説明

心臓血管疾患に対するリスクマーカー

【課題】被験体が心臓血管疾患を発症する、有する、または、心臓血管疾患の合併症を経験する危険性を有するかどうかを調べる方法を提供する。
【解決手段】被験体、特にヒト被験体が心臓血管疾患の合併症を発症する、有する、または経験する危険性を有するかどうかを調べるための方法および現方法により心臓血管疾患の危険性があることが同定された被験体を治療する方法を提供する。1つの実施形態において、方法は被験体の身体由来サンプル中の酸化されたアポリポタンパク質A−I関連生体分子1つ以上のレベルを測定することを含む。また、本方法において使用するためのキットおよび試薬を提供する。また、被験体における心臓血管疾患の状態、および、心臓血管疾患を有する被験体に対する治療薬の作用をモニタリングするための方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(政府の権利)
本出願において記載された研究は、助成金番号HL62526、HL076491、HL70621、HL077692およびHL66082によって、少なくとも部分的に支持される。
【0002】
(優先権の主張)
本出願は、米国特許仮出願第60/527,178号(2003年12月5日出願)、米国特許仮出願第60/600,527号(2004年8月11日出願)、米国特許仮出願第60/600,551号(2004年8月11日出願)、および米国特許仮出願第60/619,044号(2004年10月15日出願)に対する優先権を主張し、これらの全ては、本明細書においてその全体が参考として援用される。
【0003】
(発明の分野)
本発明は心臓血管疾患の分野に関する。より詳細には、被験体、特にヒト被験体が心臓血管疾患を発症するか、心臓血管疾患を有するか、または、心臓血管疾患の合併症を経験する危険性を有するかどうかを調べるためのマーカーおよび方法に関する。本出願はまた被験体における心臓血管疾患の状態、または、心臓血管疾患を有する被験体に対する治療薬の作用をモニタリングするためのこのようなマーカーおよび方法の使用にも関する。
【背景技術】
【0004】
心臓血管疾患(CVD)はアテローム性動脈硬化症、冠動脈心疾患、脳血管疾患、大動脈腸骨動脈疾患および末梢血管疾患を包含する心臓および血管の疾患に関する一般的な用語である。CVDを有する被験体は多くの合併症、例えば心筋梗塞、卒中、狭心症、一過性虚血発作、うっ血性心障害、大動脈瘤および死亡を発症する場合がある。CVDは米国の死亡例では2例中の1例に相当し、死亡原因の第1位である。即ち、心臓血管疾患の防止は主要な公衆衛生上の重要な領域である。
【0005】
低脂肪食および運動はCVDを防止するために推奨されている。更に、多くの治療薬がCVD発症または保有の危険性を有することが解っている個体に対して医療専門家により処方されている。これらにはコレステロールおよびトリグリセリドの血中濃度を低下させる脂質低下剤、血圧を正常化させる薬剤、血小板の活性化を防止し、血管の炎症を低減するアスピリンまたは血小板ADPレセプター拮抗剤(例えばクロピドグレルおよびチクロピジン)のような薬剤、および、炎症を低減し、インスリン感受性を誘発し、血管機能を改善し、脂質の異常性を是正する広範な代謝作用を有する多面作用性の薬剤、例えばパーオキシソーム増殖物質活性化レセプター(PPAR)作用薬が包含される。より攻撃的な治療、例えば複数の薬剤の投与または外科的介入がハイリスクの個体において使用される。CVD療法は有害な副作用を有する場合があるため、CVDを発症するか保有している危険性を有する個体、特にハイリスクの個体を同定するための方法が望まれている。
【0006】
現在、数種の危険因子がCVDを発症または保有する個体の危険性を評価し、そしてハイリスクの個体を同定するために医療専門家により使用されている。心臓血管疾患の主要な危険因子は年齢、高血圧、早期CVDの家族歴、喫煙、高値の総コレステロール、低値のHDLコレステロール、肥満および糖尿病を包含する。CVDの主要な危険因子は相加的なものであり、典型的にはCVDに関する治療により最も利益を被ると考えられる個体を標的にした危険予測アルゴリズムにおいて医師等により共に使用されている。これらのアルゴリズムは10年以内のCVDの危険性を予測するための高い感度および特異性を達成する。しかしながら、既存のアルゴリズムがCVD発症のより高い確率を予測する能力は限定されている。現在危険因子の何れも有していない個体のうち、CVD発症の10年間の危険性はなお約2%である。更にまた、多数のCVDの合併症は現在知られた危険因子を使用して判定した場合、見かけ上は軽度または中等度の危険プロファイルを有する個体において起こっている。即ち既存の心臓血管危険性のアルゴリズムを拡張してCVDの危険性を有するか罹患している個体のより広いスペクトルを同定する必要がある。
アテローム性動脈硬化症の機序は十分理解されていない。過去10年に渡り、多数の臨床、病理、生化学および遺伝子的なデータがアテローム性動脈硬化症は慢性炎症性障害であるという見解を支持している。感受性であるが非特異的な炎症マーカーである急性期の反応体(例えばC反応性タンパク質、補体タンパク質)は脂肪層および後期のアテローム性動脈硬化症患部においてリッチ化される。最近の予測的臨床治験において、C反応性タンパク質のベースライン血漿中のレベルは初回心筋梗塞および見かけ上健康な個体における卒中の危険性を独立して予測している。特許文献1は心臓血管障害を発症する個体の危険性を特徴付けるためにC反応性タンパク質、サイトカインおよび細胞接着分子を使用する方法を記載している。有用では有るが、これらのマーカーはCVD以外の原因のために炎症を有する個体の血液中に存在する場合があり、従って、マーカーは十分特異的であるとはいえない。更にまた、そのレベルのモジュレーションはCVDの罹患率または死亡率の低減を予測するとは解っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,040,147号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の項目を提供する。
(項目1)
心臓血管疾患を有する被験体の危険性を特徴付けるための方法であって、該方法は、
該被験体由来の生物学的サンプル中の1つ以上の酸化アポリポタンパク質A−I(apoA−I)関連生体分子のレベルを決定する工程であって、ここで該1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子は、酸化HDL、酸化apoA−Iおよび酸化apoA−Iペプチドフラグメントから選択される、工程
を包含し、そして
対照値または内標準と比較した場合の該生物学的サンプル中の該1つ以上のapoA−I関連酸化生体分子のレベルの上昇は、該被験体が心臓血管疾患を有する危険性を有することを示す、方法。
(項目2)
前記1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子の少なくとも1つが、酸化apoA−Iまたは酸化apoA−Iペプチドフラグメントである、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記方法が、以下のアミノ酸残基:クロロチロシン、ニトロチロシン、ジチロシン、トリヒドロキシフェニルアラニン、ジヒドロキシフェニルアラニン、メチオニンスルホキシドおよびチロシンパーオキシドの1つ以上を含む、酸化apoA−Iまたは酸化apoA−Iペプチドフラグメントを検出するための手順または試薬を使用する、項目2に記載の方法。
(項目4)
前記方法が、配列番号1における位置18、位置29、位置166、位置192、位置236の任意の1つ、または該位置の任意の組合せにおいて酸化アミノ酸残基を含む、酸化apoA−Iまたは酸化apoA−Iペプチドを検出するための手順を使用する、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルが、ヒト被験体の対照集団由来の比較可能な生物学的サンプル中の、該1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルに基づいた対照値または対照値の範囲と比較される、項目1に記載の方法。
(項目6)
前記生物学的サンプルが、血液、血清または血漿である、項目1に記載の方法。
(項目7)
心臓血管疾患についての被験体の危険性プロファイルを特徴付けるための方法であって、該方法は、
該被験体由来の身体サンプル中の1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルを対照値と比較することによって、第1の危険値を決定する工程;ならびに、
該被験体における1つ以上のさらなる心臓血管危険値を測定する工程であって、ここで該1つ以上のさらなる危険値は、
a)該被験体の血圧を決定する工程;
b)該被験体由来の生物学的サンプル中の低密度リポタンパク質もしくはコレステロール、または両方のレベルを決定する工程;
c)ストレス試験に対する該被験体の応答を評価する工程;
d)該被験体由来の生物学的サンプル中のミエロペルオキシダーゼ、C反応性タンパク質または両方のレベルを決定する工程;および、
e)該被験体のアテローム性動脈硬化性プラーク負荷を決定する工程
によって得られる、工程、ならびに、
該第1の危険値を該1つ以上のさらなる危険値と合わせて、最終危険値を提供する工程を包含する、方法。
(項目8)
心臓血管疾患を発症する被験体の危険性を特徴付けるための方法であって、該方法は、
該被験体由来の生物学的サンプル中の1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルを決定する工程であって、ここで該1つ以上のapoA−I関連生体分子は、酸化HDL、酸化apoA−Iおよび酸化apoA−Iペプチドフラグメントから選択される、工程
を包含し、そして
対照値または内標準と比較した場合の該生物学的サンプル中の該1つ以上のapoA−I関連酸化生体分子のレベルの上昇は、該被験体が心臓血管疾患を発症する危険性を有することを示す、方法。
(項目9)
前記1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子の少なくとも1つが、酸化apoA−Iまたは酸化apoA−Iペプチドフラグメントである、項目8に記載の方法。
(項目10)
前記方法が、以下のアミノ酸残基:クロロチロシン、ニトロチロシン、ジチロシン、トリヒドロキシフェニルアラニン、ジヒドロキシフェニルアラニン、メチオニンスルホキシドおよびチロシンパーオキシドの1つ以上を含む、酸化apoA−Iまたは酸化apoA−Iペプチドフラグメントを検出するための手順または試薬を使用する、項目8に記載の方法。
(項目11)
前記方法が、配列番号1における位置18、位置29、位置166、位置192、位置236の任意の1つ、または該位置の任意の組合せにおいて酸化アミノ酸残基を含む、酸化apoA−Iまたは酸化apoA−Iペプチドを検出するための手順を使用する、項目8に記載の方法。
(項目12)
前記1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルが、ヒト被験体の対照集団由来の比較可能な生物学的サンプル中の、該1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルに基づいた対照値または対照値の範囲と比較される、項目8に記載の方法。
(項目13)
前記生物学的サンプルが、血液、血清または血漿である、項目8に記載の方法。
(項目14)
前記被験体が、見かけ上健康なヒト被験体である、項目8に記載の方法。
(項目15)
前記被験体が、非喫煙者である、項目14に記載の方法。
(項目16)
前記被験体が、心臓血管疾患の高い危険性を有することが別段知られない、項目8記載の方法。
(項目17)
胸部痛を呈している被験体において重大な有害心臓事象を経験する短期的な危険性を特徴付けるための方法であって、該方法は、
該被験体由来の生物学的サンプル中の1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルを決定する工程であって、ここで該1つ以上のapoA−I関連生体分子は、酸化HDL、酸化apoA−Iおよび酸化apoA−Iペプチドフラグメントから選択される、工程
を包含し、そして
対照値または内標準と比較した場合の該生物学的サンプル中の該1つ以上のapoA−I関連酸化生体分子のレベルの上昇は、該被験体が重大な心臓事象を経験する危険性を有することを示す、方法。
(項目18)
前記1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子の少なくとも1つが、酸化apoA−Iまたは酸化apoA−Iペプチドフラグメントである、項目17に記載の方法。
(項目19)
前記方法が、以下のアミノ酸残基:クロロチロシン、ニトロチロシン、ジチロシン、トリヒドロキシフェニルアラニン、ジヒドロキシフェニルアラニン、メチオニンスルホキシドおよびチロシンパーオキシドの1つ以上を含む、酸化apoA−Iまたは酸化apoA−Iペプチドフラグメントを検出するための手順または試薬を使用する、項目17に記載の方法。
(項目20)
前記方法が、配列番号1における位置18、位置29、位置166、位置192、位置236の任意の1つ、または該位置の任意の組合せにおいて酸化アミノ酸残基を含む、酸化apoA−Iまたは酸化apoA−Iペプチドを検出するための手順を使用する、項目17に記載の方法。
(項目21)
前記1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルが、ヒト被験体の対照集団由来の比較可能な生物学的サンプル中の、該1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルに基づいた対照値または対照値の範囲と比較される、項目17に記載の方法。
(項目22)
前記生物学的サンプルが、血液、血清または血漿である、項目17に記載の方法。
(項目23)
心臓血管疾患を有することが疑われるか、または心臓血管疾患を有すると診断された被験体において治療を評価するための方法であって、該方法は、
治療の前に該被験体から採取された生物学的サンプル中の1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルを決定する工程、および、
治療の間または治療の後に該被験体から採取された対応する生物学的サンプル中の該酸化apo−A1関連生体分子の1つ以上のレベルを決定する工程
を包含し、
ここで治療の前に採取されたサンプル中の該1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルと比較した場合の、治療の後または治療の間に採取されたサンプル中の該1つ以上の酸化apo−A1関連生体分子のレベルの低下は、処置される被験体における心臓血管疾患に対する治療の正の効果を示す、方法。
(項目24)
前記生物学的サンプルが、血液、血清または血漿である、項目13に記載の方法。
(項目25)
心臓血管疾患の合併症を経験する被験体の危険性を評価する方法であって、該方法は、
該被験体由来の生物学的サンプル中の生体分子の1つ以上の酸化形態のレベルを、被験体の対照集団由来の生物学的サンプル中の該生体分子の該1つ以上の酸化形態のレベルと比較する工程であって、
ここで該生体分子は、酸化HDL、酸化apoA−I、1つ以上の酸化apoA−Iペプチドフラグメント、またはそれらの組合せである、工程、ならびに、
被験体の対照集団に由来する対照値と比較した、該被験体の身体サンプル中の該1つ以上の酸化生体分子のレベルに基づいて、心臓血管疾患の合併症を経験する該被験体の危険性を特徴付ける工程
を包含する、方法。
(項目26)
被験体の対照集団の由来の生物学的サンプル中の生体分子の前記1つ以上の酸化形態のレベルとを比較した場合の、該被験体由来の生物学的サンプル中の該生体分子の該1つ以上の酸化形態のレベルとの間の差が、心臓血管疾患の合併症を経験する該被験体の危険性の程度を示す、項目25に記載の方法。
(項目27)
前記方法が、以下のアミノ酸残基:クロロチロシン、ニトロチロシン、ジチロシン、トリヒドロキシフェニルアラニン、ジヒドロキシフェニルアラニン、メチオニンスルホキシド残基およびチロシンパーオキシドの1つ以上を含む、酸化apoA−Iまたは酸化apoA−Iペプチドフラグメントを検出するための手順または試薬を使用する、項目25に記載の方法。
(項目28)
前記サンプルが、血液またはその画分である、項目25に記載の方法。
(項目29)
胸部痛を呈している被験体において医療介入を必要とする短期的な危険性を決定する方法であって、該方法は、
該被験体由来の身体サンプル中の危険性予測因子のレベルを評価する工程であって、ここで該危険性予測因子は、酸化HDL、酸化apoA−I、酸化apoA−Iペプチドフラグメント、またはこれらの任意の組合せである、工程
を包含し、
ここで該被験体の身体サンプル中の該危険性予測因子のレベルと、対照集団由来の比較可能な身体サンプル中の該危険性予測因子のレベルとの間の差は、該被験体において短期的な医療介入を必要とする危険性の程度を確立する、方法。
(項目30)
1以上の急性有害心臓血管事象を経験している被験体において、次の急性心臓血管事象を経験する危険性を特徴付ける方法であって、該方法は、
最初の時点において該被験体から採取された生物学的サンプルと、次の時点において該被験体から採取された対応する生物学的サンプルとにおける酸化apoA−I関連生体分子の1つ以上のレベルを決定する工程
を包含し、
ここで該最初の時点と比較した、該次の時点において採取された生物学的サンプル中の該1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルの上昇は、次の有害な心臓血管事象を経験する該被験体の危険性が増加していることを示す、方法。
(項目31)
心臓血管疾患(CVD)を有する被験体において、CVDの状態を経時的にモニタリングするための方法であって、該方法は、
最初の時点において該被験体から採取された生物学的サンプルと、次の時点において該被験体から採取された対応する生物学的サンプルとにおいて、酸化apoA−I関連生体分子の1つ以上のレベルを決定する工程
を包含し、ここで該最初の時点と比較した、該次の時点において採取された生物学的サンプル中の該1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルの上昇は、該被験体のCVDが悪化したことを示す、方法。
(項目32)
酸化apoA−Iまたは酸化apoA−Iペプチドフラグメントに対して免疫特異的な抗体であって、該apoA−Iペプチドフラグメントは、少なくとも3アミノ酸長であり、そして、以下のアミノ酸残基:クロロチロシン、ニトロチロシン、ジチロシン、トリヒドロキシフェニルアラニン、ジヒドロキシフェニルアラニン、メチオニンスルホキシド残基およびチロシンパーオキシドの1つ以上を含む、抗体。
(項目33)
前記酸化apoA−Iタンパク質または酸化apoA−Iペプチドフラグメントが、少なくとも1つのクロロチロシンを含む、項目32に記載の抗体。
(項目34)
前記酸化apoA−Iタンパク質または酸化apoA−Iペプチドフラグメントが、少なくとも1つのニトロチロシンを含む、項目32に記載の抗体。
(項目35)
前記酸化apoA−Iタンパク質または酸化apoA−Iペプチドフラグメントが、少なくとも1つのジヒドロフェニルアラニンを含む、項目32に記載の抗体。
(項目36)
前記酸化apoA−Iタンパク質または酸化apoA−Iペプチドフラグメントが、少なくとも1つのトリヒドロキシフェニルアラニンを含む、項目32に記載の抗体。
(項目37)
前記酸化apoA−Iタンパク質または酸化apoA−Iペプチドフラグメントが、少なくとも1つのジチロシンを含む、項目32に記載の抗体。
(項目38)
前記酸化apoA−Iタンパク質または酸化apoA−Iペプチドフラグメントが、少なくとも1つのメチオニンスルホキシドを含む、項目32に記載の抗体。
(項目39)
前記酸化apoA−Iタンパク質または酸化apoA−Iペプチドフラグメントが、少なくとも1つのチロシンパーオキシドを含む、項目32に記載の抗体。
(項目40)
キットであって、該キットは、
酸化apoA−IまたはapoA−Iの酸化フラグメントを検出するための1つ以上の試薬、ならびに
1つ以上の以下の印刷された物質:心臓血管疾患の試験被験体の危険性を評価する方法において該試薬を使用するための説明書、試験被験体の心臓血管疾患の危険性を評価するための情報、および心臓血管疾患の危険性を有すると決定された被験体を処置するための推奨事項、
を含む、キット。
(項目41)
前記1つ以上の試薬の少なくとも1つが、酸化apo AIもしくはapo AIの酸化ペプチドフラグメント、または両方に対して免疫特異的である抗体である、項目40に記載のキット。
(項目42)
前記1つ以上の試薬の少なくとも1つが、酸化HDL、酸化apoA−I、酸化apoA−Iペプチドフラグメントである、項目40に記載のキット。
(項目43)
心臓血管疾患を有することが疑われるか、または心臓血管疾患を有すると診断されたヒトを処置する方法であって、該方法は、
該被験体由来の生物学的サンプル中の1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルを決定する工程であって、ここで該1つ以上のapoA−I関連生体分子は、酸化HDL、酸化apoA−Iおよび酸化apoA−Iペプチドフラグメントから選択される、工程
を包含し、
ここで該1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルは、対照サンプルと比較して高く、短期的な有害心臓事象の該ヒトの危険性を低減するための介入処置を提供する、方法。
(項目44)
前記介入処置が、被験体に対して心臓血管疾患の薬物療法を推奨すること、該被験体に対して冠動脈造影を推奨すること、該被験体に対して冠動脈バイパス手術を推奨することから選択される、項目43に記載の方法。
(項目45)
心臓血管疾患を有することが疑われるか、または心臓血管疾患を有すると診断されたヒトを処置する方法であって、該方法は、
