説明

快適性に優れる薄型座席

【課題】夏季には蒸れにくく、かつ冬季には寒さを感じにくいように、取り外し可能または収納可能な被覆材により通気度をコントロールすることができる、快適性に優れる薄型座席を提供する。
【解決手段】織編物の少なくとも片面に被覆材を積層してなる積層構造物を含む薄型座席であって、織編物は、少なくとも経糸または緯糸のいずれか一方に、熱可塑性弾性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなり、被覆材は、125Paの圧力で通気した際の通気度が50cc/cm・sec以下であり、かつ取り外しまたは座席内に収納が可能であり、積層構造物は、フレームに張設固定され、座席の裏面側に被覆材が配置されてなることを特徴とする薄型座席。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、夏季にむれ感が小さく、かつ、冬季の低温環境においても寒冷感が小さく、快適性に優れるカーシート、各種座席に用いられる快適性に優れる薄型座席に関する。
【背景技術】
【0002】
椅子などの家具およびベッド、自動車、電車を始めとする輸送機器などのクッション材として、従来、ウレタンフォーム、ポリエステル繊維からなる詰綿、ポリエステル繊維を接着した樹脂綿、あるいは固綿などが使用されている。さらに、クッションとしての快適な性能を得るために、クッション性の異なる材料を複合する方法、またはクッション成形時に二重構造にする方法などが提案されている。これらのクッション材は、いずれも嵩張る、あるいは小容積でのクッション性という点で不十分であった。また、着座時の快適性には、着座時のクッション材の通気度が強く影響するが、ウレタンフォーム、ポリエステル繊維からなる詰綿、ポリエステル繊維を接着した樹脂綿、または固綿などの従来のクッション材では、通気性を向上させるには限界があった。
【0003】
また、発泡−架橋型ウレタンは、クッション材としての耐久性は良好だが、透湿透水性に劣り、蓄熱性があるため蒸れやすい。さらに、熱可塑性樹脂では無いため、リサイクルが困難であり、焼却する場合、焼却炉の損傷が大きく、かつ、有毒ガス除去に経費が掛かる。そこで、埋め立て処理が多くなったが、地盤の安定化が困難なため、埋め立て場所が限定され、経費も高くなるという問題がある。また、加工性は優れるが製造中に使用される薬品の公害問題などもある。また、熱可塑性ポリエステルからなる詰綿では、繊維間が固定されていないため、使用時に形態が崩れたり、繊維が移動するという問題が起こり、さらに、捲縮のへたりで崇高性の低下や弾力性の低下が問題になる。
【0004】
小容積でクッション性がよいクッション材として、弾性糸を用いた織編物からなるクッション材(例えば、特許文献1、2を参照)、及び弾性糸を用いた織編物からなる布バネ上に3次元メッシュを積層させた薄型座席が提案されている(例えば、特許文献3を参照)。
しかしながら、これらの薄型クッション材は通気度が高いため、夏季にクッション材と人体との間の熱や水分が外気へ放出されやすくなるためにむれ感が小さく、快適性に優れる。さらに、冬季には、クッション材との接触部が定温の外気にさらされやすくなるために、従来のウレタンフォーム、ポリエステル繊維詰綿、ポリエステル繊維を接着した樹脂綿、あるいは固綿に比べると、寒さを感じ、快適性に劣るという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−113552号公報
【特許文献2】特開2006−132046号公報
【特許文献3】国際公開2004/014192号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、前記の従来の問題点を解決することにあり、夏季には蒸れにくく、かつ冬季には寒さを感じにくいように、取り外し可能または収納可能な被覆材により通気度をコントロールすることができる、快適性に優れる薄型座席を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決することができる本発明の薄型座席布は、以下の構成よりなる。
すなわち、本発明は、織編物の少なくとも片面に被覆材を積層してなる積層構造物を含む薄型座席であって、織編物は、少なくとも経糸または緯糸のいずれか一方に、熱可塑性弾性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなり、被覆材は、125Paの圧力で通気した際の通気度が50cc/cm・sec以下であり、かつ取り外しまたは座席内に収納が可能であり、積層構造物は、フレームに張設固定され、座席の裏面側に被覆材が配置されてなることを特徴とする薄型座席である。
