説明

心臓脂肪組織由来の成体幹細胞集団および心臓再生におけるその使用

本発明は、GATA−4および/またはCx43を構成的に発現する、脂肪心臓組織由来の成体幹細胞の新規な集団の単離および特性決定に関する。前記細胞集団は、損傷を受けた心筋組織を再生するために細胞療法プロトコールで使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
発明の分野
本発明は、新規な脂肪心臓組織由来の成体幹細胞集団の単離および特性決定、ならびにその潜在的治療適用に関する。具体的には、本発明は、損傷を受けた心筋組織を再生するための細胞治療プロトコールにおける前記脂肪心臓組織由来の成体幹細胞集団の使用に関する。
【0002】
背景技術
今日、先進国において、心血管疾患を含む変性疾患が有する多大な社会的かつ経済的影響により、従来の療法を改良することができる細胞前駆体の探索を促してきた。
【0003】
心筋梗塞の主要な帰結は心筋の一部の不可逆的欠損であり、この心筋の一部は瘢痕組織に置き換わる。この不可逆的欠損により、心筋の収縮能の低下ならびに必要な心拍出量を得るためのポンピング機能の低下を引き起こし、生き残った心筋の過負荷をもたらして、ついには心不全に至る。1998年、心筋梗塞からの生存者は米国だけでも7500万人を超える。これらの生存者のうち、30%を超える人が梗塞後1年の間に死に至っている。梗塞後の生存率は、血管新生が無いために死滅した心筋領域の大きさに大きく依存する。ヒトにおいては、左心室の大きさの45%を超える梗塞は不可逆的な心臓性ショックを引き起こす。
【0004】
この心筋の局部的欠損は、アポトーシスによる細胞死の増加、筋細胞の肥大、および生き残った心筋における繊維症の増大とともに残りの心筋の再編成を引き起こす。この心筋の再編成は、一般に、「リモデリング」として知られ、非常に頻繁に心不全の発症を引き起こす。こういった状況では、心臓は適切な心拍出量を維持することができず、その個体の生命力の重大かつ段階的な制限をもたらす。
【0005】
急性心筋梗塞後、ならびにうっ血性心不全を発症した患者においては、現行の療法では重篤な難治性心室機能不全を有するこれらの患者の心筋を完全に回復させることができない。心筋の欠損に現在用いられている治療法は総て、残っている心筋の機能を保存することを目的としている。
【0006】
前記治療法の目的は、生き残った心筋細胞(心臓の収縮細胞)の機能を保存および改善し、アポトーシスまたは壊死のいずれかによるそれらの死滅を防ぐことである。心筋梗塞のほとんどの処置は、さらなる収縮細胞の欠損を防ぐために虚血領域の血流を回復させる試みである。これらの再潅流療法には血小板溶解剤(冠動脈内に形成された血栓を溶解する)、バルーン血管形成術(遮断された動脈を物理的方法により開くため)、または静脈グラフトにより閉塞した動脈の近位部と遠位部を連結するブリッジにより遮断された領域が迂回される冠動脈バイパスの使用が含まれる。1998年に米国だけで50万件を超えるバルーン血管形成術および同様の件数のバイパス手術が行われた。これらの処置は多くの場合、損傷を受けた領域に対する冠動脈流の再確立を達成し、一定時間、心筋のさらなる欠損を回避する。しかしながら、それらには、介入時にすでに死滅している組織を回復させることができるものはない。この欠損が実質的なものであれば、長期的には、慢性心不全が起こり、致命的な心不全へと進行する。
【0007】
これまでのところ、心機能を完全に回復させる致命的心不全の処置に対する唯一の選択肢は心臓移植である。しかしながら、臓器移植はドナーの不足、高い確率の移植臓器拒絶などのいくつかの問題を有する。
【0008】
心不全の特定の症例においては、ドナーの不足のために、移植は必要とする患者の最大5%にしか利用できない選択肢である。この治療介入の高いコストは十分に限定された障害ではないとして、生涯続く免疫抑制による重いコスト負担と、これらの患者が結果として罹患する多数の新形成がこの治療法のさらなる限定要因となる。
【0009】
従来、唯一胚胎児発生中に分裂した心筋細胞は心筋梗塞後に不可逆的に失われると考えられていたので、比較的近年まで心臓生物学の専門家は、心臓は自己再生能を持たないと考えていた。最近の研究によれば、この概念は根本的に変化した。
【0010】
幹細胞の適用からの心臓の再生能の原理に基づく細胞療法または心筋形成術は、心疾患の処置における有望な治療経路として認識される。ここ5年、心筋再生の方法を明らかに示した一連の研究が行われ、成体心臓に再生能を有する内在性幹細胞および/または心外性幹細胞が存在することを実証した。これに関して、移植後の心臓キメラ現象の観察は、心筋組織に定着し、心臓の運命を選定し得る細胞の存在の信頼できる試験であった[Bayes-Genis A. et al., 2002, Host-cell derived cardiomyocytes in Sex-mismatch cardiac allografts. Cardiovasc Res 2002; 404-410]。
【0011】
この分野の研究により求められる主要な目的の一つは、心臓再生療法に安全かつ有効に適用され得る最適な種類の幹細胞を特定することである。心臓再生に好適な種類の幹細胞は十分に増殖し、完全に機能的な心筋細胞の分化能を示し、心筋組織に組み込まれて隣接する細胞と電気化学的接触を確立でき、最後に、その適用が免疫拒絶または倫理面の問題により制限されないものでなければならない。
【0012】
幹細胞はそれらの自己維持能およびそれらの可塑性を特徴とし、後者の用語は好適な刺激下で一以上の細胞系譜へ分化するそれらの能力に関するものである。幹細胞は、基本的に細胞系譜または株、起源の器官または組織の判定基準、特定の表面マーカーの発現、転写因子および/またはタンパク質の発現、ならびに分化能、すなわち生成可能な特定の細胞の数および種類に従って分類される。
【0013】
幹細胞としては、胚幹細胞として知られる第一段階の胚(芽細胞)発達の一つの過程で得られる幹細胞と、成体幹細胞と呼ばれる成体体細胞組織由来のものとの間に明確な区分がある。成体幹細胞は分化組織に見られる非分化細胞であり、増殖し、一以上の細胞種へ分化する能力を有する。成体幹細胞は種々の成体組織に存在し、それらの存在は骨髄、脂肪組織、血液、角膜、網膜、脳、骨格筋、歯髄、消化管上皮、肝臓、および皮膚において広く記載されている。それらの性質のため、自己成体幹細胞は免疫適合性があり、その使用に当たっての倫理的問題もない。
【0014】
内在性心臓幹細胞が確認されている[Beltrami, A.P. et al. Adult cardiac stem cells are multipotent and support myocardial regeneration. Cell 114, 763-76 (2003)、 Oh, H. et al. Cardiac progenitor cells from adult myocardium: homing, differentiation, and fusion after infarction. Proc Natl Acad Sci U S A 100, 12313-8 (2003)]にもかかわらず、損傷後の組織修復は欠如しており、代わりの成体非心臓幹細胞の集団が検討されてきた[Goldstein, G. et al. Human umbilical cord blood biology, transplantation and plasticity. Curr Med Chem 13, 1249-59 (2006)、 Orlic, D. et al. Transplanted adult bone marrow cells repair myocardial infarcts in mice. Ann N Y Acad Sci 938, 221-9; discussion 229-30 (2001)、 Pittenger, M.F. & Martin, B.J. Mesenchymal stem cells and their potential as cardiac therapeutics. Circ Res 95, 9-20 (2004)、 Rangappa, S., Fen, C, Lee, E.H., Bongso, A. & Sim, E.K. Transformation of adult Mesenchymal stem cells isolated from the fatty tissue into cardiomyocytes. Ann Thorac Surg 75, 775-9 (2003)、 Zvaifler, N.J. et al. Mesenchymal precursor cells in the blood of normal individuals. Arthritis Res 2, 477-88 (2000)]。
【0015】
成体幹細胞は、マウスからヒトまで、損傷後の様々な哺乳類の心臓で試験されてきた。マウスにおいては、骨髄由来幹細胞で大きな期待が生まれたが、このような期待はそれらの心臓再生能が限定され、議論の余地があることを示す報告[Balsam, L.B. et al. Haematopoietic stem cells adopt mature haematopoietic fates in ischaemic myocardium. Nature 428, 668-73 (2004)、 Murry, C.E. et al. Haematopoietic stem cells do not transdifferentiate into cardiac myocytes in myocardial infarcts. Nature 428, 664-8 (2004)]により減退した。ヒトでは、前臨床において心機能に一定の改善を示したが[Assmus, B. et al. Transplantation of Progenitor Cells and Regeneration Enhancement in Acute Myocardial Infarction (TOPCARE-AMI). Circulation 106, 3009-17 (2002)、 Strauer, B.E. et al. Repair of infarcted myocardium by autologous intracoronary mononuclear bone marrow cell transplantation in humans. Circulation 106, 1913-8 (2002)]、より最近の臨床試験は、細胞供給後の心機能に若干の上昇を示すに過ぎないことを示す[Dohmann, H.F. et al. Multicenter Double Blind Trial of Autologous Bone Marrow Mononuclear Cell Transplantation through Intracoronary Injection post Acute Myocardium Infarction a MiHeart/AMI Study. Trials 9, 41 (20
08)]。
【0016】
虚血性心疾患の処置にために採用される主要なアプローチとしては、筋芽細胞[Herreros J et al., 2003. Autologous intramyocardial injection of cultured skeletal muscle-derived stem cells in patients with non-acute myocardial infarction. Eur Heart J. 2003 Nov; 24(22):2012-20、 Mathur A. et al. 2004. Stem cells and repair of the heart. Lancet 2004 Jul 10-16; 364(9429):183-92]または骨髄由来幹細胞[Tomita S et al., 2002. Bone marrow stromal cells contract synchronously with cardiomyocytes in a coculture system. Jpn J Thorac Cardiovasc Surg. 2002 Aug; 50(8):321-4、 Fernandez-Aviles F et al., 2004. Experimental and clinical regenerative capability of human bone marrow cells after myocardial infarction. Circ Res. 2004 Oct 1; 95(7):742-8. Epub 2004 Sep 9]の使用に基づくものが含まれる。しかしながらやはり、それらの臨床適用を困難にする一連の大きな障害がなお存在する。
【0017】
よって、心機能を回復させる新たな種類の成体幹細胞の探索が、重要な取り組みとして続けられている。
【0018】
白色脂肪組織はヒトの身体で最も豊富な組織の一つであり、身体の種々の領域に存在する。この白色脂肪組織は二つの細胞集団からなり、一方は成熟脂肪細胞、他方は間質血管画分(SVF)に容易に分離することができる。後者はヘテロであり、骨髄の場合と同様に、間質画分と、造血細胞からなる画分との二つの画分に分割することができる。間質画分は培養中に接着する繊維芽細胞様細胞からなる。この比較的均質な細胞集団は、骨髄由来間葉幹細胞のものと同一ではないが類似の特性を有する[Zuk et al., 2001. Multilineage cells from human adipose tissue: implications for cell-based therapies. Tissue Eng. 2001 Apr; 7(2):211-28]。前記細胞は、一般に、脂肪組織由来幹細胞(ADSC)と呼ばれ、容易に単離し、比較的短い倍加時間および低い老化レベルで何ヶ月も培養することができる細胞である。皮下脂肪組織由来幹細胞の場合、後者は、各細胞系譜の特異的誘導因子に応答して、脂肪細胞、骨芽細胞、軟骨細胞、さらには心筋細胞を含むいくつかの細胞種へ分化することができる。ADSCは心筋修復のための自己細胞の潜在的供給源であり得ることも発表されている(WO2006/127007号公報)。
【0019】
これまで、成体幹細胞の臨床使用は、心機能の回復に関して、ある程度の結果しか上げられていないが、臨床試験は細胞療法が安全であることを証明し、幹細胞の治療適用後に心臓が再生能を有するという「概念の実証」である。
【0020】
よって、たとえ近年において心筋再生の知識に著しい進歩があったとしても、心臓再生療法に安全かつ有効に使用することができる成体幹細胞集団、従って、心筋組織の傷害を修復するための簡単かつ有効な方法を提供する成体幹細胞集団は見出されていない。現在のところ、有効な梗塞後療法から利益を受けることができる患者の割合は低く、従って、既存の療法の有効性の改善ならびに特に多発性梗塞を受けた患者に対して心臓傷害を回復させることができる別の方法の探索が必要である。
【発明の概要】
【0021】
本発明は、心臓脂肪組織に由来する、好ましくは、驚くことにある特定の心筋形成傾向を有する心筋の心外膜領域に由来する成体幹細胞の新規な集団に関する。具体的には、本発明は、病態生理学的状況において心臓修復に寄与するための、細胞療法プロトコールにおける前記脂肪心臓組織由来の成体幹細胞集団の使用に関する。
【0022】
本発明は、心臓周囲の脂肪(心外膜および/または心膜脂肪組織)に存在する成体幹細胞のこの新規な集団がin vitroにおいて心筋細胞系譜へと向かうある特定の傾向を有する一連の心臓特異的マーカーを、メッセンジャーRNA(mRNA)レベルおよびタンパク質レベルの双方において構成的に発現するという知見に基づく。いずれの仮説にも縛られるものではないが、この傾向はおそらくは心筋組織と緊密に接触するそれらの位置およびそれらを取り巻く環境によるものと思われる。
【0023】
本発明者らは、この新規な細胞集団が、すでに記載されている他の幹細胞集団に比べてより良好な心筋形成能を持つ可能性がある。従って、脂肪心臓組織から単離されたこの新規な成体幹細胞集団が、心臓組織の再生、および例えば一回以上の心筋梗塞を受けた患者またはうっ血性心不全を発症した患者など、機能的心筋組織が欠損している状態における処置に有用である可能性のある細胞系試薬であることを見出した。
【0024】
本発明者らは特に、心外膜領域の新規なヒト心臓脂肪組織由来の成体幹細胞集団をそれらの表面マーカーにより特徴づけ、心臓転写因子GATA−4およびNkx2.5、β−ミオシン重鎖(β−MHC)、心臓トロポニンI(cTn1)、およびα−アクチニンと呼ばれる筋節成分、ならびにそれぞれ電気化学的結合および細胞内カルシウム分布のレギュレーターであるコネキシン−43(Cx43)およびSERCA−2心筋細胞の種々の基本成分の遺伝子(mRNA)およびタンパク質の発現を分析した。これらのマーカーの総ての発現を構成的に、すなわち、特定の系譜へと向かう分化のためのいずれの種類の誘導因子も培養培地に加えることなく分析した。
【0025】
ヒト心外膜脂肪組織(epi−ADSC)および皮下脂肪組織(sub−ADSC)サンプルからの成体幹細胞の実質的に均質な集団における免疫表現型プロファイル、ならびに心臓特異的マーカーの遺伝子およびタンパク質発現の比較研究を行った。前記細胞集団の単離および増殖は、皮下脂肪由来幹細胞に関してこれまでに確立されているプロトコールに従って行った。両細胞集団間の表面抗原の発現に関しては有意な違いは見られなかったが、ベースライン条件における遺伝子発現の特性決定のための比較アッセイでは(実施例3)、前記epi−ADSC細胞集団は驚くことに、皮下脂肪組織由来幹細胞(sub−ADSC)においてその発現に関する隣接する心筋細胞間の電気化学的結合を担う心臓転写因子GATA−4およびCx43タンパク質の遺伝子(mRNA)発現レベルの統計学的に有意な増加を呈したことが明らかに示された。
【0026】
遺伝子発現分析において得られた結果を、ウエスタンブロットおよび免疫蛍光による前記心臓特異的マーカーのタンパク質レベルでの発現の研究と比較した(実施例4)。免疫蛍光アッセイの結果は、核GATA−4、β−MHC、SERCA−2、Cx43、およびα−アクチニンの発現、ならびに心臓脂肪組織由来幹細胞(epi−ADSC)集団における細胞レベルでのその分布を示す。ウエスタンブロットの結果は、epi−ADSC細胞に対する皮下脂肪組織由来幹細胞(sub−ADSC)の発現プロファイルの比較を示し、核タンパク質GATA−4とCx43の発現の差異、および後者が培養期間中どのように維持され、または増加するかが確認された。さらにβ−ミオシン重鎖(β−MycHC)の、培養期間による発現の差異も見られた。
【0027】
epi−ADSCおよびsub−ADSC細胞の集団における心筋細胞系譜の特異的遺伝子の発現の比較研究の結果は、心外膜脂肪由来幹細胞(epi−ADSC)集団が同じ個体からの皮下脂肪由来幹細胞集団よりも大きく心臓系譜へ傾くことを示す。
【0028】
本発明者らによりヒト心臓脂肪組織由来の成体幹細胞(心臓ADSC)集団を用いて行われた、初期発現およびin vitro分化実験の分析に基づくさらなる研究においては、前記心臓ADSCが固有の心臓型表現型を持ち、脂肪細胞に分化できないが、培養においては内皮細胞系譜に分化することが示された。前記心臓ADSCは新脈管形成促進因子を分泌し、これらの細胞をラット心筋梗塞モデルの損傷を受けた心筋に移植したところ、注入された細胞は心臓タンパク質および内皮タンパク質を発現し、血管新生を高め、梗塞の大きさを軽減することにより、in vivoにおける心機能を改善し(実施例6および7)、従って、心臓ADSCは心筋細胞療法の妥当な候補と考えることができる。
【0029】
よって、一つの態様において、本発明は、GATA−4および/またはCx43を構成的に発現する単離された新規な哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞に関する。特定の実施形態においては、前記単離された哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞はそのin vitro増殖中にGATA−4および/またはCx43を構成的かつ安定な様式により発現する。
【0030】
別の態様において、本発明は、前記哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞の単離された集団に関する。
【0031】
別の態様において、本発明は、GATA−4および/またはCx43を構成的に発現する哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞を含んでなる組成物を得るための方法に関する。前記方法に従って得ることができる組成物は本発明のさらなる態様である。
【0032】
別の態様において、本発明は、前記哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞から分化細胞を得るための方法であって、前記幹細胞を好適な特定の分化培地で培養することを含む方法に関する。前記方法に従って得ることができる分化細胞は本発明のさらなる態様である。
【0033】
別の態様において、本発明は、前記の単離された脂肪心臓組織由来の成体幹細胞集団、前記哺乳類脂肪心臓組織由来の幹細胞を含んでなる前記組成物、または前記哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞から得ることができる前記分化細胞を含んでなる組成物と、薬学上許容されるビヒクルとを含んでなる医薬組成物に関する。
【0034】
別の態様において、本発明は、前記の単離された脂肪心臓組織由来の成体幹細胞集団、前記哺乳類脂肪心臓組織由来の幹細胞を含んでなる前記組成物、前記哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞から得ることができる前記分化細胞を含んでなる前記組成物、または前記医薬組成物を含んでなる生体材料に関する。
【0035】
