説明

応力測定装置及び応力測定方法

【課題】異種材料と樹脂試料との界面部分に生じる応力のうち、特定方向に向く成分の大きさを、正確に測定する。
【解決手段】測定対象樹脂の応力を測定する荷重計と、前記荷重計に支持された第1部材とを具備する。前記第1部材は、前記測定対象樹脂に生じた応力により一軸方向に沿う荷重が加えられるように、前記測定対象樹脂と固着している。前記荷重計は、前記第1部材に加わる荷重を計測することにより、前記測定対象樹脂に生じた応力のうちの前記一軸方向に沿う成分を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力測定装置及び応力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂は、液体状態から固体状態に変化することにより、成形される。例えば、熱硬化性樹脂は、主剤である樹脂(高分子)と硬化剤が反応することにより、液体から固体になる(硬化する)。一方、熱可塑性樹脂は、溶融温度から冷却されるにしたがって、分子の運動が妨げられ、液体から固体となる。通常、固体状態での樹脂の容積は、液体状態のときの容積よりも小さい。従って、樹脂は、液体状態から固体状態に変化するとき、収縮する。このような収縮は、成形収縮と呼ばれる。成形収縮により、樹脂には、応力が生じる。
【0003】
樹脂を成形して用いる場合、収縮時に発生する応力を正確に知ることが重要である。
【0004】
関連して、特許文献1(特開昭63−18229)には、金属板と樹脂とを密着させ、金属板と樹脂の収縮率の差により生じるたわみ量を測定する、収縮応力測定方法が記載されている。
【0005】
また、特許文献2(特開平2−221849)には、磁心コイルを評価用の熱硬化性樹脂に浸漬し、磁心コイルのインダクタンスを測定することにより、樹脂の収縮時の収縮力を測定することが記載されている。
【0006】
また、樹脂の成形収縮量(率)を求め、成形収縮量に基づいて、間接的に、樹脂の応力を求める方法も考えられる。
【0007】
成形収縮量を測定する手法として、歪みゲージ法が知られている。非特許文献1(新保正樹ら、「充てんエポキシ樹脂の内部応力」 高分子論文集、Vol.40 No.1 pp.1−8(1983))、及び非特許文献2(越智光一、「エポキシ樹脂硬化物の内部応力(Review)−その測定方法と低減法−」、日本接着協会誌、Vol.25,No.9(1989))には、歪みゲージ法に関する記載がある。図1は、歪みゲージ法の一例を説明するための説明図である。歪みゲージ法では、シリコンゴム板103上に、円筒型の外枠105が配置される。外枠105の中央部には、金属製リング102が配置される。樹脂104は、金属製リング102と外枠105との間に配置される。そして、ひずみゲージ101が、樹脂104中に埋め込まれる。そして、ひずみゲージ101の歪み量を検出することにより、樹脂104の応力が測定される。
【0008】
また、歪みゲージ法に関する他の技術として、及び特許文献3(特開昭61−75247)に記載された技術が挙げられる。
【0009】
また、成形収縮量を求める他の手法として、密度比較法、寸法比較法、ディラトメータ法、および浮力法などが知られている。密度比較法は、硬化前および硬化後の樹脂の密度に基づいて、硬化収縮率を算出する方法である。寸法比較法は、一定寸法の金型(棒状のもの)に樹脂を注型し、硬化後の寸法変化により硬化収縮率を算出する方法である。ディラトメータ法は、ディラトメータ(dilatometer、ダイラトメータ、熱膨張計など)により容積変化を直読する方法である。浮力法は、樹脂を薄いゴム袋に入れ、水中(またはシリコーンオイル)中での浮力変化により硬化収縮を算出する方法である。
【0010】
その他に本発明者が知りえた関連技術として、特許文献4(特開2000−121464)に記載された樹脂成形体の密着力測定装置、特許文献5(特開昭63−163279)に記載された装置、特許文献6(特開昭61−271489)に記載された接着剤硬化終了時測定方法、及び特許文献7(特開2000−230895)に記載された硬化特性測定装置が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭63−18229号公報
【特許文献2】特開平2−221849号公報
【特許文献3】特開昭61−75247号公報
