説明

急傾斜搬送用コンベヤベルト

【課題】波形桟の耐油性、伸張による耐亀裂性および加工時に必要な高温での耐引裂性を改善する。
【解決手段】波形桟3R,3Lに使用されるゴム組成物が、アクリロニトリルブタジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴムの3種類のゴムから形成される。前記波形桟を形成するゴム組成物に含まれるポリマーを100とした場合に、天然ゴムの添加量が10〜30重量部の範囲、クロロプレンゴムが10〜30重量部の範囲で、アクリルニトリルの含有量が、使用されるゴムを100とした場合に、20〜30wt%の範囲であり、かつ140℃での動的弾性率E’が、25℃での動的弾性率E’の50%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本体ベルト、波形桟および横桟を備える急傾斜搬送用コンベヤベルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、急傾斜搬送用コンベヤベルトとして、本体ベルト、波形桟および横桟を備えるものは知られている(例えば、特許文献1,2,3参照)。
【0003】
このような急傾斜搬送用コンベヤベルト101は、例えば図3に示すように、帯状でエンドレスの本体ベルト102と、この本体ベルト102の両側縁部に接着される断面波形状の波形桟103R,103Lと、波形桟103R,103Lの間においてベルト周方向に一定間隔で設けられた横桟104とを備える。
【0004】
そのような急傾斜搬送用コンベヤベルトで耐油性を要求される場合には、垂直方向への搬送時に搬送物が主に接する本体ベルト102および横桟104については、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)を使用した耐油仕様を採用しているが、波形桟については搬送物との接触による影響が少ないということで、標準品を主として採用していた。
【0005】
しかしながら、傾斜が緩い場合には、搬送物の落下を防ぐための波形桟であっても、横桟と接している部分付近については、搬送物が接する横桟との接触部が多くなるため、横桟付近の波形桟のみ、油により膨潤してしまうという不具合が発生している。
【0006】
そこで、発明者は、耐油性を考慮したゴム組成物を使用することにより、耐油仕様の急傾斜搬送用コンベヤベルト用の波形桟を製造しようと試みた。
【特許文献1】特開2001−20319号公報(図1)
【特許文献2】特開平8−260510号公報(図1,2)
【特許文献3】特開平11−227932号公報(図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
耐油性に優れたゴムとして、NBRが知られているが、このゴムは力学的特性(特に、耐引裂特性)において劣る。そのために、NBRのみを用いてコンベヤベルトを製造すると、プーリーに巻き掛けられる部位でコンベヤベルト(ベルト本体)の湾曲による伸張で波形桟に亀裂が発生し、使用不能となる。また、NBRは、特に高温時における耐引裂性が劣るために、波形桟を製造する際に、成形金型から引き剥がすと裂けてしまうという別の不具合が発生する。
【0008】
ところで、NBRの高温時における耐引裂性を向上させる手法として、NBRにSRFブラックを70重量部添加する配合系がゴム配合データハンドブック(日刊工業新聞社出版)に紹介されているが、加工時に必要な高温での耐引裂性(加工性)は改善されるもの、プーリー部分での伸張による耐亀裂性(疲労性)は十分には改善されないことが確認された。
【0009】
そこで、発明者は、耐油性を保持しつつ、伸張による耐亀裂性および加工時に必要な高温での耐引裂性を改善するために鋭意研究を重ねた結果、本発明をなすに至ったものである。
【0010】
この発明は、耐油性、伸張による耐亀裂性および加工時に必要な高温での耐引裂性を改善した急傾斜搬送用コンベヤベルトを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明は、本体ベルト、波形桟および横桟を備える急傾斜搬送用コンベヤベルトであって、前記波形桟に使用されるゴム組成物が、アクリロニトリルブタジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴムの3種類のゴムから形成され、前記波形桟を形成するゴム組成物に含まれるポリマーを100とした場合に、天然ゴムの添加量が10〜30重量部の範囲、クロロプレンゴムの添加量が10〜30重量部の範囲で、かつ、アクリルニトリルの含有量が、使用されるゴムを100とした場合に、20〜30wt%の範囲であり、140℃での動的弾性率E’が、25℃での動的弾性率E’の50%以上であることを特徴とする。
【0012】
