説明

心理状態評価装置、心理状態評価システム、心理状態評価方法およびプログラム

【課題】対象人物の心理状態を精度よく評価することができる心理状態評価装置、心理状態評価システム、心理状態評価方法およびプログラムを提供する。
【解決手段】心理状態評価システム1は、対象人物5の心理状態を評価する心理状態評価装置2と、対象人物5の生理反応を測定する測定装置3とを備える。心理状態評価装置2は、情報取得部21と、心理状態評価部22とを備える。情報取得部21は、対象人物5の生体情報を取得する。心理状態評価部22は、情報取得部21で取得された生体情報を用いて対象人物5の快適感と覚醒感と疲労感とを指標として対象人物5の心理状態を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象人物の生体情報を用いて対象人物の心理状態を評価する心理状態評価装置、心理状態評価システム、心理状態評価方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、対象人物の覚醒を支援する覚醒支援装置が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された覚醒支援装置は、運転者の顔面を含む画像を用いて運転者の眠気度合いを判定し、眠気度合いの判定結果と運転者の操作とに応じて覚醒支援機器を作動させることによって、運転者の覚醒を支援する。このとき、順位付けポイントが最大の覚醒支援装置が作動する。
【0004】
なお、特許文献2〜4には、対象人物の呼吸状態を目標の状態に到達できるように誘導する手段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−118831号公報
【特許文献2】特開2010−104455号公報
【特許文献3】特開2010−104456号公報
【特許文献4】特開2010−104457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、運転者の眠気度合いが高い場合すなわち運転者の覚醒感が低い場合に、運転者への覚醒支援は、運転者の疲労度合いによって異なる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された従来の覚醒支援装置は、運転者の心理状態を十分に評価していないため、運転者の眠気度合いが高い場合、順位付けポイントが最大の覚醒支援機器による一律の覚醒支援しか行うことができなかった。このため、運転者に対して十分に覚醒支援を行うことができない場合があった。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みて為され、本発明の目的は、対象人物の心理状態を精度よく評価することができる心理状態評価装置、心理状態評価システム、心理状態評価方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の心理状態評価装置は、対象人物の生体情報を取得する情報取得部と、前記情報取得部で取得された前記生体情報を用いて前記対象人物の快適感と覚醒感と疲労感とを指標として前記対象人物の心理状態を評価する心理状態評価部とを備えることを特徴とする。
【0010】
この心理状態評価装置において、前記生体情報と前記心理状態との関係を表わす心理モデルを記憶する記憶部を備え、前記心理モデルは、前記生体情報と前記快適感との関係を表わす快適感用モデルと、前記生体情報と前記覚醒感との関係を表わす覚醒感用モデルと、前記生体情報と前記疲労感との関係を表わす疲労感用モデルとを含み、前記心理状態評価部は、前記情報取得部で取得された前記生体情報を前記快適感用モデルに適用して前記快適感を推定し、前記情報取得部で取得された前記生体情報を前記覚醒感用モデルに適用して前記覚醒感を推定し、前記情報取得部で取得された前記生体情報を前記疲労感用モデルに適用して前記疲労感を推定することが好ましい。
【0011】
この心理状態評価装置において、前記情報取得部は、前記生体情報として、前記対象人物の自律神経系の第1の生体情報、前記対象人物の中枢神経系の第2の生体情報および前記対象人物の生化学系の第3の生体情報のうち2つ以上を取得することが好ましい。
【0012】
この心理状態評価装置において、前記情報取得部は、少なくとも前記第3の生体情報を取得し、前記心理状態評価部は、前記情報取得部で取得された前記第3の生体情報を用いて前記疲労感を推定することが好ましい。
【0013】
この心理状態評価装置において、前記情報取得部は、前記生体情報として、前記第1の生体情報と前記第2の生体情報と前記第3の生体情報とを取得し、前記心理状態評価部は、前記情報取得部で取得された前記第1の生体情報と前記第2の生体情報と前記第3の生体情報とを用いて前記疲労感を推定することが好ましい。
【0014】
この心理状態評価装置において、前記情報取得部は、前記対象人物の唾液を用いて測定された生理反応から前記第3の生体情報を取得することが好ましい。
【0015】
この心理状態評価装置において、前記対象人物の属性情報を設定する属性設定部と、前記心理モデルを選択する選択部とを備え、前記記憶部は、前記属性情報ごとに前記心理モデルを対応させて記憶し、前記選択部は、前記属性設定部で設定された前記属性情報に対応する前記心理モデルを前記記憶部から選択し、前記心理状態評価部は、前記選択部で選択された前記心理モデルに、前記情報取得部で取得された前記生体情報を適用して前記快適感と前記覚醒感と前記疲労感とを推定することが好ましい。
【0016】
この心理状態評価装置において、前記属性情報は、性別、年齢およびパーソナリティ特性の少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0017】
この心理状態評価装置において、前記記憶部は、前記パーソナリティ特性と特定の生体情報から得られる生体指標との組み合わせに前記心理モデルを対応させて記憶し、前記情報取得部は、前記特定の生体情報を取得し、前記選択部は、前記属性設定部で設定された前記パーソナリティ特性と前記情報取得部で取得された前記特定の生体情報から得られる前記生体指標との組み合わせに対応する前記心理モデルを前記記憶部から選択することが好ましい。
【0018】
この心理状態評価装置において、前記選択部は、前記心理モデルを再選択する機能を有することが好ましい。
【0019】
この心理状態評価装置において、前記心理状態評価部の評価結果に応じて、前記心理状態を回復させるように、前記対象人物に刺激を与える刺激機器を制御する機器制御部を備えることが好ましい。
【0020】
この心理状態評価装置において、前記心理状態評価部の評価結果を出力する出力部を備えることが好ましい。
【0021】
本発明の心理状態評価システムは、前記心理状態評価装置と、前記対象人物の生理反応を測定する測定装置とを備えることを特徴とする。