該被験体由来の生物学的サンプル中の1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルを決定する工程であって、ここで該1つ以上のapoA−I関連生体分子は、酸化HDL、酸化apoA−Iおよび酸化apoA−Iペプチドフラグメントから選択される、工程
を包含し、そして、
ここで該1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルは、対照サンプルと比較し
て高く、該ヒトの長期的な心臓血管の健康状態を改善するために該ヒトにアドバイスを提供する、方法。
(項目46)
心臓血管障害の危険性を低下されるために被験体を処置するための方法であって、該方法は、
該被験体由来の生物学的サンプル中の1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルを決定する工程であって、ここで該1つ以上のapoA−I関連生体分子は、酸化HDL、酸化apoA−Iおよび酸化apoA−Iペプチドフラグメントから選択される、工程
を包含し、そして、
ここで該1つ以上の酸化apoA−I関連生体分子のレベルは、対照サンプルと比較して高く、抗炎症剤、抗血栓剤、抗血小板剤、フィブリン溶解剤、脂質低下剤、直接的トロンビンインヒビター、糖タンパク質IIb/IIIaレセプターインヒビター、細胞接着分子に結合してこのような分子に結合する白血球の能力を阻害する薬剤、カルシウムチャンネルブロッカー、βアドレナリン作用性レセプターブロッカー、シクロオキシゲナーゼ−2インヒビターまたはアンギオテンシン系インヒビターから選択される薬剤が、該被験体に投与される、方法。
(項目47)
該被験体が、薬剤による処置を要する症状を別段有さない、項目46に記載の方法。
(項目48)
前記被験体が、見かけ上健康であり、そして有害な心臓血管事象の高い危険性を別段有さない、項目46に記載の方法。
(項目49)
前記被験体が、非高脂血症である、項目46に記載の方法。
(項目50)
前記薬剤が、非アスピリン抗炎症剤である、項目46に記載の方法。
本発明は被験体、特にヒト被験体が心臓血管疾患を有する危険性を特徴付けるための方法を提供する。本発明はまた心臓血管疾患を発症する被験体の危険性を特徴付ける方法を提供する。別の実施形態においては、本発明は心臓血管疾患の合併症を経験する被験体の危険性を特徴付けるための方法を提供する。別の実施形態においては、本発明は胸痛を有する被験体が短期的に心臓発作または他の主要な有害心臓事象を経験する危険性を有するかどうかを調べるための方法を提供する。本発明は特に高度に積極的なCVD療法を要する被験体並びにCVDまたはCVDの合併症を抑制または防止することを標的にした療法を必要としない被験体を同定するために有用である。
【0009】
1つの実施形態において本発明の方法は被験体から得られた生体由来サンプル中の1つ以上の酸化された生体分子(以降総称して酸化「アポリポタンパク質A1−関連生体分子」と称する)のレベルを測定することを含む。1つの実施形態において酸化アポリポタンパク質A1(「apoA−I」)関連生体分子は酸化高密度リポタンパク質「HDL」である。別の実施形態においては、酸化apoA−I関連生体分子は酸化apoA−Iである。別の実施形態においては酸化apoA−I関連生体分子は酸化apoA−Iペプチドフラグメントである。被験体由来の生物学的サンプル中の酸化apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルを対照被験体集団から得た匹敵する生物学的サンプル中の酸化apoA−I関連生体分子1つ以上の測定から誘導された対照値と比較してよい。或いは、被験体から得られた生物学的サンプル中の酸化apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルは、被験体から得られた生物学的サンプル中の酸化された内標準のレベルと比較してよい。このような内標準の例は酸化されたアルブミンまたは酸化された総タンパク質を包含するが、これらには限定されない。
【0010】
1つの実施形態において、比較はCVDを診断するための標準的プロトコルを用いて調べた場合のCVDを有する被験体の現在の危険性を特徴付けるものである。更にまた、被験体の酸化apoA−I関連生体分子レベルと対照値との間の差の程度も、危険性の程度を特徴付けし、これにより、どの被験体が特定の療法から最大利益を被るかを決定するために有用である。別の実施形態においては、比較は将来においてCVDを発症する被験体の危険性を特徴付ける。別の実施形態において、比較は、CVDの合併症を経験する被験体の危険性を特徴付けるために使用できる。本発明の方法はまた、胸痛を呈している被験体が短期的、例えば被験体が胸痛を呈した翌日、3ヵ月後または6ヶ月後に主要な有害心臓事象、例えば心筋梗塞、再梗塞、血管再生の必要性または死亡を経験する危険性を有するかどうかを調べるためにも使用できる。
【0011】
更にまた被験体におけるCVDの状態を経時的にモニタリングするための方法も提供される。1つの実施形態において、方法は、初回において被験体から採取した生物学的サンプル中、および、その後の時点において被験体から採取した相当する生物学的サンプル中の酸化apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルを測定することを含む。初回と比較した場合、後の時点において採取した生物学的サンプル中の酸化apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルの上昇は、CVDを有する被験体の危険性が上昇していることを示す。酸化apoA−I関連分子1つ以上のレベルが低下していることは、CVDを有する被験体の危険性が低下していることを示す。心筋梗塞または虚血発作のような急性の有害心臓血管事象を既に経験している被験体については、このような方法は後の急性の有害心臓血管事象を経験する被験体の危険性を評価するためにも有用である。このような被験体においては、酸化apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルの上昇は、被験体が後の有害な心臓血管事象を経験する危険性が上昇していることを示す。経時的に被験体において酸化apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルが低下していることは、被験体が後の有害な心臓血管事象を経験する危険性が低下していることを示す。
【0012】
別の実施形態において、本発明はCVDを安定化または退行させることを指向した療法に対する被験体の応答を特徴付けるための方法を提供する。この方法は治療の前に対照から採取した生物学的サンプル中の酸化apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルを測定すること、および、治療の最中または後に被験体から採取した相当する生物学的サンプル中の酸化apo−A1関連生体分子1つ以上のレベルを測定することを含む。治療の前に採取したサンプル中の酸化apo−A1関連生体分子1つ以上のレベルと比較した場合の治療の後または最中に採取したサンプル中の酸化apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルの低下は、治療した被験体における心臓血管疾患に対する治療の正の作用を示している。
【0013】
別の実施形態において、本発明は本発明の方法において使用する酸化apoA−I関連生体分子1つ以上に対して免疫特異的な抗体を提供する。このような抗体は被験体から得た生物学的サンプル中のapoA−I関連生体分子のレベルを測定または計測するために有用である。
【0014】
別の実施形態において、本発明は試験被験体から得た生物学的サンプル中の酸化HDL、酸化apoA−I、および/または、酸化apoA−Iペプチドフラグメントのレベルを評価するための試薬を含むキットに関する。本キットはまた本方法を実施するための取扱説明書またはCVDの試験被験体の危険性を評価するために有用な情報のような印刷物を含む。そのような情報は例えばカットオフ値、特定のカットオフ値における感度、並びに試験の結果に基づいて危険性を特徴付けるための他の印刷物を包含するがこれらに限定されない。一部の実施形態においては、そのようなキットは対照試薬、例えば酸化HDL、酸化apoA−I、および/または酸化apoA−Iペプチドフラグメントも含んでよい。
別の実施形態においては、本発明は心臓血管疾患の危険性を低下させるための被験体の治療方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1はニトロチロシン含有ペプチドの衝突誘導解離(CID)スペクトルを示す。スペクトルは方法において記載する通り、MPO/H/NOタンパク質ニトロ化系(A−D)またはパーオキシニトライト(E)の何れかで処理したHDLに由来するapoA−Iのバンドのゲル内トリプシン消化物の分析の間に得られた。二重または三重に荷電されたイオン(記載通り)を検出し、イオントラップ質量スペクトル分析システムを用いたLCタンデムMS実験においてフラグメント化した。スペクトルAおよびDにおいて配列決定したペプチドはMPO媒介反応においてのみ検出された。スペクトルBおよびCにおいて配列決定したペプチドはMPO媒介およびパーオキシニトライト媒介反応の両方において検出された。スペクトルEにおいて配列決定されたペプチドはパーオキシニトライト媒介反応においてのみ検出された。
【図2】図2はクロロチロシン含有ペプチドの衝突誘導解離(CID)スペクトルを示す。スペクトルは方法において記載する通り、MPO/H/Clタンパク質塩素化系の何れかで処理したHDLに由来するapoA−Iのバンドのゲル内トリプシン消化物の分析の間に得られた。二重または三重に荷電されたイオン(記載通り)を検出し、イオントラップ質量スペクトル分析システムを用いたLCタンデムMS実験においてフラグメント化した。同じシリーズのペプチドをMPOおよびHOCl媒介反応の両方において配列決定した。
【図3】図3はapoA−I改変部位の総括である。それぞれの反応により改変された特定のチロシン残基を示す。アミノ酸配列(配列番号1)は成熟apoA−Iタンパク質に対するNCBIアクセッション番号229513に基づく。この論文において引用された全てのアミノ酸残基のナンバリングは成熟タンパク質のこのアミノ酸配列を指す。
【図4】図4は用量依存性のapoA−Iニトロ化および逆コレステロール輸送活性の障害を示す。HDLは1.5時間、記載の通り、漸増量のHを有するMPO/H/NO反応またはパーオキシニトライトの何れかのシリーズにおいてニトロ化した。A)HDLのABCA1依存性逆コレステロール流出に対するニトロ化反応の作用。各反応の改変HDLはその後、Hコレステロール標識アセチル化低密度リポタンパク質(AcLDL)を負荷したマウスRAW264マクロファージと共にインキュベートした。これらの細胞にcAMP存在下で改変HDLを投与することにより逆コレステロール輸送のABCA1依存性成分を測定した。4時間後、培地および細胞内のHを計数し、総Hコレステロール(培地+細胞内)で割った培地中のHコレステロールの量としてパーセント流出を計算した。全数値は未改変HDLで得られたABCA1依存性コレステロール流出に対して規格化した。B)LC−MSを用いて測定したapoA−Iニトロ化の部位特異的定量。改変HDL反応中のタンパク質を冷アセトンで沈殿させ、SDS−PAGEで分離し、クーマシーブルー染色により検出した。apoA−Iをゲルから切り出し、そして、トリプシン消化した。ニトロ化反応の進行はネイティブの比較参照ペプチド法を用いて定量的に追跡した。ネイティブの比較参照ペプチドに対する各目的のチロシンを含有する各トリプシンペプチドのピーク面積比を測定した。各ペプチドのパーセント改変は未投与対照と相対比較した各ペプチドの量の低減に基づいて求めた。
【図5】図5は用量依存性のapoA−I塩素化および逆コレステロール輸送活性の障害を示す。HDLは1.5時間、記載の通り、漸増量のHを有するMPO/H/Cl反応またはHOClの何れかのシリーズにおいて塩素化した。A)HDLのABCA1依存性逆コレステロール流出に対する各塩素化反応の作用。流出はニトロ化産物に関して図4に記載したものと同様の方法を用いて求めた。B)LC−MSを用いて測定したapoA−I塩素化の部位特異的定量。これらの部位を検出して特徴付けるために用いた方法は図4に示す通りである。
【図6】apoA−Iの改変はABCA1依存性コレステロールアクセプター活性と同調して脂質の結合を抑制する。A)apoA−I脂質結合活性は37℃、1時間の過程に渡ってホスホリパーゼC(PLC)誘導LDL凝集を抑制するその能力により試験した。3μg/mlのapoA−IまたはH改変apoA−Iは概ね同程度までLDL凝集を低減した。未改変apoA−Iと比較して、完全MPO/H/Cl改変系および程度は低下するがMPO/H/NO系もPLC投与LDLに結合してその凝集を抑制する能力が低下したapoA−Iをもたらした。数値は3連のウェルの平均を示す。apoA−IがLDL凝集を抑制する能力は用量依存的であった(データ示さず)。B)脂質結合は図6Aに示す実験の初期の傾きから計算し、そして未改変apoA−Iの数値に対して規格化した(x軸)。同一のapoA−I調製物を用いて3連で8Br−cAMP投与RAW264.7からのABCA1依存性脂質流出を試験し(図5に示す)、未改変のapoA−Iに関する数値に対して規格化した(y軸)。MPO改変は脂質の結合およびABCA1依存性のコレステロールアクセプター活性の両方の同調した低減をもたらした(直線回帰r=0.96、p<0.0001)。
【図7】図7はLCタンデム質量スペクトル分析によるヒトアテローム組織から単離されたapoA−I中のニトロ化ペプチドの検出を示す。ヒトアテローム組織から免疫アフィニティー精製されたapoA−Iのゲル内トリプシン消化の後の未改変、ニトロ化および塩素化されたペプチドのインビボの検出のための選択反応モニタリングクロマトグラム(SRM)。A)インビトロ実験で測定された望ましいY192部位を含有するペプチドの未改変およびニトロ化形態の検出。B)ペプチドの同一性とニトロ化の位置を確認するためのこの保持時間において記録されたCIDスペクトル。C)二次的なY166部位を含有するペプチドの未改変、ニトロ化および塩素化形態(それぞれ上から下へ)の検出。同様に、この保持時間(D)で記録されたCIDスペクトルはペプチドの同一性およびニトロ化および塩素化の位置を確認している。ニトロ化ペプチドのCIDスペクトルは明白ではなく、推定塩素化ペプチドの分子イオンのCIDスペクトルもまた、同時に溶出し同様の分子量を有するこのペプチドのトリヒドロキシフェニルアラニン含有形態と顕著に重複している。
【図8A】図8はLCタンデム質量スペクトル分析によるヒトアテローム組織から単離されたapoA−I中のニトロ化ペプチドの検出を示す。ヒトアテローム組織から免疫アフィニティー精製されたapoA−Iのゲル内トリプシン消化の後の未改変、酸化ペプチドのインビボの検出のための選択反応モニタリングクロマトグラム(SRM)。A)apoA−Iの酸化ペプチド(T161−R171)のCIDスペクトル。トリヒドロキシフェニルアラニン(TOPA)またはチロシンヒドロキシパーオキシドと同一の質量を有する残基はCIDスペクトルを用いて166位に検出される。B)apoA−Iの未改変ペプチド(D28−K40)のCIDスペクトル。C)apoA−Iの酸化ペプチド(D28−K40)のCIDスペクトル。TOPAまたはチロシンヒドロキシパーオキシドと同一の質量を有する残基が29位に検出され、そして、ジヒドロキシフェニルアラニンが33位に検出される。
【図8B】図8はLCタンデム質量スペクトル分析によるヒトアテローム組織から単離されたapoA−I中のニトロ化ペプチドの検出を示す。ヒトアテローム組織から免疫アフィニティー精製されたapoA−Iのゲル内トリプシン消化の後の未改変、酸化ペプチドのインビボの検出のための選択反応モニタリングクロマトグラム(SRM)。A)apoA−Iの酸化ペプチド(T161−R171)のCIDスペクトル。トリヒドロキシフェニルアラニン(TOPA)またはチロシンヒドロキシパーオキシドと同一の質量を有する残基はCIDスペクトルを用いて166位に検出される。B)apoA−Iの未改変ペプチド(D28−K40)のCIDスペクトル。C)apoA−Iの酸化ペプチド(D28−K40)のCIDスペクトル。TOPAまたはチロシンヒドロキシパーオキシドと同一の質量を有する残基が29位に検出され、そして、ジヒドロキシフェニルアラニンが33位に検出される。
【図8C】図8はLCタンデム質量スペクトル分析によるヒトアテローム組織から単離されたapoA−I中のニトロ化ペプチドの検出を示す。ヒトアテローム組織から免疫アフィニティー精製されたapoA−Iのゲル内トリプシン消化の後の未改変、酸化ペプチドのインビボの検出のための選択反応モニタリングクロマトグラム(SRM)。A)apoA−Iの酸化ペプチド(T161−R171)のCIDスペクトル。トリヒドロキシフェニルアラニン(TOPA)またはチロシンヒドロキシパーオキシドと同一の質量を有する残基はCIDスペクトルを用いて166位に検出される。B)apoA−Iの未改変ペプチド(D28−K40)のCIDスペクトル。C)apoA−Iの酸化ペプチド(D28−K40)のCIDスペクトル。TOPAまたはチロシンヒドロキシパーオキシドと同一の質量を有する残基が29位に検出され、そして、ジヒドロキシフェニルアラニンが33位に検出される。
【図9】図9はミエロペルオキシダーゼに関する速度論的モデルである。
【図10】図10は特定のミエロペルオキシダーゼにより生成された反応性の中間体および一部のMPOにより生産された酸化生成物の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発明の詳細な説明)
本発明をより詳細な実施形態を参照しながら、場合により添付図面も参照しながら、これより更に説明する。しかしながら、本発明は異なる形態において具現化してよく、そして本明細書に記載した実施形態に限定して解釈されるべきではない。むしろこのような実施形態は本明細書の開示が十分で完全となり、そして当業者に対し本発明の範囲が伝達されるように提示するものである。
【0017】
特段の記載が無い限り、本明細書において使用する全ての技術的および科学的な用語は本発明が属する技術の当業者が一般的に理解するものと同様の意味を有する。本明細書で本発明の説明において使用する用語は特定の実施形態を説明するのみであり、本発明を限定する意図はない。本発明の説明および添付請求項において使用する場合、特段の記載が無い限り、単数と複数は区別しない。
【0018】
特段の記載が無い限り、明細書および請求項において使用する場合の成分の量、分子量、反応条件等の特性を表現する全ての数は「約」という用語により全ての場合において加減されるものである。従って、特段の記載が無い限り、以下の明細書および請求項に記載する数値的特性は本発明の実施形態において得ようとする所望の特性に応じて変動してよい概数である。本発明の広範な範囲を示す数値範囲およびパラメーターは概数であるが、特定の実施例において示した数値は可能な限り厳密に報告する。しかしながら何れの数値もその該当する測定において認められる誤差から必然的に生じるある程度の誤差を含んでいる。
【0019】
本明細書に記載する全ての出版物、特許出願、特許および他の参考文献は参照により全体が本明細書に組み込まれる。
【0020】
(心臓血管疾患の危険性を予測するための方法およびマーカー)
本明細書に記載するものはCVDを発症する、CVDを保有する、またはCVD合併症を経験する被験体の危険性を特徴付けるための方法およびマーカーである。この内容において、このような方法およびマーカーは無防備なプラークを有するか、または、心筋梗塞を経験する被験体の危険性を特徴付けるために有用である。
【0021】
1つの実施形態において方法は被験体から得た生物学的サンプル中の酸化apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルを測定することを含む。1つの実施形態において、酸化apo−A1関連生体分子の少なくとも1つはHDLの酸化形態である。「高密度リポタンパク質」または「HDL」という用語は本明細書においては、当業者の一般的な使用法に従って定義される。
【0022】
別の実施形態において、酸化apoA−I関連生体分子の少なくとも1つはアポリポタンパク質A1の酸化形態である。別の実施形態において、酸化apoA−I関連生体分子の少なくとも1つは酸化apoA−Iペプチドフラグメントである。このようなフラグメントは3アミノ酸長以上であり、そこに含有される酸化されたアミノ酸残基を除いて、配列番号1の部分と同一のアミノ酸配列を含む。特定の実施形態においては、このようなapoA−Iペプチドフラグメントは、ペプチドの誘導元であるapoA−Iタンパク質がミエロペルオキシダーゼ(MPO)関連の系により酸化されたことを示す酸化されたアミノ酸1つ以上を含む。特定の実施形態においては、酸化されたアミノ酸は配列番号1の18、29、166、192、236位またはその何れかの組合せにおいて存在する。apoA−Iの酸化はMPOにより生成された反応性の塩素化物質種(例えばMPO/H/Cl系またはHOClにより形成されたもの)またはMPO関連反応性窒素物質種(例えばMPO/H/NO系またはONOOにより形成されたもの)または代替のMPO関連酸化経路(例えばMPOにより生成されたチロシル基生成系)への曝露により起こってよい。即ち、適当なペプチドの例はクロロチロシン、ニトロチロシン、ジチロシン、メチオニンスルホキシド、オキソヒスチジン、トリヒドロキシフェニルアラニン、ジヒドロキシフェニルアラニン、チロシンパーオキシドまたはMPOにより生成された酸化物へのapoA−Iの曝露により形成された他の酸化されたアミノ酸を含むapoA−Iペプチドフラグメントを包含するがこれらに限定されない。適当なapoA−Iペプチドフラグメントの例は以下の表1に示すペプチドを包含するが、これらに限定されない。
【0023】
【表1】

