説明

応力腐食割れ付与試験体製造方法

【課題】応力腐食割れ(SCC)を模擬した割れを、厚さが不均一な複雑な形状の試験体における所望の部位に付与する。
【解決手段】溶接部13に応力腐食割れを模擬した割れが付与された試験体10を製造する方法において、試験体10に溶接部13の割れを付与する部位を挟むようにして一対の柱状部材16、17を取り付け、それら一対の柱状部材16、17の内の一方の柱状部材16の自由端側の部分にボルト22を螺合すると共にそのボルト22の先端を他方の柱状部材17の自由端側の部分に当接させ、ボルト22を締め付け、一対の柱状部材16、17の自由端側の部分同士を離間させて溶接部13の割れを付与する部位に引張応力を発生させることで、その部位に割れを付与し、その後、一対の柱状部材16、17を試験体から取り外すようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接部に応力腐食割れを模擬した割れが付与された試験体を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力プラント等においては、種々の機器の各部位に対して超音波探傷検査等の非破壊検査が行われるが、特に溶接部は欠陥検出が難しいとされており、非破壊検査技術の精度向上を図る必要がある。非破壊検査技術の精度向上のためには、溶接部にSCC(応力腐食割れ)が人為的に付与された試験体を製造し、その試験体を用いて、SCCを検出するための非破壊検査についての研究をする必要がある。
【0003】
SCCを試験体の溶接部に付与する際には、溶接部におけるSCCを付与する部位に所定の引張応力を発生させる必要がある。従来、板状又は管状等の試験体では、試験体を曲げることで(三点曲げ又は四点曲げ等)SCCを付与する部位に引張応力を発生させた状態で、その試験体を溶液に浸漬することで、SCCを試験体の溶接部に付与していた。このような応力腐食割れ付与試験体製造方法は、特許文献1及び2等にも記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−61914号公報
【特許文献2】特開2006−118862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の方法では、厚さが均一な試験体に対しては有効であったが、厚さが不均一な複雑な形状の試験体に対しては、所望の部位に応力集中を生じさせてその部位にSCCを付与することが困難であった。
【0006】
なお、引用文献1には、SCCを厚さが不均一な試験体に付与する方法が記載されているが(引用文献1の段落0032〜0041、図3等参照)、この方法は、アクチュエータを用いて試験体に荷重を負荷するものであるため、構成が複雑となり、小さい試験体に対しては適用することが困難であった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、応力腐食割れを模擬した割れを、厚さが不均一な複雑な形状の試験体における所望の部位に付与することができる応力腐食割れ付与試験体製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために本発明は、溶接部に応力腐食割れを模擬した割れが付与された試験体を製造する方法において、上記試験体に上記溶接部の割れを付与する部位を挟むようにして一対の柱状部材を取り付け、それら一対の柱状部材の内の一方の柱状部材の自由端側の部分にボルトを螺合すると共にそのボルトの先端を他方の柱状部材の自由端側の部分に当接させ、上記ボルトを締め付け、上記一対の柱状部材の自由端側の部分同士を離間させて上記溶接部の割れを付与する部位に引張応力を発生させることで、その部位に割れを付与し、その後、上記一対の柱状部材を上記試験体から取り外すようにしたものである。
【0009】
ここで、上記ボルトを締め付ける際に、上記溶接部を腐食環境に保持するようにしても良い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、応力腐食割れを模擬した割れを、厚さが不均一な複雑な形状の試験体における所望の部位に付与することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る応力腐食割れ付与試験体製造方法を説明するための試験体の正面図である。図2は、図1のII−II線矢視図である。
【0013】
図1及び図2に示すように、試験体10は、母材11と、厚さが母材11より厚く、母材11に突き合わされた母材12と、これら母材11、12を繋ぐように形成される溶接部(突合わせ溶接部)13とからなる。母材11、12及び溶接部13は、SCC(Stress Corrosion Cracking;応力腐食割れ)感受性を有する材料(例えば、ニッケル基合金)からなる。本実施形態の試験体10は、原子炉圧力容器の底部に設置される制御棒案内管の形状を模したものを周方向に四分割したものである。
【0014】
本実施形態に係る応力腐食割れ付与試験体製造方法について説明する。
【0015】
まず、試験体10の溶接部13における割れ(SCCを模擬した割れ)を付与する部位A(図1及び図2参照)を覆うように、溶接により肉盛溶接座14を形成する。肉盛溶接座14は、SCC感受性を有する材料(例えば、ニッケル基合金)からなる。次に、肉盛溶接座14の中央部を機械加工等により切り欠いて溝15を形成する。なお、本実施形態では、溝15の底面を溶接部13の表面上方としたが、溝15の底面と溶接部13の表面とを一致させても良い。
【0016】
次に、試験体10に形成した肉盛溶接座14に、その肉盛溶接座14の溝15、つまり溶接部13の割れを付与する部位Aを挟むようにして一対の柱状部材16、17を溶接により取り付ける。これにより、各柱状部材16、17と肉盛溶接座14との間に柱状部材/肉盛溶接座溶接部18が形成される。