【0022】
この心理状態評価システムにおいて、前記測定装置は、前記対象人物の唾液を用いて前記生理反応を測定することが好ましい。
【0023】
本発明の心理状態評価方法は、対象人物の生体情報を取得するステップと、前記生体情報を用いて前記対象人物の快適感と覚醒感と疲労感とを指標として前記対象人物の心理状態を評価するステップとを有することを特徴とする。
【0024】
本発明のプログラムは、コンピュータを、対象人物の生体情報を用いて前記対象人物の快適感と覚醒感と疲労感とを指標として前記対象人物の心理状態を評価する心理状態評価部として機能させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、対象人物の生体情報を用いて対象人物の快適感と覚醒感と疲労感とを指標として対象人物の心理状態を評価することによって、心理状態の評価精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態1に係る心理状態評価システムの構成を示すブロック図である。
【図2】心理状態を表わす3次元心理モデルであって、(a)は全体図、(b)は快適感および覚醒感の平面を示す図である。
【図3】快適感における推定値と観測値との相関関係を示す図である。
【図4】覚醒感における推定値と観測値との相関関係を示す図である。
【図5】疲労感における推定値と観測値との相関関係を示す図である。
【図6】実施形態1に係る心理状態評価装置の動作を示すフローチャートである。
【図7】実施形態1に係る心理状態評価システムを用いて対象人物の心理状態を回復させる場合であって、(a)快適感を示す図、(b)は覚醒感を示す図、(c)は疲労感を示す図である。
【図8】実施形態1に係る心理状態評価システムを用いて対象人物の心理状態の回復を促進する場合を説明するための説明図である。
【図9】実施形態1に係る心理状態評価装置を商品開発時に用いる場合を説明するための説明図である。
【図10】実施形態1に係る心理状態評価装置を対象人物の日常の健康管理に用いた場合を説明するための説明図である。
【図11】実施形態2に係る心理状態評価装置の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下の実施形態1,2では、対象人物の生体情報を用いて対象人物の心理状態を評価する心理状態評価装置およびこれを用いた心理状態評価システムについて説明する。
【0028】
(実施形態1)
実施形態1に係る心理状態評価システム1は、図1に示すように、対象人物5の心理状態を評価する心理状態評価装置2と、対象人物5の生理反応を測定する測定装置3とを備えている。
【0029】
本実施形態の心理状態評価装置2は、対象人物5の生体情報を用いて対象人物5の快適感と覚醒感と疲労感とを推定し、推定した快適感と覚醒感と疲労感とを指標として対象人物5の心理状態を評価する。
【0030】
対象人物5の生理反応としては、対象人物5の自律神経系の生理反応(以下「第1の生理反応」という)と、対象人物5の中枢神経系の生理反応(以下「第2の生理反応」という)と、対象人物5の生化学系の生理反応(以下「第3の生理反応」という)とがある。第1の生理反応は、例えば心拍、血圧、呼吸数、皮膚温または皮膚電気活動(皮膚電位水準を含む)などである。心理状態評価システム1では、1種類または複数種類の第1の生理反応が測定される。第2の生理反応は、例えば脳血流または脳波などである。心理状態評価システム1では、1種類または複数種類の第2の生理反応が測定される。第3の生理反応は、例えばコルチゾール、アミラーゼ、免疫グロブリンA、クロモグラニンA、DHEA、HHV−6、MHPG、8−OHdgまたはテストステロンなどの濃度または量である。心理状態評価システム1では、1種類または複数種類の第3の生理反応が測定される。
【0031】
快適感は、対象人物5の心理状態の中の快適の感情の度合いをいう。このような快適感を、例えば第1の生体情報と第2の生体情報とを用いて推定することができる。覚醒感は、対象人物5の心理状態の中の覚醒の感情の度合いをいう。このような覚醒感を、例えば第1の生体情報と第2の生体情報とを用いて推定することができる。疲労感は、対象人物5の心理状態の中の疲労の感情の度合いをいう。このような疲労感を、例えば第1の生体情報と第2の生体情報と第3の生体情報とを用いて推定することができる。
【0032】
心理状態は、図2(a)に示すように、快適感のレベルと覚醒感のレベルと疲労感のレベルとに応じて変化する。このような心理状態は、例えばリフレッシュ状態・イライラ状態・退屈状態・リラックス状態などの心理状態の種類と、これらのうちのいずれかの心理状態におけるレベルとを含んでいる。リラックス状態とは、副交換神経が優位であり、さらに脳波におけるα波が発現する状態のうち中枢神経が非活性である状態をいう。リフレッシュ状態とは、脳波におけるα波(8〜13Hz)のうち速い成分(10〜13Hz)であるα2波が発現し、中枢神経が活性である状態をいう。ラッセルの感情円環モデルによれば、図2(b)に示すように、リラックス状態としては、例えば満足・安心・くつろぎ・平穏・眠気などがある。リフレッシュ状態としては、例えば興奮・驚喜・喜び・幸福などがある。イライラ状態としては、例えば警戒・怒り・恐れ・緊張・不満・不愉快・抑圧などがある。退屈状態としては、例えば悲しみ・悩み・退屈・憂鬱などがある。
【0033】
続いて、図1に示す測定装置3の構成について説明する。測定装置3は、対象人物5の生体情報を測定する装置である。本実施形態の測定装置3は、第1の生理反応を測定する第1の測定部31と、第2の生理反応を測定する第2の測定部32と、第3の生理反応を測定する第3の測定部33とを備えている。
【0034】
第1の測定部31は、測定すべき第1の生理反応の種類に応じたセンサである。例えば、第1の測定部31は、心拍を測定する心拍センサ、血圧を測定する血圧センサ、呼吸数を測定する呼吸センサ、皮膚温を測定する皮膚温センサ、および、皮膚電気活動(発汗による電気伝導度の変化)を測定する皮膚電気活動センサなどを備えている。なお、心拍および血圧は、いわゆる脈波を検出することによって測定することができ、1つのセンサ(装置)で測定可能である。なお、第1の測定部31は、これら各種のセンサを全て備えていてもよいし、例えば仕様などに応じて、これら各種のセンサの中から必要なセンサのみを備えていてもよい。
【0035】
第2の測定部32は、測定すべき第2の生理反応の種類に応じたセンサである。例えば、第2の測定部32は、近赤外分光法(NIRS)によって表面脳血流を測定する脳血流測定装置、表面脳血流だけでなく脳の比較的深部(中心部)の脳血流も測定するfMRI装置、および、脳波を測定する脳波計などを備えている。なお、第2の測定部32は、これら各種の測定装置を全て備えていてもよいし、例えば仕様などに応じて、これら各種の測定装置の中から必要な測定装置のみを備えていてもよい。
