説明

心臓治療用の多血小板血漿製剤

多血小板血漿(PRP)の組成物が提供される。一般的に、これら組成物は、全血より高い濃度の血小板及び白血球を含む。血小板及び/又は白血球の濃度は、全血中のそれぞれの濃度の2〜8倍であってもよい。これら組成物は、赤血球及びヘモグロビンの濃度が抑制されていてもよい。幾つかの変法では、本組成物は、損傷結合組織を治療するのに、及び/又は心臓発作後に心臓アポトーシスを遅延又は停止させるのに有用であってもよい。本PRP組成物は、再灌流療法と併せて送達されてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2008年10月9日に出願された米国特許仮出願第61/104,074号の優先権を請求するものであり、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は、一般的に、種々の医学的状態の治療に使用することができる多血小板血漿製剤に関する。より具体的には、多血小板血漿製剤は、全血と比べて異なるレベルの血小板及び白血球を含むことができる。幾つかの変法では、本製剤は、全血中の単球濃度の少なくとも2倍の濃度の単球と、全血中のリンパ球濃度の少なくとも2倍の濃度のリンパ球と、全血中の好酸球濃度の約1.5倍の濃度の好酸球とを含むことができる。
【背景技術】
【0003】
組織損傷及び変性は、種々の医学的状態の原因及び結果の両方であり得る。損傷の原因は、機械的傷害から、炎症等に伴う他の複雑な生理学的プロセスまで多岐にわたる場合がある。例えば、組織損傷は、傷害、酷使、血流低下、又は他の相応な原因の結果であり得る。損傷が停止又は遅延する場合でさえ、変性した未熟で無血管性の瘢痕組織が形成されるため完全には治癒しない場合がある。
【0004】
腱、靱帯、関節襄、及び筋膜組織等の結合組織は、特に損傷しやすい場合がある。例えば、筋骨格障害の全体的な有病率は、国立健康統計センターによる1995年の調査によると、米国では1000人当たりおよそ140人である。同じ調査によると、生産性損失に関する直接費用は887億ドルであると推定され、間接費用は1119億ドルに及ぶと推定された。筋骨格傷害は、抗炎症薬、ブレイシング、安静、及び理学療法等の標準的治療に抵抗性である場合がある。可動性の比較的無血管性の結合組織(以降は、「結合組織(単数)」又は「結合組織(複数)」)に対する傷害又は他の損傷は、治癒するのに非常に長い時間がかかる場合がある(例えば、数か月又は数年も)。多くの場合、結合組織に対する傷害は、決して適切に治癒せず、外科的介入を必要とする場合がある。
【0005】
筋骨格障害の1つの例は、外側上顆炎である。外側上顆炎又は「テニス肘」は、肘の短橈側手根伸筋腱の酷使による傷害及び微小裂傷に伴うことが多い周知のスポーツ医学的及び整形外科的な障害である。身体は、これら微小裂傷の修復を試みるが、多くの場合、治癒プロセスは不完全である。慢性外側上顆炎の手術を受ける患者の病理学的標本では、無秩序な血管線維芽細胞異形成が明らかである。この不完全な修復の試みは、その結果として変形性で未熟な無血管性の組織をもたらす。この不完全に修復された組織は、正常な腱組織より弱い場合があり、正常な機能を欠如している場合がある。この不十分な治癒は、疼痛を引き起こし続ける場合があり、患者が日常活動を行う能力及び患者の生活の質に否定的な影響を及ぼす場合がある。
【0006】
同様の不完全な治癒は、膝蓋腱炎(ジャンパー膝)、アキレス腱炎(ランナーに一般的)、回旋筋腱板腱炎(野球ピッチャー等の「オーバーヘッド」スポーツ選手に一般的に見られる)、足首靭帯の慢性傷害(「足首捻挫」)、又は靱帯裂傷等の、他のタイプの筋骨格傷害又は損傷に見られる場合がある。
【0007】
現在、多数の異なる非手術的及び手術的治療法が存在する。非手術的処置には、安静、活動修正、経口抗炎症薬投与、及びコルチゾン注射剤が含まれる。安静及び活動修正は、患者のこれら状態の幾つかを改善する場合があるが、これら療法では十分に治療されない
著しい臨床集団が依然として存在する。広範な使用にも関わらず、経口抗炎症薬投与の有用性は、対照研究では証明されていない。幾つかの研究では、非ステロイド薬投与が、実際に靱帯傷害の治癒プロセスに対して有害作用を示す場合があることが更に示唆されている。また、外側上顆炎の症例の病理学的試料には、急性炎症細胞は見出されていない。コルチゾン注射剤は、腱症の治療において議論が別れており、急性靱帯傷害では禁忌とされている。幾つかの研究では、短期追跡調査ではコルチゾンで治療された患者に改善が認められたが、1年を超えるより長期的な結果では、高い症状再発率及び有効率が不確かに過ぎないことが明らかにされている。これら注射剤には、糖尿病患者において、腱断裂、感染症、皮膚色素脱失、皮下萎縮、及び血糖値上昇のリスクもある。手術的処置には、関連する病理学的腱のデブリドマン及び修復が含まれる。しかしながら、観血手術又は関節鏡下手術には、深部感染症、神経血管構造の損傷、及び瘢痕形成等の多くの潜在的な合併症がある。また、外科手術は高額であり、領域又は全身麻酔に伴う追加的なリスクがある。
【0008】
筋骨格傷害は、物理的又は機械的プロセスに関連している場合があるが、他のタイプの組織傷害は、生理学的プロセスに関与している場合がある。例えば、心臓血管系不全に由来する心筋傷害は、その結果として細胞虚血又は細胞死さえもたらす場合がある。米国心臓協会によると、冠状動脈性心疾患は、米国において単独の主要死因である。米国における心臓発作の有病率は、2005年ではおよそ810万人であり、それらのうち920,000人は、新患又は再発である。心臓発作は、急性心筋梗塞(MI)としても知られており、心臓への血液供給が中断される場合、通常はプラークが心臓血管から剥離し心臓血管を閉塞することにより生じる。血流が制限された結果、隣接した心臓組織は虚血状態になり死滅し始める。治療しないでおくと、MIは死に結び付くことになる。
【0009】
急性心筋梗塞は、非ST上昇型心筋梗塞又はST上昇型心筋梗塞を含んでもよい。ST上昇型心筋梗塞では、心電図(ECG)のST部分が上昇し、これは、心室が健常心臓で脱分極するほど迅速に脱分極しないことを意味する。心臓への血流が長期間にわたって損なわれると、虚血カスケード及び心臓アポトーシスが起こる場合があり、心臓細胞の死滅及び再生阻害を引き起こす。虚血組織の代りに、瘢痕組織が形成される。瘢痕組織は、心不整脈の可能性を増加させ、その結果として心室動脈瘤の形成をもたらす場合がある。
【0010】
MIを治療するために、再灌流療法を実施することができる。再灌流療法には、血栓溶解療法、経皮的冠状動脈介入(PCl)、及び/又はバイパス手術が含まれる。再灌流療法は、虚血組織への血流を回復させるが、瘢痕組織の増殖に起因する不整脈のリスクを軽減させない。不整脈のリスクが高くなるため、患者は、抗不整脈剤の処置下におかれるか及び/又はペースメーカーを必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
そのため、組織損傷を治療するための追加的治療法が望まれている。組織損傷を治療するためのキットも望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
組織損傷を治療するための多血小板血漿(PRP)組成物が提供される。本組成物は、一般的に、特定の濃度の血小板、赤血球、及び白血球を含む多血小板血漿を含むことができる。幾つかの例では、本組成物は、本組成物が直接的に又は間接的に由来する全血の血小板、赤血球、及び/又は白血球の基準値濃度に対して特徴付けることができる。本明細書で開示されているPRP組成物は、結合組織及び/又は心臓組織を治療するのに有用であり得る。例えば、本明細書に記載のPRP組成物は、アポトーシスを遅延又は停止させることにより組織損傷を修復することができ、PRP組成物の抗アポトーシス効果は、カスパーゼ−3等の血中カスパーゼの減少に基づいて測定することができると考えられる。
【0013】
幾つかの例では、PRP組成物は、全血中の血小板濃度の少なくとも1.1倍の濃度の血小板細胞を含む。PRP組成物中の血小板濃度は、基準値の約1.1〜約2倍、基準値の約2〜約4倍、基準値の約4〜約6倍、又は基準値の約6〜約8倍、又はそれ以上であってもよい。PRP組成物中の血小板濃度は、1マイクロリットル当たり約500,000〜約1,500,000個の血小板であってもよい。
【0014】
PRP組成物は、全血中の白血球より高い濃度の白血球(WBC)を更に含んでいてもよい。WBC濃度は、基準値の約1.1〜約2倍、基準値の約2〜約4倍、基準値の約4〜約6倍、又は基準値の約6〜約8倍、又はそれ以上であってもよい。幾つかの変法では、WBC濃度は、1マイクロリットル当たり約15,000〜約50,000個のWBCである。
【0015】
幾つかの変法では、PRP組成物は、特定の濃度の種々のタイプの白血球を含んでいてもよい。リンパ球及び単球濃度は、基準値の約1.1〜約2倍、基準値の約2〜約4倍、基準値の約4〜約6倍、又は基準値の約6〜約8倍、又はそれ以上であってもよい。PRP組成物中の好酸球濃度は、基準値の約1.5倍であってもよい。幾つかの変法では、リンパ球濃度は、1マイクロリットル当たり約5,000〜約20,000個であり、単球濃度は、1マイクロリットル当たり約1,000〜約5,000個である。好酸球は、1マイクロリットル当たり約200〜約1,000個であってもよい。
【0016】
ある変法では、PRP組成物は、特定の濃度の好中球を含有していてもよい。好中球の濃度は、好中球の基準値濃度未満から好中球の基準値濃度の8倍まで異なっていてもよい。幾つかの変法では、好中球濃度は、基準値の0〜約0.1倍、基準値の約0.1〜約0.5倍、基準値の約0.5〜約1.0倍、基準値の約1.0〜約2倍、基準値の約2〜約4倍、基準値の約4〜約6倍、又は基準値の約6〜約8倍、又はそれ以上であってもよい。それに加えて又はその代わりに、好中球濃度は、リンパ球及び/又は単球の濃度に対して指定されてもよい。好ましい実施形態では、好中球濃度は、全血中の濃度未満である。より好ましい実施形態では、好中球濃度は、全血中に見出される濃度の0.1〜0.9であるが、より好ましくは全血中に見出される濃度の0.1未満である。最も好ましい実施形態では、好中球は、PRP組成物から除去されているか又は検出不能である。
【0017】
幾つかの実施形態では、PRP組成物は、全血中の濃度より低い濃度の赤血球(RBC)及び/又はヘモグロビンを含んでいてもよい。RBC濃度は、基準値の約0.01〜約0.1倍、基準値の約0.1〜約0.25倍、基準値の約0.25〜約0.5倍、又は基準値の約0.5〜約0.9倍であってもよい。ヘモグロビン濃度は、5g/dl以下であってもよい。
【0018】
PRP組成物は、典型的には、例えば遠心分離、重力ろ過、及び/又は直接細胞選別を含む様々な技術を使用して、全血又は全血の部分から生成される。PRP組成物は、生成されると、種々の成分の濃度及び/又は活性化を確認するために1つ又は複数のプロセスにかけることができる。
【0019】
