心理状態推定装置
【課題】被験者の心理状態を高精度に推定すること。
【解決手段】運転者のイライラ状態を推定するイライラ推定装置1は、運転者の生体情報を取得する生体情報検出手段15と、運転者の心理状態を変化させ得る環境要因の発生を判定する環境要因判定手段14と、環境要因判定手段14により環境要因の発生が判定された場合に、発生した環境要因と、生体情報検出手段15により取得された生体情報との相関関係を導出する相関判定手段16と、相関判定手段16により導出された相関関係に基づいて運転者のイライラ状態を推定する感情状態判定手段17とを備えることを特徴とする。
【解決手段】運転者のイライラ状態を推定するイライラ推定装置1は、運転者の生体情報を取得する生体情報検出手段15と、運転者の心理状態を変化させ得る環境要因の発生を判定する環境要因判定手段14と、環境要因判定手段14により環境要因の発生が判定された場合に、発生した環境要因と、生体情報検出手段15により取得された生体情報との相関関係を導出する相関判定手段16と、相関判定手段16により導出された相関関係に基づいて運転者のイライラ状態を推定する感情状態判定手段17とを備えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イライラ状態などの被験者の心理状態を推定する心理状態推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転中の安全性を向上させるために、イライラ状態などの運転者の心理状態を推定する装置が各種提案されている。例えば特許文献1には、被験者の心拍数や血圧などの生体情報を検出し、その検出した生体情報と予め設定した閾値との大小関係によってイライラ状態などを判定する生体情報表示装置が開示されている。
【特許文献1】特開2006−34803号公報
【特許文献2】特開2003−48448号公報
【特許文献3】特開2003−244758号公報
【特許文献4】特開2005−157662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に記載の装置は、事前に設定された数値基準(閾値)に基づいてイライラ状態を判定するので、被験者個人に最適な結果を得ることができない。このことは、数値基準を万人向けのものに設定したとしても同様である。例えば、心拍数や血圧の平均値・変化量は個人毎に大きく異なるので、一般化した値を数値基準に設定すると、イライラ状態の判定の精度が低くなる。
【0004】
また、上記特許文献1に記載の生体情報表示装置は、被験者がイライラ状態にあるときはその被験者の血圧が上昇し且つ心拍数が増加する、という事実に基づいて被験者の心理状態を判定する。このとき、その生体情報表示装置は、イライラ状態について「イライラしている」と「イライラしていない」という二区分、血圧について上昇、維持及び下降の三区分、心拍数について増加、維持及び下降の三区分を予め設定し、被験者の生体情報及び心理状態をこれらの区分に当てはめている。しかしながら、このような手法を用いただけでは、被験者のイライラ状態を詳細に段階分けすることはできない。
【0005】
そこで、本発明は、被験者の心理状態を高精度に推定する心理状態推定装置を提供する
ことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る心理状態推定装置は、被験者の心理状態を推定する心理状態推定装置であって、被験者の生体情報を取得する生体情報取得手段と、被験者の心理状態を変化させ得る環境要因の発生を判定する環境要因判定手段と、環境要因判定手段により環境要因の発生が判定された場合に、発生した環境要因と、生体情報取得手段により取得された生体情報との相関関係を導出する相関関係導出手段と、相関関係導出手段により導出された相関関係に基づいて被験者の心理状態を推定する推定手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この心理状態推定装置では、まず被験者の生体情報と、被験者の心理状態を変化させ得る環境要因の発生とが検出され、これら生体情報と環境要因との相関関係が導出される。そして、導出された相関関係に基づいて被験者の心理状態が推定される。そのため、環境要因の発生を契機として、その環境要因が被験者の生理情報に与える影響を考慮した上で、被験者の心理状態が推定される。すなわち、心理状態を推定する際に、被験者個人の特性を示す生体情報をその推定に織り込むことが可能になり、その結果、被験者の心理状態を高精度に推定できる。なお、環境要因とは、例えば渋滞やクラクションなどのような、運転者の感情状態を変化させるイベントである。
【0008】
本発明の心理状態推定装置では、環境要因に応じた被験者の心理状態の変化を示す心理変化データを記憶する記憶手段を更に備え、環境要因判定手段は、環境要因の発生を判定するための情報に基づいて記憶手段から環境要因に応じた心理変化データを取得し、相関関係導出手段は、環境要因判定手段により取得された心理変化データに基づいて、環境要因に応じた心理変化データと生体情報との相関関係を導出することが好ましい。
【0009】
この場合、環境要因と生体情報との相関関係が、予め記憶されている心理変化データに基づいて導出される。このように相関関係導出用のデータを用いることで、導出のぶれを抑制し、より確実に被験者の心理状態を推定できる。
【0010】
本発明の心理状態推定装置では、環境要因に応じた被験者の心理状態の変化を学習する学習手段を更に備え、環境要因判定手段は、環境要因の発生を判定するための情報に基づいて環境要因に応じた学習手段の学習結果を取得し、相関関係導出手段は、環境要因判定手段により取得された学習結果に基づいて、環境要因に応じた学習結果と生体情報との相関関係を導出することが好ましい。
【0011】
この場合、被験者の心理状態が学習され、その学習結果に基づいて環境要因と生体情報との相関関係が導出される。その結果、被験者個人の特性をより正確に相関関係の導出に反映させることができ、その結果、被験者の心理状態をより高精度に推定できる。
【0012】
本発明の心理状態推定装置では、相関関係導出手段は、発生した環境要因に基づいて決定された、相関関係の導出に関する時間を示すパラメータを用いて相関関係を導出することが好ましい。
【0013】
この場合、環境要因毎に決定された、相関関係の導出に関する時間を示すパラメータを用いて相関関係が導出されるので、環境要因毎に詳細に相関関係を導出できる。その結果、被験者の心理状態をより高精度に推定できる。
【0014】
本発明の心理状態推定装置では、パラメータは、相関関係の導出に必要な時間間隔であることが好ましい。
【0015】
この場合、相関関係の導出に必要な時間間隔を用いて相関関係が導出される。相関関係の導出に必要な時間は、環境要因毎に異なることが考えられる。例えば、相関関係を瞬間的に導出できる環境要因もあれば、比較的長い時間を使わなければ相関関係を導出できない環境要因もある。したがって、相関関係の導出に必要な時間間隔を用いることで環境要因毎に詳細に相関関係を導出でき、その結果、被験者の心理状態をより高精度に推定できる。
【0016】
本発明の心理状態推定装置では、パラメータは、相関関係の導出の開始タイミングを示す開始時刻であることが好ましい。
【0017】
この場合、相関関係の導出の開始タイミングを示す開始時刻を用いて相関関係が導出される。相関関係の導出を開始するタイミングは、環境要因毎に異なることが考えられる。例えば、導出を即時に開始した方が好ましい環境要因もあれば、多少の時間を置いてから導出を開始した方が好ましい環境要因もある。したがって、導出の開始タイミングを示す開始時刻を用いることで環境要因毎に詳細に相関関係を導出でき、その結果、被験者の心理状態をより高精度に推定できる。
【0018】
本発明の心理状態推定装置では、パラメータは、相関関係の導出の終了タイミングを示す終了時刻であることが好ましい。
【0019】
この場合、相関関係の導出の終了タイミングを示す終了時刻を用いて相関関係が導出される。相関関係の導出を終了するタイミングは、環境要因毎に異なることが考えられる。例えば、導出を即時に終了してもよい環境要因もあれば、比較的長い時間を置いてから導出を終了した方が好ましい環境要因もある。したがって、導出の終了タイミングを示す終了時刻を用いることで環境要因毎に詳細に相関関係を導出でき、その結果、被験者の心理状態をより高精度に推定できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、被験者の心理状態を推定する際に、被験者の生体情報と被験者の心理状態を変化させ得る環境要因とに基づく相関関係が用いられるので、被験者の心理状態を高精度に推定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に係る心理状態推定装置の実施の形態を説明する。
【0022】
本実施の形態では、本発明に係る心理状態推定装置を、車両に搭載され、運転者のイライラ状態を推定するイライラ推定装置に適用する。本発明に係るイライラ推定装置は、運転者のイライラ状態に影響を与える環境要因毎に設定された心理変化データと運転者の生体情報との相関関係を取得し、取得した相関関係に基づいて運転者のイライラ状態を推定する。そして、このイライラ推定装置は、推定したイライラ状態を運転者支援装置、警報装置、イライラ緩和装置などの他の装置(図示せず)に提供する。
【0023】
