説明

心臓負荷試験のために選ばれた個体のリスク階層化のためのナトリウム利尿ペプチドおよび胎盤成長因子レベルの使用

本発明は、個体が心臓負荷試験の結果として心臓血管の有害な事象を患うか否かのリスクを決定するための、次のステップを含む方法に関する: (a) 胎盤成長因子のレベルを好ましくは生体外で測定すること、ここで(b) 胎盤成長因子のレベルが少なくとも増加している場合、その個体は心臓負荷試験の結果として有害な事象を患うリスクが少なくともある。さらなる実施形態においては、さらに別のマーカー、特にナトリウム利尿ペプチド、特にNT-proBNPを測定する。本発明により、環境および条件に応じて患者を階層化することができ、これに従い心臓負荷試験を行うべきである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は心臓負荷試験のために選ばれた個体のリスク階層化のための方法および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
心臓負荷試験は、心臓血管機能障害、特に冠状動脈性心疾患の診断のための重要かつ広く使用されている試験である。心臓負荷試験は、心臓血管系、特に心臓が、運動中にどのように機能するかを調べるために行われる。典型的な場合、個体はトレッドミル上を歩くかまたは静止自転車に乗ることを求められ、その間に心電図または心エコー図のような診断パラメーターを記録する。運動はまたドブタミンまたはアデノシンなどといった薬物を投与することにより刺激することができる。試験は一般開業医や地元の心臓専門医により規定通りに行われる。
【0003】
ほとんどの個体は特に問題を経験することなく心臓負荷試験を受ける。しかしながら、かなりの数の個体はこの試験の結果として深刻な心臓血管の有害な事象、例えば心筋梗塞を発症する (Pina、I.L.、Balady、G.J.、Hanson、P.,ら (1995) Guidelines for Clinical Exercise Testing Laboratories. Circulation, 91巻, 912-921を参照のこと)。こうした有害な事象は致命的または危うく致命的でさえありうる。致命的ではない有害な事象、例えば致命的ではない心筋梗塞でさえも、深刻な結果をもたらすことがある。なぜならば梗塞の結果破壊された筋肉の組織を再生させることはできないからである。したがって、心臓機能の深刻な機能障害とさらなる梗塞または有害な事象の傾向が残る可能性があり、負荷試験は個体にとって有意のリスクをはらんでいる。
【0004】
負荷試験をより安全なものとする一つの方法は、試験をもっぱら臨床施設のみで行い、かつ二次救命措置の訓練を受けている臨床医に介入できるように待機してもらうことである。実際に、そのような提言はなされている(Pina, I.L., Balady, G.J., Hanson, P.,ら (1995), Circulation, 91巻、上に引用、を参照のこと)。しかしながら、そのような施設はどこにでもあるとは限らず、そしてかかる予防措置は、試験に必要なリソースを増加させるだけでなく、さらに負荷試験の予約のスケジューリングにおける望ましくないほど長大な順番待ちリストと遅延をもたらし得る。重要な診断が遅延することにより、かかる遅延はそれ自体がリスクを抱えうる。
【0005】
現在は、関連する心疾患の既知の病歴の個体のみが臨床施設に紹介される。なぜならばかかる個体は既に深刻に損なわれた臓器を試験中に酷使するリスクがあると思われるからである。したがって、依然として、安全ではない環境で負荷試験を受ける個体で有害な事象を経験する者がいる。
【0006】
一部の事例では、関連する心臓機能障害を検出するために、試験を行う前に心臓機能のパラメーター、例えば心エコー図、を測定する。しかしながら、多くの心臓機能障害が心エコー図では未検出のままであることから、かかる測定は不十分のようである。
【0007】
一部の事例では、トロポニンT、クレアチンキナーゼ (CK)またはミオグロビンのレベルを決定することにより、試験時における心筋壊死の存在を除外する。しかしながら、こうした試験は重症の心疾患のみを検出する。
【0008】
Footeらは、運動負荷試験を受けている患者において、運動負荷試験の前および後の、ナトリウム利尿ペプチドBNPおよびNT-proBNPのレベルを測定した(Foote, R.S., Pearlman, J.D., Siegel, A.H., Yeo, K-T.J. (2004). Detection of Exercise-Induced Ischemia by Changes in B-Type natriuretic peptides. Journal of the American College of Cardiology, 44巻, no. 10., pp. 1980-1987)。Footeらは試験の前後のレベルを、負荷試験中の心筋虚血の存在または不在と相関させた。しかしながら、この研究には既に冠動脈疾患の知られている患者のみが登録された。さらに、休息時のNT-proBNPおよびBNPのレベルが正常の範囲内にある患者のみが登録された。したがってこの研究では、NT-proBNPおよびBNPが、個体を負荷試験中に有害な事象を患うリスクにしたがい階層化することができるか否かを結論付けることはできなかった。
【0009】
Weberらは、安定狭心症の患者におけるNT-proBNPのレベルを運動負荷試験の前後に分析した(Weber, M., Dill, T., Arnold, R., Rau, M.,ら (2004). N-terminal B-type natriuretic peptide predicts extent of coronary artery disease and ischemia in patients with stable angina pectoris. Am Heart J, 148巻, pp. 612-20)。彼らはその患者サンプルにおいて、負荷試験中に、NT-proBNPのレベルが誘発性虚血の患者において誘発性虚血が不在の患者と比較して上昇していた(396 pg/mL対160 pg/mL)ことを見出した。
【0010】
Sabatineらは、運動負荷試験の前後で循環BNP、NT-proBNPおよびNT-proANPのレベルを調べた(Sabatine, M.S., Morrow, D.A., de Lemos, J.A., Omland, T., Desai, M.Y.,ら (2004). Acute Changes in Circulating Natriuretic Peptide Levels in Relation to myocardial infarction. Journal of the American College of Cardiology, 44巻, no. 10, pp. 1988-95)。彼らはその患者サンプルにおいて、NT-proBNPのレベルが、虚血無し、軽度〜中程度の虚血および重度の虚血と相関することを見出した。同様の知見がBNPおよびNT-proANPについて得られた。
【0011】
ここに挙げた研究は特定のナトリウム利尿ペプチドおよび負荷試験中の虚血の存在または不在に焦点を当てている。しかしながら、こうした諸研究で見出されたレベルは相当に異なっており、ナトリウム利尿ペプチドが単独で、負荷試験中の虚血の出現に関する十分信頼できる予測を可能にするか否かは疑問が残る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、当技術分野の現状では、個体が心臓負荷試験の結果として心臓血管の有害な事象を患うか否かのリスクを決定するために特に適した方法はないようだ。さらに、個体を心臓負荷試験の結果として心臓血管の有害な事象を患うリスクに関して階層化するための方法および用途が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、以下のステップを含む、個体が心臓負荷試験の結果として心臓血管の有害な事象を患うか否かのリスクを決定する方法によって達成される:
a) 胎盤成長因子またはその変異体のレベルを、好ましくは生体外で、測定すること、ここで
b) 胎盤成長因子またはその変異体のレベルが少なくとも増加している場合、心臓負荷試験の結果として前記個体は心臓負荷試験の結果として有害な事象を患うリスクが少なくともある。
【0014】
さらに本発明の目的は、以下のステップを含む、個体が心臓負荷試験の結果として心臓血管の有害な事象を患うか否かのリスクを決定する方法によって達成される:
a) 胎盤成長因子またはその変異体のレベルを、好ましくは生体外で、測定すること、
aa) ナトリウム利尿ペプチドまたはその変異体のレベルを、好ましくは生体外で、測定すること、ここで