好ましい実施形態では、上述のPRP組成物のいずれかは、ヘパリン、tPA、PLAVIX(登録商標)、又はアスピリン等の血栓溶解剤で以前に治療されていない患者から調製される。好ましくは、患者は、PRPを抽出するための血液採取前の少なくとも2時間、好ましくは1日間、より好ましくは2週間、更により好ましくは1か月間、血栓溶解剤を受容していない。特に、患者が再灌流療法の候補である場合、PRPの抽出に使用される血液は、再灌流療法を施す前に患者から採取される。
【0020】
本発明の実施形態は、上述のPRP組成物等のPRP組成物に対する応答に基づいて、疾患又は状態を治療するための薬物候補を特定する方法に関する。好ましい実施形態では、上述のPRP組成物は、疾患又は状態を罹患している個体の治療薬として投与される。或いは、動物又は細胞培養系等のその疾患のモデルが使用される場合がある。PRP組成物は、モデル動物に投与されるか、又は細胞培養培地に含まれる。他の実施形態では、コンピューターを使用してシミュレーションが実施される。治療の効能は、個体又は動物モデルにおいて、又は細胞培養若しくはコンピューターシミュレーションにおいてモニターされる。治療に応答する個体が選択され、応答する個体から試料が取得される。ヒト患者又は動物モデルの場合、この試料は、血液又は唾液の体液試料又は組織試料であってもよい。細胞培養では、応答する細胞が選択される。コンピュータモデルでは、陽性シミュレーションが特定される。
【0021】
分析は、患者、動物、又は細胞培養から得られる生体試料について実施される。典型的には、そのような分析は、特異的抗体又は抗原の存在を決定するためのイムノアッセイ、又は遺伝子分析によることになる。遺伝子分析では、上方制御又は下方制御される遺伝子を特定することができる。コンピューターシミュレーションの場合、陽性応答を示すパラメーターが特定される。
【0022】
上記のようにして得られる結果を、非疾患集団又は疾患を有するが治療に応答しない亜集団から得られる結果と比較して、応答集団に存在する標的を決定する。特定された標的に基づいて、タンパク質又は低分子等の、疾患状態を治療のための薬物候補を特定し、更に試験する。
【0023】
好ましい実施形態では、疾患又は状態は、虚血、癌、免疫系疾患、結合組織傷害、皮膚疾患、又は神経系疾患である。虚血は、脳虚血であってもよく又は心虚血であってもよい。癌は、脳癌、甲状腺癌、膵臓癌、肝臓癌、乳癌、又は前立腺癌であってもよい。結合組織傷害は、テニス肘、回旋筋腱板傷害、膝傷害、脊髄傷害、又は足底筋膜炎等の腱症であってもよい。神経系疾患は、パーキンソン病であってもよい。
【0024】
好ましい実施形態では、PRP組成物は、好中球が、好ましくは全血濃度の0〜0.9のレベルに枯渇されている。
【0025】
好ましい実施形態では、分析には、遺伝子プロファイルの生成が伴う。例えば、DNAアレイを使用して、欠陥遺伝子を決定することができ、又は遺伝子発現のパターンを決定することができる。幾つかの好ましい実施形態では、分析には、タンパク質、脂質、抗体、抗原、酵素、又は低分子のレベルを測定することが伴う。
【0026】
本発明の実施形態は、以下のステップの1つ又は複数により患者の疾患を診断する方法に関する:
該患者から血液試料を取得するステップ、
該血液試料からPRPを取得するステップ、
該PRPから分析を取得するステップ、及び
該患者に由来するPRPの分析を、その疾患を有する集団のPRPから得られた分析と比較するステップ、及び
該患者のPRPの分析が、該疾患集団のPRPの分析と一致することを決定し、それにより該疾患を診断するステップ。好ましい実施形態では、分析は、イムノアッセイ又は遺伝子プロファイルである。
【0027】
本発明の実施形態は、上述の多血小板血漿組成物を、単独で又はステント、縫合糸、ネジ、若しくは埋め込み可能なデバイス等の固定デバイスと組合せて有するデバイスに関す
る。好ましくは、デバイスは、チャンバーである。より好ましくは、チャンバー内の条件には、以下のうちの1つ又は複数が含まれる:低酸素分圧、高酸素分圧、低pH、高pH、低圧力、高圧力、低UV、高UV、低温、及び高温。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】マウスモデルで使用される例示的なPRP組成物の表である。
【図2】本組成物で治療された対象体の心駆出率を対照群と比較するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
概観
種々の医学的状態を治療するために使用することができる生物学的組成物が提供される。本生物学的組成物は、一般的に、全血中の濃度より高い濃度の白血球及び血小板を含む多血小板血漿を含む。結合組織では、このPRP組成物を使用して、傷害、創傷、外傷、病変、及び/又は組織変性により損傷を受けた組織を治療することができる。心臓組織では、このPRP組成物を、急性MI後の虚血組織を治療するために使用して、心筋組織を保存し、再増殖を促進することができる。加えて、PRP組成物は、アポトーシスを遅延又は停止させ、梗塞サイズを低減させ、心不整脈を減少させ、及び/又は細胞機能を回復させることができる。
【0030】
PRP組成物は、アポトーシスを遅延又は停止させることにより、再増殖を促進することができると仮定されている。例えば、心臓組織では、心臓アポトーシスは、うっ血性心不全の発症に寄与する、後生動物細胞におけるプロセスである。心臓アポトーシスは、プログラム細胞死により、心筋層中の収縮性心筋細胞の数を低減させる場合がある。低いが異常な速度での心筋細胞アポトーシスは、少なくとも部分的には、成人ヒト心筋細胞が典型的には増殖能力を失っているため、成人ヒト心筋層の著しい喪失であり得る。非心筋細胞のアポトーシスは、収縮性集団を減少させる場合があり、これも心不全に結び付く場合がある。非心筋細胞のアポトーシスは、不適応リモデリング(maladaptive remodeling)及び代その後の代償不全性うっ血性心不全(decompensated congestive heart failure)への移行に寄与する場合もある。
【0031】
心臓アポトーシスは、血中のシステインプロテアーゼのレベルにより測定することができる。具体的には、カスパーゼ−3は、心臓アポトーシスのマーカーとして使用することができるシステイン−アスパラギン酸プロテアーゼである。一般的に、カスパーゼ−3は、細胞内のタンパク質基質を切断して、その結果としてアポトーシスプロセスをもたらすエフェクターカスパーゼである。カスパーゼカスケードは、カスパーゼ−3が細胞間で自律的に活性化されると生じる場合がある。心臓組織では、カスパーゼ−3は、心筋梗塞の早ければ1日後には著しく上昇し、最長4週間継続することが示されている。
【0032】
例えば、アポトーシス、傷害、創傷、外傷、病変、又は変性により損傷を受けた組織を治療するために、PRP組成物を結合組織及び/又は心筋層に送達するための種々の方法が開示される。種々の実施形態では、本組成物は、損傷結合組織に、損傷組織に直接隣接している結合組織の領域に、及び/又は健常組織に送達することができる。幾つかの実施形態では、PRP組成物は、虚血組織に、虚血組織に直接隣接している組織の領域に、及び/又は健常組織に送達することができる。PRP組成物は、血小板ゲル、又は流動可能な物質若しくは液体、本明細書に記載の他の物質、又は損傷若しくは虚血組織の所望レベルの治療を提供するのに好適な任意の物質を含むことができる。
【0033】
PRP組成物は、緊急事態の患者に又は選択的処置の一部として配達することができる。損傷結合組織を治療するために、PRP組成物は、入院患者又は外来患者の処置の一部として、組織損傷が生じた数日後、数週間後、数か月後、又は数年後に送達することがで
きる。PRPを使用して処理することができる結合組織損傷の例には、これらに限定されないが、外側上顆炎(つまり、テニス肘)、足底筋膜炎、膝蓋腱炎(つまり、ジャンパー膝)、アキレス腱炎、回旋筋腱板腱炎、足首捻挫、及び靱帯裂傷が含まれる。組織損傷は、これらに限定されないが、X線画像法、磁気共鳴画像法(MRI)、及び超音波画像法等の、1つ又は複数の医用画像技術を使用して特定することができる。心筋層に対する損傷を治療するために、PRP組成物は、MIが特定されると、緊急処置室で及び/又は救急医療供給者により送達することができる。他の場合では、PRP組成物は、MI後の再灌流療法中に送達してもよい。
【0034】
MIは、心筋トロポニン(例えば、トロポニン−I又はT)、CK−MBを含むクレアチンキナーゼ(CK)、アスパラギン酸アミノ基転移酵素(AST)/グルタミン酸オキサロ酢酸トランスアミナーゼ(GOT/SGOT)/アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(ASAT)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)、及び/又はミオグロビン(Mb)等の酵素が血流中に存在するかどうかを決定することにより特定することができる。本明細書に記載のPRP組成物は、それら酵素が存在しない場合に送達してもよい。心筋梗塞は、ECG(例えば、安静中、薬学的ストレス検査中、及び/又は生理学的ストレス検査中)におけるST上昇の特定、冠血管造影法(例えば、心筋層に供給する血管の急性閉塞のリスクを察知する)、核医学的走査(例えば、テクネチウム−99m又はタリウム−201)等により決定することができる。
【0035】
損傷結合組織又は心筋層を治療するために使用されるPRP組成物は、例えば遠心分離、重力ろ過、及び/又は直接細胞選別を含む様々な技術を使用して、全血又は全血の部分から生成することができる。PRP組成物は、生成されると、種々の成分の濃度及び/又は活性化を確認するために1つ又は複数のプロセスにかけることができる。
【0036】
本明細書に記載の組成物、デバイス、方法、及びキットは、種々の実施形態、変法、及び適応を例証する。その開示は、記述されている実施形態にのみ限定されることを意図してない。
【0037】
組成物
PRP組成物は、一般的に、全血と比べて高い濃度の血小板及びWBCを含む。典型的には、RBC及びヘモグロビンの濃度は抑制されている。幾つかの変法では、血小板及びWBCの濃度は、PRP組成物が、損傷組織及び/又は虚血組織を効果的に治療する可能性を増加させるように指定される。
【0038】
PRP組成物は、一般的に、全血中の血小板の基準値濃度より高い血小板濃度の血小板を含む。基準値濃度とは、患者の血液中に見出される濃度を意味し、それは、細胞選別、遠心分離、又はろ過等の実験技術により試料の操作をしていない、その患者の血液試料に見出される濃度と同じであろう。血小板濃度は、基準値の約1.1〜約2倍、基準値の約2〜約3倍、基準値の約3〜約4倍、基準値の約4〜約5倍、基準値の約5〜約6倍、基準値の約6〜約7倍、基準値の約7〜約8倍、基準値の約8〜約9倍、基準値の約9〜約10倍、基準値の約11〜約12倍、基準値の約12〜約13倍、又は基準値の約13〜約14倍、又はそれ以上であってもよい。幾つかの実施形態では、血小板濃度は、基準値の約4〜約6倍であってもよい。典型的には、1マイクロリットルの全血は、少なくとも140,000〜150,000個の血小板、最大で400,000〜500,000個の血小板を含む。PRP組成物は、1マイクロリットル当たり約500,000〜約7,000,000個の血小板を含んでいてもよい。幾つかの場合では、PRP組成物は、1マイクロリットル当たり約500,000〜約700,000個、約700,000〜約900,000個、約900,000〜約1,000,000個、約1,000,000〜約1,250,000個、約1,250,000〜約1,500,000個、約1,5