次に試験被験体の身体由来サンプル中の酸化apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルを対照被験体の匹敵する身体由来サンプル中のapoA−I関連生体分子1つ以上のレベルから誘導された対照値と比較してよい。別の実施形態においては、次に試験被験体の身体由来サンプル中の酸化apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルを被験体の身体由来サンプル中の他の酸化された生体分子のレベルに基づいた内標準と比較してよい。適当な内標準分子の例は、被験体の身体由来サンプル中の酸化された総タンパク質のレベルおよび被験体の身体由来サンプル中の酸化されたアルブミンのレベルを包含するがこれらに限定されない。自身のapoA−I関連生体分子1つ以上のレベルが対照値より高値であるか、または対照値の高値範囲内にあるような試験被験体は、自身のapoA−I関連生体分子1つ以上のレベルが対照値以下であるか対照値の低値範囲内にあるような試験被験体よりも、心臓血管疾患を有するか発症する危険性がより高い。更にまた、被験体の酸化apoA−I関連生体分子レベルと対照値の差の程度は、危険性の程度を特徴付けし、これにより、どの被験体が特定の療法から最大の利益を被るかを判定するためにも有用である。
【0024】
特定の実施形態においては、被験体のCVD危険性プロファイルは、被験体の身体由来サンプル中のapoA−I関連生体分子1つ以上のレベルを対照集団における該apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルと比較することにより得られる第1の危険値を、最終危険値を与えるために別の危険値1つ以上と組み合わせることにより求める。このような別の危険値は、被験体の血圧を測定すること、ストレス試験への被験体の応答を評価すること、被験体の身体由来サンプル中のミエロペルオキシダーゼ、C反応性タンパク質、低密度リポタンパク質またはコレステロールのレベルを測定すること、または、被験体のアテローム性動脈硬化性プラーク負荷(atherosclerotic plaque burden)を評価することを包含するがこれらに限定されない手順により得てよい。
【0025】
1つの実施形態において、心臓血管疾患を有する試験被験体の危険性を評価するために方法を使用する。ヒト被験体が冠動脈疾患を有するか、冠動脈疾患の合併症を経験する危険性を有するかどうかを調べる医療上の手順は、冠動脈血管造影、冠動脈血管内超音波(IVUS)、ストレス試験(造影を伴うか伴わない)、頚動脈内膜中央肥厚の評価、仮想病理学の技術の実施を伴うか伴わない頚動脈超音波試験、冠動脈電子線コンピューター断層撮影(EBTC)、心臓コンピューター断層撮影(CT)スキャン、CT血管撮影、心臓磁気共鳴撮影(MRI)および磁気共鳴血管撮影(MRA)を包含するがこれらに限定されない。心臓血管疾患は典型的には被験体の血管系の一領域に限局されないため、冠動脈疾患を有するか、有する危険性を有すると診断された被験体はCVDの他の形態、例えば脳血管疾患、大動脈腸骨動脈疾患および末梢動脈疾患を発症または有する危険もあると考えられる。心臓血管疾患を有する危険性のある被験体は異常なストレス試験結果または異常な心臓カテーテル挿入を有する危険性がある。CVDを有する危険性のある被験体はまた、非侵襲的な撮影技術を用いて評価することができる特徴である増大した頚動脈内膜中央肥厚および冠動脈石灰化を示す危険性がある。CVDを有する危険性のある被験体はまた血管内超音波を用いて調べることができる特徴である増大したアテローム性動脈硬化性のプラーク負荷を有する危険性がある。
【0026】
別の実施形態においては、本発明の方法は将来において心臓血管疾患を発症する試験被験体の危険性を評価するために使用する。1つの実施形態において試験被験体は見かけ上は健康な個体である。別の実施形態において被験体は、心臓血管疾患を有する危険性が別段高くない。別の実施形態においては、本発明の方法は、胸痛を呈している被験体が、被験体が胸痛を呈した後の短期間に心臓発作または他の主要な有害心臓事象、例えば心臓発作、心筋梗塞、再梗塞、血管再生の必要性または死亡を経験する危険性を有するかどうかを調べるために使用する。本明細書においては、「短期」という用語は1年以内を意味する。即ち、短期の危険性を有する被験体は胸痛を呈した翌日、3ヵ月後または6ヶ月後までに主要な有害心臓事象を経験する危険性を有する。
【0027】
本発明はまたCVDを有すると診断されている被験体におけるCVDの状態を経時的にモニタリングするための方法を提供する。この内容において、方法はCVDを有する被験体のアテローム性動脈硬化症の進行または退行の危険性をモニタリングするためにも有用である。1つの実施形態において、方法は初回において被験体から採取した生物学的サンプル中、および、その後の時点において被験体から採取した相当する生物学的サンプル中の酸化apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルを測定することを含む。初回と比較した場合、後の時点において採取した生物学的サンプル中の酸化apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルの上昇は、被験体のCDVが進行または悪化していることを示す。酸化apoA−I関連分子1つ以上のレベルが低下していることはCVDが改善または退行したことを示している。急性の有害心臓血管事象、例えば心筋梗塞または虚血発作を既に経験している被験体の場合、このような方法はまた、後の急性有害心臓血管事象を有する被験体の危険性を評価するために使用できる。被験体において酸化apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルが経時的に上昇していることは、後の有害心臓血管事象を経験する被験体の危険性が上昇していることを示す。被験体において酸化apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルが経時的に低下していることは、後の有害心臓血管事象を経験する被験体の危険性が低下していることを示す。
【0028】
別の実施形態において、本発明は心臓血管疾患を有することが疑われるか、または有すると診断された被験体における治療法を評価するための方法を提供する。この方法は治療の前に対照から採取した生物学的サンプル中の酸化HDL、酸化apoA−I、apoA−Iの酸化ペプチドフラグメントおよびこれらの組合せを包含する酸化apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルを測定すること、および、治療の最中または後に被験体から採取した相当する生物学的サンプル中の酸化apo−A1関連生体分子1つ以上のレベルを測定することを含む。治療の前に採取したサンプル中の酸化apoA1関連生体分子1つ以上のレベルと比較した場合の治療の後または最中に採取したサンプル中の酸化apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルの低下は治療した被験体における心臓血管疾患に対する治療の正の作用を示す。
【0029】
本発明の心臓血管疾患予測方法は少なくとも部分的には、心臓血管疾患を有する被験体から得た身体由来サンプル中のアポリポタンパク質A1は、総タンパク質と比較して、優先的に酸化、例えばニトロ化または塩素化されることを本発明者らが発見したことに基づいている。これらの酸化apoA−I関連生体分子の存在はMPOにより生成された酸化剤を介して生産されると考えられる。MPO(ドナー:過酸化水素、オキシドレダクターゼ、EC 1.11.1.7)は約150kDaの4量体の重度にグリコシル化した塩基性(PI.10)のヘムタンパク質である。これは2つの同一のジスルフィド結合したプロトマーを有し、その各々はプロトポルフィリン含有の59〜64kDaの重サブユニットおよび14kDaの軽サブユニットを有している(Nauseef,W.M,et al.,Blood 67:1504−1507;1986)。
【0030】
MPOは好中球および単球に豊富であり、それぞれ、これらの細胞の乾燥重量の5%および1〜2%に相当する(Nauseef,W.M,et al.,Blood 67:1504−1507;1986.,Hurst,J.K.In:Everse J.;Everse K.;Grisham M.B.,eds.Peroxydases in chemistry and biology 1st ed. Boca Raton:CRC Press;1991:37−62)。ヘムタンパク質は白血球の一次アズール好性顆粒中に貯留され、種々のアゴニストの食細胞活性化の後に細胞外環境および食胞融解小体のコンパートメントの両方の中に分泌される(Klebanoff,S.J,et al.,The neutrophil:functions and clinical disorders.Amsterdam:Elsevier Scientific Publishing Co.;1978)。
【0031】
最近提案されたMPOに関する実用的な速度論的モデルを図12に示す。MPOは複数の中間的状態を有する複合的ヘムタンパク質であり、その各々はOおよびHのような還元型酸素物質種および一酸化窒素(NO、一酸化窒素)の利用性により影響される(Abu−Soud,H.M.,et al.,J.Biol.Chem.275:5425−5430;2000)。基底状態において、MPOは第二鉄(Fe(III))形態で存在する。Hの添加により、MPOのヘム基が2e等量により酸化され、化合物Iと称される反応性のフェリルπカチオンラジカル中間体を形成する。Cl、BrおよびIのようなハライドおよび擬似ハライドのチオシアネート(SCN)の存在下においては、化合物Iは単一の2e工程において容易に還元されて、MPO−Fe(III)および相当する次亜ハロゲン酸(HOX)を再生する。ハライドおよびチオシアネートの血漿中レベルにおいては(100mM Cl 100mM Br、50mM SCN 100nM I)、塩化物が最もよい基質であり、強力な塩素化酸化剤である次亜塩素酸(HOCl)が形成される(Foote,C.S.,et al;.Nature 301:715−726;1983.,Weiss,S.J.,et al.,J.Clin.Invest.70:598−607;1982)。
【0032】
化合物Iはまた多くの有機物質を酸化することができるが、ヘムは2つの逐次的な1e還元工程を起こし、化合物IIおよびMPO−Fe(III)をそれぞれ生成する(図12)。低分子量化合物は主に、MPOの基質として作用し、拡散性の酸化剤およびフリーラジカル物質種を生成し、次にこれがヘムの酸化電位を遠位の標的に運搬することができる。ハライドおよびSCNのほかに、MPOの自然発生的な基質の一部は亜硝酸(NO)(van der Vliet,A.,et al.,J.Biol.Chem.272:7617−7625;1997)、チロシン(van der Vliet,A.,et al.,J.Biol.Chem.272:7617−7625;1997)、アスコルビン酸(Marquez,L.A.,et al.,J.Biol.Chem.265:5666−5670;1990)、尿酸(Maehly,H.C.Methods Enzymol.2:798−801;1955)、カテコールアミン(Metodiewa,D.,et al.,Eur.J.Biochem.193:445−448;1990)、エストロゲン(Klebanoff,S.J.J.Exp.Med.145:983−998;1977)およびセロトニン(Svensson,B.E.Chem.Biol.Interact.70:305−321;1989)を包含する。MPO−Fe(III)はまた還元されて不活性の第一鉄の形態MPO−Fe(II)となることができる(Hurst,J.K.In:Everse J.;Everse K.;Grisham M.B.,eds.Peroxidases in chemistry and biology 1st ed.Boca Raton:CRC Press;1991:37−62.,(Kettle,A.J.,et al.,Redox.Rep.3:3−15;1997)。MPO−Fe(III)およびMPO−Fe(II)はそれぞれOおよびOに結合して第一鉄ジオキシ中間体である化合物III(MPO−Fe(II)−O)を形成する(図12)。スペクトル試験によれば、化合物IIIへのHの添加により、最終的には化合物IIが形成されることが実証されている。即ち、化合物IIIは間接的に1e過酸化反応を促進する。
【0033】
最近の研究によれば、一酸化窒素シンターゼ(NOS)により生成される比較的寿命の長いフリーラジカルであるNOのMPOパーオキシダーゼ活性モジュレーションにおける役割が同定されている(Abu−Soud,H.M.,et al.,J.Biol.Chem.275:5425−5430;2000)。MPOおよびNOSの誘導型アイソフォームは白血球の一次顆粒中に共局在している。食細胞活性化の間、例えば細菌の摂食の間、MPOおよびNOSは食胞融解小体および細胞外コンパートメントの中に分泌され、そして細菌タンパク質のニトロ化が観察される(Evans,T,J.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:9553−9558;1996)。急速速度論的試験によればNOの低レベルにおいては、基質のMPO触媒過酸化の初期速度は上昇することが実証されている。機序はMPO触媒反応における律速段階である化合物IIからMPO−Fe(III)への還元の加速を介したものである(図1)(Abu−Soud,H.M.,et al.,J.Biol.Chem.275:5425−5430;2000.,Abu−Soud,H.M.,et al.Nitric oxide is a physiological substrate for mammalian animal peroxidases.J.Biol.Chem.275:37524−37532,2000)。より高いレベルのNOにおいては、スペクトル識別可能なニトロシル複合体であるMPO−Fe(III)−NOの形成を介してMPOの可逆的阻害が起こる(Abu−Soud,H.M.,et al.,J.Biol.Chem.275:5425−5430;2000)。NOはまたMPO化合物Iに対する基質としても作用し、その化合物IIへの還元をもたらす(前述)。更にまたNOの存在下では、パーオキシダーゼサイクルを経由するMPOの全体的ターンオーバー速度はほぼ1000倍増強される(前述)。最終的に、NOはMPO−Fe(II)に可逆的に結合して相当するMPO−Fe(II)−NO中間体を形成し、これはMPO−Fe(II)およびMPO−Fe(III)−NOと平衡状態にある(図1)(Abu−Soud,H.M.,et al.,J.Biol.Chem.275:5425−5430;2000.,Abu−Soud,H.M.,et al.Nitric oxide is a physiological substrate for mammalian animal peroxidases.J.Biol.Chem.275:37524−37532,2000)。
【0034】
上記した通り、MPOはHと共同の基質として種々のものを利用することにより中間体として反応性の酸化剤を形成することができる。これらの物質種により生成された多くの安定な最終生成物が特徴付けられており、そして、ヒトアテローム性動脈硬化症患部から回収されたタンパク質、脂質およびLDL中でリッチ化されることがわかっている(Chisolm,G.M.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:11452−11456;1994,Hazell,L.J.,et al.,J.Clin.Invest.97:1535−1544;1996,Hazen,S.L.,et al.,J.Clin.Invest.99:2075−2081;1997,Leeuwenburgh,C.,et al.,J.Biol.Chem.272:1433−1436;1997,Leeuwenburgh,C.,et al.,J.Biol.Chem.272:3520−3526;1997)。図13はそれぞれが血管の患部においてリッチ化されることが解っているMPOにより形成される反応性の中間体および生成物の一部をまとめたものである。
【0035】
(生物学的サンプル)
被験体における心臓血管疾患を予測またはモニタリングするため、または、心臓血管疾患を有する被験体に対する治療薬の作用を評価するために有用である適当な生物学的サンプルは、例えば全血サンプル、血液画分のサンプル、例えば血清および血漿を包含するがこれらに限定されない。サンプルは新鮮血液または保存血液(例えば血液バンク)または血液画分であってよい。サンプルは本発明の試験のために明示的に入手した血液サンプルまたは本発明の試験のためにサブサンプリングすることのできる別の目的のために得られた血液サンプルであってよい。
【0036】
1つの実施形態において、生物学的サンプルは全血である。全血は標準的な臨床的手順を用いて被験体から得てよい。別の実施形態においては、生物学的サンプルは血漿である。血漿は抗凝固処理した血液の遠心分離により全血サンプルから得てよい。このような操作により白血球成分のバフィーコートおよび血漿の上澄みが得られる。別の実施形態においては、生物学的サンプルは血清である。血清は抗凝固剤非含有の試験管内に収集されている全血サンプルの遠心分離により得られる。血液は遠心分離前に凝固させてよい。遠心分離により得られる黄色みを帯びた赤色の液体が血清である。
【0037】
サンプルは必要に応じて適切な緩衝液で希釈することにより前処理し、ヘパリン添加し、必要に応じて濃縮するか、または、何れかの方法、例えば超遠心分離、高速液体クロマトグラフィー(FPLC)による分画、またはデキストランスルフェートによるアポリポタンパク質B含有タンパク質の沈殿または他の方法により分画してよい。生理学的pHにおける種々の緩衝物質、例えばリン酸塩、トリス等の1つを使用した多くの標準的な水性の緩衝溶液のいずれかを使用できる。
【0038】
(被験体)
被験体は自身のCVDの危険性を特徴付けるために試験される何れかのヒトまたは他の動物である。特定の実施形態においては、被験体は有害な心臓血管事象の高い危険性を別段有さない。有害な心臓血管事象の高い危険性を有する被験体とは、心臓血管疾患の家族歴、高値の脂質を有する者、喫煙者、以前の急性の心臓血管事象等を有する者等である(例えばHarrison’s Principles of Experimental Medicine,15th Edition,McGraw−Hill,Inc.,N.Y.(以後「Harrison’s」と称する)を参照)。
【0039】
特定の実施形態においては、被験体は見かけ上健康な非喫煙者である。「見かけ上健康な」とは、本明細書においては、アテローム性動脈硬化症の存在を示す何れかの兆候または症状、例えば狭心症、急性の有害心臓血管事象の病歴、例えば心筋梗塞または卒中、例えば冠動脈血管造影のような(しかしこれには限定されない)診断撮影法によるアテローム性動脈硬化症の症候を有する者として以前に診断されたことがない個体を意味する。見かけ上健康な個体はまた、疾患の症状を別段呈さない。換言すれば、このような個体は医療専門家により検査された場合、健康または疾患の症状を有さないものとして特徴付けられる。「非喫煙者」とは評価時点において喫煙者ではない個体を意味する。これには全く喫煙したことが無い者、並びに過去に喫煙したことがあるが現在はもはや喫煙していない者が包含される。
【0040】
(酸化HDL、apoA−IおよびapoA−Iペプチドフラグメントのレベルを測定するためのイムノアッセイ)
生物学的サンプル中の酸化HDL、apoA−IおよびapoA−Iペプチドフラグメントのレベルはこのような酸化された生体分子に対して免疫反応性であるポリクローナルまたはモノクローナル抗体を用いて測定することができる。例えば、apoA−Iペプチドフラグメントを含有するニトロチロシンに免疫特異的な抗体を作成し、標準的な手順で標識し、次にイムノアッセイで使用することによりサンプル中のこのようなニトロチロシン含有apoA−Iペプチドの存在を検出してよい。適当なイムノアッセイは、例えば固相および液相の両方のラジオイムノアッセイ、蛍光連結試験、競合的イムノアッセイまたは酵素連結免疫吸着試験を包含する。特定の実施形態においては、イムノアッセイはまたサンプル中に存在する酸化された生体分子の量を定量するために使用される。
【0041】
選択された酸化されたポリペプチド物質種に対して作成されたモノクローナル抗体は確立された手順に従って生成される。一般的に酸化apoA−Iタンパク質またはapoA−Iペプチドフラグメントは宿主動物を免疫化するために使用される。
【0042】
適当な宿主動物には、例えばウサギ、マウス、ラット、ヤギおよびモルモットが包含されるがこれらに限定されない。種々のアジュバントを使用して宿主動物における免疫学的応答を増大させてよい。使用するアジュバントは、少なくとも部分的に宿主動物種に依存する。このような動物は抗体分子の異種起源の集団を生産し、これらはポリクローナル抗体と称され、免疫化された動物の血清から誘導してよい。
【0043】
特定の抗原に結合する抗体の同種起源の集団であるモノクローナル抗体は連続した細胞系統から得られる。モノクローナル抗体を産生する従来の方法はKohler and Millstein(Nature 356:495−497(1975))のハイブリドーマ法およびKosbor et al(Immunology Today 4:72(1983))のヒトB細胞ハイブリドーマ法である。このような抗体はIgG、IgM、IgE、Iga、IgDの何れかの免疫グロブリンクラスおよびその何れかのクラスであってよい。改変されたアミノ酸、例えば3−ニトロチロシンに対する抗体を調製するための手順はYe,Y.Z.,M.Strong,Z.Q.Huang,and J.S.Beckman,1996.Antibodies that recognize nitrotyrosine.Methods Enzymol.269:201−209に記載されている。
【0044】
(抗体の調製)
