説明

心筋虚血−再潅流障害の予防、処置または遅延のための、ニューレグリンを含む組成物およびその利用

本発明は、心筋虚血−再潅流障害の予防、処置または遅延用の、ニューレグリンを含む組成物およびその使用を提供する。本発明は、ニューレグリンがラットIRIモデルにおける梗塞の大きさを減少させることを実証しており、ニューレグリンを心筋虚血−再潅流障害の予防、処置または遅延に用いることができることを示している。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、哺乳動物、特にヒトの虚血−再潅流障害の予防、処置または遅延のための薬剤の調製におけるニューレグリンの使用に関する。とりわけ、本発明は、虚血−再潅流傷害の予防、処置または遅延のための、ニューレグリンを含む組成物およびニューレグリンを利用する方法に関する。
【0002】
〔背景技術〕
血管の浚渫または虚血後の血管再開通術は、血液の再潅流を目的としており、たいていの事例において好ましい治療効果が得られる。しかしながら、特定の条件下においては、より深刻な結果となる。虚血再潅流障害(IRI)は、臨床試験において見られるばかりでなく、相違する種の動物研究(例えば、ウサギ、ラット、テンジクネズミ、イヌ、およびブタ等)においても確かめられている。
【0003】
Jenningsが1960年にコンセプトを提唱したときから、IRIは心臓血管に関する研究の焦点であった。持続的心筋虚血は組織損傷および細胞死を引き起こすため、早期再潅流は心筋障害を低減する。一方、多くの動物研究および臨床観察は、虚血性組織に対する血液再潅流が、心筋虚血損傷をより深刻(不整脈、梗塞サイズの増大、低い心室収縮機能の持続を包含する)にさせ得ることを明らかにしている。IRIは、虚血事象の際の酸素の枯渇として生化学的に特徴づけられており、その結果として細胞内カルシウムレベルが上昇し、再潅流の際の再酸素化および活性酸素種の付随発生が引き続く(Piper HM, et al., Annals of Thoracic Surgery 2003,75:644; Yellon DM, et al., New England Journal of Medicine 2007,357:1121)。再潅流障害は、心筋梗塞を引き起こす心臓の損傷の50%程度に関与している(Yellon DM, et al., New England Journal of Medicine 2007, 357:1121)。伸縮性細胞の膨張、原形質膜の損傷、超微細構造的に破裂した筋原繊維、小さな毛細血管の損傷、およびさらなる虚血等の病理学的変化は、動物試験および臨床試験から観察され得る。それゆえ、IRIは、心筋虚血再潅流後の心臓の構造および機能の再構築に重大な影響を及ぼす。
【0004】
近年の医学の発展により、IRIは、注目の数が高まりつつある。切断された四肢の移植、臓器移植、冠動脈バイパス手術、血栓溶解療法およびショック療法を含め、数多くの処置がIRIを引き起こし得る。
【0005】
IRIの機構はいまだ明らかではない。考えられる機構は、以下のようであり得る:活性酸素種が細胞損傷を引き起こし(Bhogal RH et al., Liver Transpl, 2010, 16(11): 1303-1313)、カルシウムイオンの取り込みが起こり(Shen AC., Am J Pathol, 1979, 67(3): 441-452; Sjaastad I., Acta Physiol Scand, 2002, 175(4): 261-269)、エネルギー代謝に障害が起こり(Gu TX, et al.,Chinese Journal of Cardiology,2001, 29(7): 420-423; Nordlie MA., J Cardiovase Pharmacol Ther, 2006, 11(1): 17-30)、好中球の凝集が生じる(Hoffman JW., J Extra Corpor Technol, 2004, 36(4): 391-411)。IRI予防の追加的な処置としては、虚血時間を短くするためのできる限り速やかな血流の再構築;治療的低体温;外因性SOD、アロプリノール、ビタミンE、ビタミンC、カタラーゼおよびジメチルスルホキシド(DMSO)等のフリーラジカル捕捉物質によるフリーラジカルの捕捉;解糖基質−リン酸ヘキソース、外因性ATP、ヒドロキノンおよびチトクロムCの添加、ならびにシクロスポリンA、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、モノクローナル抗体(例えばバシリキシマブ、ダクリズマブおよびムロモナブ)および副腎皮質ステロイド等の免疫抑制物質の添加等の虚血性組織の代謝の向上がある。追加の処置は可能であるものの、失望させる臨床結果が得られている。そのため、様々な虚血性状態を引き起こす虚血再潅流障害の予防、処理および遅延のための、新規で、より効果的な療法および治療剤が大きく必要とされている。