ba) 胎盤成長因子およびナトリウム利尿ペプチド、またはそれらの対応する変異体の両方のレベルが少なくとも増加している場合、前記個体は心臓負荷試験の結果として有害な事象を患うリスクが少なくともある。
【0015】
本発明の方法はまた、個体の体液または組織サンプルを取得するステップを含みうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明によると、個体において測定される胎盤成長因子(PlGF)のレベルにより、個体が心臓負荷試験の結果として有害な事象を患う可能性があるか否かというリスクを決定することができる。より具体的には、PlGFのレベルの増加は、その個体が負荷試験の結果として有害な事象を患うリスクがあることを示す。
【0017】
したがって、PlGFのレベルを測定することにより、負荷試験に選ばれた個体を任意のリスク群、例えば心臓負荷試験の結果として有害な事象を患う(増加したまたは非常に増加した)リスクのある個体、および有害な事象を患うリスクが増加していない個体、に割り当てることができる。
【0018】
本発明においては、PlGFのレベルが、心臓負荷試験の結果として有害な事象を患うリスクを示す情報を提供するということが見出された。PlGFのレベルが、ナトリウム利尿ペプチドのレベルと対照的に、高血圧や運動のような短期変化の影響をさほど受けないことが見出された。そうではなく、PlGFのレベルは、個体においてより慢性の心疾患および/またはより重症の心疾患が存在するか否かを示すようである。本発明は、PlGFのレベルにより得られる情報を、リスク予測の意味合いにおいて、利用することができることを見出した。
【0019】
対照的にナトリウム利尿ペプチド(例えばBNP、NT-proBNPおよびNT-proANP)のレベルは、個体の年齢と性別の影響をより受けやすいようである。こうしたペプチドのレベルは高血圧の事例においても上昇していることがある。また、これらのレベルは血流障害以外の心筋症の事例、例えば心筋炎または弁疾患の事例においても上昇していることがある。また、例えばBNPレベルは、心筋虚血ではない正常被験者および運動選手において運動後に増加することがあることも知られている。したがって、該レベルは単純にそれを測定する直前の運動に起因して増加することがある。
【0020】
NT-proBNPおよびBNPのレベルが休息時には正常範囲内にある、既知の冠動脈疾患の患者がいることにも留意されたい (Footeら (2004)、上に引用)。この研究では、明らかに負荷試験において心筋虚血を示した患者が数人いたが、ただしその患者のNT-proBNPおよびBNPのレベルは、他の研究で関連性があるとされたレベルによると、誘発性の心筋虚血に関連するものではなかった可能性がある(Weberら, (2004). Am Heart J, 148巻, pp. 612-20およびSabatine,ら (2004). Journal of the American College of Cardiology, 44巻, pp. 1988-95、いずれも上に引用)。
【0021】
したがって、BNP、NT-proBNPやNT-proANPレベルの測定は単独では、誘発性の心筋虚血に関していくつかの偽陽性および/または偽陰性結果をもたらす可能性がある。
【0022】
しかしながら、本発明は、個体が心臓負荷試験の結果として心臓血管の有害な事象を患うか否かのリスクを決定するために、PlGFおよびナトリウム利尿ペプチドのレベルを共に、同時にまたは異なって、測定することができることを見出した。PlGFおよびナトリウム利尿ペプチドから得られる情報は、有利に互いを補完することができ、したがって改善されたリスク判断を提供しうることが見出された。
【0023】
有利に、本発明は個体を種々の負荷試験施設に割り当てることを可能にする。例えば、本発明により増加したリスクまたは非常に増加したリスクの示された個体は、好ましくは有害な事象に備えて介入のための改善された予防措置を提供する施設にて試験される。かかる個体については、負荷のレベルを下げることにより、有害な事象を患うリスクを低減させることができる。
【0024】
対照的に、本発明の方法が有害な事象を患うリスクの増加はないと示した個体は、試験を計画どおりに、場合により地元の一般的臨床医のところで受けることができる。これは、病院での不必要な長い順番待ちリストを回避できるようにし、試験を可及的速やかに行うことを可能にする。むろん、個体の試験をその地元の臨床医の診療所で行うか否かの判断は臨床医の自由裁量により、臨床医はその判断を、さらなる情報、例えば全身的な健康状態、心臓病の病歴などに基づいて行う。
【0025】
本発明は特定のバイオマーカー、特に「生化学マーカー」および「分子マーカー」を利用する。バイオマーカーは当業者に知られている。この用語は個体中で、特定の症状、疾患、または合併症の存在または不在に応じて差次的に存在する(すなわち増加または低下したレベルで存在する)する分子を言う。「生化学マーカー」および「分子マーカー」という用語は当業者に知られている。特に、生化学マーカーまたは分子マーカーは、特定の症状、疾患、または合併症の存在または不在に応じて(例えば発現またはターンオーバーのレベルの増加または低下を介して)差次的に存在する遺伝子発現産物である。通常、分子マーカーは核酸(mRNAなど)として定義され、これに対して生化学マーカーはタンパク質またはペプチドである。適当なバイオマーカーのレベルは特定の症状、疾患、またはリスクの存在または不在を示すことができ、したがってその症状、疾患またはリスクの診断または判断を可能にする。
【0026】
本発明は特に、PlGFおよびナトリウム利尿ペプチドを生化学マーカーとして利用する。
【0027】
胎盤成長因子 (PlGF、またPGFとも呼ばれる)は当業者によく知られている。これは血管透過性因子(VPFまたはVEGF)に関連するタンパク質である。このタンパク質は長さが149アミノ酸であり、VPFの血小板由来増殖因子様領域と同一性が53%である。PlGFは、発生、成人期の特定の期間、および腫瘍形成における血管新生に関わっているようである。
【0028】
本発明におけるナトリウム利尿ペプチドには、ANP型およびBNP型ペプチドならびにその変異体 (例えばBonow, R.O. (1996). New insights into the cardiac natriuretic peptides. Circulation 93: 1946-1950を参照されたい)が含まれる。
【0029】
ANP型ペプチドは、プレ-proANP、proANP、NT-proANP、およびANPを含む。
【0030】
BNP型ペプチドは、プレ-proBNP、proBNP、NT-proBNP、およびBNPを含む。
【0031】
プレ-プロペプチド(プレ-proBNPの場合は134アミノ酸)は短いシグナルペプチドを含み、これが酵素的に切断されて除かれプロペプチド(proBNPの場合には108アミノ酸)が放出される。このプロペプチドはさらに切断されてN末端プロペプチド(NT-proBNPの場合にはNT-proペプチド、76アミノ酸)、および活性なホルモン(BNPの場合には32アミノ酸、ANPの場合には28アミノ酸)となる。
【0032】
本発明における好ましいナトリウム利尿ペプチドは、NT-proANP、ANP、NT-proBNP、BNP、およびその変異体である。ANPおよびBNPが活性なホルモンであり、それらの対応する不活性な対応物(NT-proANPおよびNT-proBNPなど)よりも半減期が短い。したがって、所望の時間的経過に応じて、活性形態または不活性形態の測定のどちらかが有利でありうる。本発明における最も好ましいナトリウム利尿ペプチドはNT-proBNPおよびその変異体である。
【0033】
この意味での「変異体」という用語は、前記タンパク質またはペプチドと実質的に類似しているタンパク質またはペプチドを言う。「実質的に類似する」という用語は当業者に広く理解されている。特に変異体とは、ヒト集団における最も優勢なペプチドアイソフォームのアミノ酸配列と比較して、アミノ酸置換を示すアイソフォームまたは対立遺伝子でありうる。好ましくは、かかる実質的に類似するペプチドは、タンパク質またはペプチドの最も優勢なアイソフォームと、少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも95%という配列類似性を有する。実質的に類似するものには分解産物もあり、例えば対応する全長タンパク質またはペプチドを指向する診断手段またはリガンドにより依然として認識されるタンパク質分解産物もまた実質的に類似する。「変異体」という用語は、スプライス変異体をも言う。
【0034】
