説明

心身状態回復促進装置およびこれを用いた心身状態回復システム

【課題】対象人物の作業を邪魔することなく、対象人物の心身状態が悪化して心身状態を回復させる対処が必要である旨を対象人物に知らせることができる心身状態回復促進装置およびこれを用いた心身状態回復システムを提供する。
【解決手段】心身状態回復システムは、対象人物の心身状態を回復させる心身状態回復促進装置1と、対象人物に刺激を与える刺激機器3とを備える。心身状態回復促進装置1において、検出部4は、心身情報を非拘束で継続して検出する。特徴抽出部52は、心身情報から特徴量を抽出する。判定部53は、特徴量に対する条件に従って心身状態が悪化したか否かを判定する。決定部55は、心身状態が悪化したと判定された場合に、刺激機器3を用いて心身状態を回復するために刺激機器3の制御内容を示す対処方法を決定する。表示制御部54は、心身状態が悪化したと判定された場合に、対処方法の実行を促す情報を表示装置2に表示させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象人物に刺激を与える刺激機器を制御して対象人物の心身状態を回復させるための心身状態回復促進装置およびこれを用いた心身状態回復システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子機器の使用者の生体リズムを調整する装置が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載された装置は、電子機器の使用者の生体リズムを測定して評価し、評価結果に基づいて波長域445nm〜480nmの光の強度を制御して照射して生体リズムを調整する。
【0003】
なお、特許文献2〜4には、対象人物の呼吸状態を目標の状態に到達できるように誘導する手段が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−82263号公報
【特許文献2】特開2010−104455号公報
【特許文献3】特開2010−104456号公報
【特許文献4】特開2010−104457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の装置では、生体リズムの評価結果に基づいて自動的に光の強度を変えて照射するため、対象人物が何らかの作業をしている途中である場合に、対象人物の作業の邪魔になるという問題があった。
【0006】
すなわち、対象人物の心身状態が悪化したと判断して光の強度を変化させた場合、作業中の対象人物にとっては周囲の照度が急に変化することになり、対象人物の作業に対する集中度を下げたり、作業の進行を妨げたりすることになる。
【0007】
一方、対象人物の心身状態が悪化したと判断したのに、何の対応もしないのは、対象人物の心身状態をさらに悪化させ、対象人物の作業効率を下げてしまうことになる。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みて為され、本発明の目的は、対象人物の作業を邪魔することなく、対象人物の心身状態が悪化して心身状態を回復させる対処が必要である旨を対象人物に知らせることができる心身状態回復促進装置およびこれを用いた心身状態回復システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の心身状態回復促進装置は、対象人物に刺激を与える刺激機器を制御して前記対象人物の心身状態を回復させるための心身状態回復促進装置であって、前記心身状態に関連する心身情報を非拘束で継続して検出する検出部と、前記検出部で検出された前記心身情報から前記心身状態を特徴付ける特徴量を抽出する特徴抽出部と、前記特徴抽出部で抽出された前記特徴量に対する予め決められた条件に従って前記心身状態が悪化したか否かを判定する判定部と、前記心身状態が悪化したと前記判定部で判定された場合に、前記刺激機器を用いて前記心身状態を回復するために当該刺激機器の制御内容を示す対処方法を決定する決定部と、前記心身状態が悪化したと前記判定部で判定された場合に、前記対処方法の実行を促す情報を提示装置に提示させる提示制御部とを備えることを特徴とする。
【0010】
この心身状態回復促進装置において、前記対処方法の実行を開始するためのトリガを検出するトリガ検出部と、前記トリガ検出部で前記トリガが検出されると、前記対処方法の前記制御内容に従って前記刺激機器を制御する機器制御部とを備えることが好ましい。
【0011】
この心身状態回復促進装置において、前記特徴抽出部は、前記検出部で検出された前記心身情報から複数の前記特徴量を抽出し、前記判定部は、前記特徴抽出部で抽出された前記複数の特徴量の組み合わせを用いて前記心身状態が悪化したか否かを判定することが好ましい。
【0012】