酸化apoA−Iタンパク質または酸化apoA−Iペプチドフラグメントは酸化されたタンパク質またはペプチドフラグメントに免疫特異的な抗体を産生するための免疫原として使用できる。「免疫特異的」という用語は、抗体が非酸化apoA−Iタンパク質またはapoA−Iペプチドフラグメントを含む他のタンパク質またはポリペプチドに対するよりも酸化apoA−Iタンパク質またはapoA−Iペプチドフラグメントに対する実質的により高値の親和性を有することを意味する。このような抗体は例えばポリクローナル、モノクローナル、キメラ、1本鎖およびFabフラグメントを包含してよい。
【0045】
酸化apoA−Iペプチドフラグメントは少なくとも3アミノ酸長であり、そして改変されたapoA−Iタンパク質配列を含む、即ちペプチドは、酸化されたアミノ酸、特に酸化されたチロシン残基の存在を除いて、配列番号1の配列番号と同一の配列を含む。apoA−Iペプチドフラグメントは3アミノ酸長であることができる。別の実施形態においては、apoA−Iペプチドフラグメントは4、5、6、7、8、9または10アミノ酸長である。別の実施形態においては、apoA−Iペプチドフラグメントは11〜20、21〜30、31〜40、41〜50、51〜60、61〜70、71〜80、81〜90、91〜100、101〜110、111〜120、121〜130、131〜140、141〜150、151〜160、161〜170、171〜180、181〜190、191〜200、201〜210、211〜220、221〜230または231〜242アミノ酸長である。
【0046】
6アミノ酸長未満のペプチドは、従来は別のタンパク質、例えばキーホールリンペットヘモシアニンまたは抗体キメラ分子のものと融合されている。より大きいフラグメント、例えば6〜242アミノ酸長のapoA−Iペプチドフラグメントもまた免疫原として使用してよい。apoA−Iタンパク質のより大きい免疫原性フラグメントの構造はソフトウエアプログラム、例えばMacVectorプログラムを用いて決定することができ、これにより親水性および疎水性を判断し、そして分子の表面に存在する可能性のあるタンパク質の領域を確認することができる。
【0047】
ポリクローナル抗体は宿主動物にapoA−Iタンパク質またはapoA−IペプチドフラグメントまたはapoA−Iを投与することにより従来の手法を用いて生成する。宿主動物種に応じて、種々のアジュバントを用いて免疫学的応答を増大させてよい。ヒトにおいて使用されるアジュバントのうち、Bacilli−Calmette−Guerin(BCG)およびコリネバクテリウム・パルブムが特に好ましい。従来のプロトコルもまた免疫化された動物から血液を採取するため、および血液から血清およびIgG画分を単離するために使用される。
【0048】
モノクローナル抗体の調製のためには、従来のハイブリドーマ法を使用する。このような抗体は培養物中の連続細胞系統により生産させる。モノクローナル抗体を調製する適当な手法は例えばハイブリドーマ法、ヒトB細胞ハイブリドーマ法およびEBVハイブリドーマ法を包含するがこれらに限定されない。
【0049】
所望の特異性を有する抗体を同定するためのスクリーニングのために種々のイムノアッセイを用いてよい。これらには競合的結合を使用するプロトコルまたは免疫放射線測定試験を包含し、そして、典型的には該当する酸化apoA−Iポリペプチドと抗体との間の複合体の形成の測定を包含する。
【0050】
本発明の抗体は被験体由来の生物学的サンプル中の酸化HDL、酸化apoA−Iおよび酸化apoA−Iペプチドフラグメントの存在を検出または量を測定するために使用してよい。この方法は本発明の抗体1つ以上に個体から採取したサンプルを接触させること;および抗体とサンプル中のタンパク質またはペプチドとの間の複合体の形成を評価することを含む。検出を容易にするために、抗体をカラム、プラスチックディッシュ、マトリックスまたはメンブレン、好ましくはニトロセルロースのような基盤に結合することができる。サンプルは組織または生物学的液体、例えば尿、全血または滲出物、好ましくは血清であってよい。サンプルは未処理であるか、沈殿、分画、分離または精製に付した後に抗体と混合してよい。サンプル中の抗体と単離されたHDL、タンパク質またはペプチドとの間の相互作用は、放射線測定、比色または蛍光測定の手段、サイズ分離、または沈殿により検出される。好ましくは抗体−タンパク質またはペプチド複合体の検出は検出可能なタグ、例えば酵素、蛍光団または発色団にカップリングされた二次抗体の添加により行う。複合体の形成は個体の生物学的サンプル中の酸化HDL、apoA−IまたはapoA−Iペプチドフラグメントの存在を示す。
【0051】
特定の実施形態においては、この方法は酵素連結免疫吸着試験(ELISA)またはウエスタンイムノブロット手順を使用する。
【0052】
(酸化HDL、酸化apoA−Iおよび酸化apoA−Iペプチドフラグメントを測定するための別の方法)
質量スペクトル分析系の方法(例えばLC/ESI/MS/MS)もまた以下の例に示す通り生物学的サンプル中の酸化HDL、酸化apoA−Iおよび酸化apoA−Iペプチドフラグメントのレベルを評価するために使用してよい。このような方法は当該分野で標準的であり、そして例えばオンラインエレクトロスプレーイオン化タンデム質量スペクトル分析を伴ったHPLCを包含する。親(未改変)および改変(ニトロ化、塩素化)された形態のための合成による標準的なトリプシン消化ペプチドは市販のfmoc改変アミノ酸を用いた自動ペプチド合成装置により容易に作成できる。親分子、即ち未改変HDL、apoA−IおよびapoA−Iペプチドフラグメントは、付加された部分、付加されたNOまたはCl部分のために、酸化された分子とは異なる質量を有する。即ち個々の親→娘のイオンの転移が各ペプチドについて可能である。ニトロ基をTyrに付加するとTyr上のフェノキシ水素のpKaが10から7に変化する。即ち、改変および未改変ペプチドの間の電荷の差および極性の変化はHPLCにおいても異なる保持時間を示す可能性が高い。
【0053】
(対照値)
試験被験体から得られた生物学的サンプル中の酸化HDL、apoA−Iおよび/またはapoA−Iペプチドフラグメントのレベルは対照値と比較してよい。対照値は対照集団、即ち一般的集団またはヒト被験体の選択された集団から得られた匹敵するサンプル中のそれぞれ酸化HDL、apoA−Iおよび/またはapoA−Iのレベルに基づく。例えば選択集団は見かけ上健康な被験体よりなるものであってよい。「見かけ上健康な」とは、本明細書においては、アテローム性動脈硬化症の存在を示す何れかの兆候または症状、例えば狭心症、急性の有害心臓血管事象の病歴、例えば心筋梗塞または卒中、例えば冠動脈血管造影のような(しかしこれには限定されない)診断撮影によるアテローム性動脈硬化症の症候を以前に有していたことがない個体を意味する。見かけ上健康な個体はまた、疾患の症状を別段呈さない。換言すれば、このような個体は医療専門家により検査された場合、健康または疾患の症状を有さないものとして特徴付けられる。別の例においては、対照値は見かけ上健康な非喫煙者集団から誘導できる。「非喫煙者」とは評価時点において喫煙者ではない個体を意味する。これには全く喫煙したことが無い者、並びに過去に喫煙したことがあるが現在はもはや喫煙していない者が包含される。見かけ上健康な非喫煙者集団は喫煙者集団または以前に心臓血管障害を有していた者の集団とは異なる正常範囲の酸化HDL、apoA−Iおよび/またはapoA−Iペプチドフラグメントのレベルを有する。従って、選択された対照値は試験被験体が属する範疇を考慮してよい。適切な範疇は当業者による日常的実験内で選択できる。
【0054】
対照値は試験被験体より得られた酸化されたポリペプチドのレベルを特徴付けるために使用される数値と関連する。即ち、酸化されたポリペプチドのレベルが血液ml当たりの酸化apoA−Iの単位のような絶対値である場合は、対照値もまた一般的集団またはヒト被験体の選択された集団における個体の血液ml当たりの酸化apoA−Iの単位に基づく。同様に、酸化HDL、apoA−IまたはapoA−Iペプチドフラグメントのレベルがサイトグラムより得られた任意の単位のような代表的数値である場合は、対照値も代表的数値に基づく。
【0055】
対照値は種々の形態をとりえる。対照値は中央値または平均値のような単一のカットオフ値であることができる。対照値は1つの定義された群の危険性が別の定義された群の危険性の二倍であるような比較グループに基づいて確立することができる。対照値は均等に(または非均等に)グループ、例えば低危険性群、中危険性群および高危険性群に、或いは最低四半が最低危険性の個体であり最高四半が最高危険性の個体である4分割群に分割でき、そしてCVDを有する試験被験体の危険性はその自身の試験値が属する群に基づくことができる。
【0056】
得られた生物学的サンプル中の酸化HDL、apoA−Iおよび/またはapoA−Iペプチドフラグメントの対照値、例えば平均レベル、中央レベルまたは「カットオフ」レベルは、参照により本明細書に特に組み込まれるKnapp,R.G.,and Miller,M.C.(1992),Clinical Epidemiology and Biostatistics,William and Wilkins,Harual Publishing Co.Malvern,PAに記載の通り、一般的集団または選択された集団の個体の大標本を試験すること、および、最適特異性(最高真陰性率)および感度(最高真陽性率)を定義する正の基準または受信者動作特性曲線(receiver operator characteristic curve)を選択するための予測値法などの統計モデルを用いることにより確立することができる。「カットオフ」値は試験された各危険予測因子に対して求めることができる。以下に記載する実施例1において使用した標準化された方法はKlebanoff,S.J.,Waltersdorph,A.N.and Rosen,H.1984.“Antimicrobial activity of myeloperoxidase”,Methods in Enzymology.105:399−403に記載されているグアイアコール酸化試験を使用している。
【0057】
(試験被験体由来の酸化された生体分子と対照値の比較)
個体の生物学的サンプル中の各選択された酸化された生体分子、即ち酸化HDL、酸化apoA−I、酸化apoA−Iポリペプチドフラグメントのレベルは単一の対照値または対照値の範囲と比較してよい。試験被験体の生物学的サンプル中の現在の危険予測因子のレベルが対照値より高値、または対照値を超過するかその高い範囲内にある場合は、試験被験体は対照値に匹敵するかそれ未満または対照値の低い範囲内にあるレベルを有する個体よりもCVDを発症または有する危険性が高値である。逆に、試験被験体の生物学的サンプル中の現在の危険予測因子のレベルが対照値未満、または対照値の低い範囲内にある場合は、試験被験体は対照値に匹敵するかそれより高値または対照値を超過するかその高い範囲内にあるレベルを有する個体よりもCVDを発症または有する危険性が低値である。試験被験体の危険性予測因子のレベルと対照値の間の差の範囲はまた、危険性の範囲を特徴付けることによりどの個体が特定の積極的治療から最も大きい利益を被るかを決定するためにも有用である。対照値の範囲を複数の群、例えば高危険性、平均的危険性および低危険性の個体に対する対照値範囲に分割されるこのような場合には、比較は該当する危険性予測因子の試験被験体のレベルがどの群に属するかを決定することを包含する。
【0058】
或いは、酸化された生体分子、すなわち酸化HDL、酸化apoA−Iまたは酸化apoA−Iペプチドフラグメントのレベルはサンプル中の酸化された内標準のレベルと比較してよい。適当な内標準の例はサンプル中の酸化された総タンパク質のレベルまたはサンプル中の酸化されたアルブミンのレベルを包含するがこれらに限定されない。
【0059】
本発明の予測試験はCVDを防止することを目標とする、或いは、CVDの進行を遅延させるための治療薬を個体に対して処方するべきか否か、またはそれを何時行うかを決定するために有用である。例えば、あるカットオフ値より高値または「正常範囲」より上3分の1または4分の1内にある酸化apoA−Iの値を有する個体は脂質低化剤による更に積極的な介入、生活様式の変更等の必要のある者として識別できる。
【0060】
(CVD治療薬の評価)
更にまた、CVDを有するか発症する危険性を有すると診断されている個体に対するCVD治療薬の作用を評価するための方法が提供される。このような治療薬は、抗炎症剤、インスリン感作剤、抗高血圧剤、抗血栓剤、抗血小板剤、フィブリン溶解剤、脂質低化剤、直接のトロンビンインヒビター、ACATインヒビター、CDTPインヒビターチオグリチゾン、糖タンパク質IIb/IIIaレセプターインヒビター、HDL代謝を上昇または改変することを指向した薬剤、例えばapoA−IミラノまたはCETPインヒビター(例えばトルセトラピブ)または人工HDLとして作用するように設計された薬剤を包含するがこれらに限定されない。このような評価は治療薬の投与の前に被験体から採取された生物学的サンプルおよび治療薬の投与の後に被験体から採取された相当する生物学的液体の酸化apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルを測定することを含む。治療薬投与前に採取されたサンプル中の選択された危険性マーカーのレベルと比較した場合に治療薬投与後に採取されたサンプル中の選択された危険性マーカーのレベルが低下していることは、治療された被験体における心臓血管疾患に対する治療薬の正の作用を示している。
【0061】
(キット)
本発明の方法を実施するためのキットも提供される。このようなキットは生物学的サンプル中の酸化apoA−I、酸化apoA−Iペプチドフラグメント、酸化HDLまたはこれらの組合せを評価するための試薬を含有する。1つの実施形態において、試薬は酸化apoA−Iまたは酸化apoA−Iペプチドフラグメントまたは両方に免疫特異的な抗体である。1つの実施形態において、キットはまた本発明の方法において試薬を使用するための取扱説明書を含む。別の実施形態においては、キットは心臓血管疾患または合併症の被験体の危険性を測定するために有用な情報を含む。そのような情報は例えばカットオフ値、特定のカットオフ値における感度、並びに試験の結果に基づいて危険性を特徴付けるための他の印刷物を包含するがこれらに限定されない。一部の実施形態においては、そのようなキットは対照試薬、例えば酸化HDL、酸化apoA−I、および/または酸化apoA−Iペプチドフラグメントも含んでよい。
【0062】
(治療方法)
本発明はまた心臓血管障害またはそのような障害の合併症の危険性を低下させるための被験体の治療方法に関する。1つの実施形態において、この方法は被験体由来の身体由来サンプル中のapoA−I関連生体分子1つ以上のレベルを測定すること、および、apoA−I関連生体分子1つ以上のレベルが被験体の対照集団由来の匹敵する身体由来サンプルのレベルと比較した場合に高値である場合には、抗炎症剤、抗血栓剤、抗血小板剤、フィブリン溶解剤、脂質低下剤、直接的トロンビンインヒビター、糖タンパク質IIb/IIIaレセプターインヒビター、細胞接着分子に結合してこのような分子に結合する白血球の能力を阻害する薬剤、カルシウムチャンネルブロッカー、βアドレナリン作用性レセプターブロッカー、シクロオキシゲナーゼ−2インヒビター、アンギオテンシン系インヒビターおよび/またはその組合せから選択される薬剤を被験体に投与することを含む。薬剤は将来心臓血管障害を発症する被験体の危険性を低下させるために有効な量で投与する。
【0063】
「抗炎症」剤とは、例えばアルクロフェナク;アルクロメタゾンジプロピオネート;アルゲストンアセトニド;αアミラーゼ;アムシナファル;アムシナフィド;アムフェナクナトリウム;塩酸アミプリローズ;アナキンラ;アニロラク;アニトラザフェン;アパゾン;バルサラジド2ナトリウム;ベンダザク;ベノキサプロフェン;塩酸ベンジダミン;ブロメライン;ブロペラモール;ブデソニド;カルプロフェン;シクロプロフェン;シンタゾン;クリプロフェン;クロベタゾールプロピオネート;クロベタゾンブチレート;クロピラク;クロチカゾンプロピオネート;コルメタゾンアセテート;コルトドキソン;デフラザコルト;デソニド;デソキシメタゾン;デキサメタゾンジプロピオネート;ジクロフェナクカリウム;ジクロフェナクナトリウム;ジフロラゾンジアセテート;ジフルミドンナトリウム;ジフルニサール;ジフルプレドネート;ジフタロン;ジメチルスルホキシド;ドロシノニド;エンドリソン;エンリモマブ;エノリカムナトリウム;エピリゾール;エトドラック;エトフェナメート;フェルビナク;フェナモール;フェンブフェン;フェンクロフェナク;フェンクロラク;フェンドサール;フェンピパロン;フェンチアザク;フラザロン;フルアザコート;フルフェナミン酸;フルミゾール;フルニゾリドアセテート;フルニキシン;フルニキシンメグルミン;フルオコルチンブチル;フルオロメトロンアセテート;フルカゾン;フルルビプロフェン;フルレトフェン;フルチカゾンプロピオネート;フラプロフェン;フロブフェン;ハルシノニド;ハロベタゾールプロピオネート;ハロプレドンアセテート;イブフェナク;イブプロフェン;イブプロフェンアルミニウム;イブプロフェンピコノール;イロニダップ;インドメタシン;インドメタシンナトリウム;インドプロフェン;インドキソール;イントラゾール;イソフルプレドンアセテート;イソキセパク;イソキシカム;ケトプロフェン;塩酸ロフェミゾール;ロルノキシカム;ロテプレドノールエタボネート;メクロフェナメートナトリウム;メクロフェナミン酸;メクロリゾンジブチレート;メフェナミン酸;メサラミン;メセクラゾン;メチルプレドニソロンスレプタネート;モルニフルメート;ナブメトン;ナプロキセン;ナプロキセンナトリウム;ナプロキソール;ニマゾン;オルサラジンナトリウム;オルゴテイン;オルパノキシン;オキサプロジン;オキシフェンブタゾン;塩酸パラニリン;ペントサンポリスルフェートナトリウム;フェンブタゾンナトリウムグリセレート;ピルフェニドン;ピロキシカム;ピロキシカムシンナメート;ピロキシカムオラミン;ピルプロフェン;プレドナゼート;プリフェロン;プロドール酸;プロカゾン;プロキサゾール;プロキサゾールシトレート;リメキソロン;ロマザリット;サルコレックス;サルナセジン;サルサレート;サリシレート;塩化サンギナリウム;セクラゾン;セルメタシン;スドキシカム;スリンダック;スプロフェン;タルメタシン;タルニフルメート;タロサレート;テブフェロン;テニダップ;テニダップナトリウム;テノキシカム;テシカム;テシミド;テトリダミン;チオピナク;チキソコルトールピバレート;トルメチン;トルメチンナトリウム;トリクロニド;トリフルミデート;ジドメタシン;グルココルチコイド;ゾメピラクナトリウムを包含するがこれらに限定されない。
【0064】
「抗血栓」および/または「フィブリン溶解」剤とはプラスミノーゲン(プレカリクレイン、キニノゲン、第XII、XIIIa因子、プラスミノーゲンプロアクティベーターおよび組織プラスミノーゲン活性化物質[TPA]の相互作用を介してプラスミンとなる)ストレプトキナーゼ;ウロキナーゼ;アニソイル化プラスミノーゲン−ストレプトキナーゼ活性化物質複合体;プロウロキナーゼ;(Pro−UK);rTPA(アルテプラーゼまたはアクチバーゼ;rは組み換えを示す);rPro−UK;アボキナーゼ;エミナーゼ;塩酸スレプターゼアナグレリド;ビバリルジン;ダルテパリンナトリウム;ダナパロイドナトリウム;塩酸ダゾキシベン;エフェガトランスルフェート;エノキサパリンナトリウム;イフェトロバン;イフェトロバンナトリウム;チンザパリンナトリウム;レタプラーゼ;トリフェナグレル;ワーファリン;デキストランを包含するがこれらに限定されない。
【0065】
「抗血小板」剤とはクロプリドグレル;スルフィンピラゾン;アスピリン;ジピリダモール;クロフィブレート;ピリジノールカーバメート;PGE;グルカゴン;アンチセロトニン剤;カフェイン;テオフィリンペントキシフィリン;チクロピジン;アナグレリドを包含するがこれらに限定されない。
【0066】
「脂質低下」剤とはジェムフィブロジル、コリスチラミン、コレスチポール、ニコチン酸、プロブコールロバスタチン、フルバスタチン、シンバスタチン、アトルバスタチン、プラバスタチン、セリバスタチンおよび他のHMG−CoA還元酵素インヒビターを包含するがこれらに限定されない。
【0067】
「直接的トロンビンインヒビター」とはヒルジン、ヒルゲン、ヒルログ、アガトロバン、PPACK、トロンビンアプタマーを包含するがこれらに限定されない。
【0068】
「糖タンパク質IIb/IIIaレセプターインヒビター」とは抗体および非抗体の両方であり、例えばReoPro(アビシキサマブ)、ラミフィバン、チロフィバンを包含するがこれらに限定されない。
【0069】
「カルシウムチャンネルブロッカー」とは高血圧、狭心症および心不整脈のような幾つかの心臓血管障害を含む種々の疾患の管理において重要な治療上の価値を有する化合物の化学的に多様なクラスである(Fleckenstein,Cir.Res.v.52,(suppl.1),p.13−16(1983);Fleckenstein,Experimental Facts and Therapeutic Prospects,John Wiley,New York(1983);McCall,D.,Curr Pract Cardiol,v.10.p.1−11(1985))。カルシウムチャンネルブロッカーは細胞のカルシウムチャンネルを調節することにより細胞へのカルシウムの進入を防止または遅延させる薬剤の異種の群である(Remington,The Science and Practice of Pharmacy,Nineteenth Edition,Mack Publishing Company,Eaton,Pa.,p.963(1995))。本発明において有用である現在入手可能なカルシウムチャンネルブロッカーの大部分は薬剤の3種の主要な化学的グループ、即ちニフェジピンのようなジヒドロピリジン類、ベラパミルのようなフェニルアルキルアミン類、および、ジルチアゼムのようなベンゾチアゼピン類の1つに属する。本発明で有用な他のカルシウムチャンネルブロッカーは例えばアムリノン、アムロジピン、ベンサイクラン、フェロジピン、フェンジリン、フルナリジン、イスラジピン、ニカルジピン、ニモジピン、パーヘキシレン、ガロパミル、チアパミルおよびチアパミル類似体(例えば1993RO−11−2933)、フェニトイン、バルビツレートおよびペプチドジノルフィン、オメガ−コノトキシンおよびオメガ−アガトキシン等および/または薬学的に受容可能なその塩を包含するがこれらに限定されない。
