説明

心臓障害を検出するための方法

心不全には、心臓発作を伴うかまたは伴わない冠動脈性心疾患、高血圧、心筋に影響を及ぼす疾患、感染、または毒素、および心臓弁の疾患を含む、心臓に障害を与える多くの状態が原因として関係している。心不全の発症は、数日から数週間にわたり迅速に生じ得るが、心臓が徐々におよび進行的に弱まるために、数年にわたりゆっくりと進行することの方が多い。本発明は、患者における心臓障害を検出するための方法に関する。本発明はまた、心臓障害を有することが確認された患者を治療するための方法に関する。本発明はさらに、患者における障害を有する心臓を治療するために計画された進行中の治療レジメンの有効性を評価するための方法にも関連する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する出願への相互参照
本願は、米国特許法§119(e)のもと、2007年5月10日に出願された米国仮特許出願第60/928,541号からの優先権を主張する。米国仮特許出願第60/928,541号は、その全体が本明細書中に参考として特に援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、医療診断の分野に関する。より詳細には、本発明は、患者における心臓障害を検出するための方法を目的とする。本発明はまた、心臓障害を有することが確認された患者を治療するための方法に関する。本発明はまた、患者における障害を有する心臓を治療するために計画された進行中の治療レジメンの有効性を評価するための方法にも関連する。
【背景技術】
【0003】
本発明が関連する技術分野の状態をより十分に記載するために、本出願において、いくつかの刊行物および特許文献が参照される。それぞれのこれらの刊行物および文献の開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
心不全には、心臓発作を伴うかまたは伴わない冠動脈性心疾患、高血圧、心筋に影響を及ぼす疾患、感染、または毒素、および心臓弁の疾患を含む、心臓に障害を与える多くの状態が原因として関係している。心不全の発症は、数日から数週間にわたり迅速に生じ得るが、心臓が徐々におよび進行的に弱まるために、数年にわたりゆっくりと進行することの方が多い。
【0005】
患者における癌細胞の量を低減させることを目的とした治療的介入は、常にではないが、様々な有害な副作用を伴うことが多い。実際、様々な癌の治療で化学療法剤として用いられる細胞増殖抑制剤は、心毒性を含む、潜在的に致死的である副作用を示すことが多い。細胞増殖抑制療法において一般に用いられる作用物質には、アントラサイクリン系のダウノルビシン、ならびにそのプロドラッグであるゾルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、およびエピルビシンと、合成抗生物質であるミトキサントロンとが含まれる。例えばアントラサイクリンは、ダウノサミンおよびテトラヒドロナフタセンジオンに基づいた化学療法剤のクラスの代表である。これらの化合物は、白血病およびリンパ腫、ならびに、胸部、子宮、卵巣、および肺の充実性腫瘍を含む、様々な癌を治療するために用いられる。化学療法を受けている患者において観察される、脱毛および吐き気などの予想される拒絶反応に加えて、アントラサイクリンの投与を伴う治療的介入は、このクラスの化合物の顕著な心毒性によって困難となり、制限される。アントラサイクリンの使用に関連する心毒性は、投与される全用量に相関し、不可逆的であることが多い。これらの化合物の細胞増殖抑制効果および心毒性は、少なくとも部分的には、細胞膜の構成要素へのアントラサイクリンの結合により生じる、膜の流動性および透過性における変化に起因する。心臓におけるフリーラジカルの形成およびアントラサイクリンの代謝産物の蓄積もまた、心臓障害の原因となると考えられる。心毒性は、心電図(EKG)の異常および不整脈の形で現れるか、または心筋症として現れることが多く、これらは、最終的には鬱血性心不全をもたらし得るものである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、患者をスクリーニングして、心臓障害の徴候を有している患者を同定するための、新規な診断方法を提供することを目的とする。そのように同定された患者は次に、本明細書に記載されるような、心臓障害の治療のための薬学的調製物を用いて治療され得る。本発明の特定の態様において、患者をスクリーニングして、例えば心毒性、高血圧、弁膜症、心筋梗塞、ウイルス性心筋炎、または強皮症に起因する、心臓への障害の徴候を有している患者を同定するための診断方法が提示される。特定の態様において、本発明は、化学療法的介入により生じる心毒性を有している患者を同定することに焦点を合わせたものである。そのような患者の分類は、心毒性の短期および長期の影響を軽減するための治療的介入を必要とする患者のサブグループを同定するために役立つものである。そのように同定された患者のサブグループは次に、心毒性を有する用量の薬剤または化学物質の使用に関連して生じる心臓障害を治療するための薬学的調製物を用いて治療され得る。患者において同定された心臓障害が、高血圧、弁膜症、心筋梗塞、ウイルス性心筋炎、または強皮症などの、進行中の状態に起因する状況下では、適切な薬学的調製物をまた、心臓障害を有する患者を治療するために製剤することができる。
【0007】
本発明はまた、心臓障害の程度またはタイプに従って患者を階層化するための方法も包含するものであり、その知識によって、熟練医師は、適切な治療レジメンを選択することができる。本発明はまた、治療レジメンの有効性を評価するための方法も含む。
【0008】
本発明の新規な方法は、インタクトな心臓組織における心臓トロポニンI(cTnI)および心臓トロポニンT(cTnT)の細胞内レベルの変化を、心臓障害の存在についての指標として用いることができるという発見に基づくものである。より詳細には、本発明者らは、インタクトな心臓組織における細胞内cTnIおよびcTnTのレベルの減少が、心臓障害のリスクを有しているかまたは心臓障害を有している患者を同定するための診断マーカーとして役立つということを発見した。心臓組織は、患者から切除することができ、当技術分野において知られている分子イメージングプロトコルを用いて、インビトロで試験するかまたはインビボで分析することができる。
【0009】
いずれかのアプローチを用いて、患者の心臓組織について決定された細胞内cTnIおよびcTnTのレベルは、野生型または正常なレベルの細胞内cTnIおよびcTnTを発現する対照心臓組織のレベルと比較される。患者の心臓組織における細胞内cTnIおよび/またはcTnTのレベルの低減は、標準的な方法を用いて行うことができるタンパク質レベルの定量を行い、その結果を分析して、細胞内cTnIおよびcTnTのレベルの統計的に有意な減少が、患者の心臓組織において、対照の心臓組織と比較して明らかであるかどうかを決定することによって、容易に決定することができる。細胞内cTnIおよび/またはcTnTのレベルの低減の形跡を示している患者は、細胞内cTnIおよびcTnTのレベルの増大または正常なレベルの細胞内cTnIおよびcTnTの回復に反映される正常な心機能を少なくとも部分的に回復させるために選択された、適切な組成物を用いた治療にまわされる。
【0010】
本発明の1つの実施形態において、心臓組織におけるcTnTまたはcTnIの対照のまたは正常な細胞内レベルは、正常な心機能を有する患者の心臓組織におけるcTnTまたはcTnIの細胞内レベルを決定することにより定められる。本発明の別の実施形態において、心臓組織におけるcTnTまたはcTnIの対照のまたは正常な細胞内レベルは、心臓障害を生じさせ得る治療を開始する前の患者の心臓組織におけるcTnTまたはcTnIの細胞内レベルを決定することにより定められる。
【0011】
本発明の1つの態様において、心臓障害は、心毒性、高血圧、弁膜症、心筋梗塞、ウイルス性心筋炎、または強皮症の結果生じる。本発明のさらなる態様において、心毒性は、化学療法剤または放射線を用いた治療により生じる。
【0012】
治療された患者の心臓組織における細胞内cTnIおよびcTnTのレベルを測定することにより、正常な心機能を少なくとも部分的に回復させるために計画された治療レジメンの有効性を評価することもまた、本発明の範囲内である。本発明に従って、治療された患者の心臓組織における細胞内cTnIおよびcTnTのレベルの、治療の前に決定されたレベルと比較した増大は、治療が心機能を回復させるために作用していることの正の指標である。
【0013】
心臓組織におけるcTnIもしくはcTnTのいずれかの細胞内レベル、または心臓組織におけるcTnIおよびcTnTの両方の細胞内レベルが、心臓組織の活性および/または機能の指標として用いられ得ることを理解されたい。これは、心臓障害を評価または診断することを目的とした方法、特定の治療レジメンに関して患者を階層化することを目的とした方法、および治療レジメンの有効性を評価することを目的とした方法を含む、本発明の全ての態様に適用される。
【0014】
本発明に従って、心臓組織におけるcTnIおよび/またはcTnTのmRNAのレベルの減少もまた、心臓障害を示すものであり、患者集団を階層化するために用いることができる。したがって、正常なcTnIおよび/またはcTnTのmRNAレベルの部分的なまたは完全な回復もまた、タンパク質レベルに関して上述したように、治療の有効性の正の指標である。
【0015】
本発明は、動物に、通常は、かつより詳細には、哺乳動物に、さらにより詳細にはヒトに関連するものである。したがって、対象は好ましくは、限定はしないが、ウシ、ブタ、ウマ、ニワトリ、ネコ、イヌなどの動物を含む動物であり、好ましくは哺乳動物であり、最も好ましくはヒトである。したがって、「対象」または「患者」という用語は、ヒトを言うために用いられ得る。
【0016】
本発明はまた、心臓障害を治療するために、GGF2、またはニューレグリン遺伝子によってコードされる上皮成長因子様(EGFL)ドメインが、プロテアソーム阻害剤と共に投与される、組合せ治療レジメンも包含するものである。本発明において用いるための例示的なプロテアソーム阻害剤は、強力な、かつ選択的なプロテアソーム阻害剤である、Proscript 519である。本発明において有用な他のプロテアソーム阻害剤には、Velcade(商標)およびラクタシスチンが含まれる。さらなるプロテアソーム阻害剤は、当業者に知られている。実際、プロテアソーム阻害剤は、いくつかの癌および神経変性疾患を含む多くの疾患を治療するための治療作用物質として、既に用いられている。
【0017】
本診断方法によって心臓に障害を示すことが確認された患者に投与するための薬剤の調製における、GGF2、またはニューレグリン遺伝子によってコードされる上皮成長因子様(EGFL)ドメインの使用もまた、本発明に包含される。本発明はさらに、本診断方法によって心臓に障害を示すことが確認された患者に投与するための薬剤の調製において、GGF2、またはニューレグリン遺伝子によってコードされる上皮成長因子様(EGFL)ドメインを、プロテアソーム阻害剤と組み合わせて用いることも包含する。
【0018】
本発明の他の特徴および利点は、以下の、本発明の好ましい実施形態の記載から、および特許請求の範囲から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1A】生存のグラフ(A)、ヒストグラム(B〜C)、および免疫ブロット(C)を示す図である。生存分析では(A)、マウスに、単一用量のドキソルビシン[20mg/kg、腹腔内(i.p.)]を、NRG1の同時注射(毎日、0.75mg/kg、s.c.)を伴ってかまたは伴わずに注射した。14日目の生存を、カプラン・マイヤー法によって分析した。血清クレアチンキナーゼ(CK)レベルの決定に関しては(B)、血清CKレベルを、対照、Dox処理したマウス、およびDox−NRG1処理したマウスにおいて、ドキソルビシン注射の4日後に測定した。図1Cは、NRG1の注射により、マウスにおける、cTnI、cTnT、およびcTnCのタンパク質レベルのドキソルビシン誘発性の下方調節が軽減したことを示す。マウスは、ドキソルビシン(20mg/kg、i.p.)で、同時のNRG1注射(毎日、0.75mg/kg、s.c.)を伴ってかまたは伴わずに処理した。cTnI、cTnT、およびcTnCのタンパク質レベルを、ドキソルビシン処理の5日後に、ウェスタンブロット分析によって測定した。