この心身状態回復促進装置において、前記特徴抽出部は、前記対象人物の行動に関する特徴量、前記対象人物の表情に関する特徴量および前記対象人物の自律神経系に関する特徴量のうち少なくとも2つの特徴量を抽出することが好ましい。
【0013】
この心身状態回復促進装置において、前記決定部は、前記心身状態が悪化した場合に、前記対処方法の候補である複数の対処方法候補を設定する設定部と、前記複数の対処方法候補の中から1つを選択して前記対処方法に決定する選択部とを有することが好ましい。
【0014】
この心身状態回復促進装置において、前記刺激機器が前記対象人物に刺激を与えたことによる前記心身状態の回復効果を判定する効果判定部と、前記効果判定部の判定結果を記憶する記憶部とを備え、前記決定部は、前記記憶部に記憶されている前記判定結果を用いて前記対処方法を決定することが好ましい。
【0015】
この心身状態回復促進装置において、前記刺激機器が前記対象人物に刺激を与えたことによる前記心身状態の回復効果を判定する効果判定部を備え、前記提示制御部は、前記効果判定部の判定結果を前記提示装置に提示させることが好ましい。
【0016】
この心身状態回復促進装置において、前記決定部は、前記対象人物に応じて前記対処方法を決定することが好ましい。
【0017】
この心身状態回復促進装置において、前記機器制御部は、前記対象人物の呼吸のリズムを目標のリズムに誘導するように前記刺激機器を制御することが好ましい。
【0018】
本発明の心身状態回復システムは、前記心身状態回復促進装置と、前記対処方法に従って前記対象人物に刺激を与える刺激機器とを備えることを特徴とする。
【0019】
この心身状態回復システムにおいて、前記対象人物を個人認証する認証装置を備え、前記刺激機器は、前記検出部とは別空間に配置され、前記認証装置は、前記刺激機器が配置された空間の入口に設けられ、前記決定部は、前記認証装置で個人認証された前記対象人物に応じて、前記対処方法を決定することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、対象人物の心身状態に関連する心身情報を非拘束で継続して検出し、対象人物の心身状態が悪化した場合に対処方法の実行を促す情報を提示する。これにより、対象人物の作業を邪魔することなく、心身状態が悪化して心身状態を回復させる対処が必要である旨を対象人物に知らせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施形態1に係る心身状態回復システムの構成を示すブロック図である。
【図2】同上に係る心身状態回復システムにおいて対象人物の心身状態を説明する図である。
【図3】(a)は顔画像を示す図、(b)は顔画像に顔モデルをあてはめた図、(c)は特徴点を抽出するときの図である。
【図4】(a)は目元の画像を示す図、(b)は口元の画像を示す図である。
【図5】(a)は開眼時の画像を示す図、(b)は閉眼時の画像を示す図、(c)は瞬きの状況を示す図である。
【図6】実施形態1に係る心身状態回復システムの使用例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下の実施形態1〜3では、対象人物に刺激を与える刺激機器を制御して対象人物の心身状態を回復させるための心身状態回復促進装置およびこれを用いた心身状態回復システムについて説明する。
【0023】
(実施形態1)
実施形態1に係る心身状態回復システムは、図1に示すように、対象人物9(図6参照)の心身状態に関連する心身情報を用いて対象人物9の心身状態を判定する心身状態回復促進装置1を備えている。心身状態回復促進装置1は、心身情報から抽出した特徴量を用いて対象人物9の心身状態が悪化したか否かを判定する。さらに、心身状態回復システムは、心身状態に関する情報を表示する表示装置2と、対象人物9に刺激を与える複数の刺激機器3,3,3とを備えている。
【0024】
心身状態の判定に用いられる特徴量は、心身状態を特徴付ける値であり、対象人物9の行動に関する特徴量と、対象人物9の表情に関する特徴量と、対象人物9の自律神経系に関する特徴量との3種類に分類される。対象人物9の行動に関する特徴量としては、例えば、パーソナルコンピュータを用いた作業をしている場合のパーソナルコンピュータに対する作業量、体動の変化量または活動量などがある。対象人物9の表情に関する特徴量としては、例えば、瞬き回数・瞬き時間、特定部位の形状などがある。特徴量となる特定部位の形状としては、例えば口角の下がり(口角の位置)、目の開き具合(目の大きさ)、目尻の下がりまたはしわの程度(大きさ、位置または形状)などがある。対象人物9の自律神経系に関する特徴量としては、例えば、あくびの回数もしくはあくびのときの呼吸音・呼気成分、ため息の回数もしくはため息のときの呼吸音・呼気成分または末梢の体温などがある。他にも、心拍数、脈波数、心拍・脈波の高周波成分(HF)(副交感神経活動)、心電図R−R間隔変動係数(CV−RR)、鼻の表面温度、血圧または呼吸の状態などがある。
