説明

心血管病変の危険性を伴う女性における膣萎縮の治療

本発明は、心血管病変に罹患している可能性が高い、または心血管病変に罹患しているもしくは罹患したことがある女性における、泌尿生殖器萎縮の予防および/または治療のための、エストリオールの吸収を自己制御する能力を有する膣内投与用医薬処方物の調製におけるエストリオールの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エストリオールの吸収を自己制御する能力を有する膣内投与用医薬処方物の調製におけるエストリオールの使用に関する。この処方物は、心血管病変に罹患している可能性が高い、または心血管病変に罹患しているもしくは罹患したことがある女性における、泌尿生殖器萎縮の予防および/または治療に有用である。
【背景技術】
【0002】
エストロゲンおよび他の女性ホルモンは主に卵巣で産生され、一生を通じて様々な組織および器官に作用する。これら器官、中でも特に乳房と子宮の細胞は、エストロゲンおよび他のホルモンに対する受容体を有する。エストロゲンホルモンは、この受容体に結合し、様々な生理学的または病理学的プロセスを開始することによってその作用を発揮する。他の生理学的機能として、エストロゲンホルモンは、一生のうちの様々な期間(思春期、妊娠期、授乳期、閉経期)において乳房および子宮が受ける発達および変異に関与する。しかし、エストロゲンはまた、冠動脈疾患、脳血管障害または血栓塞栓性疾患などを含む病理学的プロセスにも関与している可能性がある。
【0003】
女性の更年期には、卵巣によるエストロゲン産生の進行性疾患があり、これは通常、一連の兆候、症状および病変を伴う。主な兆候は、月経の消失(閉経)および多数のホルモン症状および精神的症状、血管運動異常(顔面潮紅(hot flashes)および発汗)ならびに最も一般的である泌尿生殖器萎縮の発症である。
【0004】
エストロゲンの産生が減少すると、膣、尿道および膀胱粘膜が漸減する。この萎縮がより顕著になると、生殖器症状−掻痒および膣灼熱感、萎縮性膣炎、性交疼痛および外傷性出血−ならびに泌尿器症状−反復感染、排尿障害および尿失禁−がおこる。更に、ホルモン欠乏は支持組織の減少を招き、これにより脱出症および緊張性尿失禁が発症する可能性がある。
【0005】
泌尿生殖器萎縮は更年期および閉経期の当然の結果であるが、関連疾患が女性の生活の質に影響を及ぼすことが多いため、医師にとっては、その存在を早期に検出し、治療を指示することが重要である。
【0006】
閉経後女性が高齢であるほど、膣萎縮の症状および治療の必要性が大きくなることを考慮する必要がある。しかしながら、年齢とともに、血栓塞栓症、冠動脈疾患または脳血管疾患に罹患する危険性が高くなるため、高齢になるほど心血管病変に罹患する可能性は高くなる。
【0007】
エストロゲン療法は、通常、ホルモン欠乏による泌尿生殖器萎縮の回復に非常に効果的であるという事実にもかかわらず、静脈血栓塞栓性病変(深部静脈血栓症または肺血栓塞栓症など)または冠動脈もしくは脳血管疾患(心筋梗塞または発作など)の病歴がある膣萎縮を伴う女性におけるその療法の使用は、それが引き起こす危険性ゆえに推奨されない。同じ理由で、年配の閉経後女性の場合と同様、心血管疾患に罹患している可能性が高い女性におけるその使用も推奨されない。
【0008】
エストロゲン欠乏に起因する泌尿生殖器萎縮は常に経口ホルモン補充療法による全身治療を必要とするわけではなく、むしろ膣内経路によるエストロゲン投与が好ましいが、この経路は安全ではないことを考慮する必要がある。局所投与したエストロゲンホルモンは、吸収されて全身に行きわたり、冠動脈疾患、脳血管障害(発作)および/または血栓塞栓性疾患を引き起こす危険性が高くなる可能性がある。
【0009】
エストリオールは、特に膣内経路による泌尿生殖器萎縮の治療において使用するエストロゲンの一種である。現在市販されている膣用エストリオール処方物は、通常、治療の最初2〜3週間は0.5mg/日(500μg/日)の投与量で投与され、その後、週に2または3回、0.5mgの投与量で投与されるが、それが引き起こす危険性ゆえに、心血管疾患に罹患したことがある、または心血管疾患に罹患している可能性が高い女性にそれらを投与することは推奨されない。
【0010】
それゆえ、冠動脈疾患、発作または静脈血栓塞栓性疾患に罹患したことがある、または心血管疾患に罹患している可能性が高い女性におけるエストロゲン欠乏に起因する泌尿生殖器萎縮の緩和は、いまだ解決されていない課題である。特に、かなり前に閉経した閉経後女性、すなわち、年配の女性における未解決の課題である。
【発明の概要】
【0011】
本発明の発明者らは、驚くべきことに、いくつかの膣用エストリオール処方物が、エストリオールの吸収を自己制御することができるシステムを形成することを見出した。