【図1B】生存のグラフ(A)、ヒストグラム(B〜C)、および免疫ブロット(C)を示す図である。生存分析では(A)、マウスに、単一用量のドキソルビシン[20mg/kg、腹腔内(i.p.)]を、NRG1の同時注射(毎日、0.75mg/kg、s.c.)を伴ってかまたは伴わずに注射した。14日目の生存を、カプラン・マイヤー法によって分析した。血清クレアチンキナーゼ(CK)レベルの決定に関しては(B)、血清CKレベルを、対照、Dox処理したマウス、およびDox−NRG1処理したマウスにおいて、ドキソルビシン注射の4日後に測定した。図1Cは、NRG1の注射により、マウスにおける、cTnI、cTnT、およびcTnCのタンパク質レベルのドキソルビシン誘発性の下方調節が軽減したことを示す。マウスは、ドキソルビシン(20mg/kg、i.p.)で、同時のNRG1注射(毎日、0.75mg/kg、s.c.)を伴ってかまたは伴わずに処理した。cTnI、cTnT、およびcTnCのタンパク質レベルを、ドキソルビシン処理の5日後に、ウェスタンブロット分析によって測定した。
【図1C】生存のグラフ(A)、ヒストグラム(B〜C)、および免疫ブロット(C)を示す図である。生存分析では(A)、マウスに、単一用量のドキソルビシン[20mg/kg、腹腔内(i.p.)]を、NRG1の同時注射(毎日、0.75mg/kg、s.c.)を伴ってかまたは伴わずに注射した。14日目の生存を、カプラン・マイヤー法によって分析した。血清クレアチンキナーゼ(CK)レベルの決定に関しては(B)、血清CKレベルを、対照、Dox処理したマウス、およびDox−NRG1処理したマウスにおいて、ドキソルビシン注射の4日後に測定した。図1Cは、NRG1の注射により、マウスにおける、cTnI、cTnT、およびcTnCのタンパク質レベルのドキソルビシン誘発性の下方調節が軽減したことを示す。マウスは、ドキソルビシン(20mg/kg、i.p.)で、同時のNRG1注射(毎日、0.75mg/kg、s.c.)を伴ってかまたは伴わずに処理した。cTnI、cTnT、およびcTnCのタンパク質レベルを、ドキソルビシン処理の5日後に、ウェスタンブロット分析によって測定した。
【図2A】表示されたタンパク質を検出するためにプローブされた免疫ブロットを示す図である。図2Aは、NRG1により、新生ラットの心筋細胞(RNCM)における、cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルのドキソルビシン誘発性の下方調節が軽減されたことを明らかにするものである。RNCMは、NRG1(20ng/mlまたは50ng/ml)の存在下または非存在下で、ドキソルビシン(1uM)で処理した。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ドキソルビシン処理の48時間後に、ウェスタンブロット分析によって測定した。図2Bは、erbB2の阻害により、cTnIおよびcTnTに対するNRG1の効果が消えたことを示す。RNCMは、AG879(10uM)およびAG1478(10uM)の存在下または非存在下で、ドキソルビシン(1uM)およびNRG1(20ng/ml)で処理した。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ウェスタンブロット分析によって測定した。図2Cに示されるように、RNCMを、LY294002(10uM)、Akti(5uM)、PD98059(50uM)、およびラパマイシン(10nM)の存在下で、ドキソルビシンおよびNRG1で処理した。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ウェスタンブロット分析によって測定した。図2Dは、RNCMが、シクロヘキシミド(5ug/ml)、Z−VAD(100uM)、またはMG132(10uM)の存在下で、ドキソルビシンまたはドキソルビシン+NRG1で処理されたことを示す。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ウェスタンブロット分析によって測定した。
【図2B】表示されたタンパク質を検出するためにプローブされた免疫ブロットを示す図である。図2Aは、NRG1により、新生ラットの心筋細胞(RNCM)における、cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルのドキソルビシン誘発性の下方調節が軽減されたことを明らかにするものである。RNCMは、NRG1(20ng/mlまたは50ng/ml)の存在下または非存在下で、ドキソルビシン(1uM)で処理した。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ドキソルビシン処理の48時間後に、ウェスタンブロット分析によって測定した。図2Bは、erbB2の阻害により、cTnIおよびcTnTに対するNRG1の効果が消えたことを示す。RNCMは、AG879(10uM)およびAG1478(10uM)の存在下または非存在下で、ドキソルビシン(1uM)およびNRG1(20ng/ml)で処理した。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ウェスタンブロット分析によって測定した。図2Cに示されるように、RNCMを、LY294002(10uM)、Akti(5uM)、PD98059(50uM)、およびラパマイシン(10nM)の存在下で、ドキソルビシンおよびNRG1で処理した。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ウェスタンブロット分析によって測定した。図2Dは、RNCMが、シクロヘキシミド(5ug/ml)、Z−VAD(100uM)、またはMG132(10uM)の存在下で、ドキソルビシンまたはドキソルビシン+NRG1で処理されたことを示す。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ウェスタンブロット分析によって測定した。
【図2C】表示されたタンパク質を検出するためにプローブされた免疫ブロットを示す図である。図2Aは、NRG1により、新生ラットの心筋細胞(RNCM)における、cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルのドキソルビシン誘発性の下方調節が軽減されたことを明らかにするものである。RNCMは、NRG1(20ng/mlまたは50ng/ml)の存在下または非存在下で、ドキソルビシン(1uM)で処理した。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ドキソルビシン処理の48時間後に、ウェスタンブロット分析によって測定した。図2Bは、erbB2の阻害により、cTnIおよびcTnTに対するNRG1の効果が消えたことを示す。RNCMは、AG879(10uM)およびAG1478(10uM)の存在下または非存在下で、ドキソルビシン(1uM)およびNRG1(20ng/ml)で処理した。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ウェスタンブロット分析によって測定した。図2Cに示されるように、RNCMを、LY294002(10uM)、Akti(5uM)、PD98059(50uM)、およびラパマイシン(10nM)の存在下で、ドキソルビシンおよびNRG1で処理した。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ウェスタンブロット分析によって測定した。図2Dは、RNCMが、シクロヘキシミド(5ug/ml)、Z−VAD(100uM)、またはMG132(10uM)の存在下で、ドキソルビシンまたはドキソルビシン+NRG1で処理されたことを示す。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ウェスタンブロット分析によって測定した。
【図2D】表示されたタンパク質を検出するためにプローブされた免疫ブロットを示す図である。図2Aは、NRG1により、新生ラットの心筋細胞(RNCM)における、cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルのドキソルビシン誘発性の下方調節が軽減されたことを明らかにするものである。RNCMは、NRG1(20ng/mlまたは50ng/ml)の存在下または非存在下で、ドキソルビシン(1uM)で処理した。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ドキソルビシン処理の48時間後に、ウェスタンブロット分析によって測定した。図2Bは、erbB2の阻害により、cTnIおよびcTnTに対するNRG1の効果が消えたことを示す。RNCMは、AG879(10uM)およびAG1478(10uM)の存在下または非存在下で、ドキソルビシン(1uM)およびNRG1(20ng/ml)で処理した。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ウェスタンブロット分析によって測定した。図2Cに示されるように、RNCMを、LY294002(10uM)、Akti(5uM)、PD98059(50uM)、およびラパマイシン(10nM)の存在下で、ドキソルビシンおよびNRG1で処理した。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ウェスタンブロット分析によって測定した。図2Dは、RNCMが、シクロヘキシミド(5ug/ml)、Z−VAD(100uM)、またはMG132(10uM)の存在下で、ドキソルビシンまたはドキソルビシン+NRG1で処理されたことを示す。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ウェスタンブロット分析によって測定した。
【図3A】免疫ブロット(A、C、D)、およびヒストグラム(B)を示す図である。図3Aは、RNCMが、異なるカスパーゼの阻害剤(20uM)の存在下で、ドキソルビシン(1uM)で処理された結果を示す。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ウェスタンブロット分析によって測定した。図3Bは、ドキソルビシン処理したRNCMにおけるカスパーゼ活性化の効果を示す。細胞は、Dox、Dox+NRG1、またはDox+NRG1+LYで処理した。カスパーゼ活性化を、カスパーゼ活性化アッセイによって分析した。図3Cは、NRG1によってドキソルビシン誘発性のシトクロムcの放出が減少したことを示す。RNCMは、DoxまたはDox+NRG1で処理した。シトクロムcの放出は、細胞画分化およびウェスタンブロット分析によって分析した。図3Dは、NRG1によって、ドキソルビシン誘発性のcTnIのユビキチン化が減少したことを明らかにするものである。RNCMは、DoxまたはDox+NRG1で処理した。細胞溶解物を、cTnI抗体で免疫沈降させ、ユビキチン抗体でプローブした。
【図3B】免疫ブロット(A、C、D)、およびヒストグラム(B)を示す図である。図3Aは、RNCMが、異なるカスパーゼの阻害剤(20uM)の存在下で、ドキソルビシン(1uM)で処理された結果を示す。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ウェスタンブロット分析によって測定した。図3Bは、ドキソルビシン処理したRNCMにおけるカスパーゼ活性化の効果を示す。細胞は、Dox、Dox+NRG1、またはDox+NRG1+LYで処理した。カスパーゼ活性化を、カスパーゼ活性化アッセイによって分析した。図3Cは、NRG1によってドキソルビシン誘発性のシトクロムcの放出が減少したことを示す。RNCMは、DoxまたはDox+NRG1で処理した。シトクロムcの放出は、細胞画分化およびウェスタンブロット分析によって分析した。図3Dは、NRG1によって、ドキソルビシン誘発性のcTnIのユビキチン化が減少したことを明らかにするものである。RNCMは、DoxまたはDox+NRG1で処理した。細胞溶解物を、cTnI抗体で免疫沈降させ、ユビキチン抗体でプローブした。
