説明

心肥大および心不全の処置としてのプロテインキナーゼC−μ(PKD)の阻害

本発明は、心肥大および心不全を処置および予防する方法を提供する。MEF-2およびクラスII HDACは心肥大および心疾患において主要な役割を有することが示され、クラスII HDACの阻害が有益な抗肥大効果を有することが示された。本発明は、MEF-2とクラスII HDACとの関連、PKDとして知られるキナーゼを提供する。本発明はさらに、PKD阻害剤が、一部に、MEF-2依存性転写が抑制される場合に起こる胎児性心臓遺伝子発現および細胞再構成を抑制することにより、心肥大および心疾患を抑制することを実証する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1. 発明の分野
本発明は一般に、発生生物学および分子生物学の分野に関する。より詳細には、本発明は心筋細胞における遺伝子制御および細胞生理に関する。具体的には、本発明は、ヒストンデアセチラーゼのリン酸化を阻止するためのプロテインキナーゼC-μ(PKD)阻害剤の使用に関する。本発明はまた、心肥大および心不全を処置するためのPKD阻害剤の使用に関する。
【0002】
本発明は2003年5月21日に出願された米国仮特許出願第60/472,298号の優先権を主張し、その全内容は参照により本明細書に組み入れられる。米国政府は、米国立衛生研究所による助成金第P01 HL61544号での資金支援に基づき、本出願に権利を有する。
【背景技術】
【0003】
2. 関連技術の説明
心臓に課された負荷の増大に応答した心肥大は、基本的な適応機構である。これは、神経刺激、内分泌刺激、または機械的刺激のいずれかまたはそれらの組み合わせの結果として(細胞数よりもむしろ)細胞の大きさおよび質量の量的増大を表す特殊な過程である。心肥大に関与する別の要因である高血圧は、うっ血性心不全の頻繁に見られる前兆である。心不全が生じる場合、左心室は通常、肥大および拡張し、駆出率等の収縮機能指数は減少する。明らかに、心肥大応答は複雑な症候群であり、心肥大をもたらす経路の解明は種々の刺激から生じる心疾患の処置において有益である。
【0004】
転写因子のファミリーである筋細胞エンハンサー因子-2ファミリー(MEF2)は心肥大に関与する。例えば、種々の刺激により細胞内カルシウムが上昇し得り、その結果としてカルシニュリン、CAMキナーゼ、PKC、およびMAPキナーゼを含む細胞内シグナル伝達系または細胞内シグナル伝達経路のカスケードが起こる。これらのシグナルはいずれもMEF2を活性化し、心肥大をもたらす。しかし、種々のシグナル系がMEF2に対してそれらの効果をいかにしてもたらすか、およびその肥大シグナル伝達をいかにして調節するかは、未だ完全に理解されていない。ある種のヒストンデアセチラーゼタンパク質(HDAC)がMEF2活性の調節に関与することが知られている。
【0005】
11個の異なるHDACが脊椎動物からクローニングされている。いずれも触媒領域において相同性を共有する。ヒストンアセチラーゼおよびヒストンデアセチラーゼは、遺伝子発現の調節において主要な役割を担う。ヒストンアセチラーゼ(通常アセチルトランスフェラーゼ(HAT)と称される)とヒストンデアセチラーゼ(HDAC)との活性のバランスによって、ヒストンアセチル化のレベルが決まる。結果として、アセチル化されたヒストンはクロマチンの弛緩および遺伝子転写の活性化をもたらし、脱アセチル化されたクロマチンは一般に転写的に不活性である。以前の報告において本発明者らの研究室では、HDAC4およびHDAC5がMEF2と二量体化してMEF2の転写活性を抑制すること、さらにこの相互作用にはHDAC4およびHDAC5タンパク質のN末端の存在が必要であることを実証した(McKinsey et al., 2000a, b)。
【0006】
近年、HDACとMEF2との関連性が解明され記載された(McKinsey et al., 2002)。HDACとMEF2との会合はリン酸化による調節を受けること、およびその時点では未知であったキナーゼがこの会合を媒介することが示された。リン酸化部位を欠く変異体HDACは心筋細胞肥大に対してシグナル抵抗性リプレッサーとして働き、HDACノックアウトマウスは心不全および肥大に対して高感受性であった(Zhang et al., 2002)。ある種のHDAC阻害剤が抗肥大性であることもまた示された。他の関連では、最近の研究から癌生物学におけるHDACの重要な役割もまた明らかにされている。実際に、HDACの様々な阻害剤が、癌細胞において細胞分化および/またはアポトーシスを誘導する能力に関して試験されている(Marks et al., 2001)。そのような阻害剤には、スベロイルアニリドヒドロキサム酸(suberoylanilide hydroxamic acid)(SAHA)(Butler et al., 2000;Marks et al., 2001)、m-カルボキシ桂皮酸ビス-ヒドロキサミド(m-carboxycinnamic acid bis-hydroxamide)(Coffey et al., 2001)、およびピロキサミド(pyroxamide)(Butler et al., 2001)が含まれる。
【0007】
これらの知見すべてにより、疾患の進行におけるHDACの重要な役割が実証され、また特定のデータから、HDAC-MEF2の会合が心疾患における重要な要因であることが実証される。したがって、この会合の媒介に関与するキナーゼは肥大をもたらすカスケードの収束点であり、治療標的となる可能性がある。今日まで、この会合に関与するキナーゼは同定されていない。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
したがって本発明に基づき、病的心肥大および心不全を処置する方法であって、(a) 心肥大をまたは心不全を有する患者を同定する段階;および(b) この患者にPKD阻害剤を投与する段階を含む方法を提供する。投与は、静脈内投与、経口投与、経皮投与、徐放性投与、遅延放出性投与、制御放出性投与、坐剤投与、舌下投与、または心臓組織への直接注入を含み得る。
【0009】
本方法はさらに、β遮断薬、イオノトロープ(ionotrope)、利尿薬、ACE-I、AII拮抗薬、BNP、Ca++遮断薬、またはHDAC阻害剤等の第二の治療法を投与する段階を含み得る。第二の治療法はPKD阻害剤と同時に投与してもよいし、またはPKD阻害剤の前もしくは後に投与してもよい。処置により、運動能力の上昇、心臓駆出量の増加、左心室拡張末期圧の低下、肺毛細管楔入圧の低下、心拍出量および心係数の増加、肺動脈圧の低下、左心室収縮末期径および左心室拡張末期径の減少、左心室および右心室壁応力の減少、壁張力および壁厚の減少、生活の質の上昇、ならびに疾患関連罹患率および死亡率の減少が提供されるなど、病的心肥大または心不全の1つまたは複数の症状が改善され得る。
【0010】
さらに別の態様においては、病的心肥大および心不全を予防する方法であって、(a) 病的心肥大または心不全を発症する危険性のある患者を同定する段階;および(b) この患者にPKD阻害剤を投与する段階を含む方法を提供する。投与は、静脈内投与、経口投与、経皮投与、徐放性投与、遅延放出性投与、制御放出性投与、坐剤投与、舌下投与、または心臓組織への直接注入を含み得る。危険性のある患者は、長期にわたる制御不可能な高血圧、未矯正の弁膜症、慢性狭心症、または亜急性心筋梗塞を含む一連の危険因子の1つまたは複数を示す可能性がある。危険性のある患者はまた、心疾患、心不全、または心肥大の先天的、家族性、または遺伝的傾向を有する可能性がある。心不全またはその症状は、虚血、心筋症、大動脈弁狭窄、または他の心筋疾患を含み得る。
【0011】
上記態様に従って、PKD阻害剤は、PKD活性の減少をもたらすかまたはクラスII HDACのPKDリン酸化を阻害する任意の分子であってよい。これには、タンパク質、ペプチド、DNA分子(アンチセンスを含む)、RNA分子(RNAi、アンチセンス、およびリボザイムを含む)、抗体(一本鎖抗体を含む)、抗体をコードする発現構築物、および小分子が含まれる。小分子には、リスベラトロール、インドロカルバゾール、Godecke 6976(Go6976)、スタウロスポリン、K252a、[d-Arg(1),d-Trp(5,7,9),Leu(11)]SPを含むサブスタンスP(SP)類似体、PKC阻害剤109203X(GF-1)、PKC阻害剤Ro 31-8220、Go 7874、ゲニステイン、特異的Src阻害剤PP-1およびPP-2、ケレリスリン、またはロットレリンが含まれるが、これらに限定されない。
【0012】
HDAC阻害剤には、トリコスタチンA、トラポキシンB、MS 275-27、m-カルボキシ桂皮酸ビス-ヒドロキサミド、デプデシン(depudecin)、オキサムフラチン(oxamflatin)、アピシジン(apicidin)、スベロイルアニリドヒドロキサム酸、スクリプタイド(Scriptaid)、ピロキサミド、2-アミノ-8-オキソ-9,10-エポキシ-デカノイル、3-(4-アロイル1 H-ピロール-2-イル)-N-ヒドロキシ-2-プロペンアミド、およびFR901228が含まれ得るが、これらに限定されない。さらに、以下の参考文献が、本発明において使用するために選択され得るヒストンデアセチラーゼ阻害剤について記載している:


【0013】
さらに別の態様においては、心肥大または心不全の処置におけるPKD阻害剤の有効性を評価する方法であって、(a) PKD阻害剤を提供する段階;(b) PKD阻害剤で細胞を処理する段階;および(c) 1つまたは複数の心肥大パラメータの発現を測定する段階を含み、PKD阻害剤で処理していない細胞における1つまたは複数の心肥大パラメータと比較した場合の1つまたは複数の心肥大パラメータの変化により、PKD阻害剤が心肥大または心不全の阻害剤として同定される方法を提供する。
【0014】
細胞は、筋細胞、心筋細胞等の単離された筋細胞、単離された無傷組織に含まれる筋細胞、新生仔ラット心室筋細胞、H9C2細胞、インビボで無傷の心筋中に存在する心筋細胞、またはトランスジェニック非ヒト哺乳動物の一部であってよい。筋細胞または無傷の心筋を、1つまたは複数の心肥大パラメータの肥大応答を誘発する刺激に供し得る。そのような刺激は、大動脈バンディング、急速な心臓ペーシング、心筋梗塞の誘導、導入遺伝子の発現、化学物質、調合薬、または薬剤による処理であってよい。化学物質または薬学的薬剤には、アンギオテンシンII、イソプロテレノール、フェニレフリン、エンドセリン-I、血管収縮薬、および抗利尿薬が含まれ得るが、これらに限定されない。処理はインビボで行ってもインビトロで行ってもよい。
【0015】
1つまたは複数の心肥大パラメータは、右心室駆出率、左心室駆出率、心室壁厚、心臓重量/体重比、右心室もしくは左心室重量/体重比、または心臓重量の標準化測定値を含み得る。そのようなパラメータはさらに、筋細胞または無傷の心筋における1つまたは複数の標的遺伝子の発現レベルを含み得り、そのような1つまたは複数の標的遺伝子の発現レベルにより心肥大が示される。
【0016】
1つまたは複数の標的遺伝子は、ANF、α-MyHC、β-MyHC、α-骨格アクチン、心臓アクチン、SERCA、シトクロムオキシダーゼサブユニットVIII、マウスT-複合タンパク質、インスリン増殖因子結合タンパク質、τ-微小管結合タンパク質、ユビキチンカルボキシル末端加水分解酵素、Thy-1細胞表面糖タンパク質、またはMyHCクラスI抗原からなる群より選択され得る。発現レベルは、ルシフェラーゼ、β-gal、または緑色蛍光タンパク質等の、標的遺伝子プロモーターに機能的に連結されたレポータータンパク質コード領域を用いて測定し得る。発現レベルは、標的mRNAに対する核酸プローブのハイブリダイゼーションまたは増幅された核酸産物により測定してもよい。
【0017】
1つまたは複数の心肥大パラメータはまた、サルコメアの構築、細胞の大きさ、細胞収縮性等の細胞形態の1つもしくは複数の局面、総タンパク質合成、または細胞毒性を含み得る。細胞はさらに、1つまたは複数のリン酸化部位を欠く変異体クラスII HDACタンパク質を発現してよく、その場合、測定する段階は、クラスII HDACのリン酸化、クラスII HDACの核外輸送、またはクラスII HDACとMEF-2の会合を測定する段階を含む。測定する段階はさらに、クラスII HDACとMEF-2の会合の増強またはMEF-2依存性転写の減少を測定する段階を含み得る。
【0018】
さらなる別の態様において、心肥大または心不全の阻害剤を同定する方法であって、(a) PKDを提供する段階;(b) PKDを候補阻害剤物質と接触させる段階;および(c) PKDの活性を測定する段階を含み、PKDのキナーゼ活性の著しい減少により、候補阻害剤物質が心肥大または心不全の阻害剤として同定される方法を提供する。PKDは全細胞もしくは心臓細胞から精製されてもよいし、または無傷の細胞中に存在してもよい。細胞は心筋細胞等の筋細胞であってよい。
【0019】
キナーゼ活性の減少は、HDAC、より具体的にはクラスII HDACのリン酸化の減少により測定し得る。候補阻害剤物質には、干渉RNA、抗体調製物、一本鎖抗体、RNAもしくはDNAアンチセンス構築物、酵素、化学物質、薬剤、もしくは調合薬、または小分子が含まれ得るが、これらに限定されない。候補阻害剤はさらに、リスベラトロール、インドロカルバゾール、Godecke 6976(Go6976)、スタウロスポリン、K252a、[d-Arg(1),d-Trp(5,7,9),Leu(11)]SPを含むサブスタンスP(SP)類似体、PKC阻害剤109203X(GF-1)、PKC阻害剤Ro 31-8220、Go 7874、ゲニステイン、特異的Src阻害剤PP-1およびPP-2、ケレリスリン、またはロットレリンであってもよい。
【0020】
キナーゼ活性の減少はさらに、免疫共沈降によってクラスII HDACに対するPKDの結合の阻害を測定することにより、またはクラスII HDACのリン酸化の阻止を測定することによって測定してもよい。PKD阻害剤は、クラスII HDACとMEF-2または他のクラスII HDAC制御性転写因子の会合を増強し得る。
【0021】
本発明のさらなる態様においては、その細胞が真核細胞において機能するプロモーターの調節下に異種PKD遺伝子を含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物を提供する。別の態様においては、その細胞がそのような非ヒト哺乳動物の細胞において機能する異種プロモーターの調節下にPKD遺伝子を含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物を提供する。さらなる態様では、その細胞が固有のPKD対立遺伝子の一方または両方を欠き、これらの対立遺伝子がさらに相同的組み換えによりノックアウトされた可能性のあるトランスジェニック非ヒト哺乳動物を提供する。トランスジェニック非ヒト哺乳動物はマウスであってよい。プロモーターは組織特異的であってよく、さらに筋組織特異的であってよく、さらに心筋組織特異的であってよい。
【0022】
PKD遺伝子はヒト遺伝子であってよい。この遺伝子はさらに、構成的に活性型のタンパク質またはドミナントネガティブ型のタンパク質をコードし得る。プロモーターは真核細胞において活性を有し得る。筋特異的プロモーターは、ミオシン軽鎖-2プロモーター、αアクチンプロモーター、トロポニン1プロモーター、NA+/Ca2+交換体プロモーター、ジストロフィンプロモーター、クレアチンキナーゼプロモーター、α7インテグリンプロモーター、脳性ナトリウム利尿ペプチドプロモーター、ミオシン重鎖プロモーター、ANFプロモーター、およびαB-クリスタリン/低分子量熱ショックタンパク質プロモーターからなる群より選択され得る。
【0023】
本発明のさらなる態様においては、心筋梗塞の処置、心肥大および拡張型心筋症の予防、心肥大の進行の抑制、心不全の処置、心不全の進行の抑制、心不全または心肥大を有する被検者の運動負荷の増大、心不全または心肥大を有する被検者の入院の低減、心不全または心肥大を有する被検者の生活の質の改善、ならびに心不全または心肥大を有する被検者の罹患率または死亡率の減少として、被検者の心臓細胞におけるPKD活性の減少を提供する。
【0024】
例示的な態様の詳細な説明
心不全は、世界中の罹患率および死亡率の主要原因の1つである。米国単独では、現在300万人の人が心筋症を患っており、それに加えて400,000人の人が毎年心筋症と診断されていることが推定から示される。拡張型心筋症(DCM)はまた「うっ血性心筋症」とも称され、心筋症の最も頻繁に見られる形態であり、罹患率は100,000人の当たりおよそ40人と推定される(Durand et al., 1995)。DCMには他の原因も存在するが、家族性拡張型心筋症は「特発性」DCMの約20%に相当することが示されている。DCM症例の約半数が特発性であり、残りは既知の疾患過程と関連している。例えば、癌化学療法に使用される特定の薬剤(例えば、ドキソルビシンおよびダウノルビシン)に起因して重篤な心筋損傷が生じ得る。さらに、多くのDCM患者は慢性アルコール中毒である。幸いなことにこれらの患者では、疾患過程の初期にアルコール消費を減らすかまたは止めることにより、心筋機能障害の進行を阻止するかまたは覆すことができる。周産期心筋症は感染性続発症と関連する疾患であり、DCMの別の特発性形態である。要するに、DCMを含む心筋症は重要な公衆衛生問題である。
【0025】
冠動脈疾患、心筋梗塞、うっ血性心不全、および心肥大を含む心疾患およびその症状発現は、今日の米国における主要な健康上のリスクを明らかに示す。これらの疾患を患う患者を診断、処置、および支持するコストは数十億ドルに達する。心疾患の特に重篤な2つの症状発現は心筋梗塞および心肥大である。心筋梗塞に関しては、典型的にアテローム性動脈硬化の結果として冠動脈内で急性血栓性冠動脈閉塞が起こり、それが心筋細胞の死滅をもたらす。心筋細胞(cardiomyocyte、heart muscle cell)は最終分化しており、一般に細胞分化することができないため、急性心筋梗塞の過程において死滅した場合には一般に瘢痕組織に置き換えられる。瘢痕組織に収縮性はなく、心機能に寄与することができず、そのため心収縮において膨張することにより、または心室の大きさおよび有効半径を増大させることにより、例えば肥大性となることにより、心機能における有害な役割を果たす場合が多い。心肥大に関しては、一説ではこれを異常な発生と類似した疾患と見なし、そのため心臓における発生シグナルが肥大性疾患に寄与し得るかどうかという問題が提起される。心肥大は、高血圧、機械的負荷、心筋梗塞、心不整脈、内分泌障害、および心臓収縮タンパク質遺伝子における遺伝子変異から生じる疾患を含む心疾患の実質的にすべての形態に対する心臓の適応応答である。肥大応答は最初は心拍出量を増大させる補償機構であるものの、持続的な肥大はDCM、心不全、および突然死を引き起こし得る。米国では、約50万人の人が毎年心不全であると診断され、死亡率は50%に近づきつつある。
【0026】
心肥大の原因および影響は十分に実証されているが、根本的な分子機構は解明されていない。これらの機構の解明は心疾患の予防および処置における主要な問題であり、心肥大および心不全を特異的に標的する新規薬剤の設計における治療様式として重要になる。病的心肥大は典型的に、心臓障害が心不全をもたらすに十分なほど重篤になるまでいずれの症状も現さないため、心筋症の症状は心不全に伴って起こる症状である。これらの症状には、息切れ、労作に伴う疲労、呼吸困難を起こすために臥位になることができないこと(起座呼吸)、発作性夜間呼吸困難、心臓容積の拡大、および/または下肢の腫脹が含まれる。患者はまた、血圧の上昇、心音の増大、心雑音、肺および全身性の塞栓、胸痛、肺うっ血、ならびに動悸を示す場合が多い。さらに、DCMは駆出率(すなわち、内因性の収縮機能およびリモデリングの尺度)の低下を引き起こす。この疾患はさらに、心室拡張、および心筋収縮性の低下に起因した収縮機能の著しい障害を特徴とし、これは多くの患者に拡張型心不全を招く。罹患した心臓はまた、筋細胞/心筋機能障害の結果として細胞/心室リモデリングを起こし、これは「DCM表現型」に寄与する。疾患が進行するにつれ、症状も同様に進行する。DCM患者ではまた、心室頻拍および心筋細動を含む、生命にかかわる不整脈の発症率が著しく増加する。これらの患者では、失神(めまい)の発症が突然死の前兆とみなされる。
【0027】
拡張型心筋症の診断は、典型的に心腔の拡大、特に心室の拡大の実証に依存する。拡大は一般に胸部X線において観察可能であるが、心エコー図を用いることによってより正確に評価される。DCMは、急性心筋炎、心臓弁膜症、冠動脈疾患、および高血圧性心疾患との識別が困難である場合が多い。拡張型心筋症の診断がなされたならば、改善できる可能性のある原因を同定および処置し、さらなる心臓障害を妨げるためにあらゆる努力がなされる。例えば、冠動脈疾患および心臓弁膜症が阻止されなければならない。貧血、異常頻拍、栄養障害、アルコール依存症、甲状腺疾患、および/または他の問題に取り組み、管理する必要がある。
【0028】
上記のように、薬理学的薬剤による処置は、やはり心不全の症状発現を低減または排除するための主要な機構を表す。利尿薬は軽度から中程度の心不全の一次治療を形成する。残念なことに、一般的に使用される利尿薬(例えばチアジド)の多くは数々の副作用を有する。例えば、ある種の利尿薬は血清コレステロールおよびトリグリセリドを増加し得る。さらに、利尿薬は、重篤な心不全に罹患した患者に対しては一般的に効果がない。
【0029】
利尿薬が効果的でない場合には、血管拡張薬が使用され得る;アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬(例えば、エナラプリルおよびリシノプリル)は、症状軽減を提供するだけでなく、これらによって死亡率が減少することも報告されている(Young et al., 1989)。しかしながら、ACE阻害薬もまた、特定の病状(例えば腎動脈狭窄)を有する患者には禁忌である副作用を伴う。同様に、強心薬治療(すなわち、心筋収縮力を強化することによって心拍出量を改善する薬剤)も、胃腸障害および中枢神経系の機能障害を含む数々の有害反応を伴う。
【0030】
従って、現在使用される薬理学的薬剤は、特定の患者集団において重篤な欠点を有する。新規、安全、かつ有効な薬剤を利用できることは、現在利用できる薬理学的様式を使用し得ないかまたはそれらの様式では十分に緩和されない患者にとって間違いなく有益である。DCM患者の予後は変動しやすく、またこれは心室機能障害の程度に依存し、その大半が診断の5年以内に死亡する。
【0031】
I. 本発明
本発明者らは、MEF2が、そのカルボキシ末端活性化ドメインにおける3つの保存部位のMAPキナーゼリン酸化によって活性化されることを以前に示した(Katoh et al. 1998を参照のこと)。CaMKシグナル伝達もまた、クラスII HDAC(これがMEF2活性を抑制し得る生体心臓において高レベルで発現される)をリン酸化することによってMEF2を活性化する。リン酸化されると、これらのHDACは14-3-3に結合してMEF2から解離し、結果として核へ移行し、MEF2依存性転写が活性化される。リン酸化され得ないクラスII HDACの変異体はMEF2から分離することができず、よってMEF2標的遺伝子の発現を不可逆的に阻止する。
【0032】
HDAC 5のリン酸化不可能な変異体をコードするアデノウイルスが、多様なシグナル伝達経路に応答してインビトロで心筋細胞肥大を予防し得ることもまた示された(Lu et al., 2000)。これらの知見により、クラスII HDACにおけるこれら保存部位のリン酸化が、心肥大の開始に必須な段階であることが示唆される。これらの知見からさらに、クラスII HDACのリン酸化に関与するキナーゼを単離し標的化してクラスII HDACのリン酸化を阻害することにより、肥大およびそれに続く心不全の発症が阻止されることも示唆される。
【0033】
本発明者らは、クラスII HDACのリン酸化、MEF-2との相互作用の媒介、および部分的ではあるがクラスII HDACの核または細胞質局在化の調節に関与するキナーゼとしてのPKDの特徴を本明細書に記載する。本発明はまた、PKDの阻害を介した心肥大および心不全への治療的介入、ならびに心肥大および心不全を処置するための治療薬をスクリーニングする手段を提示する。
【0034】
II. プロテインキナーゼ
キナーゼは、タンパク質にリン酸基を付加することにより、数多くの様々な細胞増殖、分化、およびシグナル伝達過程を制御する。シグナル伝達の制御不能は、炎症、癌、動脈硬化、乾癬、ならびに心疾患および肥大等を含む様々な病態に関与している。可逆的なタンパク質リン酸化は、真核細胞の活性を調節する主要な戦略である。典型的な哺乳動物細胞において活性を有しているタンパク質10,000個のうち1,000個を超えるタンパク質がリン酸化されていると推測されている。活性化を駆動する高エネルギーリン酸は通常、プロテインキナーゼによってアデノシン三リン酸(ATP)から特定のタンパク質に移され、プロテインホスファターゼによってそのタンパク質から除去される。リン酸化は、細胞外シグナル(ホルモン、神経伝達物質、増殖分化因子等)、細胞周期チェックポイント、および環境または栄養ストレスに応答して起こり、分子スイッチを入れることにほぼ匹敵する。そのスイッチがオンになった場合、代謝酵素、制御タンパク質、受容体、細胞骨格タンパク質、イオンチャンネルもしくはポンプ、または転写因子を適当なプロテインキナーゼが活性化する。
【0035】
キナーゼは、広範で多様な機能および特異性を有する酵素のスーパーファミリーである、最も大きな既知タンパク質群を含む。キナーゼは通常、その基質、制御分子、または変異体表現型の何らかの局面にちなんで命名される。基質に関しては、プロテインキナーゼはおおまかに、チロシン残基をリン酸化するキナーゼ(プロテインチロシンキナーゼ、PTK)およびセリンまたはスレオニン残基をリン酸化するキナーゼ(セリン/スレオニンキナーゼ、STK)の2群に分類される。いくつかのプロテインキナーゼは二重特異性を有し、スレオニン残基およびチロシン残基をリン酸化する。ほとんどすべてのキナーゼは、類似した250〜300アミノ酸の触媒ドメインを有する。サブドメインI〜IVを含むN末端ドメインは通常、二分葉構造に折りたたまれ、ATP(またはGTP)ドナー分子と結合し、これを配向する。サブドメインVI A〜XIを含むさらに大きなC末端部分はタンパク質基質と結合し、ATPによるγリン酸をセリン、スレオニン、またはチロシン残基の水酸基に転移させる。サブドメインVは2つの部分にまたがっている。
【0036】
キナーゼドメインの両側に存在するか、またはキナーゼドメインのループに挿入されているアミノ酸配列(通常5〜100残基)の相違によって、キナーゼをファミリーに分類することも可能である。これらの付加されたアミノ酸配列のおかげで、キナーゼがその標的タンパク質を認識し、これと相互作用することにより、キナーゼごとの制御が可能になる。キナーゼドメインの一次構造は保存されており、11のサブドメインにさらに分類され得る。11のサブドメインはそれぞれ、サブドメインに特有であり高度に保存されている、特定のアミノ酸残基およびアミノ酸のモチーフまたはパターンを含む(Hardie and Hanks, 1995)。
【0037】
二次メッセンジャー依存性プロテインキナーゼは、サイクリックAMP(cAMP)、サイクリックGMP、イノシトール三リン酸、ホスファチジルイノシトール、3,4,5-三リン酸、サイクリック-ADPリボース、アラキドン酸、ジアシルグリセロール、およびカルシウム-カルモジュリン等の二次メッセンジャーの作用を主に媒介する。サイクリック-AMP依存性プロテインキナーゼ(PKA)はSTKファミリーの重要なメンバーである。サイクリック-AMPは、研究がなされた原核生物細胞および動物細胞すべてにおけるホルモン作用の細胞内メディエーターである。そのようなホルモン誘導性細胞応答には、甲状腺ホルモン分泌、コルチゾール分泌、プロゲステロン分泌、グリコーゲン分解、骨吸収、ならびに心拍数および心筋収縮力の制御が含まれる。PKAはすべての動物細胞中に見出され、これらの細胞の大部分におけるサイクリック-AMPの作用に関与していると考えられている。PKA発現の変化は、癌、甲状腺障害、糖尿病、アテローム性動脈硬化症、および循環器疾患を含む様々な障害および疾患に関与している(Isselbacher et al., 1994)。
【0038】
カルシウム-カルモジュリン(CaM)依存性プロテインキナーゼもまたSTKファミリーのメンバーである。カルモジュリンは、カルシウムとの結合に応答して標的タンパク質に結合することにより、多くのカルシウム制御性過程を媒介するカルシウム受容体である。これらの過程における主な標的タンパク質はCaM依存性プロテインキナーゼである。CaM-キナーゼは、平滑筋収縮(MLCキナーゼ)、グリコーゲン分解(ホスホリラーゼキナーゼ)、および神経伝達(CaMキナーゼIおよびとCaMキナーゼII)の制御に関与している。CaMキナーゼIは、神経伝達関連タンパク質シナプシンIおよびII、遺伝子転写制御因子、CERB、ならびに嚢胞性線維症コンダクタンス制御タンパク質、CFTRを含む種々の基質をリン酸化する(Haribabu et al., 1995)。CaM IIキナーゼもまた、シナプシンの別の部位をリン酸化し、またチロシン水酸化酵素のリン酸化および活性化を介して脳内のカテコールアミンの合成を調節する。CaMキナーゼの多くは、CaMに結合することに加えてリン酸化により活性化される。このキナーゼは自己リン酸化する場合もあれば、または「キナーゼカスケード」の一部として別のキナーゼによってリン酸化される場合もある。
【0039】
別のリガンド活性化プロテインキナーゼとして、5'-AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)がある(Gao et al., 1996)。哺乳動物AMPKは、酵素アセチル-CoAカルボキシラーゼおよびヒドロキシメチルグルタリル-CoA還元酵素のリン酸化を介する脂肪酸およびステロール合成の制御因子であり、熱ショックならびにグルコースおよびATPの欠乏等の細胞ストレス対するこれらの経路の反応を媒介する。AMPKは、触媒αサブユニット、ならびにαサブユニットの活性を制御すると考えられている非触媒βおよびγの2つのサブユニットからなるヘテロ三量体複合体である。AMPKのサブユニットは、脳、心臓、脾臓、および肺等の非脂質生成組織に、想像されていた以上に幅広く分布する。この分布から、その役割が脂質代謝のみの制御を超える可能性があることが示唆される。
【0040】
マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAP)もまたSTKファミリーのメンバーである。MAPキナーゼも細胞内シグナル伝達経路を制御する。これらのキナーゼは、リン酸化カスケードを介して細胞表面から核へシグナル伝達を媒介する。これまでにいくつかのサブグループが同定されており、それぞれが異なる基質特異性を示し、異なる細胞外刺激に応答する(Egan and Weinberg, 1993)。MAPキナーゼシグナル伝達経路は、哺乳動物細胞にも酵母にも存在する。哺乳動物の経路を活性化する細胞外刺激には、上皮増殖因子(EGF)、紫外線、高浸透圧培地、熱ショック、内毒素リポ多糖(LPS)、ならびに腫瘍壊死因子(TNF)およびインターロイキン-1(IL-1)等の炎症促進性サイトカインが含まれる。
【0041】
PRK(増殖関連キナーゼ)は、ヒト巨核球細胞の細胞周期および細胞増殖の制御に関与する血清/サイトカイン誘導性STKである(Li et al., 1996)。PRKは、細胞分裂に関与するSTKのpolo(ヒトpolo遺伝子に由来する)ファミリーと関連がある。PRKは肺腫瘍組織において下方制御されており、正常組織におけるその発現制御解除が癌化をもたらす癌原遺伝子である可能性がある。MAPキナーゼ発現の変化は、癌、炎症、免疫障害、ならびに成長および発達に影響する障害を含む種々の病態に関与している。
【0042】
サイクリン依存性プロテインキナーゼ(CDK)は、細胞周期を介して細胞進行を制御するSTKの別の群である。サイクリンは、CDKに結合してこれを活性化することによって作用する小さな制御タンパク質である。次いでこのCDKは、分裂過程に関与する選択されたタンパク質をリン酸化し活性化することによって、細胞周期の様々な段階を始動させる。CDKは、活性化されるために多様な投入を必要とする点でユニークである。CDKの活性化には、サイクリンの結合に加えて、特定のスレオニン残基のリン酸化および特定のチロシン残基の脱リン酸化が必要である。
【0043】
プロテインチロシンキナーゼ、PTKは、標的タンパク質上のチロシン残基を特異的にリン酸化するものであり、膜貫通受容体PTKと非膜貫通非受容体PTKに分類され得る。膜貫通プロテインチロシンキナーゼは、大部分の増殖因子の受容体である。増殖因子が受容体に結合することにより、ATPによるリン酸基が受容体および他の特定タンパク質の選択されたチロシン側鎖に転移される。受容体PTKに関連した増殖因子(GF)には、上皮GF、血小板由来GF、線維芽細胞GF、肝細胞GF、インスリンおよびインスリン様GF、神経GF、血管内皮GF、ならびにマクロファージコロニー刺激因子が含まれる。
【0044】
非受容体PTKは膜貫通領域を欠いており、代わりに細胞表面受容体の細胞内領域と複合体を形成する。非受容体PTKを介して機能するそのような受容体には、サイトカイン受容体、ホルモン(成長ホルモンおよびプロラクチン)受容体、ならびにTリンパ球およびBリンパ球上の抗原特異的受容体が含まれる。
【0045】
これらのPTKの多くが最初に同定されたのは、癌細胞中の変異体癌遺伝子の産物としてであり、癌細胞ではPTKの活性化はもはや正常な細胞調節に支配されていない。実際、既知癌遺伝子の約1/3はPTKをコードしており、細胞形質転換(発癌)にチロシンリン酸化活性の上昇が伴う場合が多いことは周知である(Carbonneau and Tonks, 1992)。したがって、ある種の癌を調節するには、PTK活性の制御が重要な戦略になり得る。
【0046】
A. プロテインキナーゼCファミリー
プロテインキナーゼC(PKC)タンパク質はSTKファミリーのメンバーである。プロテインキナーゼD(PKD)はホルボールエステルおよびジアシルグリセロールと結合し、PKCと密接に関連している(Valverde et al., 1994)。プロテインキナーゼCは、様々な細胞外受容体媒介性シグナル伝達経路における細胞応答の調節において、および多種多様な細胞における細胞の分化および増殖の制御において重要な役割を果たす。
【0047】
プロテインキナーゼC遺伝子タンパク質は多くの癌において重要な役割を果たしている可能性があり、したがって、薬剤開発、ならびに種々の癌の診断、予防、および/または処置のスクリーニングに有用であると考えられる。例えば、黒色腫細胞株ではα型プロテインキナーゼCの遺伝子内に腫瘍特異的欠失が同定されている(Linnenbach et al., 1998)。ある種の腫瘍細胞株ではPKCの発現レベルの上昇が認められており、PKCが増殖調節に関連するシグナル伝達経路において重要な役割を果たしていることが示唆された(Johannes et al., 1994)。
【0048】
キナーゼタンパク質、特にプロテインキナーゼCサブファミリーのメンバーは、薬剤作用および薬剤開発の主要な標的である。したがって、キナーゼタンパク質のこのサブファミリーに属するこれまで未知のメンバーを同定し特徴づけることは、医薬品開発の分野において価値がある。本発明は、プロテインキナーゼCサブファミリーのメンバーと相同性を有し、循環器疾患に関与するヒトキナーゼタンパク質を提供するという点で最先端のものである。以下の参考文献は参照により本明細書に組み入れられるが、すべて本発明において使用し得るプロテインキナーゼC阻害剤について記載している:米国特許第6,528,294号;米国特許第6,441,020号;米国特許第6,080,784号;米国特許第6,043,270号;米国特許第5,955,501号。
【0049】
B. プロテインキナーゼD
PKDファミリーは、PKD1(マウスPKD、ヒトPKCμ)、PKD2、およびPKD3(別名PKC)を含む。これらはセリン/スレオニンキナーゼのAGCファミリーのメンバーであるが、他のAGCファミリーメンバーとは異なるユニークな分子構造を共有する。PKD1は複数のドメインを有する:非極性アミノ酸、主にアラニンおよびプロリンを高頻度に有するN末端領域、2つのシステインリッチなジンクフィンガー領域(別名C1aおよびC1b)、負に帯電したアミノ酸が豊富な領域、プレクストリン相同(PH)ドメイン、およびタンパク質Ser/Thrキナーゼ触媒ドメイン(Van Lint et al., 2002)。PKD2およびPKD3においても同様のモジュール構造が認められる。
【0050】
AGCファミリーは様々なサブクラスを含む:サイクリック-ヌクレオチド制御性タンパク質キナーゼ、PKC、PKB/Akt、Gタンパク質共役受容体キナーゼ(GRK)、およびリボソームタンパク質S6キナーゼ。PKDはこのファミリーの種々のサブクラスの特徴を兼ね備えているようであり、既存のサブクラスの1つには分類できないため、新規AGCサブクラスに分類され得る(Van Lint et al., 2002)。例えば、PKDファミリーのシステインリッチドメインは古典的および新規PKCのものと類似しているが、PHドメインはPKBおよびGRKとより類似しており、このドメインはいずれのPKC酵素にも認められない。触媒ドメインは、いくつかの基準から判断して、構造的および機能的にPKCファミリーおよび他のAGCファミリーメンバーとは異なる(Hayashi et al., 1999;Nishikawa et al., 1997;Sturany et al., 2001;Valverde et al., 1994)。第一に、他の既知タンパク質キナーゼの触媒ドメインすべてと比較した場合、PKD触媒ドメインのアミノ酸配列はDictyosteliumのミオシン軽鎖キナーゼ(MLCK)と最も類似しており(41%)、個々のPKCとは30〜35%しか類似していない。第二に、PKD1はユニークな基質特異性を有する:PKD1はPKCファミリーによって選択される塩基性残基を有する基質部位を選択せず、むしろセリン標的部位の-5位にロイシンを有する基質をリン酸化する(Van Lint et al., 2002)。第三に、PKD1はPKC阻害剤GF IおよびRo 31-8220に対して非感受性である。第四に、PKD1は、PKCファミリーの大部分のメンバーにおいて認められ得る自己抑制的偽基質配列を有していない。したがって、PKDは従来PKCファミリーメンバーとして分類されていたが、別の分類の方がより適切である可能性が高い。
【0051】
興味深いことに、PKDは14-3-3タンパク質によって制御されることが示され(Van lint et al., 2002)、HDACはリン酸化された後に14-3-3に結合する。さらに、PKDは成体ラット心臓組織において見出された(Haworth et al., 2000)。最終的には、上記の通り、PKDはセリンの-5位にロイシンを有する基質をリン酸化することが示され(Van lint et al., 2002)、これは本発明者らがクラスII HDACにおいて見出したリン酸化部位の位置と正確に一致する(未発表)。ヒトPKDの配列はアクセッション番号NM002742に見出され得る。
【0052】
C. キナーゼ阻害剤
上記のように、プロテインキナーゼはヒトゲノムのかなりの部分を構成し、最も基本的な細胞内シグナル伝達機構の1つである。したがって、多くの細胞種におけるキナーゼ活性の調節(またはその欠如)は、多くの疾患、特に炎症反応または増殖反応が関与する疾患における主要な要因である。キナーゼ標的が多様であるにもかかわらず(約500のキナーゼ配列が周知である)、キナーゼを阻害するように特異的に設計された薬剤は最近になってやっと市場に届いた。細胞内キナーゼシグナル伝達が非常に重要であることは長年認識されていたが、最近になってやっとキナーゼ活性の性質およびそれに対応する触媒機構についての十分な知識が蓄積され、安全でかつ選択的なキナーゼ阻害剤の開発が可能になった。例えば、Gleevec(商標)(Novartis)およびIressa(商標)(Astra Zeneca)は、現在、病院での活用に十分な状態である、治療薬の新規でかつ活気に満ちたクラスの草分け的メンバーである。当業者は、多くのプロテインキナーゼC阻害剤が存在し、上記の企業はこれらの阻害剤を作製およびスクリーニングする標準的な方法を有することを理解すると考えられる。したがって、これらの系において使用するために利用可能なこれらの方法および既知キナーゼまたは化合物は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0053】
D. PKD阻害剤
リスベラトロールがPKDを阻害し得るとの報告がなされ(Haworth et al., 2001)、よってリスベラトロールは本発明の1つの態様において有用である可能性がある。他の潜在的阻害剤には、インドロカルバゾール、Godecke 6976(Go6976)、スタウロスポリン、K252a、[d-Arg(1),d-Trp(5,7,9),Leu(11)]SPを含むサブスタンスP(SP)類似体、PKC阻害剤109203X(GF-1)、PKC阻害剤Ro 31-8220、PKC阻害剤Go 7874、ゲニステイン、特異的Src阻害剤PP-1およびPP-2、ケレリスリン、またはロットレリンが含まれるが、これらに限定されない。上記したものに加えて、遺伝子を阻害する一般的な非薬理学的方法もまた存在し、これについては以下に記載する。
【0054】
i. 核酸
a. アンチセンス構築物
アンチセンス方法論は、核酸が「相補的な」配列と対形成する傾向があるという事実を利用する。相補的とは、ポリヌクレオチドが標準的なワトソン-クリック相補性規則に従って塩基対形成し得るポリヌクレオチドであることを意味する。すなわち、大きなプリンは小さなピリミジンと塩基対を形成し、シトシンと対形成したグアニン(G:C)およびDNAの場合にはチミンと対形成したアデニン(A:T)またはRNAの場合にはウラシルと対形成したアデニン(A:U)の組み合わせを形成する。ハイブリダイズする配列中にイノシン、5-メチルシトシン、6-メチルアデニン、ヒポキサンチン等のあまり一般的でない塩基を含めても、対形成を妨げられない。
【0055】
ポリヌクレオチドで二本鎖(ds)DNAを標的とすることにより三重らせん形成が起こり;RNAを標的することにより二重らせん形成が起こる。アンチセンスポリヌクレオチドは、標的細胞に導入した場合、それらの標的ポリヌクレオチドに特異的に結合し、転写、RNAプロセシング、輸送、翻訳および/または安定性を妨げる。アンチセンスRNA構築物、またはそのようなアンチセンスRNAをコードするDNAは、ヒト被検者を含む宿主動物のような宿主細胞において、インビトロまたはインビボで遺伝子の転写もしくは翻訳またはそれら両方を抑制するために使用され得る。
【0056】
アンチセンス構築物は、遺伝子のプロモーターおよび他の調節領域、エキソン、イントロン、またはさらにエキソン-イントロン境界に結合するように設計し得る。最も効果的なアンチセンス構築物は、イントロン/エキソンスプライス接合部に相補的な領域を含むことが意図される。したがって、好ましい態様は、イントロン-エキソンスプライス接合部の50〜200塩基内の領域に相補的なアンチセンス構築物を含むことが提案される。標的選択性に著しい影響を及ぼさずに、構築物中にいくつかのエキソン配列を含め得ることが認められている。含まれるエキソン物質の量は、使用する特定のエキソおよびイントロンの配列によって変わることになる。過剰のエキソンDNAが含まれているかどうかは、その構築物をインビトロで簡単に試験して、正常な細胞機能が影響を受けるかどうか、または相補的配列を有する関連遺伝子の発現が影響を受けるかどうかを決定することによって容易に試験することができる。
【0057】
上記のように、「相補的な」または「アンチセンス」とは、それらの全長にわたって実質的に相補的であり、わずかな塩基ミスマッチをほとんど含まないポリヌクレオチド配列を意味する。例えば、15塩基長の配列は、13または14の位置で相補的ヌクレオチドを有する場合に相補的であると称され得る。当然、完全に相補的な配列とは、全長にわたって完全に相補的であり、かつ塩基ミスマッチのない配列である。より低い程度の相同性を有する他の配列もまた意図される。例えば、高い相同性の限られた領域を有し、非相同領域も含むアンチセンス構築物(例えばリボザイム;以下を参照のこと)を設計することができる。これらの分子は、50%未満の相同性を有するが、適切な条件下で標的配列に結合する。
【0058】
特定の構築物を作製するために、ゲノムDNAの一部をcDNAまたは合成配列と組み合わせることが好都合である場合がある。例えば、最終構築物にイントロンが所望される場合、ゲノムクローンを用いことが必要になる。cDNAまたは合成ポリヌクレオチドは構築物の残りの部分により便利な制限部位を提供し得り、そのため、配列の残りの部分に用いられる。
【0059】
ii. リボザイム
核酸の触媒反応には伝統的にタンパク質が用いられきたが、別の種類の高分子がこの試みにおいて有用なものとして出現した。リボザイムは核酸を部位特異的に切断するRNA-タンパク質複合体である。リボザイムは、エンドヌクレアーゼ活性を有する特定の触媒ドメインを有する(Kim and Cook, 1987;Gerlach et al., 1987;Forster and Symons, 1987)。例えば、多くのリボザイムは、高度の特異性でリン酸エステル転移反応を促進し、オリゴヌクレオチド基質内のいくつかのリン酸エステルのうちただ1つのみを切断する場合が多い(Cook et al., 1981:Michel and Westhof, 1990;Reinhold-Hurek and Shub, 1992)。この特異性は、化学反応の前に、基質が特定の塩基対形成相互作用を介してリボザイムの内部ガイド配列(「IGS」)に結合するという必要条件に起因している。
【0060】
リボザイムの触媒作用はそもそも、核酸を伴う配列特異的切断/連結反応の一部として認められた(Joyce, 1989;Cook et al., 1981)。例えば米国特許第5,354,855号は、ある種のリボザイムが、既知のリボヌクレアーゼの配列特異性よりも高く、またDNA制限酵素の配列特異性に近い配列特異性を有するエンドヌクレアーゼとして作用し得ることを報告している。したがって、遺伝子発現の配列特異的リボザイム媒介性抑制は、治療適用に特に適している可能性がある(Scanlon et al., 1991;Sarver et al., 1990)。最近、リボザイムが、それを適用したいくつかの細胞系において遺伝子変化を誘発したことが報告された;変化した遺伝子には、癌遺伝子H-ras、c-fos、およびHIVの遺伝子が含まれた。この研究の大部分には、特定のリボザイムによって切断される特定の変異コドンに基づく標的mRNAの改変が関与した。
【0061】
iii. RNAi
RNA干渉(「RNA媒介性干渉」またはRNAiとも称される)とは、遺伝子発現が低減され得るかまたは排除され得る機構である。二本鎖RNA(dsRNA)はこの低減を媒介することが認められており、これは複数段階の過程である。dsDNAは転写後の遺伝子発現監視機構を活性化するが、これはウイルス感染およびトランスポゾン活性から細胞を防御するために機能すると考えられる(Fire et al., 1998;Grishok et al., 2000;Ketting et al., 1999;Lin and Avery et al., 1999;Montgomery et al., 1998;Sharp and Zamore, 2000;Tabara et al., 1999)。これらの機構の活性化により、dsRNAに相補的な成熟mRNAが破壊の標的とされる。RNAiにより、遺伝子機能の研究の重要な実験的利点が提供される。これらの利点には、非常に高い特異性、細胞膜の移動が容易であること、および標的遺伝子の下方制御の持続が含まれる(Fire et al., 1998;Grishok et al., 2000;Ketting et al., 1999;Lin and Avery et al., 1999;Montgomery et al., 1998;Sharp et al., 1999;Sharp and Zamore, 2000;Tabara et al., 1999)。さらに、dsRNAは、植物、原生動物、菌類、線虫(C. elegans)、トリパノソーマ(Trypanasoma)、ショウジョウバエ(Drosophila)、および哺乳動物を含む広範な系において遺伝子をサイレントにすることが示された(Grishok et al., 2000;Sharp et al., 1999;Sharp and Zamore, 2000;Elbashir et al., 2001)。RNAiは転写後に作用し、RNA転写産物を分解の標的にすることが一般に認められている。核RNAおよび細胞質RNAの両方が標的となり得ると考えられる(Bosher and Labouesse, 2000)。
【0062】
siRNAは、関心対象の遺伝子の発現抑制において特異的かつ効率的であるように設計しなくてなならない。標的配列、すなわちsiRNAが分解機構を導くことになる関心対象の1つまたは複数の遺伝子内に存在する配列を選択する方法は、1つまたは複数の遺伝子に特異的な配列を含むもののsiRNAのガイド機能を妨げ得る配列を回避するように行われる。典型的に、約21〜23ヌクレオチド長のsiRNA標的配列が最も効率的である。この長さは、上記したようにより長いRNAのプロセシングによって生じた切断産物の長さを反映している(Montgomery et al., 1998)。
【0063】
siRNAの作製は主に、直接的な化学合成を介して;ショウジョウバエ胚溶解物に曝露することによってより長い二本鎖RNAをプロセシングすることにより;またはS2細胞に由来するインビトロ系を介して行われている。細胞溶解物またはインビトロプロセシングを使用するには、その後、溶解物から短い21〜23ヌクレオチドsiRNAを単離する段階等をさらに含み得るため、その過程は幾分厄介でありかつ費用を要する。化学合成は、2本の一本鎖RNAオリゴマーを作製し、その後この2本の一本鎖オリゴマーをアニーリングして二本鎖RNAにすることによって進行する。化学合成法は多様である。参照により本明細書に明確に組み入れられる米国特許第5,889,136号、米国特許第4,415,723号、および米国特許第4,458,066号、ならびにWincott et al. (1995)に非限定的な例が提供される。
【0064】
安定性を改変するためまたは有効性を改善するために、siRNA配列に対していくつかのさらなる修飾が提案されている。ジヌクレオチド突出部を有する合成による相補的21-mer RNA(すなわち、相補的な19ヌクレオチド+3'非相補的二量体)により、最も高い抑制レベルが提供され得ることが示されている。これらの手順では、主として2つの(2'-デオキシ)チミジンヌクレオチドの配列をジヌクレオチド突出部として用いる。これらのジヌクレオチド突出部は、RNAに取り込まれる典型的なヌクレオチドと区別するためにdTdTと記載される場合が多い。文献により、dT突出部の使用は、主に化学合成RNAのコストを下げる必要性によって誘導されることが示された。dTdT突出部の方がUU突出部よりも安定であることもまた示唆されたが、得られるデータからは、UU突出部を有するsiRNAと比較した場合、dTdT突出部の改善はほんのわずか(<20%)であることが示されている。
【0065】
化学合成siRNAは、細胞培養液中で25〜100 nMの濃度である場合に最適に機能することが認められているが、哺乳動物細胞では約100 nMの濃度で効果的な抑制が達成された。siRNAは、哺乳動物細胞培養液においては約100 nMで最も効果的である。しかし、場合によっては、より低濃度の化学合成siRNAが用いられている(Caplen, et al., 2000;Elbashir et al., 2001)。
【0066】
WO 99/32619およびWO 01/68836により、siRNAに使用するRNAは化学合成され得るかまたは酵素により合成され得ることが示された。これらの文章はいずれも、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。これらの参考文献において意図される酵素合成は、当技術分野において周知であるような発現構築物の使用および作製を介しての細胞RNAポリメラーゼまたはバクテリオファージRNAポリメラーゼ(例えば、T3、T7、SP6)によるものである。例えば、米国特許第5,795,715号を参照されたい。意図される構築物により、標的遺伝子の一部と同一のヌクレオチド配列を含むRNAを産生する鋳型が提供される。これらの参考文献によって提供される同一配列の長さは少なくとも25塩基であり、400塩基長またはそれ以上であってもよい。この参考文献の重要な局面は、長いdsRNAをsiRNAに変換する内因性のヌクレアーゼ複合体により、長いdsRNAを21〜25-merの長さにインビボで切断することをその発明者らが意図する点である。その発明者らは、インビトロで転写された21〜25-mer dsRNAの合成および使用に関するデータを記載も提示もしていない。RNA干渉における使用で予想される化学合成dsRNAと酵素合成dsRNAとの特性の間に相違はない。
【0067】
同様に、参照により本明細書に組み入れられるWO 00/44914では、一本鎖RNAが酵素合成によりまたは部分的/全体的有機合成によって作製され得ることを示している。一本鎖RNAはDNA鋳型、好ましくはクローニングされたcDNA鋳型のPCR産物から酵素により合成され、RNA産物は数百個のヌクレオチドを含み得るcDNAの完全な転写産物であることが好ましい。参照により本明細書に組み入れられるWO 01/36646では、siRNAを合成する方法に制限を課さず、RNAは手動手順および/または自動化手順によりインビトロまたはインビボで合成され得ると定めている。この参考文献はまた、インビトロ合成は化学的であっても、もしくは例えば内因性DNA(またはcDNA)鋳型を転写するためにクローニングされたRNAポリメラーゼ(例えば、T3、T7、Sp6)を用いるなど酵素的であってもよく、またはそれらの組み合わせであってもよいと定めている。この場合も同様に、化学合性siRNAと酵素合成siRNAとでは、RNA干渉で使用するための所望の特性に相違はない。
【0068】
米国特許第5,795,715号は、単一の混合液中で2本の相補DNA配列鎖を同時転写することを報告しており、この場合2つの転写産物は即座にハイブリダイズする。用いられる鋳型は好ましくは40〜100塩基対であり、各末端にはプロモーター配列を備えている。鋳型は固相表面に付着していることが好ましい。RNAポリメラーゼを用いて転写したのち、得られたdsRNA断片を用いて、核酸標的配列を検出および/またはアッセイすることができる。
【0069】
III. ヒストンデアセチラーゼおよび阻害剤
クロマチン折りたたみの基本骨格であるヌクレオソームは動的な高分子構造であり、クロマチン溶液高次構造に影響を与える(Workman and Kingston, 1998)。ヌクレオソームコアは、ヒストンタンパク質、H2A、HB、H3、およびH4で構成される。ヒストンアセチル化により、ヌクレオソームおよびヌクレオソーム配置は変化した生物物理学的性質をとる。ヒストンアセチラーゼ(HAT)とヒストンデアセチラーゼ(HDAC)との活性のバランスによって、ヒストンアセチル化のレベルが決まる。アセチル化されたヒストンはクロマチンの弛緩および遺伝子転写の活性化をもたらし、脱アセチル化されたクロマチンは一般に転写的に不活性である。
【0070】
11個の異なるHDACが脊椎動物からクローニングされている。最初に同定された3つのヒトHDACは、HDAC 1、HDAC 2、およびHDAC 3(クラスIヒトHDACと称される)であり、HDAC 8(Van den Wyngaert et al., 2000)もこのリストに加えられた。近年、クラスIIヒトHDAC、HDAC 4、HDAC 5、HDAC 6、HDAC 7、HDAC 9、およびHDAC 10(Kao et al., 2000)がクローニングされて同定された(Grozinger et al., 1999;Zhou et al., 2001;Tong et al., 2002)。さらに、HDAC 11が同定されたが、クラスIまたはクラスIIのいずれかは未だ分類されていない(Gao et al., 2002)。いずれも触媒領域において相同性を共有する。しかし、HDAC 4、HDAC 5、HDAC 7、HDAC 9、およびHDAC 10は、他のHDACには認められないユニークなアミノ末端伸長を有する。このアミノ末端領域は、MEF2結合ドメインを含む。HDAC 4、HDAC 5、およびHDAC 7は心臓遺伝子発現の制御に関与し、さらに特定の態様においてはMEF2転写活性を抑制することが示されている。クラスII HDACがMEF2活性を抑制する正確な機構は完全に理解されていない。1つの可能性は、MEF2に対するHDACの結合によって、競合的にまたは天然の転写的に活性のあるMEF2高次構造が不安定化することにより、MEF2転写活性が阻害されるというものである。クラスII HDACが、脱アセチル化を進行させるためにヒストンの近傍にHDACを局在させるまたは位置づけるために、MEF2との二量体化を必要とする可能性もまた存在する。
【0071】
ヒストンデアセチラーゼに対する種々のインヒビターが同定されている。提唱される用途は広範囲に及ぶが、主に癌治療に重点を置いている。Saunders et al. (1999);Jung et al. (1997);Jung et al. (1999);Vigushin et al. (1999);Kim et al. (1999); Kitazomo et al. (2001);Vigusin et al. (2001);Hoffmann et al. (2001);Kramer et al. (2001);Massa et al. (2001);Komatsu et al. (2001);Han et al. (2001)。このような治療は、NIHの支援による固形腫瘍および非ホジキンリンパ腫の第I相臨床試験の対象である。またHDACにより導入遺伝子の転写が増加し、したがってこれは遺伝子治療の潜在的補助剤を構成する。Yamano et al. (2000);Su et al., (2000)。
【0072】
HDACは、種々の異なる機構−タンパク質、ペプチド、および核酸(アンチセンス分子およびRNAi分子を含む)を介して阻害され得る。クローニング、ウイルスベクターおよび非ウイルスベクターを含む遺伝子構築物の移入および発現、ならびにリポソームに関する方法は、当業者に周知である。ウイルスベクターには、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、およびヘルペスウイルスが含まれる。
【0073】
小分子阻害剤もまた意図される。おそらく、最も周知であるHDAC機能の小分子阻害剤はトリコスタチンA、ヒドロキサム酸である。これは、過剰アセチル化を誘導し、ras形質転換細胞の正常形態への復帰を引き起こすこと(Taunton et al., 1996)、およびマウスモデルにおいて免疫抑制を誘導すること(Takahashi et al., 1996)が示されている。これは、BIOMOL Research Labs, Inc、ペンシルバニア州、プリマスミーティングから市販されている。
【0074】
参照により本明細書に組み入れられる以下の参考文献はすべて、本発明において役立ち得るHDAC阻害剤について記載している:

【0075】
IV. 心肥大を処置する方法
A. 治療法
循環器疾患における心肥大の現在の医学的対応には、少なくとも2種類の薬剤:レニン-アンギオテンシン系の阻害薬およびβアドレナリン遮断薬の使用が含まれる(Bristow, 1999)。心不全における病的肥大を処置するための治療薬には、アンギオテンシンII変換酵素(ACE)阻害薬およびβ受容体遮断薬が含まれる(Erichnorn and Bristow, 1996)。心肥大の処置のために開示されている他の薬学的薬剤には、アンギオテンシンII受容体拮抗薬(米国特許第5,640,251号)および神経ペプチドY拮抗薬(WO 99/33791)が含まれる。現在、薬学的化合物が利用できるにもかかわらず、心肥大およびこれに続く心不全の予防および処置は治療課題を提示し続けている。
【0076】
非薬理学的処置は、主に薬理学的処置の補助として用いられる。非薬理学的処置の1つの手段は、食餌中のナトリウムの低減を含む。さらにまた、非薬理学的処置は、負の強心薬(例えば、特定のカルシウムチャネル遮断薬およびジソピラミド等の抗不整脈薬)、心臓毒(例えばアンフェタミン)、および血漿増量剤(例えば、非ステロイド性抗炎症薬およびグルココルチコイド)を含む特定の増悪薬剤の排除を伴う。
【0077】
本発明の1つの態様では、PKD阻害剤を利用して心肥大または心不全を処置する方法を提供する。本出願の目的のために、処置は、運動能力の低下、血液駆出量の減少、左心室拡張末期圧の上昇、肺毛細管楔入圧の上昇、心拍出量、心係数の減少、肺動脈圧の上昇、左心室収縮末期径および左心室拡張末期径の増加、ならびに左心室壁応力、壁張力、および壁厚の増加−右心室についても同様等の、心肥大の1つまたは複数の症状を軽減する段階を含む。さらに、PKD阻害剤の使用は、心肥大およびそれに関連する症状が生じるのを妨げ得る。
【0078】
治療法は臨床症状によって異なる。しかし、ほとんどの状況において長期の維持が適切であると考えられる。例えば疾患の進行過程における短い時間枠内などに、PKD阻害剤を用いて肥大を断続的に処置することもまた望ましい場合がある。
【0079】
B. 併用療法
別の態様では、他の治療様式と組み合わせてPKD阻害剤を使用することが想定される。したがって、上記の治療に加えて、患者により「標準的な」薬学的心臓治療を提供してもよい。他の治療には、いわゆる「β遮断剤」、抗高血圧薬、強心剤、抗血栓薬、血管拡張薬、ホルモン拮抗薬、イオントロープ(iontrope)、利尿薬、エンドセリン拮抗薬、カルシウムチャネル遮断薬、ホスホジエステラーゼ阻害薬、ACE阻害薬、2型アンギオテンシン拮抗薬、およびサイトカイン遮断薬/阻害薬、ならびにHDAC阻害剤が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0080】
組み合わせは、心臓細胞を両方の薬剤を含む単一の組成物または薬理学的製剤と接触させることによるか、または心臓細胞を2つの別個の組成物または製剤と同時に接触させることによって達成し得り、後者の場合、一方の組成物は発現構築物を含み、他方は薬剤を含む。または、PKD阻害剤を用いる治療は、数分から数週間の範囲の間隔で他の薬剤の投与に先行しても、またはその後に行ってもよい。他の薬剤および発現構築物を細胞に別々に適用する態様では、一般に、薬剤および発現構築物が細胞に対してなお有利に組み合わせ効果を発揮し得るように、それぞれの送達時の間に大幅な時間が経過しないことを確実にする。このような例においては、典型的に、互いに約12〜24時間以内の間隔で、より好ましくは互いに約6〜12時間の間隔で細胞を両方の様式と接触させることが意図され、約12時間のみの遅延時間が最も好ましい。状況によっては、処置時間を顕著に延長することが所望される場合もあるが、この場合、各投与の間に数日(2、3、4、5、6、または7)〜数週間(1、2、3、4、5、6、7、または8)が経過する。
【0081】
PKD阻害剤または他の薬剤の2回以上の投与が所望されることもまた考えられ得る。これに関しては、種々の組み合わせを利用することができる。例として、PKD阻害剤が「A」であり他の薬剤が「B」である場合、3回および4回の総投与に基づいた以下の順列が例示される。