別の態様において、本発明は、心臓組織再生のための医薬組成物の製造における、虚血性心疾患の処置のための医薬組成物の製造における、心筋梗塞後処置のための医薬組成物の製造における、うっ血性心不全の処置のための、または新脈管形成を刺激するための医薬組成物の製造における、前記の単離された脂肪心臓組織由来の成体幹細胞集団、前記哺乳類脂肪心臓組織由来の幹細胞を含んでなる前記組成物、または前記哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞から得ることができる前記分化細胞を含んでなる前記組成物の使用に関する。
【0036】
別の態様において、本発明は、心臓組織再生のため、虚血性心疾患の処置のため、心筋梗塞後処置のため、うっ血性心不全の処置のため、または新脈管形成を刺激するための、前記の単離された脂肪心臓組織由来の成体幹細胞集団、前記哺乳類脂肪心臓組織由来の幹細胞を含んでなる前記組成物、または前記哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞から得ることができる前記分化細胞を含んでなる前記組成物の使用に関する。
【0037】
別の態様において、本発明は、心臓組織再生のため、虚血性心疾患の処置のため、心筋梗塞後処置のため、うっ血性心不全の処置のため、または新脈管形成を刺激するための方法であって、それを必要とする被験体に治療上有効な量の脂肪心臓組織由来の成体幹細胞、前記哺乳類脂肪心臓組織由来の幹細胞を含んでなる前記組成物、前記哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞から得ることができる前記分化細胞を含んでなる前記組成物、または前記医薬組成物を投与することを含む方法に関する。
【0038】
別の態様において、本発明は、前記の単離された脂肪心臓組織由来の成体幹細胞集団、前記哺乳類脂肪心臓組織由来の幹細胞を含んでなる前記組成物、または前記哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞から得ることができる前記分化細胞を含んでなる前記組成物を含むキットに関する。
【0039】
別の態様において、本発明は、in vitroにおいて生物学的薬剤または薬理学的薬剤に対する細胞応答を評価するための方法であって、前記薬剤を所望により特定の細胞種に分化させた、単離された脂肪心臓組織由来の成体幹細胞集団、または前記哺乳類脂肪心臓組織由来の幹細胞を含んでなる前記組成物と接触させ、そして培養中の前記細胞集団に対する薬剤の効果を評価することを含む方法に関する。
【0040】
別の態様において、本発明は、増殖因子および/またはサイトカインを得るための方法であって、前記哺乳類脂肪心臓細胞由来の成体幹細胞、または前記幹細胞から分化した細胞を、前記増殖因子および/またはサイトカインの発現および産生に好適な条件下で培養し、そして所望により前記増殖因子および/またはサイトカインを分離することを含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】(A)は、心外膜および皮下脂肪の抽出画分の写真を示す。(B)は、ヒト心外膜脂肪組織由来の成体幹細胞(epi−ADSC)の形態が観察できる顕微鏡像を示す。(C)は、ヒト皮下脂肪組織由来の成体幹細胞(sub−ADSC)の形態が観察できる顕微鏡像を示す。
【図2】フローサイトメトリー(FACS)によるヒト心外膜脂肪組織由来の成体幹細胞(epi−ADSC)の免疫表現型の特徴を示す。試験下の4名の患者(P1〜P4)に相当するヒストグラムを示す[図2A epi−ADSC P1、図2B epi−ADSC P2、図2C epi−ADSC P3、および図2D epi−ADSC P4]。これらのヒストグラムはy軸に試験下のマーカーの蛍光強度を、x軸に細胞数を示す。各ヒストグラムは対照マーカー(黒)および試験下のマーカー(グレー)の発現グラフを重ね合わせて示す。x軸上の、対照に対する試験下マーカーの横移動の程度は、細胞サンプルが対象マーカーに関してどの程度陽性かを示す。
【図3】リアルタイムRT−PCRによる成体幹epi−ADSCおよびsub−ADSC細胞集団間の心臓特異的マーカーの構成遺伝子発現の比較分析を示す。転写因子GATA4の発現差異(継代培養2回および継代培養5回)が見られ(図3A、3Bおよび3C)、継代培養5回では、sub−ADSC幹細胞に対してepi−ADSC幹細胞のCx43転写物レベル(その発現はおそらくGATA4により誘発される)の上昇も見られる(図3Bおよび3C)。分析した残りの心臓遺伝子(α−アクチニン、β−MHC、心臓トロポニンI、SERCA−2およびNkx2.5)に関しては、細胞の培養中、それらの発現に関して有意な違いは見られなかった。
【図4】ウエスタンブロットによるepi−ADSC(E)およびsub−ADSC(S)成体幹細胞集団間の心臓特異的マーカーの発現の比較分析を示す。 図4Aは、全抽出物の比較分析を示す。 図4Bは、細胞質(C)および核(N)画分で行った比較分析を示す。継代培養2回(p2)および継代培養5回(p5)の双方において、sub−ADSC幹細胞に対してepi−ADSC幹細胞によるCx43およびGATA−4のタンパク質発現レベルの上昇が見て取れる。また、epi−ADSC幹細胞における継代培養5回でβ−MHCの発現の差異も見られる。
【図5】免疫蛍光によるepi−ADSC成体幹細胞集団における心臓特異的マーカーの発現を示す。顕微鏡写真は、心臓タンパク質:GATA−4、β−MHC(βMHC)、α−アクチニン、SERCA−2、およびコネキシン−43(Cx43)の発現の、特異的抗体による検出を示す。GATA−4が細胞核に最も多く見られること、β−MHCが構造的によく組織化されて筋原繊維を形成していること、およびα−アクチニン、SERCA−2、およびCx43が細胞中に拡散分布していることが見て取れる。
【図6】心臓ADSCの単離および特性決定を示す。図6aは、開胸心臓手術の際のヒト心臓の様子を示し、近位右冠動脈の隣接部で採取した心臓脂肪組織の生検を保持する鉗子が見られる(AO:大動脈、LV:左心室)。図6bは、集密前の心臓ADSCの一次培養を示す(20倍)。図6cは、心臓ADSCのフローサイトメトリーによる免疫表現型検査を用いた分析の結果を示す棒グラフである。
【図7】脂肪形成分化培地で培養した後の心臓ADSC(図7a)および皮下ADSC(図7b)のアリザリンレッドS染色による脂肪形成分化分析の結果を示す。図7cは、アッセイした種々の細胞集団(心臓および皮下ADSC)に関する、処置3週間および4週間後の脂肪細胞種陽性細胞のパーセンテージを示す棒グラフである。
【図8】皮下ADSCと比較した心臓ADSCにおける心筋形成遺伝子のリアルタイムRT−PCRの結果を示す棒グラフである。値は、ある細胞種が同じ患者由来の他の細胞種の何倍発現されるかを示す(この場合には、心臓ADSCと皮下ADSCの比較)。皮下ADSCに比べ心臓ADSCではGATA4およびCx43転写物の統計学的に有意な増加が見られる(GATA4、p<0.001、Cx43、p=0.031)。
【図9】ウエスタンブロットおよび免疫組織蛍光によるアッセイを受けた心臓ADSCの心臓マーカーの基礎発現を示す。図9aは、心臓および皮下(Sub)ADSC溶解液のウエスタンブロット解析の結果を示す(成体ヒト心臓タンパク質の抽出物を対照として用いた)。図9b〜9dは、心臓ADSCにおけるそれぞれβ−MHC、SERCA2および筋節α−アクチニンの発現を示す(赤)。図9eは、心臓ADSCにおけるGATA4(緑)およびCx43(赤)の発現を示す。図9cおよび9dのパネルでは、核はHoescht 33342(青)で染色した。スケールバーは50μm。
【図10】心臓ADSCと新生児心筋細胞との同時培養を示す。心臓eGFP+−ADSC(緑:a、e、i、lおよびp)、cTnI(赤:b、fおよびj)、β−MHC(青:c)、DAPIによる核の対比染色(シアン:d)(青:g、h’、およびs)。(h’、k’、およびo’)それぞれh、kおよびoにおける点線のxz様式で示したもの。共焦顕微鏡で撮影した、心臓ADSCにおける心臓マーカーの同時局在を示す画像。Cx43(赤:m)、筋節α−アクチニン(シアン:n)、SERCA2(赤:q)、およびGATA4(シアン:r)。(d、h、h’、k、k’、o、o’、およびs)は合成画像である。スケールバーは50μm(a〜dおよびp〜s)、25μm(and〜hおよびl〜o)および10μm(i〜k)。
【図11】心臓ADSCが培養中に内皮細胞へ分化することを示す。図11aは、リアルタイムRT−PCRにより測定された、非処理対照細胞に比べEGM−2で処理した細胞の新脈管形成促進マーカーが何倍発現されるかを示す棒グラフである。図11bは、分化処理後の心臓ADSCによるDiI−Ac−LDLの組み込みを示す。図11c〜11eは、マトリゲルコーティングを伴う心臓ADSCの培養2、4、および7時間の細管の形成を示す(10倍)。図11fおよび11gは、マトリゲルでのコーティング内に形成された細管のGSLIイソレクチンB4染色を示す。スケールバーは50μm。
【図12】種々の心エコー機能パラメーター:内径短縮率(FS)[図12a]、駆出率(EF)[図12b]、および前壁厚(AWT)[図12c]の値を示す。
【図13】ラット心臓の形態計測分析の結果を示す。図13aおよび13bは、術後30日のラット心臓の、梗塞心筋を通る断面図のマッソンのトリクローム染色の結果を示す(e、対照、f、処理)。図13cおよび13dは、対照群および細胞処理群におけるラットのLVの梗塞サイズ%とLV壁厚を示す。
【図14】梗塞を有するラットの心臓におけるヒト心臓ADSCのグラフトの結果を示す。心臓および内皮のin vivo分化が見て取れる。図14aは、心筋に注入された心臓eGFP+−ADSCを緑で示し、注入された心臓eGFP+−ADSCがヒト起源であることを確認するためにヒト核抗原(HNA、赤)に対する免疫染色の結果が示される。図14b〜14dは、心臓ADSCが注入された心臓の切片における、cTnI(b)、筋節α−アクチニン(c)およびCD31(d)(総て赤)に対する免疫染色の結果を示す。境界領域に注射したにもかかわらず、虚血性組織中にこれらの細胞の分布が見られるのは重要なことである。スケールバーは50μm。
【図15】eGFP+(ROI1)およびバックグラウンド(ROI2)細胞の発光スペクトルの測定結果を示す。
【図16】梗塞心筋における、具体的には、対照心筋の境界領域(図16a)および心臓ADSCで処理された心筋(図16b)における、GSLIイソレクチンB4で染色された毛細血管の毛細血管密度分析の結果を示す。図16cは、梗塞の境界領域および遠位領域における、対照群および心臓ADSC処理群の毛細血管数/mmを示す棒グラフである。遠位領域では有意な違いは見られなかった。スケールバーは50μm。
【発明の具体的説明】
【0042】
本発明は一般に、心外膜および/または心膜領域に存在する心臓脂肪組織由来の成体幹細胞の実質的に均質な集団に関する。本発明者らは、前記細胞集団が、起源の異なる他の幹細胞に比べて大きな心筋形成能を有する、心臓系譜への特定の傾向を有することを見出した。よって、前記細胞集団は心臓組織の再生に有用である可能性がある。特に、本発明は、病態生理学的状況において心臓の修復に寄与する細胞療法プロトコールにおける、前記脂肪心臓組織由来の成体幹細胞集団の使用に関する。前記細胞集団は、例えば心筋梗塞を受け、かつ/またはうっ血性心不全を発症した患者の処置など、心筋の収縮能の欠如が見られる状態における心筋再生のための医薬組成物または生体材料の製造に使用することができる。
【0043】
定義
本明細書の理解を助ける目的で、いくつかの用語および表現が本発明に関して用いられる場合の意味を以下に説明する。必要であれば、さらなる定義が本説明とともに含まれる。
【0044】
「被験体」という用語は、動物、好ましくは、非霊長類(例えば、ウシ、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラット、またはマウス)および霊長類(例えば、サル、ヒト)を含む哺乳類を指す。好ましい実施形態では、被験体はヒトである。
【0045】
「成体幹細胞」という用語は、幹細胞の特徴を有する分化組織に存在する細胞を指す。成体幹細胞は分化組織に見られる非分化細胞であり、増殖し、一以上の細胞種へ分化する能力を有する。成体幹細胞は、種々の成体組織に存在し、それらの存在は骨髄、脂肪組織、血液、角膜、網膜、脳、骨格筋肉、歯髄、消化管上皮、肝臓、および皮膚において広く記載されている。
【0046】
本明細書において区別なく用いられる「脂肪組織」または「脂肪組織」という用語は、細胞質中に脂質を蓄積する細胞の会合により形成された間葉組織を示す。脂肪組織は、一方では、バッファーとしての働き、内部器官ならびに身体のより外部の構造の保護および適正な位置への保持を含む機械的機能を果たし、他方では、代謝機能も果たす。哺乳類では、褐色脂肪組織または褐色脂肪と白色脂肪組織の二種類の脂肪組織に区別することができる。これらの組織は、代謝の点と、細胞組成の点とで異なる組織と認識される。新生児と月齢6か月未満の乳児においては、褐色脂肪は低温環境に曝された際の補償機構としての産熱に関与するが、成人では、この産熱は甲状腺活性により媒介される。心筋細胞の前駆(幹)細胞の供給源としての新生児褐色脂肪および再生心臓療法におけるそれらの可能性のある使用が特定されるという文献が最近発表された(Yamada et al., 2006. Cardiac progenitor cells in brown adipose tissue repaired damaged myocardium. Biochem Biophys Res Commun. 2006 Apr 7; 342(2):662-70. Epub 2006 Feb 10)。白色脂肪組織で行われた一連の研究は、それが生物のあらゆる主要な機能に直接的または間接的に関与していることを示す。白色脂肪組織は、互いに相互作用するいくつかの細胞集団からなる極めてヘテロな組織である。この点で、それらの場所による細胞の生物学および可塑性の違いを考慮する必要がある。男性および女性の肥満の比較は、脂肪組織の発達がその場所によって生物に異なる影響を及ぼすことを示す。また、これらの細胞の分化能もその場所に依存する。その沈着の起源による脂肪組織の間質細胞集団の分化能間の比較試験では、マウスの場合、最大分化能を有する脂肪組織は皮下脂肪組織であることが示された(Prunet-Marcassus et al., 2006. From heterogeneity to plasticity in adipose tissues: site-specific differences. Exp Cell Res. 2006 Apr 1; 312(6):727-36. Epub 2005 Dec 28)。
【0047】
「脂肪心臓組織」という用語は、その解剖学的場所により心外膜脂肪組織(心筋を覆う)または心膜脂肪組織(心膜領域、すなわち心臓の近傍)に区別することができる心臓脂肪組織を指す。脂肪組織は、局部的および全身的双方の作用を有する分子を生成する極めて複雑な内分泌器官であることが知られている。それらの質的な特性が類似しているにもかかわらず、現在、異なる種類の脂肪組織、特に、皮下および内蔵脂肪組織は特定のタンパク質の異なる発現プロファイルを有することが知られ、活性な生物分子の産生における示差的特徴が示唆される(Dusserre E. et al.; 2000. Differences in mRNA expression of the proteins secreted by the adipocytes in human subcutaneous and visceral adipose tissues. Biochim Biophys Acta. 2000 Jan 3; 1500(1):88-96)。
【0048】
「構成的発現」または「基礎発現」という用語は、その発現を誘導する因子の非存在下における遺伝子の発現を表す。構成的発現遺伝子は絶え間なく転写される遺伝子と理解される。
【0049】
「単離された」という用語は、細胞集団に関する場合、ヒトを含む動物の器官または組織から単離された、in vitroまたはin vivoでその細胞集団と一般に会合している他の細胞集団を実質的に含まない細胞集団を指す。一般に、他のものを「実質的に含まない」細胞集団は、in vitroまたはin vivoでその細胞集団と一般に会合している他の細胞集団の少なくとも50%から、好ましくは少なくとも60%から、より好ましくは少なくとも70%から、さらにより好ましくは少なくとも80%から、一層より好ましくは少なくとも90%から、一層さらに好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%、またはさらには99%から分離されている場合に得られる。
【0050】
「虚血性心疾患」という用語は、冠動脈が所定の心筋領域に必要な酸素を運ぶことができず、心筋の働きが困難になることから起こる疾病を指す。冠動脈の変性の最も多い原因は動脈硬化またはアテローム性動脈硬化である。これらの二つの状況は、血液供給の低下に極めて敏感な心臓の細胞に血液を届きにくくする。冠動脈性心疾患または虚血性心疾患は、心臓に達する酸素量が不十分な場合に発現する。その主要な結果は、心筋梗塞、狭心症、冠動脈不全、心筋虚血、および突然死である。
【0051】
「心不全」、「うっ血性心不全」、または「CHF」という用語は、心臓が身体の他の器官の必要を満たすのに十分な酸素を供給する血液を送り出すことができない慢性疾患を指す。結果として、生物の生命維持に必要な器官が十分な酸素および栄養を受け取れず、生物からの老廃物の排除がさらに遅くなる。長引けば、生命維持に必要な系が働きを停止する。心不全は一般に、基礎にある心臓の問題の徴候である。
【0052】
「心筋梗塞」、「急性心筋梗塞」、または「AMI」という用語は、1本または数本の冠動脈またはそれらの分岐の閉塞による心筋の一部の虚血性壊死を指す。心筋梗塞は機能的心筋細胞の欠如を特徴とし、心筋組織は不可逆的に損傷を受ける。心筋または心臓の筋肉は、進行した冠動脈疾患が存在する場合に梗塞を受け、特定の症例においては、これは冠動脈瘤内にアテローム斑が存在する、または破れる場合に起こり、血管の急な閉塞が起こる。
【0053】
「心臓再生」、「心臓組織再生」、または「心筋再生」という用語は、増殖し、心筋細胞へ分化し、損傷を受けた心筋組織および心機能を再生することができる幹細胞の移植による心臓組織細胞の欠損の修復を指す。
【0054】
本明細書で用いる場合、「処置する」、「処置」、および「処置すること」とは、その処置を必要とする被験体に、本発明により提供される、脂肪心臓組織由来の成体幹細胞集団を含んでなる医薬組成物の投与から得られる病態生理学的状態の改善、治癒、または軽減を指す。
【0055】
本発明の幹細胞
本発明は、ある特定の心筋形成傾向を有する心臓脂肪組織由来の成体幹細胞の新規な集団の同定に基づくものである。従って、それらは機能的心臓組織の欠損があった病態生理学的状態において細胞療法プロトコール、特に心筋組織の修復および/または再生に寄与するための細胞療法プロトコールに使用することができる。
【0056】
よって、一つの態様において、本発明は、GATA−4および/またはコネキシン43(Cx43)を構成的に発現する、単離された哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞(以下、本発明の幹細胞)に関する。
【0057】
本発明の幹細胞は、本明細書において「心臓ADSC」と呼ばれることもあり、心臓脂肪組織の供給源、例えば、齧歯類、霊長類など、好ましくはヒトの哺乳類の、例えば、心外膜または心膜脂肪組織、例えば、心臓脂肪組織間質画分から得られる。特定の実施形態では、本発明の幹細胞はヒト心外膜脂肪組織から得られる。
【0058】
本発明の幹細胞は自家、同種異系、または異種の細胞であり得る。特定の好ましい実施形態において、前記細胞は自家のものであり、それらが投与される被験体の心臓脂肪組織から単離される。
【0059】
それらの起源に加え、本発明の幹細胞はGATA−4および/またはCx43を構成的に発現することを特徴とする。特定の実施形態においては、本発明の幹細胞はGATA−4およびCx43を構成的に発現する。
【0060】
GATA−4は、ジンクフィンガー転写因子のGATAファミリーに属す転写因子である。このファミリーのメンバーは、数種の遺伝子のプロモーターに存在するGATAモチーフを認識する。このタンパク質は胚発達に関与する遺伝子の調節、ならびに心臓の分化および機能に関与すると思われる。このGATA−4タンパク質をコードする遺伝子の突然変異は心臓中隔における欠損に関連付けられている。
【0061】
コネキシン43(Cx43)は、GJA1(ギャップ結合タンパク質)とも呼ばれ、コネキシンファミリーのメンバーである。このタンパク質は、ある細胞から別の細胞へ低分子量物質を拡散させるための経路を提供する細胞内チャネル群からなる、細胞内ギャップ結合の成分である。Cx43タンパク質は、心臓の収縮の同期に重要な役割を果たすと思われる心臓のギャップ結合ならびに胚発達における主要なタンパク質の一つである。
【0062】
これまでに考察されているように、骨格筋は心筋再生用の細胞を得るための可能性のある供給源であると考えられるが、骨格筋はCx43を発現せず、心筋細胞間に存在するギャップ結合が形成されない。従って、得られる筋管間と隣接する心筋の間の収縮は同期しない。この電気的結合の欠如が、いくつかの臨床系における悪性不整脈の発症を説明するものである(Herreros J et al., 2003. Autologous intramyocardial injection of cultured skeletal muscle-derived stem cells in patients with non-acute myocardial infarction. Eur Heart J. 2003 Nov; 24(22):2012-20)。
【0063】
特定の好ましい実施形態では、本発明の幹細胞におけるGATA−4および/またはCx43の構成的発現はそのin vitro増殖の間、安定して維持される。
【0064】
