説明

急峻なエッジを有するリアクタンスフィルタ

それ自体公知のはしご型構造または格子型構造のリアクタンスフィルタにおいて、リアクタンスフィルタの少なくとも1つの直列共振器と並列につながれたコンデンサによって、通過帯域の上側エッジを急峻化することが提案される。このようなリアクタンスフィルタには、デュプレクサの送信フィルタとしての好ましい用途がある。コンデンサは、リアクタンスフィルタのデバイスチップの上に統合して作成することができ、特に、共振器とコンデンサを製作するのに同じ方法ステップと同じ層構造を利用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
インピーダンス素子および特に共振器をはしご形に配線していわゆるはしご型構造または格子型構造とし、これから帯域通過特性を有するリアクタンスフィルタを設計することができる。たとえば欧州特許出願公開第1196991A1号明細書により、音響ワンゲート共振器からSAW技術(SAW=Surface Acoustic Wave)で構成されたはしご型フィルタが公知である。このようなリアクタンスフィルタの利点は、使用する部材の個数や種類によってフィルタ特性を調整し、特に阻止領域抑圧を改善できることにある。
【背景技術】
【0002】
BAW共振器(BAW=Bulk Acoustic Wave)から構成されるはしご型構造のリアクタンスフィルタが、たとえば欧州特許出願公開第1407546A1号明細書から公知である。BAW技術は、共振周波数の温度応答性が比較的低い、周波数が正確で性能が一定した帯域通過フィルタを得られるという利点をもたらす。BAWフィルタの周波数の正確性に基づき、このようなフィルタはデュプレクサでも主に用いられている。
【0003】
BAW技術のさらに別の主要な利点は、BAW共振器で実現することができる1000を上回る高い等級である。このことは、BAWデュプレクサで非常に急峻なフィルタエッジを可能にする。このことから、すなわち低い温度応答性と高い周波数精度から、BAWフィルタは送信帯域と受信帯域の間の間隔が短いデュプレクサ向けの用途にきわめて適している。
【0004】
デュプレクサは、別々の基板に構成されるのが普通である送信フィルタと受信フィルタを含んでいる。送信帯域と受信帯域の間にはしばしば短い帯域間隔しかなく、これは、たとえば米国で用いられるPCS移動無線システムの場合、1.9ギガヘルツの中央周波数でわずか20メガヘルツにすぎない。G帯域拡張を有するフィルタには、帯域間隔をさらに15メガヘルツまで低減したデュプレクサさえ必要である。このように相対幅の1パーセントより小さい短い送信帯域と受信帯域の間隔は、高い等級と優れた温度安定性を有する共振器テクノロジーに加えて、デュプレクサに統合される両方のフィルタについて急峻なフィルタエッジを可能にするフィルタデザインをも必要とする。特に重要なのは、両方の通過帯域の互いに周波数面で向き合っている両方のエッジを急傾斜に構成して、両方の通過帯域の間のできるだけ良好な区切りを実現することである。上述したG帯域デュプレクサについては、必要なエッジ急峻度は、製造のばらつきや温度依存的な変動を考慮に入れると、少なくとも5dB/MHzである。しかしながら、これよりも急峻なエッジのほうが望ましい。それによってフィルタないしデュプレクサの仕様だけでなく、製造上の変動が生じる生産収量も向上させることができるからである。
【0005】
すでに挙げた欧州特許出願公開第1407546A1号明細書では、1つの共振器で静的キャパシタンスと動的キャパシタンスの比率を引き下げることによって、通過帯域のエッジを急峻化することが提案されている。このようにして共振器の反共振周波数が的確に高められ、その際に、同時に当該共振器の共振周波数を変えることがない。それにより結合度が低くなり、共振器に付属する通過帯域のエッジが急峻になる。具体化のために、結合度の低い圧電材料または電極材料を使用することが提案されている。別の選択肢として、同じくそれぞれの共振器の音響結合度を引き下げることができる音響ミラーを使用することが提案されている。
【0006】
エッジを急峻に形成するさらに別の選択肢の要諦は、特徴的なゼロ位置または追加のゼロ位置を生成し、それによってエッジをも急峻化する並列の共振器をリアクタンスフィルタで用いることにある。しかしながら欠点は、このような手法では相互に配線された直列共振器の個数によって、リアクタンスフィルタの抵抗損失も増大することにある。さらに、リアクタンスフィルタで並列につながれた共振器をインダクタンスと直列につなぐことができ、この場合、ゼロ位置を低い周波数のほうへシフトさせることができる。このことは絶縁部の増加を引き起こすだけでなく、帯域通過フィルタのいっそう広い帯域幅も惹起する。通過帯域の右側のいっそう急峻なエッジは、直列の共振器の個数を増やすことによって実現され、その反共振は、エッジの位置およびこれに伴ってその急峻度に影響を及ぼす。
