説明

心血管疾患の治療のための組成物及び方法

メチレンジオキシフェニルフェルレートおよびフェルリルプロリンならびにそれらの誘導体を含むオルトメトキシフェノール系化合物が提供される。前記化合物を含む医薬組成物、ならびに高血圧症、アテローム性動脈硬化症、冠動脈性心疾患、狭心症、脳卒中および心筋梗塞症を含む心血管疾患の治療への前記化合物の使用方法がさらに提供される。前記化合物は、対象における低比重リポタンパク質酸化の低減、血管拡張の改善または増加および粥腫不安定化の低減に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、参照により本明細書に組み込まれている、2009年4月23日に出願した米国仮出願第61/214,425号の利益を主張するものである。
【0002】
発明の分野
本発明は、心血管疾患を治療するための化合物および方法に関する。詳細には、本発明は、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)酵素活性の低減に使用することができ、したがって、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、冠動脈性心疾患、狭心症、脳卒中および心筋梗塞症などの心血管疾患の治療に有用であり得る、メチレンジオキシフェニルフェルレート及フェルリルプロリンを含むオルトメトキシフェノール系化合物ならびにそれらの誘導体に関する。さらに、本発明は、治療を必要としている対象における、低比重および高比重リポタンパク質酸化の低減、血管拡張の増加または改善、粥腫(plaque)不安定化の低減、高密度リポタンパク質の炎症促進性の低減およびコレステロール逆輸送の促進へのオルトメトキシフェノール系化合物およびそれらの誘導体の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
米国などの国々において、高血圧症、脳卒中、および心血管系に関連する他の疾患は、広範囲に見られる罹病率および死亡率の主な原因であり、世界中の非常に多数の人々に大きな苦難および経済的損失をもたらしている。例えば、世界中で約6億人の人々が高血圧症に罹患しており、そのうち約5000万人が米国に居住していると推定された。さらにまた、高血圧症単独でも、2007年に米国だけで664億ドルの歳出を招いたと推定された。
【0004】
高血圧症および他の心血管疾患に関連する広範な苦難および経済的影響にもかかわらず、これらの疾患の十分で適切な治療は、多くの人々にとって依然として実現困難であった。心血管疾患の病因は、多元的であることが多く、例えば、セデンタリーライフスタイル(sedentary lifestyle)(ほとんど身体を動かさない生活様式)、肥満、食塩感受性、アルコール摂取量、ビタミンD欠乏、遺伝子突然変異および家族歴などの種々の原因を含む。さらに、最近のエビデンスにより、心血管疾患の発症および病因とミエロペルオキシダーゼ(MPO)酵素活性との間に関連があることが示された。
【0005】
MPOは、好中球のアゼオトロフィック顆粒(azeotrophic granule)および単球のリソソーム中に主に見られる二量体酵素であり、単球は、好中球中に存在するMPOの約1/3しか保持しない。さらに、前骨髄球(promyelocyte)および前骨髄単球(promyelomonocyte)が、骨髄中における顆粒球分離の間にMPOを活発に合成する。しかし、MPO源が何であっても、インビボにおいて、MPOは、過酸化水素(H)と塩化物アニオン(Cl)との反応を触媒して、次亜塩素酸(HOCl)を形成する。次亜塩素酸は、強力な塩素化酸化剤であって、ヘムタンパク質、ポルフィリン、チオール、鉄硫黄中心、ヌクレオチド、DNA、不飽和脂質、アミンおよびアミノ酸を含む種々の細胞基質と反応する。MPOはまた、芳香族アミノ酸、インドール誘導体および種々の他の化学種を含む多くの有機および無機基質を酸化すると考えられている。
【0006】
触媒作用をもたらすMPOの生化学的性質が検討された。確かに、MPOは一般に、微生物および他の感染性病原体に対する重要な防御機構を可能にすると考えられている。しかし、MPOが感染と戦う有利な性質を有するにもかかわらず、制御されていないまたは望ましくないMPO活性は、スーパーオキシド、過酸化水素、次亜塩素酸およびペルオキシニトリルなどの多数の有害な酸化剤を生成する。これらの酸化剤は、正常組織を傷つけ、多数の疾患症状を発現するおそれがある。例えば、MPOによって触媒される反応は、心血管疾患の発症中にアテローム生成促進的な(proatherogenic)生物活性を示すことがわかった。さらに、MPOによって生成される酸化剤は、重要な血管拡張薬である一酸化窒素のバイオアベイラビリティを低減することが観察された。さらに、MPOは、粥腫崩壊を引き起こす粥腫不安定化に関与することがわかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MPOが心血管疾患の病因および進行に広範に関連づけられたにもかかわらず、生物学的に安全で無毒性のMPO阻害薬は未だに開発されていない。具体的には、比較的無毒性であるまたはごくわずかしか毒性を示さないがMPOを十分に阻害できるような、天然に存在する生物活性分子に基づく天然MPO阻害薬は、未だに開発されていない。このように、このような好適な化合物を得ることはこれまで困難であった。MPOを効果的に阻害する化合物が開発されれば、心血管疾患の治療において極めて望ましく、非常に有益な可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本発明の目的は、毒性を最小限に抑えながら効果的に使用することができるが、それでもまだ十分にミエロペルオキシダーゼ(MPO)酵素活性を阻害し、その恩恵を受ける、心血管疾患を治療するための化合物および方法を提供することである。
【0009】
本発明の目的はまた、MPOを本発明の化合物の有効量と接触させる、MPO酵素活性の低減方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、治療を必要としている対象に本発明の化合物の有効量を投与することによって、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、冠動脈性心疾患、狭心症、脳卒中および心筋梗塞症を含む心血管疾患を治療する方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、低比重および高比重リポタンパク質酸化の低減を必要としている対象に本発明の化合物の有効量を投与することによって低比重および高比重リポタンパク質の酸化レベルを低減する、低比重および高比重リポタンパク質酸化の低減方法を提供することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、血管拡張の改善を必要としている対象に本発明の化合物の有効量を投与することによって血管拡張を改善する、血管拡張の改善方法を提供することである。
【0013】
本発明のさらに別の目的は、粥腫不安定化の低減を必要としている対象に本発明の化合物の有効量を投与することによって対象の動脈壁の内側を覆っている粥腫を安定化させることによる、粥腫不安定化の低減方法を提供することである。
【0014】
これらおよび他の目的は、MPOを阻害できおよび種々の治療効果を媒介できる、メチレンジオキシフェニルフェルレート及フェルリルプロリンなどのオルトメトキシフェノール系化合物ならびにそれらの誘導体を含む本発明によって実現される。本発明の好ましい一実施形態において、下記一般式(I):
【0015】
【化1】

[式中、
は、OCH、OHおよびOCHCHからなる群から選択され、
は、OHおよびOCHからなる群から選択され、ならびに、
は、
【0016】
【化2】

からなる群から選択される。]
を有する化合物またはそれらの医薬として許容され得る塩もしくは溶媒和物が提供される。
【0017】
本発明の別の好ましい実施形態において、下記一般式(XV):
【0018】
【化3】

[式中、
は、OCH、OCHCHおよびCONHNHからなる群から選択され、
は、OHおよびNHからなる群から選択され、ならびに、
は、
【0019】
【化4】

からなる群から選択される。]
を有する化合物またはそれらの医薬として許容され得る塩もしくは溶媒和物が提供される。
【0020】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、下記一般式(XXVII):
【0021】
【化5】

[式中、Rは、
【0022】
【化6】

からなる群から選択される。]
を有する化合物またはそれらの医薬として許容され得る塩もしくは溶媒和物が提供される。
【0023】
さらに、本発明は、本発明の化合物が医薬として許容され得るビヒクル、担体または賦形剤をさらに含む医薬組成物を提供する。
【0024】
これらの実施形態および本出願で開示される発明の精神および範囲内の他の代替形態および修正形態は、本明細書中の説明、図および非限定的な実施例を検討後に当業者には容易に明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】フェルラ酸およびメチレンジオキシフェノールからのメチレンジオキシフェニルフェルレートの合成に用いられる化学カップリング反応を示す略図である。
【図2】フェルラ酸およびプロリンメチルエステルからのフェルリルプロリンメチルエステルの合成に用いられる化学カップリング反応を示す略図である。
【図3】フェルリルプロリンメチルエステルからのフェルリルプロリンの合成に用いられる塩基触媒加水分解反応を示す略図である。
【図4】基質としてテトラメチルベンジジンを使用した場合の、種々の濃度のメチレンジオキシフェニルフェルレートによるミエロペルオキシダーゼ活性の阻害を示すグラフである。
【図5】基質としてテトラメチルベンジジンを使用した場合の、種々の濃度のフェルリルプロリンによるミエロペルオキシダーゼ活性の阻害を示すグラフである。
【図6】ヒト低比重リポタンパク質(LDL)酸化に対するフェルリルプロリンおよびメチレンジオキシフェニルフェルレート(FMDP)の効果を示すグラフである。
【図7】キサンチン/キサンチンオキシダーゼによって触媒されるスーパーオキシド媒介シトクロムc還元の阻害に対するフェルリルプロリンの効果を示すグラフである。
【図8】タウリンの塩素化に対するメチレンジオキシフェニルフェルレートの効果を示しおよびメチレンジオキシフェニルフェルレートによる、次亜塩素酸(HOCl)媒介酸化の阻害を示すグラフである。
【図9】MPOの存在下および不存在下における有色生成物の形成に対するメチレンジオキシフェニルフェルレートの効果を示しならびにメチレンジオキシフェニルフェルレート自体が生成物の形成もその基質に対する活性のマスキングも起こさないことを示すグラフである。
【図10】MPOの存在下および不存在下における有色生成物の形成に対するフェルリルプロリンの効果を示しならびにフェルリルプロリン自体が生成物の形成もその基質に対する活性のマスキングも起こさないことを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
好ましい実施形態の詳細な記述
本発明によれば、心血管疾患を治療するための化合物および方法が提供される。詳細には、本発明は、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)酵素活性を十分に阻害するまたは他の方法で低減させることができるオルトメトキシフェノール系化合物およびそれらの誘導体を提供する。これらの化合物は、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、冠動脈性心疾患、狭心症、脳卒中および心筋梗塞症を含む種々の心血管疾患の治療に有用である。一部の実施形態において、これらの化合物をこのような治療を必要としている対象に投与して、低比重リポタンパク質酸化を低減し、血管拡張を改善しまたは粥腫不安定化を低減することができる。
【0027】
本発明の好ましい実施形態の一つにおいて、本発明に有用な化合物は、下記一般式(I):
【0028】
【化7】

