急性の肝臓損傷における保護剤としてのアンフィレグリンの使用
本発明は、急性肝障害の処置に用いられることができ、そして、例えば、急性肝障害の対する肝臓組織における初期の内因性の保護応答の促進、肝細胞におけるDNA合成の促進、急性肝障害を有する患者の肝臓組織の肝細胞死の予防、いずれかの病因の急性肝障害に続く残った肝実質の再生の刺激、および部分肝切除に続く肝細胞の再生の刺激を目的として投与される、医薬の製造におけるアンフィレグリンの使用に関する。本発明によれば、いずれかの病因の急性肝障害を有する患者のための肝保護薬として、および/または、生存提供者または死亡提供者からの肝臓移植の受容者のための肝保護薬および肝細胞再生刺激薬として、アンフィレグリンは投与される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野
本発明は、肝疾患、そして、特に急性肝障害、例えば急性肝不全(ALF)の治療のための、医療製薬領域に適用される生物工学の分野に帰属する。
より詳しくは、本発明は、アンフィレグリン(amphiregulin)(AR)の使用に基づいて、新規な治療をこの種の疾患に提供する。
【背景技術】
【0002】
本発明以前の技術状況
急性肝障害は、肝細胞死による機能的な肝臓の大部分の喪失が続く急性肝不全(ALF)として表されることができる極めて重い障害である。ALFは、このように疾患ではなくむしろ肝細胞損失の程度と比例した重篤性を有する症候群である。障害は、劇的で、そして、脳障害、脳浮腫、敗血症、呼吸および腎臓障害、腸の出血および心血管虚脱を含む多様な臓器への影響をもたらす合併症を有する[Sanyal, A.J., Stravitz, R.T.The liver.Chapter 16.Pages:445-496.Zakim and Boyer Eds.Saunders.Philadelphia.2003]。
【0003】
ALFは特に一般的ではないが、関連する死亡率は40および95%の間にある[Sanyal, A.J., Stravitz, R.T. The liver. Chapter 16. Pages:445-496. Zakim and Boyer Eds. Saunders. Philadelphia. 2003、 および Galun, E., Axelrod, J.H.Biochim.Biophys.Acta. 1592: 345-358. 2002(下記 (15) )]
【0004】
地理的多様性に伴い、ALFの病因論は、多様である;その正しい定義は、予後を確立して、治療を適用するために重要である。
ALFが生じることができる薬剤の中で、記載は、肝炎ウィルス、特定の薬および毒素、代謝異常、急性虚血のいくつかの例および肝実質の大量切除について述べられている[Sanyal, A.J. ibid、 Galun, E. ibid]。
【0005】
ALFの成功的な解決は、肝細胞損傷を阻害する可能性に、そして、損傷を受けた実質の再生に依存する。現在の臨床診療において、利用可能なほとんどの治療手段は、ALFの多臓器出現を和らげることを試みる;しかしながら、壊死およびアポトーシスを減らすことができ、または幹細胞再生を促進することができる治療的な戦略はない−肝臓移植が、患者を治療する最終的に唯一の可能な選択肢である、 [Sanyal, A.J. ibid、 Galun, E. ibid]。
【0006】
細胞保護および再生する機構は、部分的な肝除去(pH)に対して従属的な肝の組織損失、または中毒性であるか、ウィルスであるか、虚血性であるか、または免疫起源の損傷の後に、肝臓において、活性化されることは公知である。 [(1) Michalopoulos, G.K., DeFrances, M.C. 1997. Liver regeneration. Science 276: 60-66. (2) Fausto, N. 2000. Liver regeneration. J. Hepatol. 32 (suppl 1): 19-31. (3) Taub, R.A. 2003. Hepatic regeneration. In:The Liver. D. Zakim, J.L. Boyer, Saunders, Philadelphia. U.S.A. 31-48]。
【0007】
異なる実験的なアプローチは、重度肝臓損傷の後で、肝機能を保って、機能的な肝重量を回復するために貢献する根底にあるメカニズムを決定するのを助けた [(4) Koniaris, L.G., McKillop, I.H., Schwartz, S.I., Zimmers, T.A. 2003. Liver regeneration. J. Am. Coll. Surg. 197: 634-659]。
【0008】
一連の調整された段階を進展させる過程の関係で、この複雑な反応は、サイトカイン、共同分裂刺激剤および成長因子のネットワークにより媒介される [(2), (3), (5) Kosai, K., Matsumoto, K., Nagata, S., Tsujimoto, Y., Nakamura, T. 1998. Abrogation of Fas-induced fulminant hepatic failure in mice by hepatocyte growth factor. Biochem. Biophys. Res. Commun. 244: 683-690. (6). Ethier, C., Raymond, V-A., Musallam, L., Houle, R., and Bilodeau, M. 2003. Antiapoptotic effect of EGF on mouse hepatocytes associated with downregulation of proapoptotic Bid protein. Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol. 285: G298-G308. (7). Kanda, D., Takagi, H., Toyoda, M., Horiguchi, N., Nakajima, H., Otsuka, T., Mori, M. 2002. Transforming growth factor .alpha. protects against Fas-mediated liver apoptosis in mice. FEBS Lett. 519: 11-15]。動物モデルにおいて、損傷または切除への再生応答にきわめて重要なサイトカインおよび成長因子の多くは、肝臓再生の経過で、人間においても発現すると考えられる。よって、種間での基本的なメカニズムの保存を示唆する。
【0009】
実験的なレベルでは、特定の成長因子およびサイトカインの動物(ラットおよびマウス)への投与が、細胞死を回避して、肝実質の再生を刺激して、ALFから保護することが示された。
【0010】
かかる因子は、肝細胞増殖因子(HGF)トランスフォーミング成長因子α(TGF―α)および上皮細胞増殖因子(EGF)を含む。[Kosai, K., Matsumoto, K. Nagata, S., Tsujimoto, Y., Nalamura, T. Biochem. Biohys. Res. Commun. 244:683-690.1998 下記 (5)、 Kand, D., Takagi, H., Toyoda, M., Horiguchi, N., Nakajima, H., Otsuka, T., Mori, M. FEBS Lett. 519-11-15.2002、 and Ethier, C., Raymond, V.A., Musallam, L., Houle, R., Bilodeau, M. Am. J. Physiol. 285: G298-G308.2003]。
【0011】
サイトカインの中で、インターロイキン6(IL―6)およびカルジオトロフィン―1(CT―1)が言及され得る。[Kovalovich, K., DeAngelis, R.A., Li, W., Durth, E.E, Ciliberto, G., Taub, R. Hepatology 31:149-159.2000 下記(26)、 そして、 Bustos, M., Beraza, N., Lasarte, J.J., Baixeras, E., Alzuguren, P., Bordet, T., Prieto, J. Gastroenterology 125:192-201.2003 下記(43)]。
【0012】
肝臓再生は、実質切除または損傷に続く肝重量を回復させることを意図する固有の応答である。生存および増殖シグナルは、サイトカインおよび成長因子の調整された方法で作動する複雑なネットワークを介して伝えられ得る。
【0013】
しかしながら、過去数十年の精力的な研究にもかかわらず、肝臓障害に対する生理的適応反応に関する分子およびメカニズムは十分には解明されていない。
【0014】
発明者らは、最近、四塩化炭素(CCl4)で処理されたラット肝臓並びに、肝細胞損傷患者の肝臓において、ウィルムス腫瘍抑制遺伝子WT1が誘導されることを観察した[(8) Berasain, C., Herrero, J.I., Garcia-Trevijano, E.R., Avila, M.A., Esteban, J.I., Mato, J.M., and Prieto, J. 2003. Expression of Wilms' tumor suppressor in the cirrhotic liver: relationship to HNF4 levels and hepatocellular function. Hepatology 38: 148-157]。WT1遺伝子は、成長および分化に関わる様々な遺伝子の発現を制御することができるジンクフィンガー(zinc finger)を有する転写因子をコードする[(9) Scharnhorst, V., Van der Eb, A.J, and Jochemsen, A.G. WT1 proteins: functions in growth and differentiation. 2001]. Gene 273:141-161]。
【0015】
WT1によって直接的に惹起される主な生理的ターゲットの一つは、アンフィレグリン(AR)である[(10) Lee, S.B., Huang, K., Palmer, R., Truong, V.B., Herzlinger, D., Kolquist, K.A., Wong, J., Paulding, C., Yoon, S.K., Gerald, W., Oliner, J.D., and Haber, D.A. 1999. The Wilms' tumor suppressor WT1 encodes a transcriptional activator of amphiregulin. Cell 98: 663-673]。ARは、EGFファミリーに属するポリペプチド成長因子であり、EGF受容体(EGF―R)のリガンドであり、最初は、ホルボール12―ミリスチン酸塩13―酢酸塩で処理されたMCF―7ヒト乳癌細胞の培養上清から単離されたものである[(11) Shoyab, M., McDonald, V.L., Bradley, G., and Todaro, G.J. 1988. Amphiregulin: a bifunctional growth-modulating glycoprotein produced by the phorbol 12-myristate 13-acetate-treated human breast adenocarcinoma cell line MCF-7. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85: 6528-6532]。EGFおよびTGFαと同様に、ARは、膜貫通の前駆体として合成され、タンパク質分解的にプロセッシングされ成熟分泌型を生じる[(12) Lee, D.C., Sunnarborg, S.W., Hinkle, C.L., Myers, T.J., Stevenson, M.Y., Russell, W.E, Castner, B.J., Gerhart, M.J., Paxton, R.J., Black, R.A., Chang, A., and Jackson, L.F. 2003. TACE/ADAM17 processing of EGF-R ligands indicates a role as a physiological convertase. Ann. N.Y. Acad. Sci. 995: 22-38]。ARの発現は組織特異的である。ヒトにおいては、卵巣および胎盤で優勢であり、肝臓では検出されない[(13) Plowman, G.D., Green, J.M., McDonald, V.L., Neubauer, M.G., Disteche, C.M., Todaro, G.J., and Shoyab, M. 1990. Amphiregulin gene encodes a novel epidermal growth factor-related protein with tumor-inhibitory activity. Mol. Cell Biol. 10: 1969-1981]。
【0016】
ARは二面的な機能を有し、多様な正常細胞の分化を刺激し、多くの腫瘍細胞株を阻害する[(10), (13)および(14) Kato, M., Inazu, T., Kawai, Y., Masamura, K., Yoshida, M., Tanaka, N., Miyamoto, K., and Miyamori, I. Amphiregulin is a potent mitogen for the vascular smooth muscle cell line, A75. 2003. Biochem. Biophys. Res. Commun. 301: 1109-1115]。
【0017】
米国特許5115096号は、アンフィレグリンの物理化学的な特徴および上皮起源の癌細胞に対するその反増殖的な効果、並びに、損傷の治療、癌の診断および治療におけるその使用を記載する。肝臓でのアンフィレグリン産生のレベルの確かな低下について述べられ、それから、それが明らかに「いくつかの機能的役割をしている」ことが推測される。
【0018】
米国特許5980885号は、哺乳類神経組織での前駆細胞の増殖の惹起のための、繊維芽細胞増殖因子と併用されるARに関する使用方法について記載されている。
米国特許6204359号は、損傷および癌の治療において、ケラチノサイトによって産生されるARの新規な形の使用を記載する。
【0019】
米国特許出願20011051358号は、他の適用の中で、肝臓疾患の治療のためのEEGF(細胞外/上皮細胞増殖因子)由来のポリペプチドの取得および使用を記載する。それは、また、肝臓再生に関する処置の可能性にも言及する。しかしながら、ARは本技術分野において既知の生成物として述べられるのみであり、おそらく本明細書中で記載される発明がそれを上回るものである。
【0020】
特許出願WO−0145697号は、AR発現を阻害する調節薬剤およびヒト皮膚治療におけるその使用を記載する。
【0021】
最後に、特許出願WO−02102319号は、BGS―8ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、そして、他の適用の中で、肝臓疾患および肝臓に影響を及ぼす増殖状態の治療および予防に有用である後者の断片および相同物を記載する。それはまた、bFGF、PDGF、AR、ベータセルリン、潜在―(crypto−)およびTGF―アルファ等のEGFタンパク質ファミリーとの高い相同性のため、BGS―8ポリペプチドがそのファミリーに属するタンパク質と少なくともいくつかの生物学的活性を共有することが予想され得ることが示される。
【0022】
本技術分野の状況は、ALF治療の新しい代替の必要を証明する。従って、その投与がALFにおける肝臓の保護を提供できる、成長因子やサイトカインの提供に基づいた、ALFのより有効な治療を見出すことが、望まれている。
【発明の開示】
【0023】
本発明の記載
上記で述べられた技術状況に基づいて、発明者らは、予想外にも、外部から投与されるARが、例えば、急性肝不全(ALF)を導く(または、すでに発症した)急性肝障害の保護剤として有効であることを見出した。
【0024】
したがって、本発明の目的は、急性肝障害の治療用の薬剤の製造のためのアンフィレグリンの使用である。
【0025】
本発明の別の目的は、急性肝障害に対して肝臓組織の初期の内因性防御反応を補強するために、前記因子が投与されるこの薬剤の使用である。
【0026】
さらなる本発明の目的は、急性肝障害の肝臓実質細胞のDNA合成を促進するために投与される薬剤の製造におけるアンフィレグリンの使用である。
【0027】
本発明の別の目的は、急性肝障害の肝臓実質の細胞死を予防するために投与される薬剤の製造におけるARの使用である。
【0028】
さらに他の目的は、いかなる病因論の急性肝障害の後に続く、残った肝実質の再生を刺激する薬剤の製造におけるARの使用である。
【0029】
本発明の他の目的は、部分的な肝切除術の後の肝臓再生の刺激に有用な薬剤の製造におけるARの使用である。
【0030】
本発明の更に別の目的は、生体で、または、死体から移植される肝臓の受容者である患者において、肝保護薬として、そして、肝細胞再生の刺激剤として有用な薬剤の製造におけるARの使用である。
【0031】
アンフィレグリンは、従って、かかる治療を必要としている患者への投与を経て、急性肝障害の治療に有用である。よって、アンフィレグリンが、かかる治療を必要としている患者にARの有効量の投与を含む急性肝障害の処置のための方法で用いられることが可能である。
かかる使用の前後関係において、薬は、ARが投与される患者の処置において、下記達成のために使うことができる(例えば):
* 急性肝障害に対する肝臓組織の初期の内因性防御反応の増強;
および/または
* 急性肝障害の間の肝細胞のDNA合成の促進;
および/または
* 急性肝障害の間の肝細胞死の予防;
および/または
* 急性肝障害の後、肝実質再生を維持する刺激;
および/または
* 肝障害に対する肝臓組織の初期の内因性防御反応の増強および/または肝細胞DNA合成の促進;
および/または
* 急性肝障害患者の肝臓組織の肝細胞死の予防;
そして、または、
* いかなる病因論の急性肝障害の後の残った肝実質の再生の刺激;
および/または
* 部分的な肝切除術後の肝臓再生の刺激;
および/または
* 生体で(de vivo)、または、死体からの肝移植の受容者である患者の肝細胞再生の刺激。
【0032】
発明者らは、驚くべきことに、ARの投与が肝障害の間、肝細胞生存を誘発し得ることを見出した。したがって、ARが細胞分裂(mitogenic)または増殖因子として機能することが証明されている。発明者らは、ARが、単離された肝細胞に直接的に働くことができ、それらの増殖を促進し、アポトーシスを阻害することを示した。これらの効果は、EGF―Rおよび細胞外で制御されたキナーゼ1/2(ERK1/2)、シグナル−3トランスデューサおよび転写アクチベーター(STAT−3)、c-jun N−ターミナルキナーゼ(JNK)およびAktの活性化を通して媒介されるようである。さらに、ARは、単離肝細胞において2つの生存メディエーター、TGFαおよびCT−1の発現を惹起する。
【0033】
同様に、発明者らは、肝障害の2つの臨床的に関連したモデルである、Fasリガンド受容体を特異的に活性化する抗体JO2、またはCCl4による急性肝障害[(4), (15) Galun, E., and Axelrod, J.H. 2002. The role of cytokines in liver failure and regeneration: potential new molecular therapies. Biochim. Biophys. Acta. 1592: 345-358]に罹患したマウスに対するARのインビボ投与が、肝組織を顕著に保護し、アポトーシスを阻害することを示すことができた。したがって、発明者らの発見は、重篤な肝障害または病変の場合に、肝細胞性損傷を減らすための治療的な有用性を反映する、肝臓におけるARの新規な機能を明らかにする。
【0034】
上記のコメントは、ヒト急性肝障害に関連する肝細胞性損傷のモデルにおける、アンフィレグリンの肝保護特性およびその細胞分裂効果を反映する。
【0035】
ARは、非経腸経路を経た注入として、そして、−それが皮下、または、筋注で投与されることもできるにもかかわらず、好ましくは静脈内経路により投与されることができる。
【0036】