【図3C】免疫ブロット(A、C、D)、およびヒストグラム(B)を示す図である。図3Aは、RNCMが、異なるカスパーゼの阻害剤(20uM)の存在下で、ドキソルビシン(1uM)で処理された結果を示す。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ウェスタンブロット分析によって測定した。図3Bは、ドキソルビシン処理したRNCMにおけるカスパーゼ活性化の効果を示す。細胞は、Dox、Dox+NRG1、またはDox+NRG1+LYで処理した。カスパーゼ活性化を、カスパーゼ活性化アッセイによって分析した。図3Cは、NRG1によってドキソルビシン誘発性のシトクロムcの放出が減少したことを示す。RNCMは、DoxまたはDox+NRG1で処理した。シトクロムcの放出は、細胞画分化およびウェスタンブロット分析によって分析した。図3Dは、NRG1によって、ドキソルビシン誘発性のcTnIのユビキチン化が減少したことを明らかにするものである。RNCMは、DoxまたはDox+NRG1で処理した。細胞溶解物を、cTnI抗体で免疫沈降させ、ユビキチン抗体でプローブした。
【図3D】免疫ブロット(A、C、D)、およびヒストグラム(B)を示す図である。図3Aは、RNCMが、異なるカスパーゼの阻害剤(20uM)の存在下で、ドキソルビシン(1uM)で処理された結果を示す。cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを、ウェスタンブロット分析によって測定した。図3Bは、ドキソルビシン処理したRNCMにおけるカスパーゼ活性化の効果を示す。細胞は、Dox、Dox+NRG1、またはDox+NRG1+LYで処理した。カスパーゼ活性化を、カスパーゼ活性化アッセイによって分析した。図3Cは、NRG1によってドキソルビシン誘発性のシトクロムcの放出が減少したことを示す。RNCMは、DoxまたはDox+NRG1で処理した。シトクロムcの放出は、細胞画分化およびウェスタンブロット分析によって分析した。図3Dは、NRG1によって、ドキソルビシン誘発性のcTnIのユビキチン化が減少したことを明らかにするものである。RNCMは、DoxまたはDox+NRG1で処理した。細胞溶解物を、cTnI抗体で免疫沈降させ、ユビキチン抗体でプローブした。
【図4A】エチジウムブロマイドで染色したアガロースゲル(A)および免疫ブロット(B)を示す図である。図4Aは、NRG−1により、cTnI、cTnT、および心臓特異的転写因子のmRNAレベルのドキソルビシン誘発性の下方調節が阻害されたことを明らかにするものである。RNCMは、DoxまたはDox+NRG1で処理した。cTnI、cTnT、GATA4、MEF2c、およびNKX2.5のmRNAレベルを、定量RT−PCRによって分析した。図4Bは、NRG1により、翻訳分子のドキソルビシン誘発性の脱リン酸化が阻害されたことを示す。RNCMは、Dox、Dox+NRG1、またはDox+NRG1+LYで処理した。mTOR、P70S6K、S6、4EBP、およびEIF4Gのリン酸化レベルを、ウェスタンブロット分析によって分析した。
【図4B】エチジウムブロマイドで染色したアガロースゲル(A)および免疫ブロット(B)を示す図である。図4Aは、NRG−1により、cTnI、cTnT、および心臓特異的転写因子のmRNAレベルのドキソルビシン誘発性の下方調節が阻害されたことを明らかにするものである。RNCMは、DoxまたはDox+NRG1で処理した。cTnI、cTnT、GATA4、MEF2c、およびNKX2.5のmRNAレベルを、定量RT−PCRによって分析した。図4Bは、NRG1により、翻訳分子のドキソルビシン誘発性の脱リン酸化が阻害されたことを示す。RNCMは、Dox、Dox+NRG1、またはDox+NRG1+LYで処理した。mTOR、P70S6K、S6、4EBP、およびEIF4Gのリン酸化レベルを、ウェスタンブロット分析によって分析した。
【図5A】生存のグラフ(A)、ヒストグラム(B)、および免疫ブロット(C)を示す図である。図5Aは、ドミナントネガティブなPI3K(dnPI3K)の心筋細胞特異的な過剰発現を有するドキソルビシン処理したマウスにおける、生存の分析を示す。マウスは、単一用量のドキソルビシン(20mg/kg、i.p.)で、NRG1の同時の処理(0.75mg/kg、s.c.)を伴ってかまたは伴わずに処理した。14日目の生存を、カプラン・マイヤー法によって分析した。図5Bは、ドキソルビシン処理したdnPI3Kマウスにおける血行動態測定を示す。マウスは、単一用量のドキソルビシン(20mg/kg、i.p.)で処理した。血行動態測定は、ドキソルビシン処理の6日後に行った。図5Cは、DoxまたはDox+NRG1で処理したdnPI3KマウスにおけるcTnIのタンパク質レベルを示す。
【図5B】生存のグラフ(A)、ヒストグラム(B)、および免疫ブロット(C)を示す図である。図5Aは、ドミナントネガティブなPI3K(dnPI3K)の心筋細胞特異的な過剰発現を有するドキソルビシン処理したマウスにおける、生存の分析を示す。マウスは、単一用量のドキソルビシン(20mg/kg、i.p.)で、NRG1の同時の処理(0.75mg/kg、s.c.)を伴ってかまたは伴わずに処理した。14日目の生存を、カプラン・マイヤー法によって分析した。図5Bは、ドキソルビシン処理したdnPI3Kマウスにおける血行動態測定を示す。マウスは、単一用量のドキソルビシン(20mg/kg、i.p.)で処理した。血行動態測定は、ドキソルビシン処理の6日後に行った。図5Cは、DoxまたはDox+NRG1で処理したdnPI3KマウスにおけるcTnIのタンパク質レベルを示す。
【図5C】生存のグラフ(A)、ヒストグラム(B)、および免疫ブロット(C)を示す図である。図5Aは、ドミナントネガティブなPI3K(dnPI3K)の心筋細胞特異的な過剰発現を有するドキソルビシン処理したマウスにおける、生存の分析を示す。マウスは、単一用量のドキソルビシン(20mg/kg、i.p.)で、NRG1の同時の処理(0.75mg/kg、s.c.)を伴ってかまたは伴わずに処理した。14日目の生存を、カプラン・マイヤー法によって分析した。図5Bは、ドキソルビシン処理したdnPI3Kマウスにおける血行動態測定を示す。マウスは、単一用量のドキソルビシン(20mg/kg、i.p.)で処理した。血行動態測定は、ドキソルビシン処理の6日後に行った。図5Cは、DoxまたはDox+NRG1で処理したdnPI3KマウスにおけるcTnIのタンパク質レベルを示す。
【図6A】GGF2のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。
【図6B】GGF2のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。
【図6C】GGF2のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。
【図6D】GGF2のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。
【図7】EGFL1のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。
【図8】EGFL2のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。
【図9】EGFL3のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。
【図10】EGFL4のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。
【図11】EGFL5のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。
【図12】EGFL6のアミノ酸配列および核酸配列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
典型的には、患者が胸痛を訴えて病院を訪れる場合、患者の心臓の状態を評価し、同定された何らかの問題の重症度を決定するために、以下の診断ステップが用いられる。第1に、患者に問診をして、症状の総合的なリストを作り、医療従事者が心臓に関連しない問題を排除できるようにする。第2に、心臓により作り出される電波を記録する、心電図(EKG)の読み出しを行う。EKGは、心臓の状態に関連する胸痛の重症度を決定するため、および心臓に対する障害の程度を測定するために必須のツールである。心臓障害を示す、トロポニンおよびクレアチンキナーゼ(CK)などの特定の因子、ならびにクレアチンキナーゼのさらに心臓特異的なアイソフォーム(CK−MB)の血清レベルの上昇を検出するために、血液検査も行う。CK、CK−MB、およびトロポニンの血清レベルの上昇は、心筋細胞の死によるこれらの分子の放出に起因するものであり、したがって、ネクローシスの血清マーカーとして役立つものである。心筋細胞が、例えば長期にわたる虚血の結果死ぬと、細胞膜は破裂し、細胞質の内容物を細胞外液胞内に放出し、そこから、前記内容物はリンパ系に入り、続いて血流に入る。心エコー図および血流シンチグラフィーを含むイメージング試験もまた、診断との関連において用いることができる。
【0021】
利用可能な、心臓ネクローシスの最も特異的なマーカーは、心臓トロポニンである。これらのタンパク質は、心筋細胞の収縮装置の構成要素である。2つの心臓トロポニン、cTnIおよびcTnTは、市販されており、これらのマーカーの検出は、最小レベルの心筋細胞障害を検出するための、信頼性があり特異的なアッセイであることが明らかにされている。CK−MBのような心臓トロポニンは、細胞膜が破裂すると、死んだ心筋細胞から放出され、最終的には血液内で検出可能である。ネクローシスは長期にわたる心筋虚血の結果生じ得るが、感染、外傷、または鬱血性心不全などの他の原因による心筋細胞障害によっても生じ得る。
【0022】
本発明は、様々な側面において、先行技術において記載されている手順とは異なるものである。まず、本発明は、cTnIおよびcTnTの血清レベルよりもむしろ、インタクトな心臓組織におけるこれらのマーカーの細胞内レベルを測定することを目的とする。さらに、本発明者らは、インタクトな心臓組織における細胞内cTnIおよびcTnTのレベルの減少が、心臓障害のリスクを有しているかまたは心臓障害を有している患者を同定するための診断マーカーとして役立つということを発見した。このアプローチは、これらのマーカーの血清レベルの測定と大きく異なっており、その増大は心臓障害を示すものである。さらに、これらのマーカーの血清レベルの増大は、心臓障害の急性のまたは一時的なマーカーであるが、インタクトな心臓組織におけるcTnIおよびcTnTの細胞内レベルの測定は、心臓の状態を反映した安定なマーカーとして役立つ。本発明に従って、インタクトな心臓組織における細胞内cTnIおよびcTnTのレベルの減少を示す患者の同定はまた、その後の治療についてカテゴリーに患者を階層化するためのスクリーニング法を提供する。細胞内cTnIおよびcTnTのレベルの低減の形跡を示す患者は、それらの回復に反映される正常な心機能を少なくとも部分的に回復させるために選択された適切な組成物を用いた治療にまわされる。
【0023】
このような組成物に含めるための例示的な治療作用物質は、グリア成長因子2(GGF2)である。GGF2のアミノ酸配列および核酸配列を図6A〜6Dに示す。治療用組成物にはまた、図7〜12に示されるような、また、その全体が本明細書に組み込まれる米国特許第(USPN)5,530,109号に記載されるような、ニューレグリン遺伝子によってコードされる上皮成長因子様(EGFL)ドメインなどの他の例示的なポリペプチドも含まれ得る。