[式中、
は、OCH、OHおよびOCHCHからなる群から選択され、
は、OHおよびOCHからなる群から選択され、ならびに、
は、
【0029】
【化8】

(式中、破線の結合(−−−)は、化合物のその他の部分へのR基の結合点を示す。)
からなる群から選択される。]
を有する。
【0030】
本発明の好ましい一実施形態において、RがOCH、RがOHおよびR
【0031】
【化9】

である式(I)の化合物、すなわち、下記式(II):
【0032】
【化10】

で示される化合物が提供される。
【0033】
本発明の別の好ましい実施形態において、RがOCH、RがOHおよびR
【0034】
【化11】

である式(I)の化合物、すなわち、下記式(III):
【0035】
【化12】

で示される化合物が提供される。
【0036】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、RがOCH、RがOHおよびR
【0037】
【化13】

である式(I)の化合物、すなわち、下記式(IV):
【0038】
【化14】

で示される化合物が提供される。
【0039】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、RがOCH、RがOHおよびR
【0040】
【化15】

である式(I)の化合物、すなわち、下記式(V):
【0041】
【化16】

で示される化合物が提供される。
【0042】
本発明の他の好ましい実施形態において、RがOCH、RがOHおよびR
【0043】
【化17】

である式(I)の化合物、すなわち、下記式(VI):
【0044】
【化18】

で示される化合物が提供される。
【0045】
本発明の別の実施形態において、RがOH、RがOCHおよびR
【0046】
【化19】

である式(I)の化合物、すなわち、下記式(VII):
【0047】
【化20】

で示される化合物が提供される。
【0048】
本発明の別の実施形態において、RがOCHCH、RがOHおよびR
【0049】
【化21】

である式(I)の化合物、すなわち、下記式(VIII):
【0050】
【化22】

で示される化合物が提供される。
【0051】
本発明の他の実施形態において、RがOCH、RがOHおよびR
【0052】
【化23】

である式(I)の化合物、すなわち、下記式(IX):
【0053】
【化24】

で示される化合物が提供される。
【0054】
本発明の別の好ましい実施形態において、RがOCH、RがOHおよびR
【0055】
【化25】

である式(I)の化合物、すなわち、下記式(X):
【0056】
【化26】

で示される化合物が提供される。
【0057】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、RがOCH、RがOHおよびR
【0058】
【化27】

である式(I)の化合物、すなわち、下記式(XI):
【0059】
【化28】

で示される化合物が提供される。
【0060】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、RがOCH、RがOHおよびR
【0061】
【化29】

である式(I)の化合物、すなわち、下記式(XII):
【0062】
【化30】

で示される化合物が提供される。
【0063】
本発明の他の好ましい実施形態において、RがOCH、RがOHおよびR
【0064】
【化31】

である式(I)の化合物、すなわち、下記式(XIII):
【0065】
【化32】

で示される化合物が提供される。
【0066】
本発明の別の好ましい実施形態において、RがOCH、RがOHおよびR
【0067】
【化33】

である式(I)の化合物、すなわち、下記式(XIV):
【0068】
【化34】

で示される化合物が提供される。
【0069】
本発明の他の実施形態において、本発明において有用な化合物は下記一般式(XV):
【0070】
【化35】

[式中、
は、OCH、OCHCHおよびCONHNHからなる群から選択され、
は、OHおよびNHからなる群から選択され、ならびに、
は、
【0071】
【化36】

(式中、破線の結合(−−−)は、化合物のその他の部分へのR基の結合点を示す。)
からなる群から選択される。]
を有する。
【0072】
本発明の好ましい一実施形態において、RがOCH、RがOHおよびR
【0073】
【化37】

である式(XV)の化合物、すなわち、下記式(XVI):
【0074】
【化38】

で示される化合物が提供される。
【0075】
本発明の別の好ましい実施形態において、RがOCH、RがOHおよびR
【0076】
【化39】

である式(XV)の化合物、すなわち、下記式(XVII):
【0077】
【化40】

で示される化合物が提供される。
【0078】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、RがOCH、RがOHおよびR
【0079】
【化41】

である式(XV)の化合物、すなわち、下記式(XVIII):
【0080】
【化42】

で示される化合物が提供される。
【0081】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、RがOCH、RがOHおよびR
【0082】
【化43】

である式(XV)の化合物、すなわち、下記式(XIX):
【0083】
【化44】

で示される化合物が提供される。
【0084】
本発明の他の好ましい実施形態において、RがOCHCH、RがOHおよびR
【0085】
【化45】

である式(XV)の化合物、すなわち、下記式(XX):
【0086】
【化46】

で示される化合物が提供される。
【0087】
本発明の別の実施形態において、RがOCH、RがOHおよびR
【0088】
【化47】

である式(XV)の化合物、すなわち、下記式(XXI):
【0089】
【化48】

で示される化合物が提供される。
【0090】
本発明の他の実施形態において、RがCONHNH、RがNHおよびR
【0091】
【化49】

である式(XV)の化合物、すなわち、下記式(XXII):
【0092】
【化50】

で示される化合物が提供される。
【0093】
本発明の別の好ましい実施形態において、RがOCHCH、RがOHおよびR
【0094】
【化51】

である式(XV)の化合物、すなわち、下記式(XXIII):
【0095】
【化52】

で示される化合物が提供される。
【0096】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、RがOCHCH、RがOHおよびR
【0097】
【化53】

である式(XV)の化合物、すなわち、下記式(XXIV):
【0098】
【化54】

で示される化合物が提供される。
【0099】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、RがOCHCH、RがOHおよびR
【0100】
【化55】

である式(XV)の化合物、すなわち、下記式(XXV):
【0101】
【化56】

で示される化合物が提供される。
【0102】
本発明の他の好ましい実施形態において、RがOCH、RがOHおよびR
【0103】
【化57】

である式(XV)の化合物、すなわち、下記式(XXVI):
【0104】
【化58】

で示される化合物が提供される。
【0105】
本発明の更なる実施形態において、本発明に有用な化合物は、下記一般式(XXVII):
【0106】
【化59】

[式中、R
【0107】
【化60】

からなる群から選択され、破線結合(−−−)は、化合物のその他の部分へのR基の結合点を示す]
を有する。
【0108】
本発明の好ましい一実施形態において、R
【0109】
【化61】

である式(XXVII)の化合物、すなわち、下記式(XXVIII):
【0110】
【化62】

で示される化合物が提供される。
【0111】
本発明の別の好ましい実施形態において、R
【0112】
【化63】

である式(XXVII)の化合物、すなわち、下記式(XXIX):
【0113】
【化64】

で示される化合物が提供される。
【0114】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、R
【0115】
【化65】

である式(XXVII)の化合物、すなわち、下記式(XXX):
【0116】
【化66】

で示される化合物が提供される。
【0117】
本発明の他の好ましい実施形態において、R
【0118】
【化67】

である式(XXVII)の化合物、すなわち、下記式(XXXI):
【0119】
【化68】

で示される化合物が提供される。
【0120】
本発明のさらに他の好ましい実施形態において、R
【0121】
【化69】

である式(XXVII)の化合物、すなわち、下記式(XXXII):
【0122】
【化70】

で示される化合物が提供される。
【0123】
本発明の別の好ましい実施形態において、R
【0124】
【化71】

である式(XXVII)の化合物、すなわち、下記式(XXXIII):
【0125】
【化72】

で示される化合物が提供される。
【0126】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、R
【0127】
【化73】

である式(XXVII)の化合物、すなわち、下記式(XXXIV):
【0128】
【化74】

で示される化合物が提供される。
【0129】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、R
【0130】
【化75】