【0007】
エッジ急峻度を改善するための公知の解決法の欠点は、いっそう高い損失を惹起してしまうか、または、いっそう高い配線コストおよび製造コストでしか製作できないという点にある。さらに別の欠点は、チップ上で多くなる共振器のために、いっそう広いチップ面積も必要になることである。2つの直列共振器を付け加えれば、それは少なくとも1つの並列共振器がさらに必要になることを含意しており、全部で3つの追加の共振器が存在することになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで本発明の課題は、通過帯域の右側のエッジを的確にいっそう急峻に構成することができるリアクタンスフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は本発明によると、請求項1の構成要件を備えるリアクタンスフィルタによって解決される。本発明の好ましい実施形態は、その他の請求項から明らかとなる。
【0010】
信号入力部を信号出力部と接続する少なくとも1つの直列分岐を含む、それ自体公知のはしご型または格子型のリアクタンスフィルタが提案される。さらにこのリアクタンスフィルタは、はしご型フィルタの場合には直列分岐からアースに向かって枝分かれし、または格子型構造の場合にはそこに存在する2つの直列の分岐を相互に接続する、少なくとも1つの並列分岐を有している。各々の並列分岐には1つの並列共振器が配置されており、各々の直列分岐には、以上の限りでは公知であるこのリアクタンスフィルタ構造において複数の直列共振器が直列に配線されている。本発明によると、少なくとも1つの直列共振器と並列にコンデンサがつながれている。この並列コンデンサは直列共振器の有効な静的キャパシタンスCを高め、それにより、共振器の動的キャパシタンスと静的キャパシタンスの比率を変化させる。直列共振器の共振周波数は式
【0011】
【数1】

【0012】
に基づき、共振器の動的キャパシタンスC1およびインダクタンスにのみ依存して決まるのに対し、反共振周波数fは式
【0013】
【数2】

【0014】
に基づき、動的キャパシタンスと静的キャパシタンスの上述した比率に対する依存性も追加的に有している。本発明に基づいて高められる静的キャパシタンスによって反共振周波数fも低下し、その際に、同時に共振周波数の位置が変化することはない。それによって共振器の結合度が低下する。
【0015】
直列共振器の反共振周波数fは、右側のフィルタ極(英語:ノッチ)の位置を直接的に規定するので、このように低減された結合度は、低いほうの周波数へと左方に向かって極のシフトを引き起こし、これは、結合度の低下が1つの直列共振器でしか行われないときにも該当し、もしくは、すべての直列共振器で行われるわけではないときにも該当する。通過帯域の幅はほぼ変わらずに保たれる。すべての直列共振器ではないにせよ少なくとも1つの直列共振器が、並列につながれたコンデンサを有しているからである。それにより、右側の通過帯域エッジの急峻度が効率的に高められ、帯域幅でさほどの損失を甘受しなくてよい。上述したリアクタンスフィルタ構造により、エッジ急峻度をたとえば1dB/MHzだけ高めることができる。
【0016】
直列共振器に対して並列のコンデンサは、任意のテクノロジーで製作されていてよい。コンデンサは、外部コンデンサとして共振器と配線することができる。
【0017】
しかしながら、コンデンサをリアクタンスフィルタに統合して製作し、そのために、特に共通の製造ステップを適用するほうが好ましい。すなわち、1つまたは複数の共振器と並列にコンデンサを製作するのが好ましい。
【0018】
SAWワンゲート共振器から構成されるリアクタンスフィルタは、キャパシタンスを有する変換器を有している。したがって、電極フィンガ間隔が改変された追加的に製作される変換器を、SAWワンゲート共振器からなるフィルタでコンデンサとして利用することができる。
【0019】
