説明

応力センサー

【課題】温度補償範囲を広くすることが可能であり、かつ、幅広い用途に適用することが可能である構成の応力センサーを提供する。
【解決手段】イオン導電体13と、このイオン導電体13に電気的に接続された電極11,15とを含む応力センサー10を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の引張応力、圧縮応力、曲げ応力等の応力の情報を検知する、応力センサーに係わる。
【背景技術】
【0002】
対象物の引張応力、圧縮応力、曲げ応力等の力の情報を検知する素子として、「応力センサー」が用いられる。
応力センサーには、力によって生ずる弾性変形を利用するものと、被測定体に加わる力と既知の大きさの力を平衡させるものがある。
現在利用されている応力センサーには、弾性変形を利用したものが多い。
【0003】
弾性変形を利用した応力センサーとしては、(1)金属抵抗体歪ゲージを用いたもの、(2)ピエゾ効果を利用したもの、(3)圧電性を利用したもの、(4)磁気歪効果を利用したものが挙げられる。
【0004】
(1)金属抵抗体型センサー
多くの金属は、機械的な伸び又は縮み等の寸法変化を与えると、その電気抵抗が変化する。
金属抵抗体歪みゲージは、この歪みを電気抵抗の変化に置き換え、ブリッジ回路によって電気抵抗の変化を電圧変化に置き換えるものである。金属抵抗線材料としては、アドバンス、コンスタンタン、マンガニン、ニクロム、Pt−Ir等がある(例えば、特許文献1を参照)。
この種のセンサーとして代表的なものに、ロードセル(load cell)がある。
【0005】
この構成の問題点は、まず、価格が数万円から十数万円と高価であることである。
しかも、構造上セルの小型化(マイクロセンサー化)が難しく、超小型といわれるものでさえ数cmあり、小型のものほど高価になる。
さらに、被測定物に取り付けるために必要となる寸法が比較的大きい。
また、作動させるためには、電源とμV級の分解能を持つ電圧計とが必要となる、という短所もある。
さらにまた、温度補償範囲が−10〜50℃程度と、使用できる温度範囲が狭い。
【0006】
(2)半導体型センサー
ピエゾ抵抗効果の原理を利用したものには、半導体型センサーが挙げられる。
シリコンやゲルマニウム等のある種の半導体は、力を受けるとその歪みに応じて電気抵抗が変化するピエゾ抵抗効果を示す。この抵抗変化をブリッジ回路で電気信号に変換し検出するものである。
【0007】
この構成の問題点は、まず、抵抗やピエゾ抵抗係数が温度変化によって大きく変化するため、広範囲の温度領域で使用するためには、温度補償が必要になるということである。
また、この構成のセンサーには、結晶シリコンが多く用いられており、薄膜化する場合には、基板に制限がある。
さらに、温度補償範囲が−1〜50℃程度と、使用できる温度範囲が狭い。
さらにまた、力の測定限界が比較的小さく、数十Ncm程度である。
【0008】
(3)圧電型センサー
圧電型センサーの代表的なものに動的歪センサーが挙げられる。これは、水晶、ロッシェル塩、チタン酸バリウム、PZT等の誘電体単結晶に動的な力が作用したときに発生する分極を利用したものであり、静的応力には応答しない。
また、表面弾性波素子を応用した素子も知られている。これは圧電材料基板の上に電極をつけた発振器で構成されており、電極に一定の周波数の電圧を印加し、応力により基板が歪むと、表面弾性波の伝播速度が変化し、周波数が変化する現象を利用したものである。
【0009】
この構成の問題点は、素子及び装置の構成が単純ではなく、基板に制限があることである。
また、温度補償範囲は、−50〜120℃が標準で、特殊なものでも±200℃程度である。
【0010】
(4)磁歪型センサー
強磁性体が磁化されると、寸法変化を示す。これが磁歪効果であり、逆に強磁性体に歪みを与えると、磁化が変化する(逆磁歪効果)。
このときの磁気特性−応力の関係から、歪みを検出するのが磁歪型センサー(例えば、特許文献2を参照)であり、構造的には磁気ヘッドのような精密磁気センサーと同じである。