【0025】
対象人物9の心身状態は、例えば図2に示すように、リラックス状態、リフレッシュ状態、イライラ状態または退屈状態などである。リラックス状態とは、副交換神経が優位、さらには脳波におけるα波が発現する状態のうち中枢神経が非活性である状態をいう。リフレッシュ状態とは、脳波におけるα波(8〜13Hz)のうち速い成分(10〜13Hz)であるα波が発現し、中枢神経が活性である状態をいう。対象人物9の心身状態は、例えば快適感の度合い、覚醒感の度合い、疲労度の度合いまたは集中度などに応じて変化する。なお、対象人物9の心身状態は、簡単に良好状態と不調状態との2つの状態であってもよい。
【0026】
覚醒感の低下の例としては、対象人物9の行動に関する特徴量の場合、キータイピング量の低下、リターンキーなど同一キーの使用量の増加、マウスの動きの減少、または、対象人物9の動きの減少などがある。対象人物9の表情に関する特徴量の場合、長い瞬き時間、あくびの回数の増加、口の開きが大きくなること、または、目の開きが小さくなることなどがある。対象人物9の自律神経系に関する特徴量の場合、長い呼気時間、呼吸音の拡大、末梢の体温の上昇、対象人物9の表面温度の上昇、心拍数の減少、脈拍数の減少、HFの増加、鼻の表面温度の上昇、血圧の低下、または、呼吸が深くゆっくりになることなどがある。
【0027】
疲労感の増加の例としては、対象人物9の行動に関する特徴量の場合、作業場所からの長時間の離席、作業場所以外の場所に長時間いること、活動量の多寡、または、動きの増加などがある。対象人物9の表情に関する特徴量の場合、瞬き回数の増加、口の開きが大きくなること、口角が下がってくること、目の開きが小さくなること、クマの発生、または、眉間が狭くなることなどがある。対象人物9の自律神経系に関する特徴量の場合、ため息回数の増加、呼吸音の拡大、末梢の体温が低くなること、表面温度の低下、心拍数の増加、脈拍数の増加、HFの低下、鼻の表面温度の低下、血圧の上昇、または、呼吸が浅く速くなることなどがある。
【0028】
対象人物9の心身状態に関連する心身情報は、例えば、顔または特定部位(目または口など)の表面状態・体温、パーソナルコンピュータへの作業状態、活動量、体動、呼吸、心拍、呼吸音、位置情報、脈拍または血圧などである。
【0029】
図1に示す心身状態回復促進装置1は、検出部4と、処理装置5と、記憶部6と、操作部7とを備えている。心身状態回復促進装置1には、表示装置2および各刺激機器3が接続されている。
【0030】
検出部4は、心身情報を非拘束で継続して検出する。心身情報は、対象人物9(図6参照)の作業中に検出される。検出部4は、検出すべき心身情報に応じて適宜選択され、例えば、対象人物9の顔または特定部位を撮像する撮像装置などが用いられる。
【0031】
撮像装置は、例えばCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサまたはCMOS(ComplementaryMetal Oxide Semiconductor)イメージセンサなどを用いたエリアセンサカメラであり、対象人物9の顔または特定部位を撮像する。例えば撮像装置がパーソナルコンピュータに取り付けられた場合、撮像装置は、パーソナルコンピュータに向かって作業している対象人物9の顔または特定部位を非接触で撮像することができる。対象人物9の顔または特定部位が撮像された撮像画像の画像データは、撮像装置から処理装置5に出力される。
【0032】
検出部4としては、他にも、対象人物9の体動を検出する体動センサ、対象人物9の呼吸を検出する呼吸センサ、対象人物9の心拍を検出する心拍センサ、または、対象人物9の呼気成分を検出する呼気センサなどがある。体動センサとしては、例えば圧力センサ、または、ミリ波もしくはマイクロ波などを用いた検出器などがある。呼吸センサとしては、例えば圧力センサ、ミリ波、マイクロ波もしくはUWB(Ultra Wide Band)を用いた検出器、または、ひずみゲージなどがある。心拍センサとしては、例えば圧力センサ、または、ミリ波もしくはマイクロ波を用いた検出器などがある。
【0033】
さらに、検出部4としては、対象人物9の着座を検出する着座センサ、対象人物9の活動量を計測する活動量計、対象人物9の呼吸音を入力するマイクロホン、または、対象人物9によるパーソナルコンピュータへの入力作業を検出することができる入力装置などが用いられる。対象人物9の所在を検知する位置センサ、対象人物9の身体の一部の温度を計測する温度計測器、または、対象人物9の脈拍を計測する脈拍計などが検出器4として用いられることもある。さらに、対象人物9の身体の特定部位を熱画像として撮像し特定部位の表面温度を測定するサーモビュア、または、対象人物9の血圧を計測する血圧計などが検出部4として用いられることもある。