このようにすれば、耐油性、伸張による耐亀裂性および加工時に必要な高温での耐引裂性が改善され、横桟付近の波形桟のみ油により膨潤したり、ベルト走行時に波形桟に亀裂あるいは割れが発生したり、加硫後、成形金型から外すときに波形桟が裂けてしまったりするという不具合が回避される。
【0013】
そして、この場合、請求項2に記載のように、前記波形桟を形成するゴム組成物に含まれるポリマーを100とした場合に、天然ゴムとクロロプレンゴムとの添加量の合計が50重量部未満で、アクリルニトリルの含有量が、使用されるゴムを100とした場合に、21〜24.5wt%の範囲であり、140℃での動的弾性率E’が、25℃での動的弾性率E’の54%以上であることが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
以上のように構成したから,本発明は、波形桟の耐油性、伸張による耐亀裂性および加工時に必要な高温での耐引裂性を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に沿って説明する。
【0016】
図1(a)〜(c)はそれぞれ本発明に係る一実施の形態である急傾斜搬送用コンベヤベルトを示し、図1(a)は概略平面図、図1(b)は図1(a)のA−A線における断面図、図1(c)は図1(a)のB−B線における断面図である。
【0017】
図1(a)〜(c)に示すように、1は急傾斜搬送用コンベヤベルトで、帯状でエンドレスの本体ベルト2と、この本体ベルト2の両側縁部に接着される断面波形状の波形桟3R,3Lと、波形桟3R,3Lの間においてベルト周方向に一定間隔で設けられた横桟4とを備える。そして、波形桟3R,3Lは、それぞれ、本体部3Ra,3Laと、この本体部の下端に一体に設けられベルト本体2の上面に接着される接着部3Rb,3Lbとを有する。横桟4も、それぞれ、本体部4aと、この本体部4aの下端に一体に設けられベルト本体2の上面に接着される接着部4bとを有する。
【0018】
そして、このような急傾斜搬送用コンベヤベルト1は、例えば図2に示すように、上下に離れて配置される1対のプーリー11A,11Bの間に巻き掛けられ、それらの間において、アイドルプーリー12,・・・、13,・・・、14,15が設けられる構成とされる。この場合には、上下のプーリー11A,11B、プーリー13,・・・、15の部位では横桟4の間隔が広くなるように、プーリー12,・・・、14の部位では横桟4の間隔が狭くなるように変形するようになっている。
【0019】
本体ベルト2、横桟4の材質は、NBRである。波形桟3R,3Lについても、添加量が最も多い、べースとなるゴム組成物は、NBRとしているが、天然ゴム、クロロプレンゴムも加えている。ここで、波形桟3R,3Lについてもべースゴム組成物としてNBRを用いるのは、耐油性を満足させる必要があるからである。ただ、波形桟3R,3Lの場合、製造時に成形型を用いて成形されるので、その成形型から、成形後の波形桟3R,3Lを剥がそうとすると、波形の部分である本体部3Ra,3Laや本体ベルト2と接着させる脚の部分である接着部3Rb,3Lbが裂けてしまうおそれがある。また、使用時には、プーリーに巻き掛けられる部分で波形桟3R,3Lは大きく湾曲するため、耐引裂性に劣るNBRだけでは、波形桟3R,3Lの上側の部分から裂けていくようになる。この耐引裂性を高めるために、NBRを配合するだけでなく、天然ゴムとクロロプレンゴムを配合して用いている。天然ゴムを配合するだけでは、耐油性が大きく劣ることと、加硫後金型から剥がそうとしたときに、ゴムが裂けるのが改善されないためである。
【0020】
具体的には、後述する試験結果から、波形桟3R,3Lを形成するゴム組成物中に含まれるポリマー(ゴム)を100とした場合に、天然ゴムの添加量が10〜30重量部の範囲、クロロプレンゴムの添加量が10〜30重量部の範囲で、かつアクリルニトリルの含有量が、使用されるゴムを100とした場合に、20〜30wt%の範囲であり、140℃での動的弾性率E’が、25℃での動的弾性率E’の50%以上であるようにしている。
【0021】
ところで、従来、波形桟のみ耐油性のものが製造されなかったのは、(i)搬送物が波形桟にはあまり接触しないと考えられていたこと、(ii)NBRでは、加工性の問題(ゴムの裂け)で波形桟の製造が困難であったこと、(iii)プーリーの屈曲疲労で波形桟の頭部が裂けてしまうのを回避できなかったことなどが理由が考えられる。
【0022】
続いて、次の表1に示す配合のゴム組成物をカバーゴムに用い、コンベヤベルトサンプルを作成して、次の試験を行った。その試験結果を表2に示す。
(耐油性試験)
JISK6258の加硫ゴムの浸漬試験方法に準じ、浸漬する潤滑油としてはASTMNo.3相当油を用い、70℃雰囲気の下で7日放置後の体積変化を測定した。
(引裂試験)
JISK6252に準じて行った。ダンベル形状はトラウザ型を使用した。25℃雰囲気および140℃雰囲気で行った。
