説明

心蘇生術における胸部圧迫および換気の同期

【課題】胸部圧迫および換気を患者へ自動的に与えるための装置を提供する。
【解決手段】この装置は、胸部を圧迫するために圧力の加えられる圧迫期および胸部に加えられる圧力がほぼ0の非圧迫期を与えるように構成されている胸部圧迫器と、陽圧、陰圧、またはほぼ0の圧力を気道へ与えるように構成されている人工呼吸器と、制御回路およびプロセッサと、制御回路およびプロセッサは胸部圧迫器に、心収縮期の非圧迫期および心収縮期の圧迫期を各々含む、複数の心収縮期フローサイクルを含むセット、ならびに、心拡張期の非圧迫期および心拡張期の圧迫期を各々含み、かつ、心収縮期フローサイクルのセットの間に散在する1つ以上の心拡張期フローサイクル、を反復的に与えさせるように構成されていることと、心拡張期の非圧迫期は心収縮期の非圧迫期より長いことと、からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は心蘇生術用の装置に関する。より詳細には、本発明は胸部圧迫および換気の自動制御用の装置に関する。
【背景技術】
【0002】
心停止の患者に対する蘇生治療法には、一般に、患者の気道を確保すること、手動操作のバッグバルブまたは電動の携帯型人工呼吸器を用いて患者の人工呼吸または換気を行なうこと、および胸部圧迫を行い犠牲者の心臓、脳その他の重要器官へ血流を供給すること、が含まれる。胸部圧迫は、患者の胸部を胸骨の部位にて手動で圧迫することによって行なわれる場合や、電動の胸部圧迫器の使用によって行なわれる場合がある。患者がショック可能な心臓リズムを有する場合、蘇生には除細動治療が含まれることもある。“一次救命処置(BLS)”の用語には、初期評価、気道確保、呼気換気(人工呼吸)、および胸部圧迫の要素が全て含まれる。“気道、呼吸、胸部圧迫を含む循環”の3つ全てが組み合わされるときには、“心肺蘇生術(CPR)”の用語が用いられる。
【0003】
異常な心臓リズムには様々な種類が存在し、除細動による治療が可能であるもの(“ショック可能なリズム”)と、不可能であるもの(“ショック不可能なリズム”)とがある。例えば、充分な心拍出量を生成する大部分のECGリズムは、ショック不可能であると考えられる(例えば、正常洞調律、ある種の徐脈、および洞頻脈)。また、幾つかの異常なECGリズムは、それらの状態の下では除細動処置が通常無効であるため、充分な心拍出量は生じないものの依然としてショック不可能であると考えられる。これらのショック不可能なリズムの例には、不全収縮、電導収縮解離その他の無脈性電気活動がある。これらの生存不能、かつショック不可能なリズムでは患者が生存したままでいることは不可能であるが、ショックを与えてもリズムの変換の補助にはならない。介護者が除細動を行なうべきショック可能リズムの主な例には、心室性細動、心室頻脈および心室粗動がある。
【0004】
ショック可能なECGリズムを有する患者に対し、除細動器を用いて1つ以上のショックを与えたにもかかわらず、患者がショック可能もしくはショック不可能な潅流または非潅流のリズムにあり、意識を喪失したままである場合がある。非潅流リズムが存在する場合、介護者は、患者の心臓、脳その他の重要器官へ継続して血流および酸素を供給するために、一定の期間、CPRを行う。ショック可能リズムが存在し続けるか、CPRの実行中に発生する場合、この心肺蘇生術の期間に続き、さらなる除細動が試行される。患者が意識喪失のまま、有効な循環のない状態である限り、介護者は、(電気的なリズムを分析し、場合によってはショックを与えるための)除細動器の使用と、心肺蘇生法(CPR)の実行とを交互に行なうことが可能である。2005年にアメリカ心臓協会(AHA)によって公布された最新版のガイドラインでは、心室性細動などショック可能なリズムを救助者に示す患者に対しても、除細動ショックより前にCPRが与えられる場合がある。最新のAHAガイドラインでは、CPRには、一般に、30回の胸部圧迫に、2回の人工呼吸を行なう休止が続く反復パターンが含まれる。
【0005】
換気は、心停止の治療中の心肺蘇生術の重要な構成要素である。静脈血は、酸素(O)を失い二酸化炭素(CO)を満たされた筋肉および器官から、心臓へ戻る。身体の様々な部分からの血液は心臓において混合され(混合静脈血)、肺へ送られる。肺では、血管は小さな肺嚢(肺胞)を取り囲む小血管の網へ分かれる。肺胞を取り囲む血管の正味の総体によって、それらのガスの濃度勾配に沿った拡散によるガス交換のための大きな表面積が提供される。混合静脈血のCO分圧(PCO)であるPvCOと、肺胞PCOとの間には、濃度勾配が存在する。吸気の始めから、呼吸中のある時点にPvCO