00,000〜約2,500,000個、約2,500,000〜約5,000,000個、又は約5,000,000〜約7,000,000個の血小板を含んでいてもよい。
【0039】
WBC濃度は、PRP組成物中では、典型的には上昇されている。例えば、WBC濃度は、基準値の約1.1〜約2倍、基準値の約2〜約4倍、基準値の約4〜約6倍、基準値の約6〜約8倍、又は基準値の約8〜約10倍、又はそれ以上であってもよい。1マイクロリットルの全血中のWBC数は、典型的には、少なくとも4,100〜4,500個であり、最大10,900〜11,000個である。1マイクロリットルのPRP組成物中のWBC数は、約8,000〜約10,000個、約10,000〜約15,000個、約15,000〜約20,000個、約20,000〜約30,000個、約30,000〜約50,000個、約50,000及び約75,000個、及び約75,000〜約100,000個であってもよい。
【0040】
PRP組成物中のWBCの中では、濃度は、細胞タイプによって異なっていてもよいが、一般的に各々は上昇されている。幾つかの変法では、PRP組成物は、特定の濃度の種々のタイプの白血球を含んでいてもよい。PRP組成物中の細胞タイプ毎の相対的濃度は、全血中の細胞タイプの相対的濃度と同じであってもよく、又は異なっていてもよい。例えば、リンパ球及び/又は単球の濃度は、基準値の約1.1〜約2倍、基準値の約2〜約4倍、基準値の約4〜約6倍、又は基準値の約6〜約8倍、又はそれ以上であってもよい。幾つかの変法では、リンパ球及び/又は単球の濃度は、基準値濃度未満であってもよい。PRP組成物中の好酸球濃度は、基準値未満、基準値の約1.5倍、基準値の約2倍、基準値の約3倍、又は基準値の約5倍、又はそれ以上であってもよい。
【0041】
全血中では、リンパ球数は、典型的には1マイクロリットル当たり1,300〜4,000細胞であるが、他の例では、リンパ球濃度は、1マイクロリットル当たり約5,000〜約20,000個であってもよい。幾つかの場合では、リンパ球濃度は、1マイクロリットル当たり5,000個未満であってもよく、又は1マイクロリットル当たり20,000個を超えていてもよい。1マイクロリットルの全血中の単球数は、典型的には200〜800個である。PRP組成物中では、単球濃度は、1マイクロリットル当たり約1,000個未満、1マイクロリットル当たり約1,000〜約5,000個、又は1マイクロリットル当たり約5,000個を超えていてもよい。好酸球濃度は、全血中の約40〜400個から上昇されている、1マイクロリットル当たり約200〜約1,000個であってもよい。幾つかの変法では、好酸球濃度は、1マイクロリットル当たり約200個未満であってもよく、又は1マイクロリットル当たり約1,000個を超えていてもよい。
【0042】
ある変法では、PRP組成物は、特定の濃度の好中球を含有していてもよい。好中球濃度は、好中球の基準値濃度未満から好中球の基準値濃度の8倍まで異なっていてもよい。幾つかの変法では、好中球濃度は、基準値の約0.01〜約0.1倍、基準値の約0.1〜約0.5倍、基準値の約0.5〜約1.0倍、基準値の約1.0〜約2倍、基準値の約2〜約4倍、基準値の約4〜約6倍、又は基準値の約6〜約8倍、又はそれ以上であってもよい。それに加えて又はその代わりに、好中球濃度は、リンパ球及び/又は単球の濃度に対して指定されてもよい。1マイクロリットルの全血は、典型的には2,000〜7,500個の好中球を含む。幾つかの変法では、PRP組成物は、1マイクロリットル当たり約1,000個未満、1マイクロリットル当たり約1,000〜約5,000個、1マイクロリットル当たり約5,000〜20,000個、1マイクロリットル当たり約20,000〜約40,000個、又は1マイクロリットル当たり約40,000〜約60,000個の濃度の好中球を含んでいてもよい。好ましい実施形態では、好中球は除去されているか又は実質的に除去されており、PRP等の血液産物の好中球を枯渇させる手段は、米国特許第7462268号明細書で考察されているように公知であり、それは参照に
より本明細書に組み込まれる。
【0043】
典型的には、男性患者から採取される全血は、1マイクロリットル当たり少なくとも4,300,000〜4,500,000個、最大で5,900,000〜6,200,000個のRBC数を有する場合があり、その一方で女性患者に由来する全血は、1マイクロリットル当たり少なくとも3,500,000〜3,800,000個、最大で5,500,000〜5,800,000個のRBC数を有する場合がある。これらRBC数は、一般的に、男性の場合は少なくとも132g/L〜135g/L、最大で162g/L〜175g/Lの、女性の場合は少なくとも115g/L〜120g/L、最大で152g/L〜160g/Lのヘモグロビンレベルに相当する。
【0044】
幾つかの実施形態では、PRP組成物は、全血中の濃度より低い濃度の赤血球(RBC)及び/又はヘモグロビンを含んでいてもよい。RBC濃度は、基準値の約0.01〜約0.1倍、基準値の約0.1〜約0.25倍、基準値の約0.25〜約0.5倍、又は基準値の約0.5〜約0.9倍であってもよい。ヘモグロビン濃度は抑制されていてもよく、幾つかの変法では、約1g/dl以下、約1g/dl〜約5g/dl、約5g/dl〜約10g/dl、約10g/dl〜約15g/dl、又は約15g/dl〜約20g/dlであってもよい。
【0045】
製作方法
PRP組成物は、ヒト又は動物の全血供給源に由来するPRPを含んでいてもよい。PRPは、自己供給源、同種異系供給源、単一供給源、又は貯溜供給源の血小板及び/又は血漿から調製することができる。PRPを得るためには、全血を、例えば血液採取用注射器を使用して採取してもよい。採取される血液の量は、例えば、所望のPRP量、患者の健康、結合組織損傷及び/又はMIの重症度又は位置、準備したPRPの有効性、又は任意の適切な要因の組合せを含む、多数の要因に依存する場合がある。任意の好適な量の血液を採取することができる。例えば、約20cc〜約150ccの血液を採取することができる。より具体的には、約27cc〜約110cc又は約27cc〜約55ccの血液を採取することができる。幾つかの実施形態では、血液は、結合組織損傷及び/又はMIに現在罹患しているか、又は以前に罹患したことがある患者から採取してもよい。患者自身の血液から製作されたPRPは、有害反応又は感染症のリスクを著しく低減することができる。
【0046】
例示的な実施形態では、約55ccの血液を、クエン酸デキストロース溶液等の抗凝血剤を約5cc含有する60cc注射器(又は別の好適な注射器)に採取する。注射器には、アフェレーシス針を取り付けてもよく、抗凝血剤でプライミングしてもよい。血液(約27cc〜約55cc)は、標準的無菌操作を使用して患者から採取することができる。幾つかの実施形態では、アンベソル(anbesol)、ベンゾカイン、リドカイン、プロカイン、ブピビカイン(bupivicaine)、又は当技術分野で公知の任意の適切な麻酔薬等の局所麻酔薬を使用して、挿入区域に麻酔をかけてもよい。
【0047】
PRPは、任意の好適な方法で調製することができる。例えば、PRPは、遠心機を使用して全血から調製することができる。全血は、採取後に冷却してもよく、又は冷却しなくともよい。全血からの血小板の単離は、血小板と赤血球と間の密度の違いに依存する。血小板及び白血球は、血小板枯渇血漿(最上部層)と赤血球(底部層)との間の層(つまり、「軟膜」)に濃縮される。例えば、底部ブイ(buoy)及び最上部ブイを使用して、上部相と下部相との間に多血小板層を捕捉することができる。その後、この多血小板層を、注射器又はピペットを使用して吸引することができる。一般的に、血液試料内にある利用可能な血小板の少なくとも60%又は少なくとも80%を捕捉することができる。これら血小板は、試料容積の約3%〜約20%、又は約5%〜約10%であってもよい容積中に
再懸濁してもよい。
【0048】
幾つかの例では、その後、血液を、Cell Factor Technologies GPS System(登録商標)遠心機等の重力血小板システムを使用して遠心分離することができる。約20cc〜約150ccの血液(例えば、約55ccの血液)及び約5ccのクエン酸デキストロースを含有する、血液で満たされている注射器を、使い捨て分離管にゆっくりと移すことができ、それをGPS遠心機のポートに負荷することができる。試料に蓋をして、遠心機に配置してもよい。遠心機は、約60ccの滅菌生理食塩水を遠心機の対向側に配置して均衡させることができる。或いは、2つの試料を調製する場合、2つのGPS使い捨て管を、等量の血液及びクエン酸デキストロースで満たしてもよい。その後試料を遠心して、血液及び血漿から血小板を分離することができる。試料は、約2000rpm〜約5000rpmで約5分〜約30分間遠心してもよい。例えば、遠心分離は、分離管の側面から抽出するために3200rpmで実施してもよく、その後単離された血小板を、撹拌により約3cc〜約5ccの血漿に懸濁してもよい。その後、PRPは、例えば10ccの注射器を使用して、側面ポートから抽出することができる。約55ccの血液を患者から採取することができれば、約5ccのPRPを取得することができる。
【0049】
PRP組成物は活性化血小板を含むため、血小板内の活性作用剤が放出される。これら作用剤には、これらに限定されないが、サイトカイン(例えば、IL−1B、IL−6、TNF−A)、ケモカイン(例えば、ENA−78(CXCL5)、IL−8(CXCL8)、MCP−3(CCL7)、MIP−1A(CCL3)、NAP−2(CXCL7)、PF4(CXCL4)、RANTES(CCL5))、炎症性メディエーター(例えば、PGE2)、及び増殖因子(例えば、アンジオポイチン−1(Angiopoitin-1)、bFGF、EGF、FGF、HGF、IGF−I、IGF−II、PDAF、PDEGF、PDGF AA及びBB、TGF−ベータ1、2、及び3、並びにVEGF)が含まれる。
【0050】
PRP組成物は、液体、固体、半固体(例えば、ゲル)、吸入可能な粉末、又はそれらの幾つかの組合せとして送達することができる。PRPは、液体として送達される場合、液剤、乳剤、懸濁剤等で構成されていてもよい。PRP半固体又はゲルは、PRPに凝固剤(例えば、トロンビン)を添加することにより調製することができる。ゲルは、溶液より粘性が高い場合があり、従ってゲルが標的組織に送達されると、その位置をより良好に保持することができる。
【0051】
幾つかの場合、PRP組成物を液体として送達し、それをin situでゲル化又は硬化させることが望ましい場合がある。例えば、PRP組成物には、例えば、コラーゲン、シアノアクリレート、組織に注射した際に硬化する接着剤、組織に注射した後で凝固又はゲル化する液体、縫合材料、寒天、ゼラチン、光活性化歯科コンポジット、他の歯科コンポジット、シルクエラスチンポリマー、Matrigel(登録商標)ゼラチンタンパク質混合物(BD Biosciences社製)、ヒドロゲル、及び/又は他の好適な生体ポリマーが含まれていてもよい。或いは、上記の言及されている作用剤は、PRP混合物の一部を形成する必要はない。例えば、上記で言及されている作用剤は、PRPが標的組織に送達される前に又は後で標的組織に送達され、PRPのゲル化を引き起こすことができる。幾つかの実施形態では、PRP組成物は、温度、pH、タンパク質等の1つ又は複数の環境因子又は化学因子に反応して硬化又はゲル化させることができる。