「変異体」という用語はまた翻訳後修飾ペプチド、例えばグリコシル化ペプチドに関する。例えば、PlGF についてはNグリコシル化が記載されている。「変異体」はまた、サンプルの回収後に改変されたペプチド、例えばペプチドへの共有結合または非共有結合による標識、特に放射性標識または蛍光標識である。
【0035】
特定の変異体およびその測定方法の例は既知である(例えばAla-Kopsala, M., Magga, J., Peuhkurinen, K.ら (2004): Molecular heterogeneity has a major impact on the measurement of circulating N-terminal fragments of A-type and B-type natriuretic peptides. Clinical Chemistry. 50(9)巻, 1576-1588を参照されたい)。
【0036】
PlGFには4種のアイソフォームがあり、それらはPlGF-1 (PGF1)、PlGF-2 (PGF2)、PlGF-3 (PGF3)およびPlGF-4 (PGF4)と命名されている。本発明における好ましいアイソフォームは、PlGF-1であり、これは血液中に存在する。
【0037】
本発明にはまた、異なるマーカーを共に、同時にまたは異なって測定することが含まれる。特に本発明は、PlGFを、ナトリウム利尿ペプチド、特にNT-proBNPと組み合わせて測定することに関する。本発明においては、どのようなさらなるマーカーをPlGFと組み合わせて測定してもよい。かかるマーカーの例としては、心臓トロポニンTおよび/またはIMA (虚血改変アルブミン)が挙げられる。
【0038】
「心臓負荷試験」(これを本発明において、単に「負荷試験」とも呼ぶ)という用語は当業者に知られている。心臓負荷試験は、心臓血管系、特に心臓が運動中にどのように機能するかを調べるために行う。心臓負荷試験では、個体を心臓負荷に供し、その間に1以上の心臓血管機能の診断パラメーターを記録する。
【0039】
負荷は物理的なものであってよく、特に運動 (「運動負荷試験」または「運動耐性試験」として知られている)、例えばトレッドミルの上を歩くまたは走ること、静止自転車に乗ること(「自転車エルゴメーター運動負荷試験法」としても知られている)、または腕の運動試験(腕エルゴメーターを使用)でありうる。負荷はまた、個体に特定の薬剤 (例えばジピリダモール、ドブタミンまたはアデノシン)を投与することにより刺激することができる。典型的には、かかる薬物は心拍の頻度の増加、したがって負荷の増加を誘発する。好ましくは、かかる薬剤はそのままでは心臓毒性ではない。薬物誘発負荷は例えば、身体障害のある個体に使用することができる。好ましくは、負荷は、有害な事象に備えて、速やかに消去することができる性質のものである。したがって、例えば血液量の増加は、身体的な負荷のさほど好ましくない形態である。別の例として、投与される薬物は体内で短い半減期を有するべきである。
【0040】
一般には、試験中に、すなわち1以上の診断パラメーターを記録しているときに、負荷のレベルを増加させる。例えば、トレッドミルの傾斜または速度を上げる、自転車駆動部の抵抗を増加させる、または薬物の用量を増加させる。
【0041】
心臓負荷試験中に記録する心臓血管機能の診断パラメーターはどのようなものであってもよい。これには以下のいずれかまたはその組み合わせが含まれうる: (a)心電図の記録(特にST部分の変化の分析、特に上昇または低下)、(b) 心エコー図の記録、(c) 放射性同位体分布の記録、例えばタリウムシンチグラム、(d) 血圧の記録、(e) 呼吸速度および/または心拍数の記録、(f) 換気ガス交換分析。
【0042】
ST部分変化(特に上昇または低下)、心筋虚血の兆候を伴う胸痛、および/または血圧の異常増大の場合には、試験を中止するべきである。
【0043】
負荷試験の典型例は運動EKGであり、これは心電図を記録している間の運動試験(この場合は典型的には静止自転車に乗るかまたはトレッドミル上を歩くこと)を要する。
【0044】
負荷試験のさらなる詳細は、Pinaら (1995)による上記文献に記載されており、その全内容を参照により本明細書に組み入れる。特に「Equipment」および「Equipment calibration」と上に表記された章を参照されたい。
【0045】
本発明は、個体が心臓負荷試験の結果として何らかの重症度の心臓血管の有害な事象を患うか否かのリスクを決定する(または予測する)ことを可能にする。「心臓血管の有害な事象」(または単に「有害な事象」)という用語は当業者に知られている。本発明の文脈において、「心臓血管の有害な事象」(または単に「有害な事象」)という用語は何らかの種類の心臓または心臓血管系の機能障害に関する。特にこの用語は、あらゆる種類の可逆または不可逆心筋血流障害、可逆または不可逆心筋虚血、ST部分変化(特に上昇または低下)、狭心症、心筋壊死、心筋梗塞 (MI、これにはST上昇MIまたは非ST上昇MIが含まれる)、および発作に関する。重症の有害な事象の例としては、不可逆性心筋血流障害または不可逆性心筋虚血、心筋壊死、心筋梗塞(MI、これはST上昇MIまたは非ST上昇MIを含む)、および発作が挙げられる。非常に深刻な有害な事象の例としては、心筋梗塞(MI、これにはST上昇MIまたは非ST上昇MIが含まれる)、および発作が挙げられる。
【0046】
特に本発明は心臓負荷試験の結果として発生する有害な事象に関する。どのような状況下で有害な事象が負荷試験の「結果として」発生すると見なされうるか当業者には知られている。かかる有害な事象は、負荷試験により、引き起こされた、惹起されたまたは誘発されたと見なすことのできるものである。負荷試験の結果として有害な事象が発生したことの典型的な指標は、負荷試験と有害な事象の間の時間関係が近接していることである。したがって、有害な事象は特に、負荷試験中にまたは負荷試験の少し後(特に数時間または1日以内)に生じたならば負荷試験の結果として発生したと見なすことができる。これは後に診断される機能障害の初期症状の出現により示されうる。例えば発作は、試験中にまたは試験の少し後に無感覚または麻痺の初期兆候が現れたならば、負荷試験の結果として生じたと見なすべきである。
【0047】
本発明は、負荷試験そのものに加え、診断情報を提供することも見出された。例えば、本発明の方法が増加または非常に増加したリスクを示すときは、負荷試験それ自体が心臓血管機能障害を明らかにしなかったとしても、個体をさらなる心臓検査に回すことができる。
【0048】
本発明における個体は、心臓負荷試験に選ばれた任意の見かけ上健常な個体または患者でありうる。見かけ上健常な個体は心臓血管機能障害の症状を経験したことのない任意の個体でありうる。かかる個体は例えば通常の健康診断(例えば多くの企業または政府がその従業員に推奨するもの) を受ける個体でありうる。さらなる例としては健康検査を受けている運動選手またはパイロットが挙げられる。
【0049】
対照的に患者とは、心臓血管機能障害、例えば胸痛、息切れ (呼吸困難)、動悸の症状を経験したことのある(または現在経験している)個人である。特に患者とはNYHA分類によると心臓血管機能障害を有すると分類されるような症状を示す個体である。
【0050】
NYHA分類はNew York Heart Association (NYHA)による心臓血管機能障害のための機能的な分類システムである。クラスIの患者は心臓血管機能障害の自明な症状がない。身体活動は制限されておらず、通常の身体活動は過度の疲労、動悸、または呼吸困難(息切れ)を引き起こすことがない。クラスIIの患者は身体活動が若干制限される。この者達は休息時には落ち着いているが、通常の身体活動は疲労、動悸または呼吸困難をもたらす。クラスIIIの患者は身体活動の著しい制限が見られる。この者達は休息時には落ち着いているが、通常未満の活動は疲労、動悸、または呼吸困難を引き起こす。クラスIVの患者は苦痛なしには身体活動を行うことができない。この者達は休息時にも心不全の症状を示す。何らかの身体活動を行うと苦痛は増す。
【0051】
本発明は特にNYHAクラスIまたはIIに分類される患者にとって有利である。当技術分野の現状では、NYHAクラスIまたはIIに分類される患者はリスクが予期されることなく負荷試験に供されることがある。有利に、本発明はこうした患者群におけるリスクを有する個体を検知することができる。かかる患者は好ましくは本明細書に記載のような条件下でのみ負荷試験を受けるべきである。同じ事は無症状の個体、すなわち見かけ上健常な個体についても当てはまる。
【0052】
対応するペプチドのレベルを決定するために使用することのできる方法および診断手段は当業者に知られている。こうした方法にはマイクロプレートELISAに基づく方法、完全自動化またはロボットによる免疫アッセイ(例えばElecsysTM 分析機にて利用可能)、CBA (酵素コバルト結合アッセイ、これは例えばRoche-HitachiTM 分析機にて利用可能である)、およびラテックス凝集アッセイ(例えばRoche-HitachiTM分析機にて利用可能)が含まれる。