【0012】
本発明者らは、本発明による処方物を用いた治療を開始すると、膣上皮の萎縮時はエストリオールの吸収が低く、1000pg/ml×h、好ましくは750pg/ml×h未満の血漿エストリオール濃度−時間曲線下面積(AUC)で示されることを確認した。これら処方物の反復投与によって膣萎縮が回復すると、驚くべきことに、治療開始から数日後(2〜15日、特に2〜10日、より特には2〜7日、更により特には2〜5日)には、エストリオールの吸収はほんのわずかであり、曲線下面積は初期のものに対して著しく低下し、500pg/ml×h未満、好ましくは250g/ml×h未満になるという事実が生じる。それゆえ、本発明による処方物は、危険性なく、または危険性が有意に低減された状態で、心血管リスクに罹患している可能性が高い女性、または心血管疾患に罹患している、または罹患したことがある女性において、泌尿生殖器萎縮の治療または予防のために使用することができる。
【0013】
本発明の発明者らはまた、驚くべきことに、市販の処方物を用いて膣萎縮を治療すると、エストリオールに対する全身曝露は治療の間中有意な変化を示さないことを確認したが(最終的に、上皮は栄養良好になったが)、既に述べたように、本発明による処方物で治療することにより全身曝露は治療中かなり低減される。
【0014】
結果として、本発明によるエストリオール処方物を膣内経路により投与することにより、エストロゲン欠乏に起因する泌尿生殖器萎縮の予防および/または治療を可能にすることができ、同時に、エストロゲン療法に付随する、心血管疾患を引き起こす危険が予防され、または非常に有意なその低減が達成される。
【0015】
したがって、本発明の第一の態様は、心血管病変に罹患している可能性が高い、または、心血管病変に罹患している、もしくは罹患したことがある女性における、泌尿生殖器萎縮の予防および/または治療のための、エストリオールの吸収を自己制御する能力を有する膣内投与用医薬処方物の調製におけるエストリオールの使用である。
【0016】
換言すると、本発明は、心血管病変に罹患している可能性が高い、または、心血管病変に罹患している、もしくは罹患したことがある女性における、泌尿生殖器萎縮の予防および/または治療に使用される、エストリオールの吸収を自己制御する能力を有する、エストリオールを含んでなる膣内投与用医薬処方物に関する。
【0017】
本発明の第二の態様は、心血管病変に罹患している可能性が高い、または、心血管病変に罹患している、もしくは罹患したことがある女性における、泌尿生殖器萎縮の予防または治療のための方法であって、エストリオールの吸収を自己制御する能力を有するエストリオール処方物を膣内投与することを含んでなる方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】時間の関数としての血漿エストリオール濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明において、心血管疾患の病歴がある、および/または確立されたリスク因子:加齢(たとえば、50歳を超えた、または60歳を超えた女性)、遺伝的感受性(たとえば、心血管疾患、心血管疾患に関連する遺伝子突然変異の家族歴)、併発病変(前兆を伴う重症の片頭痛、高血圧、高コレステロール血症、高グリセリド血症、インスリン依存型糖尿病、心臓障害、心臓弁膜症など)および生活様式(喫煙、座ることの多い生活、肥満、脂肪に富んだ食事など)の少なくとも1つを有する女性は、心血管疾患(CVD)に罹患している可能性が高い女性であると考えられている。
【0020】
より具体的には、本発明において、心血管病変は、エストロゲンの作用に関連する、またはエストロゲン療法の禁忌として考えることができる心血管系の疾患または障害を包含する。たとえば、冠動脈疾患(または冠動脈性心臓障害)、脳血管疾患(CVDまたは脳卒中)、静脈血栓塞栓性疾患(VTD、深部静脈血栓症および肺塞栓症を含む)、表在性血栓性静脈炎または血栓形成傾向。
【0021】
特に、好ましくは55歳を超える、より好ましくは60歳を超える、更により好ましくは65歳を超える閉経後女性は、エストロゲン療法と関連する心血管疾患に罹患している可能性が高い母集団を構成し、本発明によるエストリオール吸収を自己制御する処方物による治療から恩恵を受け得る。
【0022】
他方、静脈血栓塞栓性病変(たとえば、深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症、表在性血栓性静脈炎または血栓形成傾向)、冠動脈もしくは脳血管疾患(心筋梗塞または脳卒中など)、または前兆を伴う片頭痛の既往歴がある女性もまた、本発明によるエストリオール吸収を自己制御する処方物による治療から恩恵を受け得る。
【0023】
