心臓血管健康を改善するための手段
本発明は、脂質代謝および食事性補給の技術分野にあり、哺乳動物にステアリドン酸および関連化合物を経口投与することによって哺乳動物の心臓健康を改善する方法および組成物を提供する。改善された心臓健康は、投与後のエイコサペンタエン酸(20:5,ω3)およびドコサペンタエン酸(22:5,ω3)での心臓組織の富化によって証明される。また、その心臓健康上の利益を広告することによるステアリドン酸含有生成物を促進する方法が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、脂質代謝および食事性補給の分野に関する。より詳細には、それは、食品成分、食事性栄養補助食品または医薬薬剤としてステアリドン酸(SDA)および/またはそのアナログを含有する遺伝子操作された種子油の使用を介する哺乳動物の心臓血管系におけるエイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサペンタエン酸(DPA)の濃度を制御するまたは増加させる組成物および方法に関する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
この出願は、2006年3月3日付けで出願された米国仮出願シリアル番号60/779,135号の優先権の利益を主張する。
【背景技術】
【0003】
オメガ−3(ω3)脂肪酸は、二重結合が脂肪酸鎖のメチル末端から第3および第4の炭素原子間に位置する多価不飽和脂肪酸である。それらは、限定されるものではないが、α−リノレン酸(ALA、18:3)、ステアリドン酸(SDA、18:4)、エイコサペンタエン酸(EPA、20:5)、ドコサペンタエン酸(DPA、22:5)およびドコサヘキサエン酸(DHA、22:6)等を含む。
【0004】
心臓血管疾患に対するω3脂肪酸において富化した治療食の治療的および予防的な利益は、よく文書化されている。例えば、疫学的研究は、ω3脂肪酸を含有する魚を食する人々が、ほとんどまたは全く魚を消費しないものより、いくつかの心臓血管疾患の終点につき低リスクにあるという見解を支持している(DyerbergおよびBang (1979) Haemostasis 8: 227-33; Kromhoutら (1985) N. Engl. J. Med. 312: 1205-09)。最近報告されたいくつかの重要な試験は、食事性のω3脂肪酸が心臓保護的であるという見解を固めている。例えば、GISSI−プレベンジオン(Prevenzione)試験における分析は、最近の心筋梗塞を切り抜けた患者は、彼らの治療食が約1g/日のω3脂肪酸で補足されたならば、有意により低いリスクの心臓血管死を有したことを示した(Investigators GISSI-Prevenzione (1999) Lancet 354: 447-55)。加えて、Nurses' Health Studyにおいて、先に心臓血管疾患がない女性は、魚またはω3脂肪酸の摂取でより低リスクの冠状動脈心疾患を有した(Huら (2002) J. Am. Med. Assoc. 287: 1815-21)。また、ω3脂肪酸の組織中濃度および心臓血管疾患のリスク間の直接的なリンクは、Physicians' Health Studyに登録された人の前向きコホート内症例対象分析(prospective, nested case-control analysis)において報告され、ここで、ω3脂肪酸の血中濃度は、心臓血管疾患の先の証拠がない人の間の急死のリスクに反比例した(Albertら (2002) N. Engl. J. Med. 346: 1113-8)。
【0005】
前記に示すように、ω3脂肪酸が、心臓疾患により心臓発作および死亡のリスクを低減できることが今や確立している。これらのオメガ−3脂肪酸がこれらの効果を奏する手段は全く解明されていないが、心臓細胞の膜中のこれらのオメガ−3脂肪酸の存在が、それらを心臓発作に先行する心臓細胞の非協調的な不整脈収縮の心室細動に抵抗するようにすることと仮定される。
【0006】
ω3脂肪酸の心臓血管の健康上の利益はEPAおよびDHAに大部分は起因し、組織中のその存在は直接的にそれらの食事摂取と関係する。かくして、心臓病協会(American Heart Association)は、最近、冠状動脈心疾患についてのリスクがある個体は、EPAおよびDHAを供する魚または魚油の消費から利益を得るだろうという科学的声明を公表した。しかしながら、冠状動脈心疾患につきリスクがある個体および一般の人々は、魚または魚油を含むそれらの治療食を補うのに一般的に遅かった。これは、部分的に食習慣により、および部分的に魚または魚油中の重金属、メチル水銀または有機塩化物のごとき環境汚染物質に対する懸念による(Kris-Ethertonら (2002) Circulation 106: 2747-57)。
【0007】
心臓血管系において十分な量のEPAおよびDHAを供するためにヒトの食事を補う代替源を見出すことは必須である。かかる1つの代替源は、EPAおよびDHAに導く前駆体の1つを含有する植物油であろう。例えば、ω3脂肪酸ALAは、Δ6−デサチュラーゼによってSDAに変換できるために、かかる源として考えられた。次いで、SDAは、エロンガーゼおよびΔ5−デサチュラーゼの連続的な作用を通じてEPAに変換できる。キャノーラおよびダイズ油のごとき植物起原の広範囲に消費される商業用油におけるその豊富さにもかかわらず、規則的な食事摂取からのALAは、EPAおよびDHAの組織中濃度を上げるのに効果がないと分かった。これは、恐らくΔ6−デサチュラーゼ触媒工程の無効性によるものである(Kelleyら (1993) Lipids 28: 533-7)。SDAは、Δ6−デサチュラーゼによって触媒されたALAに対する反応の生成物である。かくして、治療食において直接的にSDAを提供することによって、律速段階が回避でき、EPAおよびDHAの合成のための基質が提供できた。SDAにおいて豊富な植物油の摂取は、EPAのごとき、より長鎖の多価不飽和脂肪酸での組織の富化に導き、かくして、魚または魚油の消費に典型的に関連した有益な効果を模倣し得る。
【0008】
多数の植物油は、十分な量でSDAを含有することが報告されている。例えば、全脂肪酸の約17%のSDA含量を持ったムラサキ科(Boraginaceae)ファミリーの自然発生の種子があるが、現在、これらは野生の花の種子および栽培された脂肪種子である(米国特許第6,340,485号;VelascoおよびGoffman (1999) Phytochemistry 52: 423-6)。加えて、Echium plantagineum植物の種子から抽出された食用油(エキウム油(Echium oil))は、かなりの量(全脂肪酸の約12.5%)でSDAを含むことが判明している。また、SDA含有植物油は、遺伝子組換え作物の種子油中で見出されている。例えば、キャノーラ(米国特許第6,459,018号)、トウモロコシ(PCT公開WO 2005102310)および大豆(PCT公開WO 2005021761)は、全脂肪酸の10重量%を超えるSDAを含有する種子油を生成するように遺伝子操作されている。
【0009】
研究は、SDAまたはSDA含有油の食事性補給に関して行なわれた。例えば、SDAでの食事性補給は、赤血球および血漿のリン脂質画分においてEPAおよびDPAの濃度を増大させることが示された(Jamesら (2003) Am. J. Clin. Nutr. 77: 1140-5)。また、エキウム油での食事性補給は、血漿および好中球中のEPAおよびDPAの組織中濃度を増加させた(Suretteら (2004) J. Nutr. 134: 1406-11)。しかしながら、限定されるものではないが、心臓組織中のEPA、DPAおよびDHAのごときより長鎖の多価不飽和脂肪酸へのSDAの変換、心臓健康上の利益を与えるビヒクルとしてのSDA含有化合物の可能性、および前記化合物を送達する手段を含めた多数の質問が、回答されている。これらおよび他の質問は、本開示によって少なくとも部分的に対処される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、一般的に、脂質代謝および食事性補給の分野に関する。より詳細には、それは、食品成分、食事性栄養補助食品または医薬薬剤としてステアリドン酸(SDA)および/またはそのアナログを含有する遺伝子操作された種子油の使用を介する哺乳動物の心臓血管系におけるエイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサペンタエン酸(DPA)の濃度を制御するまたは増加させる組成物および方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、哺乳動物の心臓血管系における心臓健康を促進する多価不飽和脂肪酸の濃度を増加させる食事または医薬的手段に指向される。本発明の1つの実施例において、EPAおよびDPAで哺乳動物の心臓組織を富化するSDA部分を含有する化合物を含む組成物が提供される。この化合物は、遊離脂肪酸、脂肪アシルエステル、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、エチルエステル、リン脂質、ステリルエステル、スフィンゴ脂質またはこれらの組合せとして提供できる。
