気時の心II音の分裂状態とを波形図や聴診音で確認することにより、心疾患の診断をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施の形態に係る心機図検査装置の外観図
【図2】本発明の一実施の形態に係る心機図検査装置の構成を示すブロック図
【図3】本発明の一実施の形態に係る心機図のリアルタイム表示画面を示す図
【図4】本発明の一実施の形態に係る心機図の再生画面を示す図
【符号の説明】
【0067】
1 心機図検査装置
5 インプットボックス
6 端末装置
6a 端末装置本体
6b ディスプレイ装置
7 スピーカ装置
12 脈波測定部
13 心音測定部
14 心電測定部
18 測定データ出力制御部
19 波形図データバッファ
20 聴診音データバッファ
21 可変遅延部
22 波形図処理部
23 聴診音処理部
24 編集部
25 可変利得部
26 可変フィルタ部
27 音量制御部
28 音質制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心音の測定データと、前記心音と異なる生体情報の測定データとを取得する取得部と、
取得された前記心音の測定データに基づく聴診音を音声出力部に出力させる聴診音処理部と、
取得された前記生体情報の測定データに基づく波形図を表示部に表示させる波形図処理部と、
前記心音の測定データに基づく聴診音の出力と前記生体情報の測定データに基づく波形図の表示とを同期化する同期化部と、
を有することを特徴とする心機図検査装置。
【請求項2】
前記生体情報は、心電、脈波及び呼吸のうち少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1記載の心機図検査装置。
【請求項3】
取得された前記心音の測定データと前記生体情報の測定データとを記憶する記憶部をさらに有し、
前記聴診音処理部は、記憶された前記心音の測定データに基づく聴診音を前記音声出力部に出力させることにより、取得された前記心音の測定データに基づく聴診音を再生し、
前記波形図処理部は、記憶された前記生体情報の測定データに基づく波形図を前記表示部に表示させることにより、取得された前記生体情報の測定データに基づく波形図を再生することを特徴とする請求項1記載の心機図検査装置。
【請求項4】
前記波形図処理部は、取得された前記心音の測定データに基づく心音図を前記表示部に表示させ、かつ、記憶された前記心音の測定データに基づく心音図を前記表示部に表示させることにより、取得された前記心音の測定データに基づく心音図を再生し、
再生された前記波形図と前記心音図とを含む心機図を編集する編集部をさらに有することを特徴とする請求項3記載の心機図検査装置。
【請求項5】
波形図についてのフィルタ特性又は利得を可変する可変部をさらに有し、
前記波形図処理部は、記憶された前記生体情報の測定データに基づく波形図を、前記フィルタ特性若しくは前記利得の可変中又はその可変後に前記表示部に表示させることを特徴とする請求項3記載の心機図検査装置。
【請求項6】
心音図についてのフィルタ特性又は利得を可変する可変部をさらに有し、
前記聴診音処理部は、取得された前記心音の測定データに基づく心音図を前記表示部に表示させ、かつ、記憶された前記心音の測定データに基づく心音図を、前記フィルタ特性若しくは前記利得の可変中又はその可変後に前記表示部に表示させることにより、取得された前記心音の測定データに基づく心音図を再生することを特徴とする請求項3記載の心機図検査装置。
【請求項7】
前記心音の測定データに基づく聴診音が出力される前に、前記心音の測定データを一時的に蓄積する蓄積部をさらに有し、
前記同期化部は、前記生体情報の測定データに基づく波形図の表示を、前記心音の測定データの一時蓄積に従って遅延させることを特徴とする請求項1記載の心機図検査装置。
【請求項8】
前記生体情報の測定データに基づく波形図についてのフィルタ特性を可変する可変フィルタ部をさらに有し、
前記同期化部は、可変された前記フィルタ特性に応じて、前記心音の測定データに基づく聴診音の出力を遅延させることを特徴とする請求項7記載の心機図検査装置。
【請求項9】
前記生体情報の測定データに基づく波形図は、少なくとも心電図を含み、
前記同期化部は、前記可変フィルタ部が、可変された前記フィルタ特性により前記心電図の基線ドリフトに相当する低域成分を濾去する場合に、前記心音の測定データに基づく聴診音の出力を遅延させることを特徴とする請求項8記載の心機図検査装置。
【請求項10】
前記同期化部は、記憶された前記生体情報の測定データに基づいて表示された波形図と共に、記憶された前記心音の測定データに基づいて出力される聴診音に同期して移動するマークを、前記表示部に表示させることを特徴とする請求項2記載の心機図検査装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−89775(P2009−89775A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−260951(P2007−260951)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(000112602)フクダ電子株式会社 (196)
【Fターム(参考)】