肺胞PCOとの間の平衡に到達するまで、COは混合静脈血から肺胞へ拡散する。被験者が息を吐くとき、吐かれる最初のガスはガス交換の不可能な気管および気管支からのものであるため、ガス組成は吸い込まれたガスと同様である。この呼気の終わりのガスは肺胞からのものと考えられ、毛細管と肺胞との間の平衡CO濃度を反映している。このガスのPCOを呼吸終期PCO(PEtCO)と呼ぶ。
【0006】
血液が肺胞を通過し、心臓によって動脈へ送られるときのPCOは、動脈PCO(PaCO)として知られている。動脈血のPCOは、毛細管と肺胞との間の平衡におけるPCOと等しい。呼吸毎に幾らかのCOが肺から除去され、COをほとんどまたは全く含まない新鮮な空気(CO濃度は0であると仮定)が吸い込まれ、残りの肺胞PCOを希釈して、混合静脈血から肺胞の中へ拡散する新たなCOの勾配を確立させる。普通はL/分によって表現される呼吸数、即ち、毎分換気量(V)は、肺へ運ばれるCOを除去し、ほぼ40Torr(40mmHg)(正常なヒト)の平衡PCO(およびPaCO)を維持するためにちょうど必要な値である。より多くのCOを生成するとき(例えば、発熱または運動のために)、より多くのCOが生成され、肺へ運ばれる。次いで、激しく呼吸(過換気)して肺胞から余分なCOを流し去ることによって、同じ平衡PaCOが維持される。しかしながら、CO生成が正常でありながら過換気を行なう場合、PaCOは低下する。反対に、CO生成が一定のままで換気が低下する場合、動脈PCOは上昇する。吸気体積の一部は、気道(気管、気管支)およびほとんど血液の潅流しない肺胞へ行くため、吐き出すあいだのCOの除去に寄与しない。この部分は“死腔”ガスと呼ばれる。Vのうち肺胞をよく潅流しガス交換に参加する部分は、肺胞換気量(VA)と呼ばれ、肺胞におけるガス交換に参加して吐き出されるガスは“肺胞ガス”と呼ばれる。
【0007】
所望の気道内圧を与えることの可能な自動人工呼吸器も知られている。特許文献1には、陰圧の気道内圧を与えることの可能な換気システムが記載されている。特許文献2乃至4には、循環を強めるために換気サイクルが心臓サイクルと同期される人工呼吸器が記載されている。特許文献5には、幾つかの圧迫サイクルを通じて換気を与え、次いで換気と換気との間に別の一連の圧迫サイクルを与える、一体型の胸部圧迫器および人工呼吸器が記載されている。
【0008】
現在、AHAは、30回の圧迫毎に2回の換気を行なうことを推奨しているが、この推奨が公布されたのは、主に、救助者が圧迫と換気とを切り換える際の遅延によって不充分なレベルの胸部圧迫が生じる結果、不充分なレベルの循環が生じることが分かったためである。機械式装置の場合、胸部圧迫および換気の機能を統合することが所望される。
【0009】
特許文献6および7には、心不全の患者の心臓を補助するための膨張式ベストが記載されている。左心室が収縮して心臓から大動脈を通じて血液を押し出す心臓の心収縮期の開始と、ベストの膨張とが同期されている。膨張したベストは患者の胸部を圧迫し、胸腔内圧を増大させる。この圧力の増大によって、心臓が血液を心臓から大動脈を通じて移動させることが補助される。特許文献8および9には、胸部圧迫サイクルを心臓活動の心収縮期と同期させる装置が記載されている。特許文献10には、蘇生中の自動胸部圧迫用の装置が記載されている。
【0010】
換気サイクルと圧迫サイクルとの同期は、特許文献11に記載されている。特許文献11では自動胸部圧迫器と自動人工呼吸器との同期が提案されており、圧迫期(即ち、胸部圧力が加えられているとき)と同時に高圧の換気パルスが与えられ、非圧迫期(即ち、胸部圧力が加えられていないとき)と同時にわずかに陰圧の換気パルスが与えられることが推奨されている。圧迫期および非圧迫期の長さは等しい(デューティサイクル50%)。陰圧の換気パルスは「心拡張期に胸部へより多量の血液を移動させる」と述べられている