すでに述べた理由により、リアクタンスフィルタをBAW共振器から構成するのが特別に好ましい。このような共振器は、構造化された層構造を基板上に有している。この層構造は、少なくとも1つのボトム電極と、圧電層と、トップ電極とを含んでいる。共振器に統合して製作されるコンデンサは、少なくとも1つの電極層をコンデンサ電極として利用する。コンデンサはたとえば金属1/誘電体/金属2の層列を有しており、この層列は、原理的に、ボトム電極/圧電層/トップ電極の層構造で具体化することができる。ただし、このようなコンデンサが同じく共振器として作用しないようにするために、リアクタンスフィルタの通過帯域の範囲外にある領域へとコンデンサの共振周波数をシフトさせるためのさらなる方策が必要である。
【0020】
直列共振器の構造ユニットと並列にコンデンサを製作するさらに別の選択肢は、基板と直列共振器の間に配置された音響ミラーを備えた直列共振器を使用することにある。音響ミラーは、金属から構成される高インピーダンス層を含んでいる。この層を、コンデンサ構造のための層列で電極層として利用することができる。
【0021】
コンデンサの層列と共振器の層構造とを並列に構造化するための1つの簡単な選択肢は、コンデンサと共振器を横方向で相並んで層構造で具体化することにある。そのために特に、共振器領域が横方向にコンデンサ領域と並んで配置されていてよい。共振器領域では層および層厚は、相応の共振周波数を生じるように調整される。逆に、これに対して横方向に配置されたコンデンサ領域では、コンデンサの層列はたとえば層厚に関して、コンデンサの共振周波数がリアクタンスフィルタの通過帯域の範囲外にくるように構成される。しかしながら、コンデンサ領域で共振器領域の個々の層を省略し、または別の層をコンデンサ領域でのみたとえばトップ電極の上に塗布し、そのようにして当該コンデンサの共振周波数をクリティカルでない領域へシフトさせることも可能である。
【0022】
コンデンサ領域の共振周波数がシフトするように層列を変更する選択肢の要諦は、ボトム電極の層厚をコンデンサ領域で変更することにある。通常、ボトム電極は硬質金属の層と軟質金属の層を含んでいる。追加の構造化ステップにより、コンデンサ領域で両方の層のうちの一方を取り除くことができ、通常、たとえば硬質金属で形成されていてよいボトム電極の上側の部分層を取り除くことができる。
【0023】
別の実施形態では、共振器のトップ電極と音響ミラーの導電性層が、コンデンサ領域でコンデンサの層列の金属1および金属2として利用される。そのためにボトム電極がコンデンサ領域で全面的に取り除かれ、それにより、トップ電極とミラー層との間にコンデンサが形成される。
【0024】
しかしながら、ボトム電極と、音響ミラーの高インピーダンス層との間にコンデンサを構成することも可能である。このことは、コンデンサを大部分または全面的に共振器の下方に構成でき、基板上に追加の面を必要としないという利点がある。したがって、このようなコンデンサは特別に簡単に製作可能であり、デバイスの底面積を増やすことがなく、もしくはさほど増やすことがない。
【0025】
リアクタンスフィルタでは、コンデンサは少なくとも1つの直列共振器と並列につながれている。そのために、コンデンサ電極を相応の共振器電極と接続することが必要である。ボトム電極と音響ミラーの高インピーダンス層との間に形成されるコンデンサの場合、そのためにトップ電極はスルーホールコンタクトによって高インピーダンスと導電接続される。このようなスルーホールコンタクトは、共振器領域の外部に配置されているのが好ましい。
【0026】
コンデンサ領域と共振器領域が少なくとも部分的に重なり合うその他すべての構造も好ましい。
【0027】
1つの好ましい実施形態では、コンデンサは、信号入力部のもっとも近傍に位置する直列共振器と並列につながれている。その他の直列共振器のうち少なくとも1つは、並列につながれた共振器なしで構成される。信号入力部の並列につながれたキャパシタンスは、多くのコンフィギュレーションにおいて、当該入力部に合わせた適合化を簡略化することができる。その場合、たとえばポート周辺の比較的低い直列インダクタンスを50オームに合わせて適合化すればよい。
【0028】
本発明によるリアクタンスフィルタでは、コンデンサのキャパシタンスが共振器の静的キャパシタンスの1から50%の範囲内にあるときに、好ましくは3−30%の範囲内にあるときに、急峻な上側エッジに関する最大の効果が達成される。
【0029】
次に、実施例と添付の図面を参照しながら本発明について詳しく説明する。各図面は本発明のより良い理解のためのものにすぎず、したがって模式的なものにすぎず、縮尺に忠実に作成されてはいない。同様に、個々の部分もサイズに関して変更して図示されていることがあるので、相対的なサイズの比率を図面から見て取ることはできない。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】共振器で構成される公知のリアクタンスフィルタである。