【0070】
「β−アドレナリン作用性レセプターブロッキング剤」とは狭心症、高血圧および心不整脈におけるカテコールアミンの心臓血管作用に拮抗する薬剤のクラスである。β−アドレナリン作用性レセプターブロッカーは例えばアテノロール、アセブトロール、アルプレノロール、ベフノロール、ベタキソロール、ブニトロロール、カルテオロール、セリプロロール、ヘドロキサロール、インデノロール、ラベタロール、レボブノロール、メピンドロール、メチプラノール、メチンドール、メトプロロール、メトリゾラノロール、オキシプレノロール、ピンドロール、プロプラノロール、プラクトロール、プラクトロール、ソタロルナドロール、チプレノロール、トマロロール、チモロール、ブプラノロール、ペンブトロール、トリメプラノール、2−(3−(1,1−ジメチルエチル)−アミノ−2−ヒドロキシプロポキシ)−3−ピリデンカルボニトリルHCl、1−ブチルアミノ−3−(2,5−ジクロロフェノキシ)−2−プロパノール、1−イソプロピルアミノ−3−(4−(2−シクロプロピルメトキシエチル)フェノキシ)−2−プロパノール、3−イソプロピルアミノ−1−(7−メチルインダン−4−イルオキシ)−2−ブタノール、2−(3−t−ブチルアミノ−2−ヒドロキシプロピルチオ)−4−(5−カルバモイル−2−チエニル)チアゾール、7−(2−ヒドロキシ−3−t−ブチルアミンプロポキシ)フタリドを包含するがこれらに限定されない。上記した化合物は異性体混合物として、または、そのそれぞれの左旋性または右旋性の形態において使用できる。
【0071】
適当なCOX−2インヒビターは例えば、米国特許5,474,995に記載されているCOX−2インヒビターである「cox−2インヒビターとしてのフェニル複素環」;米国特許5,521,213の「シクロオキシゲナーゼ−2のインヒビターとしてのジアリル2環式複素環」;米国特許5,536,752の「COX−2インヒビターとしてのフェニル複素環」;米国特許5,550,142の「COX−2インヒビターとしてのフェニル複素環」;米国特許5,552,422の「抗炎症剤としてのアリール置換5,5縮合芳香族窒素化合物」;米国特許5,604,253の「シクロオキシゲナーゼインヒビターとしてのN−ベンジルインドール−3−イルプロパン酸誘導体」;米国特許5,604,260の「シクロオキシゲナーゼ−2のインヒビターとしての5−メタンスルホンアミド−1−インダノン」;米国特許5,639,780の「シクロオキシゲナーゼインヒビターとしてのN−ベンジルインドール−3−イルブタン酸誘導体」;米国特許5,677,318の「抗炎症剤としてのジフェニル−1,2,3−チアジアゾール」;米国特許5,691,374の「COX−2インヒビターとしてのジアリール−5−酸素化−2−(5H)−フラノン」;米国特許5,698,584の「COX−2インヒビターのプロドラッグとしての3,4−ジアリール−2−ヒドロキシ−2,5−ジヒドロフラン」;米国特許5,710,140の「COX−2インヒビターとしてのフェニル複素環」;米国特許5,733,909の「COX−2インヒビターのプロドラッグとしてのジフェニルスチルベン」;米国特許5,789,413の「COX−2インヒビターとしてのアルキル化スチレン」;米国特許5,817,700の「シクロオキシゲナーゼインヒビターとしてのビスアリールシクロブテン誘導体」;米国特許5,849,943の「シクロオキシゲナーゼ−2インヒビターとして有用なスチルベン誘導体」;米国特許5,861,419の「選択的シクロオキシゲナーゼ−2インヒビターとしての置換ピリジン」;米国特許5,922,742の「選択的シクロオキシゲナーゼ−2インヒビターとしてのピリジニル−2−シクロペンテン−1−オン」;米国特許5,925,631の「COX−2インヒビターのプロドラッグとしてのアルキル化スチレン」を包含するがこれらに限定されず、これらは全て共通してMerck Frosst Canada,Inc.(Kirkland,Calif.)に譲渡されている。別のCOX−2インヒビターはまた「シクロオキシゲナーゼ−2および5−リポキシゲナーゼインヒビターとしての置換スルホニルフェニルヘテロ環」と題されたG.D.Searle&Co.(Skokie,Ill.)に譲渡されている米国特許5,643,933に記載されている。
【0072】
「アンギオテンシン系インヒビター」とはアンギオテンシンIIの機能、合成または異化に干渉する薬剤である。これらの薬剤には例えばアンギオテンシン変換酵素(ACE)インヒビター、アンギオテンシンII拮抗剤、アンギオテンシンIIレセプター拮抗剤、アンギオテンシンIIの異化を活性化する薬剤、および、アンギオテンシンIIが最終的に誘導される元になるアンギオテンシンIの合成を防止する薬剤が包含されるがこれらに限定されない。レニンアンギオテンシン系は血行力学および水分と電解質のバランスの調節に関与している。血液容量、腎潅流圧力または血漿中のNa.sup.+の濃度を低下させる因子は系を活性化させる傾向にあるが、これらのパラメーターを上昇させる因子はその機能を抑制する傾向を有する。
【0073】
アンギオテンシン(レニン−アンギオテンシン)系インヒビターはアンジオテンシノーゲンまたはアンギオテンシンIからのアンギオテンシンIIの生産に干渉するか、または、アンギオテンシンIIの活性に干渉する作用を有する化合物である。このようなインヒビターは当業者にはよく知られており、そしてレニンおよびACEを包含するアンギオテンシンIIの最終的生産に関与する酵素を阻害する作用を有する化合物を包含する。それらはまた生産された後のアンギオテンシンIIの活性に干渉する化合物も包含する。このような化合物のクラスの例は、抗体(例えばレニンに対する)、アミノ酸およびその類似体(例えばより大型の分子にコンジュゲートしたものも含む)、ペプチド(アンギオテンシンおよびアンギオテンシンIのペプチド類似体も含む)、プロレニン関連類似体等を包含する。最も強力で有用なレニン−アンギオテンシン系のインヒビターに含まれるものはレニンインヒビター、ACEインヒビターおよびアンギオテンシンII拮抗剤である。
【0074】
アンギオテンシンII拮抗剤の例はペプチド化合物(例えばサララシン、[(San)(Val)(Ala)]アンギオテンシン−(1−8)オクタペプチドおよび関連の類似体);N−置換イミダゾール−2−オン(米国特許5,087,634);イミダゾールアセテート誘導体、例えば2−N−ブチル−4−クロロ−1−(2−クロロベンジル)イミダゾール−5−酢酸(Long et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.247(1),1−7(1988)参照);4,5,6,7−テトラヒドロ−1H−イミダゾ[4,5−c]ピリジン−6−カルボン酸および類似体誘導体(米国特許4,816,463);N2−テトラゾール−β−グルクロニド類似体(米国特許5,085,992);置換ピロール類、ピラゾール類およびトリアゾール類(米国特許5,081,127);フェノールおよび複素環誘導体、例えば1,3−イミダゾール(米国特許5,073,566);イミダゾ縮合7員環複素環(米国特許5,064,825);ペプチド(例えば米国特許4,772,684);アンギオテンシンIIに対する抗体(例えば米国特許4,302,386);およびアラルキルイミダゾール化合物、例えばビフェニルメチル置換イミダゾール(例えばEP Number 253,310,Jan.20,1988);ES8891(N−モルホリノアセチル−(1−ナフチル)−L−アラニル−(4,チアゾリル)−L−アラニル(35,45)−4−アミノ−3−ヒドロキシ−5−シクロ−ヘキサペンタノイル−N−ヘキシルアミド、Sankyo Company,Ltd.,Tokyo,Japan);SKF108566(E−α−2−[2−ブチル−1−(カルボキシフェニル)メチル]1H−イミダゾール−5−イル[メチラン]−2−チオフェンプロパン酸、Smith Kline Beecham Pharmaceuticals,Pa.);Losartan(DUP753IMK954,DuPont Merck Pharmaceutical Company);Remikirin(RO42−5892、F.Hoffman LaRoche AG);A.sub.2アゴニスト(Marion Merrill Dow)および特定の非ペプチド複素環(G.D.Searle and Company)を包含する。ACEインヒビターとして有用であることが解っている化合物のクラスはアシルメルカプトおよびメルカプトアルカノイルプロリン類、例えばカプトプリル(米国特許4,105,776)およびゾフェノプリル(米国特許4,316,906)、カルボキシアルキルジペプチド類、例えばエナラプリル(米国特許4,374,829)、リシノプリル(米国特許4,374,829)、キナプリル(米国特許4,344,949)、ラミプリル(米国特許4,587,258)およびペリンドプリル(米国特許4,508,729)、カルボキシアルキルジペプチド模倣物、例えばシラザプリル(米国特許4,512,924)およびベナザプリル(米国特許4,410,520)、ホスフィニルアルカノイルプロリン類、例えばフォシノプリル(米国特許4,337,201)およびトランドロプリルを包含する。
【0075】
米国特許の要件であるレニンインヒビターの例は以下の通り、即ち、ペプチドの尿素誘導体(米国特許5,116,835);非ペプチド結合で連結されたアミノ酸(米国特許5,114,937);ジおよびトリペプチド誘導体(米国特許5,106,835);アミノ酸およびその誘導体(米国特許5,104,869および5,095,119);ジオールスルホンアミドおよびスルフィニル類(米国特許5,098,924);改変されたペプチド(米国特許5,095,006);ペプチジルβアミノアシルアミノジオールカーバメート類(米国特許5,089,471);ピロールイミダゾロン類(米国特許5,075,451);フッ素および塩素のスタチンまたはスタトンを含有するペプチド(米国特許5,066,643);ペプチジルアミノジオール類(米国特許5,063,208および4,845,079);N−モルホリノ誘導体(米国特許5,055,466);ペプスタチン誘導体(米国特許4,980,283);N−複素環アルコール類(米国特許4,885,292);レニンに対するモノクローナル抗体(米国特許4,780,401);および種々の他のペプチドおよびその類似体(米国特許5,071,837、5,064,965、5,063,207、5,036,054、5,036,053、5,034,512および4,894,437)である。
【0076】
特定の実施形態においては、試験被験体は本発明の薬剤を用いた治療を現時点で別段必要としない見かけ上は健康な被験体である。例えば特定の薬剤を用いた治療が酸化apoA−I関連生体分子の上昇したレベルに基づいて生じる場合は、患者は、apoA−I関連生体分子の上昇したレベルを有する症状以外には、その薬剤(または薬剤が属する薬剤の範疇)を用いた治療を要する症状を有さない。一部の実施形態においては、被験体は薬剤の前述した範疇の何れかの組合せまたは全てのうちの何れかの1つを用いた治療を要する症状を別段有さない。例えば、抗炎症剤に関しては、被験体は慢性関節リューマチ、慢性背部痛、自己免疫疾患、血管疾患、ウィルス疾患、悪性疾患等を有さない。別の実施形態においては、被験体は、酸化apoA−I関連生体分子1つ以上の上昇したレベルを有する以外は、有害な心臓血管事象の上昇した危険性を有さない(例えばこのような事象の家族歴を有さない被験体、非喫煙者の被験体、非高脂血症の被験体、全身炎症マーカーの上昇したレベルを有さない被験体)。
【0077】
一部の実施形態においては、被験体は非高脂血症の被験体である。「非高脂血症の」とは非高コレステロール血症および/または非高トリグリセリド血症の被験体である被験体である。「非高コレステロール血症の」被験体とは高コレステロール血症の被験体に関する確立された現在の基準に合致しない者である。「非高トリグリセリド血症の」被験体とは高トリグリセリド血症の被験体に関する確立された現在の基準に合致しない者である(例えばHarrison‘s Principles of Experimental Medicine,15th Edition,McGraw Hill,Inc.,N.Y.参照、以降「Harrison’s」と称する)。高コレステロール血症の被験体および高トリグリセリド血症の被験体は早期の冠動脈心疾患の増大した発生率と関連している。高コレステロール血症の被験体は>160mg/dL、または>130mg/dLのLDLレベル、および、男性、早期冠動脈心疾患の家族歴、喫煙(1日10本超)、高血圧、低HDL(<35mg/dL)、真性糖尿病、高インスリン血症、腹部肥満、高リポタンパク質(a)、および脳血管疾患または閉塞性末梢血管疾患の家族歴よりなる群から選択される少なくとも2つの危険因子を有する。高トリグリセリド血症の被験体は>250mg/dLのトリグリセリド(TG)レベルを有する。即ち、非高脂血症の被験体は、自身のコレステロールおよびトリグリセリドのレベルが高コレステロール血症および高トリグリセリド血症の被験体の両方に関して上記した通りの限界の値より低値である者として定義される。
【実施例】
【0078】
(A.タンパク質試験)
(材料)
L−[13]チロシンおよびL−[1315]チロシンをCambridge Isotopes Inc.(Andover,MA)より購入した。組織培養用の培地および添加剤はLife Technologies(Gaitherburg,MD)より購入した。RAW264.7細胞はAmerican Type Culture Collection (Rockville,MD)より入手した。[H]コレステロールはAmersham(Piscataway,NJ)から入手し、使用前にエタノールに再懸濁した。他の試薬は全て特段の記載が無い限り、Sigma Chemical Co.(St.Louis,MO)より入手した。
【0079】
(方法)
(一般的方法)
パーオキシニトライトは記載に従って(Beckman,J.S.,Chen,J.,Ischiropoulos,H.,and Crow,J.P.1994.Oxidative chemistry of peroxynitrite.Methods in Enzymology 233:229−240)合成し、定量した。L−3−[13]ニトロチロシンはL−[13]チロシンおよびパーオキシニトライトから合成し、使用前に残存NOを除去するために逆相HPLCにより単離した(Wu,W.,Chen,Y.,and Hazen,S.L.1999.Eosinophil peroxidase nitrates protein tyrosyl residues.Implications for oxidative damage by nitrating intermediates in eosinophilic inflammatory disorders.Journal of Biological Chemistry.274:25933−25944)。タンパク質含有量は、標準物質としてウシ血清アルブミンを用いてMarkwell変法のLowryタンパク質試験 (Markwell,M.A.,Haas,S.M.,Bieber,L.L.,and Tolbert,N.E.1978.A modification of the Lowry procedure to simplify protein determination membrane and lipoprotein samples.Analytical Biochemistry.87:206−210)により測定した。試薬Hの濃度は分光光度計により測定した(ε240=39.4M−1cm−1;参考文献(Nelson,D.P.,and Kiesow,L.A.1972.Enthalpy of decomposition of hydrogen peroxide by catalase at 25 degrees C(with molar extinction coefficients of H solutions in the UV).Analytical Biochemistry.49:474−478)。ミエロペルオキシダーゼ(ドナー:過酸化水素、オキシドレダクターゼ、EC 1.11.1.7)はまずRakitaの記載の通り逐次的レクチンアフィニティーおよびゲル濾過クロマトグラフィーによりヒト白血球の洗剤抽出液から精製し(Rakita,R.M.,Michel,B.R.,and Rosen,H.1990.Differential inactivation of Escherichia coli membrane dehydrogenases by a meloperoxidase−mediated antimicrobial system.Biochemistry.29:1075−1080)、そして次に、スルホプロピルセファデックスカラムを通すことにより痕跡量の夾雑好酸球パーオキシダーゼを除去した(Wever,R.,Plat,H.,and Hamers,M.N.1981.Human eosinophil peroxidase: a novel isolation procedure,spectral properties and chlorinating activity.FEBS Letters.123:327−331)。単離したMPOの純度は>0.84(A430/A280)のRZ、クーマシーブルー染色によるSDS−PAGE分析およびゲル内テトラメチルベンジジンパーオキシダーゼ染色により明らかにした(van Dalen,C.J.,Whitehouse,M.W.,Winterbourn,C.C.,and Kettle,A.J.1997.Thiocyanate and chloride as competing substrates for myeloperoxidase.Biochemical Journal.327:487−492)。酵素濃度はMPOの89000M−1cm−1/ヘムの消光係数を利用して分光光度計により測定した(Agner,K.1972.Structure and function of oxidation−reduction enzymes.Tarrytown,NY:Pergamon Press.329−335)。脱脂および精製したapoA−IはBiodesign International(Saco、ME)より購入し、SDS−PAGEおよび銀染色分析による純度およびオンラインタンデム質量スペクトル分析と組み合わせたHPLCにより有意な遊離脂肪酸の非存在を確認した後に更に精製することなく使用した(Zhang,R.,Brennan,M.L.,Shen,Z.,MacPherson,J.C.,Schmitt,D.,Molenda,C.E.,and Hazen,S.L.2000.Myeloperoxidase functions as a major enzymatic catalyst for initiation of lipid peroxidation at sites of inflammation.Journal of Biological Chemistry.277:46116−46122)。低密度リポタンパク質(LDL;1.019<d<1.063g/ml画分)および高密度リポタンパク質(HDL;1.063<d<1.21g/ml画分)は逐次的超遠心分離により新鮮血漿から単離した(Hatch,F.T.1968.Practical methods for plasma lipoprotein analysis.Advances in Lipid Research 6:1−68)。最終調製物は50mMリン酸ナトリウム(pH7.0)、200μMジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)に対して十分透析し、そして使用時までN下に保存した。LDLは無水酢酸を用いてアセチル化した(Glodstein,J.L.,Ho,Y.K.,Basu,S.K.,and Brown,M.S.1979.Binding site on macrophages that mediates uptake and degradation of acetylated low density lipoprotein,producing massive cholesterol deposition.Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America.76:333−337)。NOTyr免疫染色は文献記載の通り実施した(MacPherson,J.C.,Comhair,S.A.,Erzurum,S.C.,Klein,D.F.,Lipscomb,M.F.,Kavuru,M.S.,Samoszuk,M.K.,and Hazen,S.L.2001.Eosinophils are a major source of nitric oxide−derived oxidants in severe asthma:characterization of pathways available to eosinophils for generating reactive nitrogen species.Journal of Immunology.166:5763−5772)。NOTyrに対する免疫染色の特異性は(i)抗体−抗原インキュベーションの間に存在する10mMニトロチロシンを用いた競合試験における;および(ii)ジチオナイトによるサンプルの還元の場合の染色の消失を示すことにより確認した。
【0080】
(臨床標本−血清)