【0036】
第3の測定部33は、測定すべき第3の生理反応の種類に応じたセンサである。例えば、第3の測定部33は、コルチゾール濃度を測定するコルチゾール濃度測定装置、アミラーゼ濃度を測定するアミラーゼ濃度測定装置、および、免疫グロブリンA濃度を測定する免疫グロブリンA濃度測定装置などを備えている。第3の測定部33において、コルチゾール濃度、アミラーゼ濃度および免疫グロブリンA濃度は、対象人物5の唾液、血液または尿の少なくともいずれかを採取し、それから測定することができる。測定の心理状態への影響が小さいという点で、第3の測定部33は、対象人物5の唾液を採取して第3の生理反応を測定することが好ましい。なお、第3の測定部33は、これら各種の測定装置を全て備えていてもよいし、例えば仕様などに応じて、これら各種の測定装置の中から必要な測定装置のみを備えていてもよい。
【0037】
続いて、心理状態評価装置2の構成について説明する。心理状態評価装置2は、情報取得部(データ処理部)21と、心理状態評価部22と、入力部23と、出力部24と、機器制御部25と、制御部26と、記憶部27とを備えている。心理状態評価装置2は、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)およびメモリが搭載されたコンピュータを主構成要素とする装置である。特に、心理状態評価部22、機器制御部25および制御部26は、コンピュータに搭載されたCPUを主構成要素とし、記憶部27に格納されているプログラムに従って動作する。
【0038】
情報取得部21は、測定装置3に接続され、測定装置3で測定された生理反応を、心理状態評価部22で処理可能なデータに信号処理してから、生体情報として心理状態評価部22へ出力する。すなわち、情報取得部21は、心理状態評価部22で用いられる生体情報を取得することができる。また、生体情報は、差分値であってもよい。なお、測定装置3で測定された生理反応がそのまま心理情報評価部22で用いられる場合、情報取得部21は、測定装置3で測定された生理反応をそのまま生体情報として心理状態評価部22へ出力する。
【0039】
本実施形態の情報取得部21は、第1のデータ処理部211と、第2のデータ処理部212と、第3のデータ処理部213とを備えている。第1のデータ処理部211は、第1の測定部31に対応して設けられ、第1の測定部31の出力(1種類または複数種類の第1の生理反応)を心理状態評価部22で処理可能なデータに信号処理し、第1の生体情報として心理状態評価部22へ出力する。第2のデータ処理部212は、第2の測定部32に対応して設けられ、第2の測定部32の出力(1種類または複数種類の第2の生理反応)を心理状態評価部22で処理可能なデータに信号処理し、第2の生体情報として心理状態評価部22へ出力する。第3のデータ処理部213は、第3の測定部33に対応して設けられ、第3の測定部33の出力(1種類または複数種類の第3の生理反応)を心理状態評価部22で処理可能なデータに信号処理し、第3の生体情報として心理状態評価部22へ出力する。
【0040】
例えば、心理状態評価部22が第1の生体情報として1分間当たりの心拍数を用いる場合、第1のデータ処理部211は、第1の測定部31の出力を用いて心拍を1分間計数し、計数値を心理状態評価部22へ出力する。また、心理状態評価部22が第1の生体情報として最高血圧および最低血圧を用いる場合、第1のデータ処理部211は、第1の測定部31の出力から血圧の最大値および最小値を求め、この最大値および最小値を心理状態評価部22へ出力する。
【0041】
また、心理状態評価部22が第2の生体情報として脳波の周波数スペクトルを用いる場合、第2のデータ処理部212は、例えば高速フーリエ変換(FFT)などによって第2の測定部32の出力から脳波の周波数スペクトルを求め、この周波数スペクトルを心理状態評価部22へ出力する。
【0042】
さらに、心理状態評価部22が第3の生体情報として単位容量当たりのコルチゾール量を用いる場合、第3のデータ処理部213は、例えば所定容量のコルチゾール量を単位容量当たりに換算するなどによって第3の測定部33の出力から単位容量当たりのコルチゾール量を求め、このコルチゾール量を心理状態評価部22へ出力する。また、心理状態評価部22が第3の生体情報として1cc当たりの免疫グロブリンAの量(差分値)を用いる場合、第3のデータ処理部213は、例えば所定容量の免疫グロブリンAの量を1cc当たりに換算するなどによって第3の測定部33の出力から1cc当たりの免疫グロブリンAの量を求め、この量を心理状態評価部22へ出力する。
【0043】
心理状態評価部22は、情報取得部21に接続され、情報取得部21で取得された第1の生体情報と第2の生体情報と第3の生体情報とを用いて、対象人物5の快適感と覚醒感と疲労感とを指標として対象人物5の心理状態(種類およびレベルを含む)を評価する。心理状態評価部22では、例えば、第1〜第3の生体情報と心理状態との関係を表わす心理モデルが用いられる。心理モデルは、記憶部27に記憶されている。
【0044】
心理モデルは、快適感用モデルと、覚醒感用モデルと、疲労感用モデルとを含んでいる。快適感用モデルは、生体情報と快適感との関係を表わすモデルである。覚醒感用モデルは、生体情報と覚醒感との関係を表わすモデルである。疲労感用モデルは、生体情報と疲労感との関係を表わすモデルである。本実施形態の心理モデルは、関数式(心理モデル式)で表わされている。心理モデル式は、第1の生体情報α1i(i=1,2,……)と第2の生体情報α2j(j=1,2,……)と第3の生体情報α3k(k=1,2,……)とが独立変数とされ、快適感β1と覚醒感β2と疲労感β3とが従属変数とされ、線形または非線形とされる。なお、心理モデルは、関数式ではなく、テーブル形式(表形式)で表わされていてもよい。
【0045】
本実施形態では、快適感は、対象人物5の自律神経系の生体情報(第1の生体情報)と、対象人物5の中枢神経系の生体情報(第2の生体情報)とで推定される。したがって、快適感用モデル(快適感用モデル式)は、例えば、快適感β1=a1×第1の生体情報α11+a2×第2の生体情報α21+a3となる。a1〜a3は係数である。心理状態評価部22は、情報取得部21で取得された第1の生体情報α11と第2の生体情報α21とを快適感用モデル式にあてはめて快適感β1を推定する。
【0046】
覚醒感は、対象人物5の自律神経系の生体情報(第1の生体情報)と、対象人物5の中枢神経系の生体情報(第2の生体情報)とで推定される。したがって、覚醒感用モデル(覚醒感用モデル式)は、例えば、覚醒感β2=b1×第1の生体情報α12+b2×第2の生体情報α22+b3となる。b1〜b3は係数である。心理状態評価部22は、情報取得部21で取得された第1の生体情報α12と第2の生体情報α22とを覚醒感用モデルにあてはめて覚醒感β2を推定する。