【0052】
PRPは、アルカリ性緩衝剤を使用して生理学的pHに緩衝化されていてもよい。緩衝剤は、PRPを約6.5〜約8.0の生理学的pHに調整することが可能であり得るHEPES、トリス、一塩基性リン酸塩、一塩基性重炭酸塩、又はそれらの任意の好適な組合せ等の生体適合性緩衝剤であってもよい。ある実施形態では、生理学的pHは、約7.3
〜約7.5であってもよく、約7.4であってもよい。例えば、緩衝剤は、8.4%重炭酸ナトリウムであってもよい。これら実施形態では、全血から単離されたPRPの1cc毎に、0.05ccの8.4%重炭酸ナトリウムを添加してもよい。幾つかの実施形態では、注射器は、PRP及び重炭酸塩を混合するためにゆっくりと振とうしてもよい。
【0053】
上記に述べられているように、PRP組成物は、1つ又は複数の追加的作用剤、希釈剤、溶媒、又は他の成分を含んでいてもよい。追加的作用剤の例には、これらに限定されないが、トロンビン、エピネフリン、コラーゲン、カルシウム塩、pH調整剤、脱顆粒を促進するか又は血小板を保存する物質、追加的な増殖因子又は増殖因子阻害剤、NSAIDS、ステロイド、抗感染剤、及び先述の混合物及び組合せが含まれる。
【0054】
更に、PRP組成物は、X線、磁気共鳴画像(MRl)、又は超音波等の画像化技術により検出するための造影剤を含んでいてもよい。そのような造影剤の例には、これらに限定されないが、X線造影剤(例えば、IsoVue)、MRI造影剤(例えば、ガドリニウム)、及び超音波造影剤が含まれる。
【0055】
試験方法
幾つかの変法では、PRP組成物は、患者への送達前に分析及び/又は改変することができる。PRP組成物は、例えば、治療される状態、初期全血球数、患者の遺伝子プロファイル、及び他の好適な因子に基づいて改変することができる。
【0056】
幾つかの実施形態では、患者の遺伝子プロファイルが決定される。同一又は同様の遺伝子プロファイルを有する健常個体のPRP組成物が決定される。同じ遺伝子プロファイルを有する健常個体のPRPと成分が一致するPRP組成物が調製される。改変されたPRP組成物は、疾患又は状態を治療するために患者に投与される。
【0057】
幾つかの実施形態では、疾患又は状態からの回復に成功した患者のPRP組成物をモデルとして使用して、同じ疾患又は状態を有すると診断された患者に投与するためのPRP組成物を調製することができる。言い換えれば、PRP組成物は、回復した又は回復中の個体に基づいて、疾患の治療に有効な成分が最初に濃縮されている。その後、改変されたPRP組成物を、その疾患を罹患している患者に投与する。
【0058】
PRP、又はPRPの一部を、全血球計数(CBC)を実施する自動血液分析器に配置してもよい。CBCの一部として、自動血液分析器は、典型的には、試料中に存在する血小板、WBC、及びRBCの数の計数を返す。WBC計数は、リンパ球、単球、好塩基球、好中球、及び/又は好酸球の計数を更に含むことができる。使用することができる血液分析器の例には、これらに限定されないが、Beckman Coulter社製LHシリーズ、Sysmex社製XE−2100、Siemens社製ADVlA120&2120、及びAbbott社製Cell−Dynシリーズが含まれる。
【0059】
PRPを使用する治療の有効性は、患者の遺伝子プロファイルに少なくとも部分的に依存する場合があると考えられている。患者の全血を、PRP組成物を生成する前及び/又は後で試験して、PRP組成物が組織再生能力に効果を及ぼす可能性が高いかどうかを決定してもよい。PRPは、有用であることが判明してから、患者に送達してもよい。
【0060】
ある変法では、患者のDNA、mRNA、又はタンパク質等の1つ又は複数の遺伝子マーカーを、PRP組成物を送達する前に、送達中に、及び/又は送達後に評価することができる。患者のDNA又は他のバイオマーカーは、典型的には、血液、唾液、又は他の好適な体液若しくは体組織等の試料から捕捉される。試料は、PRP組成物を使用した治療の有効性に相関可能な遺伝子マーカーについて試験することができる。幾つかの場合、特
定された遺伝子マーカーは、遺伝子チップ又は他の遺伝子発現技術等の遺伝子ツールを使用して検出可能であってもよい。幾つかの場合、試験することができる遺伝子には、これらに限定されないが、I型コラーゲン(COL1A1)、III型コラーゲン(COL3A1)、軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質(COMP)、マトリックスメタロプロテアーゼ−3(MMP−3)、及びマトリックスメタロプロテアーゼ−13(MMP−13)が含まれる。そのような遺伝子ツールは、発現レベルの変化を測定するために、又は疾患状態に関連している可能性がある一塩基多型(SNP)を検出するために使用することができる。Affymetrix社製Gene Chip(登録商標)、Applied Microarrays社製CodeLink(登録商標)、及びEppendorf社製DualChip&Silverquant(登録商標)を含む、多数の遺伝子チップが市販されている。
【0061】
幾つかの変法では、遺伝子ツールを分析して、患者がPRP組成物及び/又はその後の治療に(有利に又は不利に)応答する可能性が高いかどうかを決定することができる。ある変法では、PRP組成物は、ある範囲のpH値で試験してもよく、及び/又はPRPのpHは、遺伝子プロファイルに少なくとも部分的に基づいて変更してもよい。幾つかの場合、種々の遺伝子プロファイルは、PRP組成物の種々の成分について、他の濃度より幾らか有効である特定の濃度(又は濃度の範囲)に関連している場合がある。PRP組成物に対する応答は、心臓アポトーシスの遅延又は停止、抗不整脈効果、又はそうでなければ再灌流療法に伴うリスク減少であってもよい。
【0062】
自動血液分析器により得られたCBCが指定範囲内でない場合、ろ過デバイス及び/又は細胞選別器を使用して、PRP組成物を改変することができる。ろ過デバイスは、真空及び/又は重力を使用して、血小板、WBC、及び/又はRBCの一部を除去することができる。幾つかの変法では、細胞選別器は、自動血液分析器及び/又は遺伝子チップ読取器からのCBC入力を受け取ることができる。使用者は、1つ又は複数の改変を選択又は確認して、PRP組成物に加工することができる。無論、細胞選別器は、全血、全血の部分、及び/又はPRPを用いて使用することができる。細胞選別器は、電荷、密度、サイズ、変形性、又は蛍光等に基づいて、PRP組成物を選別することができる。細胞選別器の例には、BD社製FACSAria(登録商標)細胞選別器、Cytopeia社製inFlux(登録商標)細胞選別器、Beckman Coulter社により製造されたもの、及びCytonome社製Gigasort(登録商標)細胞選別器等が含まれる。
【0063】
創薬における多血小板血漿組成物の使用
本発明の実施形態は、創薬における、本明細書に記載の多血小板血漿組成物の使用に関する。PRP組成物は、疾患モデル等のモデル系、好ましくは哺乳動物モデルに、又はヒト研究の過程に、又は植物等の哺乳動物以外の系に投与される。遺伝子発現に対する投与PRP組成物の効果がモニターされる。例えば、1つの実施形態では、細胞培養系におけるPRP組成物の効果が、細胞の分子分析により研究される。DNA、RNA、マイクロRNA、及び/又はエピジェネティックマーカーを評価して、特定の障害に対する薬物の効能が決定される。幾つかの好ましい実施形態では、律速段階又はクリティカルパスで作用する既存の又は新規のタンパク質を発見するために、多血小板血漿が虚血組織又は細胞のアポトーシスを防止する機序が研究される。その後このタンパク質は精製され、疾患の治療において低分子薬として使用される。薬物の用量も評価される。
【0064】
好ましい実施形態では、PRP組成物を疾患モデル(in vitro、動物、ヒト、コンピューター)で使用して、遺伝子発現が評価される。好ましくは、疾患モデルは、細胞若しくは組織培養、又は動物モデル、又はヒト研究である。PRP組成物は、未治療又は他の公知の治療と比較した、疾患モデルにおける試験治療として使用される。DNAマ
イクロアレイ、RNA、マイクロRNA、エピジェネティクス、又は他の分子分析技術を使用して、モデルにおけるPRP治療による遺伝子発現の変化を決定する。細胞遺伝子発現のパターンが評価及び分析される。特定された分子が精製される。特定の疾患を治療するための薬物が生成され、効能が試験される。具体的には、特定の疾患又は状態を治療するために使用することができる酵素、タンパク質、又は分子が特定される。
【0065】
幾つかの実施形態では、薬物スクリーニングは、疾患又は状態を有する患者又は患者の亜集団に対して特異的である。幾つかの実施形態では、多血小板血漿組成物が、疾患又は状態を罹患している患者に投与され、PRP組成物の有効性が患者でモニターされる。治療が有効である場合、試料、典型的には血液若しくは唾液等の体液又は組織試料が、患者から採取される。試料は、回復と関連するマーカーについて分析される。試料は、DNAアレイ(遺伝子チップ)又は特異的マーカーを使用して、患者の遺伝子プロファイルを決定するために使用される。このプロファイルを、治療に応答しない患者と比較する。これらは、PRP組成物による治療に応答しなかった疾患個体又は健常個体であってもよい。遺伝子プロファイルにおける違いに基づいて、特定の遺伝子が、PRP組成物に応答する患者集団の薬物標的であると特定される。他のマーカーは、抗原、抗体、又は低分子であってもよい。PRPの効果を模倣する薬物を選択してもよい。そのような薬物は、疾患治療の候補である。
【0066】
任意の及び/又は全てのタイプのヒト、植物、及び動物の障害は、上記で概説されている方法を用いて、潜在的な創薬に関して評価することができるか又はできる可能性がある。また、時間の経過と共に、細胞、組織、又は生物の遺伝子発現を評価する新しい方法が開発されるだろう。これら新しい技術は、創薬用に多血小板血漿を使用する方法に関する評価及び分析に組み込むことができる。
【0067】
使用方法
PRP組成物は、任意の好適な用量で送達することができる。幾つかの実施形態では、用量は、約1cc〜約3cc、約3cc〜約5cc、約5cc〜約10cc、又は約10cc〜約20cc、又はそれ以上であってもよい。用量は、医学的処置に従って(例えば、処置の特定の時点で)及び/又はスケジュールに従って送達することができる。例えば、PRP組成物は、待機的除細動の前に、その処置を開始する約24時間、約12時間、約6時間、約2時間、及び/又は約1時間前に送達してもよい。
【0068】
幾つかの例では、PRP組成物は、罹患関節の又はその周辺の損傷結合組織に送達してもよい。PRP組成物は、注射器又はカテーテルを使用して注射により、その必要性のある個体に送達してもよい。PRP組成物は、皮膚パッチ、噴霧デバイスにより、又は軟膏、骨移植片、若しくは薬物と組合せて送達することもできる。PRP組成物は、更に、縫合糸、ステント、ネジ、プレート、又は他の埋め込み可能なデバイスのコーティングとして使用することができる。最後に、PRP組成物は、生体吸収可能な薬物又はデバイスと共に使用することができる。