【0012】
本発明の1つの実施例において、組成物は、SDAを生成するように遺伝子操作された植物からの内因性種子油として提供される。
【0013】
本発明のさらなる態様は、0.01重量%〜99重量%、好ましくは10重量%〜50重量%、より好ましくは20重量%〜40重量%の本発明の組成物を含む食物生成物である。
【0014】
さらに、本発明は、SDA部分を含有する栄養上または治療上有効な量の化合物を経口投与することを含む、EPAおよびDPAで哺乳動物の心臓血管の組織を富化する方法に関する。その化合物は、遊離脂肪酸、脂肪アシル・エステル、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、エチルエステル、リン脂質、ステリルエステル、スフィンゴ脂質またはこれらの組合せとして提供できる。この化合物の投与は、ヒト当量ベースでの用量にて、例えば、約0.1mg/kg/日〜2g/kg/日、好ましくは約1mg/kg/日〜約1g/kg/日、より好ましくは約20mg/kg/日〜約500mg/kg/日で行なうことができる。
【0015】
本発明のもう一つの態様は、SDAを含有すると生成物を広告および/または標識することにより、哺乳動物の心臓健康を改善するとして生成物を促進する方法を提供することである。生成物は、食物生成物、食物性栄養補助食品または医薬製品であり得る。
【0016】
(図面の簡潔な記載)
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明のある種の態様をさらに示すために含まれている。本発明は、本明細書に示された特定の具体例の詳細な記載と組み合わせた1以上のこれらの図面のへの参照によってより良好に理解し得る。
図1.RBCオメガ−3脂肪酸含量−2週間
図2.RBCオメガ−3脂肪酸含量−4週間
図3.RBCオメガ−3脂肪酸含量−8週間
図4.RBCオメガ−3脂肪酸含量−12週間
図5.RBCオメガ−3脂肪酸含量−21.4mg/kg/日のSDA
図6.RBCオメガ−3脂肪酸含量−64.2mg/kg/日のSDA
図7.RBCオメガ−3脂肪酸含量−192.9mg/kg/日のSDA
図8.RBCオメガ−3脂肪酸含量−42.9mg/kg/日のEPA
図9.RBCオメガ−3脂肪酸含量−ヒマワリ油
図10.心臓オメガ−3脂肪酸含量−4週間
図11.心臓オメガ−3脂肪酸含量−8週間
図12.心臓オメガ−3脂肪酸含量−12週間
図13.心臓オメガ−3脂肪酸含量−21.4mg/kg/日のSDA
図14.心臓オメガ−3脂肪酸含量−64.2mg/kg/日のSDA
図15.心臓オメガ−3脂肪酸含量−192.9mg/kg/日のSDA
図16.心臓オメガ−3脂肪酸含量−42.9mg/kg/日のEPA
図17.心臓オメガ−3脂肪酸含量−ヒマワリ油
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
ステアリドン酸(SDA)は、すべてのシス6、9、12および15位において4つの二重結合を持つ18個の炭素のオメガ−3脂肪酸である。それは食物供給において主として魚源からミリグラム/給仕量で存在する。他のオメガ−3脂肪酸のこの食事性源は、エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)を供する魚および魚油、ならびにα−リノレン酸(ALA)を提供する脂肪種子およびナッツを含む。EPAおよびDHAの典型的な食事摂取は、魚、特にオメガ−3の豊富な脂肪性の魚が広範囲にまたは頻繁に消費されないために推奨摂取量よりかなり下にある。保健機関は、EPAおよびDHAが心臓健康効果に関与することを認識し;詳細には、これらのオメガ−3脂肪酸の消費が突然の致命的心臓発作のリスクを低下することが示されている。
【0018】
ALAの典型的な食事摂取は、基礎的な栄養上のニーズを満たすのに適切であると考えられているが、ALAは、EPAおよびDHAに関連した心臓健康効果を奏することは示されていない。ALAはほとんどβ−酸化され、脂肪酸代謝の他の生成物に代謝され;体内ではほんの少しがEPAおよびDHAに変換される。これは、EPAおよびDHAへのALAの生物変換における第1の酵素、Δ6デサチュラーゼが、律速的であるからである。SDAは、Δ6デサチュラーゼによって触媒されたALAに対する反応の生成物である。かくして、治療食中にSDAを直接的に供することにより、律速段階が回避され、EPAおよびDHAの合成についての基質が提供される。
【0019】
上記に示されるように、魚および魚油中で供されたオメガ−3脂肪酸、EPAおよびDHAは、心臓疾患による心臓発作および死亡のリスクを低減できることが今や確立している。これらのオメガ−3脂肪酸がこれらの効果を奏する手段は完全には解明されていないが、心臓細胞の膜中のこれらのオメガ−3脂肪酸の存在が、それらを心臓発作に先行する心臓細胞の非協調的な不整脈収縮の心室細動に抵抗するようにすることと仮定される。
【0020】
従って、EPAおよびDPAで哺乳動物の心臓組織を富化するためにSDA部分を含有する化合物を含む組成物を提供することは本発明の1つの目的である。この化合物は、遊離脂肪酸、脂肪アシル・エステル、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、エチルエステル、リン脂質、ステリルエステル、スフィンゴ脂質またはこれらの組合せとして提供できる。単独または他の食事性栄養補助食品と組み合わたSDA部分を含む化合物を含有する組成物の調製物は、本開示に徴して当業者に知られているであろう。典型的には、かかる組成物は液剤またはカプセル剤;固体形態または懸濁剤として調製でき;また、調製物は乳化できる。
【0021】
本発明の組成物は、食物生成物における使用に好ましくは適している。その組成物は、それら自体で消費し得るが、それらは、消費前に食物生成物または補足すべき栄養物に、典型的に組み入れられる。従って、本発明のさらなる態様は、0.01重量%〜99重量%、好ましくは10重量%〜50重量%、より好ましくは20重量%〜40重量%の本発明の組成物を含む食物生成物である。本発明を実施するのに利用し得る食物生成物は、限定されるものではないが、飲料(ソフトドリンク、炭酸飲料、レディー・ツー・ミックス飲料等を含む)、注入された食物(例えば、果物および野菜)、ソース、調味料、サラダドレッシング、果汁、シロップ、デザート(プディング、ゼラチン、アイシングおよび充填物、焼かれた物、およびアイスクリームおよびシャーベットのごとき冷凍デザート)、チョコレート、キャンディー、ソフト凍結生成物(例えば、ソフト凍結クリーム、ソフト凍結アイスクリームおよびヨーグルト、酪農または非酪農のホイップトッピング)、油および乳化生成物(例えば、ショートニング、マーガリン、マヨネーズ、バター、料理用油およびサラダドレッシング)、加工肉(ソーセージのごとき)、中間水分食物(例えば、コメおよびドッグフード)等を含む。
【0022】
食物生成物は、組成物を得るおよび、溶解、懸濁により、あるいは乳化において添加される食物生成物を介して、それを均一に分配するごとき通常の方法によりSDA含有組成物中で富化できる。例えば、組成物は食用の可溶化剤に溶解できるか、または食用の可溶化剤、有効量の分散剤および所望により有効量の抗酸化剤と混合できる。有用な抗酸化剤の例は、限定されるものではないが、α−トコフェロールのごときトコフェロール、アスコルビン酸、安価な合成抗酸化剤およびその混合物を含む。また、食物生成物は、増加したSDAのために設計された遺伝子導入植物から調製され得る。本発明で用い得る増加させたSDAを有するかかる植物の例は、ここに出典明示して本明細書の一部とみなす米国特許第6,459,018号に記載されている。
【0023】
乳剤または懸濁剤を調製するための有効な担体は、水、アルコール、多価アルコールおよびその混合物を含む。有用な分散剤の例は、限定されるものではないが、レシチン、他のリン脂質、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸、脂肪酸の塩、脂肪酸エステル、他の洗浄剤−様の分子およびその混合物を含む。あるいは、食物生成物は、SDA含有組成物を得、次いで、それを食用の可溶化剤および有効量の分散剤と混合することを含む方法により調製できる。再び、食用の可溶化剤は、限定されるものではないが、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、植物油、トコフェロール、アルコール、多価アルコールまたはその混合物を含むことができ、分散剤は、限定されるものではないが、レシチン、他のリン脂質、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸、脂肪酸の塩、脂肪酸エステル、他の洗浄剤−様の分子およびその混合物を含むことができる。
【0024】