非経腸投与用の形態は、ARと緩衝化剤(buffer)、安定化剤、防腐剤、可溶化剤、強壮剤、および/または懸濁化剤を混ぜ合わせることによって、従来どおりに、得ることが可能である。AR分子で見受けられるジスルフィド結合に対する効果を回避するために、製剤は、これらのジスルフィド結合を調節する(減らす)ことができる構成要素を含むべきではない。組成物は、周知の技術を使用して殺菌されて、注入として投与されるために包装される。
【0037】
可能性のある緩衝化剤は、有機リン酸に基づく塩を含む。
【0038】
可溶化剤の例は、ポリオキシエチレン、ポリソルベート80、ニコチンアミドおよびマクロゴールと共に、凝固させたヒマシ油である。
【0039】
安定化剤として、ナトリウム亜硫酸塩またはメタナトリウム亜硫酸塩、そして、防腐剤として、ソルビン酸、クレゾール、パラクレゾール、その他を使うことができる。
【0040】
より好ましい投与形態として、注射可能な組成物は、溶液、エマルジョンまたは無菌の分散でもよい。該注入可能な形態は、注入のための水において、一種以上の賦形剤と共にAR溶解、エマルジョンまたは分散により調製される。
【0041】
皮下投与用の注射可能な製剤の一部を形成できる賦形剤においては、組織の注入によって、緩衝化能力があるかないか、そして、生理的pHでの活性物質または複数の活性化物質の安定性によって、緩衝化剤につき言及され得る。緩衝化剤においては、クエン酸−クエン酸ナトリウム、酢酸−酢酸ナトリウムおよび炭酸一ナトリウム−炭酸二ナトリウム、その他等の調節溶液について、言及され得る。
【0042】
他の任意の賦形剤は、発熱物質および/または汚染物質の存在を回避するための滅菌剤である。
【0043】
皮下の経路を経た投与用の医薬品組成物の他の任意の成分は、例えば水、炭化水素、アルコール類、ポリオール類、エーテル類、植物油、ラノリンおよびメチルケトン、その他等の、一またはそれ以上の液体担体剤である。
【0044】
静脈内であるか腹膜内注射用の製剤は、1日につき、1回または数回、0.5〜1.8mg/患者体重kgで、例えば、1日につき0.85〜1.55mg/患者体重kgで、とりわけ1日につき1〜1.5mg/患者体重kgで投与することができるように設計され得る。
【0045】
図面の簡単な説明
図1A:対照(n=26)および肝硬変患者(チャイルドピュー(Child-Pugh) A 肝硬変、n=7、チャイルドピュー B+C 肝硬変、n=22)由来の肝臓サンプルにおけるリアルタイムポリメラーゼチェインリアクション(RT−PCR)により測定された、ヒトおよび実験的肝硬変におけるAR遺伝子の発現。
【0046】
図1B:RT―PCRによって測定された対照ラット肝臓およびCCl4により誘導される肝硬変肝臓におけるAR遺伝子の発現(1群あたりn=6)。
【0047】
図2A:対照マウスの肝臓およびJo2抗体またはCCl4による急性肝障害の惹起後の肝臓におけるARの発現。ARの発現は、前述の処置の投与5h後に、RT―PCRにより評価された。
【0048】
図2B:Jo2抗体またはCCl4により惹起された急性肝障害におけるARの発現およびウェスタンブロッティングによる評価。それぞれ、肝臓組織のサンプルは、Jo2およびCCl4の処置の12および24h後、得られた。
分析は、アフィニティー精製およびビオチン化された抗AR抗体により行われた.矢印(arrow tip)は異なる形態のARを示し、そして、グループにつき3つの代表的なサンプルが示されている。ローディングコントロールとして、アクチンに特異的な抗体によって、膜をハイブリダイズした。代表的なイメージを示す。
【0049】
図3A:ARによる処置はCCl4により惹起された急性肝障害を予防する。CCl4で処置されたマウスの血清トランスアミナーゼ・レベルに加えて、肝臓組織学を示す(H&E染色、原物の拡大X200)。血清および肝臓組織サンプルは、CCl4投与の24h後に集められた。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。
【0050】
図3B:Jo2で処置されたマウスの肝臓組織学および血清トランスアミナーゼ(H&E染色、原物の拡大X200)に対するAR治療の効果。血清および肝臓組織のサンプルは、Jo2投与の12h後に得られた。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。アスタリスクは、対Jo2単独、P<0.01を示す。
【0051】
図3C:Jo2注入の12h後に測定されたマウス肝臓のカスパーゼ―3活性におけるAR治療の効果。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。アスタリスクは、P<0.01対Jo2単独、を示す。
【0052】
図3D:対照マウスの肝臓―C―およびJo2注入の12h後に得られた肝臓抽出物における、活性カスパーゼ―3のp17サブユニットおよびBcl―xLタンパク質のレベルに対するAR治療の効果。ローディングコントロールとして、アクチンに特異的な抗体によって、膜をハイブリダイズした。代表的なイメージを示す。
【0053】
図4A:マウス肝細胞初代培養におけるARの抗アポトーシス効果。アポトーシスは、ARの濃度増加の存在下、アクチノマイシンDおよびJo2で処理することにより惹起された。アポトーシスは、細胞質でのモノ−およびオリゴヌクレオソーム放出の特異的な濃縮を測定することにより評価された(濃縮係数:EF)。値は、対照肝細胞−C−で得られた値に関して標準化された。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表され、アスタリスクは、P<0.05対Jo2、を示す。
【0054】
図4B:左パネル:アクチノマイシンDおよびJo2で処理された培養マウス肝細胞のカスパーゼ―3活性に対するAR(20nM)の効果。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表され、アスタリスクは、P<0.05対アクチノマイシンDおよびJo2で処理された細胞、を示す。
右パネル:左パネルに記載されている同じサンプルの活性カスパーゼ―3のp17サブユニットおよびBcl―xLタンパク質のウエスタンブロット分析。
【0055】
図4C:培養マウス肝細胞におけるARによる反アポトーシスシグナリング経路の活性化。Akt、ERK1/2およびSTAT3リン酸化状態は、AR(20nM)の添加の後、異なる時間でマウス肝細胞の抽出物のウエスタンブロッティングを介して評価された。
代表的な画像は、デュプリケートで行われた3つの実験の中で示される。
【0056】
図4D:EGF―R阻害剤剤PD153035(1μM)、MEK1阻害剤PD98059(10μM)またはPI−3Kの阻害剤LY−294002(20μM)の存在下で培養されたマウス肝細胞における、アクチノマイシンDおよびJo―2により惹起されるアポトーシスに対するAR(20nM)の効果。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表され、アスタリスクは、P<0.05対Jo2、を示す。
【0057】
図5A、5B:部分的な肝切除術(PH)後の、ラット肝臓(図5A)およびマウス肝臓(図5B)におけるAR遺伝子発現。
ARコードするmRNAのレベルは、PHの後異なる時間で、残った肝実質において、リアルタイムPCRにより分析された。値は、3匹の異なる動物の平均±SEMとして表される。中塗り円(closed circle)は肝切除された動物に対応し、中抜き円(open circle)は虚偽の手術を受けた動物に対応する。
【0058】
図6A:培養ラット肝細胞におけるARによるDNA合成の刺激。肝細胞を濃度を増加させたARで処理し、DNA合成を[3H]チミジンの取り込みを測定することにより評価した。ARにより誘導されるDNA合成におけるTGFβ(8ng/ml)の効果を示す。値は、クワドルプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。1つのアスタリスクはP<0.05を示し、2つのアスタリスクはP<0.01対対照を示す。
【0059】
図6B:培養ラット肝細胞におけるARによるEGF―Rのチロシン残基リン酸化の刺激。チロシンをリン酸化されたEGF―Rおよび全体のEGF―Rはウエスタンブロッティングにより検出された。代表的な画像は、デュプリケートで実施された3つの実験の中で示される。
【0060】
図6C:培養ラット肝細胞における、ARによる細胞増殖に関するシグナリング経路の活性化。Akt、ERK1/2およびJNKのリン酸化状態は、ARの添加後、異なる時間で、ラット肝細胞抽出物の特異的抗体を使用するウエスタンブロッティングによって評価された。代表的な画像は、デュプリケートで実施された3つの実験の中で示される。
【0061】
図6D:EGF―R阻害剤PD153035(1μM)、MEK1阻害剤PD98059(10μM)、PI−3K阻害剤LY294002(20μM)、JNK阻害剤SP600125(20μM)またはp38 MAPK阻害剤SB202190(25μM)の存在下のラット肝細胞におけるDNA合成に対するAR(100nM)の効果。アスタリスクは、P<0.05対AR単独を示す。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。
【0062】
図7A:異なる期間でIL―1β(2ng/ml)で処理された培養ラット肝細胞におけるAR遺伝子発現(クローズド・バー)。ARの遺伝子発現は、リアルタイムPCRで測定された。アスタリスクは、P<0.05対対照(オープン・バー)を示す。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。
【0063】
図7B:異なる期間でPGE2(10μM)(クローズド・バー)で処理されたラット肝細胞におけるAR遺伝子発現。ARの遺伝子発現は、リアルタイムのPCRで測定された。アスタリスクは、P<0.05対対照(オープン・バー)を示す。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。
【0064】
図7C:培養期間に依存したラット肝細胞におけるARのベースライン遺伝子発現のRT−PCRによる解析。代表的な実験を示す。
【0065】
図7D:WT1の4つのアイソフォームをコードするpCB6プラスミドの等モル混合物、または等量の該アイソフォームをコードしない(gutless)pCB6ベクターでトランスフェクションした24h後の培養ラット肝細胞におけるAR遺伝子発現。AR遺伝子発現は、リアルタイムPCRで測定された。
【0066】
図8A、8B:異なる期間でAR処理した培養ラット肝細胞におけるTGFα(図8A)およびCT−1(図8B)遺伝子発現。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表され、各時点に対応する数−倍増加対対照として表される。アスタリスクは、P<0.05対対照を示す。
【0067】
図9:対照マウス−C−の肝臓、およびJo2抗体で処置されたマウスの肝臓における、EGF−R、AR、TGFα、EGFおよびHB−EGFリガンドの遺伝子発現。これらの遺伝子の発現は、RT―PCRで測定された。アスタリスクは、P<0.01対対照を示す。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。
【0068】
試行
AR遺伝子発現は、肝硬変のヒト肝臓において検出され、実験的な肝障害において、そして部分的な肝切除術に続いて、急速に誘導される。発明者らによって実施された実験は、科学的基礎および本発明に含まれるARの使用に対するサポートを構成する、得られた結果の精力的な分析と共に、以下に示される。
【0069】
慢性および急性肝障害において誘導されるAR遺伝子発現
発明者らは、転写制御因子WT1の発現が、肝硬変のヒト肝臓のほとんどすべての試験されたサンプルにおいて、そしてラットCCl4惹起肝硬変において誘導されることをすでに示した(8)。ARがWT1の主要な転写ターゲットであるという事実(10)は、発明者に肝硬変患者の肝臓におけるこの成長因子の発現を検討させた。リアルタイムPCR分析(RTi―PCR)は、健常人の肝臓のAR発現のかろうじて検出可能なレベルを示したが、肝硬変患者の約75%においては、高いレベルのARをコードするmRNAが観察された(図1A)。
【0070】
大変興味深いことは、AR遺伝子発現のレベルが、対照肝臓および肝硬変の個人におけるWT1遺伝子のそれと直接相関した(r=0.752、P<0.001)という事実である。ヒトのデータと一致して、AR発現は、CCl4投与(図1B)および胆管結紮(図示せず)に続く、ラットで惹起される実験的な肝硬変においても増加した。
【0071】
ARが侵襲に対する急速な肝臓反応の一部をなし得るか否かを決定するために、CCl4(1μl/g)の単回腹腔内注射の投与後の、または、Jo2抗体(4mg/マウス)の注入の後のマウス肝臓における、ARをコードするmRNAおよびタンパク質のレベルについて評価した。図2Aは、ARをコードするmRNAのレベルが処置開始5h後に著しく誘導されたことを示す。ウエスタンブロットを、それぞれ、抗体Jo2またはCCl4の投与12および24h後に、得られた肝臓のサンプルで実施した。アフィニティー精製およびビオチン化された抗AR抗体を用いて、処置されたマウスの肝臓にのみ存在する一組のタンパク質を検出した(図2B)。約50、43、28および19kDaの4バンドは、上皮細胞に記載されているARの異なる形態と一致している[(22) Brown, C.L., Meise, K.S., Plowman, G .D., Coffey, R.J., Dempsey, P.J. 1998. Cell surface ectodomain cleavage of human amphiregulin precursor is sensitive to a metalloprotease inhibitor. J. Biol. Chem. 273: 17258-17268]。50および28KDaに対応するバンドは、おそらく膜アンカー型のARを表し、一方、43および19KDaに対応するバンドは、タンパク質分解によりプロセッシングされた可溶型のARであり得る(22)。
【0072】
AR投与による、マウスにおけるCCl4またはFas活性化により惹起される急性肝障害の抑制
ARが肝障害の程度を制限できるかどうか決定するために、発明者らは、CCl4または抗体Jo2処置による二次的な急性肝障害に罹患したマウスにおけるARの投与の効果を検討した。CCl4は、細胞、リソソームおよびミトコンドリア膜透過性を変化させるため、肝壊死およびアポトーシスを惹起する[(23) Berger, M.L., Bhatt, H., Combes, B., Estabrook, R. 1986. CCl4-induced toxicity in isolated hepatocytes: the importance of direct solvent injury. Hepatology 6: 36-45. (24) Kovalovich, K., Li, W., DeAngelis, R., Greenbaum, L.E., Ciliberto, G., and Taub, R. 2001. Interleukin-6 protects against Fas-mediated death by establishing a critical level of anti-apoptotic hepatic proteins FLIP, Bcl-2, and Bcl-xL. J. Biol. Chem. 276: 26605-26613. (25) Shi, J., Aisaki, K., Ikawa, Y., Wake, K. 1998. Evidence of hepatocyte apoptosis in rat liver after the administration of carbon tetrachloride. Am. J. Pathol. 153: 515-525. (26) Kovalovich, K., DeAngelis, R.A., Li, W., Furth, E.E., Ciliberto, G., Taub, R. 2000. Increased toxin-induced liver injury and fibrosis in interleukin-6-deficient mice. Hepatology 31: 149-159. (27) Czaja, M.J., Xu, J., Alt, E. 1995. Prevention of carbon tetrachloride-induced rat liver injury by soluble tumor necrosis factor receptor. Gastroenterology 108: 1849-1854]。ASTおよびALTの血清レベルは、CCl4注入の24h後に、かなり増加した。しかしながら、この増加は、ARで処置したマウスにおいて、明らかに減少した(図3A)。これと整合して、組織学的損傷の程度は、ARで処置したマウスにおいて減少した(図3A)。
【0073】
血清ASTおよびALTレベルは、Jo2注入の12h後に、かなり増加した(図3B)。AR処理は、血清トランスアミナーゼの上昇を強く抑制し、そして、組織病理学的分析は、ARの投与がほぼ完全に肝障害を回避することを確認した(図3B)。アポトーシス細胞死は、Fasにより媒介される肝障害の主要な決定要素である[(5)-(7), (28) Ogasawara, J., Watanabe-Fukunaga, R., Adachi, M., Matsuzawa, A., Kasugai, T., Kitamura, Y., Itoh, N., Suda, T., Nagata, S.1993. Lethal effect of the anti-Fas antibody in mice. Nature 364: 806-809. (29) Nagata, S. 1997. Apoptosis by death factor. Cell 88: 355-365]。Fasにより媒介される肝障害に対するARの肝保護効果が抗アポトーシスの活性から生じることを確認するために、発明者らは、マウス肝抽出物におけるカスパーゼ−3のタンパク質分解の活性化およびその活性を測定した。それらは、抗体Jo2で処置したマウスにおいて検出されるカスパーゼ−3活性の誘導が、ARの投与により強く阻害されることを発見した(図3C)。特異的に活性カスパーゼ−3のp17サブユニットを認識する抗体を用いて、カスパーゼ−3の破裂がAR処置により回避されることを認めた−よって、Fasにより惹起されるアポトーシスのルートの特異的なAR−媒介遮断が示唆された(図3D)。Bcl−2ファミリーのタンパク質は、Fasにより媒介されるアポトーシスを含む、様々な刺激により惹起されるアポトーシスを阻害する[(30) Shimizu, S., Eguchi, Y., Kosaka, H., Kamiike, W., Matsuda, H., Tsujimoto, Y. 1995. Prevention of hypoxia-induced cell death by Bcl-2 and Bcl-xL. Nature 374: 811-813. (31) Stoll, S.W., Benedict, M., Mitra, R., Hiniker, A., Elder, J.T., Nunez, G. 1998. EGF receptor signaling inhibits keratinocyte apoptosis: evidence for mediation by Bcl-xL. Oncogene 16: 1493-1499. (32) Lacronique, V., Mignon, A., Fabre, M., Viollet, B., Rouquet, N., Molina, T., Porteu, A., Henrion, A., Bouscary, D., Varlet, P., Joulin, V., Kahn, A. 1996. Bcl-2 protects from lethal hepatic apoptosis induced by an anti-Fas antibody in mice. Nat. Med. 2: 80-86]。Bcl−xLタンパク質の発現を、Jo2抗体注入の6h後に、ウエスタンブロットにより評価した。Bcl―xLタンパク質レベルは、抗体Jo2単独で処置したマウスに対し、ARおよび抗体Jo2で処置したマウスの肝臓において、より高かった(図3D)。
【0074】
初代培養肝細胞におけるARの直接的抗アポトーシス効果
ARのインビトロ抗アポトーシス効果が肝臓実質細胞におけるARの直接作用により媒介され得るかどうか決定するために、発明者らは、初代培養マウス肝細胞を使用した。
