説明

応力腐食割れ付与試験体製造方法

【課題】応力腐食割れ(SCC)を模擬した割れを、厚さが不均一な複雑な形状の試験体における所望の部位に付与する。
【解決手段】溶接部13に応力腐食割れを模擬した割れが付与された試験体10を製造する方法において、試験体10に一端を溶接部13に突き当てるようにして補強部材14を取り付けて補強部材付き試験体15とし、補強部材付き試験体15を曲げて溶接部13に引張応力を発生させることで、溶接部13に突き当てられた補強部材14の一端により溶接部13に応力集中を生じさせて、その応力集中により溶接部13に割れを付与し、その後、補強部材14を試験体10から取り外すようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接部に応力腐食割れを模擬した割れが付与された試験体を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力プラント等においては、種々の機器の各部位に対して超音波探傷検査等の非破壊検査が行われるが、特に溶接部は欠陥検出が難しいとされており、非破壊検査技術の精度向上を図る必要がある。非破壊検査技術の精度向上のためには、溶接部にSCC(応力腐食割れ)が人為的に付与された試験体を製造し、その試験体を用いて、SCCを検出するための非破壊検査についての研究をする必要がある。
【0003】
SCCを試験体の溶接部に付与する際には、溶接部におけるSCCを付与する部位に所定の引張応力を発生させる必要がある。従来、板状又は管状等の試験体では、試験体を曲げることで(三点曲げ又は四点曲げ等)SCCを付与する部位に引張応力を発生させた状態で、その試験体を溶液に浸漬することで、SCCを試験体の溶接部に付与していた。このような応力腐食割れ付与試験体製造方法は、特許文献1及び2等にも記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2005−61914号公報
【特許文献2】特開2006−118862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の方法では、厚さが均一な試験体に対しては有効であったが、厚さが不均一な複雑な形状の試験体に対しては、所望の部位に応力集中を生じさせてその部位にSCCを付与することが困難であった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、応力腐食割れを模擬した割れを、厚さが不均一な複雑な形状の試験体における所望の部位に付与することができる応力腐食割れ付与試験体製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、溶接部に応力腐食割れを模擬した割れが付与された試験体を製造する方法において、上記試験体に一端を上記溶接部に突き当てるようにして補強部材を取り付けて補強部材付き試験体とし、その補強部材付き試験体を曲げて上記溶接部に引張応力を発生させることで、上記溶接部に突き当てられた上記補強部材の一端により上記溶接部に応力集中を生じさせて、その応力集中により上記溶接部に割れを付与し、その後、上記補強部材を上記試験体から取り外すようにしたものである。
【0008】
ここで、上記補強部材付き試験体を曲げる際に、上記溶接部を腐食環境に保持するようにしても良い。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、応力腐食割れを模擬した割れを、厚さが不均一な複雑な形状の試験体における所望の部位に付与することができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の好適な実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る応力腐食割れ付与試験体製造方法を説明するための試験体の側断面図である。
【0012】
図1に示すように、試験体10は、母材11と、母材11に重ね合わせられた母材12と、これら母材11、12を繋ぐように形成される溶接部(隅肉溶接部)13とからなる。母材11、12及び溶接部13は、SCC(Stress Corrosion Cracking;応力腐食割れ)感受性を有する材料(例えば、ニッケル基合金)からなる。本実施形態の試験体10は、原子炉圧力容器の底部に設置される制御棒案内管の形状を模したものを周方向に四分割したものである。
【0013】
本実施形態に係る応力腐食割れ付与試験体製造方法について説明する。
【0014】
まず、試験体10に、一端を溶接部13における割れ(SCCを模擬した割れ)を付与する部位A(図1参照)に突き当てるようにして補強部材14を溶接により取り付けて、その試験体10を補強部材付き試験体15とする。これにより、補強部材14と母材11及び溶接部13との間にそれぞれ、補強部材取付溶接部(溶接ビード)16が形成される。補強部材取付溶接部16は、例えばニッケル基合金からなる。
【0015】
補強部材14を試験体10に取り付ける理由は、補強部材4がない場合、母材11表面と溶接部13表面との交点付近に割れが発生し、所望の溶接部13に割れが得られないからである。
【0016】