本発明のさらなる実施例は、SDA部分を含む栄養上または治療上有効量の化合物を経口投与することを含む、EPAおよびDPAで哺乳動物の心臓組織を富化する方法に関する。その化合物は、遊離脂肪酸、脂肪アシル・エステル、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、エチルエステル、リン脂質、ステリルエステル、スフィンゴ脂質、またはこれらの組合せとして提供できる。この化合物の投与は、ヒト当量ベースでの用量にて、例えば、約0.1mg/kg/日〜2g/kg/日、好ましくは、約1mg/kg/日〜約1g/kg/日、より好ましくは約20mg/kg/日〜約500mg/kg/日で行なうことができる。
【0025】
本明細書に用いた「栄養的に有効な」なる語句は、身体の構造または機能に影響するか、または疾病についてのリスクを低減する作用物質の能力を示す。本明細書に用いた「治療上有効な」なる語句は、代替療法に典型的に関連する副作用を回避しつつ、障害を予防する、あるいは障害の重篤度を改善する作用物質の能力を示す。「治療上有効な」なる語句は、「治療または予防に有効な」なる語句に等価であると理解され、双方は、例えば、代替療法に典型的に関連する副作用を回避しつつ、例えば、障害の重篤度における、または障害の予防における改善の目的を達成するであろう本発明の方法に用いられるステアリドン酸の量を制限することが意図される。
【0026】
医薬的使用(ヒトまたは獣医)について、組成物は一般的に経口投与されるが、それらがうまく吸収され得るいずれの経路、例えば、非経口的(すなわち、皮下的、筋肉内または静脈内)、直腸的または経膣的あるいは、例えば、皮膚軟膏またはローション剤として局所的にも投与できる。本発明の組成物は、単独または医薬上許容される担体もしくは賦形剤と組み合わせて投与し得る。利用可能な場合、ゼラチンカプセル剤は経口投与の好ましい形態であり得る。また、前記のような食事性補給は、経口経路の投与を提供できる。
【0027】
栄養的にはまたは治療上有効であるSDA部分を含む化合物の量は、消費者の先の栄養上および生理的な状態、治療されている心臓疾患の重篤度、患者の食習慣、患者の年齢、さらなる疾患の存在等のごとき複数の因子に依存する。そのヒトの普通食中で比較的少量の化合物を消費する人は、典型的により多量のSDAを消費する人よりも多くの量を必要とするであろう。当業者は、これらの考慮に基づいて患者につき治療上有効量を決定する方法を知っているであろう。
【0028】
本発明のさらなる態様は、SDAを含有し、生成物の摂取後に哺乳動物の心臓健康を改善するとしてその生成物を広告することによる、生成物の販売を促進するビジネス方法に関する。生成物は、食物生成物、栄養補給食品または医薬生成物である。本明細書に開示された心臓健康上の利益についての公衆に通知することによって、例えば、生成物の増加した販売の利益を理解できる。限定されるものではないが、ラジオ、テレビおよび印刷出版物を含めた伝統的な広告用チャンネルは、この目的のために使用することができる。また、広告用のいずれかの新しく新生の電子メディアは、この文脈において考えられる。
【0029】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施例を示すために含まれる。以下の実施例において開示された技術が、本発明の実施において良好に機能するように本発明者によって発見された技術を表し、かくして、その実施につき好ましい様式を構成すると考えることができることは、当業者によって認められるであろう。しかしながら、当業者は、本開示に徴して、多数の変更が、開示された特定の具体例においてなすことができ、依然として、本発明の精神および範囲から逸脱することなく同様または類似する結果を得ることができることを認めるであろう。
【0030】
実施例
背景および目的
食事性の長鎖n−3脂肪酸エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)と関連する多数の健康上の利益がある。詳しくは、一般的に魚および魚油で見出されるEPAおよびDHAの双方は、心臓血管疾患のリスクの低下に有益であるとして広範囲に関係しているとみなされている(Ismail (2005) Frontiers in Bioscience 2005, 10: 1079-88)。魚における可能な汚染物質、魚油の貧弱な美味しさおよび陸に囲まれた領域における集団の一般的な食事の好みを含めた消極的な消費者知覚は、共通の源を用いる食事性のn−3脂肪酸の補足の実現可能性を制限する(Verbekeら (2005) Public Heath Nutrition 8(4): 422-9)。魚中で見出された長鎖n−3脂肪酸に対する実行可能な代替物のステアリドン酸(SDA)は、植物源に由来し、共通の食物に組み込むことができる。SDAは、ヒト治療食を介して投与された場合に、赤血球および血漿中でEPAおよびDPAに有効に変換されることが従前に示されている(Jamesら, 2003)。EPA、DPAおよびDHAでの心臓組織の富化に関してさらにSDAの効力を評価するために、食事試験を、3か月の期間、ビーグル犬においてSDAの摂食がEPA、DPAおよびDHAでの心臓組織の富化を生じるかを決定するために始めた。
【0031】
試験設計
試験物品のSDAを、90日間まで、毎日1回、1週間当たり7日、治療食中で、3群(第1群〜第3群)の雄性ビーグル犬に投与した。参考物品のエイコサペンタエン酸(EPA)を、同一投与計画で4群に投与した。SDAおよびEPAの双方をエチルエステルとして供給した。対照物品の食品銘柄の高オレイン酸ヒマワリ油(SFO)を同一投与計画薬で第5群に投与した。また、すべての動物がkg体重当たり同じ容量の油を受け取るようにSFOを第1群〜第4群の食物に加えた。食事性栄養補助食品のビタミンEをすべての治療食に加えた。用量レベルは、21.4、64.2および192.9mg/kg/日のSDA、42.9mg/kg/日のEPAであり、それは、各々、第1、第2、第3および第4群についての体重に基づいて各動物につき計算した。各群は、15匹の雄よりなった。5匹の動物/群を、中間の各剖検(試験週4および8)および12週処処置期間の終わりでの主要な剖検につき予定した。加えて、5匹の動物をベースラインレベルの脂肪酸(予備試験剖検)を確立するために、無作為化および試験物品投与に先立って安楽死させた。
【0032】
動物を死亡率および瀕死につき毎日2回観察した。臨床検査を毎日行い、詳細な身体の検査を毎週行った。個々の体重を毎週記録した。食物消費を毎日記録し、毎週報告した。脂肪酸の分析用の血液試料を予備試験剖検のために予定された5匹のイヌ、および試験2、4、8および12週間の間のすべての生存しているイヌから採取した。すべての動物を安楽死させ、肝臓および腎臓の切片に加えて、心臓組織の2つの試料を採取し、予定された剖検にて、一方の組を脂肪酸分析につき分析し、他方の試料を顕微鏡分析のために保持した。心臓、肝臓および腎臓からの切片を、予備試験中の5匹の動物、および試験12週間の剖検での5匹の動物/群(第3〜5群だけ)から顕微鏡的に検討した。
【0033】
脂肪酸分析
血液試料を予備試験剖検につき選択された5匹のイヌおよび試験2、4、8および12週間のすべての生存しているイヌから採取した。試料を飼育/投与計画に先立ってEDTAを含有するチューブ中にイヌの頚静脈から採取した。赤血球(RBC)を、4℃にて約20分の1500×遠心によって血漿から分離した。血漿をポリプロピレン・チューブに移し、将来の分析のために約−70℃で貯蔵した。バフィーコートを密集させたRBCから取り除き、RBCを2本のチューブにほぼ等しく分けた。
【0034】
組織調製、脂質抽出および分析を通常のプロトコールにより行った。略言すると、心臓組織を最初に一晩凍結乾燥し、次いで、2枚のすりガラスのスライド間で粉にすることにより微粉砕した。粉にした組織をセーライン中で懸濁し、10〜15秒の音波処理に付した。脂質は、メタノールおよび塩化メチレンで抽出し、溶媒を窒素下で蒸発させた。解凍したRBCをイソプロパノールおよびヘキサンで抽出した。ストローマの遠心後、溶剤を窒素下に移し、蒸発させた。心臓およびRBCの試料から抽出したリン脂質を100℃にて10分間、BF3でメチル化した。これらの条件は、スフィンゴ脂質FAではなく、グリセロリン脂質FAをトランスメチル化した。加熱後、すべての試料をヘキサンおよび水で抽出した。ヘキサン層を取り出し、窒素で乾燥し、FAメチルエステルをフレームイオン化ガスクロマトグラフィーにより分析用のヘキサン中で再構成した。FAを公知の基準との比較により同定し、FA組成物を合計FAの重量パーセントとして報告した。
【0035】
肉眼検査
動物をペントバルビタールナトリウムの静脈内注射に続いて放血によって安楽死させた。左心室からの約200mgの心臓組織の2つの試料を採取し、冷却したセーライン中で濯ぎ、アルミ箔で包み、液体窒素中で瞬間凍結し、約−70℃にて貯蔵した。試料を病理学的異常につき分析した。
【0036】
顕微鏡検査
心臓、肝臓および腎臓の切片を10%中性緩衝ホルマリン中に入れた。組織を整え、パラフィンブロックに入れ、4〜8ミクロンに薄片にし、顕微鏡用スライドガラス上に乗せ、ヘマトキシリン−エオジンで染色した。試料を病理学的異常につき分析した。
【0037】
統計分析
体重、体重変化および食料消費データを一元配置ANOVAに付して、集団間の差を決定した。ANOVAが統計的に有意な(p<0.05)集団間の分散を明らかにしたならば、Dunnettのテスト(Dunnett, 1964)を用いて、試験物品で処理された群を対照群に比較した。
【0038】
結果
