心電図波形計測装置
【課題】体動下における車両の乗員の心電図波形を正確に計測することが可能な心電図波形計測装置を提供する。
【解決手段】車両の乗員の皮膚表面に直接接触する第1の電極2と、車両のシート11に取り付けられ、乗員の皮膚表面と衣服を介して接触する第2の電極と、第1の電極2により検出される電気信号と第2の電極により検出される電気信号とを処理して心電図波形を算出する心電図波形算出装置4とを備える。第2の電極は、乗員に接触する接触面積が互いに異なる2つの容量結合型電極30,31からなる。心電図波形算出装置4は、各容量結合型電極30,31により検出された電気信号に基づき算出された2つの心電図波形を用いて、該心電図波形に混入した乗員の体動に起因する体動ノイズを除去し、体動ノイズを除去した乗員の心電図波形を特定する。
【解決手段】車両の乗員の皮膚表面に直接接触する第1の電極2と、車両のシート11に取り付けられ、乗員の皮膚表面と衣服を介して接触する第2の電極と、第1の電極2により検出される電気信号と第2の電極により検出される電気信号とを処理して心電図波形を算出する心電図波形算出装置4とを備える。第2の電極は、乗員に接触する接触面積が互いに異なる2つの容量結合型電極30,31からなる。心電図波形算出装置4は、各容量結合型電極30,31により検出された電気信号に基づき算出された2つの心電図波形を用いて、該心電図波形に混入した乗員の体動に起因する体動ノイズを除去し、体動ノイズを除去した乗員の心電図波形を特定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の乗員の心電図波形を計測する心電図波形計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日常生活において、自動車は必要不可欠な移動手段の一つとなっている。しかし、自動車の普及に伴い、自動車による交通事故が増加している。特に、近年、ドライバーの居眠り運転などによる交通事故の増加が顕著となっている。そこで、ドライバーの居眠り運転による交通事故を防止するために、運転中のドライバーの生体情報をセンサにより検出し、この検出した生体情報を用いてドライバーの覚醒度を推定することで、運転中におけるドライバーの覚醒状態を監視することが試みられている。
【0003】
例えば、ドライバーの身体電位を測定する電極を用いてドライバーの心電図波形を計測し、計測された心電図波形を分析してドライバーの覚醒度を推定することが従来から行われている。そのため、ドライバーの心電図波形を車両において計測する技術について研究が進められている。
【0004】
心電図波形を車両において計測する装置の一例として、例えば車両のステアリングホイールに電極を形成してドライバーの手の電位を検出するとともに、車両のシートに容量結合型電極を取り付けてドライバーの臀部の電位を検出し、これらの電位差から心電図波形を計測する心電図計測装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の心電図波形計測装置によれば、運転中のドライバーの心電図波形を、継続的にかつ正確に把握することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−46310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の心電図波形計測装置に対し、本発明者らがさらに検討を進めた結果、心電図波形を計測する際に、運転中のドライバーが動くと、このドライバーの体動に伴うノイズ(体動ノイズ)が計測される心電図波形に混入するおそれがあることがわかった。この体動ノイズの影響を心電図波形から除去することで、計測される心電図波形をより一層正確なものとすることができるため、上記特許文献1に記載の心電図波形計測装置は、さらに改良する余地がある。
【0007】
本発明は、上記した問題に着目してなされたもので、車両の乗員の心電図波形を、より正確に計測することが可能な心電図波形計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の前記目的は、車両の乗員の皮膚表面に直接接触する第1の電極と、車両のシートに取り付けられ、乗員の皮膚表面と衣服を介して接触する第2の電極と、前記第1の電極により検出される電気信号と前記第2の電極により検出される電気信号とを処理して心電図波形を算出する心電図波形算出手段とを備え、前記第2の電極は、表面積が互いに異なる2つの容量結合型電極からなり、前記心電図波形算出手段は、前記各容量結合型電極により検出された電気信号に基づき算出した2つの心電図波形を用いて、該心電図波形に混入した乗員の体動に起因する体動ノイズを除去し、体動ノイズを除去した乗員の心電図波形を特定する心電図波形計測装置により達成される。
【0009】
本発明の好ましい実施態様においては、前記各容量結合型電極は、導電糸または導電繊維糸を織り込んだ導電布により構成されていることを特徴としている。
【0010】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記各容量結合型電極のうち、相対的に表面積が小さい方の電極は表面積が大きい方の電極に囲まれるように配置されていることを特徴としている。
【0011】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記第1の電極は、ステアリングホイールに取り付けられることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の心電図波形計測装置によれば、運転中に車両の乗員が体動により動いても、車両の乗員の心電図波形を正確に計測することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る心電図波形計測装置の概略構成を示す図である。
【図2】第1の電極をステアリングホイールに取り付けた例の構成を示す図である。
【図3】車両のシートに第2の電極を取り付ける構成を例示する図である。
【図4】他の実施形態の第2の電極の構成を示す図である。
【図5】図1の回路図である。
【図6】安静座位状態において各電極により得られる原心電図波形の計測図である。