本明細書において、「そのin vitro増殖の間」の細胞による遺伝子またはタンパク質の「安定な」発現という表現は、少なくとも2回のin vitro継代細胞培養中に実質的に同じレベルで維持される細胞による遺伝子またはその発現生成物(タンパク質)の発現を指す。すなわち、この細胞は、そのin vitro増殖のために、実施例1に記載のように3日または4日ごとに培養培地を交換しつつ集密前まで、37℃、5%COを含む空気雰囲気下、10%FBS、1mM L−グルタミン、および1%ペニシリン−ストレプトマイシンを添加したα−MEM培養培地での培養など、好適な条件下(培養培地、温度、雰囲気、希釈、培養培地変化など)でin vitro培養される。
【0065】
本発明の幹細胞は、自家、同種異系、または異種の細胞であり得る。特定の好ましい実施形態においては、これらの細胞は自家のものであり、それらが投与される被験体の心臓脂肪組織から単離される。
【0066】
特定の実施形態においては、本発明の幹細胞は、既に記載されている他の幹細胞集団ならびに脂肪心臓組織由来の成体幹細胞(本発明の幹細胞)と同じ被験体から得られた皮下脂肪組織由来幹細胞(sub−ADSC)に構成的には存在しないβ−ミオシン重鎖(β−MHC)を構成的に発現する。このタンパク質は筋節(心筋細胞の収縮装置)の一部を形成するという事実により、心筋の収縮に不可欠な役割を果たしていることが知られている。
【0067】
別の特定の実施形態においては、本発明の幹細胞は、そのin vitro培養中にSERCA−2タンパク質を構成的に発現する。この筋形質タンパク質(SERCA−2)はCa2+−ATPアーゼポンプであり、心筋細胞内部のカルシウムの細胞内分布の調節を担う。この機能はまた心筋の適切な収縮のための基礎でもある。
【0068】
さらに、本発明の幹細胞はまた、CD14、CD29、CD34、CD44、CD59、CD90、CD105、CD106、およびCD117などの一連の表面マーカー、ならびに所望によりマーカーCD45、CD133、CD166、およびVEGFR2の発現または非発現により特徴づけることができる。
【0069】
特定の実施形態では、本発明の幹細胞は、CD29、CD44、CD59、CD90、およびCD105から選択される一以上の表面マーカーをさらに発現することを特徴とする。すなわち、本発明の幹細胞は、表面マーカーCD29、CD44、CD59、CD90、およびCD105の少なくとも一つ、二つ、三つ、四つまたは好ましくは総てに関して陽性である。別の特定の実施形態においては、本発明の幹細胞は、表面マーカーCD166をさらに発現することを特徴とする。従って、別の特定の実施形態においては、本発明の幹細胞は、CD29、CD44、CD59、CD90、CD105、およびCD166から選択される1以上の表面マーカーをさらに発現することを特徴とする。すなわち、本発明の幹細胞は、表面マーカーCD29、CD44、CD59、CD90、CD105、およびCD166の少なくとも一つ、二つ、三つ、四つ、五つまたは好ましくは総てに関して陽性である。
【0070】
別の特定の実施形態においては、本発明の幹細胞は、CD14、CD34、CD106、CD117およびその組合せから選択される表面マーカーを発現しないことを特徴とする。すなわち、本発明の幹細胞は、表面マーカーCD14、CD34、CD106、およびCD117の少なくとも一つ、二つ、三つまたは好ましくは総てに関して陰性である。別の特定の実施形態においては、本発明の幹細胞は、表面マーカーVEGFR2を発現しないこと(または極めて微弱にしか発現しない)ことを特徴とする。従って、別の特定の実施形態においては、本発明の幹細胞は、表面マーカーCD14、CD34、CD106、CD117、およびVEGFR2の少なくとも一つ、二つ、三つ、四つまたは好ましくは総てに関して陰性であることを特徴とする。
【0071】
別の特定の実施形態においては、本発明の幹細胞は、その起源ならびにGATA−4および/またはCx43の構成的発現に加え、(i)表面マーカーCD29、CD44、CD59、CD90、およびCD105の総てを発現し、かつ(ii)表面マーカーCD14、CD34、CD106、およびCD117のいずれをも発現しないことを特徴とする。
【0072】
別の特定の実施形態においては、本発明の幹細胞は、その起源ならびにGATA−4および/またはCx43の構成的発現に加え、(i)表面マーカーCD29、CD44、CD90、CD105、およびD166の総てを発現し、かつ(ii)表面マーカーCD14、CD34、CD106、CD117、またはVEGFR2のいずれをも発現しないことを特徴とする。
【0073】
別の特定の実施形態においては、本発明の幹細胞は、その起源ならびにGATA−4および/またはCx43の構成的発現に加え、(i)表面マーカーCD29、CD44、CD59、CD90、CD105、およびCD166の総てを発現し、かつ(ii)表面マーカーCD14、CD34、CD106、CD117、またはVEGFR2のいずれをも発現しないことを特徴とする。
【0074】
特定の実施形態においては、本発明の成体幹細胞は、
a)GATA−4および/またはCx43を構成的に発現し、
b)β−MHCを構成的に発現し、
c)表面マーカーCD29、CD44、CD59、CD90、およびCD105の総てを発現し、かつ
d)表面マーカーCD14、CD34、CD106、およびCD117のいずれも発現しない
哺乳類、好ましくはヒトの単離された心臓脂肪(fatty (adipose))組織由来の成体幹細胞である。
【0075】
別の特定の実施形態においては、本発明の成体幹細胞は、
a)GATA−4および/またはCx43を構成的に発現し、
b)β−MHCを構成的に発現し、
c)表面マーカーCD29、CD44、CD90、CD105、およびCD166の総てを発現し、かつ
d)表面マーカーCD14、CD34、CD106、CD117、またはVEGFR2のいずれをも発現しない
哺乳類、好ましくはヒトの単離された心臓脂肪(fatty (adipose))組織由来の成体幹細胞である。
【0076】
別の特定の実施形態においては、本発明の成体幹細胞は、
a)GATA−4および/またはCx43を構成的に発現し、
b)β−MHCを構成的に発現し、
c)表面マーカーCD29、CD44、CD59、CD90、CD105、およびCD166の総てを発現し、かつ
d)表面マーカーCD14、CD34、CD106、CD117、またはVEGFR2のいずれをも発現しない
哺乳類、好ましくはヒトの単離された心臓脂肪(fatty (adipose))組織由来の成体幹細胞である。
【0077】
特定の好ましい実施形態においては、本発明の幹細胞におけるGATA−4および/またはCx43の構成的発現はそのin vitro増殖の間、安定して維持される。
【0078】
目的の遺伝子およびタンパク質(例えば、GATA−4、Cx43、α−MHC、β−アクチニンなど)の発現は、当業者に知られている常法により、核酸レベル(例えば、mRNAレベル)またはタンパク質レベルのいずれかで測定することができる。
【0079】
特定の実施形態においては、ある遺伝子の発現は、培養培地に特定の系譜への分化を誘導することができる成分を加えずに、すなわち、構成的発現条件下で、その遺伝子発現の分析により測定することができる。細胞における前記遺伝子の発現は、特に限定されないが、リアルタイムRT−PCR、ノーザンブロット、またはDNAマイクロアレイなどの慣例技術により分析することができる。リアルタイムRT−PCRは、遺伝子が増幅される際にその定量的検出を可能とする逆転写ポリメラーゼ連鎖反応の変形である。リアルタイムRT−PCRは実施例3および6において、目的の心臓特異的タンパク質の遺伝子発現レベル(mRNA)を測定するために用いられる。ノーザンブロット技術は、ゲルからニトロセルロースまたはナイロン膜に総てのmRNAを転写することによってmRNA配列の同定、位置決定、および定量を可能とする。特定のmRNAの存在は、好適なプローブとのハイブリダイゼーションにより検出される。DNAマイクロアレイ技術は、一連のDNA断片が結合される固相表面の使用に基づく。DNAを固定するために用いられる表面は極めて多様であり(例えば、ガラス、プラスチック、さらにはシリコーンチップ)、この技術はいくつかの遺伝子の発現を確認することを可能とし、多数の遺伝子の発現レベルを同時に測定することができる。
【0080】
あるいは、タンパク質の発現を、例えば、ELISA、ウエスタンブロットまたは免疫蛍光などの免疫学的技術により分析することができる。ウエスタンブロット技術は、予め電気泳動により分離し、膜、一般にニトロセルロース膜に固定したタンパク質を、特異的抗体および例えば化学発光などの現像系とともにインキュベーションすることにより検出する技術に基づく。免疫蛍光による分析は、顕微鏡によるその発現および細胞下の位置の分析のための、目的タンパク質に特異的な抗体の使用に関する。一般に、研究下の細胞はパラホルムアルデヒドで予め固定し、非イオン界面活性剤で透過処理する。実施例4および6においては、ウエスタンブロットおよび免疫蛍光技術を用いる。ELISA技術は酵素でマークした抗原または抗体の使用に基づき、その結果得られるコンジュゲートは免疫活性と酵素活性の双方を有する。これらの成分の一つがマークされ、支持体上で不溶化されるので、この抗原−抗体反応は固定化される。従って、例えば分光測定法によって定量可能な反応を生成する特異的基質の添加により容易に現像することができる。この技術は、供試タンパク質の正確な細胞下の位置決定も分子量の決定もできないが、例えば臨床目的の体液(血清、細胞培養上清、腹水など)中の目的タンパク質の極めて特異的かつ高感度の検出を可能とする。
【0081】
本発明の幹細胞表現型マーカーはまた、通常陽性/陰性に基づく好適ないずれかの技術により同定可能である。特定の実施形態においては、免疫組織化学プロファイルにより本発明の幹細胞をさらに特徴付けるために本発明の幹細胞においてその有無を確認しなければならない前記表現型マーカーに対する抗体、好ましくは、モノクローナル抗体を使用することができるが、当業者に公知の他の慣例技術も使用可能である。従って、特定の実施形態においては、選択された細胞におけるマーカーの存在または少なくとも一つのマーカー、好ましくはそれらの総ての検出可能な発現レベルを確認する目的で、少なくとも細胞表面マーカーCD29、CD44、CD59、CD90、およびCD105に対するモノクローナル抗体を用い、かつ、その非存在を確認するために少なくともCD14、CD34、CD106、およびCD117に対するモノクローナル抗体を用いる。別の特定の実施形態においては、選択された細胞におけるマーカーの存在または少なくとも一つのマーカー、好ましくはそれらの総ての検出可能な発現レベルを確認する目的で、少なくとも細胞表面マーカーCD29、CD44、CD90、CD105、およびCD166に対するモノクローナル抗体を用い、かつ、その非存在を確認するために少なくともCD14、CD34、CD106、CD117およびVEGFR2に対するモノクローナル抗体を用いる。同様に、別の特定の実施形態においては、選択された細胞におけるマーカーの有無または少なくとも一つのマーカー、好ましくはそれらの総ての検出可能な発現レベルを確認する目的で、少なくともCD14、CD29、CD34、CD44、D59、CD90、CD105、CD106、D117、CD166、およびVEGFR2に対するモノクローナル抗体を用いる。
【0082】
前記モノクローナル抗体は既知であるか、または当業者ならば常法によって得ることができる。本発明により提供される幹細胞の集団の免疫表現型的特性決定を行う様式は、特に限定されないが、実施例2および6に記載されている。
【0083】
所望により、本発明の幹細胞は、特に限定されないが、その基本的特性(増殖、移動、分化転換など)に重要な遺伝子の発現を改変する、そのゲノムにおける導入遺伝子、欠失、または挿入の方法を含む常法のいずれかによって遺伝的に修飾することができる。よって、例えば、ex vivoにおいて増殖された、または損傷を受けた組織内に移植された成体幹細胞はそれらのテロメアが短くなるために老化が早いことが知られている。この現象、または他の現象を避けるため、例えば、その発現がこの、また他の望ましくない変更の作用を打ち消す遺伝子構築物を含有するレトロウイルス粒子を用いて、細胞に形質導入することは望ましいものであり得る。
【0084】
本発明の幹細胞は増殖および自己再生能を有する。従って、それらは一度単離および同定されれば、in vitro (ex vivo)で増殖させることができる。よって、本発明の幹細胞が一度単離されれば、in vitroにおいて好適な培養培地で維持および増殖させることができる。特に限定されないが、前記培地はα−MEM培地(イーグルの改変最小必須培地(Minimum Essential Medium eagle ilpha modification (Sigma Ref. M4526) Eagle, H. Media for animal cell culture. Tissue Culture Association Manual. 3.517-520.1976)、抗生物質およびグルタミンを含み、ウシ胎児血清(PBS)が添加される。用いる細胞の必要に応じ、培地および/または培地添加物の濃度の変更または調節は各当業者の経験に依存する。血清は多くの場合、細胞の生存および増殖に必要な細胞成分および因子を含む。このような血清の例としては、特に限定されるものではないが、FBS、ウシ血清(BS)、子ウシ血清(CS)、ウシ胎児血清(FCS)、新生ウシ血清(NCS)、ヤギ血清(GS)、ウマ血清(HS)、ブタ血清、ヒツジ血清、ウサギ血清、ネコ血清(RS)などが挙げられる。本発明の幹細胞がヒト起源のものであれば、細胞培養培地にヒト、好ましくは自己血清を添加することも考えられる。添加物のカスケード成分を不活性化する必要が考えられる場合には、血清を熱により不活性化することができると理解される。一以上の所望の細胞の生存を促進するためには、血清濃度の調節、培養培地からの血清の除去を用いることもできる。別の実施形態においては、本発明の幹細胞は、血清が血清アルブミン、トランスフェリン、セレン、および特に限定されるものではないが、インスリン、血小板由来増殖因子、および成長因子、例えば、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)を含む組換えタンパク質の組合せで置換された所定の組成を有する培養培地で増殖させることができる。
【0085】
多くの細胞培養培地がすでにアミノ酸を含んでいるが、やはり、細胞を培養する前に何らかの添加を行う必要がある。このようなアミノ酸の例としては、特に限定されるものではないが、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン酸、L−システイン、L−シスチン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、L−グリシンなどが挙げられる。存在し得る細菌、マイコプラズマ、および/または真菌の混入を抑えるために通常、細胞培養には抗微生物剤も用いられる。用いられる抗生物質または抗真菌化合物は通常はペニシリンとストレプトマイシンの混合物であるが、例えば、アンホテリシン、アンピシリン、ゲンタマイシン、ブレオマイシン、ハイグロマイシン、カナマイシン、マイトマイシンなどの他の抗生物質または抗真菌化合物を含めることもできる。特に限定されるものではないが、D−アルドステロン、ジエチルスチルベストロール(DES)、デキサメタゾン、b−エストラジオール、ヒドロコルチゾン、インスリン、プロラクチン、プロゲステロン、ソマトスタチン/ヒト成長ホルモン(HGH)などを含むホルモンを細胞培養に添加することでもできる。
【0086】
本発明の幹細胞の維持は、細胞を非分化型に留まらせる細胞因子を必要とする場合がある。当業者には、細胞分化を阻害する前記因子は本発明の幹細胞の分化細胞への分化を開始させる前に培養培地から除去しなければならないことが自明である。また、総ての細胞がこれらの因子を必要とするわけではないことも明らかである。実際、これらの因子は細胞の種類によっては望ましくない作用を引き起こし得る。
【0087】
所望により、本発明の幹細胞は、細胞集団のクローニングに好適な方法を用いてクローン増殖させることができる。例としては、本発明の幹細胞の増殖された集団を物理的に回収し、個別のプレート(または「マルチウェル」プレートのウェル)に播種することができる。あるいは、本発明の幹細胞を「マルチウェル」プレートに、各ウェルに1個の細胞を入れるという操作(例えば、およそ0.1〜約1細胞/ウェルまたはさらには約0.25〜1.5細胞/ウェル、例えば、0.5細胞/ウェル)を助ける統計学的割合でサブクローニングすることができる。当然のことながら、これらの細胞は低密度でクローニングすることができ(例えば、ペトリ皿またはその他の好適な培養基)、クローニングリングなどのデバイスを用いて他の細胞から単離することができる。クローン集団の生産はいずれの好適な培養培地で増殖させてもよい。いずれの場合でも、単離された細胞をそれらの発達表現型が評価できる時点まで培養すればよい。本発明の幹細胞を単離するための工程および方法はいずれも手作業で行うこともできるし、所望によりあるいは細胞の単離を容易にするために当業者に公知の好適なデバイスを使用することもできる。
【0088】
一以上の細胞系譜または種類へと分化する本発明の幹細胞の能力の分析は、当業者に公知の分化の誘導の慣例の方法によって評価することができる。この目的のために、幹細胞は一般に、好適な特定の分化培地での幹細胞の培養を含む、各細胞種または系譜に好適な特定の分化プロトコールに従う。
【0089】
脂肪細胞、骨細胞、および軟骨細胞への特定の分化を誘導する通常のプロトコールに従い、予備的分化試験で得られた結果を分析した後、本発明者らは、本発明の幹細胞は、マーカーCD29、CD44、CD59、CD90、およびCD105にも陽性の他の成体間葉幹細胞集団、例えば、皮下脂肪組織由来幹細胞(sub−ADSC)に比べて分化能が減退(低下)していると考える。具体的には(実施例5)、本発明の幹細胞は皮下脂肪組織由来幹細胞に関して、これまでに確立されている脂肪形成、骨形成、および軟骨形成分化プロトコールに従い(Zuk et al., 2002. Human adipose tissue is a source of multipotent stem cells. Mol Biol Cell. 2002 Dec; 13(12):42795)、本発明の幹細胞は皮下脂肪組織由来幹細胞に比べて前記系譜への分化能が低かったことを見出した。しかしながらやはり、用いる特定の脂肪形成、骨形成、および軟骨形成系譜分化プロファイルの改変による、より高い分化能を得る可能性は無視することができない。よって、何らかの結論に結びつけようとするものではないが、本発明の幹細胞は、マーカーCD29、CD44、CD59、CD90、およびCD105にも陽性の他の成体間葉幹細胞集団のものとは異なる間葉系譜へ分化する特性を有すると考えるに至る証拠であると思われる。実際、本発明者らが行った付加的アッセイでは、本発明の幹細胞は脂肪細胞へ分化せず(実施例6)、皮下脂肪組織由来幹細胞(sub−ADSC)とは異なり、より低い可塑性およびより高い傾倒を示すことが確実であると思われる。
【0090】
本発明の細胞集団
別の態様において、本発明は、GATA−4および/またはCx43を構成的に発現する哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞(本発明の幹細胞)の群を含んでなる、実質的に均質な単離された幹細胞集団(以下、「本発明の細胞集団」に関する。
【0091】
特定の実施形態においては、本発明の細胞集団は、GATA−4および/またはCx43を構成的に発現する哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞を含んでなる。
【0092】
別の特定の好ましい実施形態においては、本発明の細胞集団は、GATA−4および/またはCx43の構成的発現がそのin vitro増殖の間、安定して維持される本発明の幹細胞を含んでなる。
【0093】
別の特定の実施形態においては、本発明の細胞集団は、β−MHCおよび/またはSERCA−2をさらに構成的に発現する本発明の幹細胞を含んでなる。
【0094】
別の特定の実施形態においては、本発明の細胞集団は、CD29、CD44、CD59、CD90、およびCD105から選択される一以上の表面マーカーをさらに発現する本発明の幹細胞を含んでなる。特定の実施形態においては、本発明の細胞集団は、表面マーカーCD29、CD44、CD59、CD90、およびCD105の少なくとも一つ、二つ、三つ、四つまたは好ましくは総ての有意な発現を有する。別の特定の実施形態においては、本発明の幹細胞は表面マーカーCD166をさらに発現することを特徴とする。よって、別の特定の実施形態においては、本発明の幹細胞は、表面マーカーCD29、D44、CD59、CD90、CD105、およびCD166の少なくとも一つ、二つ、三つ、四つ、五つまたは好ましくは総ての有意な発現を有する。本明細書において「有意な発現」とは、その細胞集団では、これらの細胞の少なくとも30%、好ましくは40%、50%、60%、70%、より好ましくは80%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%が、フローサイトメトリーによりバックグラウンドシグナルを超えて測定される特異的細胞表面マーカーに対するシグナルを示すことを意味する。
【0095】
別の特定の実施形態においては、本発明の細胞集団は、CD14、CD34、CD106、およびCD117から選択される表面マーカーの一つ、二つ、三つまたはいずれをも発現しない本発明の幹細胞を含んでなる。特定の実施形態においては、本発明の細胞集団は、表面マーカーCD14、CD34、CD106、およびCD117の少なくとも一つ、二つ、三つまたは好ましくは総ての有意な発現を欠いている。別の特定の実施形態においては、本発明の幹細胞は、表面マーカーVEGFR2を発現しない(または極めて微弱にしか発現しない)ことを特徴とする。よって、別の特定の実施形態においては、本発明の幹細胞は、表面マーカーCD14、CD34、CD106、CD117、およびVEGFR2の少なくとも一つ、二つ、三つ、四つまたは好ましくは総ての有意な発現を欠いている。本明細書において「有意な発現を欠いている」とは、その細胞集団において、これらの細胞の30%未満、好ましくは20%、15%または10%未満、より好ましくは9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%未満が、フローサイトメトリーによりバックグラウンドシグナルを超えて測定される特異的細胞表面マーカーに対するシグナルを示すことを意味する。