すべての動物を予定された剖検まで生存させた。体重または食物消費に対する試験物品関連の臨床所見も効果もなかった。試験物品投与に起因する顕微鏡的所見はなかった。
【0039】
SDAで処置したイヌの赤血球(RBC)中で見出されたオメガ−3脂肪酸含量は、試験2、4、8および12週間にて用量依存的に増加することが示された。EPAで処置したイヌ(参考物品)のRBCオメガ−3脂肪酸含量は、試験2週間および12週間の間で、SFOで処置したイヌ(陰性対照)より約3〜10倍高かった(図1および4)。21.4mg/kg/日のSDAでの処置は、早くも試験2週間に前処置レベルを超える合計オメガ−3脂肪酸含量(RBC)の全体的な増加を示し、約4週間にてピークとなり、その後減少した(図5)。192.9mg/kg/日のSDA(第3群)での処置は、早くも試験2週間で前投与レベルを超える合計オメガ−3脂肪酸含量(RBC)において全体的な増加を示し、12週間を通じて(事前処置を超えて約2倍に)上昇したままであった(図7)。わずかに低いが、192.9mg/kg/日のSDA群での経時的なオメガ−3脂肪酸含量(RBC)の全体的な増加は、42.9mg/kg/日のEPA群で見られた増加に匹敵した(図7および8)。ヒマワリ油での処置(陰性対照)は、経時的なRBCオメガ−3脂肪酸含量において増加を示さなかったが、むしろ試験2週間および12週間の間にほぼ50%の減少を示した(図9)。
【0040】
RBCと同様に、SDAで試験したイヌの心臓組織中のオメガ−3脂肪酸含量は、試験4、8および12週間にて用量依存的な方法で増加することが示された(図10〜12)。EPAで処置したイヌ(参考物品)の心臓組織におけるオメガ−3脂肪酸含量は、試験4週間および12週間(図10〜12)の間でのヒマワリ油で処置したイヌ(陰性対照)より約3〜5高かった。21.4mg/kg/日のSDAでの処置は、試験4週間にて前処置レベルを超えた心臓オメガ−3脂肪酸含量の無視できる増加を示し、試験8週間に(前処置レベルを超えて約1.5倍で)ピークとなった。同様の結果を64mg/kgの群につき得た(図13)。
【0041】
192.9mg/kg/日での処置は、心臓オメガ−3脂肪酸含量のより劇的な増加を示し、試験12週間にて前処置レベルより、約3倍高かった(図15)。ヒマワリ油での処置(陰性対照)は、試験4週間および12週間の間で心臓オメガ−3脂肪酸含量においていずれの有意な変化も示さなかった(図17)。
【0042】
結論
雄性ビーグル犬に連続する12週間の治療食を介して毎日投与されたステアリドン酸(SDA)は、有効にEPAおよびDPAに変換され、心臓細胞膜および赤血球細胞膜に取り込まれることが判明した。さらに、12週間の192.9mg/kg/日までのSDAの投与は、いずれの有害な臨床効果も示さず、心臓、肝臓および腎臓組織へのいずれの有意な顕微鏡的変化も引き起こさなかった。これは、哺乳動物へのSDAの経口投与がEPAおよびDPAで心臓組織を富化でき、それにより哺乳動物の心臓健康を改善することを決定的に実証する、最初の試験である。
【0043】
本明細書に開示および特許請求されたすべての組成物および/または方法は、本開示に徴して過度の実験なくして調製および実施できる。この発明の組成物および方法が好ましい具体例の点から記載されているが、本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく、変形が、本明細書に記載された組成物および/または方法に対して、および本明細書に記載された方法の工程または工程の順序に適用し得ることは当業者に明らかであろう。より詳細には、化学的および生理学的の双方に関連するある種の作用物質が、本明細書に記載された作用物質と置換され得るが、同一または同様の結果が達成されるであろうことは明白であろう。当業者に明白なかかる同様の置換物および改変のすべては、添付された特許請求の範囲により規定される本発明の精神、範囲および概念内にあると考えられる。
【0044】
この明細書中に引用されたすべての刊行物および特許出願は、個々の各刊行物または特許出願が参照によって組込まれるように特におよび個々に示されたかのように、ここに出典明示して本明細書の一部とみなす。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、RBCオメガ−3脂肪酸含量−2週間を示す。
【図2】図2は、RBCオメガ−3脂肪酸含量−4週間を示す。
【図3】図3は、RBCオメガ−3脂肪酸含量−8週間を示す。
【図4】図4は、RBCオメガ−3脂肪酸含量−12週間を示す。
【図5】図5は、RBCオメガ−3脂肪酸含量−21.4mg/kg/日のSDAを示す。
【図6】図6は、RBCオメガ−3脂肪酸含量−64.2mg/kg/日のSDAを示す。
【図7】図7は、RBCオメガ−3脂肪酸含量−192.9mg/kg/日のSDAを示す。
【図8】図8は、RBCオメガ−3脂肪酸含量−42.9mg/kg/日のEPAを示す。
【図9】図9は、RBCオメガ−3脂肪酸含量−ヒマワリ油を示す。
【図10】図10は、心臓オメガ−3脂肪酸含量−4週間を示す。
【図11】図11は、心臓オメガ−3脂肪酸含量−8週間を示す。
【図12】図12は、心臓オメガ−3脂肪酸含量−12週間を示す。
【図13】図13は、心臓オメガ−3脂肪酸含量−21.4mg/kg/日のSDAを示す。
【図14】図14は、心臓オメガ−3脂肪酸含量−64.2mg/kg/日のSDAを示す。
【図15】図15は、心臓オメガ−3脂肪酸含量−192.9mg/kg/日のSDAを示す。
【図16】図16は、心臓オメガ−3脂肪酸含量−42.9mg/kg/日のEPAを示す。
【図17】図17は、心臓オメガ−3脂肪酸含量−ヒマワリ油を示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、脂質代謝および食事性補給の分野に関する。より詳細には、それは、食品成分、食事性栄養補助食品または医薬薬剤としてステアリドン酸(SDA)および/またはそのアナログを含有する遺伝子操作された種子油の使用を介する哺乳動物の心臓血管系におけるエイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサペンタエン酸(DPA)の濃度を制御するまたは増加させる組成物および方法に関する。
【0002】
(関連出願の相互参照)
この出願は、2006年3月3日付けで出願された米国仮出願シリアル番号60/779,135号の優先権の利益を主張する。
【背景技術】
【0003】
オメガ−3(ω3)脂肪酸は、二重結合が脂肪酸鎖のメチル末端から第3および第4の炭素原子間に位置する多価不飽和脂肪酸である。それらは、限定されるものではないが、α−リノレン酸(ALA、18:3)、ステアリドン酸(SDA、18:4)、エイコサペンタエン酸(EPA、20:5)、ドコサペンタエン酸(DPA、22:5)およびドコサヘキサエン酸(DHA、22:6)等を含む。
【0004】
心臓血管疾患に対するω3脂肪酸において富化した治療食の治療的および予防的な利益は、よく文書化されている。例えば、疫学的研究は、ω3脂肪酸を含有する魚を食する人々が、ほとんどまたは全く魚を消費しないものより、いくつかの心臓血管疾患の終点につき低リスクにあるという見解を支持している(DyerbergおよびBang (1979) Haemostasis 8: 227-33; Kromhoutら (1985) N. Engl. J. Med. 312: 1205-09)。最近報告されたいくつかの重要な試験は、食事性のω3脂肪酸が心臓保護的であるという見解を固めている。例えば、GISSI−プレベンジオン(Prevenzione)試験における分析は、最近の心筋梗塞を切り抜けた患者は、彼らの治療食が約1g/日のω3脂肪酸で補足されたならば、有意により低いリスクの心臓血管死を有したことを示した(Investigators GISSI-Prevenzione (1999) Lancet 354: 447-55)。加えて、Nurses' Health Studyにおいて、先に心臓血管疾患がない女性は、魚またはω3脂肪酸の摂取でより低リスクの冠状動脈心疾患を有した(Huら (2002) J. Am. Med. Assoc. 287: 1815-21)。また、ω3脂肪酸の組織中濃度および心臓血管疾患のリスク間の直接的なリンクは、Physicians' Health Studyに登録された人の前向きコホート内症例対象分析(prospective, nested case-control analysis)において報告され、ここで、ω3脂肪酸の血中濃度は、心臓血管疾患の先の証拠がない人の間の急死のリスクに反比例した(Albertら (2002) N. Engl. J. Med. 346: 1113-8)。
【0005】
前記に示すように、ω3脂肪酸が、心臓疾患により心臓発作および死亡のリスクを低減できることが今や確立している。これらのオメガ−3脂肪酸がこれらの効果を奏する手段は全く解明されていないが、心臓細胞の膜中のこれらのオメガ−3脂肪酸の存在が、それらを心臓発作に先行する心臓細胞の非協調的な不整脈収縮の心室細動に抵抗するようにすることと仮定される。
【0006】
