説明

応力測定装置

【課題】簡易的に測定が可能で、かつ測定精度の高い応力測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】測定対象物の応力を測定する応力測定装置であって、可動部材を、駆動軸に沿って水平移動させるスライド装置と、前記可動部材に固定された取り付け部材と、前記取り付け部材に上下移動装置を介して取り付けられると共に、前記測定対象物に線状のスリットを加工する加工手段と、前記取り付け部材に取り付けられると共に、前記測定対象物を前記スリットを加工する前後において撮像する撮像手段と、前記測定対象物の画像であって、前記スリットを加工する前後の画像に基づいて、測定対象物のひずみ量を決定するひずみ量決定手段と、を備え、決定したひずみ量に基づいて測定対象物の応力を決定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、応力測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
準非破壊式の応力測定方法の一例として、従来から、抵抗線ひずみゲージを利用した方法がある。この方法は、同一円周上に貼付けられた複数枚のゲージエレメントの中心部に穿孔を施して、測定対象物の残留ひずみを部分的に開放することによって残留応力を測定するものである。また、下記特許文献には、測定対象物の表面に複数枚のゲージエレメントを同一円周上に貼り付けた後、ゲージエレメントの中心部に押圧荷重を負荷し、このとき計測した押圧荷重−ひずみ応答から残留応力を求めるようにしたものが開示されている。
【特許文献1】特開平5−79928公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記した抵抗線ひずみゲージを利用したものは、測定対象物に対して複数枚のゲージエレメント(上記特許文献1の図2参照)を、同一円周上に位置あわせしつつ貼り付けることが必要となる。このような作業は専門性が高く、応力を簡易的に測定するのに障害となっていた。
【0004】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、簡易的に応力の測定が出来、かつ測定精度の高い応力測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、測定対象物の応力を測定する応力測定装置であって、可動部材を、駆動軸に沿って水平移動させるスライド装置と、前記可動部材に固定された取り付け部材と、前記取り付け部材に上下移動装置を介して取り付けられると共に、前記測定対象物に線状のスリットを加工する加工手段と、前記取り付け部材に取り付けられると共に、前記測定対象物を前記スリットを加工する前後において撮像する撮像手段と、前記測定対象物の画像であって、前記スリットを加工する前後の画像に基づいて、測定対象物のひずみ量を決定するひずみ量決定手段と、を備え、決定したひずみ量に基づいて測定対象物の応力を決定する。
【0006】
このものによれば、スリットを加工する前後の画像に基づいて測定対象物のひずみ量を決定するようにしたので、従前のようなゲージエレメントの貼り付け作業を必要とせず、装置を測定対象物にセットすれば、直ぐに測定を開始できる。
【0007】
また、本発明では、スリットを加工する加工手段と、ひずみ量を算出するための画像を取得する撮像手段とを同一の取り付け部材に取り付けるようにしたので、両者に相対的な位置のずれが生じ難く、画像側の中心とスリット側の中心を容易に一致させることが可能となる。従って、例えば、スリット中央(長手方向の中央)など、予め設定した位置において、そのひずみ量を求めることが可能となり、測定対象物のひずみ量、引いては応力を正確に測定できる。
【0008】
この発明の実施態様として、以下の構成とすることが、好ましい。
【0009】
・加工手段を、円盤状の加工刃を回転させて測定対象物に前記スリットを切削加工するカッターとする。カッターであれば、例えば、スリットを放電加工により加工する場合に比べて、熱ひずみが小さい。そのため、応力を正確に測定できる。
【0010】
・加工手段の上下方向の移動量を計測する計測手段を設ける。このようにしておけば、加工手段の下降量、すなわちスリットの深さを把握することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、簡易的に測定が可能で、かつ測定精度の高い応力測定装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一実施形態を図1ないし図12によって説明する。