【0006】
ニューレグリン(NRG;ヘレグリン、HRG)は、EGF様ファミリーに属している。このファミリーは、構造的に関連している成長および分化因子のファミリーであり、NRG1、NRG2、NRG3およびNRG4ならびにこれらのアイソフォームを含んでいる。ニューレグリンは、乳がん細胞分化および乳タンパク質の分泌の刺激(Lessor T. J Cell Biochem. 1998; 70(4):587-595)、神経堤細胞からシュワン細胞への分化誘導(Topilko P. Mol Cell Neurosci. 1996;8(2-3):71-75)、骨格筋細胞におけるアセチルコリン受容体合成の刺激(Altiok N. EMBO J. 1995:14(17):4258-4266)、および心臓細胞の分化、生存およびDNA合成(Zhao YY. J Biol Chem. 1998; 273(17):10261-10269)等の一連の生物学的機能を行っていることが報告されている。nrg欠損マウスにおける心臓および神経系の発生にはニューレグリンが不可欠であることが示されている。
【0007】
NRGsは、EGF受容体ファミリーに結合する。EGF受容体ファミリーは、EGFR、ErbB2、ErbB3およびErbB4を含み、これらはそれぞれ、細胞増殖、細胞分化および細胞生存等の複数の細胞機能において重要な役割を果たしている。これらは、タンパク質チロシンキナーゼ受容体であり、細胞外リガンド結合ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞質チロシンキナーゼドメインからなる。ErbB3またはErbB4の細胞外ドメインにNRGが結合した後、構造変化を引き起こし、ErbB3、ErbB4もしくはErbB2との間でヘテロダイマー形成が生じるか、またはErbB4自身のホモダイマー形成が生じる。これにより、細胞膜内部において受容体’C末端ドメインのリン酸化が引き起こされる。リン酸化された細胞内ドメインは、その後、細胞内において、さらなるシグナルタンパク質と結合し、対応する下流のAKTまたはERKシグナル経路を活性化し、一連の細胞反応を引き起こす。一連の細胞反応としては、例えば、細胞増殖の刺激もしくは低下、細胞分化、細胞アポトーシス、細胞移動または細胞接着が挙げられる。これらの受容体の中でも、心臓では、主にErbB2およびErbB4が発現している(Zhao YY. Etc, Circ Res. 1999; 84(12):1380-1387)。
【0008】
NRG1のEGF様ドメイン(50アミノ酸から64アミノ酸の大きさ)は、これらの受容体と結合し、活性化するのに十分であることが示されている(Culouscou JM, et al., J Biol Chem. 1995; 270(21):12857-12863)。これまでの研究では、ニューレグリン−1β(NRG−1β)がErbB3およびErbB4と高い親和性で直接結合できることが示されている。オーファン受容体であるErbB2は、ErbB3のホモダイマーまたはErbB4のホモダイマーよりも高い親和性で、ErbB3およびErbB4とヘテロダイマーを形成し得る。神経発生における研究では、交感神経系の形成には、無傷のNRG−1β、ErbB2およびErbB3シグナル経路が必要であることが示されている(Britsch S. etc, Genes Dev. 1998; 12(12):1825-1836)。NRG−1βまたはErbB2もしくはErbB4の標的破壊は、心臓発生の欠損のため、胚致死となる(Gassmann M. etc, Nature. 1995; 378(6555):390-394)。近年の研究では、成体の通常の心臓機能の維持とともに、心臓血管発生におけるNRG−1β、ErbB2およびErbB4の役割もまた脚光を浴びている(Kuramochi Y. etc, J Mol Cell Cardiol. 2006; 41(2):228-235)。NRG−1βは、成体心筋における筋節組織化を増強することが示されている。心不全の数種の異なる動物モデルにおいて、組換えNRG−1β EGF様ドメインの短い期間の投与は、心筋作用の悪化を有意に改善するか、この悪化から有意に防御する(Liu et al. J Am Coll Cardiol. 2006; 48: 1438-1447)。臨床試験においては、NRGは、様々な種類の心疾患に起因する心不全の処置に用いられており、心臓機能を向上させることが示されている(WO2010/142141として公開)。