説明

心肺手術の合併症の予防としてのトロンビンレセプターアンタゴニスト

トロンビンレセプターアンタゴニスト化合物の使用により、心肺バイパス手術に関する合併症を予防する、抑制する、または改善する方法を本明細書中で開示する。上記トロンビンレセプターアンタゴニスト化合物の中でも、本明細書に記載の式(I)、式(II)および式(III)の化合物がこれらの方法において有用である。このようなトロンビンレセプターアンタゴニストの例としては、以下の式(I)、式(II)および式(III)が挙げられる。


【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
(発明の背景)
心肺バイパス手術(「CPB」)は、米国で年間約709,000回行われており、最も一般的に行われる重要な大手術のうちの1つになっている。CPBを利用した手術としては、冠動脈バイパス移植手術(「CABG」)、心臓弁修復手術および心臓弁置換手術、心膜修復手術および大動脈修復手術が挙げられる。CPB手術を含む任意の手法は、循環する血液とバイパス装置の表面との接触に主として関連する、一連の一般的なリスクを含み得る。このような接触は、血塊の組織化(formulation)を引き起こし得、患者に対して深刻な脳卒中の脅威を引き起こし得る。CABG手術は、患者に対しさらなるリスクを引き起こし得る。
【0002】
CABG手術は、心臓動脈の重大な狭窄および閉塞(冠動脈疾患)を有する選ばれたグループの患者に勧められる。CABG手術は、新しいルートを狭窄および閉塞された動脈の周りに作り、十分な血流によって酸素および栄養分を心筋まで運ばせる。
【0003】
冠動脈疾患は、アテローム性動脈硬化症の斑(動脈の硬化)が、心臓に供給する動脈の壁内に蓄積すると起こる。この斑は、主としてコレステロールから作られる。アテローム性動脈硬化プロセスは、1つ以上の冠動脈の重大な狭窄を引き起こす。冠動脈が50%〜70%より多く狭まると、上記斑を越えての血液供給は、運動中に増加した酸素の需要に見合うのに不十分となる。これらの動脈の区域内の心筋は、酸素不足状態(虚血症)になる。患者は、血中酸素の供給が需要に追い付けない場合に、しばしば胸の痛み(アンギナ)を経験する。25%までの患者は、十分な血液および酸素供給の欠陥が証明されたにもかかわらず、胸の痛みをまったく経験しない。これらの患者は「静的な」アンギナを有し、アンギナを有する人と同様の心臓発作のリスクを有する。
【0004】
血餅(血栓)が上記斑の頂点に形成するとき、動脈は完全に閉塞状態になり、心臓発作を引き起こす。動脈が90〜99%を越えて狭窄するとき、患者はしばしば加速的なアンギナまたは静止したアンギナ(不安定なアンギナ)を有する。不安定なアンギナはまた、血栓による動脈の間欠性閉塞により起こり得、その血栓はその体自身の保護的血餅溶解システムによって溶解される。
【0005】
CABG手術は、内科療法がうまくいかない患者およびバルーン式血管形成術のよい候補者ではない患者のアンギナを和らげるために行われる。CABG手術は、糖尿病患者にしばしば見られるような、複数の冠動脈枝に複数の狭窄を有する患者に理想である。CABG手術は、左主冠動脈に重大な狭窄を有する患者、および3つの大動脈すべてに重大な狭窄を有する患者、特に心筋のポンプ機能が低下した患者の長期生存に改善を示している。CABG手術は、2つの大動脈(その1つが左下行前動脈の始まりの部分を含む)に重大な狭窄を有する患者の長期生存を改善し得る。
【0006】
しかしながら、5〜10%の静脈移植片は、血が凝固するため、CABG手術の後の最初の2週間以内に閉塞状態になる。移植片の挿入部位を越える細い動脈がゆるい血液の流出を起こすため、血餅はたいてい移植片内に形成する。他の10%の静脈移植片は、CABG手術の後の2週間から1年の間に閉塞する。血液を薄くするためのアスピリンの使用は、これらの後の閉塞を50%減らすことが示されている。細胞が内層に付着し、繁殖するため、移植片は最初の5年の後に狭くなり、瘢痕組織の形成(内膜線維症)および実際のアテローム性動脈硬化症を引き起こす。10年後には、3分の2の静脈移植片のみが開通しており、そしてこれらの半分が少なくとも中程度の狭窄を有する。
【0007】
従来のCPB手術は、全身性炎症反応を誘発する。CPBの間、血小板は非内皮表面にさらされ、それにより活性化、凝集、および血小板の喪失を引き起こす。このことは、術中即時の時間および術後即時の時間での出血およびその関連の続発症の発生数の増加の一因となる。このことは、血小板、赤血球、寒冷沈降物および/または新鮮凍結血漿の輸血の必要性の増加、ならびに外科的再診査の必要性を含む。この手法の間の出血は必然的であり、そして血小板の活性化(およびそれによる喪失)は、外的循環およびポンプの使用により著しく悪化する。出血のリスクは、クロピドグレルの使用によりさらに増加され、多くの外科医がCABGを5〜7日延期して、前述のクロピドグレルを洗い出させる(US surgical guidelinesおよびUS labelによる)。
【0008】
CABG後の同種の輸血は、投与量に関する様式において、ウィルス性感染および細菌性感染へのリスクの増加、抑制期間の増長、抗菌使用、および輸血関連の免疫調節による死亡に関連付けられる(非特許文献1、2)。CABG後の輸血のリスク素因としては、年をとること、低い術前の赤血球体積、術前のアスピリン療法、手術の優先度、CPBの持続時間、最近のフィブリン溶解性療法、再手術のCABG、およびヘパリン管理の違いが挙げられる(非特許文献3)。アプロチニン、抗フィブリン溶解活性を有するセリンプロテアーゼインヒビターは、高いリスク、最初にCABGを経験した患者、アスピリンを服用の患者、および特に再バイパス手術を経験した母集団における、術後の血液喪失および輸血の必要性(患者単位および患者数の両方)を著しく減少する(非特許文献4、5)。
【0009】
CPBの患者、および特に急性冠動脈症候群(acute coronary syndrome)であるCABGの患者は、しばしば新しく、より効力のある抗血栓性療法および抗血小板療法にて治療され、これらの療法はCABG関連の合併症の高いリスクを与え得る。いくつかの研究は、ヘパリン(非特許文献6)、アブシキシマブ(非特許文献7)、およびクロピドグレル(非特許文献8)の低分子量の治療を受けた患者に対し、術後出血のより高いリスクを記載している。
【0010】
トロンビンは、異なる細胞タイプに対してさまざまな活性を有することで公知であり、そしてトロンビンレセプターは、例えばヒト血小板、血管平滑筋細胞、内皮細胞、および線維芽細胞のような細胞タイプに存在することで公知である。
【0011】
トロンビンレセプターアンタゴニストは、構造−活性研究に基づき同定されており、トロンビンレセプター上でのアミノ酸の置換を含む。非特許文献9に、テトラペプチドおよびペンタペプチドが、効力のあるトロンビンレセプターアンタゴニストとして開示され、例えばN−トランス−シンナモイル−p−フルオロPhe−p−グアニジノPhe−Leu−Arg−NHおよびN−トランス−シンナモイル−p−フルオロPhe−p−グアニジノPhe−Leu−Arg−Arg−NHが開示される。ペプチドトロンビンレセプターアンタゴニストはまた、特許文献1(1994年2月17日公開)に開示される。
【0012】