【0024】
本発明のパラメーターをより明らかに説明するために、以下の定義を用いる。
【0025】
本明細書および添付の特許請求の範囲において用いる場合、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」には、文脈からそうでないことが明らかでない限り、複数形の言及が含まれる。したがって、例えば、「その方法」という言及には、1つもしくは複数の方法、ならびに/または、本明細書において記載されるタイプの、および/もしくはこの開示を読むことで当業者に明らかとなるであろうタイプのステップが含まれる。
【0026】
本発明の分子または化合物を含む組成物は、診断的および/または治療的処置のために投与することができる。診断的適用において、組成物は、患者が心臓障害を有しているかを決定するため、および/またはプロスペクティブな治療レジメンに関して患者を階層化するために患者に投与される。治療的適用において、組成物は、心臓障害を有すると診断された患者に、患者を治療するのに十分な量で投与され、それにより、少なくとも部分的に疾患およびその合併症の症状を抑える。これを達成するのに適切な量は、「治療上有効な量または用量」と定義される。この使用に有効な量は、疾患の重症度ならびに患者の体重および全身状態に依存する。
【0027】
本明細書において用いる場合、「心臓組織の対照試料」という表現は、cTnIおよびcTnTの細胞内レベルが正常範囲内にある心臓組織の試料を言う。cTnIおよびcTnTの細胞内レベルの正常範囲または野生型範囲は、本明細書に示されるような実験、および、熟練医師によって健康な心機能を有していると決定された対象の心臓組織を標準として用い、それに対して未知の心臓組織を比較する、当技術分野において知られている実験に基づいて定められる。正常な心臓の標準、典型は、例えば、心疾患の形跡を有していない死体で行った新たな剖検から得ることができる。
【0028】
同様に、「対照レベルまたは正常レベル」という用語は、本明細書に記載されるように定められたかまたは決定され、健康な機能と関連する範囲内であることが当技術分野において理解されているレベルを言う。本発明に関して、健康な機能とは、収縮期および拡張期の血圧の測定、CK、CK−MB、およびトロポニンなどの指標タンパク質の血清レベルの測定、EKGの実施、ならびに/または負荷試験の実施などの標準的な手順を用いて熟練医師によって評価され得る、健康な心機能を言う。熟練医師であれば、どれが通常これらのタンパク質の正常な血清レベルであると考えられるかを知っている。
【0029】
様々な研究が、例えば血清CKレベルに関して示されており、一般的なガイドラインが定められている。1つのこのような研究において、例えば、280IU/L以上の血清クレアチンキナーゼレベルを有している、心筋梗塞(MI)が疑われる患者は、MIを有している可能性が非常に高く、80から279IU/Lの血清クレアチンキナーゼレベルを有する患者は、MIを有している可能性が高く、40から79IU/Lのクレアチンキナーゼレベルを有する患者は、MIを有している可能性があまり高くはなく、そして、40IU/L未満のクレアチンキナーゼレベルを有する患者は、MIを有している可能性がさらに高くないとされた。CKまたはトロポニンの正常な血清レベルであると考えられるものに関しては、異なる病院が、わずかに異なる標準を定めていることを理解されたい。さらに、熟練医師であれば、その医師が働いている特定の臨床背景(例えば特定の病院)において認められた標準を認識している。
【0030】
トロポニンはまた、心臓損傷の高感度のおよび特異的なマーカーであると認められている。実際、血清トロポニンI(sTnI)の検出は、クレアチンキナーゼ−MBの濃度よりも、MIの診断にとってより正確であり、より有用な予後情報を提供すると考えられている。sTnIの検出はまた、死亡のリスクが増大している、急性冠動脈症候群を有する患者の早期の同定を可能にするものである。sTnIは、総クレアチンキナーゼのわずかな増大を伴う、患者における小さな虚血性心筋損傷の検出について、クレアチンキナーゼ−MBの濃度よりも感度が高く、周術期のMIにおける診断マーカーとしてクレアチンキナーゼ−MBを使用することに関連する誤診の多発を避けるものである。1つの研究において、例えば、血清トロポニンIの穏やかな上昇(0.4〜2.0μg/L)を有する患者は、同様の上昇を有さない患者と比較すると、死亡率が顕著に高く、集中治療室および病院への滞在期間が長かった。穏やかに上昇したトロポニン濃度の範囲内で、より高い力価が、死亡リスクの増大、病院および集中治療室への滞在の長期化、ならびに心筋梗塞の発生の増大に関連していた。2μg/L以上の最大血清トロポニン濃度を示す患者をβ−遮断薬およびアスピリンで治療すると、患者の予後が改善された。
【0031】
細胞内cTnIおよびcTnTの正常なレベルに関して、このような決定は、本明細書において教示される方法、および当技術分野において知られている方法などの、タンパク質レベルを決定するための標準的な方法を用いて、正常な心臓組織を評価することにより行われる。損傷を受けたまたは疾患を有する心臓を示すような、細胞内cTnIおよびcTnTのレベルの減少は、定められた正常レベルと比較した、これらのタンパク質のレベルの減少として決定される。例えば、障害について試験される心臓組織におけるcTnIおよび/またはcTnTのレベルの、健康な心臓組織(正常な対照)と比較した、少なくとも50%の減少は、試験される心臓組織が障害を有することの正の指標として役立ち、障害を受けた組織が取り出された患者は、本明細書において教示されるような治療的介入の恩恵を受けることになる。より詳細な実施例において、障害について試験される心臓組織におけるcTnTのレベルの、健康な心臓組織(正常な対照)と比較した、少なくとも75%の減少は、試験される心臓組織が障害を有することの正の指標として役立ち、障害を受けた組織が取り出された患者は、本明細書において教示されるような治療的介入の恩恵を受けることになる。
【0032】
熟練医師であればまた、正常なおよび疾患を有する心臓組織における細胞内cTnIおよびcTnTの活性およびレベルに関連する科学文献の多くを知っている。正常なおよび疾患を有する心臓組織における細胞内cTnIおよびcTnTに関連する参考文献の例には、Latifら(2007年、J Heart Lung Transplant 26巻:230〜235頁)、Birksら(2005年、Circulation 112巻(第9追補):I57〜4頁)、Dayら(2006年、Ann NY Acad Sci 1080巻:437〜450頁)、VanBurenら(2005年、Heart Fail Rev 10巻:199〜209頁)、de Jongeら(2005年、Int J Cardiol 98巻:465〜470頁)、Wenら(2008年、J Biol Chem 4月22日、刊行前の電子出版)、Liら(2008年、Biochem Biophys Res Commun 369巻:88〜99頁)、Robinsonら(2007年、Circ Res 101巻:1266〜1273頁)、Solzinら(2007年、Biophys J 93巻:3917〜3931頁)、(Chenら(2007年、Cardiovasc Toxicol 7巻:114〜121頁)、Solaroら(2007年、Circ Res 101巻:114〜115頁)、Kuboら(2007、J Am Coll Cardio 49巻:2419〜2426頁)、Dayら(2007年、J Mol Med 85巻:911〜921頁)、Miltingら(2006年、Mol Call Cardiol 41巻:441〜450頁)が含まれ、これらのそれぞれの全内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0033】
本発明の別の実施形態において、治療レジメンの前および最中(または後)のタンパク質のレベルをアッセイすることにより決定される細胞内cTnIおよびcTnTのレベルの増大は、レジメンの治療的有効性を実証し、レジメンが正常な心機能の回復を促進することの証拠を提供するものである。実際、細胞内cTnIおよびcTnTのレベルの増大は、心機能の回復のサロゲートエンドポイント(すなわち、臨床エンドポイントに代わることを目的としたバイオマーカー)として用いることができる。しかし、細胞内cTnIおよびcTnTのレベルが、治療的介入の後に、低減したレベルのままであるかまたはさらに低減する場合、熟練医師は、治療される患者に関してレジメンの利点を再考し、治療レジメンを変えるかまたは場合によっては打ち切る。
【0034】
本明細書において用いる場合、「予防する」または「予防」は、疾患または異常に罹患するかまたはそれを発現するリスクを低減させること(すなわち、疾患の臨床症状の少なくとも1つを、病原物質に晒され得るかまたは疾患の発症の前にその疾患の傾向がある対象において発現しないようにすることを言う。
【0035】
「予防法」という用語は、「予防」に関連するものであり、疾患を治療するかまたは治癒させるよりもむしろ予防することを目的とした方策または手順を言う。予防策の非限定的な例には、ワクチンの投与、例えば固定化に起因する血栓症のリスクを有する入院患者への低分子量のヘパリンの投与、および、マラリアが風土病であるかまたはマラリアへの接触のリスクが高い地域を訪れる前の、クロロキンなどの抗マラリア剤の投与が含まれ得る。
【0036】
あらゆる疾患または異常を「治療する」または「治療」という用語は、1つの実施形態において、疾患または異常を改善させること(すなわち、疾患を抑えるか、またはその臨床症状の少なくとも1つの徴候、範囲、もしくは重症度を低減させること)を言う。別の実施形態において、「治療する」または「治療」は、対象により認識され得ない少なくとも1つの身体的パラメーターを改善させることを言う。さらに別の実施形態において、「治療する」または「治療」は、疾患または異常を、身体的に(例えば、認識される症状の安定化)、生理的に(例えば、身体的パラメーターの安定化)、またはその両方で調節することを言う。
【0037】
組織を単離するための侵襲的手順
心筋の生検は、開胸の最中または開胸手術の最中に心臓組織をカテーテルを介して心臓から得る、一般的な手順である。それは、心不全の病因を診断するために一般的に用いられる。心臓組織は、組織学的および生化学的の両方で分析される。これらの試験の結果は、心不全の原因の診断において有用である。臨床背景における心筋の生検の概説については、その全開示が参照により本明細書に組み込まれる、Veinot(2002年、Can J Cardiol.18巻(3号):287〜96頁)を参照されたい。
【0038】
心筋の生検の結果は、心不全が、強皮症、ウイルス性心筋炎、薬物毒性、または心不全のあらゆる数の原因などの原因により生じることを示し得る。この診断は、もし存在する場合にはどの治療的介入が有用であり得、採用されるべきかを決定づけるものである。
【0039】
心筋の生検(または心臓の生検)は、例えば生検鉗子(末端に把持装置を有する小さなカテーテル)が、分析され得る心筋組織の小片を得るために用いられ得る、侵襲的手順である。心筋の生検は、心臓移植の拒絶反応を評価するため、および心筋炎(心臓の炎症)を診断するために用いることができる。
【0040】
熟練医師であれば、カテーテルを用いた心筋の生検のための基本的なプロトコルを知っているが、それは原則的に、局所麻酔を用いて患者の頸部または股間の部分を麻痺させること、医師がプラスチック製の挿入鞘(その中にカテーテルがある短い中空管)を、麻痺した領域の血管内に挿入すること、生検鉗子を鞘の中に通し、患者の右心室に進めること、および生検鉗子の把持装置を用いて試料を心臓から回収することを伴うものである。手順の最中に、生検鉗子を適切に位置させるために、X線カメラを通常用いる。試料は、ピンの頭部程のサイズである。十分な数の試料が回収されたら、カテーテルを取り除き、強く圧迫することによって局所的な出血を制御する。患者は、手順の間、覚醒し、意識があってよい。
【0041】