図1〜図10を参照して、イライラ推定装置1について説明する。図1は、本実施形態に係るイライラ推定装置1の構成を示す図である。図2〜5は、図1に示す参照データ記憶装置13に記憶される心理変化データの例を示す図であり、それぞれ、他車からクラクションを鳴らされた場合、運転者がクラクションを鳴らした場合、割込みなどの場合、渋滞の場合を示すものである。図6及び7は、心理変化データと生体情報との相関関係の導出例を示す図である。図8は、心理変化データと生体情報との相関関係を示す関係式の例を示すグラフである。図9は、心理変化データと生体情報との相関関係の導出の別の例を示す図である。図10は、心理変化データと生体情報との相関関係を示す関係式の別の例を示すグラフである。
【0024】
イライラ推定装置1は、イライラ状態が表れる生体情報とイライラ状態に影響を及ぼす外部の環境要因とに基づいてイライラレベルを推定する。特に、イライラ推定装置1は、推定精度を向上させるために、環境要因毎に設定された心理変化データと運転者の生体情報との相関関係を用いてイライラレベルを推定する。このために、イライラ推定装置1は、車両情報検出手段11、環境情報検出手段12、参照データ記憶装置13、環境要因判定手段14、生体情報検出手段15、相関判定手段16及び感情状態判定手段17を備えている。特に、参照データ記憶装置13、環境要因判定手段14、相関判定手段16及び感情状態判定手段17は、イライラ推定装置1のECU(Electronic Control Unit)に実装される。
【0025】
なお、本実施の形態では、参照データ記憶装置13が特許請求の範囲に記載する記憶手段に相当し、環境要因判定手段14が特許請求の範囲に記載する環境要因判定手段に相当し、生体情報検出手段15が特許請求の範囲に記載する生体情報取得手段に相当し、相関判定手段16が特許請求の範囲に記載する相関関係導出手段に相当し、感情状態判定手段17が特許請求の範囲に記載する推定手段に相当する。
【0026】
車両情報検出手段11は、渋滞や割込みなどのイライラ状態に影響を与える環境要因が発生したことを推測するための車両側での情報を検出する手段である。例えば、車両情報検出手段11は、車速を検出するための車速センサ、ブレーキの踏み込みを検出するブレーキセンサ、クラクションが押されたことを検出するための圧力センサ、ハンドル操作を検出するための操舵角センサから構成される。この場合に車両情報検出手段11が検出する情報としては、例えば、車速センサにより検出される車速情報、ブレーキセンサにより検出される踏力情報、圧力センサにより検出される圧力情報、操舵角センサにより検出される操舵角情報が挙げられる。なお、車両情報検出手段11の構成は限定されず、例えば車速センサとブレーキセンサのみで構成してもよいし、上述したセンサ以外の構成部品を用いて構成してもよい。また、車両情報検出手段11が検出する情報の種類も限定されない。
【0027】
環境情報検出手段12は、渋滞や割込みなどのイライラ状態に影響を与える環境要因が発生したことを推測するための環境情報を検出する手段である。例えば、環境情報検出手段12は、地図データベースを備えVICS情報(渋滞情報など)を取得するナビゲーション装置、車間距離を検出するためのレーダセンサ、前方画像を撮像するカメラ、他車のクラクション音を検出する音センサなどから構成される。この場合に車両情報検出手段11が検出する情報としては、例えば、ナビゲーション装置により検出される位置情報及び交通情報、レーダセンサにより検出される車間距離情報、カメラにより取得される画像情報、音センサにより検出される音情報が挙げられる。環境情報検出手段12の構成は限定されず、例えばナビゲーション装置のみで構成してもよいし、上述した機器以外の構成部品を用いて構成してもよい。また、環境情報検出手段12が検出する情報の種類も限定されない。
【0028】
参照データ記憶装置13は、環境要因に応じた運転者のイライラレベルの変化を示す心理変化データを記憶する手段である。心理変化データは実験結果などに基づいて設定され、図2〜5に示すような特性曲線で示される。図2〜5の各グラフにおいて、縦軸はイライラレベル、横軸は時間をそれぞれ示している。また、これらのグラフにおける時刻tは環境要因の発生時刻を示し、時刻t1及びt2は、イライラレベルの推定に必要な心理変化データの参照開始時刻及び参照終了時刻をそれぞれ示す。これらの時刻t、t1及びt2は心理変化データの構成要素であり、環境要因毎に予め設定される。
【0029】
イライラレベルは、運転者のイライラ状態を示す指数であり、値が大きいほど運転者がよりイライラしていることを示す。なお、イライラレベルの設定方法は限定されない。例えば、イライラレベルを、平静状態を示す「0」、ムッとする程度の状態である「1」、怒りを我慢し、一触即発の状態である「2」、及び怒りを暴発させた状態である「3」の四種類に設定してもよい。また、イライラ状態を0〜3の任意の実数で表現してもよい。
【0030】
他車からクラクションを鳴らされた場合の運転者の心理状態の変化は、例えば図2のような特性曲線で示される。発生時刻tはクラクションが鳴らされた時を示す。運転者が他車からクラクションを鳴らされた場合、その直後に運転者に驚きの反応が生じ、その後徐々に運転者のイライラレベルが上昇していく。なお、驚きの反応はイライラ状態と同様に扱うことが可能である。このような心理状態の変化を特徴付けるために、参照開始時刻t1は発生時刻tの比較的直前に設定され、参照終了時刻t2は発生時刻tから比較的時間を置いて設定されている。図2の特性曲線で示される心理変化データは、クラクション音を示す情報(例えば振幅、周波数)と関連付けられて参照データ記憶装置13に記憶されている。
【0031】
運転者が他車に対してクラクションを鳴らした場合の運転者の心理状態の変化は、例えば図3のような特性曲線で示される。発生時刻tは運転者がクラクションを鳴らした時を示す。図3に示すように、運転者がクラクションを鳴らす前はその運転者のイライラレベルが上昇し続け、運転者がクラクションを鳴らした瞬間からイライラレベルが徐々に下降していく。これは、イライラレベルが高くなったことがクラクションを鳴らすという行為を引き起こし、クラクションを鳴らしたことによるカタルシス効果によって徐々にイライラ状態が解消されていく、という考えに基づいている。このような心理状態の変化を特徴付けるために、参照開始時刻t1と発生時刻tとの間隔、及び発生時刻tと参照終了時刻t2と間隔は、それぞれ比較的大きく確保されている。図3の特性曲線で示される心理変化データは、クラクションの作動を示す情報(例えば作動継続時間、所定時間内における作動回数)と関連付けられて参照データ記憶装置13に記憶されている。
【0032】
自車両が他車に急に割り込まれたり前車との車間距離が急激に減少したりした場合の運転者の心理状態の変化は、例えば図4のような特性曲線で示される。発生時刻tは、急な割込みや車間距離の急激な減少が発生した時を示す。この場合は、イライラレベルが短時間のうちに急激に上昇し、その後、イライラレベルは上昇後の値を維持するかもしくは緩やかに低下する。このような心理状態の変化を特徴付けるために、参照開始時刻t1は発生時刻tの比較的直前に設定されて、参照終了時刻t2は発生時刻tから比較的時間を置いて設定されている。また、参照時間(t2−t1)は比較的短く設定されている。
【0033】
運転者が渋滞に遭遇した場合の運転者の心理状態の変化は、例えば図5のような特性曲線で示される。発生時刻tは、運転者が渋滞に遭遇したときを示す。この場合は、運転者が渋滞に遭遇する直前から運転者のイライラレベルが上昇し続ける。このような心理状態の変化を特徴付けるために、参照開始時刻t1と発生時刻tとの間隔、及び発生時刻tと参照終了時刻t2と間隔は、それぞれ比較的大きく確保されている。また、参照時間(t2−t1)は比較的長く設定されている。
【0034】
なお、参照データ記憶装置13に格納される心理変化データの種類は上記四種類に限定されるものではない。
【0035】
環境要因判定手段14は、運転者のイライラレベルを変化させ得る環境要因の発生を判定する手段である。ここで、環境要因とは、例えば渋滞やクラクションなどのような、運転者の感情状態を変化させるイベントである。環境要因判定手段14が判定の対象とする環境要因は、クラクションによる他車への威嚇など、運転者のイライラ状態の変化との関連が高いものである。
【0036】
具体的には、環境要因判定手段14は、車両情報検出手段11により検出された車両情報と環境情報検出手段12により検出された環境情報とに基づいて、参照データ記憶装置13から環境要因に応じた心理変化データを取得する。すなわち、車両情報及び環境情報は環境要因の発生を判定するための情報である。続いて環境要因判定手段14は、発生した環境要因の発生時刻(実発生時刻)Tを記憶すると共に、その発生時刻Tと取得した心理変化データとに基づいて、参照開始時刻t1に対応する実参照開始時刻T1及び参照終了時刻t2に対応する実参照終了時刻T2を算出する。続いて環境要因判定手段14は、取得した心理変化データと、記憶した実発生時刻Tと、算出した実参照開始時刻T1及び実参照終了時刻T2とを相関判定手段16に出力する。
【0037】
以下では、環境要因判定手段14の処理をいくつかの例を用いて説明する。まず、他車からクラクションを鳴らされた場合について説明する。この場合、環境要因判定手段14はまず、環境情報検出手段12から入力された音情報が示す波形成分の振幅及び周波数を取得する。続いて環境要因判定手段14は、取得した振幅及び周波数が予め設定されている基準値を満たすか否かを判定し、その基準値を満たす場合にクラクションを鳴らされたと判定する。続いて環境要因判定手段14は、取得した振幅及び周波数に対応する心理変化データ(例えば図2に示す心理変化データ)を参照データ記憶装置13から取得する。なお、音情報に基づく心理変化データの取得方法は限定されない。例えば、図2に示される心理変化データをクラクション音の継続時間と関連付けて参照データ記憶装置13に記憶しておき、入力された音情報から導出したクラクション音継続時間に対応する心理変化データを取得するように環境要因判定手段14を構成してもよい。