【0034】
これらの検出部4のうち、ミリ波、マイクロ波もしくはUWBを用いた検出器、撮像装置、マイクロホンおよび着座センサは、非接触で心身情報を検出することができる。パーソナルコンピュータへの入力作業を検出する入力装置も、入力作業自体は非接触ではないが、入力作業以外において対象人物9に接触することがないから、非接触で心身情報を検出することができる。
【0035】
処理装置5は、中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)およびメモリが搭載されたコンピュータを主構成要素とし、記憶部6に格納されているプログラムに従って動作する。これにより、処理装置5は、後述の情報取得部51と特徴抽出部52と判定部53と表示制御部54と決定部55と機器制御部56との各機能を実行することができる。なお、処理装置5は、全ての機能または一部の機能を中央処理装置とは別のマイクロプロセッサ(MPU:Micro Processing Unit)で実行してもよい。
【0036】
情報取得部51は、検出部4で検出された心身情報を検出部4から取得する。検出部4が撮像装置である場合、情報取得部51は、撮像装置から撮像画像を取得し、上記撮像画像から、対象人物9(図6参照)の顔部分に相当する顔画像を抽出する。
【0037】
特徴抽出部52は、情報取得部51で取得された心身情報から特徴量を抽出する。例えば、特徴抽出部52は、図3(b)に示すように顔画像(図3(a)参照)に顔モデルを照合し、図3(c)に示すように、例えば目、口または鼻など、顔画像における顔器官(特定部位)の特徴点を抽出する。この場合、特徴抽出部52は、例えばASM(Active Shape Model)、ACM(Active Contour Model)またはAAM(Active Appearance Model)などの特徴点抽出手法により、顔画像に顔モデルを照合し、顔画像の特徴点を抽出する。特徴点を抽出した特徴抽出部52は、抽出した特徴点を用いて特徴量を抽出する。具体的には、特徴抽出部52は、図4(a)に示す目元の画像を用いて、目尻の下がり具合を表わす角θ、または目の開き具合を表わす距離Lなどを特徴量として抽出する。また、特徴抽出部52は、図4(b)に示す口元の画像から特徴量(例えば上唇領域P1の画素数と下唇領域P2の画素数との比など)を抽出する。
【0038】
他の例としては、特徴抽出部52は、情報取得部51で取得された顔画像に対象人物9の属性に対応する顔モデルを照合して、対象人物9の目の領域を抽出する。その後、特徴抽出部52は、対象人物9の目の領域から特徴量として単位時間あたりの瞬き回数を抽出する。瞬き回数の抽出の際には、図5に示すように、顔の動画像を構成する各フレームに対して、垂直方向(顔の縦方向)に設けられた眼球上領域A1の濃淡値の平均値が用いられる。開眼時(図5(c)のA2)では、図5(a)に示すように黒目(瞳孔、虹彩)の割合が高いので、眼球上領域A1の濃淡値の平均値は小さくなる。一方、閉眼時(図5(c)のA3)では、図5(b)に示すように黒目より濃淡値が高いまぶたによって黒目が覆われて、黒目の割合が低くなるので、眼球上領域A1の濃淡値の平均値は大きくなる。これにより、特徴抽出部52は、1回あたりの瞬き時間T1を特徴量として抽出したり、瞬きの周期T2から単位時間あたりの瞬き回数を特徴量として抽出したりすることができる。図5(c)は、眼球上領域A1の濃淡値の平均値を時系列に示している。なお、通常の濃淡値は、色が白いほど大きな値になるが、図5(c)の濃淡値は、色が黒いほど大きな値になるように規格化されている。
【0039】
図1に示す判定部53は、特徴抽出部52で抽出された特徴量を指標式にあてはめて指標値を求める。指標値を求めた判定部53は、指標値と閾値とを比較して心身状態が悪化したか否かを判定する。閾値は、予め決められた値である。具体的には、判定部53は、快適感の度合いおよび覚醒感の度合いを指標値とし、現在の心身状態が図2のいずれの事象に属しているかを判定する。心身状態がイライラ状態または退屈状態である場合、判定部53は、心身状態が悪化したと判定する。上述した指標式および閾値は、心身状態の判定に用いられる条件であり、記憶部6に予め記憶されている。判定部53の判定結果は、表示制御部54および決定部55に出力されるとともに、記憶部6に記憶される。現在の心身状態に関する情報は、記憶部6に記憶される。
【0040】
なお、判定部53は、対象人物9の心身状態を自己組織化マップ(SOM:Self Organization Map)で数段階(例えば「良好」・「普通」・「悪化」の3段階)に仕分けることによって、心身状態が悪化したか否かを判定してもよい。自己組織化マップへの入力は、特徴量であってもよいし、特徴量から求められた指標値であってもよい。
【0041】