【0096】
別の特定の実施形態においては、本発明の細胞集団は、それらの起源ならびにGATA−4および/またはCx43の構成的発現に加え、(i)表面マーカーCD29、CD44、CD59、CD90、およびCD105の総てを発現し、かつ(ii)表面マーカーCD14、CD34、CD106、およびCD117のいずれをも発現しないことを特徴とする本発明の幹細胞を含んでなる。
【0097】
別の特定の実施形態においては、本発明の細胞集団は、それらの起源ならびにGATA−4および/またはCx43の構成的発現に加え、(i)表面マーカーCD29、CD44、CD90、CD105、およびD166の総てを発現し、かつ(ii)表面マーカーCD14、CD34、CD106、CD117、またはVEGFR2のいずれをも発現しないことを特徴とする本発明の幹細胞を含んでなる。
【0098】
別の特定の実施形態では、本発明の細胞集団は、それらの起源ならびにGATA−4および/またはCx43の構成的発現に加え、(i)表面マーカーCD29、CD44、CD59、CD90、CD105、およびCD166の総てを発現し、かつ(ii)表面マーカーCD14、CD34、CD106、CD117、またはVEGFR2のいずれをも発現しないことを特徴とする本発明の幹細胞を含んでなる。
【0099】
別の特定の実施形態においては、本発明の細胞集団は、a)GATA−4および/またはCx43を構成的に発現し、b)β−MHCを構成的に発現し、c)表面マーカーCD29、CD44、CD59、CD90およびCD105の総てを発現し、かつd)表面マーカーCD14、CD34、CD106およびCD117のいずれをも発現しない、哺乳類、好ましくはヒトの単離された心臓脂肪(fatty (adipose))組織由来の成体幹細胞を含んでなる。
【0100】
別の特定の実施形態においては、本発明の細胞集団は、a)GATA−4および/またはCx43を構成的に発現し、b)β−MHCを構成的に発現し、c)表面マーカーCD29、CD44、CD90、CD105、およびCD166の総てを発現し、かつd)表面マーカーCD14、CD34、CD106、CD117、またはVEGFR2のいずれをも発現しない、哺乳類、好ましくはヒトの単離された心臓脂肪(fatty (adipose))組織由来の成体幹細胞を含んでなる。
【0101】
別の特定の実施形態においては、本発明の細胞集団は、a)GATA−4および/またはCx43を構成的に発現し、b)β−MHCを構成的に発現し、c)表面マーカーCD29、CD44、CD59、CD90、CD105、およびCD166の総てを発現し、かつd)表面マーカーCD14、CD34、CD106、CD117、またはVEGFR2のいずれをも発現しない哺乳類、好ましくはヒトの単離された心臓脂肪(fatty (adipose))組織由来の成体幹細胞を含んでなる。
【0102】
別の特定の実施形態においては、本発明の細胞集団は、齧歯類、霊長類などの哺乳類、好ましくはヒトの心臓脂肪組織、例えば、心外膜または心膜から得られた本発明の幹細胞を含んでなる。特定の実施形態においては、本発明の細胞集団は、ヒトの心外膜脂肪組織から得られた本発明の幹細胞を含んでなる。
【0103】
別の特定の実施形態においては、本発明の細胞集団は、心臓脂肪組織の間質画分から得られた本発明の幹細胞を含んでなる。
【0104】
別の特定の実施形態においては、本発明の細胞集団は、自家、同種異系、または異種起源の本発明の幹細胞を含んでなる。特定の好ましい実施形態においては、前記細胞は自家のものであり、それらが投与される被験体の心臓脂肪組織から単離される。
【0105】
所望により、本発明の細胞集団は、移植用細胞バンクに見出すことができる。特定の実施形態においては、前記細胞バンクは、重要な抗原の少なくとも一以上の遺伝子、すなわち、組織適合性抗原をコードする遺伝子(例えば、ヒト集団に存在する主要組織適合性複合体(MHC)の対立遺伝子)に関して同型接合性の複数の本発明の幹細胞を含んでなる。このバンクから、細胞移植または埋植を必要とする被験体のMHCの対立遺伝子と適合する組織適合性抗原の一以上の対立遺伝子に関して同型接合性の本発明の細胞を選択することができる。
【0106】
所望により、本発明の細胞集団は、再構成後のその生存力に影響なく、支障もない条件下で冷凍して、維持することができる。
【0107】
本発明の幹細胞を含んでなる組成物を得るための方法
別の態様において、本発明は、GATA−4および/またはCx43を構成的に発現する哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞を含んでなる組成物を得るための方法であって、
a)哺乳類の脂肪心臓組織サンプルの細胞懸濁液を得て、
b)前記細胞懸濁液から細胞を分離し、
c)前記細胞を固相支持体上の培養培地中で、前記細胞を前記固相支持体に接着させる条件下で培養し、そして
d)GATA−4および/またはCx43を構成的に発現する哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞を回収すること
を含む方法(以下、本発明の方法)に関する。
【0108】
脂肪心臓組織サンプルは、脂肪心外膜組織または脂肪心膜組織、好ましくは心外膜脂肪組織から得ることができる。前記脂肪心臓組織サンプルは齧歯類、霊長類などの哺乳類、好ましくはヒト由来のものである。哺乳類の前記脂肪心臓組織サンプルは当業者に公知の常法により得ることができる。特定の実施形態においては、前記脂肪心臓組織サンプルは脂肪組織の間質画分から抽出される。脂肪心臓組織の好適な供給源は近位右冠動脈付近の領域または大動脈周辺の心臓基部であり、そこからの脂肪心臓組織は慣例の心臓手術に際して得ることができる。実施例1はヒト脂肪心臓(特に心外膜)組織サンプル取得の形式を詳細に示す。
【0109】
抽出された脂肪心臓組織サンプルを洗浄し、切断して小断片とし、細胞懸濁液を得るためにこれを酵素的に消化し(または他の慣例手段による)、遠心分離にかけ、得られた細胞ペレットを好適な培地(例えば、血清、グルタミン、および抗生物質を添加したα−MEM培地を含んでなる培養培地)に再懸濁させ、固相支持体(例えば、プラスチック、培養プレート、培養フラスコなど)に、細胞をその固相支持体に接着させる条件下(例えば、37℃、5%COを含む空気雰囲気)で播種し、細胞が接着したことが認められたところで(培養条件にもよるが、例えば、およそ24時間後)培養培地を除去し、接着した細胞を洗浄した後、それらのin vitro増殖を行う。この目的で、接着細胞(本発明の幹細胞)を好適な培養培地(例えば、血清、グルタミン、および抗生物質を添加したα−MEM培地)の存在下、好適な条件下(例えば、37C、5%COを含む空気雰囲気)で培養し、このような条件で集密前まで(例えば、およそ80%の集密度になるまで)、定期的に培養培地の総てまたは一部を交換しつつ(例えば、3日または4日おき)培養維持する。これらの細胞は、その分析を可能とする量の細胞材料(すなわち、最小数の細胞)となるまで、繰り返し培養(継代培養)することができる。特定の実施形態においては、前記細胞は少なくとも2回培養され(すなわち、それらは2回の継代培養を受け)、一般には3回、4回、5回、またはそれを超える。特定の実施形態においては、前記細胞は2回培養したが(継代培養2回)、別の特定の実施形態においては、好適な希釈率で5回培養した(すなわち、継代培養5回まで(3〜4か月))。このような操作により、固相支持体(例えば、培養プレート)から剥離した後に本発明の幹細胞5〜6×10/cmの細胞密度が得られる。両場合とも(継代培養2回および5回)、GATA−4およびCx43の発現を分析したところ、これらの細胞(本発明の幹細胞)のin vitro培養中、前記心臓特異的マーカーの構成的発現が実質的に安定に維持されることが認められた。実施例1および6は、ヒト脂肪心外膜組織からの本発明の幹細胞の取得、同定、特性決定、および単離を詳細に示している。
【0110】
これまでに記載してきた本発明の方法に従って得ることができる、結果としての本発明の幹細胞を含んでなる組成物は本発明のさらなる態様である。
【0111】
分化細胞
別の態様において、本発明は、本発明の幹細胞を好適な特定の分化培地で培養することを含む、分化細胞を得るための方法に関する。特定の実施形態において、前記特定の分化培地は、心筋形成系譜へと分化させるための特定の培地である。別の特定の実施形態では、前記特定の分化培地は、内皮系譜へと分化させるための特定の培地である。別の特定の実施形態においては、前記特定の分化培地は、脂肪形成、骨形成または軟骨形成系譜へと分化させるための特定の培地である。前記特定の分化培地は当業者に公知である。
【0112】
前記細胞分化法から得ることができる分化細胞(以下、本発明の分化細胞)は、本発明のさらなる態様である。特定の実施形態においては、本発明の分化細胞は心筋細胞、骨細胞、または軟骨細胞である。
【0113】
別の態様において、本発明はまた、本発明の分化細胞と好適な培地を含んでなる組成物に関する。
【0114】
医薬組成物
別の態様において、本発明は、治療上有効な量の本発明の細胞集団、または本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物、または本発明の分化細胞と薬学上許容されるビヒクルを含んでなる組成物を含んでなる医薬組成物(以下、本発明の医薬組成物)に関する。
【0115】
本明細書において「治療上有効な量」とは、所望の治療効果が得られるよう本発明の医薬組成物が含まなければならない、本発明の細胞集団、または本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物、または本発明の分化細胞を含んでなる組成物中に存在する本発明の幹細胞の量を指し、このような治療上有効な量は一般に、他の因子の中でも、細胞の固有の特徴および求める所望の治療効果により決定される。投与しなければならない本発明の細胞の治療上有効な量は一般に、他の因子の中でも、処置される疾病の病期、被験体固有の特徴、罹患領域によって異なる。このため、本明細書に述べられている用量は、当業者にとっての指針としてだけ考慮すべきであり、当業者はこれまでに記載されている因子に応じてその用量を調整しなければならない。限定されるものではないが例として、本発明の医薬組成物はおよそ1×10〜1×10の間、好ましくは1×10〜1×10の間、より好ましくは1×10、および5×10の間の本発明の幹細胞を含有する1回量として投与することができる(なお、この幹細胞は部分的または完全に分化していてもよく、あるいはその組合せであってもよい)。この用量は、患者の症状および進行によって、数日、数週間、または数ヶ月の間隔で繰り返すことができ、各場合で専門家が確定しなければならない。
【0116】
本発明の細胞集団または本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物中に含まれる本発明の幹細胞、ならびに前記組成物中に含まれる本発明の分化細胞は、自家、同種異系、または異種の細胞であり得る。特定の好ましい実施形態においては、前記細胞は自家のものであり、それらが投与される被験体の心臓脂肪組織から単離され、そして、前記細胞に対する抗原応答および/または免疫応答に関連する潜在的合併症を軽減する。
【0117】
所望により、本発明の細胞集団または本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物中に含まれる本発明の幹細胞は、これまでに述べられているように、有効性を高めるため、罹患率を軽減するため、または方法を容易にするために細胞集団を富化する目的の抗体による陽性および/または陰性細胞の選択を用いて精製することができる。
【0118】
本発明によれば、本発明の細胞集団または本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物中に含まれる本発明の幹細胞、ならびに本発明の分化細胞は、さらなる処理無しに、またはこれらの細胞を精製、刺激、またはそれ以外の付加的変更のための付加的方法の後に患者に投与することができる。例えば、ある被験体から得られた本発明の幹細胞を、投与前に培養した後にそれを必要とする別の被験体に投与することができる。本発明の細胞集団または本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物、または本発明の分化細胞はまた、他の細胞集団から単離して、または他の細胞集団とともに、例えば、心臓脂肪組織の間質画分の残りの成分とともに投与することができる。特定の実施形態においては、心臓脂肪組織の回収は患者のベッドの隣で行う。患者の臨床状態を測定するために血流動態対照を使用することができる。本明細書に記載の本発明によれば、本発明の医薬組成物は、心臓脂肪組織が抽出された後間もなく患者に投与することができる。例えば、本発明の医薬組成物は、本発明の細胞集団または本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物を単離するために心臓脂肪組織を処理し、薬学上好適なビヒクル中にそれを入れた後すぐに投与することができる。別の実施形態においては、送達時間は患者のアベラビリティーおよび心臓脂肪組織を処理し、本発明の細胞集団を単離するのに必要な時間によって異なる。
【0119】
「薬学上許容されるビヒクル」という用語は、動物、より具体的にはヒトにおけるその使用に関して、連邦政府または州政府の規制当局により認可されていなければならないか、または米国薬局方もしくは欧州薬局方または別の一般に認知されている薬局方に挙げられていなければならないビヒクルを指す。
【0120】
「ビヒクル」という用語は、本発明の細胞集団または本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物の細胞がそれとともに投与されなければならない希釈剤、コアジュバント、賦形剤、または担体を指し、明らかに前記ビヒクルは前記細胞と適合しなければならない。限定されるものではないが、前記ビヒクルの例として、所望により血清、好ましくは自家血清を添加した、任意の生理学上適合するビヒクル、例えば、等張溶液(例えば、無菌生理食塩水(0.9%NaCl)、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、リンゲル乳酸塩溶液、細胞培養培地(例えば、DMEMなど)、あるいはまた固体、半固体、ゼラチン性、または粘稠な支持手段、例えば、コラーゲン、コラーゲン−グリコサミノグリカン、フィブリン、ポリ塩化ビニル、ポリアミノ酸、例えば、ポリリジン、またはポリオルニチン、ヒドロゲル、アガロース、デキストラン硫酸シリコーンが挙げられる。所望により、この支持手段はまた、特定の実施形態においては、増殖因子またはその他の薬剤も含み得る。支持体が固体、半固体、またはゼラチン性である場合、細胞をビヒクルの液相に導入し、その後、それがより固相となるように処理することができる。ビヒクルが固相構造を持つ本発明のいくつかの実施形態では、このビヒクルは損傷部の形状に応じて形成させることができる。
【0121】
所望により、本発明の医薬組成物はまた、必要に応じ、医薬組成物中に含まれる、細胞の所望の治療効果を高める、制御する、またはそうでなければ指示する(direct)ための添加剤、および/または補助物質もしくは薬学上許容される物質、例えば、緩衝剤、界面活性剤、補助溶媒、保存剤なども含むことができる。また、金属キレート剤を添加することもできる。本発明の医薬組成物の液体媒体中の細胞の安定性は、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸などの付加的物質の添加により改善することができる。本発明の医薬組成物に使用可能な薬学上許容される物質は当業者に一般に知られており、細胞組成物の調製に通常用いられている。好適な医薬ビヒクルの例は、例えばE.W. Martin により"Remington's Pharmaceutical Sciences"に記載されている。前記ビヒクルについてさらに詳細には、いずれかの薬学技術の手引き(Galenic larmacy)に見出すことができる。
【0122】
本発明の医薬組成物は、単離および増殖した後の、治療上有効な量の本発明の細胞集団または本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物、または本発明の分化細胞を含んでなる組成物、好ましくは、本発明の実質的に均質な細胞集団を、被験体に適切な投与形を提供するのに適当な量の好適なビヒクルとともに含む。
【0123】
本発明の医薬組成物は、選択された投与形態に応じて処方される。この処方は投与様式に対して調整される。特定の実施形態では、本発明の医薬組成物は、液体投与形またはゲル様式、例えば、処置を必要とする被験体に注射または潅流させるための懸濁液の形態で調製される。特に限定されるものではないが、例としては、被験体、例えばヒトへの非経口投与、好ましくは静脈内、腹腔内、皮下投与などのための、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)などの等張溶液、または他のいずれかの好適な薬学上許容されるビヒクルといった薬学上許容される賦形剤を伴う無菌懸濁液中の本発明の医薬組成物の処方物が挙げられるが、他の投与経路も可能である。
【0124】
本発明の医薬組成物の、それを必要とする被験体への投与は、慣例手段により行われる。特定の適用では、前記医薬組成物は、シリンジ、カテーテル、トロカール、カニューレなどの好適なデバイスを用いて被験体に静脈内投与することができる。いずれの場合でも、本発明の医薬組成物は、細胞組成物の投与に好適で、当業者に公知の器具、装置およびデバイスを用いて投与される。
【0125】
特定の実施形態においては、本発明の医薬組成物は静脈内に投与され、例えば標準的な末梢静脈カテーテル、中心静脈カテーテル、または肺動脈カテーテルなどの標準的なデバイスを介した静脈内投与を含む。細胞の流動は患者の血管内に配置した遠位および近位グローブを連続的に膨らませたり、しぼませたりすることにより制御することができる。
【0126】
別の特定の実施形態においては、効果を与えたい部位への本発明の医薬組成物の直接投与が有利であり得る。よって、所望により、本発明の医薬組成物は、例えば好適なカニューレ、カテーテルなどの好適なデバイスの挿入により、または動脈もしくは静脈潅流(逆流機構を含む)により、または本明細書で述べられている、もしくは当技術分野で公知のその他の手段により、罹患器官または組織の外表に直接適用(例えば注射などによる)して所望の器官または組織に直接投与(埋植、移植など)することができる。好ましい実施形態においては、本発明の医薬組成物は、例えば、冠動脈内注射またはカテーテルによる経心筋注射などにより心筋の損傷を受けた領域に直接投与される。具体的には心臓の損傷を受けた領域、特に梗塞領域で有効成分を放出するように設計されたカテーテルが記載されている(例えば、米国特許第6,102,926号公報、同第6,120,520号公報、同第6,251,104号公報、同第6,309,370号公報、同第6,432,119号公報、および同第6,485,481号公報参照)。用いられる投与系としては、例えば、心臓内位置特定のためのセンサーおよびそのセンサーの位置に所望の有効成分を所望の量で投与するための放出系を含む、選択的薬剤の心臓内投与のための装置を含み得る。
【0127】
所望により、本発明の医薬組成物は、当業者に公知の慣例の方法により適用されるまで保存することができる。この医薬組成物はまた、心筋梗塞後処置および/またはうっ血性心不全に有用な付加的薬剤とともに併用療法を含む有効形態で保存すること、もできる。短期保存(6時間未満)では、本発明の医薬組成物は室温で、または栄養溶液を添加して、または添加せずに、密閉容器中この温度で保存することができる。中期保存(48時間未満)は2〜8℃が好ましく、本発明の医薬組成物は細胞の接着を防ぐ材料からなるか、またはそのような材料でコーティングされた容器に等浸透圧緩衝溶液を含む。さらに長期の保存は、好ましくは好適な低温保存および細胞機能の保持を促す条件での保存により行われる。
【0128】
特定の実施形態においては、本発明の医薬組成物を併用療法で用いる。特定の実施形態においては、前記医薬組成物は、心筋梗塞後処置および/またはうっ血性心不全用の付加的医薬組成物と組み合わせて投与される。従って、本発明の細胞集団に含まれる本発明の幹細胞は、単独処置として使用することもできるし、または例えば、冠動脈バイパス、血管形成術(ステント有りまたは無し)、新脈管形成促進剤の投与、心室補助装置の埋植、血栓溶解薬、抗血小板凝集薬(アセチルサリチル酸および/またはクロピドグレル)、抗高血圧薬(アンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)、アンギオテンシンI受容体アンタゴニスト(ARA−II)、β受容体遮断薬、利尿薬、抗脂質血症薬、ジゴキシン、硝酸、および/またはカルシウム拮抗薬の投与などの心血管疾患、特に、虚血性心疾患の処置のための他の慣例処置と併用することもできる。
【0129】
特定の実施形態においては、虚血性心疾患患者、特に心筋梗塞を受け、かつ/または慣例の処置に応答しないうっ血性心不全に罹患している患者に併用療法を行う。
【0130】
本発明の医薬組成物は、これまでに記載したように、心筋梗塞後処置および/またはうっ血性心不全に有用な付加的薬剤との併用療法で使用することができる。前記付加的医薬品は同じ医薬組成物の一部をなしていてもよいし、あるいはまたそれらは本発明の医薬組成物の投与と同時または連続的に(適当な時間をあけて逐次に)投与するための個別の組成物の形態で提供することもできる。特定の実施形態においては、前記付加的医薬組成物は、本発明の細胞集団を含んでなる医薬組成物と同時に投与するか、または適当な時間をあけて、任意の順序で逐次に投与する(すなわち、まず本発明の医薬組成物を投与した後に他の付加的薬剤を投与してもよいし、あるいはまず虚血性心疾患の処置のための他の医薬組成物、または虚血性心疾患の処置のための他の付加的薬剤もしくは他の医薬組成物を投与した後に本発明の医薬組成物を投与してもよい)。あるいは、これらの2成分のいずれも同じ組成物に混合し、一緒に投与してもよい。別の実施形態においては、本発明の医薬組成物と、虚血性心疾患の処置のための他の付加的薬剤または他の医薬組成物とを同時に投与する。