特定のタンパク質は、心筋が障害を有しているか、およびどの程度の障害かを予測および診断するために、心筋の事象の後、血流内において一般的に測定されている。これらのタンパク質には、限定はしないが、クレアチンキナーゼおよびトロポニンが含まれる。血流内のこれらのタンパク質および他のタンパク質の特定のサブタイプの検出は、心筋からのタンパク質の放出の、したがって障害の診断である。血清におけるこれらの指標タンパク質の検出は、心臓の事象が予想される急性の背景において一般的に用いられており、患者に対する最良の治療の決定において有用であることが明らかにされている。急性の背景においては有用であるが、血流内の心臓タンパク質レベルは、心臓の事象の数日後以降は心不全の診断または予測において有用ではなく、また、心疾患の病因または適切な治療方針の決定においては全く有用ではない。心臓タンパク質のレベルは、心臓の事象の直後を除いて血液内で上昇しないため、血流内におけるこれらのタンパク質の測定からは、心筋の状態についてほとんど明らかにされない。
【0042】
逆に、本発明は、どの患者が心臓保護治療、心臓回復治療、および他の心不全治療に反応性であり得るかを予測するために心筋の生検を用いることを記載している。どの患者がこれらの治療に反応するかを予測することで、的確な患者が特定の治療を受けられるようにすることを促進することにより治療が改善され、顕著には、ほとんど有用ではなく、したがって患者を潜在的に重度な副作用のリスクに晒すだけの治療を受ける患者の数が限定される。さらに、心筋の生検および特定のタンパク質含有量の決定により、どの患者が特定の治療に反応しているか、およびどの患者において治療を続行すべきかが示され得る。
【0043】
本明細書において示されるデータは、予測された通り、心臓のチャレンジの直後に、クレアチンキナーゼおよびトロポニンを含む特定のタンパク質が血流内で検出され得ることを示す。データはまた、血流内の心臓タンパク質が正常な低いレベルに戻った後しばらくして採取された心筋の試料からの心筋タンパク質の安定した減少が測定され得ることを示す。これらのデータはまた、ニューレグリンでの不全な心臓の治療が、疾患を有する心臓の心臓タンパク質含有量の低下および回復を予防し得ることを示す。この回復は、生存および心臓生理の改善と相関する。
【0044】
さらに、これらのデータは、ニューレグリンが、傷害の後の心筋のトロポニン含有量を回復させ得ることを示す。トロポニンは、心臓の収縮特性に必須の主要なタンパク質である。トロポニン含有量の回復は、したがって、正常な心臓生理の回復に重要である。心筋のトロポニン含有量の低減が心機能の低減の構成要素であるかを決定するための心筋の生検における、心筋のトロポニン含有量の測定の使用は、どの患者が、ニューレグリンの投与などの心臓回復治療に反応し得るかを予測することを助けるものである。さらに、心筋のトロポニン含有量の測定は、どの患者がニューレグリンなどの心臓回復治療に反応しているかを決定するためのアッセイとして用いることができる。患者がいつ治療に順調に反応しているかを知ることは、このような患者が再び治療されるべきか、観察されるべきか、または治療から外されるべきか、および、いつそうすべきかを予測することを助けるものである。心筋のトロポニン含有量の測定は、心臓回復治療で心疾患を治療されている個別の患者について投与量を最適化するために用いることができる。同様に、心臓のトロポニンレベルの連続的な低下が生じる、慢性的な疾患状態では、心筋のトロポニンレベルの維持は、進行中の疾患の存在下におけるニューレグリンなどの心臓保護治療の成功を示し得る。このようにして、心筋のトロポニンレベルは同様に、治療に対する反応を予測し、投与量を最適化するために用いることができる。
【0045】
例えば、GGF2またはニューレグリンのEGFLドメインについての投与量は、約100mg/kgで開始され得、それらの投与量は、患者の心臓組織におけるcTnIおよびcTnTの細胞内レベルの評価を含む患者の反応に基づいて、高いレベルに増量される。
【0046】
単離されると、心臓組織におけるcTnIおよびcTnTの細胞内レベルは、本明細書において示される実施例において記載される方法、および当技術分野において知られている方法によって決定することができる。単離された心臓組織の細胞溶解物またはそれに由来する沈殿物は、例えば、限定はしないが免疫ブロット分析、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、および質量分析を含む、様々な技術を用いて分析することができる。実際、ELISAプロトコルは、高親和性の心臓特異的抗体(M11.7)を用いる、心臓特異的なトロポニンTを検出するために開発されている。このアッセイの検出限界は、交差反応する抗体である1B10を用いるものであった第1世代のELISAプロトコルよりも低い(それぞれ、0.0123μg/Lと、0.04μg/L)。
【0047】
インビボでトロポニンIおよびトロポニンTのレベルを検出するための方法
分子イメージングの分野における技術の進歩により、臨床医が分子レベルおよび細胞レベルで治療の有効性を診断および評価することを可能にする、非侵襲的な、高解像度のインビボでのイメージング技術が可能となっている。分子イメージングという用語は、実際、「細胞レベルおよび分子レベルでの生物学的プロセスのインビボでの特徴付けおよび測定として広く定義されている」。その全体が本明細書に組み込まれる、Weisslederら(Radiology 219巻:316〜333頁、2001年)を参照されたい。例えば、ポジトロン放出断層撮影法(PET)、マイクロPET、単光子放出コンピュータ断層撮影法(SPECT)、および2次元イメージングを含む、核イメージングは、通常、特定の放射性医薬品を検出プローブとして用いる、内因性タンパク質または発現したタンパク質の視覚化を伴うものである。例えばPETは、細胞構成要素および細胞内での分子の相互作用のリアルタイムでの分析を容易にする、3次元の画像または身体における機能的プロセスのマップを生じさせ得る。PETは、医療用ツールおよび研究ツールの両方として用いられている。医療的適用に関して、それは、腫瘍を画像化し、転移を検出するために臨床腫瘍学において、および様々な脳疾患、とりわけ認知症に関連する脳疾患の臨床診断において、広く用いられている。患者にPET分析を繰り返し行うことが可能であるため、熟練医師が経時的に結果を比較することが可能になり、それにより、例えば、疾患の進行または選択された治療プロトコルの有効性を評価することが可能になる。PETはまた、正常なヒトの脳および心臓の機能をマッピングするための研究ツールとして用いられている。
【0048】
別のスキャン法には、X線コンピュータ断層撮影法(CT)、磁気共鳴イメージング(MRI)、機能的磁気共鳴イメージング(fMRI)、および超音波が含まれる。CTおよびMRIなどのイメージングスキャンは、身体における有機的な解剖学的変化の視覚化に非常に適しているが、上記に示したように、SPECTおよびfMRIのようなPETスキャナは、解剖学的レベルで変化が明らかになる前においてさえも分子レベルでの変化を検出するための解像度を有している。PETなどのイメージングスキャンは、目的の組織のタイプおよび機能に応じて異なる取り込み率を示す、放射性標識された分子プローブを用いることで、この目的を達成する。様々な解剖学的構造における局部的な血流の変化もまた、PETスキャンを用いて視覚化および定量することができる。上記のスキャン技術のいくつかを、用いられるラジオアイソトープの互換性に応じて組み合わせて用いて、臨床評価の精度を改善する、より総合的な情報を得ることができる。これは、SPECTイメージングに関して、本明細書において以下に論じられる。
【0049】
上記に示したように、PET、マイクロPET、SPECT、および2次元イメージングなどの核イメージング技術は、特定の放射性医薬品を検出プローブとして用いて、内因性タンパク質または発現したタンパク質を視覚化することを目的とするものである。細胞内酵素をコードするイメージングマーカー遺伝子、および細胞表面タンパク質もしくは受容体をコードするイメージングマーカー遺伝子は、特定の分子をインビボで画像化するために、様々な実験系において成功裏に用いられている。細胞内酵素の活性はまた、特定の細胞内酵素のレベルおよび/または活性を示す副産物を標識することにより評価され得る。例えば、PETおよびマイクロPETは、代謝、細胞の連絡、および遺伝子発現に関与するプロセスを画像化するために、ポジトロン標識分子を用いる。分子イメージング技術は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、Kim(Korean J Radiology 4巻:201〜210頁、2003年)において記載されている。
【0050】
PETスキャンにおいて用いられる放射性核種は、典型的には、11C(〜20分)、13N(〜10分)、15O(〜2分)、および18F(〜110分)などの、半減期が短いアイソトープである。これらの放射性核種は、グルコース、水、またはアンモニアなどの、身体によって通常用いられる化合物内に組み込まれ、その後、それらがどこに分布するかを追跡するために、体内に注射される。このような標識された化合物は、放射性トレーサーとして知られている。これらの放射性トレーサーの短い半減期により、臨床的なPETは主に、110分の半減期を有し、使用の前に適当な距離を輸送され得る、18Fで標識されたトレーサーの使用に制限されるか、または、携帯型の発生器において生じさせることができ、心筋血流の研究に用いられる、82Rbに制限される。
【0051】
SPECTは、ガンマ線を用いる核医学断層撮影イメージング技術の例である。それは、ガンマカメラを用いる従来の核医学2次元イメージングに非常に類似している。しかし、2次元イメージングとは異なり、SPECTは真の3D情報を提供し得る。この情報は、典型的には、患者の全体にわたる断面のスライスとして示されるが、所望により表示に関して変化させることができる。ガンマカメラ画像により得られる画像は、放射性核種の3次元分布の2次元表示である。SPECTの取得は、2次元ガンマカメライメージングに非常に類似しているため、同一の放射性医薬品を両方のプロトコルに用いることができる。例えば、患者が別のタイプの核医学スキャンを用いて試験されるが画像が非診断的である場合、患者をテーブル上に残したまま、または患者をSPECT装置に移動させながら、SPECT画像の取得のためにカメラを再設定することにより、SPECTを用いて次のイメージングスキャンを行うことが可能である。
【0052】
SPECTはまた、心臓にゲートされた取得にも用いることができる。心周期の様々な時期において心臓に関する差異的な情報を得るために、ゲートされた心筋SPECTを、心筋の血流、厚さ、および心周期の様々な時期における心筋の収縮性についての定量的な情報を得るために用いることができる。それはまた、左心室の駆出率、1回拍出量、および心拍出量の計算を容易にするために用いられる。
【0053】
心筋血流イメージング(MPI)は、虚血性心疾患の診断に用いられる機能的な心臓イメージングの例である。それは、機能が低下しているかまたは疾患を有する心筋が、負荷条件下では、正常な心筋よりも少ない血流を受け取るという原理に基づくものである。簡潔に述べると、例えば99mTc−テトロフォスミン(Myoview(商標)、GE healthcare)または99mTc−セスタミビ(Cardiolite(登録商標)、Bristol−Myers Squibb)である、心臓特異的な放射性医薬品を投与し、その投与の後、心拍が上がり、心筋の負荷が誘発される。標準的な実施に従うと、増強した心拍は、典型的には、運動誘発性であるか、またはアデノシン、ドブタミン、もしくはジピリダモールによる薬理誘発性である。負荷の誘発の後に行われるSPECTイメージングにより、放射性医薬品の分布が明らかになり、したがって、心筋の異なる領域への相対的な血流が明らかになる。診断は、負荷画像を、安静時に得られたその後の一式の画像と比較することにより行われる。
【0054】
トロポニンは細胞骨格および酵素の構造上の構成要素であるため、分子イメージング技術は、細胞内cTnIおよびcTnTのレベルをインビボで測定することを想定したものである。