この構成の問題点は、素子の構造が複雑であることや、基板に制限があることである。
【0011】
【特許文献1】特開2007−333408号公報
【特許文献2】特開2007−40956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、既存の応力センサーは、高価であったり、基板に制限があったり、温度補償範囲があまり広くなかったりと、様々な問題点があるために、適用可能な用途が限られてしまっていた。
【0013】
上述した問題の解決のために、本発明においては、温度補償範囲を広くすることが可能であり、かつ、幅広い用途に適用することが可能である構成の応力センサーを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の応力センサーは、イオン導電体と、このイオン導電体に電気的に接続された電極とを含むものである。
この本発明の応力センサーの基本構成は、電極/イオン導電体/電極である。
【0015】
ここで言う「イオン導電体」とは、固体でありながらイオン伝導を示す物質である。
固体内のイオン伝導は、物質を構成している元素の結合により構築される「骨組み」(フレームワーク)内を伝導イオンが移動することによって生じる。即ち、イオン伝導は、フレームワークと伝導イオンとの強い相互作用のもとでの物質移動現象であるため、極めて構造敏感な物性である。
従って、イオン導電体に外力が作用して変形すると、イオン伝導が大きく変化する。
本発明は、このイオン導電体の構造敏感な物性に着目し、応力センサーへ応用したものである。
【0016】
イオン導電体を応力センサーに応用した例は、今までにはなく、本発明はイオン導電体型応力センサーの最初の発明となるものである。
従って、本発明は、今後のイオン導電体の応力センサーにおける先行技術となりうるものである。
【0017】
イオン導電体は、水溶液のような液体電解質と同じようにイオンを通す。
イオン導電体のフレームワークを構成する原子はそのままの状態で、それらの原子の間の空間を、イオン(例えば、水素イオンやリチウムイオン等)が通過していく。
これにより、イオン導電体は、イオンをキャリアとして電流を発生させることができる。
【0018】
また、イオン導電体がイオンを通す性質を有するので、イオン導電体に正負の電極をつけて電池を構成すれば、電池を固体化することが可能になる。
そのため、イオン導電体は、電池の材料として注目されている。
【0019】
イオン導電体としては、ほとんど全てのイオン導電体、即ち各種のイオン導電体を使用することが可能である。
例えば、Li0.5La0.5TiO(略称:LLT)、LiSiO、ヨウ化銀、ヨウ化銅、ハロゲン化アルカリ等が挙げられる。
【0020】
また、イオン導電体の性状は、特に限定されるものではなく、バルクのイオン導電体や、イオン導電体の薄膜を使用することができる。
そして、バルクのイオン導電体を使用する場合には、イオン導電体の形状は特に問わない。
【0021】
また、イオン導電体と電極とは、直接或いは他の導電層を介して、電気的に接続されていれば良く、特にこれらイオン導電体及び電極の構成が限定されるものではない。
他の導電層を介して接続する場合としては、例えば、電極とイオン導電体との間に他の導電層を設けて、イオン導電体との伝導イオンの挿入・脱離性能の向上を図ったり、界面抵抗を低減したり、イオン導電体との密着性を向上したりすることが考えられる。
【0022】
また、イオン導電体に電極を接続する位置は、特に限定されるものではない。
例えば、イオン導電体の層の一方の主面及び他方の主面に、それぞれ1つずつ電極を設けた構成や、イオン導電体の層の一方の主面に、独立して2つの電極を設けた構成等が、可能である。
例えば、イオン導電体の薄膜を使用する場合には、電極層の薄膜とイオン導電体の薄膜とを含む、積層膜を形成することが可能である。
【0023】
イオン導電体を形成する基板としては、無機誘電体、有機誘電体(高分子・樹脂、フィルムやバルク)、金属、半導体等、幅広い範囲の各種の基板を用いることができる。