【0008】
前記の織編物は、その厚さが0.05〜0.1mmであり、被覆材の厚さが織編物の厚みより小さく、0.01〜0.8mmであることが好ましい。また、モノフィラメントの繊度が300〜3000dtexであることが好ましい。
【0009】
また、本発明において、被覆材と熱可塑性弾性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなる織編物との間に空間を形成してなることが好ましい。前記の空間は、多孔体または繊維集合体を配して形成してもよい。さらに、前記の空間の厚さが10mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の薄型座席は、熱可塑性弾性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなる織編物の少なくとも片面に、被覆材を取り外し可能または収納可能なように配置することにより、夏季には被覆材を取り外しまたは収納することで熱や湿気を放出しやすくし、その不快な蒸れ感を改善できる、冬季には被覆材を配置することで冷気を遮断し、その不快な寒冷感を改善できるからである。
【0011】
さらに、織編物を表層に用いることにより、従来蒸れ易いと言われていた多孔体または繊維集合体が直接人体に触れることがなくなり、さらに織編物が形成する微小空間により長時間着座使用時の温度や湿度の上昇を低減できる。
【0012】
また、被覆材と熱可塑性弾性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなる織編物との間に空間を形成させることにより、外気だけを遮断するのではなく、蓄熱するための空気層が形成されることから、より冬季の寒冷感を改善できる。
【0013】
さらに、前記の空間を、多孔体または繊維集合体を配置して形成することにより、蓄熱するための空気層が形成され、冬季快適性をより改善できるだけでなく、クッション性をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】サーマルマネキンを用いた寒冷感評価結果で、着座中の発汗マネキンの背部の皮膚温の推移を表している。
【図2】発汗マネキンを用いたむれ感評価結果で、着座中の発汗マネキンの背部の絶対湿度の推移を表している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において、従来からクッション材として用いられている熱可塑性弾性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなる織編物を用いたクッション材の少なくとも片面に通気度の低い被覆材を配置することが重要である。従来の薄型座席のように布バネを用いたシートでは、特に冬季の着座使用の際、座部および背部が低温の外気にさらされ、使用者に寒冷感を与えてしまうのに対し、熱可塑性弾性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなる織編物の少なくとも片面に被覆材を取り外し可能または収納可能なように配置することにより、夏季には被覆材を取り外しまたは収納することで熱や湿気を放出しやすくし、その不快な蒸れ感を改善できる、冬季には被覆材を配置することで冷気を遮断し、その不快な寒冷感を改善できるからである。
【0016】
また、織編物としては、モノフィラメントを一部に用いることが重要である。モノフィラメントを用いることにより、熱や湿気を放出するための微小空間を織編物に与えることができるためである。また、モノフィラメントを用いると、摩擦に対する抵抗性が少なくなり耐久性に優れる。モノフィラメントの好ましい繊度は100dtex以上6000dtex以下である。100dtex未満では摩擦に対する抵抗性が少なく、耐久性が十分に得られない可能性があり、6000dtexを超えると織編物製造上の取扱いが難しくなる。より好ましい繊度の範囲は300dtex以上3000dtex以下である。
【0017】
越智編物の厚さは、夏季のむれ感を低減させる点から、0.03〜0.15mmが好ましく、特に好ましくは0.05〜0.10mmである。
【0018】
また、本発明に用いる織編物の組織は、経編み(シングルラッセル、ダブルラッセル、トリコット)、緯編み、平織、綾織、朱子織、からみ織など種々の織編組織から選択することができるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