【0055】
実際、心臓トロポニンTは、細胞質プールおよび構造的に結合したタンパク質のプールの両方において、高濃度で心筋内に存在する。細胞質プールの量は6%となり、一方で、筋原線維における量は、心筋細胞におけるトロポニンTの総質量の94%に相当する。筋細胞内に通常は高レベルで存在することを考慮すると、トロポニンTのいずれかまたは両方のプールを標識することにより、適当な程度の精度および解像度で視覚化するのに十分なシグナルが生じる。
【0056】
心臓組織におけるトロポニン複合体をインビボで視覚化することを想定した1つの潜在的なアプローチは、この複合体のカルシウム(Ca2+)結合特性を利用するものである。収縮が、横紋筋におけるトロポニン(Tn)へのCa2+の結合により開始されること、より具体的には、アクチンへのミオシンの結合、力の生成、および短縮をもたらす、TnのCa2+結合サブユニット(TnC)により開始されることが知られている。力のレベルは、アクチンの表面上でのトロポミオシン(Tm)の位置により制御される、細いフィラメント上のミオシン結合部位の利用可能性によって調節される。Tnの抑制性サブユニット(TnI)は、Ca2+の非存在下でアクチンに結合し、ミオシンの結合を阻害するようにTmを固定する。Ca2+がTnCに結合すると、それは強いTnI−TnC相互作用を誘発し、TnI−アクチン相互作用を弱め、その結果、Tmの可動性を増大させ、アクチン上の強力なミオシン結合部位を露出させる。さらに、アクチンへのミオシンの結合により架橋が形成され、この架橋は、さらにTmを遮断部位から遠ざけるものであり、骨格筋における細いフィラメントの最大の活性化に必要であると考えられる。
【0057】
上記の特性を考慮すると、熟練医師であれば、細胞骨格の構成要素を視覚化するために、より詳細には心臓組織におけるトロポニンレベルをインビボで視覚化するために、Ca2+放射性核種を用いることを想定する。あるいは、cTnIまたはcTnTを特異的に認識する小分子は、放射性核種で標識され得、これらのタンパク質の細胞内レベルを視覚化するために患者に投与され得る。熟練医師であれば、リガンド、抗体、およびcTnIもしくはcTnTの基質、ならびに/またはcTnIもしくはcTnTと相互作用するタンパク質を含む、本方法において有用な様々な標識されたプローブを想定し得る。
【0058】
米国特許第5,324,502号に記載されているような放射性医薬品がまた、心筋組織のイメージングのために本方法において有利に用いられ得る。米国特許第5,324,502号に記載されているように、このような放射性医薬品は、トリアミンおよびテトラアミンのシッフ塩基付加物と場合により置換されたサリチルアルデヒドとを含む金属キレート配位子を用いて、放射性金属イオンの親油性の陽イオン性複合体を形成することによって調製される。これらの親油性の、陽イオン性の放射性複合体は、心筋組織における高い取り込みおよび保持を示す。本発明に従った、好ましいガリウム−68(III)複合体を、ポジトロン放出断層撮影法を用いる心臓の画像化に用いることができる。本発明の1つの態様において、このような放射性医薬品を、トロポニンを結合する作用物質の取り込みを心臓組織にターゲティングするための手段として用いることができる。
【0059】
薬学的組成物
本発明はまた、薬学的組成物を提供するものである。このような組成物は、治療上有効な量の作用物質、および薬学的に許容可能な担体を含む。特定の実施形態において、「薬学的に許容可能な」という用語は、連邦政府もしくは州政府の規制当局によって認可されているか、または、米国薬局方もしくは他の一般に認められている薬局方において、動物、より詳細にはヒトにおける使用について列挙されていることを意味する。「担体」という用語は、薬剤と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、または媒体を言う。このような薬学的担体は、水、および石油、動物油、植物油、または合成由来の油を含む油などの、例えばピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油などの、滅菌液体であり得る。水は、薬学的組成物が静脈内投与される場合に好ましい担体である。生理食塩水および水性デキストロースおよびグリセロール溶液もまた、とりわけ注射用溶液のための、液体担体として用いられ得る。
【0060】
適切な薬学的賦形剤には、デンプン、グルコース、ラクトース、ショ糖、ゼラチン、麦芽、米、小麦、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが含まれる。組成物はまた、所望により、少量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤を含み得る。これらの組成物は、溶液、懸濁液、乳濁液、錠剤、ピル、カプセル、粉末、持続放出製剤などの形を取り得る。組成物は、従来の結合剤およびトリグリセリドなどの担体と共に、坐剤として製剤することができる。経口製剤は、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの、標準的な担体を含み得る。適切な薬学的担体の例は、参照により本明細書にその全体が組み込まれる、E. W. Martinによる「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載されている。このような組成物は、対象に適切に投与するための形態とするために、治療上有効な量の化合物を、好ましくは精製された形態で、適切な量の担体と共に含む。
【0061】
特定の実施形態において、組成物は、通常の手順に従って、人間への静脈内投与に適した薬学的組成物として製剤される。典型的には、静脈内投与のための組成物は、滅菌等張水性緩衝液内の溶液である。必要であれば、組成物はまた、可溶化剤、および注射部位の痛みを和らげるためのリドカインなどの局所麻酔も含み得る。通常、成分は、個別に、または共に混合して、単位投与形態で、例えば、活性物質の量を表示しているアンプルまたはサシュなどの密封された容器内の凍結乾燥粉末または無水濃縮物として提供される。組成物が注入により投与される場合、滅菌医薬品グレードの水または食塩水を含む注入ボトルにそれを分注することができる。組成物が注射により投与される場合、注射用の滅菌水または生理食塩水のアンプルを準備して、投与の前に成分が混合され得るようにすることができる。
【0062】
本発明の化合物は、中性のまたは塩の形態として製剤することができる。薬学的に許容可能な塩には、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来する遊離アミノ基と共に形成された塩、および、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来する遊離カルボキシル基と共に形成された塩が含まれる。
【0063】
心臓障害の治療において有効な本発明の化合物の量は、本記載に基づいた標準的な臨床技術によって決定することができる。さらに、最適な用量範囲の同定を容易にするために、インビトロでのアッセイを場合により用いることができる。製剤において用いられる正確な用量はまた、投与経路および疾患または異常の重症度に応じるものであり、医者の判断およびそれぞれの対象の状況に従って決定されるべきである。しかし、静脈内投与に適した用量範囲は、通常は、体重1kg当たり約20〜500μgの活性化合物である。鼻腔内投与に適した用量範囲は、通常は、約0.01pg/体重kgから1mg/体重kgである。坐剤は通常、0.5重量%から10重量%の範囲の活性成分を含み、経口製剤は、好ましくは10%から95%の活性成分を含む。有効な用量は、インビトロでのまたは動物モデルの試験系に由来する用量反応曲線から推定することができる。
【0064】
例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルへのカプセル化、化合物を発現することができる組換え細胞、受容体介在性のエンドサイトーシス(WuおよびWu(1987年)J. Biol. Chem.262巻:4429〜4432頁を参照されたい)、およびレトロウイルスまたは他のベクターの一部としての核酸の構築などの、様々な送達系が知られており、本発明の化合物を投与するために用いることができる。導入の方法は、腸内または非経口であり得、限定はしないが、皮内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与、鼻腔内投与、硬膜外投与、および経口投与が含まれる。化合物は、あらゆる適当な経路によって、例えば、注入またはボーラス注射によって、上皮層または皮膚粘膜層(例えば、口腔粘膜、直腸および腸の粘膜など)を介した吸収によって投与することができ、他の生物学的に活性な作用物質と共に投与することができる。投与は全身的または局所的であり得る。さらに、本発明の薬学的組成物を、脳室内注射および髄腔内注射を含むあらゆる適切な経路によって、中枢神経系に導入することが望ましい場合があり、脳室内注射は、例えばOmmaya貯留器などの貯留器に付着したものなどの脳室内カテーテルによって、容易となり得る。例えば吸入器または噴霧器の使用、およびアエロゾル化剤との製剤によって、肺への投与もまた用いることができる。
【0065】
特定の実施形態において、例えば注射による、カテーテルの使用による、またはインプラントの使用による、外科的な局部適用の際の局所的注入によって、本発明の薬学的組成物を局所的に投与することが望ましい場合があり、前記インプラントは、シラスティック膜などの膜または線維を含む、多孔質、非多孔質、またはゼラチン状の材料である。
【0066】
別の実施形態において、化合物または作用物質は、小胞内、とりわけリポソーム内で送達され得る(Langer(1990年)Science 249巻:1527〜1533頁;Treatら、in Liposomes in the Therapy of Infectious Disease and Cancer、Lopez−BeresteinおよびFidler(編)、Liss ,New York、353〜365頁(1989年);Lopez−Berestein、同書、317〜327頁を参照されたい;全般的には同書を参照されたい)。
【0067】
さらに別の実施形態において、化合物または作用物質は、制御放出系において送達され得る。1つの実施形態において、ポンプを用いることができる(上記のLanger;Sefton(1987年)CRC Crit. Ref. Biomed. Eng.14巻:201頁;Buchwaldら(1980年)Surgery 88巻:507頁;Saudekら、1989年、N. Engl. J. Med.321巻:574頁を参照されたい)。別の実施形態において、ポリマー材料を用いることができる(Medical Applications of Controlled Release、LangerおよびWise(編)、CRC Pres.、Boca Raton、Florida(1974年);Controlled Drug Bioavailability, Drug Product Design and Performance、SmolenおよびBall(編)、Wiley, New York(1984年);RangerおよびPeppas, J.、1983年、Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem.23巻:61頁を参照されたい;また、Levyら(1985年)Science 228巻:190頁;Duringら(1989年)Ann. Neurol.25巻:351頁;Howardら(1989年)J. Neurosurg. 71巻:105頁も参照されたい)。さらに別の実施形態において、制御放出系を、治療標的、すなわち障害を有する心臓の付近に置き、それにより全身用量のごく一部のみが必要となる(例えば、Goodson、上記のMedical Application of Controlled Release、第2巻、115〜138頁(1984年)を参照されたい)。他の制御放出系は、Langer(1990年、Science 249巻:1527〜1533頁)による概説において論じられている。
