説明

応力測定方法

【課題】等速ジョイントのように、回転によって応力が変動する回転装置に発生する応力を、正確に測定する方法を提供する。
【解決手段】赤外線サーモグラフィを用いて複数の方向から等速ジョイントを撮影することにより測定する応力測定方法において、応力変動部と、応力不変部としての基準板70とを互いに一体に回転させる。応力の極大値が現れるタイミングで、応力変動部を含む第1温度分布、及び、基準板70を含む第1基準温度分布を取得し、応力の極小値が現れるタイミングで、応力変動部を含む第2温度分布、及び、基準板70を含む第2基準温度分布を取得する。そして、第1基準温度分布と第2基準温度分布との差に基づいて第1温度分布及び第2温度分布のいずれか一方を補正し、補正した温度分布と他方とを比較した差に基づいて応力変動値を求める。
【選択図】図

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば等速ジョイントや軸受等の回転装置について、その応力を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
等速ジョイントは、ジョイント角が付与されたシャフト間において等速に回転駆動力を伝達できる継ぎ手として、自動車等の車両や産業機械の駆動系に用いられている。この等速ジョイントを最適設計するためには、回転駆動力を伝達している実用状態において、当該等速ジョイントを構成する部材にどのように応力が発生しているかを把握することが重要である。そのためには、例えば有限要素法(FEM)や境界要素法(BEM)等の数値解析により応力分布を求める方法が適用できる。また、歪みゲージを使用して、シャフトに加わる応力を測定するシステムも提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−200953号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の等速ジョイントを構成するのは複雑な形状の複数の部材であり、実用状態ではこれらの各部材の相互作用により回転駆動力を伝達している。そのため、数値解析において適切な負荷条件や境界条件を設定することは困難であり、結果的に、応力を正確に求めることは困難である。また、等速ジョイントは、強い回転駆動力を伝達するために高剛性の部材によって構成されていることが多い。このような高剛性の部材に歪みゲージを使用しても、歪み量が小さく、そのため、応力を正確に求めることは困難である。
【0005】
かかる従来の問題点に鑑み、本発明は、回転装置に発生する応力を正確に測定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、回転装置が回転動作することによって生じる応力を、赤外線サーモグラフィを用いて複数の方向から撮影することにより測定する応力測定方法であって、
1回転中に応力の極大値及び極小値が生じる前記回転装置の応力変動部、及び、1回転中の応力が実質的に一定である応力不変部を互いに一体に回転させ、前記極大値が現れるタイミングで、前記応力変動部を含む第1温度分布、及び、前記応力不変部についての第1基準温度分布を取得し、前記極小値が現れるタイミングで、前記応力変動部を含む第2温度分布、及び、前記応力不変部についての第2基準温度分布を取得し、前記第1基準温度分布と前記第2基準温度分布との差に基づいて前記第1温度分布及び第2温度分布のいずれか一方を補正し、補正した温度分布と他方とを比較した差に基づいて応力変動値を求める、というものである。
【0007】
上記のような応力測定方法では、温度分布に基づいて応力を求めるので、数値解析のような条件設定の難しさが無く、また、微小な変位を測定する難しさもない。赤外線サーモグラフィは複数方向からの撮影になるので撮影条件が異なり、このことが温度誤差を生じさせる要因となるが、応力とは関係ない第1,第2基準温度分布の差に基づく補正を行うことによって、温度誤差を排除することができる。
【0008】
(2)また、上記(1)の応力測定方法において、応力不変部は、回転装置の外側に設けた応力測定用の別部材である。
この場合、赤外線サーモグラフィで撮影しやすい平板等の部材を用いることができる。
【0009】
(3)また、上記(1)の応力測定方法において、応力不変部は、回転装置の外面の一部であってもよい。
この場合、別部材を用意しなくてよい。
【0010】