1.応力の測定原理
本実施形態は、測定対象物(例えば、金属管、金属板)Tのひずみ量εを画像相関法(パターン追跡法)によって測定し、得たひずみ量εに基づいて測定対象物Tの応力Fを決定するものである。
【0013】
具体的に説明すると、図1の(a)に示すように、測定対象物Tの測定箇所(ここでは、長手方向の中央部)上に、まずスプレーなどにより塗料を吹き付ける。そして、塗料の吹き付けに続いて、図1の(b)に示すように、測定箇所をカメラにより撮影する。これにより、測定箇所に吹きつけられた塗料のパターンPの画像が得られる。
【0014】
次に、図1の(c)に示すように、測定箇所に対して、応力Fの作用方向に直交する線状のスリットSを加工する。具体的には、スリットSの中心(長手方向の中心)が、測定箇所を撮影したときの撮影中心位置Roに一致するように加工する。すると、測定箇所ではスリットSの加工により応力が開放され、微小な弾性変形が起き、パターンPが微小量移動する。
【0015】
そして、スリットSの加工に続いて、図1の(d)に示すように、測定箇所を再度、カメラにより撮影する。かくして、図2に示すように、スリット加工前後における塗料のパターンPの画像が得られる。
【0016】
後は、得られた両画像を画像処理して、画像中心点Oを通る中心線U上、又はその極近傍点に位置する同一パターンPの移動量(スリット加工前後の移動量)を求めることで、測定対象物のひずみ量εを算出できる。
【0017】
本実施形態では、図2に示すように、中心線U上に位置するパターンPaとパターンPbのパターン間距離D1と、それと同一のパターンPa’とパターンPb’のパターン間距離D2をそれぞれ算出し、以下の(1)式からひずみ量を求めることとしている。
【0018】
ε=(D2−D1)/2・・・・・・・・・・・・・・・・(1)式
ε・・・ひずみ量
D1・・・スリット加工前のパターン間距離
D2・・・スリット加工後のパターン間距離
【0019】
一般に、ひずみ量εと応力Fとの間にはフックの法則が成り立ち、ひずみ量εと応力Fとの間には相関関係がある。本実施形態のものは、実験により、応力F−ひずみ量(スリット中心でのひずみ量)εの相関グラフを予め求めてある。
【0020】
そのため、上記した画像相関法により、ひずみ量εを求めてやれば、後は、図3の相関グラフを利用して応力を算出できる。例えば、ひずみ量εが6μmであった場合には、応力Fは約24kgとなり、またひずみ量εが12μmであった場合には、応力Fは約33kgとなる。
【0021】
さて、上記した画像相関法を利用して応力を測定する場合、誤差を生み出す理由の一つに、以下に説明するひずみ量εの位置誤差の問題がある。
【0022】
画像相関法では、画像に含まれるパターンPからひずみ量εを求め、求めたひずみ量εを図3に示す相関グラフに参照させて応力を求めている。ここで、図3に示す相関グラフは、応力F−スリット中心でのひずみ量εの相関を示すものである。よって、応力を誤差なく求めるには、画像相関法で求めたひずみ量εがスリット中心に対応していなければならない。
【0023】
というのも、ひずみ量εの大きさは、スリットSの中心(長手方向の中心)にて測定した場合と、スリットSの中心から距離d離れた場所にて測定した場合では、数値が異なり、図4にて示されるようにスリットSの中心が最も大きく、中心から遠くなる(距離dが大きくなる)に連れ小さくなる。これは、スリットSの端側では中心のそれに比べて、スリット加工に伴って緩和される応力が小さく、パターンPの移動が少ないからである。また、図5に示すように、スリットSの断面形状が弧状である場合には、スリットSの端側に近くなる程、スリットの深さが浅くなり、これも、パターンPの移動量を小さくさせる要因となっている。
【0024】
従って、本来的には、画像相関法にてスリットSの中心のひずみ量εを測定するべきところ、中心から外れたところのひずみ量εを測定してしまうと、中心に対するずれ量だけひずみ量εが小さくなり、応力の測定に誤差が出てしまう。
【0025】