Jo−2抗体に暴露された肝細胞は、アクチノマイシンDの存在下で効率的にアポトーシスを被ることが報告されている[(5), (6), (33) Ni, R., Tomita, Y., Matsuda, K., Ichiara, A., Ishimura, K., Ogasawara, J., Nagata, S. 1994. Fas-mediated apoptosis in primary cultured mouse hepatocytes. Exp. Cell Res. 215: 332-337]。肝細胞を、アクチノマイシンDおよびJo2抗体の添加の前に、3hの間、異なる濃度のARによって、前処理した。アポトーシスおよび関連した分子イベントの測定を、18h後に行った。図4Aから分かるように、肝細胞は、濃度依存的にARによりアポトーシスから保護され、よって、Fasにより媒介される肝細胞アポトーシスの防止において、ARの直接的な細胞保護効果が示された。ARにより媒介される細胞保護活性は、また、TNFα+ガラクトサミン、オカダ酸およびトランスフォーミング成長因子β(TGFβ)等の他の薬剤により惹起されるアポトーシスにも認められた(データ示さず)。ARの抗アポトーシス効果に基づいて、発明者らは、Jo2抗体により誘導されるカスパーゼ−3のタンパク質分解および活性化がARによって著しく阻害されることを見出した(図4b)。同様に、発明者らは、抗アポトーシスのタンパク質Bcl−xLがJo2処置マウス肝細胞において、AR処置により誘導されることを見出した(図4B)。ARの抗アポトーシスのシグナリングメカニズムを同定するために、細胞生存の一般的なメディエーターであるPI−3K/AktおよびERK1/2経路を検討した[(4), (6)]。ARで処理した培養マウス肝細胞は、AktおよびERK1/2のリン酸化の亢進を示した(図4C)。Fasにより惹起される肝障害に対する保護に関係する鍵となるシグナリング分子は、STAT3である[(34) Shen, Y., Devgan, G., Darnell, J.E., Bromberg, J.F. 2001. Constitutively activated Stat3 protects fibroblasts from serum withdrawal and UV-induced apoptosis and antagonizes the proapoptotic effects of activated Stat1. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 98: 1543-1548. (35) Haga, S., Terui, K., Zhang, H.Q., Enosawa, S., Ogawa, W., Inoue, H., Okuyama, T., Takeda, K., Akira, S., Ogino, T., et al. 2003. Stat3 protects against Fas-induced liver injury by redox-dependent and independent mechanisms. J. Clin. Invest. 112: 989-998]。ARは、STAT3のリン酸化を刺激すると認められた(図4C)。
【0075】
ARによるEGF−R活性化は、Fasにより惹起される細胞死に対する、この成長因子の抗アポトーシス効果を媒介する際に欠かせないようである。マウス肝細胞が、ARの添加前に、EGF−R阻害剤PD153035で1hの間、前処理されるときに、このことは明らかであり、そして、ARにより提供される保護は失われた(図4D)。また、アポトーシスを回避するために、ARが、EGF−Rの下流で作動するPI−3K/Akt経路を活性化させることが必要であることも判明した。これは、ARにより提供される保護に対するPI−3K阻害剤LY294002の顕著な抑制効果により示された(図4D)。しかしながら、MEK1阻害剤PD98059は、ARの抗アポトーシス効果を妨げなかった(図4D)。
【0076】
部分的な肝切除術後の肝臓におけるAR発現
本発明の発明者らも、2/3部分の肝切除術の後、マウスおよびラット肝臓にけるAR発現を検討した[(1), (4)]。図5Aから分かるように、ARmRNAはPH前にはラット肝臓で検出できないが、手術後30分でその出現が検出された−6時間後ピーク値に達し、続いて15および24時間の間に発現が徐々に低下した。面白いことに、虚偽の手術(SH)を受けたラットのAR遺伝子の発現は、6〜15hの後で、一過性に誘導された。
マウス肝臓のAR遺伝子の発現は、PHの後、すぐに誘導された(図5A)。ARをコードしているmRNAのレベルは、PHの0.5h後に増加するのが認められ、24〜48hでピークに達し、その後減少した(図5B)。動力学がラットにおいてより非常に速かったが、AR遺伝子の発現は虚偽の手術を受けたマウスにおいても誘導された。評価された最も短い時点(0.5h)で、虚偽の手術を受けたマウスは、肝切除された動物と類似のARをコードしているmRNAのレベルを示した。しかしながら、介入の1h後に、ARをコードしているmRNAのレベルは、切除を受けた動物と比較して虚偽の手術を受けたマウスにおいて、著しく減少し、そして、この状況は残りの研究の全体にわたって持続した(図5B)。
【0077】
ARは単離肝細胞のDNA合成の誘導を媒介した
一度、発明者らがAR遺伝子の発現が肝障害およびPHにおいて、急速に誘導され、そして、ARが肝実質に対し保護的役割をすることができることを示したので、彼らは、ARがまた肝細胞に対し分裂促進的に挙動できることの証明を試みた。
【0078】
図6Aで分かるように、濃度依存的にDNAへの[3H]チミジン取り込みを刺激するので、ARは単離された初代培養肝細胞のための純粋な分裂促進物質として挙動する。ARのDNA合成への効果は、肝臓再生する反応の生理的終了に関係する成長因子であるTGFβにより無効にされた(1)。
【0079】
ARはEGF―Rリガンドであり、そして、成熟した動物の肝細胞で多量に発現する受容体である[(36) Salomon, D.S., Brandt, R., Ciardiello, F., Normanno, N. 1995. Epidermal growth factor-related peptides and their receptors in human malignancies. Crit. Rev. Oncol. Hematol. 19: 183-232. (37) Carver, R.S., Stevenson, M.C., Scheving, L.A., and Russell, W.E. 2002 Diverse expression of ErbB receptor proteins during rat liver development and regeneration. Gastroenterology 123: 2017-2027]。 発明者らは、培養ラット肝細胞のARの細胞内シグナリングを調べた。単離ラット肝細胞をARで処置することにより、EGF―Rの急速なおよび一過性のリン酸化を惹起された(図6B)。成長因子に対する肝細胞の分裂促進反応の主なシグナル伝達カスケードとして、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)およびホスファチジルイノシトール3―キナーゼ(PI―3K)の経路を解析した[(38) Band, C.J., Mounier, C., Posner, B. 1999. Epidermal growth factor and insulin-induced deoxyribonucleic acid synthesis in primary rat hepatocytes is phosphatidylinositol 3-kinase dependent and dissociated from protooncogene induction. Endocrinology 140: 5625-5634. (39) Coutant, A., Rescan, C., Gilot, D., Loyer, P., Guguen-Guillouzo, C., Baffet, G. 2002. PI3K-FRAP/mTOR pathway is critical for hepatocyte proliferation whereas MEK/ERK supports both proliferation and survival. Hepatology 36: 1079-1088]。さらに最近、c-JunN末端キナーゼが、PH後の肝細胞増殖に顕著に関与することが示された[(40) Schwabe, R.F., Bradham, C.A., Uehara, T., Hatano, E., Bennett, B.L., Schoonhoven, R., Brenner, D.A. 2003. c-Jun-N-Terminal kinase drives cyclin D1 expression and proliferation during liver regeneration. Hepatology 37: 824-832]。マウス肝細胞で観察されたように、単離ラット肝細胞のARでの処置は、ERK1/2およびAktのリン酸化を急速に惹起する(図6C)。さらに、発明者らは、AR処置に応答してJNKリン酸化を観察した(図6C)。
【0080】
肝細胞増殖におけるARシグナリングを評価するために、発明者らは、これらのシグナリング経路の阻害剤の存在下で、ARで処置したラット肝細胞におけるDNAへの[3H]チミジン取り込みを測定した。図6Dから分かるように、EGF―Rチロシンキナーゼ活性阻害剤(PD153035)は、ARにより刺激されるDNA合成を完全に防止する。同程度の阻害はPI―3Kの阻害剤(LY294002)でも観察されたが、その一方で、MEK1阻害剤、PD98059およびJNK阻害剤(SP600125)は70%(図6D)ARの効果を低減した。しかしながら、p38―MAPK阻害剤(SB202190)での処置は、ARにより刺激されるDNA合成に対してたいした効果を及ぼさなかった(図6D)。
【0081】
単離された肝細胞におけるAR遺伝子発現
発明者らは、ARが損傷の異なる状況および肝臓組織の再生の下で、肝臓において、発現されることを示した。AR誘導に対して責任があるメカニズムを確認するために、ラット肝臓実質細胞が単離され、そして、AR遺伝子発現は異なる状況の下で調べられた。第1に、肝臓の炎症および再生の過程に関係のある種々の因子、例えばIL―1β、IL―6、TNFα、HGFおよびプロスタグランジンE2(PGE2)の効果を評価した[(1)-(4), (41) Rudnick, D.A., Perlmutter, D.H., and Muglia, L.J. 2001. Prostaglandins are required for CREB activation and cellular proliferation during liver regeneration. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 98: 8885-8890]。評価したサイトカインおよび成長因子の中で、IL―1βが、AR遺伝子発現を刺激すると認められる唯一の分子であった(図7A)。結腸癌細胞における初期の観察に基づいて[(42) Shao, J., Lee, S.B., Guo, H., Evers, M., and Sheng, H. 2003. Prostaglandin E2 stimulates the growth of colon cancer cells via induction of amphiregulin. Cancer Res. 63: 5218-5223]、ラット肝細胞のPGE2による処置が、AR遺伝子発現の素早い誘導を引き起こすことが認められた(図7B)。PGE2媒介AR遺伝子発現刺激は、ARプロモーターにおけるcAMP応答エレメント上で作用する、cAMP/プロテインキナーゼA(PKA)経路により惹起されると仮定されてきた(42)。このメカニズムに一致して、発明者らは、単離肝細胞において、cAMP誘導物質ホルスコリンが、AR遺伝子の発現を促進することを見出した(データ示さず)。種々の酸化ストレス惹起剤、例えば過酸化水素およびメナジオンでの肝細胞の処置は、AR遺伝子の発現に効果を及ぼさない(データを示さず)。
【0082】
AR遺伝子の発現が、培養肝細胞で惹起されること、およびこの効果の規模が培養時間と共に増大することが見出された(図7C)。ARは、WT1転写制御因子の真実のターゲットである(10)。発明者らは、WT1の4つのアイソフォームをコードするプラスミドの等量混合物の肝細胞へのトランスフェクションが、リアルタイムPCRにより決定されるARをコードするmRNAのレベルを増加させることを見出した。これらのデータは、WT1が単離肝細胞においてAR遺伝子発現を制御することができることを示しているが、培養肝細胞におけるARの誘導はWT1の誘導より先に起こり(データ示さず)、よって、以前同定された因子、IL−1βおよびPGE2が、培養肝細胞におけるAR遺伝子発現の素早い最初の誘導の原因となり得ることが示される。
【0083】
単離肝細胞における肝保護および再生メディエーターの発現のARによる誘導
ARの肝保護効果の基礎をなしているメカニズムをより深く検討するために、発明者らは、肝臓障害およびPHの内因性応答に関する鍵となる分子である[(7),(43) Bustos, M., Beraza, N., Lasarte, J-J., Baixeras, E., Alzuguren, P., Bordet, T., Prieto, J. 2003. Protection against liver damage by cardiotrophin-1: a hepatocyte survival factor up-regulated in the regenerating liver in rats. Gastroenterology 125: 192-201. (44) Webber, E.M., Fitzgerald, M.J., Brown, P.I., Bartlett, M.H., Fausto, N. 1993. Transforming growth factor-α expression during liver regeneration after partial hepatectomy and toxic injury, and potential interactions between transforming growth factor-α and hepatocyte growth factor. Hepatology 18: 1422-1431]、TGFαおよびカルジオトロフィン―1(CT―1)の発現におけるこの成長因子の効果を評価した。単離ラット肝細胞におけるAR処置は、TGFαおよびCT−1をコードするmRNAのレベルを増加させた(図8AおよびB)。これらの応答は、肝栄養因子としてのARの関与を強調する。
【0084】
Fasにより媒介される急性肝障害におけるEGF−Rリガンドの発現
ARに加えて、EGF−Rは、EGFおよびTGFαと共にヘパリン結合EGFタイプ成長因子(HB−EGF)を含むリガンドのファミリーによって活性化される[(36), (45) Holbro, T., Hynes, N.E. 2004. ErbB receptors: directing key signaling networks throughout life. Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol. 44: 195-217]。肝臓障害に続く素早い肝保護および再生反応に対する、これらEGF−Rリガンドの相対的な寄与のより深い評価のために、発明者らは、JO2抗体で処置したマウスにおける遺伝子発現プロファイルを検討した。図9に示されるように、以前はARをコードするmRNAの検出不可能な発現レベルを示した、対照マウスの肝臓において、EGF、TGFαおよびHB−EGFの発現がリアルタイムPCRを介して検出された。JO2抗体の投与5時間後、EGF、TGFαおよびHB−EGFに対応するmRNAのレベルは減少し、AR遺伝子発現の好ましい誘導が観察された。これらの知見は、ARが、急性肝障害の初期の間、マウス肝臓で惹起される、唯一の評価されたEGF−Rリガンドであることを、全体的に示す。
【0085】
上記の概要として、AR遺伝子発現が、異なる肝臓障害モデルにおいて、素早くおよび一貫して誘導されること、およびARの外部からの投与が、顕著な肝保護を提供することが示される。
【0086】
上記知見は、ARが複雑な肝再生の過程において、新規の活性のある関係物として認識され得ることを、明確に、且つ決定的なやり方で、全体的に示す。したがって、ARは、急性肝障害により生じる病的状況−特にALFのような危機的な状況において強調される−の管理のために、非常に大きい治療能力を提供し得る。
【0087】
発明の実施態様
本発明は、上記図と共に本発明を発展させるのに使用される実験的方法論を示す以下の実施例によって説明される。本分野の専門家は、なされ得る修飾および変化が本発明の範囲内であることを把握し得ると理解される。
【実施例】
【0088】
実施例
患者
肝臓組織の検体は、2つのグループの被験者から得られた:(a)最小限の肝変性を有する対照(n=26;19人の男性;平均年齢50.8歳、18―73歳の範囲)。組織サンプルは、消化管腫瘍手術(16ケース)の結果として、または、肝機能検査パラメータの小さい変更のため実行された経皮的肝生検(10ケース)から得られた;そして、(b)肝硬変(n=29;24人の男性、平均年齢56(範囲36―77年))、8つのケースではC型肝炎ウイルス(HCV)感染症、13のケースではアルコール中毒、3つのケースではB型肝炎ウイルス(HBV)感染症、3つのケースでは自己免疫肝炎、1つのケースではヘモクロマトーシスおよび他のケースでは原因不明の肝炎に起因する。関連する肝細胞癌(HCC)は、肝硬変患者10人に存在した。この研究は、スペイン、ナバラ大学のHuman Research Review委員会の承認を得て、ヘルシンキのDeclarationの原理に従った。
【0089】
動物モデル
実験は、実験動物の使用に関するナバラ大学のガイドラインに従って行われた。他所に記載されているように、肝硬変を雄性WistarラットにおいてCCl4により惹起させた[(16) Castilla-Cortazar, I., Garcia, M., Muguerza, B., Quiroga, J., Perez, R., Santidrian, S., Prieto, J. 1997. Hepatoprotective effects of insulin-like growth factor I in rats with carbon tetrachloride-induced cirrhosis. Gastroenterology 113:1682-1691]。2/3のPHまたは虚偽手術は、ヒギンズおよびアンデルセンの方法に従って、雄性ウィスターラット(150g)および雄性C57/BL6マウス(20g)において行われた[(17) Higgins, G. M., Andersen, R. M. 1931. Experimental pathology of liver: restoration of liver of the white rat following partial surgical removal. Arch. Pathol. 12:186-202. (18) Latasa, M.U., Boukaba, A., Garcia-Trevijano, E.R., Torres, L., Rodriguez, J.L., Caballeria, J., Lu, S.C., Lopez-Rodas, G., Franco, L., Mato, J.M., et al. 2001. Hepatocyte growth factor induces MAT2A expression and histone acetylation in rat hepatocytes. Role in liver regeneration. FASEB J. 10.1096/fj.00-0556fje. (19) Chen, L., Zeng, Y., Yang, H., Lee, T.D., French, S.W., Corrales, F.J., Garcia-Trevijano, E.R., Avila, M.A., Mato, J.M., and Lu, S.C. 2004. Impaired liver regeneration in mice lacking methionine adenosyltransferase 1A. FASEB J. 18: 914-916]。鎮静の後、虚偽手術動物において、肝臓を露出させ、そして腹腔内へ戻した。急性肝障害を、CCl4(オリーブオイル中、1μl/体重g)(Sigma, St. Louis, MO, USA)またはJo2モノクローナル抗体(生理食塩水溶液中、4μg/マウス)(BD PharMingen, San Diego, CA, USA)の単回腹腔内投与により、雄性C57/BL6マウス(20g)(条件および時間によりn=3−5)において惹起した[(5),(20) Martinez-Chantar, M.L., Corrales, F.J., Martinez-Cruz, A., Garcia-Trevijano, E.R., Huang, Z.Z., Chen, L.X., Kanel, G., Avila, M.A., Mato, J.M., Lu, S.C. 2002. Spontaneous oxidative stress and liver tumors in mice lacking methionine adenosyltransferase 1A. FASEB J. 10.1096/fj.02-0078fje]。対照には、等量のオリーブオイルまたは生理食塩水を与えた。上記場合において、マウスに、Jo2抗体の6および0.5h前および3h後、またはCCl4の0.5h前および12h後に、ヒト組換AR(9.5μg/マウス)(Sigma)の腹腔内注射を行った。示された時間において、マウスより血液サンプリングをし、血清を、他で記載されているように、アラニンおよびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(ALTおよびAST)のために分析した[(16) and (21) Lasarte, J.J., Sarobe, P., Boya, P., Casares, N., Arribillaga, L., Lopez-Diaz of Cerio, A., Gorraiz, M., Borras-Cuesta, F., Prieto, J. 2003. A recombinant adenovirus encoding hepatitis C virus core and E1 proteins protects mice against cytokine-induced liver damage. Hepatology 37: 461-470]。マウスを頚椎脱臼により屠殺し、肝臓を液体窒素中で即座に凍結するか、またはホルマリン中で固定し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)を用いる染色のために、パラフィン中で包埋された。