トロンビンレセプターアンタゴニストは、文献において、さまざまな心臓血管疾患または心臓血管状態を治療するのに潜在的に有用であると提案されており、例えば血栓症、血管再狭窄、深部静脈血栓症、肺塞栓症、脳梗塞、心臓疾患、播種性血管内凝固症候群、高血圧症(Suzuki,Shuichi、特許文献2(2002)、3(2002)および4(2002))、不整脈、炎症、アンギナ、脳卒中、アテローム性動脈硬化症、虚血状態(Zhang,Han−cheng、特許文献5(2001)、6(2001)および7(2001))が挙げられる。
【0013】
置換されたトロンビンレセプターアンタゴニストは、特許文献8、9、10、11、12、13および14に開示される。さまざまな状態および疾患の治療のためのトロンビンレセプターアンタゴニストの小さいサブセットの使用が、特許文献15に開示される。特定のトロンビンレセプターアンタゴニストの重硫酸塩は、特許文献16に開示される。
【特許文献1】国際公開第94/03479号パンフレット
【特許文献2】国際公開第0288092号パンフレット
【特許文献3】国際公開第0285850号パンフレット
【特許文献4】国際公開第0285855号パンフレット
【特許文献5】国際公開第0100659号パンフレット
【特許文献6】国際公開第0100657号パンフレット
【特許文献7】国際公開第0100656号パンフレット
【特許文献8】米国特許第6,063,847号明細書
【特許文献9】米国特許第6,326,380号明細書
【特許文献10】米国特許第6,645,987号明細書
【特許文献11】米国特許出願公開第03/0203927号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第04/0216437号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第04/0152736号明細書
【特許文献14】米国特許出願公開第03/0216437号明細書
【特許文献15】米国特許出願公開第04/0192753号明細書
【特許文献16】米国特許出願公開第2004/0176418号明細書
【非特許文献1】Murphy,P.J.,Connery,C.,Hicks,G.L.,Blumberg,N.,Homologous blood transfusion as a risk factor for postoperative infection after coronary artery bypass graft operations.J.Thorac.Cardiovasc.Surg.,1992;104:1092−9.
【非特許文献2】van de Watering,L.M.,Hermans,J.,Houbiers,J.G.,et al.,Beneficial effects of leukocyte depletion of transfused blood on postoperative complications in patients undergoing cardiac surgery:a randomized clinical trial.Circulation,1998;97:562−8.
【非特許文献3】Eagle,Kim A.,Guyton,Robert A.,et al.,American College of Cardiology Foundation and the American Heart Association,Inc.,2004 Guideline Update for Coronary Artery Bypass Graft Surgery.
【非特許文献4】Harder,M.P.,Eijsman,L.,Roozendaal,K.J.,van Oeveren,W.,Wildevuur,C.R.,Aprotinin reduces intraoperative and postoperative blood loss in membrane oxygenator cardiopulmonary bypass.Ann.Thorac.Surg.,1991;51:936−41.
【非特許文献5】Cosgrove,D.M.,Heric,B.,Lytle,B.W.,et al.,Aprotinin therapy for reoperative myocardial revascularization:a placebo−controlled study.Ann.Thorac.Surg.,1992;54:1031−6.
【非特許文献6】Clark,S.C.,Vitale,N.,Zacharias,J.,Forty,J.,Effect of low molecular weight heparin(fragmin) on bleeding after cardiac surgery.,Ann.Thorac.Surg.2000;69:762−4.
【非特許文献7】Lincoff,A.M.,LeNarz,L.A.,Despotis,G.J.,et al.,Abciximab and bleeding during coronary surgery:results from the EPILOG and EPISTENT trials.Improve Long−term Outcome with abciximab GP IIb/IIIa blockade. Evaluation of Platelet IIb/IIIa Inhibition in STENTing.Ann.Thorac.Surg.2000;70:516−26.
【非特許文献8】Yusuf,S.,Zhao,F.,Mehta,S.R.,Chrolavicius,S.,Tognoni,G.,Fox,K.K.,for the Clopidogrel in Unstable Angina to Prevent Recurrent Events Trial Investigators. Effects of clopidogrel in addition to aspirin in patients with acute coronary syndromes without ST segment elevation.N.Engl.J.Med.,2001;345:494−502.
【非特許文献9】Bernatowicz et al,J.Med.Chem.,vol.39,pp.4879−4887(1996).
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
(発明の趣旨)
本発明は、心肺バイパス手術に関する状態を予防する、抑制する、または改善する方法に関し、有効量の少なくとも1つのトロンビンレセプターアンタゴニスト化合物を上記手術の被験体に投与する工程を含む。
【0015】
ある実施形態において、上記状態は以下からなる群から少なくとも1つ選択され、その群は、出血;血栓症、再狭窄のような血管の血栓発生;静脈移植不全;動脈移植不全;アテローム性動脈硬化症、狭心症;心筋虚血;急性冠動脈症候群、心筋梗塞;心不全;不整脈;高血圧症;一過性脳虚血発作;脳機能障害;血栓塞栓性脳卒中;脳虚血;脳梗塞;血栓静脈炎;深部静脈血栓;および末梢血管疾患からなる群である。
【0016】
ある実施形態において、上記トロンビンレセプターアンタゴニスト化合物は、後述に記載の式Iか式IIかどちらかの化合物である。ある実施形態において、上記トロンビンレセプターアンタゴニストはE−5555である。ある実施形態において、上記トロンビンレセプターアンタゴニストは以下:
【0017】
【化9】