【図2】外部キャパシタンスを有する本発明のリアクタンスフィルタである。
【図3】内部キャパシタンスを有する本発明のリアクタンスフィルタである。
【図4】本発明によるリアクタンスフィルタを含むデュプレクサである。
【図5】リアクタンスフィルタの層構造の結果として生じるコンデンサである。
【図6】音響ミラーとボトム電極の硬質部分とがいずれも取り除かれた、直列共振器およびこれに接続されたコンデンサである。
【図7A】トップ電極と高インピーダンス層とボトム電極との間に構成された、直接的に配線されたコンデンサを備える直列共振器を示す模式的な断面図である。
【図7B】トップ電極と高インピーダンス層とボトム電極との間に構成された、直接的に配線されたコンデンサを備える直列共振器を示す等価回路図である。
【図8A】直列共振器と、ボトム電極と高インピーダンス層との間に構成されたコンデンサとで成り立つ構造を示す模式的な断面図である。
【図8B】直列共振器と、ボトム電極と高インピーダンス層との間に構成されたコンデンサとで成り立つ構造を示すブロック図である。
【図9】その他の点では同種類の構造である公知のリアクタンスフィルタと対比した、本発明によるリアクタンスフィルタの伝達曲線である。
【図10】BAW共振器の一例としての層構造であり、その部分層を共振器とコンデンサを具体化するために利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、支持体としてのチップCHの上で共振器から構成される、従来技術から知られているはしご型構造のリアクタンスフィルタを示している。信号入力部SEと信号出力部SAの間には、直列分岐SZがつながれている。直列分岐の結節点を起点として、本例では3つの並列分岐PZが固定電位へ、特にアースへつながれている。並列分岐PZの各々に並列共振器PRが配置されている。直列分岐SZは、直列共振器SRの直列配線を含んでいる。
【0032】
図2は、直列共振器SRと並列にコンデンサCAPがつながれたリアクタンスフィルタを示している。直列共振器SRのうちのただ1つがコンデンサと並列につながれているだけで利点が得られるが、このようなコンデンサが複数の直列共振器を並列に橋渡しすることもできる(図面には図示せず)。それに対して、直列共振器のうちの少なくとも1つは変更なしに保たれる。
【0033】
共振器SR,PRは任意のテクノロジーで製作されていてよい。直列分岐と並列につながれたコンデンサの作用形態は電気的なものであり、したがって、あらゆる公知の共振器について適用できるからである。コンデンサCAPは、一例として図2に示すように、SMDデバイスまたはその他のテクノロジーで製作された外部回路素子として、リアクタンスフィルタと配線されていてよい外部コンデンサである。リアクタンスフィルタとコンデンサは、たとえば共通の配線板の上に配置されていてよい。リアクタンスフィルタのチップに、離散したコンデンサを組み付けることも可能である。SMDコンデンサを使用する代わりに、多層配線板にキャパシタンスが組み込まれていてもよい。
【0034】
リアクタンスフィルタのすべての直列共振器SRおよび並列共振器PRは、たとえばチップCHとして構成された共通の基板の上に配置されていてよい。しかしながら、直列共振器と並列共振器とでは周波数位置が異なっているので、直列共振器と並列共振器をそれぞれ異なる基板またはチップの上で具体化するのが好ましい場合もある。
【0035】
図3は、コンデンサCAPがリアクタンスフィルタのチップCHに統合されたリアクタンスフィルタを示している。並列分岐のうちの2つがチップの上または外部で結合されて1つの共通の分岐になっており、インピーダンス素子IEによって、特にインダクタンスによって、アースと配線できることが追加的に図示されている。このようにして、並列共振器で生成されるリアクタンスフィルタの極位置をシフトさせることができる。
【0036】
図4は、本発明によるリアクタンスフィルタの好ましい用途を示している。このリアクタンスフィルタはその急峻な上側エッジに基づき、特に、ディプレクサで送信フィルタSFを構成するのに利用することができる。送信フィルタの通過帯域の上側エッジは、受信フィルタEFの通過帯域の下側エッジのほうを向いているので、このデュプレクサの両方のフィルタは、送信フィルタSFの通過帯域の急峻な上側エッジによってより良く相互に絶縁される。両方のフィルタはアンテナAと接続されている。たとえば4分の1波長伝送線路のような整合ネットワークは図示していないが、それによって、たとえば送信信号が送信フィルタSFの信号出力部から受信フィルタEFへ入力結合されることが防止される。