表示制御部54は、表示装置2の表示を制御する。具体的には、心身状態が悪化したと判定部53で判定された場合に、表示制御部54は、対象人物9の心身状態を回復するための対処方法の実行を促す情報(メッセージ)を表示装置2に提示させる。
【0042】
表示装置2は、例えば液晶ディスプレイまたは有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイなどであり、表示制御部54の指示に従って、各種情報を表示する。本実施形態の表示装置2としては、例えばパーソナルコンピュータ93のモニタ94(図6参照)を用いている。
【0043】
表示装置2は、心身状態が悪化したと判定部53で判定された場合に、表示制御部54からの制御信号に従って、対処方法の実行を促す情報を表示する。
【0044】
決定部55は、心身状態が悪化したと判定部53で判定された場合に、各刺激機器3を用いて対象人物9の心身状態を回復するための対処方法を決定する。対処方法には、刺激機器3の制御内容に関する情報が含まれている。対処方法は、導入モード、リラックスモード、リフレッシュモードの順に構成されている。リラックスモードは、対象人物9をリラックス状態に導くためのモードである。リフレッシュモードは、対象人物9をリフレッシュ状態に導くためのモードである。対処方法としては、例えば照明光の照度を上げたり、照明光の色温度を高めたりするような方法がある。
【0045】
機器制御部56は、例えばLAN(Local Area Network)などのネットワークによって各刺激機器3に接続され、各刺激機器3を制御する。
【0046】
刺激機器3は、対象人物9の五感の少なくとも1つに刺激を与えて対象人物9の心身状態を回復させるための機器である。刺激機器3の具体例としては、照明光の照度および色温度を変えることができる照明機器、さまざまなジャンルの映像を選択して提示する映像機器、さまざまなジャンルの音楽を選択して再生する音響機器、対象人物9に触覚刺激や揺動を与える機能チェアなどがある。刺激機器3の他の例としては、芳香剤を噴霧する芳香剤噴霧器、対象人物9の周囲の空調を制御する空調機器、対象人物9の周囲に高濃度酸素を供給する高濃度酸素供給機器、対象人物9の冷えを解消するための温熱機器、または血栓の発生を防止する振動機器などがある。なお、温熱機器は、対象人物9の作業場所のみを暖めるパネルヒータであれば、対象人物9が作業する作業場所に配置することができる。また、振動機器は、例えば対象人物9が作業する際に用いる椅子などに埋め込まれることによって、対象人物9が作業する作業場所に配置することができる。
【0047】
機器制御部56は、決定部55で決定された対処方法に従って、各刺激機器3が対象人物9に刺激を与えるように各刺激機器3を制御する。例えば、芳香剤噴霧器に、対象人物9のやる気を喚起させるような香りの芳香剤を噴霧させたり、音響機器に、明るい音楽を再生させたり、音量を上げたりさせる。
【0048】
また、機器制御部56は、対象人物9の呼吸のリズムを目標のリズムに誘導するように各刺激機器3を制御することもできる。なお、呼吸のリズムを目標のリズムに誘導するための動作は、特許文献2〜4に記載された内容と同様であるので、上記動作の詳細な説明については省略する。これにより、対象人物9の心身状態を短時間で効果的にリフレッシュ状態に回復させることができる。
【0049】
記憶部6は、検出部4で検出された心身情報を記憶しているともに、処理装置5の処理に必要な情報と、処理装置5の処理によって得られた情報とを記憶している。記憶部6には、例えば人種・性別・年代ごとに顔モデルが対応して記憶されている。顔モデルの候補としては、例えばASM、ACMまたはAAMなどがある。顔モデルは、複数の顔写真を用いて事前に学習された顔モデルである。学習時に用いる顔写真は、例えば世界中の大学、研究機関または企業などで管理されている顔認識用データベースなどから取得される。
【0050】
また、記憶部6は、処理装置5が処理を行うためのプログラムを格納している。つまり、記憶部6は、情報取得部51と特徴抽出部52と判定部53と表示制御部54と決定部55と機器制御部56との各機能を処理装置(コンピュータ)に実現させるためのプログラムを格納している。
【0051】
操作部7は、例えば複数の操作ボタンまたはタッチパネルなどであり、対象人物9が心身状態回復促進装置1に情報を入力する際に用いられる。操作部7に入力された情報は、操作部7から処理装置5に出力される。なお、操作部7は、他の例として、対象人物9が非接触で操作できるように、対象人物9と表示装置2との間の空間における対象人物9の指の空間位置を検出し、空間位置に応じて操作内容を判断するような構成であってもよい。
【0052】
ところで、本実施形態の心身状態回復システムは、対象人物9を個人認証する認証装置8をさらに備えている。
【0053】