(4)また、上記(1)又は(2)の応力測定方法において、第1基準温度分布と第2基準温度分布との差とは、第1基準温度分布の全画素の温度の平均値と、第2基準温度分布の全画素の温度の平均値との差であってもよい。
この場合、平均をとることによって、局部的かつ突発的な画素の温度に影響されず、全体として妥当な値を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の応力測定方法によれば、回転装置に発生する応力を正確に測定することができ、最適設計が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】回転装置としての等速ジョイントの軸方向断面図である。
【図2】等速ジョイントの赤外線応力測定を示す模式図である。
【図3】赤外線カメラ及びミラーの配置を示す模式図である。
【図4】外輪の着目箇所を示す模式図である。
【図5】外輪の着目箇所を示す説明図である。
【図6】応力測定方法の工程の流れを示す図である。
【図7】着目箇所の荷重変動を示すグラフである。
【図8】補正用の基準板を等速ジョイントに取り付けた図であり、(a)は正面図、(b)は正面図の左側から等速ジョイントを見た図である。
【図9】赤外線サーモグラフィの画像の一例を示す図である。
【図10】補正の要領を示す図である。
【図11】補正の第2実施例における基準部の設け方を示す図である。
【図12】外輪の赤外線サーモグラフィにおける、外輪の周方向の所定範囲について、画像上の横方向の位置に対応して温度がどのように変化しているかの一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る応力測定方法について図面を参照しつつ説明する。
《等速ジョイントの構造》
まず、応力測定の対象となる等速ジョイントの構造について説明する。
図1は、回転装置としての等速ジョイント1の軸方向断面図である。本実施形態の等速ジョイント1は、固定式ボール型等速ジョイント(一般に「ツェッパ型等速ジョイント」とも称する。)であり、外輪10と、内輪20と、ボール30と、保持器40と、シャフト50とを備えている。
【0014】
外輪10は、カップ状に形成されており、一体的に形成されたシャフト10sが他の動力伝達軸(図示せず。)に連結される。外輪10の筒状部分の内周面には、外輪回転軸方向(図1の左右方向)に延びる外輪ボール溝11が、外輪回転軸の周方向に等間隔に6本形成されている。各外輪ボール溝11における外輪回転軸に直交する断面形状は、ほぼ円弧凹状をなしている。
【0015】
内輪20は、環状に形成され、外輪10の内側に配置されている。この内輪20の外周面には、内輪回転軸方向(図1の左右方向)に延びる内輪ボール溝21が、内輪回転軸の周方向に等間隔に6本形成されている。各内輪ボール溝21における内輪回転軸に直交する断面形状は、ほぼ円弧凹状をなしている。6本の内輪ボール溝21は、6本の外輪ボール溝11にそれぞれ対向するように位置している。また、内輪20の内周面には、内歯スプライン22が形成されている。この内歯スプライン22は、シャフト50の端部に形成された外歯スプライン51に圧入嵌合される。
【0016】
6個のボール30は、それぞれ、外側が外輪10の外輪ボール溝11に、内側が内輪20の内輪ボール溝21に嵌っている。そして、6個のボール30はそれぞれ、外輪ボール溝11及び内輪ボール溝21に沿って転動自在であるとともに、周方向には、外輪ボール溝11及び内輪ボール溝21に対して動きが規制されており、これによって、外輪10と内輪20とを周方向に互いにロックしている。従って、ボール30は、外輪10と内輪20との間で回転駆動力を伝達する役目を担っている。
【0017】
環状の保持器40は、外輪10の内周面と内輪20の外周面との間に配置されている。保持器40の内周面は、内輪20の最外周面にほぼ対応する部分球面凹状に形成されている。また、保持器40の外周面は、部分球面凸状に形成されている。そして、保持器40の内周面の球面中心と外周面の球面中心は、ジョイント回転中心に対して、軸方向に等距離だけそれぞれ反対側にオフセットさせてある。また、保持器40には、周方向に等間隔に6個の開口窓部41が形成されている。この開口窓部41は、外輪ボール溝11および内輪ボール溝21と同数形成されている。そして、それぞれの開口窓部41には、ボール30が嵌め込まれている。つまり、保持器40は、6個のボール30を保持している。