このような応力の測定誤差を抑えるには、スリットSの加工位置が重要となる。すなわち、本実施形態では、画像中心点Oを通る中心線U上のパターンPa、Pa’、Pb、Pb’に基づいて、ひずみ量εを算出している。そのため、測定箇所の撮影中心位置Roに中心を一致させるようにスリットSを加工出来れば、ほぼ上記した位置誤差の問題を解消することが可能となる。以下に説明する応力測定装置10はこの点に十分な配慮を行った装置構成としてある。
【0026】
2.応力測定装置10の構成
本応力測定装置10は、大まかには、フレーム部20と、ベース盤30と、スライド装置40と、リニアガイド50と、スライドテーブル60と、装着板63と、ヘッド部70とを主体に構成されている。尚、以下の説明において、図6に示す左右方向をX方向、上下方向をZ方向、紙面に直交する方向をY方向として説明を行う。
【0027】
フレーム部20は、金属製の角材を格子状に組み立てたものであり、応力測定装置10の骨格を構成している。ベース盤30は図6に示す左右方向(X方向)に長い形状をしている。このベース盤30は左右両端部を、フレーム部20を構成する左右の両サイドフレーム21R、21Lの下部に固定している。そして、係るベース盤30の上面は平坦な水平面としてあり、そこには、スライド装置40及びリニアガイド50が取り付けられている。
【0028】
スライド装置40は図7、図8に示すように、駆動軸となるボール螺子軸41と、ボール螺子軸41に螺合するナットを備えた可動部材43と、ボール螺子軸41の軸端に取り付けられる第一パルスモータ45とを備える。この第一パルスモータ45はモータ軸をボール螺子軸41の軸端に連結させており、ボール螺子軸41を回転駆動させる機能を担っている。係るスライド装置40は図8に示すように、ボール螺子軸41の軸線GをX方向に向けた状態でベース盤30上に固定されている。
【0029】
そして、ベース盤30上にはスライド装置40とY方向に並ぶようにしてリニアガイド50が取り付けられている。このリニアガイド50は、スライド装置40のボール螺子軸41に対して平行に延びるガイド軸51とスライダ53と、から構成されている。係るスライダ53はガイド軸51に対して移動自在に嵌合しており、ガイド軸51に沿って滑らかに移動するようになっている。そして、スライド装置40の可動部材43とリニアガイド50のスライダ53を相互に連結するようにしてスライドテーブル60が取り付けられている。
【0030】
係るスライドテーブル60はY方向の端部が、フレーム部20の前縁から装置正面側にあたる図7の右側に突出しており、そこには、板面を上下方向に向けた状態で金属製の装着板63が固定されている。この装着板63は、続いて説明するヘッド部70を装着する装着部として機能するものである。
【0031】
ヘッド部70は、ヘッドプレート(本発明の「取り付け部材」に相当)71と、測定対象物Tの測定箇所の画像を撮影するカメラ(本発明の「撮像手段」に相当)80と、測定対象物TにスリットSを加工するカッター(本発明の「加工手段」に相当)90と、カッター90を上下方向に移動させる上下移動装置100と、を備えてなる。
【0032】
ヘッドプレート71は、上記した装着板63の相手となるものであって、図6に示すように、X方向に長い横長な形状をなしている。そして、係るヘッドプレート71の左側にカメラ80が固定され、ヘッドプレート71の右側には上下移動装置100を介してカッター90が取り付けられている。
【0033】
カメラ80はいわゆるデジタルカメラであって、CCD、CMOS等の二次元イメージセンサを撮像部として備えたカメラ本体81と、イメージセンサ上に被写体の像を結像させるレンズ部83とからなる。係るカメラ80は、図6にて示すように、レンズ部83を下側に向けた状態(より具体的には軸線を上下方向に向けた状態)でカメラホルダ87に支持されており、このカメラホルダ85を介して、ヘッドプレート71に取り付けられている。
【0034】
尚、本カメラ80はレンズ部83にテレセントリックレンズを使用している。このような構成とすることで、通常の球面レンズを使用する場合に比べて、歪曲収差を抑えることが可能となり、画像からパターンPの形状、位置、移動量を正確に算出することが可能となる。また、図6に示す符号89は回転操作式の調整螺子である。この調整螺子89を操作すると、カメラホルダ85を含むカメラ80全体を上下方向に動かすことが出来、これにてカメラ80のピントを調整できる。
【0035】
カッター90は、内部に駆動源となるカッタモータ92を収容してなる筒状の本体部91と、本体部91の下部に設けられる軸部93と、加工刃95とを備えてなる。加工刃(円盤状の回転砥石)95は軸部93に回転可能に取り付けられ、カッタモータ92の動力を受けて回転駆動する。