【0018】
【化10】

【0019】
【化11】

からなる化合物の群、またはそれらの薬学的に受容可能な異性体、塩、溶媒和物もしくは共結晶形(co−crystal form)のうちから少なくとも1つ選択される。
【0020】
ある実施形態において、上記トロンビンレセプターアンタゴニスト化合物は、以下:
【0021】
【化12】

からなる化合物の群、またはそれらの薬学的に受容可能な異性体、塩、溶媒和物もしくは共結晶形のうちから少なくとも1つ選択される。
【0022】
ある実施形態において、上記方法はさらに少なくとも1つの心臓血管作用薬を投与する工程を含み、この心臓血管作用薬は、トロンボキサンA2生合成インヒビター;トロンボキサンアンタゴニスト;アデノシン二リン酸インヒビター;シクロオキシゲナーゼインヒビター;アンギオテンシンアンタゴニスト;エンドセリンアンタゴニスト;ホスホジエステラーゼインヒビター;アンギオテンシン変換酵素インヒビター;中性エンドぺプチダーゼインヒビター;抗血液凝固薬;利尿薬;血小板凝集インヒビター;およびGP IIb/IIIaアンタゴニストからなる群より選択される。
【0023】
ある実施形態において、上記方法はさらに少なくとも2つの上記心臓血管作用薬を投与する工程を含む。
【0024】
ある実施形態において、上記方法はさらに少なくとも1つの心臓血管作用薬を含み、この心臓血管作用薬は、アスピリン、セラトロダスト、ピコタミド、およびラマトロバン、クロピドグレル、メロキシカム、ロフェコキシブ、セレコキシブ(celecoxib)、バルサルタン、テルミサルタン、カンデサルタン(candesartran)、イルベサルタン(irbesartran)、ロサルタン、エプロサルタン(eprosartan)、テゾセンタン(tezosentan)、ミルリノン、エノキシモン(enoximone)、カプトプリル、エナラプリル、エナリプリラット(enaliprilat)、スピラプリル(spirapril)、キナプリル、ペリンドプリル(perindopril)、ラミプリル(ramipril)、フォシノプリル(fosinopril)、トランドラプリル、リシノプリル、モエキシプリル(moexipril)、ベナザプリル(benazapril)、カンドキサトリル(candoxatril)、エカドトリル(ecadotril)、キシメラガトラン(ximelagatran)、フォンダパリン(fondaparin)、エノキサパリン、クロロチアジド、ヒドロクロロチアジド、エタクリン酸、フロセミド、アミロライド、アブシキシマブ、エプティフィバチド(eptifibatide)、プラスグレル(prasugrel)およびフラグミンからなる群より選択される。
【0025】
ある実施形態において、上記方法は、少なくとも2つの上記心臓血管作用薬を投与する工程をさらに含む。
【0026】
ある実施形態において、上記トロンビンレセプターアンタゴニスト化合物は、
【0027】
【化13】

または、その薬学的に受容可能な異性体、塩、溶媒和物もしくは共結晶形である。
【0028】
ある実施形態において、上記トロンビンレセプターアンタゴニスト化合物は、
【0029】
【化14】

または、その薬学的に受容可能な異性体、塩、溶媒和物もしくは共結晶形である。
【0030】
ある実施形態において、上記トロンビンレセプターアンタゴニスト化合物は、
【0031】
【化15】

または、その薬学的に受容可能な異性体、塩、溶媒和物もしくは共結晶形である。
【0032】
ある実施形態において、上記トロンビンレセプターアンタゴニスト化合物は、投薬計画に従い投与され、その投薬計画は約0.5〜約10mgの維持用量の投与を含む。ある実施形態において、上記投薬計画はさらに、第1の維持用量の投与より前の、約10〜約50mgの負荷用量の投与を含む。
【0033】
ある実施形態において、上記方法は、冠動脈バイパス移植手術に関する状態を予防する工程を含み、上記方法は、式
【0034】
【化16】