【0018】
上記シャフト50の他端部には、応力測定対象ではない補助等速ジョイント2(図2参照。)が組み付けられている。この補助等速ジョイント2は、シャフト50と後述する荷重付与部62を連結し、荷重付与部62による回転駆動力をシャフト50へ伝達可能としている。
【0019】
等速ジョイント1は、上述したような構成となっているが、応力測定を行う試験体としての等速ジョイント1の表面には、黒色塗料が塗布される。例えば、外輪10の表面に合成樹脂などからなる艶消し黒色の塗料が20〜25μm程度の厚さに塗布される。これにより、試験体の表面の熱放射率は、約0.94(黒体を1.00とした場合)となる。このように熱放射率を高くすることで、熱放射によって放出する熱量を多くすることができるので、試験体の温度変動をより確実に検出することができる。
【0020】
《応力測定装置》
次に、等速ジョイント1の外輪10を測定対象とした応力測定装置60について説明する。図2は、等速ジョイント1の赤外線応力測定を示す模式図である。図3は、赤外線カメラ及びミラーの配置を示す模式図である。応力測定装置60は、図2および図3に示すように、軸支台61と、荷重付与部62と、赤外線カメラ63と、ロックインプロセッサ64と、演算部65と、表示部66と、2枚のミラー67,68とを備える。
【0021】
軸支台61は、等速ジョイント1の一端である外輪10を、軸受を介して回転可能に支持している。荷重付与部62は、軸支台61の軸方向に対向して配置され、駆動モータ62aを介して等速ジョイント1の他端であるシャフト50を保持している。また、荷重付与部62は、等速ジョイント1に所定のジョイント角が付与された状態が維持されるように、外輪10及び内輪20の軸心を位置決めしている。これにより、外輪10と内輪20の位置関係が設定されている。この荷重付与部62は、軸支台61に回転可能に支持された外輪10に対して、駆動モータ62aにより内側部材である内輪20から回転駆動力を付与可能となっている。
【0022】
赤外線カメラ63は、物体の表面から放出される赤外線を検出し、赤外線センサにより電気信号に変換し、画像信号として出力する。図3に示すように、赤外線カメラ63は、応力の測定対象である外輪10の着目箇所に向けて設置されている。
【0023】
図4は、外輪の着目箇所を示す模式図、また、図5は、外輪の着目箇所を示す説明図である。外輪10の着目箇所は、図4及び図5に示すように、外輪ボール溝11の外輪開口側の端部(以下、A領域という。)としている。このA領域は、等速ジョイント1がジョイント角を付与された状態で回転駆動力を伝達する際に、外輪ボール溝11を転動するボール30が到達若しくは最も接近する領域である。A領域にボール30が到達若しくは最も接近した時に、A領域における負荷が極大値となる。よって、ボール30が到達若しくは最も接近した状態にある位相のA領域を、赤外線カメラ63で正面から撮影して第1温度分布を得るようにしている。
【0024】
また、外輪10の第1温度分布の撮影方向の位相を0度としたとき、外輪10が半回転した180度の位相では、外輪ボール溝11を転動するボール30がA領域から最も遠ざかる状態となり、このとき、A領域における負荷が極小値となる。よって、第1温度分布の撮影方向と位相が180度ずれた位置(背面)のA領域を、赤外線カメラ63で撮影して第2温度分布を得る。なお、180度の位相では、A領域における最小負荷が無負荷となるので、A領域に発生する応力絶対値を測定することができる。
【0025】
第1温度分布と第2温度分布とは、2枚のミラー67,68を利用して1台の赤外線カメラ63で同時に撮影する。図3に示すように、外輪10の0度の位相と対向するように赤外線カメラ63が設置される。そして、外輪10の背面側(位相180度側)には、2枚のミラー67,68が開き角度90度となるように設置される。2枚のミラー67,68は、外輪10の位相180度の面の像が、2枚のミラー67,68を反射して赤外線カメラ63に到達するように位置調整されている。これにより、1台の赤外線カメラ63で、第1温度分布と第2温度分布とを同時に撮影することができる。
【0026】
図2におけるロックインプロセッサ64は、赤外線カメラ63により出力された画像信号から、対象とする熱弾性効果による温度変動の波形をロックイン処理する。すなわち、赤外線カメラ63により出力された画像信号から所定の周波数成分のみを抽出する。具体的には、荷重(応力)変動に同期する画像信号、または、荷重(応力)変動に同期する周波数を含む所定範囲の周波数帯の画像信号のみを抽出する。これにより、S/N比を向上させている。