【0090】
ラットおよびマウスの肝細胞の単離、培養および処置
肝細胞を、他所に記載されているように[(18), (20)]、雄性Wistarラット(150g)およびC57/BL6マウス(20g)から、コラゲナーゼ(Gibco-BRL, Paisley, UK)を伴う潅流により単離した。細胞(5X105細胞/ウェル)をコラーゲンコート(タイプIコラーゲン、Collaborative Biomedical, Bedford, MA, USA)した6穴プレート上にプレーティングした。培養を10%ウシ胎児血清(FCS)、非必須アミノ酸、グルタミン2mMおよび抗生物質(全てGibco-BRLより供給された)を補ったMEM培地中で維持した。2hのインキュベーション後、培地を除去し、細胞を再び5%FCSを補った同じ培地中で培養した。該当するとき、肝細胞は、Roche(Mannheim, Germany)よりのIL−1βまたはTNFα、Calbiochem(San Diego, CA, USA)よりのHGFまたはホルスコリン、RD Systems(Wiesbaden-Nordenstadt, Germany)よりのIL6、またはAlexis QBiogene(Carlsbad, CA, USA)よりのPGE2で処置した。
【0091】
アポトーシスを、他所(5)に記載されているように、0.5μg/mlのJo2抗体および0.05μg/mlのアクチノマイシンDを用いた処置により培養マウス肝細胞で惹起した。該当するとき、肝細胞をJo2抗体およびアクチノマイシンDの添加6時間前にARで処置した。アポトーシスを、可溶性ヒストン−DNA複合体をCell Death Detection Assay(Roche)を用いて測定することにより評価した。細胞死測定のためのELISA試験を製造者の指示書に従って実施した。細胞質に放出されたモノ−およびオリゴヌクレオソームの特異的な濃縮(濃縮係数、EF)を、処置細胞および対照細胞に対応するサンプルの吸光度の間の比として計算した。MEK1阻害剤、PD98059、PI―3K阻害剤、LY―294002およびEGF―Rチロシンキナーゼ活性阻害剤PD153035−全てCalbiochemにより供給された−の存在下、Fasにより媒介されるアポトーシスに対するARの効果を、また評価した。
【0092】
DNA合成の評価
DNAの合成に対して、ラット肝細胞をコラーゲンコートされた96穴プレートに、10%FCSを補ったMEM培地中、3X104細胞/ウェルの密度でプレーティングした。プレーティングの5時間後、培地を交換し、細胞を血清無しで更なる20時間維持した。DNA合成をAR処置の30時間後に試験した。[3H]チミジンのパルスを、ARの添加の22h後に、行った(1μCi/ウェル)(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ, USA)。細胞を回収し、チミジンの取り込みをシンチレーションカウンターで測定した。MEK1阻害剤PD98059、PI―3K阻害剤LY294002、p38 MAPK阻害剤SB202190、JNK阻害剤SP600125およびEGF―Rチロシンキナーゼ活性阻害剤PD153035−全てはCalbiochemより供給された−の存在下、ARのDNA合成に対する効果を評価した。
【0093】
ラット肝細胞の一過性トランスフェクション
初代培養ラット肝細胞を、Tfx−50(登録商標)reagent(Promega, Madison, WI, USA)を用い、製造者の指示書に従って、単離24時間後にトランスフェクションした。細胞に、WT1の4つのアイソフォーム(エクソン5およびKTSの存在または非存在により特徴付けられる)をコードするpCB6プラスミドの等量混合物、または、Jochemsen博士(Leiden University Medical Center, Leiden, The Netherlands)の御厚意により提供していただいた挿入物の無いpCB6ベクターの等量をトランスフェクションした。WT1の4つのアイソフォームの等量混合物のトランスフェクション効率は、アイソフォームを区別する特異的プライマーを用いたRT−PCR解析によってモニターされた。
【0094】
RNA単離および遺伝子解析
全RNAをTRI試薬(Sigma)を用いて抽出した。2μgのRNAを、M−MLV酵素をRNase OUT(Gibco-BRL)の存在下で用い(Gibco-BRL)る逆転写の前に、DNaseI(Gibco-BRL)で処理した。PCR産物を2%アガロースゲル電気泳動にかけ、続いてエチジウムブロマイドで染色し、Molecular Analyst software(Bio-Rad, Hercules, CA, USA)を用いて定量化した。データをβ−アクチン遺伝子発現レベルに関して標準化した。研究はβ−アクチンの増幅と比較され得るmRNA増幅を伴うそれらサンプルを含むのみであった。全てのプライマーをゲノムDNAとcDNAの増幅を区別するように設計し、全ての産物を配列決定して特異的に確認した。使用したプライマーを下記表Iに記載する:
【表1】
リアルタイムPCRをiCycler(BioRad)およびiQ SYBR Green Supermix(Bio-Rad)を用いて実施した。最終PCR産物の特異性をモニターするために、後者を融合曲線および電気泳動により分析した。それぞれの転写産物の量を、参照遺伝子(β−アクチン)の発現に対するn−倍相違として表した(2ΔCt、ここで、ΔCtは、標的遺伝子および対照遺伝子の間の閾値サイクルの相違を表す)。
【0095】
カスパーゼ―3活性の測定
マウス肝細胞および肝臓組織溶解物のカスパーゼ―3活性を、Caspase―3/CPP32比色アッセイキット(BioVision, Palo Alto, CA, USA)を使用して測定した。培養細胞(5X105/条件)を対応する処置の後、キットで提供される溶解バッファーで直接溶解した。肝組織を溶解バッファー中でダウンスホモジナイザー(Dounce homogenizer)を用いてホモジナイズし、15000回転、10分間遠心分離した。肝臓ホモジネート由来の細胞溶解物および上清を、製造者指示書に従ったカスパーゼ−3活性測定のために使用した(50μl中の200μg)。
【0096】
ウェスタンブロット
肝臓サンプルおよび単離肝細胞からのホモジネートを他所で記載されている[(19, (20)]ようにウェスタンブロット分析した。使用した抗体は:アフィニティー精製されたマウスARに特異的に標的化されたビオチン化ポリクローナル抗体(BAF989)(RD Systems);活性化カスパーゼ−3のp17サブユニットに対する特異的抗体(9664S)、リン酸化Akt(Ser473)(9271S)およびリン酸化STAT3(Tyr705)(9131S)(Cell Signaling, Beverly, MA, USA);ERK1/2(06−182)、リン酸化EGF−R(Tyr1173)(05−483)およびSTAT3(06−596)(Upstate Biotechnology, Charlottesville, VA, USA)。全ての他の抗体は、Santa Cruz Biotechnology (Santa Cruz, CA, USA)から:BclxL(sc8392)、Bcl2(sc7382)、EGF―R(sc―03)、リン酸化ERK1/2(Tyr204)(sc7383)、Akt(sc5298)、JNK(sc571)およびリン酸化JNK(Thr183/Tyr185)(sc6254)。
【0097】
統計解析
正規分布を示すデータは、独立したStudent t-試験および分散分析(ANOVA)を用いて群間比較した。正規分布を示さないデータは、Kruskal-WallisおよびMann-Whitney試験を用いて比較した。相関関係を、SpearmanまたはPearson相関係数により評価した。P<0.05の値を有意とした。データを平均±SEM、またはメジアンおよび四分位範囲として表す。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1A】対照(n=26)および肝硬変患者(チャイルドピュー A 肝硬変、n=7、チャイルドピュー B+C 肝硬変、n=22)由来の肝臓サンプルにおけるリアルタイムポリメラーゼチェインリアクション(RT−PCR)により測定された、ヒトおよび実験的肝硬変におけるAR遺伝子の発現。
【図1B】RT―PCRによって測定された対照ラット肝臓およびCCl4により誘導される肝硬変肝臓におけるAR遺伝子の発現(1群あたりn=6)。
【図2A】対照マウスの肝臓およびJo2抗体またはCCl4による急性肝障害の惹起後の肝臓におけるARの発現。ARの発現は、前述の処置の投与5h後に、RT―PCRにより評価された。
【図2B】Jo2抗体またはCCl4により惹起された急性肝障害におけるARの発現およびウェスタンブロッティングによる評価。それぞれ、肝臓組織のサンプルは、Jo2およびCCl4の処置の12および24h後、得られた。分析は、アフィニティー精製およびビオチン化された抗AR抗体により行われた.矢印(arrow tip)は異なる形態のARを示し、そして、グループにつき3つの代表的なサンプルが示されている。ローディングコントロールとして、アクチンに特異的な抗体によって、膜をハイブリダイズした。代表的なイメージを示す。
【図3A】ARによる処置はCCl4により惹起された急性肝障害を予防する。CCl4で処置されたマウスの血清トランスアミナーゼ・レベルに加えて、肝臓組織学を示す(H&E染色、原物の拡大X200)。血清および肝臓組織サンプルは、CCl4投与の24h後に集められた。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。
【図3B】Jo2で処置されたマウスの肝臓組織学および血清トランスアミナーゼ(H&E染色、原物の拡大X200)に対するAR治療の効果。血清および肝臓組織のサンプルは、Jo2投与の12h後に得られた。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。アスタリスクは、対Jo2単独、P<0.01を示す。
【図3C】Jo2注入の12h後に測定されたマウス肝臓のカスパーゼ―3活性におけるAR治療の効果。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。アスタリスクは、P<0.01対Jo2単独、を示す。
【図3D】対照マウスの肝臓―C―およびJo2注入の12h後に得られた肝臓抽出物における、活性カスパーゼ―3のp17サブユニットおよびBcl―xLタンパク質のレベルに対するAR治療の効果。ローディングコントロールとして、アクチンに特異的な抗体によって、膜をハイブリダイズした。代表的なイメージを示す。
【図4A】マウス肝細胞初代培養におけるARの抗アポトーシス効果。アポトーシスは、ARの濃度増加の存在下、アクチノマイシンDおよびJo2で処理することにより惹起された。アポトーシスは、細胞質でのモノ−およびオリゴヌクレオソーム放出の特異的な濃縮を測定することにより評価された(濃縮係数:EF)。値は、対照肝細胞−C−で得られた値に関して標準化された。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表され、アスタリスクは、P<0.05対Jo2、を示す。
【図4B】左パネル:アクチノマイシンDおよびJo2で処理された培養マウス肝細胞のカスパーゼ―3活性に対するAR(20nM)の効果。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表され、アスタリスクは、P<0.05対アクチノマイシンDおよびJo2で処理された細胞、を示す。右パネル:左パネルに記載されている同じサンプルの活性カスパーゼ―3のp17サブユニットおよびBcl―xLタンパク質のウエスタンブロット分析。
【図4C】培養マウス肝細胞におけるARによる反アポトーシスシグナリング経路の活性化。Akt、ERK1/2およびSTAT3リン酸化状態は、AR(20nM)の添加の後、異なる時間でマウス肝細胞の抽出物のウエスタンブロッティングを介して評価された。代表的な画像は、デュプリケートで行われた3つの実験の中で示される。
【図4D】EGF―R阻害剤剤PD153035(1μM)、MEK1阻害剤PD98059(10μM)またはPI−3Kの阻害剤LY−294002(20μM)の存在下で培養されたマウス肝細胞における、アクチノマイシンDおよびJo―2により惹起されるアポトーシスに対するAR(20nM)の効果。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表され、アスタリスクは、P<0.05対Jo2、を示す。
【図5】部分的な肝切除術(PH)後の、ラット肝臓(図5A)およびマウス肝臓(図5B)におけるAR遺伝子発現。ARコードするmRNAのレベルは、PHの後異なる時間で、残った肝実質において、リアルタイムPCRにより分析された。値は、3匹の異なる動物の平均±SEMとして表される。中塗り円(closed circle)は肝切除された動物に対応し、中抜き円(open circle)は虚偽の手術を受けた動物に対応する。
【図6A】培養ラット肝細胞におけるARによるDNA合成の刺激。肝細胞を濃度を増加させたARで処理し、DNA合成を[3H]チミジンの取り込みを測定することにより評価した。ARにより誘導されるDNA合成におけるTGFβ(8ng/ml)の効果を示す。値は、クワドルプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。1つのアスタリスクはP<0.05を示し、2つのアスタリスクはP<0.01対対照を示す。
【図6B】培養ラット肝細胞におけるARによるEGF―Rのチロシン残基リン酸化の刺激。チロシンをリン酸化されたEGF―Rおよび全体のEGF―Rはウエスタンブロッティングにより検出された。代表的な画像は、デュプリケートで実施された3つの実験の中で示される。
【図6C】培養ラット肝細胞における、ARによる細胞増殖に関するシグナリング経路の活性化。Akt、ERK1/2およびJNKのリン酸化状態は、ARの添加後、異なる時間で、ラット肝細胞抽出物の特異的抗体を使用するウエスタンブロッティングによって評価された。代表的な画像は、デュプリケートで実施された3つの実験の中で示される。
【図6D】EGF―R阻害剤PD153035(1μM)、MEK1阻害剤PD98059(10μM)、PI−3K阻害剤LY294002(20μM)、JNK阻害剤SP600125(20μM)またはp38 MAPK阻害剤SB202190(25μM)の存在下のラット肝細胞におけるDNA合成に対するAR(100nM)の効果。アスタリスクは、P<0.05対AR単独を示す。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。
【図7】図7A:異なる期間でIL―1β(2ng/ml)で処理された培養ラット肝細胞におけるAR遺伝子発現(クローズド・バー)。ARの遺伝子発現は、リアルタイムPCRで測定された。アスタリスクは、P<0.05対対照(オープン・バー)を示す。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。 図7B:異なる期間でPGE2(10μM)(クローズド・バー)で処理されたラット肝細胞におけるAR遺伝子発現。ARの遺伝子発現は、リアルタイムのPCRで測定された。アスタリスクは、P<0.05対対照(オープン・バー)を示す。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。 図7C:培養期間に依存したラット肝細胞におけるARのベースライン遺伝子発現のRT−PCRによる解析。代表的な実験を示す。 図7D:WT1の4つのアイソフォームをコードするpCB6プラスミドの等モル混合物、または等量の該アイソフォームをコードしない(gutless)pCB6ベクターでトランスフェクションした24h後の培養ラット肝細胞におけるAR遺伝子発現。AR遺伝子発現は、リアルタイムPCRで測定された。
【図8】異なる期間でAR処理した培養ラット肝細胞におけるTGFα(図8A)およびCT−1(図8B)遺伝子発現。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表され、各時点に対応する数−倍増加対対照として表される。アスタリスクは、P<0.05対対照を示す。
【図9】対照マウス−C−の肝臓、およびJo2抗体で処置されたマウスの肝臓における、EGF−R、AR、TGFα、EGFおよびHB−EGFリガンドの遺伝子発現。これらの遺伝子の発現は、RT―PCRで測定された。アスタリスクは、P<0.01対対照を示す。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。
【技術分野】
【0001】
本発明の技術分野
本発明は、肝疾患、そして、特に急性肝障害、例えば急性肝不全(ALF)の治療のための、医療製薬領域に適用される生物工学の分野に帰属する。
より詳しくは、本発明は、アンフィレグリン(amphiregulin)(AR)の使用に基づいて、新規な治療をこの種の疾患に提供する。
【背景技術】
【0002】
本発明以前の技術状況
急性肝障害は、肝細胞死による機能的な肝臓の大部分の喪失が続く急性肝不全(ALF)として表されることができる極めて重い障害である。ALFは、このように疾患ではなくむしろ肝細胞損失の程度と比例した重篤性を有する症候群である。障害は、劇的で、そして、脳障害、脳浮腫、敗血症、呼吸および腎臓障害、腸の出血および心血管虚脱を含む多様な臓器への影響をもたらす合併症を有する[Sanyal, A.J., Stravitz, R.T.The liver.Chapter 16.Pages:445-496.Zakim and Boyer Eds.Saunders.Philadelphia.2003]。
【0003】
ALFは特に一般的ではないが、関連する死亡率は40および95%の間にある[Sanyal, A.J., Stravitz, R.T. The liver. Chapter 16. Pages:445-496. Zakim and Boyer Eds. Saunders. Philadelphia. 2003、 および Galun, E., Axelrod, J.H.Biochim.Biophys.Acta. 1592: 345-358. 2002(下記 (15) )]
【0004】
地理的多様性に伴い、ALFの病因論は、多様である;その正しい定義は、予後を確立して、治療を適用するために重要である。