【0047】
疲労感は、対象人物5の自律神経系の生体情報(第1の生体情報)と、対象人物5の中枢神経系の生体情報(第2の生体情報)と、対象人物5の生化学系の生体情報(第3の生体情報)とで推定される。したがって、疲労感用モデル(疲労感用モデル式)は、例えば、疲労感β3=c1×第1の生体情報α13+c2×第2の生体情報α23+c3×第3の生体情報α31+c4となる。c1〜c4は係数である。心理状態評価部22は、情報取得部21で取得された第1の生体情報α13と第2の生体情報α23と第3の生体情報α33とを疲労感用モデルにあてはめて疲労感β3を推定する。なお、疲労感は、第1の生体情報と第2の生体情報と第3の生体情報との全てを用いて推定されるのではなく、これらのうちの1つまたは2つを用いて推定されてもよい。
【0048】
ところで、上述した心理モデルは、例えば、複数の被験者に対して短時間の急性ストレス負荷を与えた後、各被験者が能動的に作業をしたり呼吸をしたりするといったストレス緩和動作をした場合に決定されたモデルである。具体的には、急性ストレス負荷を与える前後および各被験者の能動的活動の前後における各被験者の生理反応を測定して各被験者の生体情報を取得することによって、心理モデルを統計的に決定する。すなわち、心理モデルは、急性ストレス負荷および各被験者の能動的活動によって変化した生体情報を用いて決定されたモデルである。急性ストレス負荷の具体例としては、モニタに表示された数字の加算問題をテンキーなどで回答するタスク、または、モニタに表示された文字(例えば「みどり」・「あか」など)の意味と表示色とが一致しているか否かを回答するタスクなどがある。このように心理モデルが、能動的活動を被験者が行った場合という一定条件下におけるモデルであるので、この一定条件下での対象人物5の心理状態をより精度よく評価することができる。
【0049】
他の例として、複数の被験者に対し、所定の心理状態に惹起する標準的な所定の刺激を与え、このときの各被験者の生理反応を測定して各被験者の生体情報を取得することによって、心理モデルを統計的に決定してもよい。標準的な所定の刺激は、例えば、五感(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)の少なくとも1つによって感知可能な1または複数の刺激であることが好ましい。具体的には、標準的な所定の刺激は、例えば、被験者をリラックスさせる静止画、または、被験者をイライラさせる動画などであり、さらに、上記画像に、被験者をリラックスさせる音楽、または、被験者をイライラさせる音楽などを合わせてもよい。さらに、被験者をリラックスさせるアロマオイルを合わせてもよい。このように心理モデルが五感の少なくとも1つによって感知可能な1または複数の刺激を被験者に与えた場合という一定条件下におけるモデルであるので、この一定条件下での対象人物5の心理状態をより精度よく評価することができる。
【0050】
なお、心理モデルは、複数の被験者に対し、所定のタイミングで五感の少なくとも1つによって感知可能な1または複数の刺激を与えた場合における生体情報と心理状態との関係であって所定のタイミングからの時系列的な関係を表わすモデルであってもよい。このような心理モデルは時系列な関係を表わすので、心理状態評価部22は、対象人物5の心理状態を所定のタイミングからの経時変化で評価することができる。
【0051】
また、心理モデルは、属性情報別に予め作成され、属性情報別に対応付けられて記憶部27に記憶されている。例えば、記憶部27に記憶されている複数の心理モデルは、まず、男性用の心理モデルと女性用の心理モデルとに分類される。また、男性用の心理モデルがさらに年代別に用意され、さらに、男性用の心理モデルまたは年代別の男性用の心理モデルがパーソナリティ特性別に用意されている。また、女性用の心理モデルがさらに年代別に用意され、さらに、女性用の心理モデルまたは年代別の女性用の心理モデルがパーソナリティ特性別に用意されている。なお、心理モデルは、複数の属性情報のうちの1つの属性情報によって大別され、残りの属性情報によって独立変数の係数が変更されるようなモデルであってもよい。具体的には、男性用の心理モデルも女性用の心理モデルも、独立変数の係数が年齢またはパーソナリティ特性に応じて変更される。なお、記憶部27に記憶されている複数の心理モデルは、上記のような分類に限定されず、性別、年齢およびパーソナリティ特性の少なくとも1つを用いた分類であってもよい。
【0052】
入力部23は、例えばキーボード・複数の操作ボタン・マウス・タッチパネルなどであり、対象人物5またはオペレータが制御部26に与える各種コマンドおよびデータなどを入力するための装置である。例えば、入力部23には、対象人物5の属性に関する情報が入力される。
【0053】
出力部24は、例えばCRT(Cathode-Ray Tube)ディスプレイ・液晶ディスプレイ・有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイなどの表示機器またはプリンタなどであり、各種コマンドおよびデータを表示する機能を有している。なお、出力部24は、例えばスピーカなどの音声出力機器であってもよい。この場合、出力部24は、各種コマンドおよびデータを音(音声を含む)で出力する。
【0054】
このような出力部24は、心理状態評価部22の評価結果を出力する。すなわち、出力部24は、心理状態評価部22で評価された心理状態を出力する。このように対象人物5の心理状態を出力部24が出力することによって、対象人物5およびオペレータに評価結果を略リアルタイムで認識させることができる。出力部24は、対象人物5の心理状態を例えば3次元心理モデル上に表示してもよい。これにより、対象人物5の心理状態を視覚的に容易に認識することができる。
【0055】
また、出力部24は、心理状態評価部22の評価結果に応じて、対象人物5の対処方法(アドバイス)を出力する機能を有している。
【0056】
なお、出力部24は、対象人物5の心理状態として、測定終了時の最終評価結果を出力してもよいし、測定開始から所定の時間間隔で評価された評価結果を時系列で出力してもよい。評価結果を時系列で出力することによって、対象人物5の心理状態を軌跡で出力するから、対象人物5の心理状態の時間変化を認識させることができる。
【0057】
機器制御部25は、例えばLAN(Local Area Network)などのネットワークによって複数(図示例では3台)の刺激機器4,4,4の各々に接続されている。機器制御部25は、各刺激機器4に制御信号を出力して各刺激機器4を制御する。
【0058】