である式(XXVII)の化合物、すなわち、下記式(XXXV):
【0131】
【化76】

で示される化合物が提供される。
【0132】
本発明の一部の実施形態において、本発明の化合物は、本明細書中で前述した式(II)および(XVI)からなる群から選択される。これに関連して、本発明の一部の実施形態において、化合物は、メチレンジオキシフェニルフェルレート(式(II))およびフェルリルプロリン(式(XVI))から選択される。フェルラ酸またはフェルレートは、オルト−メトキシフェノール構造を有するトランス−桂皮酸の有機誘導体である。これは、植物細胞壁に豊富に存在するフェノール系植物化学物質であり、ほとんどの植物の種子および葉に広範に見られ、小麦、米および燕麦などのイネ科植物のぬかに主に見られる。最近、フェルラ酸が、抗腫瘍薬として作用し得る可能性について検討された。一方、フェルラ酸をメチレンジオキシフェノールまたはプロリンと結合させることによって、心血管疾患の治療に使用され得るようにMPO活性を効果的に阻害するまたは他の方法で低減させる化合物を創出できることが発見された。したがって、一部の実施形態において、心血管疾患の治療に有用な化合物、メチレンジオキシフェニルフェルレート(式(II))およびフェルリルプロリン(式(XVI))が提供される。他の実施形態において、メチレンジオキシフェニルフェルレート(式(II))およびフェルリルプロリン(式(XVI))から誘導される化合物が提供され、これらも心血管疾患の治療に有用である。
【0133】
さらに、前述のように、本明細書中に記載されている化合物は、1つまたはそれ以上の追加部分がコア構造に組み込まれることができる式に関して記載されている。これらの実施形態において、本発明の化合物への言及は、化合物の1つまたはそれ以上の部分の立体異性体を含むことができる。このような立体異性体は、化合物の一部の実施形態を表すが、本明細書中に開示された式および式への言及は、図示された化合物の全ての活性立体異性体の網羅を意図するものである。さらに、一部の実施形態において、本発明の化合物は、1つまたはそれ以上の追加不斉炭素原子を含み、ラセミ体および光学活性体で存在することが可能である。これらの他の形態は全て、本発明の範囲内と企図される。したがって、本発明の化合物は立体異性体として存在でき、したがって、得られる生成物は異性体の混合物であることができる。
【0134】
本発明によれば、当業者に認識されているように、本明細書中に記載された化合物は全て、医薬として許容され得る塩または水和物の形態で提供することができる。塩は、好適な酸および/または好適な塩基を用いて形成することができる。本発明の化合物と塩を形成できる好適な酸としては、無機酸、例えば、トリフルオロ酢酸(TFA)、塩化水素酸(HCl)、臭化水素酸、過塩素酸、硝酸、チオシアン酸、硫酸、リン酸、プロピオン酸、グリコール酸、乳酸、ピルビン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、アントラニル酸、桂皮酸、ナフタレンスルホン酸、スルファニル酸などが挙げられる。本発明の化合物と塩を形成できる好適な塩基としては、無機塩基、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウムなど;有機塩基、例えば、モノ−、ジ−およびトリ−アルキルならびにアリールアミン(例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルアミン、メチルアミン、ジメチルアミンなど)、置換または非置換エタノールアミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミンなど)が挙げられる。
【0135】
本明細書中で使用されるように、用語「溶媒和物」は、1つまたはそれ以上の溶質分子によって形成される複合体または凝集体、例えば、本発明の化合物またはその医薬として許容され得る塩および1つまたはそれ以上の溶媒分子によって形成される複合体または凝集体を意味する。このような溶媒和物は典型的には、実質的に一定のモル比の溶質および溶媒を有する結晶性固体である。代表的な溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。溶媒が水である場合には、形成される溶媒和物は水和物である。したがって、用語「医薬として許容され得る塩またはその溶媒和物」は、本発明の化合物の医薬として許容され得る塩の溶媒和物などの塩および溶媒和物の全ての順列を含むことが意図される。
【0136】
本発明の化合物のさらに別の実施形態において、以下にさらに記載するように、本明細書中に記載された化合物および医薬として許容され得るビヒクル、担体または賦形剤を含む医薬組成物が提供される。例えば、経口投与用の組成物の固体製剤は、好適な担体または賦形剤、例えば、コーンスターチ、ゼラチン、ラクトース、アラビアゴム、スクロース、微結晶セルロース、カオリン、マンニトール、リン酸二カルシウム、炭酸カルシウム、塩化ナトリウムまたはアルギン酸などを含むことができる。使用することができる崩壊剤としては、微結晶セルロース、コーンスターチ、デンプングリコール酸ナトリウムおよびアルギン酸が挙げられるが、これらに限定されるものではない。使用することができる錠剤結合剤としては、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン(POVIDONE(商標))、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、スクロース、デンプンおよびエチルセルロースが挙げられる。使用することができる滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、シリコーン油(silicone fluid)、タルク、ろう、油およびコロイドシリカが挙げられる。さらに、固体製剤は、コーティングされていなくてもよいし、または胃腸管中での崩壊および吸収を遅延させることによってより長期間にわたって持続/延長された作用をもたらすために、既知の方法でコーティングされていてもよい。例えば、持続放出性/徐放性製剤を提供するために、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルを使用することができる。参照によりそれぞれ本明細書に組み込まれている以下の参考文献に記載された方法を含む、持続放出性製剤を調製するための多数の方法が、当業者に知られており、本発明に従って使用することができる:米国特許第4,891,223号、第6,004,582号、第5,397,574号、第5,419,917号、第5,458,005号、第5,458,887号、第5,458,888号、第5,472,708号、第6,106,862号、第6,103,263号、第6,099,862号、第6,099,859号、第6,096,340号、第6,077,541号、第5,916,595号、第5,837,379号、第5,834,023号、第5,885,616号、第5,456,921号、第5,603,956号、第5,512,297号、第5,399,362号、第5,399,359号、第5,399,358号、第5,725,883号、第5,773,025号、第6,110,498号、第5,952,004号、第5,912,013号、第5,897,876号、第5,824,638号、第5,464,633号、第5,422,123号および第4,839,177号ならびにWO98/47491。
【0137】
好ましい一実施形態において、ポリ無水物に基づく技術を用いる本発明の化合物の持続放出性製剤が提供される。当業者に認識されているように、ポリ無水物は、その生分解性および生体適合性のため、独特の種類の薬物送達用ポリマーである。一部の実施形態において、ポリ無水物を基剤とする製剤の放出速度は、ポリマー構造に変更を加えることによって、数倍超も変化されることができる、したがって、本明細書中に記載された化合物の持続放出性製剤の一部の実施形態において、持続放出性製剤の調製に使用されるポリマーは、ポリ[1,3−ビス(p−カルボキシフェノキシ)プロパン]、ポリ[1,3−ビス(p−カルボキシフェノキシ)ヘキサン−co−セバシン酸無水物]、ポリ[1,3−ビス(p−カルボキシフェノキシ)メタン−co−セバシン酸無水物]およびポリ(フマル酸無水物)から選択される。ポリ無水物を基剤とする製剤だけでなく、一部の実施形態において、以下にさらに記載するように、持続放出性製剤の調製に、キトサンに基づく放出制御技術を使用することができる。
【0138】
さらに、経口投与用の化合物の液体製剤を、水または他の水性ビヒクル中で調製することができ、メチルセルロース、アルギン酸塩、トラガカント、ペクチン、ケルギン(kelgin)、カラギーナン、アラビアゴム、ポリビニルピロリドンなどの種々の懸濁化剤を含むことができる。このような液体製剤には、組成物の活性成分と共に湿潤剤、甘味剤ならびに着色剤および矯味矯臭剤を含む液剤、乳剤、シロップ剤およびエリキシル剤などがある。
【0139】
治療される対象の肺内吸入のための種々の液体製剤および粉末製剤もまた、常法によって調製することができる。例えば、組成物は、好適な噴射剤(例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の好適な気体)を用いて、加圧パックまたはネブライザーからエアゾールスプレー提示(presentation)の形態で簡便に送達することができる。所望の化合物および好適な粉末基剤(例えば、ラクトースまたはデンプン)の粉末混合物を含む、吸入器または注入器用のカプセル剤およびカートリッジ(例えば、ゼラチンの)を調製することができる。
【0140】
化合物の注射製剤は、種々の担体、例えば、植物油、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、乳酸エチル、炭酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコール)などを含むことができる。静脈注射剤の場合は、水溶性型の化合物は、本発明の医薬組成物および生理学的に許容され得る賦形剤を含む製剤が注入される点滴法によって投与することができる。生理学的に許容され得る賦形剤は、例えば、5%デキストロース、0.9%生理食塩水、リンゲル液または他の好適な賦形剤などであることができる。筋肉内投与製剤、例えば、好適な可溶性塩型の化合物の滅菌製剤は、医薬賦形剤、例えば、注射用蒸留水、0.9%生理食塩水または5%グルコース溶液中に溶解されて、投与することができる。好適な不溶性型の化合物は、水性基剤または医薬として許容され得る油性基剤、例えば、長鎖脂肪酸のエステル(例えば、オレイン酸エチル)中の懸濁剤として調製されて、投与することができる。
【0141】
前記製剤の他に、本発明の化合物は、直腸投与用組成物、例えば、坐剤または停留浣腸(例えば、カカオ脂または他のグリセリドなどの常用の坐剤基剤を含む)として製剤化することができる。さらに、組成物は、組成物を好適なポリマーまたは疎水性材料(例えば、許容され得る油中エマルジョンとして)もしくはイオン交換樹脂と組み合わせることによってデポ製剤として、または難溶性誘導体として、例えば、難溶性塩として製剤化することができる。
【0142】
本発明の一部の実施形態において、本発明の化合物は、ナノ粒子中に組み込まれることができる。本発明の範囲内のナノ粒子は、単一分子レベルの粒子および微視的性質を示す粒子の凝集体を含むことを意味する。当該化合物を組み込んでいるナノ粒子の使用方法および製造方法は、当業者に知られており、参照によりそれぞれ本明細書中に組み込まれている、以下の参考文献中に記載されている:米国特許第6,395,253号、第6,387,329号、第6,383,500号、第6,361,944号、第6,350,515号、第6,333,051号、第6,323,989号、第6,316,029号、第6,312,731号、第6,306,610号、第6,288,040号、第6,272,262号、第6,268,222号、第6,265,546号、第6,262,129号、第6,262,032号、第6,248,724号、第6,217,912号、第6,217,901号、第6,217,864号、第6,214,560号、第6,187,559号、第6,180,415号、第6,159,445号、第6,149,868号、第6,121,005号、第6,086,881号、第6,007,845号、第6,002,817号、第5,985,353号、第5,981,467号、第5,962,566号、第5,925,564号、第5,904,936号、第5,856,435号、第5,792,751号、5,789,375号、第5,770,580号、第5,756,264号、第5,705,585、第5,702,727号および第5,686,113号。
【0143】
ナノ粒子は、粒径が10nmから1μmの範囲の固体コロイド状粒子と見なされることが多く、巨大分子集合体で構成することができる。活性化合物または活性薬剤(例えば、本発明の化合物)はナノ粒子中に溶解され、封入され、被包され、またはその外部境界面(external interface)に吸着もしくは付着されて、動力学的安定性および剛性形態を得る。本発明の一部の実施形態において、バイオポリマーを基剤とするナノ粒子製剤が、本出願で開示される主題の化合物の効率的な送達に用いられる。一部の実施形態において、キトサン/ポリグルロネートナノ粒子、ポリ(D,L−乳酸)/酢酸エチルを基剤とするナノ粒子、PLGA−、PLGA:ポロキサマー−、もしくはPLGA:ポロキサミン/ジクロロメタン媒介ナノ粒子、ペグ化されたポリマーミセルまたはアルブミンナノ粒子を用いる製剤を提供することができる。当業者に認識されているように、組成物のビヒクルとしてのナノ粒子の調製は、方法に使用するバイオポリマーの型によって異なる。
【0144】
本発明の好ましい一実施形態において、キトサン/ポリグルロネートの組み合わせに由来するナノ粒子製剤を提供することができる。キトサンは、グルコサミン残基およびN−アセチルグルコサミン残基から構成される、天然に存在する多糖類であり、一般に甲殻類の貝殻から得られるキチンの部分脱アセチル化によって得られる。キトサンは、生体適合性、低毒性および低免疫原性であることならびに酵素によって分解可能であることが知られている。これに関連して、本発明の化合物のナノ粒子製剤は、最初に好適な緩衝液中にキトサングルタメートを溶解させおよび同様に硫酸ナトリウム緩衝液中にポリグルロネートを溶解させることによって、調製することができる。次いで、これらの溶液はマイクロフィルターを通して濾過することができ、次に、キトサン溶液を等容量のポリグルロネート溶液に添加してから粒子を室温でインキュベートすることによって、ナノ粒子製剤を調製することができる。これに関連して、本発明の化合物をナノ粒子中に組み込むために、最初に、極性溶媒中の所望の量の化合物をポリグルロネート溶液に添加することができ、次に、混合物がキトサン溶液と一緒にすることができる。次いで、得られたナノ粒子は、使用または更なる分析の前に、室温でインキュベートすることができる(例えば、Hoffman AS、The origins and evolution of ”controlled” drug delivery systems、Journal of Controlled Release、132(2008)、153−163を参照のこと)。
【0145】
さらに本発明の化合物に関連して、本発明の化合物がオルトメトキシフェノール系化合物の誘導体、例えば、メチレンジオキシフェニルフェルレートの誘導体およびフェルリルプロリンの誘導体を含むことが再び注目される。本明細書中で使用されるように、用語「誘導体」は、親化合物と構造的に類似しおよび親化合物から誘導できる、化学的または生物学的に修飾された型の化合物を意味する。親化合物が「誘導体」を生成する出発原料であることができるのに対して、親化合物は「類似体」を生成するための出発原料として必ずしも使用されるとは限らない点で、「誘導体」と「類似体」とは異なる。さらに、誘導体は、親化合物と異なる化学的または物理的性質を有することもあるし、有さないこともある。例えば、誘導体は、親化合物と比べて親水性であることがあり、または反応性が変化していることもある。これに関連して、誘導体化(すなわち、修飾)は、分子内の1つまたはそれ以上の部分の置換(例えば、官能基の変化)を伴うことができる。例えば、水素を、フッ素もしくは塩素などのハロゲンで置換することができ、または別の例として、ヒドロキシル基(−OH)をカルボン酸部分(−COOH)で置き換えることもできる。
【0146】
本明細書中で使用されるように、用語「誘導体」はまた、親化合物の抱合体(conjugate)およびプロドラッグ(すなわち、生理的条件下で元の化合物に変換することができる、化学的に修飾された誘導体)を含む。例えば、プロドラッグは不活性型の活性薬剤であることができる。生理的条件下で、プロドラッグを活性型の化合物に変換することができる。プロドラッグは、例えば、窒素原子上の1つまたは2つの水素原子をアシル基(アシルプロドラッグ)またはカルバメート基(カルバメートプロドラッグ)で置き換えることによって、形成することができる。プロドラッグに関する更なる情報は、例えば、参照によりいずれも本明細書中に組み込まれている、Fleisherら、Advanced Drug Delivery Reviews 19(1996)、115;Design of Prodrugs、H.Bundgaard(編)、Elsevier、1985;またはH.Bundgaard、Drugs of the Future 16(1991)443に記載されている。