【0024】
さらに、イオン導電体には、100℃以上の高温においても、良好な特性を示すものが多いので、従来のセンサーでは測定できない環境にも対応が可能である。
【0025】
なお、応力が加わっていないときのイオン導電体の抵抗率の値から、被測定対象物の温度を知ることも可能である。
例えば、予め、被測定対象物の温度とイオン導電体の抵抗率の値との関係を求めておく。そして、応力が加わっていないときにイオン導電体の抵抗率を測定することにより、その測定時の被測定対象物の温度を検知することが可能である。
【0026】
上述の本発明の応力センサーによれば、イオン導電体の外部応力に対するイオン伝導応答を利用して、被測定対象物に加わった応力を検出することが可能になる。
【0027】
また、イオン導電体と電極とを含んで応力センサーを構成することが可能であるため、比較的簡単な構成で応力センサーを実現することが可能である。
【発明の効果】
【0028】
上述の本発明の応力センサーによれば、イオン導電体に外力が作用して変形すると、イオン伝導が大きく変化するので、被測定対象物に加わった応力を検出することができる。
これにより、応答性の良好な応力センサーを実現することができる。
【0029】
また、本発明によれば、比較的簡単な構成で応力センサーを実現することが可能であるため、応力センサーの構造の単純化及びマイクロデバイス化を図ることができる。
従って、本発明により、小型の応力センサーや、比較的低コストの応力センサーを実現することが可能になる。
【0030】
本発明の応力センサーは、高分子フィルム、金属、無機誘電体、半導体等、適応できる基板の種類が多岐にわたるため、従来技術では装着できなかった被測定物にも適用することが可能になる。
【0031】
イオン導電体、即ち、固体内イオン伝導を示す物質群は、全て応力センサー材料になりうるため、本発明により、目的や使用環境に応じたセンサーの作製が可能である。
【0032】
さらにまた、イオン導電体の多くは、数百度以上の高温領域で良好なイオン伝導特性を示すものが少なくない。
そのため、本発明の応力センサーによれば、温度補償範囲を広くすることが可能になり、従来のセンサーでは計測できない、高温領域における応力計測が可能な応力センサーを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
本発明の応力センサーの一実施の形態の概略構成図を、図1及び図2に示す。図1は、一部内部を示した上面図であり、図2は断面図である。
この応力センサー10は、基板1上に、第1の電極(下部電極)11、可逆電極12、イオン導電体13、可逆電極14、第2の電極(上部電極)15を、それぞれ薄膜で積層形成して成る。
【0034】
第1の電極(下部電極)11は、可逆電極12を介してイオン導電体13に電気的に接続され、イオン導電体13よりも図中左側に延長して形成されている。
第2の電極(上部電極)15は、可逆電極14を介してイオン導電体13に電気的に接続され、イオン導電体13よりも図中右側に延長して形成されている。
【0035】
イオン導電体13としては、ほぼ全てのイオン導電体を使用することが可能である。
【0036】
第1の電極(下部電極)11及び第2の電極(上部電極)15には、金属や、金属とイオン導電体とを混合した混合イオン導電体を使用することができる。
【0037】
可逆電極12,14には、イオン導電体13の伝導イオン種をXとしたときに、金属X又は、Xを含む混合イオン導電体を使用することができる。
なお、イオン導電体13の材料によっては、可逆電極が不要となる場合もある。
【0038】
基板1は、特に材料が限定されるものではなく、無機誘電体、有機誘電体、導電体等、各種の基板を使用することができる。
金属等の導電体を基板に使用する場合には、下部電極を基板によって兼用することも可能である。
【0039】
本実施の形態の応力センサー10は、例えば、以下に説明するようにして、使用することができる。
【0040】
まず、応力センサー10を、被測定対象物に直接作製する、或いは、被測定対象物に接着する等の方法で、被測定対象物に装着する。