刺激機器4は、対象人物5の五感の少なくとも1つに刺激を与えて対象人物5の心理状態を変化させるための機器である。刺激機器4の具体例としては、照明光の照度および色温度を変えることができる照明機器、さまざまなジャンルの映像を選択して提示する映像機器、または、さまざまなジャンルの音楽を選択して再生する音響機器などがある。刺激機器4の他の例としては、対象人物5に触覚刺激および揺動を与える機能チェア、芳香剤を噴霧する芳香剤噴霧器、対象人物5の周囲の空調を制御する空調機器、または、対象人物5の周囲に高濃度酸素を供給する高濃度酸素供給装置などがある。
【0059】
機器制御部25は、心理状態評価部22の評価結果に応じて、対象人物5の心理状態を回復させるように各刺激機器4を制御する。例えば、機器制御部25は、芳香剤噴霧器に、対象人物5のやる気を喚起させるような香りの芳香剤を噴霧させたり、音響機器に、明るい音楽を再生させたり、音量を上げさせたりする。
【0060】
また、機器制御部25は、対象人物5の呼吸のリズムを目標のリズムに誘導するように各刺激機器4を制御することができる。なお、呼吸のリズムを目標のリズムに誘導するための動作は、特許文献2〜4に記載された内容と同様であるので、上記動作の詳細な説明については省略する。これにより、対象人物5の心理状態を短時間で効果的に回復させることができる。
【0061】
制御部26は、測定装置3を制御するとともに、心理状態評価装置2全体を制御する。制御部26は、属性設定部261と、選択部262と、条件設定部263との各機能を実行する。
【0062】
属性設定部261は、入力部23に入力された情報を用いて、対象人物5の属性情報を設定する。対象人物5の属性情報は、性別(男女別)、年齢およびパーソナリティ特性などを含んでいる。このように対象人物5の個性が性別、年齢およびパーソナリティ特性によって指定される。パーソナリティ特性は、例えば、公知の性格診断法によって判定される性格などである。具体的には、出力部24がアンケートの設問を出力し、設問の回答を対象人物5に入力部23から入力させた後、属性設定部261は、入力部23に入力された回答を分析することによって、対象人物5の性格を判定(診断)する。なお、アンケート用紙が対象人物5に配布され、対象人物5からの回答が分析されて予め対象人物5の性格が判定され、判定された性格がパーソナリティ特性として入力部23に入力されてもよい。この場合、属性設定部261は、入力部23に入力されたパーソナリティ特性を設定する。
【0063】
選択部262は、属性設定部261で設定された属性情報に対応する心理モデルを記憶部27から選択する。条件設定部263は、選択部262で選択された心理モデルに用いられる生体情報を情報取得部21が取得するために、1種類または複数種類の生理反応を測定装置3が測定して情報取得部21がデータ処理するように測定装置3および情報取得部21を制御する。心理状態評価部22では、選択部262で選択された心理モデルが用いられる。すなわち、心理状態評価部22は、選択部262で選択された心理モデルに、情報取得部21で取得された生体情報を適用して快適感と覚醒感と疲労感とを推定する。
【0064】
このように対象人物5の個性を対象人物5の属性によって指定することができるので、対象人物5にとって適切に適合した心理モデルを選択することができ、対象人物5の心理状態を適切に評価することができる。
【0065】
例えば、入力部23に「男性、30代、真面目な性格」が入力されると、選択部262は、真面目な性格の30代の男性用の心理モデルを選択し、この心理モデルを心理状態評価部22へ出力する。心理状態評価部22へ出力された心理モデルは、心理状態評価部22で設定される。例えば選択部262で選択された心理モデル(心理モデル式)の独立変数αとして心拍数と最高血圧と皮膚電気活動と脳波とが用いられる場合、これらの生体情報を情報取得部21が取得するように、条件設定部263は、測定装置3における心拍計と血圧計と皮膚電気活動センサと脳波計とを稼動させる。あるいは、これらの生体情報を情報取得部21が取得するように、条件設定部263は、測定装置3における心拍計・血圧計・皮膚電気活動センサ・脳波計で対象人物5の生理反応を測定する旨のメッセージを出力部24に出力させる。さらに、測定装置3で得られた各データから心拍数・最高血圧・皮膚電気活動・脳波の各生体情報を生成するように、条件設定部263は、情報取得部21にデータ処理させる。
【0066】
このような構成では、複数の心理モデルが予め用意され、対象人物5の属性情報に応じて複数の心理モデルから1つの心理モデルが選択され、この選択された心理モデルに用いられている生体情報を情報取得部21が取得するように、測定装置3および情報取得部21が制御される。これにより、本実施形態の心理状態評価システム1では、対象人物5の属性に合わせて必要な生体情報を取得することができ、不必要な生体情報を取得するといった無駄をなくすことができる。
【0067】
記憶部27は、不揮発性のメモリ素子であるROM(Read Only Memory)と、書き換え可能な不揮発性のメモリ素子であるEEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory)またはフラッシュメモリと、揮発性のメモリ素子であるRAM(Random Access Memory)とを備えている。
【0068】
記憶部27は、制御部26に接続され、各種のデータを記憶している。特に、記憶部27は、属性情報ごとに心理モデルを対応させて記憶している。
【0069】
また、記憶部27には、心理状態評価装置(コンピュータ)2を、心理状態評価部22、機器制御部25および制御部26として機能させるためのプログラムが格納されている。なお、上記プログラムは、心理状態評価装置2の初期設定時に記憶部27に記憶される。ただし、心理状態評価装置2が上記プログラムを使用開始後に搭載する場合、心理状態評価装置2が上記プログラムを搭載する手法の一例としては、上記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体(例えばメモリカード、CD−ROM、DVD−ROMなど)を用いる手法がある。記録媒体を用いる場合、心理状態評価装置2は、記録媒体のデータを読み取るためのドライブ装置(図示せず)を備えていればよい。また、他の手法としては、ネットワークを用いて上記プログラムをサーバからダウンロードする手法がある。ネットワークを介して上記プログラムをダウンロードする場合、心理状態評価装置2は、ネットワークを用いてサーバと通信するための通信機能(図示せず)を有していればよい。
【0070】