中大脳動脈閉塞再潅流の動物モデルでは、NRG−1は、大脳細胞のアポトーシスを阻害し、神経系の機能を強化し、梗塞の大きさを低減することによって、大脳細胞の防御において重要な役割を果たしていることを示している(Li Q., Neurosci Lett. 2008; 443(3):155-159)。心虚血−再潅流は、心筋細胞において、NRG−1放出を誘導し、NRG/ErbBシグナル経路を活性化することが確かめられている(Kuramochi Y., J Biol Chem. 2004; 279(49):51141-51147)。しかし、心虚血−再潅流障害におけるNRG−1の機能は不明である。
【0009】
本発明は、虚血再潅流障害の予防、処置および/または遅延のための、方法および組成物を提供する。
【0010】
〔発明の内容〕
A.発明の概要
本発明は、NRGが、心臓血管の発生および成体の通常の心臓機能の維持に不可欠であるという発見に基づいている。また、NRGは、心筋細胞の分化、筋節および細胞骨格構造の組織化、ならびに細胞接着を増強する。本発明はまた、心不全の数種の異なる動物モデルにおいて、NRGが心筋作用の悪化を有意に改善するか、この悪化から有意に防御すし、心不全動物の生存を長引かせ、中大脳動脈閉塞再潅流の動物モデルでは大脳細胞を防御するという発見に基づいている。ニューレグリン、ニューレグリンポリペプチド、ニューレグリン誘導体、またはニューレグリンの活性を模倣している化合物は、本発明の範囲に含まれる。
【0011】
本発明の第1の態様では、薬学的組成物が、哺乳動物、とりわけヒトにおける虚血−再潅流障害の予防、処置または遅延のために提供される。本発明の好ましい実施形態において、虚血再潅流障害は、心筋の虚血再潅流障害である。本組成物は、有効量のニューレグリンタンパク質もしくはその機能断片、またはニューレグリンタンパク質をコードする核酸もしくはその機能断片、またはニューレグリンの生成および/または機能を増強する物質を含んでいる。
【0012】
本発明の第2の態様では、方法が、哺乳動物、とりわけヒトにおける虚血−再潅流障害の予防、処置または遅延のために提供される。本発明の好ましい実施形態において、虚血再潅流障害は、心筋の虚血再潅流障害である。本方法は、虚血再潅流障害を有しているもしくは有していると思われる哺乳動物とりわけヒト(これらは、これらの予防、処置、または遅延を必要としている、または望ましいとされている)に、有効量のニューレグリンタンパク質もしくはその機能断片、またはニューレグリンタンパク質をコードする核酸もしくはその機能断片、またはニューレグリンの生成および/または機能を増強する物質を投与する工程を含み、これにより、虚血−再潅流障害が予防され、処置されまたは遅延する。
【0013】
本発明の第3の態様では、組合せが、哺乳動物、とりわけヒトにおける虚血−再潅流障害の予防、処置または遅延のために提供される。本組合せは、有効量のニューレグリンタンパク質もしくはその機能断片、またはニューレグリンタンパク質をコードする核酸もしくはその機能断片、またはニューレグリンの生成および/または機能を増強する物質と、心虚血−再潅流障害の予防、処置または遅延に用いられ得る他の予防薬もしくは治療薬とを含む上述の薬学的組成物を含んでいる。本発明の好ましい実施形態において、虚血再潅流障害は、心筋の虚血再潅流障害である。
【0014】
本発明の第4の態様では、キットが、哺乳動物、とりわけヒトにおける虚血−再潅流障害の予防、処置または遅延のために提供される。本キットは、哺乳動物、とりわけヒトにおける虚血−再潅流障害の予防、処置または遅延のために、上述の薬学的製剤もしくは組成物の、一投薬量もしくは数回の投薬量を含んでいる。本発明の好ましい実施形態において、虚血再潅流障害は、心筋の虚血再潅流障害である。
【0015】
本発明の薬学的製剤または組成物は、虚血再潅流障害に先立って、もしくはその間に、もしくはその後に、用いられ得る。予防用に用いられるように、本薬学的製剤または組成物は、前もって用いられ得、一般的に障害後に処置用に用いられ得る。ある実施形態において、本薬学的組成物または組成物は、心筋虚血に先立って用いられた。ある実施形態において、本薬学的組成物または組成物は、心筋虚血の後、再潅流に先立って用いられた。別の実施形態において、本薬学的組成物または組成物は、虚血−再潅流の後に用いられた。
B.定義
