説明

心筋トロポニンT含有水溶液及びこの製造方法

【課題】心筋トロポニンT溶液を標準液とする場合、従来の凍結乾燥による方法では、保存安定性は良いが使用時に水を加えなければならないため操作が煩雑となり、結果として標準液中の抗原濃度に誤差を生じやすい。また、牛血清アルブミンや動物血清などのタンパク質を添加しても、溶液中での心筋トロポニンTの安定性が悪く、長期間の保存安定性を確保することが困難である。
【解決手段】pHが6.0〜8.5である心筋トロポニンTを含む水溶液(A)を30℃〜50℃で72時間〜240時間加熱処理して得られる心筋トロポニンT含有水溶液(B)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心筋トロポニンT含有水溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
免疫測定を行う際には、抗原を含有した標準液をキャリブレーターとして用いるのが一般的である。通常、この標準液中に含まれる抗原は希薄であるため、抗原種によっては溶液中で著しく失活する場合がある。特に、ホルモンや酵素などの抗原溶液は失活が激しく、水溶液状のキャリブレーターとして用いるのには困難な場合が多い。このような場合には、凍結乾燥などの方法で水分を除去した形態で保存し、使用時に水を加えてこの個体を溶解する方法や、牛血清アルブミンや動物血清などのタンパク質を添加して水溶液中での安定性を確保する方策がとられてきた(非特許文献1、2)。
【非特許文献1】佐々木 實,免疫化学的同定法(第3版),東京化学同人,1993年
【非特許文献2】石川榮治,超高感度酵素免疫測定法,学会出版センター,1993年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら従来の凍結乾燥による方法では、保存安定性は良いが使用時に水を加えなければならないため操作が煩雑となり、結果として標準液中の抗原濃度に誤差を生じやすい。また、特に心筋トロポニンT溶液を標準液とする場合には、牛血清アルブミンや動物血清などのタンパク質を添加しても、溶液中での心筋トロポニンTの安定性が悪く、長期間の保存安定性を確保することが困難である。すなわち本発明の目的は、安定した心筋トロポニンT含有水溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は、pHが6.0〜8.5である心筋トロポニンTを含む水溶液(A)を30℃〜50℃で72時間〜240時間加熱処理して得られる心筋トロポニンT含有水溶液(B)及びこの製造方法である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の心筋トロポニンT含有水溶液は以下の効果を奏する。
(1)失活し易いヒト心筋トロポニンT抗原含有水溶液を、溶液状態で長期間安定して保存することができる。
(2)従来行われた凍結乾燥しなくとも安定性を長期間維持できるようになり、抗原を溶解するという煩雑な調製操作により生じる濃度の誤差がなくなり、測定精度と再現性が良い免疫測定ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
トロポニンTは、心筋・骨格筋に存在する筋原繊維タンパクであるトロポニンのサブユニットの1つで、トロポミオシンとアクチンとの結合を調整することで、筋収縮調節作用に重要な役割を担っている。これらの成分は筋肉に損傷が無い場合は血中に出現しないため、血中に検出された場合は筋肉の損傷が存在していたと考えられる。従来の血清酵素は骨格筋の障害、筋肉運動でも血中に増加する。心筋トロポニンTの測定は、心筋に特異的であり、心筋梗塞の診断の有力な指標となっている。
【0007】
心筋トロポニンTはヒトまたは動物起源のものであり、より詳細には、心臓起源のものである。
【0008】
心筋トロポニンTは、心臓の摩砕調製物の抽出物、または、予め精製された心筋トロポニンTから得られる。製造コストの理由から心臓の粗抽出物から製造した心筋トロポニンTの安定組成物が好ましい。