認証装置8は、各刺激機器3が配置された休憩室92(図6参照)の入口に設けられ、休憩室92に入室しようとする対象人物9を個人認証する。本実施形態では、認証装置8による個人認証は、各刺激機器3による対処方法の実行を開始するためのトリガとなる。つまり、認証装置8は、対処方法の実行を開始するためのトリガを検出するトリガ検出部としての機能を有している。また、認証装置8で個人認証が行われた場合、休憩室92への入室履歴つまり各刺激機器3の使用履歴が記憶部6に記憶される。なお、トリガ検出部は、操作部7に設けられていてもよい。この場合、対象人物9による操作部7への操作が、対処方法の実行を開始するためのトリガとなる。
【0054】
機器制御部56は、認証装置8で個人認証された後に、対処方法に含まれている制御内容に従って各刺激機器3を制御する。刺激機器3は、機器制御部56による制御に従って、対象人物9に刺激を与える動作を開始する。
【0055】
また、処理装置5の決定部55は、認証装置8で個人認証された対象人物9に応じて対処方法を決定することができる。これにより、対象人物9の嗜好を対処方法に反映させることができるので、対象人物9の心身状態をより効果的に回復させることができる。
【0056】
ところで、心身状態回復促進装置1の処理装置5は、刺激機器3が対象人物9に刺激を与えたことによる心身状態の回復効果を判定する効果判定部の機能を実行することができる。
【0057】
効果判定部は、特徴抽出部52と判定部53とで構成されている。効果判定部は、刺激機器3による対処方法が実行された後に、検出部4で検出された心身情報から特徴量を抽出し、特徴量を用いて実行後の心身状態が実行前の心身状態よりもよくなったか否かを判定する。効果判定部の判定結果は、対象人物9ごとに対処方法に対応させて記憶部6に蓄積されていく。さらに、効果判定部は、操作部7を用いて対象人物9が入力した主観評価を用いて回復効果を判定することができる。
【0058】
表示制御部54は、表示装置2が効果判定部の判定結果を表示するように表示装置2を制御する。
【0059】
決定部55は、記憶部6に蓄積されている判定結果を用いて、対処方法を決定することができる。
【0060】
本実施形態の心身状態回復システムの使用例として、図6に示すように、心身状態回復促進装置1が作業室91に配置され、各刺激機器3が休憩室92に配置される例がある。この例では、心身状態回復促進装置1と各刺激機器3とが別の部屋に配置されている。表示装置2は、パーソナルコンピュータ93のモニタ94で兼用されている。対象人物9は、パーソナルコンピュータ93を用いてデスクワークを行っている。検出部4は、例えばWebカメラ41などの撮像装置であり、パーソナルコンピュータ93のモニタ94に取り付けられる。
【0061】
次に、本実施形態に係る心身状態回復システムの動作の一例について図1を用いて説明する。ここでは、対象人物9(図6参照)が撮像された撮像画像を用いて、対象人物9の瞬きの回数および瞬きの時間を特徴量として抽出する場合を一例として説明するが、上記以外の特徴量を抽出する場合も基本的な動作は同様である。
【0062】
まず、検出部4である撮像装置は、対象人物9の顔をリアルタイムで連続撮像し、顔の動画像を生成する。その後、処理装置5の特徴抽出部52が、動画像から対象人物9の単位時間当たりの瞬き回数および1回あたりの瞬き時間を特徴として抽出する。その後、判定部53が、瞬き回数および瞬き時間を用いて心身状態が悪化したか否かを判定する。心身状態が悪化した場合、表示制御部54は、対処方法の実行を促す情報を表示装置2に表示させる。
【0063】
その後、対象人物9が作業室91(図6参照)を離れて休憩室92(図6参照)の入口で認証装置8による入室認証を受けると、決定部55は、対象人物9に応じた対処方法を決定する。その後、各刺激機器3は、機器制御部56による制御によって、対処方法に応じて対象人物9に刺激を与える動作を開始する。
【0064】
各刺激機器3の動作が終了して対象人物9が作業室91に戻った後、処理装置5の効果判定部が対象人物9の心身状態の回復効果を判定し、表示制御部54による制御によって、表示装置2が効果判定部の判定結果を表示する。
【0065】
以上、本実施形態の心身状態回復システムは、対象人物9の心身状態に関連する心身情報を非拘束で継続して検出し、対象人物9の心身状態が悪化した場合に対処方法の実行を促す情報を表示する。これにより、対象人物9の作業を邪魔することなく、対象人物9の心身状態が悪化して心身状態を回復させる対処が必要である旨を対象人物9に知らせることができる。その結果、対象人物9の心身状態を回復させることができるので、作業効率が低い状態での作業が長時間続くことを抑制することができ、対象人物9の生産性を向上させたり、従業員満足度を向上させたりすることができる。対象人物9自身にとっても、日々の心身状態を継続してチェックすることができる。
【0066】