(動的弾性率測定試験)
レオメトリックス社製RDA−700を用い、周波数1Hz・動歪1%にて行った。
(疲労試験)
表1に示すゴム組成物で成型した波形桟(高さ300mm)を用いて試験ベルト(急傾斜搬送用ベルト)を作成し、図2に示すように、1対のプーリー21A,21B(直径600mm)を間隔L=1500mmでもって配置し、それらの間に試験ベルト22(急傾斜搬送用ベルト)を巻き掛け、300万回屈曲後の波形桟あるいは横桟に、亀裂あるいは割れが生じるかどうかを目視により調べた。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

以上の試験結果より、まず、NBRの耐引裂性を向上させる方法として、天然ゴムおよびクロロプレンゴムを添加するようにしているが、天然ゴム、クロロプレンゴムの添加量の合計が50重量部を越えてしまうと(比較例4)、耐油性が劣ることが分かる。
【0025】
天然ゴムが添加されていない場合(比較例1,2)には、十分な引裂力が得られないために、ベルト走行時に波形桟に割れが発生する。
【0026】
クロロプレンゴムが添加されていない場合(比較例1,3)には、高温時に満足できる引裂力が得られないために、加硫後金型から外すときに波形桟が裂けてしまう不具合が発生した。
【0027】
また、耐亀裂性(走行時の割れ)を向上させるために、充填剤の添加量を減少させた比較例5については、140℃での弾性率が低下し、その結果140℃での引裂力の低下を招いた。
【0028】
よって、前記波形桟を形成するゴム組成物に含まれるポリマーを100とした場合に、天然ゴムの添加量が10〜30重量部の範囲、クロロプレンゴムの添加量が10〜30重量部の範囲で、かつ天然ゴムとクロロプレンゴムとの添加量の合計が50重量部未満で、アクリルニトリルの含有量が、使用されるゴムを100とした場合に、21〜24.5wt%の範囲であり、140℃での動的弾性率E’が、25℃での動的弾性率E’の54%以上であれば、波形桟の耐油性、伸張による耐亀裂性(疲労性)および加工時に必要な高温での耐引裂性(加工性)が改善されることが確認された。
【0029】
この試験結果から、前記波形桟を形成するゴム組成物に含まれるポリマーを100とした場合に、天然ゴムの添加量が10〜30重量部の範囲、クロロプレンゴムの添加量が10〜30重量部の範囲で、かつアクリルニトリルの含有量が、使用されるゴムを100とした場合に、20〜30wt%の範囲であり、140℃での動的弾性率E’が、25℃での動的弾性率E’の50%以上であれば、経験的に、波形桟の耐油性、プーリー部分での伸張による耐亀裂性および加工時に必要な高温での耐引裂性が改善されるといえる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1(a)〜(c)はそれぞれ本発明に係る一実施の形態である急傾斜搬送用コンベヤベルトを示し、図1(a)は概略平面図、図1(b)は図1(a)のA−A線における断面図、図1(c)は図1(a)のB−B線における断面図である。
【図2】急傾斜搬送用コンベヤベルトを用いたベルトコンベヤを示す説明図である。
【図3】試験システムの説明図である。
【図4】従来の急傾斜搬送ベルトの説明図である。
【符号の説明】
【0031】
1 急傾斜搬送用コンベヤベルト
2 本体ベルト
3R,3L 波形桟
4 横桟

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体ベルト、波形桟および横桟を備える急傾斜搬送用コンベヤベルトであって、
前記波形桟に使用されるゴム組成物が、アクリロニトリルブタジエンゴム、天然ゴム、クロロプレンゴムの3種類のゴムから形成され、
前記波形桟を形成するゴム組成物に含まれるポリマーを100とした場合に、天然ゴムの添加量が10〜30重量部の範囲、クロロプレンゴムの添加量が10〜30重量部の範囲で、かつ、アクリルニトリルの含有量が、使用されるゴムを100とした場合に、20〜30wt%の範囲であり、
140℃での動的弾性率E’が、25℃での動的弾性率E’の50%以上であることを特徴とする急傾斜搬送用コンベヤベルト。
【請求項2】
前記波形桟を形成するゴム組成物に含まれるポリマーを100とした場合に、天然ゴムとクロロプレンゴムとの添加量の合計が50重量部未満で、アクリルニトリルの含有量が、使用されるゴムを100とした場合に、21〜24.5wt%の範囲であり、
140℃での動的弾性率E’が、25℃での動的弾性率E’の54%以上であることを特徴とする請求項1記載の急傾斜搬送用コンベヤベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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