他に定義の無い限り、本明細書において用いられている全ての技術的用語および科学的用語は、本発明が属する分野の当業者に一般的に理解されている意味と同じ意味を有している。本明細書において言及されている全ての特許、出願、公開された出願、および他の刊行物は、その全体が参照として本明細書に組み込まれる。この項目で説明されている定義が、本明細書に参照として組み込まれている特許、出願、公開された出願、および他の刊行物に説明された定義に反する場合、または矛盾する場合には、この項目において説明されている定義が、参照として本明細書に組み込まれている定義よりも優先する。
【0016】
本明細書において用いられる場合、単数形の「a」、「an」および「the」は、文脈で他のことを指示していない限り、「少なくとも1つ」または「1以上」の意味である。
【0017】
本明細書において用いられる場合、本発明において用いられている「ニューレグリン」または「NRG」は、ErbB2、ErbB3、ErbB4もしくはその組合せと結合し、活性化し得るタンパク質またはペプチドを表しており、全てのニューレグリンアイソフォーム、ニューレグリンEGFドメイン単独、ニューレグリンEGF様ドメインを含むポリペプチド、ニューレグリン変異体もしくは誘導体、および上述の受容体を同様に活性化する任意の種類のニューレグリン様遺伝子産物(詳細は後述する)を包含するが、これらに限定されるものではない。ニューレグリンはまた、NRG−1、NRG−2、NRG−3およびNRG−4タンパク質、ペプチド、断片、およびニューレグリンの活性を模倣する化合物を包含する。好ましい実施形態において、本発明において用いられるニューレグリンは、ErbB2/ErbB4もしくはErbB2/ErbB3ヘテロダイマーと結合し、これらを活性化する。ペプチドは、例えば、アミノ酸配列:SHLVKCAEKEKTFCVNGGECFMVKDLSNPSRYLCKCPNEFTGDRCQNYVASFYKAEELYQ(配列番号1)を含む、NRG−1β2アイソフォームの177−237残基を含むペプチドが挙げられるが、限定の目的で挙げるものではない。
【0018】
本発明において用いられるニューレグリンは、上述のErbB受容体を活性化することができ、それらの生物学的反応を調節する。例えば、骨格筋細胞においてアセチルコリン受容体の合成を刺激し、および/または心臓細胞分化、生存およびDNA合成を向上させる。ニューレグリンはまた、それらの生物学的活性を実質的に変化させない保存性アミノ酸置換を有するそれらのバリアントも包含する。アミノ酸の好適な保存性置換は、本分野の当業者に公知であり、結果として得られる分子の生物学的活性を通常変化させずに作成され得る。本分野の当業者は、通常、ポリペプチドの不可欠ではない領域における単一のアミノ酸置換は、生物学的活性を実質的に変化させないことを認めている(例えば、Watson et al. Molecular Biology of the Gene, 4th Edition, 1987, The Benjamin/Cummings Pub. co., p.224参照)。本発明におけるニューレグリンは、天然資源からの分離、組換えDNA技術、人工合成またはいくつかの他のアプローチによって入手可能である。
【0019】
本明細書で用いられる場合、「上皮細胞増殖因子様ドメイン」または「EGF様ドメイン」は、ErbB2、ErbB3、ErbB4またはその組合せと結合し、これらを活性化し、そして、下記文献に開示されているEGF受容体結合ドメインと構造的な類似性を有している、ニューレグリン遺伝子をコードするポリペプチドモチーフを表している:WO 00/64400, Holmes et al., Science,256:1205-1210 (1992); U.S. Patent Nos. 5,530,109 and 5,716,930; Hijazi et al., Int. J. Oncol., 13:1061-1067 (1998); Chang et al., Nature, 387:509-512(1997); Carraway et al., Nature, 387:512-516 (1997); Higashiyama et al., J. Biochem., 122:675-680 (1997); およびWO 97/09425。これらの文献はすべて、本明細書に参照として組み込まれる。ある実施形態において、EGF様ドメインは、ErbB2/ErbB4またはErbB2/ErbB3ヘテロダイマーと結合し、これらを活性化する。ある実施形態において、EGF様ドメインは、NRG−1の受容体結合ドメインのアミノ酸配列を含んでいる。いくつかの実施形態において、EGF様ドメインは、NRG−1の177−226、177−237、または170−240のアミノ酸残基に対応するアミノ酸配列を含んでいる。ある実施形態において、EGF様ドメインは、NRG−2の受容体結合ドメインのアミノ酸配列を含んでいる。ある実施形態において、EGF様ドメインは、NRG−3の受容体結合ドメインのアミノ酸配列を含んでいる。ある実施形態において、EGF様ドメインは、NRG−4の受容体結合ドメインのアミノ酸配列を含んでいる。ある実施形態において、EGF様ドメインは、米国特許第5,834,229に記載されているように、Ala Glu Lys Glu Lys Thr Phe Cys Val Asn Gly Gly Glu Cys Phe Met Val Lys Asp Leu Ser Asn Proのアミノ酸配列を含んでいる。