「エストリオール(の)吸収」について言及する際には、エストリオールの血漿中への吸収を意味するものと明確に理解される。
【0024】
本発明の一つの実施態様は、心血管病変に罹患している可能性が高い女性における泌尿生殖器萎縮の予防および/または治療における、前記エストリオール吸収を自己制御する処方物の使用に関する。
【0025】
また、本発明によるエストリオール吸収を自己制御する処方物を使用して、心血管疾患に罹患している可能性が高い女性において泌尿生殖器萎縮を予防および/または治療する方法に関する。
【0026】
好ましい実施態様は、かなり前に閉経した閉経後女性(年配の女性)における前記処方物の使用に関する。特定の実施態様において、前記女性は、治療開始時に、閉経してから少なくとも5年、好ましくは10年、より好ましくは15年、更により好ましくは20年以上経過している。
【0027】
別の実施態様は、心血管病変に罹患している、または罹患したことがある女性における泌尿生殖器萎縮の予防および/または治療に際する、前記エストリオール吸収を自己制御する処方物の使用に関する。
【0028】
また、本発明によるエストリオール吸収を自己制御する処方物を使用して、心血管疾患に罹患している、または罹患したことがある女性において泌尿生殖器萎縮を予防および/または治療する方法に関する。
【0029】
好ましい実施態様は、冠動脈疾患、脳卒中、深部静脈血栓症、肺塞栓症、表在性血栓性静脈炎、血栓形成傾向および/または前兆を伴う重症の片頭痛に罹患している、または罹患したことがある女性、好ましくは閉経後女性における、前記処方物の使用に関する。
【0030】
別の実施態様はまた、エストロゲン療法に関連する全身レベルでの心血管疾患に罹患する危険性を予防するための方法であって、エストリオールの吸収を自己制御する能力を有するエストリオール処方物を膣内投与することを含んでなる方法に関する。
【0031】
前述のように、本発明による治療方法において有用な医薬処方物は、エストリオール吸収の自己制御系を形成するものである。本発明において、エストリオールの吸収を自己制御する能力を有する処方物は、膣粘膜の萎縮時はホルモンの吸収が低く(エストリオール血漿ピークが150pg/ml未満、好ましくは125pg/ml未満)、エストリオールの局所作用によって萎縮が回復するとほんのわずかな吸収(閉経後女性の基準生理学的値に近い血漿エストリオールピークで示される)を与えるものである。
【0032】
特に、医薬処方物は、膣内投与により、1〜4週間、より特定的には2〜3週間、1日1回反復投与した後、および投与を継続する場合にはこの期間の後、50pg/ml未満、好ましくは30pg/ml未満、より好ましくは25pg/ml未満、更により好ましくは20pg/ml以下の血漿エストリオールピークを付える任意のものであり得る。
【0033】
好ましい実施態様によれば、本発明による医薬処方物は、膣萎縮が回復してから数日間、毎日反復投与された後に、エストリオールへの全身曝露を有意に低減する(時間の関数としての血漿エストリオール濃度のAUCを用いて数値化)ことが可能な任意のものであり得る。特に、治療開始時、より特定的には治療第1日目には、1000pg/ml×h未満、好ましくは750pg/ml×h未満、より好ましくは600pg/ml×h未満のAUCを付与し、1〜4週間、より特定的には2〜3週間、1日1回反復投与した後、および投与を継続する場合にはこの期間の後には、750pg/ml×h未満、好ましくは500pg/ml×h未満、より好ましくは300pg/ml×h未満、更により好ましくは250pg/ml×h未満のAUCを付える任意のものである。
【0034】
特に好ましい態様において、本発明による医薬処方物は、泌尿生殖器萎縮が回復すると、全身曝露をごく僅かにすることができる任意のものであり得る。具体的には、1〜4週間、好ましくは2〜3週間、1日1回反復投与した後、および投与を継続する場合にはこの期間の後に、150pg/ml×h以下のAUCを付える任意のものである。
【0035】
医薬処方物は、例えば、固体状(ペッサリー、錠剤など)、半固体状(ゲル、クリームなど)、液状または泡状であり得る。また、医薬処方物は、当業者に知られている賦形剤のいずれかを含有し得る。
【0036】
好ましい態様によれば、本発明による医薬組成物は、半固体状処方物、たとえばゲル、クリームゲルまたはクリームである。
【0037】
好ましい態様において、当該医薬組成物は、少なくとも1つの生体接着性ポリマー(ゲル化剤および/または増粘剤)と、0.5mg/日未満の投与を許容するような量のエストリオールとを含有する粘膜接着性ゲル、クリームゲルまたはクリームである。
【0038】