【0037】
図5は、BAW共振器を作成するために典型的に利用される層構造を、本発明に基づいて簡単な仕方で、BAW共振器の製作にも適用されるプロセスステップにより、コンデンサの作成のためも製作できることを示している。したがってBAW共振器において、コンデンサCAPの作成を簡単な仕方でBAW共振器の製造プロセスに組み込むことが可能である。
【0038】
このような層構造は、たとえば基板SUと、BAW共振器のボトム電極をなす第1の金属層M1と、BAW共振器の層構造における圧電層であってよい誘電体Dと、トップ電極を用いることができる第2の金属層M2とを含んでいる。
【0039】
第1の金属M1/誘電体D/第2の金属M2の層列から形成されるコンデンサCAPは、相応の接続部T1,T2を介して接続されている。たとえば基板の上に直接位置する、もしくはその上に塗布された絶縁層の上に位置する第1の金属層は、スルーホールコンタクトDKを介して誘電体を貫くように接続することができる。電極材料とのより良い接続のために、スルーホールコンタクトの領域には局所的に別の金属が第1の金属層M1の上に装着されていてよく、これは、特に本例では硬質金属層HMである。このようなスルーホールコンタクトDKにより、コンデンサCAPの両方の接続部を層構造の表面に設けることが可能であり、そこで特別に簡単に接続し、もしくは外部の回路環境と接続することができる。
【0040】
図5に示すコンデンサは、BAW共振器の基板上で、ないしはBAW共振器から構成されるリアクタンスフィルタの基板上で、任意の個所に具体化されていてよい。図示した形態では、コンデンサCAPは共振器領域から離して具体化されていてよい。
【0041】
しかしながら、コンデンサCAPを共振器に直接後続するように、および特にこれと接続された直列共振器SRに後続するように構成するほうが好ましい。図6は、ボトム電極BEの相応の構造化によって、直列共振器SRの領域(共振器領域)とコンデンサCAPの領域(コンデンサ領域)との間を区分するという選択肢を示している。
【0042】
ボトム電極は2つの金属層を含んでおり、すなわち、下側の軟質金属層WMとその上に配置された硬質金属層HMとを含んでいる。コンデンサ領域KBで硬質金属層HMを除去することで、この領域を共振器領域RBとは異なる共振器特性を有するように構成することができ、それにより、コンデンサでは直列共振器とは相違する共振周波数が得られることになる。したがってコンデンサCAPは共振器フィルタの中央周波数の領域では、そのキャパシタンスを通じてのみ作用するが、共振器としては作用しない。その共振周波数は、リアクタンスフィルタの通過帯域にとって基準となる周波数の外部に位置しているからである。この構造では、ボトム電極BEの一部である軟質金属層はコンデンサの第1の金属層M1として利用され、トップ電極TEはコンデンサの第2の金属層M2として利用される。直列共振器ないしBAW層構造の圧電層PSは、コンデンサ領域KBで誘電体として作用する。
【0043】
当然ながら、リアクタンスフィルタの通過帯域の領域にある共振をコンデンサ領域KBで回避することは、これ以外の手段によっても可能である。たとえば特に、圧電層PSの誘電体Dの層厚をコンデンサ領域KBで変更し、特に低減することができる。
【0044】
さらに図面には、ボトム電極BEの下方に配置された音響ミラーASが示されている。音響ミラーは、高い音響インピーダンスと低い音響インピーダンスを有する相応の材料で製作された、低インピーダンス層と高インピーダンス層HIとを交互に含んでいる。特に高インピーダンス層HIは重金属でできており、したがって導電性である。その間に位置する低インピーダンス層としては、通常、誘電体および特に酸化物が用いられる。音響ミラーASの部分層は所与の波長の4分の1波長層であってよく、それにより、各部分領域の間の境界面のところで、当該波長の領域の音波を共振器へ反射して戻すことができる。
【0045】
図6には、音響ミラーが共振器領域RBにわたってのみ延びており、ないしは、高インピーダンス層HIがコンデンサ領域KBで切り欠かれていることが示されている。ただしこの実施形態については、音響ミラーが境界面およびそれに伴ってコンデンサ領域にも配置されていることも可能である。
【0046】