また、本実施形態の心身状態回復システムによれば、対象人物9を個人認証して対象人物9に応じて対処方法を決定することによって、個人の嗜好を対処方法に反映させることができるので、心身状態をより効果的に回復させることができる。
【0067】
さらに、本実施形態の心身状態回復システムによれば、対象人物9ごとに対処方法を決定するための個人認証を、各刺激機器3が設置された空間(休憩室92)への入室の際の個人認証で兼用することができる。これにより、対象人物9ごとに対処方法を変更するために個人認証する装置を別途設ける必要がない。
【0068】
また、本実施形態の心身状態回復システムでは、対処方法を実行した後の心身状態の回復効果を個人の嗜好データベースとして今後の対処方法の決定に反映させることができるとともに、心身状態の回復効果について対象人物9に知らせることができる。
【0069】
さらに、本実施形態の心身状態回復システムが設置された建物は、テナントとしての資産価値を向上させることができる。
【0070】
(実施形態2)
実施形態2に係る心身状態回復システムは、対象人物9の行動に関する特徴量、対象人物9の表情に関する特徴量および対象人物9の自律神経系に関する特徴量の3種類の特徴量を用いて心身状態を判定する点で、実施形態1に係る心身状態回復システムと相違する。なお、実施形態1の心身状態回復システムと同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0071】
本実施形態の心身状態回復促進装置1には、検出部4として、図示していないが第1の検出部と第2の検出部と第3の検出部とが設けられている。第1の検出部は、対象人物9の行動に関する特徴量の抽出に適した心身情報を検出する。第2の検出部は、対象人物9の表情に関する特徴量の抽出に適した心身情報を検出する。第3の検出部は、対象人物9の自律神経系に関する特徴量の抽出に適した心身情報を検出する。なお、実施形態1の検出部4と同様の機能については説明を省略する。
【0072】
本実施形態の特徴抽出部52は、第1の検出部で検出された心身情報から対象人物9の行動に関する特徴量を抽出し、第2の検出部で検出された心身情報から対象人物9の表情に関する特徴量を抽出し、第3の検出部で検出された心身情報から対象人物9の自律神経系に関する特徴量を抽出する。なお、実施形態1の特徴抽出部52と同様の機能については説明を省略する。
【0073】
本実施形態の判定部53は、特徴抽出部52で抽出された3種類の特徴量を組み合わせて心身状態が悪化したか否かを判定する。なお、実施形態1の判定部53と同様の機能については説明を省略する。
【0074】
以上、本実施形態の心身状態回復システムによれば、複数の特徴量を組み合わせて心身状態を判定することによって、1つの特徴量を用いて心身状態を判定する場合よりも判定精度を高めることができる。特に、本実施形態の心身状態回復システムでは、異なる種類の特徴量を組み合わせて心身状態を判定するから、同じ種類の特徴量を用いて心身状態を判定する場合よりも判定精度をさらに高めることができる。
【0075】
(実施形態3)
実施形態3に係る心身状態回復システムは、対象人物9が複数の対処方法候補の中から1つを選択することができる点で、実施形態2に係る心身状態回復システムと相違する。なお、実施形態2の心身状態回復システムと同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0076】
本実施形態の決定部55は、対処方法の候補である複数の対処方法候補を設定する設定部と、複数の対処方法候補の中から1つを選択する選択部との各機能を実行する。
【0077】
設定部は、心身状態が悪化した場合に、複数の対処方法候補を設定する。対象人物9は、操作部7を用いて、複数の対処方法候補の中から1つを選択することができる。
【0078】
選択部は、対象人物9による操作部7への操作に従って、複数の対処方法候補の中から1つを選択して対処方法に決定する。
【0079】
以上、本実施形態の心身状態回復システムによれば、対象人物9が複数の対処方法候補の中から1つを選択することができるので、対象人物9の嗜好を反映させることができる。
【0080】
なお、本実施形態の決定部55における設定部および選択部の各機能は、実施形態1の心身状態回復システムに適用してもよい。
【0081】
各実施形態の心身状態回復システムにおいて、対処方法の実行を促す情報を提示する提示装置は、上記情報を表示する表示装置2に限定されず、上記情報を音声出力する音声出力装置などであってもよい。
【0082】
各実施形態の心身状態回復システムの使用例は、心身状態回復促進装置1および複数の刺激機器3,3,3がオフィスに配置されている例に限定されない。心身状態回復促進装置1がオフィスに配置され、複数の刺激機器3,3,3が対象人物9の自宅に配置されている例であってもよい。また、心身状態回復促進装置1が自宅のリビングに配置され、複数の刺激機器3,3,3が寝室に配置されている例であってもよい。