他の組み合わせも同様に意図される。
【0082】
C. 薬理学的治療薬
薬理学的治療薬および投与方法、用量等は当業者に周知であり(例えば、「Physicians Desk Reference」、Klaassenの「The Pharmacological Basis of Therapeutics」、「Remington's Pharmaceutical Sciences」、および「The Merck Index, Eleventh Edition」(関連部分は参照により本明細書に組み入れられる)を参照のこと)、本明細書の開示に照らしてこれらを本発明と組み合わせることができる。処置する被検者の状態に応じて、用量のいくらかの変動は必然的に生じることになる。いずれにせよ、投与責任者が個々の被検者に対して適切な用量を決定することになり、そのような個別の決定は当業者の技術の範囲内である。
【0083】
本発明において使用し得る薬理学的治療薬の非限定的な例には、抗高リポタンパク血症薬、抗動脈硬化薬、抗血栓/線維素溶解薬、血液凝固薬、抗不整脈薬、抗高血圧薬、血管収縮薬、うっ血性心不全の治療薬、抗狭心症薬、抗菌薬、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0084】
さらに、本実施例においてβ遮断薬を用いたように(以下を参照のこと)、以下のいずれかを用いて心臓治療標的遺伝子の新たなセットを開発することができることに留意されたい。これらの遺伝子の多くは重複することが予想されるが、新たな遺伝子標的を開発できる可能性が高い。
【0085】
i. 抗高リポタンパク血症薬
特定の態様においては、特にアテローム性動脈硬化症および血管組織の肥厚または閉塞の処置において、本明細書において「抗高リポタンパク血症薬」として周知である、血中脂質および/またはリポタンパク質の1つまたは複数の濃度を低減する薬剤の投与を本発明による循環器治療と組み合わせることができる。特定の局面では、抗高リポタンパク血症薬は、アリールオキシアルカン酸/フィブリン酸誘導体、樹脂酸/胆汁酸抑制薬、HMG CoA還元酵素阻害薬、ニコチン酸誘導体、甲状腺ホルモンもしくは甲状腺ホルモン類似体、その他の薬剤、またはこれらの組合せを含み得る。
【0086】
a. アリールオキシアルカン酸/フィブリン酸誘導体
アリールオキシアルカン酸/フィブリン酸誘導体の非限定的な例には、ベクロブラート、エンザフィブラート、ビニフィブラート、シプロフィブラート、クリノフィブラート、クロフィブラート(atromide-S)、クロフィブリン酸、エトフィブラート、フェノフィブラート、ゲンフィブロジル(lobid)、ニコフィブラート、ピリフィブラート、ロニフィブラート、シンフィブラート、およびテオフィブラートが含まれる。
【0087】
b. 樹脂酸/胆汁酸抑制薬
樹脂酸/胆汁酸抑制薬の非限定的な例には、コレスチラミン(cholybar、questran)、コレスチポール(colestid)、およびポリデキシドが含まれる。
【0088】
c. HMG CoA還元酵素阻害薬
HMG CoA還元酵素阻害薬の非限定的な例には、ロバスタチン(mevacor)、プラバスタチン(pravochol)、またはシンバスタチン(zocor)が含まれる。
【0089】
d. ニコチン酸誘導体
ニコチン酸誘導体の非限定的な例には、ニコチネート、アセピモックス(acepimox)、ニセリトロール、ニコクロナート、ニコモール、およびオキシニアク酸が含まれる。
【0090】
e. 甲状腺ホルモンおよびその類似体
甲状腺ホルモンおよびその類似体の非限定的な例には、エトロキサート(etoroxate)、チロプロプ酸、およびチロキシンが含まれる。
【0091】
f. その他の抗高リポタンパク血症薬
その他の抗高リポタンパク血症薬の非限定的な例には、アシフラン、アザコステロール、ベンフルオレクス、β-ベンザルブチルアミド、カルニチン、コンドロイチン硫酸、クロメストロン(clomestrone)、デタクストラン(detaxtran)、デキストラン硫酸ナトリウム、5,8, 11, 14, 17-エイコサペンタエン酸、エリタデニン、フラザボール、メグルトール、メリナミド、ミタトリエンジオール(mytatrienediol)、オルニチン、γ-オリザノール、パンテチン、ペンタエリスリトールテトラアセテート、α-フェニルブチルアミド、ピロザジル、プロブコール(lorelco)、β-シトステロール、スルトシル酸-ピペラジン塩、チアデノール、トリパラノール、およびキセンブシンが含まれる。
【0092】
ii. 抗動脈硬化薬
抗動脈硬化薬の非限定的な例にはピリジノールカルバメートが含まれる。
【0093】
iii. 抗血栓/線維素溶解薬
特定の態様においては、特にアテローム性動脈硬化症および脈管構造(例えば動脈)の閉塞の処置において、血栓の除去または予防を補助する薬剤の投与をモジュレーターの投与と組み合わせることができる。抗血栓/線維素溶解薬の非限定的な例には、抗凝血薬、抗凝血薬拮抗薬、抗血小板薬、血栓溶解薬、血栓溶解薬拮抗薬、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0094】
特定の局面においては、経口投与できる、アスピリンおよびワーファリン(coumadin)等の抗血栓薬が好ましい。
【0095】
a. 抗凝血薬
抗凝血薬の非限定的な例には、アセノクマロール、アンクロッド、アニシンジオン、ブロミンジオン、クロリンジオン、クメタロール、シクロクマロール、デキストラン硫酸ナトリウム、ジクマロール、ジフェナジオン、ビスクマセタートエチル、エチリデンジクマロール、フルインジオン、ヘパリン、ヒルジン、リアポレートナトリウム(lyapolate sodium)、オキサジジオン、ペントサンポリサルフェート、フェニンジオン、フェンプロクモン、ホスビチン、ピコタミド、チオクロマロール、およびワーファリンが含まれる。
【0096】
b. 抗血小板薬
抗血小板薬の非限定的な例には、アスピリン、デキストラン、ジピリダモール(persantin)、ヘパリン、スルフィンピラゾン(anturane)、およびチクロピジン(ticlid)が含まれる。
【0097】
c. 血栓溶解薬
血栓溶解薬の非限定的な例には、組織プラスミノーゲンアクチベーター(activase)、プラスミン、プロウロキナーゼ、ウロキナーゼ(abbokinase)、ストレプトキナーゼ(streptase)、およびアニストレプラーゼ/APSAC(eminase)が含まれる。
【0098】
iv. 血液凝固薬
患者が出血を起こしているかまたは出血が増加する可能性がある特定の態様においては、血液凝固を増強する薬剤を使用することができる。血液凝固促進薬の非限定的な例には、血栓溶解薬拮抗薬および抗凝血薬拮抗薬が含まれる。
【0099】
a. 抗凝血薬拮抗薬
抗凝血薬拮抗薬の非限定的な例には、プロタミンおよびビタミンK1が含まれる。
【0100】
b. 血栓溶解薬拮抗薬および抗血栓薬
血栓溶解薬拮抗薬の非限定的な例には、アミノカプロン酸(amicar)およびトランセキサム酸(amstat)が含まれる。抗血栓薬の非限定的な例には、アナグレリド、アルガトロバン、シルスタゾール、ダルトロバン、ディフィブロタイド、エノキサパリン、フラキシパリン、インドブフェン、ラモパラン(lamoparan)、オザグレル、ピコタミド、プラフィブリド、テデルパリン(tedelparin)、チクロピジン、およびトリフルサールが含まれる。
【0101】
v. 抗不整脈薬
抗不整脈薬の非限定的な例には、クラスI抗不整脈薬(ナトリウムチャンネル遮断薬)、クラスII抗不整脈薬(βアドレナリン遮断薬)、クラスII抗不整脈薬(脱分極持続薬)、クラスIV抗不整脈薬(カルシウムチャネル遮断薬)、およびその他の抗不整脈薬(以下を参照)が含まれる。
【0102】
a. ナトリウムチャンネル遮断薬
ナトリウムチャンネル遮断薬の非限定的な例には、クラスIA、クラスIB、およびクラスIC抗不整脈薬が含まれる。クラスIA抗不整脈薬の非限定的な例には、ジソピラミド(norpace)、プロカインアミド(pronestyl)、およびキニジン(quinidex)が含まれる。クラスIB抗不整脈薬の非限定的な例には、リドカイン(xylocaine)、トカイニド(tonocard)、およびメキシレチン(mexitil)が含まれる。クラスIC抗不整脈薬の非限定的な例には、エンカイニド(enkaid)およびフレカイニド(tambocor)が含まれる。
【0103】
b. β遮断薬
β遮断薬は別名βアドレナリン遮断薬、βアドレナリン拮抗薬、またはクラスII抗不整脈薬としても知られており、その非限定的な例には、アセブトロール(sectral)、アルプレノロール、アモスラロール、アロチノロール、アテノロール、べフノロール、ベタキソロール、ベバントロール、ビソプロロール、ボピンドロール、ブクモロール、ブフェトロール、ブフラロール、ブニトロロール、ブプラノロール、塩酸ブチドリン、ブトフィロロール、カラゾロール、カルテオロール、カルベジロール、セリプロロール、セタモロール、クロラノロール、ジレバロール、エパノロール、エスモロール(brevibloc)、インデノロール、ラベタロール、レボブノロール、メピンドロール、メチプラノロール、メトプロロール、モプロロール、ナドロール、ナドキソロール、ニフェナロール、ニプラジロール、オクスプレノロール、ペンブトロール、ピンドロール、プラクトロール、プロネタロール、プロパノロール(inderal)、ソタロール(betapace)、スルフィナロール、タリノロール、テルタトロール、チモロール、トリプロロール、およびキシベノロールが含まれる。特定の局面において、β遮断薬はアリールオキシプロパノールアミン誘導体を含む。アリールオキシプロパノールアミン誘導体の非限定的な例には、アセブトロール、アルプレノロール、アロチノロール、アテノロール、ベタキソロール、ベバントロール、ビソプロロール、ボピンドロール、ブニトロロール、ブトフィロロール、カラゾロール、カルテオロール、カルベジロール、セリプロロール、セタモロール、エパノロール、インデノロール、メピンドロール、メチプラノロール、メトプロロール、モプロロール、ナドロール、ニプラジロール、オクスプレノロール、ペンブトロール、ピンドロール、プロパノロール、タリノロール、テルタトロール、チモロール、およびトリプロロールが含まれる。
【0104】
c. 脱分極持続薬
脱分極を持続させる薬剤はクラスIII抗不整脈薬としても知られるが、その非限定的な例には、アミオダロン(cordarone)およびソタロール(betapace)が含まれる。
【0105】
d. カルシウムチャネル遮断薬/拮抗薬
カルシウムチャネル遮断薬は別名クラスIV抗不整脈薬としても知られており、その非限定的な例には、アリールアルキルアミン(例えば、ベプリジル、ジルチアゼム、フェンジリン、ガロパミル、プレニルアミン、テロジリン、ベラパミル)、ジヒドロピリジン誘導体(フェロジピン、イスラジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニモジピン、ニソルジピン、ニトレンジピン)、ピペラジン誘導体(例えば、シンナリジン、フルナリジン、リドフラジン)、またはベンシクラン、エタフェノン、マグネシウム、ミベフラジル、もしくはペルヘキシリン等の他のカルシウムチャネル遮断薬が含まれる。特定の態様において、カルシウムチャネル遮断薬は持続性ジヒドロピリジン(ニフェジピン型)カルシウム拮抗薬を含む。
【0106】
e. その他の抗不整脈薬
その他の抗不整脈薬の非限定的な例には、アデノシン(adenocard)、ジゴキシン(lanoxin)、アセカイニド、アジュマリン、アモプロキサン、アプリンジン、トシル酸ブレチリウム、ブナフチン、ブトベンジン、カポベン酸、シフェンリン、ジソピラミド、ヒドロキニジン、インデカイニド、臭化イプラトロピウム、リドカイン、ロルアジミン(lorajmine)、ロルカイニド、メオベンチン、モリシジン、ピルメノール、プルアジマリン(prajmaline)、プロパフェノン、ピリノリン、ポリガラクツロ酸キニジン、硫酸キニジン、およびビキジル(viquidil)が含まれる。
【0107】
vi. 抗高血圧薬
抗高血圧薬の非限定的な例には、交感神経遮断薬、α/β遮断薬、α遮断薬、抗アンギオテンシンII薬、β遮断薬、カルシウムチャネル遮断薬、血管拡張薬、およびその他の抗高血圧薬が含まれる。
【0108】
a. α遮断薬
α遮断薬は別名αアドレナリン遮断薬またはαアドレナリン拮抗薬としても知られており、その非限定的な例には、アモスラロール、アロチノロール、ダピプラゾール、ドキサゾシン、エルゴロイド・メシレイト、フェンスピリド、インドラミン、ラベタロール、ニセルゴリン、プラゾシン、テラゾシン、トラゾリン、トリマゾシン、およびヨヒンビンが含まれる。特定の態様において、α遮断薬はキナゾリン誘導体を含み得る。キナゾリン誘導体の非限定的な例には、アルフゾシン、ブナゾシン、ドキサゾシン、プラゾシン、テラゾシン、およびトリマゾシンが含まれる。
【0109】
b. α/β遮断薬
特定の態様において、抗高血圧薬はαおよびβアドレナリン拮抗薬の両方である。α/β遮断薬の非限定的な例はラベタロール(normodyne、trandate)を含む。
【0110】
c. 抗アンギオテンシンII薬
抗アンギオテンシンII薬の非限定的な例には、アンギオテンシン変換酵素阻害薬およびアンギオテンシンII受容体拮抗薬が含まれる。アンギオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)の非限定的な例には、アラセプリル、エナラプリル(vasotec)、カプトプリル、シラザプリル、デラプリル、エナラプリラート、フォシノプリル、リシノプリル、モベルチプリル、ペリンドプリル、キナプリル、およびラミプリルが含まれる。アンギオテンシンII受容体遮断薬はアンギオテンシンII受容体拮抗薬、ANG受容体遮断薬、または1型ANG-II受容体遮断薬(ARBS)としても知られるが、その非限定的な例には、アンギオカンデサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、およびバルサルタンが含まれる。
【0111】
d. 交感神経遮断薬
交感神経遮断薬の非限定的な例には、中枢性交感神経遮断薬または末梢性交感神経遮断薬が含まれる。中枢性交感神経遮断薬は中枢神経(CNS)交感神経遮断薬としても知られるが、その非限定的な例には、クロニジン(catapres)、グアナベンズ(wytensin)、グアンファシン(tenex)、およびメチルドーパ(aldomet)が含まれる。末梢性交感神経遮断薬の非限定的な例にはには、ガングリオン遮断薬、アドレナリン作動性ニューロン遮断薬、βアドレナリン遮断薬、またはα1アドレナリン遮断薬が含まれる。ガングリオン遮断薬の非限定的な例には、メカミラミン(inversine)およびトリメタファン(arfonad)が含まれる。アドレナリン作動性ニューロン遮断薬の非限定的な例には、グアネチジン(ismelin)およびレゼルピン(serpasil)が含まれる。βアドレナリン遮断薬の非限定的な例には、アセニトロール(acenitolol)(sectral)、アテノロール(tenormin)、ベタキソロール(kerlone)、カルテオロール(cartrol)、ラベタロール(normodyne、trandate)、メトプロロール(lopressor)、ナダノール(nadanol)(corgard)、ペンブトロール(levatol)、ピンドロール(visken)、プロプラノロール(inderal)、およびチモロール(blocadren)が含まれる。α1アドレナリン遮断薬の非限定的なな例には、プラゾシン(minipress)、ドキサゾシン(cardura)、およびテラゾシン(hytrin)が含まれる。
【0112】
e. 血管拡張薬
特定の態様おいて、循環器治療薬は血管拡張薬(例えば、脳血管拡張薬、冠動脈拡張薬、または末梢血管拡張薬)を含み得る。特定の好ましい態様において、血管拡張薬は冠動脈拡張薬を含む。冠動脈拡張薬の非限定的な例には、アモトリフェン(amotriphene)、ベンダゾール、ベンフロジルヘミスクシナート、ベンジオダロン、クロラシジン、クロモナール、クロベンフロール、クロニトラート、ジラゼップ、ジピリダモール、ドロプレニラミン、エフロキサート、四酢酸エリスリチル、エタフェノン、フェンジリン、フロレジル、ガングレフェン、ヘキセストロールビス(β-ジエチルアミノエチルエーテル)、ヘキソベンジン、トシル酸イトラミン、ケリン、リドフラジン、六硝酸マンニトール、メジバジン、ニコルグリセリン(nicorglycerin)、四硝酸ペンタエリスリトール、ペントリニトロール、ペルヘキシリン、ピメフィリン(pimefylline)、トラピジル、トリクロミル(tricromyl)、トリメタジジン、リン酸トロールニトレート、およびビスナジンが含まれる。
【0113】
特定の局面において、血管拡張薬は長期治療用血管拡張薬または高血圧性緊急症用血管拡張薬を含み得る。長期治療用血管拡張薬の非限定的な例には、ヒドララジン(apresoline)およびミノキシジル(loniten)が含まれる。高血圧性緊急症用血管拡張薬の非限定的な例には、ニトロプルシド(nipride)、ジアゾキシド(hyperstat IV)、ヒドララジン(apresoline)、ミノキシジル(loniten)、およびベラパミルが含まれる。
【0114】
f. その他の抗高血圧薬
その他の抗高血圧薬の非限定的な例には、アジマリン、γ-アミノ酪酸、ブフェニオド、シクレタニン、シクロシドミン、タンニン酸クリプテナミン(cryptenamine tannate)、フェノールドパム、フロセキナン、ケタンセリン、メブタメート、メカミラミン、メチルドーパ、メチル4-ピリジルケトンチオセミカルバゾン、ムゾリミン、パルギリン、ペンピジン、ピナシジル、ピペロキサン、プリマペロン、プロトベラトリン、ラウバシン、レシメトール、リルメニジン、サララシン、ニトロプルシドナトリウム、チクリナフェン、トリメタファン、カンシラート、チロシナーゼ、およびウラピジルが含まれる。
【0115】
特定の局面において、抗高血圧薬は、アリールエタノールアミン誘導体、ベンゾチアジアジン誘導体、N-カルボキシアルキル(ペプチド/ラクタム)誘導体、ジヒドロピリジン誘導体、グアニジン誘導体、ヒドラジン/フタラジン、イミダゾール誘導体、4級アンモニウム化合物、レゼルピン誘導体、またはスルホンアミド誘導体を含み得る。
【0116】
アリールエタノールアミン誘導体
アリールエタノールアミン誘導体の非限定的な例には、アモスラロール、ブフラロール、ジレバロール、ラベタロール、プロネタロール、ソタロール、およびスルフィナロールが含まれる。
【0117】
ベンゾチアジアジン誘導体
ベンゾチアジアジン誘導体の非限定的な例には、アルチジド(althizide)、ベンドロフルメチアジド、ベンズチアジド、ベンジルヒドロクロロチアジド、ブチアジド(buthiazide)、クロロチアジド、クロルタリドン、シクロペンチアジド、シクロチアジド、ジアゾキシド、エピチアジド、エチアジド、フェンキゾン、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアヂド、メチクロチアジド、メチクラン、メトラゾン、パラフルチジド、ポリチアジド、テトラクロルメチアジド、およびトリクロロメチアジドが含まれる。
【0118】
N-カルボキシアルキル(ペプチド/ラクタム)誘導体
N-カルボキシアルキル(ペプチド/ラクタム)誘導体の非限定的な例には、アラセプリル、カプトプリル、シラザプリル、デラプリル、エナラプリル、エナラプリラート、フォシノプリル、リシノプリル、モベルチプリル、ペリンドプリル、キナプリル、およびラミプリルが含まれる。
【0119】
ジヒドロピリジン誘導体
ジヒドロピリジン誘導体の非限定的な例には、アムロジピン、フェロジピン、イスラジピン、ニカルジピン、ニフェジピン、ニルバジピン、ニゾルジピン、およびニトレンジピンが含まれる。
【0120】
グアニジン誘導体
グアニジン誘導体の非限定的な例には、ベタニジン、デブリソキン、グアナベンズ、グアナクリン、グアナドレル、グアナゾジン、グアネチジン、グアンファシン、グアノクロル、グアノキサベンズ、およびグアノキサンが含まれる。
【0121】
ヒドラジン/フタラジン
ヒドラジン/フタラジンの非限定的な例には、ブドララジン、カドララジン、ジヒドララジン、エンドララジン、ヒドラカルバジン、ヒドララジン、フェニプラジン、ピルドララジン、およびトドララジンが含まれる。
【0122】
イミダゾール誘導体
イミダゾール誘導体の非限定的な例には、クロニジン、ロフェキシジン、フェントラミン、チアメニジン、およびトロニジンが含まれる。
【0123】
4級アンモニウム化合物
4級アンモニウム化合物の非限定的な例には、臭化アゼメトニウム、塩化クロルイソンダミン、ヘキサメトニウム、ペンタシニウムビス(メチル硫酸)、臭化ペンタメトニウム、酒石酸ペントリニウム、塩化フェナクトロピニウム(phenactropinium chloride)、およびトリメチジニウムメトサルファイトが含まれる。
【0124】
レゼルピン誘導体
レゼルピン誘導体の非限定的な例には、ビエタセルピン、デセルピジン、レシナミン、レゼルピン、およびシロシンゴピンが含まれる。
【0125】
スルホンアミド誘導体
スルホンアミド誘導体の非限定的な例には、アンブシド、クロパミド、フロセミド、インダパミド、キネタゾン、トリパミド、およびキシパミドが含まれる。
【0126】
g. 血管収縮薬
血管収縮薬は一般に、手術の際に起こり得るショックにおいて血圧を上昇させるために使用される。血管収縮薬は抗低血圧薬としても知られており、その非限定的な例には、メチル硫酸アメジニウム、アンギオテンシンアミド、ジメトフリン、ドーパミン、エチフェルミン、エチレフリン、ゲペフリン、メタラミノール、ミドドリン、ノルエピネフリン、フォレドリン、およびシネフリンが含まれる。
【0127】
vii. うっ血性心不全の治療薬
うっ血性心不全の治療薬の非限定な例には、抗アンギオテンシンII薬、後負荷-前負荷軽減処置、利尿薬、および強心薬が含まれる。
【0128】
a. 後負荷-前負軽減処置
特定の態様において、アンギオテンシン拮抗薬を許容し得ない動物患者は、併用療法によって処置することができる。そのような療法は、ヒドララジン(apresoline)の投与と硝酸イソソルビド(isordil、sorbitrate)の投与を組み合わせるものであってよい。
【0129】
b. 利尿薬
利尿薬の非限定的な例には、チアジドまたはベンゾチアジアジン誘導体(例えば、アルチアジド(althiazide)、ベンドロフルメチアジド、ベンズチアジド、ベンジルヒドロクロロチアジド、ブチアジド、クロロチアジド、クロロチアジド、クロルタリドン、シクロペンチアジド、エピチアジド、エチアジド、エチアジド、フェンキゾン、ヒドロクロロチアジド、ヒドロフルメチアジド、メチクロチアジド、メチクラン、メトラゾン、パラフルチジド、ポリチアジド、テトラクロロメチアジド、トリクロロメチアジド)、有機水銀化合物(例えば、クロルメロドリン、メラルリド、メルカムファミド(mercamphamide)、メルカプトメリンナトリウム、マーキュマリル酸(mercumallylic acid)、マーキュマチリンナトリウム、塩化第1水銀、メルサリル)、プテリジン(例えば、フルテレン(furterene)、トリアムテレン)、プリン(例えば、アセフィリン(acefylline)、7-モルフォリノメチルテオフィリン、パモブロム(pamobrom)、プロテオブロミン、テオブロミン)、アルドステロン拮抗薬を含むステロイド(例えば、カンレノン、オレアンドリン、スピロノラクトン)、スルホンアミド誘導体(例えば、アセタゾールアミド、アンブシド、アゾセミド、ブメタニド、ブタゾールアミド(butazolamide)、クロラミノフェナミド(chloraminophenamide)、クロフェナミド、クロパミド、クロレキソロン、ジフェニルメタン-4,4'-ジスルホンアミド、ジスルファミド、エトキシゾールアミド、フロセミド、インダパミド、メフルシド、メタゾールアミド、ピレタニド、キネタゾン、トラセミド、トリパミド、キシパミド)、ウラシル(例えば、アミノメトラジン、アミソメトラジン)、カリウム保持性拮抗薬(例えば、アミロリド、トリアムテレン)、またはアミノジン、アルブチン、クロラザニル、エタクリン酸、エトゾリン、ヒドラカルバジン、イソソルビド、マンニトール、メトカルコン、ムゾリミン、ペルヘキシリン、チクルナフェン(ticrnafen)、および尿素等のその他の利尿薬が含まれる。
【0130】
c. 強心薬
正の強心薬(inotropic agent)は強心剤(cardiotonic)としても知られているが、その非限定的な例には、アセフィリン、アセチルジギトキシン、2-アミノ-4-ピコリン、アムリノン、ベンフロジルヘミスクシナート、ブクラデシン、セルベロシン(cerberosine)、カンフォタミド、コンバラトキシン、シマリン、デノパミン、デスラノシド、ジギタリン、ジギタリス、ジギトキシン、ジゴキシン、ドブタミン、ドーパミン、ドペキサミン、エノキシモン、エリスロフレイン(erythrophleine)、フェナルコミン、ギタリン、ギトキシン、グリコシアミン、ヘプタミノール、ヒドラスチニン、イボパミン、ラナトシド、メタミバム(metamivam)、ミルリノン、ネリフォリン、オレアンドリン、ウアバイン、オキシフェドリン、プレナルテロール、プロシラリジン、レジブフォゲニン、シラレン、シラレニン、ストロファンチン、スルマゾール、テオブロミン、およびキサモテロールが含まれる。
【0131】
特定の局面において、強心薬は強心配糖体、βアドレナリン拮抗薬、またはホフホジエステラーゼ阻害薬である。強心配糖体の非限定的な例には、ジゴキシン(lanoxin)およびジギトキシン(crystodigin)が含まれる。βアドレナリン拮抗薬の非限定的な例には、アルブテロール、バンブテロール、ビトルテロール、カルブテロール、クレンブテロール、クロルプレナリン、デノパミン、ジオキセテドリン、ドブタミン(dobutrex)、ドーパミン(intropin)、ドペキサミン、エフェドリン、エタフェドリン、エチルノルエピネフリン、フェノテロール、フォルモテロール、ヘキソプレナリン、イボパミン、イソエタリン、イソプロテレノール、マブテロール、メタプロテレノール、メトキシフェナミン、オキシフェドリン、ピルブテロール、プロカテロール、プロトキロール、レプロテロール、リミテロール、リトドリン、ソテレノール、テルブタリン、トレトキノール、ツロブテロール、およびキサモテロールが含まれる。ホスホジエステラーゼ阻害薬質の非限定的な例にはアムリノン(inocor)が含まれる。
【0132】
d. 抗狭心症薬
抗狭心症薬は、有機硝酸薬、カルシウムチャネル遮断薬、β遮断薬、およびそれらの組み合わせを含み得る。
【0133】
有機硝酸薬はニトロ血管拡張薬としても知られており、その非限定的な例には、ニトログリセリン(nitro-bid、nitrostat)、硝酸イソソルビド(isordil、sorbitrate)、および硝酸アミル(aspirol、vaporole)が含まれる。
【0134】
D. 外科的治療薬
特定の局面において、第二の治療薬は、例えば予防、診断または病期分類、治療、および緩和を目的とした手術を含むある種の手術を含み得る。手術、特に治療目的の手術を、本発明および1つまたは複数の他の薬剤等の他の療法と併せて用いることができる。
【0135】
血管および循環器の疾患および障害のそのような外科的治療薬は当技術分野において周知であり、これらに限定されるわけではないが、生物に対する手術の施行、機械的人工心血管の提供、血管形成術、冠動脈再灌流、カテーテルアブレーション、被検者への植え込み型除細動器の提供、機械的循環補助、またはこれらの組み合わせを含み得る。本発明において使用し得る機械的循環補助の非限定的な例には、大動脈内バルーンカウンターパルセイション、左心室補助装置、またはこれらの組み合わせが含まれる。
【0136】
E. 製剤および患者への投与経路
臨床適用を意図する場合、薬学的組成物は対象とする用途に適した形態で調製することになる。一般に、これは、発熱物質およびヒトまたは動物に有害となり得る他の不純物を実質的に含まない組成物を調製する段階を伴うことになる。
【0137】
一般に、送達ベクターを安定にし、標的細胞による取り込みを可能にする適切な塩および緩衝液を使用することが所望されると考えられる。緩衝液はまた、組換え細胞が患者に導入される場合に使用されることになる。本発明の水溶性組成物は、薬学的に許容される担体または水性媒体中に溶解または分散された有効量のベクターまたは細胞を含む。「薬学的に許容されるまたは薬理学的に許容される」という語句は、動物またはヒトに投与した場合に、有害反応、アレルギー反応、または他の不利な反応を生じない分子的実体および組成物を指す。本明細書において使用する「薬学的に許容される担体」には、調合薬(ヒトへの投与に適した調合薬等)の製剤化における使用に許容される溶媒、緩衝液、溶液、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等が含まれる。薬学的活性物質へのこのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野において周知である。任意の従来の媒体または薬剤が本発明の有効成分と不適合である場合を除き、治療組成物におけるその使用が意図される。補助的な有効成分が組成物のベクターまたは細胞を不活化しないならば、これらもまた組成物に取り込まれ得る。
【0138】
本発明の活性組成物は伝統的な薬学的調製物を含み得る。本発明によるこれらの組成物の投与は、その経路を介して標的組織が利用できる限り、任意の通常の経路を介し得る。これには、経口経路、経鼻経路、または口腔内経路が含まれる。または、投与は、皮内注射、皮下注射、筋肉内注射、腹腔内注射、もしくは静脈内注射によるか、または心臓組織への直接注射によるものであってよい。このような組成物は通常、前記のように薬学的に許容される組成物として投与される。
【0139】
活性化合物はまた、非経口投与または腹腔内投与され得る。例として、遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロース等の界面活性剤と適切に混合して水中で調製され得る。分散液もまた、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびそれらの混合物中で、ならびに油中で調製され得る。保存および使用の通常の条件下で、これらの調製物は一般に、微生物の増殖を防ぐための保存剤を含む。
【0140】
注射可能な用途に適した薬学的形態には、例えば、滅菌水溶液または分散液、および無菌注射溶液または分散液の即時調製のための滅菌散剤が含まれる。一般に、これらの調製物は無菌であり、容易に注射できる程度に流動性である。調製物は製造および保存の条件下で安定であるべきであり、細菌および真菌等の微生物の混入作用に対して保護されるべきである。適切な溶媒または分散媒は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール等)、それらの適切な混合物、および植物油を含み得る。適切な流動性は、例えば、レシチン等のコーティングを使用することにより、分散液の場合には必要とされる粒子サイズを維持することにより、および界面活性剤を使用することにより維持され得る。微生物作用の予防は、種々の抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等によってもたらされ得る。多くの場合において、例えば糖または塩化ナトリウムといった等張剤を含むことが好ましい。注射可能な組成物の吸収の持続は、例えばモノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンのような吸収を遅延させる薬剤を組成物中に使用することによってもたらされ得る。
【0141】
無菌注射溶液は、所望されるように適切な量の活性化合物を任意の他の成分(例えば、上記で列挙されるような)と共に溶媒中に取り込み、次いで濾過滅菌することによって調製され得る。一般に、分散剤は、塩基性分散媒および所望の他の成分(例えば、上記で列挙されるような)を含む滅菌媒体中に種々の滅菌有効成分を取り込むことによって調製される。無菌注射溶液を調製するための滅菌散剤の場合、調製の好ましい方法は真空乾燥技術および凍結乾燥技術を含み、この方法により、以前に滅菌濾過したその溶液から活性成分および任意のさらなる所望の成分の散剤が得られる。
【0142】
経口投与に関しては、本発明のポリペプチドは一般に賦形剤と共に取り込まれ、非摂取性うがい薬および歯磨剤の形態で使用され得る。うがい薬は、ホウ酸ナトリウム溶液(ドーベル液)等の適切な溶媒中に必要量の有効成分を取り込んで調製され得る。または、有効成分は、ホウ酸ナトリウム、グリセリン、および炭酸水素カリウムを含む消毒洗浄液に取り込まれ得る。有効成分はまた、ゲル、ペースト、粉末、およびスラリーを含む歯磨剤に分散され得る。この活性成分は、水、結合剤、研磨剤、香味剤、起泡剤、および湿潤剤を含み得るペースト状歯磨剤に治療有効量で添加され得る。
【0143】
本発明の組成物は一般に、中性形態または塩形態で製剤化され得る。薬学的に許容される塩には、例えば、無機酸(例えば、塩酸またはリン酸)または有機酸(例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸)などに由来する酸付加塩(タンパク質の遊離アミノ基によって形成される)が含まれる。タンパク質の遊離カルボキシル基によって形成される塩はまた、無機塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化第二鉄)または有機塩基(例えば、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、ヒスチジン、プロカイン)などに由来し得る。
【0144】
製剤化により、溶液は、好ましくは投薬製剤と適合する様式で、かつ治療的に有効であるような量で投与される。製剤は、注射溶液、薬剤放出カプセルなどのような種々の剤形で容易に投与され得る。水溶液での非経口投与に関しては、例えば、溶液は一般に適切に緩衝化され、液体希釈液は例えば十分な生理食塩水またはグルコースを用いて最初に等張性にされる。このような水溶液は、例えば、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、および腹腔内投与のために使用され得る。好ましくは、滅菌水性媒体が、特に本発明の開示を考慮して当業者に周知であるように用いられる。例として、1 mlの等張性NaCl溶液に単回用量が溶解されて、1000 mlの皮下注入液に添加され得るか、または注入の提案された部位に注射され得る(例えば、「Remington's Pharmaceutical Sciences」第15版、1035〜1038頁および1570〜1580ページを参照のこと)。処置する被検者の状態に応じて、用量のいくらかの変動は必然的に生じることになる。いずれにせよ、投与責任者が個々の被検者に対して適切な用量を決定することになる。さらに、ヒト投与に関しては、調製物は、FDA Office of Biologics standardsによって義務づけられている無菌、発熱性、一般的な安全性、および純度基準を満たすべきである。
【0145】
V. スクリーニング法
本発明はさらに、心肥大または心不全の予防または処置または好転において有用であるPKD阻害剤を同定するための方法を含む。これらのアッセイ法は、候補物質の大きなライブラリーの無作為スクリーニングを含み得る;または、アッセイ法は、PKDの機能を阻害する可能性が高いと考えられる構造特性を考慮して選択された特定のクラスの化合物に焦点を合わせて使用され得る。
【0146】
PKD阻害剤を同定するためには、一般に候補物質の存在下または非存在下においてPKDの機能を決定することになる。例えば、1つの方法は、一般に以下の段階:
(a) 候補モジュレーターを提供する段階;
(b) 候補モジュレーターをPKDと混合する段階;
(c) PKDキナーゼ活性を測定する段階および
(d) 段階(c)における活性を、候補モジュレーターの非存在下における活性と比較する段階
を含み、測定された活性間の相違によって、候補モジュレーターが実際に化合物、細胞、または動物のモジュレーターであることが示される。
【0147】
アッセイはまた、単離された細胞、臓器において、または生体において行なわれ得る。典型的に、PKDのキナーゼ活性は、リン酸化されていないクラスII HDACを提供し、PKDによって付加される標識の量を測定することによって測定される。
【0148】
当然のことながら、本発明のスクリーニング法はすべて、有効な候補が見出されないかもしれないという事実にかかわらず、それ自体有用であることが理解されると考えられる。本発明は、このような候補を見出す方法のみならず、それらをスクリーニングする方法も提供する。
【0149】
A. モジュレーター
本明細書において使用する「候補物質」という用語は、PKDのキナーゼ活性または細胞機能を潜在的に阻害し得る任意の分子を指す。候補物質は、タンパク質もしくはその断片、小分子、またはさらには核酸であってよい。最も有用な薬理学的化合物が、本明細書中のいずれかに列挙される既知のPKC阻害剤に構造的に関連した化合物であることが判明する場合があり得る。改良型化合物の開発を助けるためにリード化合物を使用することは「合理的薬物設計」として周知であり、これは既知の阻害剤および活性化因子との比較だけでなく、標的分子の構造に関する予測を含む。
【0150】
合理的薬物設計の目的は、生物活性のあるポリペプチドまたは標的化合物の構造類似体を生成することである。そのような類似体を作製することによって、天然分子よりもより活性を有するかもしくは安定性のある薬剤、変更に対して異なる感受性を有する薬剤、または種々の他の分子の機能に影響を及ぼし得る薬剤を作製することが可能である。1つのアプローチにおいては、標的分子またはその断片の三次元構造を作製する。これは、X線結晶学、コンピューターモデリング、または両方のアプローチの組み合わせによって達成され得る。
【0151】
標的化合物、活性化因子、または阻害剤の構造を確認するために抗体を使用することもまた可能である。原理上、このアプローチにより、その後の薬物設計の基本となり得るファーマコアが得られる。機能的な薬理学的に活性のある抗体に対する抗イディオタイプ抗体を作製することによって、タンパク質結晶学を完全に迂回することが可能である。抗イディオタイプの結合部位は鏡像の鏡像として、本来の抗原の類似体であることが予想される。次いで、抗イディオタイプを用いて、化学的または生物学的に作製されたペプチドのバンクからペプチドを同定および単離することができると考えられる。選択されたペプチドはファーマコアとして機能する。抗イディオタイプは、抗原として抗体を使用し、抗体の産生について本明細書中に記載する方法により作製し得る。
【0152】
一方、有用な化合物の同定を「力づくで行なう」ために、有用な薬物の基本的基準を満たすと考えらる小分子ライブラリーを種々の商業的供給源から簡単に獲得することができる。組み合わせによって作製されたライブラリー(例えば、ペプチドライブラリー)を含むこのようなライブラリーのスクリーニングは、関連のある(および非関連の)多数の化合物を活性に関してスクリーニングするための迅速かつ効率的な方法である。組み合わせアプローチはまた、活性を有するが他の点で望ましくない化合物をモデルとした第2、第3、および第4世代の化合物を作製することにより、潜在的な薬物の迅速な進化に役立つ。
【0153】
候補化合物は天然に存在する化合物の断片または一部を含み得るか、またはさもなければ不活性である既知化合物の活性のある組み合わせとして見出され得る。動物、細菌、真菌、植物(葉および樹皮を含む)供給源、および海洋試料等の天然源から単離される化合物が、潜在的に有用な薬学的薬剤の存在についての候補としてアッセイされ得ることが提案される。スクリーニングする薬学的薬剤はまた、化学的組成物または人工化合物から誘導また合成され得ることが理解されると考えられる。従って、本発明によって同定される候補物質は、ペプチド、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、小分子阻害剤、または既知の阻害剤もしくは促進因子から開始する合理的薬物設計を介して設計され得る任意の他の化合物であり得ることが理解される。
【0154】
他の適切なモジュレーターにはアンチセンス分子、リボザイム、および抗体(一本鎖抗体を含む)が含まれ、これらはそれぞれ標的分子に特異的である。そのような化合物については、本明細書の他所において詳述する。例えば、翻訳もしくは転写開始部位、またはスプライス接合部に結合するアンチセンス分子は、理想的な候補阻害剤である。
【0155】
最初に同定された調節化合物に加えて、本発明者らはまた、他の立体的に類似した化合物が、モジュレーターの構造の重要な部分を模倣するように製剤化され得ることを意図する。ペプチドモジュレーターのペプチド模倣体を含み得るそのような化合物は、最初のモジュレーターと同じ様式で使用することができる
【0156】
B. インビトロアッセイ
実行するのに速く、安価で、かつ容易なアッセイはインビトロアッセイである。このようなアッセイは一般に単離された分子を使用し、迅速にかつ多数で実行することができ、よって短期間で得られる情報の量が増加する。試験管、プレート、ディッシュ、およびディップスティックまたはビーズ等の他の表面を含む種々の容器を用いてアッセイを行うことができる。
【0157】
化合物のハイスループットスクリーニングに関する技法は、WO 84/03564に記載されている。多数の小ペプチド試験化合物が、プラスチックピンまたは他の何らかの表面のような固相担体上で合成される。このようなペプチドは、PKDと結合するおよび阻害する能力について迅速にスクリーニングされ得る。
【0158】
C. インサイト(in cyto)アッセイ
本発明はまた、PKDを調節する能力についての、細胞における化合物のスクリーニングを意図する。この目的のために特に操作された細胞を含む種々の細胞株を、このようなスクリーニングアッセイに利用することができる。
【0159】
D. インビボアッセイ
インビボアッセイは、特定の欠損を有するように、または候補物質が生物体内の異なる細胞に到達し影響する能力を測定するために用いられ得るマーカーを有するように操作されたトランスジェニック動物を含む、種々の心疾患動物モデルの使用を含む。大きさ、取り扱いの容易さ、ならびに生理機能および遺伝子構成に関する情報の理由から、マウスは特にトランスジェニック関して好ましい態様である。しかし、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモット、スナネズミ、マーモット、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、およびサル(チンパンジー、テナガザル、およびヒヒを含む)を含む他の動物も同様に適している。阻害剤に関するアッセイは、これらの種のいずれかに由来する動物モデルを使用して行なわれ得る。
【0160】
試験化合物による動物の処置は、動物への適切な形態での化合物の投与を含むことになる。投与は、臨床目的のために利用され得る任意の経路によることになる。インビボにおける化合物の有効性の決定は、種々の異なる基準を含み得る。また、毒性および用量反応の測定も、インビトロアッセイまたはインサイトアッセイよりもより意味のある様式で動物において行なわれ得る。
【0161】
VI. タンパク質の精製
PKDを精製することが望ましいであろう。タンパク質精製法は当業者に周知である。これらの技法は、ある段階において、ポリペプチド画分および非ポリペプチド画分への細胞環境の粗分画を含む。他のタンパク質からポリペプチドを分離してから、クロマトグラフィー法および電気泳動法を用いて関心対象のポリペプチドをさらに精製して、部分精製または完全な精製(または均一になるまでの精製)を達成し得る。純粋なペプチドの調製に特に適した分析方法は、イオン交換クロマトグラフィー、排除クロマトグラフィー;ポリアクリルアミドゲル電気泳動;等電点電気泳動である。ペプチドを精製するのに特に効率のよい方法は、高速タンパク質液体クロマトグラフィーまたはまさにHPLCである。
【0162】
本発明の特定の局面は、コードされるタンパク質またはペプチドの精製に関し、特定の態様においては、コードされるタンパク質またはペプチドの実質的な精製に関する。本明細書において使用する「精製されたタンパク質またはペプチド」という用語は、他の成分から単離可能な組成物を指すことを意図し、この場合このタンパク質またはペプチドは、その天然に得られ得る状態に対して任意の程度まで精製されている。したがって、精製されたタンパク質またはペプチドはまた、それらが天然に存在し得る環境にはないタンパク質またはペプチドを指す。
【0163】
一般に、「精製された」とは、様々な他の成分を除去するために分画に供したタンパク質またはペプチド組成物を指し、その組成物はその発現された生物活性を実質的に保持する。「実質的に精製された」という用語を用いる場合、この意味は、タンパク質またはペプチドが、組成物中のタンパク質の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、またはそれ以上を構成するような組成物の主成分を形成する組成物を指すことになる。
【0164】
タンパク質またはペプチドの精製の程度を定量するための様々な方法は、本開示を考慮して当業者に周知であろう。これらは、例えば、活性画分の比活性を測定する段階、またはSDS-PAGE分析により画分内のポリペプチド量を評価する段階を含む。画分の純度を評価するための好ましい方法は、画分の比活性を計算し、それを最初の抽出物の比活性と比較し、それによって純度を計算することであり、本明細書では「精製倍率〜倍」で評価される。活性の量を表すために用いられる実際の単位は、当然、精製後に選択された特定のアッセイ法、および発現されたタンパク質またはペプチドが検出可能な活性を示すか否かに依存することになる。
【0165】
タンパク質精製に用いるために適した様々な技法は当業者に周知であろう。これらには、例えば、硫酸アンモニウム、PEG、抗体等または熱変性での沈殿およびそれに続く遠心分離;イオン交換、ゲル濾過、逆相、ヒドロキシルアパタイト、およびアフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィー段階;等電点電気泳動;ゲル電気泳動;ならびにこれらおよび他の技法の組み合わせが含まれる。当技術分野において周知であるように、種々の精製段階を行う順序は変更してもよく、または特定の段階を省略してもよく、それでもなお実質的に精製されたタンパク質またはペプチドを調製するための適切な方法が得られると考えられる。
【0166】
タンパク質またはペプチドは常にその最も精製された状態で提供すべきであるという一般要件はない。実際に、実質的にあまり精製されていない産物は特定の態様において有用であると考えられる。部分精製は、より少ない精製段階を組み合わせて用いて、または同じ一般的精製計画の異なる形態を用いて達成され得る。例えば、HPLC装置を利用して行われる陽イオン交換カラムクロマトグラフィーは一般に、低圧クロマトグラフィーシステムを利用する同じ技法よりも高い「〜倍」精製をもたらすことが理解される。より低い相対的精製度を示す方法は、タンパク質産物の全体的な回収、または発現されたタンパク質の活性の維持において利点を有する可能性がある。
【0167】
ポリペプチドの移動は、SDS/PAGEの異なる条により時折著しく変動し得ることが知られている(Capalde et al., 1977)。したがって、異なる電気泳動条件下では、精製されたまたは部分精製された発現産物の見かけの分子量が変動し得ることが理解されよう。
【0168】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)は、並外れたピーク分解能を有する非常に迅速な分離を特徴とする。これは、適切な流速を維持するために非常に細かい粒子および高圧を用いることによって達成される。分離は、数分またはせいぜい1時間のうちに達成され得る。さらに、粒子は非常に小さく、密に充填されており、その結果ボイド容量はベッド容量のごくわずかな割合であるので、極めて少量の試料のみが必要とされる。また、バンドは非常に狭く、そのため試料の希釈がほとんどないので、試料の濃度が非常に高濃度である必要はない。
【0169】
ゲルクロマトグラフィーまたは分子ふるいクロマトグラフィーは、分子の大きさに基づく特別な型の分配クロマトグラフィーである。ゲルクロマトグラフィーを裏付ける理論は、小孔を含む不活性物質の小さな粒子で調製されるカラムが、分子が孔を通じてまたは孔の周りを通過する際に、分子の大きさに基づいてより大きい分子をより小さい分子から分離することである。粒子を作製する物質が分子を吸着しない限り、流速を決定する唯一の因子は大きさである。したがって、分子は形状が比較的一定である限り、大きいサイズから小さいサイズへとカラムから溶出される。ゲルクロマトグラフィーは、分離がpH、イオン強度、温度等の他の因子すべてに依存しないので、異なる大きさの分子の分離に卓越している。また、実質的に吸着は存在せず、ゾーンの広がりは少なく、溶出量は単純に分子量に関係する。
【0170】
アフィニティークロマトグラフィーは、単離すべき物質とそれが特異的に結合し得る分子との間の特異的親和性に基づくクロマトグラフィー手順である。これは受容体-リガンド型の相互作用である。カラム材料は、結合パートナーの1つを不溶性の充填剤に共有結合させることによって合成される。次に、カラム材料は溶液から物質を特異的に吸収し得る。結合が起こらない条件に変える(pH、イオン強度、温度等を変える)ことにより、溶出が起こる。
【0171】
炭水化物を含有する化合物の精製に有用な特定の型のアフィニティークロマトグラフィーは、レクチンアフィニティークロマトグラフィーである。レクチンは、種々の多糖類および糖タンパク質に結合する物質の種類である。レクチンは通常、臭化シアンによりアガロースに連結される。セファロースに連結されたコンカナバリンAは使用されるこの種類の最初の物質であり、多糖類および糖タンパク質の単離に広く使用されている。他のレクチンには、N-アセチルグルコサミニル残基の精製に有用であるレンズマメレクチン、コムギ胚芽凝集素、および食用カタツムリ(Helix pomatia)レクチンが含まれる。レクチン自体は、炭水化物リガンドを用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製される。ラクトースはトウゴマおよびピーナッツからレクチンを精製するために用いられており;マルトースはレンズマメおよびタチナタマメからレクチンを抽出する際に有用であり;N-アセチル-D-ガラクトサミンはダイズからレクチンを精製するために用いられ;N-アセチルグルコサミニルはコムギ胚芽由来のレクチンに結合し;D-ガラクトサミンは二枚貝(clam)からレクチンを得る際に用いられ、L-フコースはハス由来のレクチンに結合する。
【0172】
充填剤は、それ自体が有意な程度に分子を吸着せず、かつ広範な化学的安定性、物理的安定性、および熱安定性を有する物質であるべきである。リガンドは、その結合特性に影響を及ぼさないように連結されるべきである。リガンドはまた、比較的堅固な結合を提供すべきである。さらに、試料またはリガンドを破壊することなく、物質を溶出することが可能であるべきである。アフィニティークロマトグラフィーの最も一般的な形態の1つは、免疫アフィニティークロマトグラフィーである。本発明による使用に適した抗体の作製については、以下に記載する。
【0173】
VII. クローニング、遺伝子導入、および発現のためのベクター
特定の態様においては、発現ベクターを使用してPKDポリペプチド産物を発現させ、次いでこの産物を精製し得る。他の態様においては、発現ベクターを遺伝子療法において使用し得る。発現は適切なシグナルがベクター内に提供されることを必要とし、このシグナルには、宿主細胞において関心対象の遺伝子の発現を駆動するウイルスおよび哺乳動物供給源由来のエンハンサー/プロモーター等の種々の調節成分が含まれる。宿主細胞におけるメッセンジャーRNAの安定性および翻訳能を最適化するために設計されるエレメントもまた規定される。産物を発現する永続的な安定した細胞クローンを樹立するための多くの主要な薬剤選択マーカーの使用条件が、薬物選択マーカーの発現をポリペプチドの発現に結びつけるエレメントであるようにまた提供される。
【0174】
A. 制御エレメント
本出願を通して、「発現構築物」という用語は、遺伝子産物をコードする核酸を含み、核酸コード配列の一部またはすべてが転写され得る任意の種類の遺伝子構築物を含むことを意味する。転写産物はタンパク質に翻訳されてもよいが、そうである必要はない。特定の態様において、発現は遺伝子の転写およびmRNAの遺伝子産物への翻訳の両方を含む。他の態様において、発現は関心対象の遺伝子をコードする核酸の転写のみを含む。
【0175】
特定の態様において、遺伝子産物をコードする核酸はプロモーターの転写調節下にある。「プロモーター」とは、遺伝子の特異的転写を開始するために必要とされる、細胞の合成機構または導入された合成機構によって認識されるDNA配列を指す。「転写調節下」という語句は、プロモーターが核酸に関して正確な位置および方向にあって、RNAポリメラーゼの開始および遺伝子の発現を調節することを意味する。
【0176】
プロモーターという用語は、RNAポリメラーゼIIの開始部位の周囲に密集する転写調節モジュールの群を指すために本明細書において用いられる。プロモーターがいかにして組織化されるかについての見解の多くは、HSVチミジンキナーゼ(tk)およびSV40初期転写単位のプロモーターを含むいくつかのウイルスプロモーターの分析に由来する。より最近の研究によって増大したこれらの研究から、それぞれ約7〜20 bpのDNAからなり、転写活性化因子タンパク質または転写リプレッサータンパク質の1つまたは複数の認識部位を含む別々の機能モジュールからプロモーターが構成されることが示された。
【0177】
各プロモーターにおける少なくとも1つのモジュールが、RNA合成の開始部位を定めるように機能する。この最もよく知られた例はTATAボックスであるが、哺乳動物のターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーターおよびSV40後期遺伝子のプロモーターのようにTATAボックスを欠くいくつかのプロモーターでは、開始部位自体に重なる別のエレメントが開始の場所の固定を助ける。
【0178】
さらなるプロモーターエレメントが転写開始の頻度を制御する。典型的には、これらは開始部位の30〜110 bp上流の領域に位置するが、多くのプロモーターは同様に開始部位の下流にも機能的エレメントを含むことが最近になって示された。プロモーターエレメント間の間隔は順応性がある場合が多く、その結果、エレメントを逆にするかまたは相互に対して動かす場合にもプロモーター機能は保持される。tkプロモーターにおいて、プロモーターエレメント間の間隔は50 bp離れるまで増すことができ、その後活性は減少し始める。プロモーターに応じて、個々のエレメントは転写を活性化するために協同でまたは独立して機能できるようである。
【0179】
特定の態様においては、対応するPKD遺伝子、異種PKD遺伝子、スクリーニング可能なもしくは選択可能なマーカー遺伝子、または関心対象の任意の他の遺伝子のいずれかの発現を駆動するために、天然のPKDプロモーターを用いることになる。
【0180】
他の態様において、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス末端反復配列、ラットインスリンプロモーター、およびグリセルアルデヒド三リン酸脱水素酵素を用いて、関心対象のコード配列の高レベルの発現を得ることができる。発現レベルが所与の目的に十分であるならば、関心対象のコーディング配列の発現を達成するために当技術分野において周知である他のウイルスプロモーターまたは哺乳動物細胞性プロモーターまたは細菌ファージプロモーターの使用が同様に意図される。
【0181】
周知の特性を有するプロモーターを用いることにより、トランスフェクションまたは形質転換後の関心対象のタンパク質の発現のレベルおよびパターンを最適化することができる。さらに、特定の生理的シグナルに応答して制御されるプロモーターを選択することにより、遺伝子産物の誘導性発現が可能になる。表1および表2に、関心対象の遺伝子の発現を制御するために、本発明に関連して用いることができるいくつかの制御エレメントを挙げる。この一覧表は、遺伝子発現の促進に関与するすべての可能なエレメントの包括であることは意図しておらず、単にその例示であることを意図している。
【0182】
エンハンサーとは、DNAの同じ分子上の離れた位置に位置するプロモーターからの転写を増大させる遺伝子エレメントである。エンハンサーは、プロモーターのように組織化される。すなわち、エンハンサーは多くの個々のエレメントから構成され、これらはそれぞれ1つまたは複数の転写タンパク質に結合する。
【0183】
エンハンサーとプロモーターの基本的な差異は動作である。エンハンサー領域は全体として離れた地点で転写を促進できなければならず;これはプロモーター領域またはその成分エレメントに当てはまる必要はない。一方、プロモーターは特定の位置かつ特定の方向でRNA合成の開始を導く1つまたは複数のエレメントを有さなければならず、一方、エンハンサーはこれらの特異性を欠いている。プロモーターおよびエンハンサーは重複および連続する場合が多く、頻繁に非常に類似したモジュール編成を有するようである。
【0184】
以下は、発現構築物において関心対象の遺伝子をコードする核酸と組み合わせて用いることができるウイルスプロモーター、細胞性プロモーター/エンハンサーおよび誘導性プロモーター/エンハンサーの一覧表である(表1および表2)。さらに、(真核生物プロモーターデータベースEPDBによる)任意のプロモーター/エンハンサーの組み合わせを用いて、遺伝子の発現を駆動することも可能である。送達複合体の一部またはさらなる遺伝子発現構築物として適切な細菌ポリメラーゼが提供される場合、真核細胞は特定の細菌プロモーターからの細胞質転写を支持し得る。
【0185】
【表1】