図7Aは、トップ電極TEと、音響ミラーASの高インピーダンス層HIのうちの1つとの間にコンデンサ領域を構成する選択肢を示している。そのために、コンデンサ領域KBではボトム電極が取り除かれており、それにより、トップ電極と高インピーダンス層HI1は圧電層PSと、音響ミラーASの誘電体Dとによってのみ分離されている。この実施形態は、高インピーダンス層HI1とボトム電極BEの間に、コンデンサ領域KBの第1のコンデンサCAP1と直列につながれた別のコンデンサCAP2が形成されるという利点がある。このようにして、高インピーダンス層HI1の直接的な接触を省略することができる。高インピーダンス層HI1は、両方のコンデンサCAP1およびCAP2の直列配線における浮動電極をなすからである。図7Bは、たとえば図2から図4のいずれかに示すのと同じように、本発明によるリアクタンスフィルタの一部分だけを表す、図7Aに断面図で示す構造の等価回路図を示している。
【0047】
図8Aは、BAW共振器の層構造でコンデンサを具体化する別の選択肢を示している。図示した図8Aの態様では、コンデンサCAPは、音響ミラーの高インピーダンス層HIと直列共振器SRのボトム電極BEとの間に形成される。ここではコンデンサは直列共振器のすぐ下方に配置されており、追加の面を必要とすることがない。1つの個所で、1つのスルーホールコンタクトDKが高インピーダンス層HIの電気接続のために作成されているにすぎず、それによってコンデンサの第2の電極と電気接触する。この実施形態は特別に省スペースであり、製作のためにわずかな構造化コストしか必要としない。スルーホールコンタクトDKでは、トップ電極が高インピーダンス層HIと導電接続されている。
【0048】
図8Bは、たとえば図2から図4のいずれかに示すように、本発明によるリアクタンスフィルタのブロック図の一部分を形成する構造の等価回路図を示している。
【0049】
右側エッジの急峻化の所望の効果は、直列共振器との並列回路によってその静的キャパシタンスを高める、各々の追加のキャパシタンス値により実現される。優れた効果およびリアクタンスフィルタの上側の通過帯域エッジの十分な急峻化は、キャパシタンスが直列共振器の静的キャパシタンスの3−30%の範囲内にあるコンデンサにより達成される。
【0050】
図9には、本発明に基づいて図3に従って構成されたリアクタンスフィルタのシミュレーションされた伝達曲線K1(S21)が、図1に従って構成された公知のリアクタンスフィルタのシミュレーションされた伝達曲線K2と対比されている。本発明によるリアクタンスフィルタのコンデンサは0.32pFのキャパシタンスを有しており、それに対して直列共振器の静的キャパシタンスは約1.2pFである。通過帯域の右側エッジは、本発明によるリアクタンスフィルタではおよそ0.7dB/MHzだけ急峻化することが示されている。曲線K1の勾配は4.7dB/MHzであり、公知のフィルタの曲線K2の勾配は4.0dB/MHzである。通過帯域のそれ以外の領域では、両方の曲線はほぼ合同となっている。このことから、直列共振器と並列につながれた追加のキャパシタンスCAPによって他のフィルタ特性が影響を受けることはなく、もしくは些細な影響しか受けないことがわかる。
【0051】
図面の右下には、両方の曲線K1,K2のロールオフエッジの下側部分の一部が拡大して示されている。本発明によるリアクタンスフィルタの急峻な曲線K1のほうが所定の絶縁レベルに早く達成するので、通過帯域が隣接する周波数に対してはっきりと区切られる。それに応じて、受信帯域が比較的高いデュプレクサで、特にたとえば米国で適用されているPCS帯域が該当するような帯域間隔の狭いデュプレクサで、送信フィルタとしてフィルタが用いられると特別に好ましい。
【0052】
図10は、BAW共振器を製作するときに用いることができる、考えられる層構造SABの全体を再度模式的に示している。基板SUとしては、通常、特にシリコンウェーハのような結晶材料が用いられる。SMR共振器(SMR=Surface Mounted Resonator)としての構造態様の場合、基板SUのすぐ上に音響ミラーASが構成され、この音響ミラーは高インピーダンス層HIと低インピーダンス層LIの交互の連続を含んでいる。十分に機能性のある音響ミラーASは、2組の高インピーダンス層と低インピーダンス層によって得られる。高インピーダンス層としては、特にタングステン、白金、モリブデンのような重金属が用いられ、それに対して低インピーダンス層は製造面から、通常、半導体技術で採用される酸化物、特に酸化ケイ素であってよい。
【0053】
音響ミラーの上にはボトム電極BEが配置されている。これは多層であってよく、特に、軟質金属層WMとその上の硬質金属層HMを有している。軟質金属としてはたとえばアルミニウムが適しており、それに対して、硬質金属HMとしてはモリブデンやタングステンが適している。
【0054】