【0038】
次に、運転者が他車に対してクラクションを鳴らした場合の処理を説明する。この場合、環境要因判定手段14は、車両情報検出手段11から入力された圧力情報からクラクションの作動時間を取得する。続いて環境要因判定手段14は、取得した作動時間に対応する心理変化データ(例えば図3に示す心理変化データ)を参照データ記憶装置13から取得する。なお、圧力情報に基づいて心理変化データの取得方法は限定されない。例えば環境要因判定手段14は、入力された圧力情報から所定時間内におけるクラクションの作動回数を取得し、その作動回数に対応する心理変化データを取得してもよい。また、図3に示される心理変化データを圧力と関連付けて参照データ記憶装置13に記憶しておき、入力された圧力情報から導出した圧力に対応する心理変化データを取得するように環境要因判定手段14を構成してもよい。
【0039】
次に、他車による割込みや車間距離の急激な減少が発生した場合の処理を説明する。この場合、環境要因判定手段14は、車両情報検出手段11から入力された車速情報及び踏力情報、環境情報検出手段12から入力された車間距離情報に基づいて、他車による割込みや車間距離の急激な減少が発生したか否かを判定する。例えば環境要因判定手段14は、車間距離が予め設定されている基準値以下であり、且つ車速の所定時間における減少量が所定の基準値以上である場合に、他車の割込みや車間距離の急激な減少が発生したと判定する。また環境要因判定手段14は、車間距離が予め設定されている基準値以下であり、且つ所定時間における踏力の増加量が所定の基準値以上である場合に割込みなどが発生したと判定してもよい。なお、車間距離の基準値は、一定でもよいし、車速に基づいて変化する値であってもよい。
【0040】
続いて環境要因判定手段14は、取得した車間距離、車速の変化量及びブレーキ踏力の変化量のうち一以上の情報に基づいて、心理変化データ(例えば図4に示す心理変化データ)を参照データ記憶装置13から取得する。
【0041】
次に、自車両が渋滞に巻き込まれたりその渋滞が解消したりした場合の処理を説明する。この場合、環境要因判定手段14はまず、車両情報検出手段11から入力された車速情報及び踏力情報に基づいて、自車両が渋滞に巻き込まれたか否かを判定する。例えば環境要因判定手段14は、車速情報で示される車速が予め設定されている基準範囲内であり且つその状態が一定時間以上続いたという渋滞条件を満たした場合に、自車両が渋滞に巻き込まれたと判定する。これとは別に、環境要因判定手段14は、予め設定された所定の時間内において、踏力情報で示される踏力が設定された基準値を所定回数だけ超える、ということを渋滞条件として設定してもよい。また、環境要因判定手段14は、これら車速情報及び踏力情報に関する基準の双方を満たすことを渋滞条件として設定してもよい。
【0042】
更に、環境要因判定手段14は、渋滞が解消されたか否かを判定することも可能である。具体的には、環境要因判定手段14は、自車両が渋滞に巻き込まれたと判定した時刻以降も引き続き自車両が渋滞条件を満足しているか否かを判定し続け、渋滞条件を満足しなくなった場合に渋滞が解消されたと判定する。環境要因判定手段14は、渋滞に遭遇したと判定した場合に、その判定時刻(渋滞遭遇時刻)から現在時刻までの時間を継続時間として保持する。また環境要因判定手段14は、渋滞を解消したと判定した場合に、その渋滞遭遇時刻から渋滞解消時刻までの時間を継続時間として保持すると共に、渋滞解消時刻から現在時刻までの時間を経過時間として保持する。
【0043】
続いて環境要因判定手段14は、保持している継続時間に基づいて、心理変化データ(例えば図5に示す心理変化データ)を参照データ記憶装置13から取得する。なお、環境要因判定手段14は、経過時間に基づいて心理変化データを取得してもよい。また、環境要因判定手段14は、渋滞遭遇又は渋滞解消を判定するために、環境情報検出手段12から入力されたVICS情報を用いてもよい。この場合も、環境要因判定手段14は、継続時間及び経過時間を算出して保持し、これらの情報に基づいて心理変化データを取得する。
【0044】
生体情報検出手段15は、運転者の生体情報を取得する手段である。具体的には、生体情報検出手段15は、皮膚電位センサ、心拍数センサ(心電センサでもよい)、血圧センサ、脳波センサなどで構成され、生体情報として心拍数、血圧、皮膚表面温度、皮膚電気抵抗、脳波などを検出する。生体情報検出手段15は、検出した生体情報を相関判定手段16及び感情状態判定手段17に出力する。
【0045】
相関判定手段16は、環境要因判定手段14により環境要因の発生が判定された場合に、発生した環境要因に応じた心理変化データ(イライラレベルの変化)と、生体情報検出手段15により取得された生体情報との相関関係を導出する手段である。言い換えれば、相関判定手段16は、環境要因と生体情報との相関関係を導出する。具体的には相関判定手段16は、まず、環境要因判定手段14から入力された実参照開始時刻T1及び実参照終了時刻T2に基づいて計測時間を設定する。この計測時間は、T2−T1で表される。続いて環境要因判定手段14は、その計測時間の間、生体情報検出手段15により検出された心拍、血圧、皮膚表面温度、皮膚電気抵抗及び脳波などの生体情報を取得する。
【0046】
続いて相関判定手段は、環境要因判定手段14から入力された心理変化データと、取得した生体情報との相関を示す関係式を導出し、導出された関係式を感情状態判定手段17に出力する。すなわち、相関判定手段16は、相関関係の導出の開始タイミングを示す実参照開始時刻と、その導出の終了タイミングを示す実参照終了時刻と、相関関係の導出に必要な計測時間という三種類のパラメータを用いて相関関係を導出する。すなわち、実参照開始時刻、実参照終了時刻及び計測時間は、相関関係の導出に関する時間を示すパラメータである。なお、相関判定手段16は、心理変化データと生体情報との関係式を所定の時間間隔で更新し、更新された関係式を感情状態判定手段17に出力する。
【0047】
図6〜8を用いて、相関判定手段16が関係式を導出する例を説明する。この例において、相関判定手段16には、割込みが発生したと判定された場合に抽出される心理変化データD(図4に示すものと同様のデータ)が入力されている。このとき、相関判定手段16は、心理変化データDの参照開始時刻t1に対応する実参照開始時刻T1から、参照終了時刻t2に対応する実参照終了時刻T2までの間(区間I)の生体情報を、生体情報B1として取得しラベル付けする。続いて相関判定手段16は、ラベル付けした生体情報Bと、心理変化データDとの相関を算出し、生体情報とイライラレベルとの関係を示す関係式を導出する。相関判定手段16は、例えば回帰分析を用いることで関係式(回帰式)を導出する。
【0048】
例えば、図6に示す心理変化データD(イライラレベル)及び生体情報B1(血圧)とは、図7に示すようにある程度の相関性がある。そして、回帰分析をおこなうことで、心理変化データD(イライラレベル)と生体情報B1(血圧)とは、図8の直線L1で示されるような比例関係にあることが分かる。なお、図8のグラフにおいて、縦軸はイライラレベルを示し、横軸は血圧を示している。相関判定手段16は、この直線Lで示される関係式を感情状態判定手段17に出力する。なお、図8の破線L’は、比較のために示す、従来の判定手法で用いられる判断式(閾値)である。
【0049】
別の運転者に対する導出例を図9及び10に示す。この場合も、心理変化データD(イライラレベル)と生体情報B2(血圧)との間にはある程度の相関性があり、回帰分析により図10の直線L2で示されるような比例関係が導出される。なお、図10でも、比較のために破線L’を示す。図6及び9からも分かるように、平均血圧や血圧の変動は運転者毎に異なるものであるが、相関判定手段16により導出される関係式(直線L1又はL2で示される関係式)も、そのような血圧の違いを反映して個人毎に導出される。
【0050】
なお、相関判定手段16は、平常状態を示す区間の生体情報に対してラベル付けを行ってもよい。また、相関判定手段16が心理変化データと生体情報との相関性を算出するために用いる手法は回帰分析に限られない。更に、相関判定手段16が感情状態判定手段17に出力する関係式は、直線L1やL2で示されるような一次関数に限定されず、二次関数などの任意の関数で定義することが可能である。
【0051】
感情状態判定手段17は、相関判定手段16により判定された相関関係に基づいて運転者のイライラ状態を推定する手段である。具体的には、感情状態判定手段17は、相関判定手段16から入力された関係式と、生体情報検出手段15により検出された生体情報とに基づいて、運転者のイライラ状態を判定する。そして、感情状態判定手段17は、判定結果をイライラ緩和装置などの他の装置(図示せず)に出力する。これにより、図示しない他の装置において運転者のイライラ状態に応じた制御が行われる。
【0052】
例えば、図8に示す関係式が入力され、生体情報検出手段15により血圧Bxが検出された場合、感情状態判定手段17は運転者のイライラレベルが1.5であると判定する。また、生体情報検出手段15により血圧Byが検出された場合、感情状態判定手段17は運転者のイライラレベルが2であると判定する。なお、感情状態判定手段17は、図8に示すような関係式を用いて導出した値をそのままイライラレベルとして設定してもよいし、導出された値を切り捨てたり四捨五入したりしたものをイライラレベルとして設定してもよい。例えば感情状態判定手段17は、図8に示す血圧Bxに対するイライラレベルが1であると判定してもよい。
【0053】