より好ましい態様において、本発明による粘膜接着性処方物は、少なくとも二つの生体接着性ポリマーと、0.3mg/日未満、好ましくは0.1mg/日未満、更により好ましくは0.07〜0.002mg/日の投与を可能にするような量のエストリオールとを含有する。たとえば、この処方物は、その0.03重量%以下、好ましくは0.01重量%以下、より好ましくは0.007〜0.0002重量%、更により好ましくは0.005〜0.001重量%の量でエストリオールを含有し得る。
【0039】
本発明による処方物に有用な生体接着性ポリマーは、セルロースポリマー、天然ボム、アルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレン、アクリルホモポリマーまたはコポリマー、およびこれらの混合物から選択される。
【0040】
セルロースポリマーは、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)からなる群から選択することができる。天然ゴムは、たとえば、グアーガム、カラヤゴム、キサンタンガムおよびビーガムからなる群から選択することができる。アクリルポリマーは、好ましくは、ジビニルグリコールで架橋されたアクリル酸型のポリマー(商標Noveon AA−1 ポリカルボフィルとして市販されている)およびカルボマー型ポリマーと呼ばれるアリルスクロースまたはアリルペンタエリスリトールで架橋されたアクリル酸から得られるポリマー(商標Carbopolとして市販されている)から選択される。
【0041】
カルボマーとは、Carbopolポリマーとして市販されている様々な種類の高分子架橋アクリル酸系ポリマーを規定するために、米国薬局方−医薬品集(the United States Pharmacopeia-National Formulary)(USP−NF)、米国一般名称審議会(United States Adopted Names Council)(USAN)および欧州薬局方を含む多数の機関によって採用されている一般名称である。米国特許第2,798,053号、4,267,103号、5,349,030号、4,996,274号、4,509,949号、5,373,044号は、Carbopol(商標)型を含むこれらのポリアクリル酸ポリマーを記載しており、これらの文献は参照することによって本明細書の開示の一部とされる。「医薬賦形剤ハンドブック(Handbook of Pharmaceutical Excipients)」(2006年)も、「カルボマー」という表題のもと、Carbopol(商標)型ポリマーを記載しており、この研究論文もまた参照することによって本明細書に援用する。
【0042】
カルボマー型ポリマーおよびPolycarbophilは、架橋プロセスによって製造される。架橋度および製造条件に応じて、様々なグレードのCarbopolが入手可能である。Carbopol(商標)934 Pは、アリルスクロースで架橋され、溶媒ベンゼン中で重合される。Carbopol5984 EPは、アリルスクロースで架橋され、酢酸エチルおよびシクロヘキサン中で重合される。Carbopol(商標)71G、971 P、974 Pは、アリルペンタエリスリトールで架橋され、酢酸エチル中で重合される。Carbopol(商標)980および981は、アリルペンタエリスリトールで架橋され、酢酸エチルおよびシクロヘキサンの共溶媒混合物中で重合される。ポリカルボフィルは、ジビニルグリコール中で架橋され、溶媒ベンゼンまたは酢酸エチル中で重合される。酢酸エチル中で作製されたすべてのポリマーは、1〜3%水酸化カリウムで中和される。
【0043】
Carbopol(商標)971 PおよびCarbopol(商標)974 Pは、同様の条件下で同一の方法によって製造されるが、それらの差異は、Carbopol(商標971 P(USP29/NF24カルボマーホモポリマーA型)の架橋剤の量がCarbopol(商標)974 P(USP29/NF24 カルボマーホモポリマータイプB)よりもわずかに少ないということである。結果として、Carbopol(商標)971 P NFは、4000〜11000cPの粘度を有する(20rpm、25℃、0.5重量%の粘液(pH7.3〜78に中和)中、ブルックフィールドRTV粘度計で測定)が、Carbopol(商標)974 P NFは、29400〜39400cPの粘度を有する(20rpm、25℃、0.5重量%の粘液(pH7.3〜7.8に中和)中、ブルックフィールドRTV粘度計で測定)。同様の理由により、Carbopol(商標)981 NFは、4,000〜10,000cPの粘度を有する(20rpm、25℃、0.5重量%の粘液(pH7.3〜78に中和)中、ブルックフィールドRTV粘度計で測定)が、Carbopol(商標)980 NFは、40,000〜60,000cPの粘度を有する(20rpm、25℃、0.5重量%の粘液(pH7.3〜7.8に中和)中、ブルックフィールドRTV粘度計で測定)。