また、心筋トロポニンTの安定組成物は、アメリカン・ハート・ジャーナル(American Heart Journal)、クリニカル・インベスティゲーションズ(Clinical Investigations)、1987年6月、第113巻、第6号「カルディアック−スペシフィック・トロポニン−I・ラジオイムノアッセイ・イン・ザ・ディアグノシス・オブ・アキュート・マイオカルディアル・インファークション(Cardiac-specific troponin-I radioimmunoassay in the diagnosis of acute myocardial infarction)」、第1334頁に開示された方法を用いて、ヒト由来又は動物由来の心臓から製造したものでもよい。
市販の心筋トロポニンTとしては、BiosPacific社製のものが挙げられる。
【0009】
心筋トロポニンTを含む水溶液(A)は、心筋トロポニンT及び水を含んでなる。
【0010】
水としては、特に限定されないが、不純物の観点から、脱イオン水が好ましい。
【0011】
心筋トロポニンTを含む水溶液(A)中の心筋トロポニンTの含有量は、特に限定されず任意の含有量でよいが、水溶液(B)中の心筋トロポニンTの保存安定性の観点から、水溶液(A)の重量を基準として、10mg/g以下が好ましく、血液中の心筋トロポニンTを定量する際に必要な濃度域の観点から、10pg/g〜1μg/gがさらに好ましく、次にさらに好ましくは10pg/g〜100ng/g、特に好ましくは10pg/g〜25ng/gである。
【0012】
心筋トロポニンTを含む水溶液(A)中には、心筋トロポニンTの容器への吸着等を防止させる目的で、タンパク質を含むことが好ましい。タンパク質は、例えば、ウシ血清アルブミンやそれ以外のタンパク質(ヒト血清アルブミン、ウシ胎仔血清、ウマ血清、ウシγグロブリン)が利用できる。
【0013】
タンパク質を含む場合、(A)中のタンパク質の含有量(重量%)は心筋トロポニンTの安定性の観点から、(A)の重量を基準として、0.1重量%〜5重量%が好ましく、さらに好ましくは0.3重量%〜3重量%、次にさらに好ましくは0.5重量%〜3重量%である。
【0014】
心筋トロポニンTを含む水溶液(A)のpHは、6.0〜8.5であり、水溶液(B)中の心筋トロポニンTの保存安定性の観点から、さらに好ましくは6.5〜8.0、次にさらに好ましくは6.5〜7.5である。pHが6.0未満又は8.5を超えると心筋トロポニンT含有水溶液の安定性が悪くなる。
なお、pHは、JIS K0400−12−10:2000で測定できる(測定温度25℃)。
【0015】
上記の範囲に心筋トロポニンTを含む水溶液(A)のpHを調整するには、後述する緩衝剤を用いてpHを調整することで行える。
pHの調整は、一般的な緩衝液の作製方法と同様に、緩衝剤の水溶液に無機アルカリの水酸化物を用いて行われる。無機アルカリの水酸化物としては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、水酸化リチウム等が挙げられる。
【0016】
心筋トロポニンTを含む水溶液(A)は、pH調整の目的で、緩衝剤を含有してもよい。緩衝剤としては、リン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、Good緩衝剤等が知られるがpH6.0〜8.5の間に緩衝能をもつ緩衝剤が保存安定性の観点から好ましく、具体的にはリン酸緩衝剤及びGood緩衝剤が好ましい。
【0017】
心筋トロポニンTを含む水溶液(A)は、心筋トロポニンTの安定化の目的で、さらに非イオン性界面活性剤を含有してもよい。
【0018】
非イオン性界面活性剤としては、アルキレンオキサイド(以下、AOと略す)付加型非イオン性界面活性剤及び多価アルコ−ル型非イオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0019】