【0036】
係るカッター90は、図6に示すように、カメラ80の右手側に、加工刃95を下に向けた状態(加工刃95の回転中心軸Lmを紙面に直交するY方向に向けた状態、言い換えれば、刃面をX方向に向けた状態)で取り付けられている。具体的には、図9に示すように、カッターホルダ97を介して上下移動装置100の可動レール105に取り付けられている。このように、カッター90は、スライド装置40の移動方向となるX方向に、カメラ40と並んだ状態で取り付けられている。
【0037】
上下移動装置100は固定レール103と可動レール105とを備える。固定レール103はヘッドプレート71の下部に対して固定されている。可動レール105は固定レール103に対して上下移動可能な状態で嵌合しており、更に、両レール間にはボール螺子機構(図8参照)107が組み込まれている。
【0038】
そして、固定レール103の上部には、第二パルスモータ101が固定されている。第二パルスモータ101は上下移動装置100の駆動源となるものであって、レール間に組み込まれたボール螺子機構107に動力を伝えて、可動レール105を固定レール103に沿って上下移動させる。
【0039】
また、図6に示す符号98は、測定子98Aの移動量をデジタル値として表示/出力するデジタルインジケータ(本発明の「計測手段」に相当)である。このデジタルインジケータ98はヘッドプレート71に固定されると共に、インジケータ下部に設けられる測定子98Aを、カッターホルダ97に設けられた突き当て部97Aに当接させており、カッター90の上下方向に関する移動量を計測できる構成となっている。
【0040】
そして、上記したヘッド部70は、ヘッドプレート71を、装着板63に4点締め(ボルトによる4点締め)することにより、装着板63に一括した状態で取り付けられる構成となっている。
【0041】
以上のことから、第一パルスモータ45を通電操作してスライド装置40を作動させると、リニアガイド50の案内作用を受けつつスライドテーブル60、引いては装着板63がX方向にスライドする結果、ヘッド部70の全体すなわちカメラ80とカッター90を一体的にX方向に水平移動操作できる。
【0042】
そして、図8にて示すように、カメラ80のカメラ中心とカッター側の加工刃95はY方向の位置が整合している。そのため、上記ようにスライド装置40を作動させると、同一直線Lg上をカメラ中心と加工刃95がY方向に水平移動する。
【0043】
また、第二パルスモータ101を通電操作して上下移動装置100を作動させると、カッター90の全体をそれ単独で上下方向に移動操作出来る。また、カッタモータ92を通電操作することで、加工刃95を回転駆動できる。尚、図8と図12は、応力測定装置10のスライド装置40及びヘッド部70を模式的に示した平面図であり、調整螺子89、インジケータ98などの部品は省略してある。
【0044】
次に、図10を参照して応力測定装置10の電気的構成を簡単に説明する。応力測定装置10は、記憶部150、画像メモリ160、表示部170、ユーザインターフェース(キーボード、マウスなど)180、CPU200などを備えると共に、CPU200に対して各種モータ45、92、101、カメラ80、インジケータ98が電気的に連なっている。
【0045】
記憶部150には、CPU200が各種演算処理を行う際に実行するプログラム、及び図3に示す相関グラフを数式で置き換えた相関式のデータが記憶されている。また、画像メモリ160は、カメラ80より出力される画像のデータをフレーム単位で記憶させるものである。
【0046】
CPU200は応力測定装置10の全体を制御するものであって、大別すると、以下の4つの機能を担っている。
(a)各種モータ45、92、101の制御機能
(b)ひずみ量算出機能
(c)応力算出機能
(d)表示制御機能
【0047】
ひずみ量算機能というのは、画像メモリ160に記憶されたパターンPの画像データ(スリット加工前後の両画像データ)を画像処理することにより、スリット加工前のパターン間距離D1と、スリット加工後のパターン間距離D2をそれぞれ求め、上記(1)式に従ってひずみ量εを算出する機能である。尚、このCPU200が担うひずみ量算出機能により本発明の「ひずみ量決定手段」の果たす処理機能が実現されている。
【0048】