【0017】
ここで、柱状部材16、17は、溶接部13の割れを付与する部位Aに試験体10の幅方向への引張応力を発生させるためのものである。これら柱状部材16、17がないと、溶接部13の割れを付与する部位Aに試験体10の幅方向への引張応力を発生させることが困難である。
【0018】
次に、溶接部13の割れを付与する部位Aを腐食環境に保持する。本実施形態では、溶液19を溶接部13の割れを付与する部位Aに浸漬させる(塗布する)ことにより、溶接部13の割れを付与する部位Aを腐食環境に保持するようにしている。詳しくは、本実施形態では、一対の柱状部材16、17間に板状部材20を架け渡し、それら一対の柱状部材16、17及び板状部材20で囲われた空間(肉盛溶接座14の溝15)に溶液19を入れるようにしている。溶液19としては、例えば、テトラチオン酸カリウム溶液を用いることができる。板状部材20としては、例えば、アクリル板等の透明な材料からなる部材を用いることができ、そのようにすることで、割れの発生・進展を観察することが容易となる。また、柱状部材16、17と板状部材20との間に、シールのためにシリコン等からなるシール部材(図示せず)を介在させても良い。
【0019】
次に、溶接部13の割れを付与する部位Aを腐食環境に保持した状態で、一対の柱状部材16、17の内の一方の柱状部材16の自由端側の部分に設けたボルト穴21にボルト22を螺合すると共に、ボルト22の先端を他方の柱状部材17の自由端側の部分に当接させる。その状態で、ボルト22を締め付けて、一対の柱状部材16、17の自由端側の部分同士を離間させる。このとき、肉盛溶接座14の溝15の底部及び溶接部13の割れを付与する部位Aに引張応力P(図1参照)が発生する。
【0020】
溶接部13の割れを付与する部位Aを腐食環境に保持した状態で、肉盛溶接座14の溝15の底部及び溶接部13の割れを付与する部位Aに引張応力Pが発生すると、まず肉盛溶接座14の溝15の底面に割れ生じ、その割れが溝15の底面よりも下方の溶接部13に向かって進展する。そして、その割れに溶液19が浸入する。
【0021】
溶接部13の割れを付与する部位Aに割れが生じたか否かの判定は、例えば、溶接部13の割れを付与する部位Aを跨ぐ電位を計測し、その電位の変化(低下)に基づいて行う。
【0022】
そして、引張応力により溶接部13の割れを付与する部位Aに割れが付与されたならば、図3に示すように、試験体10から柱状部材16、17を取り外すと共に、肉盛溶接座14等を除去する。そうすると、溶接部13に形成された割れの先端部だけが残る。この割れの先端部は、微小なものであると共に模擬的なSCCであるので、試験体10をSCCを検出するための非破壊検査についての研究に利用することができる。
【0023】
本実施形態によれば、試験体10に溶接部13の割れを付与する部位Aを挟むようにして一対の柱状部材16、17を取り付け、それら一対の柱状部材16、17の内の一方の柱状部材16の自由端側の部分にボルト22を螺合すると共にそのボルト22の先端を他方の柱状部材17の自由端側の部分に当接させ、ボルト22を締め付け、一対の柱状部材16、17の自由端側の部分同士を離間させて溶接部13の割れを付与する部位Aに引張応力を発生させることで、その部位Aに割れを付与するようにしたため、厚さが不均一な複雑な形状の試験体10であっても割れを付与すべき部位Aを挟むようにして柱状部材16、17を取り付けることで、所望の部位に応力集中を生じさせてその部位にSCCを模擬した割れを付与することが可能となる。
【0024】
また、アクチュエータ等を必要とせず、構成がコンパクトであるので、小さい試験体に対しても適用が容易である。そのため、溶接部13の腐食を促進させるために、オートクレーブ(加圧釜)を用いて試験体10を加圧することも可能である。
【0025】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず他の様々な実施形態を採ることが可能である。
【0026】
例えば、試験体10は、板状又は管状等のものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る応力腐食割れ付与試験体製造方法を説明するための試験体の正面図である。
【図2】図1のII−II線矢視図である。
【図3】試験体の側断面図であり、柱状部材を取り外した状態を示す。
【符号の説明】
【0028】
10 試験体
13 溶接部
16 柱状部材
17 柱状部材
22 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接部に応力腐食割れを模擬した割れが付与された試験体を製造する方法において、
上記試験体に上記溶接部の割れを付与する部位を挟むようにして一対の柱状部材を取り付け、それら一対の柱状部材の内の一方の柱状部材の自由端側の部分にボルトを螺合すると共にそのボルトの先端を他方の柱状部材の自由端側の部分に当接させ、上記ボルトを締め付け、上記一対の柱状部材の自由端側の部分同士を離間させて上記溶接部の割れを付与する部位に引張応力を発生させることで、その部位に割れを付与し、その後、上記一対の柱状部材を上記試験体から取り外すようにしたことを特徴とする応力腐食割れ付与試験体製造方法。
【請求項2】
上記ボルトを締め付ける際に、上記溶接部を腐食環境に保持するようにした請求項1に記載の応力腐食割れ付与試験体製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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