説明

心肺機能向上用組成物

【課題】 長期間服用しても安全で、運動前に経口摂取することにより、短時間で心肺機能を向上させることができ、運動パフォーマンス向上効果が期待できる心肺機能向上用組成物を提供する。
【解決手段】 心肺機能向上用組成物の有効成分として、卵白加水分解物と有機酸を含有させる。本心肺機能向上用組成物においては、卵白加水分解物(固形分)1質量部に対して、有機酸を0.2〜1.2質量部含有することが好ましい。また、前記有機酸はクエン酸であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心肺機能の向上効果が期待できる組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
運動終了後の心拍数が安定時の心拍数に近づく心拍を回復心拍数といい、運動終了5分後の心拍数が120拍/分以上の場合は、その時の身体状態に対して運動が強すぎると言われている。日頃からトレーニングを行っている人は、この心拍数の回復が早くなることが知られており、結果として高い運動強度にも適応できるようになる。例えば、多くのスポーツにおいては、競技時間中に短いインターバルが設けられているが、そのインターバルの間にどれだけ疲労回復できるかが勝敗を左右することにもなるため、心拍数を速やかに回復させることは有意義であると考えられる。
【0003】
一般的に、運動におけるパフォーマンスの低下は、疲労物質の蓄積、エネルギー源の不足、発汗による水分やミネラル分の消失などにより引き起こされると言われている。そのため、疲労物質の低減、エネルギー源となる糖質やビタミン類、水分やミネラル分の補給などを目的とした飲食品が数多く開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、所定量のクエン酸を添加したスポーツ用飲料について開示されており、クエン酸の効果によって乳酸値を低下させ、疲労回復を促進させることができる旨記載されている。
【0005】
また、本出願人は、卵白ペプチドが血中乳酸値の上昇抑制効果や深部体温の上昇抑制効を有することを見出し、特許文献2において、卵白を加水分解して得られる卵白ペプチドを有効成分として含有することを特徴とする血中乳酸値上昇抑制組成物について開示しており、特許文献3において、卵白を加水分解して得られる卵白ペプチドを有効成分として含有することを特徴とする熱中症予防飲料について開示している。
【特許文献1】特開2006−42602号公報
【特許文献2】特開2006−273850号公報
【特許文献3】特開2008−72968号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述したような従来の飲食品の多くは、対処療法的に用いられるものであり、運動パフォーマンスの向上というよりも、運動パフォーマンスの維持を目的とするものであった。
【0007】
一方、心肺機能の向上は、運動パフォーマンスの向上につながるが、日常的なトレーニングを積むことで初めて得られるものであり、通常、短期間のうちに心肺機能を向上させることは困難である。
【0008】
したがって、本発明の目的は、長期間服用しても安全で、運動前に経口摂取することにより、短時間で心肺機能を向上させることができ、運動パフォーマンス向上が期待できる組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の心肺機能向上用組成物は、卵白加水分解物と有機酸を有効成分として含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の心肺機能向上用組成物においては、卵白加水分解物(固形分)1質量部に対して、有機酸を0.2〜1.2質量部含有することが好ましく、前記有機酸はクエン酸であることが好ましい。
【0011】
本発明の心肺機能向上用組成物は、卵白加水分解物と有機酸との相乗効果により、心肺機能を向上させ、運動後の心拍数の回復を早めることができる。その結果、競技時間中の短いインターバルの間にも疲労の回復が可能となり、運動パフォーマンスの向上が期待できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、経口摂取することにより、心肺機能を向上させ、運動後の心拍数の回復を早め、運動パフォーマンスの向上が期待できる組成物を提供できる。本組成物の有効成分である卵白や有機酸は古くから食経験のある安全な素材であるので、副作用の心配がなく、継続的に摂取することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の心肺機能向上用組成物の原料について説明する。
【0014】
本発明において、有効成分として用いられる卵白加水分解物は、卵白を酸や酵素を用いて加水分解して得られる卵白ペプチド組成物であり、好ましくは卵白を酵素分解して得られるものが用いられる。
【0015】
原料卵白は、例えば、ニワトリ、ウズラ、アヒル、ガチョウ等の卵の卵白が挙げられるが、大量入手が容易な鶏卵の卵白が好ましく、卵白液、凍結卵白液、卵白粉末等を用いることができ、特に脱糖処理したものが好ましく用いられる。
【0016】
卵白加水分解物は、例えば、液卵白1質量部に水0.1〜1質量部を加えて撹拌したものに加水分解酵素を添加して酵素反応を所定時間行った後、酵素失活処理し、固液分離して液部を回収し、乾燥粉末化することにより得ることができる。なお、必要に応じて、限外濾過膜、逆浸透膜、ゲル濾過や各種カラムクロマトグラフィー、メンブレンフィルター等を用いて分画、精製してもよい。
【0017】
加水分解酵素としては、プロテアーゼ活性又はペプチダーゼ活性を有し、食品製造に使用可能なタンパク質加水分解酵素が用いられ、具体的には、パパイン(EC.3.4.22.2)、トリプシン(EC.3.4.21.4)、バチルス属細菌由来プロテアーゼ(例えば、商品名「プロテアーゼS「アマノ」G」、商品名「プロテアーゼN「アマノ」G」、商品名「プロレザーFG−F」(いずれも天野エンザイム株式会社製))、リゾプス属糸状菌由来ペプチダーゼ(例えば、商品名「ペプチダーゼR」(天野エンザイム株式会社製))等を組み合わせて用いることが好ましい。タンパク質加水分解酵素の使用量や反応温度、反応時間等は、使用する酵素に応じて適宜調整すればよい。
【0018】
本発明において、もう一つの有効成分として用いられる有機酸は、飲食品に利用可能なものであればよく、具体的には、クエン酸、リンゴ酸、酢酸などが例示できる。本発明においては、クエン酸が特に好ましく用いられる。
【0019】