次に図11を参照して、イライラ推定装置1の処理について説明する。図11は、図1に示すイライラ推定装置1の処理を示すフローチャートである。
【0054】
車両情報検出手段11では、常時、車速やブレーキの踏み込みなどの車両情報を検出する(ステップS11)。また、環境情報検出手段12では、常時、車間距離、位置情報、交通情報などの環境情報を検出する(ステップS12)。また、生体情報検出手段15では、常時、心拍数、血圧、皮膚表面温度などの生体情報を検出する(ステップS13)。
【0055】
続いて環境要因判定手段14が、検出された車両情報及び環境情報に基づいて環境要因を判定する(ステップS14)。具体的には、環境要因判定手段14は、車両情報及び環境情報に基づいて参照データ記憶装置13から環境要因に応じた心理変化データを取得すると共に、発生した環境要因の発生時刻(実発生時刻)を記憶する。そして環境要因判定手段14は、心理データ及び実発生時刻に基づいて、実参照開始時刻及び実参照終了時刻を算出する。
【0056】
続いて相関判定手段16が、環境要因に応じた心理変化データと、検出された生体情報との相関関係を導出する(ステップS15)。具体的には、環境要因判定手段14は、実参照開始時刻及び実参照終了時刻により定められた計測時間において検出された生体情報と、心理変化データとの相関を示す関係式を導出する。
【0057】
続いて感情状態判定手段17が、導出された相関関係(関係式)と、検出された生体情報とに基づいてイライラ状態を推定する(ステップS16)、その後感情状態判定手段17は、推定結果を図示しない他の装置に出力する。これにより、他の装置において推定されたイライラ状態に基づく制御が行われる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態のイライラ推定装置1によれば、運転者のイライラ状態を推定する際に、運転者個人の特性を示す生体情報をその推定に織り込むことが可能になり、その結果、運転者のイライラ状態を高精度に推定できる。具体的には、図8及び10に示すような、運転者毎に異なる関係式を導出することで、運転者個人の特性を考慮してイライラ状態を精度良く判定できる。例えば、図8の関係式に対応する運転者の血圧がb12の場合、その運転者のイライラレベルは2であると判定されるが、図10の関係式に対応する運転者の血圧がb12の場合は、その運転者のイライラレベルは1未満であると判定される。
【0059】
これに対して、従来のように固定の閾値を用いて判定した場合、図8の関係式に対応する運転者の血圧と、図10の関係式に対応する運転者の血圧とが共にb12であれば、どちらもイライラレベルが2であると一律に判定されてしまう。これは、運転者個人の特性が考慮されることなく、万人向けの閾値b11〜b13を使用しているからである。
【0060】
また、イライラ推定装置1によれば、予め用意した心理変化データを用いることで、相関関係の導出のぶれを抑制し、より確実に運転者のイライラ状態を推定できる。また、この心理変化データは、車両情報又は環境情報に基づいて判定された環境要因毎に用意されているので、運転者個人の特性だけでなく運転者が遭遇する状況にも応じて、より精度良くイライラ状態を判定できる。
【0061】
また、イライラ推定装置1によれば、環境要因毎に基づいて決定された、相関関係の導出に関する時間を示すパラメータを用いて相関関係が導出されるので、環境要因毎に詳細に相関関係を判定できる。具体的には、相関関係の参照開始時刻t1、参照終了時刻t2及び参照時間(t2−t1)に基づいて実参照開始時刻T1、実参照終了時刻T2及び計測時間(T2−T1)が決定され、これら決定されたパラメータに基づいて相関関係が導出される。その結果、運転者のイライラ状態をより高精度に推定できる。
【0062】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0063】
本発明のイライラ推定装置1では、相関判定手段16が、参照データ記憶装置13から読み出した心理変化データを用いて生体情報と環境要因との相関関係を導出したが、別の手法で相関関係を導出してもよい。例えば、イライラ推定装置1が、環境要因に応じた運転者のイライラ状態の変化を学習する学習手段(図示せず)を更に備え、相関判定手段16が、心理変化パラメータに代えて、若しくはこの心理変化パラメータと共に、図示しない学習手段の学習結果を用いて相関関係を判定する。
【0064】
例えば学習手段は、推定されたイライラ状態を所定時間分だけ収集することで、例えば図2〜5と同様のデータ(以下「学習データ」という)を取得する。そして学習手段は、取得した学習データと、学習データ取得時に収集した車両情報及び環境情報を対応付け、学習結果として保持する。なお、学習手段は、学習結果を都度更新する。その後環境要因判定手段14が、環境要因の発生を判定するための車両情報及び環境情報に基づいて、環境要因に応じた学習結果を取得する。そして相関判定手段16が、環境要因判定手段14から入力された学習結果と、生体情報検出手段15から入力された生体情報とに基づいて相関関係を判定する。
【0065】
この場合、運転者のイライラ状態(イライラレベルの変化)が学習され、その学習結果に基づいて環境要因と生体情報との相関関係が導出される。その結果、運転者個人の特性をより正確に相関関係の導出に反映させることができ、その結果、運転者の心理状態をより高精度に推定できる。
【0066】
また上記実施形態では、相関判定手段16が実参照開始時刻T1、実参照終了時刻T2及び計測時間(T2−T1)に基づいて相関関係を判定したが、相関関係の判定手法はこれに限定されない。例えば、相関判定手段16は、これら三種類のパラメータのうち一のパラメータのみに基づいて相関関係を判定してもよい。
【0067】
また上記実施形態では、車両に搭載され運転者のイライラ状態を推定するイライラ推定装置に本発明を適用したが、本発明は、イライラ状態以外にも怒っている状態、不安な状態などの他の所定の心理状態を推定する装置にも適用可能である。また、他の乗り物の運転者、各種プラントの監視者、夜間の従業者などの他の対象に対しても本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本実施形態に係るイライラ推定装置の構成を示す図である。
【図2】他車からクラクションを鳴らされた場合における心理変化データの例を示す図である。
【図3】運転者がクラクションを鳴らした場合における心理変化データの例を示す図である。
【図4】割込みなどの場合における心理変化データの例を示す図である。
【図5】渋滞の場合における心理変化データの例を示す図である。
【図6】相関関係の導出例を示す図である。
【図7】相関関係の導出例を示す図である。
【図8】相関関係を示す関係式の例を示すグラフである。
【図9】相関関係の導出についての別の例を示す図である。
【図10】相関関係を示す関係式の別の例を示すグラフである。
【図11】図1に示すイライラ推定装置の処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0069】
1…イライラ推定装置、11…車両情報検出手段、12…環境情報検出手段、13…参照データ記憶装置、14…環境要因判定手段、15…生体情報検出手段、16…相関判定手段、17…感情状態判定手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、イライラ状態などの被験者の心理状態を推定する心理状態推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
運転中の安全性を向上させるために、イライラ状態などの運転者の心理状態を推定する装置が各種提案されている。例えば特許文献1には、被験者の心拍数や血圧などの生体情報を検出し、その検出した生体情報と予め設定した閾値との大小関係によってイライラ状態などを判定する生体情報表示装置が開示されている。
【特許文献1】特開2006−34803号公報
【特許文献2】特開2003−48448号公報
【特許文献3】特開2003−244758号公報
【特許文献4】特開2005−157662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1に記載の装置は、事前に設定された数値基準(閾値)に基づいてイライラ状態を判定するので、被験者個人に最適な結果を得ることができない。このことは、数値基準を万人向けのものに設定したとしても同様である。例えば、心拍数や血圧の平均値・変化量は個人毎に大きく異なるので、一般化した値を数値基準に設定すると、イライラ状態の判定の精度が低くなる。
【0004】
また、上記特許文献1に記載の生体情報表示装置は、被験者がイライラ状態にあるときはその被験者の血圧が上昇し且つ心拍数が増加する、という事実に基づいて被験者の心理状態を判定する。このとき、その生体情報表示装置は、イライラ状態について「イライラしている」と「イライラしていない」という二区分、血圧について上昇、維持及び下降の三区分、心拍数について増加、維持及び下降の三区分を予め設定し、被験者の生体情報及び心理状態をこれらの区分に当てはめている。しかしながら、このような手法を用いただけでは、被験者のイライラ状態を詳細に段階分けすることはできない。
【0005】
そこで、本発明は、被験者の心理状態を高精度に推定する心理状態推定装置を提供する
ことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る心理状態推定装置は、被験者の心理状態を推定する心理状態推定装置であって、被験者の生体情報を取得する生体情報取得手段と、被験者の心理状態を変化させ得る環境要因の発生を判定する環境要因判定手段と、環境要因判定手段により環境要因の発生が判定された場合に、発生した環境要因と、生体情報取得手段により取得された生体情報との相関関係を導出する相関関係導出手段と、相関関係導出手段により導出された相関関係に基づいて被験者の心理状態を推定する推定手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この心理状態推定装置では、まず被験者の生体情報と、被験者の心理状態を変化させ得る環境要因の発生とが検出され、これら生体情報と環境要因との相関関係が導出される。そして、導出された相関関係に基づいて被験者の心理状態が推定される。そのため、環境要因の発生を契機として、その環境要因が被験者の生理情報に与える影響を考慮した上で、被験者の心理状態が推定される。すなわち、心理状態を推定する際に、被験者個人の特性を示す生体情報をその推定に織り込むことが可能になり、その結果、被験者の心理状態を高精度に推定できる。なお、環境要因とは、例えば渋滞やクラクションなどのような、運転者の感情状態を変化させるイベントである。
【0008】
本発明の心理状態推定装置では、環境要因に応じた被験者の心理状態の変化を示す心理変化データを記憶する記憶手段を更に備え、環境要因判定手段は、環境要因の発生を判定するための情報に基づいて記憶手段から環境要因に応じた心理変化データを取得し、相関関係導出手段は、環境要因判定手段により取得された心理変化データに基づいて、環境要因に応じた心理変化データと生体情報との相関関係を導出することが好ましい。
【0009】
この場合、環境要因と生体情報との相関関係が、予め記憶されている心理変化データに基づいて導出される。このように相関関係導出用のデータを用いることで、導出のぶれを抑制し、より確実に被験者の心理状態を推定できる。
【0010】
本発明の心理状態推定装置では、環境要因に応じた被験者の心理状態の変化を学習する学習手段を更に備え、環境要因判定手段は、環境要因の発生を判定するための情報に基づいて環境要因に応じた学習手段の学習結果を取得し、相関関係導出手段は、環境要因判定手段により取得された学習結果に基づいて、環境要因に応じた学習結果と生体情報との相関関係を導出することが好ましい。
【0011】
この場合、被験者の心理状態が学習され、その学習結果に基づいて環境要因と生体情報との相関関係が導出される。その結果、被験者個人の特性をより正確に相関関係の導出に反映させることができ、その結果、被験者の心理状態をより高精度に推定できる。
【0012】
本発明の心理状態推定装置では、相関関係導出手段は、発生した環境要因に基づいて決定された、相関関係の導出に関する時間を示すパラメータを用いて相関関係を導出することが好ましい。
【0013】
この場合、環境要因毎に決定された、相関関係の導出に関する時間を示すパラメータを用いて相関関係が導出されるので、環境要因毎に詳細に相関関係を導出できる。その結果、被験者の心理状態をより高精度に推定できる。
【0014】
本発明の心理状態推定装置では、パラメータは、相関関係の導出に必要な時間間隔であることが好ましい。
【0015】
この場合、相関関係の導出に必要な時間間隔を用いて相関関係が導出される。相関関係の導出に必要な時間は、環境要因毎に異なることが考えられる。例えば、相関関係を瞬間的に導出できる環境要因もあれば、比較的長い時間を使わなければ相関関係を導出できない環境要因もある。したがって、相関関係の導出に必要な時間間隔を用いることで環境要因毎に詳細に相関関係を導出でき、その結果、被験者の心理状態をより高精度に推定できる。
【0016】
本発明の心理状態推定装置では、パラメータは、相関関係の導出の開始タイミングを示す開始時刻であることが好ましい。
【0017】
この場合、相関関係の導出の開始タイミングを示す開始時刻を用いて相関関係が導出される。相関関係の導出を開始するタイミングは、環境要因毎に異なることが考えられる。例えば、導出を即時に開始した方が好ましい環境要因もあれば、多少の時間を置いてから導出を開始した方が好ましい環境要因もある。したがって、導出の開始タイミングを示す開始時刻を用いることで環境要因毎に詳細に相関関係を導出でき、その結果、被験者の心理状態をより高精度に推定できる。
【0018】
本発明の心理状態推定装置では、パラメータは、相関関係の導出の終了タイミングを示す終了時刻であることが好ましい。
【0019】
この場合、相関関係の導出の終了タイミングを示す終了時刻を用いて相関関係が導出される。相関関係の導出を終了するタイミングは、環境要因毎に異なることが考えられる。例えば、導出を即時に終了してもよい環境要因もあれば、比較的長い時間を置いてから導出を終了した方が好ましい環境要因もある。したがって、導出の終了タイミングを示す終了時刻を用いることで環境要因毎に詳細に相関関係を導出でき、その結果、被験者の心理状態をより高精度に推定できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、被験者の心理状態を推定する際に、被験者の生体情報と被験者の心理状態を変化させ得る環境要因とに基づく相関関係が用いられるので、被験者の心理状態を高精度に推定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に係る心理状態推定装置の実施の形態を説明する。
【0022】
本実施の形態では、本発明に係る心理状態推定装置を、車両に搭載され、運転者のイライラ状態を推定するイライラ推定装置に適用する。本発明に係るイライラ推定装置は、運転者のイライラ状態に影響を与える環境要因毎に設定された心理変化データと運転者の生体情報との相関関係を取得し、取得した相関関係に基づいて運転者のイライラ状態を推定する。そして、このイライラ推定装置は、推定したイライラ状態を運転者支援装置、警報装置、イライラ緩和装置などの他の装置(図示せず)に提供する。
【0023】
図1〜図10を参照して、イライラ推定装置1について説明する。図1は、本実施形態に係るイライラ推定装置1の構成を示す図である。図2〜5は、図1に示す参照データ記憶装置13に記憶される心理変化データの例を示す図であり、それぞれ、他車からクラクションを鳴らされた場合、運転者がクラクションを鳴らした場合、割込みなどの場合、渋滞の場合を示すものである。図6及び7は、心理変化データと生体情報との相関関係の導出例を示す図である。図8は、心理変化データと生体情報との相関関係を示す関係式の例を示すグラフである。図9は、心理変化データと生体情報との相関関係の導出の別の例を示す図である。図10は、心理変化データと生体情報との相関関係を示す関係式の別の例を示すグラフである。
【0024】
イライラ推定装置1は、イライラ状態が表れる生体情報とイライラ状態に影響を及ぼす外部の環境要因とに基づいてイライラレベルを推定する。特に、イライラ推定装置1は、推定精度を向上させるために、環境要因毎に設定された心理変化データと運転者の生体情報との相関関係を用いてイライラレベルを推定する。このために、イライラ推定装置1は、車両情報検出手段11、環境情報検出手段12、参照データ記憶装置13、環境要因判定手段14、生体情報検出手段15、相関判定手段16及び感情状態判定手段17を備えている。特に、参照データ記憶装置13、環境要因判定手段14、相関判定手段16及び感情状態判定手段17は、イライラ推定装置1のECU(Electronic Control Unit)に実装される。
【0025】
なお、本実施の形態では、参照データ記憶装置13が特許請求の範囲に記載する記憶手段に相当し、環境要因判定手段14が特許請求の範囲に記載する環境要因判定手段に相当し、生体情報検出手段15が特許請求の範囲に記載する生体情報取得手段に相当し、相関判定手段16が特許請求の範囲に記載する相関関係導出手段に相当し、感情状態判定手段17が特許請求の範囲に記載する推定手段に相当する。
【0026】
車両情報検出手段11は、渋滞や割込みなどのイライラ状態に影響を与える環境要因が発生したことを推測するための車両側での情報を検出する手段である。例えば、車両情報検出手段11は、車速を検出するための車速センサ、ブレーキの踏み込みを検出するブレーキセンサ、クラクションが押されたことを検出するための圧力センサ、ハンドル操作を検出するための操舵角センサから構成される。この場合に車両情報検出手段11が検出する情報としては、例えば、車速センサにより検出される車速情報、ブレーキセンサにより検出される踏力情報、圧力センサにより検出される圧力情報、操舵角センサにより検出される操舵角情報が挙げられる。なお、車両情報検出手段11の構成は限定されず、例えば車速センサとブレーキセンサのみで構成してもよいし、上述したセンサ以外の構成部品を用いて構成してもよい。また、車両情報検出手段11が検出する情報の種類も限定されない。
【0027】
環境情報検出手段12は、渋滞や割込みなどのイライラ状態に影響を与える環境要因が発生したことを推測するための環境情報を検出する手段である。例えば、環境情報検出手段12は、地図データベースを備えVICS情報(渋滞情報など)を取得するナビゲーション装置、車間距離を検出するためのレーダセンサ、前方画像を撮像するカメラ、他車のクラクション音を検出する音センサなどから構成される。この場合に車両情報検出手段11が検出する情報としては、例えば、ナビゲーション装置により検出される位置情報及び交通情報、レーダセンサにより検出される車間距離情報、カメラにより取得される画像情報、音センサにより検出される音情報が挙げられる。環境情報検出手段12の構成は限定されず、例えばナビゲーション装置のみで構成してもよいし、上述した機器以外の構成部品を用いて構成してもよい。また、環境情報検出手段12が検出する情報の種類も限定されない。
【0028】