【0044】
更により好ましい態様において、本発明による方法で使用される粘膜接着性処方物は、ペンタエリスリトールのアリルエーテルで架橋されたアクリル酸のポリマーから選択される少なくとも一つのカルボマー型ポリマーと、ジビニルグリコールで架橋した少なくとも一つのポリアクリル酸と、0.1mg/日以下の投与を可能とするような量のエストリオールとを含有する。
【0045】
カルボマー型ポリマーは、好ましくは、その合成に溶媒としてベンゼンを使用する必要がないもの、たとえば、Carbopol(商標)71G NF、Carbopol(商標)971P NF、Carbopol(商標)974P NF、Carbopol(商標)980 NF、Carbopol(商標)981 NFおよびCarbopol(商標)5984 EPから選択される。より好ましくは、カルボマー型ポリマーは、酢酸エチル中または酢酸エチルとシクロヘキサンとの混合物中で重合されるものから選択される。更により好ましくは、カルボマー型ポリマーは、酢酸エチル中または酢酸エチルとシクロヘキサンとの混合物中で重合され、かつ、4,000〜11,000cPの粘度を有するものから選択される。
【0046】
特に好ましい態様において、処方物は、少なくとも2つの生体接着性ポリマー、(一方はCarbopol(商標)971P NFおよびCarbopol(商標)981 NFから選択されるカルボマー型ホモポリマーであり、他方はNoveon(商標)AA−1 ポリカルボフィルである)と、当該処方物の0.03重量%以下の量のエストリオールとを含有する。
【0047】
より好ましい実施態様では、処方物は、少なくともNoveon(商標)AA−1 ポリカルボフィルおよびCarbopol(商標)971P NFと、当該処方物の0.03重量%以下の量のエストリオールを含有する。
【0048】
各ポリマーは、膣内投与に適する物理化学的特性および感覚刺激特性を処方物に付えるのに必要な量で配合される。アクリルポリマーの場合、その量は、処方物の0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜2重量%、より好ましくは0.25〜1.5重量%である。
【0049】
処方物は更に、保湿剤、湿潤剤、可溶化剤、乳化剤、防腐剤、脂肪性または親油性物質などの他の医薬的に許容される賦形剤を、当業者に既知の量で含有し得る。
【0050】
前記処方物は、当業者に既知の方法で調製可能である。
【0051】
本発明による方法において用いられる処方物は、好ましくは、膣表面全体を覆う層を形成し、効果的かつ安全な投与計画を得るのに十分な量で投与される。たとえば、半固体状処方物の場合、通常は1〜5グラムである。
【0052】
本発明による方法において使用される半固体状処方物を投与するために使用することができる装置は、当該技術分野において既知の1回投与または単回投与アプリケーターのいずれか、例えば、プランジャーまたはベローズを備えたアプリケーターである。
【0053】
本発明による方法を用いて治療される患者に投与されるべきエストリオールの投与量は、0.5mg/日未満、好ましくは0.3mg/日未満、より好ましくは0.1mg/日未満である。
【0054】
本発明の特定実施態様において、エストリオールは、心血管病変に罹患する可能性が高い女性、好ましくは、かなり前に閉経した閉経後女性において、エストロゲン欠乏に起因する泌尿生殖器萎縮を予防および/または治療するために、0.002〜0.07mg/日(2〜70μg/日)、好ましくは0.002〜0.05mg/日(2〜50μg/日)、より好ましくは0.01〜0.05mg/日(10〜50μg/日)、特に好ましくは0.02〜0.05mg/日(20〜50μg/日)の投与量で投与される。
【0055】
別の特定の態様において、エストリオールは、心血管病変に罹患したことがある、または罹患している女性、好ましくは、冠動脈疾患、脳血管障害および静脈血栓塞栓性疾患に罹患したことがある、または罹患している女性において、エストロゲン欠乏に起因する泌尿生殖器萎縮を治療するために、0.002〜0.07mg/日(2〜70μg/日)、好ましくは0.002〜0.05mg/日(2〜50μg/日)、より好ましくは0.01〜0.05mg/日(10〜50μg/日)、特に好ましくは0.02〜0.05mg/日(20〜50μg/日)の投与量で投与される。
【0056】
本発明による方法において使用される処方物の高い安全性を考慮すると、膣萎縮の治療および/または予防を、心血管疾患の治療と同時に行うことができる。
【0057】