【0147】
本発明によれば、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)を式(I)、(XV)および(XXVII)の化合物またはそれらの医薬として許容され得る塩もしくは溶媒和物から選択された化合物の有効量と接触させることよって、MPO酵素活性を低減させる方法がさらに提供される。本明細書中に示されるように、MPOは、好中球のアゼオトロフィック顆粒および単球のリソソーム中に主に見られる酵素である。インビボにおいて、MPOは、過酸化水素(H)および塩化物アニオン(Cl)から次亜塩素酸(HOCl)を生成し、次亜塩素酸は生成されるとすぐに、種々の細胞基質と反応し得る強力な塩素化酸化剤となる。さらに、MPO自体が、過酸化酸素を酸化剤として用いることによって、タンパク質のある種のアミノ酸を酸化することができる。したがって、MPO活性を「低減する」またはMPO活性の「低減」は、HOCl形成の低減およびタンパク質酸化の低減を含むが、これらに限定されるものではない。さらに、低減の程度は完全である(例えば、HOClが全く形成されないようなMPO活性の完全阻害である。)必要がないこと、および本発明によって中間の低減レベル(約5%、約10%、約15%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%および約99%のMPO活性量の低減を含むが、これらに限定されるものではない)が企図されることが理解される。
【0148】
MPO活性の低減を測定するための種々の方法が、当業者に知られており、本発明に従って使用することができる。例えば、一実施形態において、MPO活性は、分量のMPO酵素またはMPO酵素を含む試料をH、テトラメチルベンジジン(TMB)基質およびMPO阻害薬(例えば、本発明の化合物)と合わせ、次いで得られた生成物の光学濃度を測定することによって、測定することができる。
【0149】
同様に当業者に認識されているように、MPO酵素と式(I)、(XV)または(XXVII)の化合物との接触がMPO活性を低減させる実施形態において、MPO活性の低減に使用される化合物の最適量は、所望の低減度によって異なり得る。一部の実施形態において、MPO活性は、MPOを約1から約25μMの範囲の濃度、例えば約5μMの濃度の化合物と接触させることによって低減される。他の実施形態において、MPO活性は、対象に約10から約800mg/日の用量の化合物を投与することによってMPOを有効量の化合物と接触させることによって、低減される。本明細書中で開示されるように、MPOをメチレンジオキシフェニルフェルレート(式(II))およびフェルリルプロリン(式(XVI))と接触させることによって生成されたデータ、特にKi値は、MPO活性が、1から10μMの範囲の濃度のこれら2種の化合物を用いて効果的に阻害され得ることを示した。特定の理論に拘束されることを望むものではないが、これらのKi値は、適切な化学的修飾によって、約50nMと約100nMの間の濃度などのナノモル濃度まで低減され得ると考えられる。言うまでもなく、個々の用途に使用されるべき本発明の化合物の有効量の決定および調整、ならびにこのような調整を行う時期および方法は、当業者ならば、ルーチン実験または他のルーチン手法を用いるだけで容易に把握できる。
【0150】
本発明によれば、心血管疾患の治療方法もまた、提供される。好ましい一実施形態において、式(I)、(XV)もしくは(XXVII)から選択された化合物またはその医薬として許容され得る塩もしくは溶媒和物の有効量を対象に投与することによって、対象の心血管疾患を治療することを含む、心血管疾患の治療方法が提供される。
【0151】
本明細書中で使用されるように、用語「治療」または「治療する」は、予防的治療および治癒的治療(therapeutic treatment)を含むがこれらに限定されない心血管疾患の全ての治療に関連する。したがって、用語「治療」または「治療する」は、心血管疾患の予防または心血管疾患の発現予防;心血管疾患の進行阻害;心血管疾患の更なる発現の阻止または予防;心血管疾患の重症度の低減;心血管疾患に伴う症状の寛解または緩和;および心血管疾患の退行または心血管疾患に伴う1つもしくはそれ以上の症状の退行の惹起を含むが、これらに限定されるものではない。
【0152】
本明細書において、用語「心血管疾患」は、対象の心臓および血管(例えば、動脈および静脈)を含む心血管系に少なくとも部分的に影響を及ぼす全ての疾患または障害を意味するのに用いられる。本明細書中に示されるように、MPOは、心血管疾患の進展時にアテローム生成促進的な生物活性を示すことがわかった。さらに、MPOによって生成される酸化剤が、重要な血管拡張薬である一酸化窒素のバイオアベイラビリティを低減することが認められた。さらに、MPOは、メタロプロテイナーゼを活性化することによって粥腫の不安定化に関与し、粥腫の線維性被膜(fibrous cap)の脆弱化とそれに続く粥腫の不安定化および粥腫崩壊をもたらすことが示された。MPOの広範囲にわたるこれらの作用を前提として、MPOは、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、冠動脈性心疾患、狭心症、脳卒中および心筋梗塞症を含むがこれらに限定されない種々の心血管疾患に関係づけられた。したがって、一部の実施形態において、心血管疾患は、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、冠動脈性心疾患、狭心症、脳卒中および心筋梗塞症からなる群から選択される。
【0153】
心血管疾患の治療方法の一部の実施形態において、本発明の化合物(すなわち、式(I),(XV)または(XXVII)の化合物)は、他の種々の治療薬と組み合わされて、本明細書中に定義されるような心血管疾患の治療に効果的に使用することができる医薬組成物を提供することができる。一部の実施形態において、本発明の化合物は、心血管疾患の治療のために、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体遮断薬、スタチン、抗炎症薬、脂肪酸の吸収を阻害する薬剤、抗血小板薬、抗凝血薬またはそれらの組み合わせと組み合わせて投与される。
【0154】
例えば、本出願で開示される心血管疾患の治療方法の一部の実施形態において、本発明の化合物は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬および/またはアンジオテンシンII受容体遮断薬と組み合わされ、それによって心血管疾患を治療する。当業者に認識されているように、アンジオテンシン変換酵素(ACE)は、ペプチジルカルボキシペプチダーゼであり、不活性なデカペプチドであるアンジオテンシンIのカルボキシ末端のヒスチジン−ロイシンジペプチドの開裂を触媒してアンジオテンシンIIを形成し、また、ブラジキナーゼの非活性化の原因となる。このジペプチドがアンジオテンシンIのカルボキシ末端から開裂されて、アンジオテンシンIIが形成されると、アンジオテンシンIIは次に、その後に心血管系内の種々の生理反応を媒介するアンジオテンシン受容体ATおよびATに結合してそれらを活性化することによって、種々の反応を媒介できる。したがって、アンジオテンシンIのアンジオテンシンIIへの変換を阻害できる薬剤(例えば、ACE阻害薬)、およびアンジオテンシンIIのその受容体への結合を遮断でき、ひいては受容体の活性化を低減できる薬剤[例えば、アンジオテンシンII受容体拮抗薬または「ARB」(アンジオテンシンII受容体拮抗薬、AT−受容体拮抗薬またはサルタンと称することもある。)]は、このように種々の異なる心血管疾患の治療に有用である。多数のACE阻害薬およびARBが、当業者に知られており、本発明の組成物に応じて使用することができる。一部の実施形態において、ACE阻害薬は、ベナゼプリル、カプトプリル、シラザプリル、エナラプリル、エナラプリラト、フォシノプリル、リシノプリル、モエキシプリル、ペリンドプリル、キナプリル、ラミプリル、トランドラプリルおよびゾフェノプリルからなる群から選択される。他の実施形態において、ARBは、カンデサルタン、エプロサルタン、イルベサルタン、テルミサルタン、バルサルタン、ロサルタンおよびオルメサルタンからなる群から選択される。
【0155】
本発明の化合物および心血管疾患の治療に有用な追加薬剤を含む医薬組成物の別の例として、本発明の一部の実施形態において、スタチンが式(I)、(XV)または(XXVII)の化合物とさらに組み合わされて、本発明の組成物を生成することができる。種々のスタチン(すなわち、HMG−CoA還元酵素阻害薬)が、HMG−CoA還元酵素を阻害でき、ひいてはコレステロールの合成を低減しおよび低比重リポタンパク質(LDL)受容体の合成を増加させることができ、結果として対象の血流からのLDLのクリアランスを増加させる薬剤として、当業者に知られている。本明細書中に記載された組成物の一部の実施形態において、式(I)、(XV)または(XXVII)の化合物と組み合わされるスタチンは、アトルバスタチン、フルバスタチン、ロバスタチン、メバスタチン、ピタバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチンおよびシンバスタチンから選択することができる。これらのスタチンはいずれも、本発明の組成物と組み合わせることができ、心血管疾患の治療に有用であることができる。
【0156】
本発明の化合物および心血管疾患の治療に有用な追加薬剤を含む医薬組成物のさらに別の例として、一部の実施形態において、リポ酸化合物が式(I)、(XV)または(XXVII)の化合物とさらに組み合わされて、本発明の組成物を生成することができる。チオクト酸としても知られるαリポ酸は、植物およびヒトを含む動物によって合成される、天然に存在する炭素数8の脂肪酸であり、植物体および動物体内でいくつかの重要な機能を果たす。αリポ酸は2つのイオウ原子を含む。これらの硫黄原子は、常態では酸化されたジスルフィドの形態で見られるが、還元されてチオールを形成できおよびジヒドロリポ酸(DHLA)を形成できる。確かに、個々の植物体または動物体は、一部のαリポ酸をルーチン的にDHLAに変換する。DHLAは、αリポ酸と比較してより強力な抗酸化薬として機能し得ると考えられている。したがって、本明細書中で使用される用語「リポ酸化合物」は、αリポ酸、ジヒドロリポ酸およびそれらの誘導体を含む。
【0157】
本発明の一部の実施形態において、本発明の化合物および心血管疾患の治療に有用な追加薬剤を含む医薬組成物のさらに別の例として、本発明の化合物を含みおよび抗炎症薬をさらに含む組成物を提供することができる。本発明の組成物に応じて使用することができる抗炎症薬の例としては、古典的な非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDS)、例えば、アスピリン、ジクロフェナク、インドメタシン、スリンダク、ケトプロフェン、フルルビプロフェン、イブプロフェン、ナプロキセン、ピロキシカム、テノキシカム、トルメチン、ケトロラク、オキサプロジン、メフェナム酸、フェノプロフェン、ナブメトン(レラフェン)、アセトアミノフェンおよびそれらの組み合わせ;COX−2阻害薬、例えば、ニメスリド、フロスリド、セレコキシブ、ロフェコキシブ、パレコキシブナトリウム、バルデコキシブ、エトリコキシブ、エトドラク、メロキシカムおよびそれらの組み合わせ;グルココルチコイド、例えば、ヒドロコルチゾン、コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、メプレドニゾン、トリアムシノロン、パラメタゾン、フルプレドニゾロン、ベタメタゾン、デキサメタゾン、フルドロコルチゾン、デスオキシコルチコステロン、ラパマイシンなど;もしくはこれらの薬剤の類似体またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0158】
本発明の組成物の他の実施形態において、脂肪酸の吸収を阻害する薬剤、例えば、エゼチミブ、硫酸化多糖類、オレイルアルコールまたはレシチンを、本発明の化合物(すなわち、式(I)、(XV)または(XXVII)の化合物)とさらに組み合わせることができる。エゼチミブは、スタチンと組み合わされて、Vytorin(登録商標)(MSP Singapore Company,LLC、Whitehouse Station、NJ)などの配合剤を生成することもできる。血小板凝集傾向を低減させる薬物(すなわち、抗血小板薬)、例えば、クロピドグレル二硫酸塩または抗凝血薬、例えば、ヘパリンも投与することができる。さらに、ナイアシン、フィブラート系薬剤(例えば、フェノフィブラートおよびゲムフィブロジル)およびチアゾリジンジオン類を含むがこれらに限定されない、心血管系に対して直接的または間接的に作用する薬剤も投与することができる。
【0159】
本明細書中に開示された治療用組成物の投与のために、ネズミ科動物モデルに投与された用量に基づいてヒトの投与量を推定する従来の方法が、マウス投与量をヒト投与量に換算する換算係数:ヒト用量/kg=マウス用量/kg×12(Freireichら(1966)Cancer Chemother Rep.50:219−244)を用いて実施することができる。薬物用量は、体表面積1平方メートル当たりのミリグラム数で示すことができる。これは、この方法が、体重ではなく、ある種の代謝機能および排泄機能と良好な相関関係を達成するためである。さらに、Freireichら(Freireichら(1966)Cancer Chemother Rep.50:219−244)によって記載されるように、体表面積は、成人および小児ならびに異なる動物種において薬物投与量の共通分母として使用することができる。簡潔には、任意の所定の種においてmg/kg用量を相当するmg/平方m用量として表すために、mg/kg用量に適切なkm係数を掛ける。ヒト成人では、100mg/kgは、100mg/kg×37kg/平方m=3,700mg/mに相当する。
【0160】
本発明の方法に従って治療用組成物を投与するための好適な方法としては、全身投与、非経口投与(血管内投与、筋肉内投与、動脈内投与を含む)、経口送達、口腔送達、直腸送達、皮下投与、腹腔内投与、吸入、気管内注入、外科的移植、経皮送達、局所注射および超高速注射/ボンバードメント(hypervelocity injection/bombardment)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。該当する場合、持続注入が、標的部位における薬物の蓄積を増大させることができる(例えば、米国特許第6,180,082号を参照のこと)。
【0161】
投与経路にかかわらず、本発明の化合物は典型的には、所望の反応を達成するのに有効な量で投与される。したがって、用語「有効量」は本明細書中において、測定可能な生物学的反応(例えば、血圧の低下またはMPO活性の低減)を生じるのに十分な治療用組成物(例えば、式(I)、(XV)または(XXVII)の化合物および医薬として許容され得るビヒクル、担体または賦形剤を含む組成物)の量を意味するのに用いられる。本発明の治療用組成物中の活性成分の実際の投与量レベルは、個々の対象および/または適用に望ましい治療反応を達成するのに有効な量の(1種または複数の)活性化合物を投与するために変更することができる。言うまでもなく、任意の個々の場合における有効量は、治療用組成物の活性、処方、投与経路、他の薬物または治療との組み合わせ、治療されている病態の重症度、ならびに治療されている対象の体調および既往歴を含む種々の要因によって異なる。好ましくは、最小量が投与され、用量制限毒性がない場合には、用量が最小有効量まで段階的に上昇される。治療有効量の決定および調整ならびにこのような調整を行う時期および方法の評価は、当業者に知られている。
【0162】
式(I)、(XV)または(XXVII)の投与が適応となる本発明の方法の一部の実施形態において、化合物は、約10から約800mg、約100から約700mg、約200から約600mgまたは約300から約500mgの範囲の用量で1日2回投与することができる。別の実施形態において、化合物は、約10から約800mg、約100から約700mg、約200から約600mgまたは約300から約500mgの範囲の用量で1日1回投与することができる。
【0163】
本発明の化合物がACE阻害薬、ARB、リポ酸化合物および/またはスタチンと組み合わせて投与される、本明細書中に記載された治療方法の一部の実施形態において、ACE阻害薬、ARB、リポ酸化合物およびスタチンは組成物中で、下記表1に示されるような投与量範囲で組み合わせることができる。抗炎症薬、脂肪酸の吸収を阻害する薬剤、抗血小板薬または抗凝血薬が本発明の組成物中に含まれる場合には、これらの薬剤の投与量範囲は、これらの個別の薬剤に典型的に使用される投与範囲を含むことができる。言うまでもなく、本明細書中に記載された用量の更なる変形形態も、目的とする生物学的反応を達成するために本発明の組成物中に使用することができ、医薬分野における当業者によってルーチン実験を用いて把握することができる。
【0164】
【表1】