AO付加型非イオン界面活性剤は、高級アルコ−ル、高級脂肪酸又はアルキルアミン等に直接AOを付加させたもの、グリコ−ルにAOを付加させて得られるポリアルキレングリコ−ルに高級脂肪酸などを反応させたもの、あるいは、多価アルコ−ルに高級脂肪酸を反応して得られたエステル化物にAOを付加させたもの、高級脂肪酸アミドにAOを付加させたもの等が挙げられる。
【0020】
AOとしては、例えばエチレンオキサイド(以下、EOと略す)、プロピレンオキサイド(以下、POと略す)及びブチレンオキサイド(以下、BOと略す)が挙げられる。
これらのうち好ましいものは、EO及びEOとPOのランダムまたはブロック付加物である。
AOの付加モル数としては10〜50モルが好ましく、該AOのうち50〜100重量%がEOであるものが好ましい。
【0021】
AO付加型非イオン界面活性剤の具体例としては、オキシアルキレンアルキルエ−テル(オクチルアルコールEO付加物、ラウリルアルコールEO付加物、ステアリルアルコールEO付加物、オレイルアルコールEO付加物、ラウリルアルコールEO・POブロック付加物等);ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル(ステアリル酸EO付加物、ラウリル酸EO付加物等);
ポリオキシアルキレン多価アルコ−ル高級脂肪酸エステル(ポリエチレングリコールのラウリン酸ジエステル、ポリエチレングリコールのオレイン酸ジエステル、ポリエチレングリコールのステアリン酸ジエステル等);
ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエ−テル(ノニルフェノールEO付加物、ノニルフェノールEO・POブロック付加物、オクチルフェノールEO付加物、ビスフェノールA・EO付加物、ジノニルフェノールEO付加物、スチレン化フェノールEO付加物等);ポリオキシアルキレンアルキルアミノエ−テル(ラウリルアミンEO付加物,ステアリルアミンEO付加物等);ポリオキシアルキレンアルキルアルカノ−ルアミド(ヒドロキシエチルラウリン酸アミドのEO付加物、ヒドロキシプロピルオレイン酸アミドのEO付加物、ジヒドロキシエチルラウリン酸アミドのEO付加物等)が挙げられる。
【0022】
多価アルコ−ル型非イオン界面活性剤としては、多価アルコール脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステルAO付加物、多価アルコールアルキルエーテル、多価アルコールアルキルエーテルAO付加物等が挙げられる。
【0023】
多価アルコール脂肪酸エステルの具体例としては、ペンタエリスリトールモノラウレート、ペンタエリスリトールモノオレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンジラウレート、ソルビタンジオレート、ショ糖モノステアレート等が挙げられる。
多価アルコール脂肪酸エステルAO付加物の具体例としては、エチレングリコールモノオレートEO付加物、エチレングリコールモノステアレートEO付加物、トリメチロールプロパンモノステアレートEO・POランダム付加物、ソルビタンモノラウレートEO付加物、ソルビタンモノステアレートEO付加物、ソルビタンジステアレートEO付加物、ソルビタンジラウレートEO・POランダム付加物等が挙げられる。
多価アルコールアルキルエーテルの具体例としては、ペンタエリスリトールモノブチルエーテル、ペンタエリスリトールモノラウリルエーテル、ソルビタンモノメチルエーテル、ソルビタンモノステアリルエーテル、メチルグリコシド、ラウリルグリコシド等が挙げられる。
多価アルコールアルキルエーテルAO付加物の具体例としては、ソルビタンモノステアリルエーテルEO付加物、メチルグリコシドEO・POランダム付加物、ラウリルグリコシドEO付加物、ステアリルグリコシドEO・POランダム付加物等が挙げられる
【0024】
非イオン性界面活性剤は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