応力算出機能というのは、算出したひずみ量εと記憶部150に記憶された相関式とに基づいて、測定対象物Tの応力Fを算出する機能である。また、表示制御機能というのは、表示部170の表示内容を制御する機能である。本実施形態のものは、CPU200の制御下のもと、測定終了後には応力測定結果が表示部170上に表示される構成となっている。
【0049】
次に、上記応力測定装置10による応力測定手順を説明する。ここでは、測定対象物が金属板Tであるものとし、また既に図1の(a)段階、すなわち測定対象物たる金属板Tの測定箇所に対する塗料の吹き付けが完了しているものとする。
【0050】
さて、塗料の吹きつけが完了し、それが乾いたら、次に応力測定装置10を金属板Tの上面にマグネット式の支持具Mにより固定してやる(図6)。このとき、カッター90の加工刃95が、金属板Tに対する応力Fの作用方向に直交する向き(図1の上下方向)となるように応力測定装置10の向きを合わせてやる必要がある。
【0051】
そして、金属板Tに対して応力測定装置10が固定出来たら、あとは、例えば、ユーザインターフェース180を通じてスライド装置40を移動操作して、図6にて示すように、金属板Tの測定箇所のほぼ中央に、カメラ中心Lcが位置するようにヘッド部70の位置を調整してやる。
【0052】
後は、ユーザインターフェース180を通じて測定の開始の指示をCPU200に与えてやればよい。これを行うと、CPU200により各装置が以下の要領で自動制御され、金属板Tの応力Fが自動的に算出される。
【0053】
自動制御が開始されると、CPU200は、まず、カメラ80に対して撮影指令を与える。これにより、不図示の照明手段から測定箇所に照明光が照射され、これと同時にカメラ80による撮影が行われる(図1の(b)の段階)。
【0054】
これにて、パターンPの画像(例えば、図2に示す(a)の画像)が得られる。そして、得られた画像(スリット加工前のパターンPの画像)は出力され、画像メモリ160にフレーム単位で記憶される。
【0055】
カメラ80による撮影が完了すると、次に、CPU200は第一パルスモータ45にパルス信号を与えて、第一パルスモータ45を決められたステップ数ST1だけ正転方向に回転させる。これにより、スライド装置40の可動部材43、引いてはヘッド部70が、設定された移動量X1だけ正確に移動して停止する。
【0056】
本実施形態では、移動量X1がカメラ80とカッター90の中心間ピッチJに設定してあるので、図6の位置から移動を始めたヘッド部70は、カメラ80により初回の撮影を行ったときのカメラ中心の位置(測定箇所上のカメラ中心の位置であって、以下、撮影中心位置)Roに、カッター90の中心線Lsが一致するところ、すなわち図11の位置にて停止する。
【0057】
そして、ヘッド部70の移動に続いて、CPU200の制御下のもと、カッタモータ92が通電操作される。これにより、カッター90の備える加工刃95が回転を始める。また、CPU200は、第二パルスモータ101にパルス信号を与えて、第二パルスモータ101を決められたステップ数ST2だけ正転方向に回転させる。
【0058】
これにより、上下移動装置100が作動して可動レール105を下降させるため、カッター90は加工刃95を回転させつつ、図11に示す中心線Lsに沿って、真っ直ぐに下降してゆく。これにより、加工刃95が金属板Tの測定箇所に近づいてゆく。
【0059】
やがて、金属板Tの測定箇所の表面に加工刃95の刃先が当たり、測定箇所の表面にスリットSが加工されてゆく。そして、スリットSが予定する深さ(例えば、2mm)になったところで、第二パルスモータ101の回転が止まり、可動レール105、引いてはカッター90の下降動作は停止する。かくして、金属板Tの測定箇所に対し線状のスリットSが加工され、かつそのスリットSの中心は、撮影中心位置Ro上に一致する(図1の(c)の段階)。
【0060】
また、カッター90の下降動作が完了すると、デジタルインジケータ98からCPU200に対して、カッター90の下降量のデータが出力される。これにより、CPU200にてカッター90が、正規量だけ正確に下降しているか、検査できる。このような構成とすることで、正規下降量に対して実際の下降量に誤差がある場合には、それを補正する処理(第二パルスモータ101のステップ数を変更する等)を行うことで、スリットSを予定する深さに正確に加工できる。
【0061】