ω3脂肪酸の心臓血管の健康上の利益はEPAおよびDHAに大部分は起因し、組織中のその存在は直接的にそれらの食事摂取と関係する。かくして、心臓病協会(American Heart Association)は、最近、冠状動脈心疾患についてのリスクがある個体は、EPAおよびDHAを供する魚または魚油の消費から利益を得るだろうという科学的声明を公表した。しかしながら、冠状動脈心疾患につきリスクがある個体および一般の人々は、魚または魚油を含むそれらの治療食を補うのに一般的に遅かった。これは、部分的に食習慣により、および部分的に魚または魚油中の重金属、メチル水銀または有機塩化物のごとき環境汚染物質に対する懸念による(Kris-Ethertonら (2002) Circulation 106: 2747-57)。
【0007】
心臓血管系において十分な量のEPAおよびDHAを供するためにヒトの食事を補う代替源を見出すことは必須である。かかる1つの代替源は、EPAおよびDHAに導く前駆体の1つを含有する植物油であろう。例えば、ω3脂肪酸ALAは、Δ6−デサチュラーゼによってSDAに変換できるために、かかる源として考えられた。次いで、SDAは、エロンガーゼおよびΔ5−デサチュラーゼの連続的な作用を通じてEPAに変換できる。キャノーラおよびダイズ油のごとき植物起原の広範囲に消費される商業用油におけるその豊富さにもかかわらず、規則的な食事摂取からのALAは、EPAおよびDHAの組織中濃度を上げるのに効果がないと分かった。これは、恐らくΔ6−デサチュラーゼ触媒工程の無効性によるものである(Kelleyら (1993) Lipids 28: 533-7)。SDAは、Δ6−デサチュラーゼによって触媒されたALAに対する反応の生成物である。かくして、治療食において直接的にSDAを提供することによって、律速段階が回避でき、EPAおよびDHAの合成のための基質が提供できた。SDAにおいて豊富な植物油の摂取は、EPAのごとき、より長鎖の多価不飽和脂肪酸での組織の富化に導き、かくして、魚または魚油の消費に典型的に関連した有益な効果を模倣し得る。
【0008】
多数の植物油は、十分な量でSDAを含有することが報告されている。例えば、全脂肪酸の約17%のSDA含量を持ったムラサキ科(Boraginaceae)ファミリーの自然発生の種子があるが、現在、これらは野生の花の種子および栽培された脂肪種子である(米国特許第6,340,485号;VelascoおよびGoffman (1999) Phytochemistry 52: 423-6)。加えて、Echium plantagineum植物の種子から抽出された食用油(エキウム油(Echium oil))は、かなりの量(全脂肪酸の約12.5%)でSDAを含むことが判明している。また、SDA含有植物油は、遺伝子組換え作物の種子油中で見出されている。例えば、キャノーラ(米国特許第6,459,018号)、トウモロコシ(PCT公開WO 2005102310)および大豆(PCT公開WO 2005021761)は、全脂肪酸の10重量%を超えるSDAを含有する種子油を生成するように遺伝子操作されている。
【0009】
研究は、SDAまたはSDA含有油の食事性補給に関して行なわれた。例えば、SDAでの食事性補給は、赤血球および血漿のリン脂質画分においてEPAおよびDPAの濃度を増大させることが示された(Jamesら (2003) Am. J. Clin. Nutr. 77: 1140-5)。また、エキウム油での食事性補給は、血漿および好中球中のEPAおよびDPAの組織中濃度を増加させた(Suretteら (2004) J. Nutr. 134: 1406-11)。しかしながら、限定されるものではないが、心臓組織中のEPA、DPAおよびDHAのごときより長鎖の多価不飽和脂肪酸へのSDAの変換、心臓健康上の利益を与えるビヒクルとしてのSDA含有化合物の可能性、および前記化合物を送達する手段を含めた多数の質問が、回答されている。これらおよび他の質問は、本開示によって少なくとも部分的に対処される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、一般的に、脂質代謝および食事性補給の分野に関する。より詳細には、それは、食品成分、食事性栄養補助食品または医薬薬剤としてステアリドン酸(SDA)および/またはそのアナログを含有する遺伝子操作された種子油の使用を介する哺乳動物の心臓血管系におけるエイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサペンタエン酸(DPA)の濃度を制御するまたは増加させる組成物および方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、哺乳動物の心臓血管系における心臓健康を促進する多価不飽和脂肪酸の濃度を増加させる食事または医薬的手段に指向される。本発明の1つの実施例において、EPAおよびDPAで哺乳動物の心臓組織を富化するSDA部分を含有する化合物を含む組成物が提供される。この化合物は、遊離脂肪酸、脂肪アシルエステル、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、エチルエステル、リン脂質、ステリルエステル、スフィンゴ脂質またはこれらの組合せとして提供できる。
【0012】
本発明の1つの実施例において、組成物は、SDAを生成するように遺伝子操作された植物からの内因性種子油として提供される。
【0013】
本発明のさらなる態様は、0.01重量%〜99重量%、好ましくは10重量%〜50重量%、より好ましくは20重量%〜40重量%の本発明の組成物を含む食物生成物である。
【0014】
さらに、本発明は、SDA部分を含有する栄養上または治療上有効な量の化合物を経口投与することを含む、EPAおよびDPAで哺乳動物の心臓血管の組織を富化する方法に関する。その化合物は、遊離脂肪酸、脂肪アシル・エステル、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、エチルエステル、リン脂質、ステリルエステル、スフィンゴ脂質またはこれらの組合せとして提供できる。この化合物の投与は、ヒト当量ベースでの用量にて、例えば、約0.1mg/kg/日〜2g/kg/日、好ましくは約1mg/kg/日〜約1g/kg/日、より好ましくは約20mg/kg/日〜約500mg/kg/日で行なうことができる。
【0015】
本発明のもう一つの態様は、SDAを含有すると生成物を広告および/または標識することにより、哺乳動物の心臓健康を改善するとして生成物を促進する方法を提供することである。生成物は、食物生成物、食物性栄養補助食品または医薬製品であり得る。
【0016】
(図面の簡潔な記載)
以下の図面は、本明細書の一部を形成し、本発明のある種の態様をさらに示すために含まれている。本発明は、本明細書に示された特定の具体例の詳細な記載と組み合わせた1以上のこれらの図面のへの参照によってより良好に理解し得る。
図1.RBCオメガ−3脂肪酸含量−2週間
図2.RBCオメガ−3脂肪酸含量−4週間
図3.RBCオメガ−3脂肪酸含量−8週間
図4.RBCオメガ−3脂肪酸含量−12週間
図5.RBCオメガ−3脂肪酸含量−21.4mg/kg/日のSDA
図6.RBCオメガ−3脂肪酸含量−64.2mg/kg/日のSDA
図7.RBCオメガ−3脂肪酸含量−192.9mg/kg/日のSDA
図8.RBCオメガ−3脂肪酸含量−42.9mg/kg/日のEPA
図9.RBCオメガ−3脂肪酸含量−ヒマワリ油
図10.心臓オメガ−3脂肪酸含量−4週間
図11.心臓オメガ−3脂肪酸含量−8週間
図12.心臓オメガ−3脂肪酸含量−12週間
図13.心臓オメガ−3脂肪酸含量−21.4mg/kg/日のSDA
図14.心臓オメガ−3脂肪酸含量−64.2mg/kg/日のSDA
図15.心臓オメガ−3脂肪酸含量−192.9mg/kg/日のSDA
図16.心臓オメガ−3脂肪酸含量−42.9mg/kg/日のEPA
図17.心臓オメガ−3脂肪酸含量−ヒマワリ油
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
ステアリドン酸(SDA)は、すべてのシス6、9、12および15位において4つの二重結合を持つ18個の炭素のオメガ−3脂肪酸である。それは食物供給において主として魚源からミリグラム/給仕量で存在する。他のオメガ−3脂肪酸のこの食事性源は、エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)を供する魚および魚油、ならびにα−リノレン酸(ALA)を提供する脂肪種子およびナッツを含む。EPAおよびDHAの典型的な食事摂取は、魚、特にオメガ−3の豊富な脂肪性の魚が広範囲にまたは頻繁に消費されないために推奨摂取量よりかなり下にある。保健機関は、EPAおよびDHAが心臓健康効果に関与することを認識し;詳細には、これらのオメガ−3脂肪酸の消費が突然の致命的心臓発作のリスクを低下することが示されている。
【0018】
ALAの典型的な食事摂取は、基礎的な栄養上のニーズを満たすのに適切であると考えられているが、ALAは、EPAおよびDHAに関連した心臓健康効果を奏することは示されていない。ALAはほとんどβ−酸化され、脂肪酸代謝の他の生成物に代謝され;体内ではほんの少しがEPAおよびDHAに変換される。これは、EPAおよびDHAへのALAの生物変換における第1の酵素、Δ6デサチュラーゼが、律速的であるからである。SDAは、Δ6デサチュラーゼによって触媒されたALAに対する反応の生成物である。かくして、治療食中にSDAを直接的に供することにより、律速段階が回避され、EPAおよびDHAの合成についての基質が提供される。