ALFが生じることができる薬剤の中で、記載は、肝炎ウィルス、特定の薬および毒素、代謝異常、急性虚血のいくつかの例および肝実質の大量切除について述べられている[Sanyal, A.J. ibid、 Galun, E. ibid]。
【0005】
ALFの成功的な解決は、肝細胞損傷を阻害する可能性に、そして、損傷を受けた実質の再生に依存する。現在の臨床診療において、利用可能なほとんどの治療手段は、ALFの多臓器出現を和らげることを試みる;しかしながら、壊死およびアポトーシスを減らすことができ、または幹細胞再生を促進することができる治療的な戦略はない−肝臓移植が、患者を治療する最終的に唯一の可能な選択肢である、 [Sanyal, A.J. ibid、 Galun, E. ibid]。
【0006】
細胞保護および再生する機構は、部分的な肝除去(pH)に対して従属的な肝の組織損失、または中毒性であるか、ウィルスであるか、虚血性であるか、または免疫起源の損傷の後に、肝臓において、活性化されることは公知である。 [(1) Michalopoulos, G.K., DeFrances, M.C. 1997. Liver regeneration. Science 276: 60-66. (2) Fausto, N. 2000. Liver regeneration. J. Hepatol. 32 (suppl 1): 19-31. (3) Taub, R.A. 2003. Hepatic regeneration. In:The Liver. D. Zakim, J.L. Boyer, Saunders, Philadelphia. U.S.A. 31-48]。
【0007】
異なる実験的なアプローチは、重度肝臓損傷の後で、肝機能を保って、機能的な肝重量を回復するために貢献する根底にあるメカニズムを決定するのを助けた [(4) Koniaris, L.G., McKillop, I.H., Schwartz, S.I., Zimmers, T.A. 2003. Liver regeneration. J. Am. Coll. Surg. 197: 634-659]。
【0008】
一連の調整された段階を進展させる過程の関係で、この複雑な反応は、サイトカイン、共同分裂刺激剤および成長因子のネットワークにより媒介される [(2), (3), (5) Kosai, K., Matsumoto, K., Nagata, S., Tsujimoto, Y., Nakamura, T. 1998. Abrogation of Fas-induced fulminant hepatic failure in mice by hepatocyte growth factor. Biochem. Biophys. Res. Commun. 244: 683-690. (6). Ethier, C., Raymond, V-A., Musallam, L., Houle, R., and Bilodeau, M. 2003. Antiapoptotic effect of EGF on mouse hepatocytes associated with downregulation of proapoptotic Bid protein. Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol. 285: G298-G308. (7). Kanda, D., Takagi, H., Toyoda, M., Horiguchi, N., Nakajima, H., Otsuka, T., Mori, M. 2002. Transforming growth factor .alpha. protects against Fas-mediated liver apoptosis in mice. FEBS Lett. 519: 11-15]。動物モデルにおいて、損傷または切除への再生応答にきわめて重要なサイトカインおよび成長因子の多くは、肝臓再生の経過で、人間においても発現すると考えられる。よって、種間での基本的なメカニズムの保存を示唆する。
【0009】
実験的なレベルでは、特定の成長因子およびサイトカインの動物(ラットおよびマウス)への投与が、細胞死を回避して、肝実質の再生を刺激して、ALFから保護することが示された。
【0010】
かかる因子は、肝細胞増殖因子(HGF)トランスフォーミング成長因子α(TGF―α)および上皮細胞増殖因子(EGF)を含む。[Kosai, K., Matsumoto, K. Nagata, S., Tsujimoto, Y., Nalamura, T. Biochem. Biohys. Res. Commun. 244:683-690.1998 下記 (5)、 Kand, D., Takagi, H., Toyoda, M., Horiguchi, N., Nakajima, H., Otsuka, T., Mori, M. FEBS Lett. 519-11-15.2002、 and Ethier, C., Raymond, V.A., Musallam, L., Houle, R., Bilodeau, M. Am. J. Physiol. 285: G298-G308.2003]。
【0011】
サイトカインの中で、インターロイキン6(IL―6)およびカルジオトロフィン―1(CT―1)が言及され得る。[Kovalovich, K., DeAngelis, R.A., Li, W., Durth, E.E, Ciliberto, G., Taub, R. Hepatology 31:149-159.2000 下記(26)、 そして、 Bustos, M., Beraza, N., Lasarte, J.J., Baixeras, E., Alzuguren, P., Bordet, T., Prieto, J. Gastroenterology 125:192-201.2003 下記(43)]。
【0012】
肝臓再生は、実質切除または損傷に続く肝重量を回復させることを意図する固有の応答である。生存および増殖シグナルは、サイトカインおよび成長因子の調整された方法で作動する複雑なネットワークを介して伝えられ得る。
【0013】
しかしながら、過去数十年の精力的な研究にもかかわらず、肝臓障害に対する生理的適応反応に関する分子およびメカニズムは十分には解明されていない。
【0014】
発明者らは、最近、四塩化炭素(CCl4)で処理されたラット肝臓並びに、肝細胞損傷患者の肝臓において、ウィルムス腫瘍抑制遺伝子WT1が誘導されることを観察した[(8) Berasain, C., Herrero, J.I., Garcia-Trevijano, E.R., Avila, M.A., Esteban, J.I., Mato, J.M., and Prieto, J. 2003. Expression of Wilms' tumor suppressor in the cirrhotic liver: relationship to HNF4 levels and hepatocellular function. Hepatology 38: 148-157]。WT1遺伝子は、成長および分化に関わる様々な遺伝子の発現を制御することができるジンクフィンガー(zinc finger)を有する転写因子をコードする[(9) Scharnhorst, V., Van der Eb, A.J, and Jochemsen, A.G. WT1 proteins: functions in growth and differentiation. 2001]. Gene 273:141-161]。
【0015】
WT1によって直接的に惹起される主な生理的ターゲットの一つは、アンフィレグリン(AR)である[(10) Lee, S.B., Huang, K., Palmer, R., Truong, V.B., Herzlinger, D., Kolquist, K.A., Wong, J., Paulding, C., Yoon, S.K., Gerald, W., Oliner, J.D., and Haber, D.A. 1999. The Wilms' tumor suppressor WT1 encodes a transcriptional activator of amphiregulin. Cell 98: 663-673]。ARは、EGFファミリーに属するポリペプチド成長因子であり、EGF受容体(EGF―R)のリガンドであり、最初は、ホルボール12―ミリスチン酸塩13―酢酸塩で処理されたMCF―7ヒト乳癌細胞の培養上清から単離されたものである[(11) Shoyab, M., McDonald, V.L., Bradley, G., and Todaro, G.J. 1988. Amphiregulin: a bifunctional growth-modulating glycoprotein produced by the phorbol 12-myristate 13-acetate-treated human breast adenocarcinoma cell line MCF-7. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85: 6528-6532]。EGFおよびTGFαと同様に、ARは、膜貫通の前駆体として合成され、タンパク質分解的にプロセッシングされ成熟分泌型を生じる[(12) Lee, D.C., Sunnarborg, S.W., Hinkle, C.L., Myers, T.J., Stevenson, M.Y., Russell, W.E, Castner, B.J., Gerhart, M.J., Paxton, R.J., Black, R.A., Chang, A., and Jackson, L.F. 2003. TACE/ADAM17 processing of EGF-R ligands indicates a role as a physiological convertase. Ann. N.Y. Acad. Sci. 995: 22-38]。ARの発現は組織特異的である。ヒトにおいては、卵巣および胎盤で優勢であり、肝臓では検出されない[(13) Plowman, G.D., Green, J.M., McDonald, V.L., Neubauer, M.G., Disteche, C.M., Todaro, G.J., and Shoyab, M. 1990. Amphiregulin gene encodes a novel epidermal growth factor-related protein with tumor-inhibitory activity. Mol. Cell Biol. 10: 1969-1981]。
【0016】
ARは二面的な機能を有し、多様な正常細胞の分化を刺激し、多くの腫瘍細胞株を阻害する[(10), (13)および(14) Kato, M., Inazu, T., Kawai, Y., Masamura, K., Yoshida, M., Tanaka, N., Miyamoto, K., and Miyamori, I. Amphiregulin is a potent mitogen for the vascular smooth muscle cell line, A75. 2003. Biochem. Biophys. Res. Commun. 301: 1109-1115]。
【0017】
米国特許5115096号は、アンフィレグリンの物理化学的な特徴および上皮起源の癌細胞に対するその反増殖的な効果、並びに、損傷の治療、癌の診断および治療におけるその使用を記載する。肝臓でのアンフィレグリン産生のレベルの確かな低下について述べられ、それから、それが明らかに「いくつかの機能的役割をしている」ことが推測される。
【0018】
米国特許5980885号は、哺乳類神経組織での前駆細胞の増殖の惹起のための、繊維芽細胞増殖因子と併用されるARに関する使用方法について記載されている。
米国特許6204359号は、損傷および癌の治療において、ケラチノサイトによって産生されるARの新規な形の使用を記載する。
【0019】
米国特許出願20011051358号は、他の適用の中で、肝臓疾患の治療のためのEEGF(細胞外/上皮細胞増殖因子)由来のポリペプチドの取得および使用を記載する。それは、また、肝臓再生に関する処置の可能性にも言及する。しかしながら、ARは本技術分野において既知の生成物として述べられるのみであり、おそらく本明細書中で記載される発明がそれを上回るものである。
【0020】
特許出願WO−0145697号は、AR発現を阻害する調節薬剤およびヒト皮膚治療におけるその使用を記載する。
【0021】
最後に、特許出願WO−02102319号は、BGS―8ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、そして、他の適用の中で、肝臓疾患および肝臓に影響を及ぼす増殖状態の治療および予防に有用である後者の断片および相同物を記載する。それはまた、bFGF、PDGF、AR、ベータセルリン、潜在―(crypto−)およびTGF―アルファ等のEGFタンパク質ファミリーとの高い相同性のため、BGS―8ポリペプチドがそのファミリーに属するタンパク質と少なくともいくつかの生物学的活性を共有することが予想され得ることが示される。
【0022】
本技術分野の状況は、ALF治療の新しい代替の必要を証明する。従って、その投与がALFにおける肝臓の保護を提供できる、成長因子やサイトカインの提供に基づいた、ALFのより有効な治療を見出すことが、望まれている。
【発明の開示】
【0023】
本発明の記載
上記で述べられた技術状況に基づいて、発明者らは、予想外にも、外部から投与されるARが、例えば、急性肝不全(ALF)を導く(または、すでに発症した)急性肝障害の保護剤として有効であることを見出した。
【0024】
したがって、本発明の目的は、急性肝障害の治療用の薬剤の製造のためのアンフィレグリンの使用である。
【0025】
本発明の別の目的は、急性肝障害に対して肝臓組織の初期の内因性防御反応を補強するために、前記因子が投与されるこの薬剤の使用である。
【0026】
さらなる本発明の目的は、急性肝障害の肝臓実質細胞のDNA合成を促進するために投与される薬剤の製造におけるアンフィレグリンの使用である。
【0027】
本発明の別の目的は、急性肝障害の肝臓実質の細胞死を予防するために投与される薬剤の製造におけるARの使用である。
【0028】
さらに他の目的は、いかなる病因論の急性肝障害の後に続く、残った肝実質の再生を刺激する薬剤の製造におけるARの使用である。
【0029】
本発明の他の目的は、部分的な肝切除術の後の肝臓再生の刺激に有用な薬剤の製造におけるARの使用である。
【0030】
本発明の更に別の目的は、生体で、または、死体から移植される肝臓の受容者である患者において、肝保護薬として、そして、肝細胞再生の刺激剤として有用な薬剤の製造におけるARの使用である。
【0031】
アンフィレグリンは、従って、かかる治療を必要としている患者への投与を経て、急性肝障害の治療に有用である。よって、アンフィレグリンが、かかる治療を必要としている患者にARの有効量の投与を含む急性肝障害の処置のための方法で用いられることが可能である。
かかる使用の前後関係において、薬は、ARが投与される患者の処置において、下記達成のために使うことができる(例えば):
* 急性肝障害に対する肝臓組織の初期の内因性防御反応の増強;
および/または
* 急性肝障害の間の肝細胞のDNA合成の促進;
および/または
* 急性肝障害の間の肝細胞死の予防;
および/または
* 急性肝障害の後、肝実質再生を維持する刺激;
および/または
* 肝障害に対する肝臓組織の初期の内因性防御反応の増強および/または肝細胞DNA合成の促進;
および/または
* 急性肝障害患者の肝臓組織の肝細胞死の予防;
そして、または、
* いかなる病因論の急性肝障害の後の残った肝実質の再生の刺激;
および/または
* 部分的な肝切除術後の肝臓再生の刺激;
および/または
* 生体で(de vivo)、または、死体からの肝移植の受容者である患者の肝細胞再生の刺激。
【0032】
発明者らは、驚くべきことに、ARの投与が肝障害の間、肝細胞生存を誘発し得ることを見出した。したがって、ARが細胞分裂(mitogenic)または増殖因子として機能することが証明されている。発明者らは、ARが、単離された肝細胞に直接的に働くことができ、それらの増殖を促進し、アポトーシスを阻害することを示した。これらの効果は、EGF―Rおよび細胞外で制御されたキナーゼ1/2(ERK1/2)、シグナル−3トランスデューサおよび転写アクチベーター(STAT−3)、c-jun N−ターミナルキナーゼ(JNK)およびAktの活性化を通して媒介されるようである。さらに、ARは、単離肝細胞において2つの生存メディエーター、TGFαおよびCT−1の発現を惹起する。
【0033】
同様に、発明者らは、肝障害の2つの臨床的に関連したモデルである、Fasリガンド受容体を特異的に活性化する抗体JO2、またはCCl4による急性肝障害[(4), (15) Galun, E., and Axelrod, J.H. 2002. The role of cytokines in liver failure and regeneration: potential new molecular therapies. Biochim. Biophys. Acta. 1592: 345-358]に罹患したマウスに対するARのインビボ投与が、肝組織を顕著に保護し、アポトーシスを阻害することを示すことができた。したがって、発明者らの発見は、重篤な肝障害または病変の場合に、肝細胞性損傷を減らすための治療的な有用性を反映する、肝臓におけるARの新規な機能を明らかにする。
【0034】
上記のコメントは、ヒト急性肝障害に関連する肝細胞性損傷のモデルにおける、アンフィレグリンの肝保護特性およびその細胞分裂効果を反映する。
【0035】
ARは、非経腸経路を経た注入として、そして、−それが皮下、または、筋注で投与されることもできるにもかかわらず、好ましくは静脈内経路により投与されることができる。
【0036】
非経腸投与用の形態は、ARと緩衝化剤(buffer)、安定化剤、防腐剤、可溶化剤、強壮剤、および/または懸濁化剤を混ぜ合わせることによって、従来どおりに、得ることが可能である。AR分子で見受けられるジスルフィド結合に対する効果を回避するために、製剤は、これらのジスルフィド結合を調節する(減らす)ことができる構成要素を含むべきではない。組成物は、周知の技術を使用して殺菌されて、注入として投与されるために包装される。
【0037】
可能性のある緩衝化剤は、有機リン酸に基づく塩を含む。
【0038】
可溶化剤の例は、ポリオキシエチレン、ポリソルベート80、ニコチンアミドおよびマクロゴールと共に、凝固させたヒマシ油である。
【0039】
安定化剤として、ナトリウム亜硫酸塩またはメタナトリウム亜硫酸塩、そして、防腐剤として、ソルビン酸、クレゾール、パラクレゾール、その他を使うことができる。
【0040】
より好ましい投与形態として、注射可能な組成物は、溶液、エマルジョンまたは無菌の分散でもよい。該注入可能な形態は、注入のための水において、一種以上の賦形剤と共にAR溶解、エマルジョンまたは分散により調製される。
【0041】
皮下投与用の注射可能な製剤の一部を形成できる賦形剤においては、組織の注入によって、緩衝化能力があるかないか、そして、生理的pHでの活性物質または複数の活性化物質の安定性によって、緩衝化剤につき言及され得る。緩衝化剤においては、クエン酸−クエン酸ナトリウム、酢酸−酢酸ナトリウムおよび炭酸一ナトリウム−炭酸二ナトリウム、その他等の調節溶液について、言及され得る。
【0042】
他の任意の賦形剤は、発熱物質および/または汚染物質の存在を回避するための滅菌剤である。
【0043】
皮下の経路を経た投与用の医薬品組成物の他の任意の成分は、例えば水、炭化水素、アルコール類、ポリオール類、エーテル類、植物油、ラノリンおよびメチルケトン、その他等の、一またはそれ以上の液体担体剤である。
【0044】
静脈内であるか腹膜内注射用の製剤は、1日につき、1回または数回、0.5〜1.8mg/患者体重kgで、例えば、1日につき0.85〜1.55mg/患者体重kgで、とりわけ1日につき1〜1.5mg/患者体重kgで投与することができるように設計され得る。
【0045】
図面の簡単な説明
図1A:対照(n=26)および肝硬変患者(チャイルドピュー(Child-Pugh) A 肝硬変、n=7、チャイルドピュー B+C 肝硬変、n=22)由来の肝臓サンプルにおけるリアルタイムポリメラーゼチェインリアクション(RT−PCR)により測定された、ヒトおよび実験的肝硬変におけるAR遺伝子の発現。
【0046】
図1B:RT―PCRによって測定された対照ラット肝臓およびCCl4により誘導される肝硬変肝臓におけるAR遺伝子の発現(1群あたりn=6)。