【0068】
別段の定義がない限り、本明細書において用いられる全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野における当業者により一般に理解されているものと同一の意味を有する。本明細書において記載されているものに類似しているかまたは等しいあらゆる方法および材料が、本発明の実施または試験において用いられ得るが、特定の方法および材料が以下に記載される。本明細書において述べる全ての刊行物は、その刊行物が引用される対象である方法および/または材料を開示および記載するために、参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0069】
(実施例1)
本発明者らは、これまでに、GGF2、すなわち組換えニューレグリン1が、ドキソルビシン治療したマウスにおいて生存および心機能を改善させることを報告している。本明細書において記載されるように、本発明者らは、GGF2が、インビボでドキソルビシン誘発性の心筋原線維の損失を予防するかどうか、およびインビトロで心筋細胞において予防するかどうかを調べた。本明細書において示される結果により、特定の心臓タンパク質の細胞内発現レベルが正常な心機能の有用な指標であるという新規な発見がもたらされた。より詳細には、本発明者らは、インタクトな心臓組織における心臓トロポニンI(cTnI)および心臓トロポニンT(cTnT)の細胞内レベルの変化を、心臓障害の指標として用いることができることを発見した。本発明の特定の態様において、インタクトな心臓組織における細胞内cTnIおよびcTnTのレベルの減少が、心臓障害のリスクを有しているかまたは心臓障害を有している患者を同定するための有用な診断マーカーであることが示されている。このような患者は、次に、本明細書において記載される適切な予防的または治療的介入のために選択される。正常な細胞内cTnIおよびcTnTのレベルの回復は、治療が心機能を改善したかまたは正常な心機能を回復させたことの正の指標として役立つため、インタクトな心臓組織における細胞内cTnIおよびcTnTのレベルの決定はまた、進行中の治療的介入の有効性を評価するために有利に用いられ得る。
【0070】
材料および方法
材料
C57BL/6マウスおよびWistarラットは、Charles River Laboratoriesから入手した。ドキソルビシンは、Bedford laboratoriesから入手した。グリア成長因子2は、Acorda Therapeutics,Inc.から譲り受けた。MG132、シクロヘキシミド、およびアクチノマイシンは、Sigmaから入手した。LY294002およびPD98059は、Cell Signalling Technologyから入手した。抗体は、以下の業者から注文した:トロポニンI、GATA4、およびNkx2.5は、Santa Cruz Biotechnologyから、α−サルコメアアクチン、トロポニンT、トロポニンC、トロポミオシン、および心臓トロポニンTは、Abcamから、デスミンおよびα−アクチンはSigmaから、ならびに、心臓トロポニンIはGene Texから注文した。MEM、ハンクス液、およびウシ胎児血清は、Invitrogenから入手した。細胞培養のための全ての他の試薬は、Sigmaから入手した。
【0071】
動物モデル
8から10週齢のオスのC57BL/6マウスを、心臓試料を単離する分析に用いた。亜急性ドキソルビシン心毒性モデルを、この研究に用いた。マウスは、単一用量のドキソルビシン(20mg/kg、i.p.)で処理した。ドキソルビシン処理の24時間前、当日、および処理後毎日、マウスをGGF2(0.75mg/kg、s.c.)またはプラセボ(GGF2の製剤緩衝液)で処理した。マウスは、ドキソルビシン処理の4.5日後に屠殺した。心臓試料(1群当たりn=3〜4)を回収し、液体窒素内で瞬間冷凍した。
【0072】
心機能を測定する(以下に詳述するように)分析に関して、3ヶ月齢のC57BL/6マウスを、単一用量のドキソルビシン(20mg/kg、i.p.)で処理した。グリア成長因子2(GGF2−Dox、0.75mg/kg、s.c.、n=74)またはプラセボ(GGF2の希釈に用いる緩衝液、プラセボ−Dox、n=73)を、ドキソルビシン処理の1日前、および処理後に毎日1回、マウスに注射した。ドキソルビシン処理を行っていないマウスを対照として用いた(n=20)。心機能を、ドキソルビシン処理の4日後および2週間後に、直接的な左心室(LV)カテーテル法によって評価した。2週間の生存を、カプラン・マイヤー法によって分析した。
【0073】
新生児の心筋細胞の培養
新生児の心筋細胞を、これまでに記載されているように解離した(Okoshiら、Journal of Cardiac Failure.2004年、10巻:511〜518頁)。簡潔に述べると、0日目から3日目のWistarラットから得られた心室を、トリプシンおよびDnase II内で解離した。細胞を洗浄し、100mmの皿内の5%ウシ胎児血清を含むMEMに予め播種した。30分後、筋細胞を、0.1mmol/Lのブロモデオキシウリジンを含む同一の培地内に懸濁させ、次に、100mmの培養皿内で500〜1000個細胞/mmの密度で播種した。解離の48時間後、培地を、0.1%BSAを含む無血清MEMに交換し、刺激の前に一晩培養した。
【0074】
NRG1はドキソルビシン処理したマウスにおいて生存および心機能を改善させた
この結果は、ドキソルビシン処理の2週間後に、ドキソルビシン処理したマウスにおける生存が、未処理の対照マウスと比較して顕著に減少したことを明らかにするものである。しかし、NRG1で同時に処理すると(Dox−NRG1)、ドキソルビシンを受けたマウスにおける生存が、プラセボ処理したマウス(Dox−プラセボ)と比較して顕著に改善した(図1A)。心機能を、ドキソルビシン処理したマウスにおいて生存が低下し始めたポイントである、ドキソルビシン注射の5日後に、さらに評価した。表1に示されるように、体重(BW)、心臓重量(HW)、および左心室重量(LVW)は、Dox−プラセボマウスおよびDox−NRG1マウスの両方において、対照(未処理)マウスと比較して顕著に減少した。脛骨の長さで標準化したHWおよびLVW(HW/TLおよびLVW/TL)は、Dox−プラセボマウスにおいて、対照マウスと比較して顕著に減少した。しかし、これらの指数は、Dox−NRG1マウスと対照マウスとの間では異ならなかった。LVの収縮期圧(LVSP)、心拍出量、およびdP/dt最小は、Dox−プラセボマウスにおいて、対照と比較して顕著に減少した。逆に、心機能のこれらの指標は、Dox−NRG1マウスと対照マウスとの間では顕著に異ならず、このことは、NRG1(Dox−NRG1)処理したマウスにおける心臓の収縮機能が、プラセボ処理したマウス(Dox−プラセボ)と比較して改善したことを示している。心臓損傷の指数である血清クレアチンキナーゼ(CK)レベルもまた、心機能のさらなる読み出しを得るために評価した。図1Bに示されるように、CKレベルは、Dox−プラセボマウスおよびDox−NRG1マウスの両方において、対照マウスと比較して顕著に増大した。しかし、CKレベルは、Dox−NRG1マウスにおいて、Dox−プラセボマウスと比較して顕著に低かった。これらの結果は、NRG−1処理が、ドキソルビシンを受けたマウスにおいて生存および心臓の収縮機能を顕著に増大させたことを示すものである。
【0075】
【表1】

NRG1はインビボで心臓におけるcTnIおよびcTnTのドキソルビシン誘発性の下方調節を軽減した
ドキソルビシン誘発性の心毒性のメカニズムの1つは、心筋原線維の損失である。本明細書において記載されるように、本発明者らは、インビボでのNRG1の注射がドキソルビシン誘発性の筋原線維の損失を阻害するかどうかを調べた。本明細書において示される結果は、心臓の構造タンパク質であるα−サルコメアアクチン、α−アクチン、トロポニンT(TnT)、トロポニンI(TnI)、トロポニンC(TnC)、およびトロポミオシンのレベルが、ドキソルビシン処理した心臓において顕著に減少したことを示す。インビボでのNRG1の注射は、ドキソルビシンを受けた心臓におけるcTnI、cTnT、およびcTnCのタンパク質レベルを顕著に増大させた(図1C)が、α−サルコメアアクチン、α−アクチン、およびトロポミオシンのタンパク質レベルには効果を有さなかった。
【0076】
NRG1はインビトロで心筋細胞におけるcTnIおよびcTnTタンパク質のドキソルビシン誘発性の下方調節を消す
NRG1がcTnIおよびcTnTのドキソルビシン誘発性の下方調節を阻害したメカニズムをさらに研究するために、本発明者らは、新生ラットの心筋細胞培養物(NRCM)を用いてインビトロでの研究を行った。図2Aに示されるように、ドキソルビシンはNRCMにおけるcTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを顕著に低減させたが、NRG−1の存在は、ドキソルビシン処理した心筋細胞におけるこれらのタンパク質のレベルを維持した。これらの結果はさらに、NRG1のこれらの効果が、erbB2、PI3K、Akt、mTOR、またはERKに対する阻害剤によって遮断される(図2Bおよび2C)が、erbB4(図2B)、p38、またはPKCに対する阻害剤によっては遮断されないことを示すものであった。この結果はまた、NRG1の予防効果および/または回復効果が、タンパク質の翻訳阻害剤であるシクロヘキシミドによって遮断されるが(図2D)、転写阻害剤であるアクチノマイシンDによっては遮断されないことを示した。cTnIおよびcTnTのドキソルビシン誘発性の下方調節は、汎カスパーゼ阻害剤であるZ−VADおよびプロテアソーム阻害剤であるMG132によって消えたが(図2D)、リソソーム阻害剤であるバフィロマイシンによっては消えなかった。
【0077】
NRG1はインビトロで心筋細胞におけるcTnIおよびcTnTのドキソルビシン誘発性のカスパーゼ分解およびプロテアーゼ分解を阻害した
細胞内におけるタンパク質のレベルの維持は、動的なプロセスである。それは、タンパク質の合成および分解の速度に依存する。本発明者らは、ドキソルビシンがcTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを減少させたメカニズムを調査し、この効果が、それらの分解の増大および/またはそれらの合成の減少によって生じるかどうか、ならびにNRG1がドキソルビシンのこれらの効果のいずれかを遮断したかどうかを決定した。
【0078】
NRG1がcTnIおよびcTnTのドキソルビシン誘発性のカスパーゼ分解を阻害したかどうかを調べるために、本発明者らは、まず、cTnIおよびcTnTのドキソルビシン誘発性の分解の原因である特定のカスパーゼを同定した。心筋細胞を、特定のカスパーゼ阻害剤の存在下においてドキソルビシンで処理した。図3Aに示されるように、カスパーゼ3、カスパーゼ6、またはカスパーゼ9(内因性経路)の阻害剤は、cTnIおよびcTnTの両方のドキソルビシン誘発性の下方調節を遮断した。さらに、cTnIの下方調節は、カスパーゼ10(外因性経路)、カスパーゼ2、カスパーゼ13、またはカスパーゼ5の阻害剤によって遮断された。一方、cTnTの下方調節はまた、カスパーゼ2およびカスパーゼ13によって遮断された。本発明者らは次に、ドキソルビシンがこれらのカスパーゼの活性を活性化するかどうか、およびNRG1がこれらのカスパーゼの活性を阻害するかどうかを試験した。インビトロでのカスパーゼ活性化アッセイにより、ドキソルビシンがカスパーゼ3、6、および9の活性化を、カスパーゼ10、2、および5と同様に顕著に増大させることが明らかになった。心筋細胞のNRG1処理は、これらのカスパーゼのドキソルビシン誘発性の活性化を顕著に阻害した(図3B)。PI3K阻害剤であるLY294002は、NRG1のこれらの効果を消した。本発明者らはさらに、ドキソルビシンが、NRCMにおける細胞質へのシトクロムcの放出の増大を誘発することを示した。しかし、NRG1処理は、ドキソルビシンのこの効果を阻害した(図3C)。この結果は、カスパーゼ3、6、および9の活性化の所見と組み合わせて、ドキソルビシンが、カスパーゼ3、6、および9の活性化の原因であり得るミトコンドリア外膜の透過化を増大させること、ならびにNRG1がドキソルビシンのこれらの効果を遮断することを示唆するものであった。これらの結果は、NRG−1が、少なくとも部分的にはcTnIおよびcTnTの分解の原因である内因性および外因性の両方のカスパーゼ活性化の、ドキソルビシン誘発性の活性化を阻害することを示すものであった。