【0020】
虚血再潅流障害は、虚血の期間の後、細胞、組織または器官への血液供給が戻るときの、細胞、組織または器官に対する障害のことをいう。虚血および再潅流による障害は、種々の組織および器官に影響を及ぼし得る。このような障害は、本発明の組成物および方法によって処置し得る。このような障害としては、例えば、心臓血管虚血再潅流障害、脳血管虚血再潅流障害、腎臓虚血再潅流障害、肝臓虚血再潅流障害、皮膚虚血再潅流障害、腸虚血再潅流障害、腸管虚血再潅流障害、胃虚血再潅流障害、肺虚血再潅流障害、膵臓虚血再潅流障害、骨格筋虚血再潅流障害、腹筋虚血再潅流障害、四肢虚血再潅流障害、腸間膜虚血再潅流障害などを含む。
【0021】
虚血再潅流障害は、例えば、自然な事象(例えば、心筋梗塞に付随する血流の再開)、外傷性傷害によって、あるいは、血液供給の減少を被っていた細胞、組織もしくは器官への血流の回復させる1以上の外科的処置もしくは治療的介入によって、生じ得る。このような外科的処置または治療的介入としては、例えば、冠動脈バイパス移植手術、冠動脈血管形成術、臓器移植手術、四肢移植手術、血栓溶解療法、ショック療法、および心肺バイパス手術などを含む。
【0022】
外科的処置などの治療的介入によって生じる虚血再潅流傷害の処置に対しては、処置を受ける対象に、治療的介入に先立って、本発明の組成物を投与することが好ましい。例えば、本発明の組成物は、処置を受ける対象に、治療的介入の例えば約5分前、約10分前、約20分前、約30分前、約1時間前、約2時間前、約3時間前、約4時間前、約12時間前、約24時間前、約48時間前、約1週間前に投与し得る。もう一つの方法として、あるいは追加的に、処置を受ける対象に、治療的介入時に、もしくは治療的介入の間、本発明の組成物を投与し得る。例えば、治療的介入の期間ずっと、連続的に、本発明の組成物を投与し得る。あるいは、治療的介入を行っている経過中、複数の間隔(例えば、15分の間隔)をあけて、1もしくは数回、本発明の組成物を投与し得る。さらに、処置を受ける対象に、治療的介入のあとに、本発明の組成物を投与し得る。例えば、本発明の組成物は、処置を受ける対象に、治療的介入の例えば約5分後、約15分後、約30分後、約1時間後、約2時間後、約3時間後、約4時間後、約12時間後、約24時間後、約48時間後、約1週間後に投与し得る。
【0023】
本明細書において用いられる場合、「有効量」とは、インビトロ、インビボもしくはエックスビボの投与条件下において所望の効果を実現するのに十分な量であり、例えば、対象における虚血再潅流傷害の阻止または治療に十分な量である。治療における有効性は、当業者に公知の好適な方法によって決定することができる。ある実施形態において、有効量は、閉塞の大きさを低減するのに十分な、本発明の組成物の量を意味する。ある実施形態において、NRGの有効量は、約0.1μg/kgから約1mg/kg、約0.1μg/kgから約10μg/kg、約0.3μg/kgから約1μg/kg、約10μg/kgから約100μg/kg、約5μg/kgから約20μg/kg、約10μg/kgから約30μg/kgである。ある実施形態において、NRGの有効量は、約2U/kgから約20000U/kg、約2U/kgから約200U/kg、約6U/kgから約20U/kg、約200U/kgから約2000U/kg、約100U/kgから約400U/kg、約200U/kgから約600U/kgである。ある実施形態において、NRGの有効量は、約0.1μg/kg/日から約1g/kg/日、約0.1μg/kg/日から約10μg/kg/日、約0.3μg/kg/日から約1μg/kg/日、約10μg/kg/日から約100μg/kg/日、約5μg/kg/日から約20μg/kg/日、約10μg/kg/日から約30μg/kg/日である。ある実施形態において、NRGの有効量は、約2U/kg/日から約20000U/kg/日、約2U/kg/日から約200U/kg/日、約6U/kg/日から約20U/kg/日、約200U/kg/日から約2000U/kg/日、約100U/kg/日から約400U/kg/日、約200U/kg/日から約600U/kg/日である。
【0024】