さて、CPU200はカッター90が下降を停止すると、今度は、第二パルスモータ101にパルス信号を与えて、第二パルスモータ101を決められたステップ数ST2だけ逆転方向に回転させる。これにより、上下移動装置100が作動し可動レール105を上昇させるため、カッター90は加工刃95を回転させつつ、全体が上昇する。そして、カッター90が元の高さに至ると、第二パルスモータ101の回転が止まり、またカッタモータ92に対する通電が断たれ、加工刃95の回転が止まる。
【0062】
その後、CPU200は第一パルスモータ45にパルス信号を与えて、第一パルスモータ45を決められたステップ数ST1だけ逆転方向に回転させる。これにより、スライド装置40の可動部材43、引いてはヘッド部70が中心間ピッチJだけ図11の右手側に移動する。これにより、図11の位置から移動を始めたヘッド部70は図13の位置(図6と同じ位置)まで移動して、そこで正確に停止する。この位置では、図13にて示すように、カメラ側の中心線Lcが、撮影中心位置Roに再び一致した状態となる。
【0063】
その後、CPU200は、カメラ80に対して再び、撮影指令を与える。これにより、不図示の照明手段から測定箇所に照明光が照射され、これと同時にカメラ80による撮影が行われる(図1の(d)の段階)。
【0064】
これにて、撮影中心位置Roを画像中心点Oとする、パターンPの画像(例えば、図2に示す(b)の画像)が得られる。そして、得られた画像(スリット加工前のパターンPの画像)は出力され、画像メモリ160にフレーム単位で記憶される。
【0065】
後は、画像メモリ160に記憶された2つの画像データ、すなわちスリットSの加工前後におけるパターンPの画像に基づいて、以下の要領でひずみ量εが算出される。
【0066】
まず、CPU200は、画像メモリ160からスリット加工前の画像を読み出し、その中に含まれる各パターンPについて形状を認識する。そして、認識した形状に基づいて、マスターパターンを抽出する。具体的には、画像中心点Oを通る中心線U上に位置する2つのパターンPを抽出する。ここでは、図2に示すパターンPaとパターンPbが、マスターパターンとして抽出されたものとする。
【0067】
マスターパターンPa、Pbを抽出すると、次に、CPU200は両パターンの座標値(例えば、画像中心点Oを基準とした座標値)から両パターンのパターン間距離D1を算出する演算処理を行う。
【0068】
その後、CPU200は、画像メモリ160からスリット加工後の画像を読み出し、その中に含まれる各パターンPについて形状を認識する。そして、認識した各パターンの形状をマスターパターンPa、Pbの形状に照合させるパターンマッチング処理を行い、画像中に含まれるマスターパターンPa、Pbと同一形状のパターンPa’、Pb’を抽出する。
【0069】
次にCPU200は、抽出した両パターンPa’、Pb’の座標値(例えば、画像中心点Oを基準とした座標値)から両パターンのパターン間距離D2を算出する演算処理を行う。
【0070】
そして、得られたパターン間距離D1、パターン間距離D2を、上記した(1)式に代入する演算処理を行う。かくして、測定対象物たる金属板Tのひずみ量εが求まる。その後、CPU200は記憶部150にアクセスして記憶された相関式を読み出し、算出したひずみ量εと読み出した相関式とに基づいて応力Fを算出する。その後、CPU200は表示部179の表示画面上に算出結果を表示する。これにて、一連の応力測定動作は終了する。
【0071】
3.効果
本実施形態では、ヘッドプレート71を有するヘッド部70を設け、これにカメラ80とカッター90の双方を取り付けた。そして、カメラ80によって測定箇所の画像を撮影した後、スリットSを加工するときには、ヘッド部70を、カメラ80とカッター90の中心間ピッチJだけ移動させるようにした。これにより、移動後には、カメラ80により初回の撮影を行った撮影中心位置Ro上にカッター90の中心線Lsが位置することとなる。そのため、スリットSを、撮影中心位置Ro上に中心を一致させて加工できる。
【0072】
また、スリットSを加工した後、再び、カメラ80で撮影を行うときには、カメラ80とカッター90の中心間ピッチJだけ、ヘッド部70の全体を逆方向に移動させるようにした。これにより、移動後には、加工したスリットSの中心に、カメラ80の中心線Lcが位置することとなる。
【0073】
以上のことから、画像側とスリットSが予定した位置関係(画像中心点OにスリットSの中心が一致する)になるので、問題として挙げたひずみ量εの位置誤差がほぼなくなり、測定対象物の応力Fの大きさを高精度に測定できる。