【0186】
【表2】

【0187】
特に関心があるのは筋特異的プロモーター、より詳細には心臓特異的プロモーターである。これらには、ミオシン軽鎖-2プロモーター(Franz et al., 1994;Kelly et al., 1995)、αアクチンプロモーター(Moss et al., 1996)、トロポニン1プロモーター(Bhavsar et al., 1996);Na+/Ca2+交換体プロモーター(Barnes et al., 1997)、ジストロフィンプロモーター(Kimura et al., 1997)、α7インテグリンプロモーター(Ziober and Kramer, 1996)、脳性ナトリウム利尿ペプチドプロモーター(LaPointe et al., 1996)、およびαB-クリスタリン/低分子量熱ショックタンパク質プロモーター(Gopal-Srivastava, 1995)、αミオシン重鎖プロモーター(Yamauchi-Takihara et al., 1989)、およびANFプロモーター(LaPointe et al., 1988)が含まれる。
【0188】
cDNA挿入物を用いる場合、典型的に、遺伝子転写産物の適切なポリアデニル化をもたらすためにポリアデニル化シグナルを含めることが所望されるであろう。ポリアデニル化シグナルの性質は本発明の実施の成否に重要であるとは考えられず、ヒト成長ホルモンおよびSV40ポリアデニル化シグナルのような任意のそのような配列を用いることができる。また、発現カセットのエレメントとしてターミネーターが意図される。これらのエレメントは、メッセージレベルを増大させるためおよびカセットから他の配列への読み過ごしを最小限に抑えるために役立ち得る。
【0189】
B. 選択マーカー
本発明の特定の態様においては、細胞は本発明の核酸構築物を含み、発現構築物中にマーカーを含めることによって細胞をインビトロまたはインビボで同定することができる。そのようなマーカーは細胞に同定可能な変化を寄与し、発現構築物を含む細胞の容易な同定を可能にする。通常、薬剤選択マーカーの含有はクローニングおよび形質転換体の選択に役立ち、例えば、ネオマイシ、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシン、およびヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子が有用な選択マーカーである。または、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)のような酵素を用いてもよい。また、免疫学的マーカーを用いることもできる。用いられる選択マーカーは、遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現され得る限りは、重要であると考えられない。選択マーカーのさらなる例は当業者に周知である。
【0190】
C. 多重遺伝子構築物およびIRES
本発明の特定の態様においては、内部リボソーム結合部位(IRES)エレメントを使用して、多重遺伝子または多シストロン性メッセージを作製する。IRESエレメントは5'メチル化Cap依存性翻訳のリボソームスキャンモデルを回避し、内部部位で翻訳を開始することができる(Pelletier and Sonenberg, 1988)。ピカノウイルス(picanovirus)ファミリーの2つのメンバー(ポリオおよび脳心筋炎)のIRESエレメントおよび哺乳動物メッセージのIRESが記載されている(Macejak and Sarnow, 1991)。IRESエレメントを異種オープンリーディングフレームに連結することができる。それぞれIRESによって分離された複数のオープンリーディングフレームが共に転写され、多シストロン性メッセージが生じ得る。IRESエレメントにより、各オープンリーディングフレームは効率よい翻訳のためにリボソームを利用できる。複数の遺伝子が、単一のメッセージを転写するための単一のプロモーター/エンハンサーを用いて効率よく発現され得る。
【0191】
任意の異種オープンリーディングフレームをIRESエレメントに連結することができる。これには、分泌タンパク質、別個の遺伝子によってコードされる多サブユニットタンパク質、細胞内タンパク質または膜結合タンパク質、および選択マーカーの遺伝子が含まれる。このようにして、いくつかのタンパク質の発現が、単一の構築物および単一の選択マーカーを用いて細胞中に同時に操作され得る。
【0192】
D. 発現ベクターの送達
発現ベクターを細胞内に導入し得る多数の方法が存在する。本発明の特定の態様において、発現構築物はウイルスまたはウイルスゲノムに由来する操作された構築物を含む。ある種のウイルスは、受容体媒介性エンドサイトーシスにより細胞に侵入し、宿主細胞ゲノム中に組み込まれ、ウイルス遺伝子を安定にかつ効率的に発現する能力によって、哺乳動物細胞中に外来遺伝子を導入するための魅力的な候補となった(Ridgeway, 1988;Nicolas and Rubenstein, 1988;Baichwal and Sugden. 1986;Temin, 1986)。遺伝子ベクターとして用いられた最初のウイルスは、パポーバウイルス(シミアンウイルス40、ウシパピローマウイルス、およびポリオーマ)(Ridgeway, 1988; Baichwal and Sugden. 1986)およびアデノウイルス(Ridgeway, 1988; Baichwal and Sugden. 1986)を含むDNAウイルスであった。これらは外来DNA配列の比較的低い受容能力を有し、限られた宿主範囲を有する。さらに、許容細胞におけるそれらの発癌能および細胞変性作用により、安全性の懸念が生じる。これらは8 kbまでしか外来遺伝物質を受け入れることができないが、種々の細胞株および実験動物に容易に導入することができる(Nicolas and Rubenstein, 1988;Temin, 1986)。
【0193】
インビボ送達の好ましい方法の1つは、アデノウイルス発現ベクターの使用を含む。「アデノウイルス発現ベクター」は、(a) 構築物のパッケージングを支持するため、および(b) その中にクローン化されているアンチセンスポリヌクレオチドを発現させるために十分なアデノウイルス配列を含む構築物を含むことを意味する。この関連においては、発現は遺伝子産物が合成されることを必要としない。
【0194】
発現ベクターはアデノウイルスの遺伝子操作された形態を含む。36 kbの線状二本鎖DNAウイルスであるアデノウイルスの遺伝子構成の知見から、7 kbまでの外来配列でアデノウイルスDNAの大きい断片を置換することができる(Grunhaus and Horwitz, 1992)。レトロウイルスとは対照的に、アデノウイルスDNAは潜在的遺伝毒性なしにエピソーム様式で複製し得るため、宿主細胞のアデノウイルス感染は染色体の組み込みを生じない。また、アデノウイルスは構造的に安定であり、多くの増幅後にもゲノム再編成は検出されていない。アデノウイルスは、細胞周期の段階にかかわらず実質的にすべての上皮細胞に感染し得る。これまでのところ、アデノウイルス感染はヒトの急性呼吸器疾患のような軽い疾患にのみ関連するようである。
【0195】
アデノウイルスは、その中間の大きさのゲノム、操作の容易さ、高力価、広い標的細胞範囲、および高い感染力に起因して、遺伝子導入ベクターとして使用するために特に適している。ウイルスゲノムの両末端は100〜200塩基対の逆方向反復(ITR)を含むが、これらはウイルスDNAの複およびパッケージングに必要なシスエレメントである。ゲノムの初期(E)および後期(L)領域は、ウイルスDNAの複製の開始によって分割される異なる転写単位を含む。E1領域(E1AおよびE1B)は、ウイルスゲノムおよび2、3の細胞遺伝子の転写制御に関与するタンパク質をコードする。E2領域(E2AおよびE2B)の発現により、ウイルスDNAの複製のためのタンパク質合成が生じる。これらのタンパク質はDNA複製、後期遺伝子発現、および宿主細胞の停止に関与する(Renan, 1990)。ウイルスキャプシドタンパク質の大部分を含む後期遺伝子の産物は、主要後期プロモーター(MLP)により生じる単一の一次転写産物の著しいプロセシング後にのみ発現される。MLP(16.8 m.u.に位置する)は感染の後期において特に効率的であり、このプロモーターから生じるmRNAはすべて5'-三分節リーダー(TPL)配列を有し、これによってmRNAは翻訳に好ましいmRNAとなる。
【0196】
現在の系では、組み換えアデノウイルスはシャトルベクターとプロウイルスベクター間の相同組み換えにより作製される。2つのプロウイルスベクター間での組み換えの可能性に起因して、この過程により野生型アデノウイルスが作製される可能性がある。したがって、個々のプラークからウイルスの単一クローンを単離し、そのゲノム構造を調べることが重要である。
【0197】
複製能力を欠く現在のアデノウイルスベクターの作製および増殖は、293と称される特有のヘルパー細胞株に依存し、293はAd5 DNA断片によりヒト胚性腎臓細胞から形質転換されたもので、E1タンパク質を構成的に発現する(Graham et al., 1977)。E3領域はアデノウイルスゲノムに必要ではないため(Jones and Shenk, 1978)、293細胞の助けを伴う現在のアデノウイルスベクターはE1、D3、またはその両方の領域中に外来DNAを保有する(Graham and prevec, 1991)。現実には、アデノウイルスは野生型ゲノムの約105%をパッケージングすることができ(Ghosh-Choudhury et al., 1987)、約2 kb余分のDNAの受容能力を提供する。E1およびE3領域において置換可能な約5.5 kbのDNAと合わせると、現在のアデノウイルスベクターの最大受容能力は7.5 kb未満またはベクターの全長の約15%である。アデノウイルスウイルスゲノムの80%を超えるゲノムがベクター骨格中に残存し、これはベクターが媒介する細胞毒性の源である。また、E1欠失ウイルスの複製欠損も不完全である。
【0198】
ヘルパー細胞株は、ヒトの胚性腎臓細胞、筋肉細胞、造血細胞、または他のヒトの胚性間葉細胞もしくは上皮細胞のようなヒト細胞に由来し得る。または、ヘルパー細胞は、ヒトアデノウイルスに対して許容性である他の哺乳動物種の細胞に由来し得る。そのような細胞には、例えば、Vero細胞または他のサル胚性間葉細胞もしくは上皮細胞が含まれる。上記の通り、好ましいヘルパー細胞株は293である。
【0199】
Racherら(1995)は、293細胞を培養しアデノウイルスを増殖させるための改良方法を開示した。1つの形式では、培地100〜200 mlを含む1リットルのシリコナイズ処理したスピナーフラスコ(Techne、英国、ケンブリッジ)中に個々の細胞を接種することにより、天然の細胞凝集物を増殖させる。40 rpmで撹拌した後、細胞生存度をトリパンブルーで概算する。別の形式では、Fibra-Celマイクロキャリア(Bibby Sterlin、英国、ストーン)(5 g/l)を以下のように用いる。培地5 ml中に再懸濁した細胞接種材料を250 ml三角フラスコ中のキャリア(50 ml)に添加し、時折撹拌しながら1〜4時間静置する。次いで、培地を新しい培地50 mlと置換し、振盪を開始する。ウイルス産生させるには、細胞を約80%コンフルエントまで増殖させ、その後培地を(最終容量の25%に)置換し、アデノウイルスをMOI 0.05で添加する。培養物を一晩静置し、その後容量を100%まで増やし、さらに72時間の振盪を開始する。
【0200】
アデノウイルスベクターが複製欠損であるかまたは少なくとも条件的に欠損であるという必要条件以外に、アデノウイルスベクターの性質は本発明の実施の成否に重要であるとは考えられていない。アデノウイルスは、42の異なる既知の血清型または亜群A〜Fのいずれかであってよい。亜群Cの5型アデノウイルスは、本発明において使用するための条件的複製欠損アデノウイルスベクターを得るための好ましい出発材料である。これは、5型アデノウイルスが多くの生化学的および遺伝的情報が周知であるヒトアデノウイルスであり、ベクターとしてアデノウイルスを用いる大部分の構築物に歴史的に使用されてきたためである。
【0201】
上記のように、本発明による典型的なベクターは複製欠損であり、アデノウイルスE1領域を有さない。したがって、E1コード配列が除去された位置に、関心対象の遺伝子をコードするポリヌクレオチドを導入することが最も簡便である。しかし、アデノウイルス配列内の構築物の挿入位置は本発明にとって重要ではない。関心対象の遺伝子をコードするポリヌクレオチドはまた、、Karlssonら(1986)によって記載されたように、E3置換ベクターにおいて欠失されたE3領域の代わりに挿入してもよいし、またはヘルパー細胞株もしくはヘルパーウイルスがE4欠失を補う場合にはE4領域に挿入してもよい。
【0202】
アデノウイルスは増殖および操作が容易であり、インビトロおよびインビボで広い宿主範囲を示す。この群のウイルスは高力価、例えば109〜1012プラーク形成単位/mlで得ることができ、また感染性が高い。アデノウイルスの生活環は、宿主細胞ゲノムへの組み込みを必要としない。アデノウイルスベクターによって送達された外来遺伝子はエピソーム性であり、そのため宿主細胞に対する遺伝毒性が低い。野生型アデノウイルスによるワクチン接種の研究においてはいかなる副作用も報告されておらず(Couch et al., 1963;Top et al., 1971)、これによりインビボ遺伝子導入ベクターとしてのこれらの安全性および治療可能性が実証される。
【0203】
アデノウイルスベクターは、真核生物遺伝子発現(Levrero et al., 1991;Gomez-Foix et al., 1992)およびワクチン開発(Grunhaus and Horwitz, 1992;Graham and Prevec, 1991)に使用されている。最近、動物研究から、組み換えアデノウイルスを遺伝子治療に使用できることが示唆された(Stratford-Perricaudet and Perricaudet, 1991;Stratford-Perricaudet et al., 1990;Rich et al., 1993)。種々の組織に対して組み換えアデノウイルスを投与する実験には、気管点滴注入(Rosenfeld et al., 1991;Rosenfeld et al., 1992)、筋肉注射(Ragot et al., 1993)、末梢静脈内注射(Herz and Gerard, 1993)、および脳への定位的接種(Le Gal La Salle et al., 1993)が含まれる。
【0204】
レトロウイルスは、逆転写過程により感染細胞においてそれらのRNAを二本鎖DNAに変換する能力を特徴とする一本鎖RNAウイルスである(Coffin, 1990)。次いで、生じたDNAはプロウイルスとして細胞の染色体に安定に組み込まれ、ウイルスタンパク質の合成を導く。組み込みにより、受容体細胞およびその子孫においてウイルス遺伝子配列の保持が生じる。レトロウイルスゲノムは3つの遺伝子、gag、pol、およびenvを含み、これらはそれぞれキャプシドタンパク質、ポリメラーゼ酵素、およびエンベロープ成分をコードする。gag遺伝子の上流に見出される配列は、ビリオンへのゲノムのパッケージングのためのシグナルを含む。2つの長い末端反復(LTR)配列が、ウイルスゲノムの5'末端および3'末端に存在する。これらは強力なプロモーター配列およびエンハンサー配列を含み、宿主細胞ゲノムへの組み込みにもまた必要である(Coffin, 1990)。
【0205】
レトロウイルスベクターを構築するためには、関心対象の遺伝子をコードする核酸を特定のウイルス配列の代わりにウイルスゲノムに挿入して、複製能力がないウイルスを生成する。ビリオンを産生するためには、gag、pol、およびenv遺伝子を含むがLTRおよびパッケージング成分を含まないパッケージング細胞株を構築する(Mann et al., 1983)。cDNAを含む組み換えプラスミドをレトロウイルスLTRおよびパッケージング配列と共に(例えば、リン酸カルシウム沈殿により)この細胞株に導入すると、パッケージング配列により組み換えプラスミドのRNA転写産物がウイルス粒子内にパッケージングされ、次いでこのウイルス粒子が培地中に分泌される(Nicolas and Rubenstein, 1988;Temin, 1986;Mann et al., 1983)。次に、組み換えレトロウイルスを含む培地を回収し、任意で濃縮し、遺伝子導入に用いる。レトロウイルスベクターは多種多様な細胞種に感染すし得る。しかしながら、組み込みおよび安定な発現には宿主細胞の分裂を必要とする(Paskind et al, 1975)。
【0206】
レトロウイルスベクターの特異的標的化を可能にするように設計された新規なアプローチが、ウイルスエンベロープへのラクトース残基の化学的付加によるレトロウイルスの化学的改変に基づいて最近開発された。この改変により、シアロ糖タンパク質受容体を介した肝細胞の特異的感染が可能になった。
【0207】
レトロウイルスエンベロープタンパク質に対するビオチン化抗体および特異的細胞受容体に対するビオチン化抗体を使用した、組み換えレトロウイルスの標的化のための種々のアプローチが設計された。抗体は、ストレプトアビジンを使用してビオチン成分を介して結合された(Roux et al., 1989)。主要組織適合遺伝子複合体クラスIおよびクラスII抗原に対する抗体を使用して、これらの表面抗原を保有する種々のヒト細胞の同種指向性ウイルスによるインビトロでの感染が実証された(Roux et al., 1989)。
【0208】
本発明のすべての局面において、レトロウイルスの使用に対して特定の制限が存在する。例えば、レトロウイルスベクターは通常、細胞ゲノムの任意の部位に組み込まれる。これは、宿主遺伝子の妨害によるかまたは隣接遺伝子の機能を妨害し得るウイルス制御配列の挿入により、挿入変異誘発をもたらす可能性がある(Varmus et al., 1981)。欠陥レトロウイルスベクターの使用に伴う別の懸念は、パッケージング細胞における野生型の複製能力のあるウイルスの出現の可能性である。これは、組み換えウイルス由来の無傷の配列が、宿主細胞ゲノムに組み込まれたgag、pol、env配列の上流に挿入する組み換え事象から生じ得る。しかし、新しいパッケージング細胞株が現在利用可能であり、組み換えの可能性はかなり減少するはずである(Markowitz et al., 1988;Hersdorffer et al., 1990)。
【0209】
他のウイルスベクターを本発明の発現構築物として用いることも可能である。ワクシニアウイルス(Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Coupar et al., 1988)、アデノ随伴ウイルス(AAV)(Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Hermonat and Muzycska, 1984)、およびヘルペスウイルス等のウイルスに由来するベクターを用いることができる。これらは、種々の哺乳動物細胞にいくつかの魅力的な特徴を付与する(Friedmann, 1989;Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Coupar et al., 1988;Horwich et al., 1990)。
【0210】
欠陥B型肝炎ウイルスの最近の認識から、種々のウイルス配列の構造-機能の関係に新しい洞察が得られた。インビトロ研究から、ウイルスがそのゲノムの80%までの欠失にもかかわらず、ヘルパー依存性パッケージングおよび逆転写の能力を保持し得ることが示された(Horwich et al., 1990)。これにより、ゲノムの大部分が外来遺伝物質で置換され得ることが示唆された。肝臓指向性および持続性(組み込み)は、肝臓を標的とした遺伝子導入の特に魅力的な特性であった。Changらは、ポリメラーゼ、表面、および前表面(pre-surface)コード配列の代わりに、アヒルB型肝炎ウイルスゲノム中にクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を導入した。これは、野生型ウイルスと共にニワトリ肝癌細胞株に同時トランスフェクトされた。高力価の組み換えウイルスを含む培地を用いて、初代仔カモ肝細胞が感染された。安定なCAT遺伝子発現は、トランスフェクション後少なくとも24日間検出された(Chang et al., 1991)。
【0211】
センスまたはアンチセンス遺伝子構築物の発現をもたらすためには、発現構築物を細胞中に送達しなければならない。この送達は、細胞株を形質転換するための研究室手順などの場合にはインビトロで、または特定の病態の処置などの場合にはインビボもしくはエキソビボで達成され得る。送達の1つの機構はウイルス感染を介し、この場合、発現構築物は感染性ウイルス粒子内にキャプシド形成される。
【0212】
また、培養哺乳動物細胞中に発現構築物を導入するためのいくつかの非ウイルス方法も本発明により意図される。これらには、リン酸カルシウム沈殿(Graham and Van Der Eb, 1973;Chen and Okayama, 1987;Rippe et al., 1990)、DEAE-デキストラン(Gopal, 1985)、エレクトロポレーション(Tur-Kaspa et al., 1986;Potter et al., 1984)、直接的マイクロインジェクション(Harland and Weintraub, 1985)、DNA装填リポソーム(Nicolau and Sene, 1982;Fraley et al., 1979)およびリポフェクタミン-DNA複合体、細胞超音波処理(Fechheimer et al., 1987)、高速微粒子(microprojectile)を使用する遺伝子照射(Yang et al., 1990)、ならびに受容体媒介性トランスフェクション(Wu and Wu, 1987;Wu and Wu, 1988)が含まれる。これらの技法のいくつかは、インビボまたはエクスビボ用途のためにうまく適合化することができる。
【0213】
発現構築物が細胞中に送達されたならば、関心対象の遺伝子をコードする核酸が種々の部位に配置され発現され得る。特定の態様においては、遺伝子をコードする核酸は細胞のゲノム中に安定に組み込まれ得る。この組み込みは相同組み換えにより同族の位置および方向であり場合もあれば(遺伝子置換)、またはランダムな非特異的な位置で組み込まれる場合もある(遺伝子強化)。さらなる態様では、核酸はDNAの別のエピソーム部分として細胞において安定に維持され得る。そのような核酸部分または「エピソーム」は、宿主細胞周期と独立したまたは同調した維持および複製を可能にするのに十分な配列をコードする。発現構築物がいかにして細胞に送達されるかおよび核酸が細胞のどこに留まるかは、用いる発現構築物の種類にに依存する。
【0214】
本発明のさらに別の態様においては、発現構築物は単に裸の組み換えDNAまたはプラスミドから構成され得る。構築物の導入は、細胞膜を物理的または化学的に透過させる上記の方法のいずれかによって行われ得る。これはインビトロでの導入に特に適用できるが、インビボでの用途にも同様に適用することが可能である。Dubenskyら(1984)は、成体および新生マウスの肝臓および脾臓にリン酸カルシウム沈殿物の形態のポリオーマウイルスDNAを注入することに成功し、活発なウイルス複製および急性感染を実証した。また、BenvenistyおよびNeshif(1986)もまた、リン酸カルシウム沈殿させたプラスミドの直接腹腔内注入により、トランスフェクションした遺伝子の発現が起こることを実証した。関心対象の遺伝子をコードするDNAをインビボで同様の様式で導入し、遺伝子産物を発現させることができることが予想される。
【0215】
裸のDNA発現構築物の細胞への導入に関する本発明のさらに別の態様は、粒子照射を含み得る。この方法は、DNAで被覆した微粒子を高速に加速して、細胞膜を貫通させ、細胞を死滅させることなく細胞に侵入させる能力に依存する(Klein et al., 1987)。小粒子を加速するためのいくつかの装置か開発されている。そのような1つの装置は高圧放電により電流を生成するものであり、この電流が次に推進力を提供する(yang et al., 1990)。使用する微粒子は、タングステンまたは金ビーズのような生物学的に不活性な物質から構成されている
【0216】
ラットおよびマウスの肝臓、皮膚、および筋肉組織を含む選択された器官が、インビボで照射された(Yang et al., 1990;Zelenin et al., 1991)。これは、銃と標的器官の間のあらゆる介在組織を除去するために、組織または細胞の外科的露出、すなわちエクスビボ処置を必要とする場合がある。この場合も同様に、特定の遺伝子をコードするDNAをこの方法によって送達することができ、やはり本発明により組み入れられる。
【0217】
本発明のさらなる態様において、発現構築物はリポソーム中に捕捉され得る。リポソームは、リン脂質二重層膜および内部水性媒体を特徴とする小胞構造である。多重膜リポソームは、水性媒体よって分離された複数の脂質層を有する。これは、過剰の水溶液中にリン脂質を懸濁した場合に自発的に形成される。脂質成分は閉鎖構造の形成前に自己再構成して、脂質二重層の間に水および溶解した溶質を捕捉する(Ghosh and Bachhawat, 1991)。リポフェクタミン-DNA複合体もまた意図される。
【0218】
インビトロでのリポソーム媒介性核酸送達および外来DNAの発現は、大成功を収めている。Wongら(1980)は、培養したニワトリ胚、HeLa細胞、および肝臓癌細胞において、リポソーム媒介性送達および外来DNAの発現の実現可能性を実証した。Nicolauら(1987)は、静脈内注射後のラットにおいてリポソーム媒介性遺伝子移入の成功を果たした。
【0219】
本発明の特定の態様において、リポソームはセンダイウイルス(HVJ)と複合体形成され得る。これは、細胞膜との融合を容易にし、リポソームにカプセル化されたDNAの細胞侵入を促進することが示されている(Kaneda et al., 1989)。他の態において、リポソームは核の非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)と複合体形成され得るかまたはそれらと共に使用され得る(Kato et al., 1991)。さらなる態様において、リポソームはHVJおよびHMG-1の両方と複合体形成され得るかまたはそれらと共に使用され得る。このような発現構築物はインビトロおよびインビボで核酸の導入および発現に良好に用いられているので、これらは本発明に適用可能である。細菌プロモーターがDNA構築物中に用いられる場合には、リポソーム内に適切な細菌ポリメラーゼを含めることも望ましいと考えられる。
【0220】
細胞中に特定の遺伝子をコードする核酸を送達するために使用し得る他の発現構築物は、受容体媒介性送達媒体である。これらは、ほとんどすべての真核細胞に見られる受容体媒介性エンドサイトーシスによる高分子の選択的取り込みを利用する。種々の受容体の細胞種特異的分布に起因して、送達は非常に特異的となり得る(Wu and Wu, 1993)。
【0221】
受容体媒介性遺伝子ターゲティング媒体は一般に、2つの成分:細胞受容体特異的リガンドおよびDNA結合剤からなる。いくつかのリガンドが、受容体媒介性遺伝子導入に用いられている。最も広範に特徴づけられているリガンドは、アシアロオロソムコイド(ASOR)(Wu and Wu, 1987)およびトランスフェリン(Wanger et al., 1990)である。近年、ASORと同じ受容体を認識する合成ネオ糖タンパク質が遺伝子送達媒体として用いられており(Ferkol et al., 1993;Perales et al., 1994)、上皮増殖因子(EGF)もまた扁平上皮癌細胞に遺伝子を送達するために用いられている(Myers, EPO 0273085)。
【0222】
他の態様において、送達媒体はリガンドおよびリポソームを含み得る。例えば、Nicolauら(1987)は、リポソーム中に取り込んだラクトシル-セラミド、ガラクトース末端アシアルガングリオシドを使用し、肝細胞によるインスリン遺伝子の取り込みの増加を認めた。したがって、特定の遺伝子をコードする核酸はまた、リポソームを用いてまたは用いずに、多数の受容体-リガンド系により1つの細胞種に特異的に送達することが可能である。例えば、上皮増殖因子(EGF)は、EGF受容体の上方制御を示す細胞への核酸の送達を媒介するための受容体として使用され得る。マンノースは、肝臓細胞上のマンノース受容体を標的化するために使用され得る。また、CD5(CLL)、CD22(リンパ腫)、CD25(T細胞白血病)、およびMAA(黒色腫)に対する抗体も、標的化部分として同様に使用され
【0223】
特定の態様において、遺伝子導入はエキソビボ条件下でより容易に実施され得る。エクスビボ遺伝子治療とは、動物から細胞を単離し、インビトロでそれらの細胞に核酸を送達し、次いで改変した細胞を動物に戻すことを指す。これは、動物からの組織/器官の外科的切除または細胞および組織の初代培養を含み得る。
【0224】
VIII. トランスジェニックマウスの作製法
本発明の特定の実施形態は、プロモーターの調節下で異種PKD遺伝子を発現するトランスジェニック動物を提供する。誘導性または構成的プロモーターの調節下でPKDコード核酸を発現するトランスジェニック動物、このような動物に由来する組み換え細胞株、およびトランスジェニック胚は、心筋細胞の発生および分化、ならびに病的心肥大および心不全の発症においてPKDが果たす正確な役割を決定するのに有用である可能性がある。さらに、これらのトランスジェニック動物は心臓発生への洞察を提供し得る。構成的に発現されるPKDコード核酸の使用により、過剰発現または上方制御発現のモデルが提供される。また、対立遺伝子の一方または両方においてPKDが「ノックアウト」されたトランスジェニック動物も意図される。
【0225】
一般的な局面において、トランスジェニック動物は、導入遺伝子の発現を可能にする様式でのゲノム中への所与の導入遺伝子の組み込みによって作製される。トランスジェニック動物を作製する方法は一般的に、WagnerおよびHoppe(米国特許第4,873,191号;参照により本明細書に組み入れられる)、Brinsterら、1985;その全体が参照により本明細書に組み入れられる)によって記載されている。
【0226】
典型的には、ゲノム配列の隣接した遺伝子をマイクロインジェクションにより受精卵に導入する。マイクロインジェクションした卵を宿主の雌に移植し、その子孫を導入遺伝子の発現についてスクリーニングする。トランスジェニック動物は、これらに限定されるわけではないが爬虫類、両生類、鳥類、哺乳類、および魚類を含む多くの動物の受精卵から作製され得る。
【0227】
