説明

心筋虚血を予防および治療する薬物の調製における低分子量ペプチドMLIFの使用

本発明は、生物医学の技術分野に関し、心筋虚血を予防および治療する薬物を調製するための低分子量ペプチドMLIFの新規用途に関する。低分子量ペプチドMLIFのアミノ酸配列はMet-Gln-Cys-Asn-Serである。ラットにおける冠動脈結紮による心筋虚血のモデルの薬理実験によると、低分子量ペプチドMLIFは、心筋虚血によるラットの心筋損傷及び心筋梗塞領域のサイズを大きく低減させることができ、よって、心筋虚血を予防および治療する効果があり、心筋虚血を予防および治療する薬物の調製に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医学の技術分野に関し、特に、心筋虚血を予防および治療する薬物を調製するための低分子量ペプチドMLIFの新規用途に関する。
【背景技術】
【0002】
心筋虚血は、心臓への血液潅流の減少によって、心臓への酸素供給が減少され、心筋のエネルギー代謝が不正常になって、心臓の正常な仕事がサポートされていない病理状態である。
【0003】
臨床において、心筋虚血を引き起こす最も重要で、最も一般的な病因が冠状動脈狭窄であり、そして、冠状動脈狭窄の重要な原因がアテローム性動脈硬化である。冠状動脈アテローム性硬化によって引き起こされる心臓病は、人がよく言う冠状動脈性心疾患(CHD)である。
【0004】
心筋虚血は冠状動脈性心疾患の一種類であり、現在では、様々な治療方案、例えば、ステント留置術及びバルーン血管形成術があるが、薬物療法は今も主要な方法である。
【0005】
薬物療法において、硝酸エステル類の薬物(例えば、硝酸イソソルビド或いはその徐放剤)、β-受容体遮断薬(例えば、プロプラノロール)及びカルシウム拮抗薬(例えば、ニフェジピンが)がよく使われており、主に、冠状動脈を拡張し、心臓への酸素供給を増加し、周辺抵抗と心臓の仕事量を減少し、心筋酸素消費量を減らす効果がある。
【0006】
また、スタチン系薬剤(例えば、アトルバスタチンとシンバスタチン)も服用され、血漿中のコレステロールを減らすと共に、動脈斑を安定し、動脈斑の脱落による血栓と脳梗塞などを防止する効果がある。
【0007】
心筋虚血損傷において、炎症反応は重要な役割を担っており、主に、好中球と単球とリンパ球などの炎症細胞の走化性と浸潤、及び炎症性サイトカインの合成と分泌などの過程が含まれている。だが、臨床では、主に抗炎症メカニズムに基づいて心筋虚血を防止する薬物は未だに存在していない。
【0008】
単球遊走阻止因子(MLIF)は、炎症反応を抑制できるペプチドであり、その走化性は無菌培養した赤痢アメーバから発見されたペンタペプチドであり、そのアミノ酸配列はMet-Gln-Cys-Asn-Serである。体外培養及びインビボ実験によると、該ペプチドはヒト単球と多核白血球の遊走を阻害することができる。赤痢アメーバは、該抗炎症ペプチドを生成することによって、サイトカインの分泌を影響し、炎症の生成を抑制し、宿主の免疫から逃れる。
【0009】
文献によると、そのペンタペプチドは、炎症細胞に直接作用できるだけではなく、炎症性サイトカインの分泌を阻害することによって炎症反応の過程を妨害することもでき、また、MIP-1α及びMIP-1βなどの炎症ケモカインに対して顕著な抑制効果がある上、1L-1βおよびTNF-αなどの炎症性サイトカインの分泌及び対応の受容体の表現を阻害することもできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者の研究によると、MLIFは虚血性脳血管障害を防止する機能を持っており、そしてこの機能に関する特許出願(中国特許出願号:200810200610.0)が既にある。だが、該ペプチドが心筋虚血を予防および治療する機能を有することに関する記載はまだ発見されていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、低分子量ペプチドMLIFに対して、心筋虚血を予防および治療する薬物を調製するための新規用途を提供する。
【0012】
ラットにおける冠動脈結紮による心筋虚血のモデルの薬理実験によると、低分子量ペプチドMLIFは、心筋虚血によるラットの心筋損傷及び心筋梗塞領域のサイズを大きく低減させることができ、よって、心筋虚血を予防および治療する効果があり、心筋虚血を予防および治療する薬物の調製に使用することができる。
【実施例】
【0013】
以下に、本発明について詳しく説明します。
一、低分子量ペプチドMLIF:
アミノ酸配列は:Met-Gln-Cys-Asn-Ser
上海生工バイオテクノロジー会社(Shanghai Sangon Biotechnology Company)で合成され、純度95%以上。
【0014】
二、動物実験:
(一)ラットにおける急性心筋虚血損傷及び心筋梗塞サイズに対する保護効果:
1.実験動物:
SDラット、雄、清潔級、体重:200-220グラム、中国人民解放軍第二軍医大学実験動物センターの提供で(ライセンス番号:SCXK(滬)-2007-0003)。
【0015】
2.実験群の分け:
実験ラットをランダムに4群に分け:シャム群8匹、モデル群9匹、MLIF低用量群11匹、MLIF高用量群12匹。薬物投与量が体重に応じて計算され、MLIF低用量群では0.15mg/kgであり、MLIF高用量群では0.5mg/kgである。薬物が生理食塩液の溶剤に混和されて注射液に調剤され、尾静脈注射で投与される。
【0016】
3.ラットの冠動脈結紮および心筋梗塞サイズの測定:
雄のSDラットの腹腔内に20%のウレタン(0.4ml/100g)がそれぞれ投与され、ラットが麻酔されて仰臥位で固定され、左第5肋間において胸壁が切られ、胸骨左縁2mmのところに沿って第4と第5の肋骨が切断され、心膜が切り取られ、心臓が露出され、左冠動脈前下行枝の下に0/3号の縫合糸が1本挿入され、大腿静脈から10分の低速注射で薬物が投与されてから即時に左冠動脈前下行枝が結紮され、心臓が胸腔に戻されて置かれ、胸腔内に残るガスが手でなるべく排出され、胸腔が急速に閉ざれ、巾着袋の口を締めるように糸を引き絞れる。開胸から閉胸までの操作過程全体が30秒以内に完成されるべし。
【0017】
冠動脈が結紮されたラットでは、心筋虚血が起こされていて、シャム群のラットに対しては冠動脈結紮が行われない。
【0018】
冠動脈結紮が行われてから15分後、各ラットが尾静脈注射で薬物投与される。薬物投与量は、MLIF低用量群では0.15mg/kgであり、MLIF高用量群では0.5mg/kgであり、シャム群とモデル群では等量の生理食塩液が注射される。
【0019】
各群では、冠動脈結紮が行われてから5時間後にラットが処分され、処分されたラットの心臓が取り出される。冠動脈結紮線の下の心室筋が、冠状溝に平行な5枚に平均的に水平に切断され、切断された心室筋がニトロブルーテトラゾリウム(N-BT)の染剤に置かれる。
【0020】
15分の振動染色が行われた後、心室筋が取り出され、正常な心筋が暗い青に染色されていて、梗塞領域の心室筋が染色されていなく、通常では淡黄色に見られている。解剖顕微鏡の下で、梗塞領域が分離され、全心臓重量と、左室重量と、梗塞領域の重量とがそれぞれ量られ、そして、全心臓の心筋重量に対する梗塞領域の心筋重量の割合が梗塞範囲を評価するための測定基準として計算される。
【0021】
4.実験データ及び統計学的な処理:
実験データが平均±SDで表現され、SPSS10.0での分散分析が行われ、そして有意差検定が行われる。結果が表1に示されている。
【表1】