本明細書で用いられる場合、「有効ユニット」または「1U」は、最大反応の50%を誘導し得る規格品の量を意味する。すなわち、所定の活性物質について活性量を決定するためには、EC50が測定されるべきである。例えば、生産品のあるバッチのEC50が0.05μg/mlであった場合、これが1ユニットになるであろう。さらに、その生産品の1μgが用いられる場合、20U(1/0.05)が用いられる。EC50は、本分野において公知の任意の方法によって決定することができ、後述する実施例で本発明者らが用いている方法を含んでいる。この活性ユニットの決定は、遺伝子操作されている生産品および臨床に用いられる薬剤の品質管理においては重要である。また、この活性ユニットの決定によって、異なる調合薬および/または異なるバッチナンバーからの生産品を、同一の基準によって定量することができる。
【0025】
ある実施形態において、ニューレグリンのユニットは、WO03/099300、および Sadick et al., 1996, Analytical Biochemistry, 235:207-14に記載されているように、キナーゼ受容体活性酵素免疫測定吸着法(KIRA−ELISA)によってニューレグリンの活性を測定することによって決定される。これらの文献の内容の全ては、本明細書に参照として組み込まれる。簡単に言えば、このアッセイは、接着乳癌細胞系列であるMCF−7において、ニューレグリンによって誘導されたErbB2の活性およびリン酸化を測定する。膜タンパク質は、Triton X−100溶解を介して可溶化され、受容体は、ErbB3またはErbB4と交差反応を起こさないErbB2特異的抗体(例えば、H4)がコーティングされたELISAウェルに捕捉される。受容体のリン酸化の程度は、抗ホスホチロシンELISAによって定量化される。
【0026】
本発明の組成物は、例えば、静脈内注射によって、経口投与によって、腹膜内投与によって、または皮下投与によって、投与され得る。静脈内投与が好ましい投与方法である。ある実施形態において、本発明の組成物は、一日あたり少なくとも1時間、一日あたり少なくとも4時間、一日あたり少なくとも10時間、一日あたり少なくとも12時間、一日あたり少なくとも18時間、または一日あたり少なくとも24時間の持続注入によって、対象に投与される。
【0027】
本発明の組成物は、投薬スケジュールまたは「治療サイクル」において、対象に投与することも可能である。本組成物の日々の投薬量およびスケジュールの詳細については後述する。治療サイクルは、2日間、5日間、7日間、10日間、2週間、3週間、4週間、2ヶ月間、3ヶ月間または6ヶ月間続くことができる。
【0028】
本組成物の製剤は、単回投薬量または複数回投薬量が封入された容器(例えば、アンプルおよびバイアル)内に存在し得る。
【0029】
本発明の組成物は、虚血−再潅流障害を予防し、処置し、および/または遅延させるために用いられる他の薬剤と組み合わせて、虚血再潅流障害の予防、処置および/または遅延のために用いられ得る。これらの薬剤としては、外因性SOD、アロプリノール、ビタミンE、ビタミンC、カタラーゼおよびジメチルスルホキシド(DMSO)等のフリーラジカル捕捉物質;解糖基質−リン酸ヘキソース、外因性ATP、ヒドロキノン、チトクロムC、および免疫抑制物質等(シクロスポリンA、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、モノクローナル抗体(例えばバシリキシマブ、ダクリズマブおよびムロモナブ)および副腎皮質ステロイド等)、虚血性組織の代謝を向上させることができる薬剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。虚血再潅流障害の予防、処置および/または遅延のために他の薬剤と組み合わせて投与する場合、本発明の組成物を、他の薬剤と同時に、他の薬剤の投与に先立って、または他の薬剤の投与の後に、投与することができる。
【0030】
〔図面の簡単な説明〕
図1:ラットの心臓の切片におけるTCC染色の結果である。切片における白い区域(TCC非染色)は、梗塞形成区域である。文字「A」、「B」、「C」および「D」は、それぞれグループA、グループB、グループCおよびグループDを表している。
【0031】
〔実施例〕
本発明は、以下に続く非限定的な実施例を参照することにより、さらに例証されるだろう。この実施例は、本発明をどのように製造し、どのように用いるかの完全な開示および説明を当業者に提供するために出されるものであり、以下の試験が実施した全てまたは唯一の試験であることを示すことを意図するものではない。
【0032】
実施例1:ラットにおける心筋虚血再潅流での組換えヒトニューレグリン−1の治療効果
試験薬剤および試験物質:
rhNRG−1:Zensun (Shanghai) Science & Technology Ltdによって製造。配列番号1のアミノ酸を有する。バッチナンバー:200503007;各バイアル250μg(5000U)のrhNRG−1。
プラセボ:Zensun (Shanghai) Science & Technology Ltdによって製造された、rhNRG−1のビヒクル。バッチナンバー:200503001F。
rhThymosin−β4:Northland (Beijing) Bio-Technology Co Ltdによって製造。バッチナンバー:20050728。
【0033】
ウィスターラット(雄、200〜240g)を複数のグループに分け、20%ウレタン(5ml/kg)を腹腔内注入して麻酔した後、異なる投薬量のrhNRG−1、プラセボまたはrhThymosin−β4を投与した(表1参照)。ラットに薬剤が与えられ始めてから30分後、左冠状動脈の前下行枝(anterior descending limb)を45分間結紮し、結紮領域において一部の心筋がはっきりと白くなるようにさせた。その後、結紮糸をゆるめ、冠血流を2時間続けさせ、迅速に心臓を摘出し、通常の生理食塩水を用いて血管脂肪を洗浄除去し、次いで、この心臓を−30℃にて1時間凍結させた。
【0034】
冠状溝に沿って先端から基部まで、心筋切片の厚みが1mmとなるように、心臓を平行に切断し、攪拌器内のTCC染色液に37℃で20分間浸漬させた。染色後、余分な染色をすぐに水で洗浄し、次いで、切片を4%ホルマリンに1時間浸漬させた。全体の大きさおよび梗塞の大きさを写真に撮り、解析し、Image Analysis Softwareを用いて解析した。梗塞の大きさの比率は、梗塞の大きさと、心筋切片の全体の大きさとの比に等しい。
【0035】
グループA(プラセボグループ)における梗塞の大きさの比率は0.178±0.047であり、一方、グループB(10ug/kg/h rhNRG−1)では0.130±0.049であり、グループBの梗塞の大きさはグループAのものと比べて有意に小さかった(P<0.05)。グループCのデータは0.121±0.047であり、大きさはグループAのものと比べて有意に小さかった(P<0.05)。グループDのデータは0.151±0.030であり、他のグループと有意な違いは無かった(詳細は表2および図1に見ることができる)。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ラットの心臓の切片におけるTCC染色の結果である。切片における白い区域(TCC非染色)は、梗塞形成区域である。文字「A」、「B」、「C」および「D」は、それぞれグループA、グループB、グループCおよびグループDを表している。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物において虚血再潅流障害を予防する、処置する、または遅延させる方法であって、虚血再潅流障害の予防、処置または遅延を必要としている哺乳動物に、NRGタンパク質またはその機能断片の有効量を投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
上記NRGタンパク質は、NRG−1、NRG−2、 NRG−3またはNRG−4タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記NRGタンパク質はNRG−1タンパク質である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記NRGタンパク質またはその機能断片は、NRG−1のEGF様ドメインを含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記NRGタンパク質またはその機能断片は、配列番号1に示されるアミノ酸を含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記虚血再潅流障害は心筋虚血再潅流障害である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
上記心筋虚血再潅流障害は、冠動脈バイパス移植手術、冠動脈血管形成術、臓器移植手術、血栓溶解療法または心肺バイパス手術などの治療的介入の結果生じたものである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
虚血再潅流障害用の予防薬または治療薬を上記哺乳動物に投与する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