【図7】ドライバーの体動下において各電極により得られる原心電図波形の計測図である。
【図8】体動ノイズを除去したドライバーの心電図波形である。
【図9】アクティブ電極の構成を示す断面図である。
【図10】他の実施形態によって形成される仮想的な回路構成を示す図である。
【図11】アクティブ電極の他の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る心電図波形計測装置1の概略構成を示す。図示例の心電図波形計測装置1は、主要な構成として、導電性を有する第1の電極2および第2の電極3と、心電図波形算出装置4とを備える。なお、以下の説明において、心電図波形計測装置1は、車両のドライバーの心電図波形を計測する装置として説明するが、本発明に係る心電図波形計測装置はドライバー以外の他の乗員にも適用可能である。
【0015】
第1の電極2は、ドライバーの皮膚表面に直接接触して、ドライバーの身体電位を検出するための電極であり、例えばクロムメッキ樹脂により形成される。この第1の電極2は、図2に示すように、例えば車両のステアリングホイール10の外周面に取り付けられる。なお、これに限らず、シフトレバーなど、ドライバーが頻繁に触れる他の場所に第1の電極2を取り付けるようにしてもよい。また、ドライバー以外の乗員の心電図波形を計測する場合には、第1の電極2は、例えばセンターコンソール上部やドアの内側に設けられた操作部などに取り付けるのが好ましい。第1の電極2は、グランド端子12に接続されている。
【0016】
第2の電極3は、ドライバーの皮膚に直接接触されるものではなく、ドライバーの衣服を誘電体として用い、この誘電体としての衣服を挟んだ状態でドライバーの皮膚に接触される。この第2の電極3は、車両のシート11に取り付けられ、ドライバーの臀部との間で仮想的なコンデンサ32,33(図5に示す)を形成し、第2の電極3とドライバーの臀部との間の静電容量結合によって、ドライバーの身体電位を検出するための容量結合型電極として機能する。
【0017】
第2の電極3は、サイズの異なる2つの容量結合型電極からなり、表面積が相対的に小さく、ドライバーに接触する接触面積の小さい小型電極30と、表面積が相対的に大きく、ドライバーに接触する接触面積の大きい大型電極31とで構成されている。各電極30,31には、信号線32A,33Aが接続されており、ドライバーの身体電位の変動に応じて変動する容量結合型電極30,31の電位を心電図波形算出装置4に伝達している。
【0018】
図3は、車両のシート11に第2の電極3を取り付ける態様を例示した図である。第2の電極3は、例えば、図3(A)に示すように、シート11の表皮11Aとクッション11Bの間に挿入された板状電極34により構成されていてもよい。また、図3(B)に示すように、シート11の表皮11Aに編み込まれた金属ファイバーなどの網状電極35により構成されていてもよい。
【0019】
また、図4に示すように、導電性を有する導電糸または導電繊維糸を用いて織った導電布により、第2の電極3を構成するようにしてもよい。なお、導電糸とは、銅、銀、ステンレスなどの微細単線を繊維と撚り合わせて作った導電性を持つ糸のことをいい、また、導電繊維糸とは、ポリエステルなどの微細糸に銅・銀・金などのメッキを施し、他の糸と撚り合わせて繊維の糸としたもののことをいう。第2の電極3を可撓性のある導電布電極36により構成することにより、第2の電極3がドライバーの臀部と密着するようになる。
【0020】
図4に示す第2の電極3は、ほぼ同じ大きさ(表面積)を有する25個の導電布電極36により構成されており、本実施形態では、その中の21個の導電布電極36Bが電気的に接続されて大型電極31を形成しているとともに、残りの4個の導電布電極36Aが電気的に接続されて小型電極30を形成している。小型電極30は、大型電極31に囲まれるように配置されており、これにより、小型電極30と大型電極31とが密に近接し、詳細は後述するが、ドライバーの運転中の体動により、2つの電極30,31に与えられる影響が類似するようになっている。なお、小型電極30および大型電極31の配置は、これに限られるものではなく、例えば、両者が並列に並べられても構わない。また、小型電極30および大型電極31のサイズの大きさは、構成する導電布電極36A,36Bの数を変更することにより、適宜変更が可能である。
【0021】
図5は、図1の等価回路を示す回路図である。信号線32A,33Aには、抵抗40,40を介してグランド端子12,12がそれぞれ接続されている。これによって、ドライバーの身体電位を入力とした仮想的な回路が形成される。この回路構成は、ハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタとして機能する。
【0022】
心電図波形算出装置4は、ボルテージフォロワ42,42と、コンデンサ43,43と、増幅回路44,44と、マイクロコンピュータ45と、記憶装置46とを有する。なお、これらの構成は、オペアンプなどによる置換が可能である。
【0023】
各ボルテージフォロワ42の入力端子(+側)42Aには、信号線32A,33Aがそれぞれ接続されており、小型電極30および大型電極31の電位がそれぞれ電気信号として入力される。また、各ボルテージフォロワ42の入力端子(−側)42Bは、ボルテージフォロワ42の出力端子42Cからのフィードバックが入力される。各ボルテージフォロワ42は、上記構成によって、電流の入力を抑制しつつ、小型電極30および大型電極31からの電気信号を出力端子42Cに伝達することができるようになっている。
【0024】
各コンデンサ43は、抵抗41,41とともに、ハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタの機能を実現する。増幅回路44,44は、各コンデンサ43および抵抗41によって低周波成分がカットされた電気信号を増幅して、マイクロコンピュータ45に出力する。
【0025】