泌尿生殖器移植の治療および/または予防の期間ならびに本発明による処方物の投与計画は、患者の状態、治療に対する応答および併用治療に左右されるであろう。例えば、1日に0.002〜0.07mg、好ましくは0.01〜0.05mgの投与量を2または3週間投与し、これに続いて0.002〜0.07mg、好ましくは0.01〜0.05mgの投与量を週に2回、膣粘膜の栄養状態を維持するのに必要な期間、治療を中断することなく投与する。あるいは、1日に0.002〜0.07mg、好ましくは0.01〜0.05mgの投与量を2または3週間投与し、これに続いて、0.002〜0.07mg、好ましくは0.01〜0.05mgの投与量を週に2回、数週間、例えば6〜10週間投与し、症状が再び現れるまで治療を中断する。あるいは、本発明による方法で使用される処方物の高い安全性を考慮すると、毎日または週に2回、0.002〜0.07mg、好ましくは0.01〜0.05mgの投与量で、3週間よりも長い期間、または10週間よりも長い期間、その投与を続ける。
【0058】
本発明の実施例を以下に記載する。いずれの場合も、特許請求の範囲の解釈を制限するものと考えるべきではない。
【0059】
試験
閉経後の女性における、市販のエストリオール処方物(Ovestinon(商標)クリーム、オルガノン(Organon))と本発明の2つのエストリオール処方物との比較薬物動態および効能
【0060】
説明
分析した処方物は、以下の組成を有するエストリオールT1(0.002% ITFE)およびT2(0.005% ITFE)をベースとする2つの膣用ゲルであった。
【0061】
【表1】

【0062】
これらの処方物を、エストリオールを含まない偽薬処方物および市販の処方物(Ovestinon(商標)クリーム、0.1%エストリオール含有)と比較した。
【0063】
膣萎縮を伴う70名の閉経後女性が試験に参加した。これらの女性患者を無作為に4つの群に分け、3つの群をそれぞれ20名、1つの群を10名とした。
【0064】
これらの女性は、連続21日間、毎日治療を受けた。膣内経路により1日に1gのゲルをB、CおよびD群の各患者に投与し、膣内経路により1日に0.5gのクリームをA群の各患者に投与した。
A群:Ovestinon(参照「R」)で治療 (n=20)
B群:0.005% ITFEで治療 (n=20)
C群:0.002% ITFEで治療 (n=20)
D群:0% ITFE(偽薬「P」)で治療 (n=10)
【0065】
積極的治療を受けていた各群からの12名の患者により形成された女性42名のサブグループ(n=12 A群、n=12 B群、n=12 C群)において薬物動態試験を行った。
【0066】
治療開始前日、患者に婦人科的評価および子宮頸部−膣細胞診を受けさせた。
【0067】
治療1日目、割り当てられた群に対応する処方物を患者全員に膣内投与し、0(投与前)、0.5、1、2、3、4、6、8、12および24時間(投与後)での血液サンプルのみを薬物動態試験の42名のボランティアから採取した。
【0068】
2日目、患者全員に対する投与を繰り返し、42名のボランティアから血液のみを採取した。
【0069】
治療3〜20日目、対応する処方物を、患者全員に毎日膣内投与した。7〜14日目、投与直前の主観的効果および耐容性を評価した。
【0070】
21日目、患者全員が治療の最終投与を受け、0(投与前)、0.5、1、2、3、4、6、8、12および24時間(投与後)での血液サンプルのみを薬物動態試験の42名のボランティアから採取した。投与から12時間後、局所耐容性を評価した。
【0071】
22日目、患者全員に婦人科的評価および子宮頸部−膣細胞診を受けさせ、前述の時間での血液サンプルのみを42名のボランティアから採取した。
【0072】
膣萎縮に対する効果の評価
0日目および22日目の婦人科的評価中に採取した膣塗抹を、細胞診用水溶液(エタノール/メタノール EDTA)で固定し、パパニコロウ技術に従って染色することにより、細胞学的状態の定性的評価ならびに表面細胞(SC)、中間細胞(IC)および傍基底細胞(PC))のカウントを行った。これらは、その後の成熟度指数(MI)および成熟度(MV)の測定において使用されるものである。
【0073】
成熟度(MV)は、成熟度指数(MI)から以下のように計算される=0.2×傍基底細胞の%+0.6×中間細胞の%+1.0×表面細胞の%。
【0074】
定性的および定量的評価(MIおよびMV)のデータを、表I、IIおよびIIIに示す。
【0075】
表I 0日目(基準レベル)および22日目(処方物T1、T2、Rまたは偽薬の投与後)における細胞学的パターン度数
【表2】

【0076】
表II 処方物T1、T2、RおよびP投与後の、0日目および22日目における表面細胞(SC)、中間細胞(IC)および傍基底細胞(PC)のカウント差に基づく成熟度指数(MI)ならびに基準レベルとの差(ΔSC、ΔICおよびΔPC)
【表3】

【0077】
表III 処方物T1、T2、RおよびP投与後の、0日目および22日目における成熟度(MV)ならびに基準レベルとの差(ΔMV)