【0079】
本発明者らはさらに、cTnIのドキソルビシン誘発性の下方調節がMG132によって遮断されることを明らかにした(図2D)。簡潔に述べると、本発明者らは、ドキソルビシンがcTnIのプロテアソーム分解を増大させるかどうか、およびNRG1がこの効果を遮断するかどうかを調べた。図3Dに示されるように、ドキソルビシンはcTnIのユビキチン化を増大させ、NRG1処理は、ドキソルビシンのこの効果を消した。この結果は、NRG1がcTnIのドキソルビシン誘発性のプロテアソーム分解を減少させることを示すものであった。
【0080】
NRG1はインビトロで心筋細胞におけるcTnIおよびcTnTの合成のドキソルビシン誘発性の減少を軽減させた
ドキソルビシンがcTnIおよびcTnTの転写を減少させるかどうか、ならびにNRG1がドキソルビシンのこの効果を逆転させるかどうかをさらに試験するために、Dox−プラセボ処理したおよびDox−NRG1処理した心筋細胞におけるこれらのタンパク質のmRNAレベルを測定した。図4Aに示されるように、ドキソルビシンはcTnIおよびcTnTの両方のmRNAを減少させた。一方、NRG1は、ドキソルビシン処理した心筋細胞においてcTnIおよびcTnTのmRNAレベルを維持した。さらに、NRG1は、心臓特異的な遺伝子の転写に重要な転写因子である、GATA4のmRNAレベルを維持し、MEF2cおよびNkx2.5のmRNAレベルをわずかに増大させた(図4A)。
【0081】
この結果は、cTnIおよびcTnTに対するNRG−1の効果がシクロヘキシミドによって遮断されたことを示すものであり(図2D)、このことは、NRG1がこれらのタンパク質の転写を増大させたことを示唆する。本発明者らは、Dox−プラセボ処理したおよびDox−NRG1処理した心筋細胞において、いくつかの転写機構および関連するシグナル伝達経路の活性化を評価した。図4Bに示されるように、処理の48時間後、mTOR(Ser2448)、P70S6K(Thr421/Ser424)、S6(Ser240/244)、およびeIF4G(Ser1108)のリン酸化レベルは、Dox−プラセボ処理した心筋細胞においては減少したが、Dox−NRG1処理した心筋細胞においては維持された。LY294002はNRG−1のこれらの効果を遮断した。これらの結果は、NRGが、PI3Kを介して、cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルの維持に寄与し得る、ドキソルビシン処理した心筋細胞におけるタンパク質翻訳機構の活性化を維持したことを示唆するものである。
【0082】
これらの結果は、NRG1が、内因性および外因性のカスパーゼならびに炎症活性化されたカスパーゼの阻害と、cTnIのユビキチン化の阻害と、転写の増大ならびに翻訳のシグナル伝達および機構の活性化とを含む複数のメカニズムを介した、cTnIおよびcTnTのドキソルビシン誘発性の下方調節を軽減することを示すものであった。これらの結果はまた、PI3Kが、NRG1による心筋細胞におけるcTnIおよびcTnTのレベルの維持に主要な役割を果たすことも示唆するものであった。
【0083】
インビボでのNRG1による心臓保護効果の仲介におけるPI3Kの役割をさらに調べるために、本発明者らは、ドミナントネガティブなPI3Kの心筋細胞特異的な過剰発現を有するトランスジェニックマウスを用い、それらを上述したようにドキソルビシンで処理した。図5Aに示されるように、生存率は、dnPI3K−Dox−プラセボマウスにおいて、WT−Dox−プラセボマウスと比較して減少した。NRG1(WT−Dox−NRG)処理により、ドキソルビシンを受けたWT(WT−Dox−プラセボ)マウスにおける生存が改善した(67%対33%)。興味深いことに、この改善の程度は、オスのC57BL/6マウスにおいて観察されたもの(図1A)よりも大きかった。この結果は、生存率のこの改善が、ドキソルビシン処理したdnPI3Kマウスにおいて弱まることをさらに示すものであった(dnPI3K−Dox−NRG:56%に対し、WT−Dox−NRG:67%)。
【0084】
心機能をまた、これらのマウスにおいて評価した。図5Bに示されるように、LVSP、dP/dt最大、およびdP/dt最小、ならびに心拍出量は、dnPI3K対照と比較したdnPI3K−Dox−プラセボマウスにおいて、WTマウスと比較したWT−Dox−プラセボマウスよりも、より顕著に低下し、このことは、dnPI3K−Dox−プラセボマウスにおいてより重度の心機能障害があることを示している。
【0085】
本発明者らは、ドキソルビシン処理したWTマウスおよびdnPI3Kマウスにおける、cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルを測定した。ドキソルビシン処理を行わない場合、cTnIおよびcTnTのタンパク質レベルは、WTおよびdnPI3Kの心臓において同様であった。ドキソルビシン注射の2週間後、cTnIのタンパク質レベルの減少が、dnPI3K−Dox−プラセボ処理した心臓において、未処理dnPI3Kの心臓と比較して観察された。驚くべきことに、NRG1処理は依然として、dnPI3Kの心臓におけるcTnIのドキソルビシン誘発性の下方調節を消した(dnPI3K−Dox−NRG、図5C)。この時点では、ドキソルビシン処理したマウスの心臓において、対照マウスと比較して、cTnTのタンパク質レベルの変化は見られなかった。
【0086】
これらの結果は、GGF2が、ドキソルビシンを受けた心臓においてTnTおよびTnIのタンパク質レベルを明確に維持することを示すものである。さらに、これらの所見により、GGF2がドキソルビシン処理したマウスの生存を増大させることが明らかになり、これは、ドキソルビシンおよびGGF2の両方で処理したマウスにおいて明らかであるように、心機能の改善に関連するものである。
【0087】
本発明の好ましい実施形態のいくつかが、上記に記載され、具体的に例示されたが、本発明はこのような実施形態に制限されるものではない。様々な改変が、以下の特許請求の範囲に説明される本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、本発明に行われ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心臓障害を示す患者の亜集団を同定するために患者集団をスクリーニングするための方法であって、前記集団内の患者の心臓組織における心臓トロポニンT(cTnT)または心臓トロポニンI(cTnI)の細胞内レベルを検出するステップを含み、cTnTまたはcTnIの対照のまたは正常な細胞内レベルと比較して、それぞれ、患者の心臓組織におけるcTnTまたはcTnIの細胞内レベルが減少する場合、心臓障害が示され、心臓障害を示す患者の亜集団の構成員として前記患者が分類される方法。
【請求項2】
心臓組織におけるcTnTまたはcTnIの細胞内レベルを検出するステップがインビトロで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
心臓組織におけるcTnTまたはcTnIの細胞内レベルを検出するステップがインビボで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記心臓障害が、心毒性、高血圧、弁膜症、心筋梗塞、ウイルス性心筋炎、または強皮症の結果生じる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記心毒性が、化学療法剤もしくは他の治療作用物質、放射線、または非治療的な保養目的で用いられる作用物質での処置により生じる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
心臓組織におけるcTnTまたはcTnIの前記対照のまたは正常な細胞内レベルが、正常な心機能を有する患者の心臓組織におけるcTnTまたはcTnIの細胞内レベルを決定することにより定められる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
心臓組織におけるcTnTまたはcTnIの前記対照のまたは正常な細胞内レベルが、心臓障害を生じさせ得る治療を開始する前の患者の心臓組織におけるcTnTまたはcTnIの細胞内レベルを決定することにより定められる、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記患者が哺乳動物である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記哺乳動物がヒトである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
心臓障害を示す患者の亜集団における患者を、少なくとも1つの治療作用物質を含む組成物で治療する過程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの前記治療作用物質がグリア成長因子2(GGF2)である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
心臓障害を有することが疑われる患者を診断するための方法であって、患者の心臓組織における心臓トロポニンT(cTnT)または心臓トロポニンI(cTnI)の細胞内レベルを検出する過程と、前記患者で検出された心臓組織におけるcTnTまたはcTnIの細胞内レベルを、心臓組織の対照試料のものと比較する過程とを含み、心臓組織の対照試料のものと比較して、患者の心臓組織におけるcTnTまたはcTnIの細胞内レベルが減少する場合、前記患者における心臓障害が示され、心臓障害を治療するための治療的介入についての候補として前記患者が同定される、方法。
【請求項13】
心臓組織におけるcTnTまたはcTnIの前記対照のまたは正常な細胞内レベルが、正常な心機能を有する患者の心臓組織におけるcTnTまたはcTnIの細胞内レベルを決定することにより定められる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記患者が哺乳動物である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記哺乳動物がヒトである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
治療レジメンの有効性を決定するための方法であって、
a)前記治療レジメンを開始する前の患者の心臓組織における心臓トロポニンT(cTnT)または心臓トロポニンI(cTnI)の細胞内レベルを検出する過程、
b)前記治療レジメンを開始した後の患者の心臓組織におけるcTnTまたはcTnIの細胞内レベルを検出する過程、および
を含む方法。

【図5C】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【公表番号】特表2010−527000(P2010−527000A)
【公表日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−507486(P2010−507486)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【国際出願番号】PCT/US2008/006060
【国際公開番号】WO2008/140814
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(501073611)アコーダ セラピューティクス インコーポレイテッド (3)
【Fターム(参考)】