【特許文献4】特開2000−121464号公報
【特許文献5】特開昭63−163279号公報
【特許文献6】特開昭61−271489号公報
【特許文献7】特開2000−230895号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】新保正樹ら、「充てんエポキシ樹脂の内部応力」 高分子論文集、Vol.40 No.1 pp.1−8(1983)
【非特許文献2】越智光一、「エポキシ樹脂硬化物の内部応力(Review)−その測定方法と低減法−」、日本接着協会誌、Vol.25,No.9(1989)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
樹脂の収縮応力は、正確に測定されることが求められる。特許文献1に記載された方法や、樹脂の成形収縮量に基づいて応力を求める方法では、応力が間接的に求められることになるため、正確さが損なわれる。また、樹脂のゴム状領域における弾性率は、ガラス状領域における弾性率よりも十分に小さく、例えば百分の一程度である。従って、熱膨張係数に由来する発生応力が微小であるという理由から、ガラス転移温度(Tg)以上の温度で発生する応力は、多くの場合無視される。すなわち、樹脂が完全に硬化するまでに発生する応力については、無視される。しかし、実際には、応力は、樹脂が完全に硬化する前にも発生する。この点からも、間接的に求めた応力は、実際の応力とは異なることがある。
【0014】
一方、特許文献2に記載された技術によれば、樹脂単独の内部応力の変化を測定することができる。しかし、樹脂の応力が問題となるのは、樹脂が異種材料に接合されている場合である。例えば、銅板に樹脂を塗布し、高温で硬化させて室温まで冷却したとする。この場合、樹脂と銅板との界面部分に生じる収縮応力により、樹脂が銅板から剥離したり、銅板が反ったりしてしまうことがある。このような不具合に対処するためには、樹脂と異種材料との界面部分に生じる応力を知ることが重要である。また、求めた応力が、どの方向を向く成分であるかを知ることが重要である。しかしながら、既述の特許文献2に記載された技術では、樹脂単独の内部応力については測定できるが、異種材料との界面に発生する応力を直接知ることはできない。当然ながら、測定した応力がどの方向を向くものであるかについても、知ることはできない。
【0015】
また、異種材料との界面部分に生じる応力は、成形(硬化工程)の途中で発生するものと考えられる。図2は、熱硬化性樹脂の温度を室温から硬化温度まで上昇させ、その後、室温まで冷却したときの特性の一例を示している。図2(a)乃至(c)において、横軸は時間を示している。図2(a)の縦軸は、温度を示している。図2(b)の縦軸は、寸法(容量)を示している。図2(c)の縦軸は、応力を示している。図2(a)に示されるように、A点において、樹脂の加熱が開始されている。そして、B点において、樹脂温度が硬化温度に達している。その後、C点まで硬化温度が維持されている。B−C点間にて、樹脂は硬化する。その後、E点まで冷却が行われている。図2(b)に示されるように、樹脂は、A点からB点の間で、加熱により熱膨張する。B点からC点の間では、樹脂は、硬化により、収縮している。更に、C点からE点までの間では、樹脂は、冷却により熱収縮している。樹脂の成形収縮量は、硬化温度における硬化収縮量(B点からC点まで)と、硬化後の室温までの冷却による熱収縮量(C点からE点まで)とを合わせたものである。しかしながら、樹脂が液状であれば、たとえ膨張または収縮しても、異種材料との界面部分に応力は働かないと考えられる。そのため、図2(c)に示されるように、実際に界面部分に応力が発生し始めるのは、樹脂が液体状態から固体状態に変化する、B点からC点の間のある時点であると予想される。但し、どの時点で樹脂の異種材料との界面部分に応力が発生し始めるのかは、正確にはわからない。また、応力が発生し始める時点は、同一の樹脂であっても、硬化温度、加熱速度、加熱時間などによって変化することが想像される。
【0016】
樹脂の特性をより詳細に把握するためには、硬化時のどの時点で異種材料との界面に応力が生じ始めるかを知ることが重要である。既述の特許文献1、2に記載された技術では、異種材料との界面部分に、どの時点で界面部分に応力が発生し始めるのかについても、知ることもできない。
【0017】