ところで、制御部26の選択部262は、心理モデルを再選択するように構成されている。例えば心理状態の評価結果に違和感を感じた対象人物5またはオペレータなどから、選択部262に心理モデルの再選択をさせるための再選択指示が入力部23に入力されると、選択部262が心理モデルを再選択する。選択部262は、例えば、対象人物5の属性情報に応じて選択されている心理モデルに変えて、対象人物5の属性情報に近い他の心理モデルを選択したり、対象人物5の属性情報に応じて選択されている心理モデルの係数を予め設定されている所定のステップ(刻み幅)で変更したりすることなどによって、心理モデルの再選択を実行する。選択部262の再選択によって、条件設定部263は、必要に応じて測定装置3および情報取得部21を再設定する。本実施形態の心理状態評価装置2は、心理モデルを再選択することによって、種々の心理モデルを用いて対象人物5の心理状態を評価することができ、より適切な心理状態の評価結果を得ることができる。
【0071】
次に、心理モデルの精度について説明する。例えば、オペレータは複数の被験者に所定の急性ストレスおよびストレス緩和刺激を与える。このとき、オペレータは、各被験者に対する主観評価を用いて各被験者の快適感と覚醒感と疲労感とを求める。一方、各被験者の生理反応を測定装置3が測定して情報取得部21がデータ処理し、心理状態評価部22が心理モデル(心理モデル式)を用いて各被験者の快適感と覚醒感と疲労感とを推定する。図3〜5の横軸は観測値であり、縦軸は推定値を示す。観測値は、主観評価から求められた値である。推定値は、心理モデルから推定された値である。図3に示す快適感の場合、相関係数Rが0.60であり、図4に示す覚醒感の場合、相関係数Rが0.70であり、図5に示す疲労感の場合、相関係数Rが0.61である。なお、快適感・覚醒感・疲労感の全てのモデルの有意確率は1%以内で有意である。
【0072】
次に、本実施形態に係る心理状態評価システム1を用いた心理状態評価方法について図6を用いて説明する。まず、対象人物5またはオペレータなどによって入力部23に対象人物5の属性情報が入力され(S1)、制御部26の属性設定部261が属性情報を設定する。その後、記憶部27に格納されている複数の心理モデルの中から、属性設定部261で設定された属性情報に対応する心理モデルを選択部262が選択する(S2)。選択部262で選択された心理モデルは、心理状態評価部22に出力され、心理状態評価部22で設定される。また、選択部262で選択された心理モデル(心理モデル式)の独立変数に対応する生体情報を情報取得部21が取得するように、条件設定部263が測定装置3および情報取得部21を設定する(S3)。
【0073】
次に、測定装置3が対象人物5の生理反応を測定し(S4)、測定装置3で測定された生理反応を情報取得部21が取得してデータ処理する(S5)。その後、心理状態評価部22は、ステップ2で選択された心理モデルに情報取得部21からの生体情報を適用し、対象人物5の快適感と覚醒感と疲労感とを推定して対象人物5の心理状態を評価する(S6)。その後、出力部24が心理状態評価部22の評価結果を出力する(S7)。
【0074】
次に、本実施形態に係る心理状態評価システム1の使用例について説明する。まず、第1の使用例として、本実施形態の心理状態評価システム1を用いて対象人物5の心理状態を回復させる場合について説明する。心理状態評価装置2は、対象人物5の心身状態を評価した後、対象人物5の呼吸のリズムを目標のリズムに誘導するように各刺激機器4を制御する。図7(a)は快適感と呼気間隔との関係を示し、図7(b)は覚醒感と呼気間隔との関係を示し、図7(c)は疲労感と呼気間隔との関係を示している。図7(a)〜(c)の0%は、対象人物5の通常の呼気間隔であり、100%は、対象人物5が苦しくない程度の最大呼気間隔である。図7(a)の快適感の値、図7(b)の覚醒感の値および図7(c)の疲労感の値は、いずれも「呼吸誘導を実施した後のレベル」から「心身状態を評価した時点のレベル」を差し引いた値である。図7に示すように、呼気間隔が100%近傍となる条件で呼吸誘導を実施した場合に、快適感は大きくなり、覚醒感および疲労感は小さくなった。これにより、対象人物5が苦しくない程度の最大呼気間隔によって、ストレスの緩和および入眠に対する効果を得ることができる。
【0075】
続いて、第2の使用例として、本実施形態の心理状態評価システム1を用いて対象人物(運転者)5の心理状態の回復を促進する場合について図8を用いて説明する。第2の使用例では、心理状態評価システム1は車に搭載されている。運転中の対象人物5の覚醒感が低下した場合に、心理状態評価装置2は、覚醒感とともに疲労感も指標として心理状態を評価しているので、疲労感の大きさに応じて対処方法のメッセージを変えることができる。例えば、疲労感が小さい場合、対象人物5の五感に刺激を与えたり、短い休憩または気分転換を促したりする旨のアドバイスを心理状態評価装置2が出力する。一方、疲労感が大きい場合、長い休憩(仮眠)を促す旨のアドバイスを心理状態評価装置2が出力する。これにより、運転中の対象人物5の覚醒感が同じように低下した場合であっても、疲労感の大きさに応じて、適切なアドバイスを対象人物5に提案することができる。
【0076】
なお、本実施形態の心理状態評価装置2は、上述のような運転時だけでなく、VDT(Visual Display Terminals)作業時または学習時においても、同様のことを実現することができ、対象人物5に対して適切な休憩を促すことができる。
【0077】
続いて、第3の使用例として、本実施形態の心理状態評価システム1を商品開発時に用いる場合について説明する。この場合、心理状態評価装置2は、例えば使用者をリフレッシュさせる商品を使用した対象人物(商品使用者)5の心理状態を評価する。図9に示す「商品a」、「商品b」および「商品c」は、いずれも対象人物5をリフレッシュさせることができるが、図9に示すように、使用後における疲労感の大きさが異なっている。このような評価結果を商品開発者が得ることによって、同じように使用者をリフレッシュさせる商品であっても、使用後の疲労感を低減させる商品の開発を促したり、他の商品との差別化を図ったりすることができる。
【0078】
続いて、第4の使用例として、本実施形態の心理状態評価システム1を対象人物5の日常の健康管理に用いた場合について説明する。心理状態評価装置2が毎日同じ時刻に対象人物5の心理状態を評価することによって、図10に示すように、前日との比較において、快適感および覚醒感に大きな変化がなかったとしても、疲労感が蓄積して大きくなっていることを対象人物5に知らせることができる。これにより、対象人物5が自己の心理状態の変化を客観的に得ることができるので、対象人物5の健康管理に役立つ。
【0079】
また、同じ日であっても、対象人物5が特定の作業を行ったり、特定の商品を使用したりした場合に、心理状態評価装置2が開始前と開始後とに心理状態を評価することによって、対象人物5に疲労感の変化を知らせることができる。
【0080】