【0165】
処方および用量に関する更なる手引きについては、参照によりそれぞれ本明細書に組み込まれている、米国特許第5,326,902号および第5,234,933号;国際公開第93/25521号;Berkowら、(1997)The Merck Manual of Medical Information、Home ed.Merck Research Laboratories、Whitehouse Station、New Jersey;Goodmanら、(2006)Goodman & Gilman’s the Pharmacological Basis of Therapeutics、11th ed. McGraw−Hill Health Professions Division、New York;Ebadi.(1998)CRC Desk Reference of Clinical Pharmacology.CRC Press、Boca Raton、Florida;Katzung、(2007)Basic & Clinical Pharmacology、10th ed.Lange Medical Books/McGraw−Hill Medical Pub.Division、New York;Remingtonら、(1990)Remington’s Pharmaceutical Sciences、18th ed.Mack Pub.Co.、Easton、Pennsylvania;Speightら、(1997)Avery’s Drug Treatment:A Guide to the Properties,Choice,Therapeutic Use and Economic Value of Drugs in Disease Management、4th ed.Adis International、Auckland/Philadelphia;およびDuchら、(1998)Toxicol. Lett.100−101:255−263を参照されたい。
【0166】
本明細書中に記載された治療方法のさらに別の実施形態において、有効量の本発明の化合物の対象への投与は、対象の低比重または高比重リポタンパク質(LDLまたはHDL)の酸化量を低減する。LDLまたはHDL酸化を低減させるために本発明に従って対象に投与される治療用組成物の有効量は、対象の状況および達成が望まれる結果によって異なるが、ルーチン実験を用いて容易に決定することができる。
【0167】
最近の研究は、MPO活性化の結果として生成され得るような、対象の脈管構造中における多量の反応性酸素種が、酸化LDL(oxLDL)などのタンパク質の酸化の増加をもたらし、次にこのような増加が炎症プロセスを開始し、動脈壁の内膜損傷を引き起こすことを示している(例えば、Parthasarathyら Proc Natl Acad Sci USA. 1987、84(9)、2995−8を参照のこと)。この損傷のメカニズムはまだ明らかにされておらず、また、スーパーオキシドなどの酸素由来のフリーラジカルによる一酸化窒素(NO)の不活性化を伴う可能性があるが、これらの対象に見られる炎症反応は、次に炎症プロセスを制御しおよび泡沫細胞形成を促進する可能性があるVCAMおよび腫瘍壊死因子α(TNF−α)などの種々の炎症分子の遺伝子発現に影響を及ぼすことが認められた(例えば、Rajagopalan S、Harrison DG.Circulation 1996;94:240−243;Henninger DDら Circ Res 1997;81:274−281;Stannard AKら Atherosclerosis 2001;154:31−38;およびLibby Pら Curr Opin Lipidol 1996;7:330−335を参照のこと)。NOレベルの低減は、oxLDLの増加と協働して、アテローム性動脈硬化プロセスの免疫調節因子として作用し得る(例えば、Vergnani Lら Circulation 2000;101:1261−1266を参照のこと)。しかし、本明細書中に開示されているのは、本発明の化合物がLDL酸化量を有意に低減させるように効果的に使用され得ることを示すデータである。
【0168】
LDLまたはHCL酸化量の種々の測定方法が当業者に知られており、本発明に従って測定することができる。例えば、LDL酸化量の測定は、対象から血漿試料を採取し、超遠心分離法によってLDLを単離し、次いでCuSOを含む標準アッセイを用いてLDLをoxLDLに酸化させることによって、実施することができる(例えば、
Parthasarathy Sら Methods Mol. Biol.2010.610、403−17およびそこに記載された参考文献を参照のこと)。その場合には、LDLの酸化されやすさを示す酸化の遅延時間は、分光光度計を用いて測定することができ、対象に生じているLDL酸化量を把握できる。
【0169】
本発明の別の実施形態において、治療を必要としている対象に、対象の血管拡張を改善するのに有効な量の本発明による化合物が投与される、血管拡張の改善法が提供される。この場合も、血管拡張を改善するために本発明に従って対象に投与される治療用組成物の有効量は、対象の状況および達成が望まれる結果によって異なるが、ルーチン実験を用いて容易に決定することができる。
【0170】
内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)によって生成される一酸化窒素は、強力な血管拡張薬として当業者に知られており、いくつかの重要な内皮機能を媒介することがさらに知られている。しかし、最近の研究は、MPOが複数のメカニズムによって、一酸化窒素のバイオアベイラビリティを低減させ、結果として、血管拡張に利用できる量を低減させる可能性があることを示している。例えば、次亜塩素酸は、一酸化窒素合成酵素基質アルギニンの窒素原子と反応して塩素化アルギニン種を生成する可能性があり、塩素化アルギニン種は、一酸化窒素合成酵素の全てのイソ型を効果的に阻害する能力があり、大動脈輪の内皮依存性弛緩を損なうことが示された。別の例として、次亜塩素酸はまた、eNOSの結合解離の強力な誘発物質であり、したがってeNOSをスーパーオキシド生成酵素に変える。一方、特定の理論によって拘束されることを望むものではないが、本発明の化合物は、MPOが血管壁などの種々の解剖学的部位において一酸化窒素を枯渇できないようにMPO活性を十分に阻害でき、したがって前記で概説された事象を予防できると考えられる。
【0171】
上腕動脈の内膜依存性および内膜非依存性血管拡張の評価に高解像度超音波を使用する非侵襲的流量依存性拡張法(non−invasive flow−mediated dilation technique)を含む、対象の血管拡張度の種々の測定方法を、本発明に従って使用することができる。簡潔には、この試験は、腕の上腕動脈の内皮を刺激して一酸化窒素を放出させ、一酸化窒素が次に動脈の血管拡張を引き起こす。この場合、結果として起こる血管拡張を内皮機能のマーカーとして測定し、数量化することができる。
【0172】
本発明のさらに別の実施形態において、治療を必要としている対象に、対象の粥腫不安定化を低減するのに有効な量の本発明による化合物が投与される、粥腫不安定化の低減方法が提供される。この場合にも、粥腫不安定化を低減するために本発明に従って対象に投与される治療用組成物の有効量は、対象の状況および達成が望まれる結果によって異なるが、ルーチン実験を用いて容易に決定することができる。
【0173】
動脈壁に沿った粥腫の形成は、アテローム性動脈硬化症の特徴であり、多くの有害な影響をもたらす可能性がある。例えば、動脈粥腫の発生の重大な影響の1つは、粥腫の大きさが経時的に増大しまたは脆弱になるにつれて、粥腫自体が不安定化されて、粥腫崩壊を引き起こすことである。これらの場合の多くにおいて、このような脆弱な被膜は薄い線維性被膜を含み、被膜下には大きく、軟らかい脂質プールが存在するため、被膜は不安定化およびその後の崩壊を起こしやすくなる。これに関連して、MPOは、メタロプロテイナーゼを活性化することによって粥腫の不安定化にさらに関与する可能性がある。メタロプロテイナーゼは次に、線維性被膜を脆弱化し、心筋梗塞などの心血管有害事象を引き起こす可能性がある。特定の理論によって拘束されることを望むものではないが、本発明の化合物の投与は、MPOを阻害することによってメタロプロテイナーゼの活性化を間接的に阻害することによって、粥腫の不安定化を効果的に低減させることができると考えられる。
【0174】
当業者に認識されているように、粥腫の安定性は、動脈硬化病変のコラーゲン平滑筋含量のいずれにも左右される。これに関連して、血栓性粥腫(thrombosed plaque)に含まれるコラーゲン含量は比較的少ないことが多くの場合認められている。さらに、コラーゲナーゼの過剰発現もまた、これらの酵素の作用によって粥腫の機械的性質を変化させ、より弱い、無秩序なコラーゲン線維を生じる。典型的には、粥腫中の平滑筋細胞はコラーゲンを発生させ、内膜病変部位への平滑筋細胞の移動および内膜病変部位での増殖がコラーゲンの全体的増加に関連し、したがって粥腫に安定性を与える。また一方、不安定狭心症に随伴する粥腫に平滑筋細胞死がよく認められるという観察から明らかなように、平滑筋細胞の減少は、粥腫を崩壊しやすくする可能性もある。
【0175】
粥腫安定性を測定するための種々の方法が当業者によって用いられており、それらの方法はいずれも、本出願で開示される主題に従って使用することができる。例えば、Polar−Sensitive Optical Coherence Tomography(PSOCT)は、その技術がコラーゲンおよび平滑筋細胞などの組織中で高い物質特性である複屈折を測定し、組織微細構造の断面像を10μmの解像度で形成することが認められたので、粥腫安定性の測定に使用することができる。別の例として、レーザースペックルイメージング(Laser Speckle Imaging)(LSI)もまた、血管内カテーテル中に挿入される小径フレキシブルオプティカルバンドル(small−diameter,flexible optical bundle)を使用することによって、粥腫安定性の測定に使用することができる。次に、オプティカルバンドルによる動脈硬化性粥腫からのレーザーシグナルの伝送が記録および評価されて(例えば、冠動脈の運動を模倣するファイバーバンドルを周期的に挿入することによって、大動脈粥腫の画像が得られる。)、粥腫安定性が測定される。さらに別の例として、核磁気共鳴画像法(MRI)を不安定粥腫の検出に使用することができる。さらに、反射分光法は、400から1700nmのスペクトル領域の反射スペクトルを収集しおよび反射スペクトルを用いて脂質含量を測定することによって、不安定粥腫の検出に使用することができる。次に、粥種中の質含量の測定値を、組織像から算出された脂質コアの厚さと比較して、さらに粥腫安定性を求める。
【0176】
本明細書中に記載された種々の治療法に関して、本明細書中に開示された方法の一部の実施形態は定性的評価(例えば、対象における安定粥腫の存在の有無)しか必要としないが、これらの方法の他の実施形態は定量的評価(例えば、対象におけるLDL酸化の低減量または対象における血管拡張量)を必要とする。このような定量的評価は、例えば、当業者に理解されている前記方法の1つを用いて、実施することができる。
【0177】
当業者はまた、対象における特定の特徴(例えば、LDL酸化)の量の低減の測定または特定の特徴(例えば、血管拡張)の改善の測定が統計解析であることを理解している。例えば、対象におけるLDL酸化量の低減は、LDL酸化の対照レベルと比較することができ、統計的有意水準によって示されるように、対照レベルと等しいかまたはそれより少ない量がLDL酸化量の低減を示すことができる。統計的有意性は多くの場合、2つ以上の母集団を比較しならびに信頼区間および/またはP値を求めることによって判定される。例えば、参照によりその全体が本明細書中に組み込まれている、DowdyおよびWearden、Statistics for Research、John Wiley&Sons、New York、1983を参照のこと。本発明の主題の好ましい信頼区間は、90%、95%、97.5%、98%、99%、99.5%、99.9%および99.99%であり、好ましいP値は、0.1、0.05、0.025、0.02、0.01、0.005、0.001および0.0001である。
【0178】
メチレンジオキシフェニルフェルレート(式(II))およびフェルリルプロリン(式(XVI))ならびにそれらの誘導体を含む本発明の化合物は、MPOの有効な阻害薬であるように設計されている。したがって、本出願で開示される化合物は、有害な酸化剤または酸化タンパク質の量を低減する薬剤として有用であると考えられる。この線に沿って、また、前述の通り、本出願で開示される化合物は、MPO活性の阻害が適用となる種々の対象の心血管疾患の治療に有用である。
【0179】
本明細書中で使用されるように、用語「対象」は、ヒトおよび動物対象の両方を含む。したがって、本出願で開示される主題に従って、獣医学的な治療的使用も提供される。よって、本出願で開示される主題は、ヒト、ならびに絶滅の危機に瀕しているために重要な哺乳類(例えば、シベリアトラ(Siberian tiger));経済的に重要な哺乳類(例えば、ヒトによる消費のために農場で育てられる動物);および/またはヒトにとって社会的に重要な動物(例えば、ペットとしてまたは動物園で飼われる動物)などの哺乳類の治療を提供する。このような動物の例としては、肉食動物、例えば、ネコおよびイヌ;ピッグ、ホッグおよびイノシシを含む豚;反芻動物および/または有蹄動物、例えば、畜牛(cattle)、雄牛(ox)、ヒツジ、キリン、シカ、ヤギ、バイソンおよびラクダ;ならびにウマが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、絶滅の危機に瀕しているおよび/または動物園で飼われている種類の鳥類、ならびにヒトにとって同様に経済的に重要な家禽、より詳しくは家畜化された家禽、すなわち、飼い鳥類、例えば、七面鳥、鶏、鴨、ガチョウ、ホロホロチョウなどの治療を含む、鳥類の治療も提供される。したがって、また、家畜化された豚、反芻動物、有蹄動物、馬(競走馬を含む)、家禽などを含むがこれに限定されるものではない家畜の治療が提供される。
【0180】
本明細書中に記載された、本出願で開示される主題の実施形態は修正の対象とされ、本発明の範囲内の他の修正された実施形態は、本明細書中に示される情報の検討によって当業者に明白となる。本明細書中に示される情報、特に、記載された例示的な実施形態の具体的詳細は、主に理解を明確にするために示され、それからは不必要な限定がないことが理解されるべきである。
【0181】
さらに、本出願中で使用される用語は、当業者には十分に理解されていると考えられるが、本出願で開示される主題の説明を容易にするために定義が示されている。特に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書中に記載されたのと同様なまたは等しい任意の方法、装置および材料は、本出願で開示される主題の実施または試験に使用することができるが、代表的な方法および材料は本明細書中で前述されたものである。
【0182】
さらに、長年にわたる特許法上の慣例に従って、用語「a」、「an」および「the」は、特許請求の範囲を含む本出願において使用する場合、「1つ(種)またはそれ以上」を意味する。したがって、例えば、「1つの炎症分子」への言及は、複数のこのような分子を含むなどである。また、特に明示されない限り、本明細書および特許請求の範囲において使用される成分の量、反応条件のような性質などを表す全ての数値は、全ての場合に用語「約」で修飾されているものとして理解されるべきである。したがって、反対の指示がない限り、本明細書および特許請求の範囲に記載された数値パラメーターは、本発明が獲得しようとする所望の性質に応じて異なり得る近似値である。
【0183】
本明細書で使用されるように、用語「約」は、質量、重量、時間、容量、濃度または百分率の値または量に関する場合、指定された量から、一部の実施形態では±20%、一部の実施形態では±10%。一部の実施形態では±5%、一部の実施形態では±1%、一部の実施形態では±0.5%、一部の実施形態では±0.1%の変動が開示された方法の実施に適切であるので、このような変動を包含することを意味する。
【実施例】
【0184】
本発明の好ましい実施形態の態様を例示する以下の実施例が提供される。以下の実施例中に開示された技術が、本発明の実施において充分に機能する、本発明者によって発見された技術を代表すること、したがって、本発明の実施の好ましい様式を構成すると考えられることは、当業者に理解されるはずである。しかし、当業者ならば、本明細書中の開示を考慮して、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、開示された個別の実施形態において多くの変更が可能であり、依然として同様のまたは類似した結果を達成できることがわかるはずである。
【0185】
実施例1−メチレンジオキシフェニルフェルレートの合成および特性決定
メチレンジオキシフェニルフェルレート(式(II))を合成するために、フェルラ酸、メチレンジオキシフェノール、ジメチルアミノピリジン(DMAP)、トリエチルアミン(TEA)およびN−(3−ジメチルアミノプロピル)−N’−エチルカルボジイミドヒドロクロリド(EDCI)を含む、下記の合成手順のための化学物質および試薬を、最初にSigma−Aldrich Co.(St.Louis、MO)から購入した。
【0186】
図1に図示される合成手順において、メチレンジオキシフェニルフェルレートの合成は、フェルラ酸とメチレンジオキシフェノールとのカップリング反応を用いて実施した。反応全体を窒素雰囲気下で実施した。反応を行うために、フェルラ酸0.194g(1ミリモル(mM))、メチレンジオキシフェノール0.138g(1mM)、トリエチルアミン0.101g(対応容量0.140mL)、触媒量(約1から2mg)のジメチルアミノピリジンを最初に100mL丸底フラスコ中で合せた。次いで、フラスコ内容物をジクロロメタン(25mL)に溶解させ、室温で5分間よく攪拌した。次に、フラスコ内容物を同時に撹拌しながら、カップリング試薬EDCI 0.287g(1.5mL)を2時間にわたって少しずつ加えた。薄層クロマトグラフィーを用いて出発化合物の消失と新しい生成物の形成とを比較することによって、反応の完了を監視した。
【0187】
一晩撹拌後、ロータリーエバポレーターを用いてジクロロメタンを減圧蒸発させた。得られた粗生成物を、分取螢光薄層クロマトグラフィー(fluorescent preparative thin layer chromatography)を用いて50%酢酸エチル:ヘキサンの比で精製した。該当する必要な化合物バンドを単離し、酢酸エチル(300mL)による連続溶離によって、この化合物バンドから化合物を抽出した。次いで、減圧ポンプ下で溶媒を蒸発乾固させ、白色固体が74%の収率で得られた。化合物を、プロトンNMRスペクトルによって特性決定した。典型的なプロトン化学シフト値は以下の通りであった:(CDCl):δ7.79(1H,二重線)、7.15−7.14(1H,二重線)、7.126(1H,一重線)、6.96−6.94(1H,二重線)、6.81−6.79(1H,二重線)、6.69−6.68(1H,二重線)、6.62−6.62(1H,二重線)、6.59−6.58(1H,二重線)、6.47−6.43(1H,二重線)、5.99(2H,一重線)、3.95(3H,一重線)。生成物は、以下の化学構造および物理的特性を有することがわかり、メチレンジオキシフェニルフェルレート(式(II))と確認された。
【0188】
【化77】