非イオン性界面活性剤のうち、心筋トロポニンTの安定性の観点から、多価アルコール脂肪酸エステルAO付加物が好ましく、さらに好ましくはソルビタンオレイン酸モノエステルEO付加物である。
【0026】
非イオン性界面活性剤を含有する場合、非イオン性界面活性剤の濃度(重量%)は、水溶液(A)の重量を基準として、心筋トロポニンTの安定性の観点から、0.1〜1が好ましく、さらに好ましくは0.1〜0.5、次に好ましくは0.1〜0.3である。
【0027】
心筋トロポニンTを含む水溶液(A)は、心筋トロポニンT及び水、並びに必要により緩衝剤、タンパク質、非イオン性界面活性剤を混合することで容易に得られる。その他の成分として生理学的な血清環境を提供するために食塩や防腐剤(アジ化ナトリウム等)を添加しても良い。
【0028】
本発明の心筋トロポニンT含有水溶液(B)は、水溶液(A)を加熱処理して得られる。
【0029】
加熱処理としては、30℃〜50℃の温度で72時間〜240時間加熱する必要がある。心筋トロポニンTの安定性の観点から、温度としては32℃〜45℃が好ましく、さらに好ましくは35℃〜42℃、次にさらに好ましくは38℃〜42℃である。また、心筋トロポニンTの安定性の観点から、時間としては96時間〜220時間が好ましく、さらに好ましくは120時間〜200時間で、次にさらに好ましいのは150時間〜180時間である。
30℃未満の処理温度では、熱処理効果が小さく水溶液(B)の安定性が損なわれ、また、50℃を越える処理温度では、心筋トロポニンTが変性してしまう。同様に72時間未満の処理時間では、熱処理効果が小さく水溶液(B)の安定性が損なわれ、また、240時間を超える処理時間では、心筋トロポニンTが変性してしまう。
【0030】
加熱する装置としては、上記処理温度及び時間に設定できるものであれば特に限定されない。具体的にはインキュベーター等が挙げられる。
【0031】
本発明の心筋トロポニンT含有水溶液(B)の、心筋トロポニンT含有量、pHについては、水溶液(A)と同様であり、好ましいものも同様である。
また、心筋トロポニンT含有水溶液(B)は、必要により、さらにタンパク質、緩衝剤、非イオン性界面活性剤を含有してもよく、これらについては、水溶液(A)と同様であり、好ましいものも同様である。
水溶液(B)に、必要によりさらに、心筋トロポニンT、タンパク質、緩衝剤、非イオン性界面活性剤等を添加する場合、加熱処理した(A)とこれらを混合することで容易に混合できる。
【0032】
本発明の心筋トロポニンT含有水溶液(B)は、保存安定性の観点から、2~10℃で保存するのが好ましい。
【0033】
本発明の心筋トロポニンT含有水溶液は、臨床検査の分野において酵素免疫測定法、放射線免疫測定法、或いは免疫比濁法等の免疫測定を行う時に用いることができる。特に、心筋トロポニンTを含有した溶液中の心筋トロポニンTの失活を防止し、安定して保存することができることから、標準液として好適に使用できる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により、本発明を更に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
<実施例1>
脱イオン水10mLにリン酸二水素カリウム8μg、リン酸水素二ナトリウム50μg、塩化ナトリウム0.85g及び10重量%のアジ化ナトリウム水溶液0.5gを加えて攪拌を行なった。さらにウシ血清アルブミン0.1g及び非イオン性界面活性剤(Tween80)0.03gを加えてよく攪拌した。その後心筋トロポニンTを10ng/mLとなるように添加、攪拌して熱処理前の溶液を得た。その後、溶液の一部をサンプリングし、後述の方法で発光量(初期発光量)の測定を行なった。また、残りの溶液を40℃のインキュベータで168時間熱処理を行って、本発明の心筋トロポニンT含有水溶液(1)を得た。この水溶液(1)について、後述の方法で発光量(熱処理後発光量)の測定を行なった。この得られた水溶液(1)を4℃で2ヶ月間保存した後、後述の方法で発光量(2ヶ月後発光量)を測定した。
【0036】
<実施例2>