そして、応力センサー10の2つの電極11,15を介して、直流抵抗又はインピーダンスを測定する。
このとき、応力センサー10の変形(変位)に対応して、測定される抵抗又はインピーダンスの値が変化するので、抵抗又はインピーダンスの値から、被測定対象物に加わる応力又は変位を検出することができる。
【0041】
上述の本実施の形態の応力センサー10の構成によれば、イオン導電体13の外部応力に対するイオン伝導応答を利用して、被測定対象物に加わった応力を検出することが可能になる。そして、イオン導電体13に外力が作用して変形すると、イオン伝導が大きく変化するので、応答性の良好な応力センサー10を実現することができる。
【0042】
また、イオン導電体13と電極11,15とを含んで応力センサー10を構成することが可能であるため、比較的簡単な構成で応力センサー10を実現することが可能である。
従って、小型の応力センサー10や、比較的低コストの応力センサー10を実現することが可能になる。
【0043】
さらにまた、温度補償範囲を広くすることが可能になり、従来のセンサーでは計測できない、高温領域における応力計測が可能な応力センサー10を実現することができる。
【0044】
上述の実施の形態では、薄膜のイオン導電体13を使用していたが、バルクのイオン導電体を使用しても、同様に応力センサーを構成することが可能である。
【0045】
また、上述の実施の形態では、イオン導電体13の両面に電極11,15を設けていたが、イオン導電体の片面に独立して2つの電極を設けても構わない。
【0046】
本発明の他の実施の形態として、そのような構成の応力センサーの概略構成図(平面図)を、図3に示す。
図3に示す応力センサー20は、イオン導電体21の上に、それぞれ独立して、第1の櫛型電極22と、第2の櫛形電極23とを形成している。
第1の櫛形電極22と第2の櫛形電極23とは独立しているので、これら2つの電極22,23の間を、下方のイオン導電体21を介して流れる電流を測定することにより、イオン導電体21に加わっている応力を検知することができる。
【0047】
本実施の形態の応力センサー20によれば、図1及び図2に示した先の実施の形態の応力センサー10と同様に、被測定対象物に加わった応力を検出することが可能になり、そして、応答性の良好な応力センサー20を実現することができる。
【0048】
また、イオン導電体21と櫛型電極22,23とを含んで応力センサー20を構成することが可能であるため、比較的簡単な構成で応力センサー20を実現することが可能である。
従って、小型の応力センサー20や、比較的低コストの応力センサー20を実現することが可能になる。
【0049】
さらにまた、温度補償範囲を広くすることが可能になり、従来のセンサーでは計測できない、高温領域における応力計測が可能な応力センサー20を実現することができる。
【0050】
本発明の応力センサーは、引っ張り、曲げ、圧縮等、各種応力の測定に適用することができる。
【0051】
なお、例えば、図1及び図2の応力センサー10を引っ張り応力の測定に適用する場合には、図中左右方向を、被測定対象物が引っ張られる方向と合わせると良い。
これは、電極11,15と外部の配線との接続が取りやすくなるためである。さらにイオン導電体13の層の長手方向を被測定対象物が引っ張られる方向と合わせることにより、抵抗やインピーダンスの変化が大きくなり、変化を検出しやすくなるからである。
【0052】
また、図3の応力センサー20を引っ張り応力の測定に適用する場合には、図中左右方向を、被測定対象物が引っ張られる方向と合わせると良い。
これは、櫛形電極22,23と外部の配線との接続が取りやすくなるためである。
【0053】
<実施例>
ここで、実際に、本発明の応力センサーを作製して、応力センサーに応力を加えたときの抵抗値の変化を調べた。
【0054】
(サンプル1)
基板1としてPETフィルムを使用して、イオン導電体13としてLi0.5La0.5TiO(略称:LLT)薄膜を、レーザアブレーション法により、膜厚4.83μmで形成した。