【0022】
表1に示されているように、ラットの冠動脈が結紮され、虚血に曝されてから5時間後、モデル群の梗塞領域/全心臓及び梗塞領域/左心室の割合はそれぞれ26±4.1%と38±6%であり、シャム群の数値との違いはとても大きい(P<0.01)。
【0023】
MLIF高用量群(0.5mg/kg)の梗塞領域/全心臓及び梗塞領域/左心室の割合は20±2.7%と30±3.7%であり、モデル群の数値との違いはとても大きく(P<0.01)、またMLIF低用量群(0.15 mg/kg)の梗塞領域/全心臓及び梗塞領域/左心室の割合は22±1.9と33±3.2%であり、モデル群の数値との違いは大きい(P<0.05)。
【0024】
上記データに示されたように、MLIFは虚血によるラットの心筋損傷と、心筋梗塞領域のサイズとを低減させることができ、心筋虚血損傷に対して保護効果がある。
【0025】
(二)急性心筋虚血のラットの血清クレアチンキナーゼ(CK)及び乳酸脱水素酵素(LDH)に対する影響:
1.実験動物:
SDラット、雄、清潔級、体重:200-220グラム、中国人民解放軍第二軍医大学実験動物センターの提供で(ライセンス番号:SCXK(滬)-2007-0003)。
【0026】
2.実験群の分け:
実験ラットをランダムに4群に分け:シャム群7匹、モデル群8匹、MLIF低用量群8匹、MLIF高用量群9匹。薬物投与量が体重に応じて計算され、MLIF低用量群では0.15mg/kgであり、MLIF高用量群では0.5mg/kgである。薬物が生理食塩液の溶剤に混和されて注射液に調剤され、尾静脈注射で投与される。
【0027】
3.ラットの冠動脈結紮および血清(CK)とLDHとの測定:
ラットの冠動脈結紮が前に述べたように行われる。
【0028】
各群の動物に対して、冠動脈が結紮されてから5時間後、大腿静脈から3mlの血が取られ、そして従来の遠心分離方法で血清が分離され、半自動生化学分析装置で血清の乳酸脱水素酵素(LDH)とクレアチンキナーゼ(CK)との活性が測定される。
【0029】
4.実験データ及び統計学的な処理:
実験データが平均±SDで表現され、SPSS10.0での分散分析が行われ、そして有意差検定が行われる。結果が表2に示されている。
【表2】