血清中の総タンパク質、NOTyrおよびClTyrのapoA−IおよびapoB−100の含量の質量スペクトル分析依存定量を用いた試験のために、Preventive Cardiology Clinic of the Cleveland Clinic Foundationで治療を受けている心臓血管疾患(CVD)の逐次的患者(n=45)および広告に応募した健常者ボランティア(n=45)を参加させた。CVDは冠動脈疾患、末梢動脈疾患または脳血管疾患として臨床的に定義される。CVDを有する被験体は安定であり心臓症状を有していなかった。参加前1ヶ月以内に心筋梗塞または卒中を経験した患者は不適格とした。NOTyrおよびClTyrのHDLのレベルをABCA1依存性コレステロール流出活性に相関付ける試験をPreventive Cardiology Clinicの治療を受けている既知(CVD)を有さない個別の逐次的セットの被験体(n=12)に対して実施した。全参加者は書面による同意書を提出し、the Cleveland Clinic Foundationの倫理調査委員会は試験プロトコルを認可した。臨床調査はヘルシンキ宣言の原則に従って実施した。医療上の履歴および記録の検討を実施することにより冠動脈の危険因子、例えば真性糖尿病(空腹時血糖値>125mg/dlまたは血糖低化剤使用)、高血圧(血圧>140/90または既知心疾患非存在下の抗高血圧剤使用)、早期の冠動脈心疾患の家族歴(主観的報告により60歳未満の冠動脈疾患を有する一等親)、高コレステロール血症の病歴(空腹時LDLコレステロール>160mg/dlまたは既知心疾患非存在下の脂質低下剤使用)および喫煙(試験前1年以内の喫煙)を明らかにした。空腹時の血液サンプルは血清分離試験管を用いて得た。血清を単離し、少量をブチル化ヒドロキシトルエン(100μM最終)およびDTPA(2mM最終、pH7.0)よりなる抗酸化剤カクテルを添加したクリオバイアル内に入れ、アルゴン被覆し、そして分析時まで−80℃に急速冷凍した。
【0081】
(ニトロ化タンパク質の免疫アフィニティー精製)
ImmunoPure Protein A Orientation Kit(Pierce)を用いてアルブミン/IgG枯渇血清からニトロ化タンパク質をアフィニティー精製した。慨すれば、製造元の推奨法に従い、ProteoPrep Albumin Depletion Kit(Sigma−Aldrich Corp.,St.Louis,MO)を用いてヒト血清(45μl)をアルブミンおよびIgG枯渇させた。合成オクタペプチド(Cys−Gly−NOTyr−Gly−Gly−Gly−NOTyr−Gly)に対して作成したアフィニティー精製した抗ニトロチロシン抗体をプロテインAに結合させ、ジメチルピメリミデートと交差結合させた。アルブミン/IgG枯渇患者血清は0.15M NaCl、0.1Mリン酸塩、pH7.2中に希釈し、カラムに適用した。未結合のタンパク質画分を20mlのPBSおよび10mlの0.5M NaClで溶離させた。結合タンパク質は0.5M NaCl中5mM 3−ニトロチロシンで溶離させた。結合画分をCentriprepフィルター装置(YM−10,Millipore)を用いて濃縮し、0.1M尿素に対して透析し、Savant Instrument SpeedVac Concentrator (Savant Instruments Inc.,Holbrook,New York)を用いて小容量まで乾燥した。画分中のタンパク質は標準物質としてBSAを用いながらビシンコニン酸試験(Pierce)によりモニタリングした。
【0082】
(2D SDS−PAGE)
透析後、タンパク質約50μgをサンプル再水和緩衝液155μlに添加し、7cmのpH3〜10の非線形IPG ZOOMストリップ(Invitrogen)上に一夜吸着させた。等電点電気泳動は、InvitrogenのZOOM IPGランナーシステムおよびBiorad 3000V電源を用いながら、以下の電圧ステッププロトコル、即ち、100V30分、200V20分、450V15分、750V15分および2000V30分を用いて実施した。第2次元用には、フォーカスしたIPGストリップをLDSサンプル緩衝液(Invitrogen)中NUPAGEサンプル還元剤(Invitrogen)の存在下15分間平衡化させ、そしてLDSサンプル緩衝液中125mMヨードアセトアミドの存在下15分間更にインキュベートした。ストリップを4〜12%ビストリスゲル中に入れ、0.5%アガロース(w/v)中に包埋した。コロイド状ブルーまたは銀染色のいずれかを用いてタンパク質についてゲルを染色した。イムノブロッティングのために、ゲルを0.2μm Immu−Blot PVDFメンブレン(Bio−Rad,Hercules,CA)に移した。
【0083】
(臨床標本−組織)
LDL様およびHDL様の粒子を生検で得られた大動脈および大腿動脈の組織からアテローム性動脈硬化症患部を単離した(組織採取は死亡後10時間以内)。死亡後の人為的要因は重要でないことを確認するための対照試験では血管手術時に新鮮採取された血管組織(n=5)を利用した。正常なヒト大動脈組織を移植ドナーから得た。全ての組織は迅速に100μM DTPA添加氷冷リン酸塩緩衝食塩水ですすぎ、そして急速に緩衝液A(65mMリン酸ナトリウム、pH7.4、100μM DTPA、100μMブチル化ヒドロキシトルエン)中N下−80℃で分析時まで凍結した。
【0084】
(LDLおよびHDL様粒子の単離および正常ヒト大動脈組織およびヒトアテローム性動脈硬化症患部からの特徴付け)
LDLおよびHDL様粒子はSteinbrecher and Lougheedの方法の変法(Steinbrecher,U.P.,and Lougheed,M.1992.Scavenger receptor−independent stimulation of cholesterol esterification in macrophages by low density lipoprotein extracted from human aortic intima.Arteriosclerosis & Thrombosis.12:608−625)を用いて逐次的密度超遠心分離(「患部LDL」に関してはd=1.019〜1.070g/ml画分、「患部HDL」に関してはd=1.063〜1.21g/ml画分)によりヒト胸大動脈の脂肪線条および中間患部から記載(Krul,E.S.,Tang,J.,Kettler,T.S.,Clouse,R.E.,and Schonfeld,G.1992.Lengths of truncated forms of apolipoprotein B (apoB) determine their intestinal production.Biochemical & Biophysical Research Communications.189:1069−1076)に従って単離した。「対照大動脈LDL」および「対照大動脈HDL」様粒子も同様に移植ドナー由来の目視可能なアテローム性動脈硬化症プラークを有さない残余の大動脈組織から単離した。金属キレート形成剤(100μM DTPA)、ミエロペルオキシダーゼインヒビター(10mM 3−アミノトリアゾール)および、PMSFおよびSigmaプロテアーゼインヒビターカクテル(カタログ番号P8340)よりなるプロテアーゼカクテルをリポタンパク質単離に使用した全溶液中に含有させた。対照の大動脈および患部LDLおよびHDLはウサギ抗ヒトapoB−100抗血清(Hazen,S.L.,and Heinecke,J.W.1997.3−Chlorotyrosine,a specific marker of myeloperoxidase−catalyzed oxidation,is markedly elevated in low density lipoprotein isolated from human atherosclerotic intima.Journal of Clinical Investigation.99:2075−2081)またはヤギ抗ヒトapoA−I(Biodesign,Saco,ME)の何れかをそれぞれ用いたウエスタンブロット分析と組み合わせたSDS−PAGE(Laemmli,U.K.1970.Cleavage of structural proteins during the assembly of the head of bacteriophage T4.Nature.227:680−685)に付した。apoB−100に対するポリクローナル抗体を用いた対照大動脈および患部LDL様粒子の分析では未損傷のアポリポタンパク質B100の質量である500kDaのタンパク質が検出された。前述(Krul,E.S.,Tang,J.,Kettler,T.S.,Clouse,R.E.,and Schonfeld,G.1992.Lengths of truncated forms of apolipoprotein B (apoB) determine their intestinal production.Biochemical & Biophysical Research Communications.189:1069−1076)の通り、凝集/交差結合の低分子質量の形態の免疫反応性のタンパク質はともに血管組織から単離したLDL様粒子中にも存在した。同様のウエスタン分析を対照大動脈および患部HDL様粒子に対してもapoA−Iに対する抗体を用いて実施し、apoA−Iの存在を確認した。高分解能サイズエクスクルージョンクロマトグラフィー(タンデムSuperose6および12カラム;Pharmacia LKB)による対照大動脈および患部LDL様粒子の分析によれば、免疫反応性のapoB−100、総コレステロールおよびタンパク質質量の大部分は血漿から単離されたLDLのものと同様の見かけ上のMを示していた。対照大動脈および患部HLD様粒子調製物中に存在した主要タンパク質成分としてのapoA−Iの同定もまたクーマシーブルー染色SDS−PAGEゲルから切り出してタンデムMS配列分析により行った。
【0085】
幾つかの対照実験によれば死亡後の変化はapoA−Iのニトロ化および塩素化に寄与する可能性が低いことが示されている。第1に対照試験は血管手術(患部)時に採取された新鮮動脈組織および移植用に採取された臓器(正常/非患部動脈組織)に対して実施した。これらの新鮮採取血管組織内では、剖検で得られたものと比較して、NOTyrおよびClTyrの同等のレベルが観察された。第2に、液体窒素温度においてステンレス製の乳鉢と乳棒を用いて粉末化した大動脈組織の作成の後、大動脈組織粉末(PBSに懸濁)を室温で10時間MPO(100nM)と共にインキュベートしたところ、質量スペクトル分析およびSDS−PAGEおよびウエスタンブロット分析(NOTyrに対して)の両方でモニタリングされたとおり、NOTyrまたはClTyrのレベルの上昇はできなかった。第3に、対照試験はL−[13]チロシンを添加し、室温で10時間インキュベートし、そして次に質量スペクトル分析に付した上記した大動脈組織粉末/MPO混合物中の3−[13]ClTyrまたは3−[13]NOTyrの有意な形成を示していなかった。
【0086】
(質量スペクトル分析によるタンパク質の同定)
タンパク質の同定は以前に記載されている通り実施した(Kinter,M.,and Sherman,N.2000.Protein Sequencing and Identification Using Tandem Mass Spectrometry,Willard,B.B.,Ruse,C.I.,Keightley,J.A.,Bond,M.,and Kinter,M.2003.Site−specific quantitation of protein nitration using liquid chromatography/tandem mass spectrometry.Analytical Chemistry.75:2370−2376)。慨すれば、クーマシーブルー染色SDS−PAGEゲルからバンドを切り出し、DTTで還元し、そしてヨードアセトアミドでアルキル化した。次にトリプシンを添加することによりタンパク質をゲル内消化し、ペプチドを抽出し、次に流量200nL/分でナノスプレーイオン化発生源を装着したLCQDecaイオントラップ質量スペクトル分析システム(ThermoFinnigan,San Jose,CA)上でキャピラリーカラムHPLCタンデム質量スペクトル分析により分析した。消化ペプチドはNew Objective Corp.(Woburn,MA)より購入した10μm先端の付いた50μm内径のカラムを用いた逆相キャピラリーHPLCにより分離した。カラムには〜6cmのC18パッキン材(Phenomenex,Torrence,CA)を充填し、50mM酢酸中漸増量のアセトニトリル(2〜70%)の45分間勾配を用いて溶離した。タンパク質の同定は単回の試行において質量スペクトルおよびCIDスペクトルの両方を獲得するデータ依存性の分析を用いて実施した(Kinter,M.,and Sherman,N.2000.Protein Sequencing and Identification Using Tandem Mass Spectrometry,Willard,B.B.,Ruse,C.I.,Keightley,J.A.,Bond,M.,and Kinter,M.2003.Site−specific quantitation of protein nitration using liquid chromatography/tandem mass spectrometry.Analytical Chemistry.75:2370−2376)。検索プログラムSequestおよびMascotをタンパク質同定のために使用した。マニュアルの配列分析は選択された重水素リッチ化ペプチドに対して水素重水素交換質量スペクトル分析の間に実施した。
【0087】
(ニトロチロシンおよびクロロチロシンの分析)
タンパク質結合ニトロチロシンおよびクロロチロシンを、Cohesive Technologies Aria LX Series HPLCマルチプレクシングシステム(Franklin,MA)とインターフェイス接続した3重4極質量スペクトル分析器(API 4000,Applied Biosystems.Foster City,CA)上の安定同位体希釈の液体クロマトグラフィータンデム質量スペクトル分析(Brennan,M.L.,Wu,W.,Fu,X.,Shen,Z.,Song,W.,Frost,H.,Vadseth,C.,Narine,L.,Lenkiewicz,E.,Borchers,M.T.,et al.2002.A tale of two controversies:defining both the role of peroxidases in nitrotyrosine formation in vivo using eosinophil peroxidase and myeloperoxidase−deficient mice,and the nature of peroxidase−generated reactive nitrogen species.Journal of Biological Chemistry.277:17415−17427)により定量した。合成[13]標識した標準物質をサンプル(血清の一部、組織/患部ホモジネート、またはコロイドブルー染色してPVDFメンブレン上で可視化し、次に切り出したバンド)に添加し、そして天然存在比の分析対象の定量のための内標準として使用した。同時に、ユニバーサルの標識前駆体アミノ酸[1315]チロシンを添加した。タンパク質をメタンスルホン酸中アルゴン雰囲気下で加水分解し、そして次にサンプルをミニ固相C18抽出カラム(Supelclean LC−C18−SPEミニカラム;3ml;Supelco,Inc.,Bellefone,PA)上に通し、その後質量スペクトル分析に付した。結果は同じインジェクション内においてモニタリングした前駆体アミノ酸チロシンの含有量に対して規格化した。ニトロ[1315N]チロシンおよびクロロ[1315N]チロシンの両方のクロマト中の形成は日常的にモニタリングしたが、使用条件下では無視できるものであった(即ち観察された天然存在比の産物のレベルの<5%)。
【0088】
(統計学的分析)
検出力の計算は臨床試験におけるNOTyrおよびClTyrの以前に報告されている平均および標準偏差に基づいて実施した。40%を検出するために80%の検出力を有するためには各群において少なくとも30人の患者が必要であることがわかった。
【0089】
(実施例1.血清中のニトロ化タンパク質としてのアポリポタンパク質A−Iの同定)
タンパク質結合ニトロチロシンの血清中レベルは被験体におけるアテローム性動脈硬化症の危険性および負荷の予測因子として機能(Shishehbor,M.H.,Aviles,R.J.,Brennan,M.L.,Fu,X.,Goormastic,M.,Pearce,G.L.,Gokce,N.,Keaney,J.F.,Jr.,Penn,M.S.,Sprecher,D.L.,et al.2003.Association of nitrotyrosine levels with cardiovascular disease and modulation by statin therapy.JAMA.289:1675−1680)し、特定のタンパク質のニトロ化がアテローム性動脈硬化症の過程に寄与するかどうかの疑問が生じる。この疑問を解明する第1の工程として、本発明者らは血清中のニトロ化タンパク質の実体を調べた。CVDを有する患者および対照より得たサンプルをSDS−PAGEで分析し、抗ニトロチロシン抗体を用いたウエスタンブロット分析およびタンパク質に対するクーマシーブルー染色の両方により可視化した。ウエスタンブロットで観察された免疫反応性のパターンとタンパク質染色の比較によれば、血清中タンパク質の全てが等しくニトロ化されているわけではないことがわかった。低値の存在比と旺盛なニトロ化の間の不一致の例は29kDaタンパク質において再現性を伴って観察された。このタンパク質バンドをクーマシーブルー染色ゲルから切り出し、トリプシン消化し、そしてタンパク質配列の96%に相当する>30ペプチドの検出と配列決定に基づけばapoA−I(NCBIアクセッション番号253362)であると明確に同定された。ニトロ化されたタンパク質としてのapoA−Iの実体は、ニトロチロシンに対する固定化抗体よりなるカラムに血清を通し、カラムを高濃度塩で洗浄し、その後5mMニトロチロシン添加高濃度塩で溶離することにより更に確認された。2次元SDS−PAGEおよびキャピラリーLCタンデム質量スペクトル分析系配列決定によるサンプルの分析により、apoA−Iは回収されたタンパク質であることが確認された(LC/ESI/MS/MSによれば>90%相当)。2D SDS−PAGEとその後のapoA−Iに対する抗体を用いたウエスタンブロット分析による抗ニトロチロシンカラム溶出物(高濃度塩+5mMニトロチロシン)のその後の検査により、インビボのニトロ化タンパク質としてのapoA−Iの別の補足的証拠が得られた。
【0090】
(実施例2.血清中並びに心臓血管疾患有無の被験体におけるニトロ化および塩素化の好ましい標的としてのアポリポタンパク質A−Iの実証)
血清のような組織内に標的が大量に存在し、そして複合生物学的マトリックス内の反応性窒素物質種に対して比較的短い拡散距離があるとすれば、血清中タンパク質内のapoA−Iの見かけ上の選択的ニトロ化はインビボのリポタンパク質の近接部におけるNO誘導酸化剤の酵素的原料の存在を強力に示唆するものである。1つの可能性のある候補は酵素MPOで有るが、その理由は最近の研究においてこの酵素がインビボにおけるタンパク質のニトロ化を触媒すること(Brennan,M.L.,Wu,W.,Fu,X.,Shen,Z.,Song,W.,Frost,H.,Vadseth,C.,Narine,L.,Lenkiewicz,E.,Borchers,M.T.,et al.,2002.A tale of two controversies:defining both the role of peroxidases in nitrotyrosine formation in vivo using eosinophil peroxidase and myeloperoxidase−deficient mice,and the nature of peroxidase−generated reactive nitrogen species.Journal of Biological Chemistry.277:17415−17427,Zhang,R.,Brennan,M.L.,Shen.Z.,MacPherson,J.C.,Schmitt,D.,Molenda,C.E.,and Hazen,S.L.2002.Myeloperoxidase functions as a major enzymatic catalyst for initiation of lipid peroxidation at sites of inflammation.Journal of Biological Chemistry.277:46116−46122,Baldus,S.,Eiserich,J.P.,Mani,A.,Castro,L.,Figueroa,M.,Chumley,P.,Ma,W.,Tousson,A.,White,C.R.,Bullard,D.C.,et al.2001.Endothelial transcytosis of myeloperoxidase confers specificity to vascular ECM proteins as targets of tyrosine nitration.Journal of Clinical Investigation.108:1759−1770,Gaut,J.P.,Byun,J.,Tran,H.D.,Lauber,W.M.,Carroll,J.A.,Hotchkiss,R.S.,Belaaouaj,A.,and Heinecke,J.W.2002.Myeloperoxidase produces nitrating oxidants in vivo.Journal of Clinical Investigation.109:1311−1319)並びに炎症部位における細胞外コンパートメント内のような特定の状況下においてNO誘導酸化剤の生成に主要な役割を果たすこと(Brennan,M.L.,Wu,W.,Fu,X.,Shen,Z.,Song,W.,Frost,H.,Vadseth,C.,Narine,L.,Lenkiewicz,E.,Borchers,M.T.,et al.,2002.A tale of two controversies:defining both the role of peroxidases in nitrotyrosine formation in vivo using eosinophil peroxidase and myeloperoxidase−deficient mice,and the nature of peroxidase−generated reactive nitrogen species.Journal of Biological Chemistry.277:17415−17427)の両方が可能であることが判明したためである。インビボの選択的apoA−Iニトロ化のための可能な酵素的触媒としてMPOが作用するという仮説を検討し、かつapoA−IがCVDを有する被験体内においてより高水準までニトロ化されるかどうかを定量的に評価するために、明確化されたCVDを有しながら心臓科に来院した逐次的患者(n=45)および健康な対照被験体(n=44)に同意を求め、その血清サンプルを採取して分析に付した。NOTyrおよびClTyrの両方の含有量は、オンライン電子スプレーイオン化タンデム質量スペクトル分析と組み合わせた安定同位体希釈HPLC(LC/ESI/MS/MS)を利用して総血清中タンパク質、単離されたapoA−Iおよび単離されたapoB−100内において同時に定量した。表2は検査した被験体の臨床上および検査値上の特徴を示している。推測された通り、CVDを有する患者は既知のCVD危険因子、例えば糖尿病歴、高血圧、喫煙、CVDの家族歴および高脂血症の病歴を有する可能性がより高かった。CVDを有する被験体はより低値のLDLコレステロールレベルを有し、心臓科へのCVD被験体の組み入れと確認の偏位に起因する特徴であるスタチン療法を受けている可能性がより高かった。