すなわち、本発明の課題は、異種材料との界面部分において特定の方向に向く応力を正確に知ることのできる、応力測定装置及び応力測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明に係る応力測定装置は、測定対象樹脂の応力を測定する荷重計と、前記荷重計に支持された第1部材とを具備する。前記第1部材は、前記測定対象樹脂に生じる応力により一軸方向に沿う荷重が加えられるように、前記測定対象樹脂と固着している。前記荷重計は、前記第1部材に加わる荷重を計測することにより、前記測定対象樹脂に生じた応力のうちの前記一軸方向に沿う成分を測定する。
【0019】
本発明に係る応力測定方法は、前記第1部材に、測定対象樹脂に生じた応力により前記第1部材に一軸方向に沿う荷重が加えられるように、測定対象樹脂を固着させる工程と、前記第1部材に加わる荷重を計測することにより、前記測定対象樹脂に生じた応力のうちの前記一軸方向に沿う成分を測定する工程とを具備する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、異種材料との界面部分において特定の方向に向く応力を正確に知ることのできる、応力測定装置及び応力測定方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】歪みゲージ法の一例を説明するための説明図である。
【図2】熱硬化性樹脂の特性の一例を示す図である。
【図3】第1の実施形態に係る応力測定装置を示す概略図である。
【図4】第2の実施形態に係る応力測定機構を示す概略図である。
【図5】第3の実施形態に係る応力測定機構を示す概略図である。
【図6】第4の実施形態に係る応力測定機構を示す概略図である。
【図7】第5の実施形態に係る応力測定機構を示す概略図である。
【図8】実験例の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第1の実施形態)
図面を参照しつつ、本発明の第1の実施形態について詳細に説明する。
【0023】
図3は、本実施形態に係る応力測定装置を示す概略図である。この応力測定装置は、断熱容器7と、応力測定機構70と、温度測定機構50と、制御装置12と、ヒータ5とを備えている。
【0024】
応力測定機構70は、試料1(測定対象樹脂)の応力を測定する機構である。応力測定機構70は、シリンジ2と、第1部材40と、第2部材30と、ロードセル4(荷重計)と、一対の拘束部材(13、14)を備えている。一対の拘束部材(13、14)は、第1方向に沿って並んでいる。ロードセル4、第1部材40、シリンジ2、及び第2部材30は、一対の拘束部材(13、14)間において、第1方向に沿って配置されている。
【0025】
シリンジ2は、断熱容器7内に配置されている。シリンジ2は、筒型である。シリンジ2は、両端面が第1方向に沿うように、配置されている。シリンジ2内には、試料1が入れられている。シリンジ2の内壁には、試料1とシリンジ2とが接着してしまうことを防ぐために、離型剤21が配置されている。
【0026】
拘束部材13は、クランプなどに例示され、第2部材30の変位を拘束している。同様に、拘束部材14もクランプなどに例示される。拘束部材14は、ロードセル4を拘束している。
【0027】
第2部材30は、試料1の一端を拘束するために設けられている。第2部材30は、プランジャ3と、プランジャヘッド31とを備えている。プランジャ3は、基端部において拘束部材13に拘束されている。プランジャ3は、拘束部材13から第1方向に沿って、断熱容器7内に延びている。そして、プランジャ3は、シリンジ2の一端から、シリンジ2内に挿入されている。プランジャヘッド31は、プランジャ3の先端部に取り付けられている。すなわち、プランジャヘッド31は、シリンジ2の内部に配置されている。プランジャヘッド31は、カップリング剤32により、試料1に固着されている。カップリング剤32としては、試料1と接着する材料、または接着を促進する材料が用いられる。尚、試料1とプランジャヘッド31とを確実に接触させるために、シリンジ2にベンチレーション(図示せず)が設けられていてもよい。
【0028】