実施例1において、ウシ血清アルブミン、非イオン性界面活性剤Tween80を加えない以外は実施例1と同様にして、本発明の心筋トロポニンT含有水溶液(2)を得た。同様に発光量の測定を行なった。
【0037】
<実施例3>
実施例1において、熱処理の温度を40℃から50℃に変更した以外は実施例1と同様にして、本発明の心筋トロポニンT含有水溶液(3)を得た。同様に発光量の測定を行なった。
【0038】
<実施例4>
実施例1において、熱処理の温度を40℃から30℃に変更した以外は実施例1と同様にして、本発明の心筋トロポニンT含有水溶液(4)を得た。同様に発光量の測定を行なった。
【0039】
<実施例5>
実施例1において、熱処理の時間を168時間から240時間に変更した以外は実施例1と同様にして、本発明の心筋トロポニンT含有水溶液(5)を得た。同様に発光量の測定を行なった。
【0040】
<実施例6>
実施例1において、熱処理の時間を168時間から72時間に変更した以外は実施例1と同様にして、本発明の心筋トロポニンT含有水溶液(6)を得た。同様に発光量の測定を行なった。
【0041】
<実施例7>
脱イオン水10mLにTAPS(N−Tris(hydroxymethyl)methyl−3−aminopropamesilfonic acid)120μg、塩化ナトリウム0.85g及び10重量%のアジ化ナトリウム0.5gを加えて攪拌を行なった。さらにウシ血清アルブミン0.1g、非イオン性界面活性剤(Tween80)0.03gを加えてよく攪拌した。その後心筋トロポニンTを10ng/mLとなるように添加、攪拌して、熱処理前の溶液を得た。この溶液を使用して、実施例1と同様に熱処理を行い、本発明の心筋トロポニンT含有水量液(7)を得た。また、実施例1と同様に初期発光量、熱処理後発光量、2ヶ月後発光量の測定を行なった。
【0042】
<実施例8>
脱イオン水10mLにリン酸二水素カリウム32μg、リン酸水素二ナトリウム17μg、塩化ナトリウム0.85g及び10重量%のアジ化ナトリウム0.5gを加えて攪拌を行なった。さらにウシ血清アルブミン0.1g、非イオン性界面活性剤(Tween80)0.03gを加えてよく攪拌した。その後心筋トロポニンTを10ng/mLとなるように添加、攪拌して、熱処理前の溶液を得た。この溶液を使用して、実施例1と同様に熱処理を行い、本発明の心筋トロポニンT含有水量液(8)を得た。また、実施例1と同様に初期発光量、熱処理後発光量、2ヶ月後発光量の測定を行なった。
【0043】
<実施例9>
実施例1において、非イオン性界面活性剤(Tween80)0.03gを0.01gに変更した以外は実施例1と同様にして、本発明の心筋トロポニンT含有水溶液(9)を得た。同様に発光量の測定を行なった。
【0044】
<実施例10>
実施例1において、非イオン性界面活性剤(Tween80)0.03gを0.1gに変更した以外は実施例1と同様にして、本発明の心筋トロポニンT含有水溶液(10)を得た。同様に発光量の測定を行なった。
【0045】
<比較例1>
実施例1と同様にして、熱処理前の溶液を得、これを比較の心筋トロポニンT含有水溶液(R1)とした。この(R1)の一部をサンプリングし、後述の方法で発光量(初期発光量)の測定を行なった。また、残りの(R1)を4℃で2ヶ月間保存した後、後述の方法で発光量(2ヶ月後発光量)を測定した。
【0046】
<比較例2>
実施例1において、熱処理の温度を40℃から55℃に変更した以外は実施例1と同様にして、比較の心筋トロポニンT含有水溶液(R2)を得た。同様に発光量の測定を行なった。
【0047】
<比較例3>
実施例1において、熱処理の温度を40℃から25℃に変更した以外は実施例1と同様にして、比較の心筋トロポニンT含有水溶液(R3)を得た。同様に発光量の測定を行なった。
【0048】
<比較例4>
実施例1において、熱処理の時間を168時間から300時間に変更した以外は実施例1と同様にして、比較の心筋トロポニンT含有水溶液(R4)を得た。同様に発光量の測定を行なった。
【0049】
<比較例5>
