説明

心機能変化評価装置

【課題】補助人工心臓装着中の心室収縮能の変化を、超音波エコー装置やコンダクタンスカテーテルを用いることなく、非浸襲的な方法で連続評価する。
【解決手段】心室(10A)に接続された連続流型補助人工心臓20と、心室(10A)内の圧力を検出するための圧力センサ30と、該圧力センサ30により検出された心室内圧力と前記補助人工心臓20の消費電力の関係の閉ループ内面積APMpに基づいて、補助人工心臓20装着中の心室収縮能の変化を評価する手段(パソコン40)と、を備える。前記圧力センサ30を、心室(10A)と補助人工心臓20を接続する脱血カニューラ22に内蔵することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心機能の変化評価装置に係り、特に、補助人工心臓装着中の心室収縮能の変化を、超音波エコー装置や、末梢血管から心室内に挿入されるコンダクタンスカテーテルを用いることなく、非侵襲的な方法で連続評価することが可能な心機能変化評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、特許文献1で、遠心ポンプで構成した連続流型の補助人工心臓を提案している。このような補助人工心臓を装着した場合には、装着者の心臓の機能が回復する場合があり、心機能、特に左心室収縮能の変化を評価したい場合がある。
【0003】
一方、心機能、特に左心室収縮能の変化を評価する方法の1つに、特許文献2に記載されたようなコンダクタンスカテーテルを左心室に挿入して、図1に示すような左心室内圧力−左心室内容積の関係から、ループ内面積を求めて、心機能の変化を評価する方法がある。図中のループ内面積(一回拍出量)が仕事量に対応する。
【0004】
【特許文献1】特開2007−44302号公報
【特許文献2】特開2002−143109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら従来は、高価な超音波エコー装置を使用したり、コンダクタンスカテーテルを補助人工心臓装着者の左心室内に挿入する必要があり、侵襲的な方法であって、装着者に負担をかけるだけでなく、長時間適用した場合には、感染や血栓発生の可能性もあった。
【0006】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、補助人工心臓装着中の心室収縮能の変化を、超音波エコー装置やコンダクタンスカテーテルを用いることなく、非侵襲的な方法で連続評価可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者等の実験によると、図2に示すような連続流型左心補助人工心臓20のモータの電流波形にモータ電圧を積算することで得られる消費電力波形と、脱血管22に内蔵された圧力センサ30より獲得した左心室10A内の圧力より、図3に示すような左心室内圧力−モータ消費電力関係図を作成することができ、この関係の閉ループ内面積APMpと、左心室10Aと補助人工心臓20を合わせた全身に血液を拍出する外的仕事EWには、図4に示す如く、十分な相関を得ることができた。この関係は、人工心臓のポンプ特性に依存せず、閉ループ内面積APMpより、補助人工心臓装着中の左心室収縮能の変化が評価できることを意味する。
【0008】
本発明は、このような知見に基づいてなされたもので、心室に接続された連続流型補助人工心臓と、心室内の圧力を検出するための圧力センサと、該圧力センサにより検出された心室内圧力と前記補助人工心臓の消費電力の関係に基づいて、補助人工心臓装着中の心室収縮能の変化を評価する手段と、を備えたことを特徴とする心機能評価装置により、前記課題を解決したものである。
【0009】
ここで、前記補助人工心臓装着中の心室収縮能変化を、前記心室内圧力と補助人工心臓の消費電力の関係の閉ループ内面積に基づいて評価することができる。
【0010】
又、前記圧力センサを、心室と補助人工心臓を接続する脱血管に内蔵することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、補助人工心臓装着中の心室収縮能変化を、超音波エコー装置やコンダクタンスカテーテルを用いることなく、非侵襲的な方法で、連続評価することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0013】