マイクロインジェクションするためのDNAクローンは、当技術分野において周知の手段によって調製することができる。例えば、マイクロインジェクション用のDNAクローンは、標準的な技法により、細菌プラスミド配列の除去に適した酵素で切断し、そのDNA断片をTBE緩衝液中の1%アガロースゲルで電気泳動することができる。エチジウムブロマイドで染色することによりDNAバンドを可視化し、発現配列を含むバンドを切り出す。次いで、0.3 M酢酸ナトリウム、pH 7.0を含む透析バッグに切り出したバンドを入れる。DNAを透析バッグ中に電気的に溶出させ、1:1 フェノール:クロロホルム溶液で抽出し、2倍量のエタノールで沈澱させる。DNAを1 mlの低塩緩衝液(0.2 M NaCl、20 mM Tris、pH 7.4、および1 mM EDTA)中に再度溶解し、Elutip-D(商標)カラムで精製する。カラムは、最初に3 mlの高塩緩衝液(1 M NaCl、20 mM Tris、pH 7.4、および1 mM EDTA)で準備し、続いて低塩緩衝液5 mlで洗浄する。DNA溶液をカラムに3回通過させ、DNAをカラム充填剤に結合させる。低塩緩衝液3 mlで1回洗浄した後、DNAを高塩緩衝液0.4 mlで溶出し、2倍量のエタノールによって沈澱させる。DNA濃度は、UV分光光度計において260 nmでの吸収により測定する。マイクロインジェクションするには、DNA濃度を5 mM Tris、pH 7.4および0.1 mM EDTAで3μg/mlに調整する。マイクロインジェクション用のDNAを精製するための他の方法は、Palmiterら(1982);およびSambrookら(2001)に記載されている。
【0228】
例示的なマイクロインジェクション手順においては、6週齢の雌マウスに妊馬血清性性腺刺激ホルモン(PMSG;Sigma)を5 IU注射(0.1 cc、ip)し、その48時間後にヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG;Sigma)を5 IU注射(0.1 cc、ip)することにより、過排卵を誘導する。hCG注射の直後に、雌を雄と一緒にする。hCG注射の21時間後に、交配した雌をCO2窒息または頚椎脱臼により屠殺し、摘出した卵管から胚を採取し、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA;Sigma)を含むダルベッコリン酸緩衝食塩水中に入れる。周辺の卵丘細胞をヒアルロニダーゼ(1 mg/ml)で除去する。次いで、前核胚を洗浄し、注入時まで、5% CO2、95%空気の加湿環境を有する37.5℃のインキュベーター内の、0.5% BSAを含むEarleの平衡塩類溶液(EBSS)中に入れておく。胚は2細胞期に移植することができる。
【0229】
無作為周期の成体雌マウスを精管切除した雄と対にする。C57BL/6もしくはSwissマウスまたは他の匹敵する系統がこの目的に使用できる。レシピエント雌をドナー雌と同時に交配させる。胚移植時に、レシピエント雌をg体重当たり0.015 mlの2.5%アベルチンの腹腔内注入により麻酔する。卵管を単一中線背面切開により露出させる。次いで、体壁を通して切開を卵管に直接行う。次に、卵嚢を時計製造業者の鉗子で裂く。移植する胚をDPBS(ダルベッコリン酸緩衝食塩水)中に入れ、トランスファーピペットの先端に入れる(約10〜12個の胚)。ピペットの先端を漏斗に挿入して胚を移植する。移植後、切開部を2回の縫合で閉じる。
【0230】
IX. PKDと反応する抗体
別の局面において、本発明は本発明のPKD分子またはその任意の部分と免疫反応する抗体を意図する。抗体はポリクローナル抗体であってもまたはモノクローナル抗体であってもよい。好ましい態様において、抗体はモノクローナル抗体である。抗体を調製する方法および特徴づける方法は、当術分野において周知である(例えば、Harlow and Lane, 1988を参照されたい)。
【0231】
簡潔に説明すると、ポリクローナル抗体は、本発明のポリペプチドを含む免疫原で動物を免疫し、その免疫した動物から抗血清を回収することによって調製する。抗血清を産生させるには、多種多様な動物種を用いることができる。典型的には、抗-抗血清を産生させるに用いられる動物は、ウサギ、マウス、ラット、ハムスター、ブタ、またはウマを含む非ヒト動物である。血液量が比較的多いことから、ポリクローナル抗体の産生にはウサギを選択することが好ましい。
【0232】
当業者に一般に周知であるように、通常の免疫技法を用いて、抗原のアイソフォームに特異的なポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を調製し得る。本発明の化合物の抗原性エピトープを含む組成物を用いて、ウサギまたはマウス等の1匹または複数匹の実験動物を免疫することができ、その後これらの動物は本発明の化合物に対する特異的な抗体を産生することになる。抗体産生のための時間をおいた後、単に動物から採血し、全血から血清試料を調製することにより、ポリクローナル抗血清を得ることができる。
【0233】
本発明のモノクローナル抗体は、ELISA法およびウェスタンブロット法のような標準的な免疫化学的手順、および組織染色のような免疫組織化学的手順、ならびにPKD関連抗原エピトープに特異的な抗体を利用し得る他の手順において有用な用途を見出すことが提案される。
【0234】
一般に、PKDに対するポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、および一本鎖抗体を種々の態様において用いることができる。そのような抗体の特に有用な用途は、例えば抗体アフィニティーカラムを用いて、天然または組み換えPKDを精製することにおいてである。一般的に認められた免疫学的技法すべての操作は、本開示を考慮に入れて当業者に理解されると考えられる。
【0235】
抗体を調製し特徴づける手段は、当技術分野において周知である(例えば、Harlow and Lane, 1988(参照により本明細書に組み入れられる)を参照されたい)。モノクローナル抗体調製のより詳細な例は、以下の実施例に提供する。
【0236】
当技術分野において周知であるように、所与の組成物はその免疫原性が異なり得る。したがって、宿主の免疫系を促進することが必要である場合が多く、これは担体タンパク質にペプチドまたはポリペプチドを結合することによって達成し得る。例示的かつ好ましい担体は、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびウシ血清アルブミン(BSA)である。また、オボアルブミン、マウス血清アルブミン、またはウサギ血清アルブミン等の他のアルブミンも担体として用いることができる。担体タンパク質にポリペプチドを結合する手段は当技術分野において周知であり、これには、グルタルアルデヒド、m-マレイミドベンコイル-N-ヒドロキシスクシニミドエステル(m-maleimidobencoyl-N-hydroxysuccinimide ester)、カルボジイミド、およびビス-ビアゾ化ベンジジン(bis-biazotized benzidine)が含まれる。
【0237】
同様に当技術分野において周知であるように、アジュバントとして知られている免疫応答の非特異的促進剤の使用により、特定の免疫原組成物の免疫原性を増強することができる。例示的かつ好ましいアジュバントには、完全フロイントアジュバント(死滅した結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を含む免疫応答の非特異的促進剤)、不完全フロイントアジュバント、および水酸化アルミニウムアジュバントが含まれる。
【0238】
ポリクローナル抗体の産生において用いられる免疫原組成物の量は、免疫原の性質および免疫に用いる動物によって変わる。免疫原を投与するには、様々な経路を用いることができる(皮下、筋肉内、皮内、静脈内、および腹腔内)。免疫後の様々な時点で免疫動物の血液を試料採取することにより、ポリクローナル抗体の産生をモニターすることができる。また、2回目の追加免疫注射を与えてもよい。適切な力価が得られるまで、追加免疫および力価測定を繰り返す。所望のレベルの免疫原性が得られたならば、免疫動物から採血し、血清を単離および保存することができ、および/またはその動物を用いてmAbを作製することができる。
【0239】
参照より本明細書に組み入れられる米国特許第4,196,265号中に例示される技法のような周知の技法を使用することにより、mAbを容易に調製することができる。典型的には、この技法は、選択された免疫原組成物、例えば精製されたまたは部分精製されたPKDタンパク質、ポリペプチド、もしくはペプチド、または高レベルのPKDを発現する細胞で適切な動物を免疫する段階を含む。抗体産生細胞を刺激するのに有効な様式で、免疫する組成物を投与する。マウスおよびラット等の齧歯類が好ましい動物であるが、ウサギ、ヒツジ、カエル細胞の使用もまた可能である。ラットの使用は特定の利点を提供し得るが(Goding, 1986)、マウスが好ましく、BALB/cマウスは最も日常的に用いられ、一般により高いパーセンテージの安定な融合物を与えるのでこれが最も好ましい。
【0240】
免疫後、mAb作製手順において使用するために、抗体を生産する能力を有する体細胞、特にBリンパ球(B細胞)を選択する。生検採取した脾臓、扁桃腺、もしくはリンパ節から、または抹末梢血試料からこれらの細胞を得ることができる。脾臓細胞および末梢血細胞が好ましく、前者はそれらが分裂形質芽球期にある抗体産生細胞の豊富な源であるからであり、後者は末梢血が容易に入手できるからである。一連の動物を免疫し、最も高い抗体価を有する動物の脾臓を摘出し、脾臓をシリンジでホモジナイズすることによって脾臓のリンパ球を得る場合が多い。典型的に、免疫したマウスの脾臓は、約5 x 107〜2 x 108個のリンパ球を含む。
【0241】
次に、免疫動物からの抗体産生Bリンパ球を、一般に免疫した動物と同種のものの不死化骨髄腫細胞の細胞と融合させる。ハイブリドーマを作製する融合手順における使用に適した骨髄腫細胞株は好ましくは抗体を産生せず、高い融合効率、および所望する融合細胞(ハイブリドーマ)のみの生育を支持する特定の選択培地において増殖し得なくする酵素欠失を有する。
【0242】
当業者に周知であるように、多くの骨髄腫細胞のいずれかを用いることができる(Goding, 1986;Campbell, 1984)。例えば、免疫動物がマウスである場合には、P3-X63/Ag8、P3-X63-Ag8.653、NS1/1.Ag 4 1、Sp210-Ag14、FO、NSO/U、MPC-11、MPC-11-X45-GTG 1.7、およびS194/5XX0 Bulを用いることができ;ラットの場合には、R210.RCY3、Y3-Ag 1.2.3、IR983F、および4B210を用いることができ;U-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2、およびUC729-6はすべて細胞融合に関連して有用である。
【0243】
抗体を産生する脾臓またはリンパ節細胞と骨髄腫細胞の雑種の作製方法は通常、細胞膜の融合を促進する1つまたは複数の薬剤(化学的または電気的)の存在下で、体細胞と骨髄腫細胞を2:1の比率(比率はそれぞれ約20:1から約1:1まで変動し得る)で混合する段階を含む。センダイウイルスを用いる融合方法が記載されており(Kohler and Milstein, 1975;1976));37%(v/v)PEG等のポリエチレングリコール(PEG)を用いる融合方法がGefterら(1977)により記載されている。また、電気的誘導融合法の使用もまた適している(Goding, 1986)。
【0244】
融合手順により、通常は約1 x 10-6〜1 x 10-8の低い頻度で生存雑種が生じる。しかし、選択培地で培養することにより生存融合雑種は親の非融合細胞(特に、通常無限に分裂し続ける融合していない骨髄腫細胞)から区別されるため、これは問題ではない。選択培地は一般に、組織培養培地中にヌクレオチドの新規合成を妨げる薬剤を含む培地である。例示的かつ好ましい薬剤は、アミノプテリン、メトトレキセート、およびアザセリンである。アミノプテリンおよびメトトレキセートはプリンおよびピリミジンの両方の新規合成を妨げ、アザセリンはプリン合成のみを妨げる。アミノプテリンまたはメトトレキセートを用いる場合には、ヌクレオチドの供給源として培地にヒポキサンチンおよびチミジンを補充する(HAT培地)。アザセリンを用いる場合には、培地にヒポキサンチンを補充する。
【0245】
好ましい選択培地はHATである。ヌクレオチドサルベージ経路を作動し得る細胞のみが、HAT培地において生存できる。骨髄腫細胞はサルベージ経路の重要な酵素、例えばヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)を欠いており、そのため生存することができない。B細胞はこの経路を作動し得るが、培養において限られた寿命を有し、一般に約2週間以内に死滅する。したがって、選択培地で生存し得る唯一の細胞は、骨髄腫およびB細胞から形成される雑種である。
【0246】
この培養によりハイブリドーマの集団が提供され、これらから特定のハイブリドーマが選択される。典型的には、ハイブリドーマの選択は、マイクロタイタープレートにおける単一クローン希釈により細胞を培養し、次に(約2〜3週後に)個々のクローンの上清を所望の反応性に関して試験することにより行う。ラジオイムノアッセイ、酵素免疫アッセイ、細胞毒性アッセイ、プラークアッセイ、ドット免疫結合アッセイ等のようなアッセイは高感度、単純、かつ迅速であるべきである。
【0247】
次に、選択したハイブリドーマを段階希釈し、個々の抗体産生細胞株になるようにクローニングし、次いでクローンを無限に増殖させてmAbを提供することができる。細胞株は、2つの基本的な方法でmAb産生のために利用し得る。最初の融合のために体細胞および骨髄腫細胞を提供するのに用いた種類の組織適合性動物に(腹腔中である場合が多い)、ハイブリドーマの試料を注入し得る。注入された動物は、融合細胞雑種により生産される特定のモノクローナル抗体を分泌する腫瘍を生じる。次いで、血清または腹水等の動物の体液を採取し、高濃度のmAbを提供することができる。また、個々の細胞株をインビトロで培養することもでき、その場合mAbは培地中に自然に分泌され、培地からmAbを容易に高濃度で得ることができる。必要に応じて、濾過、遠心分離、およびHPLCまたはアフィニティークロマトグラフィーのような種々のクロマトグラフィー方法を使用し、いずれかの手段によって産生されたmAbをさらに精製してもよい。
【0248】
X. 定義
本明細書において用いる「心不全」という用語は、心臓が血液を拍出する能力を減少させる任意の状態を意味するために広範に使用される。結果として、組織においてうっ血および浮腫が起こる。心不全は、冠血流の減少による心筋収縮性の低下よって起こる頻度が最も高い;しかし、心臓弁の損傷、ビタミン不足、および原発性心筋疾患を含む多くの他の因子も心不全を生じ得る。心不全の正確な生理学的機構は完全に理解されていないが、心不全は一般に、交感神経、副交感神経、および圧受容体応答を含むいくつかの心臓自律神経特性における障害が関与すると考えられている。「心不全の症状発現」という語句は、心不全に伴う検査知見を含む、息切れ、圧痕浮腫、圧痛のある肝臓の拡大、頸静脈怒張、肺ラ音等の心不全に伴う続発症をすべて包含するために広範に使用される。
【0249】
「処置」という用語または文法上の等価物は、心不全の症状(すなわち、心臓が血液を拍出する能力)の改善および/または好転を含む。心臓の「生理機能の改善」は、本明細書において記載する測定(例えば、駆出率、短縮率、左心内径、心拍数の測定)のいずれか、および動物の生存に及ぼす任意の効果を使用して評価し得る。動物モデルの使用においては、処置したトランスジェニック動物および未処置のトランスジェニック動物の応答を、本明細書中に記載するアッセイ法のいずれかを用いて比較する(さらに、対照として、処置および未処置の非トランスジェニック動物も含め得る)。その結果、本発明のスクリーニング方法において使用される心不全に関連した任意のパラメーターの改善をもたらす化合物が、治療化合物として同定され得る。
【0250】
「拡張型心筋症」という用語は、弱い収縮機能を有する対称的に拡張した左心室の存在を特徴とする心不全の種類を指し、さらにこれには右心室が関与している場合も多い。
【0251】
「化合物」という用語は、身体機能の疾患、疾病、病気、または障害を処置または予防するために使用し得る任意の化学物質、調合薬、薬剤等を指す。化合物は、既知治療化合物および潜在的治療化合物の両方を含む。化合物は、本発明のスクリーニング方法を使用するスクリーニングによって、治療薬であると決定され得る。「既知治療化合物」とは、このような処置において効果的であることが示されている(例えば、動物試験または過去のヒトへの投与経験を介して)治療化合物を指す。言い換えると、既知治療化合物は心不全の処置において有効な化合物に限定されない。
【0252】
本明細書において使用する「作用薬」という用語は、「自然の」または「天然の」化合物の作用を模倣する分子または化合物を指す。作用薬は、これらの天然化合物と高次構造、電荷、または他の特徴に関して類似している可能性がある。したがって、作用薬は細胞表面上に発現される受容体によって認識され得る。この認識によって、細胞内では、細胞が天然化合物が存在するかのように同じ様式で作用薬の存在に反応するような生理的および/または生化学的変化が生じ得る。作用薬には、タンパク質、核酸、炭水化物、または関心対象の分子、受容体、および/もしくは経路と相互作用する任意の他の分子が含まれ得る。
【0253】
本明細書において使用する「心肥大」という用語は、成体心筋細胞が肥大増殖を介するストレスに応答する過程を指す。このような増殖は、細胞分裂を伴わない細胞サイズの増加、力の発生を最大限にするための細胞内におけるさらなるサルコメアの構築、および胎児性心臓遺伝子プログラムの活性化によって特徴づけられる。心肥大は罹患率および死亡率の危険性の増大と関連する頻度が高く、したがって、心肥大の分子機構の理解を目的とする研究は、ヒトの健康に対する影響が大きいと考えられる。
【0254】
本明細書において使用する「拮抗薬」および「阻害薬」という用語は、心肥大に関連し得る細胞性因子の作用を阻害する分子、化合物、または核酸を指す。拮抗薬は、これらの天然化合物と高次構造、電荷、または他の特徴に関して類似しているかもしれないし、類似していないかもしれない。したがって、拮抗薬は、作用薬によって認識される受容体と同じまたは異なる受容体によって認識され得る。拮抗薬は、作用薬の作用を妨げるアロステリック効果を有し得る。または、拮抗薬は作用薬の機能を防げ得る。作用薬とは対照的に、拮抗化合物は細胞において、細胞が細胞性因子が存在するかのように同じ様式で拮抗薬の存在に反応するような病理的および/または生化学的変化を生じない。拮抗薬および阻害薬には、タンパク質、核酸、炭水化物、または関心対象の受容体、分子、および/もしくは経路と結合するもしくは相互作用する任意の他の分子が含まれ得る。
【0255】
本明細書において使用する「調節する」という用語は、生物学的活性の変化または変更を指す。調節は、タンパク質活性の増加もしくは減少、キナーゼ活性の変化、結合特性の変化、または関心対象のタンパク質もしくは他の構造の活性に関連した生物学的、機能的、もしくは免疫学的特性における任意の他の変化であってよい。「モジュレーター」という用語は、上記のように生物活性を変化または変更し得る任意の分子または化合物を指す。
【0256】
「βアドレナリン受容体拮抗薬」という用語は、β型のアドレナリン受容体(すなわち、カテコールアミン、特にノルエピネフリンに応答するアドレナリン作動系の受容体)を部分的にまたは完全に遮断し得る化合物または化学物質を指す。いくつかのβアドレナリン受容体拮抗薬は、1つの受容体サブタイプ(一般にβ1)にある程度の特異性を示す;このようなアンタゴニストは、「β1特異的アドレナリン受容体拮抗薬」および「β2特異的アドレナリン受容体拮抗薬」と称される。「βアドレナリン受容体拮抗薬」という用語は、選択的および非選択的拮抗薬である化合物を指す。βアドレナリン受容体拮抗薬の例には、アセブトロール、アテノロール、ブトキサミン、カルテオロール、エスモロール、ラベタロール、メトプロロール、ナドロール、ペンブトロール、プロパノロール、およびチモロールが含まれるが、これらに限定されるわけではない。既知βアドレナリン受容体拮抗薬の誘導体の使用は、本発明の方法によって包含される。実際に、βアドレナリン受容体拮抗薬として機能的に挙動する任意の化合物は、本発明の方法によって包含される。
【0257】
「アンギオテンシン変換酵素阻害薬」または「ACE阻害薬」という用語は、レンニン-アンギオテンシン系における、比較的不活性なアンギオテンシンIの活性のあるアンギオテンシンIIへの変換に関与する酵素を部分的または完全に阻害し得る化合物または化学的物質を指す。さらに、ACE阻害薬は同時に、ACE阻害薬の抗高血圧効果を有意に増強する可能性が高いブラジキニンの分解を阻害する。ACE阻害薬の例には、べナゼプリル、カプトプリル、エナラプリル、フォシノプリル、リシノプリル、キナプリル、およびラミプリルが含まれるが、これらに限定されるわけではない。既知ACE阻害薬誘導体の使用は、本発明の方法によって含まれる。実際に、ACE阻害薬として機能的に挙動する任意の化合物は、本発明の方法によって包含される。
【0258】
本明細書において使用する「遺伝子型」という用語は生物体の実際の遺伝子構成を指し、「表現型」とは個体によって示される身体的形質を指す。さらに、「表現型」はゲノムの選択的発現の結果である(すなわち、これは細胞履歴の発現およびその細胞外環境に対する応答である)。実際に、ヒトゲノムは推定30,000〜35,000個の遺伝子を含む。各細胞種においては、これらの遺伝子の少数(すなわち10〜15%)のみが発現される。
【0259】
XI. 実施例
以下の実施例は、本発明の好ましい態様を実証するために含めるものである。以下の実施例に開示した技術は、本発明者らにより見出された技術および/または組成物が本発明の実施において良好に機能することを示し、したがってその実施のための好ましい様式を構成すると考えられ得ることは、当業者によって理解されるべきである。しかし当業者は、本開示を考慮して、開示した特定の態様において多くの変更を行うことができ、それらも本発明の精神および範囲から逸脱することなく同様または類似の結果をなおも得ることができることを理解すべきである。
【0260】
実施例1:材料および方法
化学試薬およびプラスミド
ホルボール12-ミリスチン酸13-酢酸(PMA)、8-Br-cAMP、pCPT-cGMP、およびアニソマイシンは、Sigma Chemical(ミズーリ州、セントルイス)から入手した。以下のキナーゼ阻害剤は表示の製造供給元から購入した:ビスインドリルマレイミドIおよびGo6976(A.G. Scientific、カリフォルニア州、サンディエゴ)、KN93、SB216763、およびワートマニン(BIOMOL、ペンシルバニア州、プリマスミーティング)、Go6983、スタウロスポリン、PD98059、ワートマニン、U1026、Y-27632、ラパマイシン、およびDAGキナーゼ阻害剤II(Calbiochem)。KN93、ワートマニン、およびスタウロスポリンは1 mMで使用した。U1026、HA1077、Y-27632、DAGキナーゼ阻害剤II、SB216763、およびBis Iは10 mMで使用した。ラパマイシンは30 ng/mlで使用した。フェニレフリンおよびエンドセリン-IはSigmaから購入した。PKDアイソフォームをコードする哺乳動物発現ベクターはAlex Toker氏の分与により、これについては他所に記載されている(Storz and Toker, 2003)。
【0261】
細胞培養およびトランスフェクションアッセイ
COS細胞は、FBS(10%)、L-グルタミン(2 mM)、およびペニシリン-ストレプトマイシンを添加したDMEMで維持した。COS細胞のトランスフェクションは、Fugene6(Roche Molecular Biochemicals)を用いて製造業者の取扱説明書に従って行った。HDAC局在化実験を行うには、トランスフェクションしてから16〜24時間後に細胞をPMA(100 nM)、イオノマイシン(1 mM)、8-Br-cAMP(1 mM)、pCPT-GMP(1 mM)、またはアニソマイシン(1 mM)で処理した。注記した場合には、任意の化学刺激を添加する30分前に特定のプロテインキナーゼ阻害剤を添加した。GFP-HDAC5は、標準的な蛍光顕微鏡法により可視化した。FLAG-HDAC5の間接的免疫蛍光法に関しては、COS細胞をカバーガラス上に播種し、トランスフェクションし、上記のように処理した。特定の処理を行った後、細胞を緩衝化ホルマリン(10%)で固定し、BSA(3%)およびNonidet P-40(0.1%)を含むPBS中で染色した。Flag M2抗体(Sigma)は1:200の濃度で使用した。二次フルオレセイン結合抗体(Vector Laboratories)もまた1:200の濃度で使用した。サルコメアの心筋細胞および心房性ナトリウム利尿因子(ANF)の染色は、それぞれサルコメアα-アクチニン(Sigma)およびANF(Peninsula Laboratories)に対する抗体を用いて上記のように間接的免疫蛍光検出法により行った。
【0262】
心筋細胞培養およびアデノウイルス感染
新生ラット心筋細胞(NRVM)は、以前に記載されている通りに1〜2日齢Sprague Dawleyラットから単離した(Antos et al., 2003)。アデノウイルスを産生させるため、LacZまたはFLAGタグ化HDAC5(S259/498A)をコードするcDNAをpACCMVベクターにクローニングし、pJM17と共に293細胞に同時トランスフェクションした。一次溶解液を用いて再度293細胞に感染させ、アガー重層法によりウイルスプラークを取得した。(1122アミノ酸をコードする)全長ヒトHDAC5の相補DNAを、pcDNA3.1+(Invitorogen)内の強化緑色蛍光タンパク質をコードする配列(EGFP;Clontech)に融合した。得られた構築物は、HDAC5のアミノ末端にインフレームで融合したGFPをコードする。セリン259および498の代わりにアラニンを含むHDAC5に融合したGFPをコードする構築物も同じ様式で作製した。アデノウイルスを産させるため、GFP-HDAC5 cDNAをpACCMVにサブクローニングした。アデノウイルスのクローン集団を増幅し、力価を測定した。
【0263】
免疫共沈降アッセイ
Flag-HDAC5発現プラスミドをCOS細胞にトランスフェクションし、上記のように処理した。処理した細胞をTris(50 mM、pH 7.4)、NaCl(150 mM)、EDTA(1 mM)、およびTriton X-100(1%)中に回収した。22ゲージの注射針を通すことにより細胞をさらに破壊し、遠心分離によって細胞残屑を除去した。M2アガロースコンジュゲート(Sigma)を用いてFlag-HDAC5を免疫沈降し、十分に洗浄した。結合しているタンパク質をSDS-PAGEによって分離し、Flag M2抗体(Sigma)または14-3-3抗体(Santa Cruz Biotechnology)を用いてウェスタンブロット解析を行った。NRVMを用いて試験する場合には、プロテアーゼ阻害剤カクテル(Complete;Roche)、PMSF(1 mM)、およびホスファターゼ阻害剤[ピロリン酸ナトリウム(1 mM)、フッ化ナトリウム(2 mM)、b-グリセロールリン酸(10 mM)、モリブデン酸ナトリウム(1 mM)、オルトバナジウム酸ナトリウム(1 mM)]を添加した同じ緩衝液を用いて、GFP-HDAC5を発現する細胞からタンパク質抽出物を調製した。溶解液を短時間超音波処理し、遠心分離によって清澄化した。免疫沈降するため、タンパク質溶解液をHDAC5特異的抗血清(19)およびプロテインGセファロースビーズ(Amersham Biosceiences)に曝露した。免疫沈降物を溶解緩衝液で5回洗浄し、SDS-PAGEによって分離し、GFPに特異的なマウスモノクローナル抗体(BD Biosciences;1:2,500希釈)または14-3-3に特異的なマウスモノクローナル抗体(Santa Cruz[H-8];1:1000希釈)を用いて免疫ブロッティングした。結合しているPKDは、PKD-1、セリン744および748の位置でリン酸化されたPKD-1、またはセリン916の位置でリン酸化されたPKD-1に対するウサギポリクローナル抗体(Cell Signaling Technologies)を1:1000希釈で用いて免疫ブロッティングすることにより検出した。
【0264】
インビトロキナーゼアッセイ
上記の通りに、抗Flag M2抗体を用いてFlag-HDAC5を免疫沈降した。結合したFlag-HDAC5を洗浄し、キナーゼ緩衝液(Tris(25 mM、pH7.4)、MgCl2(10 mM)、DTT(1 mM))で平衡化した。平衡化した後、キナーゼ混合液を添加した(ATP(0.1 mM)および50 mCi [g-32p]-ATPを添加したキナーゼ緩衝液)。キナーゼ反応を30℃で30分間行い、等量の2X SDS-PAGEローディングバッファーを添加して反応を停止した。リン酸化タンパク質をSDS-PAGEで分離し、オートラジオグラフィーにより可視化した。
【0265】
GFP-HDAC5局在化試験
NRVMにおけるGFP-HDAC5を解析するため、ゼラチンコーティングした96ウェルディッシュ(Costar)に、アデノウイルス(感染効率=約50〜100)の存在下で、ウシ胎児血清(FBS)(10%)、L-グルタミン(2 mM)、およびペニシリン-ストレプトマイシンを含むDMEMで細胞をプレーティングした(1 x 104細胞/ウェル)。一晩培養した後、細胞を無血清培地で洗浄し、アルブミン、インスリン、トランスフェリン、ならびに他の明確な有機化合物および無機化合物を含む、Neutridoma-SP(0.1%;Roche Applied Science)を添加したDMEM(100 ml)で維持した。無血清培地で培養した後(3時間)、細胞をキナーゼ阻害剤に曝露し(30分)、その後作用薬で2.5時間刺激した。細胞をPBSで洗浄し、ヘキスト色素33342(H-3570、Molecular Probes)を含むPBSに溶解した10%ホルマリンで固定した。デジタルカメラ(Photometrics CoolSNAP HQ)およびMetaMorph画像ソフトウェアを備えた蛍光顕微鏡(Nikon Eclipse TS100)を用いて、40X倍率で画像を記録した。ヘキストt蛍光に基づいて核の境界を定め、これらの核の寸法に基づいて細胞質環を規定するHigh Content Imaging System(Cellomics, Inc.、ペンシルバニア州、ピッツバーグ)を用いて、核および細胞質中のGFP-HDAC5の相対存在量を定量した。HDAC5局在化の値は、実験条件当たり最低200個の細胞の平均を示す。
【0266】
RNA解析
ゼラチンコーティングした10 cmディッシュにNRVMをプレーティングした(2 x 106細胞/ディッシュ)。表示の処理を行った後、Trizol試薬(Gibco/BRL)を用いて心筋細胞からRNAを単離した。96ウェル型ドッブロッター(Bio-Rad)を用いて、全RNA(2μg)をニトロセルロース膜(Bio-Rad)上に真空ブロッティングした。SDS(1%)、5Xデンハルト試薬、ピロリン酸ナトリウム(0.05%)、および100μg/ml超音波処理サケ精子DNAを含む4X SSCで膜をブロッキングし(500℃で4時間)、32P末端標識オリゴヌクレオチドプローブ(1 x 106 cpm/ml)と共にインキュベートした(500℃で14時間)。オリゴヌクレオチドの配列は以下の通りであった:


SDS(0.1%)を含む0.5X SSCでブロットを2回洗浄し(500℃で10分)、オートラジオグラフィーにより解析した。
【0267】
哺乳動物ツーハイブリッド解析
ヒトHDAC5(アミノ酸2〜664)のアミノ末端に融合したGAL4 DNA結合ドメインをコードする哺乳動物発現ベクターを、pM1発現ベクター(Sadowski)において作製した。セリン259および/または498の代わりにアラニンを有するGAL4-HDAC5融合物を類似の方法で構築した。14-3-3σのアミノ末端に融合したヘルペスウイルスVP16転写活性化ドメインをコードする構築物を、pVP16(Clontech)を使用して作製した。構成的に活性のあるPKD-1の構築物の非存在下または存在下において、GAL4-HDAC5、VP16-14-3-3、および5コピーのGal4 DNA結合部位の調節下のルシフェラーゼレポーター遺伝子(5XUAS-ルシフェラーゼ)のベクターでCOS細胞を一過性にトランスフェクションした。トランスフェクションしてから48時間後に細胞を回収し、Luciferase Assay Kit(Promega)を用いてルシフェラーゼレベルを定量した。
【0268】
トランスジェニックマウスの作製
構成的活性型のPKDをコードするcDNAを、心臓特異的α-ミオシン重鎖プロモーターの下流にクローニングした。このベクターをB6C3F1マウス卵母細胞に注入し、これを代理雌ICRマウスに移植した。導入遺伝子特異的プライマーを用いたPCRにより、トランスジェニック子孫を同定した。結果を図7A〜Dに示す。
【0269】
実施例2:結果
PKC依存性経路はHDAC5の核外輸送を促進する。
クラスII HDACのリン酸化および核外輸送をもたらすシグナル伝達経路をさらに明確にするため、COS細胞においてHDAC5の核外輸送を促進する能力について種々のタンパク質キナーゼ経路の活性化因子を試験した。HDAC5は主としてCOS細胞の核内に位置し、核外輸送の評価の簡便な系が可能となる。PKA(8-Br-cAMP)、PKG(pCPT-GMP)、PKC(PMA)、CaMK(イオノマイシン)、およびJun-N末端キナーゼ(アニソマイシン)の活性化因子を、GFPに融合したHDAC5の核外輸送を活性化する能力について試験した。これらの化合物のうち、イオノマイシンおよびPMAのみがGFP-HDAC5の核外輸送を促進した(図1A)。試験した濃度において、PMAはイオノマイシンよりも強力な輸送の促進因子であった。
【0270】
CaMKシグナル伝達に応答したHDAC5および他のクラスIIHDACの核外輸送は、HDACタンパク質のN末端領域に位置する2つのセリンを必要とする(Grozinger and Schreiber, 2000;McKinsey et al., 2000)。これらのセリン残基(残基249および498)のアラニン置換を有するHDAC5変異体(HDAC5-S/A)は、PMA処理に応答して輸送されず(図1B)、PKC活性化に対する反応性へのこれらの部位の必須の役割が立証された。HDAC5の核外輸送はPMAを添加してから15分以内に開始し、30分までに完了した(図1C)。
【0271】
HDAC5のセリン249および498のリン酸化は14-3-3のドッキング部位をもたらし、14-3-3タンパク質によりHDAC5は細胞質に送達される(Grozinger and Schreiber, 2000;McKinsey et al., 2000)。PMAがこれらの部位のリン酸化を促進することをさらに確認するため、HDAC5と14-3-3の相互作用を免疫共沈降アッセイにおいて解析した。図1Dに示すように、14-3-3とHDAC5の会合はPMAの存在下で増強された。対照的に、HDAC5-S/A変異体はPMAに応答できず、14-3-3と会合しなかった。したがって、本発明者らは、PKCシグナル伝達がHDAC5のセリン249および498のリン酸化をもたらし、結果的に14-3-3依存的機構を介して核外輸送をもたらすと結論づける。
【0272】
心筋細胞におけるHDAC5のPKC依存的な核外輸送
心肥大時のHDAC5輸送の調節におけるPKCシグナル伝達の役割について取り掛かるため、初代心筋細胞においてHDAC5の作用薬依存的な核外輸送を測定するための定量アッセイ法を開発した。このアッセイ法はCellomics High Content Imaging Systemを利用するもので、このシステムは核および細胞質のGFP蛍光強度を迅速に定量し、2つの細胞内コンパートメント間の強度の相違の読み取り値を提供する(図2A)。アッセイの正当性を確認するため、ラット新生心室心筋細胞(NRVM)に、GFP-HDAC5を発現するアデノウイルス(Ad-GFP-HDAC5)を感染させ、HDAC5の核外輸送を促進する肥大作用薬であるα-1アドレナリン作用薬フェニレフリン(PE)の漸増用量で刺激した(Bush et al., 2004)。図2Bに示すように、PEは濃度依存的な様式でHDAC5の核外輸送を誘発した。これらの結果は、細胞の目視検査によって確認した(データは示さず)。
【0273】
定量的な核外輸出アッセイ法の正当性が確立されたため、次に、種々のキナーゼの一連の阻害剤がHDAC5の核外へのPE誘導性移行を阻止する能力について試験した。一般的なセリン/スレオニンキナーゼ阻害剤スタウロスポリンおよびPKC阻害剤ビスインドリルマレイミドI(Bis I)が、HDAC5のPE依存的輸送の阻止において有効であった(図2Cおよび2D)。対照的に、CaMK(KN93)、MEK1(U1026)、ROCK(Y-27632)、ジアシルグリセロールキナーゼ(DAGK阻害剤II)、PI3キナーゼ(ワートマニン)、S6キナーゼ(ラパマイシン)、GSK(SB216763)の阻害剤、またはPKG、MLCK、およびPKAの阻害剤(HA1077)は、HDAC5のPE誘導性核外輸送に有意に影響しなかった。
【0274】
PKCシグナル伝達はHDACリン酸化を介して心肥大を誘導する。
PKC活性化は心肥大に十分である、また場合によっては必要であることが示されている(Antos, 2003;Dunnmon et al., 1990を参照のこと)。上記の結果から、心肥大の発症におけるHDAC5または他のクラスII HDACのPKC依存的な核外輸送が示唆される。この可能性について取り組むため、PKC活性化に応答した肥大がクラスII HDACのリン酸化および核外輸送を必要とするかどうかについて検討した。NRVMにシグナル耐性HDAC5-S/A変異体タンパク質または対照としてのLacZを発現するアデノウイルスを感染させた。図3Aに示すように、初代心筋細胞におけるHDAC5-S/A変異体の発現により、PEまたはPMAに応答したサルコメア構築および細胞拡大が妨げられた。
【0275】
心肥大は、心房性ナトリウム利尿因子(ANF)、脳性ナトリウム利尿因子(BNP)、およびα-骨格アクチンをコードする遺伝子を含む「胎児性」遺伝子プログラムの再活性化と関連している。ANF特異的抗体を用いて心筋細胞を免疫染色することにより、ANF発現の作用薬依存的上昇についても試験することができる。図3Bに示すように、PEまたはPMAで処理したNRVMにおいて、ANFタンパク質の顕著な核周囲の発現が認められた。ANF発現の作用薬依存的誘導はLacZの異所性発現によって影響を受けなかったが、シグナル耐性HDAC5の存在下では顕著に減少した。さらに、リン酸化不可能なHDAC5は、ANF転写産物ならびにBNPおよびα-骨格アクチンの転写産物のPEおよびPMA媒介性誘導を阻止した。総合して、これらの結果から、PKCシグナル伝達が、部分的にクラスII HDACの核外輸送を促進することにより心肥大を誘発することが示唆される。
【0276】
PKC阻害に対するHDAC5核外輸送の感受性の相違
次に、他の肥大シグナルに応答したHDAC5の核外輸送が同様にPKCシグナル伝達に依存するかどうかについて検討した。肥大を促進するエンドセリン-1(ET-1)およびウシ胎児血清(FBS)もまた、HDAC5の核外輸送を効率的に促進する(未発表データ)。しかし、PE依存的なHDAC5核外輸送に対する阻害効果とは異なり、Bis IはET-1またはFBSに応答したHDAC5の核外輸送に影響を及ぼさなかった(図4A)。これらの知見から、PEはET-1およびFBSとは異なるキナーゼ経路を誘発してHDAC5の核外輸送を促進することが示唆された。
【0277】
上記の心肥大作用薬のプロテインキナーゼエフェクターの性質をさらに調べるため、HDAC5核外輸送に及ぼす効果の可能性に関してさらなるPKC阻害剤を試験した。PKCの別の一般的阻害剤であるGo6983の活性はBisIの活性と匹敵し、PEに応答したHDAC5核外輸送は阻害するが、ET-1またはFBSに応答した核外輸送は阻害しなかった(図4Bおよび4D)。一方、カルシウム依存性PKCaおよびbアイソザイムの特異的阻害剤であるGo6976は、PE、ET-1、またはFBSによって誘発されるHDAC5の核外輸送を効率的に阻止した(図4Cおよび4D)。HDAC5核外輸送に及ぼす上記阻害剤の異なった効果は、HDAC5リン酸化の指標である14-3-3とHDAC5との会合に及ぼす効果と同等であった。G06976はPEおよびET-1に応答したHDAC5と14-3-3の会合を阻止したが、Bis Iは阻止しなかった(図4E)。
【0278】
Bis IまたはGo6983はGo6976と同程度に効率的にPKCaおよびbを阻止するため、
G06976が複数の作用薬に応答したHDAC5の核外輸送を阻止し得るが、Bis IまたはGo6983が阻止し得ないことは、一見矛盾している。しかし、この阻害剤プロファイルは、PKCaまたはbの作用を、Go6976には感受性があるがBisIまたはGo6983には感受性がないPKD/PKCm(Zugaza et al., 1996)の作用と識別するために他によって用いられたプロファイルと類似していた(Gschwendt et al., 1996)。
【0279】
プロテインキナーゼDはHDAC5の核外輸送を促進する。
HDAC5の作用薬依存的な核外輸送におけるPKDの関与の可能性を示唆した上記の結果を考慮して、HDAC5におけるシグナル応答性セリンの周囲のアミノ酸配列を潜在的PKD共通リン酸化部位に関して調べた。PKDは、リン酸化セリンの-5位においてロイシン残基に対する強い優先度を有する(Nishikawa et al., 1997)。HDAC5は、どちらのシグナル応答性セリン残基についてもこの位置においてロイシンを含む(図5A)。興味深いことに、クラスII HDAC4、7、および9もまたこの位置にロイシンを含む。
【0280】
-5位のロイシンの重要性を評価するため、実際のリン酸化部位はそのままにして、HDAC5のロイシン254および493を変異させた。このHDAC5変異体(L254/493G)は構成的に核に局在し、PMAに対して完全に抵抗性であった(図5B)。HDAC5核外輸送へのPKDの関与に関するさらなる支持がトランスフェクションアッセイによって提供され、このアッセイにおいて、活性化型PKD(PKD S/E)はHDAC5の核外輸送を効率的に促進したが、触媒能のない変異体(PKD K/W)は核外輸送を促進しなかった(図5C)。HDAC5のシグナル応答性セリン残基または254位および493位のロイシンの変異により、PKDに応答した核外輸送が消失した(図5C)。
【0281】
HDAC5核外輸送キナーゼとしてのPKDの潜在的役割をさらに調べるため、免疫共沈殿アッセイおよびインビトロキナーゼアッセイを行った。HDAC5およびPKDの免疫共沈殿およびその後のインビトロキナーゼアッセイにより、PKDがHDAC5を直接リン酸化することが確認された。図5Dに示すように、PKDの同時トランスフェクションによってHDAC5のリン酸化はほとんど起こらなかった。細胞をPMAで処理することにより、PKD結合と同時にHDAC5リン酸化の程度が増加した。活性化PKD S/EによるHDAC5の結合およびリン酸化はPMAを必要としなかったが、おそらく免疫複合体における内因性PKDの存在に起因して、PMA処理によりHDAC5のリン酸化が増強された。触媒能のない変異体PKD K/Wでは、HDAC5のリン酸化は認められなかった。しかし興味深いことに、PKD K/WはPMAの非存在下でさえもHDAC5に結合した。
【0282】
PKDはまた、HDAC5をGAL4 DNA結合ドメインに融合し、14-3-3をVP16転写活性化ドメインに融合した哺乳動物ツーハイブリッドアッセイによって評価されるHDAC5と14-3-3との相互作用を増加させた(図5E)。HDAC5のいずれか一方のシグナル応答性セリンの変異によってHDAC5と14-3-3との相互作用は顕著に減少し、両方のシグナル応答性セリンの変異によりHDAC5の14-3-3に対する結合は完全に消失した。
【0283】
PKDは心臓のHDAC5キナーゼである。
次に、PKDが心筋細胞においてHDACキナーゼとして作用し得るかどうかを調べた。Flag-HDAC5をコードするアデノウイルスを細胞に感染させ、この細胞をPMAで処理した。PMA処理した細胞から免疫沈降させたFLAG-HDAC5を用いて行ったインビトロキナーゼアッセイにおいて、HDAC5リン酸化の増加が認められた(図6A)。PMAを添加する前に細胞をBis Iと共にインキュベートすることにより、HDAC5のリン酸化は阻止された。しかし、Bis Iをキナーゼ反応液に直接添加した場合には効果はなかったのに対して、Go6976はHDAC5のリン酸化を阻止した。これらの結果から、PKDは心筋細胞においてHDAC5と結合し得ること、およびBis IはこのキナーゼのPMA誘導性活性化を阻止するが、Go6976はHDAC5のPKDとの結合を直接阻害し得ることが示唆される。
【0284】
心筋細胞においてPKDがHDAC5と相互作用する能力を、順次的な免疫沈降および免疫ブロッティングによりさらに検討した。MRVMにGFP-HDAC5コードアデノウイルスを感染させ、Bis Iの非存在下または存在下においてPEで処理した。図6Aに示すように、内因性PKDはHDAC5と共に効率的に免疫沈降された。PKDは作用薬の非存在下においてHDAC5と会合し、PE処理を受けてPKC依存的様式で活性化された。結果から、PKDが心臓のクラスII HDACキナーゼであることがさらに示唆され、図8に提唱するモデルが支持される。
【0285】
本明細書において開示および主張する組成物および方法はすべて、本開示の観点から過度の実験を行うことなく作製および実行することができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して記載したが、本発明の概念、精神、および範囲から逸脱することなく、本明細書に記載した組成物および方法、ならびに方法の段階または方法の段階の順序に変更がなされ得ることは、当業者に明白であろう。より具体的には、化学的および生理学的に関連した特定の物質を本明細書に記載した物質に置き換え得り、同じまたは類似した結果が得られることは明白であろう。当業者にとって明白であるそのような類似の置換物および修飾物はすべて、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の精神、範囲、および概念の範囲内であると見なされる。
【0286】
XII. 参考文献
以下の参考文献は、例示的な手順の補足または他の詳細な補足を本明細書に記載したものに提供する範囲内において、参照により本明細書に明確に組み入れられる。