実施例1において、熱処理の時間を168時間から48時間に変更した以外は実施例1と同様にして、比較の心筋トロポニンT含有水溶液(R5)を得た。同様に発光量の測定を行なった。
【0050】
<比較例6>
脱イオン水10mLに炭酸二ナトリウム3μg、炭酸水素ナトリウム15μg、塩化ナトリウム0.85g及び10重量%のアジ化ナトリウム水溶液0.5gを加えて攪拌を行なった。さらにウシ血清アルブミン0.1g及び非イオン性界面活性剤(Tween80)0.03gを加えてよく攪拌した。その後心筋トロポニンTを10ng/mLとなるように添加、攪拌して熱処理前の溶液を得た。この溶液を使用して、実施例1と同様に熱処理を行い、比較の心筋トロポニンT含有水量液(R6)を得た。また、実施例1と同様に初期発光量、熱処理後発光量、2ヶ月後発光量の測定を行なった。
【0051】
<比較例7>
脱イオン水10mLに酢酸ナトリウム30μg、酢酸3μg、塩化ナトリウム0.85g及び10重量%のアジ化ナトリウム水溶液0.5gを加えて攪拌を行なった。さらにウシ血清アルブミン0.1g及び非イオン性界面活性剤(Tween80)0.03gを加えてよく攪拌した。その後心筋トロポニンTを10ng/mLとなるように添加、攪拌して熱処理前の溶液を得た。この溶液を使用して、実施例1と同様に熱処理を行い、比較の心筋トロポニンT含有水量液(R6)を得た。また、実施例1と同様に初期発光量、熱処理後発光量、2ヶ月後発光量の測定を行なった。
【0052】
<発光量の測定>
実施例及び比較例の心筋トロポニンT溶液の発光量は、以下の測定方法により測定し、発光量を求めた。
測定はエクルーシス試薬トロポニンTIIIを用いて、ECLusys2010(Roche(株)社製)にて行なった。
【0053】
実施例及び比較例で得られた初期発光量、熱処理後発光量、2ヶ月後発光量を表1に示す。また、実施例及び比較例で得られた熱処理前の溶液のpHを合わせて記載した。
本発明の心筋トロポニンT含有水溶液は、比較用の水溶液に比べて、熱処理の効果で初期発光量に比べて熱処理後発光量が大きく増大した。また、約2ヶ月後でも発光量が十分あり、安定であった。
【0054】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の心筋トロポニンT含有水溶液は以下の効果を奏する。
(1)心筋トロポニンTを、溶液状態で長期間安定して保存することができる。
(2)従来行われた凍結乾燥しなくとも安定性を長期間維持できるようになり、抗原を溶解するという煩雑な調製操作により生じる濃度の誤差がなくなり、測定精度と再現性が良い免疫測定ができる。
よって、本発明の心筋トロポニンT含有水溶液は、臨床検査の分野において酵素免疫測定法、放射線免疫測定法、或いは免疫比濁法等の免疫測定を行う時に用いることができる。特に、抗原を含有した溶液中の抗原の失活を防止し、安定して保存することができることから、標準液として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが6.0〜8.5である心筋トロポニンTを含む水溶液(A)を30℃〜50℃で72時間〜240時間加熱処理して得られる心筋トロポニンT含有水溶液(B)。
【請求項2】
水溶液(A)が、さらにウシ血清アルブミン及び緩衝剤を含有してなる請求項1に記載の心筋トロポニンT含有水溶液。
【請求項3】
心筋トロポニンTを含む水溶液(A)が、(A)の重量を基準として、非イオン性界面活性剤を0.1重量%〜1重量%含む請求項1又は2に記載の心筋トロポニンT含有水溶液。
【請求項4】
心筋トロポニンTを含む水溶液(A)を30℃〜50℃で72時間〜240時間加熱処理することを特徴とする心筋トロポニンT含有水溶液(B)の製造方法。

【公開番号】特開2009−234988(P2009−234988A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−83237(P2008−83237)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】