また、本発明に係わる織編物へは、モノフィラメントのみを用いる必要はなく、例えばポリエステル糸など他のマルチフィラメント糸と組み合わせても良い。例えば、用いるポリエステル糸として、無加工のものを使用しても、ループ加工糸や仮撚加工糸を使用しても、また、両者を混合して使用してもかまわない。また、マルチフィラメント糸は原着糸や先染糸を用いることもできる。ポリエステル糸を使用することは、織編物を構成する糸がすべてポリエステル系となり、リサイクルが容易となることから好ましい。
【0020】
また、本発明に用いる織編物には、難燃性および耐光性を付与する必要があるならば、難燃剤および耐光剤を含有させた糸を用いたり、あるいは、難燃剤および耐光剤を織編物に付与することができる。弾性糸については原料樹脂に混合する難燃剤として、メラミンシアヌレートを添加したり、燐化合物を付与する方法が知られているが、特にこれに限定されるものではない。また、耐光剤も、カーボンブラックなどの添加による耐光処方を用いることができるが、特にこれに限定されるものではない。
【0021】
本発明に係わる織編物に使用する弾性糸に、色彩を付与する必要があるならば、染料や顔料を含有させても良い。顔料としては、フタロシアニン系有機顔料やカーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛など無機顔料を添加する方法が知られているが、特にこれに限定されるものではない。顔料を含む原着糸を使用することにより、染色の手間を省くことができる。
【0022】
また、本発明に係わる織り編物に配するモノフィラメントの原料として熱可塑性弾性樹脂を用いることが必要である。熱可塑性弾性樹脂を用いることによりクッション材として要求される弾性回復性が得られるためである。
【0023】
本発明における熱可塑性弾性樹脂としては、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリオレフイン系エラストマーなどから任意に選ぶことができる。熱可塑性弾性樹脂とすることで、再溶融により再生が可能となるため、リサイクルが容易となる効果もある。熱可塑性弾性樹脂中でも、特に、ポリエステル系エラストマーを用いると、織編物の一部に他のポリエステル糸などを配した場合も、同系列の素材であるため、廃棄時の分別の必要性がなく好ましい。
【0024】
前記の熱可塑性弾性樹脂としてポリエステル系エラストマーを用いる場合、熱可塑性ポリエステルをハードセグメントとし、ポリアルキレンジオールをソフトセグメントとするポリエステルエーテルブロック共重合体、または、脂肪族ポリエステルをソフトセグメントとするポリエステルエーテルブロック共重合体が例示できる。
【0025】
ポリエステルエーテルブロック共重合体としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレン2,6ジカルボン酸、ナフタレン2,7ジカルボン酸、ジフェニル4,4′ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、1,4シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸、琥珀酸、アジピン酸、セバチン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸または、これらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジカルボン酸の少なくとも1種と、1,4ブタンジオール、エチレングリコール、トレメチレングリコール、テトレメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール等の脂肪族ジオール、1,1シクロヘキサンジメタノール、1,4シクローキサンジメタノール等の脂環族ジオール、またはこれらのエステル形成性誘導体などから選ばれたジオール成分の少なくとも1種、および平均分子量が約300〜5000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシドープロピレンオキシド共重合体等のポリアルキレンジオールのうち少なくとも1種から構成される三元ブロック共重合体が挙げられる。
【0026】
ポリエステルエステルブロック共重合体としては、上記ジカルボン酸とジオール及び平均分子量が約300〜3000のポリラクトン等のポリエステルジオールのうち少なくとも各1種から構成される三元ブロック共重合体である。
【0027】