の化合物の有効量を上記手術の被験体に投与する工程を含み、ここで、上記状態は出血;血栓症、再狭窄のような血管の血栓発生;静脈移植不全;動脈移植不全;アテローム性動脈硬化症、狭心症;心筋虚血;急性冠動脈症候群、心筋梗塞;心不全;不整脈;高血圧症;一過性脳虚血発作;脳機能障害;血栓塞栓性脳卒中;脳虚血;脳梗塞;血栓静脈炎;深部静脈血栓;および末梢血管疾患のうちの少なくとも1つである。ある実施形態において、このトロンビンレセプターアンタゴニストは、約0.5〜約10mgの維持用量を投与する工程を含む、投薬計画に従い投与される。ある実施形態において、上記投薬計画は、維持用量の投与より前に、約10〜約50mgの負荷用量を投与する工程をさらに含む。ある実施形態において、上記方法は、アスピリン、クロピドグレル、プラスグレルおよびフラグミンのうち少なくとも1つを投与する工程をさらに含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
(詳細な説明)
上記に記載のトロンビンレセプターアンタゴニストの使用は、上記CPB手法の直前、間および/または後の期間において、多くの重要な目的を達成するのに利点があると見出される、ということが本発明者らにより現在信じられている。以下に記載の研究のいくつかはCABGに関して行われたが、大部分の結論は、CPBを含む任意の手法に対し適用可能である。
【0036】
(血小板保護および輸血の必要性の減少)
トロンビンレセプターアンタゴニストは、血小板の保護および輸血の必要性の回避または減少に関し、CPBセッティングにおいて2つの潜在的な利益を有する、と本発明者らにより現在信じられている。第1に、その抗血栓性活性は、ポンプ中での血小板の活性を抑制し、直接的に血小板の輸血または血液の輸血の必要性を減らす、と本発明者らにより現在信じられている。第2に、クロピドグレルは出血傾向を有するため、例えば緊急治療室(「ER」)において、急性冠動脈症候群(「ACS」)が現れている患者に対してCABGの可能性があるようなセッティングにおいて、その使用は避けられる。上記トロンビンレセプターアンタゴニストは、出血傾向の減少を有し、したがってER内での早期使用の機会を提供する、ということが本発明者らにより現在信じられている。
【0037】
(CABGの間の心筋保護)
心筋虚血および心筋梗塞は、CABGの間の潜在的な問題であり、おそらく小血栓によるものである。上記に記載のトロンビンレセプターアンタゴニストは、これらの小血栓の形成の予防、およびしたがって心筋虚血および/または心筋梗塞の予防に有用である、ということが本発明者らにより現在信じられている。
【0038】
(脳保護)
脳の機能は、おそらくバイパスのポンプ/循環の結果により、CABG後に損なわれ得る。この効果のメカニズムは明確ではないが、脳血管床での小塞栓が仮定されている。上記に記載のトロンビンレセプターアンタゴニストは、小塞栓の形成を避けることによりこの影響の予防または減少に有用である、ということが本発明者らにより現在信じられている。
【0039】
(早期の冠状移植不全の防止)
外科医は現在、2つの異なるタイプの冠状導管−静脈移植片および動脈移植片を使用する。これらは、異なる自然な進展を有し、動脈移植片はよりすぐれた生存率を有する。静脈移植片は、血栓症または内膜筋の過形成より、衰え得る。アスピリンおよび/またはクロピドグレルを投与する研究の結果は、早期の静脈移植片の生存は抗血小板治療により改善されるが出血の増加の犠牲がある、ということを示唆する。上記に記載のトロンビンレセプターアンタゴニストは、出血傾向が観察されることなく、移植片の開通性および生存を与える、ということが本発明者らにより現在信じられている。
【0040】
(続く血管の血栓発生の防止)
CABGを受ける患者は、通常少なくとも冠状アテローム性動脈硬化症、およびおそらく散在性の疾患を有するものとして認識される。したがって、彼らは続く血管の血栓発生のリスクの増加があり、その血栓発生として例えば、血栓症、再狭窄、静脈移植不全、アテローム性動脈硬化症、狭心症、心筋虚血、急性冠動脈症候群、心筋梗塞、心不全、不整脈、高血圧症、脳機能障害、一過性脳虚血発作、脳虚血、脳梗塞、血栓塞栓性脳卒中、静脈血栓塞栓症、深部静脈血栓、末梢血管疾患および他の心臓血管疾患が挙げられる。このような続く血栓発生が起こるリスクは以下に記載のトロンビンレセプターアンタゴニストにより減少される見込みがある。
【0041】
したがって、CABGは医療リスクの群を含み、そのリスクは血小板阻害により対処され得る。しかし、CABG手法により必然的にもたらされる外科的損傷の程度は、出血を主なリスクの要因にさせ、任意の共同療法の選択において考慮される。他の血小板阻害薬と比較して、上記に記載のトロンビンレセプターアンタゴニストが示すと信じられている出血傾向の減少は、このアンタゴニストを特にそのような療法への魅力な候補にさせる。
【0042】
トロンビンレセプターアンタゴニストは、血液が人工の表面にさらされ血栓症を促進する、CABG以外の手法に関連する合併症を予防するのに同様の利益を与える、ということが本発明者らにより現在信じられている。このような手法は、任意の心肺バイパスの使用ならびに人工器官バルブ、留置カテーテルおよびステントの移植を含む。
【0043】
上記で使用される場合、および本明細書を通して、以下の用語は、他の方法で示されていない場合、以下の意味を有すると理解される:
「被験体」は、哺乳動物および非哺乳動物の両方を含む。
【0044】
「哺乳動物」は、ヒトおよび他の哺乳動物を含む。
【0045】
「多形体」は、物質の結晶形を意味し、この結晶形は他の結晶形とは異なるが、同じ化学式を有する。式IまたはIIの化合物の多形体形状(結晶またはアモルファスのどちらか)もまた本発明の一部として企図される。
【0046】
本明細書および/または特許請求の範囲において、原子価を満たしていない任意の式、化合物、部分または化学図は、原子価を満たすように水素原子を十分に有すると仮定される、ということもまた注記されるべきである。
【0047】
「有効量」または「治療上の有効量」は、本発明の化合物または組成物の量を記載することが意味され、この量はトロンビンレセプターの拮抗に有効であり、したがって所望の治療効果、回復効果、抑制効果または予防効果を生ずる量である。
【0048】
「TRA」は「トロンビンレセプターアンタゴニスト」の略語である。
【0049】
(TRA化合物)
さまざまな化合物の集団が、トロンビンレセプターアンタゴニストとしての活性を表すことが示されている。米国特許第6,645,987号に開示される式Iの化合物:
【0050】
【化17】

は、そのような活性を示し、ここで、変数は米国特許第6,645,987号に定義され、これを本明細書中で参考として援用する。
【0051】
米国特許出願公開第2004/0152736号に開示されるように、特定の好ましい式Iの化合物の集団は以下:
【0052】
【化18】

【0053】
【化19】

および、それらの薬学的に受容可能な異性体、塩、溶媒和物および多形体である。
【0054】
活性トロンビンレセプターアンタゴニストのさらなる例は、米国特許出願公開第2003/0216437号に開示されるような、式IIの化合物:
【0055】
【化20】

およびそれらの薬学的に受容可能な塩であり、ここで変数は米国特許出願公開第2003/0216437号で定義され、これを本明細書中で参考として援用する。
【0056】
式IIのトロンビンレセプターアンタゴニストの特に活性であり選択的な集団は以下:
【0057】
【化21】