マイクロコンピュータ45は、各増幅回路44から入力された電気信号をそれぞれ処理することにより、心電図波形を算出する。ここで、ドライバーが運転中に安静座位状態にあるときには、算出される心電図波形の波形形状は、図6に示すように、ほぼ正確な形状のものとなる(なお、図6において、上段が、大型電極31による心電図波形、下段が、小型電極30による心電図波形、をそれぞれ示している)。これに対して、ドライバーの運転中のアクセルやブレーキ操作などに起因して、ドライバーの身体が運転中に動くと、このドライバーの体動により、運転者の皮膚(臀部)と第2の電極3との間の接触状態(生体−電極間の接触圧)が変動し、これが大きなノイズ(体動ノイズ)となって、心電図波形に混入する。そのために、図7に示すように、ドライバーの身体が運転中に動くと、正確な心電図波形を計測することが不可能となるおそれがある(なお、図7において、上段が、大型電極31による心電図波形、下段が、小型電極30による心電図波形、をそれぞれ示している)。
【0026】
このように、第2の電極3として容量結合型電極を用いた心電図波形計測では、第2の電極3をドライバーの皮膚に直接貼り付ける必要がないため、ドライバーの心電図波形を無拘束で計測することが可能であるが、運転中のドライバーの体動により、ドライバーの心電図波形の計測が不可能となる場合がある。そのため、運転中にドライバーの体動が生じても、体動ノイズの影響を除去した正確な心電図波形を計測する必要があるところ、本発明者らは、第2の電極3として、サイズの異なる2つの容量結合型電極を用いることにより、算出される心電図波形(以下、「原心電図波形」という。)から体動ノイズの影響を除去することが可能であることを見出した。
【0027】
つまり、安静座位状態下において第2の電極3から得られる電気信号は、大部分がドライバーの身体内部の心電図信号(ECG信号)に起因するものであるため、高精度の心電図波形の計測が可能となっているところ、図6を参照すると、大型電極31から得られる原心電図波形と小型電極30から得られる原心電図波形とを比較すれば、基本的な波形の形状は同じであるが、大型電極31により得られる原心電図波形の波形出力Vの方が、小型電極30により得られる原心電図波形の波形出力Vよりも大きな値をとることが確認された。つまり、ドライバーの身体内部の心電図信号に基づく波形出力(R波とS波の電位差。以下、「心電図波形出力」という。)をECGとすると、ECG1(大型電極31による心電図波形出力)>ECG2(小型電極31による心電図波形出力)であること、つまり、ECG1/ECG2>1であることが確認された。
【0028】
これは、安静座位状態下における原心電図波形の波形出力V(ECG1,ECG2)は、各電極30,31とドライバーの臀部との間で形成されるコンデンサ32,33の静電容量値に比例するところ、静電容量値は、各電極30,31のドライバーの臀部との接触面積に比例するため、各電極30,31のサイズが原心電図波形の波形出力V(ECG1,ECG2)に比例すると考えられる。
【0029】
これに対して、ドライバーの体動下において第2の電極3から得られる電気信号は、上記した心電図信号(ECG)に、ドライバーの体動に起因する体動ノイズが混入したものであるところ、図7を参照すると、大型電極31から得られる原心電図波形と小型電極30から得られる原心電図波形とを比較すれば、基本的な波形の形状は同じであるが、大型電極31により得られる原心電図波形の波形出力Vの方が、小型電極30により得られる原心電図波形の波形出力Vよりも小さな値をとることが確認された。つまり、体動ノイズに基づく波形出力(以下、「ノイズ波形出力」という。)をNoiseとすると、ECG1+Noise1(大型電極31によるノイズ波形出力)<ECG2+Noise2(小型電極30によるノイズ波形出力)であることが確認された。これにより、心電図波形に与える体動ノイズの影響は、大型電極31よりも小型電極30の方が大きいこと、つまり、Noise1<Noise2(Noise1/Noise2<1)であることを本発明者らは見出した。
【0030】
そして、上記したように、電極30,31のサイズの違いに基づき検出される心電図波形出力の比率(ECG1/ECG2)とノイズ波形出力の比率(Noise1/Noise2)とは同倍率にはならないという知見に基づき、サイズが異なる大型電極31および小型電極30から得られる原心電図波形を算術処理することで、原心電図波形から体動ノイズの影響を除去することが可能であることを見出した。
【0031】
具体的には、安静座位状態の大型電極31から得られる原心電図波形と小型電極30から得られる原心電図波形とを比較し(図6参照)、2つの原心電図波形の相互相関係数を演算する。これにより、相互相関係数が最大になるときを見出して、その最大になる時間τを用いて大型電極31により得られる原心電図波形と小型電極30により得られる原心電図波形との時間差を算出する。図示例では、時間差τはτ=0.005秒となった。
【0032】
次に、ドライバーの体動下における大型電極31により得られる原心電図波形と小型電極30により得られる原心電図波形とを比較し(図7参照)、体動ノイズの影響が生じている領域(図示例では、3.2秒〜7.0秒の領域)において、両原心電図波形の波形出力Vの比率を演算する。本実施形態では、各原心電図波形におけるピークおよびボトムの振幅値の最大値同士を比較して、大型電極31から得られる原心電図波形の波形出力V(ECG1+Noise1)と小型電極30から得られる原心電図波形の波形出力V(ECG2+Noise2)との比率α((ECG1+Noise1)/(ECG2+Noise2))を算出した。図示例では、比率αはα=0.52となった。なお、両原心電図波形の波形出力Vの比率αの算出方法は、上記した方法に限られるものではなく、体動ノイズの影響が生じている領域における原心電図波形の各振幅値の平均値を比較したりするなど、種々の方法により算出することができる。
【0033】
最後に、下記数式(1)に基づき、大型電極31から得られる原心電図波形の波形出力V(ECG1+Noise1)および小型電極30から得られる原心電図波形の波形出力V(ECG2+Noise2)の差を計算することで、体動ノイズの影響が除去されたドライバーの心電図波形の波形出力ECGを導出する。つまり、下記数式(1)において、体動ノイズに基づく波形出力Noise1,Noise2は、心電図信号に基づく波形出力ECG1,ECG2と比較すると十分に大きいために、比率αは以下の数式(2)のように近似できる。
【0034】