また、電極11,15とイオン導電体13との接触部分の面積は、150mmとした。
このようにして、図1及び図2に示した応力センサー10を作製して、これをサンプル1とした。
【0055】
(サンプル2)
基板1としてPETフィルムを使用して、イオン導電体13としてLiSiO(略称LSO)薄膜を、レーザアブレーション法により、膜厚2.1μmで形成した。
また、電極11,15とイオン導電体13との接触部分の面積は、150mmとした。
このようにして、図1及び図2に示した応力センサー10を作製して、これをサンプル2とした。
【0056】
(サンプル3)
基板としてPETフィルムを使用して、イオン導電体21としてAgI(ヨウ化銀)薄膜を形成した。具体的には、蒸着によりAg薄膜を形成した後、I(ヨウ素)を反応させてAgI(ヨウ化銀)薄膜とした。形成されたイオン導電体21のAgI薄膜の膜厚は、1.85μmであった。
また、イオン導電体21の断面積Sは、S=0.185mmとした。
このようにして、図3に示した応力センサー20を作製して、これをサンプル3とした。
【0057】
サンプル1及びサンプル2において、電極11,15に配線を接続して、イオン導電体13を流れる電流を測定できるように、回路を構成した。
サンプル3において、櫛形電極22,23に配線を接続して、イオン導電体21のインピーダンスを測定できるように、回路を構成した。
【0058】
<引っ張り応力試験>
サンプル1及びサンプル2の各応力センサー10に対して、基板のPETフィルムに引っ張り応力Fを加えて、抵抗値Rの変化を調べた。この抵抗値Rは、電極11,15を通じてイオン導電体13に電流を流して、電位差と電流量とから求めた。引っ張り応力Fは、0から大きくしていくように変化させた後に、最大値から0へ小さくしていくように変化させた。
【0059】
サンプル3の応力センサー20に対して、基板のPETフィルムに引っ張り応力Fを加えて、イオン導電体21の周波数100HzにおけるインピーダンスZの変化を調べた。引っ張り応力Fは、0から大きくしていくように変化させた後に、最大値から0へ小さくしていくように変化させる、という過程を3回繰り返し行った。
【0060】
サンプル1の応力センサー10に対する、引っ張り応力の変化による抵抗値の変化を、図4に示す。
サンプル2の応力センサー10に対する、引っ張り応力の変化による抵抗値の変化を、図5に示す。
サンプル3の応力センサー20に対する、引っ張り応力の変化による、周波数100Hzにおけるインピーダンスの変化を、図6に示す。図6中、1st up及び1st downは、繰り返しの1回目の変化を示しており、2nd up及び2nd downは、繰り返しの2回目の変化を示しており、3rd up及び3rd downは、繰り返しの3回目の変化を示している。
【0061】
図4〜図6からわかるように、サンプル1〜サンプル3の全てのデータにおいて、引っ張り応力Fの増加及び引っ張り応力Fの減少のサイクルで履歴が観測された。
これは、基板であるPETフィルムの塑性変形によるものである。
図6の2nd down〜3rd downのように、弾性限界内であれば、再現性を示す。
【0062】
図4〜図6に示されているように、それぞれの応力センサーの抵抗及びインピーダンスは、引っ張り応力の増加に伴い、単調に増加する。
また、応力範囲によっては、良好な線形性を示す。特に、イオン導電体によって異なるが、線形性を示す領域内で、LLTで約10%、LSOで1〜2%、AgIで2〜3%の抵抗変化率が観測された。
【0063】
このように、イオン導電体の抵抗・インピーダンスが外部からの応力に対して敏感に変化するのは、固体内のイオン伝導が構造敏感な物性であるためと考えられる。
従って、固体内のイオン伝導を示す物質群は、全て応力センサーの材料になりうる。
また、適切な基板の種類・寸法を選択することにより、測定可能な範囲を制御することが可能である。
【0064】
<曲げ応力試験>