【0027】
演算部65は、ロックインプロセッサ64により出力される画像信号を受信する。そして、この画像信号から得られる等速ジョイント1の温度変動の分布に基づき、等速ジョイント1の応力分布を算出する。表示部66は、この演算部65による算出結果をモニタ上に表示する。
【0028】
《応力測定方法》
次に、基本的な応力測定方法の手順について図6および図7を参照して説明する。図6は、応力測定方法の工程の流れを示す図である。図7は、着目箇所の荷重変動を示すグラフである。
【0029】
まず、荷重付与工程101では、応力測定装置60の荷重付与部62の駆動モータ62aにより、内輪20に回転力を付与する。これにより、ボール30を介して内輪20から外輪10へ回転駆動力(トルク)が付与される。このとき、位置決めされた外輪10の軸心および内輪20の軸心は、ジョイント角が付与された状態を維持している。よって、等速ジョイント1は、実用状態と同様に作動することになる。このとき、伝達部材であるボール30は、等速ジョイントが1回転する間に、外輪10の外輪ボール溝11及び内輪20の内輪ボール溝21を一往復する。つまり、ボール30は、図1の左右方向に往復運動する。この往復運動の幅は、ジョイント角によって変化するものであり、ジョイント角が大きく付与されるほど大きくなる。
【0030】
このように、荷重付与部62によって等速ジョイント1に加えられた回転駆動力により、外輪10とボール30との間、及び、内輪20とボール30との間で、相互に所定周期で荷重を加え合うことになる。このとき、外輪10に生じる荷重変動は、図7に示すように、一定周期の波形となる。この場合、A領域における負荷が極大値となる位相(0度)の測定点が図7の波形の山部に表れ、A領域における負荷が極小値となる位相(180度)の測定点が図7の波形の谷部に表れる。つまり、外輪10の荷重変動は、外輪10に所定周期で繰り返し加えられる荷重となり、赤外線応力測定における熱弾性効果による温度変動を生じるようになる。
【0031】
次の温度測定工程102では、赤外線カメラ63が外輪10の温度変動により表面から放出される赤外線を検出する。この温度測定工程102では、赤外線カメラ63により、赤外線カメラ63の正面にある、A領域において負荷が極大値となる位相(0度)の表面を撮影した第1温度分布と、外輪10の背面側ある、A領域において負荷が極小値となる位相(180度)の表面を、ミラー67,68を介して撮影した第2温度分布を得る。
【0032】
次の温度変化演算工程103では、A領域の温度変化を演算する。温度測定工程102で得られた第1温度分布と第2温度分布の同一箇所は、半回転ずれて表れるため、半回転分フレームをずらして組み合わせることにより、第1温度分布と第2温度分布の差をとり、A領域の温度変化を演算する。
最後の応力分布算出工程104では、演算部65が、温度変化演算に基づいて、A領域の応力分布を算出する。そして、この応力分布の算出結果は、表示部66のモニタ上に表示される。
【0033】
以上のように、上記の応力測定方法によれば、荷重付与工程101と、温度測定工程102と、温度変化演算工程103と、応力分布算出工程104とを順次行うことによって、等速ジョイント1の実用状態により近い状態で等速ジョイント1を駆動させながら、A領域の応力分布を測定するようにしているため、A領域において実際に生じる応力分布を正確に測定することができる。これにより、外輪10の最弱部位となり易い実用状態におけるA領域の応力分布を正確に把握し、外輪10の十分な強度を確保しつつ薄肉化を図るなど、外輪10の最適な形状や肉厚を設計することができる。
また、上記のような応力測定方法では、温度分布に基づいて応力を求めるので、数値解析のような条件設定の難しさが無く、また、歪みゲージを用いて微小な変位を測定するような難しさもない。
【0034】
《応力測定方法における補正:第1実施例》
ところが、上記の基本的な応力測定方法において、ミラー67,68を経由しての背面撮影と、ミラー67,68を経由しない正面撮影とでは、撮影条件が異なる。撮影条件が異なると、実物の温度は同じであっても、検出する温度に差が出る。また、正面撮影と背面撮影とでは、応力以外の何らかの外乱により温度測定に誤差が入り込む可能性もある。