第1部材40は、第2部材30と同様に、プランジャ42とプランジャヘッド41とを備えている。プランジャ42は、基端部でロードセル4に支持されている。プランジャ42は、ロードセル4から第1方向に沿って断熱容器7内に延びている。そして、プランジャ42は、シリンジ2の他端から、シリンジ2内に挿入されている。プランジャヘッド41は、プランジャ42の先端部に取り付けられている。プランジャヘッド41は、プランジャヘッド31と同様に、シリンジ2内でカップリング剤32を介して試料1に固着されている。
【0029】
ロードセル4は、試料1の収縮応力を測定するために設けられている。ロードセル4は、第1部材40に働く引張力を測定する。
【0030】
ヒータ5は、断熱容器7内に配置されており、断熱容器7内を加熱する機能を備えている。ヒータ5は、制御装置12に接続されている。
【0031】
温度測定機構50は、試料1の温度を測定するために設けられている。温度測定機構50は、応力測定機構70と同様に、シリンジ55、プランジャ51及びプランジャヘッド52、プランジャ54及びプランジャヘッド53を備えている。但し、温度測定機構50には、ロードセルや拘束部材は必要ない。シリンジ55は、シリンジ2と同様に、断熱容器7内に配置されている。シリンジ55内には、温度測定用試料11として、試料1と同じ樹脂が封入されている。また、温度測定機構50は、熱電対6を備えている。熱電対6の一端は、温度測定用試料11に接している。熱電対6は、制御装置12に接続されている。
【0032】
制御装置12は、例えばコンピュータにより実現される。制御装置12は、温度制御部8と、データ記録部9と、計算部10とを備えている。温度制御部8は、ヒータ5を、断熱容器7の内部が所望の温度となるように、制御する。データ記録部9は、ロードセル4により計測された荷重をデータとして取得し、記録する機能を備えている。また、データ記録部9は、熱電対6によって、温度測定用試料11の温度を取得し、これを試料1の温度として記録する機能を備えている。計算部10は、データ記録部9に記録されたデータ等を用いて、各種の計算を行う。
【0033】
続いて、上述の応力測定装置の動作方法について説明する。まず、試料1として、未硬化の樹脂をシリンジ2内に封入する。そして、断熱容器7内の温度を、室温から試料1の硬化温度にまで上昇させ、硬化温度に維持する。そして、硬化反応の終了後、断熱容器7の内部温度を、室温にまで冷却する。
【0034】
試料1の温度が硬化温度に達すると、試料1の硬化が進行する。これにより、試料1は収縮する。このとき、試料1に固着された第1部材40は、試料1により、第1方向に沿って引っ張られる。このときの引張力が、ロードセル4により測定される。ここで、シリンジ2と試料1とは接着していない。そのため、ロードセル4により第1部材40の荷重を測定することにより、試料1の界面部分に働く応力のうちの一軸方向(第1方向)に沿う成分だけを、直接的に測定することができる。試料1の界面部分に働く応力を、成形収縮量などからの換算によらず、直接に測定することができる。これにより、精度良く、応力を求めることができる。また、一軸方向に沿う成分だけが測定されるため、求めた応力の向きを正しく把握することが可能である。
【0035】
液状である未硬化樹脂を硬化させる際、樹脂は、金型や容器などの被着体に接着している。樹脂と異種材料との間の界面部分に働く応力は、被着体の機械的特性、寸法、構造などによって変化する。樹脂と異種材料との界面部分に働く応力を測定する際には、このような点を考慮に入れて測定を行う必要がある。本実施形態では、一軸方向に働く力だけが応力として測定されるため、プランジャなどの測定系の影響を算出することが容易である。
【0036】
また、本実施形態では、断熱容器7の加熱及び冷却を行っている間、ロードセル4によって荷重を測定し続けることができる。従って、樹脂が未硬化状態(液体状態)から完全硬化状態(固体状態)に変化する間、全ての硬化度における応力を連続して測定することができる。
【0037】
尚、本実施形態では、試料1が収縮する場合について説明した。但し、試料1が膨張する場合であっても、第1部材40の加わる荷重を測定することにより、試料1に生じる応力のうちの一軸方向に沿う成分だけを測定することが可能である。
【0038】
(第2の実施形態)
続いて、第2の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態に対して、応力測定機構70の構成が変更されている。その他の点については、第1の実施形態と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