熱接着性、耐加水分解性、伸縮性、耐熱性等を考慮すると、ジカルボン酸としてはテレフタル酸、または、及びナフタレン2,6ジカルボン酸、ジオール成分としては1,4ブタンジオール、ポリアルキレンジオールとしてはポリテトラメチレングリコールの三元ブロック共重合体または、ポリエステルジオールとしてポリラクトンの三元ブロック共重合体が特に好ましい。特殊な例では、ポリシロキサン系のソフトセグメントを導入したものも使うことができる。また、上記ポリエステルエラストマーは単独または2種類以上混合して使用できる。さらには、ポリエステルエラストマーに非エラストマー成分をブレンドされたもの、共重合したもの等も本発明に使用できる。
【0028】
ポリアミド系エラストマーとしては、ハードセグメントにナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン11、ナイロン12等及びそれらの共重合ナイロンを骨格とし、ソフトセグメントには、平均分子量が約300〜5000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシドープロピレンオキシド共重合体等のポリアルキレンジオールのうち少なくとも1種から構成されるブロック共重合体を単独または2種類以上混合して用いてもよい。さらには、非エラストマー成分をブレンドされたもの、共重合したもの等も本発明に使用できる。
【0029】
ポリウレタン系エラストマーとしては、通常の溶媒(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)の存在または不存在下に、(A)数平均分子量1000〜6000の末端に水酸基を有するポリエーテル及び又はポリエステルと(B)有機ジイソシアネートを主成分とするポリイソシアネートを反応させた両末端がイソシアネート基であるプレポリマーに、(C)ジアミンを主成分とするポリアミンにより鎖延長したポリウレタンエラストマーを代表例として例示できる。
【0030】
(A)のポリエステル、ポリエーテル類としては、平均分子量が約1000〜6000、好ましくは1300〜5000のポリブチレンアジペート共重合ポリエステルやポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、エチレンオキシドープロピレンオキシド共重合体等のポリアルキレンジオールが好ましく、(B)のポリイソシアネートとしては、従来公知のポリイソシアネートを用いることができるが、ジフェニルメタン4,4′ジイソシアネートを主体としたシソシアネートを用い、必要に応じ従来公知のトリイソシアネート等を微量添加使用してもよい。(C)のポリアミンとしては、エチレンジアミン、1,2プロピレンジアミン等公知のジアミンを主体とし、必要に応じて微量のトリアミン、テトラアミンを併用してもよい。これらのポリウレタン系エラストマーは単独又は2種類以上混合して用いてもよい。
【0031】
また、本発明において熱可塑性弾性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなる織編物の少なくとも片面に積層する被覆材として、ポリエステル系フィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、合成皮革、人工皮革、織布、編布、革等が挙げられる。これらの中でも、被覆材の材料がポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレンの場合、焼却時に有毒ガスが発生しにくく、環境負荷の低減という点でより好ましい。
【0032】
被覆材の厚さは、織編物の厚みより小さく、0.01〜0.8mmであることが好ましい。
【0033】
また、本発明で用いる被覆材の通気度は、低温の外気を充分に遮断できるように、125Paの圧力で通気した際の通気度が50cc/cm・sec以下であり、好ましくは10cc/cm・sec以下であり、特に好ましくは0cc/cm/secである。
【0034】
本発明の被覆材は取り外しが可能もしくは、収納が可能であり、取り外しが可能な場合は面ファスナー、ファスナー、ボタン、マグネット、両面テープ、フレーム間に挟み込む方式、フレームにフックで張設する方式などにより織編物もしくはシートフレームに取り付けられるが、容易に付け外しができれば、特にこれに限定されるものではない。
【0035】
当該被覆材が収納可能な場合はシートフレームと織編物の間の空隙に収納する方式、ロールカーテンのように被覆材を巻いて収納する方式、ブラインダーのように折畳んで収納する方式、カーテンのように片側または両側に寄せ集めて収納する方式が挙げられ、容易に収納することができれば、特にこれに限定されるものではない。
【0036】
当該被覆材は織編物の少なくとも片面に積層されており、裏面のみに積層されていれば、シート表面の外観や触感を損なうこともなく、より好ましい。ここで言う裏面とは織編物が人体と接触しない面のことを意味する。
【0037】