すなわち、等速ジョイントのような回転による応力変動を伴う回転装置についての赤外線サーモグラフィは、複数方向から撮影するので、撮影条件が異なり、このことが、温度測定の誤差を生じさせる原因となる。そこで、このような誤差を無くすための対策を講じる。なお、後述の補正演算は、図6における温度変化演算工程103に含めることができる。
【0035】
図8は、補正用の基準板70を等速ジョイント1に取り付けた図であり、(a)は正面図、(b)は正面図の左側から等速ジョイント1を見た図である。基準板70は例えば、赤外線サーモグラフィで撮影し易い平板であり、正面から見ると略「コ」の字状に形成されている。また、基準板70は例えば、外輪1と同様の材質であり、同様の黒色塗料が塗布されている。この基準板70は、外輪10の外周面に沿っているが、若干の隙間が空けてあり、外輪10外周面に直接固定はされない。基準板70は、外輪10のシャフト10sに固定され、外輪10と一体に回転する。基準板70は、外輪10に発生する応力とは無関係で、1回転中の応力が実質的に0で一定な「応力不変部」である。
【0036】
図9は、赤外線サーモグラフィの画像の一例を示す図である。(a)は、基準板70が撮影方向に対して直交している状態で、ミラーを経由しない直視の正面画像である。この正面画像には、例えば応力の極大値が現れるタイミングのA領域を含む外輪10の温度分布(第1温度分布)と、基準板70の温度分布(第1基準温度分布)とが含まれている。半回転すると、この正面画像と物理的に同一部分は、ミラー67,68経由で(b)に示す背面画像として現れる。すなわち、この背面画像には、応力の極小値が現れるタイミングのA領域を含む外輪10の温度分布(第2温度分布)と、基準板70の温度分布(第2基準温度分布)とが含まれている。本来、応力変化部位を除けば半回転しても温度は同一のはずであるが、撮影条件の違い(外乱も含む。)により、温度差が出る。なお、(a)、(b)において、基準板70や外輪10が画像のどの位置に写るかは予めわかっている。
【0037】
そこで、演算部65は、(a)における基準板70に対応する全画素の温度分布(第1基準温度分布)を平均して、正面画像での平均温度Tを求める。同様に、演算部65は、(b)における基準板70に対応する全画素の温度分布(第2基準温度分布)を平均して、背面画像での平均温度Tを求める。そして、演算部65は、温度差θ=T−Tを求め、(b)の画像全体に対して、画素ごとに温度差θを加算する。これにより、(b)の画像(第2温度分布、第2基準温度分布)は、撮影条件に起因する温度差が解消された(c)の画像に補正される。そして、(a)、(c)の画像における外輪10の温度差分布を求め、応力に変換すれば、応力分布が得られる。
【0038】
上記のような応力測定方法における補正によれば、応力とは関係ない第1,第2基準温度分布の差に基づく補正を行うことによって、撮影条件の違いに起因する温度誤差を排除することができる。このようにして、等速ジョイント1に発生する応力を正確に測定することができる。また、基準板70の温度の平均をとることによって、局部的かつ突発的な画素の温度に影響されず、全体として妥当な値を得ることができる。
【0039】
なお、温度分布・基準温度分布に関する第1,第2とは、便宜的なものであり、逆でもよい。すなわち、極大値が現れるタイミングの温度分布・基準温度分布が第1で、極小値が現れるタイミングの温度分布・基準温度分布が第2、というパターンの他、逆に、極小値が現れるタイミングの温度分布・基準温度分布が第1で、極大値が現れるタイミングの温度分布・基準温度分布が第2、であってもよい。
また、(b)の画像を(c)の画像に補正する以外に、(a)の画像を(b)の画像の温度に近づけるように補正した後、それを、(b)の画像と比較して温度差分布・応力分布を求めることも可能である。
【0040】
なお、上記のように平均をとることとは異なる補正も可能である。基準板70の画像は、全体として温度均一とは必ずしも言えず、例えば左側ほど温度が高く、右側ほど温度が低い、というような温度分布の傾向がある場合も考えられる。このような場合には、平均よりも、画素ごとの補正値を求める方が、より緻密な補正を行うことができる。
【0041】