【0189】
実施例2−フェルリルプロリンの合成および特性決定
フェルリルプロリン(式(XVI))を合成するために、フェルラ酸、L−プロリンメチルエステルヒドロクロリド、ジメチルアミノピリジン(DMAP)およびジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)含む、下記の合成手順のための化学物質および試薬を、最初にSigma−Aldrich Co.(St.Louis、MO)から購入した。フェルリルプロリンの合成は、フェルラ酸とプロリンのメチルエステルとのカップリング反応およびそれに続く、エステルの塩基触媒加水分解による遊離カルボン酸の再生を用いて実施した。反応全体を窒素雰囲気下で実施した。
【0190】
図2に図示される反応の第1ステップにおいて、フェルラ酸0.194g(1mM)、プロリンエステル0.165g(1mM)およびDMAP 0.101gを100mL丸底フラスコ中で合わせた。フラスコ内容物をジクロロメタン(25mL)に溶解させ、室温で5分間よく攪拌した。次に、薄層クロマトグラフィーを用いて出発化合物の消失と新しい生成物の形成とを比較することによって、反応の完了を監視した。
【0191】
一晩撹拌後、ロータリーエバポレーターを用いてジクロロメタンを減圧蒸発させた。続いて、得られた粗生成物、すなわち、フェルリルプロリンメチルエステルを、カラムクロマトグラフィーを用いて150%酢酸エチル:ヘキサンの比で精製した。該当する必要な化合物バンドを単離し、次のステップに直接用いた。この反応の総収率は91%であった。
【0192】
【化78】