本発明では、熱可塑性弾性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなる織編物を表層に、被覆層を裏層に用いる。熱可塑性弾性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなる織編物を表層に用いることにより、従来蒸れ易いと言われていた多孔体または繊維集合体が直接人体に触れることがなくなり、さらに織編物が形成する微小空間により長時間着座使用時の温度や湿度の上昇を低減できるからである。尚、ここでいう表層とは、積層構造体の中で、着座の際、人体に触れる側のこと、裏層とは、人体とは直接触れない側のことを意味する。
【0038】
当該被覆材は織編物に一部または全部が接するように積層されている、または織編物との間に空間を形成するように積層されている、または織編物との間に多孔体または繊維集合体を挟むように積層されている。
【0039】
被覆材と織編物との間に空間が形成されて積層されている場合、または織編物との間に多孔体または繊維集合体を挟むように積層されている場合は、空間または多孔体または繊維集合体がもつ空気層が体温により暖められることにより、冬季の快適性がより向上するために、好ましい。
【0040】
被覆材と織編物との間に空間が形成されて積層されている場合は、被覆材と織編物との距離は100mm以下であることが好ましい。また、空気層での体温の蓄熱を効率的にするためには、被覆材と織編物との距離は10mm以下であることがより好ましい。
【0041】
被覆材と織編物との間に多孔体または繊維集合体が積層されている場合は、その多孔体または繊維集合体の厚さが、100mm以下であることが好ましい。また、収納および体温による蓄熱を効率的にするためには、多孔体または繊維集合体の厚みは10mm以下がより好ましい。
【0042】
被覆材と織編物との間に積層されている多孔体または繊維集合体としては、ウレタンフォーム、ポリエステル繊維からなる詰綿、ポリエステル繊維を接着した樹脂綿や固綿、あるいは三次元ランダムループ接合構造体が挙げられる。
【0043】
これらの多孔体または繊維集合体の中でもが、三次元ランダムループ接合構造体が好適である。さらに、300dtex以上の連続線状体を曲がりくねらせランダムループを形成し、夫々のループを互いに溶融状態で接触せしめて、接触部の大部分を融着させてなる三次元ランダムループ接合構造体がより好ましい。また、100g/cmの荷重下での三次元ランダムループ接合構造体の見かけ密度が0.05〜0.20g/cmであることがさらに好ましい。
【実施例】
【0044】
以下に本発明を実施例に基づいて説明する。
本発明は実施例によって特に制限されるものではない。なお、実施例において用いた測定方法は下記のとおりである。
【0045】
(1)通気度
JIS L 1096(通気性、A法、フラジール形法)に準拠し、フラジール形試験機を用い、差圧125Pa時に試験片を通過する空気量を測定した。
【0046】
(2)三次元網状弾性体の繊径
試料を20cm×20cmの大きさに切断し、10箇所から線状体を採集する。10箇所から採集した線状体の40℃での比重を、密度勾配管を用いて測定する。さらに、上記10箇所から採集した線状体の断面積を、光学顕微鏡で30倍に拡大した写真より算出する。次いで、前記の断面積から線状体の長さ10,000m分の体積を求める。得られた比重と体積を乗じた数値(線状体の10,000m分の質量)を10点測定し、その平均値を繊度(繊径)とする。
【0047】
(3)三次元網状弾性体接合体の厚み及び見かけ密度
試料を15cm×15cmの大きさに切断し、無荷重で24時間放置した後、4箇所の高さを測定し、その平均値を試料厚みとする。
また、試料の見かけ密度は、4点の試料について、それぞれ試料厚みから体積を求め、試料の質量を体積で除した数値を求め、その平均値を見かけ密度とする。
【0048】
(4)サーマルマネキンによる冬季寒冷感の評価
サーマルマネキン(東洋紡株式会社製、SAM)を、0℃に制御した恒温恒湿室に設置したモデル座席に座らせ、その後恒温恒湿室の温湿度制御を25℃、50%RHに変更し、着座を継続させた。着座中の40分間、背部の皮膚温を測定した。
【0049】
(5)モニター試験による冬季寒冷感の評価
5人のモニターにより、その寒冷感を判定した。
0℃に制御した恒温恒湿室に設置したモデル座席にモニターを座らせ、次いで、恒温恒湿室の温湿度制御を25℃、50%RHに変更し、着座を継続させた。着座中の30分経過後の寒冷感を、寒い(−2)から暖かい(+2)の下記の5段階で評価した。5人のモニターの平均値を総合判定とした。
【0050】
(官能評価)
−2: 寒い
−1: やや寒い
0: どちらとも言えない
+1: やや暖かい