なお、対象人物5が書斎またはリビングでの作業を終了した後に、心理状態評価装置2が快適感と覚醒感と疲労感とを指標として心理状態を評価することによって、対象人物5または住宅設計者などは、快適感・覚醒感だけでなく疲労感も考慮して、書斎またはリビングが作業に適している空間であるか否かを判断することができる。また、対象人物5が寝室での睡眠を終了した後に、心理状態評価装置2が快適感と覚醒感と疲労感とを指標として心理状態を評価することによって、対象人物5などは、快適感・覚醒感だけでなく疲労感も考慮して、睡眠の質を推測することができる。
【0081】
以上の説明より、本実施形態によれば、対象人物5の生体情報を用いて対象人物5の快適感と覚醒感と疲労感とを指標として対象人物5の心理状態を評価することによって、心理状態の評価精度を高めることができる。
【0082】
また、本実施形態によれば、記憶部27に記憶されている心理モデルを用いることによって、心理状態の指標となる快適感と覚醒感と疲労感とを容易に推定することができる。
【0083】
さらに、本実施形態によれば、第1の生体情報と第2の生体情報と第3の生体情報といった複数のカテゴリの生体情報を用いて疲労感を推定することによって、疲労感をさらに精度よく推定することができる。
【0084】
特に、疲労感と生化学系の生体情報(第3の生体情報)との因果関係が高く、本実施形態では、第3の生体情報を用いて疲労感を推定することによって、疲労感をさらに精度よく推定することができる。
【0085】
また、本実施形態では、第3の生体情報が、対象人物5の唾液を用いて測定された第3の生理反応から求められた情報である。これにより、対象人物5の血液または尿を用いて第3の生理反応が測定された場合に比べて、測定時における対象人物5の負担を軽減することができるので、快適感、覚醒感または疲労感が測定によって変化することを低減できる。その結果、対象人物5の心理状態を精度よく評価することができる。
【0086】
本実施形態は、対象人物5の属性情報に応じて心理モデルを選択し、この心理モデルを用いて快適感と覚醒感と疲労感とを推定して心理状態を評価する。これにより、対象人物5の属性に適した評価を実現することができる。
【0087】
特に、本実施形態では、対象人物5の属性を性別、年齢およびパーソナリティ特性によって指定することができるので、対象人物5に、より適切に適合した心理モデルを選択することができる。これにより、対象人物5に合った、より適切な心理状態を評価することができる。
【0088】
また、本実施形態では、選択部262が心理モデルを再選択することができるので、種々の心理モデルを用いて心理状態を評価することができ、その結果、対象人物5に合った、より適切な心理状態を評価した評価結果を得ることができる。
【0089】
さらに、本実施形態によれば、心理モデルが、一定条件下において統計的に決定されたモデルであるので、この一定条件下での対象人物5の心理状態をより精度よく評価することができる。
【0090】
本実施形態によれば、刺激機器4を制御して対象人物5に刺激を与えることによって、対象人物5の心理状態を評価するだけでなく、変化させることができる。
【0091】
また、本実施形態によれば、対象人物5の心理状態を出力部24が出力することによって、対象人物5またはオペレータに評価結果を略リアルタイムで認識させることができる。例えば、対象人物5の心理状態を3次元モデルで視覚的に表示することができる。
【0092】
(実施形態2)
実施形態2に係る心理状態評価システム1は、パーソナリティ特性と生体指標との組み合わせに対応する心理モデルを用いて心理状態を評価する点で、実施形態1に係る心理状態評価システム1と相違する。なお、実施形態1の心理状態評価システム1と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0093】
本実施形態で用いられる生体指標は、対象人物5の特定の生体情報から得られる指標である。また、本実施形態では、パーソナリティ特性を数値化したパーソナリティスコアが用いられている。パーソナリティスコアは、例えばSTAIから得られた特性不安などである。
【0094】
本実施形態の記憶部27は、パーソナリティ特性と生体指標との組み合わせに心理モデルを対応させて記憶している。なお、実施形態1の記憶部27と同様の機能については説明を省略する。
【0095】
本実施形態の情報取得部21は、特定の生体情報を取得する。特定の生体情報としては、対象人物5の皮膚電位水準などが用いられる。なお、実施形態1の情報取得部21と同様の機能については説明を省略する。
【0096】
本実施形態の選択部262は、パーソナリティスコアと閾値とを比較する第1の比較部と、特定の生体情報から生体指標を算出する算出部と、生体指標と閾値とを比較する第2の比較部との各機能を実行する。
【0097】
第1の比較部は、例えば、パーソナリティスコアと第1の閾値とを比較するとともに、パーソナリティスコアと第2の閾値(>第1の閾値)とを比較する。その結果、パーソナリティスコアは、第1の閾値以下であるか、第1の閾値より大きく第2の閾値より小さいか、第2の閾値以上であるかに分類される。
【0098】
算出部は、今回取得した特定の生体情報から以前に取得した特定の生体情報を差し引いた値を生体指標として算出する。
【0099】
第2の比較部は、例えば、生体指標と第3の閾値とを比較するとともに、生体指標と第4の閾値(>第3の閾値)とを比較する。その結果、生体指標は、第3の閾値以下であるか、第3の閾値より大きく第4の閾値より小さいか、第4の閾値以上であるかに分類される。
【0100】
このような選択部262は、属性設定部261で設定されたパーソナリティ特性と算出部で算出された生体指標との組み合わせに対応する心理モデルを記憶部27から選択する。例えば、パーソナリティスコアが第1の閾値以下であって生体指標が第3の閾値以下である場合、選択部262は、第1の心理モデルを記憶部27から選択する。パーソナリティスコアが第2の閾値以上であって生体指標が第4の閾値以上である場合、選択部262は、第2の心理モデルを記憶部27から選択する。それ以外の場合、選択部262は、第3の心理モデルを記憶部27から選択する。第1の心理モデル、第2の心理モデルおよび第3の心理モデルは、互いに異なるモデルである。なお、実施形態1の選択部262と同様の機能については説明を省略する。
【0101】
次に、本実施形態に係る心理状態評価システム1を用いた心理状態評価方法について図11を用いて説明する。まず、対象人物5またはオペレータなどによって入力部23に対象人物5のパーソナリティ特性が入力され(S11)、制御部26の属性設定部261がパーソナリティ特性を設定する。その後、測定装置3が生理反応を測定して情報取得部21が生体情報を取得する(S12)。その後、選択部262が生体指標を算出する(S13)。その後、記憶部27に格納されている複数の心理モデルの中から、属性設定部261で設定されたパーソナリティ特性と生体指標との組み合わせに対応する心理モデルを選択部262が選択する(S14)。その後、測定装置3で測定された生理反応を情報取得部21がデータ処理する(S15)。その後、心理状態評価部22が、ステップ14で選択された心理モデルに情報取得部21からの生体情報を適用し、快適感と覚醒感と疲労感とを推定して心理状態を評価する(S16)。その後、出力部24が心理状態評価部22の評価結果を出力する(S17)。