【0019】
上記に示されるように、魚および魚油中で供されたオメガ−3脂肪酸、EPAおよびDHAは、心臓疾患による心臓発作および死亡のリスクを低減できることが今や確立している。これらのオメガ−3脂肪酸がこれらの効果を奏する手段は完全には解明されていないが、心臓細胞の膜中のこれらのオメガ−3脂肪酸の存在が、それらを心臓発作に先行する心臓細胞の非協調的な不整脈収縮の心室細動に抵抗するようにすることと仮定される。
【0020】
従って、EPAおよびDPAで哺乳動物の心臓組織を富化するためにSDA部分を含有する化合物を含む組成物を提供することは本発明の1つの目的である。この化合物は、遊離脂肪酸、脂肪アシル・エステル、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、エチルエステル、リン脂質、ステリルエステル、スフィンゴ脂質またはこれらの組合せとして提供できる。単独または他の食事性栄養補助食品と組み合わたSDA部分を含む化合物を含有する組成物の調製物は、本開示に徴して当業者に知られているであろう。典型的には、かかる組成物は液剤またはカプセル剤;固体形態または懸濁剤として調製でき;また、調製物は乳化できる。
【0021】
本発明の組成物は、食物生成物における使用に好ましくは適している。その組成物は、それら自体で消費し得るが、それらは、消費前に食物生成物または補足すべき栄養物に、典型的に組み入れられる。従って、本発明のさらなる態様は、0.01重量%〜99重量%、好ましくは10重量%〜50重量%、より好ましくは20重量%〜40重量%の本発明の組成物を含む食物生成物である。本発明を実施するのに利用し得る食物生成物は、限定されるものではないが、飲料(ソフトドリンク、炭酸飲料、レディー・ツー・ミックス飲料等を含む)、注入された食物(例えば、果物および野菜)、ソース、調味料、サラダドレッシング、果汁、シロップ、デザート(プディング、ゼラチン、アイシングおよび充填物、焼かれた物、およびアイスクリームおよびシャーベットのごとき冷凍デザート)、チョコレート、キャンディー、ソフト凍結生成物(例えば、ソフト凍結クリーム、ソフト凍結アイスクリームおよびヨーグルト、酪農または非酪農のホイップトッピング)、油および乳化生成物(例えば、ショートニング、マーガリン、マヨネーズ、バター、料理用油およびサラダドレッシング)、加工肉(ソーセージのごとき)、中間水分食物(例えば、コメおよびドッグフード)等を含む。
【0022】
食物生成物は、組成物を得るおよび、溶解、懸濁により、あるいは乳化において添加される食物生成物を介して、それを均一に分配するごとき通常の方法によりSDA含有組成物中で富化できる。例えば、組成物は食用の可溶化剤に溶解できるか、または食用の可溶化剤、有効量の分散剤および所望により有効量の抗酸化剤と混合できる。有用な抗酸化剤の例は、限定されるものではないが、α−トコフェロールのごときトコフェロール、アスコルビン酸、安価な合成抗酸化剤およびその混合物を含む。また、食物生成物は、増加したSDAのために設計された遺伝子導入植物から調製され得る。本発明で用い得る増加させたSDAを有するかかる植物の例は、ここに出典明示して本明細書の一部とみなす米国特許第6,459,018号に記載されている。
【0023】
乳剤または懸濁剤を調製するための有効な担体は、水、アルコール、多価アルコールおよびその混合物を含む。有用な分散剤の例は、限定されるものではないが、レシチン、他のリン脂質、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸、脂肪酸の塩、脂肪酸エステル、他の洗浄剤−様の分子およびその混合物を含む。あるいは、食物生成物は、SDA含有組成物を得、次いで、それを食用の可溶化剤および有効量の分散剤と混合することを含む方法により調製できる。再び、食用の可溶化剤は、限定されるものではないが、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、植物油、トコフェロール、アルコール、多価アルコールまたはその混合物を含むことができ、分散剤は、限定されるものではないが、レシチン、他のリン脂質、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸、脂肪酸の塩、脂肪酸エステル、他の洗浄剤−様の分子およびその混合物を含むことができる。
【0024】
本発明のさらなる実施例は、SDA部分を含む栄養上または治療上有効量の化合物を経口投与することを含む、EPAおよびDPAで哺乳動物の心臓組織を富化する方法に関する。その化合物は、遊離脂肪酸、脂肪アシル・エステル、モノグリセリド、ジグリセリド、トリグリセリド、エチルエステル、リン脂質、ステリルエステル、スフィンゴ脂質、またはこれらの組合せとして提供できる。この化合物の投与は、ヒト当量ベースでの用量にて、例えば、約0.1mg/kg/日〜2g/kg/日、好ましくは、約1mg/kg/日〜約1g/kg/日、より好ましくは約20mg/kg/日〜約500mg/kg/日で行なうことができる。
【0025】
本明細書に用いた「栄養的に有効な」なる語句は、身体の構造または機能に影響するか、または疾病についてのリスクを低減する作用物質の能力を示す。本明細書に用いた「治療上有効な」なる語句は、代替療法に典型的に関連する副作用を回避しつつ、障害を予防する、あるいは障害の重篤度を改善する作用物質の能力を示す。「治療上有効な」なる語句は、「治療または予防に有効な」なる語句に等価であると理解され、双方は、例えば、代替療法に典型的に関連する副作用を回避しつつ、例えば、障害の重篤度における、または障害の予防における改善の目的を達成するであろう本発明の方法に用いられるステアリドン酸の量を制限することが意図される。
【0026】
医薬的使用(ヒトまたは獣医)について、組成物は一般的に経口投与されるが、それらがうまく吸収され得るいずれの経路、例えば、非経口的(すなわち、皮下的、筋肉内または静脈内)、直腸的または経膣的あるいは、例えば、皮膚軟膏またはローション剤として局所的にも投与できる。本発明の組成物は、単独または医薬上許容される担体もしくは賦形剤と組み合わせて投与し得る。利用可能な場合、ゼラチンカプセル剤は経口投与の好ましい形態であり得る。また、前記のような食事性補給は、経口経路の投与を提供できる。
【0027】
栄養的にはまたは治療上有効であるSDA部分を含む化合物の量は、消費者の先の栄養上および生理的な状態、治療されている心臓疾患の重篤度、患者の食習慣、患者の年齢、さらなる疾患の存在等のごとき複数の因子に依存する。そのヒトの普通食中で比較的少量の化合物を消費する人は、典型的により多量のSDAを消費する人よりも多くの量を必要とするであろう。当業者は、これらの考慮に基づいて患者につき治療上有効量を決定する方法を知っているであろう。
【0028】
本発明のさらなる態様は、SDAを含有し、生成物の摂取後に哺乳動物の心臓健康を改善するとしてその生成物を広告することによる、生成物の販売を促進するビジネス方法に関する。生成物は、食物生成物、栄養補給食品または医薬生成物である。本明細書に開示された心臓健康上の利益についての公衆に通知することによって、例えば、生成物の増加した販売の利益を理解できる。限定されるものではないが、ラジオ、テレビおよび印刷出版物を含めた伝統的な広告用チャンネルは、この目的のために使用することができる。また、広告用のいずれかの新しく新生の電子メディアは、この文脈において考えられる。
【0029】
以下の実施例は、本発明の好ましい実施例を示すために含まれる。以下の実施例において開示された技術が、本発明の実施において良好に機能するように本発明者によって発見された技術を表し、かくして、その実施につき好ましい様式を構成すると考えることができることは、当業者によって認められるであろう。しかしながら、当業者は、本開示に徴して、多数の変更が、開示された特定の具体例においてなすことができ、依然として、本発明の精神および範囲から逸脱することなく同様または類似する結果を得ることができることを認めるであろう。
【0030】
実施例
背景および目的
食事性の長鎖n−3脂肪酸エイコサペンタエン酸(EPA)およびドコサヘキサエン酸(DHA)と関連する多数の健康上の利益がある。詳しくは、一般的に魚および魚油で見出されるEPAおよびDHAの双方は、心臓血管疾患のリスクの低下に有益であるとして広範囲に関係しているとみなされている(Ismail (2005) Frontiers in Bioscience 2005, 10: 1079-88)。魚における可能な汚染物質、魚油の貧弱な美味しさおよび陸に囲まれた領域における集団の一般的な食事の好みを含めた消極的な消費者知覚は、共通の源を用いる食事性のn−3脂肪酸の補足の実現可能性を制限する(Verbekeら (2005) Public Heath Nutrition 8(4): 422-9)。魚中で見出された長鎖n−3脂肪酸に対する実行可能な代替物のステアリドン酸(SDA)は、植物源に由来し、共通の食物に組み込むことができる。SDAは、ヒト治療食を介して投与された場合に、赤血球および血漿中でEPAおよびDPAに有効に変換されることが従前に示されている(Jamesら, 2003)。EPA、DPAおよびDHAでの心臓組織の富化に関してさらにSDAの効力を評価するために、食事試験を、3か月の期間、ビーグル犬においてSDAの摂食がEPA、DPAおよびDHAでの心臓組織の富化を生じるかを決定するために始めた。