【0030】
表2に示されているように、冠動脈が結紮されたラットにおいて、心筋虚血及び心筋細胞損傷が引き起こされ、LDHとCKが細胞内に放出されている。
【0031】
その結果、モデル群でのラットの血清LDHとCKは、それぞれ4736±755.7 IU/Lと7680±2380IU/Lに増加し、シャム群との違いはとても大きい(P<0.01)。
【0032】
また、MLIF高用量群(0.5mg/kg)でのラットの血清LDHとCKはそれぞれ3642±817 IU/L(P<0.01)と5244±1787.8 IU/L(P<0.05)であり、MLIF低用量群(0.15 mg/kg)でのラットの血清LDHとCKはそれぞれ3156±864.1 IU/L(P<0.01)と5258±2114.3 IU/L(P<0.05)である。
【0033】
上記データによると、該薬物は心筋虚血のラットにおける血清LDHとCKの含有量を下げることができ、心筋虚血損傷に対して保護効果がある。
【0034】
上記実験の結果によると、MLIF 0.15mg/kg及び0.5mg/kgは、冠動脈が結紮されたラットの心筋梗塞サイズ及び血清LDHとCKの含有量を下げることができ、また、心筋虚血損傷に対して保護効果がある。
【0035】
従って、MLIFは、心筋虚血を予防および治療する薬物の調製に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心筋虚血を予防および治療する薬物の調製における低分子量ペプチドMLIFの使用であって、該低分子量ペプチドMLIFのアミノ酸配列はMet-Gln-Cys-Asn-Serであることを特徴とする使用。

【公表番号】特表2012−533574(P2012−533574A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520898(P2012−520898)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際出願番号】PCT/CN2010/075181
【国際公開番号】WO2011/009382
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(512018508)ザ セカンド ミリタリー メディカル ユニヴァーシティ ピーエルエイ (1)
【氏名又は名称原語表記】THE SECOND MILITARY MEDICAL UNIVERSITY,PLA
【Fターム(参考)】