【数1】
【0035】
【数2】
【0036】
上記数式(2)を用いると、上記数式(1)は以下の数式(3)のように近似できる。
【0037】
【数3】
【0038】
このように、本実施形態の心電図波形計測装置1によれば、運転中にドライバーがアクセル操作やブレーキ操作などにより動いても、体動ノイズの影響を除去した心電図波形を計測することが可能となっている。
【0039】
マイクロコンピュータ45は、上記した方法により計測されたドライバーの心電図波形を所定周期でサンプリングし、時系列波形データとして記憶装置46に記憶させる。記憶装置46は、例えばフラッシュメモリであり、記憶装置46に記憶された心電図波形を表示、印刷などすることで、ドライバーの運転中の心電図波形を確認することが可能となる。
【0040】
以上、上記した構成の心電図波形計測装置1によれば、ドライバーの運転中の心電図波形を継続的に計測することができる。つまり、ドライバーが運転中に第1の電極2に全く触れない状態は極めて稀であり、また、ドライバーがシート11に着座している以上、シート11に取り付けられた容量結合型電極よりなる第2の電極3によってドライバーの身体電位を継続的に検出可能だからである。
【0041】
また、第2の電極3をドライバーの皮膚に直接貼り付ける必要がないため、ドライバーの心電図波形を無拘束で計測することができる。
【0042】
さらに、ドライバーの心電図波形を正確に計測することができる。つまり、第2の電極3として、1つの容量結合型電極により心電図波形を得る場合、運転中のドライバーの体動に起因する体動ノイズが、計測される心電図波形に混入するおそれがあり、正確な心電図波形の計測が困難となる場合がある。本実施形態では、第2の電極3として、サイズ(表面積)の異なる2つの容量結合型電極(小型電極および大型電極)30,31を用いて心電図波形を計測し、計測された2つの心電図波形を比較することにより、該心電図波形に混入した体動ノイズの影響を除去することが可能となった。これにより、運転中にドライバーの体動が生じても、ドライバーの心電図波形を、正確に計測することができる。
【0043】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の具体的な態様は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、第2の電極3として、容量結合型電極と増幅回路とが一体形成されたアクティブ電極5を用いることも可能である。なお、その他の構成、すなわち、第1の電極2、マイクロコンピュータ45、記憶装置46については第1実施形態と同様である。
【0044】
図9は、アクティブ電極5の構成を示す断面図である。アクティブ電極5は、基板50の一方の面に、増幅回路としてオペアンプ51が実装されているとともに、基板50のオペアンプ51とは反対の側の他方の面に、例えば平板状の銅板からなる容量結合型電極52が実装されている。容量結合型電極52およびオペアンプ51は、基板50に形成されたスルーホール(図示せず)に挿入したリーディングワイヤ(図示せず)によって接続されている。また、基板50のオペアンプ51と同じ側の面には、オペアンプ51への電界の影響を排除するとともに物理的強度を維持するためのシールド用電極53が取り付けられている。基板50は、例えばエポキシ樹脂などの絶縁樹脂により覆われており、その大部分がモールド樹脂54に封入されることで、容量結合型電極52以外の他の部品にショートなどのトラブルが発生しないようになっている。なお、容量結合型電極52については、少なくともその表面52Aは樹脂モールドされておらず、外部に露出するようになっている。
【0045】
図10は、上記構成によって形成される仮想的な回路構成を示す図である。図中、Vsは、ドライバー身体における電位差(手と臀部との電位差)である。CEは、ドライバー身体と容量結合型電極52とで形成される仮想的なコンデンサの容量である。Rgは、ドライバー身体の体動に起因して生じる静電気を放出するための抵抗である。Cgは、容量結合型電極52とシールド用電極53とで形成される仮想的なコンデンサの容量である。Rop、Copは、それぞれオペアンプ51の入力抵抗、入力容量である。
【0046】
上記仮想的な回路構成のゲインG(S)は、次式(4)で与えられる。本式が示す通り、この回路構成はハイパスフィルタとして機能し、そのカットオフ周波数は、4つのパラメータCE、Cg、Cop、Rgによって決定される。
【0047】
【数4】
【0048】
本実施形態によれば、オペアンプ51と容量結合型電極52とが一体化されるため、よりコンパクトなハードウエアを実現することができる。なお、アクティブ電極50は、シールド用電極53を有さない構成としてもよい。また、図11に示すように、基板50は、容量結合型電極52およびオペアンプ51を含む全体がエポキシ樹脂によりモールドされていてもよい。これによると、容量結合型電極52がモールド樹脂54内に完全に封入されるので、容量結合型電極52が外力や摩耗などによる経年変化で劣化して計測精度に影響を及ぼすおそれも少なく、また、高寿命を得ることもできる。
【符号の説明】
【0049】
1 心電図波形計測装置
2 第1の電極
3 第2の電極
4 心電図波形算出装置
10 ハンドル
11 シート
30 小型電極
31 大型電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の乗員の心電図波形を計測する心電図波形計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
日常生活において、自動車は必要不可欠な移動手段の一つとなっている。しかし、自動車の普及に伴い、自動車による交通事故が増加している。特に、近年、ドライバーの居眠り運転などによる交通事故の増加が顕著となっている。そこで、ドライバーの居眠り運転による交通事故を防止するために、運転中のドライバーの生体情報をセンサにより検出し、この検出した生体情報を用いてドライバーの覚醒度を推定することで、運転中におけるドライバーの覚醒状態を監視することが試みられている。
【0003】