参照データ記憶装置13は、環境要因に応じた運転者のイライラレベルの変化を示す心理変化データを記憶する手段である。心理変化データは実験結果などに基づいて設定され、図2〜5に示すような特性曲線で示される。図2〜5の各グラフにおいて、縦軸はイライラレベル、横軸は時間をそれぞれ示している。また、これらのグラフにおける時刻tは環境要因の発生時刻を示し、時刻t1及びt2は、イライラレベルの推定に必要な心理変化データの参照開始時刻及び参照終了時刻をそれぞれ示す。これらの時刻t、t1及びt2は心理変化データの構成要素であり、環境要因毎に予め設定される。
【0029】
イライラレベルは、運転者のイライラ状態を示す指数であり、値が大きいほど運転者がよりイライラしていることを示す。なお、イライラレベルの設定方法は限定されない。例えば、イライラレベルを、平静状態を示す「0」、ムッとする程度の状態である「1」、怒りを我慢し、一触即発の状態である「2」、及び怒りを暴発させた状態である「3」の四種類に設定してもよい。また、イライラ状態を0〜3の任意の実数で表現してもよい。
【0030】
他車からクラクションを鳴らされた場合の運転者の心理状態の変化は、例えば図2のような特性曲線で示される。発生時刻tはクラクションが鳴らされた時を示す。運転者が他車からクラクションを鳴らされた場合、その直後に運転者に驚きの反応が生じ、その後徐々に運転者のイライラレベルが上昇していく。なお、驚きの反応はイライラ状態と同様に扱うことが可能である。このような心理状態の変化を特徴付けるために、参照開始時刻t1は発生時刻tの比較的直前に設定され、参照終了時刻t2は発生時刻tから比較的時間を置いて設定されている。図2の特性曲線で示される心理変化データは、クラクション音を示す情報(例えば振幅、周波数)と関連付けられて参照データ記憶装置13に記憶されている。
【0031】
運転者が他車に対してクラクションを鳴らした場合の運転者の心理状態の変化は、例えば図3のような特性曲線で示される。発生時刻tは運転者がクラクションを鳴らした時を示す。図3に示すように、運転者がクラクションを鳴らす前はその運転者のイライラレベルが上昇し続け、運転者がクラクションを鳴らした瞬間からイライラレベルが徐々に下降していく。これは、イライラレベルが高くなったことがクラクションを鳴らすという行為を引き起こし、クラクションを鳴らしたことによるカタルシス効果によって徐々にイライラ状態が解消されていく、という考えに基づいている。このような心理状態の変化を特徴付けるために、参照開始時刻t1と発生時刻tとの間隔、及び発生時刻tと参照終了時刻t2と間隔は、それぞれ比較的大きく確保されている。図3の特性曲線で示される心理変化データは、クラクションの作動を示す情報(例えば作動継続時間、所定時間内における作動回数)と関連付けられて参照データ記憶装置13に記憶されている。
【0032】
自車両が他車に急に割り込まれたり前車との車間距離が急激に減少したりした場合の運転者の心理状態の変化は、例えば図4のような特性曲線で示される。発生時刻tは、急な割込みや車間距離の急激な減少が発生した時を示す。この場合は、イライラレベルが短時間のうちに急激に上昇し、その後、イライラレベルは上昇後の値を維持するかもしくは緩やかに低下する。このような心理状態の変化を特徴付けるために、参照開始時刻t1は発生時刻tの比較的直前に設定されて、参照終了時刻t2は発生時刻tから比較的時間を置いて設定されている。また、参照時間(t2−t1)は比較的短く設定されている。
【0033】
運転者が渋滞に遭遇した場合の運転者の心理状態の変化は、例えば図5のような特性曲線で示される。発生時刻tは、運転者が渋滞に遭遇したときを示す。この場合は、運転者が渋滞に遭遇する直前から運転者のイライラレベルが上昇し続ける。このような心理状態の変化を特徴付けるために、参照開始時刻t1と発生時刻tとの間隔、及び発生時刻tと参照終了時刻t2と間隔は、それぞれ比較的大きく確保されている。また、参照時間(t2−t1)は比較的長く設定されている。
【0034】
なお、参照データ記憶装置13に格納される心理変化データの種類は上記四種類に限定されるものではない。
【0035】
環境要因判定手段14は、運転者のイライラレベルを変化させ得る環境要因の発生を判定する手段である。ここで、環境要因とは、例えば渋滞やクラクションなどのような、運転者の感情状態を変化させるイベントである。環境要因判定手段14が判定の対象とする環境要因は、クラクションによる他車への威嚇など、運転者のイライラ状態の変化との関連が高いものである。
【0036】
具体的には、環境要因判定手段14は、車両情報検出手段11により検出された車両情報と環境情報検出手段12により検出された環境情報とに基づいて、参照データ記憶装置13から環境要因に応じた心理変化データを取得する。すなわち、車両情報及び環境情報は環境要因の発生を判定するための情報である。続いて環境要因判定手段14は、発生した環境要因の発生時刻(実発生時刻)Tを記憶すると共に、その発生時刻Tと取得した心理変化データとに基づいて、参照開始時刻t1に対応する実参照開始時刻T1及び参照終了時刻t2に対応する実参照終了時刻T2を算出する。続いて環境要因判定手段14は、取得した心理変化データと、記憶した実発生時刻Tと、算出した実参照開始時刻T1及び実参照終了時刻T2とを相関判定手段16に出力する。
【0037】
以下では、環境要因判定手段14の処理をいくつかの例を用いて説明する。まず、他車からクラクションを鳴らされた場合について説明する。この場合、環境要因判定手段14はまず、環境情報検出手段12から入力された音情報が示す波形成分の振幅及び周波数を取得する。続いて環境要因判定手段14は、取得した振幅及び周波数が予め設定されている基準値を満たすか否かを判定し、その基準値を満たす場合にクラクションを鳴らされたと判定する。続いて環境要因判定手段14は、取得した振幅及び周波数に対応する心理変化データ(例えば図2に示す心理変化データ)を参照データ記憶装置13から取得する。なお、音情報に基づく心理変化データの取得方法は限定されない。例えば、図2に示される心理変化データをクラクション音の継続時間と関連付けて参照データ記憶装置13に記憶しておき、入力された音情報から導出したクラクション音継続時間に対応する心理変化データを取得するように環境要因判定手段14を構成してもよい。
【0038】
次に、運転者が他車に対してクラクションを鳴らした場合の処理を説明する。この場合、環境要因判定手段14は、車両情報検出手段11から入力された圧力情報からクラクションの作動時間を取得する。続いて環境要因判定手段14は、取得した作動時間に対応する心理変化データ(例えば図3に示す心理変化データ)を参照データ記憶装置13から取得する。なお、圧力情報に基づいて心理変化データの取得方法は限定されない。例えば環境要因判定手段14は、入力された圧力情報から所定時間内におけるクラクションの作動回数を取得し、その作動回数に対応する心理変化データを取得してもよい。また、図3に示される心理変化データを圧力と関連付けて参照データ記憶装置13に記憶しておき、入力された圧力情報から導出した圧力に対応する心理変化データを取得するように環境要因判定手段14を構成してもよい。
【0039】
次に、他車による割込みや車間距離の急激な減少が発生した場合の処理を説明する。この場合、環境要因判定手段14は、車両情報検出手段11から入力された車速情報及び踏力情報、環境情報検出手段12から入力された車間距離情報に基づいて、他車による割込みや車間距離の急激な減少が発生したか否かを判定する。例えば環境要因判定手段14は、車間距離が予め設定されている基準値以下であり、且つ車速の所定時間における減少量が所定の基準値以上である場合に、他車の割込みや車間距離の急激な減少が発生したと判定する。また環境要因判定手段14は、車間距離が予め設定されている基準値以下であり、且つ所定時間における踏力の増加量が所定の基準値以上である場合に割込みなどが発生したと判定してもよい。なお、車間距離の基準値は、一定でもよいし、車速に基づいて変化する値であってもよい。
【0040】
続いて環境要因判定手段14は、取得した車間距離、車速の変化量及びブレーキ踏力の変化量のうち一以上の情報に基づいて、心理変化データ(例えば図4に示す心理変化データ)を参照データ記憶装置13から取得する。
【0041】
次に、自車両が渋滞に巻き込まれたりその渋滞が解消したりした場合の処理を説明する。この場合、環境要因判定手段14はまず、車両情報検出手段11から入力された車速情報及び踏力情報に基づいて、自車両が渋滞に巻き込まれたか否かを判定する。例えば環境要因判定手段14は、車速情報で示される車速が予め設定されている基準範囲内であり且つその状態が一定時間以上続いたという渋滞条件を満たした場合に、自車両が渋滞に巻き込まれたと判定する。これとは別に、環境要因判定手段14は、予め設定された所定の時間内において、踏力情報で示される踏力が設定された基準値を所定回数だけ超える、ということを渋滞条件として設定してもよい。また、環境要因判定手段14は、これら車速情報及び踏力情報に関する基準の双方を満たすことを渋滞条件として設定してもよい。
【0042】
更に、環境要因判定手段14は、渋滞が解消されたか否かを判定することも可能である。具体的には、環境要因判定手段14は、自車両が渋滞に巻き込まれたと判定した時刻以降も引き続き自車両が渋滞条件を満足しているか否かを判定し続け、渋滞条件を満足しなくなった場合に渋滞が解消されたと判定する。環境要因判定手段14は、渋滞に遭遇したと判定した場合に、その判定時刻(渋滞遭遇時刻)から現在時刻までの時間を継続時間として保持する。また環境要因判定手段14は、渋滞を解消したと判定した場合に、その渋滞遭遇時刻から渋滞解消時刻までの時間を継続時間として保持すると共に、渋滞解消時刻から現在時刻までの時間を経過時間として保持する。