である。
【0058】
さらにより治療上の見込みがある式IおよびIIのトロンビンレセプターアンタゴニストは以下:
【0059】
【化22】

および、それらの薬学的に受容可能な異性体、塩、溶媒和物および共結晶形である。
【0060】
化合物Aの重硫酸塩は、Schering−Plough Corp.にてトロンビンレセプターアンタゴニストとして現在開発中である。その合成法は、米国特許出願公開第03/0216437号に開示されており、この公報はまた化合物Cを開示する。化合物Bは、米国特許第6,645,987号に開示される。
【0061】
本発明の処方に使用される他の化合物は、米国特許第6,063,847号、同第6,326,380号、米国特許出願公開第03/0203927号、同第03/0216437号、同第04/0192753号、および同第04/0176418号のうちのいずれかに開示され、上記化合物に関連のある開示は、その全体を本明細書中ですべて参考として援用する。
【0062】
上記に記載のトロンビンレセプターアンタゴニストは、すぐれた抗血小板活性を示すことが信じられている。さらに、上記トロンビンレセプターアンタゴニストは、他の血小板阻害薬に比べて出血傾向の減少を示し、高い出血リスクのある場面でそれを抗血小板治療として特に魅力的な候補にさせると信じられている。CPBはこれらの必要性を明確に示す。
【0063】
トロンビンレセプターアンタゴニストとして機能する任意の他の作用薬はまた、本発明の範囲内にある。例えば、Eisaiは、E−5555と称される、以下の構造:
【0064】
【化23】

である、経口PAR−1(プロテアーゼ活性化レセプター)アンタゴニストを現在開発中である。
【0065】
さらに、一連のインダゾールペプチド擬似体は、トロンビンレセプターアンタゴニストとしての活性を示すものとして、米国特許第7,049,297号に報告され、その全体を本明細書中で参考として援用する。これらのすべての化合物ならびにトロンビンレセプターアンタゴニストとして活性の任意の他の化合物は、本発明の範囲内にある。
【0066】
本発明で有用ないくつかのTRA化合物は、すくなくとも1つの不斉炭素原子を有し、したがって、TRA化合物の、光学異性体、立体異性体、ロータマー、互変異性体およびラセミ化合物を含むすべての異性体が本発明の一部として企図される。本発明は、dおよびl異性体を、純粋な形態およびラセミ混合物を含む混合物の両方で含む。異性体は、光学的に純粋なまたは光学的に豊富な出発物質を反応させるか、TRA化合物の異性体を分離するかどちらかの従来技術を用いて調製され得る。異性体はまた、幾何異性体、例えば二重結合がある場合を含み得る。いくつかのTRA化合物に対し、1つの異性体が他の異性体よりもすぐれた薬理活性を示すことを当業者は認識する。
【0067】
代表的に好ましい式IおよびIIの化合物は以下:
【0068】
【化24】