。また、特許文献11では、ほぼ6番目の圧迫/非圧迫のサイクル毎に、圧迫が発生していないときに、従来の換気サイクルを導入することが推奨されている。圧迫期と同期されている陽圧の換気圧力サイクルのあいだ空気のフローはほとんど発生しないので、このことは充分な肺胞ガス交換に有益であると述べられている。特許文献11では、その発明を用いて圧力およびフローにおける著しい改良が観察されたと報告されているが、典型的な患者の生理学的状態は、それらの実験において用いられている動物モデルとは相当に異なる。
【0011】
典型的な心停止では、患者の血流が全くない時間は一般に10〜12分を超えており、血流のない時間が常に8分未満、また大部分の実験では5分未満である動物モデルとは異なる。長期間の虚血状態の下では、不充分な代謝エネルギー基質および酸化窒素放出の結果、患者の血管緊張は著しく危険に曝される。電子回路におけるキャパシタンスの増大がシステム固有の時定数の増大を引き起こすように、血管のコンプライアンスの有意な増大によって、この緊張が失われることは物理的に明らかである。このことは、非特許文献1に記載されているようなモデル、または虚血の持続時間を延長した動物モデルにおいて試験することが可能である。この著者の記述など幾つかの出版物には、微分方程式からなるシステムが記載されている。この特定の例では、「ヒトの循環は、血液が流れ得る抵抗によって接続されている7つの伸展性の房によって表現される。伸展性は、胸大動脈、腹大動脈、上大静脈および右心、腹部静脈および下肢静脈、頚動脈ならびに頚静脈に相当する。また、胸隔は肺血管および左心伸展性を表すポンプを含む。このポンプは、圧力が加えられて血液が心臓自体から大動脈弁まで搾り出される、心臓のような心臓ポンプとして機能するように構成されてもよく、圧力が加えられて血液が肺血管床から左心を通じて末梢部へ搾り出される、全胸部圧力ポンプとして機能するように構成されてもよい。教科書的な標準の“70kgのヒト”を記述する生理学的変数の値を用いて、モデルにおける伸展性および抵抗を指定する。脈管のコンダクタンス(1/抵抗)の頭蓋、胸郭および尾部の構成要素への分配は、様々な身体部位への心拍出量の教科書的な分配を反映している」。詳細には、非圧迫期中の静脈還流の時定数は長期間の虚血中に著しく増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,664,563号明細書
【特許文献2】米国特許第4,676,232号明細書
【特許文献3】米国特許第5,020,516号明細書
【特許文献4】米国特許第5,377,671号明細書
【特許文献5】米国特許第4,326,507号明細書
【特許文献6】米国特許第6,179,793号明細書
【特許文献7】米国特許第6,752,771号明細書
【特許文献8】米国特許第4,198,963号明細書
【特許文献9】米国特許第6,171,267号明細書
【特許文献10】米国特許第6,213,960号明細書
【特許文献11】米国特許第4,397,306号明細書
【非特許文献1】クリティカル・ケア・メディシン(Crit Care Med)、2000年、第28巻、第11号(補遺)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
胸部圧迫および換気を患者へ自動的に与えるための装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
第1の態様では、本発明は胸部圧迫および換気を患者へ自動的に与えるための装置を特
徴とする。この装置は、胸部を圧迫するために圧力の加えられる圧迫期および胸部に加えられる圧力がほぼ0の非圧迫期を与えるように構成されている胸部圧迫器と、陽圧、陰圧、またはほぼ0の圧力を気道へ与えるように構成されている人工呼吸器と、制御回路およびプロセッサと、制御回路およびプロセッサは胸部圧迫器に、心収縮期の非圧迫期および心収縮期の圧迫期を各々含む、複数の心収縮期フローサイクルを含むセット、ならびに、心拡張期の非圧迫期および心拡張期の圧迫期を各々含み、かつ、心収縮期フローサイクルのセットの間に散在する1つ以上の心拡張期フローサイクル、を反復的に与えさせるように構成されていることと、心拡張期の非圧迫期は心収縮期の非圧迫期より長いことと、からなる。
【0015】