【0193】
図3に図示される合成手順の第2ステップにおいて、エステル化化合物を10%水酸化ナトリウムエタノール溶液で処理しおよび70℃で3時間撹拌することによって、遊離酸を得た。溶媒エタノールを蒸発させ、粗化合物を冷希塩酸によって酸性化した。遊離カルボン酸をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。最終の酸が、低融点の淡黄色固体として58から64%の化学収率で得られた。この化合物を、プロトンNMRスペクトルによって特性決定し、化学シフト値を以下のように帰属させた:(CDCl):δ7.74−7.71(1H,二重線)、6.99−6.98(1H,二重線)、6.92−6.90(1H,二重線)、6.54−6.50(1H,二重線)、4.72−4.70(2H,三重線)、3.92(3H,一重線)、3.75−3.72(2H,三重線)、3.66−3.63(2H,四重線)、2.57−2.54(1H,多重線)、2.07−2.04(3H,多重線)。生成物は、以下の化学構造および物理的特性を有することがわかり、フェルリルプロリン(式(XVI))と確認された。
【0194】
【化79】

【0195】
実施例3−ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性の阻害
本発明の化合物が種々の濃度でミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を阻害するかどうかを判定するために、MPOアッセイにおいて基質としてテトラメチルベンジジン(TMB)を用いた。TMBを用いたのは、TMBがグアイアコールよりも感受性でありおよび色が安定であるためである。典型的には、反応混合物(200μl)は、ヒトMPO(Sigma−Aldrich、St.Louis、MO)20mU、H 400nmol、TMB 1.6μmolおよび種々の濃度のメチレンジオキシフェニルフェルレート(式(II))またはフェルリルプロリン(式XVI))を含んでいた。
【0196】
反応は、50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.6)を含む容量200μL中において実施した。MPOを添加することによって反応を開始させ、次いで、マイクロプレートリーダーに入れた形成生成物の光学濃度を種々の時点において650nmで読み取った。図4および5に示されるように、結果から、化合物、メチレンジオキシフェニルフェルレートおよびフェルリルプロリンがいずれもMPOを著しく阻害することがわかった。さらに、これらの分析から計算した阻害定数(Ki)から、生理的でありおよび経口投薬によって達成可能なKi値が明らかになった(表2)。
【0197】
【表2】

【0198】
実施例4−低比重リポタンパク質酸化の阻害
本出願で開示される化合物の低比重リポタンパク質(LDL)酸化に対する作用を判定するために、標準的なLDL酸化反応を、メチレンジオキシフェニルフェルレート(FMDP、式(II))およびフェルリルプロリン(式(XVI))の存在下で実施した。簡潔には、LDLのインビトロ酸化反応を室温においてリン酸カリウム緩衝液(pH7.4)中で実施した。反応混合物は、LDLタンパク質100μgおよび5μM Cu(II)を含んでおり、最終容量が1mLであった、LDLの酸化は、分光光度計を用いて合計300分間、234nmの共役ジエンの形成を測定することによって追跡した。次に、Cu(II)誘発LDL酸化の経時変化を行った。メチレンジオキシフェニルフェルレート濃度10μMおよび25μMにおいて、LDL酸化の完全な阻害が観察された(図6)。同一条件下で、フェルリルプロリンは酸化促進剤として作用し、遅延時間を短縮した(図6)。フェルリルプロリン10μMおよび25μMの存在下におけるLDL酸化の増加は、LDLの酸化促進剤として作用するCu(II)−フェルリルプロリン錯体の形成によるものであった。阻害薬の不存在下ならびに10μMおよび25μMのメチレンジオキシフェニルフェルレートおよびフェルリルプロリンの存在下における、Cu(II)媒介酸化によるLDL脂質の酸化を、酸化を200分間監視することによって実施した。
【0199】
実施例5−シトクロムc酸化の阻害
本発明の化合物がシトクロムcの還元を効果的に阻害できるかどうかを判定するために、キサンチン/キサンチンオキシダーゼによって発生させたスーパーオキシドラジカルによってシトクロムcを還元し、シトクロム還元生成物を分光光度計で549nmにおいて観察した。反応混合物は、5mMヒポキサンチン250μL(最終濃度1.25mM)、緩衝液中シトクロムc 100μL、キサンチンオキシダーゼ酵素10μLおよび種々の濃度の阻害薬を含んでいた。燐酸塩緩衝液を用いて最終容量を1mLとした。5回の測定によって500から600nmの間の波長を走査することによって、酸化を監視した。走査サイクル時間は30秒とした。結果から、フェルリルプロリンは反応を阻害する(図7)が、メチレンジオキシフェニルフェルレートは阻害をそれほど引き起こさないことが明らかになった。このことは、前記化合物の、MPO阻害に対する特異性を示している。
【0200】
実施例6−クロロタウリン形成の阻害
クロロタウリンは、Hによる塩化物のMPO媒介2電子酸化によって形成される塩素化酸化剤、次亜塩素酸(HOCl)によるタウリンの酸化によって形成される。本発明の化合物がクロロタウリンの形成を阻害できるかどうかを判定するために、リン酸ナトリウム緩衝液中に150mMタウリン50μL、種々の濃度のメチレンジオキシフェニルフェルレート(式(II))またはフェルリルプロリン(式(XVI))および次亜塩素酸250μLを含む反応混合物を生成した。混合物を37℃で10分間インキュベートし、続いて40mMチオニトロ安息香酸(TNB)60μLを添加した。全溶液を1.5mLとし、紫外可視分光光度計を用いて412nmにおいて吸収を測定した。結果から、メチレンジオキシフェニルフェルレートは反応を阻害する(図8)が、フェルリルプロリンは阻害を引き起こさないことがわかった。さらに、これらの2つの化合物はクロロタウリン酸化に対して異なる反応をするが、MPO阻害に対する特異性を示すように思われる。
【0201】
実施例7−ミエロペルオキシダーゼ阻害の分析
MPOは種々の基質に作用することが知られている。したがって、前記実験において、メチレンジオキシフェニルフェルレート(式(II))およびフェルリルプロリン(式(XVI))がMPO基質として作用しおよび添加基質からの生成物の形成を競合的にマスクしていることは理論的にはあり得ると考えられた。しかし、MPOを用いても用いなくても、メチレンジオキシフェニルフェルレートおよびフェルリルプロリンの200から700nmの間の紫外可視スペクトルの測定は生成物を示さなかった(図9および10)。これらの実験において、酢酸ナトリウム緩衝液720μL、100mM H 100μL、MPO酵素100μLを含み、本発明の化合物が添加された反応混合物を生成し、総容量を1mLとした。しかし、この反応混合物の分析時に、反応混合物がMPO基質を含まずに阻害薬のみを含む場合でさえ、有色生成物は認められなかった。この知見を確かなものにするために、MPOアッセイ溶液および阻害薬を用いて薄層クロマトグラフィー(TLC)を行い(50%酢酸エチル:ヘキサン)、ヨウ素チャンバー中でスポット同定を行った。TLC実験はMPO反応中に生成物の形成を示さなかった。これは、メチレンジオキシフェニルフェルレートおよびフェルリルプロリンはMPO基質として作用せず、むしろMPOの阻害薬と特徴付けられるべきであることを示している。
【0202】
本明細書全体を通して、種々の参考文献が言及されている。このような参考文献は全て、参照により明細書に組み込まれている。また、本発明の種々の詳細は、本明細書中に開示された主題の範囲から逸脱することなく、変更され得ることがわかる。さらに、前記記載は例示のみを目的とし、限定を目的としない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