【0074】
また、スリットSを加工する前後の画像に基づいて測定対象物のひずみ量を決定するようにしたので、従前のようなゲージエレメントの貼り付け作業を必要としない。よって、ひずみ量εの測定それ自体も極めて簡単に行うことが可能となる。
【0075】
また、本実施形態では、スリットSをカッター90により加工している。カッター90であれば、例えば、スリットSを放電加工する場合に比べて、熱ひずみが小さい。そのため、応力Fを一層正確に測定できる。
【0076】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的
範囲に含まれる。
【0077】
(1)上記実施形態では、測定対象物TにスリットSを加工する加工手段の一例として、測定対象物Tの表面を加工刃95により切削加工するカッター90を例示したが、スリットSを放電加工する放電加工器を使用してもよい。
【0078】
(2)上記実施形態では、測定対象物Tの一例として、金属板を例示したが、測定対象物は板状のものに限定されるものではなく、金属管などの応力測定も可能である。
【0079】
(3)上記実施形態では、ヘッド部70の全体を一方向、すなわちX方向にのみスライドさせる構成であったが、更に、Y方向にも移動出来るようにしてもよい。これには、例えば、装着板63をY方向に移動させるY方向移動装置をスライドテーブル60上に搭載してやればよい。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明による応力の測定手順を示す図
【図2】測定対象物に塗着させたパターンPの画像を示す図
【図3】応力Fとひずみ量εとの関係を示す相関グラフ
【図4】スリット中心からの距離dとひずみ量εの大きさの比率との関係を示すグラフ
【図5】スリットの断面形状を示す図
【図6】応力測定装置の正面図
【図7】その側面図
【図8】スライド装置、ヘッド部の平面図
【図9】上下移動装置の構成を示す図
【図10】応力測定装置の電気的構成を示すブロック図
【図11】スリットを加工する直前の状態を示す正面図
【図12】スライド装置、ヘッド部の平面図
【図13】スリット加工後のパターンの画像を撮影する直前の状態を示す正面図
【符号の説明】
【0081】
10…応力測定装置
30…ベース盤
40…スライド装置
50…リニアガイド
70…ヘッド部
71…ヘッドプレート(本発明の「取り付け部材」の一例)
80…カメラ(本発明の「撮像手段」の一例)
90…カッター(本発明の「加工手段」の一例)
98…デジタルインジケータ(本発明の「計測手段」の一例)
100…上下移動装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物の応力を測定する応力測定装置であって、
可動部材を、駆動軸に沿って水平移動させるスライド装置と、
前記可動部材に固定された取り付け部材と、
前記取り付け部材に上下移動装置を介して取り付けられると共に、前記測定対象物に線状のスリットを加工する加工手段と、
前記取り付け部材に取り付けられると共に、前記測定対象物を前記スリットを加工する前後において撮像する撮像手段と、
前記測定対象物の画像であって、前記スリットを加工する前後の画像に基づいて、測定対象物のひずみ量を決定するひずみ量決定手段と、を備え、
決定したひずみ量に基づいて測定対象物の応力を決定する応力測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の応力測定装置であって、
前記加工手段は、円盤状の加工刃を回転させて前記測定対象物に前記スリットを切削加工するカッターである。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の応力測定装置であって、
前記加工手段の上下方向の移動量を計測する計測手段を備える。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate


【公開番号】特開2010−112760(P2010−112760A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−283553(P2008−283553)
【出願日】平成20年11月4日(2008.11.4)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)