上記予防薬または治療薬は、フリーラジカル捕捉物質、免疫抑制物質および虚血性組織の代謝を向上させる薬剤から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
上記フリーラジカル捕捉物質は、外因性SOD、アロプリノール、ビタミンE、ビタミンC、カタラーゼ、ジメチルスルホキシド(DMSO)を包含する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
上記免疫抑制物質は、シクロスポリンA、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、モノクローナル抗体(例えばバシリキシマブ、ダクリズマブおよびムロモナブなど)、および副腎皮質ステロイドを包含する、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
虚血性組織の代謝を向上させる上記薬剤は、解糖基質−リン酸ヘキソース、外因性ATP、ヒドロキノン、チトクロムCを包含する、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
上記哺乳動物はヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
NRGタンパク質またはその機能断片の有効量含む、哺乳動物における虚血再潅流障害の予防、処置、または遅延用の組成物。
【請求項15】
上記NRGタンパク質は、NRG−1、NRG−2、 NRG−3またはNRG−4タンパク質から選択される、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
上記NRGタンパク質はNRG−1タンパク質である、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
上記NRGタンパク質またはその機能断片は、NRG−1のEGF様ドメインを含んでいる、請求項14に記載の組成物。
【請求項18】
上記NRGタンパク質またはその機能断片は、配列番号1に示されるアミノ酸を含んでいる、請求項14に記載の組成物。
【請求項19】
上記虚血再潅流障害は心筋虚血再潅流障害である、請求項14に記載の組成物。
【請求項20】
上記心筋虚血再潅流障害は、冠動脈バイパス移植手術、冠動脈血管形成術、臓器移植手術、血栓溶解療法または心肺バイパス手術などの治療的介入の結果生じたものである、請求項19に記載の組成物。
【請求項21】
上記哺乳動物はヒトである、請求項14に記載の組成物。
【請求項22】
請求項14に記載の組成物と、虚血再潅流障害用の予防薬または治療薬の有効量とを含む、組合せ物。
【請求項23】
上記予防薬または治療薬は、フリーラジカル捕捉物質、免疫抑制物質および虚血性組織の代謝を向上させる薬剤から選択される、請求項22に記載の組合せ物。
【請求項24】
上記フリーラジカル捕捉物質は、外因性SOD、アロプリノール、ビタミンE、ビタミンC、カタラーゼ、ジメチルスルホキシド(DMSO)を包含する、請求項23に記載の組合せ物。
【請求項25】
上記免疫抑制物質は、シクロスポリンA、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチル、モノクローナル抗体(例えばバシリキシマブ、ダクリズマブおよびムロモナブなど)、および副腎皮質ステロイドを包含する、請求項23に記載の組合せ物。
【請求項26】
虚血性組織の代謝を向上させる上記薬剤は、解糖基質−リン酸ヘキソース、外因性ATP、ヒドロキノン、チトクロムCを包含する、請求項23に記載の組合せ物。

【公表番号】特表2013−518066(P2013−518066A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550308(P2012−550308)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【国際出願番号】PCT/CN2011/070178
【国際公開番号】WO2011/091723
【国際公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【出願人】(512197526)ゼンスン(シャンハイ)サイエンス アンド テクノロジー リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】ZENSUN(SHANGHAI)SCIENCE & TECHNOLOGY LIMITED
【住所又は居所原語表記】No.68 Ju Li Road,Zhangjiang Hi−Tech Park,Shanghai 201203,China
【Fターム(参考)】