【0091】
【表2】

データは記載の通りパーセントまたは平均±標準偏差の何れかで表示する。
CVD=心臓血管疾患;HDLc=高密度リポタンパク質コレステロール;Hx=病歴;LDLc=低密度リポタンパク質コレステロール;TC=総コレステロール;TG=トリグリセリド。
【0092】
最近発表された研究(Shishehbor,M.H.,Aviles,R.J.,Brennan,M.L.,Fu,X.,Goormastic,M.,Pearce,G.L.,Gokce,N.,Keaney,J.F.,Jr.,Penn,M.S.,Sprecher,D.L.,et al.2003.Association of nitrotyrosine levels with cardiovascular disease and modulation by statin therapy.JAMA.289:1675−1680)と合致して、血清中のNOTyr含有量はCVDを有する被験体においては健常者対照群のものと比較して約1.5倍の有意な上昇があった(p<0.001)(表3)。同様の結果(CVDvs対照で2倍上昇;p=0.001、表3)は、単離されたapoB−100のNOTyr含有量、LDLの主要タンパク質成分およびインビトロでMPOに結合することが報告されているリポタンパク質を分析した場合にも観察された(Carr,A.C.,Myzak,M.C.,Stocker,R.,McCall,M.R.,and Frei,B.2000.Myeloperoxidase binds to low−density lipoprotein:potential implications for atherosclerosis.FEBS Letters.487:176−180,Yang,C.Y.,Gu,Z.W.,Yang,M.,Lin,S.N.,Garcia−Prats,A.J.,Rogers,L.K.,Welty,S.E.,and Smith,C.V.1999.Selective modification of apoB−100 in the oxidation of low density lipoproteins by myeloperoxidase in vitro.Journal of Lipid Research.40:686−698)。著明な点は、血清中総タンパク質および単離されたapoB−100と比較して血清中apoA−IにおいてはNOTyr含有量の70倍リッチ化が観察された。更にまた、apoA−IのNOTyr含有量の有意な上昇はCVDと健常者対照群の被験体の血清を比較した場合にも観察された(p=0.005;表2)。MPO触媒酸化に特異的なタンパク質改変であるClTyrの含有量に関するサンプルの平行分析(Hazen,S.L.,Hsu,F.F.,Gaut,J.P.,Crowley,J.R.,and Heinecke,J.W.,1999.Modification of proteins and lipids by myeloperoxidase.Methods in Enzymology 300:88−105,Brennan,M.L.,Wu,W.,Fu,X.,Shen,Z.,Song,W.,Frost,H.,Vadseth,C.,Narine,L.,Lenkiewicz,E.,Borchers,M.T.,et al.2002.A tale of two controversies:defining both the role of peroxidases in nitrotyrosine formation in vivo using eosinophil peroxidase and myeloperoxidase−deficient mice,and the nature of peroxidase−generated reactive nitrogen species.Journal of Biological Chemistry.277:17415−17427,Hazen,S.L.,and Heinecke,J.W.1997.3−Chlorotyrosine,a specific marker of myeloperoxidase−catalyzed oxidation,is markedly elevated in low density lipoprotein isolated from human atherosclerotic intima.Journal of Clinical Investigation.99:2075−2081,Brennan,M.L.,Anderson,M.,Shih,D.,Qu,X.,Wang,X.,Mehta,A.,Lim,L.,Shi,W.,Hazen,S.L.,Jacob,J.,Crowley,J.,Heinecke,J.W.,and Lusis,A.J.2001.Increased atherosclerosis in myeloperoxidase−deficient mice.J.Clin.Invest.107:419−30)によれば血清中の総タンパク質および単離apoB−100においては比較的低レベルであったのに対し、単離されたapoA−IにおいてはClTyr含有量の100倍超のリッチ化が判明した(表2)。更に、CVDを有する被験体におけるClTyrの含有量の上昇の傾向は総タンパク質および単離されたapoB−100において観察されたが、これらの差は統計学的な有意差には達していなかった。一方、ClTyr含有量の有意な上昇が血清から回収されたapoA−Iにおいては観察された(p<0.001;表3)。
【0093】
(表3)
(アポリポタンパク質A−Iは血清において、そして、心臓血管疾患において、ニトロ化および塩素化の好ましい標的である)
【0094】
【表3】

表2の全コホート(CVDおよび健常者対照被験体)由来の血清の一部(100ugタンパク質)は直接分析(総タンパク質)するか、またはSDS−PAGEで分割し、PVDFメンブレンに移し、apoA−IおよびapoB−100に相当するバンドを可視化し、切り出し、次に安定同位体希釈LC/ESI/MS/MSにより「方法」で記載した通り分析した。示した結果は親アミノ酸に対する酸化アミノ酸のモル比として示した総血清中タンパク質または記載したリポタンパク質のニトロチロシンおよびクロロチロシン含有量の中央値および4分位範囲である。記載したp値は相当する記載したタンパク質における対照群とCVD群の間のNOTyrおよびClTyr含有量の比較を示す。apo=アポリポタンパク質;CVD=心臓血管疾患;IQR=4分位範囲。
【0095】
血清由来の総タンパク質および単離されたapoA−IにおけるNOTyrおよびClTyrの含有量の間の関係の強度は更に、全コホート(CVD+対照)において検討した。表4(上)に示す通り、NOTyr含有量の上昇には、総血清中タンパク質または血清由来の単離されたapoA−Iの何れかにおいてモニタリングされる通り、CVDの発生率の上昇が伴った。更にまた、高値vs低値のレベルのNOTyr(第3対第1の3分位)を有する被験体の間の比較では、総タンパク質または血清由来の単離されたapoA−Iの何れを調べた場合でも、CVDを有する者についてオッズの約6倍上昇が示されていた(表3、下)。一方、単離されたapoA−IのClTyr含有量のみがコホート内のCVD発生率またはオッズの上昇を伴っており、総血清タンパク質(またはapoB−100、図示せず)のClTyr含有量では伴っていなかった。注目すべき点として、高値(最高3分位)のapoA−I ClTyr含有量を有する被験体は低値(最低3分位)のapoA−I ClTyr含有量を有する者よりもCVDを有する可能性が16倍高値であった(表4、下)。
【0096】
(表4)
(血清中総タンパク質およびアポリポタンパク質A−Iのニトロチロシンおよびクロロチロシン含有量と心臓血管疾患罹患性の間の関係)
【0097】
【表4】

表示は(上)全コホートの各3分位内の心臓血管疾患の罹患の発生率;および(下)CVDの予測因子としての最低(第1)3分位と比較した第2および第3の3分位のオッズ比および95%信頼区間。apo=アポリポタンパク質;CI=信頼区間;ClTyr=クロロチロシン;CVD=心臓血管疾患;NOTyr=ニトロチロシン。
【0098】
(実施例3 ヒトアテローム性動脈硬化症患部内のニトロ化および塩素化の好ましい標的としてのアポリポタンパク質A−Iの実証)
NOおよびMPOにより生成された酸化剤によるapoA−Iの優先的なターゲティングがヒトアテローム中で生じたかどうかを調べるために、ヒト大動脈組織から回収した総タンパク質、apoB−100およびapoA−Iを検査する別の試験を実施した。LDL様およびHDL様粒子を示差浮力密度遠心分離により正常大動脈組織およびアテローム性動脈硬化症組織の両方から単離し、次に「方法」の項で記載したとおりapoB−100またはapoA−Iのいずれかに対するポリクローナル抗体を用いたウエスタン分析によりコレステロールと適切なアポリポタンパク質調製物の両方においてリッチ化されていることを確認した。アテローム性動脈硬化症患部由来のHDL様粒子から回収したapoA−Iの大部分は単量体であった。大動脈および患部の総タンパク質およびapoB−100において観察されたものと相対比較した場合の正常大動脈および患部組織から回収したapoA−IのNOTyrおよびClTyrの含有量のより定量的な試験は安定同位体希釈LC/ESI/MS/MS分析により行い、その結果は表4に示す通りである。注意すべき点は、正常大動脈組織およびヒトアテローム性動脈硬化症患部から回収した総タンパク質、apoB−100およびapoA−IにおけるNOTyrおよびClTyrの含有量は血清中で観察されるものよりも高値であり(表3と5を比較)、NOおよびMPOにより生成された酸化剤は、血管内(血液)コンパートメントと比較して動脈壁内、特にアテローム性動脈硬化症の患部内に優先的に存在することを示唆している。血清および血清由来の単離リポタンパク質において観察された通り、患部apoA−I中のNOTyrおよびClTyr両方の含有量は患部総タンパク質および患部apoB−100と相対比較して劇的選択的にリッチ化されていることを示していた(表5)。同様に、正常血管組織よりも罹患組織に由来する総タンパク質および単離リポタンパク質において、より高値のレベルが観察されている。
【0099】
(表5)
(アポリポタンパク質A−Iはヒト大動脈アテローム性動脈硬化症の患部におけるニトロ化および塩素化の好ましい標的である)
【0100】
【表5】

正常ヒト大動脈(n=10被験体)およびヒト大動脈アテローム性動脈硬化症組織(n=22被験体)の標本を外膜除去し、次に液体窒素温度においてステンレス製の乳鉢と乳棒を用いて粉末化し、ニトロチロシンおよびクロロチロシンの含有量を安定同位体希釈LC/ESI/MS/MSにより「方法」で記載した通り分析した。バイオマーカーの総タンパク質含有量は粉末ヒト血管組織を用いて確認した。正常大動脈およびアテローム性動脈硬化症患部に由来するapoB−100およびapoA−Iにおける酸化されたアミノ酸の含有量は粉末血管組織からLDL様およびHDL様粒子を単離した後に、逐次的浮力密度遠心分離してSDS−PAGEにより更に分割することにより確認し、PVDFメンブレンに移行させ、次にapoA−IおよびapoB−100に相当するバンドを可視化し、切り出し、安定同位体希釈LC/ESI/MS/MSにより「方法」で記載した通り分析した。示した結果は親アミノ酸に対する酸化アミノ酸のモル比として示した正常大動脈および患部の総タンパク質または記載したリポタンパク質のニトロチロシンおよびクロロチロシン含有量の中央値および4分位範囲である。記載したp値はヒト正常大動脈およびアテローム性動脈硬化症患部由来の記載した単離されたリポタンパク質中のニトロチロシンまたはクロロチロシン含有量を正常または患部の大動脈組織の総タンパク質において観察された相当する含有量と対比させたものである。患部apoA−Iと正常大動脈組織apoA−Iの比較に関してP<0.001。
【0101】
本試験は動脈壁におけるニトロ化および塩素化の優先的標的としてのHDLの主要タンパク質成分であるapoA−Iの最初の直接の証拠並びにHDLのプロアテローム形成性形態の発生のための潜在的機序を与えるものである。ヒトアテローム性動脈硬化症患部および全身循環の両方において観察されたapoA−IのNOTyrおよびClTyr含有量の顕著な選択的リッチ化は、NO誘導酸化剤およびMPO触媒反応が酸化的改変についてリポタンパク質を選択的にターゲティングすることを示している。本発明者らは患部apoA−Iにおいて5,500μmolのox−アミノ酸(ox−AA)/mol Tyrの複合ox−AA含有量を観察した(表5)。apoA−I当たり7チロシン残基およびHDL粒子当たり4個以下のapoA−I分子が存在するとすれば、ヒト大動脈患部から回収したHDL様粒子の平均およそ15%が少なくとも1つの酸化的改変を保有していると本発明者らは計算している(即ち5.5ox−AA/10Tyr x 7Tyr/apoA−I x 4apoA−I/HDL粒子=15.4%)。10,000〜25,000μmol ox−AA/mol Tyrの範囲の複合ox−AA含有量を示す最高の4分位値の場合、この最高の4分位値における患部HDLの注目すべき28%〜50%がClTyrまたはNOTyr残基のいずれかを保有する。MPO、HOCl改変タンパク質およびapoA−Iは全て内皮下のコンパートメントの保護された環境内に共局在化しているため、この数値は一部の位置においては更に高値となることは想像に難くない。MPOにより生成される酸化生成物の選択的リッチ化はCVDを有する個体の循環HDLおよびヒトアテローム性動脈硬化症患部において最も顕著であったが、明らかなリッチ化はまた健常者被験体の血清および移植ドナー大動脈組織から回収したapoA−Iにおいても観察され、apoA−IのMPO結合およびMPOにより形成された酸化剤の捕獲のための潜在的な生理学的抗炎症/抗酸化剤の役割を示唆している。
【0102】
(B.apoA−Iペプチドフラグメント研究)
本研究はapoA−IのMPO媒介改変に関連する分子事象を明らかにし、そしてapoA−Iの機能の改変にこれらの事象を特に相関付ける。本発明者らは、タンデム質量スペクトル分析によりMPO媒介ニトロ化および塩素化の部位をマッピングしており、そして今回タンパク質の2つの領域の特定の改変を明らかにする。本発明者らはまた改変の階層構造を明らかにし、そして、ヘリックス8領域におけるMPO相互作用部位によるMPO触媒塩素化およびニトロ化の両方により改変された好ましい残基の共局在を報告する。apoA−IのMPO媒介部位特異的改変の用量依存的進行とABCA1−依存性逆コレステロール輸送およびapoA−I脂質結合の抑制の両方との間には強力な相関が観察されている。本発明者らのデータはMPO触媒部位特異的apoA−I改変とHDLの重要な抗アテローム性動脈硬化症機能の消失との間の繋がりを示唆している。即ち、動脈壁におけるapoA−IのMPO触媒酸化的改変はMPOと心臓血管疾患の間の臨床的関連性に寄与していると考えられる。
【0103】
(実験手順)
(HDLおよびapoA−Iの改変反応)
Cleveland Clinic Foundationの倫理調査委員会により認可された試験プロトコルに関する同意書を提出した健常者ドナーより全血を採取した。示差超遠心分離を用いてHDLをヒト血漿から単離(密度範囲−1.063g/mL〜1.210g/mL)し、4℃暗所において100μMジエチレントリアミン4酢酸(DTPA)を用いて50mMリン酸塩緩衝液(pH7.0)中で十分透析した。脱脂質化され精製されたapoA−IはBiodesign International(Saco,ME)より購入し、更に精製することなく使用した。
【0104】
MPO媒介改変反応は100μM DTPA、1mg/mLタンパク質(apoA−I)、57nM精製ヒトMPO(ドナー:過酸化水素、オキシドレダクターゼ、EC 1.11.1.7;A430/A280比0.79)および1mM亜硝酸(ニトロ化反応用)または100mM塩化物(塩素化反応用)のいずれかを含有する50mMリン酸塩緩衝液pH7.0中で実施した。ミエロペルオキシダーゼ反応は種々の濃度(0〜200μM)において過酸化水素を添加することにより開始し、そして1時間37℃で実施した。これらの反応条件はMPO、塩化物および亜硝酸の生理学的に該当する量、および生理学的〜病理学的の範囲にわたる過酸化水素濃度を包含する。
【0105】
パーオキシニトライトおよびHOClの反応は0〜200μMの終濃度を与えるように添加されたパーオキシニトライトおよびHOClと共に100μM DTPAを含有する50mMリン酸塩緩衝液pH7.0中で1時間37℃で同様に実施した。
【0106】
全反応において、重要な反応体の濃度は、MPOについては430nmにおいて170cm−1mM−1、過酸化水素については240nmにおいて39.4cm−1−1、HOCl(NaOCl)については292nmにおいて350cm−1−1、そして、パーオキシニトライトについては302nmにおいて1670cm−1−1のモル消光係数を用いて分光光度計分析により確認した。
【0107】
改変されたタンパク質を採取し、即座に下記apoA−I機能試験に付した。各反応物少量を取り出し、アセトンで沈殿させ、SDS−PAGEで分離して質量スペクトル分析実験に付した。
【0108】
(質量スペクトル分析実験)
(タンパク質消化)
タンパク質バンドをゲル内消化の手順に従って消化した(Kinter,M.,and Sherman,N.E.(2000).Protein Sequencing and Identification Using Tandem Mass Spectrometry.John Wiley and Sons,New York)。慨すれば、タンパク質バンドをゲルから切り出し50%エタノール/5%酢酸で洗浄した後に室温で一夜、改変配列決定等級トリプシン(Promega,Madison,WI)でトリプシン消化した。ペプチドをゲルから抽出し、蒸発乾固させ、1%酢酸または0.1%ギ酸の何れかで再調製し、キャピラリーカラムHPLC電子スプレーイオン化質量スペクトル分析に付した。
【0109】
(改変部位の同定)
ニトロ化および塩素化の部位の詳細なマッピングおよび検出はナノスプレーイオン化発生源(Protana,Odense,Denmark)を装着したLCQ Decaイオントラップ質量スペクトル分析システム(ThermoFinnigan,San Jose,CA)を用いて実施した。発生源は200nl/分の流量でマイクロスプレー条件下に運転した。消化物はNew Objective Corp.(Woburn,MA)より購入した15μm内径の先端の付いた50μm内径のカラムを用いた逆相キャピラリーHPLCにより分析した。カラムには〜6cmのC18パッキン材(Phenomenex,Torrence,CA)を充填し、50mM酢酸中漸増量のアセトニトリル(2〜70%)の45分間勾配を用いて溶離した。データはデータ依存性のモードで獲得し、反復サイクルにおいて質量スペクトルおよび3つの衝突誘導解離(CID)スペクトルを記録した(Kinter,M.,and Sherman,N.E.(2000)Protein Sequencing and Identification Using Tandem Mass Spectrometry.John Wiley and Sons,New York)。プログラムSequestを用いて全ての記録されたCIDスペクトルをヒトapoA−Iの配列(NCBIアクセッション番号229513)と比較し、そして塩素化については+34Daおよびニトロ化については+45Daのチロシン残基質量の適切な変化を考慮した。
【0110】
(タンパク質改変の部位特異的定量)