本発明の組成物における卵白加水分解物と有機酸の配合割合は、卵白加水分解物(固形分)1質量部に対して、有機酸0.2〜1.2質量部であり、好ましくは卵白加水分解物(固形分)1質量部に対して、有機酸0.4〜1質量部である。
【0020】
本発明の組成物は、そのままサプリメントなどとして用いることもできるが、スポーツ飲料やゼリー飲料、栄養・エネルギーバーをはじめとする各種飲食品に配合することができる。
【0021】
本発明の組成物を、運動前に500mg〜10g、好ましくは1g〜5g摂取することにより、心肺機能向上効果が期待できる。したがって、上記飲食品における本組成物の添加量も、1食分あたり上記の量が摂取できるように設定することが好ましい。
【0022】
本発明の組成物は、上記基本的成分のほかに、賦形剤、乳化剤、安定剤、甘味料、pH調整剤、増粘剤、香料、酸味料等の食品添加剤や、ビタミン類、ミネラル類、分枝鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)、アンセリン、カルノシン、カルニチン、クレアチン、γ−アミノ酪酸等の生理活性成分を含むこともできる。
【0023】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって特に限定されるものではない。また、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を表す。
【実施例1】
【0024】
液卵白12kg(固形分12.5%)を常法に従って脱糖処理(酵母発酵法)を行った後、水3.7Lを加えて均一に撹拌した。この卵白溶液の液温を60℃に調整し、以下の順序で酵素反応を行った。
【0025】
1)パパイン(商品名「パパイン300」、日本バイオコン株式会社製)30gを添加して1.5時間反応。
【0026】
2)水酸化ナトリウムでpH調整(pH8.0)し、トリプシン5gを添加して55℃で1時間反応。
【0027】
3)バチルス属細菌由来プロテアーゼ(商品名「プロテアーゼS「アマノ」G」、天野エンザイム株式会社製)15gを添加して65℃で1時間反応。
【0028】
4)バチルス属細菌由来プロテアーゼ(商品名「プロテアーゼN「アマノ」G」、天野エンザイム株式会社製)10gを添加して55℃で1時間反応。
【0029】
5)リゾプス属糸状菌由来ペプチダーゼ(商品名「ペプチダーゼR」、天野エンザイム株式会社製)5gを添加して40℃で4時間反応。
【0030】
上記酵素反応終了後、90℃で10分間加熱した後、濾過し、得られた濾液を噴霧乾燥して900gの卵白加水分解物(サンプル1)を得た。
【0031】
得られた卵白加水分解物を高速液体クロマトグラフィーにて、以下の条件で分子量の分析を行った。その結果を図1に示す。
【0032】
カラム:「YMC-Pack Dio1-60(8.0×500mm)」(商品名、株式会社ワイエムシイ製)
溶出液:0.1Mリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)
流速:0.7mL/分
検出波長:215nm
【0033】
そして、上記卵白加水分解物を適量の水に溶解し、卵白加水分解物(固形分)1質量部に対し、クエン酸(無水)1質量部を添加して均一に溶解した後、凍結乾燥して、本発明の心肺機能向上用組成物(サンプル2)を得た。
【0034】
また、同様にして卵白加水分解物(固形分)1質量部に対し、クエン酸(無水)0.4質量部を添加して本発明の心肺機能向上用組成物(サンプル3)を調製した。
(試験例)
【0035】
上記で得られたサンプルを用いて運動負荷試験を行った。
i)群分け及び被験者
コントロール群:水100mL
比較群:卵白加水分解物(サンプル1)0.5%水溶液100mL
試験群:心肺機能向上用組成物(サンプル2)1%水溶液100mL
【0036】
各群6名(男性3名、女性3名(平均年齢26.3±1.8歳))とし、各群の試験は1週間の間隔を空けて行った。
【0037】
ii)試験方法
図2に示すプロトコールで、自転車運動装置を用いて、60%VO2maxの運動強度で運動負荷試験を行った。そして、運動負荷試験中、被験者の心拍数をモニターし、運動負荷試験終了時から心拍数が100拍/分になるまでの時間を計測し、心拍数回復時間とした。各群における心拍数回復時間を比較した結果を図3に示す。
【0038】
図3から、コントロール群と比べて、比較群(サンプル1)及び試験群(サンプル2)では、運動負荷試験後の心拍数回復時間が短縮されていることが分かる。特に試験群(サンプル2)においては、コントロール群に比べて約2/3に短縮されていることが分かる。なお、サンプル3を用いても上記試験群(サンプル2)と同程度の心拍数回復時間の短縮が見られた。
【0039】
以上の結果から、本発明の心肺機能向上用組成物を摂取することにより、心肺機能をより高めることができ、結果として運動パフォーマンスの向上が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の心肺機能向上用組成物は、アスリートだけでなく、メタボリック対策で運動を始める人などに好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】得られた卵白加水分解物のゲル濾過クロマトグラフィーの結果を示した図である。
【図2】自転車運動装置を用いたヒト試験のプロトコールを示した図である。
【図3】運動負荷試験後の心拍数回復時間を測定した結果を示した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵白加水分解物と有機酸を有効成分として含有することを特徴とする心肺機能向上用組成物。
【請求項2】
卵白加水分解物(固形分)1質量部に対して、有機酸を0.2〜1.2質量部含有する請求項1記載の心肺機能向上用組成物。
【請求項3】
前記有機酸はクエン酸である請求項1又は2記載の心肺機能向上用組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一つに記載の心肺機能向上用組成物を含有する飲食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−296914(P2009−296914A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−153283(P2008−153283)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(500101243)株式会社ファーマフーズ (30)
【Fターム(参考)】