サンプル1の応力センサー10に対して、基板1のPETフィルムに曲げ応力を加えて、抵抗値Rの変化を調べた。この抵抗値は、電極11,15を通じてイオン導電体13に電流を流して、電位差と電流量とから求めた。
曲げ応力は、曲がっていない状態からイオン導電体13の薄膜の側が凹に曲がっている状態に変化させ(過程1)、その後イオン導電体13の薄膜の側が凸に曲がっている状態まで変化させ(過程2)、曲がっていない状態に戻す(過程3)、というように変化させた。
【0065】
サンプル3の応力センサー20に対して、基板のPETフィルムに曲げ応力を加えて、イオン導電体21の周波数100HzにおけるインピーダンスZの変化を測定した。
曲げ応力は、曲がっていない状態からイオン導電体21の薄膜の側が凹に曲がっている状態に変化させ(過程1)、その後イオン導電体21の薄膜の側が凸に曲がっている状態まで変化させ(過程2)、曲がっていない状態に戻す(過程3)、というように変化させた。
【0066】
サンプル1の応力センサー10に対する、曲げ応力の変化による抵抗値Rの変化を、図7に示す。図7の横軸のHeight/Widthは、図7の右下の挿入図に示すように、イオン導電体を含む薄膜を形成した部分について、高さ(Height)の幅(Width)に対する比を示したものである。なお、高さの符号は、イオン導電体を含む薄膜の側が凸に曲がっている場合を正、イオン導電体を含む薄膜の側が凹に曲がっている状態を負とした。また、図7において、前述の過程1、過程2、過程3をそれぞれ→で示した。
サンプル3の応力センサー20に対する、曲げ応力の変化によるインピーダンスの変化を、図8に示す。図8の横軸のHeight/Widthは、図8の右下の挿入図に示すように、イオン導電体を含む薄膜を形成した部分について、高さ(Height)の幅(Width)に対する比を示したものである。なお、高さの符号は、イオン導電体を含む薄膜の側が凸に曲がっている場合を正、イオン導電体を含む薄膜の側が凹に曲がっている状態を負とした。また、図8においては、前述の過程1、過程2、過程3の図示は省略した。
【0067】
図7からわかるように、曲げ応力に依存して直流抵抗が変化する。そして、イオン導電体を含む薄膜の側が凹のときと凸のときとで、逆方向に直流抵抗が変化する。
また、高さ/幅の比の範囲を−0.4〜+0.4とした測定範囲で、直流抵抗が約9%変化している。これにより、曲げ応力に対して、直流抵抗が敏感に応答している。
【0068】
図8からわかるように、曲げ応力に依存してインピーダンスが変化する。そして、イオン導電体を含む薄膜の側が凹のときと凸のときとで、逆方向にインピーダンスが変化する。
また、高さ/幅の比の範囲を−0.3〜+0.3とした測定範囲で、インピーダンスが約10%変化している。これにより、曲げ応力に対して、インピーダンスが敏感に応答している。
【0069】
これらの結果から、イオン導電体の抵抗やインピーダンスが、曲げ応力に対して敏感に反応することがわかる。
従って、本発明の応力センサーを、曲げ応力の応力センサーとしても使用することが可能である。
【0070】
<圧縮応力試験>
サンプル1及びサンプル2の各応力センサー10に対して、イオン導電体を含む薄膜の側にピストン31で膜面に垂直な方向に一軸性の圧縮応力を加えて、抵抗値Rを測定した(図9及び図10の挿入図を参照)。
この抵抗値Rは、電極11,15を通じてイオン導電体13に電流を流して、電位差と電流量とから求めた。圧縮応力は、250〜560kgW/cmの範囲で変化させ、各圧縮応力について、1回〜5回の抵抗値の測定を行った。
【0071】
サンプル1の応力センサー10に対する、圧縮応力と抵抗値との関係を、図9に示す。
サンプル2の応力センサー10に対する、圧縮応力と抵抗値との関係を、図10に示す。
図9及び図10において、同じ圧縮応力で2回以上測定を行った場合には、測定値の平均値(■印と●印)と測定値の範囲(エラーバー)とを示している。
【0072】
図9及び図10からわかるように、圧縮応力の変化により、抵抗値が変化している。
図9のサンプル1(LLT薄膜)の場合、約4%の抵抗変化がある。図10のサンプル2(LSO薄膜)の場合、約30%の抵抗変化がある。