【0039】
図4は、応力測定機構70を示す概略図である。
【0040】
本実施形態では、シリンジ33が、第2部材30として用いられる。具体的には、シリンジ33は、プランジャ3に連結されている。また、シリンジ33は、一端面及び他端面を有する筒状であり、その他端面は閉じられている。試料1は、シリンジ33内に入れられており、シリンジ33の他端面に、カップリング剤32を介して固着されている。一方、シリンジ33の側面内壁には、シリンジ33と試料1との接着を防ぐため、離型剤21が設けられている。第1部材4(41、42)は、第1の実施形態と同様に、シリンジ33の一端面から、シリンジ33内に挿入されている。
【0041】
本実施形態のような構成を採用しても、第1の実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0042】
(第3の実施形態)
続いて、第3の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態に対して、応力測定機構70の構成が変更されている。その他の点については、第1の実施形態と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
【0043】
図5(a)は、本実施形態における応力測定機構70を示す概略図である。本実施形態では、シリンジ2が用いられない。また、本実施形態では、第1部材40及び第2部材30として、それぞれ、短冊状の部材が用いられる。第1部材40及び第2部材30としては、例えば、銅、及びSUSなどの剛直な材料を用いることができる。
【0044】
第2部材30は、一端で拘束部材13に拘束されている。第2部材30は、拘束部材13から、第1方向に沿って延びている。第2部材30の他端部では、主面に、第2部材固着領域15が形成されている。第2部材固着領域15上には、試料1が、カップリング剤32を介して塗布されている。
【0045】
第1部材40は、一端で、ロードセル4に接続されている。第1部材40は、ロードセル4から、第1方向に沿って延びている。第1部材40の他端部では、裏面に、第1部材固着領域16が形成されている。第1部材40は、第1部材固着領域16において、カップリング剤32を介して、試料1と固着している。
【0046】
第2部材30と第1部材40とは、第2部材固着領域15と第1部材固着領域16とで、重なっている。すなわち、試料1は、第2部材30の一部と第1部材40の一部とで、挟まれている。尚、試料1の供給量は、第2部材30と第1部材40との間からあふれ出すことがないように、調整されている。
【0047】
図5(b)は、第1部材40及び第2部材30の上面図である。図5(b)に示されるように、第1部材40と第2部材30のそれぞれの幅が、bとして示されている。また、図5(b)には、第1部材40と第2部材30のそれぞれの長さが、cとして示されている。また、図5(b)には、第1部材30と第2部材30とが重なった領域(試料1の固着領域)が、斜線で示されている。試料1は、第1部材40及び第2部材30における幅方向の全域に固着されている。また、固着領域の一軸方向に沿う長さが、aとして示されている。
【0048】
本実施形態では、試料1の収縮により、図5中、矢印で示されるように、第1部材40に対して、一軸方向(第1方向)に沿う荷重が加わる。また、第2部材30にも、一軸方向に沿って試料1側に向く方向の荷重が加わる。ロードセル4で第1部材40に加わる荷重を計測することにより、試料1と第1部材40との界面に働く一軸方向(せん断方向)の応力と、試料1と第2部材30との界面に働く一軸応力との平均値を、正確に測定することができる。
【0049】
(実験例)
本実施形態の実験例を以下のように行った。
第1部材40と第2部材30として、それぞれ、厚さ0.75mmの短冊状のシリコンウェハを用いた。長さaは約30mm、長さbは10mm、長さcは40mm、また測定対象樹脂1の厚さは約0.3mmである。測定対象樹脂1としては、市販のエポキシ系接着剤アラルダイトラピッドを用い、カップリング剤32は使用していない。本実験では、加熱せずに室温で行ったが、樹脂が硬化する際に反応熱が発生するため、温度測定機構50により測定対象樹脂1内部の温度と室内の温度を測定した。なお、第1部材40および第2部材30が平行に拘束されるように、第1部材30および第2部材40と拘束部材13および14の間にスペーサ(図示略)を配置した。