【0047】
図2A:対照マウスの肝臓およびJo2抗体またはCCl4による急性肝障害の惹起後の肝臓におけるARの発現。ARの発現は、前述の処置の投与5h後に、RT―PCRにより評価された。
【0048】
図2B:Jo2抗体またはCCl4により惹起された急性肝障害におけるARの発現およびウェスタンブロッティングによる評価。それぞれ、肝臓組織のサンプルは、Jo2およびCCl4の処置の12および24h後、得られた。
分析は、アフィニティー精製およびビオチン化された抗AR抗体により行われた.矢印(arrow tip)は異なる形態のARを示し、そして、グループにつき3つの代表的なサンプルが示されている。ローディングコントロールとして、アクチンに特異的な抗体によって、膜をハイブリダイズした。代表的なイメージを示す。
【0049】
図3A:ARによる処置はCCl4により惹起された急性肝障害を予防する。CCl4で処置されたマウスの血清トランスアミナーゼ・レベルに加えて、肝臓組織学を示す(H&E染色、原物の拡大X200)。血清および肝臓組織サンプルは、CCl4投与の24h後に集められた。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。
【0050】
図3B:Jo2で処置されたマウスの肝臓組織学および血清トランスアミナーゼ(H&E染色、原物の拡大X200)に対するAR治療の効果。血清および肝臓組織のサンプルは、Jo2投与の12h後に得られた。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。アスタリスクは、対Jo2単独、P<0.01を示す。
【0051】
図3C:Jo2注入の12h後に測定されたマウス肝臓のカスパーゼ―3活性におけるAR治療の効果。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。アスタリスクは、P<0.01対Jo2単独、を示す。
【0052】
図3D:対照マウスの肝臓―C―およびJo2注入の12h後に得られた肝臓抽出物における、活性カスパーゼ―3のp17サブユニットおよびBcl―xLタンパク質のレベルに対するAR治療の効果。ローディングコントロールとして、アクチンに特異的な抗体によって、膜をハイブリダイズした。代表的なイメージを示す。
【0053】
図4A:マウス肝細胞初代培養におけるARの抗アポトーシス効果。アポトーシスは、ARの濃度増加の存在下、アクチノマイシンDおよびJo2で処理することにより惹起された。アポトーシスは、細胞質でのモノ−およびオリゴヌクレオソーム放出の特異的な濃縮を測定することにより評価された(濃縮係数:EF)。値は、対照肝細胞−C−で得られた値に関して標準化された。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表され、アスタリスクは、P<0.05対Jo2、を示す。
【0054】
図4B:左パネル:アクチノマイシンDおよびJo2で処理された培養マウス肝細胞のカスパーゼ―3活性に対するAR(20nM)の効果。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表され、アスタリスクは、P<0.05対アクチノマイシンDおよびJo2で処理された細胞、を示す。
右パネル:左パネルに記載されている同じサンプルの活性カスパーゼ―3のp17サブユニットおよびBcl―xLタンパク質のウエスタンブロット分析。
【0055】
図4C:培養マウス肝細胞におけるARによる反アポトーシスシグナリング経路の活性化。Akt、ERK1/2およびSTAT3リン酸化状態は、AR(20nM)の添加の後、異なる時間でマウス肝細胞の抽出物のウエスタンブロッティングを介して評価された。
代表的な画像は、デュプリケートで行われた3つの実験の中で示される。
【0056】
図4D:EGF―R阻害剤剤PD153035(1μM)、MEK1阻害剤PD98059(10μM)またはPI−3Kの阻害剤LY−294002(20μM)の存在下で培養されたマウス肝細胞における、アクチノマイシンDおよびJo―2により惹起されるアポトーシスに対するAR(20nM)の効果。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表され、アスタリスクは、P<0.05対Jo2、を示す。
【0057】
図5A、5B:部分的な肝切除術(PH)後の、ラット肝臓(図5A)およびマウス肝臓(図5B)におけるAR遺伝子発現。
ARコードするmRNAのレベルは、PHの後異なる時間で、残った肝実質において、リアルタイムPCRにより分析された。値は、3匹の異なる動物の平均±SEMとして表される。中塗り円(closed circle)は肝切除された動物に対応し、中抜き円(open circle)は虚偽の手術を受けた動物に対応する。
【0058】
図6A:培養ラット肝細胞におけるARによるDNA合成の刺激。肝細胞を濃度を増加させたARで処理し、DNA合成を[3H]チミジンの取り込みを測定することにより評価した。ARにより誘導されるDNA合成におけるTGFβ(8ng/ml)の効果を示す。値は、クワドルプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。1つのアスタリスクはP<0.05を示し、2つのアスタリスクはP<0.01対対照を示す。
【0059】
図6B:培養ラット肝細胞におけるARによるEGF―Rのチロシン残基リン酸化の刺激。チロシンをリン酸化されたEGF―Rおよび全体のEGF―Rはウエスタンブロッティングにより検出された。代表的な画像は、デュプリケートで実施された3つの実験の中で示される。
【0060】
図6C:培養ラット肝細胞における、ARによる細胞増殖に関するシグナリング経路の活性化。Akt、ERK1/2およびJNKのリン酸化状態は、ARの添加後、異なる時間で、ラット肝細胞抽出物の特異的抗体を使用するウエスタンブロッティングによって評価された。代表的な画像は、デュプリケートで実施された3つの実験の中で示される。
【0061】
図6D:EGF―R阻害剤PD153035(1μM)、MEK1阻害剤PD98059(10μM)、PI−3K阻害剤LY294002(20μM)、JNK阻害剤SP600125(20μM)またはp38 MAPK阻害剤SB202190(25μM)の存在下のラット肝細胞におけるDNA合成に対するAR(100nM)の効果。アスタリスクは、P<0.05対AR単独を示す。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。
【0062】
図7A:異なる期間でIL―1β(2ng/ml)で処理された培養ラット肝細胞におけるAR遺伝子発現(クローズド・バー)。ARの遺伝子発現は、リアルタイムPCRで測定された。アスタリスクは、P<0.05対対照(オープン・バー)を示す。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。
【0063】
図7B:異なる期間でPGE2(10μM)(クローズド・バー)で処理されたラット肝細胞におけるAR遺伝子発現。ARの遺伝子発現は、リアルタイムのPCRで測定された。アスタリスクは、P<0.05対対照(オープン・バー)を示す。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。
【0064】
図7C:培養期間に依存したラット肝細胞におけるARのベースライン遺伝子発現のRT−PCRによる解析。代表的な実験を示す。
【0065】
図7D:WT1の4つのアイソフォームをコードするpCB6プラスミドの等モル混合物、または等量の該アイソフォームをコードしない(gutless)pCB6ベクターでトランスフェクションした24h後の培養ラット肝細胞におけるAR遺伝子発現。AR遺伝子発現は、リアルタイムPCRで測定された。
【0066】
図8A、8B:異なる期間でAR処理した培養ラット肝細胞におけるTGFα(図8A)およびCT−1(図8B)遺伝子発現。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表され、各時点に対応する数−倍増加対対照として表される。アスタリスクは、P<0.05対対照を示す。
【0067】
図9:対照マウス−C−の肝臓、およびJo2抗体で処置されたマウスの肝臓における、EGF−R、AR、TGFα、EGFおよびHB−EGFリガンドの遺伝子発現。これらの遺伝子の発現は、RT―PCRで測定された。アスタリスクは、P<0.01対対照を示す。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。
【0068】
試行
AR遺伝子発現は、肝硬変のヒト肝臓において検出され、実験的な肝障害において、そして部分的な肝切除術に続いて、急速に誘導される。発明者らによって実施された実験は、科学的基礎および本発明に含まれるARの使用に対するサポートを構成する、得られた結果の精力的な分析と共に、以下に示される。
【0069】
慢性および急性肝障害において誘導されるAR遺伝子発現
発明者らは、転写制御因子WT1の発現が、肝硬変のヒト肝臓のほとんどすべての試験されたサンプルにおいて、そしてラットCCl4惹起肝硬変において誘導されることをすでに示した(8)。ARがWT1の主要な転写ターゲットであるという事実(10)は、発明者に肝硬変患者の肝臓におけるこの成長因子の発現を検討させた。リアルタイムPCR分析(RTi―PCR)は、健常人の肝臓のAR発現のかろうじて検出可能なレベルを示したが、肝硬変患者の約75%においては、高いレベルのARをコードするmRNAが観察された(図1A)。
【0070】
大変興味深いことは、AR遺伝子発現のレベルが、対照肝臓および肝硬変の個人におけるWT1遺伝子のそれと直接相関した(r=0.752、P<0.001)という事実である。ヒトのデータと一致して、AR発現は、CCl4投与(図1B)および胆管結紮(図示せず)に続く、ラットで惹起される実験的な肝硬変においても増加した。
【0071】
ARが侵襲に対する急速な肝臓反応の一部をなし得るか否かを決定するために、CCl4(1μl/g)の単回腹腔内注射の投与後の、または、Jo2抗体(4mg/マウス)の注入の後のマウス肝臓における、ARをコードするmRNAおよびタンパク質のレベルについて評価した。図2Aは、ARをコードするmRNAのレベルが処置開始5h後に著しく誘導されたことを示す。ウエスタンブロットを、それぞれ、抗体Jo2またはCCl4の投与12および24h後に、得られた肝臓のサンプルで実施した。アフィニティー精製およびビオチン化された抗AR抗体を用いて、処置されたマウスの肝臓にのみ存在する一組のタンパク質を検出した(図2B)。約50、43、28および19kDaの4バンドは、上皮細胞に記載されているARの異なる形態と一致している[(22) Brown, C.L., Meise, K.S., Plowman, G .D., Coffey, R.J., Dempsey, P.J. 1998. Cell surface ectodomain cleavage of human amphiregulin precursor is sensitive to a metalloprotease inhibitor. J. Biol. Chem. 273: 17258-17268]。50および28KDaに対応するバンドは、おそらく膜アンカー型のARを表し、一方、43および19KDaに対応するバンドは、タンパク質分解によりプロセッシングされた可溶型のARであり得る(22)。
【0072】
AR投与による、マウスにおけるCCl4またはFas活性化により惹起される急性肝障害の抑制
ARが肝障害の程度を制限できるかどうか決定するために、発明者らは、CCl4または抗体Jo2処置による二次的な急性肝障害に罹患したマウスにおけるARの投与の効果を検討した。CCl4は、細胞、リソソームおよびミトコンドリア膜透過性を変化させるため、肝壊死およびアポトーシスを惹起する[(23) Berger, M.L., Bhatt, H., Combes, B., Estabrook, R. 1986. CCl4-induced toxicity in isolated hepatocytes: the importance of direct solvent injury. Hepatology 6: 36-45. (24) Kovalovich, K., Li, W., DeAngelis, R., Greenbaum, L.E., Ciliberto, G., and Taub, R. 2001. Interleukin-6 protects against Fas-mediated death by establishing a critical level of anti-apoptotic hepatic proteins FLIP, Bcl-2, and Bcl-xL. J. Biol. Chem. 276: 26605-26613. (25) Shi, J., Aisaki, K., Ikawa, Y., Wake, K. 1998. Evidence of hepatocyte apoptosis in rat liver after the administration of carbon tetrachloride. Am. J. Pathol. 153: 515-525. (26) Kovalovich, K., DeAngelis, R.A., Li, W., Furth, E.E., Ciliberto, G., Taub, R. 2000. Increased toxin-induced liver injury and fibrosis in interleukin-6-deficient mice. Hepatology 31: 149-159. (27) Czaja, M.J., Xu, J., Alt, E. 1995. Prevention of carbon tetrachloride-induced rat liver injury by soluble tumor necrosis factor receptor. Gastroenterology 108: 1849-1854]。ASTおよびALTの血清レベルは、CCl4注入の24h後に、かなり増加した。しかしながら、この増加は、ARで処置したマウスにおいて、明らかに減少した(図3A)。これと整合して、組織学的損傷の程度は、ARで処置したマウスにおいて減少した(図3A)。
【0073】
血清ASTおよびALTレベルは、Jo2注入の12h後に、かなり増加した(図3B)。AR処理は、血清トランスアミナーゼの上昇を強く抑制し、そして、組織病理学的分析は、ARの投与がほぼ完全に肝障害を回避することを確認した(図3B)。アポトーシス細胞死は、Fasにより媒介される肝障害の主要な決定要素である[(5)-(7), (28) Ogasawara, J., Watanabe-Fukunaga, R., Adachi, M., Matsuzawa, A., Kasugai, T., Kitamura, Y., Itoh, N., Suda, T., Nagata, S.1993. Lethal effect of the anti-Fas antibody in mice. Nature 364: 806-809. (29) Nagata, S. 1997. Apoptosis by death factor. Cell 88: 355-365]。Fasにより媒介される肝障害に対するARの肝保護効果が抗アポトーシスの活性から生じることを確認するために、発明者らは、マウス肝抽出物におけるカスパーゼ−3のタンパク質分解の活性化およびその活性を測定した。それらは、抗体Jo2で処置したマウスにおいて検出されるカスパーゼ−3活性の誘導が、ARの投与により強く阻害されることを発見した(図3C)。特異的に活性カスパーゼ−3のp17サブユニットを認識する抗体を用いて、カスパーゼ−3の破裂がAR処置により回避されることを認めた−よって、Fasにより惹起されるアポトーシスのルートの特異的なAR−媒介遮断が示唆された(図3D)。Bcl−2ファミリーのタンパク質は、Fasにより媒介されるアポトーシスを含む、様々な刺激により惹起されるアポトーシスを阻害する[(30) Shimizu, S., Eguchi, Y., Kosaka, H., Kamiike, W., Matsuda, H., Tsujimoto, Y. 1995. Prevention of hypoxia-induced cell death by Bcl-2 and Bcl-xL. Nature 374: 811-813. (31) Stoll, S.W., Benedict, M., Mitra, R., Hiniker, A., Elder, J.T., Nunez, G. 1998. EGF receptor signaling inhibits keratinocyte apoptosis: evidence for mediation by Bcl-xL. Oncogene 16: 1493-1499. (32) Lacronique, V., Mignon, A., Fabre, M., Viollet, B., Rouquet, N., Molina, T., Porteu, A., Henrion, A., Bouscary, D., Varlet, P., Joulin, V., Kahn, A. 1996. Bcl-2 protects from lethal hepatic apoptosis induced by an anti-Fas antibody in mice. Nat. Med. 2: 80-86]。Bcl−xLタンパク質の発現を、Jo2抗体注入の6h後に、ウエスタンブロットにより評価した。Bcl―xLタンパク質レベルは、抗体Jo2単独で処置したマウスに対し、ARおよび抗体Jo2で処置したマウスの肝臓において、より高かった(図3D)。
【0074】
初代培養肝細胞におけるARの直接的抗アポトーシス効果
ARのインビトロ抗アポトーシス効果が肝臓実質細胞におけるARの直接作用により媒介され得るかどうか決定するために、発明者らは、初代培養マウス肝細胞を使用した。
Jo−2抗体に暴露された肝細胞は、アクチノマイシンDの存在下で効率的にアポトーシスを被ることが報告されている[(5), (6), (33) Ni, R., Tomita, Y., Matsuda, K., Ichiara, A., Ishimura, K., Ogasawara, J., Nagata, S. 1994. Fas-mediated apoptosis in primary cultured mouse hepatocytes. Exp. Cell Res. 215: 332-337]。肝細胞を、アクチノマイシンDおよびJo2抗体の添加の前に、3hの間、異なる濃度のARによって、前処理した。アポトーシスおよび関連した分子イベントの測定を、18h後に行った。図4Aから分かるように、肝細胞は、濃度依存的にARによりアポトーシスから保護され、よって、Fasにより媒介される肝細胞アポトーシスの防止において、ARの直接的な細胞保護効果が示された。ARにより媒介される細胞保護活性は、また、TNFα+ガラクトサミン、オカダ酸およびトランスフォーミング成長因子β(TGFβ)等の他の薬剤により惹起されるアポトーシスにも認められた(データ示さず)。ARの抗アポトーシス効果に基づいて、発明者らは、Jo2抗体により誘導されるカスパーゼ−3のタンパク質分解および活性化がARによって著しく阻害されることを見出した(図4b)。同様に、発明者らは、抗アポトーシスのタンパク質Bcl−xLがJo2処置マウス肝細胞において、AR処置により誘導されることを見出した(図4B)。ARの抗アポトーシスのシグナリングメカニズムを同定するために、細胞生存の一般的なメディエーターであるPI−3K/AktおよびERK1/2経路を検討した[(4), (6)]。ARで処理した培養マウス肝細胞は、AktおよびERK1/2のリン酸化の亢進を示した(図4C)。Fasにより惹起される肝障害に対する保護に関係する鍵となるシグナリング分子は、STAT3である[(34) Shen, Y., Devgan, G., Darnell, J.E., Bromberg, J.F. 2001. Constitutively activated Stat3 protects fibroblasts from serum withdrawal and UV-induced apoptosis and antagonizes the proapoptotic effects of activated Stat1. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 98: 1543-1548. (35) Haga, S., Terui, K., Zhang, H.Q., Enosawa, S., Ogawa, W., Inoue, H., Okuyama, T., Takeda, K., Akira, S., Ogino, T., et al. 2003. Stat3 protects against Fas-induced liver injury by redox-dependent and independent mechanisms. J. Clin. Invest. 112: 989-998]。ARは、STAT3のリン酸化を刺激すると認められた(図4C)。