例えば、ドライバーの身体電位を測定する電極を用いてドライバーの心電図波形を計測し、計測された心電図波形を分析してドライバーの覚醒度を推定することが従来から行われている。そのため、ドライバーの心電図波形を車両において計測する技術について研究が進められている。
【0004】
心電図波形を車両において計測する装置の一例として、例えば車両のステアリングホイールに電極を形成してドライバーの手の電位を検出するとともに、車両のシートに容量結合型電極を取り付けてドライバーの臀部の電位を検出し、これらの電位差から心電図波形を計測する心電図計測装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の心電図波形計測装置によれば、運転中のドライバーの心電図波形を、継続的にかつ正確に把握することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−46310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の心電図波形計測装置に対し、本発明者らがさらに検討を進めた結果、心電図波形を計測する際に、運転中のドライバーが動くと、このドライバーの体動に伴うノイズ(体動ノイズ)が計測される心電図波形に混入するおそれがあることがわかった。この体動ノイズの影響を心電図波形から除去することで、計測される心電図波形をより一層正確なものとすることができるため、上記特許文献1に記載の心電図波形計測装置は、さらに改良する余地がある。
【0007】
本発明は、上記した問題に着目してなされたもので、車両の乗員の心電図波形を、より正確に計測することが可能な心電図波形計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の前記目的は、車両の乗員の皮膚表面に直接接触する第1の電極と、車両のシートに取り付けられ、乗員の皮膚表面と衣服を介して接触する第2の電極と、前記第1の電極により検出される電気信号と前記第2の電極により検出される電気信号とを処理して心電図波形を算出する心電図波形算出手段とを備え、前記第2の電極は、表面積が互いに異なる2つの容量結合型電極からなり、前記心電図波形算出手段は、前記各容量結合型電極により検出された電気信号に基づき算出した2つの心電図波形を用いて、該心電図波形に混入した乗員の体動に起因する体動ノイズを除去し、体動ノイズを除去した乗員の心電図波形を特定する心電図波形計測装置により達成される。
【0009】
本発明の好ましい実施態様においては、前記各容量結合型電極は、導電糸または導電繊維糸を織り込んだ導電布により構成されていることを特徴としている。
【0010】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記各容量結合型電極のうち、相対的に表面積が小さい方の電極は表面積が大きい方の電極に囲まれるように配置されていることを特徴としている。
【0011】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記第1の電極は、ステアリングホイールに取り付けられることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明の心電図波形計測装置によれば、運転中に車両の乗員が体動により動いても、車両の乗員の心電図波形を正確に計測することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る心電図波形計測装置の概略構成を示す図である。
【図2】第1の電極をステアリングホイールに取り付けた例の構成を示す図である。
【図3】車両のシートに第2の電極を取り付ける構成を例示する図である。
【図4】他の実施形態の第2の電極の構成を示す図である。
【図5】図1の回路図である。
【図6】安静座位状態において各電極により得られる原心電図波形の計測図である。
【図7】ドライバーの体動下において各電極により得られる原心電図波形の計測図である。
【図8】体動ノイズを除去したドライバーの心電図波形である。
【図9】アクティブ電極の構成を示す断面図である。
【図10】他の実施形態によって形成される仮想的な回路構成を示す図である。
【図11】アクティブ電極の他の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る心電図波形計測装置1の概略構成を示す。図示例の心電図波形計測装置1は、主要な構成として、導電性を有する第1の電極2および第2の電極3と、心電図波形算出装置4とを備える。なお、以下の説明において、心電図波形計測装置1は、車両のドライバーの心電図波形を計測する装置として説明するが、本発明に係る心電図波形計測装置はドライバー以外の他の乗員にも適用可能である。
【0015】
第1の電極2は、ドライバーの皮膚表面に直接接触して、ドライバーの身体電位を検出するための電極であり、例えばクロムメッキ樹脂により形成される。この第1の電極2は、図2に示すように、例えば車両のステアリングホイール10の外周面に取り付けられる。なお、これに限らず、シフトレバーなど、ドライバーが頻繁に触れる他の場所に第1の電極2を取り付けるようにしてもよい。また、ドライバー以外の乗員の心電図波形を計測する場合には、第1の電極2は、例えばセンターコンソール上部やドアの内側に設けられた操作部などに取り付けるのが好ましい。第1の電極2は、グランド端子12に接続されている。
【0016】
第2の電極3は、ドライバーの皮膚に直接接触されるものではなく、ドライバーの衣服を誘電体として用い、この誘電体としての衣服を挟んだ状態でドライバーの皮膚に接触される。この第2の電極3は、車両のシート11に取り付けられ、ドライバーの臀部との間で仮想的なコンデンサ32,33(図5に示す)を形成し、第2の電極3とドライバーの臀部との間の静電容量結合によって、ドライバーの身体電位を検出するための容量結合型電極として機能する。
【0017】
第2の電極3は、サイズの異なる2つの容量結合型電極からなり、表面積が相対的に小さく、ドライバーに接触する接触面積の小さい小型電極30と、表面積が相対的に大きく、ドライバーに接触する接触面積の大きい大型電極31とで構成されている。各電極30,31には、信号線32A,33Aが接続されており、ドライバーの身体電位の変動に応じて変動する容量結合型電極30,31の電位を心電図波形算出装置4に伝達している。