ボトム電極BEの上には圧電層PSが配置されている。これは通常均質であり、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、またはこれに類似する材料のような圧電材料で構成されるのが好ましい。
【0055】
圧電層PSの上には、単層または多層であってよいトップ電極TEが装着されている。もっとも単純な態様では、トップ電極TEはアルミニウム層である。あるいは、トップ電極をボトム電極と同様に重金属で構成することもできる。
【0056】
BAW共振器について考えられるこの層構造SABの内部で、本発明に基づいて用いられるコンデンサCAPを構成するために、2つの任意の導電性層を利用することができる。層構造SABの中でわずかな相互間隔だけを有する2つの導電性層が使用されるのが好ましい。
【0057】
コンデンサCAPのキャパシタンスの調整は、コンデンサに使用される両方の導電性層(電極層またはミラー層)のうちの一方の相応の構造化を通じて行うことができる。コンデンサCAPのために、トップ電極、圧電層、ボトム電極のような共振器の部分層が用いられる場合、共振周波数を相応にシフトさせるために、この層構造がコンデンサ領域KBで少なくとも1つの層に関して改変される。これはトップ電極TEであってもよい。
【0058】
本発明によるリアクタンスフィルタは、図示した実施例に限定されるものではない。本発明はテクノロジーに左右されないが、BAW共振器と、BAW共振器の層構造に統合されたコンデンサとを用いて具体化するのが好ましい。
【0059】
本発明によるフィルタは、直列共振器、並列共振器、並列につながれるコンデンサなどの個数に関して、図示したリアクタンスフィルタと相違することができる。これに加えてリアクタンスフィルタはさらに別のインピーダンス素子と、特にインダクタンスまたはキャパシタンスと、配線することができる。本発明によるリアクタンスフィルタの共振器の一部は、別のインピーダンス素子で置き換えられていてよい。配線では共振器のような個々の部材は、2つまたはそれ以上の同種類の部材の直列配線または並列配線で置き換えることもでき、それによってフィルタの特性を劣化させることはない。
【0060】
さらにリアクタンスフィルタは、隔膜ベースのBAW共振器に構成されていてもよい。この場合には音響ミラーはないが、コンデンサ領域の周波数シフトは、上に説明したように、硬質のボトム電極層をエッチングしたり薄くすることで惹起することができる。その別案として、コンデンサ領域で追加の層をトップ電極の上に析出させることもできる。
【符号の説明】
【0061】
A アンテナ
AS 音響ミラー
BE 直列共振器のボトム電極
CAP コンデンサ
CH チップ
D 誘電体
DK スルーホールコンタクト
EF 受信フィルタ
HI 音響ミラーの高インピーダンス層、導電性
HM ボトム電極の硬質金属層
IE インピーダンス素子
K1,K2 伝達曲線
KB コンデンサ領域
NI 低インピーダンス層
PR 並列共振器
PS 圧電層
PZ 並列分岐
RB 共振器領域
SA 信号出力部
SAB 共振器(およびコンデンサ)の層構造
SE 信号入力部
SF 送信フィルタ
SR 直列共振器
SU 基板
SZ 直列分岐
T1,T2 接続部
TE 直列共振器のトップ電極
WM ボトム電極の軟質金属層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアクタンスフィルタにおいて、
信号入力部を信号出力部と接続する直列分岐と、
前記直列分岐からアースへ枝分かれする少なくとも1つの並列分岐であって、各々の前記並列分岐に並列共振器が配置されているものと、
前記直列分岐で直列に配線された2つまたはそれ以上の直列共振器とを有しており、
前記直列分岐で前記直列共振器のうちの1つと並列にコンデンサがつながれているリアクタンスフィルタ。
【請求項2】
前記共振器はBAW共振器として構成されており、基板の上で構造化された層構造として具体化されている、請求項1に記載のリアクタンスフィルタ。
【請求項3】
前記コンデンサと前記基板の間には絶縁層が配置されており、前記コンデンサは金属1/誘電体/金属2の層列を含んでおり、
前記層列の両方の前記金属層のうち少なくとも1つについて前記直列共振器の電極層の部分面が利用されている、請求項2に記載のリアクタンスフィルタ。
【請求項4】
前記基板の上に音響ミラーおよびその上に前記直列共振器が装着されており、
前記音響ミラーは金属からなる高インピーダンス層を含んでおり、
前記層列の両方の金属層のうちの少なくとも1つについて前記高インピーダンス層が利用されている、請求項3に記載のリアクタンスフィルタ。