【0069】
好ましい実施形態では、PRP組成物は、縫合材料に組み込まれる。PRP組成物は、縫合材料に織り込まれていてもよい。或いは、縫合材料は、使用前にPRPと共にインキュベートすることができる。インキュベーション時間は、数秒から任意の便利な時間までであってもよく、医学的処置が継続している期間であってもよい。PRPは、1分未満、5〜10分、10分〜1時間、1〜3時間、4〜12時間、13〜24時間、1〜3日、又は3〜31日等、使用前に数秒から数十時間、縫合材料と共にインキュベートしてもよい。
【0070】
PRPをコーティングした縫合材料は、適切なチャンバー中で便利に保管することがで
きる。幾つかの実施形態では、PRPをコーティングした縫合材料は、冷凍で、及び/又は低酸素濃度又は高酸素濃度下で保管してもよい。幾つかの実施形態では、PRPは、単独で、又は縫合糸、ネジ、ステント、埋め込み不能なデバイス、若しくは他のデバイス等の固定デバイスと組合せて、低酸素分圧及び/又は高酸素分圧、低pH及び/又は高pH、低圧力及び/又は高圧力、低UV及び/又は高UV又は他の光条件、低温及び/又は高温等の種々の条件下で、インキュベート又は保管してもよい。すなわち、チャンバー中の酸素分圧、pH、圧力、UV若しくは他の光、又は温度の条件は、生理学的及び/又は周囲条件とは異なる。
【0071】
1つの特定な例は、時間により変化する酸素供給量を有するPRP順化チャンバーである。酸素分圧は、20%に又は20%を超えて、好ましくは20〜25%の酸素分圧で、2〜10分間、好ましくは約5分間に設定され、その後徐々に又は急激に、20%未満の酸素分圧に、好ましくは2〜10%酸素分圧に、最も好ましくは約5%の酸素分圧に、2〜10分間、好ましくは約5分間変更される。この相対的低酸素負荷は、組織修復用の多血小板血漿の価値を、肯定的な様式で変更することができる。これら酸素値は、PRPに対する特定の効果に望ましい条件に基づいて、0〜100%の範囲で変化してもよい。
【0072】
保管時間は、1分未満、5〜10分、10分〜1時間、1〜3時間、4〜12時間、13〜24時間、1〜3日、3〜31日、又は1〜12か月、又は1〜5年等、異なっていてもよい。その後PRP組成物は、必要に応じて単独で又は固定デバイスと組合せて臨床的に使用することができる。縫合糸及び/又は他のデバイスを、多血小板血漿と一緒に製造し、多血小板血漿組成物をそのデバイスに組み込むこともできる。
【0073】
簡単な例は、20〜30%の酸素、好ましくは約22%の酸素を有するチャンバー内で、10〜30分間、好ましくは約15分間、多血小板血漿を有する縫合糸をインキュベーションすることである。その後、縫合糸は、アキレス腱又は心臓弁を修復するために使用することができる。
【0074】
代替的な実施形態では、多血小板血漿組成物は、デバイスの製造中に、縫合糸、ステント、ネジ、プレート、又は幾つかの他の埋め込み可能な医療デバイス等のデバイスに組み込まれる。その後、多血小板血漿が既に組み込まれているデバイスは、組織修復に使用される。
【0075】
別の実施形態では、多血小板血漿組成物は、1〜30分間、好ましくは約10分間、適切な低酸素チャンバー内で調製されステントと組合せる。その後、チャンバーを、1〜60秒間、1〜5分間、又は5〜15分間等の短期間、紫外線に曝す。その後、ステントをチャンバーから取り出し、患者に埋め込む。このチャンバーは、多血小板血漿及び/又はデバイスの生物学的活性を向上させることになると予測される。
【0076】
PRP組成物の送達部位は、典型的には、組織損傷部位又はその周辺である。組織損傷部位は、画像化研究及び患者の反応、又はそれらの組合せを含む、十分に確立した方法により決定される。使用される好ましい画像化研究は、組織タイプに基づいて決定することができる。一般的に使用される画像化法には、これらに限定されないが、MRI、X線、CTスキャン、陽電子放射形断層撮影法(PET)、単光子放出断層撮影法(SPECT)、電気インピーダンス断層撮影法(EIT)、電気源イメージング(ESl、Electrical Source Imaging)、磁気源イメージング(MSI、Magnetic Source Imaging)、レーザー光イメージング(laser optical imaging)、及び超音波技術が含まれる。患者は、特定の疼痛及び/又は不快な区域を指摘することにより、組織傷害又は損傷部位の特定を支援することもできる。
【0077】
幾つかの例では、PRP組成物は、急性心筋梗塞と診察された患者を治療するために使用することができる。PRP組成物による治療は、屋外又は緊急処置室の状況で行うことができる。例えば、PRP組成物治療の判断基準は、陽性の心臓マーカー、ST上昇、又は心エコー図で特定された新たな壁運動異常を含んでいてもよい。PRP組成物による治療の決定及び治療位置(複数可)は、心筋梗塞の1つ又は複数の特徴に依存する場合がある。例えば、心筋梗塞は、ST上昇型心筋梗塞(STEMI)又は非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)、Q波型又は非Q波型心筋梗塞として、及びそれらが心内膜下であるか又は貫壁性かであるかで特徴付けることができる。心筋梗塞は、心臓壁領域及び/又は心臓血管構造中で閉塞が疑われる部位により解剖学的に特徴付けることもできる。心筋梗塞は、位置が心室の前部か、外側か、下方か、後側か、中隔か、又は右側かにより特徴付けることもでき、例えば、冠動脈左前下行枝、冠動脈左回旋枝、冠動脈左主幹動脈、冠動脈後下行枝、及び右冠状動脈の疾患又は閉塞状態を伴っている場合がある。
【0078】
他の例では、PRP調製及び適用のタイミングは、心筋梗塞の患者に施される他の治療に基づいてもよい。幾つかの場合では、PRP組成物は、急性心筋梗塞又は以前の心筋梗塞を治療するために再灌流療法が実施される前に、実施中に、及び/又は実施後に調製及び送達することができる。再灌流療法には、血栓溶解療法(ヘパリン、TPA、及び/又は他の薬理学的作用剤等)、血管形成術、ステント留置(ベアメタルステント及び薬物溶出ステントを含む)、又は冠動脈バイパスグラフト(CABG)手術が含まれていてもよい。幾つかの場合では、再灌流療法は、突然死を含む不整脈リスクの増加と関連している場合がある。また、再潅流性不整脈の病因又は再潅流性不整脈のリスクは、心筋梗塞自体と関連する不整脈病因とは異なる場合があると考えられている。例えば、幾つかの再潅流性不整脈は、激発活性及び/又は再入により引き起こされる場合がある。PRP組成物は、再灌流処置の開始前又は開始時に調製してもよいが、処置中に不整脈が生じるまでは使用されなくともよい。他の再灌流処置では、再灌流を行う前に、例えば、ガイドワイヤーが閉塞を通過する前に、ステント配置前に、ステント拡張前に、又はバイパスセグメントを通る冠血流の回復前に、患者を、PRP組成物で予防的に事前処置してもよい。
【0079】
血栓溶解剤に曝された患者からPRPを調製することにより得られる結果は、患者が血栓溶解剤に全身的に曝されていない場合に得られる結果とは著しく異なる。血栓溶解剤には、ヘパリン、TPA、plavix、及びアスピリンが含まれる。
【0080】
PRPは、ブタモデルでは、ヘパリン処置の前、及びその後ヘパリン処置の後で調製される。下記の表に示されているように、明白で著しい差異があった。ヘパリンを全身的に投与する前に、PRPを標準的方法で調製し、血小板濃度は基準値の5.12倍であることが見出された。正確に同じ調製方法を使用してヘパリンと接触させた後では、血小板濃度は、基準値の0.71倍であることが見出された(下記の表を参照)。血小板濃度のこの変化は、その結果として、再生治療としてのPRPの効能に重大な変化をもたらす場合がある。このように、ヘパリンとの接触前後で、PRP組成物に明らかな相異がある。
【0081】
【表1】

【0082】
幾つかの処置では、PRP組成物は、非特異的MI治療として使用することができる。
従って、梗塞の特定タイプ及び/又は位置は、PRP組成物を患者に送達する前に特定してもよく、又は特定されていなくともよい。例えば、患者が、急性MIを罹患したことがあるか又は現在罹患していると単に決定することで十分な場合がある。従って、ECGは、PRPを送達するために必ずしも必要とされるわけではない。無論、ECGの使用は、ある状況では有益であり得る。例えば、調製及び使用されるPRP組成物の量は、MIが上昇ST部分を伴うかどうかに基づいて異なっていてもよい。幾つかの変法では、ECGを記録する前に全血を採取して、PRP組成物の調製を始める。その後、ECGを使用して、適切な送達機構を、PRP組成物の調製と同時に決定することができる。
【0083】
幾つかの変法では、PRP組成物は、MIの位置、タイプ、及び重症度(又はその幾つかの部分)が特定された後で、心臓に注射される。ある場合には、治療が有効になる可能性を増加させるために、PRP組成物を送達する心臓内の1つ又は複数の別々の位置を特定することが有益であり得る。
【0084】
MIの位置は、種々の技術を使用して決定又は推定することができる。例えば、幾つかの変法では、心臓に関する電気生理学研究又は電気的マッピング研究等の診断法を使用することができる。他の変法では、MRI、X線、CTスキャン、陽電子放射形断層撮影法(PET)、単光子放出断層撮影法(SPECT)、電気インピーダンス断層撮影法(EIT)、電気源イメージング(ESl)、磁気源イメージング(MSI)、レーザー光イメージング、及び超音波技術等の1つ又は複数の画像化技術を使用することができる。使用することができる他の技術及び手法には、開胸外科手術処置中の目視検査、局所的血流測定、局所的電気及び構造活性、核心臓学、超音波心臓検査法、心エコーストレス試験、冠動脈造影法、磁気共鳴画像法(MRI)、コンピューター断層撮影(CT)スキャン、及び脳室造影法が含まれる。
【0085】
ゲル又は他の粘性液体として製剤化されているPRP組成物は、針又は注射器で送達するのが難しい場合がある。従って、針又は注射器の使用が望ましい変法では、ゲル化剤及び/又は硬化剤をin situでPRP組成物に添加することが望ましい場合がある。1つ又は複数の針又はカテーテルを配置して、PRP組成物及び/又は作用剤を同時に又は実質的に同時に心臓組織に送達してもよい。例えば、針を使用してPRP組成物を送達する場合、針は、PRP組成物及び作用剤が別々に移動する複数の管腔を備えていてもよい。その代わりに又はそれに加えて、別々の針を使用して、成分を同時に又は交互に組織へと送達してもよい。
【0086】
PRP組成物は、侵襲性を最小限に抑えて及び/又は外科的に送達することができる。例えば、PRP組成物は、大腿静脈若しくは動脈、内頚静脈若しくは動脈、又は他の好適な静脈若しくは動脈から患者に挿入されたカテーテルを使用して、心臓に送達することができる。PRP組成物は、MI及び/又は他の心臓の状態を治療するための1つ又は複数の医療デバイス、器具、又は作用剤と共に送達することができる。
【0087】