【0031】
試験設計
試験物品のSDAを、90日間まで、毎日1回、1週間当たり7日、治療食中で、3群(第1群〜第3群)の雄性ビーグル犬に投与した。参考物品のエイコサペンタエン酸(EPA)を、同一投与計画で4群に投与した。SDAおよびEPAの双方をエチルエステルとして供給した。対照物品の食品銘柄の高オレイン酸ヒマワリ油(SFO)を同一投与計画薬で第5群に投与した。また、すべての動物がkg体重当たり同じ容量の油を受け取るようにSFOを第1群〜第4群の食物に加えた。食事性栄養補助食品のビタミンEをすべての治療食に加えた。用量レベルは、21.4、64.2および192.9mg/kg/日のSDA、42.9mg/kg/日のEPAであり、それは、各々、第1、第2、第3および第4群についての体重に基づいて各動物につき計算した。各群は、15匹の雄よりなった。5匹の動物/群を、中間の各剖検(試験週4および8)および12週処処置期間の終わりでの主要な剖検につき予定した。加えて、5匹の動物をベースラインレベルの脂肪酸(予備試験剖検)を確立するために、無作為化および試験物品投与に先立って安楽死させた。
【0032】
動物を死亡率および瀕死につき毎日2回観察した。臨床検査を毎日行い、詳細な身体の検査を毎週行った。個々の体重を毎週記録した。食物消費を毎日記録し、毎週報告した。脂肪酸の分析用の血液試料を予備試験剖検のために予定された5匹のイヌ、および試験2、4、8および12週間の間のすべての生存しているイヌから採取した。すべての動物を安楽死させ、肝臓および腎臓の切片に加えて、心臓組織の2つの試料を採取し、予定された剖検にて、一方の組を脂肪酸分析につき分析し、他方の試料を顕微鏡分析のために保持した。心臓、肝臓および腎臓からの切片を、予備試験中の5匹の動物、および試験12週間の剖検での5匹の動物/群(第3〜5群だけ)から顕微鏡的に検討した。
【0033】
脂肪酸分析
血液試料を予備試験剖検につき選択された5匹のイヌおよび試験2、4、8および12週間のすべての生存しているイヌから採取した。試料を飼育/投与計画に先立ってEDTAを含有するチューブ中にイヌの頚静脈から採取した。赤血球(RBC)を、4℃にて約20分の1500×遠心によって血漿から分離した。血漿をポリプロピレン・チューブに移し、将来の分析のために約−70℃で貯蔵した。バフィーコートを密集させたRBCから取り除き、RBCを2本のチューブにほぼ等しく分けた。
【0034】
組織調製、脂質抽出および分析を通常のプロトコールにより行った。略言すると、心臓組織を最初に一晩凍結乾燥し、次いで、2枚のすりガラスのスライド間で粉にすることにより微粉砕した。粉にした組織をセーライン中で懸濁し、10〜15秒の音波処理に付した。脂質は、メタノールおよび塩化メチレンで抽出し、溶媒を窒素下で蒸発させた。解凍したRBCをイソプロパノールおよびヘキサンで抽出した。ストローマの遠心後、溶剤を窒素下に移し、蒸発させた。心臓およびRBCの試料から抽出したリン脂質を100℃にて10分間、BF3でメチル化した。これらの条件は、スフィンゴ脂質FAではなく、グリセロリン脂質FAをトランスメチル化した。加熱後、すべての試料をヘキサンおよび水で抽出した。ヘキサン層を取り出し、窒素で乾燥し、FAメチルエステルをフレームイオン化ガスクロマトグラフィーにより分析用のヘキサン中で再構成した。FAを公知の基準との比較により同定し、FA組成物を合計FAの重量パーセントとして報告した。
【0035】
肉眼検査
動物をペントバルビタールナトリウムの静脈内注射に続いて放血によって安楽死させた。左心室からの約200mgの心臓組織の2つの試料を採取し、冷却したセーライン中で濯ぎ、アルミ箔で包み、液体窒素中で瞬間凍結し、約−70℃にて貯蔵した。試料を病理学的異常につき分析した。
【0036】
顕微鏡検査
心臓、肝臓および腎臓の切片を10%中性緩衝ホルマリン中に入れた。組織を整え、パラフィンブロックに入れ、4〜8ミクロンに薄片にし、顕微鏡用スライドガラス上に乗せ、ヘマトキシリン−エオジンで染色した。試料を病理学的異常につき分析した。
【0037】
統計分析
体重、体重変化および食料消費データを一元配置ANOVAに付して、集団間の差を決定した。ANOVAが統計的に有意な(p<0.05)集団間の分散を明らかにしたならば、Dunnettのテスト(Dunnett, 1964)を用いて、試験物品で処理された群を対照群に比較した。
【0038】
結果
すべての動物を予定された剖検まで生存させた。体重または食物消費に対する試験物品関連の臨床所見も効果もなかった。試験物品投与に起因する顕微鏡的所見はなかった。
【0039】
SDAで処置したイヌの赤血球(RBC)中で見出されたオメガ−3脂肪酸含量は、試験2、4、8および12週間にて用量依存的に増加することが示された。EPAで処置したイヌ(参考物品)のRBCオメガ−3脂肪酸含量は、試験2週間および12週間の間で、SFOで処置したイヌ(陰性対照)より約3〜10倍高かった(図1および4)。21.4mg/kg/日のSDAでの処置は、早くも試験2週間に前処置レベルを超える合計オメガ−3脂肪酸含量(RBC)の全体的な増加を示し、約4週間にてピークとなり、その後減少した(図5)。192.9mg/kg/日のSDA(第3群)での処置は、早くも試験2週間で前投与レベルを超える合計オメガ−3脂肪酸含量(RBC)において全体的な増加を示し、12週間を通じて(事前処置を超えて約2倍に)上昇したままであった(図7)。わずかに低いが、192.9mg/kg/日のSDA群での経時的なオメガ−3脂肪酸含量(RBC)の全体的な増加は、42.9mg/kg/日のEPA群で見られた増加に匹敵した(図7および8)。ヒマワリ油での処置(陰性対照)は、経時的なRBCオメガ−3脂肪酸含量において増加を示さなかったが、むしろ試験2週間および12週間の間にほぼ50%の減少を示した(図9)。
【0040】
RBCと同様に、SDAで試験したイヌの心臓組織中のオメガ−3脂肪酸含量は、試験4、8および12週間にて用量依存的な方法で増加することが示された(図10〜12)。EPAで処置したイヌ(参考物品)の心臓組織におけるオメガ−3脂肪酸含量は、試験4週間および12週間(図10〜12)の間でのヒマワリ油で処置したイヌ(陰性対照)より約3〜5高かった。21.4mg/kg/日のSDAでの処置は、試験4週間にて前処置レベルを超えた心臓オメガ−3脂肪酸含量の無視できる増加を示し、試験8週間に(前処置レベルを超えて約1.5倍で)ピークとなった。同様の結果を64mg/kgの群につき得た(図13)。
【0041】
192.9mg/kg/日での処置は、心臓オメガ−3脂肪酸含量のより劇的な増加を示し、試験12週間にて前処置レベルより、約3倍高かった(図15)。ヒマワリ油での処置(陰性対照)は、試験4週間および12週間の間で心臓オメガ−3脂肪酸含量においていずれの有意な変化も示さなかった(図17)。
【0042】
結論
雄性ビーグル犬に連続する12週間の治療食を介して毎日投与されたステアリドン酸(SDA)は、有効にEPAおよびDPAに変換され、心臓細胞膜および赤血球細胞膜に取り込まれることが判明した。さらに、12週間の192.9mg/kg/日までのSDAの投与は、いずれの有害な臨床効果も示さず、心臓、肝臓および腎臓組織へのいずれの有意な顕微鏡的変化も引き起こさなかった。これは、哺乳動物へのSDAの経口投与がEPAおよびDPAで心臓組織を富化でき、それにより哺乳動物の心臓健康を改善することを決定的に実証する、最初の試験である。
【0043】
本明細書に開示および特許請求されたすべての組成物および/または方法は、本開示に徴して過度の実験なくして調製および実施できる。この発明の組成物および方法が好ましい具体例の点から記載されているが、本発明の概念、精神および範囲から逸脱することなく、変形が、本明細書に記載された組成物および/または方法に対して、および本明細書に記載された方法の工程または工程の順序に適用し得ることは当業者に明らかであろう。より詳細には、化学的および生理学的の双方に関連するある種の作用物質が、本明細書に記載された作用物質と置換され得るが、同一または同様の結果が達成されるであろうことは明白であろう。当業者に明白なかかる同様の置換物および改変のすべては、添付された特許請求の範囲により規定される本発明の精神、範囲および概念内にあると考えられる。
【0044】
この明細書中に引用されたすべての刊行物および特許出願は、個々の各刊行物または特許出願が参照によって組込まれるように特におよび個々に示されたかのように、ここに出典明示して本明細書の一部とみなす。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、RBCオメガ−3脂肪酸含量−2週間を示す。
【図2】図2は、RBCオメガ−3脂肪酸含量−4週間を示す。
【図3】図3は、RBCオメガ−3脂肪酸含量−8週間を示す。