【0131】
本発明の医薬組成物の投与前および投与中には患者を測定することができる。医薬組成物の投与後、有害な作用が生じた場合には、およそ24時間の測定期間が必要な患者もある。機能的改善を評価するために追跡調査が奨励される。
【0132】
本発明の細胞集団を含んでなる生体材料
別の態様において、本発明は、本発明の細胞集団を含んでなる生体材料(以下、本発明の生体材料)に関し、前記組成物は本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物、または本発明の分化細胞を含んでなる組成物、または本発明の医薬組成物を含んでなる。
【0133】
組織工学は、接着および増殖能を有する細胞をコーティングした、生物内への埋植に好適な生体適合性構造からなる生体材料を、損傷を受けた組織に移植することからなる。前記構造は、とりわけ、縫合糸、マトリックス、膜、フォーム、ゲル、およびセラミックスであり得る。例えば金属などの無機材料、フィブリン、またはアルギン酸塩などの天然ポリマー、ポリヒドロキシ、例えばポリグリコール酸(PGA)などの合成ポリマーおよびそのコポリマー(例えば、ポリ(乳酸−co−グリコール酸)(PLGA)など)を含む種々の材料がマトリックスおよびその他の生体適合性構造の構築に用いられていることが知られている。好ましい実施形態においては、前記ポリマーは生分解性であり、従って、経時的に分解し、このポリマー構造は完全に細胞に取って代わられる。特定の実施形態においては、本発明の生体材料は、一種類以上の生分解性ポリマーと、本発明の細胞集団、または本発明の分化細胞とを含んでなる組成物、または本発明の医薬組成物とを含んでなる生体適合性構造を含む、またはそれらからなる。
【0134】
別の特定の実施形態においては、前記ポリマー構造は生物活性分子、すなわち、細胞と特異的に相互作用することができる分子で、または細胞の接着および増殖の程度を高める目的でより良い接着特性を有する別のポリマーによりコーティングすることができる。
【0135】
病状の処置のための薬剤の製造における、本発明の細胞集団、または本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物、または本発明の分化細胞を含んでなる組成物の使用
本発明者らは、本発明の細胞集団ならびに本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物が、すでに記載されている種々の起源の他の幹細胞集団よりも良好な心筋形成能を有すること、従って、本発明の細胞集団ならびに本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物が、心臓組織の再生および/または、例えば、1回以上の心筋梗塞を受けた患者またはうっ血性心不全を発症した患者など、機能的心筋組織が欠損している状態(虚血性心疾患)の処置、ならびに新脈管形成を刺激するのが適当な状態における新脈管形成の刺激に有用な可能性のある細胞系試薬であることを見出した。
【0136】
従って、別の態様において、本発明は、心臓組織の再生用医薬組成物の製造における、虚血性心疾患の処置用医薬組成物の製造における、または心筋梗塞後の処置用医薬組成物の製造における、またはうっ血性心不全の処置のための、または新脈管形成を刺激するための医薬組成物の製造における、本発明の細胞集団、または本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物、または本発明の分化細胞を含んでなる組成物の使用に関する。
【0137】
別の態様において、本発明は、心臓組織の再生のための、または虚血性心疾患の処置のための、または心筋梗塞後の処置のための、またはうっ血性心不全の処置のための、および/または新脈管形成を刺激するための、本発明の細胞集団、または本発明の幹細胞を含んでなる組成物、または本発明の分化細胞を含んでなる組成物に関する。
【0138】
心臓組織を再生するため、または虚血性心疾患、心筋梗塞後、もしくはうっ血性心不全の処置のため、または新脈管形成を刺激するためには、本発明の細胞集団を含んでなる本発明の医薬組成物、または本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物、または本発明の分化細胞を含んでなる組成物といった治療上有効な量の前記医薬組成物を、処置を必要とする被験体に投与する。これまでに述べたように、本発明の幹細胞(本発明の細胞集団中に存在する)は心臓脂肪組織に由来し、GATA−4および/またはCx43、好ましくは双方を構成的に発現する。Cx43タンパク質は、心筋細胞を電気的に結合するギャップ結合における主要タンパク質の一つである。従って、本発明の幹細胞がCx43を構成的に発現するという事実は、本発明の幹細胞を含んでなる細胞集団の移植後の、既存の心臓組織との良好な電気的結合を示唆する。
【0139】
本発明の幹細胞、本発明の細胞集団、または本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物、または本発明の分化細胞を含んでなる組成物は、虚血心臓組織を再生することができる好適な数の細胞を得るため、または一回以上の心筋梗塞の後に心臓の機能を改善するために使用することができる。特定の実施形態においては、前記改善は、本発明の細胞集団中に存在する本発明の幹細胞の、心筋細胞、平滑筋、および/または血管内皮組織への分化によるものである。これまでに記載したように、本発明の医薬組成物の、それを必要とする被験体への投与は慣例の手段により行うことができる。特定の実施形態においては、前記医薬組成物は、それを必要とする被験体の損傷を受けた心筋領域に、例えば、冠動脈内注射またはカテーテルによる経心筋注射によって直接投与することができる。
【0140】
本発明の幹細胞、本発明の細胞集団、または本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物、または本発明の分化細胞を含んでなる組成物は、新脈管形成が必要とされ得る病状において新脈管形成を刺激することができる好適な数の細胞を得るために使用することができる。
【0141】
本発明の幹細胞または本発明の分化細胞の使用に基づく、心臓組織再生のため、または虚血性心疾患の処置のため、または心筋梗塞後処置のため、またはうっ血性心不全の処置のため、または新脈管形成を刺激するための方法
本発明はまた、心臓組織の再生、例えば、1回以上の心筋梗塞を受けた患者またはうっ血性心不全を発症した患者など、機能的心筋組織が欠損している病状(例えば、虚血性心疾患)の処置に関する。同様に、本発明はまた、新脈管形成が適当であるか、または望ましい状況においてそれを刺激することに関する。
【0142】
よって、別の態様において、本発明は、それを必要とする被験体に治療上有効な量の本発明の幹細胞、本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物、本発明の分化細胞を含んでなる組成物、または本発明の医薬組成物を投与することを含む、心臓組織再生のため、虚血性心疾患の処置のため、心筋梗塞後処置のため、うっ血性心不全の処置のため、または新脈管形成の刺激のための方法に関する。
【0143】
これまでに述べたように、心臓組織を再生するため、虚血性心疾患、心筋梗塞後、もしくはうっ血性心不全の処置のため、新脈管形成の刺激のために、本発明の幹細胞、本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物、本発明の分化細胞を含んでなる組成物、または本発明の医薬組成物が、処置を必要とする被験体に治療上有効な量で、当業者に公知の常法により(例えば、冠動脈注射、経心筋注射などによる心筋の損傷を受けた領域への直接注射により)投与される。
【0144】
キット
別の態様において、本発明は、本発明の幹細胞、本発明の細胞集団、本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物、または本発明の分化細胞を含んでなる組成物を含んでなるキットに関する。本発明の幹細胞および細胞集団、ならびに本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物、および本発明の分化細胞を含んでなる組成物はこれまでにすでに記載されている。前記キットの一部をなす、本発明の細胞集団または本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物中に存在する本発明の幹細胞は、前記組成物中に存在する本発明の分化細胞の場合と同様に、同種異系または異種起源であり得る。
【0145】
前記キットは診断目的および/またはin vitro研究のために使用可能であり、従って、このような目的では、所望により、本発明の幹細胞は無限に増殖することができるように不死化することができる。
【0146】
よって、特定の実施形態においては、本発明の幹細胞は、不死化された本発明の幹細胞、好ましくは可逆的に不死化された幹細胞を得る目的で、不死化の方法、例えば、可逆的不死化の方法を受ける。この意味で本明細書において「不死化」または「不死化された」という用語は、老化に入ることなく培養で無限に増殖する細胞、または細胞を作出するための方法を指す。本発明によれば、不死化とは、細胞が特に腫瘍細胞の増殖特徴の点で腫瘍細胞様のいくつかの態様で振る舞うように細胞培養物が形質転換される方法を指す。よって、「可逆的に不死化された細胞」とは、ある時点で、後に逆不死化方法を用いて非不死化状態に戻り得る不死化状態にある細胞を指す。特定の実施形態では、本発明の幹細胞は、(a)本発明の不死化幹細胞を得る目的で、本発明の幹細胞を、癌遺伝子(または癌遺伝子の組合せ)を含む「除去可能なポリヌクレオチド」を含んでなるベクターで形質転換すること、(b)前記本発明の不死化幹細胞を増殖させること、および(c)本発明の細胞の機能的特性を維持する本発明の不死化幹細胞のクローン細胞株を選択することを含む方法により可逆的に不死化され、所望により、この癌遺伝子(または癌遺伝子の組合せ)は本発明の不死化幹細胞から除去することができる。例として、細胞集団は個々の過剰発現の手段またはSV40ラージT抗原、テロメラーゼ触媒サブユニットであるBmi−1などのいくつかの癌遺伝子との組合せで不死化することができる。これらの癌遺伝子の過剰発現は、レコンビナーゼ標的でフランキングする手段(例えば、loxP標的を認識するCreレコンビナーゼの導入)、およびさらに不死化細胞の破壊を可能とするチミジンキナーゼの自殺遺伝子を付加することにより逆転させることができる。
【0147】
in vitroにおいて生物学的薬剤または薬理学的薬剤に対する細胞応答を評価するための方法
別の態様において、本発明は、in vitroにおいて生物学的薬剤または薬理学的薬剤に対する細胞応答を評価するための方法であって、前記薬剤を、本発明の複数の幹細胞を含んでなる本発明の細胞集団、または所望により特定の細胞種へ分化し、本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物、または本発明の分化細胞を含んでなる組成物と接触させ、そして前記培養細胞集団に対する前記薬剤の効果を評価することを含む方法に関する。
【0148】
例としては、生物学的薬剤または薬理学的薬剤に対する細胞応答は、(a)個体または個体群から本発明の細胞集団または本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物を単離し、(b)所望により、前記細胞集団または本発明の方法に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物中に存在する本発明の幹細胞の総てまたは一部を特定の細胞種または系譜へ分化させ、(c)工程(a)または(b)から得られた細胞をin vitroで培養増殖させ、(d)所望により、工程(c)で増殖させた細胞を特定の細胞種へ分化させ、(e)培養で工程(c)または(d)から得られた細胞集団を1以上の生物学的薬剤または薬理学的薬剤と接触させ、そして(f)培養細胞集団に対する前記薬剤の効果を評価することを含む工程によりin vitroで評価することができる。
【0149】
特定の実施形態においては、本発明の細胞集団または本発明の工程に従って得ることができる本発明の幹細胞を含んでなる組成物中に存在する本発明の幹細胞は、心筋細胞へ分化させる。分化工程は本発明の細胞集団の単離[工程(b)]の後またはそのin vitro増殖[工程(d)]の後のいずれかに行うことができる。
【0150】
増殖因子および/またはサイトカインを得るための方法
別の態様において、本発明は、本発明の幹細胞または本発明の分化細胞を、前記増殖因子および/またはサイトカインの発現および産生に好適な条件下で培養し、そして所望により前記増殖因子および/またはサイトカインを分離することを含む、増殖因子および/またはサイトカインを得るための方法に関する。前記条件は当業者に公知であるか、または当業者ならば本明細書に含まれる情報を鑑みて容易に導き出すことができる。
【0151】
以下の実施例は本発明を例示するものであって、その限定的な意味において考えるべきでない。
【実施例】
【0152】
実施例1
sub−ADSCおよびpi−ADSC成体幹細胞の細胞単離とその集団の培養
一つの同じ個体の心外膜および皮下起源のヒト脂肪サンプルから実質的に均質な幹細胞の二つの集団を単離し、それらの両表現型および心臓特異的マーカーの基礎発現を比較した。
【0153】
材料および方法
心外膜および皮下脂肪サンプルの取得
心外膜および皮下脂肪サンプルを4名の患者(P1、P2、P3、およびP4)からインフォームド・コンセントを取得した後の慣例の心臓手術で得て、それら各々から各種の脂肪サンプルを抽出した。心臓手術に際しては、まず、胸骨が露出するまで皮膚および皮下組織を切開した。この過程で露出した胸部皮下組織から、外科用鉗子を用いて脂肪断片(2〜5g前後)を得た。次に、胸骨正中切開および心膜切開を行い、その後、心臓を露出させた。大動脈周辺の心臓の基部から心外膜脂肪組織(0.5〜2g前後)を得た。この脂肪組織は外科用鉗子により選り分け、通常の外科用メスを用いて切除した。この研究はサンタ・クレウ・イ・サン・パウ病院(Santa Creu i Sant Pau Hospital)の倫理委員会により認可されたものであった。
【0154】
心外膜および皮下脂肪サンプルからのepi−ADSCおよびsub−ADSC細胞集団の単離
両種の脂肪サンプル(心外膜および皮下)をPBSバッファー(Gibco Invitrogen Corp.)で繰り返し洗浄し、存在する血管を切除した後、メスを用いて切断して小断片とした。
【0155】
次に、これらの脂肪組織断片を、37℃で30分、攪拌しながら、α−MEM(Gibco Invitrogen Corp)中0.05%のII型コラゲナーゼ溶液で酵素的に消化した。10%ウシ胎児血清(FBS)、1mM L−グルタミン(Gibco Invitrogen Corp)および1%ペニシリン−ストレプトマイシン(Gibco ivitrogen Corp)を添加したα−MEM培地を加えることで反応を停止させた。次に、この懸濁液を室温で10分間、1,200gで遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットを、10%FBS、1mM L−グルタミンおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシンを添加したα−MEM完全培養培地に再懸濁させ、培養容器に播種した(37℃、5%COを含む空気雰囲気下)。24時間後にこの培養培地を除去し、接着した細胞をPBSで洗浄した。
【0156】
予め単離した細胞のin vitro増殖
接着した細胞を、37℃、5%COを含む空気雰囲気下、10%FBS、1mM L−グルタミンおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシンを添加したα−MEM培地の存在下で培養した。細胞を同じ条件下で、培養培地を3日または4日おきに交換しつつ、およそ80%の集密度になるまで(集密前)培養維持した。細胞は集密前に達した際に1:3希釈で継代培養5回まで(3〜4か月))繰り返し継代培養し、これはトリプシン/EDTAの溶液により培養プレートから剥離した後に5〜6×10細胞/cmに相当した。
【0157】
結果
同じ個体からの成体心外膜脂肪組織由来幹細胞集団および成体皮下脂肪組織由来幹細胞集団を播種し、in vitroで培養増殖させた。図1Aは、心外膜および皮下脂肪の抽出画分を示す。ヒト心外膜成体脂肪組織由来幹細胞(epi−ADSC)の形態は図1Bに示され、ヒト成体皮下脂肪組織由来幹細胞(sub−ADSC)の形態は図1Cに示される。
【0158】
実施例2
epi−ADSC成体幹細胞集団の免疫表現型的特性決定
心外膜脂肪組織由来幹細胞(epi−ADSC)集団の特性決定を行う目的で、種々の表面マーカーの発現をフローサイトメトリーにより分析し、得られた結果を皮下脂肪組織から単離された細胞集団(sub−ADSC)のものと比較した。
【0159】
材料および方法
フローサイトメトリー
P1、P2、P3、およびP4として識別される患者の4サンプルから単離された心外膜脂肪組織由来の四つの細胞集団(epi−ADSC細胞)でフローサイトメトリーにより免疫表現型分析を行い、それらをsub−ADSC細胞の代表的サンプルと比較した。P1およびP2 epi−ADSC細胞は3〜4週間培養(低継代培養)した後に特性決定を行い、P3およびP4 epi−ADSC細胞は9〜12週間培養(高継代培養)した後に特性決定を行った。
【0160】
これらの細胞を4℃にてPBSで洗浄し、培養条件下で5分間、0.05%トリプシン/EDTA(Gibco)でプレートから剥離した。トリプシンの作用が遮断されたところで、細胞を低温条件下、1,400rpmで5分間遠心分離した。これらの細胞を冷却した染色バッファー(1%FCSを含む1×PBS)中で染色工程が完了するまで維持した。染色は種々の表面抗原:CD3、CD9、CD10、CD11B、CD13、CD14、CD15、CD16、CD18、CD19、CD28、CD29、CD31、CD34、CD36、CD38、CD44、CD45、CD49a、CD49d、CD49e、CD49f、CD50、CD51、CD54、CD55、CD56、CD58、CD59、CD61、CD62e、CD621、CD62p、CD71、CD90、CD95、CD102、CD104、CD105、CD106、CD117、CD133/2、CD59、CD235a、HLAI、HLAII、NGFR、およびβ2−ミクログロブリンに特異的な抗体(総てSerotecから)により実施した。
【0161】
細胞膜におけるこれらの抗原の存在を示すため、染色バッファーで1/50希釈したフルオレセインイソチオシアネート(FITC)とフィコエリトリン(PE)の2種類の蛍光団を、遮光、4℃下で20分間用いた。これらのサンプルをCoulter EPICS XLサイトメーターにて特殊なソフトウエア(FCS Express 3ソフトウエア)により分析した。
【0162】
結果
図2は、得られたepi−ADSCサンプルの免疫表現型プロファイルの陽性結果を示す。分析に用いた統計パラメーターは「陽性%」であった。このパラメーターは、対照に対してそれを陽性とみなす獲得式において許容される細胞のパーセンテージを評価する。FCS Expressプログラムは数値の差し引きを統計学的に実行し、「陽性細胞パーセンテージ」パラメーターが30%を超える値を陽性結果としてみなす。
【0163】
よって、フローサイトメトリーによる免疫表現型プロファイルの分析結果は、90%を超えるマーカー試験が両細胞集団(epi−ADSCおよびsub−ADSC)で同様の発現を有する個とを示す。具体的には、epi−ADSC細胞集団は、sub−ADSC細胞集団の場合と同様に、CD9、CD29、CD44、CD51、CD54、CD55、CD59、CD90、CD105、HLA−I、およびβ2−ミクログロブリンに対して極めて陽性であった(表1)。sub−ADSCの残りの陰性特異的マーカーはepi−ADSC細胞に関しても陰性である。しかしながらやはり、細胞表面マーカーCD54の発現に関しては違いが検出され、epi−ADSC細胞の場合では陽性であり、sub−ADSC細胞では陰性であった。
【0164】
【表1】

【0165】
実施例3
sub−ADSCおよびepi−ADSC幹細胞の集団における心臓特異的マーカーの遺伝子発現の比較試験
心臓特異的マーカーβ−MHC、GATA−4、Nkx2.5、心臓トロポニンI(cTnI)、SERCA−2、筋節α−アクチニンおよびコネキシン−43の基礎発現をリアルタイムRT−PCR技術により分析した。
【0166】
材料および方法
リアルタイムRT−PCR
単離された細胞の全RNAを、製造業者の指示に従いQuickPrep Total RNA Extractionキット(Amersham)を用いて抽出した。2μgの全RNAを用い、50℃で10分間、Script One−Step RT−PCRキットをランダムヘキサマー(Bio-Rad Laboratories)とともに用いる逆転写反応によりcDNAを分析した。cDNAが得られたところで、総てのPCR反応物を、TaqMan Universal PCRマスターキット(Applied Biosystems)にて、総ての供試遺伝子に特異的なFAM(登録商標)でマーキングしたプライマーを用いて調製した。用いたプライマーは、GATA−4(Hs00171403_m1)、Nkx2.5(Hs00231763_m1)、筋節α−アクチニン(Hs00241650_m1)、β−MHC(Hs00165276_m1)、コネキシン−43(Hs00748445_s1)、SERCA−2(Hs00544877_m1)、cTnI(Hs00165957_m1)およびGAPDH(Hs99999905_m1)(Applied Biosystems)であり、反応条件は、総てのプライマーに関して、50℃2分、95℃10分、そして95℃15秒と60℃1分40回とした。最後に増幅をABI Prism 7000 Sequence Detectionシステム(Applied Byosistems)により分析した。この遺伝子発現を定量するため、得られたデータをABI Prism 7000 SDSソフトウエアプログラムで分析した。サンプルは総て2回分析した。Ct(ΔCt)比較法を用いた。Ctは、内部参照対照として構成的発現遺伝子GAPDHを用いて各分析遺伝子の相対的発現を算出するための、基本レベルを超える最初の蛍光増強が検出されるPCRサイクルである。