【0050】
本実験例による実験結果を図8に示す。図8において、横軸は時間(sec)を示し、縦軸は温度(℃)及び荷重(N)を示している。測定中、室温が約24.5℃で安定しているのに対し、測定対象樹脂1の温度(サンプル内部温度)は、500秒後に約3℃上昇した。その後は室温まで冷却され、以降は約25℃で安定した。一方、発生荷重は、5000〜6000秒後に最大引張を示した後、緩やかに減少しているのがわかった。
【0051】
したがって、測定対象樹脂1の反応速度は500秒付近がピークであるものの、その後も徐々に反応が進行し、それとともに測定対象樹脂1と第1部材40および第2部材30間の接着強度が増加していると考えられる。一方、負荷を受けた硬化後の測定対象樹脂1は、時間が経過すると応力緩和を示す。
【0052】
以上のことから、硬化(収縮)反応、接着強度の増加および応力緩和のそれぞれ経時変化の重ね合わせにより、実験結果のような発生荷重が測定されたと考えられる。
【0053】
(第4の実施形態)
続いて、第4の実施形態について説明する。本実施形態では、第1の実施形態に対して、応力測定機構70の構成が変更されている。その他の点については、第1の実施形態と同様とすることができるので、詳細な説明は省略する。
【0054】
図6は、本実施形態における応力測定機構70を示す概略図である。本実施形態では、第2部材30は用いられない。本実施形態では、第1部材40の他端が、拘束部材13に拘束されている。第1部材40は、平板状であり、第1方向沿って延びている。試料1は、カップリング剤32を介して、第1部材40の主面上に固着されている。第1部材40としては、例えば、銅やSUSなどの剛直な材料が使用される。
【0055】
本実施形態では、硬化時及び冷却時に試料1が収縮すると、第1部材40は試料1の中心方向に引っ張られる。このとき、それぞれの剛性によっては曲げ変形が生じることが考えられる。しかしながら、このときの荷重をロードセル4により測定することにより、第3の実施形態と同様に、試料1と第1部材40と界面において発生する応力を測定することができる。
【0056】
(第5の実施形態)
続いて、第5の実施形態について説明する。図7は、本実施形態に係る応力測定機構70を示す概略図である。本実施形態は、第4の実施形態に対して、第1部材40の材質が変更されている。本実施形態では、第1部材40として、繊維布(例えば、ガラス繊維、ガラスクロスなど)が用いられる。第1部材40は、ある程度の張力がかかるように、拘束部材13とロードセル4とによって支持されている。また、試料1は、第1部材40に含浸される。
【0057】
本実施形態では、試料1が膨張する際の荷重は、ロードセル4と第1部材40との接続部分に伝わらない。しかし、試料1が収縮する際には、第1部材40が一軸方向に沿って引っ張られる。このときの荷重を測定することにより、試料1の一軸方向に沿う収縮応力を測定することができる。
【0058】
以上、第1〜第5の実施形態について説明した。これらの実施形態は互いに独立するものではなく、矛盾のない範囲内で組み合わせて用いることも可能である。
【0059】
また、本発明に係る応力測定装置及び応力測定方法は、例えば、樹脂の分子構造の設計、樹脂系複合材料の設計、樹脂の硬化条件の最適化、樹脂の熱応力解析の精度向上に対して、有効に用いることができる。
【符号の説明】
【0060】
1 試料(測定対象樹脂)
2 シリンジ
3 プランジャ
4 ロードセル(荷重計)
5 ヒータ
6 熱電対
7 断熱容器
8 温度制御部
9 データ記録部
10 計算部
11 温度測定用試料
12 制御装置(コンピュータ)
13 拘束部材
14 拘束部材
15 第2部材固着領域
16 第1部材固着領域
21 離型剤
30 第2部材
31 プランジャヘッド
32 カップリング剤
33 シリンジ
40 第1部材
41 プランジャヘッド
42 プランジャ
50 温度測定機構
51 プランジャ
52 プランジャヘッド
53 プランジャヘッド
54 プランジャ
55 シリンジ
70 応力測定機構
101 ひずみゲージ
102 金属製リング
103 シリコンゴム板
104 樹脂