の立体化学を有し、これらの絶対の立体化学を有する化合物がより好ましい。
【0069】
塩基性の基を有する本発明で有用なTRA化合物は、有機酸および無機酸とで、薬学的に受容可能な塩を形成し得る。塩形成に適切な酸の例は、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、マロン酸、サリチル酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、アスコルビン酸、マレイン酸、メタンスルホン酸、および当業者に周知の他の鉱酸およびカルボン酸である。好ましい実施形態は、重硫酸塩を含む。上記塩は、フリーの塩基を十分な量の所望の酸に接触させ、塩を生成させることにより調製される。フリーの塩基は、希釈した重炭酸ナトリウム水溶液のような適切な希釈した塩基水溶液で上記塩を処理することにより再生され得る。フリーの塩基は、それぞれの塩と、例えば極性溶媒への溶解性のようないくつかの物理特性においていくらか異なるが、本発明の目的に対して上記塩は、それぞれのフリーの塩基とその他の部分は同等である。本発明で有用なTRA化合物はまた、水和物を含む薬学的に受容可能な溶媒和物を形成し得る。
【0070】
本発明で有用ないくつかのTRA化合物は酸性(例えば、カルボキシル基を有する化合物)である。これらの化合物は、無機塩基および有機塩基とで、薬学的に受容可能な塩を形成する。そのような塩の例は、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、アルミニウム塩、リチウム塩、金塩および銀塩である。薬学的に受容可能なアミン、例えばアンモニア、アルキルアミン、ヒドロキシアルキルアミン、N−メチルグルカミンおよび同類のものとで形成された塩も含まれる。
【0071】
本発明で有用なTRA化合物のプロドラッグおよび溶媒和物はまた、本明細書に企図される。本明細書で使用される用語「プロドラッグ」は、薬物前駆物質である化合物を示し、この前駆物質は被験体に投与されると、代謝プロセスまたは化学プロセスにより化学変換をうけて、式IもしくはIIの化合物またはそれらの塩および/または溶媒和物を生成する(例えば、生理学的pHをもたらすこと、または酵素の活動によりプロドラッグは所望の薬物形状に変換される)。プロドラッグの論議は、T.HiguchiおよびV.Stella,Pro−drugs as Novel Delivery Systems(1987)Volume 14 of the A.C.S. Symposium Series,ならびにBioreversible Carriers in Drug Design,(1987) Edward B.Roche,ed., American Pharmaceutical Association and Pergamon Pressに提供され、この両方を本明細書中で参考として援用する。
【0072】
本明細書で使用する場合、用語「トロンビンレセプターアンタゴニスト化合物」および「TRA化合物」はトロンビンレセプターアンタゴニストとしての活性を示す任意の化合物ならびにそれらの塩、溶媒和物および水和物を意味することが理解され、それらの調製は当該分野の技術内である。式IおよびIIの化合物ならびに本明細書に記載の文献に開示される化合物は、TRA化合物の非限定的な例である。
【0073】
「溶媒和物」は、本発明の化合物と1つ以上の溶媒分子との物理的な会合を意味する。この物理的な会合は、水素結合を含む、種々の程度のイオン結合および共有結合を含む。ある例において、例えば1つ以上の溶媒分子が結晶形固体の結晶格子中に組み込まれる場合、溶媒和物は単離可能である。「溶媒和物」は溶液相および単離可能な溶媒和物を包含する。適切な溶媒和物の非限定的な例は、エタノレート、メタノレートおよび同類のものを含む。「水和物」は溶媒和物であり、ここで上記溶媒分子はHOである。
【0074】
「共結晶」は、薬学的に活性な分子および不活性な分子を同時に含む結晶構造を意味する。共結晶は、アクセプターに水素結合ドナーがマッチするように選択された弱酸と、弱塩基とを結合することにより形成され得る。共役対のpKaの違いは、水中の塩形成と不一致であり得る。共結晶を形成するのに使用される共結晶剤は通常、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸および酒石酸のような二官能酸である。共結晶については、J.F.Remenar et al.「Crystal Engineering of Novel Co−crystals of a Triazole Drug with 1,4−Dicarboxylic Acids」Journal of the American Chemical Society,2003,vol.125,pp.8456−8457で論議されている。
【0075】
カルボン酸基を有する本発明で有用なTRA化合物は、アルコールとで、薬学的に受容可能なエステルを形成し得る。適切なアルコールの例としては、メタノールおよびエタノールが挙げられる。
【0076】
式IおよびIIの化合物は、米国特許第6,645,987号および米国特許出願第10/412,982号にそれぞれ開示される合成スキームおよび調製例に記載のプロセスにより調製され、これらのスキームおよび例は本明細書中で参考として援用する。
【0077】
(処方物および投薬)
CPBに関連する状態の防止は、この手術の被験体にトロンビンレセプターアンタゴニストを投与することで達成され得る。本明細書で使用される用語「被験体」は、ヒトを含む哺乳動物を意味することが理解される。本明細書で使用される用語「手術の被験体」はCPBが計画される哺乳動物またはCPBを受けた哺乳動物を意味することが理解される。したがって、上記トロンビンレセプターアンタゴニストは、投与された処方物の薬学動態的特徴および患者が直面する特定のリスクのような因子に依存して、CPB手法の前、間または後に投与され得る。例えば、手術中に特定の出血のリスクのある患者は、術後にのみ投薬され得るが、一方で脳卒中の高いリスクのある患者は術前に投薬され得る。よりゆっくりな生体性吸収を生じる処方物は、より速い生体性吸収速度を有する処方物よりも早くに投与され得る。
【0078】
本発明に記載の化合物から、薬学的組成物を調製するため、不活性で薬学的に受容可能なキャリアーは、固体または液体のどちらかであり得る。固体形状の製剤としては、粉末、錠剤、分散性顆粒、カプセル、カシェ剤および座薬が挙げられる。上記粉末および錠剤は、約5〜約95%の活性成分で構成され得る。適切な固体キャリアーは、当該分野で公知であり、例えば炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖またはラクトースである。錠剤、粉末、カシェ剤およびカプセルは、経口投与に適切な固体剤形として使用され得る。薬学的に受容可能なキャリアーの例およびさまざまな組成物の製造方法は、A.Gennaro(ed.),The Science and Practice of Pharmacy,20th Edition,Lippincott Williams & Wilkins,Baltimore,MD,(2000)に見つけられ得る。
【0079】
液体形状製剤としては、溶液、懸濁剤およびエマルジョンが挙げられる。例として、非経口注入のための水もしくは水−プロピレングリコール溶液、または経口溶液、懸濁剤およびエマルジョンのための甘味料および乳白剤の添加が言及され得る。液体形状製剤はまた、鼻腔投与のための溶液も含み得る。
【0080】
吸入に適切なエアロゾル製剤は、溶液および粉末形状の固体を含み得、これは薬学的に受容可能なキャリアー、例えば不活性圧縮ガス(例えば窒素)と組み合わせられ得る。
【0081】
固体形状製剤もまた含まれ、この製剤は、経口投与または非経口投与のどちらかに対して、使用前に短時間で液体形状製剤に変換されることを意図される。このような液体形状としては、溶液、懸濁剤およびエマルジョンが挙げられる。
【0082】
本発明で有用なTRA化合物はまた、経皮的に送達可能であり得る。経皮的な組成物は、クリーム、ローション、エアロゾルおよび/またはエマルジョンの形状を取り得、ならびにこの目的において当該分野で慣習的であるようなマトリックスまたは貯蔵型の経皮パッチ内に含まれ得る。
【0083】
好ましくは、上記化合物は経口により固体剤形で投与される。トロンビンレセプターアンタゴニストの経口溶解性処方物は、米国仮特許出願第60/689,207号に開示され、この全体を本明細書中で参考として援用する。