【0053】
さらに、当業者はペプチドまたはポリペプチドのレベルを測定する種々の方法に精通している。「レベル」という用語は、個体または個体から得られたサンプル中のペプチドまたはポリペプチドの量または濃度を言う。
【0054】
本発明における「測定する」という用語は、タンパク質、ペプチド、ポリペプチドまたは他の対象物質の量または濃度を、好ましくは半定量的にまたは定量的に決定することを言う。本発明において特に対象となるタンパク質またはペプチドは、ナトリウム利尿ペプチドおよびPlGFである。測定は直接または間接的に行ってもよい。間接的な測定には、細胞性応答、結合リガンド、標識または酵素反応産物の測定が含まれる。
【0055】
本発明において量は濃度にも関連する。大きなが既知のサンプル中の対象の物質の総量からその物質の濃度を計算することができることは明らかであり、その逆もまた然りである。
【0056】
測定は当技術分野で既知のどのような方法により行ってもよい。好ましい方法を以下に記載する。
【0057】
好ましい実施形態では、対象のタンパク質、ペプチド、またはポリペプチドのレベルを測定する方法は、(a) タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドに対して細胞応答することのできる細胞を、該タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドと適切な時間にわたり接触させること、および(b) 細胞性応答を測定すること、の各ステップを含む。
【0058】
別の好ましい実施形態では、対象のタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドのレベルを測定する方法は、(a) タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドを適当な基質と適当な期間にわたり接触させること、および(b) 生成物の量を測定すること、の各ステップを含む。
【0059】
別の好ましい実施形態では、対象のペプチドまたはポリペプチドのレベルを測定する方法は、(a) タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドを特異的に結合するリガンドと接触させること、および(b) (場合により) 未結合のリガンドを除去すること、(c) 結合リガンドの量を測定すること、の各ステップを含む。
【0060】
好ましくは、タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドはサンプル、特に体液または組織サンプルに含まれ、サンプル中のタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドの量が測定される。
【0061】
タンパク質、ペプチドおよびポリペプチドは、組織、細胞、および体液サンプルにて、すなわち好ましくは生体外で測定することができる。好ましくは対象のタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドは体液サンプル中のものを測定する。
【0062】
本発明における組織サンプルとは、生死を問わずヒトまたは動物の体から得られたあらゆる種類の組織を言う。組織サンプルは当業者に知られている任意の方法、例えば生検法または掻爬術により取得することができる。
【0063】
本発明における体液としては、血液、血清、血漿、リンパ液、脳の液、唾液、および尿が挙げられる。特に、体液としては、血液、血清、血漿、および尿が挙げられる。ある重要な例は血漿または血清における測定である。体液のサンプルは当技術分野で既知のどのような方法により得てもよい。
【0064】
細胞サンプルを得るための方法としては、単一細胞または小さな細胞群を直接調製すること、組織を解離させること(例えばトリプシンを用いて)、および細胞を、例えば濾過または遠心分離により、体液から分離すること、が挙げられる。本発明における細胞には、血小板や他の無核細胞、例えば赤血球も含まれる。
【0065】
必要であれば、サンプルをさらに処理することもできる。特に、タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドは、当技術分野で既知の方法(これには濾過、遠心分離、またはクロロホルム/フェノール抽出のような抽出方法が含まれる)によりサンプルから精製することができる。
【0066】
細胞性応答を測定するために、サンプルまたは処理済みサンプルを細胞培養に加え、内部または外部の細胞性応答を測定する。細胞性応答には、レポーター遺伝子の発現または物質、例えばタンパク質、ペプチド、ポリペプチド、もしくは小分子の分泌が含まれうる。
【0067】
測定のための他の好ましい方法としては、対象のタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドに特異的に結合するリガンドの量を測定することが挙げられる。本発明における結合には、共有結合および非共有結合の両方が含まれる。
【0068】
本発明におけるリガンドは、対象のタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドに結合する任意のタンパク質、ペプチド、ポリペプチド、核酸、または他の物質でありうる。タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドが、ヒトまたは動物から取得または精製された場合には、それは例えばグリコシル化などにより修飾されている可能性があることはよく知られている。本発明における適当なリガンドは、かかる部位を介して専らまたは追加的にタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドに結合しうる。
【0069】
好ましくは、リガンドは測定されるタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドに特異的に結合すべきである。本発明における「特異的結合」は、リガンドが、調べるサンプル中に存在する別のタンパク質、ペプチド、ポリペプチドまたは物質と実質的に結合する(それと「交差反応する」)べきではないことを意味する。好ましくは、特異的に結合したタンパク質またはアイソフォームは、あらゆる他の関連するタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドよりも少なくとも3倍高い、より好ましくは少なくとも10倍高いおよびさらに好ましくは少なくとも50倍高い親和性で結合すべきである。
【0070】
非特異的結合は、特に調べるタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドが、例えばその大きさ(例えばウェスタンブロット上で)、またはサンプル中でのその相対的に多い存在量について、依然として識別可能であり、はっきりと測定できるのであれば、許容することができる。
【0071】
リガンドの結合は当技術分野で既知のどのような方法により測定してもよい。好ましくは、その方法は半定量的または定量的である。適当な方法を以下に記載する。
【0072】
第1に、リガンドの結合は直接、例えばNMRまたは表面プラズモン共鳴により測定することができる。
【0073】
第2に、該リガンドが対象のペプチドまたはポリペプチドの酵素活性の基質としての役割も果たす場合、酵素反応生成物を測定することができる(例えばプロテアーゼの量は、切断された基質の量を、例えばウェスタンブロットを用いて、測定することにより測定することができる)。
【0074】
酵素反応生成物の測定のためには、好ましくは基質の量は飽和している。基質はまた反応前に検出可能標識で標識化してもよい。好ましくは、サンプルを適当な期間にわたり基質と接触させる。適当な期間とは、検出可能な、好ましくは測定可能な量の生成物が生成されるのに必要な時間を言う。生成物の量を測定する代わりに、所定量(例えば検出可能な量)の生成物の出現に必要な時間を測定することもできる。
【0075】
第3に、リガンドは、その検出と測定を可能にする標識に共有結合または非共有結合でカップリングさせることができる。
【0076】