この本発明の態様の好適な実施形態には、次のうちの1つ以上が組み込まれてよい。制御回路およびプロセッサは人工呼吸器に心拡張期の非圧迫期のあいだ陰圧の換気圧力を与えさせるように構成されている。心収縮期の圧迫期および心収縮期の非圧迫期の持続時間はほぼ同じである。心拡張期の非圧迫期の持続時間は心拡張期の圧迫期の持続時間の2倍より長い。心拡張期の非圧迫期の持続時間は心拡張期の圧迫期の持続時間のほぼ4倍である。心拡張期フローサイクルは第2の圧迫期および第2の非圧迫期を含むことと、第1の非圧迫期および第2の非圧迫期のうちの一方のあいだには陰圧の換気圧力が与えられ、かつ、第1の非圧迫期および第2の非圧迫期のうちの他方のあいだには陽圧の換気圧力が与えられることと、を含む。人工呼吸器は心収縮期フローサイクルのあいだ陽圧の換気圧力および陰圧の換気圧力を与える。心収縮期フローサイクルの非圧迫期のうちの大部分のあいだ陰圧の換気圧力が与えられる。心収縮期フローサイクルの圧迫期のうちの大部分のあいだ陽圧の換気圧力が与えられる。換気圧力は陰圧から陽圧、また陰圧へとほぼランプ状の変位で徐々に変化することと、圧迫期の開始時に換気圧力はほぼ0であることと、を含む。非圧迫期の開始時または開始直前に換気圧力は陽圧から陰圧へ急速に変化する。換気圧力の波形は非圧迫期の開始時にピークまたはピーク近くである。患者の基礎的な心収縮期および心拡張期の活動を強めるために、圧迫および換気は患者のECGと同期される。液体注入器を含む。人工呼吸器による陰圧の圧力および陽圧の圧力が利用可能である。酸素レベルは40%より高く上昇される。全体的な虚血の状態が存在し、かつ、蘇生中の再酸素化過程によって犠牲者が再潅流障害の危険に曝される、心停止および外傷的な心停止の両方の犠牲者において用いられるように構成されている。
【0016】
第2の態様では、本発明は胸部圧迫および換気を患者へ自動的に与えるための装置を特徴とする。この装置は、胸部を圧迫するために圧力の加えられる圧迫期および胸部に加えられる圧力がほぼ0の非圧迫期を与えるように構成されている胸部圧迫器と、陽圧、陰圧、またはほぼ0の圧力を気道へ与えるように構成されている人工呼吸器と、制御回路およびプロセッサと、制御回路およびプロセッサは胸部圧迫器に、心収縮期の非圧迫期および心収縮期の圧迫期を各々含む複数の心収縮期フローサイクルを反復的に与えさせるように構成されていることと、制御回路およびプロセッサは人工呼吸器に、圧迫期のあいだ、圧迫期の開始時のほぼ0の圧力から圧迫期の終了時または終了近くのほぼ最大の圧力まで増大する換気圧力を与えさせるように構成されていることと、からなる。
【0017】
この本発明の態様の好適な実施形態には、次のうちの1つ以上が組み込まれてよい。制御回路およびプロセッサは人工呼吸器に、非圧迫期の開始時に陰圧の換気圧力を与えさせるように構成されている。注入器によって注入された液体は再潅流中に代謝物質を供給するように構成されている。代謝物質はアミノ酸である。アミノ酸はアスパラギン酸塩またはグルタミン酸塩である。除細動器および注入器を含むことと、除細動器、圧迫器、人工呼吸器および注入器は別個の機器であり、通信リンクによって接続されていることと、を含む。除細動器、圧迫器、人工呼吸器および注入器を同期させるための追加の機器を含む。
【0018】
第3の態様では、本発明は胸部圧迫および換気を患者へ自動的に与えるための装置を特徴とする。この装置は、胸部を圧迫するために圧力の加えられる圧迫期および胸部に加えられる圧力がほぼ0の非圧迫期を与えるように構成されている胸部圧迫器と、陽圧、陰圧、またはほぼ0の圧力を気道へ与えるように構成されている人工呼吸器と、人工呼吸器によって与えられるガスを冷却するための冷却器と、冷却器は肺、心臓および肺血流を冷却するように構成されていることと、からなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態のブロック図。
【図2】本発明の一実施形態の人工呼吸器のブロック図。
【図3】本発明の一実施形態における統合された圧迫および換気サイクルのタイミング図。
【図4】本発明の別の実施形態における統合された圧迫および換気サイクルのタイミング図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の多くの利点(その一部は様々な態様および実施形態のうちの一部においてのみ得られる場合がある)は、特に次のものである。心収縮期フローサイクルのセットと1つ以上の心拡張期フローサイクルとを交互に行なうことによって、血流が改良される。心拡張期フローサイクルは、陰圧の換気圧力と同期されている、長い非圧迫期を有する。この長い心拡張期フローサイクルによって静脈充満用により多くの時間が提供されるため、特許文献11において教示されるアプローチにより達成され得るよりも良好な血流が供給される。