【0084】
好ましくは、上記薬学的な製剤は単一の剤形である。このような形状では、製剤は適切なサイズの単一の用量に細分化され、その用量は活性な構成要素の適切量、例えば所望の目的を達成する有効量を含有する。
【0085】
上記に記載のトロンビンレセプターアンタゴニストの投薬計画は、負荷用量を投与の後に、一連の維持用量を投与することを含み得る。本明細書で使用される用語「負荷用量」は、第1の維持用量の前に投与され、ならびに、治療上有効なレベルにTRA化合物の血液濃度レベルをすばやく上昇することが意図される単独の用量を意味する、と理解される。用語「維持用量」は、連続的に(すなわち、少なくとも2回)投与される用量を意味すると理解され、この用量は、治療上有効なレベルにTRA化合物の血液濃度レベルをゆっくり上昇するか、治療上有効なレベルを維持することのどちらかが意図される。上記維持用量は、1日に1回、ある日数ごとに1回(例えば、30日まで)または1日に1回より多く(例えば、1日に4回)投与され得る。
【0086】
本発明の負荷用量は、好ましくは上記に記載のトロンビンレセプターアンタゴニストを約10mg〜約50mgの量で含む。10mg、20mgおよび40mgの用量は、負荷用量の開発のための候補である。40mgの負荷用量は、急性冠動脈症候群に関するフェーズIIIの臨床試験において、投与が計画される。本発明者らは、約0.5mg〜約10mgの維持用量が好ましいと考える。1mg、2.5mg、および5mgの用量は、維持用量の開発のための候補である。2.5mgの維持用量は、上記で言及のフェーズIIIの臨床試験において1日に1回の投与が計画される。
【0087】
作用のすばやい開始を達成するために、上記負荷用量は、すばやく分解する経口剤形の形状であり得る。そのような剤形の例としては、湿った造粒処方物、凍結乾燥したオブラート、および発泡性錠剤または発泡性オブラートが挙げられる。
【0088】
いくつかの状況において、上記負荷用量が先んずることが好ましくあり得、および維持用量のみの投与が好ましくあり得る。このことは、手術が十分に未来に予定され、負荷用量の必要なしで上記トロンビンレセプターアンタゴニストの適切な血液濃縮レベルが達成される場合であり得る。
【0089】
本発明のさらなる実施形態は、少なくとも1つの追加の治療上有効な作用薬と共にTRA化合物を投与することを包含する。本発明の化合物と組み合わせて使用され得る治療上有効な作用薬は、公知の薬物で、炎症、リウマチ、喘息、糸球体腎炎、骨粗鬆症、神経障害および/または悪性腫瘍、新脈管形成関連障害、癌、肝臓障害、腎臓障害ならびに肺障害、黒色腫、腎細胞癌、腎疾患、急性腎不全、慢性腎不全、腎血管ホメオスタシス、糸球体腎炎、慢性気道疾患、膀胱炎症、神経変性および/または神経毒性の疾患、状態または損傷、放射線線維症、内皮性機能不全、歯周疾患および歯周創傷の治療に使用される薬物を含む。上記TRA化合物と組み合わせて投与され得る治療上有効な作用薬のさらなる例としては、化学療法に対する腫瘍細胞のための耐性因子ならびに、平滑筋細胞、内皮細胞、線維芽細胞、腎細胞、骨肉腫細胞、筋細胞、癌細胞および/またはグリア細胞の増殖インヒビターが挙げられる。上記治療上有効な作用薬は心臓血管作用薬であり得る。
【0090】
本発明の新しい化合物と組み合わせて使用され得る心臓血管作用薬としては、抗血栓性活性、抗血小板凝集活性、抗アテローム性動脈硬化活性、抗再狭窄性活性および/または抗凝固活性を有する薬物が挙げられる。このような薬物は、血栓症、アテローム性動脈硬化症、再狭窄、高血圧症、狭心症、不整脈、心不全、心筋梗塞、糸球体腎炎、血栓脳卒中および血栓塞栓性脳卒中、末梢血管疾患、他の心臓血管疾患、脳虚血、炎症性障害および癌を含む血栓症関連の疾患、ならびにトロンビンおよびそのレセプターが病理学的な役割を果たす他の障害を治療するのに有用である。適切な心臓血管作用薬は、アスピリンのようなトロンボキサンA2生合成インヒビター;セラトロダスト、ピコタミド、およびラマトロバンのようなトロンボキサンアンタゴニスト;クロピドグレルおよびプラスグレルのようなアデノシン二リン酸(ADP)インヒビター;アスピリン、メロキシカム、ロフェコキシブおよびセレコキシブのようなシクロオキシゲナーゼインヒビター;バルサルタン、テルミサルタン、カンデサルタン、イルベサルタン、ロサルタンおよびエプロサルタンのようなアンギオテンシンアンタゴニスト;テゾセンタンのようなエンドセリンアンタゴニスト;ミルリノン、エノキシモンのようなホスホジエステラーゼインヒビター;カプトプリル、エナラプリル、エナリプリラット、スピラプリル、キナプリル、ペリンドプリル、ラミプリル、フォシノプリル、トランドラプリル、リシノプリル、モエキシプリルおよびベナザプリルのようなアンギオテンシン変換酵素(ACE)インヒビター;カンドキサトリルおよびエカドトリルのような中性エンドぺプチダーゼインヒビター;非分画ヘパリン、キシメラガトラン、フォンダパリンおよびエノキサパリンのような抗血液凝固薬;クロロチアジド、ヒドロクロロチアジド、エタクリン酸、フロセミドおよびアミロライドのような利尿薬;アブシキシマブおよびエプティフィバチドのような血小板凝集インヒビター;ならびにGP IIb/IIIaアンタゴニストからなる群より選択される。
【0091】
本発明の新しい化合物と組み合わせて使用するための薬物の好ましいタイプは、トロンボキサンA2生合成インヒビター、シクロオキシゲナーゼインヒビターおよびADPアンタゴニストである。組み合わせての使用に特に好ましいのはアスピリン、クロピドグレル重硫酸塩、プラスグレルおよびフラグミンである。
【0092】
本発明のさらなる実施形態は、1つより多くの追加の治療上有効な作用薬をTRA化合物と共に投与することを包含する。これらの実施形態において、上記追加の治療上有効な作用薬は一般的に同じ状態の治療に使用されてもよいし、されなくてもよい。例えば、TRA化合物は、2つの心臓血管作用薬と共に投与され得る。あるいは、TRA化合物は、心臓血管作用薬および炎症の治療に有用である治療上有効な作用薬と共に投与され得る。
【0093】
本発明がTRA化合物と1つ以上の他の治療上有効な作用薬との組み合わせを含む場合、上記2つ以上の活性な構成要素は、それぞれ分離した剤形中に含まれて、同時に、または連続して投与され得、あるいは、単一の薬学的組成物中にすべて含まれ得る。前者の場合、組み合わせの構成要素は個々に、または一緒に任意の従来の剤形(例えば、カプセル、錠剤、粉末、カシェ剤、懸濁剤、溶液、座薬、鼻スプレーなど)で投与され得る。他の治療上有効な作用薬の用量は、公開された資料より決定され得、および一回分が約1〜1000mgの範囲であり得る。
【0094】
本明細書中で、用語「少なくとも1つのTRA化合物」は、1〜3つの異なるTRA化合物が薬学的組成物または治療法において使用され得ることを意味する。好ましくは1つのTRA化合物が使用される。同様に、用語「1つ以上の追加の心臓血管作用薬」は、1〜3つの追加の薬物がTRA化合物と組み合わせて投与され得ることを意味し、好ましくは1つの追加の化合物がTRA化合物と組み合わせて投与される。上記追加の心臓血管作用薬は、上記TRA化合物に対して連続してまたは同時に投与され得る。
【0095】
本発明は、上記に記載の特定の実施形態と組み合わせて記載される一方、それらの多くの代替物、改変および変動は、当業者に対し明らかである。このような代替物、改変、および変動は、本発明の趣旨および範囲内にあることが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心肺バイパス手術に関する状態を予防する、抑制する、または改善する方法であって、該方法が少なくとも1つのトロンビンレセプターアンタゴニスト化合物の有効量を、該手術の被験体に投与する工程を含む、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、前記状態が以下からなる群から選択され、その群は、出血;血栓症、再狭窄のような血管の血栓発生;静脈移植不全;動脈移植不全;アテローム性動脈硬化症、狭心症;心筋虚血;急性冠動脈症候群、心筋梗塞;心不全;不整脈;高血圧症;一過性脳虚血発作;脳機能障害;血栓塞栓性脳卒中;脳虚血;脳梗塞;血栓静脈炎;深部静脈血栓;および末梢血管疾患からなる群である、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、前記トロンビンレセプターアンタゴニスト化合物が以下:
【化1】