【0075】
ARによるEGF−R活性化は、Fasにより惹起される細胞死に対する、この成長因子の抗アポトーシス効果を媒介する際に欠かせないようである。マウス肝細胞が、ARの添加前に、EGF−R阻害剤PD153035で1hの間、前処理されるときに、このことは明らかであり、そして、ARにより提供される保護は失われた(図4D)。また、アポトーシスを回避するために、ARが、EGF−Rの下流で作動するPI−3K/Akt経路を活性化させることが必要であることも判明した。これは、ARにより提供される保護に対するPI−3K阻害剤LY294002の顕著な抑制効果により示された(図4D)。しかしながら、MEK1阻害剤PD98059は、ARの抗アポトーシス効果を妨げなかった(図4D)。
【0076】
部分的な肝切除術後の肝臓におけるAR発現
本発明の発明者らも、2/3部分の肝切除術の後、マウスおよびラット肝臓にけるAR発現を検討した[(1), (4)]。図5Aから分かるように、ARmRNAはPH前にはラット肝臓で検出できないが、手術後30分でその出現が検出された−6時間後ピーク値に達し、続いて15および24時間の間に発現が徐々に低下した。面白いことに、虚偽の手術(SH)を受けたラットのAR遺伝子の発現は、6〜15hの後で、一過性に誘導された。
マウス肝臓のAR遺伝子の発現は、PHの後、すぐに誘導された(図5A)。ARをコードしているmRNAのレベルは、PHの0.5h後に増加するのが認められ、24〜48hでピークに達し、その後減少した(図5B)。動力学がラットにおいてより非常に速かったが、AR遺伝子の発現は虚偽の手術を受けたマウスにおいても誘導された。評価された最も短い時点(0.5h)で、虚偽の手術を受けたマウスは、肝切除された動物と類似のARをコードしているmRNAのレベルを示した。しかしながら、介入の1h後に、ARをコードしているmRNAのレベルは、切除を受けた動物と比較して虚偽の手術を受けたマウスにおいて、著しく減少し、そして、この状況は残りの研究の全体にわたって持続した(図5B)。
【0077】
ARは単離肝細胞のDNA合成の誘導を媒介した
一度、発明者らがAR遺伝子の発現が肝障害およびPHにおいて、急速に誘導され、そして、ARが肝実質に対し保護的役割をすることができることを示したので、彼らは、ARがまた肝細胞に対し分裂促進的に挙動できることの証明を試みた。
【0078】
図6Aで分かるように、濃度依存的にDNAへの[3H]チミジン取り込みを刺激するので、ARは単離された初代培養肝細胞のための純粋な分裂促進物質として挙動する。ARのDNA合成への効果は、肝臓再生する反応の生理的終了に関係する成長因子であるTGFβにより無効にされた(1)。
【0079】
ARはEGF―Rリガンドであり、そして、成熟した動物の肝細胞で多量に発現する受容体である[(36) Salomon, D.S., Brandt, R., Ciardiello, F., Normanno, N. 1995. Epidermal growth factor-related peptides and their receptors in human malignancies. Crit. Rev. Oncol. Hematol. 19: 183-232. (37) Carver, R.S., Stevenson, M.C., Scheving, L.A., and Russell, W.E. 2002 Diverse expression of ErbB receptor proteins during rat liver development and regeneration. Gastroenterology 123: 2017-2027]。 発明者らは、培養ラット肝細胞のARの細胞内シグナリングを調べた。単離ラット肝細胞をARで処置することにより、EGF―Rの急速なおよび一過性のリン酸化を惹起された(図6B)。成長因子に対する肝細胞の分裂促進反応の主なシグナル伝達カスケードとして、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)およびホスファチジルイノシトール3―キナーゼ(PI―3K)の経路を解析した[(38) Band, C.J., Mounier, C., Posner, B. 1999. Epidermal growth factor and insulin-induced deoxyribonucleic acid synthesis in primary rat hepatocytes is phosphatidylinositol 3-kinase dependent and dissociated from protooncogene induction. Endocrinology 140: 5625-5634. (39) Coutant, A., Rescan, C., Gilot, D., Loyer, P., Guguen-Guillouzo, C., Baffet, G. 2002. PI3K-FRAP/mTOR pathway is critical for hepatocyte proliferation whereas MEK/ERK supports both proliferation and survival. Hepatology 36: 1079-1088]。さらに最近、c-JunN末端キナーゼが、PH後の肝細胞増殖に顕著に関与することが示された[(40) Schwabe, R.F., Bradham, C.A., Uehara, T., Hatano, E., Bennett, B.L., Schoonhoven, R., Brenner, D.A. 2003. c-Jun-N-Terminal kinase drives cyclin D1 expression and proliferation during liver regeneration. Hepatology 37: 824-832]。マウス肝細胞で観察されたように、単離ラット肝細胞のARでの処置は、ERK1/2およびAktのリン酸化を急速に惹起する(図6C)。さらに、発明者らは、AR処置に応答してJNKリン酸化を観察した(図6C)。
【0080】
肝細胞増殖におけるARシグナリングを評価するために、発明者らは、これらのシグナリング経路の阻害剤の存在下で、ARで処置したラット肝細胞におけるDNAへの[3H]チミジン取り込みを測定した。図6Dから分かるように、EGF―Rチロシンキナーゼ活性阻害剤(PD153035)は、ARにより刺激されるDNA合成を完全に防止する。同程度の阻害はPI―3Kの阻害剤(LY294002)でも観察されたが、その一方で、MEK1阻害剤、PD98059およびJNK阻害剤(SP600125)は70%(図6D)ARの効果を低減した。しかしながら、p38―MAPK阻害剤(SB202190)での処置は、ARにより刺激されるDNA合成に対してたいした効果を及ぼさなかった(図6D)。
【0081】
単離された肝細胞におけるAR遺伝子発現
発明者らは、ARが損傷の異なる状況および肝臓組織の再生の下で、肝臓において、発現されることを示した。AR誘導に対して責任があるメカニズムを確認するために、ラット肝臓実質細胞が単離され、そして、AR遺伝子発現は異なる状況の下で調べられた。第1に、肝臓の炎症および再生の過程に関係のある種々の因子、例えばIL―1β、IL―6、TNFα、HGFおよびプロスタグランジンE2(PGE2)の効果を評価した[(1)-(4), (41) Rudnick, D.A., Perlmutter, D.H., and Muglia, L.J. 2001. Prostaglandins are required for CREB activation and cellular proliferation during liver regeneration. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 98: 8885-8890]。評価したサイトカインおよび成長因子の中で、IL―1βが、AR遺伝子発現を刺激すると認められる唯一の分子であった(図7A)。結腸癌細胞における初期の観察に基づいて[(42) Shao, J., Lee, S.B., Guo, H., Evers, M., and Sheng, H. 2003. Prostaglandin E2 stimulates the growth of colon cancer cells via induction of amphiregulin. Cancer Res. 63: 5218-5223]、ラット肝細胞のPGE2による処置が、AR遺伝子発現の素早い誘導を引き起こすことが認められた(図7B)。PGE2媒介AR遺伝子発現刺激は、ARプロモーターにおけるcAMP応答エレメント上で作用する、cAMP/プロテインキナーゼA(PKA)経路により惹起されると仮定されてきた(42)。このメカニズムに一致して、発明者らは、単離肝細胞において、cAMP誘導物質ホルスコリンが、AR遺伝子の発現を促進することを見出した(データ示さず)。種々の酸化ストレス惹起剤、例えば過酸化水素およびメナジオンでの肝細胞の処置は、AR遺伝子の発現に効果を及ぼさない(データを示さず)。
【0082】
AR遺伝子の発現が、培養肝細胞で惹起されること、およびこの効果の規模が培養時間と共に増大することが見出された(図7C)。ARは、WT1転写制御因子の真実のターゲットである(10)。発明者らは、WT1の4つのアイソフォームをコードするプラスミドの等量混合物の肝細胞へのトランスフェクションが、リアルタイムPCRにより決定されるARをコードするmRNAのレベルを増加させることを見出した。これらのデータは、WT1が単離肝細胞においてAR遺伝子発現を制御することができることを示しているが、培養肝細胞におけるARの誘導はWT1の誘導より先に起こり(データ示さず)、よって、以前同定された因子、IL−1βおよびPGE2が、培養肝細胞におけるAR遺伝子発現の素早い最初の誘導の原因となり得ることが示される。
【0083】
単離肝細胞における肝保護および再生メディエーターの発現のARによる誘導
ARの肝保護効果の基礎をなしているメカニズムをより深く検討するために、発明者らは、肝臓障害およびPHの内因性応答に関する鍵となる分子である[(7),(43) Bustos, M., Beraza, N., Lasarte, J-J., Baixeras, E., Alzuguren, P., Bordet, T., Prieto, J. 2003. Protection against liver damage by cardiotrophin-1: a hepatocyte survival factor up-regulated in the regenerating liver in rats. Gastroenterology 125: 192-201. (44) Webber, E.M., Fitzgerald, M.J., Brown, P.I., Bartlett, M.H., Fausto, N. 1993. Transforming growth factor-α expression during liver regeneration after partial hepatectomy and toxic injury, and potential interactions between transforming growth factor-α and hepatocyte growth factor. Hepatology 18: 1422-1431]、TGFαおよびカルジオトロフィン―1(CT―1)の発現におけるこの成長因子の効果を評価した。単離ラット肝細胞におけるAR処置は、TGFαおよびCT−1をコードするmRNAのレベルを増加させた(図8AおよびB)。これらの応答は、肝栄養因子としてのARの関与を強調する。
【0084】
Fasにより媒介される急性肝障害におけるEGF−Rリガンドの発現
ARに加えて、EGF−Rは、EGFおよびTGFαと共にヘパリン結合EGFタイプ成長因子(HB−EGF)を含むリガンドのファミリーによって活性化される[(36), (45) Holbro, T., Hynes, N.E. 2004. ErbB receptors: directing key signaling networks throughout life. Annu. Rev. Pharmacol. Toxicol. 44: 195-217]。肝臓障害に続く素早い肝保護および再生反応に対する、これらEGF−Rリガンドの相対的な寄与のより深い評価のために、発明者らは、JO2抗体で処置したマウスにおける遺伝子発現プロファイルを検討した。図9に示されるように、以前はARをコードするmRNAの検出不可能な発現レベルを示した、対照マウスの肝臓において、EGF、TGFαおよびHB−EGFの発現がリアルタイムPCRを介して検出された。JO2抗体の投与5時間後、EGF、TGFαおよびHB−EGFに対応するmRNAのレベルは減少し、AR遺伝子発現の好ましい誘導が観察された。これらの知見は、ARが、急性肝障害の初期の間、マウス肝臓で惹起される、唯一の評価されたEGF−Rリガンドであることを、全体的に示す。
【0085】
上記の概要として、AR遺伝子発現が、異なる肝臓障害モデルにおいて、素早くおよび一貫して誘導されること、およびARの外部からの投与が、顕著な肝保護を提供することが示される。
【0086】
上記知見は、ARが複雑な肝再生の過程において、新規の活性のある関係物として認識され得ることを、明確に、且つ決定的なやり方で、全体的に示す。したがって、ARは、急性肝障害により生じる病的状況−特にALFのような危機的な状況において強調される−の管理のために、非常に大きい治療能力を提供し得る。
【0087】
発明の実施態様
本発明は、上記図と共に本発明を発展させるのに使用される実験的方法論を示す以下の実施例によって説明される。本分野の専門家は、なされ得る修飾および変化が本発明の範囲内であることを把握し得ると理解される。
【実施例】
【0088】
実施例
患者
肝臓組織の検体は、2つのグループの被験者から得られた:(a)最小限の肝変性を有する対照(n=26;19人の男性;平均年齢50.8歳、18―73歳の範囲)。組織サンプルは、消化管腫瘍手術(16ケース)の結果として、または、肝機能検査パラメータの小さい変更のため実行された経皮的肝生検(10ケース)から得られた;そして、(b)肝硬変(n=29;24人の男性、平均年齢56(範囲36―77年))、8つのケースではC型肝炎ウイルス(HCV)感染症、13のケースではアルコール中毒、3つのケースではB型肝炎ウイルス(HBV)感染症、3つのケースでは自己免疫肝炎、1つのケースではヘモクロマトーシスおよび他のケースでは原因不明の肝炎に起因する。関連する肝細胞癌(HCC)は、肝硬変患者10人に存在した。この研究は、スペイン、ナバラ大学のHuman Research Review委員会の承認を得て、ヘルシンキのDeclarationの原理に従った。
【0089】
動物モデル
実験は、実験動物の使用に関するナバラ大学のガイドラインに従って行われた。他所に記載されているように、肝硬変を雄性WistarラットにおいてCCl4により惹起させた[(16) Castilla-Cortazar, I., Garcia, M., Muguerza, B., Quiroga, J., Perez, R., Santidrian, S., Prieto, J. 1997. Hepatoprotective effects of insulin-like growth factor I in rats with carbon tetrachloride-induced cirrhosis. Gastroenterology 113:1682-1691]。2/3のPHまたは虚偽手術は、ヒギンズおよびアンデルセンの方法に従って、雄性ウィスターラット(150g)および雄性C57/BL6マウス(20g)において行われた[(17) Higgins, G. M., Andersen, R. M. 1931. Experimental pathology of liver: restoration of liver of the white rat following partial surgical removal. Arch. Pathol. 12:186-202. (18) Latasa, M.U., Boukaba, A., Garcia-Trevijano, E.R., Torres, L., Rodriguez, J.L., Caballeria, J., Lu, S.C., Lopez-Rodas, G., Franco, L., Mato, J.M., et al. 2001. Hepatocyte growth factor induces MAT2A expression and histone acetylation in rat hepatocytes. Role in liver regeneration. FASEB J. 10.1096/fj.00-0556fje. (19) Chen, L., Zeng, Y., Yang, H., Lee, T.D., French, S.W., Corrales, F.J., Garcia-Trevijano, E.R., Avila, M.A., Mato, J.M., and Lu, S.C. 2004. Impaired liver regeneration in mice lacking methionine adenosyltransferase 1A. FASEB J. 18: 914-916]。鎮静の後、虚偽手術動物において、肝臓を露出させ、そして腹腔内へ戻した。急性肝障害を、CCl4(オリーブオイル中、1μl/体重g)(Sigma, St. Louis, MO, USA)またはJo2モノクローナル抗体(生理食塩水溶液中、4μg/マウス)(BD PharMingen, San Diego, CA, USA)の単回腹腔内投与により、雄性C57/BL6マウス(20g)(条件および時間によりn=3−5)において惹起した[(5),(20) Martinez-Chantar, M.L., Corrales, F.J., Martinez-Cruz, A., Garcia-Trevijano, E.R., Huang, Z.Z., Chen, L.X., Kanel, G., Avila, M.A., Mato, J.M., Lu, S.C. 2002. Spontaneous oxidative stress and liver tumors in mice lacking methionine adenosyltransferase 1A. FASEB J. 10.1096/fj.02-0078fje]。対照には、等量のオリーブオイルまたは生理食塩水を与えた。上記場合において、マウスに、Jo2抗体の6および0.5h前および3h後、またはCCl4の0.5h前および12h後に、ヒト組換AR(9.5μg/マウス)(Sigma)の腹腔内注射を行った。示された時間において、マウスより血液サンプリングをし、血清を、他で記載されているように、アラニンおよびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(ALTおよびAST)のために分析した[(16) and (21) Lasarte, J.J., Sarobe, P., Boya, P., Casares, N., Arribillaga, L., Lopez-Diaz of Cerio, A., Gorraiz, M., Borras-Cuesta, F., Prieto, J. 2003. A recombinant adenovirus encoding hepatitis C virus core and E1 proteins protects mice against cytokine-induced liver damage. Hepatology 37: 461-470]。マウスを頚椎脱臼により屠殺し、肝臓を液体窒素中で即座に凍結するか、またはホルマリン中で固定し、ヘマトキシリンおよびエオシン(H&E)を用いる染色のために、パラフィン中で包埋された。
【0090】
ラットおよびマウスの肝細胞の単離、培養および処置