【0018】
図3は、車両のシート11に第2の電極3を取り付ける態様を例示した図である。第2の電極3は、例えば、図3(A)に示すように、シート11の表皮11Aとクッション11Bの間に挿入された板状電極34により構成されていてもよい。また、図3(B)に示すように、シート11の表皮11Aに編み込まれた金属ファイバーなどの網状電極35により構成されていてもよい。
【0019】
また、図4に示すように、導電性を有する導電糸または導電繊維糸を用いて織った導電布により、第2の電極3を構成するようにしてもよい。なお、導電糸とは、銅、銀、ステンレスなどの微細単線を繊維と撚り合わせて作った導電性を持つ糸のことをいい、また、導電繊維糸とは、ポリエステルなどの微細糸に銅・銀・金などのメッキを施し、他の糸と撚り合わせて繊維の糸としたもののことをいう。第2の電極3を可撓性のある導電布電極36により構成することにより、第2の電極3がドライバーの臀部と密着するようになる。
【0020】
図4に示す第2の電極3は、ほぼ同じ大きさ(表面積)を有する25個の導電布電極36により構成されており、本実施形態では、その中の21個の導電布電極36Bが電気的に接続されて大型電極31を形成しているとともに、残りの4個の導電布電極36Aが電気的に接続されて小型電極30を形成している。小型電極30は、大型電極31に囲まれるように配置されており、これにより、小型電極30と大型電極31とが密に近接し、詳細は後述するが、ドライバーの運転中の体動により、2つの電極30,31に与えられる影響が類似するようになっている。なお、小型電極30および大型電極31の配置は、これに限られるものではなく、例えば、両者が並列に並べられても構わない。また、小型電極30および大型電極31のサイズの大きさは、構成する導電布電極36A,36Bの数を変更することにより、適宜変更が可能である。
【0021】
図5は、図1の等価回路を示す回路図である。信号線32A,33Aには、抵抗40,40を介してグランド端子12,12がそれぞれ接続されている。これによって、ドライバーの身体電位を入力とした仮想的な回路が形成される。この回路構成は、ハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタとして機能する。
【0022】
心電図波形算出装置4は、ボルテージフォロワ42,42と、コンデンサ43,43と、増幅回路44,44と、マイクロコンピュータ45と、記憶装置46とを有する。なお、これらの構成は、オペアンプなどによる置換が可能である。
【0023】
各ボルテージフォロワ42の入力端子(+側)42Aには、信号線32A,33Aがそれぞれ接続されており、小型電極30および大型電極31の電位がそれぞれ電気信号として入力される。また、各ボルテージフォロワ42の入力端子(−側)42Bは、ボルテージフォロワ42の出力端子42Cからのフィードバックが入力される。各ボルテージフォロワ42は、上記構成によって、電流の入力を抑制しつつ、小型電極30および大型電極31からの電気信号を出力端子42Cに伝達することができるようになっている。
【0024】
各コンデンサ43は、抵抗41,41とともに、ハイパスフィルタまたはバンドパスフィルタの機能を実現する。増幅回路44,44は、各コンデンサ43および抵抗41によって低周波成分がカットされた電気信号を増幅して、マイクロコンピュータ45に出力する。
【0025】
マイクロコンピュータ45は、各増幅回路44から入力された電気信号をそれぞれ処理することにより、心電図波形を算出する。ここで、ドライバーが運転中に安静座位状態にあるときには、算出される心電図波形の波形形状は、図6に示すように、ほぼ正確な形状のものとなる(なお、図6において、上段が、大型電極31による心電図波形、下段が、小型電極30による心電図波形、をそれぞれ示している)。これに対して、ドライバーの運転中のアクセルやブレーキ操作などに起因して、ドライバーの身体が運転中に動くと、このドライバーの体動により、運転者の皮膚(臀部)と第2の電極3との間の接触状態(生体−電極間の接触圧)が変動し、これが大きなノイズ(体動ノイズ)となって、心電図波形に混入する。そのために、図7に示すように、ドライバーの身体が運転中に動くと、正確な心電図波形を計測することが不可能となるおそれがある(なお、図7において、上段が、大型電極31による心電図波形、下段が、小型電極30による心電図波形、をそれぞれ示している)。
【0026】
このように、第2の電極3として容量結合型電極を用いた心電図波形計測では、第2の電極3をドライバーの皮膚に直接貼り付ける必要がないため、ドライバーの心電図波形を無拘束で計測することが可能であるが、運転中のドライバーの体動により、ドライバーの心電図波形の計測が不可能となる場合がある。そのため、運転中にドライバーの体動が生じても、体動ノイズの影響を除去した正確な心電図波形を計測する必要があるところ、本発明者らは、第2の電極3として、サイズの異なる2つの容量結合型電極を用いることにより、算出される心電図波形(以下、「原心電図波形」という。)から体動ノイズの影響を除去することが可能であることを見出した。
【0027】
つまり、安静座位状態下において第2の電極3から得られる電気信号は、大部分がドライバーの身体内部の心電図信号(ECG信号)に起因するものであるため、高精度の心電図波形の計測が可能となっているところ、図6を参照すると、大型電極31から得られる原心電図波形と小型電極30から得られる原心電図波形とを比較すれば、基本的な波形の形状は同じであるが、大型電極31により得られる原心電図波形の波形出力Vの方が、小型電極30により得られる原心電図波形の波形出力Vよりも大きな値をとることが確認された。つまり、ドライバーの身体内部の心電図信号に基づく波形出力(R波とS波の電位差。以下、「心電図波形出力」という。)をECGとすると、ECG1(大型電極31による心電図波形出力)>ECG2(小型電極31による心電図波形出力)であること、つまり、ECG1/ECG2>1であることが確認された。
【0028】