図10は、このような補正の要領を示す図である。基準板70の画像において、例えば、正面画像では横方向(X方向)への温度変化がほとんど無く、他方、背面画像では図示のような左高・右低の傾向があるとする。この場合、正面画像と背面画像との温度差はXに応じて変化し、左端では最小値θ、右端では最大値θとなる。そこで、このような場合には、外輪の画像(図示せず。)の図のX方向の位置に応じて補正値Yを以下の式に基づいて変えればよい。
Y={(θ−θ)/W}・X+θ
但し、Wは、画像上の基準板70iの幅である。このような補正によれば、外輪の画像に対応した画素ごとに補正値を変化させて、緻密な補正を行うことができる。なお、基準板70の画像の縦方向に温度変化の傾向がある場合も同様に補正を行うことができる。
【0042】
《応力測定方法における補正:第2実施例》
図11は、補正の第2実施例における基準部の設け方を示す図である。本実施例では応力測定時に基準板70は設けないが、その代わりに、1回転中に応力が実質的にほぼ0で一定である基準部(応力不変部)80を、外輪10の外面の一部(例えば2箇所)とする。この場合、前述の基準板70という別部材を設けなくてよいという利点がある。
【0043】
上記基準部80は例えば、周方向に6条設けられている外輪ボール溝11(図1)の、隣接する2つの溝の中間であり、また、カップ状の外輪10(図1)の自由端(図1の右端)に近い部位である。
【0044】
図12は、外輪10の赤外線サーモグラフィにおける外輪10の周方向の所定範囲(約60度の範囲)について、画像上の横方向の位置に対応して温度がどのように変化しているかの一例を示すグラフである。実線及び破線の一方は、応力の極大値が現れるタイミングの正面(又は背面)画像に基づく温度分布(第1温度分布)、他方は、応力の極小値が現れるタイミングの背面(又は正面)画像に基づく温度分布(第2温度分布)を示している。ここで、基準部80については、本来、温度は一致するはずである。そこで、基準部80に対応するグラフ上の部位(第1,第2基準温度分布)が互いに一致するように補正する。これにより、図示のように応力変化による温度変化分ΔTが現れる。これに基づいて、応力変化を求めることができる。
【0045】
応力測定方法における上記第2実施例の補正も、第1実施例の補正と同様に、撮影条件の違いに起因する温度誤差を排除することができる。
【0046】
《その他》
なお、上記の応力測定方法は、等速ジョイントを測定対象としたが、対象はこれに限定されず、種々の回転装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
1:等速ジョイント(回転装置)、63:赤外線カメラ、70:基準板(応力不変部)、80:基準部(応力不変部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転装置が回転動作することによって生じる応力を、赤外線サーモグラフィを用いて複数の方向から撮影することにより測定する応力測定方法であって、
1回転中に応力の極大値及び極小値が生じる前記回転装置の応力変動部、及び、1回転中の応力が実質的に一定である応力不変部を互いに一体に回転させ、
前記極大値が現れるタイミングで、前記応力変動部を含む第1温度分布、及び、前記応力不変部についての第1基準温度分布を取得し、
前記極小値が現れるタイミングで、前記応力変動部を含む第2温度分布、及び、前記応力不変部についての第2基準温度分布を取得し、
前記第1基準温度分布と前記第2基準温度分布との差に基づいて前記第1温度分布及び第2温度分布のいずれか一方を補正し、
補正した温度分布と他方とを比較した差に基づいて応力変動値を求める、
ことを特徴とする応力測定方法。
【請求項2】
前記応力不変部は、前記回転装置の外側に設けた応力測定用の別部材である請求項1記載の応力測定方法。
【請求項3】
前記応力不変部は、前記回転装置の外面の一部である請求項1記載の応力測定方法。
【請求項4】
前記第1基準温度分布と前記第2基準温度分布との差とは、前記第1基準温度分布の全画素の温度の平均値と、前記第2基準温度分布の全画素の温度の平均値との差である請求項1又は2に記載の応力測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−103122(P2012−103122A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252147(P2010−252147)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)