+2: 暖かい
【0051】
(6)発汗マネキンによる夏季むれ感の評価
発汗マネキン(東洋紡績株式会社製、SAM)を、50℃、20%RHに制御した恒温恒湿室に設置したモデル座席に座らせ、その後恒温恒湿室の温湿度制御を18℃、50%RHに変更し、着座を継続させた。着座中の30分間、背部の衣服内絶対湿度を測定した。
【0052】
(7)モニター試験による夏季むれ感の評価
5人のモニターにより、その寒冷感を判定した。
50℃、20%RHに制御した恒温恒湿室に設置したモデル座席にモニターを座らせ、次いで、恒温恒湿室の温湿度制御を18℃、50%RHに変更し、着座を継続させた。着座中の30分経過後のむれ感を、乾いている(−2)から湿っている(+2)の5段階で評価した。その平均により、総合判定とした。
【0053】
(官能評価)
−2: 乾いている
−1: やや乾いている
0: どちらとも言えない
+1: やや湿っている
+2: 湿っている
【0054】
実施例1
(織編物)
緯糸として、融点が222℃のポリエーテルエステル系エラストマーを芯成分とし、融点が182℃のポリエーテルエステル系エラストマーを鞘成分とし、その質量比率が芯/鞘=80/20である、繊度が2,080dtexである弾性糸を20本/inchの密度で、経糸として、総繊度が830dtexであるポリエステルのマルチフィラメント糸を28本/inchの密度で製織してなる、厚みが0.07mmの平織りの織物を使用した。
【0055】
(被覆材)
厚みが0.04mm、目付けが21g/m、通気度が0cc/cm・secであるポリエチレンフィルムを使用した。
【0056】
(モデル座席)
前記の織物を、座面が38cm×58cmのベンチシート型金属フレームに張設固定した。また、フレームに張設固定した織物の裏面に両面テープを貼り付け、前記のポリエチレンフィルムを被覆材として織物に密着させ、取り外し可能な被覆材を有する積層構造体を得た。このようにして、織物の裏面がポリエチレンフィルム(被覆材)となるように配置させてなるモデル座席を作成した。
次いで、作成したモデル座席の寒冷感を評価した。なお、夏季のむれ感の評価時には、織物から被覆材をすべて剥がして評価した。
【0057】
実施例2
(織編物)
緯糸として、融点が222℃のポリエーテルエステル系エラストマーを芯成分とし、融点が182℃のポリエーテルエステル系エラストマーを鞘成分とし、その質量比率が芯/鞘=80/20である、繊度が2,080dtexである弾性糸を20本/inchの密度で、経糸として、総繊度が830dtexであるポリエステルのマルチフィラメント糸を28本/inchの密度で製織してなる、厚みが0.07mmの平織りの織物を使用した。
【0058】
(被覆材)
厚みが0.04mm、目付けが21g/m、通気度が0cc/cm・secであるポリエチレンフィルムを使用した。
【0059】
(モデル座席)
前記の織物を、座面が38cm×58cmのベンチシート型金属フレームに張設固定した。また、ロールカーテンの芯をシートフレームに取り付け、この芯に前記のポリエチレンフィルムを巻きつけ、ポリエチレンフィルムを収納可能とした。ポリエチレンフィルムを引出した時には、ポリエチレンフィルムは織物に密着するようにロールカーテンの芯を配置した。このようにして、織物の裏面にポリエチレンフィルム(被覆材)が収納可能となるように配置させてなるモデル座席を作成した。
このようにして作成した織物および被覆材からなる積層構造体のモデル座席の寒冷感を評価した。なお、夏季のむれ感の評価時には、被覆材をロールカーテンの芯に巻き付けて収納した状態で評価を行った。
【0060】
実施例3
(織編物)
緯糸として、融点が222℃のポリエーテルエステル系エラストマーを芯成分とし、融点が182℃のポリエーテルエステル系エラストマーを鞘成分とし、その質量比率が芯/鞘=80/20である、繊度が2,080dtexである弾性糸を20本/inchの密度で、経糸として、総繊度が830dtexであるポリエステルのマルチフィラメント糸を28本/inchの密度で製織してなる、厚みが0.07mmの平織りの織物を使用した。
【0061】
(被覆材)
厚みが0.04mm、目付けが21g/m、通気度が0cc/cm・secであるポリエチレンフィルムを使用した。
【0062】
(モデル座席)
前記の織物を、座面が38cm×58cmのベンチシート型金属フレームに張設固定した。また、ロールカーテンの芯をシートフレームに取り付け、この芯に前記のポリエチレンフィルムを巻きつけ、ポリエチレンフィルムを収納可能とした。ポリエチレンフィルムを引出した時に、ポリエチレンフィルムをフレームに両面テープで接着し、織物とフィルムとの間に1cmの空間が形成されるようにモデル座席を作成した。