【0073】
また、いずれのサンプルでも、圧縮応力の増大に伴い、抵抗値が減少する傾向を示している。
これは、恐らくは、一軸性の応力を加えているために、イオン導電体13の薄膜の変形が、圧縮応力の方向である、膜面に垂直な方向においては縮むが、膜面に沿った水平方向(面内方向)においては伸びているためではないかと考えられる。
このように変形するために、イオン伝導のパス(伝導イオンが通過するための骨組み元素で構築された狭い障壁:ボトルネック)が膜面に沿った面内方向に広がって、その結果として、膜面に垂直な方向の伝導がしやすくなったと考えられる。
【0074】
そして、特に、300kgW/cm以下の応力の低い領域において、抵抗値の変化率が大きくなっている。
【0075】
なお、図9及び図10に測定値を示した試料では、実験の都合上、イオン導電体13の薄膜に近い箇所で、電極11,15に配線となるリード線を接続していた。そのため、抵抗値の測定値に、ばらつきが生じている。
抵抗値の測定値のばらつきを低減するためには、電極と配線との接続部を、イオン導電体13が応力を受ける部分から離して設け、電極と配線との接続部が応力を受けにくくすれば良いと考えられる。
例えば、図1及び図2に示した応力センサー10では、電極11,15を図中左右方向に延長して、応力を受ける部分から離して、配線と接続すれば良い。
また例えば、図3に示した応力センサー20では、櫛形電極22,23の図中左右の幹の部分をイオン導電体21から離して、その幹の部分で電極22,23と配線とを接続すれば良い。
【0076】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明による応力センサーは、曲げ、引っ張り、圧縮等の応力が加わる部分の応力を測定又は検出するためのセンサーとして、産業上の利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の応力センサーの一実施の形態の概略構成図(一部内部を示した上面図)である。
【図2】図1の応力センサーの断面図である。
【図3】本発明の応力センサーの他の実施の形態の概略構成図(平面図)である。
【図4】サンプル1の応力センサーの引っ張り応力の大きさと抵抗値との関係を示す図である。
【図5】サンプル2の応力センサーの引っ張り応力の大きさと抵抗値との関係を示す図である。
【図6】サンプル3の応力センサーの引っ張り応力の大きさとインピーダンスとの関係を示す図である。
【図7】サンプル1の応力センサーの曲げ応力の大きさと抵抗値との関係を示す図ある。
【図8】サンプル3の応力センサーの曲げ応力の大きさとインピーダンスとの関係を示す図である。
【図9】サンプル1の応力センサーの圧縮応力の大きさと抵抗値との関係を示す図である。
【図10】サンプル2の応力センサーの圧縮応力の大きさと抵抗値との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0079】
1 基板、11 第1の電極(下部電極)、12,14 可逆電極、13,21 イオン導電体、15 第2の電極(上部電極)、10,20 応力センサー、22 第1の櫛形電極、23 第2の櫛形電極、31 ピストン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン導電体と、
前記イオン導電体に電気的に接続された電極とを含む
応力センサー。
【請求項2】
前記イオン導電体の薄膜が、2つの前記電極に挟まれて構成されている、請求項1に記載の応力センサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−287974(P2009−287974A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−138423(P2008−138423)
【出願日】平成20年5月27日(2008.5.27)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)