【図4】図4は、RBCオメガ−3脂肪酸含量−12週間を示す。
【図5】図5は、RBCオメガ−3脂肪酸含量−21.4mg/kg/日のSDAを示す。
【図6】図6は、RBCオメガ−3脂肪酸含量−64.2mg/kg/日のSDAを示す。
【図7】図7は、RBCオメガ−3脂肪酸含量−192.9mg/kg/日のSDAを示す。
【図8】図8は、RBCオメガ−3脂肪酸含量−42.9mg/kg/日のEPAを示す。
【図9】図9は、RBCオメガ−3脂肪酸含量−ヒマワリ油を示す。
【図10】図10は、心臓オメガ−3脂肪酸含量−4週間を示す。
【図11】図11は、心臓オメガ−3脂肪酸含量−8週間を示す。
【図12】図12は、心臓オメガ−3脂肪酸含量−12週間を示す。
【図13】図13は、心臓オメガ−3脂肪酸含量−21.4mg/kg/日のSDAを示す。
【図14】図14は、心臓オメガ−3脂肪酸含量−64.2mg/kg/日のSDAを示す。
【図15】図15は、心臓オメガ−3脂肪酸含量−192.9mg/kg/日のSDAを示す。
【図16】図16は、心臓オメガ−3脂肪酸含量−42.9mg/kg/日のEPAを示す。
【図17】図17は、心臓オメガ−3脂肪酸含量−ヒマワリ油を示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子組換え作物の内因性種子油のある量を経口投与することを特徴とする哺乳動物に食物を与える方法であって、該種子油は、エイコサペンタエン酸(20:5,ω3)およびドコサペンタエン酸(22:5,ω3)で動物の心臓組織または赤血球を富化するのに十分なステアリドン酸を有する該方法。
【請求項2】
該哺乳動物がヒトであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
該哺乳動物が伴侶動物であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
投与される該種子油が、ヒト当量ベースで約1mg/kg/日〜約5000mg/kg/日を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
投与される該種子油が、約20mg/kg/日〜約2000mg/kg/日を含むことを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
該種子油が、ダイズ油、トウモロコシ油およびキャノーラ油よりなる群から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
該種子油が、医薬薬剤として送達されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
該種子油が、ベーカリー製品、油ベースの生成物、酪農製品、乳児用調製乳および非酪農飲料よりなる群から選択される食物生成物に存在することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
該食物生成物が、パン、ビスケットもしくはクッキー、スナックバー、ミルク、再構成可能な酪農製品、スプレッド(spread)、サラダドレッシング、アイスクリームおよび果汁から選択されることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
遺伝子組換え作物の治療上有効な量の内因性種子油を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物の冠状動脈心疾患または脂質代謝異常を治療する方法であって、該内因性種子油は、全脂肪酸の少なくとも5%のステアリドン酸を含有する該方法。
【請求項11】
該冠状動脈心疾患が、不整脈、血栓症、高血圧症、動脈硬化症/アテローム性動脈硬化およびポスト心筋梗塞を含むことを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
ステアリドン酸を含有すると生成物を宣伝または標識する工程を含むことを特徴とする、哺乳動物の心臓健康を改善すると生成物を促進する方法。
【請求項13】
生成物の促進が、生成物の販売を増加させるように努めることを含むことを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
該生成物が、食物生成物、食物性栄養補助生成物および医薬製品よりなる群から選択されることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項15】
該広告が、製品ラベル、印刷出版物、ラジオ、テレビおよび他の電子メディアを含む手段により達成されることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項1】
遺伝子組換え作物の内因性種子油のある量を経口投与することを特徴とする哺乳動物に食物を与える方法であって、該種子油は、エイコサペンタエン酸(20:5,ω3)およびドコサペンタエン酸(22:5,ω3)で動物の心臓組織または赤血球を富化するのに十分なステアリドン酸を有する該方法。
【請求項2】
該哺乳動物がヒトであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
該哺乳動物が伴侶動物であることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項4】
投与される該種子油が、ヒト当量ベースで約1mg/kg/日〜約5000mg/kg/日を含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
投与される該種子油が、約20mg/kg/日〜約2000mg/kg/日を含むことを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項6】
該種子油が、ダイズ油、トウモロコシ油およびキャノーラ油よりなる群から選択されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
該種子油が、医薬薬剤として送達されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項8】
該種子油が、ベーカリー製品、油ベースの生成物、酪農製品、乳児用調製乳および非酪農飲料よりなる群から選択される食物生成物に存在することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項9】
該食物生成物が、パン、ビスケットもしくはクッキー、スナックバー、ミルク、再構成可能な酪農製品、スプレッド(spread)、サラダドレッシング、アイスクリームおよび果汁から選択されることを特徴とする請求項8記載の方法。
【請求項10】
遺伝子組換え作物の治療上有効な量の内因性種子油を哺乳動物に投与することを特徴とする、哺乳動物の冠状動脈心疾患または脂質代謝異常を治療する方法であって、該内因性種子油は、全脂肪酸の少なくとも5%のステアリドン酸を含有する該方法。
【請求項11】
該冠状動脈心疾患が、不整脈、血栓症、高血圧症、動脈硬化症/アテローム性動脈硬化およびポスト心筋梗塞を含むことを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
ステアリドン酸を含有すると生成物を宣伝または標識する工程を含むことを特徴とする、哺乳動物の心臓健康を改善すると生成物を促進する方法。
【請求項13】
生成物の促進が、生成物の販売を増加させるように努めることを含むことを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項14】
該生成物が、食物生成物、食物性栄養補助生成物および医薬製品よりなる群から選択されることを特徴とする請求項12記載の方法。
【請求項15】
該広告が、製品ラベル、印刷出版物、ラジオ、テレビおよび他の電子メディアを含む手段により達成されることを特徴とする請求項12記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公表番号】特表2009−529044(P2009−529044A)
【公表日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558313(P2008−558313)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際出願番号】PCT/US2007/005322
【国際公開番号】WO2007/103160
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(501231613)モンサント テクノロジー エルエルシー (71)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際出願番号】PCT/US2007/005322
【国際公開番号】WO2007/103160
【国際公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(501231613)モンサント テクノロジー エルエルシー (71)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]