【0043】
続いて環境要因判定手段14は、保持している継続時間に基づいて、心理変化データ(例えば図5に示す心理変化データ)を参照データ記憶装置13から取得する。なお、環境要因判定手段14は、経過時間に基づいて心理変化データを取得してもよい。また、環境要因判定手段14は、渋滞遭遇又は渋滞解消を判定するために、環境情報検出手段12から入力されたVICS情報を用いてもよい。この場合も、環境要因判定手段14は、継続時間及び経過時間を算出して保持し、これらの情報に基づいて心理変化データを取得する。
【0044】
生体情報検出手段15は、運転者の生体情報を取得する手段である。具体的には、生体情報検出手段15は、皮膚電位センサ、心拍数センサ(心電センサでもよい)、血圧センサ、脳波センサなどで構成され、生体情報として心拍数、血圧、皮膚表面温度、皮膚電気抵抗、脳波などを検出する。生体情報検出手段15は、検出した生体情報を相関判定手段16及び感情状態判定手段17に出力する。
【0045】
相関判定手段16は、環境要因判定手段14により環境要因の発生が判定された場合に、発生した環境要因に応じた心理変化データ(イライラレベルの変化)と、生体情報検出手段15により取得された生体情報との相関関係を導出する手段である。言い換えれば、相関判定手段16は、環境要因と生体情報との相関関係を導出する。具体的には相関判定手段16は、まず、環境要因判定手段14から入力された実参照開始時刻T1及び実参照終了時刻T2に基づいて計測時間を設定する。この計測時間は、T2−T1で表される。続いて環境要因判定手段14は、その計測時間の間、生体情報検出手段15により検出された心拍、血圧、皮膚表面温度、皮膚電気抵抗及び脳波などの生体情報を取得する。
【0046】
続いて相関判定手段は、環境要因判定手段14から入力された心理変化データと、取得した生体情報との相関を示す関係式を導出し、導出された関係式を感情状態判定手段17に出力する。すなわち、相関判定手段16は、相関関係の導出の開始タイミングを示す実参照開始時刻と、その導出の終了タイミングを示す実参照終了時刻と、相関関係の導出に必要な計測時間という三種類のパラメータを用いて相関関係を導出する。すなわち、実参照開始時刻、実参照終了時刻及び計測時間は、相関関係の導出に関する時間を示すパラメータである。なお、相関判定手段16は、心理変化データと生体情報との関係式を所定の時間間隔で更新し、更新された関係式を感情状態判定手段17に出力する。
【0047】
図6〜8を用いて、相関判定手段16が関係式を導出する例を説明する。この例において、相関判定手段16には、割込みが発生したと判定された場合に抽出される心理変化データD(図4に示すものと同様のデータ)が入力されている。このとき、相関判定手段16は、心理変化データDの参照開始時刻t1に対応する実参照開始時刻T1から、参照終了時刻t2に対応する実参照終了時刻T2までの間(区間I)の生体情報を、生体情報B1として取得しラベル付けする。続いて相関判定手段16は、ラベル付けした生体情報Bと、心理変化データDとの相関を算出し、生体情報とイライラレベルとの関係を示す関係式を導出する。相関判定手段16は、例えば回帰分析を用いることで関係式(回帰式)を導出する。
【0048】
例えば、図6に示す心理変化データD(イライラレベル)及び生体情報B1(血圧)とは、図7に示すようにある程度の相関性がある。そして、回帰分析をおこなうことで、心理変化データD(イライラレベル)と生体情報B1(血圧)とは、図8の直線L1で示されるような比例関係にあることが分かる。なお、図8のグラフにおいて、縦軸はイライラレベルを示し、横軸は血圧を示している。相関判定手段16は、この直線Lで示される関係式を感情状態判定手段17に出力する。なお、図8の破線L’は、比較のために示す、従来の判定手法で用いられる判断式(閾値)である。
【0049】
別の運転者に対する導出例を図9及び10に示す。この場合も、心理変化データD(イライラレベル)と生体情報B2(血圧)との間にはある程度の相関性があり、回帰分析により図10の直線L2で示されるような比例関係が導出される。なお、図10でも、比較のために破線L’を示す。図6及び9からも分かるように、平均血圧や血圧の変動は運転者毎に異なるものであるが、相関判定手段16により導出される関係式(直線L1又はL2で示される関係式)も、そのような血圧の違いを反映して個人毎に導出される。
【0050】
なお、相関判定手段16は、平常状態を示す区間の生体情報に対してラベル付けを行ってもよい。また、相関判定手段16が心理変化データと生体情報との相関性を算出するために用いる手法は回帰分析に限られない。更に、相関判定手段16が感情状態判定手段17に出力する関係式は、直線L1やL2で示されるような一次関数に限定されず、二次関数などの任意の関数で定義することが可能である。
【0051】
感情状態判定手段17は、相関判定手段16により判定された相関関係に基づいて運転者のイライラ状態を推定する手段である。具体的には、感情状態判定手段17は、相関判定手段16から入力された関係式と、生体情報検出手段15により検出された生体情報とに基づいて、運転者のイライラ状態を判定する。そして、感情状態判定手段17は、判定結果をイライラ緩和装置などの他の装置(図示せず)に出力する。これにより、図示しない他の装置において運転者のイライラ状態に応じた制御が行われる。
【0052】
例えば、図8に示す関係式が入力され、生体情報検出手段15により血圧Bxが検出された場合、感情状態判定手段17は運転者のイライラレベルが1.5であると判定する。また、生体情報検出手段15により血圧Byが検出された場合、感情状態判定手段17は運転者のイライラレベルが2であると判定する。なお、感情状態判定手段17は、図8に示すような関係式を用いて導出した値をそのままイライラレベルとして設定してもよいし、導出された値を切り捨てたり四捨五入したりしたものをイライラレベルとして設定してもよい。例えば感情状態判定手段17は、図8に示す血圧Bxに対するイライラレベルが1であると判定してもよい。
【0053】
次に図11を参照して、イライラ推定装置1の処理について説明する。図11は、図1に示すイライラ推定装置1の処理を示すフローチャートである。
【0054】
車両情報検出手段11では、常時、車速やブレーキの踏み込みなどの車両情報を検出する(ステップS11)。また、環境情報検出手段12では、常時、車間距離、位置情報、交通情報などの環境情報を検出する(ステップS12)。また、生体情報検出手段15では、常時、心拍数、血圧、皮膚表面温度などの生体情報を検出する(ステップS13)。
【0055】
続いて環境要因判定手段14が、検出された車両情報及び環境情報に基づいて環境要因を判定する(ステップS14)。具体的には、環境要因判定手段14は、車両情報及び環境情報に基づいて参照データ記憶装置13から環境要因に応じた心理変化データを取得すると共に、発生した環境要因の発生時刻(実発生時刻)を記憶する。そして環境要因判定手段14は、心理データ及び実発生時刻に基づいて、実参照開始時刻及び実参照終了時刻を算出する。
【0056】
続いて相関判定手段16が、環境要因に応じた心理変化データと、検出された生体情報との相関関係を導出する(ステップS15)。具体的には、環境要因判定手段14は、実参照開始時刻及び実参照終了時刻により定められた計測時間において検出された生体情報と、心理変化データとの相関を示す関係式を導出する。
【0057】
続いて感情状態判定手段17が、導出された相関関係(関係式)と、検出された生体情報とに基づいてイライラ状態を推定する(ステップS16)、その後感情状態判定手段17は、推定結果を図示しない他の装置に出力する。これにより、他の装置において推定されたイライラ状態に基づく制御が行われる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態のイライラ推定装置1によれば、運転者のイライラ状態を推定する際に、運転者個人の特性を示す生体情報をその推定に織り込むことが可能になり、その結果、運転者のイライラ状態を高精度に推定できる。具体的には、図8及び10に示すような、運転者毎に異なる関係式を導出することで、運転者個人の特性を考慮してイライラ状態を精度良く判定できる。例えば、図8の関係式に対応する運転者の血圧がb12の場合、その運転者のイライラレベルは2であると判定されるが、図10の関係式に対応する運転者の血圧がb12の場合は、その運転者のイライラレベルは1未満であると判定される。
【0059】
これに対して、従来のように固定の閾値を用いて判定した場合、図8の関係式に対応する運転者の血圧と、図10の関係式に対応する運転者の血圧とが共にb12であれば、どちらもイライラレベルが2であると一律に判定されてしまう。これは、運転者個人の特性が考慮されることなく、万人向けの閾値b11〜b13を使用しているからである。
【0060】
また、イライラ推定装置1によれば、予め用意した心理変化データを用いることで、相関関係の導出のぶれを抑制し、より確実に運転者のイライラ状態を推定できる。また、この心理変化データは、車両情報又は環境情報に基づいて判定された環境要因毎に用意されているので、運転者個人の特性だけでなく運転者が遭遇する状況にも応じて、より精度良くイライラ状態を判定できる。
【0061】
また、イライラ推定装置1によれば、環境要因毎に基づいて決定された、相関関係の導出に関する時間を示すパラメータを用いて相関関係が導出されるので、環境要因毎に詳細に相関関係を判定できる。具体的には、相関関係の参照開始時刻t1、参照終了時刻t2及び参照時間(t2−t1)に基づいて実参照開始時刻T1、実参照終了時刻T2及び計測時間(T2−T1)が決定され、これら決定されたパラメータに基づいて相関関係が導出される。その結果、運転者のイライラ状態をより高精度に推定できる。