標識化は直接または間接的な方法により行うことができる。直接標識化は、標識をリガンドに直接(共有または非共有的に)カップリングさせることによる。間接的標識化は二次リガンドを一次リガンドに(共有または非共有)結合させることによる。二次リガンドは一次リガンドに特異的に結合するべきである。前記二次リガンドは、適当な標識とカップリングさせるおよび/または二次リガンドに結合する三次リガンドの標的(受容体)でありうる。二次、三次またはそれ以上の次数のリガンドの使用は、シグナルを増加させるためにしばしば用いられる。適当な二次リガンドおよびさらに次数の高いリガンドとしては、抗体、二次抗体、およびよく知られたストレプトアビジン−ビオチンシステム (Vector Laboratories、Inc.)が挙げられる。
【0077】
リガンドまたは基質はまた、当技術分野で知られているように、1以上のタグで「タグ化」することができる。次いでかかるタグはさらに次数の高いリガンドの標的でありうる。適当なタグとしては、ビオチン、ジゴキシゲニン、His-タグ、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ、FLAG、GFP、myc-タグ、インフルエンザAウイルスヘマグルチニン (HA)、マルトース結合タンパク質、などが挙げられる。ペプチドまたはポリペプチドについては、タグは好ましくはN末端および/またはC末端にある。
【0078】
適当な標識は適当な検出方法により検出することのできる任意の標識である。典型的な標識としては、金粒子、ラテックスビーズ、アクリダンエステル、ルミノール、ルテニウム、酵素的に活性な標識、放射性標識、磁気標識 (例えば常磁性および超常磁性標識を含む「磁性ビーズ」)、および蛍光標識が挙げられる。
【0079】
酵素的に活性な標識としては、例えばセイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼ、およびその誘導体が挙げられる。検出のための適当な基質としては、ジ-アミノ-ベンジジン(DAB)、3,3'-5,5'-テトラメチルベンジジン、NBT-BCIP (塩化4-ニトロブルーテトラゾリウムおよびリン酸5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリル、これらはRoche Diagnosticsから既製ストック溶液として市販されている)、CDP-StarTM (Amersham Biosciences)、ECFTM (Amersham Biosciences)が挙げられる。好適な酵素-基質の組合せは呈色反応生成物、蛍光または化学発光をもたらし、これは当技術分野で公知の方法により (例えば、感光フィルムまたは好適なカメラシステムを用いて)測定することができる。酵素反応の測定については、上に記載の基準を同様に適用することができる。
【0080】
典型的な蛍光標識には蛍光タンパク質(GFPおよびその誘導体など)、Cy3、Cy5、テキサスレッド、フルオレセイン、およびAlexa色素類(例えば Alexa568)が含まれる。さらなる蛍光標識が、例えばMolcular Probes(Oregon)から市販されている。量子ドットの蛍光標識としての使用も考慮される。
【0081】
典型的な放射性標識には、35S、125I、32P、33P などが含まれる。放射性標識は、任意の公知で適当な方法、例えば感光フィルムまたはフォスフォルイメージャーにより検出することができる。
【0082】
本発明による好適な測定方法としてはまた、沈降(特に免疫沈降)、電気化学発光(電気により生成される化学発光)、RIA(ラジオイムノアッセイ)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)、サンドイッチ酵素免疫試験、電気化学発光サンドイッチイムノアッセイ(ECLIA)、解離増感ランタニド蛍光イムノアッセイ(DELFIA)、シンチレーション近接アッセイ(SPA)、濁度分析、比濁分析、ラテックス増感濁度分析もしくは比濁分析、固相免疫試験ならびに質量分析、例えばSELDI-TOF、MALDI-TOF、またはキャピラリー電気泳動質量分析(CE-MS)が挙げられる。当技術分野で公知のさらなる方法(ゲル電気泳動、2Dゲル電気泳動、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動 (SDS-PAGE)、ウェスタンブロットなど)を、単独でまたは、上記の標識化方法または他の検出法と組み合せて用いることができる。
【0083】
好ましいリガンドとしては、抗体、核酸、タンパク質、ペプチドまたはポリペプチド、およびアプタマー、例えば核酸またはペプチドアプタマーが挙げられる。かかるリガンドについての方法は当技術分野でよく知られている。例えば、適当な抗体またはアプタマーの同定と製造も市販品供給業者により提供されている。当業者は、かかるリガンドのさらに親和性または特異性の高い誘導体を開発する方法に精通している。例えば、核酸、タンパク質、ペプチドまたはポリペプチドにランダム突然変異を導入することができる。次にこうした誘導体を当技術分野で公知のスクリーニング手法、例えばファージディスプレイなどにしたがい、結合について試験することができる。
【0084】
本明細書において用いる「抗体」という用語には、抗原またはハプテンに結合することのできる、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方、ならびにその任意の改変物またはフラグメント、例えばFv、FabおよびF(ab)2 フラグメントが含まれる。
【0085】
別の好ましい実施形態では、リガンド(好ましくは核酸、タンパク質、ペプチド、ポリペプチドからなる群、より好ましくは核酸、抗体、またはアプタマーからなる群より選択される)はアレイ上に存在する。
【0086】
前記アレイは少なくとも1つの追加のリガンドを含み、これは対象のタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドを指向したものでありうる。前記の追加リガンドはまた、本発明の文脈において特に興味のないタンパク質、ペプチド、またはポリペプチドを指向したものであってもよい。好ましくは、本発明の文脈において、少なくとも3種、好ましくは少なくとも5種、より好ましくは少なくとも8種の対象のタンパク質、ペプチドまたはポリペプチドに対するリガンドがアレイ上に存在する。
【0087】
本発明において、「アレイ」という用語は固相またはゲル様担体を言い、この上に少なくとも2種の化合物が1次元、2次元、または3次元配置で付着または結合している。かかるアレイ(「遺伝子チップ」、「タンパク質チップ」、抗体アレイなどを含む)は当業者に一般的に知られており、典型的にはガラス顕微鏡スライド、特にポリカチオン-、ニトロセルロース-またはビオチン被覆スライドのような被覆ガラススライド、カバー細片、およびメンブレン例えばニトロセルロースまたはナイロンを主体とするメンブレン上で作製される。
【0088】
アレイには結合リガンドまたは各々が少なくとも1種のリガンドを発現する少なくとも2種の細胞が存在しうる。
【0089】
本発明によるアレイとして「サスペンジョンアレイ」を利用することも考慮される(Nolan JP, Sklar LA. (2002). Suspension array technology: evolution of the flat-array paradigm. Trends Biotechnol. 20(1):9-12)。かかるサスペンジョンアレイにおいては、サスペンジョン中に担体、例えばマイクロビーズまたはミクロスフェアが存在する。上記アレイは、場合により標識化されてもよい、種々のリガンドを保持する、種々のマイクロビーズまたはミクロスフェアからなる。
【0090】
本発明はさらに、他のリガンドとは別に少なくとも1種のリガンドが担体材料に結合している、上に定義したアレイの製造方法に関する。
【0091】
かかるアレイを、例えば固相化学および光分解性保護基に基づいて製造する方法は一般に知られている(米国特許第5,744,305号)。かかるアレイはまた物質または物質ライブラリーと接触させ、相互作用について、例えば結合またはコンホメーションの変化について試験することができる。したがって、上に定義したようなペプチドまたはポリペプチドを含むアレイを、前記ペプチドまたはポリペプチドに特異的に結合するリガンドを同定するために使用することができる。
【0092】
本発明はまた、PlGFを測定するための手段または薬剤を含むキットに関する。場合により、キットはまた、ナトリウム利尿ペプチドまたは本明細書に記載した任意の他のバイオマーカー(例えばトロポニンT、IMA、クレアチンキナーゼ、ミオグロビンなど)を測定するための手段または薬剤を含みうる。かかる手段または薬剤は、当業者に知られた任意の適当な手段または薬剤でありうる。かかる手段または薬剤およびその使用のための方法の例は本明細書に記載されている。例えば、適当な薬剤はPlGF、ナトリウム利尿ペプチド、または他のバイオマーカーを、それぞれ測定するのに特異的な任意の種類の抗体またはリガンドでありうる。キットはまた、それぞれのバイオマーカーのレベルを測定するために適当であると考えられる任意の他の生物、例えば適当なバッファー、フィルターなどを含んでもよい。