【0021】
図1には、一実施形態のブロック図を示す。マイクロプロセッサ14は統合された手法によって、人工呼吸器機能15、胸部圧迫器12、薬品注入器18および除細動器/ペースメーカ13を制御する。生理学的センサ2、加速度計式の胸骨変位測定部3など胸骨運動測定方法、ならびに呼吸終期の二酸化炭素測定(EtCO)およびパルスオキシメトリ(SpO)など様々な信号をフィルタリングおよび処理するための信号処理部9は、患者11の生理学的状態および身体状態を判定するために用いられる。別個のラップトップ17はマイクロプロセッサ14と通信を行ってよく、人工呼吸器15、胸部圧迫器12、薬品注入器18および除細動器13によって与えられる治療を制御するために用いられてよい。
【0022】
図2には、一実施形態の人工呼吸器部分のブロック図を示す。マイクロプロセッサ14は、圧縮CO 26、圧縮O 25および室内気24などの様々な治療ガスの送出を制御する。これらのガスの圧力は、各々のガスの所望の分圧が得られるように、調節器34によって制御され、バルブ35によって混合される。冷却器/加熱器/加湿器33は、このガスを調整するために提供される。一実施形態では、軽度の低体温症を生じさせる手段として、混合ガスを1〜2℃まで冷却する熱交換器が提供される。この熱交換器はペルチェ効果素子を組込む電気駆動素子であってもよく、液体窒素またはドライアイスの貯蔵要素など冷蔵要素を組込んでいてもよい。冷蔵要素の場合、冷蔵要素を断熱し、断熱部に熱伝導窓を設け、熱伝導窓の表面積を調節することによって、冷却速度が制御される。
【0023】
図3には、一実施形態のタイミング図を示す。3つの波形を示す。第1の波形は、患者のECGである(示したECGは心拍再開(ROSC)に続くECGを表しており、典型的には、ROSCより前には非常に異なるECGが存在し得る)。第2の波形は、自動胸部圧迫器によって加えられる胸部圧迫力である(この図では、波形が下方へ動くときに、圧迫圧力が増大する)。第3の波形は、気道へ加えられる換気圧力である(この図では、圧力は軸より上で陽圧、軸より下で陰圧である)。
【0024】
幾つかの実施形態では、圧迫対換気の比は、現在AHAの推奨する30秒毎に2回の換気とは異なり得る。例えば、5回の胸部圧迫毎に1回の換気が与えられてもよい(正常な成人に近い比率)。
【0025】
図3に示す実施形態では、期間50のあいだに5つの胸部圧迫サイクル48が存在する。各圧迫サイクルのサイクル長は800ミリ秒であり、デューティサイクル50%の圧迫対非圧迫の比を有する(400ミリ秒の圧迫期、400ミリ秒の非圧迫期)。各サイクルには、圧迫またはダウンストロークの開始(44)と、非圧迫またはアップストローク(46)の開始とが含まれる。これらの圧迫サイクルは心収縮期のフローを改良するように構成されているため、これらの圧迫サイクルを“心収縮期フローサイクル”と呼ぶ。 5つの心収縮期フローサイクルに続いて、“心拡張期フローサイクル”52が存在する。心拡張期フローサイクルは持続時間200ミリ秒の短い圧迫期54で開始し、持続時間600ミリ秒の長い非圧迫期56、第2の短い圧迫期58(200ミリ秒)および第2の長い非圧迫期60(600ミリ秒)が続く。心拡張期フローサイクルのあいだ、自動人工呼吸器は陰圧期62(600ミリ秒)を生成し、非圧迫期56と整合した陰圧の胸腔内圧(約−2kPa)を生じさせる。これによって、右心房への静脈還流(心拡張期のフロー)が増大するため、続く圧迫期58のあいだ血流が増大する。圧迫期58のあいだ換気圧力は約+2kPaまで上昇し(64)、続く600ミリ秒の非圧迫期66のあいだ+2kPaで一定のままである。図3の実施形態では、心収縮期フローサイクルのあいだ換気補助は提供されない(それらのサイクルのあいだ換気圧力は0である)。
【0026】