【0167】
結果
表2および図3Aに示されるように、同じ個体から抽出されたsub−ADSC細胞に比べ、epi−ADSC細胞集団の心臓転写因子GATA−4に関する遺伝子レベルの統計学的に有意な上昇(p<0.001)が継代培養2回で検出された。これに対し、残りの心臓特異的マーカー(α−アクチニン、β−MHC、cTnI、Cx43、SERCA−2、およびNkx2.5)の遺伝子発現に関しては、この2種類の供試細胞集団間での有意差は検出されなかった(図3A)。継代培養5回でGATA−4の発現の差は増大し(p<0.001)、Cx43の転写レベルに関しても有意差が検出される(p=0.031)ことを指摘しておくべきである(図3Bおよび3C)。これらの結果は心外膜脂肪由来幹細胞(epi−ADSC)集団は、同じ個体の皮下脂肪由来細胞(sub−ADSC)集団に比べて、心臓系譜へより大きく傾くことを示す。
【0168】
【表2】

【0169】
実施例4
epi−ADSC細胞およびsub−ADSC細胞におけるタンパク質レベルでの心臓特異的マーカー発現の比較研究
心臓特異的マーカーβ−MHC、GATA−4、Nkx2.5、心臓トロポニンI、SERCA−2、筋節α−アクチニン、およびコネキシン−43の基礎発現を、免疫蛍光およびウエスタンブロット技術によりタンパク質レベルで分析した。
【0170】
材料および方法
ウエスタンブロット
細胞を冷PBSバッファーで繰り返し洗浄し、溶解バッファー[25mM Tris pH7.6、150mM NaCl、1mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、1mM EGTA(エチレングリコール四酢酸)、1%SDS(ラウリル硫酸ナトリウム)、1mM PMSF(塩化フェニルメチルスルホニル)、1μg/mlアプロチニンおよび1ng/mlロイペプチン]中、4℃で30分間ホモジナイズした。SDS溶解画分を、4℃10分、13,000rpmで遠心分離により得た。全抽出物のタンパク質濃度を、標品としてBSAを用い、Bio−Rad DCプロテインキット(BioRad)により測定した。50μgのタンパク質を直径0.45mmのニトロセルロース膜に移し、種々の分析心臓特異的マーカーに対して特異的な抗体を用いて現像した:Cx43(1/100)(BD Transduction Laboratories)、GATA−4(1/100)、SERCA−2(1/100)、抗心臓トロポニンI(cTnI)(1/100)(前者の三つはSanta Cruz Biotechnology)、β−MHC(1/10)(Chemicon)、および筋節α−アクチニン(1/100)(Sigma))。対応する特異的バンドを観察するために、製造業者の指示に従い化学発光検出系(Pierce)を用いた。
【0171】
免疫蛍光
共焦顕微鏡(FluoroDish, WPI Inc.)による検査専用の、0.17mmガラス底を有する35mmプレートで培養した細胞をPBSバッファーで繰り返し洗浄し、PBSで調製した4%PFA(パラホルムアルデヒド)を用い、室温で15分間固定した。次に、PBS中1%BSA(ウシ血清アルブミン)/0.1%サポニンを用い、室温で30分間、これらの細胞に透過処理を施した。最後に、これらの細胞を種々の分析心臓特異的マーカーに対して特異的な抗体とともにインキュベートした:Cx43(1/100)(BD Transduction Laboratories)、GATA−4(1/100)、SERCA−2(1/100)、心臓トロポニンI(cTnI)(1/100)(Santa Cruz Biotechnology)、β−MHC(無希釈)(Chemicon)および筋節α−アクチニン(1/100)(Sigma))、最後に蛍光共焦顕微鏡(Leica)下で分析した。
【0172】
結果
タンパク質レベルでの前記マーカー発現の研究の結果は、その遺伝子発現分析で得られた結果を補足する。
【0173】
培養培地に付加的な心臓形成刺激または因子が存在しない場合には、epi−ADSC細胞だけが継代培養2回と継代培養5回の双方でCx43およびGATA−4を発現したことが見出された(図4Aおよび4B)。epi−ADSC細胞におけるCx43およびGATA−4の発現レベルの増加は、それらのin vitro増殖期を通じて見られた(継代培養2回〜継代培養5回)。
【0174】
両細胞集団で、継代培養2回においては、カルシウムSERCA−2ポンプおよびβ−MHCのタンパク質レベルでの発現が見られないことを指摘しておくべきである。しかしながら、両細胞集団とも、継代培養5回ではβ−MHCおよびSERCA−2の発現の増加が検出され(図4および5)、epi−ADSC細胞は、一つの同じ個体からのsub−ADSC細胞で見られたものよりも大きなβ−MHC発現増加を有する(図4)。
【0175】
このタンパク質レベルでの発現差異の存在は、この二つの供試細胞集団間で、転写物翻訳工程またはmRNAを成熟タンパク質へ翻訳する工程の調節機構の違いによるものである可能性がある。
【0176】
分析した残りの遺伝子/タンパク質に関しては、リアルタイムRT−PCRとウエスタンブロットおよび免疫蛍光試験により得られた結果の間で高い一致度を有する。
【0177】
実施例5
脂肪心外膜組織由来幹細胞(epi−ADSC)の分化能の分析
心外膜脂肪由来幹細胞(epi−ADSC)の脂肪形成、骨形成および軟骨形成系譜への分化能を分析した。
【0178】
材料および方法
epi−ADSC細胞の骨形成、脂肪形成、および軟骨形成系譜への分化
骨形成分化、脂肪形成分化および軟骨形成分化の各細胞系譜に特異的な分化プロトコールを用いた。
【0179】
骨形成分化
骨細胞への分化誘導は、皮下脂肪組織由来幹細胞および他の細胞種に関してすでに確立されているプロトコールに従って行った(Zuk et al., 2002. Human adipose tissue is a source of multipotent stem cells. Mol Biol Cell. 2002 Dec; 13(12):4279-95)。
【0180】
細胞を1週間培養維持(DMEM培地、2mM L−グルタミン(Gibco)、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco))した後、DMEM(BE12-614F Cambrex, Biowhitaker)、10%FBS(5253 Linus Cultek)、2mM L−グルタミン(Gibco)、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)、100nMデキサメタゾン(Sigma)、50μMアスコルビン酸−2−リン酸(Sigma)および10mMβ−グリセロホスフェート(Sigma)からなる特異的分化培地で2週間培養することにより、骨細胞への分化を誘導した。
【0181】
脂肪形成分化
脂肪細胞への分化誘導は、皮下脂肪組織由来幹細胞および他の細胞種に関してすでに確立されているプロトコールに従って行った(Zuk et al., 2002, 前掲、 Awad et al., 2003. Effects of transforming growth factor beta1 and dexamethasone on the growth and chondrogenic differentiation of adipose-derived stromal cells. Tissue Eng. 2003 Dec; 9(6):1301-12)。
【0182】
細胞を1週間培養維持(DMEM培地、2mM L−グルタミン(Gibco)、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco))した後、2種類の培地(培地Aおよび培地B)に変更することにより、脂肪細胞への分化を誘導した。これらの培地の組成を以下に明示する。
【0183】
培地A:DMEM(BE12-614F Cambrex, Biowhitaker)、10%FBS(5253 Linus Cultek)、2mM L−グルタミン(Gibco)、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)、1μMデキサメタゾン(Sigma)、0.2mMインドメタシン(Sigma)、10μg/mlインスリン(Sigma)、および0.5mM 3−イソブチル−1−メチルキサンチン(Sigma)
培地B:DMEM(BE12-614F Cambre, Biowhitaker)、10%FBS(5253 Linus Cultek)、2mM L−グルタミン(Gibco)、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)、および10μg/mlインスリン(Sigma)
【0184】
軟骨形成分化
軟骨細胞への分化誘導は、皮下脂肪組織由来幹細胞および他の細胞種に関してすでに確立されているプロトコールに従って行った(Zuk et al., 2002, 前掲)。分化は、培地交換と細胞を低酸素状態に置くという組合せにより誘導した。
【0185】
予備誘導:クローンを円錐底96ウェルプレート内で遠心分離し、細胞凝集物を、1%FBSを含むDMEM中で24時間増殖させた。
【0186】
誘導:これらのクローンを、DMEM(BE12-614F Cambrex, Biowhitaker)、1%FBS(5253 Linus Cultek)、2mM L−グルタミン(Gibco)、100U/mLペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)、6.25μg/mlインスリン(Sigma)、10μg/mL TGFB−1(R&D)および50nMアスコルビン酸2−リン酸(Sigma)からなる特定の培地で.3日おきに培地を交換しつつ、20日間維持した。
【0187】
骨細胞、脂肪細胞、および軟骨細胞へ分化したepi−ADSC細胞の染色
各分化に好適な異なる染色プロトコールを用いた。
【0188】
骨形成分化に関する染色
細胞を4℃で5分間、50%エタノールで固定した。染色は蒸留水中1%アリザリンレッド(pH=4.1)を用い、室温で攪拌しながら45分間行った。分化した、従って、周囲にカルシウムの生成を示すコロニーは強い赤色に染まる。
【0189】
脂肪形成分化に関する染色
細胞を室温で20分間、PBS中37%ホルムアルデヒドの1:10希釈液(pH7.4)で固定した。染色はオイルレッド(100mlイソプロパノール中0.3gオイルレッド、蒸留水で1:2希釈)を用い、室温で20分間インキュベートして行った。分化した細胞の液胞に蓄積した脂質が赤く染まる。
【0190】
軟骨形成分化に関する染色
細胞を室温で1時間、4%ホルムアルデヒドの希釈液で固定した。染色は、「酸性アルコール」(蒸留水中、70%エタノール、1%HCl)中アルシアンブルーの0.1%希釈液を用い、室温で1時間インキュベートして行った。洗浄後、染色を4%PFAで再び固定した。分化細胞は青色に染まる。
【0191】
結果
脂肪形成、骨形成および軟骨形成系譜に特異的な染色の結果の分析は、心臓の脂肪組織、特に心外膜領域由来の幹細胞(epi−ADSC)は、皮下脂肪組織由来幹細胞(sub−ADSC)よりも有意に染色が悪いことを示す。強い色が現れるほど分化程度が高いことを示すので、心臓脂肪組織由来幹細胞(epi−ADSC)は、皮膚脂肪組織由来幹細胞(sub−ADSC)よりも脂肪細胞、骨細胞および軟骨細胞への分化能が低いという結論が得られる。
【0192】
実施例6
ヒト心臓脂肪組織由来幹細胞(ADSC)の単離および特性決定
1.材料および方法
1.1 心臓脂肪組織および細胞培養物の採集
心臓手術を受けた患者から心肺バイパスを始める前に心臓脂肪組織生検サンプルを得た。心外膜脂肪組織生検サンプル(平均約0.5〜1.0g)は心臓に近い、大動脈周辺から採取した。インフォームド・コンセントが得られた117名の患者(67.5±9.2歳)からの心臓脂肪組織生検を用い、本研究を行った。この研究はサンタ・クレウ・イ・サン・パウ病院(Santa Creu i Sant Pau Hospital)の倫理委員会により認可されたものであった。
【0193】
サンプルをMartinez-Estrada, O.M., et al., Human adipose tissue as a source of Flk-1+ cells: new method of differentiation and expansion. Cardiovasc Res 65, 328-33 (2005)により記載されているように処理および単離した。接着細胞を、10%FBSおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシン(Gibco Invitrogen Corp., Grand Island, NY, USA)を添加したα−MEM培地で集密前まで増殖させ、通常の条件で培養した。
【0194】
1.2 クローン原性アッセイ
クローン原性アッセイはMcFarland [McFarland, D.C. Preparation of pure cell cultures by cloning. Methods Cell Sci 22, 63-6 (2000)]により記載されているプロトコールに従って行った。要するに、細胞をプレートに400細胞/100cmの密度で播種し、個々のクローンを直径数ミリメートル(mm)に達するまで発達させた。次に、培地を除去し、コロニーの周囲にクローニングリングを置いた。20%FBSおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシンを添加したα−MEM完全培地をクローニングリング内に加え、これらのプレートを通常の条件で培養した。
【0195】
1.3 奇形腫の評価
ヒト心臓ADSCの催奇形能を評価するため、12週齢の4匹のSCIDマウス(CB17×C57B1/6)(30g、Charles River Laboratories Inc. Wilmington, MA, USA)で皮下および筋肉内注射(1.5×10細胞)を行った。腫瘍形成を評価するために毎週、動物を検査した。細胞の注射から4か月後に、皮膚、骨格筋、肝臓、および脾臓を採取し、それらの組織学的分析のために処理した。
【0196】
1.4 脂肪形成および骨形成分化アッセイ
増殖させた一次細胞培養物に対して脂肪形成および骨形成能を決定するアッセイを行った。これまでに記載されているように[Phillis, B.D., et al. Modification of d-amphetamine-induced responses by baclofen in rats. Phychopharmacology (Ber1) 153, 277-84 (2001)、 Roura, s. et al. Effect of aging on the pluripotential capability of human CD105+ mesenchymal stem cells. Eur J Heart Fail 8, 555-63 (2006)]を分化およびアリザリンレッドS染色アッセイを行った。
【0197】
1.5 フローサイトメトリー
継代培養2回で細胞を採取し、CD105(Serotec)、CD44、CD166、CD29、CD90、CD117、CD106、CD34、CD45、CD14、CD133、およびVEGFR2(BD Pharmingen)に特異的なモノクローナル抗体で免疫染色を行った。各抗原のフローサイトメトリーレベルを、特異的抗体とIgGイソ型対照(Caltag Laboratories, Burlingame, CA, USA)の間の比率により定義した(1=差無し)。Coulter EPICS XLフローサイトメトリー(Beckman Coulter, Miami, FL, USA)を用いて総てのデータを得、Expo32プログラム(Beckman Coulter)を用いて分析を行った。
【0198】
1.6 免疫抑制アッセイ
末梢血リンパ球(PBL)増殖に対する心臓ADSCの作用を分析するため、2×10PBLを含む心臓ADSCを好適な刺激(PHA5μg/ml)の存在下または非存在下で5×10プレートに播種した。ドナーL100605(CMDL)の皮下ADSCを免疫抑制対照としてプレートに播種した。刺激から4日後、BrdUを24時間培地に加え、製造業者の指示(Cell Dliferation ELISA BrdU, Roche)に従い、ELISAにより増殖を調べた。試験は3回行った。前駆細胞無しのPBL増殖に関するデータを示す。
【0199】
1.7 GeneChip発現の分析
4名の異なる患者の継代培養2回で、製造業者の指示に従いQuickPrep全RNA抽出キット(Amersham, Freiburg, Germany)を用い、心臓ADSCの全RNAを単離した。全RNAからcRNAを調製し、Affymetrix HG−U133 Plus2.0チップとハイブリダイズさせ、示差的に発現した遺伝子を調べるため分析した。GeneChipマイクロアレイを、これまでに記載されているように[Virtaneva, K. et al. Expression profiling reveals fundamental biological differences in acute myeloid leukemia with isolated trisomy 8 and normal cytogenetics. Proc Natl Acad Sci U S A 98, 1124-9 (2001)]、Instituto de Investigacion en Biomedicina (Institute of Biomedical Research) (Barcelona, Spain)において、製造業者のプロトコールに従い(Affymetrix, Santa Clara, CA)、Grupo de Genomica Funcional (Functional Genomic Group)により処理した。発現シグナルをHewlett−Packard GeneArrayスキャナーでスキャンした。
【0200】
データの統計分析はRを用いて行った。まず、データを、Rで実行されるgcRMAアルゴリズムを用いて処理せずにノーマライズし、次に、FLUSH[Calza, S. et al. Filtering genes to improve sensitivity in oligonucleotide microarray data analysis. Nucleic Acids Res 35, e1O2 (2007)]を用いてフィルタリングし、関連のある変化をGenePattern[Reich, M. et al. GenePattern 2.0. Nat Genet 38, 500-1 (2006)]を用いて抽出した。得られた結果を、GEOデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/; registration ID: GDS2366)から得られた非分化皮下脂肪由来細胞に対する公開アレイにものと比較した。このため、このアレイの各セットをパーセンテージ範囲の戦略で分類し(両試験を同じプラットフォームで行った)、その後、このパーセンテージ範囲をこれらの二つの試験間で比較した。強度値の代わりにパーセンテージ範囲を用いることで、ハイブリダイゼーションに存在した可能性がある系統的なバイアスを防ぐことができる。
【0201】
1.8 定量的リアルタイムRT−PCR
これまでに説明したように心臓および皮下ADSCの全RNAを単離した。全RNA2mgからランダムヘキサマー(Qiagen)とScriptTM One−Step RT−PCRキット(BioRad Laboratories)を製造業者の指示に従ってcDNAを合成した。定量的リアルタイムRT−PCRプロトコールの詳細を以下に記載する。
【0202】
要するに、25mlのTaqMan 2X Universal PCR Master Mixと、Applied Biosystems (Foster City, CA, USA)とから入手したFAMでマーキングした各2mlのプローブ/プライマー:GATA4(Hs00171403_m1)、コネキシン43(Cx43)、Hs00748445_s1)、SERCA2(Hs00544877_m1)、心臓トロポニンI(cTn−I)(Hs00165957_m1)、筋節α−アクチニン(Hs00241650_m1)、β−ミオシン重鎖(β−MHC)(Hs00165276_m1)、VCAM−1(Hs00365486_m1)、フォン・ウィルブランド因子(vWF)(Hs00169795_m1)、VE−カドヘリン(Hs00174344_m1)、CD34(Hs00990732_m1)、EGR−3(Hs00231780_m1)、CD102(HsOO168384_m1)、CD36(Hs00169627_m1)、VEGF−A(Hs00173626_m1)、EGR−1(Hs00152928_m1)、CD31(Hs00169777_m1)、SDF−1(Hs00930455_m1)、CXCR−4(Hs00237052_m1)およびグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)(Hs99999905_m1)とを含んだ最終量50μlで、2mlのcDNAを用いるPCRにより増幅を行った。
【0203】