本実施形態は、図2に示した如く、心臓10の左心室10Aに接続された連続流型補助人工心臓20及びその駆動制御装置21と、左心室10A内の圧力を検出するための圧力センサ30及び血圧計31と、前記圧力センサ30により検出された左心室内圧力と前記補助人工心臓20のモータの消費電力の関係の閉ループ内面積APMpに基づいて、補助人工心臓装着中の左心室収縮能変化を評価するためのパソコン(PC)40とを備えたものである。
【0014】
図において、11は上行大動脈、12は大動脈弓部、14は下行大動脈、23は送血管である。
【0015】
前記補助人工心臓20としては、例えば斜流ポンプを用いることができる。その他には、遠心ポンプや軸流ポンプなどを用いてもよい。
【0016】
前記圧力センサ30は、左心室10Aと補助人工心臓20を接続する脱血管22の先端部、心室に近い位置の壁に内蔵することが望ましい。
【0017】
模擬循環回路や、動物実験において従来のコンダクタンスカテーテル等を使用し求めた、前記補助人工心臓20のモータの消費電力と圧力センサ30の出力から、図3に示したような左心室内圧力−モータ消費電力関係図を作成する。そして、求められた閉ループ内面積APMpと、コンダクタンスカテーテル等を使用して求めた左心室圧・容積ループ内の面積との関係を前もって求め、図4中に示したような関係式を作成する。
【0018】
図2に示した如く、心臓が弱っていて弁が開かないフルバイパス状態であれば、図4の実線Aに示したような、閉ループ内面積APMpに対して外的仕事EWが小さな、相関の高い関係(相関係数0.94程度)が得られる。一方、図5に示す如く、心臓が回復して大動脈弁が開く部分バイパス状態になった場合には、図4の破線Bに示す如く、外的仕事EWが比較的高くなり、相関が若干悪くなる(相関係数0.87程度)。従って、閉ループ内面積APMpの変化を連続モニターすれば、左心室収縮能の変化が推測できることを意味する。
【0019】
なお、前記実施形態においては、補助人工心臓として、斜流ポンプが用いられていたが、本発明の適用対象はこれに限定されず、出願人が特許文献1で提案したような遠心ポンプや、軸流ポンプであっても、本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】左心室内圧力・容積ループを用いた左心室の1サイクルを示す図
【図2】本発明の実施形態の構成を示す図
【図3】本発明の原理を説明するための左心室内圧力と補助人工心臓のモータ消費電力の関係を示す図
【図4】同じく圧モータ消費電力から求めた閉ループ内面積APMpと左心室圧・容積ループから求めた外的仕事の関係の例を示す図
【図5】前記実施形態の部分バイパス状態を示す図
【符号の説明】
【0021】
10…心臓
10A…左心室
11…上行大動脈
12…大動脈弓部
20…補助人工心臓
21…補助人工心臓・駆動制御装置
22…脱血管
23…送血管
30…圧力センサ
31…血圧計
40…パソコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心室に接続された連続流型補助人工心臓と、
心室内の圧力を検出するための圧力センサと、
該圧力センサにより検出された心室内圧力と前記補助人工心臓の消費電力の関係に基づいて、補助人工心臓装着中の心室収縮能変化を評価する手段と、
を備えたことを特徴とする心機能変化評価装置。
【請求項2】
前記補助人工心臓装着中の心室収縮能変化を、前記心室内圧力と補助人工心臓の消費電力の関係の閉ループ内面積に基づいて評価することを特徴とする請求項1に記載の心機能変化評価装置。
【請求項3】
前記圧力センサが、心室と補助人工心臓を接続する脱血管に内蔵されていることを特徴とする請求項1に記載の心機能変化評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−279048(P2008−279048A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125477(P2007−125477)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(504179255)国立大学法人 東京医科歯科大学 (228)
【出願人】(506138258)
【氏名又は名称原語表記】RHEINISCH−WESTFALISCHE TECHNISCHE HOCHSCHULE AACHEN
【上記1名の代理人】
【識別番号】100080458
【弁理士】
【氏名又は名称】高矢 諭
【Fターム(参考)】