[式中、
は、OCH、OHおよびOCHCHからなる群から選択され、
は、OHおよびOCHからなる群から選択され、ならびに、
は、
【化2】

からなる群から選択される。]
を有する化合物またはその医薬として許容され得る塩もしくは溶媒和物。
【請求項2】
式(II):
【化3】

を有する、請求項1の化合物。
【請求項3】
式(III):
【化4】

を有する、請求項1の化合物。
【請求項4】
式(IV):
【化5】

を有する、請求項1の化合物。
【請求項5】
式(V):
【化6】

を有する、請求項1の化合物。
【請求項6】
式(VI):
【化7】

を有する、請求項1の化合物。
【請求項7】
式(VII):
【化8】

を有する、請求項1の化合物。
【請求項8】
式(VIII):
【化9】

を有する、請求項1の化合物。
【請求項9】
式(IX):
【化10】

を有する、請求項1の化合物。
【請求項10】
式(X):
【化11】

を有する、請求項1の化合物。
【請求項11】
式(XI):
【化12】

を有する、請求項1の化合物。
【請求項12】
式(XII):
【化13】

を有する、請求項1の化合物。
【請求項13】
式(XIII):
【化14】

を有する、請求項1の化合物。
【請求項14】
式(XIV):
【化15】

を有する、請求項1の化合物。
【請求項15】
請求項1の化合物および医薬として許容され得るビヒクル、担体または賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項16】
式(XV):
【化16】

[式中、
は、OCH、OCHCHおよびCONHNHからなる群から選択され、
は、OHおよびNHからなる群から選択され、ならびに、
は、
【化17】

からなる群から選択される。]
を有する化合物またはその医薬として許容され得る塩もしくは溶媒和物。
【請求項17】
式(XVI):
【化18】

を有する、請求項16の化合物。
【請求項18】
式(XVII):
【化19】

を有する、請求項16の化合物。
【請求項19】
式(XVIII):
【化20】

を有する、請求項16の化合物。
【請求項20】
式(XIX):
【化21】

を有する、請求項16の化合物。
【請求項21】
式(XX):
【化22】

を有する、請求項16の化合物。
【請求項22】
式(XXI):
【化23】

を有する、請求項16の化合物。
【請求項23】
式(XXII):
【化24】

を有する、請求項16の化合物。
【請求項24】
式(XXIII):
【化25】

を有する、請求項16の化合物。
【請求項25】
式(XXIV):
【化26】

を有する、請求項16の化合物。
【請求項26】
式(XXV):
【化27】

を有する、請求項16の化合物。
【請求項27】
式(XXVI):
【化28】

を有する、請求項16の化合物。
【請求項28】
請求項16の化合物および医薬として許容され得るビヒクル、担体または賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項29】
式(XXVII):
【化29】

[式中、Rは、
【化30】

からなる群から選択される。]
を有する化合物またはその医薬として許容され得る塩もしくは溶媒和物。
【請求項30】
式(XXVIII):
【化31】

を有する、請求項29の化合物。
【請求項31】
式(XXIX):
【化32】

を有する、請求項29の化合物。
【請求項32】
式(XXX):
【化33】

を有する、請求項29の化合物。
【請求項33】
式(XXXI):
【化34】

を有する、請求項29の化合物。
【請求項34】
式(XXXII):
【化35】

を有する、請求項29の化合物。
【請求項35】
式(XXXIII):
【化36】

を有する、請求項29の化合物。
【請求項36】
式(XXXIV):
【化37】

を有する、請求項29の化合物。
【請求項37】
式(XXXV):
【化38】

を有する、請求項29の化合物。
【請求項38】
下記式(II)および(XVI):
【化39】

からなる群から選択される式を有する化合物またはその医薬として許容され得る塩もしくは溶媒和物。
【請求項39】
ミエロペルオキシダーゼ酵素活性の低減方法であって、式(I):
【化40】

[式中、
は、OCH、OHおよびOCHCHからなる群から選択され、
は、OHおよびOCHからなる群から選択され、ならびに、
は、
【化41】

からなる群から選択される。];
式(XV):
【化42】

[式中、
は、OCH、OCHCHおよびCONHNHからなる群から選択され、
は、OHおよびNHからなる群から選択され、ならびに、
は、
【化43】

からなる群から選択される。];および
式(XXVII):
【化44】

[式中、Rは、
【化45】

からなる群から選択される。]
からなる群から選択される化合物またはその医薬として許容され得る塩もしくは溶媒和物の有効量をミエロペルオキシダーゼ酵素と接触させることを含む、方法。
【請求項40】
心血管疾患の治療方法であって、式(I):
【化46】

[式中、
は、OCH、OHおよびOCHCHからなる群から選択され、
は、OHおよびOCHからなる群から選択され、ならびに、
は、
【化47】

からなる群から選択される。];
式(XV):
【化48】

[式中、
は、OCH、OCHCHおよびCONHNHからなる群から選択され、
は、OHおよびNHからなる群から選択され、ならびに、
は、
【化49】

からなる群から選択される。];および
式(XXVII):
【化50】

[式中、Rは、
【化51】

からなる群から選択される。]
からなる群から選択される化合物またはその医薬として許容され得る塩もしくは溶媒和物の有効量を、心血管疾患の治療を必要としている対象に投与することを含む、方法。
【請求項41】
心血管疾患が、高血圧症、アテローム性動脈硬化症、冠動脈性心疾患、狭心症、脳卒中および心筋梗塞からなる群から選択される、請求項40の方法。
【請求項42】
アンジオテンシン変換酵素阻害薬、アンジオテンシンII受容体遮断薬、スタチン、抗炎症薬、脂肪酸の吸収を阻害する薬剤、抗血小板薬、抗凝血薬またはそれらの組み合わせの有効量を対象に投与することをさらに含む、請求項40の方法。
【請求項43】
低比重リポタンパク質酸化の低減方法であって、式(I):
【化52】

[式中、
は、OCH、OHおよびOCHCHからなる群から選択され、
は、OHおよびOCHからなる群から選択され、ならびに、
は、
【化53】

からなる群から選択される。];
式(XV):
【化54】

[式中、
は、OCH、OCHCHおよびCONHNHからなる群から選択され、
は、OHおよびNHからなる群から選択され、ならびに、
は、
【化55】

からなる群から選択される。];および
式(XXVII):
【化56】

[式中、Rは、
【化57】

からなる群から選択される。]
からなる群から選択される化合物またはその医薬として許容され得る塩もしくは溶媒和物の有効量を、低比重リポタンパク質酸化の低減を必要としている対象に投与することを含む、方法。
【請求項44】
血管拡張の増加方法であって、式(I):
【化58】

[式中、
は、OCH、OHおよびOCHCHからなる群から選択され、
は、OHおよびOCHからなる群から選択され、ならびに、
は、
【化59】

からなる群から選択される。];
式(XV):
【化60】

[式中、
は、OCH、OCHCHおよびCONHNHからなる群から選択され、
は、OHおよびNHからなる群から選択され、ならびに、
は、
【化61】

からなる群から選択される。];および
式(XXVII):
【化62】

[式中、Rは、
【化63】

からなる群から選択される。]
からなる群から選択される化合物またはその医薬として許容され得る塩もしくは溶媒和物の有効量を、血管拡張の増加を必要としている対象に投与することを含む、方法。
【請求項45】
粥腫不安定化の低減方法であって、式(I):
【化64】

[式中、
は、OCH、OHおよびOCHCHからなる群から選択され、
は、OHおよびOCHからなる群から選択され、ならびに、
は、
【化65】

からなる群から選択される。];
式(XV):
【化66】

[式中、
は、OCH、OCHCHおよびCONHNHからなる群から選択され、
は、OHおよびNHからなる群から選択され、ならびに、
は、
【化67】

からなる群から選択される。];および
式(XXVII):
【化68】

[式中、Rは、
【化69】

からなる群から選択される。]
からなる群から選択される化合物またはその医薬として許容され得る塩もしくは溶媒和物の有効量を、粥腫不安定化の低減を必要としている対象に投与することを含む、方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2012−524816(P2012−524816A)
【公表日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−507426(P2012−507426)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/032223
【国際公開番号】WO2010/124201
【国際公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【出願人】(511255605)インバスク・セラピユーテイクス・インコーポレイテツド (1)
【Fターム(参考)】