これは、安静座位状態下における原心電図波形の波形出力V(ECG1,ECG2)は、各電極30,31とドライバーの臀部との間で形成されるコンデンサ32,33の静電容量値に比例するところ、静電容量値は、各電極30,31のドライバーの臀部との接触面積に比例するため、各電極30,31のサイズが原心電図波形の波形出力V(ECG1,ECG2)に比例すると考えられる。
【0029】
これに対して、ドライバーの体動下において第2の電極3から得られる電気信号は、上記した心電図信号(ECG)に、ドライバーの体動に起因する体動ノイズが混入したものであるところ、図7を参照すると、大型電極31から得られる原心電図波形と小型電極30から得られる原心電図波形とを比較すれば、基本的な波形の形状は同じであるが、大型電極31により得られる原心電図波形の波形出力Vの方が、小型電極30により得られる原心電図波形の波形出力Vよりも小さな値をとることが確認された。つまり、体動ノイズに基づく波形出力(以下、「ノイズ波形出力」という。)をNoiseとすると、ECG1+Noise1(大型電極31によるノイズ波形出力)<ECG2+Noise2(小型電極30によるノイズ波形出力)であることが確認された。これにより、心電図波形に与える体動ノイズの影響は、大型電極31よりも小型電極30の方が大きいこと、つまり、Noise1<Noise2(Noise1/Noise2<1)であることを本発明者らは見出した。
【0030】
そして、上記したように、電極30,31のサイズの違いに基づき検出される心電図波形出力の比率(ECG1/ECG2)とノイズ波形出力の比率(Noise1/Noise2)とは同倍率にはならないという知見に基づき、サイズが異なる大型電極31および小型電極30から得られる原心電図波形を算術処理することで、原心電図波形から体動ノイズの影響を除去することが可能であることを見出した。
【0031】
具体的には、安静座位状態の大型電極31から得られる原心電図波形と小型電極30から得られる原心電図波形とを比較し(図6参照)、2つの原心電図波形の相互相関係数を演算する。これにより、相互相関係数が最大になるときを見出して、その最大になる時間τを用いて大型電極31により得られる原心電図波形と小型電極30により得られる原心電図波形との時間差を算出する。図示例では、時間差τはτ=0.005秒となった。
【0032】
次に、ドライバーの体動下における大型電極31により得られる原心電図波形と小型電極30により得られる原心電図波形とを比較し(図7参照)、体動ノイズの影響が生じている領域(図示例では、3.2秒〜7.0秒の領域)において、両原心電図波形の波形出力Vの比率を演算する。本実施形態では、各原心電図波形におけるピークおよびボトムの振幅値の最大値同士を比較して、大型電極31から得られる原心電図波形の波形出力V(ECG1+Noise1)と小型電極30から得られる原心電図波形の波形出力V(ECG2+Noise2)との比率α((ECG1+Noise1)/(ECG2+Noise2))を算出した。図示例では、比率αはα=0.52となった。なお、両原心電図波形の波形出力Vの比率αの算出方法は、上記した方法に限られるものではなく、体動ノイズの影響が生じている領域における原心電図波形の各振幅値の平均値を比較したりするなど、種々の方法により算出することができる。
【0033】
最後に、下記数式(1)に基づき、大型電極31から得られる原心電図波形の波形出力V(ECG1+Noise1)および小型電極30から得られる原心電図波形の波形出力V(ECG2+Noise2)の差を計算することで、体動ノイズの影響が除去されたドライバーの心電図波形の波形出力ECGを導出する。つまり、下記数式(1)において、体動ノイズに基づく波形出力Noise1,Noise2は、心電図信号に基づく波形出力ECG1,ECG2と比較すると十分に大きいために、比率αは以下の数式(2)のように近似できる。
【0034】
【数1】
【0035】
【数2】
【0036】
上記数式(2)を用いると、上記数式(1)は以下の数式(3)のように近似できる。
【0037】
【数3】
【0038】
このように、本実施形態の心電図波形計測装置1によれば、運転中にドライバーがアクセル操作やブレーキ操作などにより動いても、体動ノイズの影響を除去した心電図波形を計測することが可能となっている。
【0039】
マイクロコンピュータ45は、上記した方法により計測されたドライバーの心電図波形を所定周期でサンプリングし、時系列波形データとして記憶装置46に記憶させる。記憶装置46は、例えばフラッシュメモリであり、記憶装置46に記憶された心電図波形を表示、印刷などすることで、ドライバーの運転中の心電図波形を確認することが可能となる。
【0040】
以上、上記した構成の心電図波形計測装置1によれば、ドライバーの運転中の心電図波形を継続的に計測することができる。つまり、ドライバーが運転中に第1の電極2に全く触れない状態は極めて稀であり、また、ドライバーがシート11に着座している以上、シート11に取り付けられた容量結合型電極よりなる第2の電極3によってドライバーの身体電位を継続的に検出可能だからである。
【0041】
また、第2の電極3をドライバーの皮膚に直接貼り付ける必要がないため、ドライバーの心電図波形を無拘束で計測することができる。
【0042】
さらに、ドライバーの心電図波形を正確に計測することができる。つまり、第2の電極3として、1つの容量結合型電極により心電図波形を得る場合、運転中のドライバーの体動に起因する体動ノイズが、計測される心電図波形に混入するおそれがあり、正確な心電図波形の計測が困難となる場合がある。本実施形態では、第2の電極3として、サイズ(表面積)の異なる2つの容量結合型電極(小型電極および大型電極)30,31を用いて心電図波形を計測し、計測された2つの心電図波形を比較することにより、該心電図波形に混入した体動ノイズの影響を除去することが可能となった。これにより、運転中にドライバーの体動が生じても、ドライバーの心電図波形を、正確に計測することができる。
【0043】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の具体的な態様は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、第2の電極3として、容量結合型電極と増幅回路とが一体形成されたアクティブ電極5を用いることも可能である。なお、その他の構成、すなわち、第1の電極2、マイクロコンピュータ45、記憶装置46については第1実施形態と同様である。