【0062】
以上、本発明に係る実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0063】
本発明のイライラ推定装置1では、相関判定手段16が、参照データ記憶装置13から読み出した心理変化データを用いて生体情報と環境要因との相関関係を導出したが、別の手法で相関関係を導出してもよい。例えば、イライラ推定装置1が、環境要因に応じた運転者のイライラ状態の変化を学習する学習手段(図示せず)を更に備え、相関判定手段16が、心理変化パラメータに代えて、若しくはこの心理変化パラメータと共に、図示しない学習手段の学習結果を用いて相関関係を判定する。
【0064】
例えば学習手段は、推定されたイライラ状態を所定時間分だけ収集することで、例えば図2〜5と同様のデータ(以下「学習データ」という)を取得する。そして学習手段は、取得した学習データと、学習データ取得時に収集した車両情報及び環境情報を対応付け、学習結果として保持する。なお、学習手段は、学習結果を都度更新する。その後環境要因判定手段14が、環境要因の発生を判定するための車両情報及び環境情報に基づいて、環境要因に応じた学習結果を取得する。そして相関判定手段16が、環境要因判定手段14から入力された学習結果と、生体情報検出手段15から入力された生体情報とに基づいて相関関係を判定する。
【0065】
この場合、運転者のイライラ状態(イライラレベルの変化)が学習され、その学習結果に基づいて環境要因と生体情報との相関関係が導出される。その結果、運転者個人の特性をより正確に相関関係の導出に反映させることができ、その結果、運転者の心理状態をより高精度に推定できる。
【0066】
また上記実施形態では、相関判定手段16が実参照開始時刻T1、実参照終了時刻T2及び計測時間(T2−T1)に基づいて相関関係を判定したが、相関関係の判定手法はこれに限定されない。例えば、相関判定手段16は、これら三種類のパラメータのうち一のパラメータのみに基づいて相関関係を判定してもよい。
【0067】
また上記実施形態では、車両に搭載され運転者のイライラ状態を推定するイライラ推定装置に本発明を適用したが、本発明は、イライラ状態以外にも怒っている状態、不安な状態などの他の所定の心理状態を推定する装置にも適用可能である。また、他の乗り物の運転者、各種プラントの監視者、夜間の従業者などの他の対象に対しても本発明を適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本実施形態に係るイライラ推定装置の構成を示す図である。
【図2】他車からクラクションを鳴らされた場合における心理変化データの例を示す図である。
【図3】運転者がクラクションを鳴らした場合における心理変化データの例を示す図である。
【図4】割込みなどの場合における心理変化データの例を示す図である。
【図5】渋滞の場合における心理変化データの例を示す図である。
【図6】相関関係の導出例を示す図である。
【図7】相関関係の導出例を示す図である。
【図8】相関関係を示す関係式の例を示すグラフである。
【図9】相関関係の導出についての別の例を示す図である。
【図10】相関関係を示す関係式の別の例を示すグラフである。
【図11】図1に示すイライラ推定装置の処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0069】
1…イライラ推定装置、11…車両情報検出手段、12…環境情報検出手段、13…参照データ記憶装置、14…環境要因判定手段、15…生体情報検出手段、16…相関判定手段、17…感情状態判定手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の心理状態を推定する心理状態推定装置であって、
前記被験者の生体情報を取得する生体情報取得手段と、
前記被験者の心理状態を変化させ得る環境要因の発生を判定する環境要因判定手段と、
前記環境要因判定手段により環境要因の発生が判定された場合に、発生した前記環境要因と、前記生体情報取得手段により取得された生体情報との相関関係を導出する相関関係導出手段と、
前記相関関係導出手段により導出された相関関係に基づいて前記被験者の心理状態を推定する推定手段と、
を備えることを特徴とする心理状態推定装置。
【請求項2】
前記環境要因に応じた前記被験者の心理状態の変化を示す心理変化データを記憶する記憶手段を更に備え、
前記環境要因判定手段は、前記環境要因の発生を判定するための情報に基づいて前記記憶手段から前記環境要因に応じた心理変化データを取得し、
前記相関関係導出手段は、前記環境要因判定手段により取得された心理変化データに基づいて、前記環境要因に応じた心理変化データと前記生体情報との相関関係を導出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の心理状態推定装置。
【請求項3】
前記環境要因に応じた前記被験者の心理状態の変化を学習する学習手段を更に備え、
前記環境要因判定手段は、前記環境要因の発生を判定するための情報に基づいて前記環境要因に応じた前記学習手段の学習結果を取得し、
前記相関関係導出手段は、前記環境要因判定手段により取得された学習結果に基づいて、前記環境要因に応じた学習結果と前記生体情報との相関関係を導出する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の心理状態推定装置。
【請求項4】
前記相関関係導出手段は、前記発生した環境要因に基づいて決定された、前記相関関係の導出に関する時間を示すパラメータを用いて前記相関関係を導出する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の心理状態推定装置。
【請求項5】
前記パラメータは、前記相関関係の導出に必要な時間間隔である、
ことを特徴とする請求項4に記載の心理状態推定装置。
【請求項6】
前記パラメータは、前記相関関係の導出の開始タイミングを示す開始時刻である、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の心理状態推定装置。
【請求項7】
前記パラメータは、前記相関関係の導出の終了タイミングを示す終了時刻である、
ことを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の心理状態推定装置。
【請求項1】
被験者の心理状態を推定する心理状態推定装置であって、
前記被験者の生体情報を取得する生体情報取得手段と、
前記被験者の心理状態を変化させ得る環境要因の発生を判定する環境要因判定手段と、
前記環境要因判定手段により環境要因の発生が判定された場合に、発生した前記環境要因と、前記生体情報取得手段により取得された生体情報との相関関係を導出する相関関係導出手段と、
前記相関関係導出手段により導出された相関関係に基づいて前記被験者の心理状態を推定する推定手段と、
を備えることを特徴とする心理状態推定装置。
【請求項2】
前記環境要因に応じた前記被験者の心理状態の変化を示す心理変化データを記憶する記憶手段を更に備え、
前記環境要因判定手段は、前記環境要因の発生を判定するための情報に基づいて前記記憶手段から前記環境要因に応じた心理変化データを取得し、
前記相関関係導出手段は、前記環境要因判定手段により取得された心理変化データに基づいて、前記環境要因に応じた心理変化データと前記生体情報との相関関係を導出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の心理状態推定装置。
【請求項3】
前記環境要因に応じた前記被験者の心理状態の変化を学習する学習手段を更に備え、
前記環境要因判定手段は、前記環境要因の発生を判定するための情報に基づいて前記環境要因に応じた前記学習手段の学習結果を取得し、
前記相関関係導出手段は、前記環境要因判定手段により取得された学習結果に基づいて、前記環境要因に応じた学習結果と前記生体情報との相関関係を導出する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の心理状態推定装置。
【請求項4】
前記相関関係導出手段は、前記発生した環境要因に基づいて決定された、前記相関関係の導出に関する時間を示すパラメータを用いて前記相関関係を導出する、
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の心理状態推定装置。
【請求項5】
前記パラメータは、前記相関関係の導出に必要な時間間隔である、
ことを特徴とする請求項4に記載の心理状態推定装置。
【請求項6】
前記パラメータは、前記相関関係の導出の開始タイミングを示す開始時刻である、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の心理状態推定装置。
【請求項7】
前記パラメータは、前記相関関係の導出の終了タイミングを示す終了時刻である、
ことを特徴とする請求項4〜6のいずれか一項に記載の心理状態推定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−301957(P2008−301957A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150697(P2007−150697)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】
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