【0093】
場合により、キットは、個体が心臓負荷試験の結果として心臓血管の有害な事象を患うリスクを決定することについての測定結果を解釈するための取扱説明書をさらに含んでもよい。特に、かかる説明書にはどの測定レベルがどの様なリスク群に対応するかについての情報を含みうる。このことは本明細書中の別の箇所に詳細に記載されている。さらに、かかる取扱説明書は、それぞれのバイオマーカーのレベルを測定するためのキットの成分を正しく使用することに関する説明を提供してもよい。
【0094】
本発明はまた、個体が心臓負荷試験の結果として心臓血管の有害な事象を患うか否かのリスクを決定するための前記キットの使用に関する。本発明はまた、個体が心臓負荷試験の結果として心臓血管の有害な事象を患うか否かのリスクを決定するための、本発明の任意の方法における前記キットの使用に関する。
【0095】
本発明において、測定されたPlGFレベルは、個体が心臓負荷試験の結果として心臓血管の有害な事象を患うか否かを示す。同じことは、PlGFおよびナトリウム利尿ペプチドのレベルを共に測定する場合にも同様に当てはまる。この意味合いで使用される用語、すなわち「増加していないレベル」、「増加したレベル」、および「非常に増加したレベル」は当業者に知られている。当業者は、こうしたレベルに対応する、関連する生化学マーカーについての実際の値を決定することができる。
【0096】
例えば、前記のレベルは、50歳未満の見かけ上健常な個体の代表的なサンプル(好ましくは、サンプルは少なくとも100人、より好ましくは少なくとも500人、最も好ましくは少なくとも1000人の個体を含む)中で観察されるレベルの百分率にしたがって割り当てることができる。例えば、増加していないレベルは、97.5%パーセンタイルに観察される最大レベルに対応しうる。
【0097】
あるいは、前記のレベルは、当技術分野で知られているような「正常な範囲」として決定されうる。前記のレベルはまた、負荷試験を受ける個体で研究を行い、そして何らかの有害な事象を該個体に観察されるレベルと相関させることにより決定するまたはさらに精緻化することができる。このような研究はまた特定の患者サブグループ、例えば冠動脈疾患が分かっている患者、高齢患者、または見かけ上健常な個体にしたがいレベルを調整することができる。かかる研究をどのように行うかについての指針も、本明細書に記載の実施例から得ることができる。
【0098】
レベルが「増加した」または「非常に増加した」と見なされる値はまた、除外の所望の感度または特異性(ストリンジェンシー)に従い選択することができる。所望の感度が高いほど、排除の特異性は低くなり、その逆もまた然りである。上の例では、各レベルを決定するために選択されるパーセンタイルが高いほど、除外の基準は厳しくなり、すなわちより少ない個体が「リスク個体」と見なされるか、または負荷試験から除外される。
【0099】
以下に、PlGFおよびNT-proBNPについて実際のレベルの例を提供する。以下に示すレベルは個体のリスクの第一分類としてのみ機能することは明らかである。例えば、リスクは、特定の個体の心臓の予備ポンプ能力または個体の全身的な健康状態にも依存することがある。
【0100】
この例では、PlGFについて、10 pg/mL未満の血漿レベルを増加していないレベルと見なす。さらに、10〜20 pg/mLの血漿レベルを増加したレベルと見なす。さらに、20 pg/mLより多い血漿レベルを非常に増加したレベルと見なす。
【0101】
この例では、NT-proBNPについて、125 pg/mL未満の血漿レベルを増加していないレベルと見なす。さらに、125〜300 pg/mLの血漿レベルを増加したレベルと見なす。さらに、300 pg/mLの血漿レベルを非常に増加したレベルと見なす。
【0102】
PlGFおよびNT-proBNPの両方について、血清レベルは血漿レベルに匹敵する。対応するレベル、例えば全血液または他のサンプル中の対応するレベルは、当業者が決定することができる。
【0103】
本発明の方法はまた、個体が負荷試験中に有害な事象を患うリスクを決定することができる。本発明において、「リスク」という用語は、特定の出来事、より具体的には有害な事象が起こる可能性に関する。リスクの等級は、増加していない、増加した、または非常に増加した、でありうる。「増加していないリスク」は、負荷試験の結果として心臓血管の有害な事象を患うリスクが見かけ上は無いことを意味する。
【0104】
リスクの程度はPlGF(またはPlGFおよびナトリウム利尿ペプチド)のレベルと関連している。増加していないレベルのPlGFはリスクが増加していないことを示し、レベルの増加したPlGFはリスクの増加を示し、非常に増加したレベルのPlGFはリスクが非常に増加していることを示す。PlGFおよびナトリウム利尿ペプチドの組み合わさった測定の場合には、リスクを同様に計算する。一方で、片方のマーカーのみ、すなわちPlGFまたはナトリウム利尿ペプチドのいずれかが非常に増加しており、対応する他方のマーカーのレベルが単に増加しているだけであるときにもリスクが非常に増加していると見なすことは適当であると考えられる。
【0105】
PlGFのレベルが増加していないのであれば、負荷試験は計画通りに、例えば地元の心臓専門医の施設で、好ましくは通常の推奨される予防措置をとりながら行うことができる。この場合、試験を直ちに行わないようスケジューリングすることも許容できる。同じ事は、組み合わせの測定においてPlGFとナトリウム利尿ペプチドの両方のレベルが増加していない場合に当てはまる。
【0106】
先に記載したように、本発明の方法が増加したリスクまたは非常に増加したリスクを示す場合、それは好ましくは負荷試験に影響を及ぼす。
【0107】
第1の態様において、リスクが増加しているまたは非常に増加している場合、負荷試験は過度の遅延なく行うべきである。特に、リスクが非常に増加している場合には、試験は必要な診断情報を得るために直ちに行うべきである。
【0108】
第2の態様において、リスクが増加しているまたは非常に増加している場合、負荷試験は、安全な病院施設、例えば緊急事態訓練を受けた医療スタッフが待機している施設にておよび/または自動不整脈検出器を用いて行うべきである。特にリスクが非常に増加している場合には、試験は介入の可能性が改善された病院設備、例えば経皮冠動脈介入(PCI)および外科的介入可能性で行うべきである。
【0109】
第3の態様において、リスクが増加しているまたは非常に増加している場合には、負荷試験は、特に非常にリスクが増加している場合には、好ましくは制限された負荷のレベルで行われる。
【実施例】
【0110】
以下の実施例は本発明を例示する。
【0111】
実施例1
NT-proBNPの測定:
NT-proBNPは、Elecsys 2010を用いた電気化学発光免疫アッセイ(Elecsys proBNP サンドイッチ免疫アッセイ; Roche Diagnostics、Mannheim、Germany)により決定した。このアッセイは電気化学発光サンドイッチ免疫アッセイ原理に従って機能する。第1ステップにおいて、ビオチン標識化IgG (1-21)捕捉抗体、ルテニウム標識化F(ab')2 (39-50)シグナル抗体および20マイクロリットルのサンプルを、37℃にて9分インキュベートする。その後、ストレプトアビジンコート化磁気微粒子を加え、この混合物をさらに9分インキュベートする。第2のインキュベーション後に、反応混合物をシステム内の測定セルに移し、そこでビーズを電極の表面に磁気的に捕捉する。未結合の標識は、測定セルをバッファーで洗浄することにより除去する。
【0112】
最後のステップでは、トリプロピルアミン含有バッファーの存在下で電極に電圧をかけ、生じる電気化学発光シグナルを光電子倍増管により記録する。すべての試薬とサンプルはElecsys(登録商標)機器により完全に自動的に取り扱う。結果は検量線を介して決定するが、この検量線は2点較正および試薬バーコードより提供されるマスター曲線により機器に特有に作製した。試験は製造者の説明書に従い実施した。
【0113】
実施例2
分析:
ホルモン分析のための血液は、適宜、5000 Uアプロチニン(Trasylol、Beyer、Germany)およびリチウムヘパリンチューブ(臨床化学用)を含有するEDTAチューブ中でサンプリングした。血液および尿サンプルは直ちに3400 rpmで4℃にて10分回転させた。上清は分析するまで−80℃で貯蔵した。
【0114】
PlGFの決定:
胎盤成長因子(PlGF)は酵素連結免疫吸着マイクロタイタープレートアッセイ (R&D Systems、Wiesbaden、Germany)により測定した。PlGFの合計非精密度(変動係数として表現する)は7.3%であった。PlGF試験はアイソフォームPlGF-1を認識するが、PlGF-2に対して少なくとも50%の交差反応性がある。
【0115】
NT-proBNPの決定:
NT-proBNPは、Elecsys 2010を使用する電気化学蛍光免疫アッセイ (Elecsys proBNP sandwich immuno assay; Roche Diagnostics、Basel、Switzerland)を用いて決定した(Mueller, T., Gegenhuber, A. (2003) Comparison of the Biomedica NT-proBNP enzyme immuno assay and the Roche NT-proBNP chemiluminescence immuno assay: implications for the prediction of symptomatic and asymptomatic structural heart disease. Clin. Chem. 49:976-9)。実施例1も参照されたい。アッセイ内の平均変動は4.3%であった (範囲:7.6〜2732 pmol *l-1の濃度の血漿サンプルについて2.7〜5.9%、このとき異なるアッセイ同士の変動は3.2%であった。下方の検出限界は0.6 pmol *l-1であった)。
【0116】
NT-proANPの決定:
NT-proANPは、ウサギ-抗ラットproANPポリクローナル血清、ヒトproANP (1-30)(これはPeninsula Lab(Bachem Ltd, St. Helene, UK)からである)、およびヨウ化proANP (1-30)(放射標識のためにHPLC精製済み)を使用する磁気固相技術を用いる競合結合放射免疫アッセイにより測定した。高感度と良好な精度を得るために、ヒツジ抗ウサギIgG (Dynal Biotech, Oslo, Norway)を固相状態で有するDynabeads M280および第2抗体を使用した。最小検出可能濃度は105 pg/mLであり、変動係数はそれぞれ1490 pg/mLにて7.5%であり、4077 pg/mLにて3.7%であり、8730 pg/mLにて3.4%である。
【0117】
IMAの決定:
虚血改変アルブミンはアルブミンコバルト結合(ACB(登録商標)) 試験により測定した。ACB試験(ISCHEMIA Technologies, inc, Colorado, USA)をROCHE/HITACHI MODULAR P機器を用いて行うように設定する。アッセイ内およびアッセイ間の精度は、それぞれCV 2.2-4.1 %およびCV 4.3-7.1 %の間と決定された。
【0118】
心臓トロポニンT (cTnT)の決定:
cTnTは、電気化学蛍光技術(第3世代cTnT、Elecsys 2010、Roche、Mannheim、Germany)に基づく1ステップEIAを用いて定量的に測定した。このアッセイの下方検出限界は0.01μg/Lであり、このとき推奨診断閾値は0.03μg/Lである。種々の濃度でのアッセイ間の変動係数(少なくとも11運転の日によっての不正確データセットの間の変動係数)は、0.015μg/Lでは20 %であり、0.03 μg/Lでは10%であり0.08μg/Lでは5%であった。
【0119】
実施例3
深刻な冠動脈疾患の疑いのため、タリウムシンチグラフィーを受けた合計195人の患者を連続して調べた。
【0120】
患者は、標準的な運動プロトコルを用いて自転車運動試験を受けたか、または標準プロトコルを用いた42.72mg (±7.61)の用量のジピリダモールを使用する薬理学試験を受けた。力学的運動試験または薬理学的運動試験のどちらに割り当てるかは、心臓核医学専門医の判断に任された。プロトコルはハイデベルグ大学の地方倫理委員会に承認され、全ての患者に、参加の前に、インフォームドコンセントを提供した。
【0121】
単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)心筋血流イメージングは以下のように行った。タリウムをピークストレス時に投与し、イメージングをその直後に行った。4時間後に、反復イメージングを行った。A 17セグメント心筋モデルを半定量分析に用いた。バイオマーカーの結果を知らされていない2人の心臓核医学専門医がイメージを、血流障害無し、可逆性の血流障害のみ、および定着した血流障害ありに分類した。可逆性の、部分的に可逆性の、および定着した血流障害の組み合わせを有する患者を、一次解析から除外し、別に評価した。
【0122】
血液サンプルは負荷試験の直前、直後および4時間に取得した。次の日に、非常に遅くなった血液サンプルを第3スキャン(再配分スキャン)を受ける全ての患者から回収した(n=20)。血液サンプルは氷上におき、30分以内に処理した。プラズマアリコートは−80℃で貯蔵し、分析前に解凍した。
【0123】
統計分析は以下のように行った:cTnT、N-末端心房性ナトリウム利尿ペプチド (NT-pro ANP)、N末端B型ナトリウム利尿ペプチド(NT-pro BNP)、胎盤成長因子(PlGF)、虚血改変アルブミン(IMA)の血漿濃度は、対応する四分位範囲と共に中央値として、または対応する標準誤差と共に平均値として表される。患者群のベースライン特性は連続型変数についてはマン−ホイットニーU検定またはスチューデントT検定を、およびカテゴリー型変数についてはχ二乗検定を用いて比較した。コルモゴルフ・スミルノフ検定を用いて正規分布を調べた。すべての分析について、P < 0.05という値を統計的に有意と判断した。全ての統計分析はSPSSソフトウェアパッケージバージョン12.01 (SPSS Inc、Chicago、Ill、USA)を用いて行った。
【0124】
ベースライン特性:195人の調査参加者のコホート全体のうちで、24人の患者(12%)が可逆性の血流障害を有し、62人(32%)は血流障害が無かった。109人の患者(56%)は、定着した血流障害または定着したおよび可逆性の血流障害の組み合わせのいずれかを有した。以下に提示するバイオマーカーに関するすべてのデータと分析は、可逆性血流障害の24人の患者および定着または可逆性血流障害の無い62人の患者に限定される。可逆性血流障害の患者は、冠動脈疾患、MI(心筋梗塞)の前歴、先のPCI (経皮冠動脈介入)またはCABG (冠動脈バイパスグラフト) の病歴を有する場合が多く(83.3対56.5%、p=0.02)、タリウムシンチグラフィーの後により頻繁に経皮冠動脈介入を受けた(12.5%対1.6%、p=0.04)。ジピリダモールの合計容量は誘発性心筋虚血の患者において有意に高かった(48.5対38.8 mg、p=0.002)。全ての他のパラメーターは両方の群について同程度であった。195人の調査参加者全員の、ならびに可逆性血流障害の参加者(虚血グループ)の、および可逆性血流障害の無い参加者(非虚血グループ)の詳細なベースライン特性を表1に詳細に示す。
【0125】
最終調査群のうち、52人の患者が自転車運転試験を受け、34人の患者がジピリダモール負荷試験を受けた。力学的運動試験を受けている患者のうち、平均運動持続時間(8.75±3.32分対7.74±0.42分、p=0.23)もピーク仕事量(125±9ワット対109±5ワット、p=0.15)も、血流障害のない患者と比較して可逆性血流障害の患者において異なってはいなかった。ジピリダモール注入の合計持続時間は両方の群で同程度であった(5.0±0.0分対5.21±0.21分、p=0.85)。薬理学的負荷試験と力学的負荷試験の違いの詳細な情報を表2に示す。狭心症は、可逆性虚血群の24人の患者中の4人(16.7%)が経験し、血流障害の無い群の62人の患者中の8人(12.9%)が経験した。
【0126】
バイオマーカーの血漿レベルを、試験の前に、平均して17.85±11.14分後に、および平均して4.05±0.64時間の後に測定した。タリウムシンチグラフィーの次の日に第4の血液サンプルを収集した(平均24.12±1.51時間)。患者の数が少なかった(n=19)ことから第4のサンプルについては統計性を備えた分析ができなかった。
【0127】
胎盤成長因子:
可逆性血流障害を発症した患者においては、PlGFのベースラインレベルは15.15 pg/mLであることが見出され、これに対して発症しなかった患者では11.35 pg/mLであった(詳細については表3を参照されたい)。
【0128】
心臓トロポニンT:
ベースラインにおけるcTnTの血漿濃度は、7人を除き全ての患者で検出の下方限界(0.01μg/L)を下回っており、負荷試験の後に著しく増加することはなかった。この7人の患者におけるcTnTの血漿レベルの増加は、負荷試験前の14日以内の先の急性心筋梗塞に関連していた。心臓トロポニン濃度は運動試験の18分後にも4時間後にも増加せず、血流障害の無い患者および可逆性血流障害の患者において全ての時点で同程度であった。運動誘発性虚血の前および後の心臓バイオマーカーの相対変化を表3に示す。
【0129】
NT-pro BNP、NT-pro ANP
NT-pro BNPおよびNT-pro ANPのベースラインレベルは、後に可逆性血流障害を発症した患者において著しく高かった。しかしながら、NT-pro BNPおよびNT-pro ANPの血液レベルは、血流障害有りまたは無しの患者において18分でも4時間でも有意に増加しなかった。
【0130】
虚血改変アルブミン
IMAの血漿濃度は、血流障害の無い患者および可逆性血流障害の患者においてベースラインレベルは同程度であった。18分における一時的な低下の後にIMAは、4時間で有意に上昇した(血流障害の無い患者についてはp=0.001、可逆性血流障害の患者についてはp=0.013)。一方で、可逆性血流障害の有るおよび無い患者においてIMAレベルの増加が見られ、これは薬理学的負荷試験を受けた患者と比較して運動負荷試験を受けた患者に専ら関連していた。
【0131】
運動試験の種類に従ったバイオマーカーレベルの変化:全てのバイオマーカーのベースライン濃度は力学的負荷を受けている患者と薬理学的負荷を受けている患者において同程度であった(表4)。濃度は、IMA以外については、負荷の直後にも4時間後にも有意に変化しなかった。
【表1】

【0132】
【表2】

【0133】
【表3】

【0134】
【表4】

【0135】
実施例4
日頃から1日あたり40本のタバコを吸う45歳の男性が負荷試験のために臨床医を訪れる。血液分析では、血液化学はCKおよびCKMBを含め正常の範囲内にある。しかしながら、PlGFは16 pg/mLでありNT-proBNPは260 pg/mLである。患者は訴えをしておらず、血圧は140〜98 mm/hgである。聞かれると彼はスポーツをしないと報告する。PlGFおよびNT-proBNPの結果に基づき、負荷試験は臨床医の診療所で行わず、彼を心臓専門医に紹介する。ECGは異常ではなく、心エコー図は何ら異常を示していない。心臓専門医の診療所で彼は負荷試験を受け、200 Wで胸痛を発した。これは血圧の増加と関連している。さらに不整脈が生じる。心臓専門医の診療所での比較的安全な環境と経験のあるスタッフのおかげで、有害な事象は制御下のままであり、患者は病院に移されてさらに評価され、そこで冠動脈造影法から左冠状動脈に狭窄が明らかにされる。
【0136】
実施例5
通常のスポーツをする62歳の女性が、反復的な胸痛が時々運動に関連して、のみならず運動に無関係のときにもあることから、臨床医にかかる。彼女は喫煙しない。彼女の血液化学レベルは正常な範囲内にある。PlGFは8 pg/mLである。確認のために、NT-proBNPをさらに測定したところ59 pg/mLである。血圧は140〜70 mm/hgである。ECGは異常を示さない。PlGFおよびNT-proBNPのレベルが低いことから、心臓負荷試験を臨床医の診療所で行うのは安全であると判断する。負荷試験は異常を示さない。冠動脈疾患の証拠がないことから、患者の繰り返し発生する胸痛をさらに評価するために、彼女を呼吸器科医に紹介する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個体が心臓負荷試験の結果として心臓血管の有害な事象を患うか否かのリスクを決定する方法であって、以下のステップ、
a) 胎盤成長因子 (PlGF)またはその変異体のレベルを、好ましくは生体外で、測定すること、ここで
b) 胎盤成長因子またはその変異体のレベルが少なくとも増加している場合、前記個体は心臓負荷試験の結果として有害な事象を患うリスクが少なくともある、
を含む前記方法。
【請求項2】
以下のさらなるステップ、
aa) ナトリウム利尿ペプチドまたはその変異体のレベルを、好ましくは生体外で、測定すること、
および改変ステップ
ba) ナトリウム利尿ペプチドおよびPlGFまたはそれらの対応する変異体、の両方のレベルが少なくとも増加している場合、前記個体は心臓負荷試験の結果として有害な事象を患うリスクが少なくともある、
を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
以下の追加ステップ、
d) 測定レベルが非常に増加している場合、前記個体は心臓負荷試験において有害な事象を患うリスクが高い、
を含む請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
増加したPlGFのレベルが10〜20 pg/mLという血漿レベルに対応し、非常に増加したPlGFのレベルが20 pg/mLより多い血漿レベルに対応する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
ナトリウム利尿ペプチドがANP型ペプチドまたはその変異体である、請求項2〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
ナトリウム利尿ペプチドがBNP型ペプチドまたはその変異体である、請求項2〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
BNP型ペプチドがNT-proBNPまたはその変異体である、請求項2〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
増加したNT-proBNPのレベルが125〜300 pg/mLという血漿レベルに対応し、非常に増加したNT-proBNPのレベルが300 pg/mLより多い血漿レベルに対応する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
有害な事象が、可逆または不可逆の心筋血流障害、可逆または不可逆の心筋虚血、 ST部分変化(特に上昇または低下)、狭心症、心筋壊死、心筋梗塞 (ST上昇MIまたは非ST上昇MIを含むMI)、および発作からなる群に属する、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
有害な事象が可逆または不可逆心筋血流障害、および可逆または不可逆心筋虚血からなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
有害な事象が心筋梗塞 (ST上昇MIまたは非ST上昇MIを含むMI)、および発作からなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
以下の1以上のバイオマーカー:
a) トロポニンT、
b) IMA、
c) クレアチンキナーゼ、
d) ミオグロビン、
のレベルをさらに測定する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
PlGFおよび/またはナトリウム利尿ペプチドを測定するための手段または薬剤を含むキットであって、前記キットはナトリウム利尿ペプチドまたは請求項12に記載のバイオマーカーのいずれかを測定するための手段または薬剤をも場合により含み、ここで前記キットは、個体が心臓負荷試験の結果として心臓血管の有害な事象を患うリスクを決定することに関する、測定結果を解釈するための取扱説明書を含む前記キット。
【請求項14】
個体が心臓負荷試験の結果として心臓血管の有害な事象を患うリスクを決定するためのPlGFおよび/またはナトリウム利尿ペプチドを測定するための手段または薬剤を含むキットの使用。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法における、PlGFおよび/またはナトリウム利尿ペプチドを測定するための手段または薬剤を含むキットの使用。
【請求項16】
前記方法が少なくともリスクが上昇していることを示すとき、それは負荷試験が過度に遅れることなくおよび/または病院施設でおよび/または制限された負荷レベルのもとで行われるべきであることを示す、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−526204(P2009−526204A)
【公表日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−552818(P2008−552818)
【出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【国際出願番号】PCT/EP2007/051027
【国際公開番号】WO2007/090796
【国際公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】