【0044】
図9は、アクティブ電極5の構成を示す断面図である。アクティブ電極5は、基板50の一方の面に、増幅回路としてオペアンプ51が実装されているとともに、基板50のオペアンプ51とは反対の側の他方の面に、例えば平板状の銅板からなる容量結合型電極52が実装されている。容量結合型電極52およびオペアンプ51は、基板50に形成されたスルーホール(図示せず)に挿入したリーディングワイヤ(図示せず)によって接続されている。また、基板50のオペアンプ51と同じ側の面には、オペアンプ51への電界の影響を排除するとともに物理的強度を維持するためのシールド用電極53が取り付けられている。基板50は、例えばエポキシ樹脂などの絶縁樹脂により覆われており、その大部分がモールド樹脂54に封入されることで、容量結合型電極52以外の他の部品にショートなどのトラブルが発生しないようになっている。なお、容量結合型電極52については、少なくともその表面52Aは樹脂モールドされておらず、外部に露出するようになっている。
【0045】
図10は、上記構成によって形成される仮想的な回路構成を示す図である。図中、Vsは、ドライバー身体における電位差(手と臀部との電位差)である。CEは、ドライバー身体と容量結合型電極52とで形成される仮想的なコンデンサの容量である。Rgは、ドライバー身体の体動に起因して生じる静電気を放出するための抵抗である。Cgは、容量結合型電極52とシールド用電極53とで形成される仮想的なコンデンサの容量である。Rop、Copは、それぞれオペアンプ51の入力抵抗、入力容量である。
【0046】
上記仮想的な回路構成のゲインG(S)は、次式(4)で与えられる。本式が示す通り、この回路構成はハイパスフィルタとして機能し、そのカットオフ周波数は、4つのパラメータCE、Cg、Cop、Rgによって決定される。
【0047】
【数4】
【0048】
本実施形態によれば、オペアンプ51と容量結合型電極52とが一体化されるため、よりコンパクトなハードウエアを実現することができる。なお、アクティブ電極50は、シールド用電極53を有さない構成としてもよい。また、図11に示すように、基板50は、容量結合型電極52およびオペアンプ51を含む全体がエポキシ樹脂によりモールドされていてもよい。これによると、容量結合型電極52がモールド樹脂54内に完全に封入されるので、容量結合型電極52が外力や摩耗などによる経年変化で劣化して計測精度に影響を及ぼすおそれも少なく、また、高寿命を得ることもできる。
【符号の説明】
【0049】
1 心電図波形計測装置
2 第1の電極
3 第2の電極
4 心電図波形算出装置
10 ハンドル
11 シート
30 小型電極
31 大型電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の乗員の皮膚表面に直接接触する第1の電極と、
車両のシートに取り付けられ、乗員の皮膚表面と衣服を介して接触する第2の電極と、
前記第1の電極により検出される電気信号と前記第2の電極により検出される電気信号とを処理して心電図波形を算出する心電図波形算出手段とを備え、
前記第2の電極は、乗員に接触する接触面積が互いに異なる2つの容量結合型電極からなり、
前記心電図波形算出手段は、前記各容量結合型電極により検出された電気信号に基づき算出された2つの心電図波形を用いて、該心電図波形に混入した乗員の体動に起因する体動ノイズを除去し、体動ノイズを除去した乗員の心電図波形を特定する心電図波形計測装置。
【請求項2】
前記各容量結合型電極は、導電糸または導電繊維糸を織り込んだ導電布により構成されている請求項1に記載の心電図波形計測装置。
【請求項3】
前記各容量結合型電極のうち、相対的に面積が小さい方の電極は面積が大きい方の電極に囲まれるように配置されている請求項1または2に記載の心電図波形計測装置。
【請求項4】
前記第1の電極は、ステアリングホイールに取り付けられる請求項1〜3のいずれかに記載の心電図波形計測装置。
【請求項1】
車両の乗員の皮膚表面に直接接触する第1の電極と、
車両のシートに取り付けられ、乗員の皮膚表面と衣服を介して接触する第2の電極と、
前記第1の電極により検出される電気信号と前記第2の電極により検出される電気信号とを処理して心電図波形を算出する心電図波形算出手段とを備え、
前記第2の電極は、乗員に接触する接触面積が互いに異なる2つの容量結合型電極からなり、
前記心電図波形算出手段は、前記各容量結合型電極により検出された電気信号に基づき算出された2つの心電図波形を用いて、該心電図波形に混入した乗員の体動に起因する体動ノイズを除去し、体動ノイズを除去した乗員の心電図波形を特定する心電図波形計測装置。
【請求項2】
前記各容量結合型電極は、導電糸または導電繊維糸を織り込んだ導電布により構成されている請求項1に記載の心電図波形計測装置。
【請求項3】
前記各容量結合型電極のうち、相対的に面積が小さい方の電極は面積が大きい方の電極に囲まれるように配置されている請求項1または2に記載の心電図波形計測装置。
【請求項4】
前記第1の電極は、ステアリングホイールに取り付けられる請求項1〜3のいずれかに記載の心電図波形計測装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−40241(P2012−40241A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185203(P2010−185203)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼研究集会名 修士論文公聴会 主催者名 立命館大学 開催日 平成22年2月22日
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼研究集会名 修士論文公聴会 主催者名 立命館大学 開催日 平成22年2月22日
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】
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