このようにして作成した織物および被覆材からなる積層構造体のモデル座席の寒冷感を評価した。なお、夏季のむれ感の評価時には、被覆材をロールカーテンの芯に巻き付けて収納した状態で評価を行った。
【0063】
実施例4
(織編物)
緯糸として、融点が222℃のポリエーテルエステル系エラストマーを芯成分とし、融点が182℃のポリエーテルエステル系エラストマーを鞘成分とし、その質量比率が芯/鞘=80/20である、繊度が2,080dtexである弾性糸を20本/inchの密度で、経糸として、総繊度が830dtexであるポリエステルのマルチフィラメント糸を28本/inchの密度で製織してなる、厚みが0.07mmの平織りの織物を使用した。
【0064】
(被覆材)
厚みが0.04mm、目付けが21g/m、通気度が0cc/cm・secであるポリエチレンフィルムを使用した。
【0065】
(三次元網状弾性体)
融点が200℃のポリエーテルエステル系エラストマーをノズル(ノズル孔径:1mm、単孔吐出量:1.4g/min)より、240℃で溶融して、吐出した。次いで、ノズル面下250mmに水面がくるよう冷却水を配し、幅60cmのステンレス製エンドレスネットを平行に2cm間隔で一対の引取りコンベアを水面上に一部出るように配した上に引取り、接触部分を融着させつつ、両面を挟み込みつつ、1.1m/分の速度で常温の冷却水中へ引込み固化させた。その後、所定の大きさに切断して三次元網状弾性体を得た。
【0066】
得られた三次元ランダムループ接合構造体を、105℃で15分間加熱し、疑似結晶化処理した。得られた三次元ランダムループ接合体は、繊度が2,000dtex、見かけ密度が60kg/m、厚みが10mm、25%硬度が50Nであった。
(モデル座席)
前述の織物を、背面が38cm×58cmのベンチシート型金属フレームに張設固定した。また、フレームに、前記のポリエチレンフィルムを両面テープで取り付け、調節固定した織物とポリエチレンフィルムの間に、厚みが10mmの三次元網状弾性体を挟み、モデル座席を作成した。
このようにして作成した織物、被覆材および三次元網状弾性体からなる積層構造体のモデル座席の寒冷感を評価した。なお、夏季のむれ感の評価時には、ポリエチレンフィルムを剥がして評価した。
【0067】
(比較例1)
(モデル座席)
実施例1にて作成した織物を、座面が38cm×58cmのベンチシート型金属フレームに張設固定し、モデル座席を作成した。
このようにして作成した織物のみから構成されたモデル座席の寒冷感及び夏季のむれ感を評価した。
【0068】
(比較例2)
市販の自動車に使われている、表皮材が本革、クッション材がウレタンフォームのカーシートを用いて寒冷感及びむれ感を評価した。
【0069】
(結果)
実施例及び比較例のモニター試験による寒冷感及びむれ感の評価結果を表1に示した。
【0070】
表1より、実施例1〜4および比較例2はいずれも正の値をとっているため、暖かい傾向にある。一方、比較例1は負の値をとっているため、寒い傾向が見られる。また、実施例1及び2は、織物だけからなる比較例1に対し、暖かい傾向が見られるが、市販のカーシートを用いた比較例2に対しては暖かさに劣る傾向が見られる。一方、空間を形成して被覆材(ポリエチレンフィルム)を貼り付けた実施例3および空間に三次元網状弾性体を挿入した実施例4は、織物だけからなる比較例1に対して暖かい傾向が見られ、さらに市販のカーシートである比較例2とほぼ同程度の暖かさである。
【0071】
サーマルマネキン(東洋紡績株式会社製、SAM)を用いた寒冷感評価結果で、着座中の発汗マネキンの背部皮膚温の推移の一例を図1に示した。
【0072】
図1より、実施例1は織物だけからなる比較例1に対してサーマルマネキンの背部皮膚温が上昇しており、寒冷感が緩和されていることが分かる。ただし実施例1は市販のカーシートである比較例2に対し、サーマルマネキンの背部皮膚温が低く、寒冷感は市販のカーシートほどではない。
【0073】
また、実施例1〜4および比較例1、2の着座30分後におけるサーマルマネキンの背部皮膚温を、表1に示した。
【0074】
表1より、サーマルマネキンによる評価からも、実施例1及び2は、織物だけからなる比較例1に対し、暖かい傾向が見られるが、市販のカーシートである比較例2に対しては暖かさに劣る傾向が見られる。
【0075】
一方、空間を形成してフィルムを貼り付けた実施例3および空間に三次元網状弾性体を挿入した実施例4は、織物だけからなる比較例1に対して暖かい傾向が見られ、さらに市販のカーシートである比較例2とほぼ同程度の暖かさである。
【0076】
また、実施例及び比較例のモニター試験による夏季むれ感の評価結果を表1に示した。
【0077】