部位特異的定量実験はオートインジェクターを有するCapLC HPLCシステム(Waters)を装着したQToFmicro質量スペクトル分析システム(Waters,Milford,MA)上で実施した。電子スプレーイオン化発生源は600nL/分の流量でマイクロスプレー条件下で運転した。消化物は内径19μmのナノスプレー発生源キャピラリーを有する内径75μmのカラムを用いた逆相キャピラリーHPLCにより分析した。カラムには10μmのC18パッキン材(Phenomenex,Torrence,CA)〜15cmを充填し、そして0.1%ギ酸中漸増量のアセトニトリル(2〜70%)の45分間勾配を用いて溶離した。定量は選択イオンモニタリングモード(SIM)において翻訳後改変の部位特異的定量のために開発されたNative Reference Peptide法(38,39)を用いることにより行った。SIM実験のためには、QToF機器の飛行時間型(time−of−flight)質量分析器および目的の種々のペプチドイオンのm/z値に基づいて構築された質量クロマトグラムを用いてm/z300〜m/z1600のフルスキャンを得た。apoA−IペプチドATEHLSTLSEK配列番号9およびQGLLPVLESFK配列番号10をネイティブの比較参照ペプチドとして使用した。各分析対象の相対量は比較参照ペプチドのクロマトグラフィーピーク面積でその分析対象ペプチドのクロマトグラフィーピーク面積を割ることにより求めた。
【0111】
(apoA−Iの機能の試験)
(コレステロール流出)
コレステロール流出実験は確立された手順に従って実施した(Smith,J.D.,Miyata,M.,Ginsberg,M.,Grigaux,C.,Shmookler,E.,and Plump,A.S.(1996)J.Biol.Chem.271,30647−30655,Takahashi,Y.,and Smith,J.D.(1999)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.96,11358−11363)。24穴ディッシュ中のサブコンフルエントのRAW264.7細胞にコレステロール負荷し、[H]コレステロール標識アセチル化低密度リポタンパク質(AcLDL)を含有するDGGB(50mMグルコース、2mMグルタミンおよび0.2%BSA添加DMEM)0.5mL中で一夜標識した。[H]コレステロール標識AcLDLはAcLDLと共に37℃で30分間[H]コレステロールをインキュベートすることにより調製し、そして、0.33μCi/ml[H]コレステロールを含有する50μg/ml AcLDLの終濃度となるようにDGGBで希釈した。標識の翌日、細胞をPBS、0.2%BSAで3回洗浄し、16時間0.1mM 8−Br−cAMPの存在下または非存在下にDGGB 0.5mlと共にインキュベートした。16時間インキュベートした後、8−Br−cAMPの存在下または非存在下のDGGB 0.5mL中のHDLタンパク質50μg/mLを各ウェルに添加した。37℃で4時間インキュベートした後、培地100μLを採取し、遠心分離し、培地中の流出コレステロールの尺度として放射能を計数した。各ウェルの該当する細胞をヘキサン/イソプロパノール(3:2、v:v)で抽出し、細胞中に保持されているコレステロールの尺度として放射能を測定した。流出したコレステロールのパーセンテージは総放射能(培地中放射能+細胞放射能)で割った培地中の放射能として計算した。
【0112】
(脂質の結合)
LDL凝集試験は以前に記載された試験の変法によりapoA−I脂質結合を試験するために使用した(Liu,H.,Scraba,D.G.,and Ryan,R.O.(1993)FEBS Lett.316,27−33)。96穴の試験プレート中、LDL 75μgを最終容量200μlの反応緩衝液(50mMトリス塩酸、pH7.4,150mM NaClおよび2mM CaCl含有)中3μgの対照または改変apoA−Iの存在下または非存在下に混合した。各反応は3連で実施した。次にプレートを10分間37℃でSpectraMaxプレートリーダー(Molecular Devices,Sunnyvale,CA)中インキュベートした。1時間で凝集を誘導するのに十分なバチルス・セレウス由来の希釈ホスホリパーゼC(Sigma P7147)または緩衝液対照の20μl区分を各ウェルに添加してリン脂質の極性先端基を加水分解することによりLDL表面を疎水性とし、凝集を開始した。37℃における凝集は478nmにおける吸光度でモニタリングし、1時間に渡り2分おきに読み取った。apoA−I脂質結合活性はLDL凝集の抑制をもたらし、短時間の遅れの後に起こる急速段階の間の凝集速度(ΔO.D./分)から計算した。改変apoA−Iに関する凝集速度はネイティブのapoA−Iの速度に対して規格化した。
【0113】
(ヒトアテローム中の改変apoA−Iの検出)
(apoA−Iの単離)
ヒトアテローム組織を死亡10時間以内に剖検時に得られた大動脈から単離した。組織を100μM DTPA添加氷冷リン酸塩緩衝食塩水中で即座にすすぎ、そして即座に−80℃窒素下、100μM DTPAおよび100μMブチル化ヒドロキシトルエン含有65mMリン酸ナトリウムpH7.4中で分析時まで凍結した。
【0114】
ヒト胸大動脈の脂肪線条および中間患部を液体窒素温度においてステンレス製の乳鉢と乳棒を用いて粉末化し、100μM DTPAおよびプロテアーゼインヒビターカクテル(SigmaカタログNo P8340)を含有するPBSと10時間4℃で混合した。懸濁患部サンプルを遠心分離し、上澄みをapoA−Iの精製に使用した。精製においては、apoA−Iを抗HDL IgY樹脂(GenWay Biotech,San Diego,CA)に結合させ、0.1Mグリシン(pH2.5)で溶離し、そして溶出液を1Mトリス(pH8.0)に添加することにより中和した。中和したサンプルを加熱することなくサンプル負荷緩衝液中に溶解し、12.5%SDS−PAGEゲル(Criterion,BioRad Laboratories)中で泳動し、クーマシーブルー染色により検出した。SDS−PAGE分析によればカラムから回収されたタンパク質の>90%がapoA−Iであることがわかった。
【0115】
(LCタンデムMS分析)
免疫アフィニティー単離apoA−Iバンドをゲルから切り出し、上記した通りトリプシンで消化した。LCタンデムMS実験ではSurveyor HPLCポンプおよびオートサンプラーシステムを有するThermoFinnigan LTQリニアイオントラップ質量スペクトル分析器を使用した。サンプルは10cm x 75μm内径のキャピラリーカラムに注入し、これを約1μL/分で50mM酢酸中のアセトニトリルの直線勾配により溶離させた。選択反応モニタリング実験(SRM)を用いてマッピング実験において特徴付けられた各改変チロシン残基を含有するペプチドの分子イオンの生成物イオンスペクトルを記録した。これらのペプチドのクロマトグラムは、該当するCIDスペクトル中で最も大量の生成物イオンへの分子イオンのフラグメント化をプロットすることにより再構築した。適切なペプチドの検出はその保持時間において記録されたCIDスペクトルにより確認した。
【0116】
(統計学的分析)
統計学的有意差はTukey−Kramerの多重比較試験を用いた一元分散分析またはStudentのt検定の何れかにより求めた。統計学的有意差はp<0.05の場合に報告する。
【0117】
(実施例4 apoA−Iにおけるニトロ化および塩素化の部位のマッピング)
初期の実験は種々の濃度の過酸化水素を用いた酵素改変系(MPO/H/NO)および種々の濃度のパーオキシニトライトを用いた非酵素系の両方でHDLを処理することにより生産したapoA−Iにおけるチロシンニトロ化部位を検出することに着目していた。各処理の後、HDL中のタンパク質を冷アセトンで沈殿させ、SDS−PAGEで分離し、そしてapoA−Iバンドをゲルから切り出してトリプシンによるゲル内消化に付した。消化物はイオントラップ質量スペクトル分析システムのデータ依存性モードを用いてキャピラリーカラムHPLCタンデム質量スペクトル分析により分析した。約2000のCIDスペクトルが記録され、これらのスペクトルは改変ペプチドのスペクトルについて検索した。検索作業はapoA−Iのアミノ酸配列に着目し、ニトロ化ペプチドのスペクトルを発見するために+45Daのチロシン残基質量差を用いた。これらの分析ではタンパク質配列の95%に相当するペプチドが検出され、それには成熟apoA−I配列内のチロシン残基7個全てを含有していたペプチドも含まれていた。ニトロチロシン残基(Y192およびY166)を含有する2ペプチドが過酸化水素濃度<50μMにおいてMPO/H/NOで処理したHDL中に検出された。より高い過酸化水素濃度(>100μM)においては、別のニトロチロシン(Y29およびY236)含有ペプチドも検出された。3残余チロシン残基はこれらの分析において検出され配列決定されたペプチドに含有されていたが、試験した如何なる反応条件下においても相当するニトロ化形態は検出されなかった。比較として100μMパーオキシニトリルとのHDLの同様の反応では3チロシン残基;Y166、Y18およびY236におけるapoA−Iのニトロチロシン改変が生じた。ここでもまた、残余のチロシン残基は未ニトロ化形態においてのみこれらの分析で検出された。
【0118】
5ニトロ化ペプチドのCIDスペクトルを図1に示す。各ペプチドに付き該当するCIDスペクトルに記録された生成イオンのシリーズにより同一性が確立される。これらのCIDスペクトルの成分はニトロチロシン部分の特徴的残基質量である(208Da)。全体として、ペプチド分子量測定、CIDスペクトルにおけるペプチド配列情報および既知apoA−Iアミノ酸配列の組合せにより、ニトロチロシン位置の明確な帰属が可能となる。
【0119】
その後の実験においてはHDLを改変するための酵素的(MPO/H/Cl)および非酵素的(HOCl)反応の両方による相補タンパク質塩素化系を使用した。塩素化のための4部位、即ちY192、Y166、Y29およびY236がこれらの反応の両方において検出された。これらはMPO/H/NO反応によりニトロ化されたチロシン残基と同様であった。ニトロ化部位で観察されたとおり、Y192およびY166の塩素化は過酸化水素濃度<50μMで検出されたのに対し、Y29およびY236の塩素化は>100μM過酸化水素を必要とした。パーオキシニトライト処理で観察されたY18ニトロ化部位はMPO−またはHOCl−媒介反応の何れによっても塩素化されなかった。図2は4塩素化ペプチドのCIDスペクトルを含む。これらのCIDスペクトルはクロロチロシンの残基質量を含むフラグメント化パターンを特徴とする(より大量の35Cl同位体については197Da)。ニトロ化ペプチドについて上記した通り、ペプチド分子量、CIDスペクトルにおける情報およびapoA−Iアミノ酸配列の組合せによりクロロチロシン位置の明らかな帰属が可能となる。
【0120】
(実施例5.定量的分析による好ましい改変部位の同定)
apoA−Iにおけるニトロ化および塩素化部位の包括的な地図を図3に示す。初期マッピング実験の間に行われた1つの観察は種々の改変の潜在的階層構造であり、MPO媒介ニトロ化/塩素化部位の2つは、他の2つ、即ちパーオキシニトライトで改変されなかった1MPO媒介改変部位およびMPOで改変されなかった1パーオキシニトライト改変部位より先に改変された。その結果、ニトロ化および塩素化の部位の順序を特に決定するために定量的な実験を設計した。
【0121】
これらの定量的な実験はトリプシン消化により形成されるそれぞれのチロシン含有ペプチドとして示されるapoA−Iの種々の領域の消失を追跡するための以前に本発明者らが記載したNative Peptide Reference法を用いた(Willard,B.B.,Ruse,C.I.,Keightley,J.A.,Bond,M.,and Kinter,M.(2003)Anal.Chem.75,2370−2376,Ruse,C.I.,Willard,B.,Jin,J.P.,Haas,T.,Kinter,M.,and Bond M.(2002)Anal.Chem.74,1658−1664)。HDLはMPO媒介反応においてH漸増量、または非酵素的反応においてパーオキシニトライトおよびHOClの漸増量でニトロ化または塩素化条件下に処理した。反応は−20℃のアセトンでタンパク質を沈殿させることにより停止させ、SDS−PAGEにより分離した。apoA−Iバンドを切り出してトリプシン消化に付し、そして消化物はキャピラリーカラムLC−ESI−MSで分析した。apoA−Iの個々の部位のMPO媒介改変の進行は各チロシン含有ペプチドの質量クロマトグラムをプロットし、そして未改変のネイティブの比較参照ペプチドとの相対比較における各々のピーク面積比を計算することによりモニタリングした。図4Bおよび5Bに示す通り、apoA−Iの各部位におけるHの漸増濃度によるMPO媒介改変の進行は消化物中の各々の未改変ペプチドの回収率低下をもたらす。これらのデータはY192が好ましいMPO触媒ニトロ化および塩素化の部位として作用し、それに続くものがY166およびY29であり、そして酸化剤のより高濃度においてもY236の改変は極少程度のみであった。酸化的改変の匹敵するパターンもまたHOCl反応において観察された。注目すべき点はHOCl反応の相対的有効性はMPO触媒塩素化反応のものよりも有意に低値であった。特にMPO触媒酸化反応はモル等量のHOClと相対比較して検討したHの各濃度においてより高値の改変をもたらした。一方、パーオキシニトライト反応の用量応答特性は改変反応の効率およびY18のニトロ化の明確な優先性およびY192におけるニトロ化の非存在の両方において異なっていた。
【0122】
(実施例6.酸化的に改変されたapoA−Iの機能的な障害)
図4Aおよび5AはABCA1媒介コレステロール流出特性に対するHDLの改変の用量依存的作用を示す。HDLはMPO/H/NO系、パーオキシニトライト、MPO/H/Cl系またはHOClで処理した。次に8Br−cAMPによる前処理の存在下および非存在下においてコレステロール負荷マウスマクロファージRAW264.7細胞と共に処理サンプルをインキュベートすることによりコレステロールの流出を測定した。8Br−cAMPの非存在下においては、RAW264.7細胞はABCA1のかなりのレベルを発現することはなく、そしてHDLへのABCA1依存性コレステロール流出を支援するがapoA−Iへのコレステロール流出はない(Smith,J.D.,Miyata,M.,Ginsberg,M.,Grigaux,C.,Shmookler,E.,and Plump,A.S.(1996)J.Biol.Chem.271,30647−30655,Remaley,A.T.,Stonik,J.A.,Demosky,S.J.,Neufeld,E.B.,Bocharov,A.V.,Vishnyakova,T.G.,Eggerman,T.L.,Patterson,A.P.,Duverger,N.J.,Santamarina−Fojo,S.,and Brewer,H.B.,Jr.(2001)Biochem.Biophys.Res.Comm.280,818−823,Takahashi,Y.,Miyata,M.,Zheng,P.,Imazato,T.,Horwitz,A.,and Smith,J.D.(2000)Biochim.Biophys.Acta.1492,385−394,Chen,W.,Sun,Y.,Welch,C.,Gorelik,A.,Leventhal,A.R.,Tabas,I.,and Tall,A.R.(2001)J.Biol.Chem.276,43564−43569)。RAW264.7細胞の8Br−cAMP処理はABCA1 mRNAおよびタンパク質を誘導し、HDLへの約2倍高値のコレステロール流出および脂質非含有apoA−Iへのコレステロール流出の顕著なレベルを可能にしている(Smith,J.D.,Miyata,M.,Ginsberg,M.,Grigaux,C.,Shmookler,E.,and Plump,A.S.(1996)J.Biol.Chem.271,30647−30655,Takahashi,Y.,and Smith,J.D.(1999)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.96,11358−11363,Remaley,A.T.,Stonik,J.A.,Demosky,S.J.,Neufeld,E.B.,Bocharov,A.V.,Vishnyakova,T.G.,Eggerman,T.L.,Patterson,A.P.,Duverger,N.J.,Santamarina−Fojo,S.,and Brewer,H.B.,Jr.(2001)Biochem.Biophys.Res.Comm.280,818−823,Takahashi,Y.,Miyata,M.,Zheng,P.,Imazato,T.,Horwitz,A.,and Smith,J.D.(2000)Biochim.Biophys.Acta.1492,385−394)。従って、8Br−cAMP前処理の存在または非存在はABCA1依存性および非依存性のコレステロール流出の両方の測定を可能にする。図7Aおよび8Aに示す通り、MPO媒介のニトロ化および塩素化の反応、および、HOCl処理はHDLへのABCA1非依存性の流出に影響することなくHDLへのABCA1依存性コレステロール流出の用量依存的な損失をもたらした。全体として、種々の改変反応による機能的障害に関する効率の順位付けはMPO媒介塩素化>HOCl塩素化>MPO媒介ニトロ化>>パーオキシニトライトニトロ化であった。
【0123】
のみにより処理されたHDLの対照反応はABCA1依存性コレステロール流出の低下を示さず、MPO触媒パーオキシダーゼ反応の重大な性質を示した。同じチロシン残基もまた改変され、そして、完全MPO媒介改変系により処理した脂質非含有apoA−Iを用いた対照試験で低減されたABCA1依存性コレステロール流出の同じパターンが観察された(データ示さず)。これらの結果は脂質の改変ではなくタンパク質の改変と合致しており、流出活性の損失の原因である。
【0124】
apoA−Iの脂質結合特性に対するMPO媒介改変の作用もまた試験した。これらの実験はホスホリパーゼC(PLC)で処理したLDLの凝集を抑制するapoA−Iの能力をモニタリングすることによりapoA−Iの脂質結合活性を測定している。apoA−Iの抑制はapoA−I媒介コレステロール流出における初期工程である脂質結合過程を介した改変疎水性LDLをコーティングするその能力によるものである。図6に示す通り、PLCで処理したLDLは未改変のapoA−Iまたは過酸化水素単独で前処理したapoA−Iの脂質結合活性により有意に低減された時間依存性凝集をもたらしている(図9A)。MPO媒介のニトロ化および塩素化の系(それぞれMPO/H/NOおよびMPO/H/Cl)によるapoA−Iの前処理はこの還元を有意に抑制し、ニトロ化反応は10%抑制をもたらし、塩素化反応は35%抑制をもたらした。同一の改変または対照のapoA−Iの製剤をABCA1依存性脂質流出レセプター活性に関して試験し、そして、apoA−Iの脂質結合活性の低下はABCA1依存性流出レセプター活性の観察された損失と直接相関していた(図9B)。
【0125】
(実施例7.インビボで観察される特異的apoA−I改変部位)
上記したMPOによるインビトロで改変されたapoA−IのLCタンデムMS試験ではインビボの評価のための一連の改変部位が得られた。図7はヒトアテローム組織から単離したapoA−IのLCタンデムMC分析から得られたSRMクロマトグラムのシリーズを示す。2つの一次ニトロ化部位Y192およびY166においてニトロ化を含有するペプチドの溶離は、それぞれ図7Aおよび7Cのクロマトグラムに示す通りである。これらの保持時間において記録されたCIDスペクトル(それぞれ図10Bおよび10D)はこれらのニトロ化ペプチドの正確な同一性の明確な証明を与えている。未改変ペプチドと相対比較した場合のニトロ化されたペプチドの量は各クロマトグラフィーピーク面積を積分することによりY192含有ペプチドで9%、そしてY166含有ペプチドで0.2%と推定できる。これらの数値はニトロ化対未ニトロ化のペプチドの相対的LC−MS応答が測定されていないため、推定値とみなすべきである。インビトロの実験を介して同定された二次ニトロ化部位をターゲティングする同様の実験ではニトロ化された形態においてY29およびY236含有ペプチドを検出することができなかった(データ示さず)。これらのニトロ化ペプチドを検出することが不可能であったことは、これらの部位のMPO媒介ニトロ化の比較的不良な効率と合致している。
【0126】
本発明者らは部位特異的塩素化ペプチドの存在を確認する試みを行った。Y192位に塩素化を含有するペプチドは、この部位がインビトロモデルにおける塩素化の好ましい部位として同定されたにもかかわらず、検出されなかった(データ示さず)。Y166位において塩素化を含有するペプチドは、CIDスペクトル(下パネル図7D)がY166の塩素化およびY166の酸化を含有するペプチドイオンが重複したスペクトルを示し、トリヒドロキシフェニルアラニンを示しているにも関わらず、検出されなかった(下パネル図7B)。この酸化ペプチドは相当する塩素化物質種より2Da小さい分子量を有する。しかしながら二重に荷電したイオンであるため、塩素化および酸化のペプチドは質量スペクトル分析器のm/zスケールにおいては1Daの差となる。このm/z差はイオントラップ検出器の質量分析の第1段階の2Da許容度のウインドウにおいては識別不可能である。得られた単一荷電のフラグメントイオンは2Da差が有り、CIDスペクトルにおいて識別可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図9】
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【図10】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−2460(P2011−2460A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164386(P2010−164386)
【出願日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【分割の表示】特願2006−542851(P2006−542851)の分割
【原出願日】平成16年12月6日(2004.12.6)
【出願人】(500064708)ザ クリーブランド クリニック ファウンデーション (12)
【Fターム(参考)】