【請求項5】
前記コンデンサおよび前記直列共振器と前記並列共振器から選択されるすべての前記共振器は相並んで層構造で具体化されている、請求項2から4のいずれか1項に記載のリアクタンスフィルタ。
【請求項6】
前記層構造は共振器領域とこれに対して横方向に配置されたコンデンサ領域とに区分され、
前記共振器領域ではボトム電極の上に圧電層およびその上にトップ電極が設けられており、
前記ボトム電極は硬質金属の層と軟質金属の層が組み合わされてなっており、
前記コンデンサ領域では硬質金属または軟質金属からなる両方の前記層のうちの1つが除去されている、請求項2から5のいずれか1項に記載のリアクタンスフィルタ。
【請求項7】
前記層構造は前記ボトム電極の下方に導電性の高インピーダンス層を備えた音響ミラーを含んでおり、
前記ボトム電極は前記コンデンサ領域で完全に除去されており、それにより前記コンデンサが前記トップ電極と前記高インピーダンス層との間に形成されている、請求項2から6のいずれか1項に記載のリアクタンスフィルタ。
【請求項8】
前記層構造は前記ボトム電極の下方に導電性の高インピーダンス層を備えた音響ミラーを含んでおり、
前記コンデンサは前記ボトム電極と前記高インピーダンス層の間に形成されている、請求項2から6のいずれか1項に記載のリアクタンスフィルタ。
【請求項9】
前記トップ電極と前記高インピーダンス層は前記共振器領域の外部に配置されたスルーホールコンタクトを介して導電接続されている、請求項8に記載のリアクタンスフィルタ。
【請求項10】
前記コンデンサ領域と前記共振器領域は少なくとも部分的に重なり合っている、請求項8または9に記載のリアクタンスフィルタ。
【請求項11】
前記コンデンサは前記信号入力部のもっとも近傍に位置する前記直列共振器と並列につながれており、
その他の前記直列共振器のうち少なくとも1つは並列につながれたコンデンサなしに構成されている、請求項2から10のいずれか1項に記載のリアクタンスフィルタ。
【請求項12】
前記コンデンサは付属の前記直列共振器の静的キャパシタンスの1から50%の間のキャパシタンスを有している、請求項1から11のいずれか1項に記載のリアクタンスフィルタ。
【請求項13】
前記コンデンサの共振周波数は前記コンデンサの前記トップ電極に装着された層によって前記共振器に対してシフトしている、請求項1から12のいずれか1項に記載のリアクタンスフィルタ。
【請求項14】
前記コンデンサの共振周波数は前記コンデンサが前記共振器よりも1つ少ない層を有することによって前記共振器に対してシフトしている、請求項1から12のいずれか1項に記載のリアクタンスフィルタ。
【請求項15】
CDMAまたはWCDMA移動無線システムのためのデュプレクサの送信フィルタとしての、請求項1から14のいずれか1項に記載のリアクタンスフィルタの利用法。
【請求項16】
PCS移動無線システムのためのデュプレクサの送信フィルタとしての、請求項1から14のいずれか1項に記載のリアクタンスフィルタの利用法。
【請求項17】
前記デュプレクサは、それぞれ別々の基板に構成された、送信フィルタとしての前記リアクタンスフィルタと、受信フィルタとしての別のフィルタとを含んでいる、請求項15または16に記載の利用法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8A】
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【図8B】
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【図10】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−519447(P2012−519447A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552419(P2011−552419)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052621
【国際公開番号】WO2010/100148
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(300002160)エプコス アクチエンゲゼルシャフト (318)
【氏名又は名称原語表記】EPCOS  AG
【住所又は居所原語表記】St.−Martin−Strasse 53, D−81669 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】