【化2】

【化3】

からなる化合物の群、またはそれらの薬学的に受容可能な異性体もしくは塩より選択される、方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法であって、前記トロンビンレセプターアンタゴニスト化合物が以下:
【化4】

からなる化合物の群、またはそれらの薬学的に受容可能な異性体もしくは塩より選択される、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、該方法がさらに少なくとも1つの心臓血管作用薬を投与する工程を含み、該心臓血管作用薬が、トロンボキサンA2生合成インヒビター;トロンボキサンアンタゴニスト;アデノシン二リン酸インヒビター;シクロオキシゲナーゼインヒビター;アンギオテンシンアンタゴニスト;エンドセリンアンタゴニスト;ホスホジエステラーゼインヒビター;アンギオテンシン変換酵素インヒビター;中性エンドぺプチダーゼインヒビター;抗血液凝固薬;利尿薬;血小板凝集インヒビター;およびGP IIb/IIIaアンタゴニストからなる群より選択される、方法。
【請求項6】
少なくとも2つの前記心臓血管作用薬を投与する工程をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、該方法がさらに少なくとも1つの心臓血管作用薬を投与する工程を含み、該心臓血管作用薬が、アスピリン、セラトロダスト、ピコタミド、およびラマトロバン、クロピドグレル、メロキシカム、ロフェコキシブ、セレコキシブ、バルサルタン、テルミサルタン、カンデサルタン、イルベサルタン、ロサルタン、エプロサルタン、テゾセンタン、ミルリノン、エノキシモン、カプトプリル、エナラプリル、エナリプリラット、スピラプリル、キナプリル、ペリンドプリル、ラミプリル、フォシノプリル、トランドラプリル、リシノプリル、モエキシプリル、ベナザプリル、カンドキサトリル、エカドトリル、非分画ヘパリン、キシメラガトラン、フォンダパリン、エノキサパリン、クロロチアジド、ヒドロクロロチアジド、エタクリン酸、フロセミド、アミロライド、アブシキシマブ、エプティフィバチド、プラスグレルおよびフラグミンからなる群より選択される、方法。
【請求項8】
少なくとも2つの前記心臓血管作用薬を投与する工程をさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、前記トロンビンレセプターアンタゴニスト化合物が以下:
【化5】

、またはその薬学的に受容可能な異性体もしくは塩である、方法。
【請求項10】
請求項1に記載の方法であって、前記トロンビンレセプターアンタゴニスト化合物が以下:
【化6】

、またはその薬学的に受容可能な異性体もしくは塩である、方法。
【請求項11】
請求項1に記載の方法であって、前記トロンビンレセプターアンタゴニスト化合物が以下:
【化7】

、またはその薬学的に受容可能な異性体もしくは塩である、方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法であって、前記トロンビンレセプターアンタゴニスト化合物が投薬計画に従い投与され、該投薬計画が約0.5〜約10mgの維持用量の投与を含む、方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、前記投薬計画は、第1の維持用量の投与より前に、約10〜約50mgの負荷用量を投与する工程をさらに含む、方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、前記心肺バイパス手術が冠動脈バイパス移植手術である、方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法であって、前記トロンビンレセプターアンタゴニスト化合物がE−5555またはその薬学的に受容可能な異性体もしくは塩である、方法。
【請求項16】
心肺バイパス手術に関する状態を予防する、抑制する、または改善する方法であって、該方法が式
【化8】

の化合物、またはその薬学的に受容可能な異性体もしくは塩の有効量を該手術の被験体に投与する工程を含み、ここで該状態が、出血;血栓症、再狭窄のような血管の血栓発生;静脈移植不全;動脈移植不全;アテローム性動脈硬化症、狭心症;心筋虚血;急性冠動脈症候群、心筋梗塞;心不全;不整脈;高血圧症;一過性脳虚血発作;脳機能障害;血栓塞栓性脳卒中;脳虚血;脳梗塞;血栓静脈炎;深部静脈血栓;および末梢血管疾患のうちの少なくとも1つである、方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、前記トロンビンレセプターアンタゴニスト化合物が投薬計画に従い投与され、該投薬計画が約0.5〜約10mgの維持用量の投与を含む、方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法であって、前記投薬計画は、第1の維持用量の投与より前に、約10〜約50mgの負荷用量を投与する工程をさらに含む、方法。
【請求項19】
請求項16に記載の方法であって、該方法が、アスピリン、クロピドグレル、プラスグレルおよびフラグミンのうちの少なくとも1つを投与する工程をさらに含む、方法。
【請求項20】
請求項16に記載の方法であって、前記心肺バイパス手術が冠動脈バイパス移植手術である、方法。

【公表番号】特表2009−521472(P2009−521472A)
【公表日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547581(P2008−547581)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【国際出願番号】PCT/US2006/048928
【国際公開番号】WO2007/075964
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(596129215)シェーリング コーポレイション (785)
【氏名又は名称原語表記】Schering Corporation
【Fターム(参考)】