医師は、PRP組成物を虚血組織に送達するために、様々な接近技術のうちの1つを使用することができる。これらには、外科的(例えば、胸骨切開、開胸、ミニ開胸、剣状突起下(sub-xiphoidal))手法、内視鏡検査手法(例えば、肋間及び経剣状突起(transxiphoidal))、及び経皮的(例えば、経血管的(transvascular)、心内膜的、及び心膜的)手法が含まれる。接近が得られれば、組成物を、心外膜的又は心内膜的又は経血管的手法により送達することができる。組成物は、1つ又は複数の位置で心臓壁組織又は心臓血管に送達することができる。これは、心筋内、心内膜下、及び/又は心外膜下投与を含む。
【0088】
心臓の虚血組織への接近が得られたら、送達デバイスを、任意の適切な血管を通して挿
入することができる。その後、送達デバイスの遠位端部を、心筋層の表面に対して配置することができ、1つ又は複数の針を組織へ進めることができる。PRP組成物の1つ又は複数の成分を送達した後、もしあれば、針を撤収することができる。その後送達デバイスは、組成物の1つ又は複数の成分を更に送達するために再配置してもよく、又は患者から取り除いてもよい。その後、標準的技術を使用して切開部を閉じることができる。
【0089】
実際は、PRP組成物の送達中に、拍動している心臓を安定させることができる。例えば、幾つかの変法では、拍動している心臓を、1つ又は複数の薬物の送達により、及び/又は心臓の電気刺激により、緩徐又は停止させることができる。例えば、心臓は、薬理学的心停止を使用して安定させることができる。その代わりに又はそれに加えて、心臓を相当に静的にするペーシング又は他のアルゴリズムを使用して、心臓を安定させることができる。これら処置により、心停止、細動、又は持続性不応状態の可逆的な開始等の、種々の心臓状態を開始することができる。更に別の実施形態では、心臓組織の機械的な安定化は、様々な機械的安定化システムのいずれを使用して達成することができる。幾つかの例では、安定化処置の組合せを使用してもよい。
【0090】
PRP組成物は、心臓周期の特定の期間中に送達してもよく、これら変法では、ペースメーカーとして作用する1つ又は複数の刺激電極の使用が望ましい場合がある。例えば、心臓周期の特定の相中にPRP組成物を送達するために、心拍間期間を人為的に延長することができる。これら変法では、送達デバイスは、1つ又は複数の刺激及び/又は検知電極を含んでいてもよい。例えば、検知電極を使用して心収縮を検知することができ、それにより組成物の送達タイミングを心収縮と合わせることが可能になる。PRP組成物の1つ又は複数の成分は、心収縮間に送達することが望ましい場合がある。
【0091】
幾つかの例では、治療処置中に1つ又は複数の心臓センサーを使用することができる。センサーは、心収縮又は心拍動を示す1つ又は複数のシグナルを検出可能な任意の好適なセンサーシステム(例えば、電気的センサー、化学的センサー、圧力センサー、血管内画像化センサー、又はバイオセンサー)であってもよい。心臓センサーを使用して心臓からの電気信号を検出及び増幅し、視覚出力を表示及び/又は音声出力を提供することにより、心臓の電気的活性をモニターすることができる。例えば、出力は、ディスプレイインターフェースに表示されてもよい。医師は、この出力を使用して、心臓周期の特定の時点で針及び/又は組成物を組織に注射することができる。心臓センサーは、心リズムを操作又は制御するために、心臓刺激装置に接続されていてもよい。
【0092】
幾つかの変法では、神経刺激装置を使用して、迷走神経を刺激することにより心リズムを電気的に操作することができる。迷走神経の刺激は、心停止をもたらす場合がある(心臓の緩徐又は停止)。迷走神経の刺激を止めると、心臓は正常リズムに回復することができる。或いは、心臓をペーシングしてもよい。迷走神経の刺激を、単独で又は電気的ペーシングと組合せて、選択的及び断続的に使用し、医師が、一時的に停止された心臓への組成物の1つ又は複数の成分の送達を実施することを可能にする。
【0093】
典型的には、迷走神経の刺激は、心収縮を緩徐又は防止さえすることができる。心臓の初期緩徐又は停止の後で、PRP組成物の1つ又は複数の成分を心臓に送達することができる。短間隔で神経刺激をしながら送達を実施することができ、その後神経刺激を止め、心臓を収縮させることができる。心臓刺激装置又はペースメーカーを使用して心臓の収縮を引き起こしてもよく、又は心臓を自由に独力で拍動させてもよい。幾つかの変法では、所望のように心臓をペーシングするために、1つ又は複数の電極を使用してもよい。プロセッサーは、心臓刺激及び神経刺激を両方とも制御することができる。例えば、プロセッサーは、神経刺激を停止させ、自動的に心臓刺激を始めることができる。
【0094】
送達システムは、所定の比率(例えば、WBCと血小板との比率)でPRP組成物の成分を送達することができる。所定の比率は、事前に計算してもよく、又は送達が始まってから臨機応変に決定してもよい。所定の比率で成分を送達するために、送達デバイスは、対応するギア比を有する1つ又は複数のギア、比例した管腔サイズを有する1つ又は複数の管腔、又は任意の他の好適な機構を備えていてもよい。幾つかの送達デバイスは、1つ又は複数の混合チャンバーを備えていてもよい。複数の成分は、別々の送達デバイスを使用して送達されてもよく、又は同じ送達デバイスを使用して交互に送達されてもよい。
【0095】
送達デバイスは、治療される虚血組織に隣接している血管を通って進行させてもよい。PRP組成物は、針及び/又は先端部針状カテーテルを使用して、虚血組織に直接注射してもよい。その代わりに又はそれに加えて、PRP組成物は、血管に点滴してもよい。
【0096】
1つ又は複数のカテーテルを使用してPRP組成物を送達する場合、任意の好適なカテーテルを使用することができる。例えば、カテーテルは、1つ又は複数の管腔、及びジグザグ状又は平滑状の先端部を備えていてもよい。カテーテルは、遠位端部に位置する針又は他のデバイス(例えば、画像化デバイス)、及び近位端部に位置するプランジャー又は任意の他の制御部を備えていてもよい。カテーテル及び/又は他の送達デバイスは、所定の比率でPRP組成物の複数の成分を送達するために、異なるサイズの管腔を有していてもよい。カテーテルを使用する場合、医師は、PRP組成物を心外膜、心内膜、及び/又は経血管的に送達するために心腔へと辿り着くことを含むがそれに限定されない、脈管構造を通って心臓に接近するために知られている経路のうちの1つを使用して、心臓に辿り着くことができる。
【0097】
PRP組成物の心内膜送達は、経皮的に順行性接近で上大静脈又は下大静脈を通って右心室に進行する送達デバイスを使用して、例えば心臓の左心室の治療部位に接近することを含む。送達デバイスは、心房中隔を通過して左心房に至り、次いで左心室に至り、治療部位に到達してもよい。或いは、デバイスは、中隔通過処置を使用して、例えば心室中隔を通って左心室に進行させてもよい。別の実施形態では、PRP組成物は、右心室から心室中隔に直接注射してもよい。代替的な心内膜送達法は、経皮的に逆行性接近で大動脈を通って左心房に、次いで左心室へと進行する送達デバイスを使用して、治療部位に接近することを含んでいてもよい。
【0098】
組成物の経血管性送達は、冠状静脈洞を通り心臓静脈を介して心臓静脈系へと送達デバイスを通過させること、及び必要に応じて、心筋組織をたどることにより静脈から出ることを含んでいてもよい。代替的な経血管性送達法は、大動脈から冠状動脈を通って治療部位に到着することにより治療部位に接近することを含む。
【0099】
PRP組成物を注射又は送達するためのデバイス(カテーテル又は別様のもの)は、PRP組成物を所望の温度に維持するための、冷却部分又は他の温度制御機構を備えていてもよい。送達デバイスの種々の実施形態は、冷却チャンバー、及び/又はPRPチャンバー若しくは注射チャンバーに、PRP成分の沈殿若しくは凝集を防止するための撹拌機構を備えていてもよい。例えば、幾つかの変法では、カテーテル又は他の送達デバイスは、送達中にPRP組成物を冷却しておくための1つ又は複数の冷却管腔を有する。それに加えて又はその代わりに、送達デバイスは、送達の前にPRP組成物を混合するための混合チャンバーを備えていてもよい。PRP組成物は、また、撹拌/振動チャンバーに保管されてもよく、又はPRP組成物は、送達デバイス内部に入れられた際に、傾けることにより又はそうでなければデバイスを操作することにより、医師が撹拌してもよい。
【0100】
施術医は、単一のデバイスを使用して、種々の位置への複数の送達を行ってもよく、複数のデバイスを使用して、種々の位置への複数の送達を行ってもよく、単一のデバイスを
使用して、単一位置への単一送達を行ってもよく、又は複数のデバイスを使用して、単一位置への単一送達を行ってもよい。送達デバイスは、少なくとも1つの再使用可能な針又はカテーテルを備えていてもよい。幾つかの実施形態は、自動投薬システム(例えば、注射器押出システム)を有する送達デバイスを備えていてもよい。自動投薬システムは、各用量を事前に決定し、目盛りで設定することを可能にしてもよい(可変でもよく又は固定でもよい)幾つかの実施形態では、イオン泳動デバイスを使用して、PRP組成物を虚血組織に送達することができる。
【0101】
その代わりに又はそれに加えて、PRP組成物は、例えば縫合糸、ステント、ネジ、及び/又はプレート等の1つ又は複数のデバイスにコーティングされていてもよい。ペースメーカー等の抗不整脈デバイスが指導的役割を果たし、自動除細動器もまた、埋め込みの前に、同時に、又はその後で、PRP組成物でコーティングされていてもよく、PRP組成物が噴霧されていてもよく、又はPRP組成物に浸漬されてもよい。
【0102】
他の心臓組織又は心臓に隣接している他の位置へ偶発的送達を回避しつつ、PRP組成物を虚血組織に送達することが望ましい場合がある。例えば、送達の際にPRP組成物をゲル化又は硬化して、拡散を防止することができる。幾つかの変法では、PRP組成物が凝固又は少なくとも部分的に固定化されるまで、送達中にバルーン付きカテーテルを冠状静脈洞に留置して膨張させることができる。他の変法では、PRP組成物の圧力駆動拡散を防止するために、圧力制御システムが送達デバイスに備えられていてもよい。逆流出血は、注射した後の数秒間(例えば、約5〜約30秒間、又は約5〜約120秒間)針を適所に維持することにより防止することもできる。
【0103】
センサーを使用して、送達デバイスを所望の位置に誘導し、及び/又はPRP組成物を送達することができる。例えば、電気活性(例えば、ECG)、pH、酸素化、乳酸等の代謝産物、又はCO2等のリアルタイム記録を使用することができる。センサーは、1つ又は複数の電気センサー、光ファイバーセンサー、化学センサー、画像化センサー、構造センサー、及び/又はコンダクタンスを測定する近接センサーであってもよい。センサーは、送達デバイスに組み込まれていてもよく、又は送達デバイスと分離していてもよい。幾つかの実施形態では、センサーは、針挿入深度、血液ガス、血圧又は血流、ヘモクリット(hemocrit)、光、温度、振動、電圧、電流、力、及び/又はインピーダンスを感知又はモニターすることができる。センサーは、1つ又は複数の画像化システムを備えていてもよく、任意の適切な出力デバイス、例えば、情報を受信及び表示するLCD又はCRTモニターに接続されていてもよい。