【0102】
以上の説明より、パーソナリティ特性と生体指標(特定の生体情報から得られる指標)との組み合わせによって心理モデルが大きく依存する。本実施形態では、対象人物5のパーソナリティ特性と生体指標との組み合わせに応じて適切な心理モデルを選択することができるので、心理状態の評価精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0103】
1 心理状態評価システム
2 心理状態評価装置
21 情報取得部
22 心理状態評価部
24 出力部
25 機器制御部
261 属性設定部
262 選択部
27 記憶部
3 測定装置
4 刺激機器
5 対象人物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象人物の生体情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部で取得された前記生体情報を用いて前記対象人物の快適感と覚醒感と疲労感とを指標として前記対象人物の心理状態を評価する心理状態評価部と
を備えることを特徴とする心理状態評価装置。
【請求項2】
前記生体情報と前記心理状態との関係を表わす心理モデルを記憶する記憶部を備え、
前記心理モデルは、前記生体情報と前記快適感との関係を表わす快適感用モデルと、前記生体情報と前記覚醒感との関係を表わす覚醒感用モデルと、前記生体情報と前記疲労感との関係を表わす疲労感用モデルとを含み、
前記心理状態評価部は、前記情報取得部で取得された前記生体情報を前記快適感用モデルに適用して前記快適感を推定し、前記情報取得部で取得された前記生体情報を前記覚醒感用モデルに適用して前記覚醒感を推定し、前記情報取得部で取得された前記生体情報を前記疲労感用モデルに適用して前記疲労感を推定する
ことを特徴とする請求項1記載の心理状態評価装置。
【請求項3】
前記情報取得部は、前記生体情報として、前記対象人物の自律神経系の第1の生体情報、前記対象人物の中枢神経系の第2の生体情報および前記対象人物の生化学系の第3の生体情報のうち2つ以上を取得することを特徴とする請求項2記載の心理状態評価装置。
【請求項4】
前記情報取得部は、少なくとも前記第3の生体情報を取得し、
前記心理状態評価部は、前記情報取得部で取得された前記第3の生体情報を用いて前記疲労感を推定する
ことを特徴とする請求項3記載の心理状態評価装置。
【請求項5】
前記情報取得部は、前記生体情報として、前記第1の生体情報と前記第2の生体情報と前記第3の生体情報とを取得し、
前記心理状態評価部は、前記情報取得部で取得された前記第1の生体情報と前記第2の生体情報と前記第3の生体情報とを用いて前記疲労感を推定する
ことを特徴とする請求項4記載の心理状態評価装置。
【請求項6】
前記情報取得部は、前記対象人物の唾液を用いて測定された生理反応から前記第3の生体情報を取得することを特徴とする請求項4または5記載の心理状態評価装置。
【請求項7】
前記対象人物の属性情報を設定する属性設定部と、
前記心理モデルを選択する選択部とを備え、
前記記憶部は、前記属性情報ごとに前記心理モデルを対応させて記憶し、
前記選択部は、前記属性設定部で設定された前記属性情報に対応する前記心理モデルを前記記憶部から選択し、
前記心理状態評価部は、前記選択部で選択された前記心理モデルに、前記情報取得部で取得された前記生体情報を適用して前記快適感と前記覚醒感と前記疲労感とを推定する
ことを特徴とする請求項2〜6のいずれか1項に記載の心理状態評価装置。
【請求項8】
前記属性情報は、性別、年齢およびパーソナリティ特性の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項7記載の心理状態評価装置。
【請求項9】
前記記憶部は、前記パーソナリティ特性と特定の生体情報から得られる生体指標との組み合わせに前記心理モデルを対応させて記憶し、
前記情報取得部は、前記特定の生体情報を取得し、
前記選択部は、前記属性設定部で設定された前記パーソナリティ特性と前記情報取得部で取得された前記特定の生体情報から得られる前記生体指標との組み合わせに対応する前記心理モデルを前記記憶部から選択する
ことを特徴とする請求項8記載の心理状態評価装置。
【請求項10】
前記選択部は、前記心理モデルを再選択する機能を有することを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の心理状態評価装置。
【請求項11】
前記心理状態評価部の評価結果に応じて、前記心理状態を変化させるように、前記対象人物に刺激を与える刺激機器を制御する機器制御部を備えることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の心理状態評価装置。
【請求項12】
前記心理状態評価部の評価結果を出力する出力部を備えることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の心理状態評価装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の心理状態評価装置と、
前記対象人物の生理反応を測定する測定装置と
を備えることを特徴とする心理状態評価システム。
【請求項14】
前記測定装置は、前記対象人物の唾液を用いて前記生理反応を測定することを特徴とする請求項13記載の心理状態評価システム。
【請求項15】
対象人物の生体情報を取得するステップと、
前記生体情報を用いて前記対象人物の快適感と覚醒感と疲労感とを指標として前記対象人物の心理状態を評価するステップと
を有することを特徴とする心理状態評価方法。
【請求項16】
コンピュータを、
対象人物の生体情報を用いて前記対象人物の快適感と覚醒感と疲労感とを指標として前記対象人物の心理状態を評価する心理状態評価部
として機能させるためのプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2013−27570(P2013−27570A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165847(P2011−165847)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】