データを採取し、ABI Prism 7000(ABI)配列検出システムで分析した。各サンプルを2回分析した。Δ閾値サイクル法(Ct)(Ctは、最初のレベルを超える指標蛍光の増強が初めて検出されるPCRサイクルである)を用い、すでに記載されているように[Pfaffl, M.W. A new mathematical model for relative quantification in real-time RT-PCR. Nucleic Acids Res 29, e45 (2001)]、内部標準としてGAPDHを用いて、各遺伝子の発現の相対量を算出した。
【0204】
1.9 タンパク質抽出およびウエスタンブロット
タンパク質抽出物を既に記載されている方法[Roura, S. et al. Idiopathic dilated cardiomyopathy exhibits defective vascularization and vessel formation. Eur J Heart Fail 9, 995-1002 (2007)]に従い、取得した。ウシ血清アルブミン(BSA)を用いたBio−Rad DCプロテインアッセイ(Bio-Rad)によりタンパク質レベルをノーマライズし、これらのサンプルを5〜10%SDS−PAGEゲルで分離した。これらのタンパク質をニトロセルロース膜(Bio-Rad)に転写し、それぞれGATA4(1:500)、SERCA2(1:100)、α−アクチン(1:300)、cTnI(1:300)(Santa Cruz Biotech.)、Cx43(1:500)(BD Transduction, Lexington, KY, USA)、β−MHC(1:10)(Chemicon, Temecula, CA, USA)、および筋節α−アクチン(1:500)(Sigma, St. Louis, MO, USA)に特異的なモノクローナル抗体(AcM)を用いて検査した。増強化学発光検出系(Amersham Biosciences)を用いてタンパク質バンドを観察した。
【0205】
1.10 免疫蛍光染色
これらの細胞に透過処理を施し、5%正常ヤギ血清中で30分間ブロッキングし、抗GATA4、抗SERCA2、抗−cTnI(2μg/ml)(Santa Cruz Biotechnology)、抗α筋節アクチン(1:500希釈)(Sigma)、抗β−MHC(無希釈)(Chemicon)、および抗Cx43(2.5μg/ml)(BD Transduction)抗体を用い、室温で1時間マーキングした。Alexa Fluor 488およびAlexa Fluor 568(5μg/ml)(Molecular Probes)とコンジュゲートされた二次抗体を適用し、共焦レーザー走査顕微鏡(Leica TCS SP5)でシグナルを観察した。
【0206】
1.11 心臓ADSCの同時培養
心臓ADSCを、これまでに記載されているように[Gandia, C. et al. Human dental pulp stem cells improve left ventricular function, induce angiogenesis, and reduce infarct size in rats with acute myocardial infarction. Stem Cells 26, 638-45 (2008)]、ウイルス形質導入によりeGFPでマーキングした。新生ラットの心筋細胞を、これまでに記載されているように[Fukuhara, S. et al. Direct cell-cell interaction of cardiomyocytes is key for bone marrow stromal cells to go into cardiac lineage in vitro. J Thorac Cardiovasc Surg 125, 1470-80 (2003)]、新生ラット(1〜3日齢)からの酵素的分散により単離した。実験のため、これらの心筋細胞を、2%ゼラチンでコーティングしたプレート上、5%FBS、10%ウマ血清(Invitrogen)、1%ペニシリン−ストレプトマイシンおよび100μMシトシンβ−D−アラビノフラノシド(Sigma)を添加した4:1 DMEM:M−199(Sigma)中、5×10細胞/cmの密度で維持した。その後、eFP+ADSCとこれらの新生児心筋細胞を1:25の比率で混合し、それらを細胞密度5×10細胞で播種した。これらの細胞を一体として、37℃、空気中5%COで30日間、一緒に培養(同時培養)した。
【0207】
1.12 内皮分化アッセイ
心臓ADSCを増殖させ、これまでに記載されているように[Heydarkhan-Hagvall, S. et al. Human adipose stem cells: a potential cell source for cardiovascular tissue engineering. Cells Tissues Organs 187, 263-74 (2008)、 Liu, J.W. et al. Chraracterization of endothelial-like cells derived from human mesenchymal stem cells. J Thromb Haemost 5, 826-34 (2007)]、内皮分化を分析した。内皮分化を評価するためにDil−Ac−LDL(10μg/ml、Biomedical Technologies)の組み込みを用いた。
【0208】
1.13 血管構造のin vitro形成
管形成を誘導するため、心臓ADSCを、1%ECMatrix(商標)(Chemicon International)でコーティングしたプレート上に26,000細胞/cmの密度で播種し、ビオチン化GSLIイソレクチンB4(グリフォニア・シンプリシフォリア(Griffonia simplecifolia)I B4レクチン)(Vector Labs)を用い、2時間目、4時間目、および7時間目に管形成を確認した。マーキングされた細胞の検出のために、Alexa Fluor 568コンジュゲートストレプトアビジン(5μg/ml)(Molecular Probes)を用いた。
【0209】
1.14 心臓ADSCの管形成能
酸素正常状態(21%O)、軽度低酸素状態(5%O)および重度低酸素状態(1%O)で24時間培養した継代培養2回の10,000細胞/cmから細胞馴化培地を得た。新脈管形成サイトカイン濃度を、マルチプレックスイムノアッセイ(Procarta Cytokine Assay Kit, Panomics)を用いて分析した。細胞馴化培地中の分析サイトカインは、IL−1β、IL−6、TNF−α、VEGF、PDGFBB、およびbFGFであった。結果は、培地の採取時に10細胞により分泌された因子の平均±s.d.(pg)として表した。
【0210】
2.結果
2.1 心臓ADSCの単離および特性決定
幹(前駆)細胞集団は、心臓手術を受けた患者の総ての心臓脂肪組織サンプルにおいて十分単離され、単層培養で増殖され、特性決定された(図6)。記載の条件で培養3日後に、結合した繊維芽細胞と類似の細長い細胞が見られた(図6b)。
【0211】
これらの細胞はクローン原性があり、倍加時間(T)はおよそ5日であり、CIDマウスにおいて奇形腫の形成を誘発しない(データは示されていない)。心外膜脂肪組織由来幹細胞(epi−ADSC)を脂肪形成および骨形成培地で培養しても、脂質滴の細胞内蓄積も、細胞外のカルシウム沈着も起こらなかった(図7a)が、これに対して、皮下脂肪組織由来幹細胞(sub−ADSC)は脂肪形成系譜を容易に獲得した(図7b)。
【0212】
単離された心臓ADSCを免疫表現型的に特徴付けるため、表面マーカープロファイルを調べた。90%を超える細胞が間葉幹細胞(MSC)型パターンを発現した。前記細胞はCD105、CD44、CD166、CD29およびCD90に関して強い陽性であり、CD106、CD117、CD34、CD45、CD14、およびCD133ならびにVEGFR2に関しては弱い陽性または陰性であった(図6c)。
【0213】
さらに、心臓ADSCは、末梢血リンパ球増殖を部分的に阻害(42%の増殖減)することができるが、これは心臓ADSCの軽度の免疫抑制能を示す。
【0214】
2.2 心臓ADSCの筋形成系譜分化
心臓ADSCの遺伝子発現プロファイルを分析するためにマイクロアレイGeneChip分析を行った。これらの結果をGEOデータベースから得られた非分化皮下脂肪組織由来細胞の遺伝子発現と比較した。検討したおよそ22,000の遺伝子のうち、皮下脂肪組織由来幹細胞に比べて心臓ADSC内のいくつかの心臓マーカーで異なる発現が見られた(表3)。
【0215】
定量的リアルタイムRT−PCR(図8)を用いたところ、単離された皮下脂肪組織幹細胞に比べて心臓ADSCで、隣接する心筋細胞間の電気化学的結合を担うタンパク質であるGATA4転写因子とコネキシン43(Cx43)の極めて高い発現が検出された。SERCA2、cTnI、筋節α−アクチニンおよびβ−MHCの転写物レベルは両細胞集団で類似していた。
【0216】
タンパク質レベルにおいて、最初の培養培地で、心臓ADSCはβ−MHC、SERCA2、筋節α−アクチン、Cx43、およびGATA4(図9a)ならびに微量のTbx5を発現した(データは示されていない)。これらの結果はウエスタンブロット(図9a)および免疫蛍光(図9b〜9e)により確認した。見て取れるように、β−MHC繊維すでに所定の細胞質分布を発現する(図9b)。これに対し、皮下ADSCはβ−MHC、Cx43、cTnI、およびGATA4の非存在、および筋節α−アクチンの低発現を示した(図9a)。
【0217】
ヒト心臓ADSCと、新生ラット心筋細胞との同時培養は、分析したヒト細胞の心臓形成能を示した。β−MHC(図10c)、筋節α−アクチン(図10n)、Cx43(図10m)、SERCA2(図10q)、およびGATA4(図10r)の強度ならびに傾向は培養で増強され、新生児心筋細胞において観察されるものに匹敵した。さらに重要なことに、この同時培養は、非刺激培養では見られない重要な筋節タンパク質であるトロポニンIの発現を刺激した(図10b、10f、および10j)。トロポニンI細胞質における再配列も、培養心筋細胞で見られる継代培養筋節構造に似ていた。
【0218】
2.3 培養内皮系譜における心臓ADSCの分化
これまでに述べたように、心臓ADSCで行ったGeneChipマイクロアレイ分析およびその非分化皮下脂肪組織由来細胞との比較は、心臓ADSCにおける新脈管形成促進遺伝子の、より大きなパーセンテージ範囲での発現を示した。さらに、新脈管形成阻害剤の発現はもっぱら低かった(表4)。
【0219】
ヒト心臓ADSCの内皮系譜能を調べるため、細胞をEGM−2分化培地で培養した。処理および非処理(対照)細胞の内皮転写物レベルを比較したところ、内皮マーカーCD34、VEGF−α、VCAM−1、VE−カドヘリン、ERG−1、ERG−3、CD31、およびSDF−1の発現の増加が示された(図11)。内皮前駆細胞の移動に有益であり、管形成を促進するSDF−1因子は120倍の発現増加を受け[Yamaguchi, J. et al. Stromal cell-derived factor-1 effects on ex vivo expanded endothelial progenitor cell recruitment for ischemic neovascularization. Circulation 107, 1322-8 (2003)、 Zhang, M. et al. SDF-1 expression by mesenchymal stem cells results in trophic support of cardiac myocytes after myocardial infarction. Faseb J 21, 3197-207 (2007)]、一方、CD31、ERG1、およびERG3はそれぞれ15倍、10倍、および16倍を超えて増加した。さらに、これらの細胞の内皮分化をまた、Dil−Ac−LDLの急速取り込みおよび代謝により示した[Voyta, J.C. et al. Identification and isolation of endothelial cells based on their increased uptake of acetylated-low density lipoprotein. J Cell Biol 99, 2034-40 (1984)(図11b)。
【0220】
さらに、心臓ADSCの内皮系譜への分化能を確認するため、機能新脈管形成アッセイを行った。マトリゲルコーティングおよび通常の条件で細胞を培養した後、管構造が形成された。これらの構造はすぐに発達して管ネットワークを形成し、その組織化とその径を成長させる(図11c〜11e)。それらをまた、特異的内皮マーカーGSLIイソレクチンB4を検出するために染色した(図11fおよび11g)。
【0221】
2.4 心臓ADSCは新脈管形成促進因子を分泌する
心臓ADSCは心筋虚血において注射された際に宿主組織でこれらの因子を分泌することができるか否か、従って、血管形成を促進することができるか否かを調べるため、低酸素条件で新脈管形成促進因子のin vitro分泌を分析した。酸素正常状態では、細胞は有意な量のIL−6(53.677±24.613pg/ml/10細胞)およびVEGF(3.201±1.011pg/ml/10細胞)と、若干量のbFGF(161.0±31.2pg/ml/10細胞)およびTNF−α(59.1±16.0pg/ml/10細胞)を分泌した。IL−1βまたはPDGFBBの発現は検出されなかった。軽度低酸素状態(5%O)および重度低酸素状態(1%O)では、VEGF分泌の著しい増加(92%、p=0.04)があり、IL−6、bFGF、およびTNF−α濃度はおよそ20%増加した。IL−1βおよびPDGFBBレベルは依然として検出できなかった。
【0222】
実施例7
心臓ADSC移植は心筋梗塞後の心機能を改善する
1. 材料および方法
1.1 心筋梗塞モデルおよび細胞移植
1.1.1 ラット
この研究には、合計16匹の雄ヌードラット(200−250g、NIH−Foxn1rnv、Charles River Laboratories Inc. Willmington, MA, USA)を用いた。これまでに記載されているように、左冠動脈を結紮した[Gandia, C. et al. Human dental pulp stem cells improve left left ventricular function, induce angiogenesis, and reduce infarct size in rats with acute myocardial infraction. Stem Cells 26, 638-45 (2008)]。これらのラットに挿管し、O/Sevorane混合物で麻酔をかけ、人工呼吸器(Harvard Apparatus model 683 small animal ventilator)を装着し、開胸後、LAD冠動脈を6−0 proleneで永久結紮することにより急性心筋梗塞を引き起こした。切開部を3−0絹縫合糸で縫い合わせた。1週間後、これらのラットに麻酔をかけ、胸骨正中切開により再び開き、ハミルトンシリンジを用いて梗塞の境界領域の5ヶ所に5μl量の5回の注射により心筋内移植を行った(生理食塩水中に懸濁した10心臓GFP−ADSC細胞または等量の生理食塩水)。
【0223】
細胞の注射からおよそ30日後に、停止液(68.4mM NaCl、59mM KCl、11.1mMグルコース、1.9mM NaHCO、29.7mM BDM(2,3−ブタンジオン−モノオキシム)、1,000Uヘパリン)を用いて心臓を拡張期に停止させ、それらの心臓を切開し、固定し、PBS中30%スクロース中で低温保存し、OCT(Sakura, Torrance, California, USA)に包埋し、すぐにイソペンタン中で凍結し、液体窒素で冷却した。組織ブロックは、薄片に切るまで−80℃で保存した。
【0224】
総ての工程において、the Institute of Laboratory Animal Researchのthe Guide for the Care and Use of Laboratory Animalsの基準(NIH公開番号86−23、1996年改定)を用いた。
【0225】
1.1.2 心エコー検査
心臓機能を評価するために、従前に記載されているように、ラットにおいて経胸壁心エコー検査を行った[Friedrich, J. et al. 31P nuclear magnetic resonance spectroscopic imaging of regions of remodeled myocardium in the infarcted rat heart. Circulation 92, 3527-38 (1995)]。10Hz線形ネットワーク変換器を備えた心エコーシステム(General Electric)を使用し、初期レベル(梗塞の1日前に)と細胞移植後15日および30日の時点において測定を行った。中央乳頭の二次元(2−D)M−モード心エコー検査を胸骨傍短軸像で行った。機能パラメーターは、慣例法を用いて5回の連続した心周期で計算した[Litwin, S. E., Katz, S. E., Morgan, J. P. & Douglas, P. S. Serial echocardiographic assessment of left ventricular geometry and function after large myocardial infraction in the rat. Circulation 89, 345-54 (1994)]。
【0226】
拡張期および収縮期の前壁および後壁(AWおよびPW)の径、LVの拡張末期径(LVDd)および収縮末期径(LVDd)、拡張末期面積(EDA)、ならびに収縮末期面積(ESA)を定量した。AWおよびPWの変化は、それぞれ(AWs/AWd−1)×100および(PWs/PWd−1)×100として計算した。短縮率(FS)は、[(LVDd−LVDs)/LVDd]×100として計算し、駆出率(EF)は、[(LVEDV−LVESV)/LVEDV]×100として計算した。
【0227】
1.2 形態計測
1.2.1 ラット
ラット心臓を横方向に三つの部位に切断した:頂部、中央部(結紮を含む)、および基部。測定では、中央部の部位の10μm厚凍結切片(200μm離れた6切片)を連続的にマッソン・トリクローム染色し、画像解析ソフトウェア(ImageJ, NIH)を用いて形態計測パラメーターを決定した。梗塞サイズは、全LV壁表面における平均瘢痕面積の割合として測定した。梗塞の厚さは、部分心内膜梗塞面積を合計することによって計算した[Takagawa, J. et al. Myocardial infarct size measurement in the mouse chronic infarction model: comparison of area-and length-based approaches. J Appl Physiol 102, 2104-11 (2007)]。切片は総て盲検とし、Leica社製ステレオスコープ(Leica TL RCI)を用いて写真撮影した。
【0228】
1.2.2 免疫蛍光組織学
ラット心臓の凍結切片において二重免疫染色を行った。これらの組織をCD31(1:25)(Abcam)および筋節α−アクチン(希釈度1:500)(Sigma)またはcTnI(2μg/ml)(Santa Cruz Biotechnology)に対する一次抗体とともにインキュベートした。ラット心臓におけるヒト細胞の免疫組織学的検出では、組織切片を抗ヒト核抗原抗体(HNA、Chemicon)とともにインキュベートした。Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 568、およびAlexa Fluor 647(5μg/ml)(Molecular Probes)とコンジュゲートした二次抗体を用いた。組織切片を4,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(4,6-diamidino-2-phenylyndole)(DAPI、Sigma)で対比染色し、Leica TCS SP5を用いて分析した。
【0229】
1.2.3 毛細血管密度
梗塞の境界領域および梗塞の遠位心筋における毛細血管密度を決定するために、心臓切片をビオチン化GSLIイソレクチンB4(Vector Labs)を用いて染色した。Alexa Fluor 568と、コンジュゲートしたストレプトアビジンとを検出系として用いた。4対照動物および5処理動物において毛細血管を少なくとも12の無作為に選択した視野(六つの境界領域+六つの遠位領域)内で計数した。これらの結果を組織表面1mm当たりの平均毛細血管数として表した。2名の独立した観察者は処置を知らされず、対照群および処理群を分析し、級間相関係数(CHF)は境界領域では0.821(p<0.001)、遠位領域では0.743(p<0.001)であった。調査者らが得た値は同じような値であったということを考慮に入れて、各項目の最終結果は平均±SEMとした。
【0230】
1.2.4 統計分析
切片は総て盲検とし、計数し、調査者らの2名が考察した。群間の多重比較のために分散分析(二元配置ANOVA)によってFS、EFおよびAWTデータの統計的有意性を評価し、グリーンハウスの修正を適用した。対照群と細胞とのMI中および30日後(表5)の心エコーパラメーターならびに形態計測値を総てt検定により比較した。これらの結果は平均±SEMとして示した。境界領域および遠位領域における対照群と細胞との毛細血管密度の違いもt検定を用いて比較した。p<0.05の値は群間で有意であると考察した。記述統計をSPSSにより行った。
【0231】
2. 結果
2.1 心臓ADSC移植は心筋梗塞後の心機能を改善する
ヌードラットにおいて初期レベルで、心筋梗塞(MI)後に、および細胞の注射後30日まで対照群および心臓ADSC群の心エコーパラメーターを得た(表5)。初期レベルとMI後では、分析した心エコーパラメーターの値が処理動物と非処理動物でよく似ており、これにより組織損傷が同程度であることが分かる。MI後、MI〜30日間の処理群において有意な機能改善が認められた(表5)。対照群の展開は、左心室(LV)のリモデリングにより心機能パラメーターの進行性低下を示し、LVの径ならびに拡張末期および収縮末期面積により判定した(表5)。左室内径短縮率(p=0.024)および駆出率(p=0.003)については、二元配置ANOVAシステムを用いて対照群と細胞で処理した群との間に有意差が認められた(図12aおよび12b)。さらに、前壁は、心臓ADSC処理の30日後に有意に厚くなっていた(p=0.014)(図12c)。心臓の運動性についてのビデオ録画では、心臓ADSC群において収縮性の改善を示したが、対照群では示さなかった。