【表4】

【0078】
故に、本発明の治療方法は、膣萎縮を回復させる上で効果的であると結論付けることができる。
【0079】
血漿中エストリオールレベルの評価
42名のボランティア患者から、0、1、21および22日目に、0(投与前)、0.5、1、2、3、4、6、8、12および24時間(投与後)で採取した血液サンプルにおいて、血漿中エストリオール濃度を液体クロマトグラフィ/質量分析法(LC−MS/MS)によって測定した。
【0080】
治療1日目および21日目に得られた血漿中濃度を、表IVおよびVIならびにグラフ1に示す。
【0081】
これらの値から算出した薬物動態パラメーターを表VおよびVIIに示す。
【0082】
表IV 処方物T1、T2およびRの単回投与後の血漿中エストリオールレベル(1日目)
【表5】

【0083】
表V 処方物T1、T2およびRの1日1回投与後のエストリオールの薬物動態パラメーター(±SD)(1日目)
【表6】

【0084】
表VI 処方物T1、T2およびRの毎日投与後の血漿中エストリオールレベル(21日目)
【表7】

BLQL=定量化の下限に満たない(5pg/mL)
【0085】
表VII 処方物T1、T2およびRの毎日投与後のエストリオールの薬物動態パラメーター(±SD)(21日目)
【表8】

【0086】
故に、反復投与後のエストリオールへの全身曝露はごく僅かである(極めて低い)ため、本発明による処方物の安全性プロファイルは非常に好ましいものであると結論付けることができる。加えて、全身曝露は、参照製品を投与した後に生じるものよりも著しく低い。
【0087】
更に、エストリオールへの全身曝露は著しく低いが、本発明の処方物は、0日目と比較して22日目の成熟度を同様に増大させる。これは、膣粘膜における参照製品の効果と同様の効果を示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
心血管病変に罹患している可能性が高い、または心血管病変に罹患している、もしくは罹患したことがある女性における泌尿生殖器萎縮の予防および/または治療のための、エストリオールの吸収を自己制御する能力を有する膣内投与用医薬処方物の調製における、エストリオールの使用。
【請求項2】
前記医薬処方物が、1〜4週間、1日1回の反復投与後に、時間の関数として、500pg/ml×h未満の血漿中エストリオール濃度の曲線下面積を与えるものである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記医薬処方物が、300pg/ml×h未満の曲線下面積を与えるものである、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記医薬処方物が、250pg/ml×h未満の曲線下面積を与えるものである、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記医薬処方物が、2〜3週間、1日1回の反復投与後、150pg/ml×h以下の曲線下面積を与えるものである、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記医薬処方物が、1〜4週間、1日1回の反復投与後、50pg/ml未満の血漿中エストリオールレベルを与えるものである、請求項1に記載の使用。
【請求項7】
前記医薬処方物が、2〜3週間、1日1回の反復投与後、25pg/ml未満の血漿中エストリオールレベルを与えるものである、請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記医薬処方物が、20pg/ml×h以下の血漿中エストリオールレベルを与えるものである、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
膣上皮が萎縮しているときはエストリオールの吸収が低く、前記処方物の反復投与によって膣萎縮が回復するとエストリオール吸収がわずかになる、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
血漿中エストリオール濃度−時間曲線下面積が、膣上皮が萎縮しているときは1000pg/ml×h未満であり、膣萎縮が回復すると500pg/ml×h未満となる、請求項9に記載のエストリオールの使用。
【請求項11】
血漿中エストリオール濃度−時間曲線下面積が、膣上皮が萎縮しているときは750pg/ml×h未満であり、膣萎縮が回復すると250pg/ml×h未満である、請求項10に記載のエストリオールの使用。
【請求項12】
治療開始から2〜10日、特に2〜7日、とりわけ2〜5日後で膣萎縮が回復するものである、請求項9〜11のいずれか一項に記載の使用。