【符号の説明】
【0083】
1 心身状態回復促進装置
2 表示装置(提示装置)
3 刺激機器
4 検出部
52 特徴抽出部
53 判定部
54 表示制御部(提示制御部)
55 決定部
56 機器制御部
6 記憶部
8 認証装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象人物に刺激を与える刺激機器を制御して前記対象人物の心身状態を回復させるための心身状態回復促進装置であって、
前記心身状態に関連する心身情報を非拘束で継続して検出する検出部と、
前記検出部で検出された前記心身情報から前記心身状態を特徴付ける特徴量を抽出する特徴抽出部と、
前記特徴抽出部で抽出された前記特徴量に対する予め決められた条件に従って前記心身状態が悪化したか否かを判定する判定部と、
前記心身状態が悪化したと前記判定部で判定された場合に、前記刺激機器を用いて前記心身状態を回復するために当該刺激機器の制御内容を示す対処方法を決定する決定部と、
前記心身状態が悪化したと前記判定部で判定された場合に、前記対処方法の実行を促す情報を提示装置に提示させる提示制御部と
を備えることを特徴とする心身状態回復促進装置。
【請求項2】
前記対処方法の実行を開始するためのトリガを検出するトリガ検出部と、
前記トリガ検出部で前記トリガが検出されると、前記対処方法の前記制御内容に従って前記刺激機器を制御する機器制御部と
を備えることを特徴とする請求項1記載の心身状態回復促進装置。
【請求項3】
前記特徴抽出部は、前記検出部で検出された前記心身情報から複数の前記特徴量を抽出し、
前記判定部は、前記特徴抽出部で抽出された前記複数の特徴量の組み合わせを用いて前記心身状態が悪化したか否かを判定する
ことを特徴とする請求項1または2記載の心身状態回復促進装置。
【請求項4】
前記特徴抽出部は、前記対象人物の行動に関する特徴量、前記対象人物の表情に関する特徴量および前記対象人物の自律神経系に関する特徴量のうち少なくとも2つの特徴量を抽出することを特徴とする請求項3記載の心身状態回復促進装置。
【請求項5】
前記決定部は、
前記心身状態が悪化した場合に、前記対処方法の候補である複数の対処方法候補を設定する設定部と、
前記複数の対処方法候補の中から1つを選択して前記対処方法に決定する選択部と
を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の心身状態回復促進装置。
【請求項6】
前記刺激機器が前記対象人物に刺激を与えたことによる前記心身状態の回復効果を判定する効果判定部と、
前記効果判定部の判定結果を記憶する記憶部とを備え、
前記決定部は、前記記憶部に記憶されている前記判定結果を用いて前記対処方法を決定する
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の心身状態回復促進装置。
【請求項7】
前記刺激機器が前記対象人物に刺激を与えたことによる前記心身状態の回復効果を判定する効果判定部を備え、
前記提示制御部は、前記効果判定部の判定結果を前記提示装置に提示させる
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の心身状態回復促進装置。
【請求項8】
前記決定部は、前記対象人物に応じて前記対処方法を決定することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の心身状態回復促進装置。
【請求項9】
前記機器制御部は、前記対象人物の呼吸のリズムを目標のリズムに誘導するように前記刺激機器を制御することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の心身状態回復促進装置。
【請求項10】
前記請求項1〜9のいずれか1項に記載の心身状態回復促進装置と、
前記対処方法に従って前記対象人物に刺激を与える刺激機器と
を備えることを特徴とする心身状態回復システム。
【請求項11】
前記対象人物を個人認証する認証装置を備え、
前記刺激機器は、前記検出部とは別空間に配置され、
前記認証装置は、前記刺激機器が配置された空間の入口に設けられ、
前記決定部は、前記認証装置で個人認証された前記対象人物に応じて、前記対処方法を決定する
ことを特徴とする請求項10記載の心身状態回復システム。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−223511(P2012−223511A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96289(P2011−96289)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)