【0104】
患者に送達されるPRP組成物の総容積は、心臓のサイズ、罹患虚血組織の量、及び/又は処置の所望の転帰に基づいていてもよい。例えば、注射される組成物の総容積は、15000μL未満であってもよい。
【0105】
心臓における送達部位の数は、梗塞(複数可)のタイプ及び位置、PRP組成物の所望位置、及びその所望位置を隔てる距離に基づいてもよい。送達部位の数は、約1〜約25部位の範囲であってもよい。送達部位を隔てる距離は、1送達部位当たりの送達される血小板ゲルの所望容積、送達される所望の総容積、及び/又は虚血組織の状態に基づいて異なってもよい。送達部位では、PRP組成物は、注射されてもよく、点滴されてもよく、又はそうでなければ虚血組織に若しくは虚血組織に隣接して配置されてもよい。PRP組成物は、標的部位の上流の脈管構造(つまり、血管)に点滴することもでき、その結果PRP組成物は、罹患虚血組織に向かって流れて行くことになる。
【0106】
送達部位の位置は、虚血組織のサイズ及び形状、並びに組織治療の所望の範囲に基づいて異なってもよい。例えば、PRP組成物は、虚血組織に送達されてもよく、及び/又は
虚血組織に接する組織に送達されてもよい。同様に、本組成物は、虚血組織及び他の心臓組織の領域の任意の組合せに送達されてもよい。
【0107】
急性MIに関するPRP送達のタイミングは、梗塞形成の重症度、虚血組織の範囲、患者の状態、及び任意の併発MI又は不整脈治療の進行度に基づいてもよい。PRP組成物は、任意の好適な時点で送達することができる。例えば、PRP組成物は、MI発症の直後に、MIの1時間以内に、MI後の1〜8時間以内に、又は患者が別の処置を受けるほうが安全な場合は、患者が臨床的に安定した後、MIの3〜4日後に送達することができる。タイミングは、カスパーゼ−3の血中レベルに基づいていてもよい。幾つかの変法では、組成物は、MIの約1週間後、約1〜3週間後、約1〜約6か月後、又は最長約1年後以降にさえ送達される。虚血組織に組成物を注射するための他時点も企図されており、それらには、あらゆる考え得るMIの前、及び虚血組織の区域を見出した直後が含まれる。無論、組成物は、MIの数年後に虚血組織に注射されてもよい。
【0108】
再灌流の後、本デバイス及び方法は、現行の抗不整脈療法と共に、及び/又は不整脈の可能性を増加させることが一般的に知られている他の医学的処置と同時に使用してもよい。例えば、本方法及びデバイスに関して一般的に考察されているように、種々の心臓処置は、心臓の緩徐(徐脈)及び/又は停止(心停止)をある期間必要とする場合がある。
【0109】
以前に言及されているように、PRP組成物は、それに加えて又はその代わりに、他の心臓処置に使用することができる。これら心臓処置には、抗不整脈処置、先天性心臓疾患又は他の病態を治療する処置が含まれていてもよい。他の心臓処置の例には、これらに限定されないが、血管形成術、冠動脈バイパス術、低侵襲冠動脈バイパス術(MlDCAB)、オフポンプ冠動脈バイパス術、完全内視鏡下冠動脈バイパス術(TECAB)、大動脈弁修復術、大動脈弁置換術、僧帽弁修復術、僧帽弁置換術、Ross手術、Bentall手術、肺血栓内膜摘除術、経心筋血行再建術(TMR)、自己弁温存大動脈基部置換術、心筋形成術、Dor手術、心臓移植、中隔筋切除術、心室縮小術、心膜穿刺術、心膜切除術、心房中隔開口術、ブラロック−タウシグ短絡術、フォンタン手術、ノーウッド手術、ラステリ手術、メイズ手術(Coxメイズ及びミニメイズ)、及び/又はペースメーカー挿入が含まれる。PRP組成物は、心臓組織の再灌流に伴う不整脈を防止するために、上記の処置のいずれの最中でも使用することができる。周知のように、再灌流は、心臓外科手術後に自然発症不整脈を引き起こす場合がある。
【0110】
PRP組成物は、単独で使用されてもよく、又はこれらに限定されないが、幹細胞(胚性又は成体)、臍帯血、薬物、遺伝子操作された分子、又は他の生理活性物質を含む他の療法と組合せて使用されてもよい。
【0111】
キット
キットは、本明細書に記載の任意のデバイス、部品、又はデバイス及び/若しくは部品の組合せを含んでいてもよい。例えば、キットは、1つ又は複数の調製デバイス、1つ又は複数の送達デバイス、1つ又は複数の収集デバイス、及び/又は使用説明書を含んでいてもよい。1つ又は複数の調製デバイスは、PRPを調製するためのものであり、例えば、遠心機を含んでいてもよい。1つ又は複数の送達デバイスは、損傷結合組織に、又はMIを治療するために心臓の領域に、PRPを含むPRP組成物を送達するように構成されていてもよい。1つ又は複数の収集デバイスは、1つ又は複数の注射器、アフェレーシス針、又は患者から血液を収集するための他のデバイスを含んでいてもよい。患者は、MI及び/又は結合組織損傷を現在罹患しているか又は過去に罹患していてもよい。キットの部品は、滅菌容器に包装されていてもよい。キットは、1つ又は複数の使い捨て部品を含んでいてもよい。説明書は、文字又は絵文字の形態であってもよく、又は音声テープ、音声CD、ビデオテープ、DVD、又はCD−ROM等を含む記録媒体にあってもよい。
【0112】
本明細書に記載の組成物、方法、及びシステムに関する先述の使用に加えて、当業者であれば、傷害心臓組織及び結合組織だけでなく他の傷害組織も、傷害を治療するための構造的支持物質の送達から利益を得ることになることは明白だろう。そのような組織の非限定的な例には、胃、食物摂取量を低減し満腹を増加させるため;腹壁、ヘルニアを予防及び治療するため;及び膀胱、失禁を予防又は治療するため、が含まれる。そのような組織には、血管組織が更に含まれていてもよい。
【実施例】
【0113】
実施例1:マウスモデルにおけるPRPによる心筋梗塞の治療
Biomet社製GPSシステム、Depuy社製Symphony機、Medtronic社製Magellan機、Harvest社(プリマス、マサチューセッツ州)、Genesis Enterprises社、Sorin Medical社、及びRegen Lab社製のもの等の遠心機ユニットを使用して、PRPを調製した。およそ55ccのヒト全血を、標準的滅菌注射器を使用して採取し、血液凝固阻止のために5ccのクエン酸デキストロース溶液と混合し、その後製造業者のプロトコールに従って遠心沈降して、血小板を単離した。その後これら血小板を、およそ3ccの血漿に再懸濁した。種々の濃度が、図1の表に示されている。
【0114】
ヒト由来PRP組成物又は生理食塩水対照を、恒久的な左前下行枝動脈結紮術後に、マウスモデルの心筋層に筋肉内に注射した。この結紮術は、その結果として心筋梗塞又は心臓発作もたらした。駆出率を、7日目にMRLにより測定した。図2に示されているように、結紮術の7日後の駆出率、生理食塩水対照の駆出率は26%であったが、PRPで治療された群の駆出率は36%だった。
【0115】
実施例2:抗血液凝固剤投与前のPRPの調製
心臓発作が疑われる患者の全血を、緊急処置室に運び込まれた直後に採取する。血液を臨床検査用に送ってもよいが、ヘパリン、TPA、plavix、アスピリン、及び/又は他の薬理学的作用剤又は介入作用剤の投与前に、多血小板血漿(PRP)を調製するために十分な余分の血液も採取されている。PRPは、再灌流療法開始後の送達用に取っておくか、及び/又はそのような介入の前に送達する。
【0116】
PRPは、これらに限定されないが、遠心機、重力ろ過デバイス、又は細胞選別器等を含む様々な技術を使用して調製することができる。PRPは、幹細胞、遺伝子操作、又は恒久的若しくは生体吸収性ペースメーカー若しくはステント等の機械的デバイスと組合せることができる。PRPを製作し、その後冷凍又は凍結乾燥状態で保管することができる。好ましい形態では、PRPは、生理学的pHに緩衝化されることになるが、異常伝導経路の切除等の特定の臨床適応のために、酸性又は塩基性pHのいずれかでPRPを滴下注入することも有用であり得る。更に別の実施形態では、好中球又は白血球の他の画分が部分的に又は完全のいずれかで枯渇されている形態で、PRPを調製することもできる。
【0117】
実施例3:虚血関連状態の創薬におけるPRPの使用。
多血小板血漿を、in−vitro、動物、又はヒトモデルにおける虚血再灌流治験(心臓発作等の)に使用する。組織又は細胞の発現分析を、様々な時点で行う。マイクロアレイ出力のコンピューター分析を行って、アポトーシス、細胞調節、又は任意の新規若しくは既存のシグナル経路のマーカーの特異的上方制御又は下方制御を捜し出す。PRPに応答して上方制御又は下方制御された遺伝子を特定する。これら特定された遺伝子に効果を及ぼす薬物を、虚血状態に対するそれらの効果について試験する。遺伝子発現に基づいて、心臓発作、脳卒中、又は外傷性傷害で生じる場合があるもの等の、虚血又は再灌流組織の問題を治療するのに有用な薬物を特定する。
【0118】
実施例4:癌治療の創薬におけるPRPの使用
PRP組成物を使用する治療を、in vitro、動物、又はヒトモデルにおける癌治験で使用する。例えば、PRPを腫瘍に又は腫瘍の周辺に注射することができる。遺伝子発現に対する治療の効果を、マイクロアレイを使用して決定する。マイクロアレイ出力のコンピューター分析を行って、アポトーシス、細胞調節、又は任意の新規若しくは既存のシグナル経路のマーカーの特異的上方制御又は下方制御を捜し出す。治療が成功した個体の遺伝子発現に基づいて、有効な治療に応答して上方制御又は下方制御された遺伝子を特定する。特定された遺伝子に効果を及ぼす薬物を、これらに限定されないが、脳癌、肺癌、乳癌、結腸癌、又は他の腫瘍性疾患を含む、いずれか又は全てのタイプの癌の治療に使用する。
【0119】
実施例5:結合組織傷害の創薬におけるPRPの使用
実施例3及び4のように、PRP組成物を使用する。これらに限定されないが、腱、靭帯、軟骨、脊椎円板、筋肉、又は硬骨等を含む結合組織傷害等の別の疾患状態又は障害が、特定される。様々な用量又は製剤の多血小板血漿又はその誘導体を添加した及び添加しない細胞又は組織の遺伝子発現を評価するために、特定のプロトコールを開発する。その後、この発現を分析して、そのような障害に関する薬物開発の新規な標的を探し出す。
【0120】
本明細書には、方法、デバイス、及びキットが、説明及び例示のために、ある程度詳細に記述されているが、そのような説明及び例示は、理解の明瞭さのためのものに過ぎない。当業者であれば、本明細書の教示に照らして、添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱せずに、ある種の変更及び改変をなすことができることは、直ちに明白だろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全血に由来し、全血中の血小板濃度の少なくとも約1.1倍である第1の濃度の血小板と、
全血に由来し、少なくとも全血中の白血球濃度である第2の濃度の白血球を含み、前記白血球が、
全血中の単球濃度の少なくとも2倍である第3の濃度の単球、
全血中のリンパ球濃度の少なくとも2倍である第4の濃度のリンパ球、及び
全血中の好酸球濃度の約1.5倍である第5の濃度の好酸球を含む組成物。
【請求項2】