【0232】
2.2 心臓ADSC移植は梗塞サイズを軽減する
MIラットモデルにおいてマッソン・トリクローム染色した断面図を用いて、形態計測パラメーターを測定した。LAD結紮後に中程度の瘢痕が生じ(LV領域のおよそ20%)、心臓ADSCの有益な効果は極めて著しいものであった。繊維性瘢痕組織領域の割合は、対照動物と比較すると処理動物において75%低く、LV壁は処理動物において45%厚かった。よって、心臓ADSCは、心臓ADSCの注射から30日後に組織病理学により測定される梗塞サイズを効果的に軽減する。
【0233】
2.3 ヒト心臓ADSC移植片およびin vivo分化
ヒト心臓ADSCのグラフをeGPF落射蛍光追跡により分析し、ヒト起源をHNA(ヒト核抗原)検出(赤色シグナル)によって示した(図14a)。加えて、染色分離についてのスペクトル分析(λ調査)によってeGFPの特異的シグナルも確認した(図15)。注射が梗塞の境界領域に対して行われることとは関係なく、前記細胞が組織の瘢痕領域内に均一に存在していたことが観察されるのは興味深く、そしてこのことにより、前記細胞がとりわけ必要になる可能性がある場所へと移動する前記細胞の能力が示される(図14b)。宿主組織における注入細胞およびそれらの移植片の心臓および内皮分化レベルを分析するために、心臓マーカー(筋節α−アクチニンおよびトロポニンI)および内皮マーカー(CD31)についての二重免疫染色を行った。心臓eGFP+−ADSCはトロポニンIの発現も示し(図14b)、筋節α−アクチニンについて陽性であった(図14c)。CD31の発現は心臓eGPF+−ADSCにおいても観察され、このような心臓eGPF+−ADSCは管状構造を形成する組織全体に配置されており、そしてこのことにより、これらの細胞が新たな血管の形成に寄与することが示唆される(図14d)。
【0234】
2.4 心臓ADSCによる毛細血管密度の増加
最後に、GSLIイソレクチンB4を用いて、繊維性組織の境界領域における毛細血管密度および心臓ADSC移植後の時間を評価した。図16cに示すように、境界領域における毛細血管密度は、心臓ADSCを受けた動物において、対照動物よりも1.6倍高く(p=0.003)(図16aおよび16b)、また遠位領域において毛細血管密度の増加傾向(p=0.057)も認められた。管腔に血液細胞が存在することからこれらの血管が機能し得ることが分かる。
【0235】
3. 考察
本明細書に添付する実施例1〜7において示す結果は、心臓脂肪組織由来の成体幹細胞(心臓ADSC)の新規な集団が同定され、特徴づけられたということを明らかに示している。前記心臓ADSCは、脂肪組織に由来し、間葉幹細胞(MSC)のように脂肪細胞へは分化しないが、MSCに類似した表面マーカーを発現し、コロニー形成能力を維持し、そしてこのことはより低い可塑性およびより高い指定条件を示している。さらに、心臓ADSCはいくつかの必須心筋形成マーカー、例えばGATA4、Cx43、β−MHC、筋節α−アクチニン、またはSERCA2を発現する。心臓および皮下ADSCにおける遺伝子発現および心筋形成タンパク質の比較では、これらのタンパク質の発現が心臓ADSCにおいてかなり高いことが示された。これらの結果は、新規心臓ADSCは、脂肪細胞環境に存在するにもかかわらず、心臓ホメオスタシスにおいて機能を果たし得ることを示唆している。心臓周囲の脂肪は心筋組織を新しくするための細胞の保留としても機能し得る、しかし、梗塞後に危険にさらされた状態となった大量の心筋は、組織修復についてのホメオスタシス能力を超える。
【0236】
心臓ADSCが新生児ラット心筋細胞の影響を受けている場合には、心筋形成マーカーの発現は顕著に上方調節される(α−アクチニン筋節、β−MHC、SERCA2)か、または新たに活性化される(トロポニンI)。以前の研究により、新生児心筋細胞が心臓分化を刺激するのに利用する機構が、分化因子の分泌、細胞間の相互作用ならびに電気的および機械的刺激であり得ることが証明されている。さらに、マトリゲルでまたは内皮分化培地で心臓ADSCを培養することで、管状構造が形成され、Dil−Ac−LDLが組み込まれ、そして内皮マーカーの発現が増強された。in vivo試験でも、心臓細胞系譜への心臓ADSCの分化能が証明された。心臓ADSCを梗塞心筋へ移植した場合には、前記心臓ADSCは、筋節α−アクチニン、cTnIおよびCD31を発現し、心筋に効果的に移植されることが観察された。それらの分化は、細胞相互作用と組織の電気的および機械的影響とにより誘導された。細胞移植は心機能の改善をもたらし、細胞で処理した動物における駆出率、短縮率およびLV壁厚は有意に増加した。心臓ADSCの有益な効果は、骨髄細胞[Agbulut, O. et al. Comparison of human skeletal myoblasts and bone marrow-derived CD133+ progenitors for the repair of infarcted myocardium. J Am Coll Cardiol 44, 458-63 (2004)]および成体心臓幹細胞[Beltrami, A. P. et al. Adult cardiac stem cells are multipotent and support myocardial regeneration. Cell 114, 763-76 (2003)](駆出率の改善はそれぞれ7および9.7%であった)、または臍帯血単核細胞[Henning, R. J. et al. Human umbilical cord blood mononuclear cells for the acute myocardial infarction treatment. Cell Transplant 13, 729-39 (2004)](これらを梗塞心筋に移植した場合には駆出率の27%低下を示した)で観察されるもの以上であった。
【0237】
心臓ADSCが虚血組織で生存し、新脈管形成に利益をもたらすことができるか否かを確認するために、細胞を中度および重度の低酸素状態で培養し、新脈管形成促進因子の培地への分泌を分析した。これらの結果により、正常酸素状態と比較して、VEGF、TNF−β、bFGF、およびIL−6レベルが増加することが分かった。動脈硬化症患者に1種の新脈管形成因子を供給した場合、新血管新生反応は中等度でしかないことは報告されている。この結果について考えられる理由は、血管網の形成およびその拡大は、相乗的に作用する複数の因子の作用を必要とする工程であるということである。そのため、ベースライン条件において心臓ADSCにより新脈管形成促進因子の組合せを分泌させることおよび低酸素状況においてそれらを増加させることにより、これらの細胞は、心筋虚血におけるそれらの注入に潜在的に有用なものとなる。実際に、梗塞心臓への心臓ADSC移植後に毛細血管密度の明らかな増加が認められた。こうした総ては、これらの細胞(心臓ADSC)が心筋虚血においてパラ分泌効果を与え、新たな血管の形成に利益をもたらし得ることを全体的に示唆している。多数の毛細血管は心筋における酸素制限を改善し、その結果、ラットにおいて43%という梗塞サイズの有意な軽減に寄与する。さらに、SDF−1を増加させることにより心筋細胞の生存を改善し、梗塞後の新血管新生を誘導することができるということを示す報告もある[Penn, M. S. & Mangi, A. A. Genetic enhancement of stem cell engraftment, survival, and efficacy. Circ Res 102, 1471-82 008]。そのため、心臓ADSCのin vivo内皮細胞系譜の証明およびin vitro内皮分化後に観察されるSDF−1の相当な過剰発現から、SDF−1には心筋細胞に対する心臓保護効果だけでなく新脈管形成効果もあり得ることが示唆される。
【0238】
心臓ADSCを梗塞の境界領域に注射しても、これらの細胞は繊維性瘢痕内に存在することが観察されるはずである。これは、前記細胞がとりわけ必要になる可能性がある虚血領域に向かって注射部位から移動する前記細胞の能力を示している。他の幹細胞系譜を用いた以前の試験でも同様の結果を示しているが、それらの結果は低酸素状態におけるVEGFの走化性効果による細胞移動反応により説明されている[Gandia, C. et al. Human dental pulp stem cells improve left ventricular function, induce angiogenesis, and reduce infarct size in rats with acute myocardial infarction. Stem Cells 26, 638-45 (2008)、 Matsushita, K. et al. The role of vascular endothelial growth factor in human dental pulp stem cells: induction of chemotaxis, proliferation, and differentiation and activation of the AP-1-dependent signaling pathway. J Dent Res 79, 1596-603 (2000)]。同じ傾向の証拠として、ニワトリ胚で行われた研究では、心外傷がヒト臍帯血由来幹細胞の誘引に対する強い刺激であることが示されている[Torre-Perez, N. et al. Migration and differentiation of human umbilical cord stem cells after heart injury in chicken embryos. Stem Cells Dev (2008)]。
【0239】
心臓脂肪組織は、心臓の周囲に緊密に配置されており、心臓ADSCへの接近性が障害である。これらの心臓ADSCの単離のための心臓脂肪生検を得るために左側開胸を容易に行うことができたが、このアプローチは、安定した虚血患者における冠動脈バイパス手術前に利用することができたが、心筋梗塞の緊急時に臨床的に適用されるとは思われない。しかしながら、心臓ADSCが、他の種類の間葉幹細胞に関して記載されている免疫抑制能力と同様の免疫抑制能力を有するという事実から、これらの細胞を将来において同種異系治療に使用するという可能性が生まれる。
【0240】
要約すれば、それぞれに内皮および心臓になる可能性を有する新規な種類の幹(前駆体)細胞を記載しており、これらの細胞はin vitroおよびin vivoで心臓細胞系譜へと分化することができ、MI後に損傷を受けた心筋にそれらを注入すると、有益な機能的かつ病理組織学的な効果を与える。いずれの理論にも縛られるものではないが、リモデリング減衰の二重機構がある可能性があり、その機構では前記細胞は失われた心筋細胞および内皮細胞を置き換える可能性を有し、新脈管形成の促進においてパラ分泌効果も与えると考えられる。これらの特性とともに、免疫抑制能力、そして催奇形性がないことから、心臓ADSCは、損傷を受けた心筋を再生するための細胞療法におけるそれらの将来の使用の安全かつ有望な候補となる。
【0241】
【表3】


【0242】
【表4】



【0243】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
GATA−4および/またはCx43を構成的に発現する、単離された哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞。
【請求項2】
さらにβ−MHCを構成的に発現する、請求項1に記載の細胞。
【請求項3】
CD29、CD44、CD59、CD90、CD105、およびCD166から選択される一以上の表面マーカーをさらに発現する、請求項1または2のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項4】
表面マーカーCD14、CD34、CD106、CD117、またはVEGFR2の一つ、二つ、三つ、四つまたは好ましくはいずれをも発現しない、請求項1〜3のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項5】
(i)表面マーカーCD29、CD44、CD59、CD90、CD105、およびCD166の一つ、二つ、三つ、四つ、五つまたは好ましくは総てを発現し、かつ
(ii)表面マーカーCD14、CD34、CD106、CD117、またはVEGFR2の一つ、二つ、三つ、四つまたは好ましくはいずれをも発現しない、請求項3または4のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項6】
a)(i)表面マーカーCD29、CD44、CD59、CD90、およびCD105の総てを発現し、かつ
(ii)表面マーカーCD14、CD34、CD106、またはCD117のいずれをも発現しない細胞、
b)(i)表面マーカーCD29、CD44、CD90、CD105、およびCD166の総てを発現し、かつ
(ii)表面マーカーCD14、CD34、CD106、CD117、またはVEGFR2のいずれをも発現しない細胞、ならびに
c)(i)表面マーカーCD29、CD44、CD59、CD90、CD105、およびCD166の総てを発現し、かつ
(ii)表面マーカーCD14、CD34、CD106、CD117、またはVEGFR2のいずれをも発現しない細胞
から選択される、請求項5に記載の細胞。
【請求項7】
前記脂肪心臓組織が脂肪心外膜組織である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項8】
前記哺乳類がヒトである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項9】
GATA−4および/またはCx43の構成的発現がそのin vitro増殖の間、安定して維持される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の細胞。
【請求項10】
(i)a)GATA−4および/またはCx43を構成的に発現し、
b)β−MHCを構成的に発現し、
c)表面マーカーCD29、CD44、CD59、CD90、およびCD105の総てを発現し、かつ
d)表面マーカーCD14、CD34、CD106、またはCD117のいずれも発現しない
脂肪心臓組織由来の成体幹細胞、
(ii)a)GATA−4および/またはCx43を構成的に発現し、
b)β−MHCを構成的に発現し、
c)表面マーカーCD29、CD44、CD90、CD105、およびCD166の総てを発現し、かつ
d)表面マーカーCD14、CD34、CD106、CD117、またはVEGFR2のいずれをも発現しない
脂肪心臓組織由来の成体幹細胞、ならびに
(ii)a)GATA−4および/またはCx43を構成的に発現し、
b)β−MHCを構成的に発現し、
c)表面マーカーCD29、CD44、CD59、CD90、CD105、およびCD166の総てを発現し、かつ
d)表面マーカーCD14、CD34、CD106、CD117、またはVEGFR2のいずれをも発現しない
脂肪心臓組織由来の成体幹細胞
から選択される、単離された哺乳類脂肪心臓細胞由来の成体幹細胞。
【請求項11】
GATA−4および/またはCx43の構成的発現がそのin vitro増殖の間、安定して維持される、請求項10に記載の細胞。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の哺乳類脂肪心臓細胞由来の成体幹細胞の群を含む、哺乳類脂肪心臓細胞由来の成体幹細胞の単離された集団。
【請求項13】
GATA−4および/またはCx43を構成的に発現する哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞を含んでなる組成物を得るための方法であって、
a)哺乳類の脂肪心臓組織サンプルの細胞懸濁液を得て、
b)前記細胞懸濁液から細胞を分離し、
c)前記細胞を固相支持体上の培養培地中で、前記細胞を前記固相支持体に接着させる条件下で培養し、そして
d)GATA−4および/またはCx43を構成的に発現する哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞を回収すること
を含む、方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法により得ることができる、GATA−4および/またはCx43を構成的に発現する哺乳類脂肪心臓組織由来の成体幹細胞を含む、組成物。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の哺乳類脂肪心臓細胞由来の成体幹細胞、または請求項13に記載の方法により得ることができる哺乳類脂肪心臓細胞由来の成体幹細胞を培養することを含む分化細胞を得るための方法であって、前記幹細胞を好適な特定の分化培地で培養することを含む、方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法により得ることができる分化細胞。
【請求項17】
請求項15に記載の方法により得ることができる分化細胞を含む、組成物。
【請求項18】
請求項12に記載の細胞集団、請求項14に記載の組成物、または請求項17に記載の組成物と、薬学上許容されるビヒクルとを含んでなる、医薬組成物。
【請求項19】
非経口投与のための、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
請求項12に記載の細胞集団、請求項14に記載の組成物、請求項18〜19のいずれか一項に記載の医薬組成物、または請求項17に記載の組成物を含んでなる、生体材料。
【請求項21】
心臓組織再生のための医薬組成物の製造における、または虚血性心疾患の処置のための医薬組成物の製造における、または心筋梗塞後処置のための医薬組成物の製造における、またはうっ血性心不全の処置のための、または新脈管形成を刺激するための医薬組成物の製造における、請求項12に記載の細胞集団、または請求項14に記載の組成物、または請求項17に記載の組成物の使用。
【請求項22】
前記医薬組成物が一種類以上の異なる治療薬と同時または逐次に投与される、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
前記細胞集団に含まれる細胞が自家のものである、請求項20または21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
前記細胞集団に含まれる細胞が同種異系のものである、請求項20または21のいずれか一項に記載の使用。
【請求項25】
請求項12に記載の細胞集団、または請求項14に記載の組成物、または請求項17に記載の組成物を含んでなるキット。
【請求項26】
in vitroにおいて生物学的薬剤または薬理学的薬剤に対する細胞応答を評価するための方法であって、前記薬剤を、請求項1〜11のいずれか一項に記載の複数の幹細胞を含んでなる請求項12に記載の細胞集団、所望により特定の細胞種へ分化した請求項14に記載の組成物、または請求項17に記載の組成物と接触させ、そして前記培養細胞集団に対する前記薬剤の効果を評価することを含む、方法。
【請求項27】
前記幹細胞を心筋細胞へ分化させる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
増殖因子および/またはサイトカインを得るための方法であって、請求項1〜11のいずれか一項に記載の哺乳類脂肪心臓細胞由来の成体幹細胞、請求項13に記載の方法に従って得ることができる幹細胞、または請求項15に記載の方法に従って得ることができる分化細胞を、前記増殖因子および/またはサイトカインの発現および産生に好適な条件下で培養し、そして所望により前記増殖因子および/またはサイトカインを分離することを含む、方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3】
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【図8】
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【図10】
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【図12】
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【図14a】
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【図14b】
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【図14c】
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【図14d】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2010−535468(P2010−535468A)
【公表日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−518701(P2010−518701)
【出願日】平成20年8月4日(2008.8.4)
【国際出願番号】PCT/ES2008/000543
【国際公開番号】WO2009/027563
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(510030272)ヘネトリクス、ソシエダッド、リミターダ (1)
【氏名又は名称原語表記】GENETRIX, S.L.
【出願人】(504294260)
【Fターム(参考)】