肝細胞を、他所に記載されているように[(18), (20)]、雄性Wistarラット(150g)およびC57/BL6マウス(20g)から、コラゲナーゼ(Gibco-BRL, Paisley, UK)を伴う潅流により単離した。細胞(5X105細胞/ウェル)をコラーゲンコート(タイプIコラーゲン、Collaborative Biomedical, Bedford, MA, USA)した6穴プレート上にプレーティングした。培養を10%ウシ胎児血清(FCS)、非必須アミノ酸、グルタミン2mMおよび抗生物質(全てGibco-BRLより供給された)を補ったMEM培地中で維持した。2hのインキュベーション後、培地を除去し、細胞を再び5%FCSを補った同じ培地中で培養した。該当するとき、肝細胞は、Roche(Mannheim, Germany)よりのIL−1βまたはTNFα、Calbiochem(San Diego, CA, USA)よりのHGFまたはホルスコリン、RD Systems(Wiesbaden-Nordenstadt, Germany)よりのIL6、またはAlexis QBiogene(Carlsbad, CA, USA)よりのPGE2で処置した。
【0091】
アポトーシスを、他所(5)に記載されているように、0.5μg/mlのJo2抗体および0.05μg/mlのアクチノマイシンDを用いた処置により培養マウス肝細胞で惹起した。該当するとき、肝細胞をJo2抗体およびアクチノマイシンDの添加6時間前にARで処置した。アポトーシスを、可溶性ヒストン−DNA複合体をCell Death Detection Assay(Roche)を用いて測定することにより評価した。細胞死測定のためのELISA試験を製造者の指示書に従って実施した。細胞質に放出されたモノ−およびオリゴヌクレオソームの特異的な濃縮(濃縮係数、EF)を、処置細胞および対照細胞に対応するサンプルの吸光度の間の比として計算した。MEK1阻害剤、PD98059、PI―3K阻害剤、LY―294002およびEGF―Rチロシンキナーゼ活性阻害剤PD153035−全てCalbiochemにより供給された−の存在下、Fasにより媒介されるアポトーシスに対するARの効果を、また評価した。
【0092】
DNA合成の評価
DNAの合成に対して、ラット肝細胞をコラーゲンコートされた96穴プレートに、10%FCSを補ったMEM培地中、3X104細胞/ウェルの密度でプレーティングした。プレーティングの5時間後、培地を交換し、細胞を血清無しで更なる20時間維持した。DNA合成をAR処置の30時間後に試験した。[3H]チミジンのパルスを、ARの添加の22h後に、行った(1μCi/ウェル)(Amersham Biosciences, Piscataway, NJ, USA)。細胞を回収し、チミジンの取り込みをシンチレーションカウンターで測定した。MEK1阻害剤PD98059、PI―3K阻害剤LY294002、p38 MAPK阻害剤SB202190、JNK阻害剤SP600125およびEGF―Rチロシンキナーゼ活性阻害剤PD153035−全てはCalbiochemより供給された−の存在下、ARのDNA合成に対する効果を評価した。
【0093】
ラット肝細胞の一過性トランスフェクション
初代培養ラット肝細胞を、Tfx−50(登録商標)reagent(Promega, Madison, WI, USA)を用い、製造者の指示書に従って、単離24時間後にトランスフェクションした。細胞に、WT1の4つのアイソフォーム(エクソン5およびKTSの存在または非存在により特徴付けられる)をコードするpCB6プラスミドの等量混合物、または、Jochemsen博士(Leiden University Medical Center, Leiden, The Netherlands)の御厚意により提供していただいた挿入物の無いpCB6ベクターの等量をトランスフェクションした。WT1の4つのアイソフォームの等量混合物のトランスフェクション効率は、アイソフォームを区別する特異的プライマーを用いたRT−PCR解析によってモニターされた。
【0094】
RNA単離および遺伝子解析
全RNAをTRI試薬(Sigma)を用いて抽出した。2μgのRNAを、M−MLV酵素をRNase OUT(Gibco-BRL)の存在下で用い(Gibco-BRL)る逆転写の前に、DNaseI(Gibco-BRL)で処理した。PCR産物を2%アガロースゲル電気泳動にかけ、続いてエチジウムブロマイドで染色し、Molecular Analyst software(Bio-Rad, Hercules, CA, USA)を用いて定量化した。データをβ−アクチン遺伝子発現レベルに関して標準化した。研究はβ−アクチンの増幅と比較され得るmRNA増幅を伴うそれらサンプルを含むのみであった。全てのプライマーをゲノムDNAとcDNAの増幅を区別するように設計し、全ての産物を配列決定して特異的に確認した。使用したプライマーを下記表Iに記載する:
【表1】
リアルタイムPCRをiCycler(BioRad)およびiQ SYBR Green Supermix(Bio-Rad)を用いて実施した。最終PCR産物の特異性をモニターするために、後者を融合曲線および電気泳動により分析した。それぞれの転写産物の量を、参照遺伝子(β−アクチン)の発現に対するn−倍相違として表した(2ΔCt、ここで、ΔCtは、標的遺伝子および対照遺伝子の間の閾値サイクルの相違を表す)。
【0095】
カスパーゼ―3活性の測定
マウス肝細胞および肝臓組織溶解物のカスパーゼ―3活性を、Caspase―3/CPP32比色アッセイキット(BioVision, Palo Alto, CA, USA)を使用して測定した。培養細胞(5X105/条件)を対応する処置の後、キットで提供される溶解バッファーで直接溶解した。肝組織を溶解バッファー中でダウンスホモジナイザー(Dounce homogenizer)を用いてホモジナイズし、15000回転、10分間遠心分離した。肝臓ホモジネート由来の細胞溶解物および上清を、製造者指示書に従ったカスパーゼ−3活性測定のために使用した(50μl中の200μg)。
【0096】
ウェスタンブロット
肝臓サンプルおよび単離肝細胞からのホモジネートを他所で記載されている[(19, (20)]ようにウェスタンブロット分析した。使用した抗体は:アフィニティー精製されたマウスARに特異的に標的化されたビオチン化ポリクローナル抗体(BAF989)(RD Systems);活性化カスパーゼ−3のp17サブユニットに対する特異的抗体(9664S)、リン酸化Akt(Ser473)(9271S)およびリン酸化STAT3(Tyr705)(9131S)(Cell Signaling, Beverly, MA, USA);ERK1/2(06−182)、リン酸化EGF−R(Tyr1173)(05−483)およびSTAT3(06−596)(Upstate Biotechnology, Charlottesville, VA, USA)。全ての他の抗体は、Santa Cruz Biotechnology (Santa Cruz, CA, USA)から:BclxL(sc8392)、Bcl2(sc7382)、EGF―R(sc―03)、リン酸化ERK1/2(Tyr204)(sc7383)、Akt(sc5298)、JNK(sc571)およびリン酸化JNK(Thr183/Tyr185)(sc6254)。
【0097】
統計解析
正規分布を示すデータは、独立したStudent t-試験および分散分析(ANOVA)を用いて群間比較した。正規分布を示さないデータは、Kruskal-WallisおよびMann-Whitney試験を用いて比較した。相関関係を、SpearmanまたはPearson相関係数により評価した。P<0.05の値を有意とした。データを平均±SEM、またはメジアンおよび四分位範囲として表す。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1A】対照(n=26)および肝硬変患者(チャイルドピュー A 肝硬変、n=7、チャイルドピュー B+C 肝硬変、n=22)由来の肝臓サンプルにおけるリアルタイムポリメラーゼチェインリアクション(RT−PCR)により測定された、ヒトおよび実験的肝硬変におけるAR遺伝子の発現。
【図1B】RT―PCRによって測定された対照ラット肝臓およびCCl4により誘導される肝硬変肝臓におけるAR遺伝子の発現(1群あたりn=6)。
【図2A】対照マウスの肝臓およびJo2抗体またはCCl4による急性肝障害の惹起後の肝臓におけるARの発現。ARの発現は、前述の処置の投与5h後に、RT―PCRにより評価された。
【図2B】Jo2抗体またはCCl4により惹起された急性肝障害におけるARの発現およびウェスタンブロッティングによる評価。それぞれ、肝臓組織のサンプルは、Jo2およびCCl4の処置の12および24h後、得られた。分析は、アフィニティー精製およびビオチン化された抗AR抗体により行われた.矢印(arrow tip)は異なる形態のARを示し、そして、グループにつき3つの代表的なサンプルが示されている。ローディングコントロールとして、アクチンに特異的な抗体によって、膜をハイブリダイズした。代表的なイメージを示す。
【図3A】ARによる処置はCCl4により惹起された急性肝障害を予防する。CCl4で処置されたマウスの血清トランスアミナーゼ・レベルに加えて、肝臓組織学を示す(H&E染色、原物の拡大X200)。血清および肝臓組織サンプルは、CCl4投与の24h後に集められた。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。
【図3B】Jo2で処置されたマウスの肝臓組織学および血清トランスアミナーゼ(H&E染色、原物の拡大X200)に対するAR治療の効果。血清および肝臓組織のサンプルは、Jo2投与の12h後に得られた。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。アスタリスクは、対Jo2単独、P<0.01を示す。
【図3C】Jo2注入の12h後に測定されたマウス肝臓のカスパーゼ―3活性におけるAR治療の効果。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。アスタリスクは、P<0.01対Jo2単独、を示す。
【図3D】対照マウスの肝臓―C―およびJo2注入の12h後に得られた肝臓抽出物における、活性カスパーゼ―3のp17サブユニットおよびBcl―xLタンパク質のレベルに対するAR治療の効果。ローディングコントロールとして、アクチンに特異的な抗体によって、膜をハイブリダイズした。代表的なイメージを示す。
【図4A】マウス肝細胞初代培養におけるARの抗アポトーシス効果。アポトーシスは、ARの濃度増加の存在下、アクチノマイシンDおよびJo2で処理することにより惹起された。アポトーシスは、細胞質でのモノ−およびオリゴヌクレオソーム放出の特異的な濃縮を測定することにより評価された(濃縮係数:EF)。値は、対照肝細胞−C−で得られた値に関して標準化された。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表され、アスタリスクは、P<0.05対Jo2、を示す。
【図4B】左パネル:アクチノマイシンDおよびJo2で処理された培養マウス肝細胞のカスパーゼ―3活性に対するAR(20nM)の効果。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表され、アスタリスクは、P<0.05対アクチノマイシンDおよびJo2で処理された細胞、を示す。右パネル:左パネルに記載されている同じサンプルの活性カスパーゼ―3のp17サブユニットおよびBcl―xLタンパク質のウエスタンブロット分析。
【図4C】培養マウス肝細胞におけるARによる反アポトーシスシグナリング経路の活性化。Akt、ERK1/2およびSTAT3リン酸化状態は、AR(20nM)の添加の後、異なる時間でマウス肝細胞の抽出物のウエスタンブロッティングを介して評価された。代表的な画像は、デュプリケートで行われた3つの実験の中で示される。
【図4D】EGF―R阻害剤剤PD153035(1μM)、MEK1阻害剤PD98059(10μM)またはPI−3Kの阻害剤LY−294002(20μM)の存在下で培養されたマウス肝細胞における、アクチノマイシンDおよびJo―2により惹起されるアポトーシスに対するAR(20nM)の効果。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表され、アスタリスクは、P<0.05対Jo2、を示す。
【図5】部分的な肝切除術(PH)後の、ラット肝臓(図5A)およびマウス肝臓(図5B)におけるAR遺伝子発現。ARコードするmRNAのレベルは、PHの後異なる時間で、残った肝実質において、リアルタイムPCRにより分析された。値は、3匹の異なる動物の平均±SEMとして表される。中塗り円(closed circle)は肝切除された動物に対応し、中抜き円(open circle)は虚偽の手術を受けた動物に対応する。
【図6A】培養ラット肝細胞におけるARによるDNA合成の刺激。肝細胞を濃度を増加させたARで処理し、DNA合成を[3H]チミジンの取り込みを測定することにより評価した。ARにより誘導されるDNA合成におけるTGFβ(8ng/ml)の効果を示す。値は、クワドルプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。1つのアスタリスクはP<0.05を示し、2つのアスタリスクはP<0.01対対照を示す。
【図6B】培養ラット肝細胞におけるARによるEGF―Rのチロシン残基リン酸化の刺激。チロシンをリン酸化されたEGF―Rおよび全体のEGF―Rはウエスタンブロッティングにより検出された。代表的な画像は、デュプリケートで実施された3つの実験の中で示される。
【図6C】培養ラット肝細胞における、ARによる細胞増殖に関するシグナリング経路の活性化。Akt、ERK1/2およびJNKのリン酸化状態は、ARの添加後、異なる時間で、ラット肝細胞抽出物の特異的抗体を使用するウエスタンブロッティングによって評価された。代表的な画像は、デュプリケートで実施された3つの実験の中で示される。
【図6D】EGF―R阻害剤PD153035(1μM)、MEK1阻害剤PD98059(10μM)、PI−3K阻害剤LY294002(20μM)、JNK阻害剤SP600125(20μM)またはp38 MAPK阻害剤SB202190(25μM)の存在下のラット肝細胞におけるDNA合成に対するAR(100nM)の効果。アスタリスクは、P<0.05対AR単独を示す。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。
【図7】図7A:異なる期間でIL―1β(2ng/ml)で処理された培養ラット肝細胞におけるAR遺伝子発現(クローズド・バー)。ARの遺伝子発現は、リアルタイムPCRで測定された。アスタリスクは、P<0.05対対照(オープン・バー)を示す。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。 図7B:異なる期間でPGE2(10μM)(クローズド・バー)で処理されたラット肝細胞におけるAR遺伝子発現。ARの遺伝子発現は、リアルタイムのPCRで測定された。アスタリスクは、P<0.05対対照(オープン・バー)を示す。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。 図7C:培養期間に依存したラット肝細胞におけるARのベースライン遺伝子発現のRT−PCRによる解析。代表的な実験を示す。 図7D:WT1の4つのアイソフォームをコードするpCB6プラスミドの等モル混合物、または等量の該アイソフォームをコードしない(gutless)pCB6ベクターでトランスフェクションした24h後の培養ラット肝細胞におけるAR遺伝子発現。AR遺伝子発現は、リアルタイムPCRで測定された。
【図8】異なる期間でAR処理した培養ラット肝細胞におけるTGFα(図8A)およびCT−1(図8B)遺伝子発現。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表され、各時点に対応する数−倍増加対対照として表される。アスタリスクは、P<0.05対対照を示す。
【図9】対照マウス−C−の肝臓、およびJo2抗体で処置されたマウスの肝臓における、EGF−R、AR、TGFα、EGFおよびHB−EGFリガンドの遺伝子発現。これらの遺伝子の発現は、RT―PCRで測定された。アスタリスクは、P<0.01対対照を示す。値は、トリプリケートで実施された3つの実験の平均±SEMとして表される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンフィレグリンが、急性肝障害の処置用医薬の製造に用いられることを特徴とする、アンフィレグリンの使用。
【請求項2】
医薬が、急性肝障害に対する肝臓組織の初期の内因性保護応答の促進に有用であることを特徴とする、請求項1に記載のアンフィレグリンの使用。
【請求項3】
医薬が、肝細胞のDNA合成促進に有用であることを特徴とする、請求項1に記載のアンフィレグリンの使用。
【請求項4】
医薬が、急性肝障害を有する患者の肝臓組織の肝細胞死予防に有用であることを特徴とする、請求項1に記載のアンフィレグリンの使用。
【請求項5】
医薬が、いずれかの病因の急性肝障害の後の、残った肝臓実質の再生の刺激に有用であることを特徴とする、請求項1に記載のアンフィレグリンの使用。
【請求項6】
医薬が、いずれかの病因の急性肝障害を有する患者のための肝臓保護薬として有用であることを特徴とする、請求項1に記載のアンフィレグリンの使用。
【請求項7】
医薬が、部分肝切除後の肝臓再生の刺激に有用であることを特徴とする、請求項1に記載のアンフィレグリンの使用。
【請求項8】
医薬が、生体、または死体からの肝移植の受容者である患者において、肝臓保護薬として、そして、肝細胞再生の刺激薬として有用であることを特徴とする、請求項1に記載のアンフィレグリンの使用。
【請求項1】
アンフィレグリンが、急性肝障害の処置用医薬の製造に用いられることを特徴とする、アンフィレグリンの使用。
【請求項2】
医薬が、急性肝障害に対する肝臓組織の初期の内因性保護応答の促進に有用であることを特徴とする、請求項1に記載のアンフィレグリンの使用。
【請求項3】
医薬が、肝細胞のDNA合成促進に有用であることを特徴とする、請求項1に記載のアンフィレグリンの使用。
【請求項4】
医薬が、急性肝障害を有する患者の肝臓組織の肝細胞死予防に有用であることを特徴とする、請求項1に記載のアンフィレグリンの使用。
【請求項5】
医薬が、いずれかの病因の急性肝障害の後の、残った肝臓実質の再生の刺激に有用であることを特徴とする、請求項1に記載のアンフィレグリンの使用。
【請求項6】
医薬が、いずれかの病因の急性肝障害を有する患者のための肝臓保護薬として有用であることを特徴とする、請求項1に記載のアンフィレグリンの使用。
【請求項7】
医薬が、部分肝切除後の肝臓再生の刺激に有用であることを特徴とする、請求項1に記載のアンフィレグリンの使用。
【請求項8】
医薬が、生体、または死体からの肝移植の受容者である患者において、肝臓保護薬として、そして、肝細胞再生の刺激薬として有用であることを特徴とする、請求項1に記載のアンフィレグリンの使用。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7】
【図8】
【図9】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2008−506754(P2008−506754A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−521963(P2007−521963)
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【国際出願番号】PCT/ES2005/000348
【国際公開番号】WO2006/021599
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(506061716)プロイェクト、デ、ビオメディシナ、シーマ、ソシエダッド、リミターダ (34)
【氏名又は名称原語表記】PROYECTO DE BIOMEDICINA CIMA, S.L.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月21日(2005.6.21)
【国際出願番号】PCT/ES2005/000348
【国際公開番号】WO2006/021599
【国際公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【出願人】(506061716)プロイェクト、デ、ビオメディシナ、シーマ、ソシエダッド、リミターダ (34)
【氏名又は名称原語表記】PROYECTO DE BIOMEDICINA CIMA, S.L.
【Fターム(参考)】
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