105 外枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象樹脂の応力を測定する荷重計と、
前記荷重計に支持された第1部材と、
を具備し、
前記第1部材は、前記測定対象樹脂に生じる応力により一軸方向に沿う荷重が加えられるように、前記測定対象樹脂と固着しており、
前記荷重計は、前記第1部材に加わる荷重を計測することにより、前記測定対象樹脂に生じた応力のうちの前記一軸方向に沿う成分を測定する
応力測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載された応力測定装置であって、
更に、
一端で拘束され、他端で前記測定対象樹脂に固着される、第2部材、
を具備する
応力測定装置。
【請求項3】
請求項2に記載された応力測定装置であって、
更に、
内部に前記測定対象樹脂が配置される、筒型のシリンジ
を具備し、
前記第2部材は、前記シリンジ外から前記シリンジの一端を介して前記シリンジ内に延び、前記シリンジ内で前記測定対象樹脂に固着されており、
前記第1部材は、前記荷重計から前記シリンジの他端を介して前記シリンジ内に延び、前記シリンジ内で前記測定対象樹脂に固着されており、
前記シリンジの側面内壁には、前記測定対象樹脂と前記シリンジとが接着することを防止するための離型剤が配置されている
応力測定装置。
【請求項4】
請求項2に記載された応力測定装置であって、
前記第2部材は、一端面が開放され、他端面が閉じられた筒型のシリンジを備え、
前記測定対象樹脂は、前記シリンジ内に配置され、前記他端面で前記シリンジと固着されており、
前記シリンジの側面内壁には、前記測定対象樹脂と前記シリンジの側面内壁とが接着することを防止するための離型剤が配置されており、
前記第1部材は、前記荷重計から、前記一端面を介して前記シリンジ内に向かって延びており、前記シリンジ内で前記測定対象樹脂と固着されている
応力測定装置。
【請求項5】
請求項2に記載された応力測定装置であって、
前記第1部材及び前記第2部材は、それぞれ、平板状であり、
前記第2部材は、主面の一部に設けられた第2部材固着領域において、前記測定対象樹脂と固着されており、
前記第1部材は、裏面の一部に設けられた第1部材固着領域において、前記測定対象樹脂と固着されており、
前記第2部材と前記第1部材とは、前記第2部材固着領域と前記第1部材固着領域とが前記測定対象樹脂を介して重なるように、配置されている
応力測定装置。
【請求項6】
請求項1に記載された応力測定装置であって、
前記第1部材は、平板状であり、
前記第1部材の一端は、前記荷重計により支持されており、
前記第1部材の他端は、拘束されており、
前記測定対象樹脂は、前記一端と前記他端との間で、前記第1部材の主面上に固着されている
応力測定装置。
【請求項7】
請求項6に記載された応力測定装置であって、
前記第1部材は、金属板により形成されている
応力測定装置。
【請求項8】
請求項6に記載された応力測定装置であって、
前記第1部材は、繊維布により形成されており、
前記測定対象樹脂は、前記繊維布に含浸している
応力測定装置。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかに記載された応力測定装置であって、
更に、
前記測定対象樹脂の温度を測定する、温度測定機構、
を具備する
応力測定装置。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れかに記載された応力測定装置であって、
前記第1部材は、カップリング剤によって、前記測定対象樹脂と固着されている
応力測定装置。
【請求項11】
前記第1部材に、測定対象樹脂に生じた応力により前記第1部材に一軸方向に沿う荷重が加えられるように、測定対象樹脂を固着させる工程と、
前記第1部材に加わる荷重を計測することにより、前記測定対象樹脂に生じた応力のうちの前記一軸方向に沿う成分を測定する工程と、
を具備する
応力測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−230648(P2010−230648A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249096(P2009−249096)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)