【請求項13】
前記心血管病変に罹患している可能性が高い女性が、55歳よりも高齢の閉経後女性および/または冠動脈疾患、脳卒中、深部静脈血栓症、肺塞栓症、表在性血栓性静脈炎、血栓形成傾向および/または前兆を伴う重症の片頭痛の家族歴がある女性である、請求項1〜12のいずれか一項に記載のエストリオールの使用。
【請求項14】
前記女性が、冠動脈疾患、脳卒中、深部静脈血栓症、肺塞栓症、表在性血栓性静脈炎、血栓形成傾向および/または前兆を伴う重症の片頭痛に罹患している、または罹患したことがある女性である、請求項1〜12のいずれか一項に記載のエストリオールの使用。
【請求項15】
前記医薬処方物が、0.3mg/日以下の量のエストリオール投与を可能にするものである、請求項1〜19のいずれか一項に記載の使用。
【請求項16】
前記エストリオール投与量が、0.1mg/日以下である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記エストリオール投与量が0.002〜0.07mg/日である、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記エストリオール投与量が0.01〜0.05mg/日である、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記医薬処方物が、少なくとも1つの生体接着性ポリマーを含有する粘膜接着性ゲル、クリームゲルまたはクリームである、請求項1〜18のいずれか一項に記載の使用。
【請求項20】
前記生体接着性ポリマーが、セルロースポリマー、天然ゴム、アルギン酸ナトリウム、ポリオキシエチレン、アクリルポリマーおよびこれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
前記生体接着性ポリマーが、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)からなる群から選択されるものである、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記生体接着性ポリマーが、ジビニルグリコールで架橋したアクリル酸型ポリマー、およびアリルスクロースまたはアリルペンタエリスリトールで架橋したアクリル酸由来のポリマーからなる群から選択されるものである、請求項20に記載の使用。
【請求項23】
前記医薬処方物が、ジビニルグリコールで架橋した少なくとも一つのポリアクリル酸、およびペンタエリスリトールのアリルエーテルで架橋したアクリル酸の少なくとも一つのポリマーを含有するものである、請求項19、20または22に記載の使用。
【請求項24】
前記ペンタエリスリトールのアリルエーテルで架橋したアクリル酸が、酢酸エチル中または酢酸エチルとシクロヘキサンとの混合物中で重合されたものである、請求項23に記載の使用。
【請求項25】
前記ペンタエリスリトールのアリルエーテルで架橋され、かつ酢酸エチル中または酢酸エチルとシクロヘキサンとの混合物中で重合されたアクリル酸が、4,000〜11,000cPの粘度を有する、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
前記ジビニルグリコールで架橋したアクリルポリマーおよび/または前記スクロースのアリルエーテルもしくはペンタエリスリトールのアリルエーテルで架橋したアクリル酸由来のポリマーが、それぞれ、前記処方物の0.05〜5重量%、好ましくは0.1〜2重量%、より好ましくは0.25〜1.5重量%である、請求項22〜25のいずれか一項に記載の使用。
【請求項27】
心血管病変に罹患している可能性が高い、または心血管病変に罹患しているもしくは罹患したことがある女性における、泌尿生殖器萎縮の予防および/または治療方法であって、エストリオールの吸収を自己制御する能力を有する医薬エストリオール処方物の膣内投与を含んでなる方法。

【図1】
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【公表番号】特表2012−512818(P2012−512818A)
【公表日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541240(P2011−541240)
【出願日】平成21年8月7日(2009.8.7)
【国際出願番号】PCT/EP2009/060304
【国際公開番号】WO2010/069621
【国際公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【出願人】(509344881)イタルファルマコ、ソシエダッド、アノニマ (3)
【氏名又は名称原語表記】ITALFARMACO, S.A.
【Fターム(参考)】