前記第1の濃度が、全血中の血小板濃度の2〜8倍である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記第1の濃度が、全血中の血小板濃度の約4倍〜約6倍である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記第1の濃度が、1マイクロリットル当たり約500,000〜約1,500,000個の血小板、より好ましくは1マイクロリットル当たり約600,000〜約900,000個の血小板である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記第2の濃度が、全血中の白血球濃度の4〜8倍である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記第2の濃度が、1マイクロリットル当たり約15,000〜約50,000個の白血球である、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記第3の濃度が、全血中の単球濃度の約8倍未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
前記3の濃度が、1マイクロリットル当たり約1,000〜約5,000個の単球である、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記第4の濃度が、全血中のリンパ球濃度の約8倍未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記4の濃度が、1マイクロリットル当たり約5,000〜約20,000個のリンパ球である、請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
前記第5の濃度が、1マイクロリットル当たり約200〜約1,000個の好酸球である、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
全血中の赤血球濃度未満である第6の濃度の赤血球を更に含み、前記第6の濃度が、全血中の赤血球濃度の約0.1〜約0.9倍である、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
全血中のヘモグロビン濃度の約0.25倍である第7の濃度のヘモグロビンを更に含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
前記第7の濃度が、1デシリットル当たり約5グラム未満、より好ましくは1デシリットル当たり約3.5グラム未満である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
前記白血球が、第8の濃度の好中球を更に含み、前記第8の濃度が、全血中の好中球の濃度未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記好中球が除去されている、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記第8の濃度が、全血中の好中球濃度の約4倍〜約8倍である、請求項15に記載の組成物。
【請求項18】
前記第8の濃度が、1マイクロリットル当たり約10,000〜約40,000個の好中球である、請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
前記組成物が、遠心分離、重力ろ過、又は直接細胞選別により、全血から調製される、請求項1に記載の組成物。
【請求項20】
心臓の状態を治療するための方法であって、
急性虚血、心筋梗塞、不整脈、アポトーシス、又は心機能低下からなる群から選択される患者の心臓の状態を特定すること;及び
請求項1〜19のいずれかに記載の組成物を前記患者に送達して、前記心臓の状態を治療することを含む方法。
【請求項21】
前記患者の全血に由来する前記組成物を調製することを更に含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記組成物を送達する前に、前記組成物に対する適合性に関して多血小板血漿を試験することを更に含む、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
急性虚血性組織損傷が、直近の24時間以内に生じた、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
心筋梗塞を治療する再灌流療法が、直近の24時間以内に行われ、前記組成物の送達が、前記再灌流療法の前又は後の約24時間以内に行われる、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
損傷結合組織を治療するための方法であって、
外側上顆炎、足底筋膜炎、膝蓋腱炎、アキレス腱炎、回旋筋腱板腱炎、足首捻挫、及び靱帯裂傷からなる群から選択される患者の損傷結合組織を特定すること、及び
請求項1〜19のいずれかに記載の組成物を前記患者に送達して、前記損傷結合組織を治療することを含む方法。
【請求項26】
前記患者の全血に由来する前記組成物を調製することを更に含む、請求項37に記載の方法。
【請求項27】
患者からPRPを調製するための方法であって、
前記患者から血液を採取すること、
前記血液からPRPを調製すること、及び
前記患者に再灌流療法を施すことを含み、血栓溶解剤が、前記血液を採取する前に前記患者に投与されていない方法。
【請求項28】
前記血栓溶解剤が、ヘパリン、tPA、PLAVIX(登録商標)、及びアスピリンからなる群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記患者が、前記血液を採取する前の少なくとも2時間、好ましくは1日間、より好ましくは2週間、更により好ましくは1か月間、血栓溶解剤を受容していない、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記血液からのPRPの調製が、
前記血液から血漿画分を取得するステップ、
前記血漿画分から血小板を単離するステップ、
低減された量の血漿中に前記血小板を再懸濁するステップ、及び
前記再懸濁された血小板に7.3〜7.5のpHをもたらすようにpHを調整して多血小板血漿組成物を準備するステップを含み、前記多血小板血漿の活性化因子が前記多血小板血漿組成物に添加されていない、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
疾患又は状態を治療するための薬物候補を特定するための方法であって、
請求項1〜19のいずれかに記載の多血小板血漿組成物を、疾患又は状態を罹患している個体に、又は細胞培養、コンピュータモデル、及び動物モデルからなる群から選択されるその疾患の疾患モデルに、治療として投与すること、
前記疾患又は状態を罹患している個体、又はその疾患の前記モデルにおいて、前記治療の効能をモニターすること、
前記治療に応答する個体又は前記治療に応答する前記モデルからの結果を選択すること、
前記応答個体又は応答モデルから血液、唾液、又は組織試料を取得すること、
前記試料を、所定のマーカー(複数可)について分析すること、
前記試料の分析を、前記治療に応答しない前記疾患の個体又はモデルと比較すること、及び
前記治療に応答する被検体を特定すること、及び
前記被検体に影響を及ぼす薬物についてスクリーニングし、それにより前記疾患又は状態を治療するための薬物候補を特定することを含む方法。
【請求項32】
前記治療に応答しない前記個体又はモデルが、前記疾患又は状態を有していない、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記治療に応答しない前記個体又はモデルが、前記疾患又は状態を有しているが、前記治療に応答しない、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記疾患又は状態が、虚血、癌、免疫系疾患、結合組織傷害、皮膚疾患、及び神経系疾患からなる群から選択される、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記疾患又は状態が虚血であり、前記虚血が心虚血である、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記疾患又は状態が癌であり、前記癌が脳癌である、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記疾患又は状態が、肘、肩、又は膝の腱症である結合組織傷害である、請求項34に記載の方法。
【請求項38】
前記疾患又は状態が、パーキンソン病である神経系疾患である、請求項34に記載の方法。
【請求項39】
前記治療が、PRP組成物を、腫瘍、心臓組織、又は結合組織に投与することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項40】
前記PRP組成物が、全血の濃度の0〜0.9のレベルである好中球を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項41】
前記分析が、遺伝子プロファイルを決定することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項42】
前記分析が、タンパク質、脂質、抗体、抗原、酵素、又は低分子のレベルを測定することを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項43】
患者の疾患診断をするための方法であって
前記患者から血液試料を取得すること、
前記血液試料からPRPを取得すること、
前記PRPから分析を取得すること、及び
前記患者に由来する前記PRPの前記分析を、前記疾患を有する集団のPRPから得られた分析と比較すること、及び
前記患者の前記PRPの分析が、前記疾患集団の前記PRPの前記分析と一致することを決定し、それにより前記疾患を診断することを含み、
前記分析が、イムノアッセイ又は遺伝子プロファイルである方法。
【請求項44】
請求項1〜19のいずれか1つに記載の多血小板血漿を、単独で又はステント、縫合糸、ネジ、及び埋め込み可能なデバイスからなる群から選択される固定デバイスと組合せて含むデバイス。
【請求項45】
前記デバイスが、チャンバーであり、前記チャンバー内の条件が、低酸素分圧、高酸素分圧、低pH、高pH、低圧力、高圧力、低UV、高UV、低温、及び高温のうちの1つ又は複数を含む、請求項44に記載のデバイス。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−505239(P2012−505239A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−531182(P2011−531182)
【出願日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際出願番号】PCT/US2009/060061
【国際公開番号】WO2010/042762
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(511090970)バイオパラドックス,リミテッド ライアビリティー カンパニー (1)
【Fターム(参考)】