表1より、実施例1〜4および比較例1はいずれも負の値をとっているため、むれない傾向が見られる。一方、比較例2は正の値をとっているため、むれる傾向が見られる。また、実施例1は、織物だけからなる比較例1に対し、ややむれる傾向が見られるが、市販のカーシートである比較例2に対してはむれない傾向が見られる。実施例2、3は市販のカーシートである比較例2に対してむれない傾向が見られ、さらに織物だけからなる比較例1に対しても同程度にむれ感が低い傾向が見られる。
【0078】
一方、織物と被覆材との間の空間に三次元網状弾性体を挿入した実施例4は、織物だけからなる比較例1に対してややむれる傾向が見られ、さらに市販のカーシートである比較例2に対してはむれない傾向が見られる。
【0079】
発汗マネキンを用いた寒冷感評価結果で、着座中の発汗マネキンの衣服内絶対湿度の推移の一例を図2に示した。
【0080】
図2より、実施例1は市販のカーシートである比較例2に対して発汗マネキンの背部絶対湿度が低くなっており、むれ感が小さいことが分かる。ただし実施例1は織物だけからなる比較例1に対し、発汗マネキンの背部絶対湿度が高く、比較例1に対し実施例1はむれ感がやや高い傾向である。
【0081】
また、実施例1〜4および比較例1、2の着座30分後における発汗マネキンの背部絶対湿度を表1に示した。
【0082】
表1より、実施例1は、織物だけからなる比較例1に対し、ややむれる傾向が見られるが、市販のカーシートである比較例2に対してはむれない傾向が見られる。実施例2、3は市販のカーシートである比較例2に対してむれない傾向であり、さらに織物だけからなる比較例1に対しても同程度にむれ感が低い傾向である。
【0083】
一方、織物と被覆材との間の空間に三次元網状弾性体を挿入した実施例4は、織物だけからなる比較例1に対してややむれる傾向にあり、さらに市販のカーシートである比較例2に対してはむれない傾向が見られる。
【0084】
実施例1〜4および比較例1、2の夏季のむれ感および冬季の寒冷感を、表1にまとめた。
【0085】
表1より、比較例1は夏季のみの快適性に優れ、比較例2は冬季のみの快適性に優れるのに対し、実施例1〜4は夏季および冬季の快適性に優れていると判断できる。
【0086】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の薄型座席は、鉄道車輌、自動車、船舶、一般家庭、事務などの座席のシートとして適用でき、特に車両用シートとして好適である。さらに、一般家庭、宿泊施設、病院、鉄道車輌、船舶などで用いる寝具、枕などの用途においても有用である。無論、用途との関係で要求性能に合うべき他の素材と組み合わせで用いることもでき、本発明の性能を低下させない範囲で加工を施し、形状を付与することもできる。さらに、製品化させる任意の段階で難燃化、防虫抗菌化、耐熱化、撥水撥油化、着色、芳香性などの機能を薬剤添加などにより付与することも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織編物の少なくとも片面に被覆材を積層してなる積層構造物を含む薄型座席であって、
織編物は、少なくとも経糸または緯糸のいずれか一方に、熱可塑性弾性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなり、
被覆材は、125Paの圧力で通気した際の通気度が50cc/cm・sec以下であり、かつ取り外しまたは座席内に収納が可能であり、
積層構造物は、フレームに張設固定され、座席の裏面側に被覆材が配置されてなることを特徴とする薄型座席。
【請求項2】
織編物の厚さが0.05〜0.1mmであり、被覆材の厚さが織編物の厚みより小さく、0.01〜0.8mmである請求項1に記載の薄型座席。
【請求項3】
モノフィラメントの繊度が300〜3000dtexである請求項1または2に記載の薄型座席。
【請求項4】
被覆材と熱可塑性弾性樹脂からなるモノフィラメントを一部に配してなる織編物との間に空間を形成してなる請求項1〜3のいずれかに記載の薄型座席。
【請求項5】
前記の空間が、多孔体または繊維集合体を配して形成してなる請求項4に記載の薄型座席。
【請求項6】
前記の空間の厚さが10mm以下である請求項4または5に記載の薄型座席。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−50462(P2011−50462A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200257(P2009−200257)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】