【図面の簡単な説明】
【0287】
以下の図面は本明細書の一部を形成し、本発明の特定の局面をさらに示すために含める。本明細書に示す特定の態様の詳細な説明と組み合わせてこれらの図面の1つまたは複数を参照することにより、本発明をより良く理解することができる。
【図1】図1A〜1D。HDAC5のPKC依存的核外輸送。図1A。材料および方法に記載した通りに、COS細胞を6ウェルディッシュにプレーティングし、GFP-HDAC5発現ベクター(1μg)をトランスフェクションし、表示の化合物で刺激した。化合物を添加してから60分後、蛍光顕微鏡によりGFP-HDAC5の分布を決定した。イオノマイシンが部分的な応答を誘発したのに対して、PMA刺激ではGFP-HDAC5は核から細胞質に完全に再局在化した。図1B。FLAGタグ化型のHDAC5またはセリン259および498の代わりにアラニンを有するHDAC5変異体(HDAC5 S259/498A)をコードする発現ベクター(それぞれ1μg)をCOS細胞にトランスフェクションした。細胞をPMAで60分間刺激し、抗FLAG一次抗体およびフルオレセイン結合二次抗体を用いた間接的免疫蛍光法によりHDAC5の分布を決定した。HDAC5 S259/498AはPMA刺激に対して反応しなかった。図1C。COS細胞にGFPHDAC5コード発現ベクター(1μg)をトランスフェクションし、PMAで表示の時間刺激した。図1D。FLAGタグ化型のHDAC5またはHDAC5 S259/498Aをコードする発現ベクター(それぞれ1μg)をCOS細胞に一過性にトランスフェクションした。図のように、細胞をPKC阻害剤ビスインドリルマレイミド(Bis I;10μM)で30分間前処理し、PMAで30分間刺激した。FLAG-HDAC5と内因性14-3-3との会合を、順次的な免疫沈降および免疫ブロッティングにより検出した。
【図2】図2A〜2D。PKC阻害剤は心筋細胞においてHDAC5のPE媒介性核外輸送を阻止する。図2A。HDAC5核外輸送の定量アッセイの略図。NRVMを96ウェルディッシュで培養し、GFP-HDAC5をコードするアデノウイルスを感染させる。細胞を血清飢餓にし、作用薬および阻害剤に供し、固定してヘキスト色素で染色する。ヘキスト蛍光に基づいて境界を画定し、これらの核の寸法に基づいて細胞質環を規定するCellomics High Content Imaging Systemを用いて、核および細胞質中のGFP-HDAC5の相対存在量を定量する。値は、核と細胞質の蛍光強度の差の平均を表す。図2B。アッセイの確証。MRVMにGFP-HDAC5をコードするアデノウイルスを感染させ、0.1〜20μMの濃度のPEに曝露した。刺激してから2時間後、細胞をCellomics解析のために調製した。8ウェル/条件の少なくとも50細胞/ウェルについて(全部で400細胞)、核と細胞質の蛍光強度の差の平均値を決定した。未処理の細胞の値を100%として設定した。PEはHDAC5の用量依存的核外輸送を誘発した。図2C。NRVMにアデノウイルスGFP-HDAC5を感染させ、キナーゼ阻害剤で前処理した(阻害剤の濃度は材料および方法に記載する)。PE(20μM)で2時間処理した後、HDAC5の細胞内分布を定量した。8ウェル/条件の少なくとも50細胞/ウェルについて(全部で400細胞)、核と細胞質の蛍光強度の差の平均値を決定した。値が高いほど、核内のHDAC5の存在量が多いことを示す。ウェル間の標準偏差を示す。スタウロスポリンおよびPKC阻害剤Bis Iのみが、HDAC5核外輸送の阻止において有効であった。典型的な画像を図2Dに示す。
【図3】図3A〜3C。シグナル耐性HDAC5によるPKC媒介性心肥大の抑制。NRVMを6ウェルディッシュで培養し、LacZ対照(Ad-LacZ)または14-3-3媒介性核外輸送に必要なセリン259および498の代わりにアラニンを有するFLAGタグ化HDAC5(Ad-HDAC S/A)をコードするアデノウイルス(MOI=10)を感染させた。細胞をPE(20μM)またはPMA(100 nM)で24時間処理し、その後解析した。図3A。細胞を固定し、α-アクチニンに特異的な一次抗体およびフルオレセイン結合二次抗体を用いた間接的免疫蛍光法によりサルコメアを可視化した。図3B。抗ANF一次抗体を用いた間接的免疫蛍光法により、ANFタンパク質を検出した。図3C。細胞から全RNAを回収し、表示の転写産物に特異的な放射標識オリゴヌクレオチドを用いたドットブロット解析に供した。ホスホイメージャーを用いてRNAレベルを定量化し、Ad-LacZを感染させた非刺激細胞における量に対して〜倍変化として表示した。値はGAPDH対照に対して標準化した。
【図4】図4A〜4F。HDAC5の作用薬媒介性核外輸送におけるPKCの必要性の相違。図4A。NRVMを96ウェルディッシュで培養し、上記の通りにアデノウイルスGFP-HDAC5を感染させた。細胞を4時間血清飢餓にし、その後PE(20μM)、ET-1(50 nM)、またはFBS(10%)で2時間刺激した。図4B。図4Aに記載した通りに細胞を調製した。血清飢餓後、感染させたNRVMをBis I(10μM)で30分間前処理し、表示の作用薬で2時間刺激した。上記の通り、Cellomics Imaging Systemを使用し、HDAC5の核外輸送を定量化した。値が高いほど、核内のHDAC5の存在量が多いことを示す。図4C。細胞に作用薬を添加する前にGo6983(10μM)を添加すること以外は、図4Bに記載した通りに実験を行った。図4D。細胞に作用薬を添加する前にGo6976を添加すること以外は、図4Bに記載した通りに実験を行った。図4E。デジタルカメラを備えた蛍光顕微鏡を用いて、各処理群の典型的な画像を記録した。図4F。NRVMにGFP-HDAC5をコードするアデノウイルスを感染させ、10-cmディッシュで培養した。感染から24時間後、細胞を4時間血清飢餓にし、Bis I(10μM)またはGo6976(10μM)で1時間前処理し、その後PE(20μM)またはET-1(50 nM)で1時間刺激した。全細胞タンパク質溶解液を調製し、表示の通り、順次的な免疫沈降および免疫ブロッティングに供した。
【図5】図5A〜5E。プロテインキナーゼDはHDAC5キナーゼである。図5A。クラスII HDACの調節リン酸化部位の周囲のアミノ酸配列。NLS:各局在化シグナル;HDACドメイン:デアセチラーゼ触媒ドメイン。PKDの共通標的部位を示す。リン酸化部位の-5位のロイシンは、他のタンパク質の最適なPKDリン酸化に必要である。図5B。ロイシン254および493の代わりにグリシンを有するHDAC5(L254/493G)に融合させたGFPをコードする発現ベクターをCOS細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションの24時間後、細胞を未処理のままにしておくか(対照)、またはPMAで30分間刺激した。図5C。GFP-HDAC5またはGFPHDAC5 S/Aをコードする発現ベクター(1μg)と構成的活性型(S/E)または触媒不活性型(K/W)のPKDをコードする発現ベクター(1μg)を、COS細胞に同時トランスフェクションした。トランスフェクションしてから24時間後に、HDAC5の局在性を決定した。図5D。FLAGHDAC5をコードする発現ベクター(1μg)とHAタグ化型の野生型、構成的活性型(S/E)、または触媒不活性型(K/W)PKDをコードする発現ベクター(1μg)を、COS細胞に同時トランスフェクションした。トランスフェクションしてから24時間後、細胞をPMAまたは媒体対照で30分間処理した。全細胞タンパク質溶解液からFLAG-HDAC5を免疫沈降させ、表示の通りに、インビトロキナーゼアッセイ(IVK)に取り込むか、または結合したPKDを検出するウェスタンブロット解析のためにSDS-PAGEにより分離した。リン酸化HDAC5はSDS-PAGEにより分離し、オートラジオグラフィーによって検出した。図5E。哺乳動物ツーハイブリッドアッセイ。HDAC5または表示のHDACアラニン置換変異対に融合させたGAL4 DNA結合ドメインをコードする発現ベクター(Gal4-HDAC5)を、VP16転写活性化ドメインに融合させた14-3-3をコードするプラスミド(14-3-3-VP16)、Gal4依存性ルシフェラーゼレポーター、および構成的活性型PKD(S/E)をコードするベクターと共に、COS細胞に同時トランスフェクションした。PKDはHDAC5と14-3-3の会合を促進するが、これは259位および498位のリン酸アクセプターに依存する。
【図6】図6A〜6B。心筋細胞における内因性PKDとHDAC5との会合。図6A。NRVMを10-cmディッシュで培養し、FLAG-HDAC5をコードするアデノウイルスを感染させた。トランスフェクションから24時間後、細胞をPMAで30分間刺激し、全細胞タンパク質溶解液を調製した。いくつかの細胞はBis Iで30分間前処理し(前-Bis I;10μM)、その後PMAで刺激した。FLAG-HDAC5を免疫沈降させ、表示のように、Bis I(後-Bis I;10μM)またはGo6976(後-Go6976;10μM)を添加したインビトロキナーゼ反応液に取り込んだ。細胞をBis Iで前処理した場合(前-Bis I)、HDAC5のリン酸化は阻止された。Go6976はキナーゼ反応混合液に直接添加された場合にHDAC5に対するホスホリル転移を阻止したが、Bis Iはこれを阻止しなかった。図6B。NRVMにGFP-HDAC5をコードするアデノウイルスを感染させ、10-cmディッシュで培養した。感染の24時間後、細胞を4時間血清飢餓にし、Bis I(10μM)で30分間前処理し、その後PE(20μM)で1時間刺激した。全細胞溶解液からHDAC5を免疫沈降させ、全PKDまたはセリン916において自己リン酸化されたPKD(p-916)の結合を免疫ブロッティングにより検出した。ブロットをGFP特異的抗体で再検出し、免疫沈降されたHDAC5の全量を決定した。
【図7】図7A〜7D。活性化PKDの心臓発現は拡張型心筋症をもたらす。図7A。材料および方法に記載した通りに、心臓特異的α-ミオシン重鎖(αMHC)プロモーターの調節下で構成的活性型のPKDを発現するトランスジェニックマウスを作製した。4週齢の時点での、野生型心臓およびaMHC-PKDトランスジェニック心臓のH&E切片を示す。拡張型心筋症を示す、4月齢の時点でのaMHC-PKDトランスフジェニック心臓もまた示す。図7B。4週齢の時点での、野生型マウスおよびaMHC-PKDトランスジェニックマウスの体重に対する心臓重量比。図7C。野生型、aMHC-PKD、およびaMHC-カルシニュリン(CnA)心臓による溶解液のウェスタンブロット解析。全PKDまたは活性化(P-916)PKDタンパク質レベルを測定した。矢印はPKD1に相当するバンドを示す。図7D。4週齢の野生型マウス、CnA、またはPKDトランスジェニックマウスの心臓に由来する全RNAにおいて、胎児性遺伝子マーカーのドットブロット解析を行った。CnAおよびPKDブロットの下の数字は、GAPDHレベルに対して標準化した後の野生型試料に対する増加倍率を表す。
【図8】クラスII HDACの核外輸送および心肥大を制御するキナーゼ依存性シグナル伝達経路のモデル。αアドレナリン作用薬フェニレフリン(PE)またはエンドセリン-1(ET-1)による心筋細胞肥大の刺激は、PKDの活性化を介してHDACのリン酸化および核外輸送を引き起こす。PEによるPKDの活性化は、PKC依存性経路、主にカルシウム依存性新規PKC(nPKC)を介して起こる。しかし、心筋細胞におけるET-1によるPKDの活性化はPKC非依存性のようである。続くPKDによるHDAC5のリン酸化は、14-3-3との会合を介したその核外輸送およびMEF2の活性化および肥大遺伝子プログラムを引き起こす。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図4A】

【図4B】

【図4C】

【図4D】

【図4E】

【図4F】

【図5A】

【図5B】

【図5C】

【図5D】

【図5E】

【図6A】

【図6B】

【図7A】

【図7B】

【図7C】

【図7D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の段階を含む、病的心肥大または心不全を処置する方法:
(a) 心肥大をまたは心不全を有する患者を同定する段階;および
(b) 該患者にプロテインキナーゼD(PKD)阻害剤を投与する段階。
【請求項2】
PKD阻害剤が、リスベラトロール、インドロカルバゾール、Godecke 6976(Go6976)、スタウロスポリン、K252a、[d-Arg(1),d-Trp(5,7,9),Leu(11)]SPを含むサブスタンスP(SP)類似体、PKC阻害剤109203X(GF-1)、PKC阻害剤Ro 31-8220、Go 7874、ゲニステイン、特異的Src阻害剤PP-1およびPP-2、ケレリスリン、ロットレリン、PKD RNAi分子、PKDアンチセンス分子、PKDリボザイム分子、またはPKD結合一本鎖抗体もしくはPKD結合一本鎖抗体をコードする発現構築物からなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
PKD阻害剤の投与が、経静脈内にまたは心臓組織への直接注入により行われる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
投与が、経口投与、経皮投与、徐放性投与、制御放出性投与、遅延放出性投与、坐剤投与、または舌下投与を含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
患者に第二の心肥大治療を投与する段階をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
第二の治療が、β遮断薬、イオノトロープ(ionotrope)、利尿薬、ACE-I、AII拮抗薬、BNP、Ca++遮断薬、またはHDAC阻害剤からなる群より選択される、請求項5記載の方法。
【請求項7】
第二の治療が、PKD阻害剤と同時に投与される、請求項5記載の方法。
【請求項8】
第二の治療が、PKD阻害剤の前または後に投与される、請求項5記載の方法。
【請求項9】
処置が、病的心肥大の1つまたは複数の症状を改善する段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
処置が、心不全の1つまたは複数の症状を改善する段階を含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
1つまたは複数の症状の改善が、運動能力の上昇、心臓駆出量の増加、左心室拡張末期圧の低下、肺毛細管楔入圧の低下、心拍出量および心係数の増加、肺動脈圧の低下、左心室収縮末期径および左心室拡張末期径の減少、左心室および右心室壁応力の減少、壁張力の減少、生活の質の上昇、ならびに疾患関連罹患率または死亡率の減少を含む、請求項9記載の方法。
【請求項12】
以下の段階を含む、病的肥大および心不全を予防する方法:
(a) 病的心肥大または心不全を発症する危険性のある患者を同定する段階;および
(b) 該患者にPKD阻害剤を投与する段階。
【請求項13】
PKD阻害剤が、リスベラトロール、インドロカルバゾール、Godecke 6976(Go6976)、スタウロスポリン、K252a、[d-Arg(1),d-Trp(5,7,9),Leu(11)]SPを含むサブスタンスP(SP)類似体、PKC阻害剤109203X(GF-1)、PKC阻害剤Ro 31-8220、PKC阻害剤GO 7874、ゲニステイン、特異的Src阻害剤PP-1およびPP-2、ケレリスリン、ロットレリン、PKD RNAi分子、PKDアンチセンス分子、PKDリボザイム分子、またはPKD結合一本鎖抗体もしくはPKD結合一本鎖抗体をコードする発現構築物からなる群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
PKD阻害剤の投与が、経静脈内にまたは心臓組織への直接注入により行われる、請求項12記載の方法。
【請求項15】
投与が、経口投与、経皮投与、徐放性投与、制御放出性投与、遅延放出性投与、坐剤投与、または舌下投与を含む、請求項12記載の方法。
【請求項16】
危険性のある患者が、長期にわたる制御不可能な高血圧、未矯正の弁膜症、慢性狭心症、亜急性心筋梗塞、心疾患または病的肥大の先天的傾向を含む一連の危険因子の1つまたは複数を示し得る、請求項12記載の方法。
【請求項17】
危険性のある患者が、心肥大の遺伝的傾向を有すると診断され得る、請求項12記載の方法。
【請求項18】
危険性のある患者が、心肥大の家族歴を有し得る、請求項12記載の方法。
【請求項19】
以下の段階を含む、PKD阻害剤を心肥大または心不全の処置における有効性に関して評価する方法であって、該PKD阻害剤で処理していない細胞における1つまたは複数の心肥大パラメータと比較した場合の1つまたは複数の心肥大パラメータの変化により、PKD阻害剤が心肥大または心不全の阻害剤として同定される方法:
(a) PKD阻害剤を提供する段階;
(b) 該PKD阻害剤で細胞を処理する段階;および
(c) 1つまたは複数の心肥大パラメータの発現を測定する段階。
【請求項20】
細胞が、筋細胞である、請求項19記載の方法。
【請求項21】
細胞が、単離された筋細胞である、請求項19記載の方法。
【請求項22】
筋細胞が、心筋細胞である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
筋細胞が、単離された無傷組織に含まれる、請求項20記載の方法。
【請求項24】
筋細胞が、新生仔ラット心室筋細胞である、請求項20記載の方法。
【請求項25】
細胞が、H9C2細胞である、請求項19記載の方法。
【請求項26】
心筋細胞が、インビボにおいて、機能している無傷の心筋中に存在する、請求項22記載の方法。
【請求項27】
機能している無傷の心筋を1つまたは複数の心肥大パラメータの肥大応答を誘発する刺激に供する、請求項26記載の方法。
【請求項28】
刺激が、大動脈バンディング、急速な心臓ペーシング、心筋梗塞の誘導、または導入遺伝子の発現である、請求項27記載の方法。
【請求項29】
刺激が、化学物質または薬学的薬剤である、請求項27記載の方法。
【請求項30】
化学物質または薬学的薬剤が、アンギオテンシンII、イソプロテレノール、フェニレフリン、エンドセリン-I、血管収縮薬、抗利尿薬を含む、請求項29記載の方法。
【請求項31】
1つまたは複数の心肥大パラメータが、右心室駆出率、左心室駆出率、心室壁厚、心臓重量/体重比、右心室もしくは左心室重量/体重比、または心臓重量の標準化測定値を含む、請求項27記載の方法。
【請求項32】
筋細胞を1つまたは複数の心肥大パラメータの肥大応答を誘発する刺激に供する、請求項20記載の方法。
【請求項33】
刺激が、導入遺伝子の発現である、請求項32記載の方法。
【請求項34】
刺激が、薬剤による処理である、請求項32記載の方法。
【請求項35】
1つまたは複数の心肥大パラメータが、筋細胞おける1つまたは複数の標的遺伝子の発現レベルを含み、該1つまたは複数の標的遺伝子の発現レベルにより心肥大が示される、請求項19記載の方法。
【請求項36】
1つまたは複数の標的遺伝子が、ANF、α-MyHC、β-MyHC、α-骨格アクチン、SERCA、シトクロムオキシダーゼサブユニットVIII、マウスT-複合タンパク質、インスリン増殖因子結合タンパク質、τ-微小管結合タンパク質、ユビキチンカルボキシル末端加水分解酵素、Thy-1細胞表面糖タンパク質、またはMyHCクラスI抗原からなる群より選択される、請求項35記載の方法。
【請求項37】
発現レベルが、標的遺伝子プロモーターに機能的に連結されたレポータータンパク質コード領域を用いて測定される、請求項35記載の方法。
【請求項38】
レポータータンパク質が、ルシフェラーゼ、β-gal、または緑色蛍光タンパク質である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
発現レベルが、標的mRNAに対する核酸プローブのハイブリダイゼーションまたは増幅された核酸産物により測定される、請求項35記載の方法。
【請求項40】
1つまたは複数の心肥大パラメータが、細胞形態の1つまたは複数の局面を含む、請求項19記載の方法。
【請求項41】
細胞形態の1つまたは複数の局面が、サルコメアの構築、細胞の大きさ、または細胞収縮性を含む、請求項40記載の方法。
【請求項42】
1つまたは複数の心肥大パラメータが、総タンパク質合成を含む、請求項19記載の方法。
【請求項43】
細胞毒性を測定する段階をさらに含む、請求項19記載の方法。
【請求項44】
細胞が、1つまたは複数のリン酸化部位を欠く変異体クラスII HDACタンパク質を発現する、請求項19記載の方法。
【請求項45】
測定する段階が、心房性ナトリウム利尿因子遺伝子、β-ミオシン重鎖遺伝子、心臓アクチン遺伝子、およびα-骨格アクチン遺伝子からなる群より選択される遺伝子の活性または発現を測定する段階を含む、請求項19記載の方法。
【請求項46】
測定する段階が、クラスII HDACのリン酸化を測定する段階を含む、請求項19記載の方法。
【請求項47】
測定する段階が、クラスII HDACの核外輸送を測定する段階を含む、請求項19記載の方法。
【請求項48】
測定する段階が、クラスII HDACとMef-2の会合を測定する段階を含む、請求項19記載の方法。
【請求項49】
測定する段階が、クラスII HDACとMef-2の会合の増強を測定する段階をさらに含む、請求項48記載の方法。
【請求項50】
増強が、Mef-2依存性転写の増加によって測定される、請求項49記載の方法。
【請求項51】
処理が、インビトロで行われる、請求項19記載の方法。
【請求項52】
処理が、インビボで行われる、請求項19記載の方法。
【請求項53】
細胞が、トランスジェニック非ヒト哺乳動物の一部である、請求項19記載の方法。
【請求項54】
以下の段階を含む、心肥大または心不全の阻害剤を同定する方法であって、PKDのキナーゼ活性の減少により、候補阻害剤物質が心肥大または心不全の阻害剤として同定される方法:
(a) PKDを提供する段階;
(b) PKDを候補阻害剤物質と接触させる段階;および
(c) PKDのキナーゼ活性を測定する段階。
【請求項55】
PKDが、全細胞から精製される、請求項54記載の方法。
【請求項56】
細胞が、心臓細胞である、請求項55記載の方法。
【請求項57】
PKDが、無傷の細胞中に存在する、請求項54記載の方法。
【請求項58】
無傷の細胞が、筋細胞である、請求項57記載の方法。
【請求項59】
筋細胞が、心筋細胞である、請求項58記載の方法。
【請求項60】
キナーゼ活性の減少が、HDACのリン酸化の減少として測定される、請求項54記載の方法。
【請求項61】
HDACが、クラスII HDACである、請求項60記載の方法。
【請求項62】
候補阻害剤物質が、干渉RNAである、請求項54記載の方法。
【請求項63】
候補阻害剤物質が、抗体調製物である、請求項54記載の方法。
【請求項64】
抗体調製物が、一本鎖抗体を含む、請求項63記載の方法。
【請求項65】
候補阻害剤物質が、アンチセンス構築物である、請求項54記載の方法。
【請求項66】
阻害剤が、酵素、化学物質、調合薬、または小分子である、請求項54記載の方法。
【請求項67】
PKD阻害剤が、リスベラトロール、インドロカルバゾール、Godecke 6976(Go6976)、スタウロスポリン、K252a、[d-Arg(1),d-Trp(5,7,9),Leu(11)]SPを含むサブスタンスP(SP)類似体、PKC阻害剤109203X(GF-1)、PKC阻害剤Ro 31-8220、GO 7874、ゲニステイン、特異的Src阻害剤PP-1およびPP-2、ケレリスリン、ロットレリンからなる群より選択される、請求項54記載の方法。
【請求項68】
阻害剤が、PKDのクラスII HDAC5に対する結合を阻止する、請求項54記載の方法。
【請求項69】
結合の阻止が、免疫共沈降によって測定される、請求項68記載の方法。
【請求項70】
阻害剤が、クラスII HDAC5のPKDリン酸化を阻止する、請求項54記載の方法。
【請求項71】
阻害剤が、HDACとMef-2または他のクラスII HDAC制御性転写因子の会合を増強する、請求項54記載の方法。
【請求項72】
トランスジェニック非ヒト哺乳動物の細胞が、真核細胞において機能するプロモーターの調節下に異種PKD遺伝子を含む、トランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項73】
動物が、マウスである、請求項72記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項74】
異種PKD遺伝子が、ヒト遺伝子である、請求項72記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項75】
プロモーターが、組織特異的プロモーターである、請求項72記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項76】
組織特異的プロモーターが、筋特異的プロモーターである、請求項75記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項77】
組織特異的プロモーターが、心筋特異的プロモーターである、請求項75記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項78】
筋特異的プロモーターが、ミオシン軽鎖-2プロモーター、αアクチンプロモーター、トロポニン1プロモーター、NA+/Ca2+交換体プロモーター、ジストロフィンプロモーター、クレアチンキナーゼプロモーター、α7インテグリンプロモーター、脳性ナトリウム利尿ペプチドプロモーター、ミオシン重鎖プロモーター、ANFプロモーター、およびαB-クリスタリン/低分子量熱ショックタンパク質プロモーターからなる群より選択される、請求項75記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項79】
キナーゼが、構成的に活性を有する、請求項72記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項80】
キナーゼが、ドミナントネガティブである、請求項72記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項81】
トランスジェニック非ヒト哺乳動物の細胞が、非ヒト哺乳動物の細胞において機能する異種プロモーターの調節下にPKD遺伝子を含む、トランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項82】
動物が、マウスである、請求項81記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項83】
PKD遺伝子が、ヒト遺伝子である、請求項81記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項84】
プロモーターが、真核細胞において活性を有する、請求項83記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項85】
プロモーターが、組織特異的プロモーターである、請求項84記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項86】
組織特異的プロモーターが、筋特異的プロモーターである、請求項85記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項87】
組織特異的プロモーターが、心筋特異的プロモーターである、請求項85記載のトランスジェニック哺乳動物。
【請求項88】
トランスジェニック非ヒト哺乳動物の細胞が、固有のPKD対立遺伝子の一方または両方を欠く、トランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項89】
1つまたは複数の遺伝子が、相同的組み換えによりノックアウトされた、請求項88記載の哺乳動物。
【請求項90】
被検者の心臓細胞中のPKD活性を低下させる段階を含む、心筋梗塞を処置する方法。
【請求項91】
被検者の心臓細胞中のPKD活性を低下させる段階を含む、心肥大および拡張型心筋症を予防する方法。
【請求項92】
被検者の心臓細胞中のPKD活性を低下させる段階を含む、心肥大の進行を抑制する方法。
【請求項93】
被検者の心臓細胞中のPKD活性を低下させる段階を含む、心不全を処置する方法。
【請求項94】
被検者の心臓細胞中のPKD活性を低下させる段階を含む、心不全の進行を抑制する方法。
【請求項95】
被検者の心臓細胞中のPKD活性を低下させる段階を含む、心不全または心肥大を有する被検者の運動耐容能を増大させる方法。
【請求項96】
被検者の心臓細胞中のPKD活性を低下させる段階を含む、心不全または心肥大を有する被検者の入院を低減させる方法。
【請求項97】
被検者の心臓細胞中のPKD活性を低下させる段階を含む、心不全または心肥大を有する被検者の生活の質を改善する方法。
【請求項98】
被検者の心臓細胞中のPKD活性を低下させる段階を含む、心不全または心肥大を有する被検者の罹患率を減少させる方法。
【請求項99】
被検者の心臓細胞中のPKD活性を低下させる段階を含む、心不全または心肥大を有する被検者の死亡率を減少させる方法。

【図8】
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【公表番号】特表2007−505158(P2007−505158A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−533221(P2006−533221)
【出願日】平成16年5月19日(2004.5.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/015715
【国際公開番号】WO2004/112763
【国際公開日】平成16年12月29日(2004.12.29)
【出願人】(505090687)ボード オブ リージェンツ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム (3)
【出願人】(505430780)ミオゲン インコーポレイティッド (4)
【Fターム(参考)】