補強部材14の形状は、割れを付与する位置や試験体10の形状に合わせた形状(厚さ、幅、長さ、その他R加工等)に加工しておく。また、補強部材14の強度は、試験体10の強度と同じ又はそれ以上とする。補強部材14は、例えば、マンガンモリブデン鋼からなる。
【0017】
本実施形態では、溶接部13の材質と補強部材14の材質とが異なりこれらの間の溶接性が良好でないので、補強部材14の一端に、溶接部13及び補強部材14に対する溶接性が良好な肉盛溶接座17を中間材として形成しておくものとする(図2参照)。
【0018】
次に、溶接部13の割れを付与する部位Aを腐食環境に保持する。本実施形態では、溶液18を溶接部13の割れを付与する部位Aに浸漬させる(塗布する)ことにより、溶接部13の割れを付与する部位Aを腐食環境に保持するようにしている。詳しくは、本実施形態では、溶接部13の割れを付与する部位Aを囲うように筒体19を設け、その筒体19内に溶液18を入れるようにしている。溶液18としては、例えば、テトラチオン酸カリウム溶液を用いることができる。筒体19としては、例えば、アクリル筒等の透明な材料からなる部材を用いることができ、そのようにすることで、割れの発生・進展を観察することが容易となる。また、試験体10(母材11、12及び溶接部13)と筒体19との間に、シールのためにシリコン等からなるシール部材(図示せず)を介在させても良い。
【0019】
次に、溶接部13の割れを付与する部位Aを腐食環境に保持した状態で、補強部材付き試験体15を曲げて(図示例では、三点曲げ)溶接部13に引張応力P(図1参照)を発生させることで、溶接部13に突き当てられた補強部材14の一端により溶接部13の割れを付与する部位Aに応力集中を生じさせる。
【0020】
溶接部13の割れを付与する部位Aを腐食環境に保持した状態で、溶接部13の割れを付与する部位Aに引張応力Pが生じると、まず溶接部13における補強部材14の一端近傍の部位Aに割れが生じ、次いでその割れが進展する。そして、その割れに溶液18が浸入する。
【0021】
溶接部13の割れを付与する部位Aに割れが生じたか否かの判定は、例えば、溶接部13の割れを付与する部位Aを跨ぐ電位を計測し、その電位の変化(低下)に基づいて行う。
【0022】
そして、引張応力により溶接部13の割れを付与する部位Aに割れが付与されたならば、図2に示すように、試験体10から補強部材14を取り外す。そうすると、試験体10の溶接部13に形成された割れが残る。この割れは、微小なものであると共に模擬的なSCCであるので、試験体10をSCCを検出するための非破壊検査についての研究に利用することができる。
【0023】
本実施形態によれば、試験体10に一端を溶接部13に突き当てるようにして補強部材14を取り付けて補強部材付き試験体15とし、その補強部材付き試験体15を曲げて溶接部13に引張応力Pを発生させることで、溶接部13に突き当てられた補強部材14の一端により溶接部13に応力集中を生じさせて、その応力集中により溶接部13に割れを付与するようにしたため、厚さが不均一な複雑な形状の試験体10であっても割れを付与すべき部位Aに一端を突き当てるようにして補強部材14を取り付けることで、所望の部位に応力集中を生じさせてその部位にSCCを模擬した割れを付与することが可能となる。
【0024】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態には限定されず他の様々な実施形態を採ることが可能である。
【0025】
例えば、試験体10は、板状又は管状等のものであっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る応力腐食割れ付与試験体製造方法を説明するための試験体の側断面図である。
【図2】試験体の側断面図であり、補強部材を取り外した状態を示す。
【符号の説明】
【0027】
10 試験体
13 溶接部
14 補強部材
15 補強部材付き試験体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接部に応力腐食割れを模擬した割れが付与された試験体を製造する方法において、
上記試験体に一端を上記溶接部に突き当てるようにして補強部材を取り付けて補強部材付き試験体とし、その補強部材付き試験体を曲げて上記溶接部に引張応力を発生させることで、上記溶接部に突き当てられた上記補強部材の一端により上記溶接部に応力集中を生じさせて、その応力集中により上記溶接部に割れを付与し、その後、上記補強部材を上記試験体から取り外すようにしたことを特徴とする応力腐食割れ付与試験体製造方法。
【請求項2】
上記補強部材付き試験体を曲げる際に、上記溶接部を腐食環境に保持するようにした請求項1に記載の応力腐食割れ付与試験体製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−216119(P2008−216119A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−55660(P2007−55660)
【出願日】平成19年3月6日(2007.3.6)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】