図4には、心収縮期フローサイクル50と同期された短い換気サイクル68によって心収縮期のフローがさらに強められる、別の実施形態を示す。換気サイクルは、心収縮期フローサイクルの圧迫期および非圧迫期と同期され、圧迫期の開始時70に圧力がほぼ0であるランプの形状を取り、圧迫期のあいだ最大の陽圧の圧力まで上昇する。サイクルの非圧迫期では、同様の三角形の換気圧力波形が用いられる。この波形では、心拡張期のリフローを最大化するため、非圧迫期の開始の直前(約40ミリ秒前)に最大陰圧72が生じ、非圧迫の開始時には気道内圧が決定的に陰圧であるようにする。圧迫の開始時に0と交差するこの直線的なランプには、圧迫の開始時に気道を均質的に中立圧力に近くして、圧迫ダウンストローク44およびその結果として生じる胸腔内圧の上昇時に圧迫期の一部で気道が虚脱するようにする、という長所が存在する。気道の虚脱によって、胸部圧迫サイクルのあいだ肺自体の体積は維持され、ふいごのように心臓の各側に有効に作用して圧迫のあいだ心臓を搾り出すため、心収縮期のフローを強める。幾つかの実施形態では、胸部圧迫は、カリフォルニア州サニーヴェール所在のZOLL Circulatory Systemsによって製造されるものなど、負荷分散バンドによって提供される。幾つかの、好適には5〜6の、心収縮期フローサイクル50の後に、心拡張期フローサイクル52が生じる。心拡張期フローサイクルの圧迫デューティサイクルは約20〜30%であり、非圧迫期62の持続時間は約640ミリ秒である。ROSCに続いて、犠牲者自身の心臓が血液を吐出し、循環させるが、通常、効率は低下している。幾つかの実施形態では、ROSCの後には、圧迫なしで換気が与えられる。しかしながら他の実施形態では、ROSCの後でも、心停止中に用いられたのと同様のパターンで圧迫が与えられる。ROSC後の圧迫は、次の2つの重要な点で異なる。(1)図3に示すように、圧迫は患者のECGのQRSと同期される、(2)圧迫の圧迫力は減少されている。圧迫の力が減少され、ECGのQRSと同期されることによって、患者の血行力学の自然なフローが強められ、回復が増す。
【0027】
例えば、図3,4に示す圧迫・換気波形とは形状や数の異なる圧迫・換気波形が用いられてもよい。
【符号の説明】
【0028】
11…患者、12…胸部圧迫器、13…除細動器、15…人工呼吸器、50…心収縮期フローサイクル、52…心拡張期フローサイクル、54,58…圧迫期、56,60,62,66…非圧迫期。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胸部圧迫および換気を患者へ自動的に与えるための装置であって、
胸部を圧迫するために圧力の加えられる圧迫期および胸部に加えられる圧力がほぼ0の非圧迫期を与えるように構成されている胸部圧迫器と、
陽圧、陰圧、またはほぼ0の圧力を気道へ与えるように構成されている人工呼吸器と、
制御回路およびプロセッサと、
制御回路およびプロセッサは胸部圧迫器に、心収縮期の非圧迫期および心収縮期の圧迫期を各々含む複数の心収縮期フローサイクルを反復的に与えさせるように構成されていることと、
制御回路およびプロセッサは人工呼吸器に、圧迫期のあいだ、圧迫期の開始時のほぼ0の圧力から圧迫期の終了時または終了近くのほぼ最大の圧力まで増大する換気圧力を与えさせるように構成されていることと、からなる装置。
【請求項2】
制御回路およびプロセッサは人工呼吸器に、非圧迫期の開始時に陰圧の換気圧力を与えさせるように構成されている請求項1に記載の装置。
【請求項3】
胸部圧迫および換気を患者へ自動的に与えるための装置であって、
胸部を圧迫するために圧力の加えられる圧迫期および胸部に加えられる圧力がほぼ0の非圧迫期を与えるように構成されている胸部圧迫器と、
陽圧、陰圧、またはほぼ0の圧力を気道へ与えるように構成されている人工呼吸器と、
人工呼吸器によって与えられるガスを冷却するための冷却器と、冷却器は肺、心臓および肺血流を冷却するように構成されていることと、からなる装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−106090(P2012−106090A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−49660(P2012−49660)
【出願日】平成24年3月6日(2012.3.6)
【分割の表示】特願2007−34847(P2007−34847)の分割
【原出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【出願人】(504242032)ゾール メディカル コーポレイション (42)
【氏名又は名称原語表記】ZOLL Medical Corporation
【Fターム(参考)】